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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023146462
(43)【公開日】2023-10-12
(54)【発明の名称】RAFT重合用反応液
(51)【国際特許分類】
   C08F 293/00 20060101AFI20231004BHJP
【FI】
C08F293/00
【審査請求】有
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022053655
(22)【出願日】2022-03-29
(71)【出願人】
【識別番号】396021575
【氏名又は名称】テクノUMG株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100165179
【弁理士】
【氏名又は名称】田▲崎▼ 聡
(74)【代理人】
【識別番号】100152146
【弁理士】
【氏名又は名称】伏見 俊介
(74)【代理人】
【識別番号】100140774
【弁理士】
【氏名又は名称】大浪 一徳
(72)【発明者】
【氏名】岩永 崇
(72)【発明者】
【氏名】内藤 吉孝
【テーマコード(参考)】
4J026
【Fターム(参考)】
4J026HA06
4J026HA38
4J026HA48
4J026HB06
4J026HB08
4J026HB20
4J026HB32
4J026HB42
4J026HB45
4J026HB47
4J026HC11
4J026HC32
4J026HC42
4J026HC45
4J026HE01
4J026HE04
(57)【要約】
【課題】水系におけるRAFT重合に適したRAFT重合用反応液を提供する。
【解決手段】特定の化学式で表されるRAFT剤と、水と、水溶性無機塩基とを含み、さらに任意成分として重合開始剤を含んでいてもよい、RAFT重合用反応液であって、前記RAFT剤は酸基を有し、前記酸基は塩を形成しており、その塩を形成している酸基のモル数M1と、前記重合開始剤の塩を形成していてもよい酸基のモル数M2と、前記水溶性無機塩基のモル数M3との、M3/(M1+M2)で表されるモル比が、1.0~10である、RAFT重合用反応液。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
式(1)で表されるRAFT剤と、水と、水溶性無機塩基とを含み、さらに任意成分として重合開始剤を含んでいてもよい、RAFT重合用反応液であって、
前記RAFT剤が有する酸基のモル数M1と、前記重合開始剤が有していてもよい酸基のモル数M2と、前記水溶性無機塩基のモル数M3との、M3/(M1+M2)で表されるモル比が、1.0~10であり、
前記RAFT剤が有する酸基の少なくとも一部及び前記重合開始剤が有していてもよい酸基の少なくとも一部は、前記水溶性無機塩基のカチオン成分と塩を形成している、RAFT重合用反応液。
【化1】
[式(1)中、 R1は有機基を表し、前記有機基は-COH、-SOH及び-POHから選択される1種以上の酸基を有し、Zはアルキル基、アリール基、アリールアルキル基、アルキルチオ基、アリールチオ基、及びアリールアルキルチオ基から選択される有機基を表し、Zで表される前記有機基の一部は置換されていてもよい。]
【請求項2】
式(1)中、Zは置換されていてもよいアルキルチオ基である、請求項1に記載のRAFT重合用反応液。
【請求項3】
前記重合開始剤が水溶性の重合開始剤である、請求項1又は2に記載のRAFT重合用反応液。
【請求項4】
式(2)で表されるポリマー型RAFT剤と、水と、水溶性無機塩基とを含み、
前記ポリマー型RAFT剤が有する酸基の少なくとも一部は、前記水溶性無機塩基のカチオン成分と塩を形成している、RAFT重合用反応液。
【化2】
[式(2)中、 R1は有機基を表し、前記有機基は-COH、-SOH及び-POHから選択される1種以上の酸基を有し、Zはアルキル基、アリール基、アリールアルキル基、アルキルチオ基、アリールチオ基、及びアリールアルキルチオ基から選択される有機基を表し、Zで表される前記有機基の一部は置換されていてもよく、Xは任意のエチレン系不飽和モノマーの繰り返し単位を表し、nは1~1000の整数を表し、nが2以上の場合の複数のXは互いに同じでもよく、異なっていてもよい。]
【請求項5】
前記R1は前記Xに結合する炭素原子を有する有機基であり、前記有機基の前記炭素原子は三級である、請求項4に記載のRAFT重合用反応液。
【請求項6】
前記R1が結合する前記Xはメタクリル酸エステルであり、前記R1は前記Xに結合する炭素原子を有する有機基であり、前記有機基の前記炭素原子は四級であり、前記炭素原子にシアノ基が結合している、請求項4に記載のRAFT重合用反応液。
【請求項7】
式(3)で表される親水性共重合型RAFT剤と、水と、水溶性無機塩基とを含み、
前記親水性共重合型RAFT剤が有する酸基の少なくとも一部は、前記水溶性無機塩基のカチオン成分と塩を形成している、RAFT重合用反応液。
【化3】
[式(3)中、 R1は有機基を表し、前記有機基は-COH、-SOH及び-POHから選択される1種以上の酸基を有し、Zはアルキル基、アリール基、アリールアルキル基、アルキルチオ基、アリールチオ基、及びアリールアルキルチオ基から選択される有機基を表し、Zで表される前記有機基の一部は置換されていてもよく、Xは任意のエチレン系不飽和モノマーの繰り返し単位を表し、nは1~100の整数を表し、nが2以上の場合の複数のXは互いに同じでもよく、異なっていてもよく、Yは任意のエチレン系不飽和モノマーの繰り返し単位を表し、mは10~10000の整数を表し、複数のYは互いに同じでもよく、異なっていてもよく、(X)で表される重合鎖と、(Y)で表される重合鎖とは互いに異なる。]
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、RAFT重合用反応液に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、RAFT重合(Reversible Addition-Fragmentation Chain Transfer;可逆的な付加-開裂連鎖移動重合)が知られている。RAFT重合によれば、分子量分布の狭いポリマーが形成できるだけでなく、複数のブロックを有するブロック共重合体を容易に形成することができる。このようなRAFT重合に欠かすことのできないRAFT剤が種々提案されている(例えば特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特許第4405807号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
RAFT重合の本質はリビングラジカル重合である。他のラジカル重合は連鎖移動や停止反応で形成されたポリマーの末端部は重合しなくなり、重合活性種が死んでしまうが、RAFT重合では形成されたポリマーの末端部が死なず、モノマーを追加するとポリマーの末端部に続けて重合を継続させることができる。このように優れた反応機構を有するRAFT重合ではあるが、反応系の同じ相に、RAFT剤とモノマーと重合開始剤とが存在しなければならず。一般的なRAFT重合の反応系は、水相に疎水性のモノマーを油滴状に分散して乳化したエマルションの反応系であり、RAFT剤及び重合開始剤がモノマーと充分に混合することが重要である。つまり、水系のRAFT重合では乳化剤を併用することが多い。しかしながら、この混合は必ずしも効率的ではなく、反応時間が長くなったり、凝塊物、反応残渣が多くなったりする問題があった。
【0005】
本発明は、上記の問題を解決するべくRAFT剤に着目し、水系におけるRAFT重合に適したRAFT重合用反応液を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0006】
[1] 後述の式(1)で表されるRAFT剤と、水と、水溶性無機塩基とを含み、さらに任意成分として重合開始剤を含んでいてもよい、RAFT重合用反応液であって、前記RAFT剤が有する酸基のモル数M1と、前記重合開始剤が有していてもよい酸基のモル数M2と、前記水溶性無機塩基のモル数M3との、M3/(M1+M2)で表されるモル比が、1.0~10であり、前記RAFT剤が有する酸基の少なくとも一部及び前記重合開始剤が有していてもよい酸基の少なくとも一部は、前記水溶性無機塩基のカチオン成分と塩を形成している、RAFT重合用反応液。
[2] 前記式(1)中、Zは置換されていてもよいアルキルチオ基である、[1]に記載のRAFT重合用反応液。
[3] 前記重合開始剤が水溶性の重合開始剤である、[1]又は[2]に記載のRAFT重合用反応液。
[4] 後述の式(2)で表されるポリマー型RAFT剤と、水と、水溶性無機塩基とを含み、前記ポリマー型RAFT剤が有する酸基の少なくとも一部は、前記水溶性無機塩基のカチオン成分と塩を形成している、RAFT重合用反応液。
[5] 前記R1は前記Xに結合する炭素原子を有する有機基であり、前記有機基の前記炭素原子は三級である、[4]に記載のRAFT重合用反応液。
[6] 前記R1が結合する前記Xはメタクリル酸エステルであり、前記R1は前記Xに結合する炭素原子を有する有機基であり、前記有機基の前記炭素原子は四級であり、前記炭素原子にシアノ基が結合している、[4]に記載のRAFT重合用反応液。
[7] 後述の式(3)で表される親水性共重合型RAFT剤と、水と、水溶性無機塩基とを含み、前記親水性共重合型RAFT剤が有する酸基の少なくとも一部は、前記水溶性無機塩基のカチオン成分と塩を形成している、RAFT重合用反応液。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、RAFT剤が有する酸基に塩を形成させ、さらにその塩を形成した酸基のモル数M1と、反応液中の水溶性無機塩基のモル数M3と、重合開始剤が有し得る酸基のモル数M2との、M3/(M1+M2)で表される比を特定の範囲とすることにより、良好なRAFT重合を行うことができる。この際、水系のRAFT重合用反応液に別の乳化剤を添加することなく、各RAFT剤及びその反応生成物を水系の反応液中に充分に分散させることができる。
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下の用語の定義は、本明細書および特許請求の範囲にわたって適用される。
「(メタ)アクリレート」とは、アクリレートまたはメタクリレートを意味する。
「C1~C6」の表記は「炭素数1~6」の意味であり、その表記における「C」は炭素数を表す略語である。
数値範囲を示す「~」は、その前後に記載された数値を下限値および上限値として含むことを意味する。
【0009】
≪第一態様≫
本発明の第一態様は、式(1)で表されるRAFT剤と、水と、水溶性無機塩基とを含み、さらに任意成分として重合開始剤を含んでいてもよい、RAFT重合用反応液である。
【0010】
【化1】
[式(1)中、 R1は有機基を表し、前記有機基は-COH、-SOH及び-POHから選択される1種以上の酸基を有し、Zはアルキル基、アリール基、アリールアルキル基、アルキルチオ基、アリールチオ基、及びアリールアルキルチオ基から選択される有機基を表し、Zで表される前記有機基の一部は置換されていてもよい。]
【0011】
前記RAFT剤が有する酸基の少なくとも一部は塩を形成している。前記RAFT剤が分子中に1つの酸基を有する場合、本態様のRAFT重合用反応液に含まれる前記RAFT剤の酸基のモル数は、当該RAFT剤の分子のモル数と同じである。また、前記RAFT剤が分子中に有する酸基の数がm個である場合、本態様のRAFT重合用反応液に含まれるRAFT剤の酸基のモル数は、当該RAFT剤の分子のモル数×mで表される。
【0012】
任意成分である重合開始剤は酸基を有していてもよいし、有していなくてもよい。重合開始剤が酸基を有する場合、その酸基の少なくとも一部は塩を形成していてもよいし、形成していなくてもよいが、本発明の効果を充分に得る観点から塩を形成していることが好ましい。重合開始剤が有する酸基の種類としては、前記RAFT剤の酸基の例示と同様の酸基が挙げられる。重合開始剤が分子中に有する酸基の数がn個である場合、本態様のRAFT重合用反応液に含まれる重合開始剤の酸基のモル数は、当該重合開始剤の分子のモル数×nで表される。
【0013】
第一態様のRAFT重合用反応液において、前記RAFT剤が有する酸基のモル数M1と、前記重合開始剤が有していてもよい酸基のモル数M2と、前記水溶性無機塩基のモル数M3との、M3/(M1+M2)で表されるモル比は、1.0~10であり、1.5~7.0が好ましく、2.0~5.0がより好ましく、2.5~4.5がさらに好ましく、3.0~4.0が特に好ましい。
上記範囲の下限値以上であると、RAFT重合の反応時間を短縮でき、目的生成物の収率が高まり、凝塊物の量を低減でき、目的生成物の分子量分布を狭めることができる。
上記範囲の上限値以下であると、本態様のRAFT重合用反応液のpHが高くなり過ぎることを抑制し、目的生成物の体積平均粒子径(MV)を小さくすることができる。
【0014】
第一態様のRAFT重合用反応液に含まれる前記RAFT剤は1種でもよいし、2種以上でもよい。前記モル数M1は、全RAFT剤の酸基の合計のモル数である。
第一態様のRAFT重合用反応液に含まれる前記重合開始剤は1種でもよいし、2種以上でもよい。前記モル数M2は、全重合開始剤の酸基の合計のモル数である。
第一態様のRAFT重合用反応液に含まれる前記水溶性無機塩基は1種でもよいし、2種以上でもよい。前記モル数M3は、全無機塩基の合計のモル数である。
【0015】
前記RAFT剤が有する酸基は、-COH、-SOH及び-POHから選択される1種以上が好ましく、塩を形成して反応液のpHを調整することが容易である観点から、-COHがより好ましい。
【0016】
前記RAFT剤と前記重合開始剤の酸基がそれぞれ塩を形成する場合、酸基のアニオンとカウンターカチオンによって塩が形成される。カウンターカチオンは特に制限されないが、例えば、ナトリウム、カリウム等のアルカリ金属、マグネシウム、カルシウム等のアルカリ土類金属のカチオン等が挙げられる。カウンターカチオンは前記水溶性無機塩基に由来することが好ましい。
【0017】
前記水溶性無機塩基としては、例えば、アニオンとして水酸化物イオンを有する水酸化物が好ましい。具体的には、塩を形成したRAFT剤の界面活性効果を高める観点から、水酸化ナトリウム、水酸化カリウムが好ましい。
なお、水溶性無機塩基は、20℃の水100gに対して1g以上溶解する無機塩基である。
【0018】
前記Rで表される有機基は前記酸基を有するものであれば特に制限されず、任意の有機基が適用される。例えば、C1~C10の直鎖状又は分岐鎖状の1価のアルキル基を基本骨格として、前記アルキル基の任意の1つ以上の水素原子が前記酸基に置換された有機基が挙げられる。前記アルキル基を構成する任意の1つ以上のメチレン基は、-O-、-C(=O)O-、-OC(=O)-、-C(=O)NH-によって置換されていてもよい(ただし、酸素原子同士が結合する場合を除く)。
また、前記アルキル基の任意の1つ以上の水素原子は、-CNに置換されていてもよい。
【0019】
具体的なRとしては、例えば、-CHCOH、-CHCHCOH、-CH(CH)COH、-CH(COH)CHCOH、-C(CH)(CH)COH、-C(CN)(CH)CHCHCOH、-CH(CH)CONRが挙げられる。
前記R及びRはそれぞれ独立に、H、C1~C6アルキル基、C1~C6アルコキシ基、C6~C12アリール基、C7~C18アルキルアリール基、及びC6~C12ヘテロアリール基から選択される基である。ただし、前記R及びRが有する水素原子のうち少なくとも1つは-COH、-SOH及び-POHから選択される酸基によって置換されており、前記酸基は塩を形成している。前記R及びRは互いに同じでもよく、異なっていてもよい。
【0020】
本明細書において、「アリール基」の用語は、芳香族炭化水素から誘導された基、すなわち芳香族環を含む官能基又は置換基をいう。「ヘテロアリール基」の用語は、アリール基が有する炭素原子の1つ以上が炭素原子以外の原子(例えば窒素原子、酸素原子、硫黄原子)によって置換された基をいう。アリール基を構成する環は単環でもよいし、多環でもよい。各環は5員環又は6員環が好ましい。具体的な環としては、例えば、ベンゼン、ビフェニル、テルフェニル、クァテルフェニル、ナフタレン、テトラヒドロナフタレン、1-ベンジルナフタレン、アントラセン、ジヒドロアントラセン、ベンゾアントラセン、ジベンゾアントラセン、フェナントラセン、ペリレン、ピリジン、4-フェニルピリジン、3-フェニルピリジン、チオフェン、ベンゾチオフェン、ナフトチオフェン、チアントレン、フラン、ベンゾフラン、ピレン、イソベンゾフラン、クロメン、キサンテン、フェノキサチイン、ピロール、イミダゾール、ピラゾール、ピラジン、ピリミジン、ピリダジン、インドール、インドリジン、イソインドール、プリン、キノリン、イソキノリン、フタラジン、キノキサリン、キナゾリン、プテリジン、カルバゾール、カルボリン、フェナントリジン、アクリジン、フェナントロリン、フェナジン、イソチアゾール、イソオキサゾール、フェノキサジン等が挙げられる。
【0021】
本明細書において、「アリールアルキル基」の用語は、芳香族アルキル基を意味し、直鎖状アルキル基(例えばC1~C6)の末端の水素原子がアリール基によって置換された基が挙げられる。具体的には例えば、ベンジル、フェネチル、ジフェニルメチル、トリフェニルメチル、1-ナフチルメチル、2-ナフチルメチル、2、2-ジフェニルエチル、3-フェニルプロピル、4-フェニルブチル、5-フェニルペンチル等が挙げられる。
【0022】
前記Zで表される有機基は、アルキル基、アリール基、アリールアルキル基、アルキルチオ基、アリールチオ基、及びアリールアルキルチオ基から選択される有機基である。
【0023】
前記アルキル基として、例えばC1~C20の直鎖状、分岐鎖状及び環状アルキル基、並びにこれらを任意に組み合わせたアルキル基が挙げられる。式(1)において、Zが環状アルキル基である又は環状アルキル基を含む場合、環状アルキル基を構成する任意の1つ以上の炭素原子が窒素原子、酸素原子又は硫黄原子に置換されていてもよい(ただし、酸素原子同士が結合する場合を除く)。環状アルキル基の炭素原子のうち、式(1)のチオケトン基(>C=S)に結合する炭素原子が上記のヘテロ原子に置換されていてもよい。また、環状アルキル基を構成する任意の1つ以上のメチレン基(-CH-)がケトン基(>C=O)に置換されていてもよい。上記の環状アルキル基は5~8員環であることが好ましく、5又は6員環がより好ましい。
【0024】
前記アルキルチオ基は、スルフィド基(-S-)に前記アルキル基が結合した基である。
前記アリールチオ基は、スルフィド基にアリール基が結合した基である。
前記アリールアルキルチオ基は、スルフィド基にアリールアルキル基が結合した基である。
【0025】
式(1)のZは、水系における塩を形成したRAFT剤による界面活性効果の観点から、アルキルチオ基であることが好ましい。
【0026】
式(1)のZで表される前記有機基の一部は任意の基で置換されていてもよいし、置換されていなくてもよい。本明細書において、「任意に置換される」及び「任意の基で置換される」とは、有機基の一部(例えば水素原子、メチレン基、メチル基等)がアルキル、アルケニル、アルキニル、アリール、ハロ、ハロアルキル、ハロアルケニル、ハロアルキニル、ハロアリール、ヒドロキシ、アルコキシ、アルケニルオキシ、アリールオキシ、ベンジルオキシ、ハロアルコキシ、ハロアルケニルオキシ、アセチレノ、カルボキシミジル、ハロアリールオキシ、イソシアノ、シアノ、ホルミル、カルボキシル、ニトロ、ニトロアルキル、ニトロアルケニル、ニトロアルキニル、ニトロアリール、アルキルアミノ、ジアルキルアミノ、アルケニルアミノ、アルキニルアミノ、アリールアミノ、ジアリールアミノ、ベンジルアミノ、イミノ、アルキルイミン、アルケニルイミン、アルキニルイミノ、アリールイミノ、ベンジルイミノ、ジベンジルアミノ、アシル、アルケニルアシル、アルキニルアシル、アリールアシル、アシルアミノ、ジアシルアミノ、アシルオキシ、アルキルスルホニルオキシ、アリールスルフェニルオキシ、ヘテロシクリル、ヘテロシクロキシ、ヘテロシクラミノ、ハロヘテロシクリル、アルキルスルホニル、アリールスルホニル、アルキルスルフィニル、アリールスルフィニル、カルボアルコキシ、アルキルチオ、ベンジルチオ、アシルチオ、スルホンアミド、スルファニル、スルホ及びリンを含有する基、アルコキシシリル、シリル、アルキルシリル、アルキルアルコキシシリル、フェノキシシリル、アルキルフェノキシシリル、アルコキシフェノキシシリル、アリールフェノキシシリル、アロファニル、グアニジノ、ヒダントイル、ウレイド及びウレイレンから選択された1個以上の基で置換されることを意味する。
【0027】
本明細書において、「ハロゲン」及び「ハロ」の用語は、別に明記されていなければ、ヨウ素、臭素、塩素及びフッ素を指す。
【0028】
上記の定義において、単独にて又は「アルケニルオキシアルキル」、「アルキルチオ」、「アルキルアミノ」及び「ジアルキルアミノ」のような複合語にてのどちらかにて用いられる用語「アルキル」は、直鎖状、分枝状又は環状アルキル、好ましくはC1~20アルキル又はシクロアルキルを指す。直鎖状及び分枝状アルキルの例としては、メチル、エチル、プロピル、イソプロピル、ブチル、イソブチル、sec-ブチル、tert-ブチル、アミル、イソアミル、sec-アミル、1,2-ジメチルプロピル、1,1-ジメチルプロピル、ヘキシル、4-メチルペンチル、1-メチルペンチル、2-メチルペンチル、3-メチルペンチル、1,1-ジメチルブチル、2,2-ジメチルブチル、3,3-ジメチルブチル、1,2-ジメチルブチル、1,3-ジメチルブチル、1,2,2-トリメチルプロピル、1,1,2-トリメチルプロピル、ヘプチル、5-メトキシヘキシル、1-メチルヘキシル、2,2-ジメチルペンチル、3,3-ジメチルペンチル、4,4-ジメチルペンチル、1,2-ジメチルペンチル、1,3-ジメチルペンチル、1,4-ジメチルペンチル、1,2,3-トリメチルブチル、1,1,2-トリメチルブチル、1,1,3-トリメチルブチル、オクチル、6-メチルヘプチル、1-メチルヘプチル、1,1,3,3-テトラメチルブチル、ノニル、1-、2-、3-、4-、5-、6-又は7-メチルオクチル、1-、2-、3-、4-又は5-エチルヘプチル、1-、2-又は3-プロピルヘキシル、デシル、1-、2-、3-、4-、5-、6-、7-及び8-メチルノニル、1-、2-、3-、4-、5-又は6-エチルオクチル、1-、2-、3-又は4-プロピルヘプチル、ウンデシル、1-、2-、3-、4-、5-、6-、7-、8-又は9-メチルデシル、1-、2-、3-、4-、5-、6-又は7-エチルノニル、1-、2-、3-、4-又は5-プロピルオクチル、1-、2-又は3-ブチルヘプチル、1-ペンチルヘキシル、ドデシル、1-、2-、3-、4-、5-、6-、7-、8-、9-又は10-メチルウンデシル、1-、2-、3-、4-、5-、6-、7-又は8-エチルデシル、1-、2-、3-、4-、5-又は6-プロピルノニル、1-、2-、3-又は4-ブチルオクチル、1-2-ペンチルヘプチル等が挙げられる。環状アルキルの例としては、シクロプロピル、シクロブチル、シクロペンチル、シクロヘキシル、シクロヘプチル、シクロオクチル、シクロノニル、シクロデシル等のような単又は多環式アルキル基等が挙げられる。
【0029】
「アルコキシ」の用語は、直鎖状又は分枝状アルコキシ、好ましくはC1~20のアルコキシを指す。アルコキシの例としては、メトキシ、エトキシ、n-プロポキシ、イソプロポキシ及び種々のブトキシ異性体等が挙げられる。
【0030】
「アルケニル」の用語は、一、二又は多エチレン系不飽和の先に定義されたとおりのアルキル又はシクロアルキル基を含めて、直鎖状、分枝状又は環状アルケンから形成された基、好ましくはC2~20のアルケニルを指す。アルケニルの例としては、ビニル、アリル、1-メチルビニル、ブテニル、イソブテニル、3-メチル-2-ブテニル、1-ペンテニル、シクロペンテニル、1-メチル-シクロペンテニル、1-ヘキセニル、3-ヘキセニル、シクロヘキセニル、1-ヘプテニル、3-ヘプテニル、1-オクテニル、シクロオクテニル、1-ノネニル、2-ノネニル、3-ノネニル、1-デセニル、3-デセニル、1,3-ブタジエニル、1,4-ペンタジエニル、1,3-シクロペンタジエニル、1,3-ヘキサジエニル、1,4-ヘキサジエニル、1,3-シクロヘキサジエニル、1,4-シクロヘキサジエニル、1,3-シクロヘプタジエニル、1,3,5-シクロヘプタトリエニル及び1,3,5,7-シクロオクタテトラエニル等が挙げられる。
【0031】
「アルキニル」の用語は、先に定義されたとおりのアルキル及びシクロアルキル基と構造上同様なものを含めて、直鎖状、分枝状又は環状アルキンから形成された基、好ましくはC2~20のアルキニルを指す。アルキニルの例としては、エチニル、2-プロピニル及び2-又は3-ブチニル等が挙げられる。
【0032】
「アシルオキシ」、「アシルチオ」、「アシルアミノ」又は「ジアシルアミノ」のような複合語にて、又は単独にて「アシル」の用語は、カルバモイル基、脂肪族アシル基、及び芳香族環を含有するアシル基(芳香族アシルと称される) 又は複素環式環を含有するアシル基(複素環式アシルと称される)、好ましくはC1~20のアシルを指す。アシルの例としては、カルバモイル;ホルミル、アセチル、プロパノイル、ブタノイル、2-メチルプロパノイル、ペンタノイル、2,2-ジメチルプロパノイル、ヘキサノイル、ヘプタノイル、オクタノイル、ノナノイル、デカノイル、ウンデカノイル、ドデカノイル、トリデカノイル、テトラデカノイル、ペンタデカノイル、ヘキサデカノイル、ヘプタデカノイル、オクタデカノイル、ノナデカノイル及びイコサノイルのような直鎖状又は分枝状アルカノイル;メトキシカルボニル、エトキシカルボニル、t-ブトキシカルボニル、t-ペンチルオキシカルボニル及びヘプチルオキシカルボニルのようなアルコキシカルボニル;シクロプロピルカルボニル、シクロブチルカルボニル、シクロペンチルカルボニル及びシクロヘキシルカルボニルのようなシクロアルキルカルボニル;メチルスルホニル及びエチルスルホニルのようなアルキルスルホニル;メトキシスルホニル及びエトキシスルホニルのようなアルコキシスルホニル; ベンゾイル、トルオイル及びナフトイルのようなアロイル;フェニルアルカノイル(たとえば、フェニルアセチル、フェニルプロパノイル、フェニルブタノイル、フェニルイソブチリル、フェニルペンタノイル及びフェニルヘキサノイル)及びナフチルアルカノイル(たとえば、ナフチルアセチル、ナフチルプロパノイル及びナフチルブタノイル)のようなアラルカノイル;フェニルアルケノイル(たとえば、フェニルプロペノイル、フェニルブテノイル、フェニルメタクリロイル、フェニルペンテノイル及びフェニルヘキセノイル)及びナフチルアルケノイル(たとえば、ナフチルプロペノイル、ナフチルブテノイル及びナフチルペンテノイル)のようなアラルケノイル;フェニルアルコキシカルボニル(たとえば、ベンジルオキシカルボニル)のようなアラルコキシカルボニル;フェノキシカルボニル及びナフチルオキシカルボニルのようなアリールオキシカルボニル;フェノキシアセチル及びフェノキシプロピオニルのようなアリールオキシアルカノイル;フェニルカルバモイルのようなアリールカルバモイル;フェニルチオカルバモイルのようなアリールチオカルバモイル;フェニルグリオキシロイル及びナフチルグリオキシロイルのようなアリールグリオキシロイル;フェニルスルホニル及びナフチルスルホニルのようなアリールスルホニル;複素環式カルボニル;チエニルアセチル、チエニルプロパノイル、チエニルブタノイル、チエニルペンタノイル、チエニルヘキサノイル、チアゾリルアセチル、チアジアゾリルアセチル及びテトラゾリルアセチルのような複素環式アルカノイル;複素環式プロペノイル、複素環式ブテノイル、複素環式ペンテノイル及び複素環式ヘキセノイルのような複素環式アルケノイル;並びにチアゾリルグリオキシロイル及びチエニルグリオキシロイルのような複素環式グリオキシロイル等が挙げられる。
【0033】
第一態様のRAFT重合用反応液に含まれる前記RAFT剤として、公知のRAFT剤を適用することができる。ただし、公知のRAFT剤が有する酸基は塩を形成していないので、例えば水溶性無機塩基と反応させてRAFT剤が有する酸基の塩を形成することが好ましい。
【0034】
本明細書において単独にて又は「複素環式アルケノイル」、「ヘテロシクロキシ」(「ヘテロシクルオキシ」)若しくは「ハロヘテロシクリル」のような用語の一部として用いられる場合の「複素環式」、「ヘテロシクリル」及び「ヘテロシクル」の用語は、窒素原子、酸素原子及び硫黄原子から選択された1個又はそれ以上のヘテロ原子を含有しかつ任意に置換されていてもよい芳香族、擬似芳香族及び非芳香族環又は環系を指す。好ましくは、環又は環系は、3から20個の炭素原子を有する。環又は環系は、「ヘテロアリール」の定義に関連して上記に記載されたものから選択され得る。
【0035】
式(1)で表されるRAFT剤の好ましい例として次の化合物が挙げられる。
【化2】
【0036】
式(1a)~(1j)のRは有機基であり、それぞれ独立に前記Zと同様の有機基が例示される。式中、Mはそれぞれ独立に1価のカチオンを表す。カチオンの種類は特に制限されず、例えば、ナトリウム、カリウム等のアルカリ金属のカチオンが挙げられる。
【0037】
エチレン系不飽和モノマー対して、特に好ましいRAFT剤としては、例えば、式(1-1)で表される化合物が挙げられる。更に、メタクリル酸エステルに対して、特に好ましいRAFT剤としては、例えば式(1-2)で表される化合物が挙げられる。式中のMの定義は上記と同様である。
【0038】
【化3】
【0039】
【化4】
【0040】
第一態様のRAFT重合用反応液の任意成分である重合開始剤として、公知のラジカル重合開始剤を適用することができる。例えば、アゾ重合開始剤、光重合開始剤、無機過酸化物、有機過酸化物、有機過酸化物と遷移金属と還元剤とを組み合わせたレドックス系開始剤等が挙げられる。これらのうち、加熱により重合を開始できるアゾ重合開始剤、無機過酸化物、有機過酸化物、レドックス系開始剤が好ましい。これらは1種のみを用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
重合開始剤が酸基を有する場合は、例えば水溶性無機塩基と反応させて重合開始剤が有する酸基の塩を形成することが好ましい。
重合開始剤が有する酸基としては、例えば、-COH、-SOH及び-POHから選択される1種以上が挙げられる。なかでも、塩を形成して反応液のpHを調整することが容易である観点から、-COHが好ましい。
重合開始剤は水溶性であることが好ましい。水溶性重合開始剤は、20℃の水100gに対して1g以上溶解し得る重合開始剤である。
【0041】
具体的な重合開始剤としては、例えば、過硫酸カリウム、過硫酸ナトリウム、過硫酸アンモニウム、過酸化水素等の無機過酸化物、ベンゾイルパーオキサイド、イソブチリルパーオキサイド等の有機過酸化物、アゾビスイソブチロニトリル、4-メトキシ-アゾビスバレロニトリル、4,4’-アゾビス(4-シアノペンタン酸)等のアゾ化合物、有機過酸化物と硫酸第一鉄、キレート剤および還元剤を組み合わせたレドックス系開始剤、例えば、クメンヒドロペルオキシド、硫酸第一鉄、ピロリン酸ナトリウム、およびデキストロースからなるものや、t-ブチルハイドロペルオキシド、ナトリウムホルムアルデヒトスルホキシレート(ロンガリット)、硫酸第一鉄、およびエチレンジアミン四酢酸二ナトリウムを組み合わせたもの等が挙げられる。なかでも、本態様のRAFT剤用いたRAFT重合の反応性を高める観点から、4,4’-アゾビス(4-シアノペンタン酸)が好ましい。
【0042】
前記RAFT剤の塩を形成する調製液において、前記RAFT剤の含有量は、前記調製液の総質量に対して、例えば、0.001~10質量%が好ましく、0.01~7.0質量%がより好ましく、0.03~5.0質量%がさらに好ましい。これらの好適な範囲であると、RAFT剤の塩を形成する反応(けん化反応)が十分に進行し、けん化状態が安定したRAFT剤が得ることができる。
【0043】
第一態様のRAFT重合用反応液の使用前、すなわち重合性のモノマーを添加する前における前記RAFT剤の含有量は、使用前のRAFT重合用反応液の総質量に対して、例えば、0.001~0.50質量%が好ましく、0.01~0.20質量%がより好ましく、0.03~0.10質量%がさらに好ましい。これらの好適な範囲であると、反応液中のモノマーを充分にRAFT重合させ、分子量分布の狭いポリマーを短い反応時間で得ることができる。また、反応後の反応液に残る凝塊物の量を低減することができる。
【0044】
第一態様のRAFT重合用反応液の使用前、すなわち重合性のモノマーを添加する前における前記重合開始剤の含有量は、使用前のRAFT重合用反応液の総質量に対して、例えば、0.001~0.50質量%が好ましく、0.01~0.20質量%がより好ましく、0.03~0.10質量%がさらに好ましい。これらの好適な範囲であると、反応液中のモノマーを充分にRAFT重合させ、分子量分布の狭いポリマーを短い反応時間で得ることができる。また、反応後の反応液に残る凝塊物の量を低減することができる。
【0045】
第一態様のRAFT重合用反応液の使用前、すなわち重合性のモノマーを添加する前における水の含有量は、使用前のRAFT重合用反応液の総質量に対して、例えば、80質量%以上が好ましく、90質量%以上がより好ましく、95質量%以上がさらに好ましい。上限値の目安としては例えば99質量%以下が挙げられる。これらの好適な範囲であると、反応液にモノマーを添加して容易にRAFT重合を開始させることができる。
【0046】
第一態様のRAFT重合用反応液には、RAFT重合を阻害しない範囲において、水以外の分散媒、その他の添加剤が含まれていてもよいが、含まれていないことが好ましい。水以外の分散媒としては、例えば水と混和可能な有機溶剤(例えばアルコール)が挙げられる。その他の添加剤としては、例えば界面活性剤等が挙げられる。
なお、本態様のRAFT剤が有する酸基は塩を形成しているのでモノマーの反応性が良好である。このため、界面活性剤を使用せずとも良好にRAFT重合を行うことができる。
【0047】
<第一態様のRAFT重合用反応液の製造>
前記RAFT剤の塩を形成する調製は、温度20~100℃が好ましく、25~90℃がより好ましい。これらの好適な調製温度において、調製が完了するまでの時間の目安は、10~300分程度である。上記範囲内であれば、水に溶解または分散したRAFT剤調製液が得られる。
【0048】
第一様態のRAFT重合用反応液は、任意成分として重合開始剤を含んでもよい。重合開始剤はRAFT重合用反応液の調製時に添加してもよく、後述の重合性のモノマーとともに添加してもよく、別途調製してもよい。別途調製することが好ましく、調製温度は熱分解の重合開始剤であれば10時間半減期温度以下が好ましく、例えば20~60℃である。調製時間の目安は、5~300分程度である。上記範囲内であれば、水または上述したモノマーに溶解または分散した重合開始剤の調製液が得られる。
【0049】
第一態様のRAFT重合用反応液は、前記RAFT剤又はその溶液と、水と、前記水溶性無機塩基と、必要に応じて前記重合開始剤とを所望の割合で常法により配合して得られる。一例を説明すると、まず、前記RAFT剤と水と前記水溶性無機塩基とを配合して、前記RAFT剤が有する酸基の塩を形成した溶液(以下、けん化RAFT剤水溶液と称することがある。)を得る。次に、前記重合開始剤と水と前記水溶性無機塩基とを配合して、前記重合開始剤が有する酸基の塩を形成した溶液(以下、開始剤水溶液と称することがある。)を得る。最後に、けん化RAFT剤水溶液と開始剤水溶液とを混合することにより、上述のM3/(M1+M2)の比が所定の割合に調整された本態様のRAFT重合用反応液が得られる。
【0050】
<第一態様のRAFT重合用反応液の使用>
第一態様のRAFT重合用反応液に、重合性のモノマーを添加してRAFT重合させることにより、RAFT剤の作用によるリビングラジカル重合反応が起き、分子量分布(Mw/Mn)の狭いポリマーを短い反応時間で得ることができる。また、反応後の反応液に不純物として残る残渣(凝塊物)の量を低減することができる。
【0051】
前記モノマーとしては、ラジカル重合が可能なモノマーが好ましく、反応性が良好である観点から、エチレン系不飽和モノマーがより好ましい。エチレン系不飽和モノマーとしては、例えば、式(10)で表されるものが挙げられる。
【0052】
【化5】
【0053】
式(10)中、U及びWはそれぞれ独立に、-COH、-CO、-COR、-CSR、-CSOR、-COSR、-CONH、-CONHR、-CON(R)、水素、ハロゲン及び任意に置換されたC1~C4アルキル(置換基は独立して、ヒドロキシ、-COH、-CO、-COR、-CSR、-CSOR、-COSR、-CN、-CONH、-CONHR、-CON(R)、-OR、-SR、-OCR、-SCOR及び-OCSRから選択され得る。)から成る群から選択される。
【0054】
式(10)中、Vは、水素、-R2、-COH、-CO、-COR、-CSR、-CSOR、-COSR、-CONH、-CONHR、-CON(R)、-OR、-SR、-OCR、-SCOR及び-OCSRから成る群から選択される。
【0055】
式(10)のU、W及びVにおける前記Rは、任意に置換されたC1~C18アルキル、任意に置換されたC2~C18アルケニル、任意に置換されたアリール、任意に置換されたヘテロアリール、任意に置換されたカルボシクリル、任意に置換されたヘテロシクリル、任意に置換されたアラルキル、任意に置換されたヘテロアリールアルキル、任意に置換されたアルカリール、任意に置換されたアルキルヘテロアリール及びポリマー鎖から成る群から選択される。ここで置換基は独立して、アルキレンオキシジル(エポキシ)、ヒドロキシ、アルコキシ、アシル、アシルオキシ、ホルミル、アルキルカルボニル、カルボキシ、スルホン酸、アルコキシ-又はアリールオキシ-カルボニル、イソシアナト、シアノ、シリル、ハロ、アミノ(それらの塩及び誘導体を含めて)から成る群から選択される。好ましいポリマー鎖としては、ポリアルキレンオキシド、ポリアリーレンエーテル及びポリアルキレンエーテルが挙げられる。
【0056】
本明細書において、「カルボシクリル」の用語は、全ての環原子が炭素であり、かつ好ましくは3~12個の炭素原子を、より好ましくは3~10個の炭素原子を、さらに好ましくは3~8個の炭素原子を含む、任意の環システムを意味する。カルボシクリル基は飽和又は部分的に不飽和であってもよいが、芳香環は含まない。
本明細書において、「ヘテロシクリル」の用語は、カルボシクリル基の環を構成する1個以上の原子が、窒素、酸素、及び硫黄から選択されるヘテロ原子により置換されている基をいう。
本明細書において、「アラルキル」の用語は、アルキル基の任意の水素原子の1つ以上がアリール基によって置換された基をいう。
本明細書において、「アルカリール」の用語は、アリール基の任意の水素原子の1つ以上がアルキル基によって置換された基をいう。
【0057】
具体的なモノマーの例として、マレイン酸無水物、N-アルキルマレイミド、N-アリールマレイミド、ジアルキルフマレート及び環化重合性モノマー、アクリレートエステル、メタクリレートエステル、アクリル酸、メタクリル酸、スチレン、アクリルアミド、メタクリルアミド、アクリロニトリル、メタクリロニトリル、これらのモノマーの混合物、並びにこれらのモノマーと他のモノマーとの混合物等が挙げられる。コモノマーの選択は、それらの立体的及び電子的性質により適宜決定される。様々なモノマーの共重合性を決定する因子は、当該技術において十分に文献に記載されている。
【0058】
より具体的なモノマーの例として、メチルメタクリレート、エチルメタクリレート、プロピルメタクリレート(及びその全ての異性体)、ブチルメタクリレート(及びその全ての異性体)、2-エチルヘキシルメタクリレート、イソボルニルメタクリレート、メタクリル酸、ベンジルメタクリレート、フェニルメタクリレート、フェノキシエチルメタクリレート、メタクリロニトリル、アルファ-メチルスチレン、メチルアクリレート、エチルアクリレート、プロピルアクリレート(及びその全ての異性体)、ブチルアクリレート(及びその全ての異性体)、2-エチルヘキシルアクリレート、イソボルニルアクリレート、アクリル酸、ベンジルアクリレート、フェニルアクリレート、フェノキシエチルアクリレート、アクリロニトリル、スチレン、官能性のメタクリレート、アクリレート及びスチレンであってしかもグリシジルメタクリレート、2-ヒドロキシエチルメタクリレート、ヒドロキシプロピルメタクリレート(及びその全ての異性体)、ヒドロキシブチルメタクリレート(及びその全ての異性体)、N,N-ジメチルアミノエチルメタクリレート、N,N-ジエチルアミノエチルメタクリレート、トリエチレングリコールメタクリレート、イタコン酸無水物、イタコン酸、グリシジルアクリレート、2-ヒドロキシエチルアクリレート、ヒドロキシプロピルアクリレート(及びその全ての異性体)、ヒドロキシブチルアクリレート(及びその全ての異性体)、N,N-ジメチルアミノエチルアクリレート、N,N-ジエチルアミノエチルアクリレート、トリエチレングリコールアクリレート、メタクリルアミド、N-メチルアクリルアミド、N,N-ジメチルアクリルアミド、N-tert-ブチルメタクリルアミド、N-n-ブチルメタクリルアミド、N-メチロールメタクリルアミド、N-エチロールメタクリルアミド、N-tert-ブチルアクリルアミド、N-n-ブチルアクリルアミド、N-メチロールアクリルアミド、N-エチロールアクリルアミド、ビニル安息香酸(及びその全ての異性体)、ジエチルアミノスチレン(及びその全ての異性体)、アルファ-メチルビニル安息香酸(及びその全ての異性体)、ジエチルアミノアルファ-メチルスチレン(及びその全ての異性体)、p-ビニルベンゼンスルホン酸、p-ビニルベンゼンスルホン酸ナトリウム塩、トリメトキシシリルプロピルメタクリレート、トリエトキシシリルプロピルメタクリレート、トリブトキシシリルプロピルメタクリレート、ジメトキシメチルシリルプロピルメタクリレート、ジエトキシメチルシリルプロピルメタクリレート、ジブトキシメチルシリルプロピルメタクリレート、ジイソプロポキシメチルシリルプロピルメタクリレート、ジメトキシシリルプロピルメタクリレート、ジエトキシシリルプロピルメタクリレート、ジブトキシシリルプロピルメタクリレート、ジイソプロポキシシリルプロピルメタクリレート、トリメトキシシリルプロピルアクリレート、トリエトキシシリルプロピルアクリレート、トリブトキシシリルプロピルアクリレート、ジメトキシメチルシリルプロピルアクリレート、ジエトキシメチルシリルプロピルアクリレート、ジブトキシメチルシリルプロピルアクリレート、ジイソプロポキシメチルシリルプロピルアクリレート、ジメトキシシリルプロピルアクリレート、ジエトキシシリルプロピルアクリレート、ジブトキシシリルプロピルアクリレート、ジイソプロポキシシリルプロピルアクリレートから選択されたもの、ビニルアセテート、ビニルブチレート、ビニルベンゾエート、ビニルクロライド、ビニルフルオライド、ビニルブロマイド、マレイン酸無水物、N-フェニルマレイミド、N-ブチルマレイミド、N-ビニルピロリドン、N-ビニルカルバゾール、ブタジエン、エチレン及びクロロプレン等が挙げられる。これらは1種のみを用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0059】
第一態様のRAFT重合用反応液に添加する前記モノマーの量は、反応液中に含まれる前記RAFT剤の1質量部に対して、例えば、1~100質量部が好ましく、5~50質量部がより好ましく、10~25質量部がさらに好ましい。これらの好適な範囲であると、上述の効果をより一層得られる。
【0060】
第一態様のRAFT重合用反応液に前記モノマーを添加した後の反応液の総質量に対する水の含有量は、例えば、50質量%以上が好ましく、60質量%以上がより好ましい。
前記反応液中のRAFT重合におけるモノマー反応率を高め、RAFT重合により得られるポリマー(ポリマー型RAFT剤)の体積平均粒子径を小さくし、凝塊物の量を低減し、反応時間を短縮する観点からすると、水の含有量は多いほど好ましく、例えば、80質量%以上が好ましく、90質量%以上がより好ましく、95質量%以上がさらに好ましく、98質量%以上が特に好ましい。この場合の上限値の目安としては99.5質量%以下が挙げられる。
逆に、前記反応液中のRAFT重合により得られるポリマー(ポリマー型RAFT剤)の体積平均粒子径を大きくする観点からすると、水の含有量は少ないほど好ましく、例えば、97質量%以下が好ましく、92質量%以下がより好ましく、85質量%以下がさらに好ましく、75質量%以下が特に好ましい。この場合の下限値の目安としては50質量%が挙げられる。
【0061】
第一態様のRAFT重合用反応液を用いたRAFT反応における反応温度は、例えば60~100℃が好ましく、70~90℃がより好ましい。これらの好適な反応温度においてRAFT反応が完了するまでの反応時間の目安は200~1500分程度である。
【0062】
第一態様のRAFT重合用反応液を用いたRAFT反応におけるその他の反応条件は、従来のRAFT重合を参照して適宜設定される。
【0063】
第一態様のRAFT重合用反応液を用いたRAFT重合のさらなる詳細な例示は、後述の実施例1a~19a等に示す。
第一態様のRAFT重合用反応液を用いたRAFT重合後の反応液は、次に説明する本発明の第二態様のRAFT重合用反応液の一実施形態である。
第一態様のRAFT重合用反応液を用いたRAFT重合により、次に説明するポリマー型RAFT剤が得られる。
【0064】
≪第二態様≫
本発明の第二態様は、式(2)で表されるポリマー型RAFT剤と、水と、水溶性無機塩基とを含み、前記ポリマー型RAFT剤が有する酸基の少なくとも一部は、前記水溶性無機塩基のカチオン成分と塩を形成している、RAFT重合用反応液である。
【0065】
【化6】
[式(2)中、 R1は有機基を表し、前記有機基は-COH、-SOH及び-POHから選択される1種以上の酸基を有し、Zはアルキル基、アリール基、アリールアルキル基、アルキルチオ基、アリールチオ基、及びアリールアルキルチオ基から選択される有機基を表し、Zで表される前記有機基の一部は置換されていてもよく、Xは任意のエチレン系不飽和モノマーの繰り返し単位を表し、nは1~10000の整数を表し(凝塊物量を低減する観点で、1~200が好ましく、1~100がより好ましい。)、nが2以上の場合の複数のXは互いに同じでもよく、異なっていてもよい。]
【0066】
式(2)におけるR及びZの説明は第一態様の式(1)のR及びZの説明と同じであるので、ここで重複する説明は省略する。
【0067】
前記Xで表される任意のエチレン系不飽和モノマーとしては、上述した例が挙げられる。なかでも、ポリマー型RAFT剤を用いたRAFT重合が容易になることから、スチレン、アクリロニトリル、メチル(メタ)アクリレート、ブチル(メタ)アクリレート、又は(メタ)アクリル酸が好ましい。これらは1種のみを用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0068】
前記R1が結合する前記Xがエチレン系不飽和モノマーであり、RAFT剤由来の前記R1は前記Xに結合する炭素原子Aを有する有機基である場合、前記有機基の前記炭素原子Aは三級であることが好ましい。三級である場合、前記炭素原子Aの水素原子を置換した置換基は、炭素数1~6の直鎖又は分岐状のアルキル基であることが好ましく、炭素数1~3の直鎖状アルキル基であることがより好ましい。これらの好適な場合であると、ポリマー型RAFT剤を用いた次段のRAFT重合が容易になる。
【0069】
前記R1が結合する前記Xがメタクリル酸エステルであり、RAFT剤由来の前記R1は前記Xに結合する炭素原子Bを有する有機基である場合、前記有機基の前記炭素原子Bは四級であることが好ましい。四級である場合、前記炭素原子Bの水素原子を置換した2つの置換基は、それぞれ独立に炭素数1~6の直鎖又は分岐状のアルキル基であることが好ましく、炭素数1~3の直鎖状アルキル基であることがより好ましい。さらに、前記置換基を構成する前記アルキル基の水素原子の少なくとも1つがシアノ基で置換されていることが好ましい。特に好適な例として、前記炭素原子Bは、炭素数1~3のアルキル基と、シアノ基が結合した四級炭素原子である例が挙げられる。これらの好適な場合であると、ポリマー型RAFT剤を用いた次段のRAFT重合が容易になる。
【0070】
前記炭素原子A、前記炭素原子Bには、直接に又は連結基を介して、前記塩を形成した酸基が結合していることが好ましい。前記連結基としては、炭素数1~6の直鎖状又は分岐状のアルキレン基が挙げられる。前記アルキレン基を構成する任意のメチレン基は、-O-、-C(=O)O-、-OC(=O)-、-C(=O)NH-によって置換されていてもよい(ただし、酸素原子同士が結合する場合を除く)。
【0071】
前記nで表される繰り返し単位の数は、5以上が好ましく、10以上がより好ましく、20以上がさらに好ましく、30以上が特に好ましく、40以上が最も好ましい。ここで、繰り返し単位の数は、Xに該当する1種以上のモノマーの合計の繰り返し単位の数である。
nが上記下限値以上であると、重合した部位(X)がポリマーの一塊(ブロック)として機能を発現しうる。
【0072】
前記ポリマー型RAFT剤はRAFT重合用反応液中で粒子を形成しうる。その体積平均粒子径は、5~500nmが好ましく、7~100nmがより好ましく、10~50nmがさらに好ましい。これらの好適な範囲であると、ポリマー型RAFT剤の水中での分散性が高まり、反応時間を短縮するという利点が得られる。
【0073】
本態様のRAFT重合用反応液に含まれるポリマー型RAFT剤の体積平均粒子径(MV)は、日機装社製のNanotrac UPA-EX150を用いて、動的光散乱法(溶媒:水、温度25℃)による測定方法によって、ラテックスにおける重合体の体積基準の粒子径分布を測定し、粒子径分布から平均粒子径(体積平均粒子径)より求められる。
【0074】
前記ポリマー型RAFT剤のMw/Mnで表される分子量分布は狭いほど好ましく、2.0以下が好ましく、1.8以下がより好ましく、1.6以下がさらに好ましく、1.4以下が特に好ましく、1.2以下が最も好ましい。通常、分子量分布の下限値は1.0以上である。
【0075】
本態様のRAFT重合用反応液に含まれるポリマー型RAFT剤の分子量分布は、凝固剤として塩化カルシウムを用いて60~95℃でラテックスを凝析させ、脱水、洗浄、乾燥させ回収し、これをテトラヒドロフランに溶解し、GPCにより標準ポリスチレン換算のMw及びMnを求めることができる。
【0076】
第二態様のRAFT重合用反応液のpHは8~13であることが好ましい。pHはJIS Z8802:2011に規定された方法によって、25℃で測定された値である。本明細書において、pHは整数で表され、1の位まで有効である。つまり、測定値の小数第一位が四捨五入された値である。
第二態様のRAFT重合用反応液のpHは8~13が好ましく、10~13がより好ましく、11~13がさらに好ましく、12~13が特に好ましい。これらの好適な範囲であると、RAFT重合によって形成されるポリマーの分子量分布をより狭めることができる。
【0077】
第二態様のRAFT重合用反応液の使用前、すなわち重合性のモノマーを添加する前における前記ポリマー型RAFT剤の含有量は、使用前の第二態様のRAFT重合用反応液の総質量に対して、例えば、0.01~10.0質量%が好ましく、0.1~5.0質量%がより好ましく、0.5~3.0質量%がさらに好ましい。これらの好適な範囲であると、反応液中のモノマーを充分にRAFT重合させ、分子量分布の狭いポリマーを短い反応時間で得ることができる。また、反応後の反応液に残る凝塊物の量を低減することができる。
第二態様のRAFT重合用反応液に含まれる前記ポリマー型RAFT剤は1種でもよいし、2種以上でもよい。
【0078】
第二態様のRAFT重合用反応液の使用時に、重合開始剤を添加してもよい。重合開始剤の添加量としては、重合性のモノマーを添加する前の第二態様のRAFT重合用反応液の総質量に対して、例えば、0.01~0.1質量%とすることができる。ポリマー型RAFT剤の量と等モルになるように適宜設定することが好ましく、例えば、ポリマー型RAFT剤の100質量部に対して、重合開始剤を1~5質量部程度で添加することが安定なRAFT重合を実現する観点から好ましい。
第二態様のRAFT重合用反応液に添加する重合開始剤は1種でもよいし、2種以上でもよい。
【0079】
第二態様のRAFT重合用反応液の使用前、すなわち重合性のモノマーを添加する前における水の含有量は、使用前のRAFT重合用反応液の総質量に対して、例えば、80質量%以上が好ましく、90質量%以上がより好ましく、95質量%以上がさらに好ましい。上限値の目安としては例えば99質量%以下が挙げられる。これらの好適な範囲であると、反応液にモノマーを添加して容易にRAFT重合を開始させることができる。
【0080】
第二態様のRAFT重合用反応液には、RAFT重合を阻害しない範囲において、水以外の分散媒、その他の添加剤が含まれていてもよいが、含まれていないことが好ましい。水以外の分散媒としては、例えば水と混和可能な有機溶剤(例えばアルコール)が挙げられる。その他の添加剤としては、例えば界面活性剤等が挙げられる。
なお、本態様のポリマー型RAFT剤が有する酸基は塩を形成しているのでモノマーの反応性が良好である。このため、界面活性剤を使用せずとも良好にRAFT重合を行うことができる。
【0081】
<第二態様のRAFT重合用反応液の製造>
第二態様のRAFT重合用反応液は、第一態様のRAFT重合用反応液に重合性のモノマーを添加してRAFT重合させることにより得られる。具体的な方法は上述した。
【0082】
<第二態様のRAFT重合用反応液の使用>
第二態様のRAFT重合用反応液に、重合性のモノマーを1種以上添加してRAFT重合させることにより、水系においてポリマー型RAFT剤の作用によるリビングラジカル重合反応が起き、分子量分布の狭いポリマーを短い反応時間で得ることができる。また、反応後の反応液に不純物として残る残渣(凝塊物)の量を低減することができる。
【0083】
前記モノマーとしては、第一態様で例示したモノマーが挙げられる。前記ポリマー型RAFT剤を構成する前記Xで表されるエチレン系不飽和モノマーと異なる種類又は異なる配合のモノマーを使用することにより、式(2)の(X)で表されるブロックとは異なるブロックを備えたジブロック共重合体が得られる。
【0084】
第二態様のRAFT重合用反応液に添加する前記モノマーの量は、反応液中に含まれる前記ポリマー型RAFT剤の1質量部に対して、例えば、1~90質量部が好ましく、5~60質量部がより好ましく、9~30質量部がさらに好ましい。これらの好適な範囲であると、生成されるポリマーの分子量分布をより一層狭められる。
【0085】
第二態様のRAFT重合用反応液を用いたRAFT反応における反応温度は、例えば60~100℃が好ましく、70~90℃がより好ましい。これらの好適な反応温度においてRAFT反応が完了するまでの反応時間の目安は60~600分程度である。
【0086】
第二態様のRAFT重合用反応液を用いたRAFT反応におけるその他の反応条件は、従来のRAFT重合を参照して適宜設定される。
【0087】
第二態様のRAFT重合用反応液を用いたRAFT重合のさらなる詳細な例示は、後述の実施例1b~19b等に示す。
第二態様のRAFT重合用反応液を用いたRAFT重合後の反応液は、次に説明する本発明の第三態様のRAFT重合用反応液の一実施形態である。
第二態様のRAFT重合用反応液を用いたRAFT重合により、次に説明する親水性共重合型RAFT剤が得られる。
【0088】
≪第三態様≫
本発明の第三態様は、式(3)で表される親水性共重合型RAFT剤と、水と、水溶性無機塩基とを含む、RAFT重合用反応液である。
前記親水性共重合型RAFT剤が有する酸基の少なくとも一部は、前記水溶性無機塩基のカチオン成分と塩を形成している。
【0089】
【化7】
[式(3)中、 R1は有機基を表し、前記有機基は-COH、-SOH及び-POHから選択される1種以上の酸基を有し、Zはアルキル基、アリール基、アリールアルキル基、アルキルチオ基、アリールチオ基、及びアリールアルキルチオ基から選択される有機基を表し、Zで表される前記有機基の一部は置換されていてもよく、Xは任意のエチレン系不飽和モノマーの繰り返し単位を表し、nは1~100の整数を表し、nが2以上の場合の複数のXは互いに同じでもよく、異なっていてもよく、Yは任意のエチレン系不飽和モノマーの繰り返し単位を表し、mは10~10000の整数を表し、複数のYは互いに同じでもよく、異なっていてもよく、(X)で表される重合鎖と、(Y)で表される重合鎖とは互いに異なる。]
【0090】
式(3)におけるR及びZの説明は第一態様の式(1)のR及びZの説明と同じであるので、ここで重複する説明は省略する。
式(3)におけるX及びnの説明は第二態様の式(2)におけるX及びnの説明と同じであるので、ここで重複する説明は省略する。
【0091】
前記Yで表される任意のエチレン系不飽和モノマーとしては、上述した例が挙げられる。なかでも、親水性共重合型RAFT剤を用いたRAFT重合が容易になることから、スチレン、アクリロニトリル、ブチルアクリレート、又は(メタ)アクリル酸が好ましい。これらは1種のみを用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0092】
前記mで表される繰り返し単位の数は、50以上が好ましく、100以上がより好ましく、200以上がさらに好ましく、300以上が特に好ましく、400以上が最も好ましい。ここで、繰り返し単位の数は、Yに該当する1種以上のモノマーの合計の繰り返し単位の数である。
mが上記下限値以上であると、重合した部位(Y)がポリマーの一塊(ブロック)として機能を発現しうる。
【0093】
前記親水性共重合型RAFT剤はRAFT重合用反応液中で粒子を形成しうる。その体積平均粒子径は、10~500nmが好ましく、15~300nmがより好ましく、20~200nmがさらに好ましい。これらの好適な範囲であると、親水性共重合型RAFT剤の水中での分散性が高まり、反応時間を短縮するという利点が得られる。
【0094】
本態様のRAFT重合用反応液に含まれる親水性共重合型RAFT剤の体積平均粒子径(MV)は、体積平均粒子径(MV)は、日機装社製のNanotrac UPA-EX150を用いて、動的光散乱法(溶媒:水、温度25℃)による測定方法によって、ラテックスにおける重合体の体積基準の粒子径分布を測定し、粒子径分布から平均粒子径(体積平均粒子径)より求められる。
【0095】
前記親水性共重合型RAFT剤のMw/Mnで表される分子量分布は狭いほど好ましく、3.0以下が好ましく、2.5以下がより好ましく、2.0以下がさらに好ましく、1.8以下が特に好ましく、1.6以下が最も好ましい。通常、分子量分布の下限値は1.0以上である。
【0096】
本態様のRAFT重合用反応液に含まれる親水性共重合型RAFT剤の分子量分布は、凝固剤として塩化カルシウムを用いて60~95℃でラテックスを凝析させ、脱水、洗浄、乾燥させ回収し、これをテトラヒドロフランに溶解し、GPCにより標準ポリスチレン換算のMw及びMnを求めることができる。
【0097】
第三態様のRAFT重合用反応液のpHは8~13が好ましく、7~13がより好ましい。この範囲においてRAFT重合用反応液中の親水性共重合型RAFT剤の分散性がより向上する。pHの測定方法は上述した通りである。
【0098】
第三態様のRAFT重合用反応液の使用前、すなわち重合性のモノマーを添加する前における前記親水性共重合型RAFT剤の含有量は、使用前の第三態様のRAFT重合用反応液の総質量に対して、例えば、0.1~20.0質量%が好ましく、1.0~15.0質量%がより好ましく、5.0~10.0質量%がさらに好ましい。これらの好適な範囲であると、反応液中のモノマーを充分にRAFT重合させ、分子量分布の狭いポリマーを短い反応時間で得ることができる。また、反応後の反応液に残る凝塊物の量を低減することができる。
第三態様のRAFT重合用反応液に含まれる前記親水性共重合型RAFT剤は1種でもよいし、2種以上でもよい。
【0099】
第三態様のRAFT重合用反応液の使用時に、重合開始剤を添加してもよい。重合開始剤の添加量としては、重合性のモノマーを添加する前の第三態様のRAFT重合用反応液の総質量に対して、例えば、0.01~0.1質量%とすることができる。親水性共重合型RAFT剤の量に応じて適宜設定することができる。
第三態様のRAFT重合用反応液に添加する重合開始剤は1種でもよいし、2種以上でもよい。
【0100】
第三態様のRAFT重合用反応液の使用前、すなわち重合性のモノマーを添加する前における水の含有量は、使用前のRAFT重合用反応液の総質量に対して、例えば、60質量%以上が好ましく、70質量%以上がより好ましく、80質量%以上がさらに好ましい。上限値の目安としては例えば99質量%以下が挙げられる。これらの好適な範囲であると、反応液にモノマーを添加して容易にRAFT重合を開始させることができる。
【0101】
第三態様のRAFT重合用反応液には、RAFT重合を阻害しない範囲において、水以外の分散媒、その他の添加剤が含まれていてもよいし、含まれていなくてもよい。水以外の分散媒としては、例えば水と混和可能な有機溶剤(例えばアルコール)が挙げられる。その他の添加剤としては、例えば界面活性剤等が挙げられる。
なお、本態様の親水性共重合型RAFT剤が有する酸基は塩を形成しているのでモノマーの反応性が良好である。このため、界面活性剤を使用せずとも良好にRAFT重合を行うことができる。
【0102】
<第三態様のRAFT重合用反応液の製造>
第三態様のRAFT重合用反応液は、第二態様のRAFT重合用反応液に重合性のモノマーを添加してRAFT重合させることにより得られる。具体的な方法は上述した。
【0103】
<第三態様のRAFT重合用反応液の使用>
第三態様のRAFT重合用反応液に、重合性のモノマーを1種以上添加してRAFT重合させることにより、親水性共重合型RAFT剤の作用によるリビングラジカル重合反応が起き、分子量分布の狭いポリマーを短い反応時間で得ることができる。また、反応後の反応液に不純物として残る残渣(凝塊物)の量を低減することができる。同様に、得られたポリマー溶液をRAFT重合用反応液として、さらモノマーを重合させることで、任意の多段ブロック共重合体溶液を得ることができる。
【0104】
前記モノマーとしては、第一態様で例示したモノマーが挙げられる。前記親水性共重合型RAFT剤を構成する前記X,Yで表されるエチレン系不飽和モノマーと異なる種類又は異なる配合のモノマーを使用することにより、式(3)の(X)で表されるブロック、及び(Y)mとは異なるブロックを備えたトリブロック共重合体が得られる。
【0105】
第三態様のRAFT重合用反応液に添加する前記モノマーの量は、反応液中に含まれる前記親水性共重合型RAFT剤の1質量部に対して、例えば、1~90質量部が好ましく、3~60質量部がより好ましく、6~30質量部がさらに好ましい。これらの好適な範囲であると、生成されるポリマーの分子量分布をより一層狭められる。
【0106】
第三態様のRAFT重合用反応液を用いたRAFT反応における反応温度は、例えば60~100℃が好ましく、70~90℃がより好ましい。これらの好適な反応温度においてRAFT反応が完了するまでの反応時間の目安は60~600分程度である。
【0107】
第三態様のRAFT重合用反応液を用いたRAFT反応におけるその他の反応条件は、従来のRAFT重合を参照して適宜設定される。
【0108】
第三態様のRAFT重合用反応液を用いたRAFT重合のさらなる詳細な例示は、後述の実施例1c~19c等に示す。
【0109】
<RAFT重合用反応液からポリマーを回収する方法>
【0110】
第二様態、第三態様のRAFT重合用反応液及びこれらの使用後の反応液(以下、まとめて水性分散体ということがある。)から、必要に応じて、ブロック共重合体を回収することができる。
【0111】
水性分散体から、ブロック共重合体を回収する方法としては、(i)凝固剤を溶解させた熱水中にブロック共重合体の水性分散体を投入して、スラリー状態に凝析することによって回収する方法(湿式法)、(ii)加熱雰囲気中にブロック共重合体の水性分散体を噴霧することにより、半直接的にブロック共重合体を回収する方法(スプレードライ法)等が挙げられる。
【0112】
凝固剤としては、硫酸、塩酸、リン酸、硝酸等の無機酸、塩化カルシウム、酢酸カルシウム、硫酸アルミニウム等の金属塩等が挙げられる。凝固剤は、重合で用いた乳化剤に対応させて選定される。すなわち、脂肪酸石鹸、ロジン酸石鹸等のカルボン酸石鹸のみを用いた場合、どのような凝固剤を用いてもよい。ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム等の酸性領域でも安定な乳化力を示す乳化剤が含まれている場合、金属塩を用いる必要がある。
【0113】
スラリー状態のブロック共重合体から乾燥状態のブロック共重合体を得る方法としては、(i)洗浄によって、スラリーに残存する乳化剤残渣を水中に溶出させた後に、該スラリーを遠心脱水機またはプレス脱水機で脱水し、さらに気流乾燥機等で乾燥する方法、(ii)圧搾脱水機、押出機等で脱水と乾燥とを同時に実施する方法等が挙げられる。この乾燥後、ブロック共重合体は、粉体または粒子状で得られる。また、圧搾脱水機または押出機から排出されたブロック共重合体を直接、熱可塑性樹脂組成物を製造する押出機または成形機に送ることもできる。
【0114】
≪熱可塑性樹脂組成物≫
第一態様~第三態様のRAFT重合用反応液を用いて上述のようにRAFT重合して得られたポリマーは、構成する各ブロックの特性を反映した熱可塑性樹脂であり得る。この熱可塑性樹脂に、他の任意成分を必要に応じて添加し、熱可塑性樹脂組成物とすることもできる。
他の任意成分としては、公知の熱可塑性樹脂組成物に配合され得る成分が挙げられ、例えば、金属成分、前記ポリマー以外の他の熱可塑性樹脂、添加剤等が挙げられる。
【0115】
金属成分としては、例えば、ナトリウム、カリウム等のアルカリ金属が挙げられる。
他の熱可塑性樹脂としては、例えば、ポリカーボネート、ポリブチレンテレフタレート(PBT)、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリ塩化ビニル、ポリスチレン、ポリアセタール、変性ポリフェニレンエーテル(変性PPE)、エチレン-酢酸ビニル共重合体、ポリアリレート、液晶ポリエステル、ポリエチレン、ポリプロピレン、フッ素樹脂、ポリアミド(ナイロン)等が挙げられる。
添加剤としては、例えば、酸化防止剤、滑剤、加工助剤、顔料、染料、充填剤、シリコーンオイル、パラフィンオイル等が挙げられる。
【0116】
<熱可塑性樹脂組成物の製造方法>
熱可塑性樹脂組成物の製造方法は特に限定されず、例えば、RAFT重合で得た熱可塑性樹脂と、必要に応じて他の任意成分とを、V型ブレンダやヘンシェルミキサー等により混合分散させ、これにより得られた混合物をスクリュー式押出機、バンバリーミキサ、加圧ニーダ、ミキシングロール等の溶融混練機等を用いて溶融混練することにより熱可塑性樹脂組成物が得られる。溶融混練後に、必要に応じてペレタイザー等を用いて、溶融混練物をペレット化してもよい。
【0117】
≪成形品≫
本明細書において、「成形品」の用語は、熱可塑性樹脂組成物を成形してなるものを意味する。
前記熱可塑性樹脂組成物を公知の成形方法によって成形加工することにより成形品が得られる。成形方法としては、例えば、射出成形法、プレス成形法、押出成形法、真空成形法、ブロー成形法等が挙げられる。
成形品の用途としては、車輌内外装部品、事務機器、家電、建材等が挙げられる。
【実施例0118】
<粒子径に着目した実験系>
[実施例1a]
撹拌機、温度計、窒素ガス導入管、滴下ロート、および還流冷却器を備えた容器に水138質量部を入れ、水酸化カリウム3.3質量部を溶解させ、2-{[(ドデシルスルファニル)カルボノチオイル]スルファニル}プロパン酸6質量部(BRON MOLECULAR社製、型番:BM1430)を添加し、窒素置換後に60℃に保温しながら1時間攪拌した。これにより、BM1430のカルボキシ基を水酸化カリウムで処理したけん化RAFT剤(下記式Q)水溶液を得た。この反応液において、塩基である水酸化カリウムと酸であるBM1430のモル比(塩基/酸基)は3.4であった。ここで、BM1430は分子中に1つのカルボキシ基を有するので、前記モル比を産出する際の酸基のモル数はBM1430のモル数に等しい。
【0119】
撹拌機、温度計、窒素ガス導入管、滴下ロート、および還流冷却器を備えた容器に水200質量部を入れ、水酸化カリウム6.7質量部を溶解させ、4,4’-アゾビス(4-シアノペンタン酸)5質量部(富士フィルム和光純薬株式会社製、型番:V-501)を添加し、窒素置換後に室温で60分間撹拌した。これにより、V-501のカルボキシ基を水酸化カリウムで処理した開始剤水溶液を得た。この反応液において、塩基である水酸化カリウムと酸であるV-501のモル比(塩基/酸基)はけん化RAFT剤水溶液と同じ3.4とした。ここで、V-501は分子中に2つのカルボキシ基を有するので、前記モル比を算出する際の酸基のモル数はV-501のモル数の2倍である。
【0120】
【化8】
【0121】
次に、撹拌機、温度計、窒素ガス導入管、滴下ロート、および還流冷却器を備えた反応器に水9662質量部を入れ、上記のけん化RAFT剤水溶液147.3質量部、開始剤水溶液211.7質量部、スチレン(ST)100質量部を添加して攪拌し、窒素置換した。反応開始直前の反応液の総質量に対する溶質の質量(溶液濃度)は1.20質量%であった。その後、80℃に加温しながら攪拌し、30分の間隔でサンプリングを行い、固形分量(不揮発性成分)の変化が無くなった時点で反応完了とし、結果として、300分間反応させ、下記式Xで表されるポリマー型RAFT剤が水中に分散したRAFT重合用反応液を得た。
この反応完了時点で、反応液に含まれる全固形分量が1.18質量%であり、モノマー反応率は98.4%であった。ここで、全固形分量とは反応液の総質量に含まれる全固形分のことである。また、モノマー反応率は[(全固形分量-RAFT剤仕込み量-重合開始剤仕込み量-水酸化カリウム仕込み量)÷STモノマー仕込み量]×100(%)で計算される値である。
【0122】
上記の反応液において、式Xで表されるポリマー型RAFT剤の体積平均粒子径(MV)は10nmであった。なお、各実施例において、体積平均粒子径(MV)は、日機装社製のNanotrac UPA-EX150を用いて、動的光散乱法(溶媒:水、温度25℃)による測定方法によって、ラテックスにおける重合体の体積基準の粒子径分布を測定し、粒子径分布から平均粒子径(体積平均粒子径)より求めた。
また、反応液のpHは11であった。
反応器の内壁面に凝集した凝塊物(反応残渣)の量は使用したスチレンモノマーに対して0.1質量部であった。
【0123】
上記ポリマー型RAFT剤をGPCで分析したところ、標準ポリスチレン換算で数平均分子量(Mn)は5800であり、分子量分布(Mw/Mn)は1.1であった。
【0124】
【化9】
【0125】
[実施例1b]
撹拌機、温度計、窒素ガス導入管、滴下ロート、および還流冷却器を備えた反応器に水75質量部を入れ、実施例1aで得たpH11のポリマー型RAFT剤を含むRAFT重合用反応液424質量部(含有固形分として5質量部)を添加して撹拌し、窒素置換した。その後、80℃に加温しながら、重合開始剤としてV-501を0.1質量部で添加し、続けてスチレン32.5質量部、アクリロニトリル(AN)12.5質量部の混合液を60分間かけて反応器内に滴下し、滴下完了後さらに30分間攪拌した。
この時点のモノマー反応率が95%であることを確認した。ここで、モノマー反応率は[(全固形分量-ポリマー型RAFT剤仕込み量-重合開始剤仕込み量-持ち込みの水酸化カリウム量)÷モノマー仕込み量]×100%で計算される値である。90%以上であったので反応時間を90分間として反応を完了させた。これにより、下記式Yで表されるブロック共重合体1(親水性共重合型RAFT剤)が水中に分散したRAFT重合用反応液を得た。
なお、後述の試験例において、反応溶液中の固形分量(不揮発成分量)変化を確認したとき、モノマー反応率が90%を超えない場合、モノマー反応率が90%を超えるか、固形分量変化が落ち着くまで攪拌を延長し、反応を完了させた。
【0126】
式Yで表されるブロック共重合体1の体積平均粒子径(MV)は20nmであった。
また、反応溶液のpHは11であり、全固形分量は8.8質量%であった。
【0127】
さらに、ブロック共重合体1をGPCで分析したところ、標準ポリスチレン換算で数平均分子量(Mn)は58000であり、分子量分布(Mw/Mn)は1.5であった。
【0128】
【化10】
【0129】
[実施例1c]
実施例1bで得られたブロック共重合体1を含むRAFT重合用反応液544.1質量部を80℃に加温しながら、ブチルアクリレート(BA)50質量部を30分間かけて滴下し、さらに60分間攪拌した。
この時点のモノマー反応率を確認した。ここで、モノマー反応率は[(全固形分量-ブロック共重合体1の仕込み量-持ち込みの水酸化カリウム量)÷モノマー仕込み量]×100%で計算される値である。モノマー反応率が90%以上であったので反応時間を90分間として反応を完了させた。これにより、下記式Zで表されるブロック共重合体2が水中に分散した分散液を得た。
なお、後述の試験例において、反応液中の固形分量(不揮発成分量)変化を確認したとき、モノマーの反応率が90%を超えない場合、モノマー反応率が90%を超えるか、固形分量変化が落ち着くまで攪拌を延長し、反応を完了させた。
【0130】
上記の反応液において、式Zで表されるブロック共重合体2の体積平均粒子径(MV)は30nmであった。
また、反応液のpHは8であり、全固形分量は16.2質量%であり実施例1cの工程においてモノマーの反応率96.8%であった。
反応器の内壁面に凝集した凝塊物(反応残渣)の量は使用したブチルアクリレートモノマーに対して0.1質量部であった。
【0131】
上記ブロック共重合体2をGPCで分析したところ、標準ポリスチレン換算で数平均分子量(Mn)は116000であり、分子量分布(Mw/Mn)は1.8であった。
【0132】
【化11】
【0133】
[実施例2a~実施例6a、実施例R1a、実施例R2a]
表1に記載の通り、反応開始直前の反応液中の各成分の濃度を変更し、その他は実施例1aと同様にして、前記式Xで表されるポリマー型RAFT剤を含むRAFT重合用反応液を得た。得られたポリマー型RAFT剤の体積平均粒子径(MV)等を測定した結果を表1に示す。なお、反応液中の各成分の濃度は反応液中の水分量の増減によって調整した。
【0134】
【表1】
【0135】
実施例R1aは、体積平均粒子径(MV)が小さく、実施例R2aは、反応時間が長く、凝塊物の量が多く、分子量分布が広かった。生産性を高める観点からすると、一定以上の体積平均粒子径(MV)であり、より短い反応時間で反応させ、凝塊物の量を低減し、分子量分布を狭めることが好ましい。
【0136】
[実施例2b~実施例6b、実施例R1b、実施例R2b]
表2に記載の通り、実施例2a~実施例6a、実施例R1a、実施例R2aで得た各々のポリマー型RAFT剤を含むRAFT重合用反応液を用い、十分に反応が進行するように反応時間等を変更し、その他は実施例1bと同様にして、前記式Yで表されるブロック共重合体1を得た。
得られたブロック共重合体1の体積平均粒子径(MV)等を測定した結果を表2に示す。
【0137】
【表2】
【0138】
実施例R1bは、分子量分布が広く、実施例R2bは、反応時間が長く、分子量分布が広かった。生産性を高める観点からすると、より短い反応時間で反応させ、分子量分布を狭めることが好ましい。
【0139】
[実施例2c~実施例6c、実施例R1c、実施例R2c]
表3に記載の通り、実施例2b~実施例6b、実施例R1b、実施例R2bで得た各々のブロック共重合体1を含むRAFT重合用反応液を用い、十分に反応が進行するように反応時間等を変更し、その他は実施例1bと同様にして、前記式Zで表されるブロック共重合体2を得た。
得られたブロック共重合体2の体積平均粒子径(MV)等を測定した結果を表3に示す。
【0140】
【表3】
【0141】
実施例R1cは、分子量分布が広く、実施例R2cは、反応時間が長く、凝塊物の量が多く、分子量分布が広かった。生産性を高める観点からすると、より短い反応時間で反応させ、凝塊物の量を低減し、分子量分布を狭めることが好ましい。
【0142】
<塩基量に着目した実験系>
[実施例7a~9a、実施例R3a、実施例R4a]
表4に記載の通り、BM1430のカルボキシ基をけん化し、その状態を維持するために塩基/酸基のモル比を変更し、その他は実施例1aと同様にして、前記式Xで表されるポリマー型RAFT剤を含むRAFT重合用反応液を得た。
得られたポリマー型RAFT剤の分子量分布等を測定した結果を表4に示す。
【0143】
【表4】
【0144】
実施例R3a及び実施例R4aは比較例である。
実施例R3aは、塩基/酸基のモル比が小さく、収率が低く、凝塊物の量が多く、分子量分布が広かった。生産性とポリマーの品質を高める観点からすると、より短い反応時間で反応させ、凝塊物の量を低減し、分子量分布を狭めることが好ましい。また、実施例R4bは、塩基/酸基のモル比が大きく、反応液のpHが高く、後工程(肥大化処理や凝固処理等)において、モノマーの分解反応が併発し、反応収率が低下する恐れがあるので、生産性を高める観点からすると、pHが高すぎるのは好ましくない。
【0145】
[実施例7b~実施例9b、実施例R3b、実施例R4b]
表5に記載の通り、実施例7a~実施例9a、実施例R3a、実施例R4aで得た各々のポリマー型RAFT剤を含むRAFT重合用反応液を用い、十分に反応が進行するように反応時間等を変更し、その他は実施例1bと同様にして、前記式Yで表されるブロック共重合体1を得た。
得られたブロック共重合体1の分子量分布等を測定した結果を表5に示す。
【0146】
【表5】
【0147】
実施例R3bは、分子量分布が広かった。実施例R4bは、分子量分布が広かった。ポリマーの品質を高める観点からすると、分子量分布を狭めることが好ましい。
【0148】
[実施例7c~実施例9c、実施例R3c、実施例R4c]
表6に記載の通り、実施例7b~実施例9b、実施例R3b、実施例R4bで得た各々のブロック共重合体1を含むRAFT重合用反応液を用い、十分に反応が進行するように反応時間等を変更し、その他は実施例1bと同様にして、前記式Zで表されるブロック共重合体2を得た。
得られたブロック共重合体2の分子量分布等を測定した結果を表6に示す。
【0149】
【表6】
【0150】
実施例R3cは、凝塊物の量が多く、分子量分布が広かった。生産性とポリマーの品質を高める観点からすると、凝塊物の量を低減し、分子量分布を狭めることが好ましい。
また、実施例R4cは、分子量分布が広かった。ポリマーの品質を高める観点からすると、分子量分布を狭めることが好ましい。
【0151】
<RAFT剤量に着目した実験系>
[実施例10a~13a、実施例R5a、実施例R6a]
表7に記載の通り、V-501とBM1430の量を変更し、塩基/酸基のモル比が一定になるように水酸化カリウムの量を調整し、その他は実施例1aと同様にして、前記式Xで表されるポリマー型RAFT剤を含むRAFT重合用反応液を得た。
得られたポリマー型RAFT剤の分子量分布等を測定した結果を表7に示す。
【0152】
【表7】
【0153】
実施例R5aは、体積平均粒子径(MV)が小さく、生産性を高める観点からすると、一定以上の体積平均粒子径(MV)であることが好ましい。また、実施例R6aは、凝塊物の量が多く、分子量分布が広かった。生産性とポリマーの品質を高める観点からすると、凝塊物の量を低減し、分子量分布を狭めることが好ましい。
【0154】
[実施例10b~13b、実施例R5b、実施例R6b]
表8に記載の通り、実施例10a~13a、実施例R5a、実施例R6aで得た各々のポリマー型RAFT剤を含むRAFT重合用反応液を用い、各実施例の反応液に含まれるポリマー型RAFT剤の分子数を揃えるためにRAFT剤の使用量を変更し、十分に反応が進行するように反応時間等も変更し、その他は実施例1bと同様にして、前記式Yで表されるブロック共重合体1を得た。
得られたブロック共重合体1の分子量分布等を測定した結果を表8に示す。
【0155】
【表8】
【0156】
実施例R5bは、反応時間が長く、分子量分布が広かった。生産性を高める観点からすると、より短い反応時間で反応させ、分子量分布を狭めることが好ましい。
また、実施例R6bは、分子量分布が広かった。ポリマーの品質を高める観点からすると、分子量分布を狭めることが好ましい。
【0157】
[実施例10c~13c、実施例R5c、実施例R6c]
表9に記載の通り、実施例10b~13b、実施例R5b、実施例R6bで得た各々のブロック共重合体1を含むRAFT重合用反応液を用い、十分に反応が進行するように反応時間等を変更し、その他は実施例1cと同様にして、前記式Zで表されるブロック共重合体2を得た。
得られたブロック共重合体2の分子量分布等を測定した結果を表9に示す。
【0158】
【表9】
【0159】
実施例R5cは、反応時間が長く、凝塊物の量が多く、分子量分布が広かった。生産性とポリマーの品質を高める観点からすると、より短い反応時間で反応させ、凝塊物の量を低減し、分子量分布を狭めることが好ましい。
また、実施例R6cは、凝塊物の量が多く、分子量分布が広かった。生産性とポリマーの品質を高める観点からすると、凝塊物の量を低減し、分子量分布を狭めることが好ましい。
【0160】
<ポリマー型RAFT剤を形成するモノマーの種類に着目した実験系>
[実施例14a~19a]
表10に記載の通り、重合するモノマーの種類を変更し、対応するRAFT剤の種類を組合せ、その他は実施例1aと同様にして、前記式Xで表されるポリマー型RAFT剤を含むRAFT重合用反応液を得た。ただし、前記式XのPS鎖ブロックは各例で使用したモノマーの重合体鎖に置換されている。得られたポリマー型RAFT剤の数平均分子量等を測定した結果を表10に示す。
【0161】
【表10】
【0162】
なお、重合するモノマーの種類に応じて、RAFT剤の効果が異なる場合がある。実施例17aは、実施例3aに比べて分子量分布が広かった。生産性を高める観点からすると、スチレンモノマーに対してはBM1430を使用することが好ましい。実施例16aは、実施例19aに比べて分子量分布が広く、反応時間も長かった。生産性とポリマーの品質を高める観点からすると、メチルメタクリレートに対してはBM1432を使用することが好ましい。
【0163】
[実施例14b~実施例19b]
表11に記載の通り、実施例14a~実施例19aで得た各々のポリマー型RAFT剤を含むRAFT重合用反応液を用い、モノマーの配合量等を変更し、その他は実施例1bと同様にして、前記式Yで表されるブロック共重合体1を得た。ただし、前記式YのPS鎖ブロックは、各例のポリマー型RAFT剤に由来する重合体鎖に置換されている。
得られたブロック共重合体1の数平均分子量等を測定した結果を表11に示す。
【0164】
【表11】
【0165】
[実施例14c~実施例19c]
表12に記載の通り、実施例14b~実施例19bで得た各々のブロック共重合体1を含むRAFT重合用反応液を用い、その他は実施例1cと同様にして、前記式Zで表されるブロック共重合体2を得た。ただし、前記式ZのPS鎖ブロックは、各例のポリマー型RAFT剤に由来する重合体鎖に置換されている。
得られたブロック共重合体2の数平均分子量等を測定した結果を表12に示す。
【0166】
【表12】
【0167】
<ポリマー型RAFT剤の使用量に着目した実験系>
[実施例20b~実施例22b]
表14に記載の通り、実施例3aで得た各々のポリマー型RAFT剤を含むRAFT重合用反応液を用い、その使用量等を変更し、その他は実施例1bと同様にして、前記式Yで表されるブロック共重合体1を得た。
得られたブロック共重合体1の数平均分子量等を測定した結果を表13に示す。
【0168】
【表13】
【0169】
表13の結果から、分子量分布の狭い、各種分子量のジブロック共重合体を得る事ができる。
【0170】
[実施例20c~実施例22c]
表14に記載の通り、実施例20b~実施例22bで得た各々のブロック共重合体1を含むRAFT重合用反応液を用い、その他は実施例1cと同様にして、前記式Zで表されるブロック共重合体2を得た。
得られたブロック共重合体2の数平均分子量等を測定した結果を表14に示す。
【0171】
【表14】
【0172】
表14の結果から、分子量分布の狭い、各種分子量のトリブロック共重合体を得る事ができる。
【0173】
<共重合体1を形成するモノマーの種類に着目した実験系>
[実施例23b~実施例29b]
表15に記載の通り、実施例3aで得たポリマー型RAFT剤を含むRAFT重合用反応液を用い、その反応液中で重合させるモノマーの種類及び組成比等を変更し、その他は実施例1bと同様にして、前記式Yで表されるブロック共重合体1を得た。ただし、前記式YのAS鎖ブロックは各例で使用したモノマーの(共)重合体鎖に置換されている。
得られたブロック共重合体1の数平均分子量等を測定した結果を表15に示す。
【0174】
【表15】
【0175】
表15の結果から、ポリマー型RAFT剤に対しては、多様なモノマーを同様に重合することが可能であり、多用なジブロック共重合体を得ることができる。
【0176】
[実施例23c~実施例29c]
表16に記載の通り、実施例23b~実施例29bで得た各々のブロック共重合体1を含むRAFT重合用反応液を用い、その反応液中で重合させるモノマーの種類及び組成比等を変更し、その他は実施例1cと同様にして、前記式Zで表されるブロック共重合体2を得た。ただし、前記式ZのPBA鎖ブロックは各例で使用したモノマーの(共)重合体鎖に置換されている。得られたブロック共重合体2の数平均分子量等を測定した結果を表16に示す。
【0177】
【表16】
【0178】
表16の結果から、ブロック共重合体1に対しては、多様なモノマーを同様に重合することが可能であり、多用なトリブロック共重合体を得ることができる。
【産業上の利用可能性】
【0179】
RAFT重合に適したRAFT重合用反応液は、任意の分子量分布の狭い重合体や、ブロック共重合体などの製造に適している。得られた重合体は、水性分散体としては、例えば粘着剤、接着剤、コーティング剤などに利用可能である。また、凝固などにより回収した樹脂組成物は、例えば成形体、フィルム、シートなどに利用可能である。