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  • 特開-天体望遠鏡 図1
  • 特開-天体望遠鏡 図2
  • 特開-天体望遠鏡 図3
  • 特開-天体望遠鏡 図4
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023014645
(43)【公開日】2023-01-31
(54)【発明の名称】天体望遠鏡
(51)【国際特許分類】
   G02B 23/00 20060101AFI20230124BHJP
【FI】
G02B23/00
【審査請求】未請求
【請求項の数】3
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021118712
(22)【出願日】2021-07-19
(71)【出願人】
【識別番号】000142894
【氏名又は名称】株式会社五藤光学研究所
(74)【代理人】
【識別番号】100081949
【弁理士】
【氏名又は名称】神保 欣正
(72)【発明者】
【氏名】笠原 誠
【テーマコード(参考)】
2H039
【Fターム(参考)】
2H039AA01
2H039AB57
2H039AC02
2H039AC04
(57)【要約】
【課題】 望遠鏡の視野へ目標天体を自動的に捕えるための鏡筒の回転駆動機構および駆動機構を制御する制御装置を有する天体望遠鏡において、望遠鏡制御装置に特別な機器を接続することなく、高精度な天体の導入や追尾のために使用者が行っていた様々な判断や操作を補助する。
【解決手段】 望遠鏡Tの運動と一体となって動くデジタル式のカメラ1を望遠鏡に取り付け、目標座標への視野の導入指示により望遠鏡を駆動するとともに、上記カメラにより望遠鏡が指向した方向の撮像を行なってその画像を解析することにより実際に天体望遠鏡の視野内に導入される指向座標を特定し、目標座標と指向座標の誤差を算出し、求める指向精度に達していない場合には目標座標への再導入動作を行い、精度よく目標座標へ望遠鏡を向ける。
【選択図】 図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
望遠鏡の視野へ目標天体を自動的に捕えるための望遠鏡の回転駆動機構および駆動機構を制御する制御装置を有する天体望遠鏡において、望遠鏡の運動と一体となって動くデジタル式のカメラを望遠鏡に取り付け、目標座標への視野の導入指示により望遠鏡を駆動するとともに、上記カメラにより望遠鏡が指向した方向の撮像を行なってその画像を解析することにより実際に望遠鏡の視野内に導入される指向座標を特定し、目標座標と指向座標の誤差を算出し、求める指向精度に達していない場合には目標座標への再導入動作を行い、精度よく目標座標へ望遠鏡を向けることを特徴とする天体望遠鏡。
【請求項2】
カメラの指向方向と望遠鏡の指向方向にズレがある場合に、あらかじめ基準となる天体を望遠鏡により導入し、その時のカメラによる撮影画像と比較することでカメラと望遠鏡のアライメントを行い、望遠鏡とカメラに指向方向のズレがあっても精度よく目標座標へ望遠鏡を向けることを可能とした請求項1記載の天体望遠鏡。
【請求項3】
目標座標へ望遠鏡を向けたのち、カメラによる撮影を繰り返し、検出される恒星像が撮影画像の一定の座標上に留まるように望遠鏡の駆動制御を自動で行う請求項1または2記載の天体望遠鏡。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本願発明は、天体望遠鏡に関し、より詳細には天体望遠鏡の視野へ目標天体を自動的に捕えるための鏡筒の回転駆動機構および駆動機構を制御する制御装置を有する天体望遠鏡に関する。
【背景技術】
【0002】
これまで、天体望遠鏡の制御装置は、目的座標が指定されたとき、基本的には機械的な精度に基づいて駆動量を算出し、その方向へ望遠鏡を指向させていた。また、天体の導入後、天体の日周運動に沿った正確な追尾が行えるように、機械的な精度を高めて精密な駆動を行えるようにしていた。
【0003】
【特許文献1】特開平8-292376
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、前記の方法では、求められる十分な精度を得ることができていなかった。
【0005】
その理由として、指向精度に関しては、機械精度だけでなく、大気の密度や地球そのものの一定ではない運動によって生じる許容できないズレが挙げられる。
【0006】
また、天体の追尾においても、機械的な精度を高めるだけでは達成することが困難な性能が求められ、また指向精度と同じように大気や地球そのものの運動に由来する誤差が影響することから、十分な精度での追尾が行えないでいた。
【0007】
もちろん、これまでも、これらの問題を解決するために、天体の撮影においては、望遠鏡を目標座標に向かせた後、使用者が望遠鏡に取り付けられたカメラを用いて画像を撮影し、得られた画像を天体データベースと照合することにより撮影された視野中心の座標を特定し、その座標を現在の望遠鏡の指向座標として、改めて目標座標への駆動を行わせる手続きを踏んでいた。このためには、望遠鏡駆動装置とは別に、コンピュータとカメラ、そして専用のカメラ制御ソフトウェアや座標計算を行うためのソフトウェアを用意し、必要なパラメータの設定を行い、多くの場合には観測のたびに望遠鏡制御装置等と接続しなければならなかった。
【0008】
また、天体の追尾においても、専用の撮影レンズを付けた小型カメラを望遠鏡に同架し、そのカメラと精密な追尾を実現する専用ソフトウェアを組み込んだコンピュータを接続、さらに望遠鏡制御装置と接続し、このカメラにより撮影した画像の恒星の位置の変化を検出し、それに基づいて駆動制御を行う指示を望遠鏡制御装置に送り、追尾精度を上げていた。この場合も、必要なパラメータの設定を行い、多くの場合には観測のたびに望遠鏡制御装置などと接続しなければならなかったし、別システムの起動、検出する恒星の選択などの一連の操作も、使用者によって少なくとも観測する天体が変わるたびに行う必要があった。特に高精度の追尾を行う場合には、その機能の適切なON/OFFが行われなければならず、例えば、望遠鏡を目標座標に向かせる時には、この動作はOFFにしておかなければならないなどの制約があり、使用者による適切な判断と操作が求められていた。
【0009】
一方,天体の観測では、暗闇での作業や夜遅く、時間の操作、あるいは極端な寒さの中での操作など、厳しい環境下での操作が求められることから、誤判断、誤操作などの可能性が非常に高い状況にあった。
【0010】
このため、誤判断、誤操作が発生すると、操作のやり直しや天体観測データ取得の失敗といったことにつながっていた。特にデータ取得の失敗は、対象が自然現象であることから、データ取得のやり直しがきかないものもあり大きな問題となる。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本願発明は、以上の従来技術の問題点に鑑みて創作されたものであり、天体望遠鏡の運動と一体となって動くデジタル式のカメラを望遠鏡に取り付け、望遠鏡制御装置の一部として組込むことで、望遠鏡制御装置に特別な機器を接続することなく、高精度な天体の導入や追尾のために使用者が行っていた様々な判断や操作を望遠鏡制御装置によって置き換えることで、誤判断あるいは誤操作といったことが起きないように使用者の判断を補助するものである。
【0012】
すなわち、本願発明の天体望遠鏡は望遠鏡の視野へ目標天体を自動的に捕えるための鏡筒の回転駆動機構および駆動機構を制御する制御装置を有する天体望遠鏡において、望遠鏡の運動と一体となって動くデジタル式のカメラを望遠鏡に取り付け、目標座標への視野の導入指示により望遠鏡を駆動するとともに、上記カメラにより望遠鏡が指向した方向の撮像を行なってその画像を解析することにより実際に天体望遠鏡の視野内に導入される指向座標を特定し、目標座標と指向座標の誤差を算出し、求める指向精度に達していない場合には目標座標への再導入動作を行い、精度よく目標座標へ望遠鏡を向けることを特徴とする。
【0013】
また、請求項2に記載の発明は前記の天体望遠鏡において、カメラの指向方向と望遠鏡の指向方向にズレがある場合に、あらかじめ基準となる天体を望遠鏡により導入し、その時のカメラによる撮影画像と比較することでカメラと望遠鏡のアライメントを行い、望遠鏡とカメラに指向方向のズレがあっても精度よく目標座標へ望遠鏡を向けることを可能としたことを特徴とする。
【0014】
また、請求項3に記載の発明は前記の天体望遠鏡において、目標座標へ望遠鏡を向けたのち、カメラによる撮影を繰り返し、検出される恒星像が撮影画像の一定の座標上に留まるように望遠鏡の駆動制御を自動で行うことを特徴とする。
【発明の効果】
【0015】
本願発明によれば、機械的な加工精度を高めることなく、また、使用者が天体望遠鏡制御装置に特別な装置を付加し、それらの操作や得られた情報から操作のための何等かの判断することなく、望遠鏡の追尾精度および天体の導入精度を大幅に高めることができる。これにより、使用者の誤操作や誤判断を著しく減らし、またそれらによる観測データの喪失を防ぐことができる。むろん、使用のたびに機器を取り付けたり調整を行う必要がなくなるから、実際の観測をより早く開始することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】本願発明の天体望遠鏡の一部省略斜視図。
図2】同上、制御システムのブロック図。
図3】同上、制御システムの異なる実施例のブロック図。
図4】同上、制御システムのフローチート。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
以下、本願発明の天体望遠鏡の具体的実施例を添付図面に基づいて説明する。図1は天体望遠鏡Tの鏡筒部分を省略した図、図2は制御システムのブロック図である。この天体望遠鏡Tは赤緯軸3および赤経軸4の回転駆動機構および駆動機構を制御する制御装置を有するものであり、赤緯軸3を駆動する赤緯軸モーター3A、赤緯軸4を駆動する赤経軸モーター4Aは天体望遠鏡制御装置2により制御され、カメラ1も同時にこの天体望遠鏡制御装置2により制御される。
【0018】
なお、図3に示すように、カメラ1とその関連する制御機能を別のカメラ制御ユニット1Bにまとめ、天体望遠鏡制御装置2との間を電気信号によって接続することで統合された制御装置として機能するようにしてもよい。もちろん、電気信号による接続ではなく電磁気信号による接続であってもよい。
【0019】
カメラ1はCCDなどの撮像素子1Aを有するデジタル式のものであり、望遠鏡の指向方向が分かるように赤緯軸3端に取り付けられている。その位置は、図1に示すように赤緯軸3端の望遠鏡側であることが望ましいが、逆側であってもよい。すでにこのような位置に小型カメラが取り付けられた架台も存在するが、本願発明のように統合化されたものではなく、外部のコンピュータなどと接続しコントロールされる必要があり、本発明とは全く異なるものである。
【0020】
本願発明の天体望遠鏡の制御システムの基本的な手順を図4のフローチャートに沿って説明する。
本願発明における天体望遠鏡制御装置は、電源が投入されると一般的な天体望遠鏡制御装置のように望遠鏡の駆動を開始して恒星を追尾する(手順S1、S2)。
さらに、組み込まれたカメラ1により撮像を行なってその画像を解析する(手順S3、S4)。
得られた画像に恒星像があるかを判別し、ない場合には恒星像が得られるまで撮像を繰り返す(手順S5)。
恒星像が得られたら、その位置を記憶し、引き続き撮影を繰り返しながら、初めの恒星像の位置を基準として像の位置のズレを検出し、補正量を算出して望遠鏡の駆動補正を行う(手順S3、S4)。
【0021】
以上において、この時得られた画像をもとにして、天体望遠鏡制御装置に内蔵する恒星データベース6と照合して、現在の望遠鏡の指向方向を決定してもよい。恒星データベースが天体望遠鏡制御装置に内蔵できない場合、インターネットNの接続が可能な天体望遠鏡制御装置であればインターネット上にある同様のデータベース7と照合を行ってもよい(図2参照)。
【0022】
望遠鏡の手動操作盤( 以下ハンドボックス5と呼ぶ) によって、操作が行われた場合には、望遠鏡の駆動補正を停止し、ハンドボックスの操作が完了した時点で改めて恒星像の検出を行い駆動の補正を再度開始する。ハンドボックス5の操作完了の識別は、恒星像の検出と駆動補正の再開には数百ミリ秒以上の遅れがあるので、単に操作ボタンが離された時点で完了とすればよい。
【0023】
次に使用者が目標天体の導入指示を行った場合、天体望遠鏡制御装置2による計算上の座標への指向完了後、恒星像の検出を行い、内蔵する恒星データベース6と照合して、現在の望遠鏡の指向方向を決定し、目標している指向方向との誤差を再計算し、その量により天体望遠鏡制御装置が駆動することで、より正確な目標とする指向方向へ望遠鏡を制御することができる。
【0024】
この時、再び撮影を行って指向方向を求め、目標との誤差を算出したとき、要求する指向精度が得られていない場合には、要求する指向精度に達するまで上記の処理を繰り返してもよい。一方、雲などの影響により撮影によって恒星像の検出ができなかったりした場合には、一定時間後に目標とする指向方向に向いたと判断しても良いし、使用者に指向方向が正確性に欠けている旨を知らせる表示や音によるフィードバックを行っても良い。以上の導入完了後、すでに述べたように、再び撮影を繰り返し駆動補正を行えばよい。
【符号の説明】
【0025】
T 天体望遠鏡
1 カメラ
1A 撮像素子
1B カメラ制御ユニット
2 天体望遠鏡制御装置
3 赤緯軸
3A 赤緯軸モーター
4 赤経軸
4A 赤経軸モーター
5 ハンドボックス
6 恒星データベース
7 恒星データベース
図1
図2
図3
図4