(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023146389
(43)【公開日】2023-10-12
(54)【発明の名称】切削加工用アルミニウム合金押出材、ブレージングシート屑のリサイクル方法、及びアルミニウム合金押出材の製造方法
(51)【国際特許分類】
C22C 21/02 20060101AFI20231004BHJP
C22C 1/02 20060101ALI20231004BHJP
【FI】
C22C21/02
C22C1/02 503J
【審査請求】有
【請求項の数】3
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022053547
(22)【出願日】2022-03-29
(11)【特許番号】
(45)【特許公報発行日】2023-08-08
(71)【出願人】
【識別番号】000107538
【氏名又は名称】株式会社UACJ
(71)【出願人】
【識別番号】510132510
【氏名又は名称】株式会社UACJ押出加工
(74)【代理人】
【識別番号】110000578
【氏名又は名称】名古屋国際弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】▲高▼谷 舞
(72)【発明者】
【氏名】箕田 正
(72)【発明者】
【氏名】傍島 彩生
(72)【発明者】
【氏名】大元 涼介
(57)【要約】
【課題】ブレージングシート屑に由来する原料を含みつつ、切削性に優れた切削加工用アルミニウム合金押出材を提供する。
【解決手段】本開示の一態様は、ケイ素(Si):1.0質量%以上2.2質量%以下と、鉄(Fe):0.15質量%以上0.45質量%以下と、銅(Cu):0.15質量%以上0.6質量%以下と、マンガン(Mn):0.7質量%以上1.3質量%以下と、マグネシウム(Mg):0.6質量%以上0.9質量%以下と、亜鉛(Zn):0.2質量%以上1.0質量%以下と、錫(Sn):0.45質量%以上0.85質量%以下と、ビスマス(Bi):0.55質量%以上0.95質量%以下と、を含有し、残部がアルミニウム(Al)と不可避的不純物とからなる、切削加工用アルミニウム合金押出材である。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ケイ素(Si):1.0質量%以上2.2質量%以下と、鉄(Fe):0.15質量%以上0.45質量%以下と、銅(Cu):0.15質量%以上0.6質量%以下と、マンガン(Mn):0.7質量%以上1.3質量%以下と、マグネシウム(Mg):0.6質量%以上0.9質量%以下と、亜鉛(Zn):0.2質量%以上1.0質量%以下と、錫(Sn):0.45質量%以上0.85質量%以下と、ビスマス(Bi):0.55質量%以上0.95質量%以下と、を含有し、残部がアルミニウム(Al)と不可避的不純物とからなる、切削加工用アルミニウム合金押出材。
【請求項2】
Biを含有するブレージングシート屑に由来する原料を溶解して鋳塊を鋳造する工程と、
前記鋳塊を押出加工することにより請求項1に記載の切削加工用アルミニウム合金押出材を形成する工程と、
を含む、ブレージングシート屑のリサイクル方法。
【請求項3】
Biを含有するブレージングシート屑に由来する原料を溶解して鋳塊を鋳造する工程と、
前記鋳塊を押出加工することにより請求項1に記載の切削加工用アルミニウム合金押出材を形成する工程と、
を含む、アルミニウム合金押出材の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、切削加工用アルミニウム合金押出材、ブレージングシート屑のリサイクル方法、及びアルミニウム合金押出材の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ろう付け用のブレージングシートは、一般に、Mnを含有するアルミニウム合金で形成された心材と、Siを含有するアルミニウム合金で形成されたろう材とが積層された構造を有する(特許文献1参照)。ろう材には、溶融ろうの流動性を向上させるためにBiが添加される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上述のブレージングシートは、ろう付けに使用された際にスクラップ(つまり屑)が発生する。このブレージングシート屑は、Biを含むために、板材としてのリサイクルが困難であり、用途が限定される。
【0005】
本開示の一局面は、ブレージングシート屑に由来する原料を含みつつ、切削性に優れた切削加工用アルミニウム合金押出材を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本開示の一態様は、ケイ素(Si):1.0質量%以上2.2質量%以下と、鉄(Fe):0.15質量%以上0.45質量%以下と、銅(Cu):0.15質量%以上0.6質量%以下と、マンガン(Mn):0.7質量%以上1.3質量%以下と、マグネシウム(Mg):0.6質量%以上0.9質量%以下と、亜鉛(Zn):0.2質量%以上1.0質量%以下と、錫(Sn):0.45質量%以上0.85質量%以下と、ビスマス(Bi):0.55質量%以上0.95質量%以下と、を含有し、残部がアルミニウム(Al)と不可避的不純物とからなる、切削加工用アルミニウム合金押出材である。
【0007】
このような構成によれば、ブレージングシート屑に由来する原料を含みつつ、切削性に優れた切削加工用アルミニウム合金押出材が得られる。つまり、切削加工用アルミニウム合金押出材にブレージングシート屑に由来する原料を一定量配合できるため、ブレージングシート屑を再利用しつつ、新地金使用率を低減できる。
【0008】
本開示の別の態様は、Biを含有するブレージングシート屑に由来する原料を溶解して鋳塊を鋳造する工程と、鋳塊を押出加工することにより本開示の切削加工用アルミニウム合金押出材を形成する工程と、を含むブレージングシート屑のリサイクル方法である。
【0009】
本開示のさらに別の態様は、Biを含有するブレージングシート屑に由来する原料を溶解して鋳塊を鋳造する工程と、鋳塊を押出加工することにより本開示の切削加工用アルミニウム合金押出材を形成する工程と、を含むアルミニウム合金押出材の製造方法である。
【0010】
これらのような構成によれば、ブレージングシート屑を再利用しつつ、切削加工用アルミニウム合金押出材の原料における新地金使用率を低減できる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】
図1は、実施形態におけるブレージングシート屑のリサイクル方法のフロー図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本開示が適用された実施形態について、図面を用いて説明する。
[1.第1実施形態]
[1-1.構成]
<切削加工用アルミニウム合金押出材>
本開示の切削加工用アルミニウム合金押出材(以下、単に「Al合金押出材」ともいう。)は、ケイ素(Si)と、鉄(Fe)と、銅(Cu)と、マンガン(Mn)と、マグネシウム(Mg)と、亜鉛(Zn)と、錫(Sn)と、ビスマス(Bi)と、を含有し、残部がアルミニウム(Al)と不可避的不純物とからなる。
【0013】
<Si>
Siは、Mgと共存してMg2Siを形成することで、Al合金押出材の強度向上に寄与する。Siの含有量は、1.0質量%以上2.2質量%以下である。
【0014】
Siの含有量が1.0質量%未満であると、Al合金押出材の強度が不十分となるおそれがある。また、Siの含有量が1.0質量%以上であることで、Al合金押出材の原料におけるブレージングシート屑の配合量を高めることができる。一方、Siの含有量が2.2質量%を超えると、Siの析出物や晶出物が多くなることで、Al合金押出材の靭性が低下するおそれがある。
【0015】
Siの含有量の下限としては、1.5質量%が好ましく、1.7質量%がより好ましい。また、Siの含有量の上限としては、2.1質量%が好ましい。
【0016】
<Fe>
Feの含有量は、0.15質量%以上0.45質量%以下である。Feの含有量が0.15質量%以上であることで、Al合金押出材の原料におけるブレージングシート屑の配合量を高めることができる。一方、Feの含有量が0.45質量%を超えると、Al-Fe-Si系等の金属間化合物が過度に形成されることで、Al合金押出材の伸びが低下するおそれがある。
【0017】
Feの含有量の下限としては、0.2質量%が好ましく、0.25質量%がより好ましい。また、Feの含有量の上限としては、0.4質量%が好ましく、0.35質量%がより好ましい。
【0018】
<Cu>
Cuは、Mg及びSiと共存してMg2Si化合物内に固溶することや、Al-Mg-Si-Cu系の金属間化合物を析出させることで、Al合金押出材の強度を向上させる。Cuの含有量は、0.15質量%以上0.6質量%以下である。
【0019】
Cuの含有量が0.15質量%未満であると、Al合金押出材の強度が不十分となるおそれがある。一方、Cuの含有量が0.6質量%を超えると、Al合金押出材の切削性が低下するおそれがある。
【0020】
Cuの含有量の下限としては、0.3質量%が好ましく、0.4質量%がより好ましい。また、Cuの含有量の上限としては、0.55質量%が好ましく、0.5質量%がより好ましい。
【0021】
<Mn>
Mnは、Al-Mn系、及びAl-Mn-Fe-Si系の金属間化合物粒子を析出させることで、Al合金押出材において再結晶の抑制や再結晶粒の微細化を促進させる。これにより、Al合金押出材の強度及び切削性が向上する。Mnの含有量は、0.7質量%以上1.3質量%以下である。
【0022】
Mnの含有量が0.7質量%未満であると、Al合金押出材の強度及び切削性が不十分となるおそれがある。一方、Mnの含有量が1.3質量%を超えると、Al合金押出材の焼入れ性が著しく低下し、MnによるAl合金押出材の強度向上効果が奏されないおそれがある。
【0023】
Mnの含有量の下限としては、0.8質量%が好ましく、0.85質量%がより好ましい。また、Mnの含有量の上限としては、1.1質量%が好ましく、1.0質量%がより好ましい。
【0024】
<Mg>
Mgは、Si及びCuと共存することによりAl合金押出材の強度を高める。Mgの含有量は、0.6質量%以上0.9質量%以下である。
【0025】
Mgの含有量が0.6質量%未満であると、Al合金押出材の強度が不十分となるおそれがある。一方、Mgの含有量が0.9質量%を超えると、Al合金押出材の押出時の変形抵抗が大きくなり、押出性が低下するおそれがある。
【0026】
Mgの含有量の下限としては、0.65質量%が好ましい。また、Mgの含有量の上限としては、0.8質量%が好ましく、0.75質量%がより好ましい。
【0027】
<Zn>
Znの含有量は、0.2質量%以上1.0質量%以下である。Znの含有量を0.2質量%以上とすることで、Al合金押出材の原料におけるブレージングシート屑の配合量を高めることができると共に、Al合金押出材の耐食性を向上できる。
【0028】
Znの含有量の下限としては、0.35質量%が好ましく、0.4質量%がより好ましい。また、Znの含有量の上限としては、0.75質量%が好ましく、0.6質量%がより好ましい。
【0029】
<Sn及びBi>
Sn及びBiは、SnとBiとの低融点化合物を形成することで、Al合金押出材の切削性を向上させる。Snの含有量は、0.45質量%以上0.85質量%以下である。Biの含有量は、0.55質量%以上0.95質量%以下である。
【0030】
Snの含有量が0.45質量%未満、又はBiの含有量が0.55質量%未満であると、Al合金押出材の切削性が不十分となるおそれがある。一方、Snの含有量が0.85質量%を超えるか、又はBiの含有量が0.95質量%を超えると、Al合金押出材において液相が生じやすくなることで、溶体化処理後の焼入れでAl合金押出材に割れが発生するおそれがある。
【0031】
Snの含有量の下限としては、0.55質量%が好ましく、0.6質量%がより好ましい。また、Snの含有量の上限としては、0.75質量%が好ましく、0.7質量%がより好ましい。
【0032】
Biの含有量の下限としては、0.65質量%が好ましく、0.7質量%がより好ましい。また、Biの含有量の上限としては、0.85質量%が好ましく、0.8質量%がより好ましい。
【0033】
<他の成分>
Al合金押出材は、上述の成分以外の元素を不可避的不純物として含有してもよい。不可避的不純物となる元素の個々の含有量は、0.05質量%以下が好ましい。また、不可避的不純物の総量は、0.15質量%以下が好ましい。不可避的不純物となる元素としては、例えば、Cr(クロム)、Zr(ジルコニウム)、Ti(チタン)等が挙げられる。
【0034】
<ブレージングシート屑のリサイクル方法>
図1に示すように、本開示のブレージングシート屑のリサイクル方法は、鋳造工程S10と、均質化処理工程S20と、形成工程S30と、溶体化処理工程S40と、焼入れ工程S50と、人工時効工程S60とを備える。
図1のブレージングシート屑のリサイクル方法により、本開示の切削加工用アルミニウム合金押出材が得られる。
【0035】
<鋳造工程>
本工程では、Biを含有するブレージングシート屑に由来する原料と、Biを含有するブレージングシート屑に由来しない原料とを溶解して鋳塊を鋳造する。
【0036】
Biを含有するブレージングシート屑に由来する原料は、ブレージングシート屑そのものであってもよいし、ブレージングシート屑の溶解により製造された再生地金であってもよい。ブレージングシート屑としては、アルミニウム合金クラッド材(例えば特開2000-202682号公報に記載されている熱交換器用アルミニウム合金クラッド材)の製造過程において発生する端材、廃材等が挙げられる。
【0037】
ブレージングシート屑には、例えば、芯材又はろう材由来のSi、Fe、Cu、Mn、Mg、Zn及びBiが含まれる。ただし、ブレージングシート屑の種類によっては、Biを除くいずれかの成分が含まれない場合もある。
【0038】
Biを含有するブレージングシート屑に由来しない原料には、実質的にAlのみからなる新地金、各種添加元素が添加されたAl系の母合金、及びAl以外の添加元素を主成分とする母合金が含まれ得る。Al系の母合金は、Biを含有するブレージングシート屑以外の材料の溶解により製造された再生地金であってもよい。
【0039】
本工程では、鋳塊における各成分の含有量が本開示の切削加工用アルミニウム合金押出材における範囲となるように、予め化学成分が既知となっている原料の溶解時の配合割合を調整する。
【0040】
<均質化処理工程>
本工程では、常法にしたがった一定時間の加熱によって鋳塊を均質化する。なお、本工程は、必須の工程ではなく、省略が可能である。
【0041】
<形成工程>
本工程では、鋳塊を押出加工することで、本開示の切削加工用アルミニウム合金押出材を形成する。また、鋳塊を押出加工することで、本開示のブレージングシート屑のリサイクル方法は切削加工用アルミニウム合金押出材の製造方法として実施される。
【0042】
<溶体化処理工程>
本工程では、常法にしたがった一定時間の加熱によって切削加工用アルミニウム合金押出材を溶体化する。
【0043】
<焼入れ工程>
本工程では、溶体化処理後の切削加工用アルミニウム合金押出材を焼入れする。焼入れ方法としては、例えば、水焼入れ、強制空冷等が用いられる。
【0044】
<人工時効工程>
本工程では、焼入れ後の切削加工用アルミニウム合金押出材を常法にしたがって人工時効する。なお、溶体化処理工程、焼入れ工程及び人工時効工程は、必須の工程ではない。
【0045】
[1-2.効果]
以上詳述した実施形態によれば、以下の効果が得られる。
(1a)ブレージングシート屑に由来する原料を含みつつ、切削性に優れた切削加工用アルミニウム合金押出材が得られる。つまり、切削加工用アルミニウム合金押出材の原料にブレージングシート屑を一定量配合できるため、ブレージングシート屑を再利用しつつ、新地金使用率を低減できる。
【0046】
[2.他の実施形態]
以上、本開示の実施形態について説明したが、本開示は、上記実施形態に限定されることなく、種々の形態を採り得ることは言うまでもない。
【0047】
(2a)上記実施形態における1つの構成要素が有する機能を複数の構成要素として分散させたり、複数の構成要素が有する機能を1つの構成要素に統合したりしてもよい。また、上記実施形態の構成の一部を省略してもよい。また、上記実施形態の構成の少なくとも一部を、他の上記実施形態の構成に対して付加、置換等してもよい。なお、特許請求の範囲に記載の文言から特定される技術思想に含まれるあらゆる態様が本開示の実施形態である。
【0048】
[3.実施例]
以下に、本開示の効果を確認するために行った試験の内容とその評価とについて説明する。
【0049】
<実施例1及び比較例1,2>
Biを含有するブレージングシート屑に由来する原料を用いた連続鋳造により、表1に示す組成のアルミニウム合金押出材の鋳塊を鋳造した。なお、表1中の「Re.」は、残部を意味する。
【0050】
これらの鋳塊を常法にしたがって均質化処理した後、熱間押出加工により、直径20mmの丸棒を形成した。得られた丸棒を常法にしたがって溶体化処理した後、水焼入れして人工時効を施したものを実施例1及び比較例1,2の試験材とした。
【0051】
【0052】
<評価>
各試験材について、JIS-Z-2241:2011に準拠して引張試験を行い、引張強さを測定した。その測定結果を表1に示す。表1に示されるように、実施例1及び比較例1,2のいずれも十分な引張強さを有した(つまり、A評価であった)。
【0053】
次に、各試験材について、直径が15mmとなるように切削することで、寸法及び表面状態を揃えた。その後、各試験材について直径が13mmとなるまで、1mmの厚みを切削した際の切り屑について比較を行った。
【0054】
切削条件は、バイトとしてスローアウェイチップを用い、切削時の回転速度を2000rpm、送り速度を0.05mm/revとした。切削時の切り屑が、平均長さ10mm以下となるように細かく分断されているものは「A」、切り屑が分断されず繋がっているものは「B」と評価した。その結果を表1に示す。
【0055】
実施例1では、切り屑が分断され、優れた切削加工性を発揮した。一方で、実施例1よりもCuを多く含む比較例1,2は、切削加工性が不十分であった。