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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023146463
(43)【公開日】2023-10-12
(54)【発明の名称】鋳鉄管
(51)【国際特許分類】
   F16L 58/04 20060101AFI20231004BHJP
   C09D 7/61 20180101ALI20231004BHJP
   C09D 163/00 20060101ALI20231004BHJP
   F16L 9/02 20060101ALI20231004BHJP
【FI】
F16L58/04
C09D7/61
C09D163/00
F16L9/02
【審査請求】未請求
【請求項の数】2
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022053656
(22)【出願日】2022-03-29
(71)【出願人】
【識別番号】000142595
【氏名又は名称】株式会社栗本鐵工所
(74)【代理人】
【識別番号】110001896
【氏名又は名称】弁理士法人朝日奈特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】安東 尚紀
(72)【発明者】
【氏名】冨田 直岐
(72)【発明者】
【氏名】明渡 健吾
(72)【発明者】
【氏名】柳谷 仁志
【テーマコード(参考)】
3H024
3H111
4J038
【Fターム(参考)】
3H024EA01
3H024EB07
3H024EC04
3H024ED05
3H024ED11
3H024EE03
3H111AA01
3H111BA02
3H111DA08
3H111DB03
4J038DB001
4J038DD231
4J038HA376
4J038KA08
4J038NA03
4J038PA06
4J038PC02
(57)【要約】
【課題】一液性エポキシ樹脂塗料による塗布層を有し、良好な耐食性を有する鋳鉄管を提供する。
【解決手段】内面に一液性エポキシ樹脂塗料による塗布層を有する鋳鉄管であって、一液性エポキシ樹脂塗料が、エポキシ樹脂および無水石膏を含むものである、鋳鉄管。好ましくは、直管部を挟んで一端に受口を他端に挿し口を有し、直管部内面および挿し口内面にエポキシ樹脂粉体塗料による塗布層またはモルタルライニング層を有し、受口内面にエポキシ樹脂および無水石膏を含む一液性エポキシ樹脂塗料による塗布層を有する鋳鉄管。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
内面に一液性エポキシ樹脂塗料による塗布層を有する鋳鉄管であって、
前記一液性エポキシ樹脂塗料が、エポキシ樹脂および無水石膏を含むものである、
鋳鉄管。
【請求項2】
直管部を挟んで一端に受口を他端に挿し口を有し、
前記直管部内面および前記挿し口内面にエポキシ樹脂粉体塗料による塗布層またはモルタルライニング層を有し、
前記受口内面に前記一液性エポキシ樹脂塗料による塗布層を有する
請求項1記載の鋳鉄管。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、内面に一液型エポキシ樹脂塗料による塗布層が設けられている鋳鉄管に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、水道管、貯水管などの飲料水の移送、貯蔵などに用いられる鋳鉄管等は、管体の内面を保護するため各種塗装が施されている。
【0003】
例えば水道管として多く使用されているダクタイル鋳鉄管は、管軸方向に一定の管径が続く直管部を挟んで、一端が挿し口、他端が隣り合う他の鋳鉄管の挿し口をその内側に受け入れることができる受口となっている。ダクタイル鋳鉄管の内面は、例えば、直管部内面および挿し口内面に粉体塗装(例えば、エポキシ樹脂粉体塗装)やモルタルライニング等を行い、その後、凹凸の多い受口内面に溶剤系塗装等が行われている。
【0004】
通常、ダクタイル鋳鉄管の受口内面の塗装には、二液性エポキシ樹脂塗料が使用されている。二液性塗料を使用して塗装層を形成する場合、硬化乾燥するまでの時間が長く、生産効率が低下する。特に、冬場など気温が低い場合は、乾燥速度が著しく低下してしまう。
【0005】
一方、一液性のエポキシ樹脂塗料を用いる場合、通常、二液性エポキシ樹脂塗料と比較して硬化乾燥するまでの時間が短く、生産効率を高くすることができる(特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2015-113381号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかし、一液性エポキシ樹脂塗料による塗布層は架橋密度が低く塗膜強度が低いため、一液性エポキシ樹脂塗料で塗装されたダクタイル鋳鉄管は、二液性エポキシ樹脂塗料で塗装されたダクタイル鋳鉄管と比較して耐食性が低くなる場合がある。
【0008】
本発明は、一液性エポキシ樹脂塗料による塗布層を有し、良好な耐食性を備えた鋳鉄管を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するために、本発明者らは、鋭意検討した結果、一液性のエポキシ樹脂塗料に無水石膏を加えたものを用いることにより、良好な作業性や乾燥性を維持しつつ良好な耐食性を備えた鋳鉄管が得られることを見出し、本発明を完成した。
【0010】
すなわち、本発明は、
[1]内面に一液性エポキシ樹脂塗料による塗布層を有する鋳鉄管であって、
上記一液性エポキシ樹脂塗料が、エポキシ樹脂および無水石膏を含むものである、
鋳鉄管、ならびに
[2]直管部を挟んで一端に受口を他端に挿し口を有し、
上記直管部内面および上記挿し口内面にエポキシ樹脂粉体塗料による塗布層またはモルタルライニング層を有し、
上記受口内面に上記一液性エポキシ樹脂塗料による塗布層を有する
上記[1]記載の鋳鉄管
に関する。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、内面に一液性エポキシ樹脂塗料による塗布層を有する鋳鉄管において、一液性エポキシ樹脂塗料を、エポキシ樹脂および無水石膏を含むものとすることにより、上記塗布層において良好な耐食性を有する鋳鉄管を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明の鋳鉄管は、内面に、エポキシ樹脂および無水石膏を含有する一液性エポキシ樹脂塗料による塗布層が設けられており、良好な作業性および乾燥性により効率よく製造することができ、得られた鋳鉄管は、良好な耐食性を有する。これは、一液性エポキシ樹脂塗料に、無水石膏を含有させることにより、良好な作業性および乾燥性を損なうことなく、得られる塗膜の強度を高くできるためと考えられる。この塗布層は、受口内面に設けられる場合、受口から連続する直管部に形成されるエポキシ粉体塗料による塗布層やモルタルライニング層に対して優れた密着性を示す。
【0013】
<一液性エポキシ樹脂塗料による塗布層>
本発明により鋳鉄管の内面に施される一液性エポキシ樹脂塗料による塗布層は、エポキシ樹脂および無水石膏を含有する一液性エポキシ樹脂塗料を塗布して得られるものであり、降雨や湿気など外部環境から塗布層に入り込む水分と無水石膏が反応し、無水石膏同士が結合することで塗膜強度が上昇し、防食効果を発揮するものである。また、防錆顔料としてさらにリン酸塩化合物を含有させることにより、さらに優れた耐食性を発揮するため、一液性エポキシ樹脂を用いた塗布層であっても二液性エポキシ樹脂塗料よりもさらに優れた耐食性を示す。この一液性エポキシ樹脂塗料による塗布層の厚さは、60μm以上が好ましく、80μm以上がより好ましい。塗布層の厚さを80μm以上とすることにより、優れた耐食性を備えることができる。また、この一液性エポキシ樹脂塗料による塗布層の厚さは、150μm以下が好ましく、100μm以下がより好ましい。塗布層の厚さを100μm以下とすることにより、乾燥養生期間が短くなる傾向がある。
【0014】
このように塗膜強度の高い塗布層は、アクリル系塗料などによるさらなる上塗りを施すことなく、優れた耐食性を発揮する。
【0015】
(一液性エポキシ樹脂塗料)
一液性エポキシ樹脂塗料は、上述したようにエポキシ樹脂、および無水石膏を含有するものであり、日本ダクタイル鉄管協会規格JDPA Z 2010「ダクタイル鋳鉄管合成樹脂塗装」平成21年2月12日改正に規定されている4.1.1エポキシ樹脂塗料に準ずるものであり、好ましくは、防錆顔料としてリン酸塩化合物を含むものである。
【0016】
(エポキシ樹脂)
エポキシ樹脂としては、本技術分野において公知の各種ポリエポキシ化合物を使用することができる。具体的には、エピクロロヒドリンとビスフェノールAとの反応生成物で構成されるエポキシ樹脂やエピクロロヒドリンとビスフェノールFとの反応生成物で構成されるエポキシ樹脂、これらのエポキシ樹脂に脂肪酸を反応させて得られたものや、アルカノールアミンなどのアミン類を反応させて得られるアミン変性エポキシ樹脂、ポリイソシアート化合物と反応させて得られるウレタン変性エポキシ樹脂などの変性エポキシ樹脂、ビスフェノール型エポキシ樹脂で変性したエポキシ変性アルキド樹脂などが挙げられる。なかでも、乾燥性、付着性、耐食性などの点から、エポキシ変性アルキド樹脂が好ましい。
【0017】
一液性エポキシ樹脂塗料におけるエポキシ樹脂の含有量は、特に限定されるものではないが、20~50質量%が好ましく、30~50質量%がより好ましい。エポキシ樹脂の含有量をこの範囲とすることにより、良好な付着性および耐食性を備えることができる。
【0018】
(無水石膏)
無水石膏は、結晶水をもたない硫酸カルシウムであり、商業的に入手可能なものを使用することができる。本発明においては、無水石膏は防錆顔料として配合される。
【0019】
一液性エポキシ樹脂塗料における樹脂成分に対する無水石膏の割合は、質量で樹脂成分:無水石膏=1:0.3~0.7が好ましく、1:0.4~0.6がより好ましい。
【0020】
一液性エポキシ樹脂塗料における全顔料中の無水石膏の含有量は、25~60質量%が好ましく、35~50質量%がより好ましい。無水石膏の含有量をこの範囲とすることにより、良好な耐食性を備えることができる。
【0021】
(リン酸塩化合物)
本発明に係る一液性エポキシ樹脂塗料は、リン酸化合物を防錆顔料としてさらに含むことが好ましい。リン酸化合物としては、防錆顔料としての効果を示すものであれば、特に限定することなく使用することができるが、例えば、リン酸亜鉛(例えば、商品名LFボウセイP-W-2、LFボウセイD-1、LFボウセイD-2、LFボウセイZP-S1、LFボウセイZP-HS、LFボウセイP-WF、以上いずれもキクチカラー(株)製や、商品名EXPERT NP-500、EXPERT NP-520、EXPERT NP-530、以上いずれも東邦顔料工業(株)製)、リン酸カルシウム(商品名LFボウセイCP-Z、キクチカラー(株)製、商品名EXPERT NP-1000、EXPERT NP-1007、EXPERT NP-1020C、EXPERT NP-1055C、以上いずれも東邦顔料工業(株)製、商品名プロテクスYM-60、プロテクスYM-70、以上いずれも太平化学産業(株)製)、リン酸アルミニウム、リンモリブデン酸アルミニウムなどの防錆顔料を用いることが好ましく、防錆性能に優れるリン酸亜鉛、リン酸カルシウム、リン酸アルミニウムおよびリン酸カルシウムを用いることが好ましい。
【0022】
一液性エポキシ樹脂塗料におけるリン酸化合物の含有量は、特に限定されるものではないが、1~10質量%が好ましく、2~5質量%がより好ましい。リン酸化合物の含有量をこの範囲とすることにより、良好な耐食性を備えることができる。
【0023】
その他、必要に応じて公知の顔料を添加することができる。具体的には、本技術分野において通常使用される、酸化チタン、酸化鉄、カーボンブラック、シアニンブルー、シアニングリーンなどの着色顔料、炭酸カルシウム、タルク、硫酸バリウム、クレーなどの体質顔料などが挙げられる。これらの顔料は単独で使用してもよく、必要により2種以上を混合して使用してもよい。
【0024】
全顔料中の防錆顔料の含有量は特に限定されないが、35~65質量%が好ましく、40~60質量%がより好ましい。35質量%未満では防錆性能の向上が得られず、65質量%を超えるとこれを含有する塗料としての貯蔵安定性が低下し、経済性も考慮すると適さない。
【0025】
さらに、必要に応じて本発明の効果を害しない範囲で、その他の樹脂、改質剤、添加剤を加えることができる。具体的には、樹脂としてスチレン、酢酸ビニルまたはブタジエンを含むアクリレートもしくはメタクリレート共重合物、キシレン樹脂、トルエン樹脂、シクロペンタジエン樹脂、クマロンインデン樹脂、カルボキシル化アクリル変性SBR樹脂を挙げることができる。
【0026】
改質剤としては、スチレン、酢酸ビニルまたはブタジエンを含むアクリレートまたはメタクリレート共重合物、クマロンインデン樹脂、キシレン樹脂、トルエン樹脂、シクロペンタジエン樹脂、カルボキシル化アクリル変性SBR樹脂などを挙げることができる。
【0027】
また更に添加剤として、具体的には、一液性エポキシ樹脂塗料に対して本技術分野において通常使用される硬化剤や潜在的硬化剤、芳香族系溶剤やアルコール系溶剤などの溶剤、シリコーンや有機高分子などの消泡剤、シリコーンや有機高分子などの表面調整剤、アマイドワックス、有機ベントナイトなどの粘性調整剤(タレ止め剤)、シリカ、アルミナなどの艶消し剤、ポリカルボン酸塩などの分散剤、ベンゾフェノンなどの紫外線吸収剤、ヒンダードアミン系光安定剤、フェノール系などの酸化防止剤、ワックスなど、公知の添加剤を挙げることができる。さらには、これらは単独で使用してもよく、必要により2種以上を混合して使用してもよい。アクリル系共重合物、アクリル酸とマレイン酸コポリマーとのナトリウム塩、アクリル重合物、オルガノシラン、ジメチルポリシロキサン、アマイドワックス、キサンタンガム、変性セルロース化合物、セルロースアセテートブチレート、ヒドロキシエチルセルロース、ステアリン酸アルミニウム、ナフテン酸コバルト、ナフテン酸亜鉛、ミネラルオイル、ワセリン、ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム、ポリ(オキシレン)アルキルエーテル、ポリオキシアルキレン脂肪酸エステル、1,2-ベンズイソチアゾリン-3-オン、ブロモニトロアルコール化合物、フタル酸ジシクロヘキシル、メチルエチルケトオキシム、アンモニア水、N,N’-ジメチルアミノエタノール、トリエチルアミンなどが挙げられる。
【0028】
本発明に係る一液性エポキシ樹脂塗料は、例えば、エポキシ樹脂またはエポキシ樹脂ワニスに硬化剤や添加剤等の助剤、無水石膏、リン酸化合物等の顔料を添加した後、ロールミル、SGミル、ディスパーなどを分散処理することによって所望のエポキシ樹脂塗料が得られる。
【0029】
<鋳鉄管>
本発明の鋳鉄管としては、その形状に特に限定を有するものではないが、例えば鋳鉄管の管軸方向に一定の管径が続く直管部を挟んで一端に受口が、他端に挿し口がそれぞれ備えられている鋳鉄管が挙げられる。鋳鉄管の内面、特に受口内面には、上記一液性エポキシ樹脂塗料による塗布層が設けられる。本発明の鋳鉄管の用途としては、特に限定されるものではないが、上記内面に設けられている一液性エポキシ樹脂塗料による塗布層が水質に有害な影響を及ぼすことはないため、上下水道用、貯水用などとして使用することができる。
【0030】
(エポキシ樹脂粉体塗料による内面塗布層の形成)
鋳鉄管内面に防食性を付与するため、鋳鉄管を、たとえばガス炉や電気炉などの加熱炉を用いて加熱し、鋳鉄管の内面に、エポキシ樹脂粉体塗料を塗装して内面塗膜層を形成する。この工程の前に、必要に応じて管内面を研磨、清掃などの素地調整を行うことが好ましい。加熱後の鋳鉄管の表面温度は、樹脂を溶融させ、樹脂と硬化剤とを架橋反応させるため、好ましくは150℃以上であり、より好ましくは170~270℃である。塗装されるエポキシ樹脂粉体塗料は、本技術分野において通常使用されるものであれば、特に限定されるものではなく、具体的には日本水道協会規格JWWA G 112「水道用ダクタイル鋳鉄管内面エポキシ樹脂粉体塗装」に規定されているエポキシ粉体塗料を好適に用いることができる。塗装方法は、エポキシ樹脂粉体塗料の塗装方法は特に限定されるものではなく、たとえばスプレー塗装などにより塗装することができる。より具体的には、鋳鉄管内面にスプレーノズルを挿入し、管軸方向に移動させながら、鋳鉄管を回転させてスプレー塗装する方法や、鋳鉄管を回転させ、管内部に粉体塗料を気体とともに過剰送入し、管内面に融着させ、余剰の粉体塗料を除去する方法などによって粉体塗料を塗装する。エポキシ樹脂粉体塗料を塗装することによって形成される内面塗膜層の厚さは好ましくは300μm以上、より好ましくは400~700μmである。厚さ300μm未満では管内面の耐食性が低下する傾向がある。鋳鉄管の指し口内面および直管部内面の塗布層がエポキシ樹脂粉体塗装により形成される場合、直管部内面から受口内面に係る部分まで塗装される。
【0031】
(モルタルライニング層の形成)
鋳鉄管内面に防食性を付与するため、上記エポキシ樹脂粉体塗料による内面塗膜層を形成する代わりに鋳鉄管内面にモルタルライニング層を形成することもできる。この工程の前に、必要に応じて管内面を研磨、清掃などの素地調整を行うことが好ましい。モルタルライニング層の形成は特に限定されず、公知の方法を用いることができる。たとえば珪砂などの骨材を含むセメント材料を、内面ライニング装置を管軸方向に移動させながら、管内面にモルタルライニングを形成し、蒸気養生する方法があげられる。モルタルライニング層の厚さはJWWA A 113「水道用ダクタイル鋳鉄管モルタルライニング」において口径ごとに規定されている。
【0032】
また、鋳鉄管の直管部内面および挿し口内面への塗装がモルタルライニングによりなされる場合、モルタルライニング層は、挿し口から直幹部と受口との境界線まで形成される。モルタルライニングの方法は特に限定されるものではなく、例えば珪砂などの骨材を含むセメント材料から作るモルタルを、管軸周りに回転させた鋳鉄管の中に注入し、遠心力によって直管部内面にモルタルライニングを形成し、蒸気養生する方法によってモルタルライニング層が形成される。この塗装によって形成される塗装膜の厚さは、好ましくは2.5mm以上、より好ましくは2.5~8mmである。厚さ2.5mm未満では、管内面の耐食性が低下する傾向がある。
【0033】
(一液性エポキシ樹脂塗料の塗布)
上述の一液性エポキシ樹脂塗料の塗布領域は、鋳鉄管の内面であれば、特に限定されるものではないが、鋳鉄管が、例えば鋳鉄管の管軸方向に一定の管径が続く直管部を挟んで一端に受口が、他端に挿し口がそれぞれ備えられている鋳鉄管である場合、受口内面に塗布することが好ましい。
【0034】
一液性エポキシ樹脂塗料による塗布層を形成するための塗装方法は、特に限定されるものではなく、スプレーや刷毛、ローラーによって塗装することができる。挿し口内面および直管部内面にエポキシ樹脂粉体塗料を塗布する場合、受口内面の一部にもエポキシ樹脂粉体塗料による塗布層が形成されるため、一液性エポキシ樹脂塗料がエポキシ樹脂粉体塗料による塗布層に積層して塗布されるが、一液性エポキシ樹脂塗料のエポキシ樹脂粉体塗料による塗布層への密着性が優れているため、良好な耐食性を有する鋳鉄管を得ることができる。また、挿し口内面および直管部内面にモルタルライニング層が設けられている場合、受口内面に施される一液性エポキシ樹脂塗料のモルタルライニング層への密着性が優れているため、接触部分においても良好な耐食性を有する鋳鉄管を得ることができる。つまり、本発明に係る一液性エポキシ樹脂塗料による塗布層は、エポキシ樹脂粉体塗料による塗布層またはモルタルライニング層との密着性に優れた塗装層である。
【0035】
上述したように鋳鉄管の挿し口内部および直管部内面にエポキシ樹脂粉体塗料による塗布層やモルタルライニング層が形成される際、鋳鉄管は加熱される。そのため、本発明に係る一液性エポキシ樹脂塗料による受口内部の塗布層の形成には、鋳鉄管の直管部内面に塗布層が形成されるときの余熱を利用することも可能である。
【実施例0036】
以下、実施例により本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0037】
以下の実施例で説明する塗装層を形成するためのエポキシ樹脂塗料は、日本ダクタイル鉄管協会規格JDPA Z 2010「ダクタイル鋳鉄管合成樹脂塗装」平成21年2月12日改正に規定されている4.1.1エポキシ樹脂塗料に準ずるものである。
【0038】
実施例1~3
表1の組成にしたがい各成分を混合し、分散処理して各一液性エポキシ樹脂塗料を調製した。得られた一液性エポキシ樹脂塗料をブラスト鋼板(70×150mm)にスプレーで膜厚100μmを目標に塗装し、23℃で7日間おいて硬化させ、一液性エポキシ樹脂塗料による塗布層を有する鋼板を得た。
【0039】
比較例1および2
比較例1については関西ペイント(株)製のエポマリンJW(二液性エポキシ樹脂塗料(樹脂成分:エポキシ樹脂ワニス)、JWWA K 135規格品)を、比較例2については大信ペイント(株)製のクリモトコートEP-XF(一液性エポキシ樹脂塗料(樹脂成分:エポキシ樹脂ワニス)、JWWA K 139規格品)を用い、それぞれ主剤と硬化剤とを混合した後に実施例1~3と同様にブラスト鋼板に塗装し、塗布層を有する鋼板をえた。表1には、上記塗料中の各成分の含有量を記載した。
【0040】
試験例1:乾燥性
実施例1~3および比較例1および2について、エポキシ樹脂塗料の塗布後1分ごとに塗布面を指で触って指に塗料が付着しなくなるまでの時間を測定した。以下の判定基準により結果を表1に示す。性能目標は7分以内とする。
(判定基準)
○:7分以内
×:7分を超える
【0041】
試験例2:耐中性塩水噴霧性
塗布層の長期耐久性を確認するため、JIS K 5600-7-1(塗料一般試験方法-第7部:塗膜の長期耐久性-第1節:耐中性塩水噴霧性)に準じて試験を行った。
【0042】
実施例1~3ならびに比較例1および2において得られた各鋼板に、カッターナイフでクロスカットを施し、塩化ナトリウム水溶液(5%)を噴霧して、外観を観察した。白錆、赤錆およびフクレ等の外観の異常が見られない場合を異常なしとし、1つでもそれらの異常が見られた場合を異常ありとし、異常なしの時間を評価した。なお、クロスカットの両側それぞれ2mm以内は観察の対象としなかった。
【0043】
結果を表1に示す。
○:600時間で異常なし
△:120時間で異常なし
×:120時間で異常あり
【0044】
【表1】
【0045】
表1より、実施例1~3では、比較例1と比べて乾燥性および作業性に優れ、比較例2と比べて耐中性塩水噴霧性が優れており、長期耐久性が良好であることが確認された。
【0046】
これらの結果から、一液性のエポキシ樹脂塗料に無水石膏を含有させることにより、良好な作業性および乾燥性を維持しながら、良好な耐食性を有する塗布層が形成できたことがわかる。
【0047】
実施例4
実施例1で製造した一液性エポキシ樹脂塗料を、直管部を挟んで一端に受口を他端に挿し口を有するダクタイル鋳鉄管(外径300mm、内径322.8mm)であって、挿し口から直管部内面にエポキシ樹脂粉体塗料による塗布層またはモルタルライニング層を有する鋳鉄管の受口内面に刷毛塗装により膜厚60μmとなるように塗装した。エポキシ樹脂粉体塗料による塗布層は、受口内面の直管部側の一部にも形成されているため、受口内面の一部にはエポキシ樹脂粉体塗料による塗布層の上に一液性のエポキシ樹脂塗料による塗布層が形成されることとなるが、その塗装面に問題はなく、受口内面には密着性に優れた塗布層が設けられていることが確認された。さらに、モルタルライニング層を有する鋳鉄管の場合は、一液性のエポキシ樹脂塗料による塗布層とモルタルライニング層とが連続する構成となるが、その直管部と受口との境界である接触部分の塗装面に問題はなく、密着性に優れた塗布層が設けられていることが確認された。