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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023146541
(43)【公開日】2023-10-12
(54)【発明の名称】地下水流向流速計
(51)【国際特許分類】
   G01P 13/00 20060101AFI20231004BHJP
【FI】
G01P13/00 E
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022053767
(22)【出願日】2022-03-29
(71)【出願人】
【識別番号】304020177
【氏名又は名称】国立大学法人山口大学
(74)【代理人】
【識別番号】110001151
【氏名又は名称】あいわ弁理士法人
(74)【代理人】
【識別番号】100158702
【弁理士】
【氏名又は名称】岡野 卓也
(72)【発明者】
【氏名】山本 浩一
【テーマコード(参考)】
2F034
【Fターム(参考)】
2F034AA05
2F034AB03
2F034AC17
2F034DA07
2F034DB07
(57)【要約】
【課題】地下水の流向及び流速を3次元的に測定することができる簡易型の地下水流向流速計を提供する。
【解決手段】円筒部材の外周に装着される円筒状のペーパーシリンダーと、前記ペーパーシリンダーの外周に装着される円筒状の透水性スポンジと、を有するセンサー部を備え、前記ペーパーシリンダーには、水溶性のインクにより印刷される点状ドットが少なくとも円周方向の全周にわたって複数設けられ、前記センサー部を地下水観測井中に静置することにより、複数の前記点状ドットから溶出し前記ペーパーシリンダー上に描画される前記インクのテーリングに基づいて、地下水の流向及び流速を3次元的に求めることを可能とする。
【選択図】図3

【特許請求の範囲】
【請求項1】
円筒部材の外周に装着される円筒状のペーパーシリンダーと、
前記ペーパーシリンダーの外周に装着される円筒状の透水性スポンジと、を有するセンサー部を備え、
前記ペーパーシリンダーには、水溶性のインクにより印刷される点状ドットが少なくとも円周方向の全周にわたって複数設けられ、
前記センサー部を地下水観測井中に静置することにより、複数の前記点状ドットから溶出し前記ペーパーシリンダー上に描画される前記インクのテーリングに基づいて、地下水の流向及び流速を3次元的に求めることを可能とする地下水流向流速計。
【請求項2】
複数の前記点状ドットから溶出し前記ペーパーシリンダー上に描画される前記インクのテーリングの長さの水平方向成分に基づいて、地下水の水平方向における流向及び流速を求めることを可能とする請求項1に記載の地下水流向流速計。
【請求項3】
複数の前記点状ドットから溶出し前記ペーパーシリンダー上に描画される前記インクのテーリングの長さの水平方向成分及び鉛直方向成分に基づいて、地下水の鉛直方向における流向及び流速を求めることを可能とする請求項2に記載の地下水流向流速計。
【請求項4】
前記円筒部材の上部であって前記ペーパーシリンダーが装着される位置よりも上方に水抜き用の孔を設ける請求項1乃至3のいずれかに記載の地下水流向流速計。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、簡易型の地下水流向流速計に関する。
【背景技術】
【0002】
地下水の流向流速測定は、土壌・地下水汚染の影響予測のためや地すべり地における地下水流動の把握など様々な用途に用いられる。
しかし、従来の地下水流向流速計は、高価であり、かつ、複雑な構成を有するものである。
【0003】
そこで、本発明者らは、先に簡易型の地下水流向流速計として、ペーパーディスク型地下水流向流速計を提案した(特許文献1を参照。)。
【0004】
特許文献1に記載された地下水流向流速計は、トレーサとして紙に印刷された染料インクを用い、インクの輸送を平面で捉えることで地下水の流向及び流速の測定を行うものであり、安価で簡易な構成を有し、地下水観測井での測定作業において電源を必要としない。
しかし、特許文献1に記載された地下水流向流速計は、水平流の測定は可能であるが、鉛直流については測定できない問題がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特許第5471624号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
そこで、本発明は、地下水の流向及び流速を3次元的に測定することができる簡易型の地下水流向流速計を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するため、本発明の地下水流向流速計は、
円筒部材の外周に装着される円筒状のペーパーシリンダーと、
前記ペーパーシリンダーの外周に装着される円筒状の透水性スポンジと、を有するセンサー部を備え、
前記ペーパーシリンダーには、水溶性のインクにより印刷される点状ドットが少なくとも円周方向の全周にわたって複数設けられ、
前記センサー部を地下水観測井中に所定時間静置することにより、複数の前記点状ドットから溶出し前記ペーパーシリンダー上に描画される前記インクのテーリングに基づいて、地下水の流向及び流速を3次元的に求めることを可能とするものである。
【0008】
本発明の地下水流向流速計は、
複数の前記点状ドットから溶出し前記ペーパーシリンダー上に描画される前記インクのテーリングの長さの水平方向成分(水平方向長さ)に基づいて、地下水の水平方向における流向及び流速を求めることを可能とするものである。
【0009】
本発明の地下水流向流速計は、
複数の前記点状ドットの前記インクのテーリングの長さの水平方向成分と基準方位からの角度(方位角)との関係に基づいて、地下水の水平方向における流向及び流速を求めることが好ましい。
【0010】
本発明の地下水流向流速計は、
複数の前記点状ドットの前記インクのテーリングの長さの水平方向成分と基準方位からの角度(方位角)との関係をグラフ化し、
前記テーリングの長さの水平方向成分がゼロとなる(ゼロと交わる)方位角に基づいて、地下水の水平方向における流向を求めることが好ましい。
【0011】
本発明の地下水流向流速計は、
前記テーリングの長さの水平方向成分がゼロとなる方位角における前記ペーパーシリンダー上の2点を結ぶ方向を、地下水の水平方向における流向とすることが好ましい。
【0012】
本発明の地下水流向流速計は、
複数の前記点状ドットの前記インクのテーリングの長さの水平方向成分と基準方位からの角度(方位角)との関係をグラフ化し、
前記テーリングの長さの水平方向成分が最大となる方位角に基づいて、地下水の水平方向における流向を求めることが好ましい。
【0013】
本発明の地下水流向流速計は、
前記テーリングの長さの水平方向成分が最大となる方位角における前記ペーパーシリンダー上の水平接線方向を、地下水の水平方向における流向とすることが好ましい。
【0014】
本発明の地下水流向流速計は、
複数の前記点状ドットの前記インクのテーリングの長さの水平方向成分と基準方位からの角度(方位角)との関係をグラフ化し、
前記テーリングの長さの水平方向成分の最大値と前記センサー部を前記地下水観測井中に静置した時間において予め実験で得た検定曲線に基づいて、地下水の水平方向における流速を求めることが好ましい。
【0015】
本発明の地下水流向流速計は、
前記テーリングの長さの水平方向成分の最大値を、前記センサー部を前記地下水観測井中に静置した時間で除した値の関数を、地下水の水平方向における流速とすることが好ましい。
【0016】
また、本発明の地下水流向流速計は、
複数の前記点状ドットから溶出し前記ペーパーシリンダー上に描画される前記インクのテーリングの長さの水平方向成分(水平方向長さ)及び鉛直方向成分(鉛直方向長さ)に基づいて、地下水の鉛直方向における流向及び流速を求めることを可能とするものである。
【0017】
ここで、本発明の地下水流向流速計において、地下水の鉛直方向における流向とは、水平を基準とした上下方向の角度である仰俯角を意味する。
【0018】
本発明の地下水流向流速計は、
複数の前記点状ドットの前記インクのテーリングの長さの水平方向成分と基準方位からの角度(方位角)との関係、及び、複数の前記点状ドットの前記インクのテーリングの長さの鉛直方向成分と基準方位からの角度(方位角)との関係に基づいて、地下水の鉛直方向における流向及び流速を求めることが好ましい。
【0019】
本発明の地下水流向流速計は、
複数の前記点状ドットの前記インクのテーリングの長さの水平方向成分と基準方位からの角度(方位角)との関係、及び、複数の前記点状ドットの前記インクのテーリングの長さの鉛直方向成分と基準方位からの角度(方位角)との関係をそれぞれグラフ化し、
前記テーリングの長さの水平方向成分の最大値、及び、前記テーリングの長さの鉛直方向成分値に基づいて、地下水の鉛直方向における流向を求めることが好ましい。
【0020】
本発明の地下水流向流速計は、
複数の前記点状ドットの前記インクのテーリングの長さの鉛直方向成分と基準方位からの角度(方位角)との関係をグラフ化し、
前記テーリングの長さの鉛直方向成分値と前記センサー部を前記地下水観測井中に静置した時間において予め実験で得た検定曲線に基づいて、地下水の鉛直方向における流速を求めることが好ましい。
【0021】
本発明の地下水流向流速計は、
前記テーリングの長さの鉛直方向成分値を、前記センサー部を前記地下水観測井中に静置した時間で除した値の関数を、地下水の鉛直方向における流速とすることが好ましい。
【0022】
本発明の地下水流向流速計は、
前記円筒部材の上部であって前記ペーパーシリンダーが装着される位置よりも上方に水抜き用の孔を設けることが好ましい。
【発明の効果】
【0023】
本発明の地下水流向流速計は、円筒部材の外周に装着される円筒状のペーパーシリンダーと、前記ペーパーシリンダーの外周に装着される円筒状の透水性スポンジと、を有するセンサー部を備え、前記ペーパーシリンダーには、水溶性のインクにより印刷される点状ドットが少なくとも円周方向の全周にわたって複数設けられ、前記センサー部を地下水観測井中に所定時間静置することにより、複数の前記点状ドットから溶出し前記ペーパーシリンダー上に描画される前記インクのテーリングに基づいて、地下水の流向及び流速を3次元的に求めることを可能とするものであるので、地下水の流向及び流速を3次元的に測定することができる簡易型の地下水流向流速計を提供することができる。
【0024】
また、本発明の地下水流向流速計は、安価であり、かつ、簡易な構成を有する簡易型の地下水流向流速計であり、地下水観測井での測定作業において電源を必要としないため、山岳部等の環境が悪く電源を得難い場所においても地下水の流向及び流速を3次元的に測定する作業を行うことが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
図1】本発明の実施の形態における地下水流向流速計の正面図。
図2】本発明の実施の形態における地下水流向流速計の分解説明図。
図3】本発明の実施の形態における地下水流向流速計の測定メカニズムの説明図。
図4】測定前のペーパーシリンダーを展開した様子の説明図。
図5】測定後のペーパーシリンダーにおけるテーリングの発生状況の説明図。
図6】ペーパーシリンダー上の地下水流モデルの説明図。
図7図5におけるテーリングの検出状況の説明図。
図8】テーリングの長さの水平方向成分Lxの方位分布と近似曲線の説明図。
図9】テーリングの長さの鉛直方向成分Lzの方位分布と近似直線の説明図。
図10】地下水流速Vとペーパーシリンダー上のテーリングの長さLの関係の説明図。
【発明を実施するための形態】
【0026】
本発明の実施の形態を図面に基づいて説明する。
図1は、本発明の実施の形態における地下水流向流速計の正面図を示す。図2は、本発明の実施の形態における地下水流向流速計の分解説明図を示す。
本発明の実施の形態における地下水流向流速計1は、地下水観測井内において地下水流の測定を行う単孔式の地下水流向流速測定具であって、硬質樹脂製パイプ等の円筒部材2と、円筒状のペーパーシリンダー3と、円筒状の透水性スポンジ4を有する。
前記地下水流向流速計1は、前記円筒部材2の外周に円筒状の前記ペーパーシリンダー3を装着し、前記ペーパーシリンダー3の外周に円筒状の前記透水性スポンジ4を装着することで、センサー部を構成する。
【0027】
前記円筒部材2は、例えば塩化ビニル樹脂製パイプ(一例として、VP20(外径26mm、厚さ3mm))であって、上部には水抜き用の孔21が設けられている。
前記円筒部材2に支柱部材(図示せず)等を接続することで、前記地下水流向流速計1の長さを調節することができる。
【0028】
前記ペーパーシリンダー3は、例えば画用紙であって、少なくとも円周方向に全周に亘り複数の点状ドット5(例えば2~3mm)が等間隔(例えば中心角22.5°間隔で16個、中心角30°間隔で12個等)にインクジェットプリンタによって水溶性の染料インクで印刷されている。
前記ペーパーシリンダー3には、水に対する耐久性やインクの移動の適性を考慮した用紙を用いることとし、画用紙以外の他の用紙を用いることもできる。
前記ペーパーシリンダー3(例えば全長(軸方向長さ)180mm)は、後述するペーパーシート3aを前記円筒部材2の外周面に円筒状に巻き付けて装着したものであり、ここでは円周方向に全周に亘り印刷される前記点状ドット5を軸方向に4列設けた例を示している。
前記ペーパーシリンダー3は、ペーパーシート3aを円筒状としたものを前記円筒部材2の外周面に嵌合して装着することもできる。
【0029】
前記透水性スポンジ4は、例えばメラミンフォームを円筒状に加工したメラミンスポンジ(例えば外形50mm、内径26mm)であって、前記ペーパーシリンダー3の外周全面を覆うように装着されている。
ここでは、前記透水性スポンジ4は、前記ペーパーシリンダー3と軸方向長さが略同じものを用いているが、例えば軸方向長さが30mmのものを軸方向に6層積層する構成とすることもできる。
【0030】
前記地下水流向流速計1の組み立てに際しては、前記円筒部材2の外周面に前記ペーパーシート3aを円筒状に巻き付けて前記ペーパーシリンダー3を装着する。そして、前記ペーパーシリンダー3の外周面に前記透水性スポンジ4を嵌合して装着する。
前記円筒部材2の上部には上部ディスク22が固定されており、前記ペーパーシリンダー3及び前記透水性スポンジ4を軸方向に位置決めすることができる。
前記円筒部材2に前記ペーパーシリンダー3及び前記透水性スポンジ4を装着した後は、前記円筒部材2の下部に下部ディスク23をネジ止め等により固定し、前記円筒部材2の外周面に前記ペーパーシリンダー3及び前記透水性スポンジ4を位置決め固定することで、前記センサー部を構成する。
前記円筒部材2の上部に設けられる前記水抜き用の孔21は、前記上部ディスク22が固定される高さよりも上方に位置している。
【0031】
次に、本発明の実施の形態における地下水流向流速計を用いて地下水の流向及び流速を測定する手順について説明する。
本発明の実施の形態における地下水流向流速計1は、地表面から鉛直方向に掘削された地下水観測井(例えば深さ3~10m程度)内において地下水流の測定を行う単孔式の地下水流向流速測定具である。
地表面に掘削された観測井内には、例えば硬質プラスティック等により形成された円筒体(内径が70mm程度)が設置され、観測対象深度付近の周面には一様に多数の小孔が穿設されている。地下水はこの小孔を通って前記円筒体の内部を通過するように流れる。
【0032】
前記地下水流向流速計1を地下水観測井に挿入するに際しては、ネトロンカバー(ミカンネット)を被せて前記センサー部を保護する。
また、前記地下水流向流速計1を地下水観測井に挿入した際、前記円筒部材2の下端開口から当該円筒部材2の内部に流入した水は、前記水抜き用の孔21から排水されるため、前記円筒部材2の内外における水位を等しくすることができる。
前記地下水流向流速計1は、前記円筒部材2に支柱部材(図示せず)を接続する等して長さを調節する。
【0033】
地下水の流向及び流速を測定するに際しては、前記地下水流向流速計1は、前記センサー部が前記観測井の目標深度に達した後、所定時間、例えば15~60分間静置する。
その間、前記ペーパーシリンダー3に印刷された前記点状ドット5からは、地下水流によってインクが溶出して前記透水性スポンジ4内を移流拡散し、前記ペーパーシリンダー3上に前記溶出したインクのテーリング(軌跡)が描画される。
そして、前記所定時間が経過した後、前記地下水流向流速計1を観測井から引き上げて、前記センサー部から前記ペーパーシリンダー3を回収する。
【0034】
図3は、本発明の実施の形態における地下水流向流速計の測定メカニズムの説明図を示す。
図3に示すように、例えば、地下水流が鉛直上向きの成分を含むような3次元的な流れの場合、前記ペーパーシリンダー3の表面には、前記地下水流によって複数の前記点状ドット5から斜め上方に延びる前記インクのテーリング51が描画されることとなる。
【0035】
図4は、測定前のペーパーシリンダーを展開した様子の説明図を示す。
図4は測定前におけるペーパーシリンダー3を展開したペーパーシート3aの一例であって、ペーパーシリンダー3の円周方向に全周に亘り印刷される複数の前記点状ドット5が軸方向に8列設けられた例を示すものである。
【0036】
図5は、測定後のペーパーシリンダーを展開した様子の説明図であって、測定後のペーパーシリンダーにおけるテーリングの発生状況の説明図を示す。
図5は、図3に示すように地下水観測井中に所定時間静置された前記地下水流向流速計1を前記観測井から引き上げて、前記センサー部から回収した測定後におけるペーパーシリンダー3を展開したペーパーシート3aの一例であって、ペーパーシリンダー3の円周方向に全周に亘り印刷される複数の前記点状ドット5から前記インクのテーリング51が発生した状況の例を示すものである。
【0037】
図6は、ペーパーシリンダー上における地下水流モデルの一例の説明図であって、(a)に平面図、(b)に側面図を示す(説明の都合上、側面図を傾けた状態で示す)。
図5においてペーパーシート3aの表面に描画されるテーリング51については、地下水がセンサー部の周囲に設けられる透水性スポンジ4内を直線的に通過するものとして、図6に示すようにモデル化することができる。
【0038】
ペーパーシリンダー3の表面においてペーパーの水平接線方向をx、鉛直上向きをzとすると、地下水の水平接線方向流速Vx、鉛直上向き流速Vzは、ペーパー上の北(基準方位)からの方位をφ、流向の風上方位をψ、地下水の流速をV、鉛直流向(仰俯角)をθとして、
【数1】
【数2】
となる。
【0039】
従ってx方向、z方向のテーリングの長さLx、Lzは、
【数3】
【数4】
となる。
ここで、地下水の流向(風下方向)は(ψ+180°)となる(ただし流向は0°~360°で表示)。
【0040】
そして、地下水の流速Vは、上記(3),(4)式に近似させて、
【数5】
上記(5)式から、
【数6】
として求められる。
【0041】
ここで、上記においてVxは厳密には円周方向流速であるべきであるが、Vxが十分に小さい場合は実用上接線方向流速で考えても問題はない。
そのため、ペーパーシリンダー3上に描画されたテーリングの長さを、流速Vに対応するテーリングの長さLとみなし、ペーパーシリンダー3上のテーリングの長さLの水平方向成分(水平方向長さ)をLx、鉛直方向成分(鉛直方向長さ)をLzとして考えることができる。
【0042】
図7は、図5のペーパーシリンダー上においてテーリングの輪郭を画定した様子であって、テーリングの検出状況の説明図を示す。
図7に示すように、図5においてペーパーシート3aの表面に描画されたテーリング51から、例えば視認により前記テーリング51の輪郭を画定し、前記テーリング51の長さや方向を読み取ることができる。
また、図5においてペーパーシート3aの表面をスキャナーにより読み込ませ、二値化処理を施すことで機械学習等によりテーリング51の輪郭を画定し、例えば、点状ドット5の重心と前記テーリング51の重心を結ぶ線分や、前記テーリング51のフェレ径(テーリングの輪郭線に対し外接する長方形の長辺)などの特徴量に基づいて、前記テーリング51の長さや方向を読み取ることができる。
【0043】
図8は、テーリングの長さの水平方向成分Lxの方位分布と近似曲線の説明図を示す。
図8は、本発明の実施の形態における地下水流向流速計1を鉛直軸に対し30°傾斜した観測井に挿入し、鉛直流が発生するものとして実験した結果であって、複数の点状ドットのインクのテーリングの長さLの水平方向成分Lxと、複数の前記点状ドットの基準方位からの角度(方位角)との関係をグラフ化し、その近似曲線を求めたものである。
なお、実験条件は、図6に示すモデルにおいて、流向(風下方向)=180°(ψ=0°)、設定流速V=0.3cm/min、鉛直流向(仰角)θ=30°とした。
図8のグラフから、前記近似曲線が方位角200°~210°付近で横軸と交差し、テーリングの長さLの水平方向成分Lxがゼロとなることが読み取られ、設定上の流向(風下方向)=180°と概ね一致していることが分かる。
【0044】
したがって、本発明の実施の形態における地下水流向流速計1によれば、前記テーリングの長さLの水平方向成分Lxがゼロとなる方位角における前記ペーパーシリンダー上の2点を結ぶ方向を、地下水の水平方向における流向とすることができる。
【0045】
また、本発明の実施の形態における地下水流向流速計1によれば、図8のグラフから、前記テーリングの長さLの水平方向成分Lxが最大となる方位角を読み取り、前記方位角における前記ペーパーシリンダー上の水平接線方向を、地下水の水平方向における流向とすることができる。
【0046】
さらに、本発明の実施の形態における地下水流向流速計1によれば、図8のグラフから、前記テーリングの長さLの水平方向成分Lxの最大値を読み取り、仰俯角の正弦で除し、前記センサー部を前記地下水観測井中に静置した時間における後記検定曲線(図10を参照)に代入し、さらに仰俯角の正弦を乗ずることで地下水の水平方向における流速とすることができる。
【0047】
図9は、テーリングの長さの鉛直方向成分Lzの方位分布と近似直線の説明図を示す。
図9は、図8の実験において、複数の点状ドットのインクのテーリングの長さLの鉛直方向成分Lzと、複数の前記点状ドットの基準方位からの角度(方位角)との関係をグラフ化し、その近似直線を求めたものである。
図9のグラフから、テーリングの長さLの鉛直方向成分Lzが、全体としてプラス側にあることが読み取られ、設定どおり地下水に鉛直上向きの流れが存在していることが分かる。
【0048】
本発明の実施の形態における地下水流向流速計1によれば、図8のグラフから、前記テーリングの長さの水平方向成分Lxの最大値を読み取り、図9のグラフから、前記テーリングの長さLの鉛直方向成分Lzを読み取り、LzをLxで除してその逆正接を求めることにより、地下水の鉛直方向における流向を求めることができる。
【0049】
また、本発明の実施の形態における地下水流向流速計1によれば、図9のグラフから、前記テーリングの長さLの鉛直方向成分Lzを読み取り、これを仰俯角の正弦で除した後、前記センサー部を地下水観測井中に静置した時間において予め作成された後記段落0051における検定曲線(図10を参照)に代入し、さらに仰俯角の正弦を乗ずることで地下水の鉛直方向における流速Vとすることができる。
【0050】
なお、上記地下水の流向及び流速の算出は、人手で行うことができる他、画像解析ソフトを用いて行うこともできる。
【0051】
図10は、地下水流速Vとペーパーシリンダー上のテーリングの長さLの関係(検定曲線)の一例の説明図を示す。
図10は、図8の実験と同様、本発明の実施の形態における地下水流向流速計1を鉛直軸に対し30°傾斜した観測井に挿入し、鉛直流が発生するものとして実験した結果であって、ペーパーシリンダー上のテーリングの長さLの水平方向成分Lxが最大となる方位角における点状ドットのインクの前記テーリングの長さLと流速Vとの関係をグラフ化したものである。
なお、図6に示すモデルにおいて、流向(風下方向)=180°(ψ=0°)、鉛直流向(仰角)θ=30°とし、設定流速V=0.05cm/min,0.1cm/min,0.15cm/min,0.2cm/min,0.3cm/minの各条件下において地下水流向流速計1を観測井中に15分間静置して実験を行った。
地下水の流速Vについては、図10に示すような流速Vとテーリングの長さLの関係の検定曲線(検量線)を実験により事前に準備しておき、ペーパーシリンダー3上に描画されたテーリングの長さLを前記検定曲線に当てはめることで求めることができる。
図10は曲線で近似するものであり、ここではべき乗曲線で近似しているが、直線で近似することもできる。
【0052】
本発明の実施の形態における地下水流向流速計1は、円筒部材2の外周に装着される円筒状のペーパーシリンダー3と、前記ペーパーシリンダー3の外周に装着される円筒状の透水性スポンジ4と、を有するセンサー部を備え、前記ペーパーシリンダー3には、水溶性のインクにより印刷される点状ドット5が少なくとも円周方向の全周にわたって複数設けられ、前記センサー部を地下水観測井中に所定時間静置することにより、複数の前記点状ドット5から溶出し前記ペーパーシリンダー3上に描画される前記インクのテーリング51の長さ及び向きに基づいて、地下水の流向及び流速を3次元的に求めることを可能とするものであるので、地下水の流向及び流速を3次元的に測定することができる簡易型の地下水流向流速計を提供することができる。
【0053】
また、本発明の実施の形態における地下水流向流速計1は、安価であり、かつ、簡易な構成を有する簡易型の地下水流向流速計であり、地下水観測井での測定作業において電源を必要としないため、山岳部等の環境が悪く電源を得難い場所においても地下水の流向及び流速を3次元的に測定する作業を行うことが可能となる。
【0054】
本発明の実施の形態における地下水流向流速計1は、ペーパーシリンダー3上にテーリング51が描画されるものであり、前記テーリング51の長さ及び向きに基づいて地下水の流向及び流速を求めるものであるが、地下水の流向及び流速の求め方については、上記実施の形態に記載した例に限定されるものでなく、各種の求め方を採用することができる。
【0055】
本発明は、上記実施の形態に限るものでなく、発明の範囲を逸脱しない限りにおいてその構成を適宜変更できることはいうまでもない。
【産業上の利用可能性】
【0056】
本発明の地下水流向流速計は、地下水の流向及び流速を3次元的に測定することができる簡易型の地下水流向流速計であり、極めて実用性が高い。
【符号の説明】
【0057】
1 地下水流向流速計(地下水流向流速測定用具)
2 円筒部材
21 水抜き用の孔
22 上部ディスク
23 下部ディスク
3 ペーパーシリンダー
3a ペーパーシート
4 透水性スポンジ
5 点状ドット
51 テーリング

図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10