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特開2023-146431パッシブレーダ装置および目標検出方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023146431
(43)【公開日】2023-10-12
(54)【発明の名称】パッシブレーダ装置および目標検出方法
(51)【国際特許分類】
   G01S 7/02 20060101AFI20231004BHJP
【FI】
G01S7/02 218
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022053615
(22)【出願日】2022-03-29
(71)【出願人】
【識別番号】000003078
【氏名又は名称】株式会社東芝
(71)【出願人】
【識別番号】598076591
【氏名又は名称】東芝インフラシステムズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110003708
【氏名又は名称】弁理士法人鈴榮特許綜合事務所
(72)【発明者】
【氏名】安達 正一郎
【テーマコード(参考)】
5J070
【Fターム(参考)】
5J070AA02
5J070AC01
5J070AD06
5J070AD10
5J070AE05
5J070AF01
5J070AH04
5J070AH31
5J070AH35
5J070AH42
5J070AH45
5J070AK40
5J070BD02
(57)【要約】
【課題】 周波数割り当ての制限を満たし、広範囲を捜索することの可能なパッシブレーダ装置を提供すること。
【解決手段】 実施形態によれば、パッシブレーダ装置は、参照波アンテナと、パッシブフェーズドアレイアンテナと、目標検出部とを具備する。参照波アンテナは、静止軌道上の人工衛星から放射された電波の直接波を受信して参照信号を出力する。パッシブフェーズドアレイアンテナは、目標で反射された電波の間接波を受信して受信信号を出力する。目標検出部は、参照信号と受信信号とに基づいて目標を検出する。
【選択図】 図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
静止軌道上の人工衛星から放射された電波の直接波を受信して参照信号を出力する参照波アンテナと、
目標で反射された前記電波の間接波を受信して受信信号を出力するパッシブフェーズドアレイアンテナと、
前記参照信号と前記受信信号とに基づいて前記目標を検出する目標検出部とを具備する、パッシブレーダ装置。
【請求項2】
前記目標検出部は、
前記参照信号からベースバンドの参照データを生成し、前記受信信号からベースバンドの受信データを生成する受信処理部と、
前記参照データと、前記受信データと、前記人工衛星の位置情報とに基づいて前記目標の検出情報を算出する信号処理部とを備える、請求項1に記載のパッシブレーダ装置。
【請求項3】
前記信号処理部は、前記参照データと、前記受信データと、前記人工衛星の位置情報とに基づいて、バイスタティック測位方式により前記目標の位置を算出する、請求項2に記載のパッシブレーダ装置。
【請求項4】
前記信号処理部は、前記参照データおよび前記受信データの相関処理演算によりデータ列を生成し、
捜索レンジに応じて帯域を可変した帯域フィルタにより、前記データ列の帯域を制限して、周波数分解能を可変する、請求項2または3の何れか1項に記載のパッシブレーダ装置。
【請求項5】
前記信号処理部は、前記参照データおよび前記受信データの相関処理演算によりデータ列を生成し、
捜索レンジに応じて遅延量を可変した遅延手段により、前記相関処理演算にかかる前記参照データの遅延量を変化させて、距離分解能を可変する、請求項2または3の何れか1項に記載のパッシブレーダ装置。
【請求項6】
前記信号処理部は、捜索レンジに応じて設定されたレートで前記データ列をリサンプルする手段を備える、請求項4または5の何れか1項に記載のパッシブレーダ装置。
【請求項7】
前記信号処理部は、前記受信データに基づいてデジタル領域でビーム形成を行う、請求項2に記載のパッシブレーダ装置。
【請求項8】
さらに、前記目標の検出情報に基づいて、カルマンフィルタによる位置予測を用いたTWS(Track while scan)を行う制御部をさらに具備する、請求項2に記載のパッシブレーダ装置。
【請求項9】
参照波アンテナにより、静止軌道上の人工衛星から放射された電波の直接波を受信して参照信号を出力する過程と、
パッシブフェーズドアレイアンテナにより、目標で反射された前記電波の間接波を受信して受信信号を出力する過程と、
コンピュータにより、前記参照信号と前記受信信号とに基づいて前記目標を検出する過程とを具備する、目標検出方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の実施形態は、パッシブレーダ装置および目標検出方法に関する。
【背景技術】
【0002】
電波は有限の資源であり、限られた周波数帯域を分け合って各種のインフラが運用されている。近年ではセルラフォンシステムへの周波数拡張などの影響もあり、レーダシステムの使用できる帯域は制限されている。
周波数割り当てが制限されている中で、パッシブレーダに注目が集まっている。しかし、地上デジタルテレビ放送や、ラジオ放送で用いられている電波の波長は長いので、既存の測角技術を用いたフェーズドアレイを適用することは難しい。アンテナの規模が大きくなりすぎるからである。
【0003】
そこで、より波長の短い電波を用いたパッシブレーダに、大いに検討の余地がある。例えばBS(Broadcasting Satellite)放送波、あるいはCS(Communication Satellite)通信波を用いたパッシブレーダ装置を実現することができれば、少なくとも地上から静止軌道までの間に存在する目標を検出できる可能性がある。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】吉田 孝 監修 「改訂レーダ技術」 電子情報通信学会、平成8年10月1日(初版)
【非特許文献2】Malanowski,’Signal Processing For Passive Bistatic Radar’ARTEC- HOUSE,sec.2.4.1The Ambiguity Function of a Noise Signal(2019)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
放送波、通信波(以下、放送波に統一する)はいずれもパルスでなく連続波で送信されるので、そのことに伴う特有の課題がある。例えば、受信データの量が多すぎて信号処理にかかる計算量が膨大になり、リソースの消費が著しいなどの課題がある。また、検出すべき目標の位置や速度、距離に応じて検出精度の要求が変わる。また、目標の大きさは千差万別であり、あらゆる目標に対して安定的な検出精度を期待することは難しい。これらの課題を解決できる技術が望まれている。
【0006】
そこで、目的は、周波数割り当ての制限を満たし、広範囲を捜索することの可能なパッシブレーダ装置および目標検出方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
実施形態によれば、パッシブレーダ装置は、参照波アンテナと、パッシブフェーズドアレイアンテナと、目標検出部とを具備する。参照波アンテナは、静止軌道上の人工衛星から放射された電波の直接波を受信して参照信号を出力する。パッシブフェーズドアレイアンテナは、目標で反射された電波の間接波を受信して受信信号を出力する。目標検出部は、参照信号と受信信号とに基づいて目標を検出する。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1図1は、実施形態に係わるパッシブレーダ装置の運用形態の一例を示す図である。
図2図2は、実施形態に係わるパッシブレーダ装置500の一例を示す系統図である。
図3図3は、図2に示されるパッシブレーダ装置500の受信系統の一例を示すブロック図である。
図4図4は、受信ビーム形成に係わる演算系統の一例を示す図である。
図5図5は、信号処理部6およびレーダ制御部7の処理系統の一例を示す機能ブロック図である。
図6図6は、クラッタ抑圧処理に係わる処理系統の一例を示す図である。
図7図7は、図5の相関処理63に係わる処理系統の一例を示す図である。
図8図8は、相関処理におけるデータ量の削減について説明するための図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
多くの地域において、衛星放送波は12~18ギガヘルツ帯のKuバンドで送信されている。この帯域の波長は十分に短いので、既存のフェーズドアレイ技術を適用できる。ただし、例えば日本におけるBS放送波の1チャンネルの帯域幅は約35MHzであり、連続波をそのまま受信処理すると距離データ量が膨大になる。ドップラ分解能を高められるという利点はあるが、膨大なデータ量は大量の計算機リソースを消費し、莫大な計算コストがかかる。
【0010】
また、一般に航空機は遠距離レンジでの捜索が所望であり、比較的RCSが大きく、速度が速い。一方、AI(Artifical Intelligence)ドローンなどは近距離レンジでの捜索が所望であり、比較的RCSが小さく、そして速度が遅い。このように、目標によってその特性は様々に異なる。さらに、遠方の距離分解能は粗くても許容できるが、近方の距離分解能は細かくして観測誤差を小さくしたいという潜在的な要求がある。このような、目標を広範囲に捜索することを求められるレーダは距離分解能、ドップラ分解能、積分時間などのレーダパラメータの選択において相反する条件を満たすことを要求される。
【0011】
次に、上記のような事情を解決することの可能な実施の形態について説明する。
<構成>
図1は、実施形態に係わるパッシブレーダ装置500の運用形態の一例を示す図である。図1において、静止軌道上の放送衛星(BS)100からダウンリンクで放射される放送波は、地上のパッシブレーダ装置500により捕捉される。放送衛星100から直接届く直接波(参照信号)と、放送波が目標で反射されて届く間接波(受信信号)との双方を受信し、両信号の相関を計算して、目標400を検出することができる。パッシブレーダ装置500および放送衛星100の位置が既知であれば、バイスタティック測位方式により目標400の位置を取得できる。
【0012】
パッシブレーダ装置500は、参照波アンテナ1と、捜索アンテナ200とを備える。参照波アンテナ1は、その開口を放送衛星100に向けて固定され、例えば市販のBSアンテナを流用することが可能である。捜索アンテナ200は、例えば信号処理系300を備えた架台に固定される。
【0013】
信号処理系300は、プロセッサおよびメモリを有するコンピュータであり、参照波アンテナ1から出力される参照信号と、捜索アンテナ200から出力される受信信号とに基づいて目標を検出する。
【0014】
捜索アンテナ200は、複数の素子アンテナを有する、例えばサブアレイ方式のフェーズドアレイ受信アンテナである。実施形態では、いわゆるパッシブフェーズドアレイ方式のDBF(Digital Beam Forming)アンテナとする。この種のアンテナは、3次元空間の覆域に対し、同時に多数本の受信ビームを形成することができる。
【0015】
図2は、図1に示されるパッシブレーダ装置500の一例を示す系統図である。図2において、参照波アンテナ1に到来したBS放送波は、参照波受信部3に入力される。参照波受信部3は、アンテナ入力から不要波成分を抑圧して、直接波に由来する参照信号を受信処理部5に入力する。受信処理部5は、参照信号を直交デジタル変換して、ベースバンドのデジタル信号(参照波I/Q信号:参照データ)を生成し、信号処理部6に入力する。
【0016】
捜索アンテナ200は、複数のサブアレイアンテナ4(#1~#N)を備える。各サブアレイアンテナ4は、例えばダイポールアンテナである素子アンテナ2(#1~#K)を有する。目標400から到来する間接波はサブアレイアンテナ4のそれぞれの素子アンテナ2で捕捉され、不要波抑圧、サブアレイ合成などの処理を経て受信信号が生成される。
【0017】
サブアレイアンテナ4(#1~#N)からの受信信号(#1~#N)は、受信処理部5に入力される。受信処理部5は、受信信号(#1~#N)をそれぞれ直交デジタル変換して、ベースバンドのデジタル信号(受信I/Q信号:受信データ)を生成し、信号処理部6に入力する。
【0018】
信号処理部6は、デジタルの受信データからDBF演算により受信ビームを形成し、クラッタ抑圧後に、ビーム形成データと参照波I/Qデータとの相互相関を取ることで、S/N(信号対雑音比)を改善した相関出力を得る。さらに、信号処理部6は、2次元CFARなどにより相関出力から目標を検出し、バイスタティック測位方式に基づく目標検出情報をレーダ制御部7に出力する。
【0019】
レーダ制御部7は、放送衛星100、およびパッシブレーダ装置500の各位置座標に基づいて、目標検出情報をバイスタティック座標から直交座標に変換する。さらに、レーダ制御部7は、拡張カルマンフィルタなどを用いて目標移動予測処理を行い、目標航跡を確立する。目標航跡は表示部8に出力されビジュアルに表示される。また、レーダ制御部7は、目標移動予測結果に基づいて、積分時間などの制御信号を信号処理部6に出力する。
【0020】
図3は、図2に示されるパッシブレーダ装置500の受信系統の一例を示すブロック図である。サブアレイアンテナ4は、低雑音増幅器41、イメージ抑圧ミキサ42、およびサブアレイ合成器43を備える。サブアレイアンテナ4の素子アンテナ2に到達した間接波は、低雑音増幅器41で増幅され、イメージ抑圧ミキサ42を経て約12GHzの搬送波信号が例えば1GHz程度の中間周波数にダウンコンバートされ、IF信号が生成される。各サブアレイアンテナ4からのIF信号は、サブアレイ合成器43でアナログ合成されて、受信信号が生成される。
【0021】
参照波受信部3は、サブアレイアンテナ4と同様の低雑音増幅器31、イメージ抑圧ミキサ32を備え、約12GHzの搬送波信号を例えば1GHz程度の中間周波数にダウンコンバートしてIF信号を得る。そして、遅延線33によりサブアレイ合成器43と同等の群遅延がIF信号に与えられて、参照信号が生成される。
【0022】
受信処理部5は、Nのサブアレイアンテナ4と、1の参照波受信部3に対応して、N+1の回路系統50を備える。1つの回路系統50は、増幅器51、ミキサ52、アナログフィルタ53、アナログ/ディジタル(A/D)変換器54、および、I/Q検波器55を備える。
【0023】
参照信号のIF信号は、回路系統50においてデジタル変換され、ベースバンドのデジタルデータ列(I,Q信号:複素数)が生成されて、参照データとして出力される。受信信号#1~#NのIF信号は、各回路系統50においてデジタル変換され、ベースバンドのデジタルデータ列(I,Q信号:複素数)が生成されて、受信データ#1~#Nとして出力される。
ここで、BS放送波の1チャンネルの帯域幅が約35MHzであることに対応して、参照データ、および受信データのデータレートを35MHzレートとする。
【0024】
次に、上記構成における作用を、各機能ブロックの回路系統、および処理系統を参照して説明する。
<作用>
図4は、受信ビーム形成に係わる演算系統の一例を示す図である。ここでは、サブアレイの開口配置との関係と合わせて、受信ビーム形成を説明する。図4において、全開口のサブアレイ数LのサブアレイI、Q信号が入力される。ここで、開口を4分割し、開口(1)、開口(2)、開口(3)、開口(4)に分けて受信ビームを形成する。
【0025】
複数本のビーム形成を実施するため、例えば、捜索覆域に対応するビーム数に応じたJ種類のビームウェイトを用意し、ビーム形成ウェイトWの組(サブアレイ数N)をJ系統設けることにより、J本のビームを同時に形成する。そして、J種類のビームウェイトを入力信号に乗算することにより、Σビーム1、・・・、ΣビームJ、ΔAZビーム1、・・・、ΔAZビームJ、ΔELビーム1、・・・、ΔELビームJが形成される。
【0026】
ここで、Σは和ビームであり、ウェイト乗算後に全開口を加算したものになる。また、Δは差ビームを表す。ΔAZは、アンテナ開口を方位方向に2分割し、それぞれのビームの差分である。同様に、ΔELはアンテナ開口を仰角方向に2分割し、それぞれのビームの差分である。Σ、ΔAZ、ΔELを、それぞれ式(1)により求めることができる。
【0027】
【数1】
【0028】
図5は、信号処理部6およびレーダ制御部7の処理系統の一例を示す機能ブロック図である。信号処理部6は、各サブアレイアンテナ(#1~#N)からの受信データ#1~#N(35MHzレートのI,Q信号)を用いたDBFにより、デジタル領域でビーム形成処理61を行う。DBFにより、測角、測距、測速を同時に行うことができる。
【0029】
次に、参照データ(35MHzレートのI,Q信号)を用いて、ビーム形成されたビームデータ列(35MHzレートのI,Q信号)に対するクラッタ抑圧処理62が行われる。
クラッタ抑圧処理後のビームデータ列と、参照信号のデータ列とを用いて相関処理63が行われる。相関処理結果は、バイスタティック速度情報とバイスタティック距離情報とを含む。この相関処理結果を用いて目標の検出および推定処理64が行われ、速度、および距離に対する2次元CFAR処理を経て目標が検出される。目標の検出情報(バイスタティック目標距離、バイスタティック目標速度、目標角度)は、レーダ制御部7に渡される。
【0030】
レーダ制御部7において、目標の検出情報に基づき、バイスタティック座標でのバイスタティック目標移動予測処理71が、線形カルマンフィルタ等を用いて実施される。予測された位置をバイスタティック座標系から直交座標系に変換して目標情報(目標距離、目標速度、目標角度)が生成される。この目標情報は目標位置測定処理72に渡される。目標位置測定処理72は、例えば拡張カルマンフィルタにより直交座標系での目標移動予測処理73を行い、これにより目標の航跡が確立される。さらに、レーダ制御部7において、カルマンフィルタによる位置予測を用いたTWS(Track while scan)を行うようにしてもよい。
【0031】
図6は、クラッタ抑圧処理に係わる処理系統の一例を示す図である。図6において、J本のビームのうち1本の処理系統について示す。クラッタ抑圧処理62は、ビーム形成処理61により生成されたビームデータ列から、直接波信号とクラッタ信号とを取り除く処理である。すなわち、ビーム形成処理61で形成されたΣビームのビーム受信データ(I/Q)と、参照データ(I/Q)とを用いた適応フィルタ処理621により、クラッタが抑圧される。図6においては、ビーム受信データ(I/Q)と、適応フィルタ処理621を経た参照データ(I/Q)とが合成処理622により合成され、その出力の一部が適応フィルタ処理621にフィードバックされる。例えばRLSアルゴリズム、またはラティスフィルタアルゴリズム等を適応フィルタとして用いることができる。また、ブロック化ラティスフィルタを用いれば、演算コストの抑制を期待できる。
【0032】
次に、実施形態に係わる相関処理63について詳しく説明する。目標の検出および推定処理64を行うために、アンビギューティ関数が用いられる。実施形態におけるアンビギューティ関数は、速度と距離の関数として算出される。すなわち、クラッタ抑圧後のビーム受信データと参照信号データとの複素共役の遅延信号を乗算し、高速フーリエ変換(FFT)することで、アンビギューティ関数を求めることができる。
【0033】
ところで、既存の技術では、相関処理演算に際して、1種類の遅延分解能(例えば、1/35MHz≒29ns)で、1種類のデータレート(例えば35MHz)を用いて計算を行っていた。つまり遅延分解能も、データレートも固定的であった。しかし、連続波を対象として同様の相関処理演算を行うと、計算にかかるデータ量が非常に多くなり、大量の計算機リソースを消費するため現実的ではない。
【0034】
そこで実施形態では、相関処理演算に際して、遅延分解能およびデータレートを可変することにより、計算にかかるデータ量が無制限に増大することを防止する。図7、および図8を参照してこのことを詳しく説明する。
【0035】
図7は、実施形態における相関処理に係わる処理系統の一例を示す図である。図7において、J本のビームのうち1本の処理系統について示す。図7において、例えば、距離0~距離(遅延)Aまでの捜索レンジにおいては、例えば35MHzレートで遅延分解能1/35MHzに設定する。この捜索レンジは、フィルタ_A→リサンプル_A→FFT_Aの系列に対応し、この系列でのデータ数をデータ数_Aとする。
【0036】
また、距離A~Bまでの捜索レンジにおいては、例えば20MHzレートで遅延分解能1/20MHzに設定する。この捜索レンジは、フィルタ_B→リサンプル_B→FFT_Bの系列に対応し、この系列でのデータ数をデータ数_Bとする。
【0037】
他も同様に、距離B~Cまでの捜索レンジにおいては、例えば15MHzレートで遅延分解能1/15MHzに設定する。距離C~Dまでの捜索レンジにおいては、例えば10MHzレートで遅延分解能1/10MHzに設定する。距離D~Eまでの捜索レンジにおいては、例えば5MHzレートで遅延分解能1/5MHzに設定する。それぞれの捜索レンジのデータ数は、データ数_C、データ数_D、データ数_Eとする。
【0038】
各距離に対応するそれぞれの系列には、ビーム受信データと参照信号データとの複素共役(I,Q)との乗算が入力され、それぞれ距離(遅延)に応じた帯域を設定されたフィルタ_A~フィルタ_Eにより帯域を制限し、その出力を異なるレートでリサンプルする。リサンプルのクロックは、捜索レンジが長くなればなるほど粗くする(リサンプルフィルタ)。そして、リサンプルされたデータを距離ごとにFFT処理することで、捜索レンジごとの相関処理データが得られる。すなわち、相関前のデータ列を距離(遅延)に応じて帯域制限後にリサンプルすることで、データを間引くことができ、相関処理の計算量を抑えることが可能になる。
【0039】
これにより総合的なデータ量を大幅に削減することができ、従って演算コストを少なくすることができる。また、遅延範囲、遅延分解能、帯域幅(データレート)の組み合わせは自由に可変することができ、1台の装置で対処目標の覆域や積分時間に合わせてフレキシブルな動作が可能となる。DBF処理の一環として、図7の相関処理63をソフトウェアにより実現することで、フレキシビリティをさらに高めることが可能である。
【0040】
図8は、相関処理におけるデータ量の削減について説明するための図である。図8の2次元配列に示されるように、目標までの距離(捜索レンジ)が近い範囲では、距離分解能とドップラ分解能とを小さくして、データ量は多いが精密な観測を実現する。一方、目標までの距離が大きくになるにつれ、距離分解能とドップラ分解能とを大きくし、データ量が無用に多くなることを防止している。このような処理によりデータ量を削減することができる。
【0041】
ドローンなどの低速の目標を観測するには、ドップラ分解能を高める必要がある。実施形態ではBS放送波が連続波であることの利点を活かし、パルスヒット数が限られる一般的なパルスレーダに比べ、ドップラ分解能を大幅に高めることができる。さらに、ビーム受信データと参照信号データとの複素共役(I,Q)との乗算をリサンプルすることでデータ量を削減することもできる。
【0042】
一方、航空機などの高速の目標を観測する際にも、BS放送波が連続波であることの利点を活かし、必要な距離分解能および速度分解能を達成することができる。
【0043】
<構成および作用のまとめ>
実施形態では、BS放送波を使用したパッシブなフェーズドアレイDBF方式のレーダ装置を開示した。ここで、BS放送波が連続波であることから、既存の技術では相関処理におけるデータ量が多くなり過ぎる。そこで実施形態では、距離に応じて帯域を可変したリサンプルデータ列を作成することで、データ量の増大を防止できるようにした。(1)~(7)に、さらに詳しく記載する。
【0044】
(1) BS放送波の直接波(参照信号)を捕捉する参照波アンテナおよび受信機を具備する。
(2) BS放送波の間接波(捜索信号)を捕捉するフェーズドアレイDBFアンテナとDBF受信機を具備する。
(3) (1)、(2)の送信周波数は、例えばBS放送波の場合、Ku帯である。これにより、(2)のフェーズドアレイDBFアンテナのサイズを常識的なサイズに収めることができる。
(4) 直接波(参照信号)、および間接波(捜索信号)を周波数変換し、A/D変換器によりデジタルデータに変換する。間接波のデータ列を用いてビーム形成後、直接波のデータ列を用いてクラッタ抑圧を行う。
(5) 次に、間接波データを、予め決めた距離範囲(例えば30km-20km、20km-10km、10km-1km、1km-100m、100m-0m)に対応させた遅延量を与え、データ列を作成する。
(6) (4)のビーム形成後の間接波データと、(5)の捜索レンジに応じて可変した遅延量を与えた直接波データを複素乗算する。複素乗算結果を、複数種類の帯域幅(例えば35MHz,20MHz、15MHz、10MHz、5MHz)ごとに設けられたデジタルフィルタ処理系統に入力する。
(7) (6)のデジタルフィルタ処理系統において、入力された複素乗算結果を帯域制限し、リサンプリングした後、FFTすることで、複数の距離範囲に応じたドップラの相互相関を求める。
(8) (7)のデータ列は距離(遅延)とドップラの2次元から成るアンビギューティ関数となっている。この2次元情報からバイスタティック測位方式により目標を検出し、目標の距離情報、および速度情報(ドップラーシフト)を算出する。
【0045】
<効果>
以上説明したように、実施形態によれば、信号処理にかかるデータ量を省き、計算コストを削減することができる。また、距離分解能とドップラ分解能を捜索レンジに対応させることにより、遠距離の高速目標から近距離の低速目標まで、必要十分な分解能(観測精度)を得ることができる。
【0046】
以上、開示したようにBS放送波を用いたパッシブレーダ装置とすることで、有限の資源である電波帯域をさらに消費することなく、定められた周波数割り当ての制限を逸脱する必要が無い。また、距離と速度に応じた帯域制限およびリサンプル処理により、信号処理の計算コストを抑え、目標の特性に合わせて、遠距離の高速目標から近距離の低速目標まで、必要十分な距離分解能と速度分解能を得ることが可能になる。これらのことから実施形態によれば、周波数割り当ての制限を満たし、広範囲を捜索することの可能なパッシブレーダ装置および目標検出方法を提供することが可能となる。
【0047】
以上、実施形態を説明したが、この実施形態は例として提示するものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。
例えば、目標位置をバイスタティック測位方式により算出することについて説明したが、より一般的に、複数の電波源、複数の受信点を用いたマルチスタティック方式についても同様の議論を適用することができる。
【0048】
また、この新規な実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。この実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれるとともに、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれる。
【符号の説明】
【0049】
1…参照波アンテナ、2…素子アンテナ、3…参照波受信部、4…サブアレイアンテナ、5…受信処理部、6…信号処理部、7…レーダ制御部、8…表示部、26…レコーダ、31…低雑音増幅器、32…イメージ抑圧ミキサ、33…遅延線、41…低雑音増幅器、42…イメージ抑圧ミキサ、43…サブアレイ合成器、50…回路系統、51…増幅器、52…ミキサ、53…アナログフィルタ、54…アナログ/ディジタル変換器、55…I/Q検波器、61…ビーム形成処理、62…クラッタ抑圧処理、63…相関処理、64…推定処理、71…バイスタティック目標移動予測処理、72…目標位置測定処理、73…目標移動予測処理、100…放送衛星、200…捜索アンテナ、300…信号処理系、400…目標、500…パッシブレーダ装置、621…適応フィルタ処理、622…合成処理。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8