(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023146516
(43)【公開日】2023-10-12
(54)【発明の名称】水電解セル、水電解スタック
(51)【国際特許分類】
C25B 9/00 20210101AFI20231004BHJP
C25B 1/04 20210101ALI20231004BHJP
C25B 13/08 20060101ALI20231004BHJP
C25B 9/23 20210101ALI20231004BHJP
C25B 9/60 20210101ALI20231004BHJP
【FI】
C25B9/00 A
C25B1/04
C25B13/08 301
C25B9/23
C25B9/60
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022053730
(22)【出願日】2022-03-29
(71)【出願人】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】000003609
【氏名又は名称】株式会社豊田中央研究所
(74)【代理人】
【識別番号】100129838
【弁理士】
【氏名又は名称】山本 典輝
(74)【代理人】
【識別番号】100101203
【弁理士】
【氏名又は名称】山下 昭彦
(74)【代理人】
【識別番号】100104499
【弁理士】
【氏名又は名称】岸本 達人
(72)【発明者】
【氏名】吉村 常治
(72)【発明者】
【氏名】岩田 隆一
(72)【発明者】
【氏名】濱口 豪
(72)【発明者】
【氏名】香山 智之
(72)【発明者】
【氏名】池田 飛展
【テーマコード(参考)】
4K021
【Fターム(参考)】
4K021AA01
4K021BA02
4K021BC03
4K021CA09
4K021DB31
4K021DB43
4K021DB53
(57)【要約】
【課題】水電解セルにおいて、発生したガスの移動が水により阻害され難く、水電解性能の低下を抑制する。
【解決手段】固体高分子電解質膜を挟んで一方側に配置されたアノード及び他方側に配置されたカソードを有する水電解セルであって、アノードには、固体高分子電解質膜側から、アノード触媒層、アノードガス拡散層、及び、アノードセパレータが積層されてなり、アノードセパレータには流路が形成されており、流路は波状に延びるように形成されている。
【選択図】
図4
【特許請求の範囲】
【請求項1】
固体高分子電解質膜を挟んで一方側に配置されたアノード及び他方側に配置されたカソードを有する水電解セルであって、
前記アノードには、前記固体高分子電解質膜側から、アノード触媒層、アノードガス拡散層、及び、アノードセパレータが積層されてなり、
前記アノードセパレータには流路が形成されており、前記流路は波状に延びるように形成されている、水電解セル。
【請求項2】
前記アノードセパレータの前記流路の内面には撥水性処理がなされている、請求項1に記載の水電解セル。
【請求項3】
前記アノードガス拡散層のうち前記アノードセパレータに対向する面には親水性処理がなされている、請求項1又は2に記載の水電解セル。
【請求項4】
請求項1~3のいずれか1項に記載の水電解セルが積層されてなる水電解スタックであって、
前記流路が鉛直方向に延びる向きで、下方が流入口、上方が排出口となるよう前記水電解セルが配置されている、水電解スタック。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は水電解に用いられる水電解セル、水電解スタックに関する。
【背景技術】
【0002】
例えば特許文献1には、複数のネジ軸で締結した水電解セルが水平方向に積層されたスタック構造が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
従来技術では、アノード(酸素発生極)で発生した酸素が適切に排出されずにアノード内に滞留し、電解用の水が供給され難くなり、電解性能や耐久性が低下する問題がある。
【0005】
上記問題に鑑み本開示は、水電解セルにおいて、発生したガスの移動が水により阻害され難く、水電解性能の低下を抑制することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本願は、固体高分子電解質膜を挟んで一方側に配置されたアノード及び他方側に配置されたカソードを有する水電解セルであって、アノードには、固体高分子電解質膜側から、アノード触媒層、アノードガス拡散層、及び、アノードセパレータが積層されてなり、アノードセパレータには流路が形成されており、流路は波状に延びるように形成されている、水電解セルを開示する。
【0007】
水電解セルにおいて、アノードセパレータの流路の内面には撥水性処理がなされてもよい。
【0008】
水電解セルにおいて、アノードガス拡散層のうちアノードセパレータに対向する面には親水性処理がなされてもよい。
【0009】
本願は、上記水電解セルが積層されてなる水電解スタックであって、流路が鉛直方向に延びる向きで、下方が流入口、上方が排出口となるよう水電解セルが配置されている、水電解スタックを開示する。
【発明の効果】
【0010】
本開示によれば、水電解セルにおいて、発生したガスの移動が水により阻害され難く、水電解性能の低下を抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】
図1は水電解セル10を平面視した図である。
【
図2】
図2は水電解セル10の水電解部10aにおける層構成を説明する概念図である。
【
図3】
図3はアノードセパレータ14の一部の外観斜視図である。
【
図4】
図4はアノードセパレータ14の一部の断面である。
【
図5】
図5は水電解スタック20の構造を説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
1.水電解セルの構成
図1、
図2に1つの形態にかかる水電解セル10を説明する図を示した。水電解セル10は純水を水素と酸素とに分解するための単位要素であり、このような水分解セル10が複数積層されて水電解スタックを構成している。
図1は水電解セル10を平面視した図、
図2は
図1のAーA断面の一部であり水電解セル10のうち水電解が行われる部位である水電解部10aにおける層構成を説明する図である。
【0013】
水電解セル10は複数の層からなり、固体高分子電解質膜11を挟んで一方が酸素発生極(アノード)、他方が水素発生極(カソード)となる。アノードは固体高分子電解質膜11側からアノード触媒層12、アノードガス拡散層13、アノードセパレータ14がこの順に積層されている。一方、カソードは固体高分子電解質膜11側からカソード触媒層15、カソードガス拡散層16、カソードセパレータ17をこの順に備えている。ここで、水電解膜電極接合体は、固体高分子電解質膜11、固体高分子電解質膜11のアノード側に配置されたアノード触媒層12、及び、固体高分子電解質膜11のカソード側に配置されたカソード触媒層15の積層体を意味する。水電解膜電極接合体の厚さは0.4mm程度が典型的であり、水電解部10aにおける水電解セル10の厚さは1.3mm程度が典型的である。
各層は例えば次の通りである。
【0014】
1.1.固体高分子電解質膜
固体高分子電解質膜11はプロトン伝導性を有する膜の1つの態様である。本形態で固体高分子電解質膜11を構成する材料(電解質)は固体高分子材料であり、例えばフッ素系樹脂や炭化水素系樹脂材料等により形成されたプロトン伝導性のイオン交換膜が挙げられる。これは湿潤状態で良好なプロトン伝導性(電気伝導性)を示す。より具体的にはパーフルオロ系電解質であるナフィオン(Nafion、登録商標)による膜が挙げられる。
固体高分子電解質膜11の厚さは特に限定されることはないが、100μm以下、好ましくは50μm以下、より好ましくは30μm以下である。
【0015】
1.2.アノード触媒層
アノード触媒層(酸素極触媒層)12は、Pt、Ru、Ir等の貴金属触媒及びその酸化物を少なくとも1つ以上含む触媒を有する層である。触媒としてより具体的には、Pt、イリジウム酸化物、ルテニウム酸化物、イリジウムルテニウム酸化物、又は、これらの混合物が挙げられる。
イリジウム酸化物としては、酸化イリジウム(IrO2、IrO3)、イリジウムスズ酸化物、イリジウムジルコニウム酸化物等が挙げられる。
ルテニウム酸化物としては、酸化ルテニウム(RuO2、Ru2O3)、ルテニウムタンタル酸化物、ルテニウムジルコニウム酸化物、ルテニウムチタン酸化物、ルテニウムチタンセリウム酸化物等が挙げられる。
イリジウムルテニウム酸化物としては、イリジウムルテニウムコバルト酸化物、イリジウムルテニウムスズ酸化物、イリジウムルテニウム鉄酸化物、イリジウムルテニウムニッケル酸化物等が挙げられる。
【0016】
ここでアノード触媒層12にはアイオノマを含んでもよい。アイオノマを含むことにより塗工性向上を図る他、その親水性により水分解の際に供給される水の透過を円滑に行うことができる。含まれるアイオノマとしては固体高分子電解質膜に用いる電解質であるパーフルオロ系電解質を含むアイオノマを挙げることができる。
【0017】
1.3.アノードガス拡散層
アノードガス拡散層13は、公知のものを用いることができるが、ガス透過性及び導電性を有する部材によって構成されている。具体的には金属繊維(例えばチタン繊維)または金属粒子(チタン粒子)などの焼結体からなる多孔質導電性部材等を挙げることができる。
さらに本形態でアノードガス拡散層13は、そのアノードセパレータ14の流路14aに面する面13aは親水性処理をしてもよい。これにより、アノードガス拡散層13の表面に水を集め易くなり、水を集めて導くことで、アノードガス拡散層13に水を導入し易くなることから円滑な水分解が可能となる。親水性としてはイオン交換水を用いた濡れ性の検査において、接触角が50度以下であることが好ましい。
親水性処理はUV処理、プラズマ処理等によりアノードガス拡散層13の面13a自体に親水性を付与する処理や、面13aにシリカ等の無機化合物や親水性樹脂をスプレー等により親水層を形成することが挙げられる。
ただし、親水性処理として親水性の材料を層として形成してもよいが、アノードセパレータ14と接触する面には当該層を形成しないようにする。これは、アノードセパレータとの界面に親水材が存在すると、抵抗体となってしまうからである。
【0018】
1.4.アノードセパレータ
アノードセパレータ14は、アノードガス拡散層13に純水を供給するとともに水が分解して発生した酸素が流れる流路14aを備える部材である。
図3、
図4にはアノードセパレータ14のうち、水電解部10aにおける流路の形態を説明する図を示した。
図3、
図4は説明のための概念的に示した模式的な図であり、実際には微細な構造であって流路はさらに多数配置されている。
図3はアノードセパレータ14の水電解部10aに配置される部位の外観斜視図、
図4は
図3にCーCで示した線に沿った断面図である。
【0019】
アノードセパレータ14の流路14aは
図4からわかるように波状に形成されている。これにより流路14aを流れる水を乱流化することができ、水をアノードガス拡散層13に供給し易くなる。波の形状は特に限定されることはなく、
図4のような三角波の他、正弦波、矩形波、その他不定形な波状であってよい。
また、波状が有する形状は、送水時の圧力損失が送液ポンプなどの能力の範囲内で振幅は大きく、波長は短い方が好ましい。より具体的には、振幅は流路の幅(複数の流路が並ぶ方向における流路の大きさ)の2倍以上が好ましく、波長は流路の幅の10倍以下であることが好ましい。
【0020】
また、本形態ではアノードセパレータ14の流路14aの内面である底面14b、側面14c(
図2参照)は撥水性処理がされている。これにより、水を流路14aの内面からはじいてアノードガス拡散層13に導くことができる。撥水性の程度は特に限定されることはないが、イオン交換水を用いた撥水性の試験において、転落角が70度以下であればよく、好ましくは10度以下である。
撥水性処理の具体的態様は特に限定されることはないが、テフロン(登録商標)等の撥水性材料をスプレー等により撥水層を形成することで行うことができる。本形態では流路14aの底面14bと側面14cに撥水性を付与しているが、底面14aのみに撥水性を付与してもよい。
【0021】
また、アノードセパレータ14には、
図1からわかるように、水電解部10aから延長して外側となる位置で、流路14aの一端側となる部位には水入口孔H
2O
in1、水入口孔H
2O
in2が設けられ、流路14aの他端側となる部位には水及び酸素出口孔O
2/H
2O
out、水及び水素出口孔H
2/H
2O
outが設けられている。ここで流路14aは一端が水入口孔H
2O
in1に通じ、他端が水及び酸素出口孔O
2/H
2O
outに通じている。
【0022】
1.5.カソード触媒層
カソード触媒層15に含まれる触媒は、公知の触媒を用いることができ、例えば白金、白金被覆チタン、白金担持カーボン、パラジウム担持カーボン、コバルトグリオキシム、ニッケルグリオキシム等を挙げることができる。
ここでカソード触媒層15にはアイオノマを含んでもよい。アイオノマを含むことにより塗工性向上を図ることができる。含まれるアイオノマとしては固体高分子電解質膜に用いる電解質であるパーフルオロ系電解質からなるアイオノマを挙げることができる。
【0023】
1.6.カソードガス拡散層
カソードガス拡散層16は、公知のものを用いることができるが、ガス透過性及び導電性を有する部材によって構成されている。具体的にはカーボンクロスやカーボンペーパー等の多孔質部材等を挙げることができる。
【0024】
1.7.カソードセパレータ
カソードセパレータ17は、水素イオンが還元されて発生した水素、及び、水素イオンが固体高分子電解質膜11を透過するときにこれに随伴した水が流れる流路17aを備える部材である。
流路17の内面である底面17b、側面17cには親水性処理が施されていてもよい。これにより流路17aの底面17bに水を導くことができ、流路17aのうちカソードガス拡散層16側に水素が集中することからカソードガス拡散層16から流路17aへの水素ガスの流出が円滑に行われる。親水性の程度は特に限定されることはないが、イオン交換水を用いた濡れ性の検査において、接触角が50度以下であることが好ましい。
親水性性処理は特に限定されることはないが、シリカ等の無機化合物や親水性樹脂をスプレー等により親水層を形成することや、UV処理やプラズマ処理で流路17aの内面自体に親水性を付与してもよい。本形態では流路17aの底面17bと側面17cに親水性を付与しているが、底面17bのみに親水性を付与してもよい。
【0025】
また、カソードセパレータ17には、
図1からわかるように、水電解部10aから延長して外側となる位置で、流路17aの一端側となる部位には水入口孔H
2O
in1、水入口孔H
2O
in2が設けられ、流路17aの他端側となる部位には水及び酸素出口孔O
2/H
2O
out、水及び水素出口孔H
2/H
2O
outが設けられている。ここで流路17aは一端が水入口孔H
2O
in2に通じ、他端が水及び水素出口孔H
2/H
2O
outに通じている。
【0026】
1.8.水電解セルによる水素の生成
以上説明した水電解セル10により次のように純水から水素及び酸素が生成される。従って、本開示の水電解セル及び水電解スタックは上記の他にも水素を生成するために必要な公知の部材や構成を備えることができる。
アノードセパレータ14の流路14aからアノード(酸素発生極)に供給された純水(H2O)は、アノードとカソードとの間に通電することで、電位がかかったアノード触媒層12で酸素、電子及びプロトン(H+)に分解される。このときプロトンは固体高分子電解質膜11を通りカソード触媒層15に移動する。一方、アノード触媒層12で分離された電子は外部回路を通りカソード触媒層15に達する。そして、カソード触媒層15にてプロトンが電子を受け取り水素(H2)が発生する。発生した水素はカソードセパレータ17に達して流路17aから排出される。なお、アノード触媒層12で発生した酸素はアノードセパレータ14に達して流路14aから排出される。
【0027】
2.水電解スタック
水電解スタック20は、上記した水電解セル10が複数(50枚~400枚程度)重ねられてなる部材であり、複数の水電解セル10に通電して水素及び酸素を生成する。
図5にその構成の概要を示した。水電解セル20は、スタックケース21、エンドプレート22、複数の水電解セル10、及び、付勢部材23を備えている。
【0028】
スタックケース21は、重ねられた複数の水電解セル10、及び、付勢部材23をその内側に収納する筐体である。本形態でスタックケース21は四角形の筒状で一端が開口し、他端が閉じているとともに、開口の縁に沿って開口とは反対側に板状の片が張り出し、フランジ21aを形成している。
【0029】
エンドプレート22は板状の部材であり、スタックケース21の開口を塞ぐ。スタックケース21のフランジ21aとの重なり部分をボルト及びナット等によりスタックケース21にフタをするようにエンドプレート22がスタックケース21に固定される。
【0030】
水電解セル10は上記の通りである。このような水電解セル10が複数重ねられている。ここで本形態では、
図5からわかるように、水電解セル10は水平方向に重ねられるように構成され、各水電解セル10では
図1に示したように下方であるH
2O
in1からアノードセパレータ14水が供給され、
図1、
図4に直線矢印で示したように下方から上方に向けて水及び発生した酸素が流れ、
図1に示したO
2/H
2O
outから排出される。
【0031】
付勢部材23は、スタックケース21の内側に収まり、水電解セル10の積層体に対してその積層方向に押圧力を付与する。付勢部材として例えば皿バネ等を挙げることができる。
【0032】
3.効果等
水電解セル10により上記したように水素及び酸素を生成するが、アノードセパレータ14に供給された電解用の水は流路14aを流れる際に流路14aの壁に衝突することにより乱れてアノードガス拡散層13に供給されるように流れやすくなるとともに、発生した酸素も留まることなく動くため、円滑に排出されることから、電解性能が向上し、固体高分子電解質膜11が乾燥することも回避できるようになり耐久性が向上する。
【0033】
特に上記したように水電解セル10を水電解スタック20に配置した際に、水が下方から供給されて上方に向かうようにした場合には、水は重力の影響により下方に溜まりやすくなり電解性能を低下させるが、本開示のように当該流路14aの上記した効果により、電解性能の低下を抑制することができる。
【符号の説明】
【0034】
10 水電解セル
11 固体高分子電解質膜
12 アノード触媒層
13 アノードガス拡散層(酸素発生極ガス拡散層)
14 アノードセパレータ(酸素発生極セパレータ)
15 カソード触媒層
16 カソードガス拡散層(水素発生極ガス拡散層)
17 カソードセパレータ(水素発生極セパレータ)
20 水電解スタック