IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 豊田合成株式会社の特許一覧

特開2023-146523発泡性樹脂組成物、発泡樹脂成形体及びその製造方法
<>
  • 特開-発泡性樹脂組成物、発泡樹脂成形体及びその製造方法 図1
  • 特開-発泡性樹脂組成物、発泡樹脂成形体及びその製造方法 図2
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023146523
(43)【公開日】2023-10-12
(54)【発明の名称】発泡性樹脂組成物、発泡樹脂成形体及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
   C08J 9/32 20060101AFI20231004BHJP
   C08L 9/06 20060101ALI20231004BHJP
   C08L 23/16 20060101ALI20231004BHJP
【FI】
C08J9/32 CET
C08L9/06
C08L23/16
【審査請求】未請求
【請求項の数】3
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022053737
(22)【出願日】2022-03-29
(71)【出願人】
【識別番号】000241463
【氏名又は名称】豊田合成株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100096116
【弁理士】
【氏名又は名称】松原 等
(72)【発明者】
【氏名】田中 孔規
(72)【発明者】
【氏名】新美 泰史
(72)【発明者】
【氏名】藤本 一和
【テーマコード(参考)】
4F074
4J002
【Fターム(参考)】
4F074AA13B
4F074AA25
4F074AA98
4F074BA91
4F074BA95
4F074CA26
4F074DA02
4F074DA08
4F074DA09
4F074DA12
4F074DA33
4F074DA35
4J002AC081
4J002BB152
4J002BC051
4J002BF023
4J002BF024
4J002BP011
4J002FA103
4J002FA104
4J002FD323
4J002FD324
4J002GN00
(57)【要約】
【課題】発泡ウレタンの代替となる、熱可塑性で低比重、低硬度及び低圧縮永久歪みの発泡樹脂成形体を得る。
【解決手段】発泡性樹脂組成物は、スチレン系熱可塑性エラストマーと動的架橋型熱可塑性エラストマーとを合わせて100質量部含み、該動的架橋型熱可塑性エラストマーは10~40質量部であり、前記100質量部に対して高温膨張性マイクロカプセルと低温膨張性マイクロカプセルとを合わせて25~50質量部含み、両マイクロカプセルにおける低温膨張性マイクロカプセルの割合は17~67質量%である。これらを含む発泡樹脂成形体は、高温膨張性マイクロカプセルは膨張しているが破泡しておらず、低温膨張性マイクロカプセルは膨張して少なくとも一部が破泡しており、比重が0.3以下であり、アスカーC硬度が45以下であり、圧縮永久歪みが35%以下である。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
スチレン系熱可塑性エラストマーと動的架橋型熱可塑性エラストマーとを合わせて100質量部含み、該動的架橋型熱可塑性エラストマーは10~40質量部であり、前記100質量部に対して高温膨張性マイクロカプセルと低温膨張性マイクロカプセルとを合わせて25~50質量部含み、両マイクロカプセルにおける低温膨張性マイクロカプセルの割合は17~67質量%であることを特徴とする発泡性樹脂組成物。
【請求項2】
スチレン系熱可塑性エラストマーと動的架橋型熱可塑性エラストマーと高温膨張性マイクロカプセルと低温膨張性マイクロカプセルとを含む発泡性樹脂組成物を、高温膨張性マイクロカプセルは破泡しないが、低温膨張性マイクロカプセルの少なくとも一部は破泡する温度で、成形することを特徴とする発泡樹脂成形体の製造方法。
【請求項3】
スチレン系熱可塑性エラストマーと動的架橋型熱可塑性エラストマーと高温膨張性マイクロカプセルと低温膨張性マイクロカプセルとを含む発泡樹脂成形体であって、高温膨張性マイクロカプセルは膨張しているが破泡しておらず、低温膨張性マイクロカプセルは膨張して少なくとも一部が破泡しており、比重が0.3以下であり、アスカーC硬度が45以下であり、圧縮永久歪み(JIS K6400-4,A法,圧縮率50%)が35%以下であることを特徴とする発泡樹脂成形体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、発泡性樹脂組成物、発泡樹脂成形体及びその製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
車両に使われるコンソールリッドのクッション材には、成形された発泡ウレタンが使用されている。発泡ウレタンは高価なため、原価低減のために発泡させた熱可塑性樹脂での代替が検討されてきた。
【0003】
特許文献1には、オレフィン系の熱可塑性樹脂と、熱膨張性マイクロカプセルとを含む組成物を混練し、さらに熱可塑性樹脂(スチレン系エラストマー等)を添加して発泡体を成形する方法が開示されている。
【0004】
特許文献2には、オレフィン系樹脂またはゴムと、熱膨張性マイクロカプセルと、揮発性組成物(ヘプタン、シリカゾル等)と、熱可塑性樹脂(スチレン系エラストマー等)とを含有する発泡性熱可塑性エラストマー組成物が開示されている。
【0005】
特許文献3には、オレフィン系樹脂またはゴムと、熱膨張性マイクロカプセルと、シリカゾルと、熱可塑性樹脂(スチレン系エラストマー等)とを含有する発泡性熱可塑性エラストマー組成物を発泡させてなる発泡成形体が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2000-17103号公報
【特許文献2】特開2003-192825号公報
【特許文献3】特開2007-270157号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかし、本発明者らの検討によると、上記のように熱可塑性樹脂とスチレン系エラストマーに熱膨張性マイクロカプセルを入れただけでは、発泡ウレタンと同等の特性(低比重、低硬度、低圧縮永久歪み)を得ることは難しかった。それは次の理由によるものと考えられる。
(1)ウレタンは、低温で液状であるポリオール・イソシアネートの反応過程で発泡するため、高発泡にするのが容易で、比重を下げやすい。しかし、熱可塑性樹脂は、高温の溶融状態で発泡せる必要があるため、高発泡にするのが難しく、比重を下げにくい。
(2)熱可塑性樹脂は、高温条件下で圧縮する圧縮永久歪み特性について不利である。
【0008】
そこで、本発明の目的は、発泡ウレタンの代替となる、熱可塑性で低比重、低硬度及び低圧縮永久歪みの発泡樹脂成形体を得ることにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
[1]スチレン系熱可塑性エラストマーと動的架橋型熱可塑性エラストマーとを合わせて100質量部含み、該動的架橋型熱可塑性エラストマーは10~40質量部であり、前記100質量部に対して高温膨張性マイクロカプセルと低温膨張性マイクロカプセルとを合わせて25~50質量部含み、両マイクロカプセルにおける低温膨張性マイクロカプセルの割合は17~67質量%であることを特徴とする発泡性樹脂組成物。
【0010】
ここで、高温膨張性マイクロカプセルと、低温膨張性マイクロカプセルは、最大膨張温度が相対的に高温であるマイクロカプセルと、最大膨張温度が相対的に低温であるマイクロカプセルを意味する。最大膨張温度は、それを越えて昇温するとシェルが破泡し発泡成分が抜けてマイクロカプセルが収縮する温度である。
【0011】
[2]スチレン系熱可塑性エラストマーと動的架橋型熱可塑性エラストマーと高温膨張性マイクロカプセルと低温膨張性マイクロカプセルとを含む発泡性樹脂組成物を、高温膨張性マイクロカプセルは破泡しないが、低温膨張性マイクロカプセルの少なくとも一部は破泡する温度で、成形することを特徴とする発泡樹脂成形体の製造方法。
【0012】
[3]スチレン系熱可塑性エラストマーと動的架橋型熱可塑性エラストマーと高温膨張性マイクロカプセルと低温膨張性マイクロカプセルとを含む発泡樹脂成形体であって、高温膨張性マイクロカプセルは膨張しているが破泡しておらず、低温膨張性マイクロカプセルは膨張して少なくとも一部が破泡しており、比重が0.3以下であり、アスカーC硬度が45以下であり、圧縮永久歪み(JIS K6400-4,A法,圧縮率50%)が35%以下であることを特徴とする発泡樹脂成形体。
【0013】
[作用]
(ア)ベース樹脂であるスチレン系熱可塑性エラストマーに配合された、動的架橋型熱可塑性エラストマーの架橋ゴム弾性により、高温での潰れに強い樹脂に改質されて低圧縮永久歪みとなるとともに、発泡成形時の高発泡化・連泡化で発生しやすいヒケ(成形後の収縮による潰れ)が抑制される。
前記100質量部中の動的架橋型熱可塑性エラストマーを10~40質量部とするのは、低圧縮永久歪みかつ低硬度とするためである。10質量部未満では圧縮永久歪みが高くなり、40質量部超では低硬度となりにくい。
【0014】
(イ)一般的に熱膨張性マイクロカプセルでの発泡には、成形時に破泡しないマイクロカプセルのみを使用するため、独立気泡(独泡)になり、成形体が硬くなりやすい。これに対して本案では、成形時に破泡しない高温膨張性マイクロカプセルと、成形時に少なくとも一部は破泡する低温膨張性マイクロカプセルとを併用することにより、高温膨張性マイクロカプセルが独泡を形成するだけでなく、破泡した低温膨張性マイクロカプセルが泡どうしをつないで連続気泡(連泡)を形成するため、低硬度となる。
前記100質量部に対して高温膨張性マイクロカプセルと低温膨張性マイクロカプセルとを合わせて25~50質量部とし、両マイクロカプセルにおける低温膨張性マイクロカプセルの割合を17~67質量%とするのは、低比重かつ低硬度とするためである。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、発泡ウレタンの代替となる、熱可塑性で低比重、低硬度及び低圧縮永久歪みの発泡樹脂成形体を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1図1は実施例3の発泡樹脂成形体の断面顕微鏡写真である。
図2図2は比較例5の発泡樹脂成形体の断面顕微鏡写真である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
1.スチレン系熱可塑性エラストマー(TPS:thermoplastic styrenic elastomer)
TPSとしては、特に限定されないが、ハードセグメントがポリスチレン又はポリプロピレンであり、ソフトセグメントがスチレン-ブタジエン-スチレンブロック共重合体(SBS)、スチレン-イソプレン-スチレンブロック共重合体(SIS)、それらを水添したスチレン-エチレン-ブチレン-スチレンブロック共重合体(SEBS)、又はスチレン-エチレン-プロピレン-スチレンブロック共重合体(SEPS)であるものを例示できる。
【0018】
2.動的架橋型熱可塑性エラストマー(TPV:thermoplastic vulcanizate)
TPVとしては、特に限定されないが、ハードセグメントがポリオレフィン(例えばポリプロピレン)であり、ソフトセグメントがオレフィン系架橋ゴム(例えばEPDM)であるものを例示できる。動的架橋は、熱可塑性樹脂とゴムを溶融混練すると同時に、せん断下でゴムを架橋するプロセスであり、通常のゴムを静的に架橋成形するプロセスに対して呼称されるものである。
【0019】
3.高温膨張性マイクロカプセルと低温膨張性マイクロカプセル
発泡剤としての高温膨張性マイクロカプセルと低温膨張性マイクロカプセルは、いずれもシェルで発泡成分を包み込んでなるものである。シェルの材料としては、特に限定されないが、熱可塑性樹脂(例えばアクリル系樹脂)を例示できる。発泡成分としては、特に限定されないが、液状の炭化水素を例示できる。
【0020】
4.その他の成分
本発明の発泡性樹脂組成物及び発泡樹脂成形体は、さらにその他の成分を含んでもよい。その他の成分としては、充填材、着色剤、酸化防止剤等を例示できる。
【0021】
5.発泡樹脂成形体の成形
成形(発泡成形)の方法としては、特に限定されないが、射出発泡、プレス発泡、押出発泡、ブロー発泡等を例示できる。
【0022】
6.発泡樹脂成形体の用途
発泡樹脂成形体の用途としては、特に限定されないが、自動車内装品(コンソールリッド、アームレスト、座席等)のクッション材、家具(椅子等)のクッション材等を好適な用途として例示できる。
【実施例0023】
[発泡性樹脂組成物の調製]
次の表1及び表2に示す配合(配合数値は質量部)の各材料を配合して、試料1~31の各発泡性樹脂組成物を調製した。
・試料1~7はTPSに各種発泡剤を選択して配合したグループである。
・試料8~13は、TPSとTPVとの配合率を変え、高温膨張性マイクロカプセルと低温膨張性マイクロカプセルの配合率を一定としたグループである。
・試料14はTPVに高温膨張性マイクロカプセルを配合したグループである。
・試料15~31は、TPSとTPVとの配合率を一定とし、高温膨張性マイクロカプセルと低温膨張性マイクロカプセルの配合率を変えたグループである。
【0024】
【表1】
【0025】
【表2】
【0026】
ここで、使用した各材料の詳細は次のとおりである。
・TPSには、三菱ケミカル社の商品名「テファブロック T3779B」を使用した。これは、ベースポリマーにスチレン系ゴム(スチレン・ブタジエン共重合体(SBC))を使用したエラストマーである。
・TPVには、エクソンモービル社の商品名「サントプレーン 8211-45」を使用した。これは、ポリオレフィンベースで加硫EPDMを含むエラストマーである。
・化学発泡剤(試料1,2のみ)には、永和化成工業社の商品名「ポリスレンEV306G」を使用した。これは、アゾジカルボンアミド(ADCA)系の化学発泡剤であり、酢酸ビニル(EVA)によりマスターバッチとされたものである。
・低温膨張性マイクロカプセルには、松本油脂製薬社の商品名「マイクロスフェアー F185EVA」を使用した。これは、シェルがアクリル樹脂、発泡成分が炭化水素であり、マスターバッチとしてEVAを含み、発泡開始温度145~155℃、最大膨張温度190~200℃というものである。
・高温膨張性マイクロカプセルには、松本油脂製薬社の商品名「マイクロスフェアー F190EVA」を使用した。これは、シェルがアクリル樹脂、発泡成分が上記とは違う炭化水素であり、マスターバッチとしてEVAを含み、発泡開始温度160~170℃、最大膨張温度210~220℃というものである。
【0027】
低温膨張性マイクロカプセル(a)と高温膨張性マイクロカプセル(b)との2種発泡剤を合わせた質量部a+bと、該2種発泡剤における低温膨張性マイクロカプセルの割合a/(a+b)(質量%)を、表1及び表2に付記した。
【0028】
[発泡樹脂成形体の成形]
次に、調整した試料1~31の各発泡性樹脂組成物を、組成物温度230℃で、型温度60℃の金型に、射出速度120mm/秒で射出して(型条件:ショートショット法)、寸法60mm×200mm×厚さ6mmの発泡樹脂成形体(テストピース)を発泡成形した。
すなわち、低温膨張性マイクロカプセルと高温膨張性マイクロカプセルとを併用した試料6~14,16~31の各発泡性樹脂組成物は、高温膨張性マイクロカプセルは破泡しないが、低温膨張性マイクロカプセルの少なくとも一部は破泡する温度で、発泡成形した。
【0029】
[発泡樹脂成形体の特性]
次に、成形した試料1~31の各発泡樹脂成形体について、次の特性を測定した。
(1)比重
JIS K7222に準拠して、比重を測定した。
【0030】
(2)アスカーC硬度
JIS K7312に準拠して、アスカーC硬度計で硬度を測定した。
【0031】
(3)圧縮永久歪み
JIS K6400-4に準拠して、A法(70℃の圧縮)にて、厚さの50%に圧縮し22時間放置した後、圧縮を解いて30分間回復させてから厚さを測定し、圧縮永久歪み(CS)を算出した。
【0032】
比重が0.3以下であり、アスカーC硬度が45以下であり、且つ圧縮永久歪みが35%以下である、試料8~12,18~20,22~25,28~30の発泡樹脂成形体とそれに使用した発泡性樹脂組成物を実施例として位置付けた。それ以外の試料の発泡樹脂成形体とそれに使用した発泡性樹脂組成物を比較例として位置付けた。
【0033】
試料5(比較例5)の発泡樹脂成形体は、図2に断面顕微鏡写真を示すとおり、高温膨張性マイクロカプセルにより形成された独泡セル(約0.2~0.4mm)のみが存在していた。
これに対し、実施例の発泡樹脂成形体は、例えば図1に試料10(実施例3)の断面顕微鏡写真を示すとおり、高温膨張性マイクロカプセルにより形成された独泡セル(約0.2~0.4mm)と、破泡した低温膨張性マイクロカプセルにより形成された連泡セル(約0.6~1.0mm)とが共に存在していた。
【0034】
なお、本発明は前記実施例に限定されるものではなく、発明の趣旨から逸脱しない範囲で適宜変更して具体化することができる。
図1
図2