(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023146447
(43)【公開日】2023-10-12
(54)【発明の名称】車輪の異常検知装置
(51)【国際特許分類】
G01M 17/013 20060101AFI20231004BHJP
B60C 23/06 20060101ALI20231004BHJP
G01M 17/02 20060101ALI20231004BHJP
【FI】
G01M17/013
B60C23/06 A
G01M17/02
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022053638
(22)【出願日】2022-03-29
(71)【出願人】
【識別番号】000183233
【氏名又は名称】住友ゴム工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100124039
【弁理士】
【氏名又は名称】立花 顕治
(74)【代理人】
【識別番号】100210251
【弁理士】
【氏名又は名称】大古場 ゆう子
(72)【発明者】
【氏名】徳田 一真
(57)【要約】
【課題】車輪の回転速度を表す信号に基づいて、適切に車輪に生じる異常を検知することができる異常検知装置を提供する。
【解決手段】異常検知装置は、信号取得部と、第1指標算出部と、スペクトル算出部と、標準化部と、第2指標算出部とを備える。信号取得部は、車輪の回転速度を表す信号を、立ち上がりを有するパルスとして取得する。第1指標算出部は、車輪の1回転に相当するパルスの各々について、立ち上がりの時間的ばらつきを表す第1指標を算出する。スペクトル算出部は、パルスの各々について算出された第1指標を周波数解析することにより、第1指標の1次からm次までの回転次数の周波数スペクトルを算出する。標準化部は、周波数スペクトルのゲインを、異常がない場合の回転次数ごとのゲインの平均値と標準偏差とを用いて標準化する。第2指標算出部は、標準化されたゲインに基づいて、異常の有無を判定するための第2指標を算出する。
【選択図】
図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
車輪に生じる異常を検知する異常検知装置であって、
前記車輪の回転速度を表す信号を、立ち上がりを有するパルスとして順次取得する信号取得部と、
前記車輪の1回転に相当する前記パルスの各々について、前記立ち上がりの時間的ばらつきを表す第1指標を算出する第1指標算出部と、
前記パルスの各々について算出された第1指標を周波数解析することにより、前記第1指標の1次からm次(ただし、m≧1)までの回転次数の周波数スペクトルを算出するスペクトル算出部と、
前記周波数スペクトルの前記回転次数ごとのゲインを、前記異常がない場合の前記回転次数ごとのゲインの平均値と標準偏差とを用いて標準化する標準化部と、
前記標準化されたゲインに基づいて、前記異常の有無を判定するための第2指標を算出する第2指標算出部と
を備える、
異常検知装置。
【請求項2】
前記異常は、前記車輪に含まれるタイヤに生じるピンチカットである、
請求項1に記載の異常検知装置。
【請求項3】
前記異常は、前記車輪に含まれるホイールを車軸に取り付け、固定する固定部材の緩みである、
請求項1または2に記載の異常検知装置。
【請求項4】
前記第2指標は、前記標準化されたゲインの1次からm次までの絶対値の総和及び平方和の少なくとも一方により算出される、
請求項1から3のいずれか1項に記載の異常検知装置。
【請求項5】
前記算出された第2指標に基づいて、前記異常の有無を判定する判定部
をさらに備える、
請求項1から4のいずれか1項に記載の異常検知装置。
【請求項6】
前記判定部は、前記異常が無い場合の前記第2指標が従う確率分布に基づいて、前記異常の有無を判定するための閾値を設定する、
請求項5に記載の異常検知装置。
【請求項7】
前記異常が有ると判定された場合に、警報を出力する警報出力部
をさらに備える、
請求項1から6のいずれか1項に記載の異常検知装置。
【請求項8】
前記車輪の回転速度を表す信号は、車両に装着される回転速度センサが出力する信号であり、
前記回転速度センサは、前記車輪の回転に応じて変化する磁界及び光の少なくとも一方を検出する、
請求項1から7のいずれか1項に記載の異常検知装置。
【請求項9】
車軸に取り付けられた車輪に生じる異常を検知する異常検知プログラムであって、
前記車輪の回転速度を表す信号を、立ち上がりを有するパルスとして順次取得することと、
前記車輪の1回転に相当する前記パルスの各々について、前記立ち上がりの時間的ばらつきを表す第1指標を算出することと、
前記パルスの各々について算出された第1指標を周波数解析することにより、前記第1指標の1次からm次(ただし、m≧1)までの回転次数の周波数スペクトルを算出することと、
前記周波数スペクトルの前記回転次数ごとのゲインを、前記異常がない場合の前記回転次数ごとのゲインの平均値と標準偏差とを用いて標準化することと、
前記標準化されたゲインに基づいて、前記異常の有無を判定するための第2指標を算出することと
をコンピュータに実行させる、
異常検知プログラム。
【請求項10】
コンピュータにより実行される、車軸に取り付けられた車輪に生じる異常を検知する異常検知方法であって、
前記車輪の回転速度を表す信号を、立ち上がりを有するパルスとして順次取得することと、
前記車輪の1回転に相当する前記パルスの各々について、前記立ち上がりの時間的ばらつきを表す第1指標を算出することと、
前記パルスの各々について算出された第1指標を周波数解析することにより、前記第1指標の1次からm次(ただし、m≧1)までの回転次数の周波数スペクトルを算出することと、
前記周波数スペクトルの前記回転次数ごとのゲインを、前記異常がない場合の前記回転次数ごとのゲインの平均値と標準偏差とを用いて標準化することと、
前記標準化されたゲインに基づいて、前記異常の有無を判定するための第2指標を算出することと
を含む、
異常検知方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車軸に取り付けられた車輪に生じる異常を検知する異常検知装置、異常検知方法及び異常検知プログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
車輪に生じる異常を早期に検知し、対策を講じられるようにすることは、車両の適切な走行を維持するために重要である。車輪に生じる異常としては、例えば車輪の僅かながたつきやタイヤに生じる損傷等が挙げられる。車輪のがたつきは、典型的にはホイールナットの緩みに起因する。ホイールナットが緩んだままで走行を続けると、緩みは次第に進行し、やがて車輪が脱落する事態に繋がりかねない。タイヤに生じる損傷には、例えばピンチカットが含まれる。ピンチカットは、タイヤが衝撃を受けて大きく変形した場合に、路面とホイールリムのフランジとの間にサイドウォール部が挟まれることにより、タイヤに含まれる強度部材に生じる損傷である。ピンチカットの程度が重度である場合は、タイヤが急激に減圧して走行不能となる。ピンチカットの程度が軽度である場合は、急激な減圧がなく、ドライバーがこれに気付かない場合がある。しかし、このようなピンチカットが生じた状態で走行を続けると、突然のパンクやバーストを引き起こす可能性がある。
【0003】
特許文献1は、車両のホイールの回転数を検出する回転数検出装置から出力されるパルスに基づき、ホイールをハブに固定するホイール取付け手段の緩みを検出するセンサユニットを開示する。回転数検出装置は、ホイールに取り付けられたマルチポーリングディスクと、ハブに取り付けられた磁界センサとを備える。マルチポーリングディスクは、例えば所定数Nのポール領域を備えた磁気エンコーダディスクである。マルチポーリングディスクがホイールとともに回転すると、磁界センサによりマルチポーリングディスクの回転位置に応じた磁界強度が検出される。磁界センサは、各ポール領域に対する個々のパルス持続時間を有する測定パルスを出力する。
【0004】
特許文献1によれば、通常、マルチポーリングディスクのポール領域にはピッチ誤差が生じるため、個々のパルス持続時間は車輪速に依存する平均パルス持続時間に対して同一ではなく、各ポール領域に対して固定されて設定される。ホイール取付け手段に緩みが生じると、個々のパルス持続時間に付加的な周期的な変化が生じる。この変化の周波数は、ホイール取付け手段の数が乗算された、対応するホイールの回転数の整数倍に相当する。
【0005】
特許文献1では、上記のことを利用して、ホイール取付け手段の緩みを検出する。より具体的には、1回のホイール回転にわたる上記周期的な変化の周波数スペクトルを算出し、ホイール取付け手段の数またはその整数倍のホイール周波数において、スペクトルの振幅が所定の閾値以上に達すると、ホイール取付け手段が緩んでいると判定する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
発明者の検討によれば、上記周波数スペクトルのホイール周波数において、振幅にどの程度の変化が生じるのかは、タイヤを含む車輪の種類や、車両の種類に依存する。このため、ホイール取付け手段の緩みが生じたとしても、常に特定のホイール周波数で振幅が所定の閾値以上になるとは限らない。スペクトルの振幅が減少する方向に変化する場合や、振幅の変化が僅かである場合には、ホイール取付け手段の緩みを適切に検知できない場合がある。なお、このことは、ホイール取付け手段の緩みを検出しようとする場合に限らず、同様の周波数スペクトルに基づいて、車輪のがたつきやタイヤの損傷を検知しようとする場合にもあてはまる。
【0008】
本発明は、車輪の回転速度を表す信号に基づいて、より適切に車輪に生じる異常を検知することができる異常検知装置、異常検知プログラム及び異常検知方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明のある側面に係る異常検知装置は、車輪に生じる異常を検知する異常検知装置であって、信号取得部と、第1指標算出部と、スペクトル算出部と、標準化部と、第2指標算出部とを備える。信号取得部は、前記車輪の回転速度を表す信号を、立ち上がりを有するパルスとして順次取得する。第1指標算出部は、前記車輪の1回転に相当する前記パルスの各々について、前記立ち上がりの時間的ばらつきを表す第1指標を算出する。スペクトル算出部は、前記パルスの各々について算出された第1指標を周波数解析することにより、前記第1指標の1次からm次(ただし、m≧1)までの回転次数の周波数スペクトルを算出する。標準化部は、前記周波数スペクトルの前記回転次数ごとのゲインを、前記異常がない場合の前記回転次数ごとのゲインの平均値と標準偏差とを用いて標準化する。第2指標算出部は、前記標準化されたゲインに基づいて、前記異常の有無を判定するための第2指標を算出する。
【0010】
上記異常検知装置において、前記異常は、前記車輪に含まれるタイヤに生じるピンチカットであってもよい。
【0011】
上記異常検知装置において、前記異常は、前記車輪に含まれるホイールを車軸に取り付け、固定する固定部材の緩みであってもよい。
【0012】
上記異常検知装置において、前記第2指標は、前記標準化されたゲインの1次からm次までの絶対値の総和及び平方和の少なくとも一方により算出されてもよい。
【0013】
上記異常検知装置は、前記算出された第2指標に基づいて、前記異常の有無を判定する判定部をさらに備えてもよい。
【0014】
上記異常検知装置において、前記判定部は、前記異常が無い場合の前記第2指標が従う確率分布に基づいて、前記異常の有無を判定するための閾値を設定してもよい。
【0015】
上記異常検知装置は、前記異常が有ると判定された場合に、警報を出力する警報出力部をさらに備えてもよい。
【0016】
上記異常検知装置において、前記車輪の回転速度を表す信号は、車両に装着される回転速度センサが出力する信号であってもよく、前記回転速度センサは、前記車輪の回転に応じて変化する磁界及び光の少なくとも一方を検出してもよい。
【0017】
本発明のある側面に係る異常検知方法は、コンピュータにより実行される、車輪に生じる異常を検知する異常検知方法であって、以下のことを含む。また、本発明のある側面に係る異常検知プログラムは、車輪に生じる異常を検知する異常検知プログラムであって、以下のことをコンピュータに実行させる。
・前記車輪の回転速度を表す信号を、立ち上がりを有するパルスとして順次取得することと
・前記車輪の1回転に相当する前記パルスの各々について、前記立ち上がりの時間的ばらつきを表す第1指標を算出すること
・前記パルスの各々について算出された第1指標を周波数解析することにより、前記第1指標の1次からm次(ただし、m≧1)までの回転次数の周波数スペクトルを算出すること
・前記周波数スペクトルの前記回転次数ごとのゲインを、前記異常がない場合の前記回転次数ごとのゲインの平均値と標準偏差とを用いて標準化すること
・前記標準化されたゲインに基づいて、前記異常の有無を判定するための第2指標を算出すること
【発明の効果】
【0018】
車輪のがたつきやタイヤの損傷を含む異常は、仮にドライバーが気付かない程度に軽度であったとしても、車輪の回転速度を表す信号の周波数成分に現れる。より具体的には、上記異常により、車輪の回転速度を表すパルスの立ち上がり時間のばらつきに、正常時とは異なる周波数成分を有する変動が生じる。本発明によれば、このばらつきの周波数スペクトルの回転次数に対するゲインが、正常時の周波数スペクトルの回転次数に対するゲインの平均値と標準偏差とを用いて標準化される。これにより、回転次数に対するゲインの変化に対する感度が向上し、これに基づいて算出される第2指標を用いて異常の有無の判定するため、より適切に異常を検知することができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【
図1】本発明の一実施形態に係る異常検知装置が車両に搭載された様子を示す模式図。
【
図2】異常検知装置の電気的構成を示すブロック図。
【
図5A】正常時に回転速度センサから取得されるパルスを説明する図。
【
図5B】異常時に回転速度センサから取得されるパルスを説明する図。
【
図6A】歯番号に対する第1指標のグラフ(RR輪)。
【
図6B】歯番号に対する第1指標のグラフ(RL輪)。
【
図7A】正常時と異常時とにおける第1指標の回転次数の周波数スペクトルのゲイン(RR輪)。
【
図7B】正常時と異常時とにおける第1指標の回転次数の周波数スペクトルのゲイン(RL輪)。
【
図8】発明者が行った実験により得られた第2指標のヒストグラム。
【
図9B】発明者が行った実験に用いられた角材の断面図。
【
図10】FR輪及びFL輪の時間に対する第2指標のグラフ。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、図面を参照しつつ、本発明の一実施形態に係る異常検知装置、異常検知プログラム及び異常検知方法について説明する。
【0021】
<1.概要>
図1は、本実施形態に係る異常検知システム1が車両に搭載された様子を示す模式図である。車両は、4輪車両であり、左前輪FL、右前輪FR、左後輪RL及び右後輪RRを備える。車両は、前車軸4aと後車軸4bとを備えており、車輪FL,FR,RL,RRは、前後車軸4a,4bの左右端に固定されたハブ40にそれぞれ取り付けられている。車輪FL,FR,RL,RRは、それぞれホイール7bと、これに組み付けられたタイヤ7aとを備えており、図示しない固定部材によりホイール7bがハブ40に取り付けられ、固定される。固定部材は、典型的にはネジ山を有する複数のホイールナットである。固定部材をハブ40側のハブボルト(不図示)と噛み合わせて適切にネジを締め付けることで、各車輪が各ハブに、それぞれのハブ40に対して緩みのない状態で固定される。
【0022】
異常検知システム1は、異常検知装置としての制御ユニット2と、車輪FL,FR,RL,RRの回転速度を表す情報を検出するセンサユニット3とを備える。制御ユニット2は、センサユニット3から出力される信号に基づいて、車輪FL,FR,RL,RRの少なくとも1つに生じる異常の有無を検知し、異常が検知された場合に、その旨を車両が備える表示器6を介してドライバーに警報する機能を備えている。
【0023】
車輪FL,FR,RL,RRに生じる異常としては、車輪のがたつきやこれに含まれるタイヤ7aの損傷のうち少なくとも一方が挙げられる。車輪のがたつきが生じる要因としては、ハブボルトの損傷、ホイールナットの損傷、及びホイールナットの緩み等が挙げられ、特に典型的なのはホイールナットの緩みである。ホイール7bがハブ40に正常に固定されている場合は、ホイールナット及びハブボルトに損傷がなく、ホイールナットとハブボルトとが適切なトルクで締め付けられている。ホイールナットとハブボルトとの間に緩みが生じると、ホイール7bとハブ40との間に機械的な遊びが生じて、車輪ががたついた状態となる。この状態で車両の走行を続けると、車輪に加わる振動により緩みが進行し、やがてホイールナットがハブボルトから外れ、車輪ごとハブ40から脱落する(脱輪)に至る可能性がある。このため、早期に車輪のがたつきを発見し、その要因を解消することが重要である。
【0024】
一方、タイヤ7aの損傷としては、走行中に生じるピンチカットが典型的である。ピンチカットは、路面の凹凸や障害物からの衝撃によりタイヤ7aが大きく変形して、ホイールリムのフランジと路面や障害物との間にサイドウォール部が挟まれる(ピンチングが起こる)ことにより起こる、タイヤ7aの内部にある強度部材の切断である。強度部材は、典型的には、タイヤ7a内部のカーカスを構成するカーカスコードである。カーカスコードの切断は修理不可能であり、タイヤの7aそのものの交換が必要となる。重度のピンチカットでは、ピンチングによりカーカスコードとともにゴムも切断され、タイヤ7aが急激に減圧し、車両が走行不能となる。
【0025】
一方、軽度のピンチカットでは、ゴムの切断までには至らず、空気圧が維持されるので、ドライバーがこれに気付きにくい。しかしながら、軽度のピンチカットであっても、走行を続けると、タイヤが突然パンクしたり、バースト(破裂)したりする可能性があるので、早期にこれを発見し、タイヤ7aを交換する必要がある。異常検知システム1では、程度によらずピンチカットの検知及び警報が可能であるが、ドライバーがより気付きにくい軽度のピンチカットを検知し、これを警報することがより重要となる。
【0026】
<2.異常検知システム>
図2は、異常検知システム1の電気的構成を示すブロック図である。以下、異常検知システム1の各要素について説明する。
【0027】
[制御ユニット]
制御ユニット2は、ハードウェアとしては車載用のコンピュータであり、I/Oインターフェース8、CPU(Central Processing Unit)9、ROM(Read Only Memory)10、RAM(Random Access Memory)11、及び不揮発性で書き換え可能な記憶装置12を備えている。I/Oインターフェース8は、センサユニット3及び表示器6等の外部装置との通信を行うための通信装置である。ROM10には、車両の各部の動作を制御するためのプログラム13が格納されている。プログラム13は、CD-ROM等の記憶媒体14からROM10へと書き込まれる。CPU9は、ROM10からプログラム13を読み出して実行することにより、仮想的に信号取得部20、第1指標算出部21、スペクトル算出部22、標準化部23、第2指標算出部24、判定部25及び警報出力部26として動作する。各部20~26の動作の詳細は、後述する。記憶装置12は、ハードディスクやフラッシュメモリ等で構成される。なお、プログラム13の格納場所は、ROM10ではなく、記憶装置12であってもよい。RAM11及び記憶装置12は、CPU9の演算に適宜使用される。
【0028】
[センサユニット]
センサユニット3は、車輪FL,FR,RL,RRとともに回転する4つの回転体31と、回転体31が変化させる物理量を連続的に検出し、検出信号を出力する4つのセンサ30とを備える。回転体31は、それぞれ各車輪の回転軸を中心として、各車輪とともに回転可能に取り付けられる限り、その取付位置は特に限定されない。センサ30は、それぞれ対応する回転体31の付近であって、車体の非回転部分に取り付けられる。各センサ30は、通信線5を介して制御ユニット2に接続される。
【0029】
回転体31は、これに限定されないが、本実施形態では磁性体により構成される歯車である。センサ30は、これに限定されないが、本実施形態では永久磁石及びコイルを内蔵する磁界センサであり、回転体31の側周面に対面するように車体に固定される。センサ30の永久磁石により生じる磁界は、回転体31が回転し、センサ30の前を歯が順次通過することにより変化し、コイルに誘導起電力を生じさせる。誘電起電力の波形は、回転体31の回転速度に比例した周波数の正弦波となる。この正弦波は、回転体31の歯数と同じ数の周期を有し、1周期が車輪の1回転に相当する。センサ30は、誘電起電力に基づく正弦波信号を、車輪の回転速度を表す信号として制御ユニット2にリアルタイムに出力する。
【0030】
[表示器]
表示器6は、少なくとも1つの車輪に異常が起きている旨をドライバーに伝えることができる限り、例えば、液晶表示素子、液晶モニター、プラズマディスプレイ、及び有機EL(Electro-Luminescence)ディスプレイ等、任意の態様で実現することができる。例えば、表示器6は、各車輪FL,FR,RL,RRにそれぞれに対応する4つのランプを、各輪の実際の配列に併せて配置したものとすることができる。表示器6の取り付け位置も、適宜選択することができるが、例えば、インストルメントパネル上等、ドライバーに分かりやすい位置に設けることが好ましい。制御ユニット2がカーナビゲーションシステムに接続される場合には、カーナビゲーション用のモニターを表示器6として使用することも可能である。警報は、アイコンや文字情報等の態様で表示器6に出力することができる。その他、警報は車両に搭載されているスピーカーを介して、音声や警報音の態様で出力されてもよい。
【0031】
<3.異常検知処理>
以下、本実施形態に係る異常検知システム1により実行される、車輪FL,FR,RL,RRの異常を検出するための異常検知方法について説明する。
図3及び
図4は、異常検知処理の流れを示すフローチャートである。以下の異常検知処理は、センサ30からの信号に基づいて異常の有無を判定するための基準値を算出し、制御ユニット2の記憶装置12に保存するまでの学習フェーズと、センサ30からの信号及び基準値に基づいて制御ユニット2が異常の有無を判定する異常検知フェーズとに大別される。
【0032】
学習フェーズは、例えばドライバーにより車両の初期化スイッチが操作されたときに行われ、一定の時間が経過するまでの間または車両が所定の距離を走行する間、繰り返し実行される。学習フェーズの処理は、例えば車両の整備点検後や新車時等、いずれの車輪にも異常が生じておらず、正常であると仮定されるタイミングや、タイヤの交換時等に開始することができる。学習フェーズが一度完了すると、異常検知フェーズに移行する。異常検知フェーズでは、走行中の車輪の異常の有無を判定する処理が繰り返し実行される。以下、各ステップについて説明する。
【0033】
図3のステップS1では、信号取得部20が、各車輪についてセンサ30から出力される正弦波信号を、立ち上がりを有するパルスとして順次取得する。信号取得部20は、正弦波信号を所定の周期でサンプリングすることにより、
図5Aのようなパルスに変換するとともに、各パルスについて通過時間t
iを算出する。通過時間t
iは、回転体31の歯番号iの歯(i)が、センサ30の前を通過する時間に相当する。この通過時間t
iは、例えばセンサ30に搭載されるクロックモジュールから供給される、「タイムスタンプ」と称される信号に基づいて計測することができる。
【0034】
ここで、回転体31の歯車のピッチは完全に均等ではなく、回転体31が1回転する間の各通過時間tiには、各歯のピッチに対応するばらつきが生じる(
図5A参照)。ステップS2では、第1指標算出部21が、車輪の1回転に相当する歯数N分のパルスの通過時間t
i(i=1,2,…,N)のそれぞれを、これらの平均通過時間t
meanに対して比較する比較値x
iを以下の式に従って算出する。
x
i=t
i/t
mean-1
【0035】
続くステップS3では、第1指標算出部21が、車輪の1回転にわたる比較値x
iを表す信号である
【数1】
を推定する(以下、同信号を「ハット付きのx
i(k)」とも称する)。これは、比較値x
iに含まれるノイズを低減し、比較値x
iをモデル化するステップであるとも言うことができ、推定方法は特に限定されないが、例えば以下の式に従うフィードバック処理により推定することができる。
【数2】
【数3】
【0036】
上記推定されたハット付きのxi(k)は、歯(i)について通過時間tiのばらつきを補正するための補正係数であり、車輪に異常がない状態では、各歯のピッチに対応する周波数成分を含む信号となる。つまり、上記推定されたハット付きのxi(k)は、信号取得部20により順次取得される車輪の1回転分のパルスの、立ち上がりの時間的なばらつきを表す第1指標の一例である。なお、第1指標は、車輪の1回転分のパルスの立ち上がりの時間的なばらつきを表す指標であれば、これに限定されない。
【0037】
ステップS4は、ステップS5~S7のループを含むステップである。ステップS4では、スペクトル算出部22が、周波数解析により推定されたハット付きのxi(k)の周波数スペクトルを導出し、これに基づいてゲインを算出するステップS5~S7を、1次からm次までの回転次数で繰り返す。これにより、ステップS4では1次からm次までの回転次数の周波数スペクトルのゲインが算出される。以下、1回目のループを例として、ステップS5~S7で実行される処理について説明する。
【0038】
1回目のループでは、1次の回転次数成分、つまり、車輪の1回転に対応して1周期を完了する成分についての解析が行われる。スペクトル算出部22は、まず車輪の1回転に相当するハット付きのxi(k)をバンドパスフィルタに通し、1次の回転次数付近の成分を抽出する(ステップS5)。
【0039】
ステップS6では、スペクトル算出部22が、ステップS5で抽出された回転次数成分に窓関数を適用する。この処理は、続くステップS7でゲインを算出するに先立ち、有限の区間を切り出すための処理である。適用する窓関数は特に限定されず、ハニング窓やハミング窓等、公知の窓関数を適用することができる。サイドローブの減衰が早いという観点からは、Blackman窓関数が好ましい。
【0040】
ステップS7では、スペクトル算出部22が、ステップS6で窓関数を乗算した信号について、1次の回転次数のゲインを算出する。スペクトル算出部22は、パーセバルの定理に基づき、時間軸の信号から1次の回転次数に対するゲインを特定する。ここで、1回目のループが終了し、2回目のループが開始する。
【0041】
2回目のループでは、2次の回転次数成分、つまり、車輪の1回転に対応して2周期を完了する成分についての解析が行われる。スペクトル算出部22は、ステップS5におけるバンドパスフィルタの周波数帯域を変更し、を2次の回転次数成分周辺の周波数帯域を通過させるバンドパスフィルタとする。すなわち、2回目のループにおけるステップS5では、ステップS3で推定された車輪の1回転に相当するハット付きのxi(k)から、2次の回転次数付近の成分が抽出される。その後は、1回目のループと同様の要領でステップS6~S7が実行される。
【0042】
以上のように、スペクトル算出部22は、ループ回数が1増えるごとにバンドパスフィルタの通過周波数帯域を変更しながら、車輪の1回転に対応してj周期を完了する成分についてステップS5~S7を繰り返す。これにより、ステップS4のループが全て完了すると、1次からm次までの回転次数に対するゲインGj(j=1,2,…,m)が算出される。スペクトル算出部22は、算出されたゲインGjをRAM11または記憶装置12に保存する。ステップS1~S7までの処理は、信号取得部20により順次取得される各車輪の1回転分の信号について繰り返される。つまり、各車輪の1回転分の信号が順次入力されるごとに、ゲインGj(j=1,2,…,m)が順次算出される。
【0043】
ここで、回転次数解析の最大次数mは特に限定されず、1以上の整数とすることができる。mは、異常検知の信頼性を向上させる観点では10以上であることが好ましい。本実施形態では、m=20である。
【0044】
図4を参照して、続くステップS8では、標準化部23により、異常の有無を判定するための第2指標を算出するための基準値が、すでに特定されて記憶装置12に保存されているか否か(学習済みであるか否か)が判定される(第2指標については、後述する)。本実施形態における基準値とは、ステップS4で算出されたゲインG
jの、各回転次数についての平均値G
jmean及び標準偏差s
jである。基準値が未だ特定されていない(NO)場合、処理はステップS9の学習ループに移行する。一方、基準値が既に特定されている(YES)場合、処理はステップS10の標準化ループに移行する。すなわち、ステップS1~S9が上述した学習フェーズに該当し、ステップS1~S13が上述した異常検知フェーズに該当する。
【0045】
ステップS9では、標準化部23が、ステップS4で順次算出されるゲインGjについて、回転次数ごとのゲインGjの平均値Gjmean及び標準偏差sjを算出し、記憶装置12にそれぞれ保存する。すなわち、ステップS9の学習ループでは、これまでにステップS4で算出されたゲインGjの平均値Gjmean及び標準偏差sjを算出し、保存する処理が、1次からm次までの回転次数について繰り返される。ステップS9が終了すると、再びステップS1~S3及びS5~S7のm回ループが実行され、これに続いて再度ステップS9のm回ループが実行され、記憶装置12に保存された平均値Gjmean及び標準偏差sjが更新される。ステップS1~S3、ステップS5~S7のm回ループ、及びステップS9のm回ループが所定の回数だけ、または所定の走行距離相当分繰り返されると、学習フェーズが完了し、異常検知フェーズへと移行する。異常検知フェーズでは、ステップS1~S3、ステップS5~S7のm回ループの後、ステップS10が実行される。
【0046】
ステップS10では、標準化部23が、ステップS4で得られたゲインGjを、記憶装置12に保存された平均値Gjmean及び標準偏差sjを用いて標準化した値Ejを算出する。この処理は、以下の式に従って行うことができる。
Ej=(Gj-Gjmean)/sj
【0047】
ステップS11では、第2指標算出部24が、異常の有無を判定するための第2指標Yを、以下の式に従って算出する。
【数4】
【0048】
ここで、第2指標Yを用いて異常の有無を判定することができる理由について説明する。上述したように、車両の回転速度を表す信号には、
図5Aに示すように、回転体31の歯(i)に固有のピッチに基づく通過時間t
iのばらつきが生じる。一方、車輪に異常が生じると、
図5Bに示すように通過時間t
iのばらつきが増加する。これは、車輪のがたつきやピンチカットに起因して、車輪の回転軸に対する重量バランスが崩れ、振動モードが通常時から変化することによるものと考えられる。尚、センサ30の検出した回転信号について、このセンサ30の回転信号に重畳する製造上のばらつき程度の微小な誤差成分を補正する処理を行うことも考えられるが、このような処理を含めた場合には、重量バランスの成分も補正されることになるため、車輪のがたつきやピンチカットに起因する成分まで補正されてしまう虞がある。そのため、このような回転信号に重畳する製造上のばらつき程度の微小な誤差成分を補正する処理は行わないことが好ましい。
【0049】
図6A及びBは、車輪のがたつきやピンチカットに起因して、振動モードが変化することを実験により確認したグラフである。実験では、車両(Honda Jade)に正常空気圧のタイヤ(205/60R16、TOYO TRAMPATH J62)を含む車輪を取り付け、車輪に異常がない場合(正常)及び1つの車輪のホイールナットが全て緩んだ場合(異常)のそれぞれについて、時速35km~45kmでテストコース(住友ゴム工業株式会社 岡山テストコース、周回路)を走行した。車輪の異常は、RR輪のホイールナットを全て緩め、正常状態よりも1mm外に突出させた状態とした。これらの場合について、歯番号に対する第1指標をプロットしたものが
図6A及び
図6Bであり、
図6AがRR輪のグラフ、
図6BがRL輪のグラフである。
図6A、すなわちRR輪の例では、異常時に第1指標の幅が上下に広がっており、異常時には全体として通過時間t
iのばらつきが大きくなっていることが確認される。一方、
図6B、すなわちRL輪の例では、正常時(点線)と異常時(実線)とで第1指標がほとんど変化せず、第1指標の顕著な変化は、異常が生じた車輪に生じることが確認される。
【0050】
図7A及びBは、それぞれ
図6A及びBの第1指標を回転次数解析した結果の回転次数(ここでは、m=24)に対するゲインのグラフであり、点線が正常時、実線が異常時のゲインを表す。
図7A(RR輪)の例では、回転次数によっては正常時よりも異常時でゲインが減少する場合や、両者でほとんど変化が見られない場合があり、回転次数に対するゲインの変化量がまちまちであることが確認される。このため、ゲインの値そのものを閾値と比較する方法では、正常と異常とを適切に峻別できないおそれがある。一方、
図7B(RL輪)の例では、正常時と異常時とでゲインの傾向がほとんど変化しないことが確認された。
【0051】
しかし、上述したように、回転次数に対するゲインGjを、平均値Gjmean及び標準偏差sjに基づいて標準化すると、各回転次数におけるゲインを平均が0で標準偏差が1の正規分布に従うデータとして扱うことができる。これにより、回転次数間による重みが揃えられ、各回転次数におけるゲインの変化を同じスケールで評価することが可能になる。
【0052】
より詳細には、学習フェーズで取得された平均値Gjmean及び標準偏差sjを基準値とし、車輪に異常がない場合に新たに取得されたゲインGjを基準値に基づいて標準化した場合、標準化された各次数のゲインEjは、基準値のデータと同様に平均が0で標準偏差が1の正規分布に従うと仮定できる。そして、ゲインEjの平方和である第2指標Yは、自由度mのχ二乗分布に従うと仮定できる。
【0053】
一方、車輪に異常が生じた場合に新たに取得されたゲインGjを基準値に基づいて標準化した場合、標準化された各次数のゲインEjは、上記正規分布の中心から外れる確率が高くなると考えられる。このため、第2指標Yは出現する確率が有意に低い値になる。従って、自由度mのχ二乗分布における有意水準を予め定めておけば、異常の有無を判定するための第2指標Yの警報閾値も自動的に定まる。本実施形態では、予め定められた有意水準と自由度に基づき、判定部25が警報閾値を予め設定する。
【0054】
再び
図4を参照して、ステップS12では、判定部25が、ステップS11で算出された第2指標Yと警報閾値とを比較し、異常の有無を判定する。この判定は、車輪FL,FR,RL,RRのそれぞれについて行われる。判定部25は、全ての車輪について第2指標Yが閾値未満(YES)である場合に、いずれの車輪にも異常がないと判定する。この場合、処理はステップS1に戻る。一方、閾値以上となる第2指標Yが1つまたは複数存在する(NO)場合に、判定部25は車輪に異常があると判定する。この場合、処理はステップS13に進む。
【0055】
ステップS13では、警報出力部26が、表示器6を介して警報を出力する。このとき、表示器6は、どの車輪に異常が発生しているかを区別して警報することもできるし、いずれかの車輪に異常が発生していることのみを示すように警報することもできる。警報は、例えばドライバーにホイールナットを点検するように促したり、タイヤ7aの交換を促したりするなど、発生していると考えられる車輪の異常について、具体的な対策を示す内容が含まれてもよい。
【0056】
<4.特徴>
上記実施形態に係る異常検知システム1によれば、異常が生じていない場合の回転次数ごとのゲインが標準化されるので、回転次数ごとにゲインの閾値を設定する必要がなく、簡易であるとともに車両及び車輪、特にタイヤの種類によらず適用が可能である。また、ゲインが減少する方向に変化した場合やゲインの変化が小さい場合でもこれを捉えることができ、単にゲインが閾値を超えた場合に異常が生じていると判定する場合や、ゲインの全回転次数の合計値が閾値を超えた場合に異常が生じていると判定する場合よりも、より高い精度で異常を検知することができる。
【0057】
上記実施形態に係る異常検知システム1によれば、標準化されたゲインEjの二乗累積和である第2指標Yに基づいて異常の有無が判定される。車輪に異常がないときの第2指標Yの分布は、自由度mのχ二乗分布に従う。これにより、自由度で決まる確率密度関数から異常の有無を判定するための閾値を決定することができ、様々な車両や車輪の条件で実験を行って閾値を設定する必要がなく、簡易である。
【0058】
<5.変形例>
以上、本発明の一実施形態について説明したが、本発明は上記実施形態に限定されるものではなく、その趣旨を逸脱しない限りにおいて、種々の変更が可能である。例えば、以下の変更が可能である。また、以下の変形例の要旨は、適宜組み合わせることができる。
【0059】
(1)
上記実施形態の車両は4輪車両であったが、車輪の数は特に限定されず、4輪未満であってもよいし、5輪以上であってもよい。上記実施形態に係る異常検知システム1が搭載される車両の種類も特に限定されず、乗用車や商用車等であってよい。
【0060】
(2)
上記実施形態では、センサユニット3は歯車、永久磁石及びコイルを備える電磁ピックアップ式のセンサユニットであった。しかし、センサユニット3は、車輪の回転速度に応じて変化する物理量を検出できるものである限り、特に限定されない。例えば、回転体31は、N極とS極とが所定のピッチでリング状に交互に配置された永久磁石であってもよく、センサ30は、磁界を検出するホール素子センサ、MR(Magneto Resistive)センサ、MI(Magneto-Impedance)センサ等であってもよい。また、例えばセンサユニット3は、物理量として光を検出する光学式のセンサユニットであってもよい。この場合、センサユニット3は、発光素子と、受光素子としてのセンサ30と、周方向に所定のピッチでスリットが形成されたディスク状の回転体31とを備えてもよい。
【0061】
(3)
上記実施形態では、回転速度を表す信号が制御ユニット2の側で立ち上がりを有するパルスに変換された。しかしながら、センサユニット3が立ち上がりを有するパルスを出力し、制御ユニット2の信号取得部20がこれを取得するように構成されてもよい。
【0062】
(4)
上記実施形態の異常検知処理は、あくまで一例であり、適宜変更することができる。例えば、ステップS3及びステップS6は、省略されてもよい。ステップS3を省略する場合、比較値xiを第1指標とすることができる。
【0063】
(5)
第2指標Yは、上記実施形態のようにEjの二乗和(平方和)に限られず、Ejの絶対値の総和とすることもできる。つまり、第2指標Yは、絶対値の総和及び平方和の少なくとも一方により算出されてよい。
【実施例0064】
以下、本発明の実施例について説明する。しかしながら、以下の実施例はあくまでも例示であり、本発明はこれに限定されるものではない。
【0065】
<実験1>
車両(Honda Jade)の各車軸に、適正サイズで正常空気圧のタイヤ(205/60R16、TOYO TRAMPATH J62)を装着した車輪を取り付け、テストコース(住友ゴム工業株式会社 岡山テストコース 周回路)を時速35km~45kmで走行し、様々な条件下で上記実施形態に係る異常検知方法を行って、第2指標の分布を調べた。条件は以下の通りである。
条件1 全ての車輪に異常がない正常状態
条件2 RR輪のホイールナットが全て緩み、正常状態よりも1mm外に突出した状態
【0066】
条件1及び条件2で算出された第2指標のヒストグラムは、
図8のようになった。
図8の横軸は10ごとの階級に分けた第2指標の値であり、縦軸は各階級の出現割合である。
図8のように、警報閾値(自由度20、有意水準0.01%でのt値=49.5)を境に、条件1(斜線の棒)と2(無地の棒)とで明確に第2指標の分布が区別されることが確認された。これにより、上記異常検知方法によりホイールナットの緩みを検知可能であることが確認された。
【0067】
<実験2>
車両(PSAセダン5008、4輪車両)の各車軸に、正常空気圧のタイヤ(CONTINENTAL CrossContact LX Sport)を装着した車輪をホイールナットの緩みがない状態で取り付け、テストコース(中国 CATARC)を走行した。
図9Aに示すように、テストコース上には長さ1m、幅12cm、高さ10cmの角材を車両の進行方向に対して45°となるように配置した。角材の断面図は
図9Bに示すとおりである。車両が約時速50kmで走行しているときにFR輪を角材に衝突させ、タイヤにピンチカットを生じさせ、このときのFR輪とFL輪について第2指標を算出した。
【0068】
算出された第2指標は、
図10のようになった。FR輪が角材と衝突した直後と思われる32秒から36秒にかけて、FR輪についての第2指標のみが顕著に増加した(なお、36秒以降のデータはリジェクトされており、第2指標の算出には使用されていない)。これにより、上記異常検知方法では、タイヤにピンチカットが生じたことが検知可能であることが確認された。