(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023146470
(43)【公開日】2023-10-12
(54)【発明の名称】二周波電源装置、高周波加熱装置及び高周波焼入装置
(51)【国際特許分類】
H05B 6/06 20060101AFI20231004BHJP
H05B 6/04 20060101ALI20231004BHJP
【FI】
H05B6/06 386
H05B6/04 311
H05B6/04 321
H05B6/06 341
【審査請求】有
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022053664
(22)【出願日】2022-03-29
(71)【出願人】
【識別番号】390029089
【氏名又は名称】高周波熱錬株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100108062
【弁理士】
【氏名又は名称】日向寺 雅彦
(74)【代理人】
【識別番号】100168332
【弁理士】
【氏名又は名称】小崎 純一
(74)【代理人】
【識別番号】100146592
【弁理士】
【氏名又は名称】市川 浩
(74)【代理人】
【氏名又は名称】白井 達哲
(74)【代理人】
【識別番号】100172188
【弁理士】
【氏名又は名称】内田 敬人
(74)【代理人】
【識別番号】100197538
【弁理士】
【氏名又は名称】竹内 功
(74)【代理人】
【識別番号】100176751
【弁理士】
【氏名又は名称】星野 耕平
(72)【発明者】
【氏名】杉本 真人
(72)【発明者】
【氏名】田中 裕高
(72)【発明者】
【氏名】益田 洋平
【テーマコード(参考)】
3K059
【Fターム(参考)】
3K059AA02
3K059AA03
3K059AA09
3K059AB08
3K059AB09
3K059AC12
3K059AC23
3K059AC35
3K059AD06
3K059BD09
3K059CD02
(57)【要約】
【課題】耐久性が高い二周波電源装置、高周波加熱装置及び高周波焼入装置を提供する。
【解決手段】二周波電源装置1は、低周波電流と高周波電流とを交互に出力する電源部10を備える。電源部10は、直流電流を低周波電流及び高周波電流に変換するインバータ30と、インバータ30を制御する制御部40と、を有する。制御部40は、低周波電流を出力する第1出力期間T11と、出力を停止する第1休止期間T12と、高周波電流を出力する第2出力期間T13と、出力を停止する第2休止期間T14と、をこの順に繰り返し実現する。制御部40は、第1休止期間T12の長さを、第1出力期間T11を第1休止期間T12に切り替えてから電源部10の出力電圧の極性が4回目に反転するまでの時間Taよりも長くする。
【選択図】
図8
【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1周波数の第1交流電流と、前記第1周波数よりも高い第2周波数の第2交流電流と、を交互に出力する電源部と、
第1マッチングトランスを有し、前記電源部の出力電流が入力され、前記第1交流電流を出力可能な第1整合器と、
第2マッチングトランスを有し、前記電源部の出力電流が入力され、前記第2交流電流を出力可能な第2整合器と、
を備え、
前記電源部は、
直流電流を前記第1交流電流及び前記第2交流電流に変換するインバータと、
前記インバータを制御する制御部と、
を有し、
前記制御部は、
前記第1交流電流を出力する第1出力期間と、
出力を停止する第1休止期間と、
前記第2交流電流を出力する第2出力期間と、
出力を停止する第2休止期間と、
をこの順に繰り返し実現し、
前記第1休止期間の長さを、前記第1出力期間を前記第1休止期間に切り替えてから前記電源部の出力電圧の極性が4回目に反転するまでの時間よりも長くする、
二周波電源装置。
【請求項2】
前記制御部は、前記第1休止期間の長さを、前記第1出力期間を前記第1休止期間に切り替えてから前記電源部の出力電圧の極性が5回目に反転するまでの時間よりも長くする、請求項1に記載の二周波電源装置。
【請求項3】
前記制御部は、前記第2休止期間の長さを、前記第2出力期間を前記第2休止期間に切り替えてから前記電源部の出力電圧の極性が4回目に反転するまでの時間よりも長くする、請求項1または2に記載の二周波電源装置。
【請求項4】
前記制御部は、前記第2休止期間の長さを、前記第2出力期間を前記第2休止期間に切り替えてから前記電源部の出力電圧の極性が5回目に反転するまでの時間よりも長くする、請求項3に記載の二周波電源装置。
【請求項5】
前記電源部は、交流電流を前記直流電流に変換して高電位側電位及び低電位側電位を出力するコンバータをさらに有し、
前記インバータは、
前記高電位側電位と前記電源部の第1出力端子との間に接続された第1スイッチング素子と、
前記低電位側電位と前記第1出力端子との間に接続された第2スイッチング素子と、
前記高電位側電位と前記電源部の第2出力端子との間に接続された第3スイッチング素子と、
前記低電位側電位と前記第2出力端子との間に接続された第4スイッチング素子と、
を有した請求項1~4のいずれか1つに記載の二周波電源装置。
【請求項6】
請求項1~5のいずれか1つに記載の二周波電源装置と、
前記二周波電源装置から前記第1交流電流及び前記第2交流電流が入力されるコイルと、
を備えた高周波加熱装置。
【請求項7】
請求項6に記載の高周波加熱装置と、
前記高周波加熱装置によって加熱されたワークを冷却する冷却装置と、
を備えた高周波焼入装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の実施形態は、二周波電源装置、高周波加熱装置及び高周波焼入装置に関する。
【背景技術】
【0002】
鋼部材に対して焼入処理を施し、表面を硬化する技術が知られている。焼入処理においては、鋼部材を加熱する工程と、加熱した鋼部材を急冷する工程を続けて実施する。歯車等の複雑な形状の部材の表面を効果的に加熱する方法として、二種類の周波数の高周波を用いた高周波焼入処理が知られている(特許文献1参照)。
【0003】
このような高周波焼入処理に用いられる二周波電源装置においては、耐久性の向上が望まれている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の実施形態の目的は、耐久性が高い二周波電源装置、高周波加熱装置及び高周波焼入装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の実施形態に係る二周波電源装置は、第1周波数の第1交流電流と、前記第1周波数よりも高い第2周波数の第2交流電流と、を交互に出力する電源部と、第1マッチングトランスを有し、前記電源部の出力電流が入力され、前記第1交流電流を出力可能な第1整合器と、第2マッチングトランスを有し、前記電源部の出力電流が入力され、前記第2交流電流を出力可能な第2整合器と、を備える。前記電源部は、直流電流を前記第1交流電流及び前記第2交流電流に変換するインバータと、前記インバータを制御する制御部と、を有する。前記制御部は、前記第1交流電流を出力する第1出力期間と、出力を停止する第1休止期間と、前記第2交流電流を出力する第2出力期間と、出力を停止する第2休止期間と、をこの順に繰り返し実現する。前記制御部は、前記第1休止期間の長さを、前記第1出力期間を前記第1休止期間に切り替えてから前記電源部の出力電圧の極性が4回目に反転するまでの時間よりも長くする。
【0007】
本発明の実施形態に係る高周波加熱装置は、前記二周波電源装置と、前記二周波電源装置から前記第1交流電流及び前記第2交流電流が入力されるコイルと、を備える。
【0008】
本発明の実施形態に係る高周波焼入装置は、前記高周波加熱装置と、前記高周波加熱装置によって加熱されたワークを冷却する冷却装置と、を備える。
【発明の効果】
【0009】
本発明の実施形態によれば、耐久性が高い二周波電源装置、高周波加熱装置及び高周波焼入装置を実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】
図1は、実施形態に係る高周波焼入装置を示すブロック図である。
【
図2】
図2は、実施形態に係る高周波加熱装置を示すブロック図である。
【
図3】
図3は、実施形態に係る二周波電源装置の電源部を示すブロック図である。
【
図4】
図4は、電源部のインバータを示す回路図である。
【
図5】
図5(a)は、第1整合器を示す回路図であり、
図5(b)は第2整合器を示す回路図である。
【
図6】
図6は、横軸に時間をとり、縦軸に電源部の出力電圧をとって、実施形態におけるインバータの動作を示すタイミングチャートである。
【
図7】
図7は、横軸に時間をとり、縦軸に電源部の出力電圧をとって、実施形態における電源部の動作を模式的に示すタイミングチャートである。
【
図8】
図8は、横軸に時間をとり、縦軸に電源部の出力電圧をとって、実施形態において第1出力期間から第1休止期間を経て第2出力期間に移行する動作を示すタイミングチャートである。
【
図9】
図9は、横軸に時間をとり、縦軸に電源部の出力電圧をとって、実施形態において第2出力期間から第2休止期間を経て第1出力期間に移行する動作を示すタイミングチャートである。
【
図10】
図10は、横軸に時間をとり、縦軸に電源部の出力電圧をとって、比較例において第1出力期間から第1休止期間を経て第2出力期間に移行する動作を示すタイミングチャートである。
【
図11】
図11は、横軸に時間をとり、縦軸に電源部の出力電圧をとって、比較例において第2出力期間から第2休止期間を経て第1出力期間に移行する動作を示すタイミングチャートである。
【
図12】
図12は、横軸に低周波電流の周波数をとり、縦軸に電源部の出力電圧の極性が4回目に反転するまでの時間Taをとって、本試験例における低周波電流の周波数と時間Taとの関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0011】
<実施形態>
以下、図面を参照しつつ、本発明の実施形態について説明する。
図1は、本実施形態に係る高周波焼入装置を示すブロック図である。
【0012】
図1に示すように、本実施形態に係る高周波焼入装置100においては、高周波加熱装置101と、冷却装置102が設けられている。高周波加熱装置101は、ワーク200を誘導加熱する。ワーク200は鋼からなる部材であり、例えば、複雑な形状の部材であり、例えば、歯車である。高周波加熱装置101は、ワーク200の焼入予定部分、例えば、表面の一部をオーステナイト変態点よりも高い温度まで加熱する。冷却装置102は例えば水冷装置であり、高周波加熱装置101によって加熱されたワーク200を急冷する。
【0013】
図2は、本実施形態に係る高周波加熱装置を示すブロック図である。
図2に示すように、本実施形態に係る高周波加熱装置101においては、二周波電源装置1と、コイル90が設けられている。コイル90はワーク200の近傍に配置され、二周波電源装置1から交流電流が供給される。これにより、コイル90はワーク200を誘導加熱する。
【0014】
二周波電源装置1においては、電源部10と、第1整合器60と、第2整合器70と、変成器80が設けられている。電源部10は、第1周波数の低周波電流(第1交流電流)と、第1周波数よりも高い第2周波数の高周波電流(第2交流電流)と、を交互に出力する。一例では、第1周波数は3kHzであり、第2周波数は80kHzである。
【0015】
第1整合器60及び第2整合器70は、電源部10の出力端子に接続されている。第1整合器60は低周波電流にマッチングされており、電源部10から出力された低周波電流を通過させる。第2整合器70は高周波電流にマッチングされており、電源部10から出力された高周波電流を通過させる。第1整合器60と変成器80との間には、共振用の整合コンデンサ69が設けられており、低周波電流の周波数(第1周波数)で共振するように調整されている。第2整合器70と変成器80との間にも、共振用の整合コンデンサ79が設けられており、高周波電流の周波数(第2周波数)で共振するように調整されている。変成器80は、第1整合器60の出力電流及び第2整合器70の出力電流が入力され、入力された電流の電圧及び電流を変換してコイル90に対して出力する。
【0016】
図3は、本実施形態に係る二周波電源装置の電源部を示すブロック図である。
図3に示すように、二周波電源装置1の電源部10においては、外部から入力された交流電流I
1を直流電流I
2に変換するコンバータ20と、コンバータ20から出力された直流電流I
2を任意の周波数の交流電流I
3に変換するインバータ30と、コンバータ20及びインバータ30を制御する制御部40と、が設けられている。また、電源部10には、インバータ30に接続された一対の出力端子11及び12が設けられている。なお、本明細書において、「直流」には、電流値が一定である狭義の直流の他に、脈流も含まれる。インバータ30は、コンバータ20から入力された直流電流I
2を上述の低周波電流及び高周波電流に変換して出力する。
【0017】
図4は、電源部のインバータを示す回路図である。
図4に示すように、インバータ30においては、スイッチング素子31~34が設けられている。スイッチング素子31~34は、例えば、IGBT(Insulated Gate Bipolar Transistor:絶縁ゲートバイポーラトランジスタ)である。なお、スイッチング素子31~34は、MOSFET(Metal-Oxide-Semiconductor Field-Effect Transistor:金属酸化物半導体電界効果トランジスタ)であってもよい。各スイッチング素子31~34には、スイッチング部分とダイオード部分とが設けられており、相互に並列に接続されている。スイッチング部分はゲートを含み、ゲートに印加された電位によって導通と非導通とが切り替わる。
【0018】
また、インバータ30には、高電位配線35及び低電位配線36が設けられている。高電位配線35にはコンバータ20から高電位側電位が供給され、低電位配線36にはコンバータ20から低電位側電位が供給される。
【0019】
スイッチング素子31は、高電位配線35(高電位側電位)と電源部10の出力端子11との間に接続されている。スイッチング素子32は、低電位配線36(低電位側電位)と出力端子11との間に接続されている。スイッチング素子33は、高電位配線35と電源部10の出力端子12との間に接続されている。スイッチング素子34は、低電位配線36と出力端子12との間に接続されている。
【0020】
スイッチング素子31~34の各ゲートは、制御部40に接続されている。制御部40はスイッチング素子31~34の各ゲートに所望の電位を印加することにより、スイッチング素子31~34のスイッチング部分の導通/非導通を相互に独立して切り替えることができる。
図4においては、出力端子11と出力端子12との間に負荷Lを接続している。負荷Lは、上述の第1整合器60、第2整合器70、変成器80及びコイル90を含んでいる。
【0021】
なお、高電位配線35と低電位配線36との間には、スイッチング素子31~34からなるブリッジ回路が複数個、並列に接続されていてもよい。これにより、コイル90に供給する電流を増加させることができる。
【0022】
図5(a)は、第1整合器を示す回路図であり、
図5(b)は第2整合器を示す回路図である。
図5(a)に示すように、第1整合器60においては、マッチングトランス61が設けられている。マッチングトランス61においては、切替スイッチ62と、一次コイル63と、二次コイル64と、鉄芯65が設けられている。一次コイル63は電源部10に接続されており、二次コイル64は変成器80に接続されている。切替スイッチ62は一次コイル63における電流が流れる部分の長さを選択することにより、一次コイル63のインピーダンスを制御する。一次コイル63と二次コイル64は鉄芯65に巻かれており、磁気的に相互に結合している。
【0023】
同様に、
図5(b)に示すように、第2整合器70においては、マッチングトランス71が設けられている。マッチングトランス71においては、切替スイッチ72と、一次コイル73と、二次コイル74と、鉄芯75が設けられている。一次コイル73は電源部10に接続されており、二次コイル74は変成器80に接続されている。切替スイッチ72は一次コイル73における電流が流れる部分の長さを選択することにより、一次コイル73のインピーダンスを制御する。一次コイル73と二次コイル74は鉄芯75に巻かれており、磁気的に相互に結合している。
【0024】
次に、本実施形態に係る高周波焼入装置の動作について説明する。
図6は、横軸に時間をとり、縦軸に電源部の出力電圧をとって、本実施形態におけるインバータの動作を示すタイミングチャートである。
図7は、横軸に時間をとり、縦軸に電源部の出力電圧をとって、本実施形態における電源部の動作を模式的に示すタイミングチャートである。
【0025】
図6及び
図7の縦軸が表す出力電圧は、出力端子12に対する出力端子11の電位である。
なお、
図7においては、電流の波形と周波数の切り替えのタイミングを同時に可視化するために、横軸の縮尺は正確でなくなっている。実際には、低周波電流が出力される第1出力期間T11、第1休止期間T12、高周波電流が出力される第2出力期間T13、及び、第2休止期間T14の長さは、各電流の周期に対して十分に長い。後述する
図8~
図11についても
図7と同様である。なお、電源部10の出力電圧は方形波であり、出力電流は正弦波である。
【0026】
図3に示すように、電源部10のコンバータ20には、交流電流I
1として、例えば、商用の交流電流、例えば、440Vの三相電流が入力される。コンバータ20は交流電流I
1を平滑化して直流電流I
2を生成し、インバータ30に対して出力する。直流電流I
2の最大電圧は例えば550Vである。
【0027】
図4及び
図6に示すように、電源部10の制御部40は、第1導通期T1、第1不通期T2、第2導通期T3及び第2不通期T4を、この順に繰り返し実現する。
【0028】
第1導通期T1においては、制御部40は、スイッチング素子31及びスイッチング素子34を導通させ、スイッチング素子32及びスイッチング素子33を導通させない。これにより、負荷Lには
図4に実線の矢印V1で示す順方向の電圧が印加される。
【0029】
第1不通期T2においては、制御部40は、スイッチング素子31、32、33及び34を全て導通させない。このとき、スイッチング素子32及び33のダイオード部分には出力電流が流れるため、負荷Lには破線の矢印V2で示す逆方向の電圧が印加される。
【0030】
第2導通期T3においては、制御部40は、スイッチング素子32及びスイッチング素子33を導通させ、スイッチング素子31及びスイッチング素子34を導通させない。これにより、負荷Lには
図4に破線の矢印V2で示す逆方向の電圧が印加される。
【0031】
第2不通期T4においては、制御部40は、スイッチング素子31、32、33及び34を全て導通させない。このとき、スイッチング素子31及び34のダイオード部分には出力電流が流れるため、負荷Lには実線の矢印V1で示す順方向の電圧が印加される。
【0032】
このようにして、
図3に示すように、インバータ30は交流電流I
3を出力する。そして、制御部40が第1導通期T1、第1不通期T2、第2導通期T3及び第2不通期T4からなるサイクルの周期を切り替えることにより、
図7に示すように、電源部10は低周波電流と高周波電流を交互に出力する。低周波電流を出力する第1出力期間T11の長さと、高周波電流を出力する第2出力期間T13の長さは、それぞれ任意に制御することができる。例えば、第1出力期間T11の長さと第2出力期間T13の長さの比は、1:1としてもよい。この場合、第1出力期間T11の長さと第2出力期間T13の長さは、それぞれ、50ms(ミリ秒)としてもよい。
【0033】
図2に示すように、低周波の整合コンデンサ69と第1整合器60のインダクタンスによる共振回路により第1周波数が選択されることにより、電源部10から出力された低周波電流が第1整合器60を通過する。同様に、高周波の整合コンデンサ79と第2整合器70のインダクタンスによる共振回路により第2周波数が選択されることにより、電源部10から出力された高周波電流が第2整合器70を通過する。第1整合器60から出力された低周波電流及び第2整合器70から出力された高周波電流は、変成器80に入力される。変成器80は、入力された電圧及び電流を変換して、コイル90に対して出力する。
【0034】
これにより、コイル90は、ワーク200を誘導加熱する。このとき、コイル90には低周波電流及び高周波電流が供給されるため、ワーク200が複雑な形状であっても、焼入予定部分を均一に加熱することが可能である。例えば、ワーク200が歯車である場合、低周波電流によってワーク200の歯底を加熱し、高周波電流によってワーク200の歯先を加熱する。
【0035】
図1に示すように、高周波加熱装置101がワーク200の焼入予定部分をオーステナイト変態点よりも高い温度まで加熱した後、冷却装置102がワーク200を急冷する。これにより、ワーク200の焼入予定部分に焼入処理が施される。
【0036】
次に、電源部10が第1出力期間T11、第1休止期間T12、第2出力期間T13及び第2休止期間T14を切り替える方法について、より詳細に説明する。
図8は、横軸に時間をとり、縦軸に電源部の出力電圧をとって、本実施形態において第1出力期間T11から第1休止期間T12を経て第2出力期間T13に移行する動作を示すタイミングチャートである。
図9は、横軸に時間をとり、縦軸に電源部の出力電圧をとって、本実施形態において第2出力期間T13から第2休止期間T14を経て第1出力期間T11に移行する動作を示すタイミングチャートである。
【0037】
図8に示すように、電源部10の制御部40は、第1出力期間T11を実行する。これにより、電源部10は低周波電流を出力する。次に、制御部40は第1出力期間T11を終了させる。第1出力期間T11の最後は第1導通期T1(
図6参照)とする。第1導通期T1において、負荷Lには
図4に実線の矢印V1で示す順方向の電圧が印加される。
【0038】
次に、制御部40は、第1休止期間T12を開始する。すなわち、スイッチング素子31、32、33及び34を全て非導通とする。このとき、スイッチング素子のスイッチングに対して、電流の位相がわずかに遅れているため、第1休止期間T2の直後は負荷Lに第1導通期T1と同じ方向に電流が流れようとする。このため、スイッチング素子32及び33のダイオード部分に電流が流れ、一瞬電圧が反転する。これにより、インバータ30の出力電圧の極性は、第1休止期間T12の開始直後のタイミングtm1において1回目に反転し、負荷Lには
図4に矢印V2で示す逆方向の電圧が印加される。
【0039】
その後、共振による振動電流が反転し、スイッチング素子31及びスイッチング素子34のダイオード部分34dを通って電流が流れる。これにより、タイミングtm2において、インバータ30の出力電圧の極性は2回目に反転し、負荷Lには矢印V1で示す順方向の電圧が印加される。
【0040】
第1休止期間T12に入った直後は、共振が持続しているため、振動電流が低周波の共振周波数と同程度で振動する。電流の振動により、電流の方向が反転し、スイッチング素子32及び33のダイオード部分を流れるようになる。これにより、出力電圧の極性がタイミングtm3において3回目に反転する。
【0041】
第1出力期間T11において出力していた低周波電流は周波数が低いため、第1休止期間T12に入った後、共振による振動が持続し難く、次の極性の反転は共振周波数より長くなりやすい。電流の振動が持続しているため、再び電流の方向が反転し、スイッチング素子31及び34のダイオード部分を流れる。これにより、出力電圧の極性もタイミングtm4において4回目に反転する。タイミングtm3とタイミングtm4との間においては、負荷Lに逆方向の電圧が印加される。
【0042】
以後、負荷Lに流れる電流は、振動しながら減衰する。これに伴い、負荷Lに印加される電圧、すなわち、電源部10の出力電圧も、振動しながら減衰する。タイミングtm4より後のタイミングtm5において、電源部10の出力電圧の極性は5回目に反転する。タイミングtm4とタイミングtm5との間においては、負荷Lに順方向の電圧が印加される。
【0043】
そして、本実施形態においては、制御部40は、第1休止期間T12の長さを、第1出力期間T11を第1休止期間T12に切り替えてから、電源部10の出力電圧の極性が4回目に反転するタイミングtm4までの時間Taよりも長くする。より好ましくは、制御部40は、第1休止期間T12の長さを、第1出力期間T11を第1休止期間T12に切り替えてから、電源部10の出力電圧の極性が5回目に反転するタイミングtm5までの時間Tbよりも長くする。すなわち、T12>Taとし、より好ましくは、T12>Tbとする。
【0044】
次に、制御部40は、第1休止期間T12を終了した後、第2出力期間T13を実行する。これにより、電源部10から高周波電流が出力される。
【0045】
次に、
図9に示すように、制御部40は第2出力期間T13を終了させ、第2休止期間T14を開始する。すなわち、スイッチング素子31、32、33及び34を全て非導通とする。第2休止期間T14の長さについても、第1休止期間T12と同様に、第2出力期間T13を第2休止期間T14に切り替えてから、電源部10の出力電圧の極性が4回目に反転するタイミングまでの時間よりも長くする。すなわち、T14>Taとする。より好ましくは、制御部40は、第2休止期間T14の長さを、第2出力期間T13を第2休止期間T14に切り替えてから、電源部10の出力電圧の極性が5回目に反転するタイミングまでの時間よりも長くする。すなわち、T14>Tbとする。なお、第1休止期間T12と比較して、第2出力期間T13において出力される高周波電流の周波数は高いため、振動電流の周波数も高く、上述の条件を満たしやすい。制御部40は、第2休止期間T14を終了させた後、再び、第1出力期間T11を開始する。第1出力期間T11の最初は第2導通期T3(
図6参照)とする。第2導通期T3において、負荷Lには逆方向の電圧が印加される。但し、これには限定されず、第1出力期間T11の最初は第1導通期T1としてもよい。
【0046】
本実施形態によれば、第1休止期間T12の長さを、第1出力期間T11を第1休止期間T12に切り替えてから、電源部10の出力電圧の極性が4回目に反転するタイミングtm4までの時間Taよりも長くすることにより、再び、第1出力期間T11を開始したときに、サージ電流の発生を抑制できる。これにより、サージ電流に起因してスイッチング素子31~34が損傷を受けることを抑制できる。この結果、本実施形態に係る二周波電源装置1は耐久性が高い。
【0047】
また、第1休止期間T12の長さを、第1出力期間T11を第1休止期間T12に切り替えてから、電源部10の出力電圧の極性が5回目に反転するタイミングtm5までの時間Tbよりも長くすることにより、その後の第1出力期間T11におけるサージ電流の発生をより効果的に抑制することができる。この結果、二周波電源装置1の耐久性をより向上できる。
【0048】
同様に、第2休止期間T14の長さを、第2出力期間T13を第2休止期間T14に切り替えてから、電源部10の出力電圧の極性が4回目に反転するタイミングまでの時間よりも長くすることにより、再び、第2出力期間T13を開始したときに、サージ電流の発生を抑制できる。これにより、サージ電流に起因してスイッチング素子31~34が損傷を受けることを抑制できる。
【0049】
また、第2休止期間T14の長さを、第2出力期間T13を第2休止期間T14に切り替えてから、電源部10の出力電圧の極性が5回目に反転するタイミングまでの時間よりも長くすることにより、その後の第2出力期間T13におけるサージ電流の発生をより効果的に抑制することができる。
【0050】
<比較例>
次に、比較例について説明する。
図10は、横軸に時間をとり、縦軸に電源部の出力電圧をとって、本比較例において第1出力期間T11から第1休止期間T12を経て第2出力期間T13に移行する動作を示すタイミングチャートである。
図11は、横軸に時間をとり、縦軸に電源部の出力電圧をとって、本比較例において第2出力期間T13から第2休止期間T14を経て第1出力期間T11に移行する動作を示すタイミングチャートである。
なお、
図11には、電源部10のインバータ30に流れるサージ電流も破線で示している。
【0051】
図10に示すように、本比較例においては、第1休止期間T12の長さを、第1出力期間T11を第1休止期間T12に切り替えてから、4回目に反転するまでに時間Ta(
図8参照)よりも短くしている。すなわち、第1休止期間T12の開始後、インバータ30の出力電圧の極性が3回目に反転するタイミングtm3の後、4回目に反転するタイミングtm4(
図8参照)の前に、第2出力期間T13を開始している。
【0052】
この場合、
図11に示すように、第2休止期間T14の後、第1出力期間T11を第2導通期T3(
図6参照)から開始したときに、
図11に破線で示すサージ電流Isが電源部10のインバータ30に流れる。これにより、インバータ30を構成するスイッチング素子31~34が損傷する可能性がある。
【0053】
以下、本比較例においてサージ電流が発生するメカニズムについて説明する。
なお、以下で説明するメカニズムは推定されたものであり、確定されたものではない。
【0054】
図6及び
図10に示すように、低周波電流を出力する第1出力期間T11においては、第2出力期間T13と比較して、第1導通期T1及び第2導通期T3のそれぞれの時間が長いため、第1導通期T1及び第2導通期T3が実行されるたびに、第1整合器60のマッチングトランス61の鉄芯65及び第2整合器70のマッチングトランス71の鉄芯75が偏磁されて磁気飽和に近い状態となる。高周波用のマッチングトランス71の鉄芯75は、低周波用のマッチングトランス61の鉄芯65よりも断面積が小さいため、より磁気飽和しやすい。第1出力期間T11の最後に第1導通期T1を実行した場合は、鉄芯65が順方向に偏磁された状態で第1出力期間T11が終了する。
【0055】
また、本比較例においては、第1休止期間T12が短く、偏磁が十分に解消される前に第2出力期間T13に移行する。第2出力期間T13においては、第1導通期T1と第2導通期T3が同じ時間で交互に切り替わり、両方の極性には同じ時間、同じ電圧が印加されるため、マッチングマッチングトランスの偏磁はほとんど解消されない。また、第2出力期間T13に続く第2休止期間T14においては、マッチングトランス61及び71には偏った電圧が印加されるものの、第2出力期間T13における周波数が高いため、偏った電圧が印加される時間は短時間で終わる。第2休止期間T14の開始直後の振動電流による電圧印加期間に対して、第2休止期間T14は十分に長いため、第2休止期間T14における偏磁の度合いは小さい。但し、第1休止期間T12において発生した偏磁は解消されない。
【0056】
そして、
図11に示すように、第1出力期間T11が第2導通期T3から開始されると、逆方向の偏磁が解消されていない鉄芯65及び鉄芯75に更に逆方向の電圧が印加されて、鉄芯65又は鉄芯75が磁気飽和する。これにより、マッチングトランス61又は71は鉄芯がない状態と同じになり、電気的にはほぼ1次巻線のみの状態なる。それによりインピーダンスが急激に低下し、電源の出力電流が急激に増加する。そのため、インバータ30を構成するスイッチング素子31~34に高いサージ電圧が発生し、大きなサージ電流Isが流れる。この結果、インバータ30を構成するスイッチング素子31~34が損傷する。
【0057】
第1休止期間T12においては、共振による振動電流がスイッチング素子32及び33の各ダイオード部分に流れることにより、負荷Lに逆方向の電圧が印加される。振動電流が弱まることにより振動の周期が長くなるため、タイミングtm2とタイミングtm3の間の期間よりも、タイミングtm3とタイミングtm4の間の期間の方が長くなる。上述の如く、タイミングtm3とタイミングtm4の間の期間においては、負荷Lに逆方向の電圧が印加されるため、鉄芯65及び75は逆方向側に偏磁してしまう。本実施形態においては、
図8に示すように、第1休止期間T12を時間Taよりも長くしている。これにより、第1休止期間T12の終期がタイミングtm4よりも後になるため、タイミングtm4以後に振動電流により負荷Lに順方向の電圧が印加され、逆方向側の偏磁が解消される。したがって、
図9に示すように、次の第1出力期間T11が第2導通期T3から開始されても、鉄芯65が磁気飽和せず、サージ電流Isが流れない。
【0058】
なお、サージ電流を抑制するためには、第1休止期間T12の上限は特に設定されないが、第1休止期間T12を長くするほど、コイル90に電流が供給されない時間が増えるため、加熱効率は低下する。したがって、加熱効率を確保するためには、第1休止期間T12は短い方が好ましい。
【0059】
<試験例>
次に、本実施形態の試験例について説明する。
本試験例においては、前述の実施形態に係る二周波電源装置1を実際に作製し、低周波電流の周波数を異ならせて動作させた。そして、電源部10の出力電圧をモニターし、第1出力期間T11を第1休止期間T12に切り替えてから、電源部10の出力電圧の極性が4回目に反転するまでの時間Taを測定した。
【0060】
図12は、横軸に低周波電流の周波数をとり、縦軸に電源部10の出力電圧の極性が4回目に反転するまでの時間Taをとって、本試験例における低周波電流の周波数と時間Taとの関係を示すグラフである。
【0061】
図12に示すように、低周波電流の周波数が低いほど、時間Taは長くなった。これは、周波数が低いほど第1導通期T1と第2導通期T3が長くなるため、共振周波数による出力電流の周波数も低くなる。それにより、電流が振動する周期が長くなるため、第1休止期間T12に入ったときに持続する電流振動が弱くなった状態では、電流の振動周期が長くなる。そのため、4回目に反転するまでの時間Taが長くなるためと推定される。一方、第1導通期T1又は第2導通期T3が長いほど、鉄芯65及び75の偏磁が強くなり、偏磁の解消に必要とされる逆電圧の印加時間は長くなる。このため、第1休止期間T12を時間Taよりも長くすることにより、低周波電流の周波数によらず、安定して偏磁を解消して鉄芯65及び75の磁気飽和を抑制することができ、磁気飽和によるサージ電流を抑制できる。
【0062】
前述の実施形態は、本発明を具現化した例であり、本発明はこの実施形態には限定されない。例えば、前述の実施形態において、いくつかの構成要素を追加、削除又は変更したものも本発明に含まれる。
【符号の説明】
【0063】
1:二周波電源装置
10:電源部
11、12:出力端子
20:コンバータ
30:インバータ
31、32、33、34:スイッチング素子
35:高電位配線
36:低電位配線
40:制御部
60:第1整合器
61:マッチングトランス
62:切替スイッチ
63:一次コイル
64:二次コイル
65:鉄芯
69:整合コンデンサ
70:第2整合器
71:マッチングトランス
72:切替スイッチ
73:一次コイル
74:二次コイル
75:鉄芯
79:整合コンデンサ
80:変成器
90:コイル
100:高周波焼入装置
101:高周波加熱装置
102:冷却装置
200:ワーク
I1:交流電流
I2:直流電流
I3:交流電流
Is:サージ電流
L:負荷
T1:第1導通期
T2:第1不通期
T3:第2導通期
T4:第2不通期
T11:第1出力期間
T12:第1休止期間
T13:第2出力期間
T14:第2休止期間
Ta:第1出力期間を第1休止期間に切り替えてから電源部の出力電圧の極性が4回目に反転するまでの時間
Tb:第1出力期間を第1休止期間に切り替えてから電源部の出力電圧の極性が5回目に反転するまでの時間
tm1、tm2、tm3、tm4、tm5:タイミング