(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023146520
(43)【公開日】2023-10-12
(54)【発明の名称】ブロック共重合体
(51)【国際特許分類】
C08F 293/00 20060101AFI20231004BHJP
【FI】
C08F293/00
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022053734
(22)【出願日】2022-03-29
(71)【出願人】
【識別番号】000219602
【氏名又は名称】住友理工株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100115657
【弁理士】
【氏名又は名称】進藤 素子
(74)【代理人】
【識別番号】100115646
【弁理士】
【氏名又は名称】東口 倫昭
(74)【代理人】
【識別番号】100196759
【弁理士】
【氏名又は名称】工藤 雪
(72)【発明者】
【氏名】大畔 もとみ
(72)【発明者】
【氏名】高垣 有作
(72)【発明者】
【氏名】山岡 夏樹
(72)【発明者】
【氏名】森田 晃年
【テーマコード(参考)】
4J026
【Fターム(参考)】
4J026HA11
4J026HA20
4J026HA22
4J026HA32
4J026HA38
4J026HA48
4J026HB11
4J026HB22
4J026HB32
4J026HB38
4J026HB45
4J026HB47
4J026HE01
(57)【要約】
【課題】 水系塗料を構成することができ、撥水撥油性が高く比較的柔軟な皮膜を形成することができるブロック共重合体を提供する。
【解決手段】 三種類以上の(メタ)アクリレート系モノマーの共重合体からなる樹脂部(A)と、炭素数6以下のフルオロアルキル基を有する(メタ)アクリレート系モノマーから構成される機能部(B)と、のブロック共重合体において、該樹脂部(A)を構成する該(メタ)アクリレート系モノマーは、(メタ)アクリレート系モノマーと、架橋性基を有する(メタ)アクリレート系モノマーと、親水性基を有する(メタ)アクリレート系モノマーと、を有し、該親水性基を有する(メタ)アクリレート系モノマーの含有量は、ブロック共重合体の全体を100mol%とした場合の7mol%以上20mol%以下であり、該親水性基は、繰り返し単位数が9以下のポリオキシアルキレン基を有する。
【選択図】 なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
三種類以上の(メタ)アクリレート系モノマーの共重合体からなる樹脂部(A)と、炭素数6以下のフルオロアルキル基を有する(メタ)アクリレート系モノマーから構成される機能部(B)と、のブロック共重合体であって、
該樹脂部(A)を構成する該(メタ)アクリレート系モノマーは、(メタ)アクリレート系モノマーと、架橋性基を有する(メタ)アクリレート系モノマーと、親水性基を有する(メタ)アクリレート系モノマーと、を有し、
該親水性基を有する(メタ)アクリレート系モノマーの含有量は、ブロック共重合体の全体を100mol%とした場合の7mol%以上20mol%以下であり、
該親水性基は、繰り返し単位数が9以下のポリオキシアルキレン基を有することを特徴とするブロック共重合体。
【請求項2】
前記樹脂部(A)を構成する前記(メタ)アクリレート系モノマーは、さらにアクリルアミド系モノマーを有する請求項1に記載のブロック共重合体。
【請求項3】
前記アクリルアミド系モノマーの含有量は、ブロック共重合体の全体を100mol%とした場合の1mol%以上5mol%以下である請求項2に記載のブロック共重合体。
【請求項4】
前記樹脂部(A)のガラス転移点は、40℃以下である請求項1ないし請求項3のいずれかに記載のブロック共重合体。
【請求項5】
前記架橋性基を有する(メタ)アクリレート系モノマーの該架橋性基は、イソシアネート基である請求項1ないし請求項4のいずれかに記載のブロック共重合体。
【請求項6】
前記親水性基を有する(メタ)アクリレート系モノマーは、メトキシポリエチレングリコールアクリレートである請求項1ないし請求項5のいずれかに記載のブロック共重合体。
【請求項7】
数平均分子量は、1万以上10万以下である請求項1ないし請求項6のいずれかに記載のブロック共重合体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、ブロック共重合体、特に水系の表面処理剤に好適なブロック共重合体に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば、複写機、プリンター、ファクシミリなどの電子写真方式を用いたOA機器においては、感光ドラムの周囲に、帯電ロール、現像ロール、転写ロール、トナー供給ロールなどの各種ロールが配設される。これらのロールは、軸体と、その外周に配置され導電性のゴムなどからなる弾性体層と、を有し、弾性体層の外周には、防汚性などの所望の特性を付与するために表層が形成される。表層を形成するための表面処理剤としては、ポリマーやバインダーなどを含む組成物を有機溶剤に溶解した溶剤系塗料が用いられる。しかしながら、環境保護などの観点から、表面処理剤を溶媒として水を使用する水系塗料に変更することが望まれる。
【0003】
例えば、撥水性、撥油性などを有する皮膜を形成可能な材料として、特許文献1には、含フッ素部位(A)と、ガラス転移点が30℃以上の非フッ素系単量体に基づく単位を有する非フッ素部位(B)と、を有する含フッ素ブロック共重合体が記載されている。特許文献2には、親水性表面の改質材料として、親水性部-フッ素原子を有する疎水性部構造を有するブロック共重合体が記載されている。特許文献3には、フルオロアルキル基を有する(メタ)アクリレート化合物(a1)と、ポリオキシアルキレン基を有する(メタ)アクリレート化合物(a2)と、を含むモノマーを重合してなる共重合体を有する親水撥油剤が記載されている。特許文献4には、フルオロオレフィンに基づく単位および親水性基を有する単位を含む含フッ素非ブロック共重合体(重合体A)と、ペルフルオロアルキル基を有する単量体に基づく単位を含む含フッ素セグメントおよびフッ素原子を含まない非フッ素セグメントを有する含フッ素ブロック共重合体(重合体B)と、アニオン性界面活性剤と、水と、を有する水系塗料が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】国際公開第2013/027679号
【特許文献2】特開2004-75780号公報
【特許文献3】国際公開第2019/198425号
【特許文献4】国際公開第2019/069821号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1に記載されている含フッ素ブロック共重合体によると、非フッ素部位(B)を構成する非フッ素系単量体は疎水性を有する。このため、含フッ素ブロック共重合体は水に溶けにくく、水系塗料として使用することは難しい。特許文献2に記載されているブロック共重合体は、親水性表面を疎水性表面に改質するための材料である。ブロック共重合体は、ヒドロキシ基、カルボキシ基などの官能基を有する親水性部を有するが、これらの官能基があるというだけでは水への溶解性は充分ではなく、水系塗料として使用することは難しい。特許文献3に記載されている親水撥油剤を構成する共重合体は、モノマーとしてポリオキシアルキレン基を有する(メタ)アクリレート化合物(a2)を有する。当該共重合体は、親水性を有するため水系塗料として使用できるかもしれないが、同文献の段落[0024]に、オキシアルキレン基の繰り返し単位数は8以上150以下、下限値は15以上が望ましいと記載されているように、ポリオキシアルキレン基が比較的長い。この場合、撥水性が低下するだけでなく、ガラス転移点が高くなるため柔軟性も低下する。よって、形成された皮膜において所望の撥水性を得ることができず、表面割れなどの問題も生じやすい。特許文献4に記載されている水系塗料は、含フッ素非ブロック共重合体(重合体A)と、含フッ素ブロック共重合体(重合体B)と、を有する。当該水系塗料は、親水性に優れた皮膜を形成することを目的とした塗料であるから、撥水性が低い。また、二種類の重合体を混合して用いる必要があるため、製造工程が煩雑になりコスト高である。また、上記特許文献1~4における共重合体は、いずれも架橋成分を有しない。架橋成分は、皮膜の物性に作用すると共に、被処理部材に対する接着力を向上させる役割を果たす。よって、従来の共重合体の場合、所望の特性を得るためには別途バインダーなどを加えて使用する必要がある。
【0006】
本開示は、このような実情に鑑みてなされたものであり、水系塗料を構成することができ、撥水撥油性が高く比較的柔軟な皮膜を形成することができるブロック共重合体を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するため、本開示のブロック共重合体は、三種類以上の(メタ)アクリレート系モノマーの共重合体からなる樹脂部(A)と、炭素数6以下のフルオロアルキル基を有する(メタ)アクリレート系モノマーから構成される機能部(B)と、のブロック共重合体であって、該樹脂部(A)を構成する該(メタ)アクリレート系モノマーは、(メタ)アクリレート系モノマーと、架橋性基を有する(メタ)アクリレート系モノマーと、親水性基を有する(メタ)アクリレート系モノマーと、を有し、該親水性基を有する(メタ)アクリレート系モノマーの含有量は、ブロック共重合体の全体を100mol%とした場合の7mol%以上20mol%以下であり、該親水性基は、繰り返し単位数が9以下のポリオキシアルキレン基を有することを特徴とする。
【発明の効果】
【0008】
本開示のブロック共重合体は、樹脂部(A)と機能部(B)とが別々に配置されるため、互いのモノマーが干渉しにくく、各部位を構成するモノマーの特性が発揮されやすい。このため、ランダム共重合体の場合と比較して、例えば機能部(B)による撥水撥油性が発現しやすい。
【0009】
樹脂部(A)は、少なくとも三種類の(メタ)アクリレート系モノマーの共重合体からなる。本開示において、「(メタ)アクリレート」とは、アクリレートまたはメタクリレートを意味する。第一のモノマーである(メタ)アクリレート系モノマーは、成膜性を向上させ、ガラス転移点を調整する役割を果たす。第二のモノマーである架橋性基を有する(メタ)アクリレート系モノマーは、成膜時に架橋構造を形成することにより、皮膜の機械的強度などの物性を向上させ、被処理部材との接着性を高める役割を果たす。これにより、水系塗料として使用する際に別途バインダーを加えなくても、被処理部材との接着性が良好な皮膜を形成することができる。第三のモノマーである親水性基を有する(メタ)アクリレート系モノマーは、親水性基として、ポリオキシアルキレン基を有する。これにより、ブロック共重合体が水に可溶になり、水系塗料として使用することができる。
【0010】
ここで、親水性基であるポリオキシアルキレン基の繰り返し単位数は9以下である。ポリオキシアルキレン基の繰り返し単位数が大きいほど、換言すると、ポリオキシアルキレン基が長いほど、水に対する溶解性は上がるが、撥水撥油性は低下する。また、樹脂部(A)のガラス転移点が上昇し、ブロック共重合体の柔軟性が低下する。このため、本開示のブロック共重合体においては、ポリオキシアルキレン基を比較的短くすると共に、第三のモノマーの含有量を調整することにより、水への溶解性と、形成される皮膜の柔軟性および撥水撥油性と、を両立させている。このように、樹脂部(A)として、架橋性基を有する第二のモノマーおよび親水性基を有する第三のモノマーを有する本開示のブロック共重合体によると、水系塗料として使用することができ、表面割れなどが生じにくい柔軟な皮膜を形成することができる。
【0011】
機能部(B)は、炭素数6以下のフルオロアルキル基を有する(メタ)アクリレート系モノマーから構成される。本開示のブロック共重合体は、機能部(B)を有することにより、撥水撥油性に優れ、防汚性が高い皮膜を形成することができる。なお、フルオロアルキル基の炭素数が多いほど撥水性は高くなると考えられるが、炭素数が7以上のフルオロアルキル基を有するものは、環境および生体への影響が懸念される。よって、本開示のブロック共重合体においては、フルオロアルキル基の炭素数を6以下にしている。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本開示のブロック共重合体について詳細に説明する。本開示のブロック共重合体は、以下の形態に限定されるものではなく、本開示の要旨を逸脱しない範囲において、当業者が行い得る変更、改良などを施した種々の形態にて実施することができる。
【0013】
<ブロック共重合体>
本開示のブロック共重合体は、樹脂部(A)と、機能部(B)と、の二つの部位を有し、各々の部位において、その部位を構成するモノマーが連続して結合される。樹脂部(A)と機能部(B)とが分離されるため、互いのモノマーが干渉しにくく、部位ごとにモノマーの特性が発揮されやすい。本開示のブロック共重合体は、AB型(Aは樹脂部(A)、Bは機能部(B)を意味する。)の構造を有することが望ましい。
【0014】
本開示のブロック共重合体の数平均分子量(Mn)は、特に限定されないが、成膜性および皮膜の機械的強度を考慮すると、1万以上であることが望ましい。他方、分子量が大きくなると塗料の粘度が上昇する。よって、塗工性を考慮すると、10万以下であることが望ましい。数平均分子量は、ゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)装置を用いて測定すればよい。
【0015】
[樹脂部(A)]
樹脂部(A)は、三種類以上の(メタ)アクリレート系モノマーの共重合体からなる。「(メタ)アクリレート系モノマー」とは、(メタ)アクリロイル基を有するモノマーを意味する。「(メタ)アクリロイル基」とは、アクリロイル基またはメタクリロイル基を意味する。樹脂部(A)は、異なる(メタ)アクリレート系モノマーがランダムに共重合したランダム共重合体でよい。(メタ)アクリレート系モノマーは、少なくとも(メタ)アクリレート系モノマー(以下、「第一のモノマー」と称する場合がある)と、架橋性基を有する(メタ)アクリレート系モノマー(以下、「第二のモノマー」と称する場合がある)と、親水性基を有する(メタ)アクリレート系モノマーと(以下、「第三のモノマー」と称する場合がある)、を有する。
【0016】
(1)第一のモノマー
(メタ)アクリレート系モノマーは、第二のモノマーおよび第三のモノマーとは異なり、架橋性基および親水性基を有しないモノマーである。(メタ)アクリレート系モノマーは、主に成膜性、ガラス転移点(Tg)の調整に寄与する。(メタ)アクリレート系モノマーとしては、アルキル(メタ)アクリレートが好適である。例えば、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、プロピル(メタ)アクリレート、ブチル(メタ)アクリレート、イソブチル(メタ)アクリレート、t-ブチル(メタ)アクリレート、ヘキシル(メタ)アクリレート、2-エチルヘキシル(メタ)アクリレート、シクロヘキシル(メタ)アクリレート、オクチル(メタ)アクリレート、イソオクチル(メタ)アクリレート、ドデシル(メタ)アクリレート、テトラデシル(メタ)アクリレート、ヘキサデシル(メタ)アクリレート、オクタデシル(メタ)アクリレートなどが挙げられる。
【0017】
アルキル(メタ)アクリレートを採用する場合、アルキル基の炭素原子数は1以上8以下であることが望ましい。4以下であるとより好適である。炭素原子数が多くなると、アルキル基が長くなったり大きくなる。結果、立体障害により重合性が悪化したり、結晶性が増加して樹脂部のガラス転移点が高くなることにより柔軟性が低下する。
【0018】
(2)第二のモノマー
架橋性基を有する(メタ)アクリレート系モノマーは、成膜時に架橋構造を形成することにより、主に皮膜の機械的強度、被処理部材に対する接着性の向上に寄与する。架橋性基としては、イソシアネート基、カルボキシ基、ヒドロキシ基、アミノ基、エポキシ基、アルコキシシリル基などが挙げられる。なかでも、ゴムまたは樹脂製の被処理部材との反応性が高いという観点から、イソシアネート基が望ましい。イソシアネート基は、反応の進行を制御しやすいという観点から、ピラゾール、メチルエチルケトンオキシム(MEKオキシム)などのブロック剤で保護されたブロックイソシアネート基であることが望ましい。
【0019】
(3)第三のモノマー
親水性基を有する(メタ)アクリレート系モノマーは、主に水に対する溶解性、ガラス転移点の調整に寄与する。親水性基は、繰り返し単位数が9以下のポリオキシアルキレン基を有する。親水性基は、次の一般式(i)で示すことができる。
-(XO)n-O-R ・・・(i)
式(i)中、Rは水素原子または炭素数1~6のアルキル基であり、Xはアルキレン基である。nは2以上9以下の整数である。アルキレン基は、ブロック共重合体の水溶化と皮膜の撥水撥油性とを両立させるという観点から、炭素数1~3の直鎖状のアルキレン基であることが望ましい。例えば、メチレン基、エチレン基、プロピレン基、ブチレン基などが好適である。
【0020】
親水性基を有する(メタ)アクリレート系モノマーの好適例として、メトキシポリエチレングリコールアクリレート、メトキシポリエチレングリコールメタリレート、ジエチレングリコールモノエチルエーテルアクリレート、2-[2-(2-メトキシエトキシ)エトキシ]エチルアクリレート、ジエチレングリコールモノメチルエーテルメタクリレートなどが挙げられる。親水性基を有する(メタ)アクリレート系モノマーの含有量は、ブロック共重合体の全体を100mol%とした場合の7mol%以上20mol%以下である。7mol%未満の場合には、水への溶解性が低下する。また、樹脂部(A)のガラス転移点が上昇してブロック共重合体の柔軟性が低下する。20mol%より多くなると、成膜性や撥水撥油性が低下する。
【0021】
(4)その他のモノマー
樹脂部(A)を構成する(メタ)アクリレート系モノマーは、第一~第三のモノマーに加えて、さらに別のモノマーを有してもよい。例えば、第四のモノマーとして、アクリルアミド系モノマーを有する形態が望ましい。アクリルアミド系モノマーは、アミノ基を有するため、ブロック共重合体の電気抵抗値を調整することができる。よって、アクリルアミド系モノマーの配合は、OA機器に使用される各種ロールなど、導電性の制御が必要な部材に適用する場合に好適である。また、アクリルアミド系モノマーは、ブロック共重合体の親水性、分子量などを調整するためにも有効である。
【0022】
アクリルアミド系モノマーとしては、N-(3-ジメチルアミノプロピル)アクリルアミド(DMAPAA)、アクリルアミド、N,N-ジメチルアクリルアミドなどが挙げられる。アクリルアミド系モノマーの含有量は、例えば、導電性を制御するという観点においては、ブロック共重合体の全体を100mol%とした場合の1mol%以上であるとよい。また、ブロック共重合体の親水性、分子量を調整するという観点においては、5mol%以下であるとよい。
【0023】
(5)ガラス転移点
ブロック共重合体を柔軟にし、形成された皮膜の表面割れなどを抑制するという観点から、樹脂部(A)のガラス転移点は40℃以下であることが望ましい。より好適には30℃以下、さらには25℃以下である。ガラス転移点は、示差走査熱量計(DSC)を用いて測定すればよい。
【0024】
[機能部(B)]
機能部(B)は、炭素数6以下のフルオロアルキル基を有する(メタ)アクリレート系モノマーから構成される。フルオロアルキル基とは、アルキル基の水素原子の1個以上がフッ素原子に置換された基である。フルオロアルキル基を有する(メタ)アクリレート系モノマーは、次の一般式(ii)で示すことができる。
CH2=CH-CO-O-Y-Rf ・・・(ii)
式(ii)中、Yはアルキレン基であり、Rfは炭素数6以下のフルオロアルキル基である。
【0025】
アルキレン基は、皮膜の撥水撥油性が向上するという観点から、炭素数1~2の直鎖状のアルキレン基であることが望ましい。例えば、メチレン基、エチレン基、プロピレン基、ブチレン基などが好適である。フルオロアルキル基は、皮膜の撥水撥油性が向上するという観点から、炭素数4~6のフルオロアルキル基であることが望ましい。例えば、-CF2CF2CF2CF3、-CF2CF(CF3)2、-C(CF3)3、-(CF2)4CF3、-(CF2)2CF(CF3)2、-CF2C(CF3)3、-CF(CF3)CF2CF2CF3、-(CF2)5CF3、-(CF2)3CF(CF3)2などが挙げられる。炭素数6以下のフルオロアルキル基を有する(メタ)アクリレート系モノマーの具体例としては、1H,1H,5H-オクタフルオロペンチルアクリレート、2,2,3,3,4,4,5,5,6,6,7,7-ドデカフルオロヘプチルアクリレート、1H,1H,2H,2H-ノナフルオロヘキシルアクリレート、1H,1H,2H,2H-トリデカフルオロオクチルアクリレート、1H,1H,5H-オクタフルオロペンチルメタクリレート、2,2,3,3,4,4,5,5,6,6,7,7-ドデカフルオロヘプチルメタクリレート、1H,1H,2H,2H-ノナフルオロヘキシルメタクリレート、1H,1H,2H,2H-トリデカフルオロオクチルメタクリレートなどが挙げられる。
【0026】
<ブロック共重合体の製造方法>
本開示のブロック共重合体は、例えば、リビングラジカル重合法で製造することができる。なかでも、重合工程が単純で生産性が高いという観点から、RAFT剤(可逆的付加開裂型連鎖移動剤)を使用するRAFT重合(Reversible Addition-Fragmentation Chain Transfer Polymerization)を採用することが望ましい。RAFT重合は、例えば、次の二工程を有する。
(1)RAFT剤の存在下で、三種類以上の(メタ)アクリレート系モノマーを重合して、樹脂部(A)に対応する共重合体を得る工程。
(2)RAFT剤の存在下で、先の工程(1)で得られた共重合体と、炭素数6以下のフルオロアルキル基を有する(メタ)アクリレート系モノマーと、を重合して、ブロック共重合体を得る工程。
【0027】
RAFT剤としては、2-シアノ-2-[(ドデシルスルファニルチオカルボニル)スルファニル]プロパンなどのトリチオカルボナート型RAFT剤などを使用すればよい。RAFT剤は、モノマーの100質量部に対して0.1~10質量部使用すればよい。ラジカル重合開始剤としては、1,1’アゾビス(シクロヘキシルカルボン酸メチル)、α,α’-アゾビスイソブチロニトリル(AIBN)などのアゾ系化合物を用いればよい。ラジカル重合開始剤は、モノマーの100質量部に対して、0.01~2質量部使用すればよい。重合溶媒としては、トルエン、メチルイソブチルケトン(MIBK)などを使用すればよい。重合温度は、40~100℃が望ましい。
【0028】
<表面処理剤>
本開示のブロック共重合体は、そのまま表面処理剤として使用してもよく、あるいは水などの溶媒に溶解するなどして表面処理剤を構成することができる。表面処理剤は、ブロック共重合体の他、溶媒、必要に応じて界面活性剤、カーボンブラック、イオン性導電剤などの各種添加剤を含んでもよい。また、使用するブロック共重合体は、一種でも二種以上でも構わない。表面処理剤におけるブロック共重合体の含有量は、用途などに応じて適宜調整すればよいが、例えば、表面処理剤の全体を100質量%とした場合の3~100質量%にするとよい。溶媒は、水(純水、水道水などを含む)のみでもよく、水と有機溶剤との混合液でもよい。有機溶剤としては、メタノール、エタノール、イソプロピルアルコールなどが挙げられる。混合液の場合、環境保護の観点から、有機溶剤は水100質量部に対して40質量部以下にするとよい。
【実施例0029】
次に、実施例を挙げて本開示をより具体的に説明する。
【0030】
<共重合体サンプルの製造>
(1)以下の三つの工程により、ブロック共重合体サンプルを製造した。製造したブロック共重合体サンプルは、後出の表1、表2における共重合体1~5、7、8に対応する。
【0031】
[RAFT剤合成工程]
本工程の反応式を式(1)に示す。式(1)に示すように、まず、RAFT剤前駆体(ビス(ドデシルスルファニルチオカルボニル)ジスルフィド)8.41g(0.015mol)およびアゾ開始剤(1,1’アゾビス(シクロヘキシルカルボン酸メチル)、富士フイルム和光純薬(株)製「VE-073」)6.59g(0.015mol)を三ツ口フラスコに入れ、トルエン85gに溶解した。次に、室温にて窒素バブリングを15分間実施した後、温度80℃に昇温し、窒素雰囲気にて6時間加熱撹拌した。反応終了後に冷却し、RAFT剤溶液を得た。
【化1】
【0032】
[樹脂部合成工程]
本工程の反応式を式(2)に示す。式(2)に示すように、まず、メチルメタクリレート(MMA)、ブロックイソシアネートモノマー(2-[(3,5-ジメチルピラゾリル)カルボニルアミノ]エチルメタクリレート)、DMAPAA、メトキシポリエチレングリコールアクリレート、RAFT剤溶液、およびアゾ開始剤(同上)を三ツ口フラスコに入れ、トルエン25gに溶解した。次に、室温にて窒素バブリングを15分間実施した後、温度80℃に昇温し、窒素雰囲気にて6時間加熱撹拌した。反応終了後、反応液をヘキサンに再沈殿し、樹脂部(A)に対応する共重合体aを得た。共重合体aのガラス転移点(Tg)については、DSCを用いて測定した。
【化2】
【0033】
[共重合体合成工程]
本工程の反応式を式(3)に示す。式(3)に示すように、先の工程で得られた共重合体a、1H,1H,2H,2H-トリデカフルオロオクチルアクリレート、およびアゾ開始剤(同上)を三ツ口フラスコに入れ、MIBK15gに溶解した。次に、室温にて窒素バブリングを15分間実施した後、温度80℃に昇温し、窒素雰囲気にて6時間加熱撹拌した。反応終了後、反応液をヘキサンに再沈殿し、樹脂部(A)と機能部(B)とを有する共重合体を得た。得られた共重合体を核磁気共鳴(NMR)装置で分析したところ、AB型のブロック共重合体であることを確認した。得られた共重合体の数平均分子量については、GPC装置を用いて測定した(以下のランダム共重合体についても同様)。
【化3】
【0034】
(2)以下の二つの工程により、ランダム共重合体サンプルを製造した。製造したランダム共重合体サンプルは、後出の表1、表2における共重合体6に対応する。
【0035】
[RAFT剤合成工程]
ブロック共重合体サンプルの製造と同様にして、RAFT剤溶液を製造した。
【0036】
[共重合体合成工程]
まず、MMA、ブロックイソシアネートモノマー、DMAPAA、メトキシポリエチレングリコールアクリレート、1H,1H,2H,2H-トリデカフルオロオクチルアクリレート、RAFT剤溶液、およびアゾ開始剤(同上)を三ツ口フラスコに入れ、MIBK25gに溶解した。次に、室温にて窒素バブリングを15分間実施した後、温度80℃に昇温し、窒素雰囲気にて6時間加熱撹拌した。反応終了後、反応液をヘキサンに再沈殿し、共重合体を得た。得られた共重合体をNMR装置で分析したところ、ランダム共重合体であることを確認した。
【0037】
<共重合体サンプルの評価>
[水系塗料への適用の可否]
製造した共重合体1gを、水とメタノールとを質量比で8:2に混合した混合液10gに溶解し、溶解すれば水系塗料への適用可(表2中、○印で示す)、溶解しなければ水系塗料への適用不可(同表中、×印で示す)と評価した。
【0038】
[柔軟性]
製造した共重合体を、水とメタノールとを質量比で8:2に混合した混合液に添加して、固形分濃度が20質量%の塗料を調製した。なお、混合液に溶解せず、水系塗料として使用できない共重合体4、5については、溶剤のMEKに溶解して固形分濃度が20質量%の塗料を調製した。調製した塗料を、ポリエチレンテレフタレート(PET)フィルム上にバーコート法を用いて塗布し、温度150℃下で30分間乾燥して、皮膜を形成した。形成された皮膜を目視で観察し、一日経過後においても割れが生じない場合を柔軟性良好(表2中、○印で示す)、形成時から一日経過後までに割れが生じた場合を柔軟性不良(同表中、×印で示す)と評価した。
【0039】
[静的撥水撥油性]
(1)撥水性
柔軟性の評価と同様の方法で皮膜を形成し、水の接触角を測定した。温度23℃、湿度40%環境下で、皮膜の表面に2μLの純水を滴下し、自動接触角計(協和界面科学(株)製「DM-500」)を用いて接触角を測定した。測定は五回行い、その平均値を共重合体の水接触角として採用した。そして、水接触角が90°以上の場合を静的撥水性良好(表2中、○印で示す)、90°未満の場合を静的撥水性不良(同表中、×印で示す)と評価した。
【0040】
(2)撥油性
純水に代えてn-ドデカンを使用した点以外は、水の接触角の測定方法と同様にして、n-ドデカンの接触角を測定した。そして、n-ドデカン接触角が60°以上の場合を静的撥油性良好(表2中、○印で示す)、60°未満の場合を静的撥油性不良(同表中、×印で示す)と評価した。
【0041】
[動的撥水撥油性]
(1)撥水性
静的撥水性を評価した皮膜について、水の滑落角を測定した。温度23℃、湿度40%環境下で、皮膜の表面に2μLの純水を滴下し、自動接触角計(同上)を用いて2°/秒の速度で0~90°まで皮膜を傾斜して、水滴が滑り落ちる角度を測定した。測定は三回行い、その平均値を共重合体の水滑落角として採用した。そして、水滑落角が40°以下の場合を動的撥水性良好(表2中、○印で示す)、40°を超える場合、または90°まで傾斜させても水滴が滑り落ちない場合を動的撥水性不良(同表中、×印で示す)と評価した。
【0042】
(2)撥油性
純水に代えてn-ドデカンを使用した点以外は、水の滑落角の測定方法と同様にして、n-ドデカンの滑落角を測定した。そして、n-ドデカン滑落角が40°以下の場合を動的撥油性良好(表2中、○印で示す)、40°を超える場合、または90°まで傾斜させても油滴が滑り落ちない場合を動的撥油性不良(同表中、×印で示す)と評価した。
【0043】
表1に、共重合体の合成に使用した材料の配合量を示す。表2に、製造した共重合体サンプルの組成および評価結果をまとめて示す。共重合体1~3は、本開示のブロック共重合体の概念に含まれる。第三のモノマーのメトキシポリエチレングリコールアクリレートについては、ポリオキシエチレン基の繰り返し単位数nが異なる次の三種類を使用した。
n=9:新中村化学工業(株)製「AM-90G」。
n=13:同社製「AM-130G」。
n=23:同社製「AM-230G」。
【表1】
【表2】
【0044】
表2に示すように、共重合体1~3は、樹脂部(A)と機能部(B)とによるAB型のブロック共重合体であり、樹脂部(A)は、架橋性成分である第二のモノマー、親水性成分である第三のモノマーを含むメタクリレート系モノマーの共重合体である。共重合体1~3を構成する第三のモノマーは、繰り返し単位数が9のポリオキシエチレン基を有し、第三のモノマーの含有量は7.5mol以上20mol以下である。このため、共重合体1~3は、水系塗料として使用することができ、成膜性に優れ、形成された皮膜についても、柔軟性、静的撥水撥油性、および動的撥水撥油性に優れることが確認された。これに対して、第三のモノマーを有しない、または含有量が7mol未満と少ない共重合体4、5によると、水に不溶であり、樹脂部(A)のTgが高くなった。特に第三のモノマーを有しない共重合体4においては、溶剤に溶解した塗料で皮膜を形成したものの、皮膜に割れが発生した。また、ランダム共重合体の共重合体6によると、C6F13基(フッ素成分)による撥水撥油性が発現しにくくなり、静的撥油性および動的撥水撥油性が低下した。また、第三のモノマーとして、繰り返し単位数が13または23のポリオキシエチレン基を有するモノマーを使用した共重合体7、8によると、ポリオキシエチレン基の繰り返し単位数が9の共重合体3と比較して、樹脂部(A)のTgが高くなり、静的撥油性および動的撥水撥油性が低下した。共重合体8においては、皮膜の柔軟性が低下して、皮膜に割れが発生した。
本開示のブロック共重合体は、ゴム部材や樹脂部材の表面に所望の特性を付与するため液状の表面処理剤に用いることができ、特に溶媒として水を使用する表面処理剤に好適である。