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特開2023-146472螺子キャップ用ポリプロピレン組成物
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  • 特開-螺子キャップ用ポリプロピレン組成物 図1
  • 特開-螺子キャップ用ポリプロピレン組成物 図2
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023146472
(43)【公開日】2023-10-12
(54)【発明の名称】螺子キャップ用ポリプロピレン組成物
(51)【国際特許分類】
   B65D 41/34 20060101AFI20231004BHJP
【FI】
B65D41/34 100
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022053666
(22)【出願日】2022-03-29
(71)【出願人】
【識別番号】000003768
【氏名又は名称】東洋製罐グループホールディングス株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】000228442
【氏名又は名称】日本クロージャー株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100075177
【弁理士】
【氏名又は名称】小野 尚純
(74)【代理人】
【識別番号】100113217
【弁理士】
【氏名又は名称】奥貫 佐知子
(72)【発明者】
【氏名】柴田 幸樹
(72)【発明者】
【氏名】山田 俊樹
(72)【発明者】
【氏名】宍戸 一樹
(72)【発明者】
【氏名】中川 征
【テーマコード(参考)】
3E084
【Fターム(参考)】
3E084BA01
3E084CA01
3E084CB01
3E084CC05
3E084FB01
3E084GA01
3E084GB01
3E084JA20
(57)【要約】      (修正有)
【課題】耐衝撃性に優れていると同時に、開封性が容易であり、しかも高い密封力を示すTEバンド付き螺子キャップの成形に適した樹脂材料を提供する。
【解決手段】ポリプロピレンをマトリックスとし、該ポリプロピレン中にエラストマー成分が分散している構造のインパクトポリプロピレンからなり、前記エラストマー成分を、前記材料当り10質量%以上、20質量%未満の量で含み、シャルピー衝撃強度が8.9kJ/m以上の範囲にあることを特徴とする螺子キャップ用ポリプロピレン組成物。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリプロピレンをマトリックスとし、該ポリプロピレン中にエラストマー成分が分散している構造のインパクトポリプロピレンを含む螺子キャップ用ポリプロピレン組成物において、
該組成物は、前記エラストマー成分を10質量%以上、20質量%未満の量で含み、
シャルピー衝撃強度が8.9kJ/m以上の範囲にあることを特徴とする螺子キャップ用ポリプロピレン組成物。
【請求項2】
前記ポリプロピレンの数平均分子量Mnが60,000以下の範囲にあり、且つ分子量分布Mw/Mnが3.0~6.5の範囲にある請求項1に記載の螺子キャップ用ポリプロピレン組成物。
【請求項3】
前記エラストマー成分の重量平均分子量Mwが400,000以上の範囲にある請求項2に記載の螺子キャップ用ポリプロピレン組成物。
【請求項4】
230℃でのMFRが、5g/10min以上である請求項3に記載の螺子キャップ用ポリプロピレン組成物。
【請求項5】
頂板部と該頂板部の周縁から降下した筒状側壁とから形成されているキャップ本体と、破断可能な複数のブリッジにより該筒状側壁に連結されているタンパーエビデントバンドとを含み、
前記筒状側壁の内面には、容器口部の外面と係合する螺条を備えており、前記タンパーエビデントバンドの内面には、容器口部に形成されている顎部の下面と係合し得る係合部材が形成されている螺子キャップにおいて、
前記キャップ本体及びタンパーエビデントバンドは、前記ブリッジも含めて、請求項1に記載の螺子キャップ用ポリプロピレン組成物により一体的に成形されていることを特徴とする螺子キャップ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、螺子キャップの成形に使用されるポリプロピレン組成物に関するものであり、より詳細には、不正使用防止及び品質保証のための機能を有するタンパーエビデントバンド(以下、TEバンドと呼ぶことがある)を備えた螺子キャップの成形に使用されるポリプロピレン組成物に関するものであり、さらには、該組成物により成形された螺子キャップにも関する。
【背景技術】
【0002】
螺子キャップは、コンプレッション成形や射出成形等の成形手段で成形されるものであり、成形材料としては、ポリエチレンやポリプロピレンが一般に使用されている。中でも、ポリプロピレンにより成形されたキャップは、耐熱性や耐圧性、剛性が高い。
【0003】
ところで、螺子キャップでは、不正使用防止機能及び品質保証機能を持たせるためにTEバンドが、キャップ本体の下端に破断可能なブリッジを介して設けられることが多い。容器口部に装着されている螺子キャップを旋回(開栓)して容器口部から取り除いたとき、容器口部から取り除かれたキャップからは、開栓に際してのブリッジ破断によってTEバンドが切り離されている。即ち、キャップからTEバンドが切り離されていることから、一般の消費者は、このキャップが開封されたという事実を認識することができ、このようにしてキャップの開封履歴を一般消費者が認識することにより、容器内容物の入れ替えなどの不正使用を防止することができ、さらには内容物の品質保証機能をも示すのである。
【0004】
このようなTEバンド付き螺子キャップでは、耐衝撃性や強度などの機械的特性に加え、キャップの開栓性やブリッジ切れなどの性能が要求される。このような性能をも備えたキャップの成形に適した樹脂材料として、特許文献1には、プロピレン系樹脂及び造核剤を含み、該プロピレン系樹脂が、ポリプロピレンの単独重合体とエチレン・プロピレン系重合体との反応ブレンド樹脂であるコンプレッション成形用樹脂組成物が提案されている。
【0005】
特許文献1のコンプレッション成形用樹脂組成物は、所謂インパクトポリプロピレン(インパクトPP)或いはブロックポリプロピレン(ブロックPP)と呼ばれるものであり、開封性及びブリッジ切れが良好なキャップを成形できるというものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2014-91781号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、インパクトPPにより形成されるキャップについては、キャップの開封性(ブリッジ切れ)については検討されているものの、キャップに要求される密封性についてはほとんど検討されていなかったのが実情である。
【0008】
即ち、TEバンド付きの螺子キャップでは、容器口部に装着されたキャップを開栓方向に旋回し、螺子係合を開始し、この後、TEバンドの係合突起が容器口部の顎部の下面に当接したとき、TEバンドを繋いでいるブリッジに応力が加わり、さらに開栓方向に旋回することによりブリッジが破断し、さらに開栓方向に旋回を続けていくことにより、容器口部からキャップが外され、このキャップからはTEバンドが切り離されたものとなる。
【0009】
従って、ブリッジを破断するときのトルク(2ndトルク)が小さければ、ブリッジが切れ易く、開封性が良好であるということができる。しかしながら、容器口部との螺子係合を解除するための開栓を開始するときのトルク(1stトルク)に関しては、インパクトPP製キャップでは評価されていない。
例えば、特許文献1では、一定の形状の試料片を成形し、この試料片に切り込みを入れ、一定の引張速度で引っ張ったときの切込み部(ブリッジ部)での伸びによりブリッジ切れを評価し、開封性を判定している。即ち、キャップに要求される密封性は、上記の1stトルクに関連しており、1stトルクが大きいほど、密封性が良好ということになるが、キャップを成形せずにブリッジ切れ(開封性)を判定しているため、特許文献1からは密封性を判断することができない。
【0010】
よって、本発明の目的は、耐衝撃性に優れていると同時に、開封性が容易であり、しかも高い密封力を示すTEバンド付き螺子キャップの成形に適した樹脂材料を提供することにある。
本発明の他の目的は、上記樹脂材料から成形されたTEバンド付き螺子キャップを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明によれば、ポリプロピレンをマトリックスとし、該ポリプロピレン中にエラストマー成分が分散している構造のインパクトポリプロピレンを含む螺子キャップ用ポリプロピレン組成物において、
該組成物は、前記エラストマー成分を10質量%以上、20質量%未満の量で含み、
シャルピー衝撃強度が8.9kJ/m以上の範囲にあることを特徴とする螺子キャップ用ポリプロピレン組成物が提供される。
【0012】
本発明のポリプロピレン組成物においては、
(1)前記ポリプロピレンの数平均分子量Mnが60,000以下の範囲にあり、且つ分子量分布Mw/Mnが3.0~6.5の範囲にあること、
(2)前記エラストマー成分の重量平均分子量Mwが400,000以上の範囲にあること、
(3)230℃でのMFRが、5g/10min以上であること、
が好適である。
【0013】
本発明によれば、また、頂板部と該頂板部の周縁から降下した筒状側壁とから形成されているキャップ本体と、破断可能な複数のブリッジにより該筒状側壁に連結されているタンパーエビデントバンドとを含み、
前記筒状側壁の内面には、容器口部の外面と係合する螺条を備えており、前記タンパーエビデントバンドの内面には、容器口部に形成されている顎部の下面と係合し得る係合部材が形成されている螺子キャップにおいて、
前記キャップ本体及びタンパーエビデントバンドは、前記ブリッジも含めて、上記に記載の螺子キャップ用ポリプロピレン組成物により一体的に成形されていることを特徴とする螺子キャップが提供される。
【発明の効果】
【0014】
本発明の螺子キャップ用ポリプロピレン組成物は、インパクトPPからなるため、エラストマー成分を含有しており、耐衝撃強度が高く、例えばシャルピー衝撃強度が8.9kJ/m以上である。しかも、このインパクトPPは、材料当りのエラストマー含量が10質量%以上、20質量%未満に調整されているため、TEバンド付き螺子キャップを成形したとき、従来のブリッジ形状等を設計変更することなく該キャップの2ndトルクが低減可能であり、ブリッジ切れが良好であるため、開封性に優れている。
【0015】
さらに、ポリプロピレンの数平均分子量Mnが60,000以下であり、且つ分子量分布Mw/Mnが3.0~6.5の範囲に調整されているポリプロピレン組成物から成形されるTEバンド付き螺子キャップは、1stトルクよりも2ndトルクが低いという性質を示し、この結果、ブリッジ切れが良く、開封性に優れていると同時に、密封力も良好であるという性質を示す。
【0016】
このように本発明のポリプロピレン組成物は、TEバンド付き螺子キャップの成形に適用されたとき、優れた性能を発揮する。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1】本発明のポリプロピレン組成物により成形されるTEバンド付き螺子キャップの半断面の側面図。
図2図1の螺子キャップが装着される容器口部を示す断面図。
図3】実施例1のポリプロピレン組成物により成形されたTEバンド付き螺子キャップについて測定された開栓トルクの変化を示す曲線。
【発明を実施するための形態】
【0018】
<TEバンド付き螺子キャップの形態>
図1を参照して、本発明のポリプロピレン組成物から成形される螺子キャップ1は、それに限定されるものではないが、内容物を80乃至95℃程度に加熱して容器に充填する所謂ホットパック充填方式の場合に好適に使用し得るものであり、キャップ本体3とTEバンド(タンパーエビデントバンド)5とから形成されている。
【0019】
キャップ本体3は、頂板部7と、頂板部7の周縁から降下している筒状側壁9とを備えており、TEバンド5は、筒状側壁9の下端に、破断可能なブリッジ11により連結されている。ブリッジ11は、周方向に間隔を置いて、複数本設けられている。
即ち、このような形態の螺子キャップ1は、本発明のポリプロピレン組成物を用いての射出成形或いはコンプレッション成形により、キャップ本体3とTEバンド5とはブリッジ11を介して一体に連なった形で成形される。
【0020】
図1と共に図2を参照して、上記の螺子キャップ1が装着される容器口部の形態について説明すると、この口部50の外面には、キャップ係合用の螺条51が形成されており、螺条51の下方には、螺条51よりも若干大径の顎部(ビード)53が形成されており、最下方には、容器の搬送や各種治具の固定などのためにサポートリング55が形成されている。このような容器口部50を備えた容器は、各種の熱可塑性樹脂を用いてのブロー成形、押出成形などにより成形されるが、一般的には、ポリエチレン、ポリプロピレンなどのオレフィン系樹脂や、ポリエチレンテレフタレートに代表されるポリエステル樹脂により成形される。
【0021】
上記のような容器口部50に装着される螺子キャップ1において、キャップ本体3の筒状側壁9の内面には、容器口部50の外面に設けられている螺条51と螺子係合する螺条13が設けられている。
即ち、キャップ本体3を容器口部50に被せ、閉栓方向に旋回していくと、螺条13と螺条51との螺子係合が進行し、キャップ本体3が容器口部50の外面に沿って降下し、筒状側壁9の下端に連なるTEバンド5は、顎部53を乗り越えていくわけである。
【0022】
一方、キャップ本体3の頂板部7の内面には、シール用のインナーリング15が形成されている。このインナーリング15は頂板部7の内面から下方に延出しており、その外周面は螺子キャップ1の中心軸線Aに対して下方に向かって半径方向外方に傾斜して延出し、次いで上記中心軸線Aに対して下方に向かって半径方向内方に傾斜して延出している。従って、インナーリング15の外周面には傾斜方向が逆転する屈折部B(シールポイント)が存在する。
即ち、このインナーリング15は、若干外方に膨出した形態を有しており、キャップ本体3を閉栓方向に旋回して降下させたとき、インナーリング15の外周面の屈折部Bが容器口部50の内周面に強固に密着し、これにより、容器の密封が確保されるようになっている。
【0023】
上記のインナーリング15の外方には、インナーリング15の延出長さよりも短く、インナーリング15の延出長さの略3分の1程度のアウターリング17が形成されている。アウターリング17の内周面は、上記中心軸線Aに対して下方に向かって半径方向内方に傾斜して直線状に延出し、次いで下方に向かって半径方向外方に傾斜して略弧状に延びている。アウターリング17の外周面は、上記中心軸線Aに対して下方に向かって半径方向内方に傾斜して直線状に延びている。
また、アウターリング17とインナーリング15との間の位置には、周状小突起19が設けられている。周状小突起19の突出量は、インナーリング15及びアウターリング17の延出長さと比べると相当小さく、インナーリング15及びアウターリング17は半径方向内方及び外方に撓む比較的大きな可撓性を有するが、周状小突起19は実質上撓み性を有しない。
即ち、キャップ本体3(筒状側壁9)を閉栓方向に回転させていくと、容器口部50の上方部分は、インナーリング15とアウターリング17との間の空間に侵入し挟み込まれるような形態となり、インナーリング15の外周面の屈折部Bが容器口部50の内周面に密着することに加えて、アウターリング17の内周面が容器口部50の上部外周面に密着し、さらに、周状小突起19は容器口部50の上端面に当接することとなる。従って、アウターリング17及び周状小突起19により、インナーリング15により実現される密封性が補強されるのである。このような所謂ホットパック充填方式にて適宜採用される密封機構の詳細については、例えば既に公開されている特開2002-173157公報を参照されたい。
【0024】
さらに、キャップ本体3(筒状側壁9)に連なるTEバンド5の内周面には係合部材21が設けられている。図1の実施形態における係合部材21は、周方向に間隔をおいて配設された複数個、例えば8個、のフラップ片21から構成されている。フラップ片21の各々は、TEバンド5の内周面に接続されている基縁から半径方向内方に向かって上方に傾斜して突出せしめられている。
即ち、キャップ本体3(筒状側壁9)を閉栓方向に回転させて降下させていくと、TEバンド5のフラップ片21は、顎部53を乗り越え、インナーリング15、アウターリング17及び周状小突起19による密封が完成した状態(閉栓が完了した状態)では、TEバンド5のフラップ片21は顎部53の下側に位置することとなる。なお、図示の実施形態では係合部材21としてフラップ片21を構成しているが、フラップ片21に代えて他の適宜の形態の突出片、突条又は突起等から構成することもできる。
【0025】
このようにして閉栓が完了した後、キャップ本体3(筒状側壁9)を開栓方向に旋回していくと、螺条13と螺条51との螺子係合が解除されていき、キャップ本体3が容器口部50の外面に沿って上昇し、これに伴い、TEバンド5の係合部材21が顎部53の下面に係合し、この結果、TEバンド5の上昇が制限される。従って、キャップ本体3(筒状側壁9)の開栓方向への旋回を続行すると、ブリッジ11に応力が集中し、ブリッジ11が破断することとなる。即ち、TEバンド5はキャップ本体3から切り離される。このようにして、キャップ本体3が容器口部50から取り外されると、当該キャップ本体3には、TEバンド5が切り離されていることから、当該キャップ本体3の開封履歴を認識することができ、これにより、いたずら等の不正使用が防止され、さらには、容器内物の品質保証機能をも実現するわけである。
【0026】
<ポリプロピレン組成物>
本発明のポリプロピレン組成物は、インパクトポリプロピレン(インパクトPP)と呼ばれるものであり、ブロックPPと呼ばれることもある。即ち、このインパクトPPは、ポリプロピレンをマトリックスとし、該ポリプロピレン中にエラストマー成分が分散している構造を有する。
【0027】
このようなインパクトPPにおいて、マトリックスであるポリプロピレンは、ホモポリプロピレン、或いはランダムポリプロピレン(少量のエチレンが共重合されたポリプロピレン)であるが、このようなポリプロピレンのマトリックス中にエラストマー成分が分散されているため、耐衝撃性が高められており、例えばシャルピー衝撃強度が8.9kJ/m以上、特に8.9~10.0の範囲にある。これにより、成形体である螺子キャップが高所からの落下或いは他の部品等の衝突などによる破損が有効に回避される。
尚、シャルピー衝撃強度は、後述する実施例に示されているように、JISK7111-1/1eAにしたがって測定される。
【0028】
上記のエラストマー成分としては、エチレン・プロピレン共重合体(EPR)、スチレン・ブタジエン共重合体(SBR)、エチレン・プロピレン・ブテン共重合体(EPBR)などがあるが、特に耐衝撃強度を向上させるという点で、EPRが好適である。このようなEPRにおいて、エチレンとプロピレンとの比率E/Pは、通常、30/70~40/60質量%の範囲にある。
【0029】
本発明において、上記のエラストマー含量は、マトリックスである前記材料当り、10質量%以上、20質量%未満の範囲、特に10~15質量%の範囲にある。これにより、剛性を損なわず、適度なゴム的性質が発現し、成形されるキャップのブリッジ切れを確保しながら耐衝撃性を向上させることができる。例えば、このエラストマー含量が少ないと、ゴム的性質が低下する結果、耐衝撃性が損なわれ、例えば、シャルピー衝撃強度が8.9kJ/mを下回ってしまう。また、エラストマー含量が多すぎると、剛性が損なわれ、例えば、このポリプロピレン組成物により成形された螺子キャップ1は、変形し易くなってしまい、ブリッジ切れが悪く、ブリッジ11が破断し難くなったり、開栓時における1stトルクが低くなり、密封力も低下してしまう。
【0030】
尚、上記のエラストマー含量は、沸騰キシレンによる抽出により、キシレン可溶部として測定することができる。従って、インパクトPP中のマトリックス成分であるポリプロピレンは、キシレン不溶部となる。
【0031】
さらに、上記エラストマー成分(即ち、キシレン可溶部)の重量平均分子量Mw(GPCによるポリスチレン換算での測定値)は、通常、400,000以上の範囲、特に500,000~800,000の範囲にあることが好ましい。この重量平均分子量Mwが低いと、エラストマーとしての特性が反映され難くなり、耐衝撃強度などが低下する傾向がある。また、エラストマー成分の重量平均分子量Mwが過度に大きい場合には、成形性が不満足になることもある。
【0032】
また、上述したインパクトPP中のポリプロピレン(キシレン不溶部)についての分子量特性もGPCによるポリスチレン換算で算出することができるが、本発明において、かかるキシレン不溶部の数平均分子量Mnは、60,000以下、特に20,000~40,000の範囲にあり、且つ分子量分布Mw/Mnが3.0~6.5、特に5.0~6.0の範囲にあることが好ましい。即ち、マトリックスのポリプロピレンがこのような分子量特性を有していることにより、良好なキャップ成形性を確保することができると同時に、成形されたキャップの開栓時のトルクを測定すると、図3に示すようなトルク曲線が得られる。
【0033】
即ち、図3は、後述する実施例1のTEバンド付き螺子キャップについての開栓トルクを開栓角度に対してプロットして得られる曲線であるが、開栓開始時の1stトルクが、ブリッジ切れを生じるときの2ndトルクよりも大きいという特有の傾向を示すのである。即ち、本発明のインパクトPPから成形されるTEバンド付き螺子キャップは、適度な剛性を示すため、ブリッジ切れが良好であるが、ブリッジを破断するトルク(2ndトルク)よりも、開栓開始時の1stトルクの方が高いという傾向を示すのである。このことは、本発明のインパクトPPを用いてTEバンド付き螺子キャップを成形することにより、キャップブリッジ切れのための2ndトルクを小さくして良好なブリッジ切れを確保すると同時に、密封に関係する1stトルクを大きくし、高い密封力の確保が可能となることを意味する。本発明において、図3のようなトルク曲線が発現する理由は解明されていないが、おそらく、マトリックスとなるポリプロピレンがシャープな分子量分布を示し、しかも弾性を示すエラストマー成分との量的バランスが保持され、剛性や弾性のバラつきが非常に少ないことが要因の一つではないかと、本発明者等は推定している。
【0034】
従って、本発明のポリプロピレン組成物(インパクトPP)によりTEバンド付き螺子キャップ1を成形するとき、ブリッジ11の個数や厚み、さらにはブリッジ11の個々の幅などを、開栓に際してブリッジ切れがスムーズに生じるように設定した場合において、1stトルクを高くし、容易に密封が損なわれないように設定することが可能となる。
【0035】
また、本発明において、上述したインパクトPPには、エラストマー成分による耐衝撃性向上効果等が損なわれない限りの量、例えば材料当り1質量%未満の量で造核剤を配合することもできる。このような造核剤の配合により、結晶性が発現し、例えばDSCによる10℃/minでの冷却曲線において、120℃以上に結晶化ピークが発現し、これにより耐熱性が向上し、例えば、加熱加温時での熱変形を有効に抑制することができる。
【0036】
上記の造核剤としては、これに限定されるものではないが、ソルビトール化合物、カルボン酸の金属塩、芳香族リン酸エステルなどの有機系化合物や、シリカ、タルク、マイカなどの無機化合物が代表的である。
【0037】
さらに、上述したインパクトPPのMFRは、キャップへの成形性の観点から、通常、230℃でのMFRが、5g/10min以上、特に7~15g/10minの範囲にあることが好適である。
【0038】
尚、本発明の螺子キャップの成形に使用されるインパクトPPは、所定のエラストマーの存在下、プロピレンを重合することにより製造され、この際に、各種モノマーの量や触媒の種類、反応温度、反応時間を適宜の範囲に設定することにより、各種の物性が調整することができるが、種々の物性を有するインパクトPPが種々のメーカにより市販されているため、適宜のものをブレンドしてエラストマー量、エラストマーの種類、各種分子量などを調整することにより、本発明で用いるインパクトPP、即ち、TEバンド付き螺子キャップを製造するためのポリプロピレン組成物を得ることができる。
かかるインパクトPPを用いて、キャップの大きさに応じてブリッジ11の数、幅、厚みなどを調整して、ブリッジ切れが良好であり、且つ密封力の高いTEバンド付き螺子キャップを得ることができる。
【実施例0039】
本発明の優れた効果を、次の実施例で説明する。
各種成形および測定は、以下の方法により行った。
【0040】
<試験片の成形>
射出成形によってJIS K 7139形状A1型の試験片(試験部の幅10mm、厚み4mm)を作成した。射出成形はJISK 6922-2に従い、金型温度40±1℃、樹脂温度200±3℃、サイクル時間60±3秒、溶融樹脂の平均射出速度は195±10mm/sの条件で成形した。
【0041】
<キャップの成形>
圧縮成形によりキャップを作成した。材料は、ドライブレンド法により原料となる複数種の樹脂ペレットをブレンダーにより撹拌し、押出機に供給した。成形温度170℃、成形速度およそ800個/分にて、図1に図示するとおりの形態のキャップを圧縮成形した。成形したキャップは呼び径28mmの口頸部を有する容器のためのキャップであった。
【0042】
<メルトフローレイト(MFR)評価>
上記の射出成形により作製した試験片を用いて、MFRを評価した。
JIS K 6921-2、7210-1に従い、温度230℃、荷重2.17kgで評価した。装置は東洋精機製MELT INDEXER F-F01を用いた。
【0043】
<キシレン可溶部と不溶部の分離>
PP製キャップをp-キシレンに還流溶解(140~145℃)させ、その後室温まで放冷後、固液分離を行った。分離後の液体成分を減圧留去で濃縮後、メタノールで沈殿し、沈殿物を濾過で取り出し、70℃、減圧下で乾燥させてキシレン可溶部とした。また、固液分離の固体成分をキシレン不溶部とした。
【0044】
<キシレン可溶部含有率評価>
上記で取り出されたキシレン可溶部の質量wを測定し、実験で使用したキャップ全体の質量Wとし、以下の式から可溶部のEPR含有率Eを算出した。
E(%)=100×w/W
【0045】
<分子量評価>
キャップ製品をはさみで細かく切断し、o-ジクロロベンゼンに溶解させた。孔径0.5μmのフィルターを用い熱時ろ過し、測定サンプルとした。
装置はアジレント・テクノロジー株式会社製 PL-GPC220を用いた。カラムにはAgilent PLgel Olexisを2本用い、ガードカラムを別途設定した。溶離液はo-ジクロロベンゼン145℃、濃度は0.1wt/vol%、流速1.0mL/分で分析した。検出器は示差屈折計(RI)であった。評価はポリスチレン標準サンプル相当で行った。
【0046】
<試験片のシャルピー衝撃強度>
前述した射出成形により作製した試験片を用いて、JIS K 7111-1に従い、シャルピー衝撃試験を行った。
ノッチは成形後に切削加工した。装置は東洋精機製衝撃試験機ITおよびノッチングツールA-4を使用した。
【0047】
<キャップの開栓トルク評価>
・ボトルへの組込み
呼び径28mmの口頸部を有するポリエチレンテレフタレート製容器に、500mLの87℃の熱水を充填し、前述した圧縮成形により作製したキャップを口頸部に260N・cmの巻き締めトルクを加えて装着した。
そして、容器を30秒横倒した後に正立状態に戻し、76℃の温水シャワーを3.5分間施し、次いで50℃の温水シャワーを4.2分間施し、しかる後に40℃の温水シャワーを4.0分間施し、更に30℃の温水シャワーを5.9分間施した。次いで、容器を23℃の恒温室に7日間保存した後に、後述する開栓トルク評価を行った。
【0048】
・開栓トルク評価
ボトルとキャップを組み込んだ評価用容器を開方向に回転させ、容器の口頸部から離脱した。この際の初期トルク(即ち容器蓋の回転を開始するために必要であった最大トルク)を1stトルク、2回目のトルク(即ちブリッジを破壊するのに必要であった最大トルク)を2ndトルクとそれぞれ定義した。15個の評価用サンプルで測定し、平均値を評価値とした。
【0049】
<実施例1>
市販されているPP樹脂3種を組み合わせて、試験片およびキャップを作成し評価した。表1の通りの物性を示した。また、開栓トルク変化を図3に示した。
【0050】
<比較例1>
市販されているPP樹脂1種で、試験片およびキャップを作成し評価した。物性は表1の通りであった。
【0051】
<比較例2>
比較例1とは異なる樹脂で、市販されているPP樹脂1種を用い、試験片およびキャップを作成し評価した。物性は表1の通りであった。
【0052】
尚、1stトルクよりも2ndトルクが低いものを〇、そうでないものを×とした。
また、以上の実施例及び比較例において、開封性及び密封性の何れもが優れているものを総合評価〇とし、そうでないものを総合評価×とした。
【0053】
【表1】
【符号の説明】
【0054】
1:TEバンド付き螺子キャップ
3:キャップ本体
5:TEバンド
7:頂板部
9:筒状側壁
11:ブリッジ
13:螺条
15:インナーリング
17:アウターリング
19:周状小突起
21:係合部材
50:容器口部
51:螺条
53:顎部
55:サポートリング
図1
図2
図3