(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023146444
(43)【公開日】2023-10-12
(54)【発明の名称】二周波電源装置、高周波加熱装置及び高周波焼入装置
(51)【国際特許分類】
H05B 6/06 20060101AFI20231004BHJP
【FI】
H05B6/06 381
【審査請求】有
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022053633
(22)【出願日】2022-03-29
(71)【出願人】
【識別番号】390029089
【氏名又は名称】高周波熱錬株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100108062
【弁理士】
【氏名又は名称】日向寺 雅彦
(74)【代理人】
【識別番号】100168332
【弁理士】
【氏名又は名称】小崎 純一
(74)【代理人】
【識別番号】100146592
【弁理士】
【氏名又は名称】市川 浩
(74)【代理人】
【氏名又は名称】白井 達哲
(74)【代理人】
【識別番号】100172188
【弁理士】
【氏名又は名称】内田 敬人
(74)【代理人】
【識別番号】100197538
【弁理士】
【氏名又は名称】竹内 功
(74)【代理人】
【識別番号】100176751
【弁理士】
【氏名又は名称】星野 耕平
(72)【発明者】
【氏名】杉本 真人
(72)【発明者】
【氏名】田中 裕高
(72)【発明者】
【氏名】益田 洋平
【テーマコード(参考)】
3K059
【Fターム(参考)】
3K059AA02
3K059AA03
3K059AB09
3K059AB25
3K059AB28
3K059AC07
3K059AD34
3K059CD18
3K059CD48
(57)【要約】
【課題】二周波切替時のサージ電圧を抑制可能な二周波電源装置、高周波加熱装置及び高周波焼入装置を提供する。
【解決手段】制御部40は、スイッチング素子31及びスイッチング素子34を導通させ、スイッチング素子32及びスイッチング素子33を導通させない第1導通期T1と、スイッチング素子31~34を導通させない第1不通期T2と、スイッチング素子32及びスイッチング素子33を導通させ、スイッチング素子31及びスイッチング素子34を導通させない第2導通期T3と、スイッチング素子31~34を導通させない第2不通期T4と、をこの順に繰り返し実現する。制御部40は、第1不通期T2の長さを、第1導通期T1から第1不通期T2に切り替えてからインバータ30の出力電流の極性が切り替わるまでの時間T5よりも長くする。
【選択図】
図7
【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1周波数の第1交流電流と、前記第1周波数よりも高い第2周波数の第2交流電流と、を交互に出力する電源部を備え、
前記電源部は、
直流電流を前記第1交流電流及び前記第2交流電流に変換するインバータと、
前記インバータを制御する制御部と、
を有し、
前記インバータは、
高電位側電位と前記電源部の第1出力端子との間に接続された第1スイッチング素子と、
低電位側電位と前記第1出力端子との間に接続された第2スイッチング素子と、
前記高電位側電位と前記電源部の第2出力端子との間に接続された第3スイッチング素子と、
前記低電位側電位と前記第2出力端子との間に接続された第4スイッチング素子と、
を有し、
前記制御部は、
前記第1スイッチング素子及び前記第4スイッチング素子を導通させ、前記第2スイッチング素子及び前記第3スイッチング素子を導通させない第1導通期と、
前記第1スイッチング素子、前記第2スイッチング素子、前記第3スイッチング素子及び前記第4スイッチング素子を導通させない第1不通期と、
前記第2スイッチング素子及び前記第3スイッチング素子を導通させ、前記第1スイッチング素子及び前記第4スイッチング素子を導通させない第2導通期と、
前記第1スイッチング素子、前記第2スイッチング素子、前記第3スイッチング素子及び前記第4スイッチング素子を導通させない第2不通期と、
をこの順に繰り返し実現し、
前記第1不通期の長さを、前記第1導通期から前記第1不通期に切り替えてから前記インバータの出力電流の極性が切り替わるまでの時間よりも長くする、
二周波電源装置。
【請求項2】
前記制御部は、前記第2不通期の長さを、前記第2導通期から前記第2不通期に切り替えてから前記インバータの出力電流の極性が切り替わるまでの時間よりも長くする、請求項1に記載の二周波電源装置。
【請求項3】
前記電源部は、交流電流を前記直流電流に変換して前記高電位側電位及び前記低電位側電位を出力するコンバータをさらに有した請求項1または2に記載の二周波電源装置。
【請求項4】
前記電源部の出力電流が入力され、前記第1交流電流を出力可能な第1整合器と、
前記電源部の出力電流が入力され、前記第2交流電流を出力可能な第2整合器と、
をさらに備えた請求項1~3のいずれか1つに記載の二周波電源装置。
【請求項5】
請求項1~4のいずれか1つに記載の二周波電源装置と、
前記二周波電源装置から前記第1交流電流及び前記第2交流電流が入力されるコイルと、
を備えた高周波加熱装置。
【請求項6】
請求項5に記載の高周波加熱装置と、
前記高周波加熱装置によって加熱されたワークを冷却する冷却装置と、
を備えた高周波焼入装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の実施形態は、二周波電源装置、高周波加熱装置及び高周波焼入装置に関する。
【背景技術】
【0002】
鋼部材に対して焼入処理を施し、表面を硬化する技術が知られている。焼入処理においては、鋼部材を加熱する工程と、加熱した鋼部材を急冷する工程を続けて実施する。歯車等の複雑な形状の部材の表面を効果的に加熱する方法として、二種類の周波数の高周波を用いた高周波焼入処理が知られている(特許文献1参照)。
【0003】
このような高周波焼入処理に用いられる二周波電源装置においては、二周波切替時のサージ電圧の抑制が要求されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の実施形態の目的は、二周波切替時のサージ電圧を抑制可能な二周波電源装置、高周波加熱装置及び高周波焼入装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の実施形態に係る二周波電源装置は、第1周波数の第1交流電流と、前記第1周波数よりも高い第2周波数の第2交流電流と、を交互に出力する電源部を備える。前記電源部は、直流電流を前記第1交流電流及び前記第2交流電流に変換するインバータと、前記インバータを制御する制御部と、を有する。前記インバータは、高電位側電位と前記電源部の第1出力端子との間に接続された第1スイッチング素子と、低電位側電位と前記第1出力端子との間に接続された第2スイッチング素子と、前記高電位側電位と前記電源部の第2出力端子との間に接続された第3スイッチング素子と、前記低電位側電位と前記第2出力端子との間に接続された第4スイッチング素子と、を有する。前記制御部は、前記第1スイッチング素子及び前記第4スイッチング素子を導通させ、前記第2スイッチング素子及び前記第3スイッチング素子を導通させない第1導通期と、前記第1スイッチング素子、前記第2スイッチング素子、前記第3スイッチング素子及び前記第4スイッチング素子を導通させない第1不通期と、前記第2スイッチング素子及び前記第3スイッチング素子を導通させ、前記第1スイッチング素子及び前記第4スイッチング素子を導通させない第2導通期と、前記第1スイッチング素子、前記第2スイッチング素子、前記第3スイッチング素子及び前記第4スイッチング素子を導通させない第2不通期と、をこの順に繰り返し実現する。前記制御部は、前記第1不通期の長さを、前記第1導通期から前記第1不通期に切り替えてから前記インバータの出力電流の極性が切り替わるまでの時間よりも長くする。
【0007】
本発明の実施形態に係る高周波加熱装置は、前記二周波電源装置と、前記二周波電源装置から前記第1交流電流及び前記第2交流電流が入力されるコイルと、を備える。
【0008】
本発明の実施形態に係る高周波焼入装置は、前記高周波加熱装置と、前記高周波加熱装置によって加熱されたワークを冷却する冷却装置と、を備える。
【発明の効果】
【0009】
本発明の実施形態によれば、二周波切替時のサージ電圧を抑制可能な二周波電源装置、高周波加熱装置及び高周波焼入装置を実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】
図1は、実施形態に係る高周波焼入装置を示すブロック図である。
【
図2】
図2は、実施形態に係る高周波加熱装置を示すブロック図である。
【
図3】
図3は、実施形態に係る二周波電源装置の電源部を示すブロック図である。
【
図4】
図4は、電源部のインバータを示す回路図である。
【
図5】
図5は、横軸に時間をとり、縦軸にインバータの出力電圧をとって、インバータの動作を示すタイミングチャートである。
【
図6】
図6は、横軸に時間をとり、縦軸に電源部の出力電圧をとって、本実施形態における電源部の動作を模式的に示すタイミングチャートである。
【
図7】
図7は、横軸に時間をとり、縦軸に電源部の出力電圧及び出力電流をとって、実施形態において電源部が高周波電流を出力する際の動作を示すタイミングチャートである。
【
図8】
図8は、横軸に時間をとり、縦軸に電源部の出力電圧及び出力電流をとって、比較例において電源部が高周波電流を出力する際の動作を示すタイミングチャートである。
【
図9】
図9は、横軸に時間をとり、縦軸に電源部の出力電圧をとって、比較例における電源部の動作を模式的に示すタイミングチャートである。
【
図10】
図10は、実施形態において推定される動作メカニズムを示す図である。
【
図11】
図11は、実施形態において推定される動作メカニズムを示す図である。
【
図12】
図12は、実施形態において推定される動作メカニズムを示す図である。
【
図13】
図13は、実施形態において推定される動作メカニズムを示す図である。
【
図14】
図14は、実施形態において推定される動作メカニズムを示す図である。
【
図15】
図15は、実施形態において推定される動作メカニズムを示す図である。
【
図16】
図16は、実施形態において推定される動作メカニズムを示す図である。
【
図17】
図17は、実施形態において推定される動作メカニズムを示す図である。
【
図18】
図18は、比較例において推定される動作メカニズムを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、図面を参照しつつ、本発明の実施形態について説明する。
図1は、本実施形態に係る高周波焼入装置を示すブロック図である。
【0012】
図1に示すように、本実施形態に係る高周波焼入装置100においては、高周波加熱装置101と、冷却装置102が設けられている。高周波加熱装置101は、ワーク200を誘導加熱する。ワーク200は鋼からなる部材であり、例えば、複雑な形状の部材であり、例えば、歯車である。高周波加熱装置101は、ワーク200の焼入予定部分、例えば、表面の一部をオーステナイト変態点よりも高い温度まで加熱する。冷却装置102は例えば水冷装置であり、高周波加熱装置101によって加熱されたワーク200を急冷する。
【0013】
図2は、本実施形態に係る高周波加熱装置を示すブロック図である。
図2に示すように、本実施形態に係る高周波加熱装置101においては、二周波電源装置1と、コイル90が設けられている。コイル90はワーク200の近傍に配置され、二周波電源装置1から交流電流が供給される。これにより、コイル90はワーク200を誘導加熱する。
【0014】
二周波電源装置1においては、電源部10と、第1整合器60と、第2整合器70と、変成器80が設けられている。電源部10は、第1周波数の低周波電流(第1交流電流)と、第1周波数よりも高い第2周波数の高周波電流(第2交流電流)と、を交互に出力する。一例では、第1周波数は6kHzであり、第2周波数は80kHzである。
【0015】
第1整合器60及び第2整合器70は、電源部10の出力端子に接続されている。第1整合器60は低周波電流にマッチングされており、電源部10から出力された低周波電流を通過させる。第2整合器70は高周波電流にマッチングされており、電源部10から出力された高周波電流を通過させる。第1整合器60と変成器80との間には、共振用の整合コンデンサ69が設けられており、低周波電流の周波数(第1周波数)で共振するように調整されている。第2整合器70と変成器80との間にも、共振用の整合コンデンサ79が設けられており、高周波電流の周波数(第2周波数)で共振するように調整されている。変成器80は、第1整合器60の出力電流及び第2整合器70の出力電流が入力され、入力された電流の電圧及び電流を変換してコイル90に対して出力する。
【0016】
図3は、本実施形態に係る二周波電源装置の電源部を示すブロック図である。
図3に示すように、二周波電源装置1の電源部10においては、外部から入力された交流電流I
1を直流電流I
2に変換するコンバータ20と、コンバータ20から出力された直流電流I
2を任意の周波数の交流電流I
3に変換するインバータ30と、コンバータ20及びインバータ30を制御する制御部40と、が設けられている。また、電源部10には、インバータ30に接続された一対の出力端子11及び12が設けられている。なお、本明細書において、「直流」には、電流値が一定である狭義の直流の他に、脈流も含まれる。インバータ30は、コンバータ20から入力された直流電流I
2を上述の低周波電流及び高周波電流に変換して出力する。
【0017】
図4は、電源部のインバータを示す回路図である。
図4に示すように、インバータ30においては、スイッチング素子31~34が設けられている。スイッチング素子31~34は、例えば、IGBT(Insulated Gate Bipolar Transistor:絶縁ゲートバイポーラトランジスタ)である。なお、スイッチング素子31~34は、MOSFET(Metal-Oxide-Semiconductor Field-Effect Transistor:金属酸化物半導体電界効果トランジスタ)であってもよい。各スイッチング素子31~34には、スイッチング部分とダイオード部分とが設けられており、相互に並列に接続されている。スイッチング部分はゲートを含み、ゲートに印加された電位によって導通と非導通とが切り替わる。
【0018】
また、インバータ30には、高電位配線35及び低電位配線36が設けられている。高電位配線35にはコンバータ20から高電位側電位が供給され、低電位配線36にはコンバータ20から低電位側電位が供給される。
【0019】
スイッチング素子31は、高電位配線35(高電位側電位)と電源部10の出力端子11との間に接続されている。スイッチング素子32は、低電位配線36(低電位側電位)と出力端子11との間に接続されている。スイッチング素子33は、高電位配線35と電源部10の出力端子12との間に接続されている。スイッチング素子34は、低電位配線36と出力端子12との間に接続されている。
【0020】
スイッチング素子31~34の各ゲートは、制御部40に接続されている。制御部40はスイッチング素子31~34の各ゲートに所望の電位を印加することにより、スイッチング素子31~34のスイッチング部分の導通/非導通を相互に独立して切り替えることができる。
図4においては、出力端子11と出力端子12との間に負荷Lを接続している。負荷Lは、上述の第1整合器60、第2整合器70、変成器80及びコイル90を含んでいる。
【0021】
なお、高電位配線35と低電位配線36との間には、スイッチング素子31~34からなるブリッジ回路が複数個、並列に接続されていてもよい。これにより、コイル90に供給する電流を増加させることができる。
【0022】
次に、本実施形態に係る高周波焼入装置の動作について説明する。
図5は、横軸に時間をとり、縦軸にインバータの出力電圧をとって、インバータの動作を示すタイミングチャートである。
図6は、横軸に時間をとり、縦軸に電源部の出力電圧をとって、本実施形態における電源部の動作を模式的に示すタイミングチャートである。
【0023】
図5及び
図6の縦軸が表す出力電圧は、出力端子12に対する出力端子11の電位である。
また、
図6においては、電流の波形と周波数の切り替えのタイミングを同時に可視化するために、横軸の縮尺は正確でなくなっている。実際には、低周波電流が出力される期間T11及び高周波電流が出力される期間T12の長さは、各電流の周期に対して十分に長い。後述する
図9についても
図6と同様である。
【0024】
図3に示すように、電源部10のコンバータ20には、交流電流I
1として、例えば、商用の交流電流、例えば、440Vの三相電流が入力される。コンバータ20は交流電流I
1を平滑化して直流電流I
2を生成し、インバータ30に対して出力する。直流電流I
2の最大電圧は例えば550Vである。
【0025】
図4及び
図5に示すように、電源部10の制御部40は、第1導通期T1、第1不通期T2、第2導通期T3及び第2不通期T4を、この順に繰り返し実現する。
【0026】
第1導通期T1においては、制御部40は、スイッチング素子31及びスイッチング素子34を導通させ、スイッチング素子32及びスイッチング素子33を導通させない。これにより、負荷Lには
図4に実線の矢印V1で示す順方向の電圧が印加される。
【0027】
第1不通期T2においては、制御部40は、スイッチング素子31、32、33及び34を全て導通させない。このとき、スイッチング素子32のダイオード部分及びスイッチング素子33のダイオード部分にはリカバリー電流が流れるため、負荷Lには破線の矢印V2で示す逆方向の電圧が印加される。
【0028】
第2導通期T3においては、制御部40は、スイッチング素子32及びスイッチング素子33を導通させ、スイッチング素子31及びスイッチング素子34を導通させない。これにより、負荷Lには
図4に破線の矢印V2で示す逆方向の電圧が印加される。
【0029】
第2不通期T4においては、制御部40は、スイッチング素子31、32、33及び34を全て導通させない。このとき、スイッチング素子34のダイオード部分及びスイッチング素子31のダイオード部分にはリカバリー電流が流れるため、負荷Lには実線の矢印V1で示す順方向の電圧が印加される。
【0030】
このようにして、
図3に示すように、インバータ30は交流電流I
3を出力する。そして、制御部40が第1導通期T1、第1不通期T2、第2導通期T3及び第2不通期T4からなるサイクルの周期を切り替えることにより、
図6に示すように、電源部10は低周波電流と高周波電流を交互に出力する。低周波電流を出力する期間T11の長さと、高周波電流を出力する期間T12の長さは、それぞれ任意に制御することができる。例えば、期間T11の長さと期間T12の長さの比は、1:1としてもよい。この場合、期間T11の長さと期間T12の長さは、それぞれ、50ms(ミリ秒)としてもよい。
【0031】
図2に示すように、低周波の整合コンデンサ69と第1整合器60のインダクタンスによる共振回路により第1周波数が選択されることにより、電源部10から出力された低周波電流が第1整合器60を通過する。同様に、高周波の整合コンデンサ79と第2整合器70のインダクタンスによる共振回路により第2周波数が選択されることにより、電源部10から出力された高周波電流が第2整合器70を通過する。第1整合器60から出力された低周波電流及び第2整合器70から出力された高周波電流は、変成器80に入力される。変成器80は、入力された電圧及び電流を変換して、コイル90に対して出力する。
【0032】
これにより、コイル90は、ワーク200を誘導加熱する。このとき、コイル90には低周波電流及び高周波電流が供給されるため、ワーク200が複雑な形状であっても、焼入予定部分を均一に加熱することが可能である。例えば、ワーク200が歯車である場合、低周波電流によってワーク200の歯底を加熱し、高周波電流によってワーク200の歯先を加熱する。
【0033】
図1に示すように、高周波加熱装置101がワーク200の焼入予定部分をオーステナイト変態点よりも高い温度まで加熱した後、冷却装置102がワーク200を急冷する。これにより、ワーク200の焼入予定部分に焼入処理が施される。
【0034】
次に、電源部10が高周波電流を出力する方法について、より詳細に説明する。
図7は、横軸に時間をとり、縦軸に電源部の出力電圧及び出力電流をとって、本実施形態において電源部が高周波電流を出力する際の動作を示すタイミングチャートである。
図7においては、出力電圧を実線で表し、出力電流を破線で表す。
図7に示すように、出力電圧は方形波であり、出力電流は正弦波である。
【0035】
図7に示すように、電源部10が高周波電流を出力する際には、制御部40は、第1不通期T2の長さを、第1導通期T1から第1不通期T2に切り替えてからインバータ30の出力電流の極性が切り替わるまでの時間T5よりも長くする。すなわち、T2>T5となるようにする。また、制御部40は、第2不通期T4の長さを、第2導通期T3から第2不通期T4に切り替えてからインバータ30の出力電流の極性が切り替わるまでの時間T6よりも長くする。すなわち、T4>T6となるようにする。
【0036】
第1不通期T2の長さ及び第2不通期T4の長さは、制御部40の設定により調整可能である。時間T5の長さ及び時間T6の長さは、スイッチング素子31~34の動作周波数と二周波電源装置1の共振周波数とのずれ量を調整することにより、制御可能である。
【0037】
第1不通期T2の長さを時間T5よりも長くすることにより、高周波電流の出力期間T12の最後を第1導通期T1とした場合に、リカバリー電流によりスイッチング素子33及び34のダイオード部分が同時に導通して、アーム短絡が生じることを防止できる。同様に、リカバリー電流によりスイッチング素子31及び32のダイオード部分が同時に導通して、アーム短絡が生じることを防止できる。これにより、アーム短絡による高電位配線35から低電位配線36へのリーク電流を抑制でき、消費電力を低減することができる。また、高周波電流の出力期間T12の終了後にサージ電圧が発生することを抑制できる。この結果、サージ電圧によるスイッチング素子33及びスイッチング素子34の損傷を抑制できる。
【0038】
同様に、第2不通期T4の長さを時間T6よりも長くすることにより、高周波電流の出力期間T12の最後を第2導通期T3とした場合に、リカバリー電流によりスイッチング素子31及び32のダイオード部分が同時に導通して、アーム短絡が生じることを防止できる。同様に、リカバリー電流によりスイッチング素子33及び34のダイオード部分が同時に導通して、アーム短絡が生じることを防止できる。これにより、アーム短絡による高電位配線35から低電位配線36へのリーク電流を抑制でき、消費電力を低減することができる。また、高周波電流の出力期間T12の終了後にサージ電圧が発生することを抑制できる。この結果、サージ電圧によるスイッチング素子31及びスイッチング素子32の損傷を抑制できる。
【0039】
次に、比較例について説明する。
図8は、横軸に時間をとり、縦軸に電源部の出力電圧及び出力電流をとって、比較例において電源部が高周波電流を出力する際の動作を示すタイミングチャートである。
図8においては、出力電圧を実線で表し、出力電流を破線で表す。
図9は、横軸に時間をとり、縦軸に電源部の出力電圧をとって、本比較例における電源部の動作を模式的に示すタイミングチャートである。
【0040】
図8に示すように、本比較例においては、電源部が高周波電流を出力する際に、第1不通期T2の長さが、第1導通期T1から第1不通期T2に切り替えてからインバータの出力電流の極性が切り替わるまでの時間T5よりも短くなっている。すなわち、T2<T5となっている。また、第2不通期T4の長さが、第2導通期T3から第2不通期T4に切り替えてからインバータの出力電流の極性が切り替わるまでの時間T6よりも短くなっている。すなわち、T4<T6となっている。
【0041】
この場合は、
図9に示すように、高周波電流の出力期間T12の後、インバータにおいてアーム短絡が発生する。アーム短絡が生じるとリーク電流が発生し、消費電力が増加する。また、アーム短絡に伴いサージ電圧Vsが発生する。これにより、スイッチング素子が損傷する可能性がある。
【0042】
次に、本実施形態によりアーム短絡を防止できるメカニズムについて説明する。
なお、以下で説明するメカニズムは推定されたものであり、確定されたものではない。
図10~17は、本実施形態において推定される動作メカニズムを示す図である。
図18は、比較例において推定される動作メカニズムを示す図である。
【0043】
図3に示すように、コンバータ20はインバータ30に対して直流電流I
2を供給する。このとき、
図4に示すように、低電位配線36には低電位側電位が印加され、高電位配線35には低電位側電位よりも高い高電位側電位が印加される。低電位側電位は例えば接地電位である。
【0044】
図4及び
図5に示すように、第1導通期T1においては、制御部40がスイッチング素子31及びスイッチング素子34を導通させ、スイッチング素子32及びスイッチング素子33を導通させない。これにより、
図10に示すように、高電位配線35、スイッチング素子31のスイッチング部分、負荷L、スイッチング素子34のスイッチング部分、及び、低電位配線36からなる経路に、順方向の電流I
11が流れる。
【0045】
第1不通期T2になると、制御部40がスイッチング素子31~34を全て非導通とする。しかしながら、スイッチング素子のスイッチングによる出力電圧に対し、出力電流の位相が遅れているため、位相が遅れている分、出力電流が同じ方向に流れ続ける。
図11に示すように、第1不通期T2になったとき、出力電流I
12は、低電位配線36、スイッチング素子32のダイオード部分、負荷L、スイッチング素子33のダイオード部分、及び、高電位配線35からなる経路を流れる。これにより、負荷Lには破線の矢印V2で示す逆方向の電圧が印加される。制御部40が第1導通期T1から第1不通期T2に切り替えたときに、
図7に示す時間T5が開始される。
【0046】
図12に示すように、スイッチング素子32のダイオード部分32dにはp型部分32p及びn型部分32nが設けられている。同様に、スイッチング素子33のダイオード部分33dにはp型部分33p及びn型部分33nが設けられている。なお、
図12においては、正孔を記号「+」を円で囲んだ図形で表し、電子を記号「-」を円で囲んだ図形で表している。後述する
図13、
図16及び
図17についても同様である。
【0047】
出力電流I12が流れるときは、p型部分32pから正孔がn型部分32nに向かって流れ、n型部分32nから電子がp型部分32pに向かって流れる。このとき、正孔の一部と電子の一部はp型部分32pとn型部分32nとの界面付近で再結合して消滅するが、正孔の残部はn型部分32n内に進入し、電子の残部はp型部分32p内に進入する。スイッチング素子33のダイオード部分33dについても同様に、p型部分33pから正孔がn型部分33nに向かって流れ、n型部分33nから電子がp型部分33pに向かって流れる。そして、正孔の一部はn型部分33n内に進入し、電子の一部はp型部分33p内に進入する。
【0048】
そして、出力電流I
12がゼロクロスし、極性が切り替わった後、すなわち時間T5の経過後、
図15に示すようにスイッチング素子34のダイオード部分34d及びスイッチング素子31のダイオード部分31dに出力電流が流れるため、
図13に示すように、スイッチング素子32のダイオード部分32d及びスイッチング素子33のダイオード部分33dには、高電位配線35を正極とし低電位配線36を負極とした電圧が印加される。これにより、ダイオード部分32d及び33dにおいて、n型部分32n、33n内に進入した正孔が負極(低電位配線36側)に戻ろうとし、p型部分32p、33p内に進入した電子が正極(高電位配線35側)に戻ろうとする。この結果、スイッチング素子32のダイオード部分32d及びスイッチング素子33のダイオード部分33dには、逆方向のリカバリー電流I
13が流れる。
【0049】
なお、本実施形態においては実現していないが、仮に、ダイオード部分32d及びダイオード部分33dにおいて正孔及び電子の移動が終了すると、リカバリー電流I13が消滅し、ダイオード部分32d及び33dのp型部分とn型部分の界面を起点として空乏層が生成される。
【0050】
図13に示す状態の後、
図5に示すように、第2導通期T3に移行し、制御部40がスイッチング素子32及びスイッチング素子33を導通させる。スイッチング素子31及びスイッチング素子34は非導通のままである。これにより、
図14に示すように、高電位配線35、スイッチング素子33のスイッチング部分、負荷L、スイッチング素子32のスイッチング部分、及び、低電位配線36からなる経路に、逆方向の電流I
14が流れる。このとき、負荷Lには矢印V2で示す逆方向の電圧が印加される。
【0051】
第2不通期T4になると、制御部40がスイッチング素子31~34を全て非導通とする。しかしながら、スイッチング素子のスイッチングによる出力電圧に対し、出力電流の位相が遅れているため、位相が遅れている分、出力電流が同じ方向に流れ続ける。
図15に示すように、第2不通期T3になったとき、出力電流I
15は低電位配線36、スイッチング素子34のダイオード部分34d、負荷L、スイッチング素子31のダイオード部分31d、及び、高電位配線35からなる経路を流れる。これにより、負荷Lには矢印V1で示す順方向の電圧が印加される。第2導通期T3から第2不通期T4に切り替わったときに、
図7に示す時間T6が開始される。
【0052】
図16に示すように、出力電流I
15が流れるときは、出力電流I
12が流れるときと同様に、スイッチング素子31のダイオード部分31dのp型部分31pから正孔がn型部分31nに向かって流れ、n型部分31nから電子がp型部分31pに向かって流れる。このとき、正孔の一部はn型部分31n内に進入し、電子の一部はp型部分31p内に進入する。スイッチング素子34のダイオード部分34dにおいても同様に、p型部分34pから正孔がn型部分34nに向かって流れ、n型部分34nから電子がp型部分34pに向かって流れる。そして、正孔の一部はn型部分34n内に進入し、電子の一部はp型部分34p内に進入する。
【0053】
そして、出力電流I
15がゼロクロスし、極性が切り替わった後、すなわち時間T6の経過後、
図11に示すようにスイッチング素子32のダイオード部分32d及びスイッチング素子33のダイオード部分33dに出力電流が流れるため、
図17に示すように、スイッチング素子31のダイオード部分31d及びスイッチング素子34のダイオード部分34dには、高電位配線35を正極とし低電位配線36を負極とした電圧が印加される。これにより、ダイオード部分31d及び34dにおいて、n型部分31n、34n内に進入した正孔が負極(低電位配線36側)に戻ろうとし、p型部分31p、34p内に進入した電子が正極(高電位配線35側)に戻ろうとする。この結果、スイッチング素子31のダイオード部分31d及びスイッチング素子34のダイオード部分34dには、逆方向のリカバリー電流I
16が流れる。その後、第1導通期T1に戻る。制御部40は、上述の動作を繰り返し実行する。
【0054】
高周波電流の出力期間T12が終了するときは、最後の期間が第1導通期T1であれば、その後の第2不通期T2がそのまま維持され、第2導通期T3に移行しない。出力期間T12の最後の期間が第2導通期T3であれば、その後の第2不通期T4がそのまま維持され、第1導通期T1に移行しない。
【0055】
第1不通期T2が維持されると、
図11に示すように出力電流I
12がスイッチング素子32のダイオード部分32d及びスイッチング素子33のダイオード部分33dに流れるが、本実施形態においては、第2不通期T4を時間T6よりも長くしているため、スイッチング素子31のダイオード部分31d及びスイッチング素子34のダイオード部分34dが逆回復しており、リカバリー電流が流れない状態になっている。そのため、高電位配線35と低電位配線36の間でアーム短絡することがない。
【0056】
同様に、第2不通期T4が維持されると、
図15に示すように出力電流I
15がスイッチング素子34のダイオード部分34d及びスイッチング素子31のダイオード部分31dに流れるが、本実施形態においては、第1不通期T2を時間T5よりも長くしているため、スイッチング素子32のダイオード部分32d及びスイッチング素子33のダイオード部分33dが逆回復しており、リカバリー電流が流れない状態になっている。そのため、高電位配線35と低電位配線36の間でアーム短絡することがない。
【0057】
この結果、高周波電流の出力期間T12が終了したときに、出力電流の振動による高電位配線35と低電位配線36の間におけるアーム短絡がなく、リーク電流が生じない。このため、
図9に示すサージ電圧Vsが発生せず、スイッチング素子に損傷を及ぼすことがなくなる。
【0058】
これに対して、
図8に示す比較例においては、第1不通期T2が時間T5よりも短くなっている。このため、スイッチング素子32のダイオード部分32d及びスイッチング素子33のダイオード部分33dが逆回復が不十分のまま第2導通期T3に移行する。第2導通期T3においては、スイッチング素子32及び33のスイッチング部分が導通するため、ダイオード部分には電圧が印加されず、n型部分32n、33n内に進入した正孔はそのまま残留し、p型部分32p、33p内に進入した電子もそのまま残留する。
【0059】
同様に、比較例においては、第2不通期T4が時間T6よりも短くなっている。このため、スイッチング素子31のダイオード部分31d及びスイッチング素子34のダイオード部分34dが逆回復が不十分のまま第1導通期T1に移行する。第1導通期T1においては、スイッチング素子31及び34のスイッチング部分が導通するため、ダイオード部分には電圧が印加されず、n型部分31n、34n内に進入した正孔はそのまま残留し、p型部分31p、34p内に進入した電子もそのまま残留する。
【0060】
この結果、高周波電流の出力期間T12が終了した時点で、各スイッチング素子のダイオード部分のn型部分に多くの正孔が残留し、p型部分に多くの電子が残留している。このため、
図11に示すように出力電流I
12が流れた時に、スイッチング素子31のダイオード部分31dとスイッチング素子34のダイオード34dに高電位配線35を正極とし低電位配線36を負極とする電圧が印加されると、スイッチング素子31のダイオード部分31dとスイッチング素子34のダイオード34dが逆回復していないため、リカバリー電流が流れる。この結果、
図18に示すように、スイッチング素子31及びスイッチング素子32が導通してアーム短絡が発生したり、スイッチング素子33及びスイッチング素子34が導通してアーム短絡が発生する。アーム短絡が生じると、リーク電流が生じると共に、
図9に示すサージ電圧Vsが発生し、スイッチング素子に損傷を及ぼす可能性がある。
【0061】
前述の実施形態は、本発明を具現化した例であり、本発明はこの実施形態には限定されない。例えば、前述の実施形態において、いくつかの構成要素を追加、削除又は変更したものも本発明に含まれる。
【符号の説明】
【0062】
1:二周波電源装置
10:電源部
11、12:出力端子
20:コンバータ
30:インバータ
31、32、33、34:スイッチング素子
31d、32d、33d、34d:ダイオード部分
31n、32n、33n、34n:n型部分
31p、32p、33p、34p:p型部分
35:高電位配線
36:低電位配線
40:制御部
60:第1整合器
69:整合コンデンサ
70:第2整合器
79:整合コンデンサ
80:変成器
90:コイル
100:高周波焼入装置
101:高周波加熱装置
102:冷却装置
200:ワーク
I1:交流電流
I2:直流電流
I3:交流電流
I11:電流
I12:出力電流
I13:リカバリー電流
I14:電流
I15:出力電流
I16:リカバリー電流
L:負荷
T1:第1導通期
T2:第1不通期
T3:第2導通期
T4:第2不通期
T5、T6:時間
T11:低周波電流が出力される期間
T12:高周波電流が出力される期間
Vs:サージ電圧