(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023146484
(43)【公開日】2023-10-12
(54)【発明の名称】非架橋のオレフィン系エラストマーの発泡成形体、及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
C08J 9/16 20060101AFI20231004BHJP
C08L 23/14 20060101ALI20231004BHJP
C08L 23/04 20060101ALI20231004BHJP
【FI】
C08J9/16 CES
C08L23/14
C08L23/04
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022053682
(22)【出願日】2022-03-29
(71)【出願人】
【識別番号】000002440
【氏名又は名称】積水化成品工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000796
【氏名又は名称】弁理士法人三枝国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】城川 将司
(72)【発明者】
【氏名】清水 大輔
【テーマコード(参考)】
4F074
4J002
【Fターム(参考)】
4F074AA18
4F074AA20
4F074AA24
4F074AA98
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4J002BB02X
4J002BB14W
4J002DE216
4J002DE226
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4J002EF066
4J002FD090
4J002FD100
4J002FD130
4J002FD200
4J002FD326
4J002GC00
4J002GN00
(57)【要約】
【課題】本発明は、融着率が高く、ボイドの少ない良好な外観を有する、非架橋のオレフィン系エラストマーの発泡成形体、その製造方法等の提供を目的とする。本発明は、融着率が高く、ボイドの少ない良好な外観を有し、並びにエラストマー特有の高い反発弾性率及び良好な屈曲性を有する、非架橋のオレフィン系エラストマーの発泡成形体の提供を目的とする。
【解決手段】発泡粒子の融着体から構成された非架橋のオレフィン系エラストマーの発泡成形体であって、
非架橋のプロピレン-αオレフィン共重合体を主成分として含有し、
ポリエチレン系樹脂をさらに含有し、
前記非架橋のプロピレン-αオレフィン共重合体及び前記ポリエチレン系樹脂の合計含有量が、前記発泡成形体の質量に対し、80質量%以上であり、
前記発泡成形体は、示差走査熱量計(DSC)により測定される融解ピーク温度(Tm)を2つ以上有しており、
前記融解ピーク温度の一つ(Tm1)は90~130℃の範囲内にあり、
前記融解ピーク温度の他の一つ(Tm2)は130~180℃の範囲内にあり、
前記融解ピーク温度(Tm2)と前記融解ピーク温度(Tm1)との温度差が20℃以上である、
発泡成形体。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
発泡粒子の融着体から構成された非架橋のオレフィン系エラストマーの発泡成形体であって、
非架橋のプロピレン-αオレフィン共重合体を主成分として含有し、
ポリエチレン系樹脂をさらに含有し、
前記非架橋のプロピレン-αオレフィン共重合体及び前記ポリエチレン系樹脂の合計含有量が、前記発泡成形体の質量に対し、80質量%以上であり、
前記発泡成形体は、示差走査熱量計(DSC)により測定される融解ピーク温度(Tm)を2つ以上有しており、
前記融解ピーク温度の一つ(Tm1)は90~130℃の範囲内にあり、
前記融解ピーク温度の他の一つ(Tm2)は130~180℃の範囲内にあり、
前記融解ピーク温度(Tm2)と前記融解ピーク温度(Tm1)との温度差が20℃以上である、
発泡成形体。
【請求項2】
前記非架橋のプロピレン-αオレフィン共重合体の含有量と前記ポリエチレン系樹脂の含有量との質量比が55:45~90:10である、
請求項1に記載の非架橋のオレフィン系エラストマーの発泡成形体。
【請求項3】
前記融解ピーク温度(Tm2)と前記融解ピーク温度(Tm1)との温度差が20~80℃である、請求項1又は2に記載の非架橋のオレフィン系エラストマーの発泡成形体。
【請求項4】
前記ポリエチレン系樹脂が、高密度ポリエチレン及び低密度ポリエチレンからなる群から選択される1又は2以上の樹脂である、請求項1~3のいずれか一項に記載の非架橋のオレフィン系エラストマーの発泡成形体。
【請求項5】
熱キシレン抽出法によるキシレン不溶分の割合が3%以下である、請求項1~4のいずれか一項に記載の非架橋のオレフィン系エラストマーの発泡成形体。
【請求項6】
0.05~0.3g/cm3の密度、35%以上の反発弾性率、及び60以下のアスカーC硬度からなる群から選択される少なくとも1種の特性を有する、請求項1~5のいずれか一項に記載の非架橋のオレフィン系エラストマーの発泡成形体。
【請求項7】
ASTM D1052に準拠した1万回の90°屈曲試験(試験片サイズは150mm×24mm×厚み11mm)において、発泡粒子間に、深度50%以上且つ長さ10mm以上の亀裂が生じない屈曲耐久性を備えた、請求項1~6のいずれか一項に記載の非架橋のオレフィン系エラストマーの発泡成形体。
【請求項8】
非架橋のプロピレン-αオレフィン共重合体、ポリエチレン系樹脂、及び化学発泡剤を混合して非架橋のプロピレン-αオレフィン共重合体を主成分として含有する樹脂粒子を得る工程、前記樹脂粒子に物理発泡剤を含侵、次いで予備発泡させて発泡粒子を得る工程、並びに前記発泡粒子を型内発泡させて発泡成形体を得る工程を含む、請求項1~7のいずれか一項に記載の非架橋のオレフィン系エラストマーの発泡成形体の製造方法。
【請求項9】
前記化学発泡剤が、重曹-クエン酸系化学発泡剤であり、樹脂粒子を得る工程における前記化学発泡剤の混合量が、非架橋のプロピレン-αオレフィン共重合体及びポリエチレン系樹脂の合計含有量100質量部に対して、0.1~2質量部である、請求項8に記載の非架橋のオレフィン系エラストマーの発泡成形体の製造方法。
【請求項10】
樹脂粒子を得る工程における前記非架橋のプロピレン-αオレフィン共重合体の混合量と前記ポリエチレン系樹脂の混合量との質量比が55:45~90:10である、請求項8又は9に記載の非架橋のオレフィン系エラストマーの発泡成形体の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、非架橋のオレフィン系エラストマーの発泡成形体、及びその製造方法に関する。本発明の発泡成形体は、柔軟性及び回復性に優れるため、鉄道車両、飛行機及び自動車用の座席シート芯材、ベッド、クッション等として使用できる。
【背景技術】
【0002】
エラストマーは反発弾性に優れており、また、機械的強度も高いため、エンジニアリングエラストマーとして位置付けられ、生活用品、電化製品部品、スポーツ用品、自動車用部品、建築土木部材等の様々な用途での使用が検討されている。このエラストマーを発泡させた成形体は、軽量且つエラストマーの本来有する高い反発弾性を有することが期待されるため、例えば、エラストマー樹脂から調製された発泡粒子を型内で加熱し、融着及び発泡させて成形されている。
【0003】
オレフィン系エラストマーには、架橋剤により架橋された、架橋体がある。しかし、架橋オレフィン系エラストマーの発泡成形体はリサイクルが難しく、また密度も高くなるため発泡成形体の軽量性が低下する。このため、近年の、リサイクルのニーズの高まりを受けて、架橋オレフィン系エラストマー発泡成形体の代替品が要望され、非架橋のオレフィン系エラストマーの発泡成形体が検討されている(特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、融着率が高く、ボイドの少ない良好な外観を有する、非架橋のオレフィン系エラストマーの発泡成形体、その製造方法等の提供を目的とする。
本発明は、融着率が高く、ボイドの少ない良好な外観を有し、並びにエラストマー特有の高い反発弾性率及び屈曲に対する高い耐久性を有する、非架橋のオレフィン系エラストマーの発泡成形体の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、非架橋のオレフィン系エラストマーの発泡成形体の製造に際し、発泡成形に要するエネルギー低減(代表的には発泡成形に使用する蒸気の温度の低減)の観点から、基材樹脂として比較的融点の低い非架橋のオレフィン系エラストマーを使用すると、低密度の発泡体を得ることが難しいこと、発泡粒子同士の合着性が高く発泡成形性が低下すること等の短所があることを知得した。
さらに、本発明者らは、特許文献1の発泡成形体は屈曲に対する耐久性の点で改良の余地があることを知得した。
本発明者らは、基材樹脂として比較的融点の高い非架橋のオレフィン系エラストマーを使用すると、発泡成形に高温の蒸気を要し、高温条件で得られる発泡成形体は収縮しやすくなって、発泡体表面に皺又はボイド(隙間)が発生しやすくなり、外観に悪影響を及ぼす傾向があることも知得した。
【0007】
本発明者らは、これらの知見に基づいて解決策を検討し、非架橋のオレフィン系エラストマーとして非架橋のプロピレン-αオレフィン共重合体を主成分として含有し、さらにポリエチレン系樹脂を含有し、特定の融解ピーク温度を2つ以上有する発泡成形体を見出した。具体的には、融解ピーク温度が低い(例えば、140℃未満の)非架橋のプロピレン-αオレフィン共重合体を基材樹脂とすると、発泡性が不良となり、低嵩密度の発泡粒子を得ることが難しい。一方、融解ピーク温度が高い(例えば140℃以上の)非架橋のプロピレン-αオレフィン共重合体を基材樹脂とすると、発泡粒子同士の合着が起きやすいことにより発泡ムラが生じ成形性が良くない、また、発泡成形に高温を要することにより熱収縮が発生しやすく、発泡体表面に皺又はボイド(隙間)が発生しやすい。ここで、非架橋のプロピレン-αオレフィン共重合体にポリエチレン系樹脂を組み合わせて、樹脂の融解ピーク温度を特定の範囲に設定することによって、これらの短所が改善され、高い反発弾性率及び良好な屈曲性を有する発泡成形体が得られることを見出した。
さらに、本発明者らは、化学発泡剤の混合された基材樹脂(非架橋のプロピレン-αオレフィン共重合体及びポリエチレン系樹脂)を使用することによって、本発明の発泡成形体を製造できることを見出した。
【0008】
本発明は、代表的には下記の態様を包含する。
項1.
発泡粒子の融着体から構成された非架橋のオレフィン系エラストマーの発泡成形体であって、
非架橋のプロピレン-αオレフィン共重合体を主成分として含有し、
ポリエチレン系樹脂をさらに含有し、
前記非架橋のプロピレン-αオレフィン共重合体及び前記ポリエチレン系樹脂の合計含有量が、前記発泡成形体の質量に対し、80質量%以上であり、
前記発泡成形体は、示差走査熱量計(DSC)により測定される融解ピーク温度(Tm)を2つ以上有しており、
前記融解ピーク温度の一つ(Tm1)は90~130℃の範囲内にあり、
前記融解ピーク温度の他の一つ(Tm2)は130~180℃の範囲内にあり、
前記融解ピーク温度(Tm2)と前記融解ピーク温度(Tm1)との温度差が20℃以上である、
発泡成形体。
項2.
前記非架橋のプロピレン-αオレフィン共重合体の含有量と前記ポリエチレン系樹脂の含有量との質量比が55:45~90:10である、
項1に記載の非架橋のオレフィン系エラストマーの発泡成形体。
項3.
前記融解ピーク温度(Tm2)と前記融解ピーク温度(Tm1)との温度差が20~80℃である、項1又は2に記載の非架橋のオレフィン系エラストマーの発泡成形体。
項4.
前記ポリエチレン系樹脂が、高密度ポリエチレン及び低密度ポリエチレンからなる群から選択される1又は2以上の樹脂である、項1~3のいずれか一項に記載の非架橋のオレフィン系エラストマーの発泡成形体。
項5.
熱キシレン抽出法によるキシレン不溶分の割合が3%以下である、項1~4のいずれか一項に記載の非架橋のオレフィン系エラストマーの発泡成形体。
項6.
0.05~0.3g/cm3の密度、35%以上の反発弾性率、及び60以下のアスカーC硬度からなる群から選択される少なくとも1種の特性を有する、項1~5のいずれか一項に記載の非架橋のオレフィン系エラストマーの発泡成形体。
項7.
ASTM D1052に準拠した1万回の90°屈曲試験(試験片サイズは150mm×24mm×厚み11mm)において、発泡粒子間に、深度50%以上且つ長さ10mm以上の亀裂が生じない屈曲耐久性を備えた、項1~6のいずれか一項に記載の非架橋のオレフィン系エラストマーの発泡成形体。
項8.
非架橋のプロピレン-αオレフィン共重合体、ポリエチレン系樹脂、及び化学発泡剤を混合して非架橋のプロピレン-αオレフィン共重合体を主成分として含有する樹脂粒子を得る工程、前記樹脂粒子に物理発泡剤を含侵、次いで予備発泡させて発泡粒子を得る工程、並びに前記発泡粒子を型内発泡させて発泡成形体を得る工程を含む、項1~7のいずれか一項に記載の非架橋のオレフィン系エラストマーの発泡成形体の製造方法。
項9.
前記化学発泡剤が、重曹-クエン酸系化学発泡剤であり、樹脂粒子を得る工程における前記化学発泡剤の混合量が、非架橋のプロピレン-αオレフィン共重合体及びポリエチレン系樹脂の合計含有量100質量部に対して、0.1~2質量部である、項8に記載の非架橋のオレフィン系エラストマーの発泡成形体の製造方法。
項10.
樹脂粒子を得る工程における前記非架橋のプロピレン-αオレフィン共重合体の混合量と前記ポリエチレン系樹脂の混合量との質量比が55:45~90:10である、項8又は9に記載の非架橋のオレフィン系エラストマーの発泡成形体の製造方法。
【発明の効果】
【0009】
本発明の一実施形態によれば、ボイドが少なく、良好な外観を有する、非架橋のオレフィン系エラストマーの発泡成形体及びその製造方法を提供できる。
本発明の一実施形態によれば、発泡成形時に発泡粒子同士の融着性が強い、非架橋のオレフィン系エラストマーの発泡成形体及びその製造方法を提供できる。
本発明の一実施形態によれば、低い温度で発泡成形できる、非架橋のオレフィン系エラストマーの発泡成形体及びその製造方法を提供できる。
本発明の一実施形態によれば、高い反発弾性率を有する、非架橋のオレフィン系エラストマーの発泡成形体及びその製造方法を提供できる。
本発明の一実施形態によれば、良好な屈曲性を有する、非架橋のオレフィン系エラストマーの発泡成形体及びその製造方法を提供できる。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本明細書中、語句「含有する」は、語句「から本質的になる」、及び語句「からなる」を包含することを意図して用いられる。
本明細書中、語句「主成分」は、対象となる物質中、50%超の量で含有されることを意図して用いられ、特に断りがない限り、対象となる物質の質量に対して50質量%超であることを意図して用いられる。 本明細書において、材料、中間品、最終品等の物性、含有量等の数値は、その特定方法が実施例に記載されているときは、実施例に記載された特定方法により決定された数値である。
【0011】
型内発泡成形体は、通常、次のような工程を得て製造される。本発明にはこれらの工程をそのまま又は適宜変更して適用できる。基材樹脂を適宜の大きさにカットして基材樹脂粒子とし、この樹脂粒子に発泡剤を含侵させて発泡性粒子とし、発泡性粒子を予備発泡させて発泡粒子を調製し、この発泡粒子が型内発泡成形工程に供されて加熱されることにより、発泡粒子が発泡及び融着されて融着体を構成することで、発泡成形体が製造される。本発明では、非架橋のプロピレン-αオレフィン共重合体及びポリエチレン系樹脂を少なくとも含有する基材樹脂が使用される。
【0012】
本明細書において、非架橋とは、エラストマーを溶解可能な、キシレンのような有機溶剤に、サンプルを溶解させたときに、不溶分のゲル分率が3.0質量%以下のものを意味する。ゲル分率は以下のように測定した値である。
【0013】
サンプル(例えば、基材樹脂、樹脂粒子、発泡性粒子、発泡粒子、発泡成形体等)の質量W1を測定する。次に沸騰キシレン80ミリリットル中にサンプルを3時間還流加熱する。次にキシレン中の残渣を80メッシュの金網を用いてろ過し、金網上に残った残渣を130℃にて1時間に亘って乾燥させて、金網上に残った残渣の質量W2を測定し、下記式に基づいてサンプルのゲル分率を算出することができる。
ゲル分率(質量%)=100×W2/W1
【0014】
本発明では、基材樹脂、樹脂粒子、発泡性粒子、発泡粒子、及び発泡成形体は、非架橋のプロピレン-αオレフィン共重合体を主成分として含有し、ポリエチレン系樹脂をさらに含有する。
【0015】
(非架橋のオレフィン系エラストマー)
非架橋のオレフィン系エラストマーとしては、少なくとも非架橋のプロピレン-αオレフィン共重合体が使用される。非架橋のプロピレン-αオレフィン共重合体は1種単独で使用されても2種以上組み合わせて使用されてもよい。融解ピーク温度の異なる2、3又は4種(このましくは2又は3種、より好ましくは2種)の非架橋のプロピレン-αオレフィン共重合体を組み合わせることが好ましい。
非架橋のプロピレン-αオレフィン共重合体に他の非架橋のオレフィン系エラストマーが併用されてもよいし、されなくてもよい。他の非架橋のオレフィン系エラストマーが併用される場合、その併用量は非架橋のプロピレン-αオレフィン共重合体100質量部に対し0.01~20質量部、0.01~10質量部、0.01~5質量部とできる。
非架橋のオレフィン系エラストマーとしては、例えば、ハードセグメントとソフトセグメントを組み合わせた構造を有するものが挙げられる。このような構造は、常温でゴム弾性を示し、高温では可塑化され成形可能となるという性質を与える。
前者のポリプロピレン系樹脂としては、ポリプロピレンを主成分とする樹脂が使用できる。ポリプロピレン系樹脂は、アイソタクチック、シンジオタクチック、アタクチック等から選択される立体規則性を有していてもよい。
後者のポリエチレン系樹脂としては、ポリエチレンを主成分とする樹脂が使用できる。ポリエチレン以外の成分としてはポリプロピレン、ポリブチレン等のポリオレフィン、酢酸ビニル等が挙げられる。
【0016】
非架橋のプロピレン-αオレフィン共重合体は、例えば130~180℃、130~170℃、130~165℃、130℃超且つ180℃以下、130℃超且つ170℃以下、130℃超且つ165℃以下、131~180℃、131~170℃、131~165℃、140~180℃等の融解ピーク温度を有してよく、140~170℃の融解ピーク温度を有することが好ましく、140~165℃の融解ピーク温度を有することがより好ましい。非架橋のプロピレン-αオレフィン共重合体の融解ピーク温度がこの範囲内であると、低密度の発泡粒子を得やすい。
【0017】
非架橋のプロピレン-αオレフィン共重合体としては、ハードセグメントとしてポリプロピレン系樹脂、ソフトセグメントとしてエチレン-酢酸ビニルコポリマーを組み合わせた構造を有するものが好ましい。非架橋のプロピレン-αオレフィン共重合体としては、市販品を使用でき、例えば三井化学社製のタフマーシリーズ、住友化学社製のESPOLEXシリーズ、プライムポリマー社製のTPOシリーズなどのうち、130~180℃の融解ピーク温度を有するものを使用できる。
【0018】
非架橋のオレフィン系エラストマーは、製造された発泡成形体のリサイクル性を向上できるという効果も奏する。また、通常のポリオレフィン系樹脂を発泡成形する場合と同様の発泡機を使用しての製造が容易である。従って、発泡成形体をリサイクルし再び発泡機へ供給して発泡成形をする場合でも、ゴム成分の発生による発泡不良を抑制できる。
【0019】
樹脂粒子、発泡性粒子、発泡粒子及び発泡成形体における非架橋のオレフィン系エラストマーの含有量は、例えば50質量%超~90質量%、60~90質量%、70~90質量%、60~80質量%等とできる。
【0020】
(ポリエチレン系樹脂)
ポリエチレン系樹脂は、例えば90~130℃、95~130℃、100~130℃、90℃以上130℃未満、95℃以上130℃未満、100℃以上130℃未満、90~129℃、95~129℃、100~129℃等の融解ピーク温度を有してよく、100~120℃の融解ピーク温度を有することが好ましく、105~115℃の融解ピーク温度を有することがより好ましい。ポリエチレン系樹脂の融解ピーク温度がこの範囲内であり、かつ、Tm2とTm1との温度差が後述の範囲内であると、発泡粒子同士の合着が起き難くなることにより成形性及び融着性が向上し、また、発泡成形に高温を要しても熱収縮が発生し難くなり、発泡体表面における皺及びボイド(隙間)の発生が抑制される。
【0021】
ポリエチレン系樹脂としては、例えば、低密度ポリエチレン(分岐状低密度ポリエチレン、直鎖状低密度ポリエチレン)、高密度ポリエチレン等が挙げられ、低密度ポリエチレン及び高密度ポリエチレンが好ましい。
ポリエチレン系樹脂は、単独で用いられても、併用されてもよい。
ポリエチレン系樹脂としては、市販品を使用してもよく、例えばBraskem社のグリーンポリエチレンシリーズ、日本ポリエチレン社のノバテックシリーズ、旭化成社のサンテックシリーズ、宇部丸善ポリエチレン社のUBEポリエチレンシリーズ等が挙げられ、これらのうち90~130℃の融解ピーク温度を有するものが好ましい。
【0022】
樹脂粒子、発泡性粒子、発泡粒子及び発泡成形体におけるポリエチレン系樹脂の含有量は、例えば10~50質量%未満%、10~40質量%、10~30質量%、20~40質量%等とできる。
【0023】
樹脂粒子、発泡性粒子、発泡粒子及び発泡成形体は、各々、非架橋のプロピレン-αオレフィン共重合体を主成分として含有し、ポリエチレン系樹脂をさらに含有する。
樹脂粒子、発泡性粒子、発泡粒子及び発泡成形体の各々において、非架橋のプロピレン-αオレフィン共重合体及び前記ポリエチレン系樹脂の合計含有量は、前記樹脂粒子、発泡性粒子、発泡粒子及び発泡成形体の質量に対し、80質量%以上であってよい。ここで、非架橋のプロピレン-αオレフィン共重合体及び前記ポリエチレン系樹脂の合計含有量は、例えば80~100質量%、80~99質量%、80~95質量%、85~100質量%、85~99質量%、85~95質量%、90~100質量%、90~99質量%、90~95質量%等であってよい。
【0024】
樹脂粒子、発泡性粒子、発泡粒子及び発泡成形体における、非架橋のプロピレン-αオレフィン共重合体の含有量とポリエチレン系樹脂の含有量との質量比は、55:45~90:10が好ましく、60:40~90:10がより好ましい。
【0025】
樹脂粒子、発泡性粒子、発泡粒子及び発泡成形体は、各々、示差走査熱量計(DSC)により測定される融解ピーク温度(Tm)を2つ以上有していてよい。融解ピーク温度(Tm)は、2つ又は3つが好ましく、2つがより好ましい。
前記融解ピーク温度の一つ(Tm1)は90~130℃の範囲内にあり、前記融解ピーク温度の他の一つ(Tm2)は130~180℃の範囲内にあればよい。
【0026】
Tm1は、例えば90~130℃、95~130℃、100~130℃、90℃以上130℃未満、95℃以上130℃未満、100℃以上130℃未満、90~129℃、95~129℃、100~129℃等の範囲内であってよく、100~120℃の融解ピーク温度を有することが好ましく、105~115℃の融解ピーク温度を有することがより好ましい。
【0027】
Tm2は、例えば130~180℃、130~170℃、130~165℃、130℃超且つ180℃以下、130℃超且つ170℃以下、130℃超且つ165℃以下、131~180℃、131~170℃、131~165℃、140~180℃等の範囲内であってよく、135~170℃の融解ピーク温度を有することが好ましく、135~165℃の融解ピーク温度を有することがより好ましい。
【0028】
前記融解ピーク温度(Tm2)と前記融解ピーク温度(Tm1)との温度差は、20℃以上が好ましく、20~80℃がより好ましく、20~60℃がさらに好ましく、20~55℃が特に好ましい。前記温度差がこの範囲内であると、発泡粒子同士の合着が起き難くなることにより成形性及び融着性が向上し、また、発泡成形に高温を要しても熱収縮が発生し難くなり、発泡体表面における皺及びボイド(隙間)の発生が抑制され、さらにまた、エラストマーが本来有する高い反発弾性率及び良好な屈曲性を備えた発泡成形体となる。
【0029】
(樹脂粒子)
樹脂粒子は、非架橋のプロピレン-αオレフィン共重合体を主成分として含有し、ポリエチレン系樹脂をさらに含有する。
【0030】
粒子樹脂の形状は、特に限定されず、真球状、楕円球状(卵状)、円柱状、角柱状、ペレット状又はグラニュラー状等が挙げられる。
樹脂粒子の大きさは、所望の発泡性及び成形性が得られる限り特に制限されず、例えば、0.5mm~8.0mmの平均粒子径を有することが、発泡性及び成形性の点で好ましい。平均粒子径は、0.5mm~6.0mmが好ましく、0.5mm~3.0mmがより好ましい。
【0031】
樹脂粒子、発泡性粒子、発泡粒子及び発泡成形体は、各々、他の成分として、難燃剤、着色剤、結合防止剤、帯電防止剤、展着剤、可塑剤、難燃助剤、充填剤、滑剤、気泡調整剤等を含んでいてもよい。他の成分の含有量は、樹脂粒子、発泡性粒子、発泡粒子及び発泡成形体の質量に対して、10質量%以下であってよく、5質量%以下が好適であり、2質量%以下が特に好適である。樹脂粒子、発泡性粒子、発泡粒子及び発泡成形体が他の成分を含有する場合、その含有量の下限値は、例えば0.01質量%、0.05質量%、0.1質量%、0.5質量%、1質量%、2質量%等とできる。これらの下限値は、前記上限値、つまり、10質量%、5質量%及び2質量%と適宜組み合わせられて、他の成分の含有量の範囲を形成できる。
【0032】
難燃剤としては、ヘキサブロモシクロドデカン、トリアリルイソシアヌレート6臭素化物等が挙げられる。
着色剤としては、カーボンブラック、酸化鉄、グラファイト等が挙げられる。
結合防止剤(合着防止剤)としては、タルク、炭酸カルシウム及び水酸化アルミニウム等が挙げられる。
帯電防止剤としては、ポリオキシエチレンアルキルフェノールエーテル及びステアリン酸モノグリセリド等が挙げられる。
展着剤としては、ポリブテン、ポリエチレングリコール及びシリコンオイル等が挙げられる。
気泡調整剤としては、高級脂肪酸アミド、高級脂肪酸ビスアミド、高級脂肪酸塩、無機気泡核剤等が挙げられる。
【0033】
樹脂粒子は、公知の製造方法及び製造設備を使用して得ることができる。例えば、非架橋のプロピレン-αオレフィン共重合体、ポリエチレン系樹脂、及び化学発泡剤を押出機へ供給して溶融混練し、押出機から溶融混練物を押出し、所望の大きさ及び形状にカットすることにより製造できる。溶融混練時の温度、時間、圧力等は、使用原料及び製造設備に合わせて適宜設定できる。
溶融混練時の押出機内の溶融混練温度は、樹脂が十分に軟化する温度である。このため、使用する樹脂に応じて適宜設定できる。160~260℃が好ましく、200~250℃がより好ましい。溶融混練温度とは、押出機ヘッド付近の溶融混練物流路の中心部温度を熱伝対式温度計で測定した押出機内部の溶融混練物の温度を意味する。
【0034】
(化学発泡剤)
化学発泡剤には、重曹-クエン酸系化学発泡剤、炭酸水素塩系発泡剤、炭酸塩系発泡剤等が包含され、1種単独又は2種以上組み合わせて使用できる。重曹-クエン酸系化学発泡剤は溶融混練温度で分解して水(とCO2)を発生させるため、一般的には使用が敬遠される。しかし、本発明では重曹-クエン酸系化学発泡剤がより好ましい。
【0035】
重曹-クエン酸系化学発泡剤は、重曹とクエン酸又はクエン酸塩とを使用した無機系化学発泡剤である。この化学発泡剤は、酸(クエン酸)と塩基(重曹)との化学反応により炭酸ガスを発生させ、そのガスにより熱可塑性樹脂を発泡させるために使用される。重曹及びクエン酸は、それぞれ粉末状態で使用することもできるが、取り扱い性の観点から、重曹とクエン酸とを1つのマスターバッチとして、当該マスターバッチを基材樹脂と混練して使用するのが一般的である。
重曹-クエン酸系化学発泡剤としては、市販品を使用でき、例えば大日精化社のファインセルマスターシリーズ(例えばPO412K)等が挙げられる。
【0036】
炭酸水素塩系発泡剤及び炭酸塩系発泡剤は、熱分解して炭酸ガスを発生させ、そのガスにより熱可塑性樹脂を発泡させるために使用される。炭酸水素塩系発泡剤としては、炭酸水素ナトリウム等を使用できる。炭酸塩系発泡剤としては、炭酸ナトリウム、炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム等を使用できる。
【0037】
樹脂粒子を得る工程における化学発泡剤の混合量は、非架橋のプロピレン-αオレフィン共重合体及びポリエチレン系樹脂の合計含有量100質量部に対して、0.1~2質量部が好ましく、0.3~1.8質量部がより好ましい。
【0038】
(発泡粒子)
発泡粒子は、非架橋のプロピレン-αオレフィン共重合体を主成分として含有し、ポリエチレン系樹脂をさらに含有する。
発泡粒子は、物理発泡剤が含侵した樹脂粒子を予備的に発泡させた粒子であり、公知の製造方法及び製造設備を使用して得ることができる。例えば、樹脂粒子に物理発泡剤を含侵させて発泡性粒子とし、発泡性粒子を予備発泡させて得ることができる。
樹脂粒子への物理発泡剤の含侵は公知の方法により行うことができる。例えば、樹脂粒子が投入された密閉式の容器中に、物理発泡剤を圧入することにより行うことができる。
予備発泡は、得られる発泡粒子の嵩密度が所望の値となるように、物理発泡剤の種類及び量、予備発泡の温度等の条件を調整すればよい。
【0039】
物理発泡剤としては、例えば、プロパン、n-ブタン、イソブタン、n-ペンタン、イソペンタン、シクロペンタン、n-ヘキサン、イソヘキサン等の有機系ガス、二酸化炭素、窒素、ヘリウム、アルゴン、空気等の無機系ガスを使用できる。これら物理発泡剤は、単独もしくは2種以上混合して用いることができる。有機系ガスとしては、n-ブタン、イソブタン、n-ペンタン、イソペンタンのいずれか又はこれらの組み合わせが好適である。
【0040】
発泡性粒子における物理発泡剤の含有量は、発泡性粒子100質量部に対して、5~25質量部が好適である。樹脂粒子100質量部対する物理発泡剤の含有量(含浸量)は、以下のようにして測定される。
樹脂粒子を圧力容器に入れる前の質量Xgを測定する。圧力容器内で、樹脂粒子に物理発泡剤を含浸させた後、圧力容器から含浸物を取り出した後の質量Ygを測定する。下記式により、樹脂粒子100質量部に対して含浸された物理発泡剤の含有量(含浸量)が求められる。
物理発泡剤の含有量(質量部)=((Y-X)/X)×100
【0041】
発泡粒子の嵩密度は、0.02g/cm3~0.45g/cm3が好適であり、0.03g/cm3~0.4g/cm3がより好適であり、0.05g/cm3~0.3g/cm3が更に好適である。嵩密度がこの範囲内にあると、発泡成形体の皺及びボイドを抑制する点、発泡成形体が軽量になる点で有利である。嵩密度は実施例に記載した方法で特定できる。
【0042】
発泡粒子の形状は球状~略球状であることが好ましい。その平均粒子径は、1.0mm~9.0mmであることが好ましく、2.0mm~6.0mmであることがより好ましい。平均粒子径が前記範囲内にあると、金型への充填性が良い点で有利である。
【0043】
発泡粒子は、発泡性粒子を、公知の方法で所望の嵩密度に予備発泡させることで得ることができる。予備発泡は、好ましくは0.005MPa~0.05MPa(ゲージ圧)、より好ましくは0.006MPa~0.04MPaの加熱蒸気を使用して発泡性粒子を発泡させることにより得ることができる。
【0044】
(発泡成形体)
発泡成形体は、非架橋のプロピレン-αオレフィン共重合体を主成分として含有し、ポリエチレン系樹脂をさらに含有する。前記の発泡粒子は発泡粒子同士が合着し難いことから、発泡成形性に優れる。また、前記の発泡粒子を高温で発泡成形しても発泡成形体表面に皺及びボイドが発生し難いことから、発泡成形体の良好な外観に貢献する。さらにまた、前記の発泡粒子の発泡成形体は、高い反発弾性率及び良好な屈曲性を有する。
【0045】
発泡成形体は、発泡粒子を、公知の方法で型内発泡させて得ることができる。例えば、発泡粒子を発泡成形機の金型内に充填し、加熱して発泡粒子を発泡させながら、発泡粒子同士を熱融着させることで得ることができる。加熱用の媒体は水蒸気が好適に使用できる。加熱は、ゲージ圧で、例えば0.05MPa~0.35MPa、好ましくは0.06MPa~0.30MPaで実施される。
【0046】
発泡成形体の密度は、好ましくは0.05g/cm3~0.3g/cm3、より好ましくは0.05g/cm3~0.2g/cm3、さらに好ましくは0.10g/cm3~0.20g/cm3である。密度がこの範囲内であれば、高い反発弾性率及び良好な屈曲性と優れた軽量性とを両立しやすい点で有利である。密度は実施例に記載した方法で特定できる。
【0047】
発泡成形体の融着率は、80~100%であってよく、90~100%が好ましく、95~100%がより好ましい。融着率がこの範囲内であれば発泡成形体に十分な強度及び良好な屈曲性を付与できる点で有利である。融着率は、400mm×300mm×厚み20mmサイズの発泡成形体を2分割した破断面における任意の範囲(100個の発泡粒子を含む範囲)の発泡粒子の破断を数えることで求めることができ、具体的には、実施例に記載した方法で特定できる。
【0048】
発泡成形体の反発弾性率は、35%以上、35~60%、40%以上、40~60%、40~55%、40~50%等であってよく、35~55%が好ましく、35~50%がより好ましい。反発弾性率はJIS K6400-3:2011記載のA法で特定でき、具体的には実施例に記載した方法で特定できる。
【0049】
発泡成形体の表面硬度(アスカーC硬度)は、60以下が好ましく、50以下がより好ましく、45以下がさらに好ましい。表面硬度は30~60、30~50、30~45、35~45等であってよい。表面硬度がこの範囲内であると、シューズ等のスポーツ用品に緩衝用部材として利用した際に、底付きが起こらない点で有利である。表面硬度はJIS K7312:1996記載の方法で特定でき、具体的には実施例に記載した方法で特定できる。
【0050】
発泡成形体は、ASTM D1052に準拠した1万回の90°屈曲試験(試験片サイズは150mm×24mm×厚み11mm)において、発泡成形体を構成する発泡粒子間に亀裂が発生しない程度の良好な屈曲性を有することが好ましい。ここで、亀裂は、深度50%以上且つ長さ10mm以上の亀裂であってよい。この屈曲試験の詳細は実施例に記載されている。屈曲試験に使用する測定装置は、安田精機製作所社のロスフレキシングテスターが好ましい。
【0051】
発泡成形体は、例えば、シューズのソールを構成するミッドソール、インソール、アウトソール等、ラケットやバット等のスポーツ用品の打具類の芯材、パットやプロテクター等のスポーツ用品の防具類、パットやプロテクター等の医療・介護・福祉・ヘルスケア用品、自転車や車椅子等のタイヤ芯材、自動車等の輸送機器の内装材、シート芯材、衝撃吸収部材・振動吸収部材、防舷剤やフロート等の衝撃吸収材、ボールやブロック、積み木等の玩具、床下地材、壁材、鉄道車両や飛行機の座席シート芯材、ベッドのマットレス、クッション等に用いることができる。
【0052】
一般的な発泡成形体の製造では、基材樹脂として比較的融点の高い非架橋のオレフィン系エラストマーが使用されているため、高温の蒸気での発泡成形工程を要する。しかし、本発明の発泡成形体の製造方法では、発泡成形体の表面にボイドが発生し難く、良好な外観の発泡成形体が得られる。これは、発泡粒子同士の融着が促進され、また、発泡成形工程における熱収縮が抑制されているため、発泡成形体の表面のノビが改善したためと考えられる。
発泡成形体は、十分な反発弾性率と良好な屈曲性を有する。これには、高い融着率及び良好な表面のノビが寄与していると考えられる。
発泡成形体は、非架橋のオレフィン系エラストマーを主成分とするためリサイクルが容易である。
【0053】
以下、実施例等によって本発明の一実施態様を更に詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されない。実施例等における各種物性等の特定方法、原材料等を下記する。
【0054】
(発泡成形体の融解ピーク温度(融点))
融解ピーク温度はJIS K7121:2012に記載されている方法で測定した。但し、サンプリング方法及び温度条件に関しては以下のように行った。
試料をアルミニウム製測定容器の底にすきまのないよう5.5±0.5mg充てん後、アルミニウム製の蓋をした。次いで(株)日立ハイテクサイエンス製「DSC7000X、AS-3」示差走査熱量計装置を用い、示差走査熱量分析を実施した。窒素ガス流量20mL/minのもと、以下のようなステップで試料の加熱及び冷却を実施してDSC曲線を得た。
(ステップ1)30℃から-40℃まで降温した後10分間保持。
(ステップ2)-40℃から220℃まで昇温(1回目昇温)、10分間保持。
(ステップ3)220℃から-40℃まで降温(冷却)、10分間保持。
(ステップ4)-40℃から220℃まで昇温(2回目昇温)。
なお、全ての昇温及び降温は速度10℃/minで行った。基準物質としてアルミナを用いた。前記装置付属の解析ソフトを用いて、2回目昇温過程にみられる融解ピークのトップが示す温度を読みとって融解ピーク温度(融点)とした。90~130℃の範囲内にある最もピークトップの高い温度を融解ピーク温度Tm1とし、130~180℃の範囲内にある最もピークトップの高い温度を融解ピーク温度Tm2とした。130℃近傍に二つのピークトップがあり両者が非常に近接しているときは高い方の融解ピーク温度をTm2、低い方の融解ピーク温度をTm1とした。
樹脂及び発泡粒子の融解ピーク温度も同様にして測定できる。
【0055】
(発泡粒子の嵩密度)
発泡粒子を測定試料としてWg採取し、この測定試料をメスシリンダー内に自然落下させた後、メスシリンダーの底をたたいて試料の見掛け体積(V)cm3を一定にし、その質量を測定し、空のメスシリンダーの質量を控除して測定試料の質量(W)gを算出した。下記式に基づいて発泡粒子の嵩密度を測定した。
嵩密度(g/cm3)=測定試料の質量(W)/測定試料の見掛け体積(V)
【0056】
(樹脂粒子及び発泡粒子の平均粒子径)
ロータップ型篩振とう機(飯田製作所製)を用いて、篩目開き4.00mm、3.35mm、2.80mm、2.36mm、2.00mm、1.70mm、1.40mm、1.18mm、1.00mm、0.85mm、0.71mm、0.60mm、0.50mm、0.425mm、0.355mm、0.300mm、0.250mm、0.212mm及び0.180mmのJIS標準篩(JIS Z8801-1:2006)で試料約25gを10分間分級し、篩網上の試料重量を測定する。得られた結果から累積重量分布曲線を作成し、累積重量が50%となる粒子径(メディアン径)を平均粒子径とした。
【0057】
(発泡成形体の密度)
密度はJIS K7222:2005記載の方法で測定した。まず、元のセル構造を変えない様に試料を切断し、体積100cm3以上の試験片を作製し、下記のように状態調節した。次に、状態調節された試験片の質量を測定し、次式により密度を算出した。
密度(g/cm3)=試験片質量(g)/試験片体積(cm3)
試験片状態調節
測定用試験片は、成形後72時間以上経過した試料から切り取った。試験片は、JIS K7100:1999の記号「23/50」2級の標準雰囲気下に16時間以上状態調節した後に質量と体積を測定した。
【0058】
(発泡成形体の外観評価)
発泡成形体(400mm×300mm×厚み20mm)の400mm×300mmサイズの表面の発泡粒子間の隙間(ボイド)の状態を目視で観察し、以下の基準にて評価した。
〇:発泡粒子間のボイドが無い。
△:発泡粒子間のボイドが10個以内。
×:発泡粒子間に11個以上のボイドがある。
ここで、ボイドは2mm角以上のものをいう。
【0059】
(融着率)
発泡成形体(400mm×300mm×厚み20mm)の400mm×300mmサイズの表面に、一対の長辺の中心同士を結ぶ直線に沿ってカッターナイフで深さ約5mmの切り込み線を入れた後、この切り込み線に沿って発泡成形体を2分割した。この2分割された発泡成形体の破断面に現れた100個の発泡粒子を含む任意の範囲を設定し、この範囲において発泡粒子内で破断している発泡粒子数(a)と発泡粒子同士の界面で破断している発泡粒子数(b)を数え、下記式により融着率F(%)を算出した。
F(%)=a/(a+b)×100
【0060】
(発泡成形体の表面硬度(アスカーC硬度))
表面硬度はJIS K7312:1996記載の方法に準拠し求めた。試料はJIS K 7100:1999の記号「23/50」、2級の標準雰囲気下で88時間かけて状態調節した後、測定に用いた。試料サイズは、50×50×厚み10(mm)とした。試料数は5点とした。表面硬度の測定には高分子計器(株)製「アスカーゴム・プラスチック硬度計 C型」を使用した。この硬度計で試料に1kgを荷重し、直ちに読み取った値を表面硬度とした。表面硬度は5つの測定値を平均して求めた。
【0061】
(発泡成形体の反発弾性率)
反発弾性率はJIS K6400-3:2011記載のA法により測定した。測定には高分子計器(株)製「反発弾性試験機FR-1型」を用いた。試験片は大きさ100mm角、厚み20mmとした。測定にはJIS B1501に規定された、呼び16mm、等級G40の鋼球(直径16±0.5mm、質量16.8±1.5g)を用いた。反発弾性率は次式により算出した。但し、落球距離は500mmとした。
反発弾性率(%)=最高反発距離(mm)/落下距離(500mm)×100
試験片はJIS K 7100:1999の記号「23/50」2級の標準雰囲気下で16時間かけて状態調節した後、測定に用いた。測定は同じ標準雰囲気下で行った。
【0062】
(発泡成形体の屈曲試験)
屈曲試験はASTM D1052に記載の方法で測定した。試験片サイズは150mm×24mm×厚み11mmとした。測定装置はロスフレキシングテスター(株式会社安田精機製作所製)を使用した。試験片の両端を測定装置に固定し、90°の屈曲を100回/分の頻度で行い、10,000回後に亀裂の発生を目視で確認し、以下の基準にて評価した。
〇:試験片表面に亀裂が無い。
×:試験片表面に深度50%以上且つ長さ10mm以上の亀裂が1つ以上ある。
【0063】
(A:非架橋のプロピレン-αオレフィン共重合体)
エラストマーA1:タフマー PN-2060(三井化学株式会社);融解ピーク温度160℃
エラストマーA2:ESPOLEX 901(住友化学株式会社);融解ピーク温度144℃
エラストマーA3:タフマー PN-2070(三井化学株式会社);融解ピーク温度140℃
エラストマーA4:タフマー PN-3560(三井化学株式会社);融解ピーク温度160℃
エラストマーA5:プライムTPO R110E(株式会社プライムポリマー);融解ピーク温度156℃
エラストマーA6:vistamaxx3980FL(エクソンモービル社);融解ピーク温度74.5℃
【0064】
(B:ポリエチレン系樹脂)
樹脂B1:Braskem Green PE SEB853;融解ピーク温度111℃
樹脂B2:Braskem Green SHC7260;融解ピーク温度134℃
樹脂B3:Braskem Green SLH218;融解ピーク温度125℃
【0065】
(アクリル系高分子)
メタブレン P-1050(三菱ケミカル株式会社製)
【0066】
(重曹-クエン酸系化学発泡剤)
ファインセルマスター PO410K(大日精化工業株式会社)
【0067】
(実施例1)
(1)樹脂粒子
エラストマーA1の53質量部と、エラストマーA2の24質量部と、ポリエチレン系樹脂B1の23質量部、および加工助剤としてアクリル系高分子の5質量部、重曹-クエン酸系の化学発泡剤の1質量部を10kg/hのペースで単軸押出機に供給して溶融混練した。なお、単軸押出機内において、始めは160℃にて溶融混練した後に200℃まで昇温させながら溶融混練した。次に、溶融状態の混練樹脂を冷却した後、単軸押出機の前端に取り付けたマルチノズル金型(直径1.0mmのノズルを9穴有する)の各ノズルから混練樹脂を押出し、20~50℃の水中でカットし樹脂粒子を得た。樹脂粒子の平均粒子径D50は1.52mm~1.55mmであった。
【0068】
(2)発泡性粒子
内容積5Lの撹拌機付オートクレーブに、得られた樹脂粒子2.0kg(100質量部)、蒸留水1.5L、及び界面活性剤(直鎖アルキルベンゼンスルホン酸ナトリウム、商品名:「ニューレックスR」、油化産業社製)3gを投入し、密閉した後、撹拌状態で発泡剤のブタン(ノルマルブタン:イソブタン=7:3(容量比))10質量部を圧入した。次に、オートクレーブを30℃で2時間加熱して、25℃まで冷却した。冷却完了後にオートクレーブを除圧し、直ちに蒸留水で界面活性剤を洗浄し、脱水することで発泡性粒子を得た。発泡性粒子の含浸ガス量は、7.7質量%であった。
【0069】
(3)発泡粒子
得られた発泡性粒子2.0kgを内容積50Lの撹拌機付円筒型予備発泡機に投入し、撹拌させながらゲージ圧0.01MPaの水蒸気で加熱して予備発泡させ、発泡粒子を得た。得られた発泡粒子の嵩密度及び平均粒子径を測定した。
【0070】
(4)発泡成形体
得られた発泡粒子をオートクレーブに投入し、ゲージ圧0.25MPaで空気を圧入した後、室温で18時間静置して、発泡粒子に空気を含浸(内圧付与)させた。空気の含浸量は、0.75質量%であった。
内圧付与された発泡粒子をオートクレーブから取り出して、直ちに、水蒸気孔を有する成形用キャビティー(400mm×300mm×厚み20mm)内に充填し、0.20MPaの水蒸気で加熱成形を行い、発泡成形体を得た。得られた発泡粒子及び発泡成形体の物性等を表1に示した。
【0071】
(実施例2)
エラストマーA1を64質量部、ポリエチレン系樹脂B1を12質量部使用したこと以外は、実施例1と同様の方法で発泡成形体を作製した。得られた発泡粒子及び発泡成形体の物性等を表1に示した。
【0072】
(実施例3)
エラストマーA1を32質量部、エラストマーA2を45質量部使用したこと以外は、実施例1と同様の方法で発泡成形体を作製した。得られた発泡粒子及び発泡成形体の物性等を表1に示した。
【0073】
(実施例4)
エラストマーA2を13質量部、ポリエチレン系樹脂B1を34質量部使用したこと以外は、実施例1と同様の方法で発泡成形体を作製した。得られた発泡粒子及び発泡成形体の物性等を表1に示した。
【0074】
(実施例5)
エラストマーA1に代えてエラストマーA3を使用したこと以外は、実施例1と同様の方法で発泡成形体を作製した。得られた発泡粒子及び発泡成形体の物性等を表1に示した。
【0075】
(実施例6)
エラストマーA1に代えてエラストマーA4を使用したこと以外は、実施例1と同様の方法で発泡成形体を作製した。得られた発泡粒子及び発泡成形体の物性等を表1に示した。
【0076】
(比較例1)
エラストマーA1を100質量部使用し、エラストマーA2及びポリエチレン系樹脂B1を使用しなかったこと以外は実施例1と同様にして、発泡粒子を作製できたが、発泡成形工程において加熱されても発泡粒子がビーズ状のままとなったため、発泡粒子の融着体が形成されず、発泡成形体が得られなかった。
【0077】
(比較例2)
エラストマーA1に代えてエラストマーA5を100質量部使用し、エラストマーA2及びポリエチレン系樹脂B1を使用しなかったこと以外は、実施例1と同様の方法で発泡成形体を作製した。得られた発泡粒子及び発泡成形体の物性等を表2に示した。
【0078】
(比較例3)
エラストマーA1を使用せず、エラストマーA2を77質量部使用したこと以外は実施例1と同様にして、発泡成形体を作製した。得られた発泡粒子及び発泡成形体の物性等を表2に示した。
【0079】
(比較例4)
エラストマーA1及びA2に代えて、エラストマーA6を77質量部使用したこと以外は実施例1と同様にして、発泡成形体を作製した。得られた発泡粒子及び発泡成形体の物性等を表2に示した。
【0080】
(比較例5)
ポリエチレン系樹脂B1に代えてポリエチレン系樹脂B2を使用したこと以外は実施例1と同様にして、発泡成形体を作製した。得られた発泡粒子及び発泡成形体の物性等を表2に示した。
【0081】
(比較例6)
エラストマーA1に代えてをエラストマーA3を使用し、ポリエチレン系樹脂B1に代えてポリエチレン系樹脂B3を使用したこと以外は実施例1と同様にして、発泡成形体を作製した。得られた発泡粒子及び発泡成形体の物性等を表2に示した。
【0082】
(比較例7)
エラストマーA1を53質量部、エラストマーA2を13質量部、ポリエチレン系樹脂B1を34質量部使用し、化学発泡剤を使用しないこと以外は実施例1と同様にしたが、発泡性粒子が予備発泡せず、発泡粒子が得られなかった。
【0083】
【0084】
【0085】
実施例1~6では、0.20MPaの水蒸気を使用しての発泡成形が可能であった。また、実施例1~6では、Tm2-Tm1が30~52℃であった。実施例1~6では、外観、融着率、硬度、反発弾性率及び屈曲性に優れた発泡成形体が得られた。
比較例2では、発泡成形体の融解ピーク温度の測定では、Tm2の温度領域(130~180℃)内にピークトップが認められた。しかし、非架橋のポリプロピレン-αオレフィン共重合体にポリエチレン系樹脂が併用されていないため、他のピークトップは認められなかった。
比較例3では、非架橋のポリプロピレン-αオレフィン共重合体にポリエチレン系樹脂が併用されていたが、Tm2-Tm1は31℃であった。
比較例4では、非架橋のポリプロピレン-αオレフィン共重合体にポリエチレン系樹脂が併用されており、発泡成形体の融解ピーク温度の測定では、2つのピークトップが観察された。Tm1の温度領域(90~130℃)内の106℃においてピークトップが認められたが、Tm2の温度領域(130~180℃)内にピークトップが認められず、75℃にピークトップが認められた。
比較例5では、2種類の非架橋のポリプロピレン-αオレフィン共重合体とポリエチレン系樹脂とが併用されており、発泡成形体の融解ピーク温度の測定では、2つのピークトップが観察された。Tm2の温度領域(130~180℃)内の134℃と159℃においてピークトップが認められたが、Tm1の温度領域(90~130℃)内にピークトップが認められなかった。
比較例6では、2種類の非架橋のポリプロピレン-αオレフィン共重合体とポリエチレン系樹脂とが併用されており、発泡成形体の融解ピーク温度の測定では、2つのピークトップが観察された。Tm2-Tm1は13℃であった。