(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023146411
(43)【公開日】2023-10-12
(54)【発明の名称】ファインバブルオゾン処理水の製造装置
(51)【国際特許分類】
C02F 1/78 20230101AFI20231004BHJP
B01F 23/2373 20220101ALI20231004BHJP
B01F 23/23 20220101ALI20231004BHJP
B01F 25/45 20220101ALI20231004BHJP
B01F 25/51 20220101ALI20231004BHJP
【FI】
C02F1/78
B01F23/2373
B01F23/23
B01F25/45
B01F25/51
【審査請求】未請求
【請求項の数】12
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022053576
(22)【出願日】2022-03-29
(71)【出願人】
【識別番号】516065135
【氏名又は名称】株式会社IHI物流産業システム
(74)【代理人】
【識別番号】110000626
【氏名又は名称】弁理士法人英知国際特許商標事務所
(72)【発明者】
【氏名】釜瀬 幸広
(72)【発明者】
【氏名】廣中 信治
【テーマコード(参考)】
4D050
4G035
【Fターム(参考)】
4D050AA04
4D050BB02
4D050BC10
4D050CA14
4D050CA20
4G035AB04
4G035AC30
(57)【要約】
【課題】本発明は、にがりの添加量が少なく、かつ、殺菌力が長期間維持できるファインバブルオゾン処理水を得ることを課題とする。
【解決手段】オゾンガス注入部とファインバブル生成部と貯留容器と配管を備え、前記オゾンガス注入部は、水溶液にオゾンガスを注入してオゾン水を生成するものであり、前記ファインバブル生成部は、前記オゾン水中の前記オゾンガスを、前記オゾン水中の生成されたファインバブル内に封じ込め、ファインバブルオゾン処理水にするものであり、前記ファインバブル生成部は、前記ファインバブルオゾン処理水と接触する領域の少なくとも一部が合成樹脂で形成されていることを特徴とするファインバブルオゾン処理水製造装置。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
オゾンガス注入部とファインバブル生成部と貯留容器と配管を備え、
前記オゾンガス注入部は、水溶液にオゾンガスを注入してオゾン水を生成するものであり、
前記ファインバブル生成部は、前記オゾン水中の前記オゾンガスを、前記オゾン水中の生成されたファインバブル内に封じ込め、ファインバブルオゾン処理水にするものであり、
前記貯留容器は、生成された前記ファインバブルオゾン処理水を貯留するものであり、
前記配管は、少なくとも前記オゾンガス注入部と前記ファインバブル生成部、前記ファインバブル生成部と前記貯留容器を繋いでおり、
前記ファインバブル生成部は、前記ファインバブルオゾン処理水と接触する領域の少なくとも一部が合成樹脂で形成されていることを特徴とするファインバブルオゾン処理水製造装置。
【請求項2】
前記ファインバブル生成部は、ファインバブル生成ノズルを備えており、
前記ファインバブル生成ノズルの前記ファインバブルオゾン処理水と接触する領域が合成樹脂で形成されていることを特徴とする請求項1記載のファインバブルオゾン処理水製造装置。
【請求項3】
前記ファインバブルオゾン処理水と接触する領域のすべてが合成樹脂で形成されていることを特徴とする請求項1記載のファインバブルオゾン処理水製造装置。
【請求項4】
前記ファインバブルオゾン処理水と接触する領域を含む部材全体が合成樹脂で形成されていることを特徴とする請求項1~3のいずれか1項に記載のファインバブルオゾン処理水製造装置。
【請求項5】
前記ファインバブルオゾン処理水と接触する領域が合成樹脂で被覆されていることを特徴とする請求項1~3のいずれか1項に記載のファインバブルオゾン処理水製造装置。
【請求項6】
前記水溶液は塩類を含む水溶液であることを特徴とする請求項1~5のいずれか1項に記載のファインバブルオゾン処理水製造装置。
【請求項7】
前記塩類は、塩化マグネシウムであることを特徴とする請求項6に記載のファインバブルオゾン処理水製造装置。
【請求項8】
前記合成樹脂が、フッ素系樹脂またはポリ塩化ビニル樹脂であることを特徴とする請求項1~7のいずれか1項に記載のファインバブルオゾン処理水製造装置。
【請求項9】
前記オゾンガス注入部は、前記オゾンガスとともに炭酸ガスを注入することを特徴とする請求項1~8のいずれか1項に記載のファインバブルオゾン処理水製造装置。
【請求項10】
請求項1~9のいずれか1項に記載のファインバブルオゾン処理水製造装置で製造されたファインバブルオゾン処理水。
【請求項11】
請求項10に記載のファインバブルオゾン処理水を精製する工程を含むことを特徴とするファインバブルオゾン処理水精製方法。
【請求項12】
前記精製する工程が加熱蒸留を使用する工程であることを特徴とする請求項11に記載のファインバブルオゾン処理水精製方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、塩類を含むファインバブルオゾン処理水から塩類を低減したファインバブルオゾン処理水の製造装置に関する。
【背景技術】
【0002】
オゾンは、3つの酸素原子からなる酸素の同素体で、フッ素に次ぐ強力な酸化作用がある。そして、オゾン水は、殺菌力の高さと殺菌できる微生物の幅広さがあることから殺菌水として使われてきた(特許文献1[0006]、特許文献2[0003]~[0004]、特許文献3[0002]、特許文献4[0002])。
しかしながら、オゾン水は、溶解しているオゾンの半減期が20~30分程度であり、短時間で殺菌力が無くなることが知られている(特許文献2[0020])。
【0003】
他方、気体を安定的に水に閉じ込める技術としてファインバブルがある。ファインバブルとは、一般的に、直径100μm未満の小さい泡のことであり、さらにファインバブルのうち、1μm以上100μm未満をマイクロバブル、1μm未満をウルトラファインバブルと定義されている。
半減期の短いオゾンガスをファインバブルとして水に溶解することで、半減期を伸ばそうとする試みもなされている(特許文献2[0016]~[0018]、特許文献3[0002]、特許文献4[0004])。
【0004】
また、ファインバブルオゾン処理水の長期間安定には、一般的な塩類を利用した電解質イオンの存在が寄与することが知られている(特許文献2[0019]~[0020]、特許文献3[0008])。
そして、特許文献5の段落[0052]には、「
図4に示すように殺菌効果を調べたところ、オゾン濃度が14.9ppmでは大腸菌は減少しているものの、存在が認められない程度に減少していない。すなわち、にがり水が2%以下の溶解水を使用し、前述のごときマイクロバブルを発生させてオゾン水を製造してもオゾン濃度が14.9ppmと小さく殺菌効果が小さい(少ない)ことがわかる。」と記載されているように、にがり(塩化マグネシウム含有)が2%以下の水溶液では、ファインバブルオゾン処理水を製造しても、殺菌力が不十分であることが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2005-21798号公報
【特許文献2】特開2007-275089号公報
【特許文献3】特開2009-189307号公報
【特許文献4】特開2011-4990号公報
【特許文献5】特開2009-154076号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
にがりを十分量(4%等)入れることで、ファインバブルオゾン処理水の殺菌力が長期間維持できることは、特許文献5に記載されているように従来から知られていた。
しかしながら、にがりを入れたファインバブルオゾン処理水を殺菌のために散布すると、含まれているにがりが白く析出し、好ましくなかった。
例えば、テーブル等の家具を消毒する目的で、ファインバブルオゾン処理水をスプレー噴霧で散布することが行われている。ファインバブルオゾン処理水が蒸発した後に、にがりがこびりつき、ふき取りを行っても完全にふき取ることができず、どうしても残留物が残る。殺菌処理後、水拭きを行ったり、すすぎ処理を行ったり、色々と手間がかかっていた。
【0007】
本発明は、にがりの添加量が少なく、かつ、殺菌力が長期間維持できるファインバブルオゾン処理水を得ることを課題とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
このような課題を解決するために、本発明は、以下の構成を具備するものである。
オゾンガス注入部とファインバブル生成部と貯留容器と配管を備え、前記オゾンガス注入部は、水溶液にオゾンガスを注入してオゾン水を生成するものであり、前記ファインバブル生成部は、前記オゾン水中の前記オゾンガスを、前記オゾン水中の生成されたファインバブル内に封じ込め、ファインバブルオゾン処理水にするものであり、前記貯留容器は、生成された前記ファインバブルオゾン処理水を貯留するものであり、前記配管は、少なくとも前記オゾンガス注入部と前記ファインバブル生成部、前記ファインバブル生成部と前記貯留容器を繋いでおり、前記ファインバブル生成部は、前記ファインバブルオゾン処理水と接触する領域の少なくとも一部が合成樹脂で形成されていることを特徴とするファインバブルオゾン処理水製造装置。
【発明の効果】
【0009】
殺菌力が長期間維持でき、にがりの添加量が少ないファインバブルオゾン処理水が得られた。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】代表的なファインバブルオゾン処理水製造装置1の説明図。
【
図2】保存加速試験で使用した温度設定条件の説明図。
【
図3】実験1において、添加量を2.5g/Lとしたときのファインバブルオゾン処理水の殺菌力を示す図である。
【
図4】実験1において、添加量を5g/Lとしたときのファインバブルオゾン処理水の殺菌力を示す図である。
【
図5】実験1において、添加量を10g/Lとしたときのファインバブルオゾン処理水の殺菌力を示す図である。
【
図6】実験1において、添加量を2.5g/L、5g/LとしたときのKI値を示す図である。
【
図7】(a)は塩化マグネシウム・六水和物の成分表、(b)は仁尾興産株式会社製にがりの成分表である。
【
図8】実験2において、添加量を5g/Lとしたときのファインバブルオゾン処理水の殺菌力を示す図である。
【
図9】実験2において、添加量を10g/Lとしたときのファインバブルオゾン処理水の殺菌力を示す図である。
【
図10】実験3において、加熱蒸留後のファインバブルオゾン処理水の殺菌力を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、図面を参照して本発明の実施形態を説明する。以下の説明で、異なる図における同一符号は同一機能の部位を示しており、各図における重複説明は適宜省略する。
以下、図面を参照して本発明の実施形態を説明する。
【0012】
(実施例)
[ファインバブルオゾン処理水製造装置の概要]
ファインバブルオゾン処理水製造装置1は、様々な形式があるが、
図1は代表的なファインバブルオゾン処理水製造装置1の説明図である。
図1のファインバブルオゾン処理水製造装置1は、大きく分けて、貯留容器11、オゾンガス注入部12、ファインバブル生成部13とそれらを繋ぎ循環するように配設された配管17とからなる。その内、ファインバブル生成部13は、ファインバブル生成ノズル131とポンプ132とで構成されている。
【0013】
水溶液は、フィルターで濾過した水道水に添加剤として、にがり、塩化マグネシウム六水和物などをいれたものである。
【0014】
原料ガス15の1つは酸素ガスであり、酸素ガスは酸素ガスボンベ151からオゾナイザー16へ供給され、オゾンガスとなる。オゾナイザー16は公知のものを使用すればよい。オゾナイザー16で作られた100g/Nm3の高濃度オゾンガスは、配管17に設けられたオゾンガス注入部12へと送られ、循環する水溶液に0.6L/minの流量でオゾンガス注入部12から水溶液中に注入される。水溶液は、ポンプ132により10L/minの循環水流量で送られる。
【0015】
他方、炭酸ガスボンベ152は、水溶液中に炭酸ガスを注入するためのものである。炭酸イオンが増えるとオゾンの分解速度は低下する。炭酸ガスは、循環する水溶液に、0.1L/minの流量でオゾンガス注入部12から注入される。
炭酸ガスをオゾンガスとともに注入すると、オゾン水のKI値(後述)が増えることがわかっているが、炭酸ガスの注入は必須ではなく、オゾンガスのみの注入でも、下記のように水溶液をファインバブルオゾン処理水製造装置1に循環させること等により、十分にオゾンを含有させることができる。
【0016】
ファインバブル生成部13の構成は、ファインバブル生成原理によって異なる。ポンプ132がファインバブル生成部13に含まれる場合もあるが、含まれない場合もある。オゾンガス注入部12がファインバブル生成ノズル131に設けられていることもある。圧力計14は、ポンプ132で送水されファインバブル生成ノズル131に入る水溶液の圧力を監視するものであり、ファインバブルを生成するのに適した圧力となるように調整される。
【0017】
配管17は、循環流路を構成しており、貯留容器11から再び配管17を通って、オゾンガス注入部12へと繋がる。ファインバブルを十分な濃度含んだファインバブルオゾン処理水を大量に製造するために、循環を繰り返し徐々に濃度を上げて行くように構成されている。
【0018】
[発明者の試みと発見]
特許文献5の
図4で示されているように、にがりを4%添加した水溶液でファインバブルオゾン処理水を作成し殺菌力を調べると、当初4.2×10
5個存在していた大腸菌が1時間後に菌数がゼロとなることが知られている。そして、にがりを2%添加した水溶液でファインバブルオゾン処理水を作成し殺菌力を調べると、当初4.2×10
5個存在していた大腸菌が1時間後に2.9×10
4個の大腸菌が検出された。にがりを2%添加した水溶液では、十分な殺菌力のあるファインバブルオゾン処理水を得ることができなかった。
【0019】
このように、にがりを4%添加した水溶液でファインバブルオゾン処理水を殺菌に使用すればよいのであるものの、にがりを含有させたファインバブルオ含有オゾン水をスプレー噴霧で散布すると、蒸発した後に、にがりが残留するという課題がある。そこで、発明者は、にがりの量が少ないと、殺菌作用が得られないという報告があるものの、にがりの量を減らせないかと考えた。
【0020】
発明者は、まず、実験室で、上述したファインバブルオゾン処理水製造装置1で、にがりの量を変えて、ファインバブルオゾン処理水を製造してみた。
この実験では、添加剤として、海水から生成される塩化マグネシウム以外の塩類を含むにがりの代わりに、純度の高い塩化マグネシウム・六水和物を使用した。
【0021】
(実験1)
[製造条件]
処理量:10L
原料水:水道水(フィルターによりろ過した。)
添加剤:2.5g/L、5g/L、10g/L
オゾンガス流量:0.6L/min
炭酸ガス流量:0.1L/min
循環水流量:6.5L/min
ポンプ吐出圧力:0.4MPa
(フィルターは、活性炭フィルター、中空糸膜フィルターを使用。)
【0022】
製造後のファインバブルオゾン処理水を、PETボトルに満充填して、保存加速条件で、製造23週間(加速試験により138週間相当)後に、被検菌(Geobacillus stearothermophilus(ATCC 9372))に対して、ファインバブルオゾン処理水を5倍に希釈したもので処理し、3分、5分、10分後の菌数を計測した。
【0023】
〈保存加速条件〉
数カ月ないし年単位の期間の保存性の検証のために、保存加速試験を行って、長期間保存時の殺菌力の変化を仮想的に予測する方法を使用した。
保存加速試験は以下のとおりである。
保存中の温度の高低を次のように調整して、(1)~(5)の1サイクル(240分;
図2)を1日分として、所定のサイクル経過時に、保存しているファインバブルオゾン処理水を取り出して、殺菌力の試験を行った。
(1)室温(20℃)から30℃へ昇温
(2)30℃で2時間保持
(3)30℃から10℃へ降温
(4)10℃で2時間保持
(5)10℃から30℃へ昇温
【0024】
実験1の結果、驚いたことに、添加剤が2.5g/L、5g/L、10g/Lという少量であるにもかかわらず、
図3、
図4、
図5に示すように、被検菌の個数が、処理までの4.9×10
4個から3分後には0個になっており、十分に殺菌されていることが分かった。
【0025】
そこで、発明者は、従来、殺菌力が保たれないと考えられていた添加量で、ファインバブルオゾン処理水の殺菌力が長期間維持されたことに、何が関与しているのかを検討した。
【0026】
[要因1]
まず、ファインバブルオゾン処理水製造装置1について、実験室のファインバブルオゾン処理水製造装置1は、製造量が少ないため、樹脂製の装置を使用しており、大量に製造するための工業用のファインバブルオゾン処理水製造装置1がステンレス製のものである点に違いがあった。
【0027】
ファインバブルオゾン処理水製造装置1のファインバブル生成ノズル131周辺では、オゾン水の流れが激しく変化して、以下に詳説するように、ファインバブル生成ノズル131周辺の材料に大きな負荷を与える。
ファインバブル生成ノズル131は、流入したオゾン水がオリフィスを通過する際、急激に圧力が上がる。そして、オリフィスを出るときに、急激に圧力が下がるため、圧力上昇により溶解していた気体(オゾンガス)が微細気泡となって発生する。このファインバブル発生の原理は、オゾン水の圧力をごく短時間だけ上昇させることで、オゾンガスを水溶液中に溶解させ、次いで、オゾン水の流れの中で圧力が急激に飽和蒸気圧より低くなることで、小さな気泡が生じることを利用したものである。オゾン水中に存在する100μm以下のごく微小な「気泡核」を核としてオゾンガスを含む小さな気泡が多数生じることとなる。
【0028】
ファインバブル生成ノズル131中のオリフィスの出口では乱流が生じており、著しい圧力の乱高下が起きている。乱流は、まれに周囲の圧力が飽和蒸気圧より高くなる領域を作ることが有る。この領域に入った気泡は、気泡中のオゾンガスが急激にオゾン水に溶け込み、周囲のオゾン水が気泡の中心に向かって殺到する。このとき、微小ながら強い圧力波が発生する。これがキャビテーションと呼ばれる現象である。このキャビテーションがファインバブル生成ノズル131や配管17を構成する壁の付近で繰り返して生じると、壁の素材がステンレスなどの金属であっても表面が次第に疲労して、ついには、硬い表面がエロージョン(壊食)を起こし、えぐり取られると考えられる。
【0029】
ファインバブル生成ノズル131は、オゾン以外の気体を含むファインバブルの製造にも使われるものであり、オゾンに特に適したファインバブル生成ノズル131という専用のものがあるわけではない。発明者は、オゾンは、その強い酸化力から、通例の気体では起き得ないエロージョンを誘発しているものと考えた。
【0030】
そして、エロージョンにより生じた金属から成る微小な不純物は、触媒のように作用し、たとえその量が微量であったとしてもファインバブルオゾン処理水に含まれるオゾンを分解し、ファインバブルオゾン処理水の殺菌力を奪っている可能性や、オゾンの長期安定のために添加されている塩化マグネシウムのような塩類である電解質が、微小な不純物により消費されてオゾンの分解などを引き起こしている可能性が考えられる。
【0031】
これに対して、実験で使用したファインバブルオゾン処理水製造装置1では、水溶液が接触する部材のほとんどがポリテトラフルオロエチレン(PTFE)で形成されたものである。PTFEは、オゾンにも比較的安定であり、ステンレス製のファインバブルオゾン処理水製造装置で発生していた、上述の水溶液中のオゾンを減少させる現象が生じない、もしくは、生じにくいものと考えられる。
【0032】
そして、発明者は、ファインバブルオゾン処理水製造装置1のほとんどの部材(ポンプ132以外の部材)が、このPTFEで形成されたことが、実験結果で得られた、添加剤が最も少なくて2.5g/Lという少量で製造したにもかかわらず、ファインバブルオゾン処理水が長期間殺菌力を保有していたことの要因であると結論付けた。
【0033】
以上のことから、ファインバブルオゾン処理水製造装置のうち、少なくともファインバブルオゾン処理水と接触する部分がPTFEで形成されていると、ファインバブルオゾン処理水の殺菌力が長期間保存されることがわかった。
【0034】
[ファインバブルオゾン処理水製造装置の変形例]
(1)キャビテーションが起きるのは、ファインバブル生成ノズル131より下流であるから、ファインバブル生成ノズル131とその下流の配管17をPTFEで形成するだけで、同様の効果が得られると考えられる。
(2)オゾンに対して比較的安定な材料として、PTFEのようなフッ素系樹脂、ポリ塩化ビニル樹脂などの合成樹脂でも、同様の効果が得られると考えられる。
(3)ファインバブルオゾン処理水製造装置1において、ファインバブルオゾン処理水と接触する面が、オゾンに対して比較的安定な材料で形成されていればよいのであるから、ステンレス製の部材のうち、ファインバブルオゾン処理水を接触する面だけを、オゾンに対して比較的安定な材料でコーテイングすることでも、同様の効果が得られると考えられる。
【0035】
殺菌力は、ファインバブルオゾン処理水中のオゾン量によるものであるから、KI値(後述)を測定することにより、その裏付けを取った。
添加量を2.5g/L、5g/Lとして製造したファインバブルオゾン処理水を常温で保存し、それらのKI値を1週(7日)毎に測定した結果は、
図6に示すようになった。図中、実線は添加剤の添加量が5g/Lの場合、点線は添加剤の添加量が2.5g/Lの場合である。
いずれの場合も、製造直後にKI値が急激に落ちるものの、1週間程度で安定して、その後は漸減する傾向にあることが分かった。
【0036】
(KI値)
KI値とは、KI法による測定で得られたオゾン濃度の測定値をいう。すなわち、KI法は、酸化剤の存在下でKI(ヨウ化カリウム)からI2が遊離することを利用した測定法である。KI法は、オゾン濃度の測定手段として慣用されている手法である。
【0037】
[要因2]
他に、今回の実験では、添加剤として、にがりではなく、純度の高い塩化マグネシウム・六水和物を使用したことが異なっていた。
そこで、下記実験2において、添加剤として、にがり(仁尾興産株式会社製にがり)を使用した実験を行った。(塩化マグネシウム・六水和物と仁尾興産株式会社製にがりの成分表は、
図7のとおりである。)
(実験2)
[製造条件]
処理量:10L
原料水:水道水(フィルターによりろ過した。)
添加剤:5g/L,10g/L
オゾンガス流量:0.6L/min
炭酸ガス流量:0.1L/min
循環水流量:6.5L/min
ポンプ吐出圧力:0.4MPa
(フィルターは、活性炭フィルター、中空糸膜フィルターを使用。)
【0038】
実験2の結果は、
図8と
図9に示されるとおりである。
図4及び
図5に示されるように、塩化マグネシウム・六水和物では、処理3分後には、菌数が0個になって十分に殺菌されている。これに対して、
図8及び
図9に示されるように、仁尾興産株式会社製のにがりでは、処理10分後でも1.6×10
2個、1.4×10
2個の菌が残っており、十分な殺菌はできなかった。
【0039】
このことから、にがりに含まれる塩化マグネシウム以外の塩類が、ファインバブルオゾン処理水中のオゾンに何らかの影響を与えて、オゾンを分解して、オゾン濃度を減少させていると考えられる。
【0040】
以上のことから、ファインバブルオゾン処理水を製造する際に、添加剤として、塩化マグネシウム・六水和物を使用すると、ファインバブルオゾン処理水の殺菌力が長期間保存されることがわかった。
【0041】
さて、上述のとおり、樹脂製のファインバブルオゾン処理水製造装置を使用したり、添加剤として、塩化マグネシウム・六水和物を使用したりすると、添加量を減らしても、殺菌力が長期間保存できることがわかった。
【0042】
しかしながら、発明者は、ファインバブルオゾン処理水から、さらに、塩化マグネシウムの量を減らせないかと考えた。製造時の塩化マグネシウムを減らすには限界があるから、製造後のファインバブルオゾン処理水から塩化マグネシウムを除去することを考えた。
【0043】
ファインバブルオゾン処理水から塩化マグネシウムを除去するために、すでに知られている各種の精製方法が考えられる。
そこで、発明者は、各種の精製方法の中で、塩化マグネシウムを含むファインバブルオゾン処理水を加熱蒸留して、塩化マグネシウムを含むファインバブルオゾン処理水から塩化マグネシウムを除去する精製を試みた。加熱蒸留することで塩化マグネシウム濃度が大幅に低減した精製されたファインバブルオゾン処理水を得ることができた。
【0044】
加熱蒸留装置は、普通に使用されるもので、ガラス容器等からなる蒸発器に精製前のファインバブルオゾン処理水を入れて、加熱蒸発させて、その蒸気を凝縮器で復水したものをガラス容器等からなる回収容器に回収する装置である。
【0045】
(実験3)
[製造条件]
処理量:10L
原料水:水道水(フィルターによりろ過した。)
添加剤:2.5g/L
オゾンガス流量:0.6L/min
炭酸ガス流量:0.1L/min
循環水流量:6.5L/min
ポンプ吐出圧力:0.4MPa
(フィルターは、活性炭フィルター、中空糸膜フィルターを使用。)
【0046】
実験1と同様に、、塩化マグネシウム・六水和物を2.5g/Lを添加して製造したのファインバブルオゾン処理水を、製造後にPETボトルに満充填して、保存加速試験で、製造12週間(72週間相当)後に加熱蒸留し、加熱蒸留後9週間(54週間相当)後に、被検菌(Geobacillus stearothermophilus(ATCC 9372))に対して、ファインバブルオゾン処理水を、5倍に希釈したもので処理し、3分、5分、10分後の菌数を計測した。
【0047】
実験3の結果は、
図10に示されるとおりであり、加熱蒸留後のファインバブルオゾン処理水でも、十分な殺菌力が保持されていることが分かった。
【0048】
以上のとおり、ファインバブルオゾン処理水は加熱蒸留後も十分な殺菌力を保持しているために、加熱蒸留により、殺菌力を保持しながら、さらに塩化マグネシウムの含有量を減らすことができることがわかった。
【0049】
加熱蒸留により生成されたファインバブルオゾン処理水は、塩化マグネシウムはほとんど含んでいないから、殺菌のために、スプレー噴霧した場合でも、ファインバブルオゾン処理水が蒸発した後に、にがりが析出するようなことはなく、殺菌処理を簡便に行うことができるようになった。
【0050】
なお、上記実験3では、精製方法として加熱蒸留を実施したが、イオン交換膜を使用した精製方法等の他の精製方法も適用可能であり、加熱蒸留による精製と同様の効果が得られると考えられる。
【0051】
以上、本発明に係る実施形態を、図面を参照して詳述してきたが、具体的な構成は、これらの実施の形態に限られるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲の設計の変更等があっても本発明に含まれる。
また、前述の各実施形態は、その目的および構成等に特に矛盾や問題がない限り、互いの技術を流用して組み合わせることが可能である。
【符号の説明】
【0052】
1 ファインバブルオゾン処理水製造装置
11 貯留容器
12 オゾンガス注入部
13 ファインバブル生成部
131 ファインバブル生成ノズル
132 ポンプ
14 圧力計
15 原料ガス
151 酸素ガスボンベ
152 炭酸ガスボンベ
16 オゾナイザー
17 配管