(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023146551
(43)【公開日】2023-10-12
(54)【発明の名称】ソレノイド
(51)【国際特許分類】
F16K 31/06 20060101AFI20231004BHJP
H01F 7/16 20060101ALI20231004BHJP
【FI】
F16K31/06 305N
F16K31/06 305G
H01F7/16 R
【審査請求】未請求
【請求項の数】3
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022053781
(22)【出願日】2022-03-29
(71)【出願人】
【識別番号】302038741
【氏名又は名称】新電元メカトロニクス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100111899
【弁理士】
【氏名又は名称】永山 陽二
(72)【発明者】
【氏名】関根 隼人
【テーマコード(参考)】
3H106
5E048
【Fターム(参考)】
3H106DA23
3H106DB02
3H106DB12
3H106DB23
3H106DB32
3H106DD05
3H106EE41
3H106GA25
3H106GD04
5E048AB02
5E048AC08
5E048AD03
5E048AD04
(57)【要約】
【課題】 ソレノイドの体格や推力特性への影響を最小限に抑えたままフィラーリングの破壊を防止することが可能な構成を有するソレノイドを提供すること。
【解決手段】 ソレノイド60においては、ベース30とフィラーリング20とのろう付けで溶接する領域の近傍に第1のろう材収納溝25及び第2のろう材収納溝19を形成したので、第1のろう材リング15と第2のろう材リング16とをブレージングに好適な配置することができる。ひいては、ベース30とフィラーリング20との溶接された領域の面積が大幅に拡大され、作動油の漏出を確実に防止できると共に、ベース30のフィラーリング20に溶接されている領域が実質的にフィラーリング20としての機能を併せ持つようになる。
【選択図】
図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ケースと、
前記ケースの内部に配置されたコイルと、
一部又は全部が略円筒状又は略円柱形状に形成されると共に、基端面の近傍部分が前記ケースに対して圧入されることによって固定され、先端面の近傍部分が前記ケースの内部に配置され、前記先端面が前記中心軸に対して直交し、かつ、円環形状に形成されると共に、前記先端面の前記近傍部分の周側面が前記先端面に向かって縮径するテーパ面に形成されたベースと、
前記コイルに通電したときに前記ベースに吸引されて前記ベースの中心軸の方向に直動するように設けられたプランジャと、
内部に前記プランジャの一部又は全部が配置されると共に、基端面の近傍部分が前記ベースから離隔するように配置された補助磁極と、
略円筒状に形成されると共に、前記ベースの前記先端面の前記近傍部が基端面の近傍部分に挿入された状態で前記ベースに固定され、前記補助磁極の前記基端面の前記近傍部分が先端面の近傍部分に挿入された状態で前記補助磁極に固定されたフィラーリングを有するソレノイドであって、
前記ベースは、前記テーパ面よりも前記基端面に近い部位であって、周側面が円筒状に形成された径小円筒状部と、前記径小円筒状部よりも前記基端面に近い部位であって、周側面が円筒状に、かつ、前記径小円筒状部よりも径が大きくなるように形成された径大円筒状部とを備え、前記径小円筒状部と前記径大円筒状部との段差面が前記フィラーリングの前記基端面と対向し、
前記フィラーリングは、内周面の一部が前記ベースの前記先端面に対向し、かつ、前記ベースの前記中心軸に対して直交する円環状対向面、及び、前記ベースの前記テーパ面に対向し、かつ、先端側に向かって縮径する凹状テーパ面になされると共に、前記円環状対向面と前記凹状テーパ面との境界となる領域に円環状の第1のろう材収納溝が形成され、前記基端面が前記ベースの前記段差面と所定距離離隔することによって、前記基端面、前記ベースの前記段差面及び前記径小円筒状部の周側面によって円環状の第2のろう材収納溝をなすように設けていることを特徴とするソレノイド。
【請求項2】
前記ベースと前記フィラーリングとは、前記先端面と前記円環状対向面とが接すると共に、前記テーパ面と前記凹状テーパ面とが離隔するように設けられていることを特徴とする請求項1に記載のソレノイド。
【請求項3】
前記補助磁極は、前記フィラーリングに対して圧入されることによって固定されていることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載のソレノイド。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ソレノイドに関し、特に、フィラーリングを有するソレノイドに関する。
【背景技術】
【0002】
油圧回路などの液圧回路において使用するソレノイドにおいては、コイルを配置した空間に作動油などが浸入することを防止するために、フィラーリングを設けているものがある。
図11は、従来技術に係るソレノイドの断面図である。
図11において、80は比例ソレノイド、81はフィラーリング、82はベース、83は径小部、84は径大部、85は径大貫通孔、86は径小貫通孔、87は凹陥部、88はスプリング受け、89はスプリング、90はプランジャ兼スプール、91は補助磁極部、92はケース、93は案内部材、94はフランジ部、95は内側突出部、96はコイル、97はコイルボビン、98は補助磁極である。
【0003】
図11は、特開2019-9150号公報で開示されているソレノイドである。比例ソレノイド80は、油圧回路に設けられたスプール弁を駆動させるためのものであり、油圧回路の一部としてスプール弁と一体的に設けられるものである。プランジャ兼スプール90には、ベース82の凹陥部87に対向するように設けられている。また、ベース82の径大貫通孔85及び径小貫通孔86の内部にはスプリング受け88が配置されている。スプリング89は、両端部がスプリング受け88とケース92に固定された補助磁極98とに接した状態で保持されている。したがって、スプリング89によってプランジャ兼スプール90に向かって付勢されている。
【0004】
以上のように、プランジャ兼スプール90に補助磁極部91を設けたことによって、プランジャ兼スプール90とベース82とが最も離隔した位置の近傍にあるときでも、プランジャ兼スプール90とベース82との間を流れる磁束量を十分に確保でき、摺動速度が想定を超えた低速になる又は意図せずに停止することを防止できる。プランジャ兼スプール90とベース82が非常に接近したときには、補助磁極部91がベース82の径小貫通孔86に進入するので、補助磁極部91とベース82との間に流れる磁束において推力に寄与しない摺動方向に直交する方向の成分が大幅に増大する。同時に、補助磁極部91がスプリング受け88に当接すると、補助磁極部91とベース82とが非常に接近するので、これらの間を流れる磁束量がさらに増大し、プランジャ兼スプール90の推力もさらに増大する。
【0005】
ところで、比例ソレノイド80のように、ベースやプランジャの周囲に作動油などの液体が必然的に浸入する構成を持つソレノイドでは、作動油などが浸入しないようにコイルなどの電気関連部品を設けた空間をシールドする必要がある。比例ソレノイド80においては、フィラーリング81の両端部にベース82の径小部83と案内部材93の内側突出部95とを挿入し、さらに接着剤によって固定している。フィラーリング81を設けたことによって、作動油がコイル96及びコイルボビン97を設けた空間に浸入することを防止でき、さらには、作動油がケース92とフランジ部94との間から漏出することを防止することが可能である。
【0006】
しかし、作動油などの液圧が高い場合には、フィラーリング81に亀裂を生じてしまい、作動油などコイル96及びコイルボビン97を設けた空間に浸入することになる。フィラーリング81の肉厚を相当に大きくすれば防止することが可能となるが、ソレノイドの外径もかなり大きなものとなるので、好ましい解決手段とは言えない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、上記課題を解決するために、ソレノイドの体格や推力特性への影響を最小限に抑えたままフィラーリングの破壊を防止することが可能な構成を有するソレノイドを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
請求項1に記載の発明は、ケースと、前記ケースの内部に配置されたコイルと、一部又は全部が略円筒状又は略円柱形状に形成されると共に、基端面の近傍部分が前記ケースに対して圧入されることによって固定され、先端面の近傍部分が前記ケースの内部に配置され、前記先端面が前記中心軸に対して直交し、かつ、円環形状に形成されると共に、前記先端面の前記近傍部分の周側面が前記先端面に向かって縮径するテーパ面に形成されたベースと、前記コイルに通電したときに前記ベースに吸引されて前記ベースの中心軸の方向に直動するように設けられたプランジャと、内部に前記プランジャの一部又は全部が配置されると共に、基端面の近傍部分が前記ベースから離隔するように配置された補助磁極と、略円筒状に形成されると共に、前記ベースの前記先端面の前記近傍部が基端面の近傍部分に挿入された状態で前記ベースに固定され、前記補助磁極の前記基端面の前記近傍部分が先端面の近傍部分に挿入された状態で前記補助磁極に固定されたフィラーリングを有するソレノイドであって、前記ベースは、前記テーパ面よりも前記基端面に近い部位であって、周側面が円筒状に形成された径小円筒状部と、前記径小円筒状部よりも前記基端面に近い部位であって、周側面が円筒状に、かつ、前記径小円筒状部よりも径が大きくなるように形成された径大円筒状部とを備え、前記径小円筒状部と前記径大円筒状部との段差面が前記フィラーリングの前記基端面と対向し、前記フィラーリングは、内周面の一部が前記ベースの前記先端面に対向し、かつ、前記ベースの前記中心軸に対して直交する円環状対向面、及び、前記ベースの前記テーパ面に対向し、かつ、先端側に向かって縮径する凹状テーパ面になされると共に、前記円環状対向面と前記凹状テーパ面との境界となる領域に円環状の第1のろう材収納溝が形成され、前記基端面が前記ベースの前記段差面と所定距離離隔することによって、前記基端面、前記ベースの前記段差面及び前記径小円筒状部の周側面によって円環状の第2のろう材収納溝をなすように設けていることを特徴とするソレノイドである。
【0010】
請求項2に記載の発明は、請求項1に記載の発明において、前記ベースと前記フィラーリングとは、前記先端面と前記円環状対向面とが接すると共に、前記テーパ面と前記凹状テーパ面とが離隔するように設けられていることを特徴とする請求項1に記載のソレノイド。
【0011】
請求項3に記載の発明は、請求項1又は請求項2に記載の発明において、前記補助磁極は、前記フィラーリングに対して圧入されることによって固定されていることを特徴とするソレノイドである。
【発明の効果】
【0012】
請求項1に記載の発明によれば、ベースとフィラーリングとの境界領域を利用して第1のろう材収納溝及び第2のろう材収納溝を形成したので、2つのろう材リングを配置することができる。ひいては、ベースとフィラーリングとの接合された領域の面積が拡大されると共に、ベースのフィラーリングに固定されている領域がフィラーリングとしての機能を併せ持つようになるので、ソレノイドの外径をあまり大きくせずにフィラーリングの破壊を防止することができる。
【0013】
請求項2に記載の発明によれば、テーパ面と凹状テーパ面との間隙にろうが確実に浸入するので、ベースとフィラーリングとの接合の信頼性を高めることができる。
【0014】
請求項3に記載の発明によれば、補助磁極がフィラーリングに対して圧入されていると、ソレノイド組立後におけるフィラーリングの配置がより正確なものとなるので、本発明を高い精度が求められる油圧バルブなどに適用することが容易になる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】本発明の実施の形態に係るソレノイドの非通電状態における断面図である。
【
図2】本発明の実施の形態に係るソレノイドの通電状態における断面図である。
【
図3】本発明の実施の形態に係るソレノイドにおけるフィラーリング及びベースを示す拡大断面図である。
【
図4】本発明の実施の形態に係るソレノイドにおけるフィラーリング及びベースの別の切断面における拡大断面図である。
【
図5】本発明の実施の形態に係るレノイドにおけるブレージング対象領域の拡大断面図である。
【
図6】本発明の実施の形態に係るソレノイドにおけるブレージング前におけるフィラーリング及びベースを示す拡大断面図である。
【
図7】本発明の実施の形態に係るレノイドにおけるブレージング対象領域の拡大断面図である。
【
図8】本発明の実施の形態に係るレノイドにおけるブレージング対象領域におけるブレージング中の状態を示す拡大断面図である。
【
図9】本発明の実施の形態に係るソレノイドにおけるフィラーリングを示し、(a)は拡大平面図、(b)は拡大断面図である。
【
図10】本発明の実施の形態に係るソレノイドにおけるベースを示し、(a)は拡大正面図、(b)は拡大断面図である。
【
図11】従来技術に係るソレノイドの断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
まず、本発明の実施の形態に係るソレノイドの概要について説明する。
図1は、本発明の実施の形態に係るソレノイドの非通電状態における断面図である。
図1において、10はろう付け部、20はフィラーリング、21は肉厚部、23は肉薄部、30はベース、32は径小円筒状部、33は径大円筒状部、36a及び36bは連通孔、37は凹陥部、40は補助磁極、40aは内周面、41は先端側円筒状部、42は基端側側円筒状部、42aはOリング用環状溝、43はプランジャ、44及び45は連通孔、46はスプリング用凹陥部、47はコイル、48はコイルボビン、49はシャフト、50はスプリング受け部材、56は軸受、57はOリング、58はスペーサ、60はソレノイドである。また、
図2は、本発明の実施の形態に係るソレノイドの通電状態における断面図である。
図2において用いた符号は、全て
図1と同じものを示す。なお、本発明の実施の形態に係るソレノイド60の説明において、「基端側」とは、ベース30を設けている側、つまり、
図1の下側を示すものとし、「先端側」とは、スプリング受け部材50を設けている側、つまり、
図1の上側を示すものとする。なお、特許請求の範囲における「基端側」及び「先端側」も同様とする。また、「中心軸」とは、プランジャ43の中心軸を示すものとするが、この実施の形態に係るソレノイド60においては、プランジャ43の中心軸と、フィラーリング20、ベース30、補助磁極40、コイル47、シャフト49及び軸受56の中心軸はそれぞれ一致しているので、以下の説明において「中心軸」と記載した場合には、これら全ての構成部品に共通する中心軸を意味することになる。
【0017】
本発明の実施の形態に係るソレノイド60は、油圧回路において使用されるソレノイドである。ソレノイド60は、
図1に示すように、磁界を生成する部材として、プランジャ43、ベース30、ケース52及び補助磁極40が設けられている。コイル47に通電したときには、これらを巡る磁気回路が生成され、
図2に示すように、プランジャ43及びシャフト49が基端側に摺動する。また、ソレノイド60は、内部における圧力差を調整するために、ベース30に連通孔36a及び36b、プランジャ43に連通孔44及び45が中心軸に対して平行に延びるように形成し、作動油の流路を確保している。一方、コイル47及びコイルボビン48を設けた空間については、ベース30及び補助磁極40に固定されるフィラーリング20を設けることによって、作動油が流入する空間から隔離し、作動油の浸入が防止されるようにしている。
【0018】
さらに、ソレノイド60の各部の構成について詳しく説明する。
図3は、本発明の実施の形態に係るソレノイドにおけるフィラーリング及びベースを示す拡大断面図である。
図3において、11は第1の端部近傍領域、12は係止部、21aは内周面、22は中間部、32aは円筒状面、35bは径大貫通孔であり、その他の符号は
図1と同じものを示す。また、
図4は、本発明の実施の形態に係るソレノイドにおけるフィラーリング及びベースの別の切断面における拡大断面図である。
図4において用いた符号は、全て
図1及び
図3と同じものを示す。さらに、
図5は、本発明の実施の形態に係るレノイドにおけるブレージング対象領域の拡大断面図である。
図5において、23aは凹状テーパ面、23bは円筒状面、23cは誘い込み用テーパ面、25は第1のろう材収納溝、31aはテーパ面、31bは先端面であり、その他の符号は
図1及び
図3と同じものを示す。くわえて、
図9は、本発明の実施の形態に係るソレノイドにおけるフィラーリングを示し、(a)は拡大平面図、(b)は拡大断面図である。
図9において、22aは内周面、24はろう付け領域、26は環状突出部、26aは円環状対向面、27は基端面であり、その他の符号は
図1及び
図3と同じものを示す。また、
図10は、本発明の実施の形態に係るソレノイドにおけるベースを示し、(a)は拡大正面図、(b)は拡大断面図である。
図10において、16は第2のろう材リング、31は円錐台状部、33aは円筒状面、34はフランジ部、35aは径小貫通孔、36bは連通孔、37aは内周面、38は段差面、39は基端面であり、その他の符号は
図1及び
図3と同じものを示す。
【0019】
ソレノイド60においては、前述のように、フィラーリング20をベース30及び補助磁極40に固定する構成によって、コイル47及びコイルボビン48を設けた空間を作動油が流入する空間から隔離している。さらに、ベース30及び補助磁極40にフィラーリング20の補強材としての役割を持たせることによって、圧力が比較的に高い油圧回路においてもこの構成を採用できるようにしている。ベース30は、
図10に示すように、円錐台状部31、径小円筒状部32、径大円筒状部33、フランジ部34が先端側から基端側に向かってこの順序で、かつ、中心軸に沿って形成されている。円錐台状部31は、略円錐台状に形成されると共に、中心軸に直交するように形成された先端面31bの中心とその近傍領域が凹陥するように凹陥部37が形成されている。凹陥部37は、コイル47への通電時にプランジャ43が進入する空間を構成している。また、円錐台状部31の周側面、つまり、先端面31bの近傍部分の周側面は、先端面31bに向かって縮径するテーパ面31aとして形成されている。凹陥部37及びテーパ面31aは、ソレノイド60の推力特性を設定する上で大きな役割を持っている。
【0020】
径小円筒状部32は、略円筒形状に、かつ、円錐台状部31に連続するように形成されている。径小円筒状部32の周側面である円筒状面32aは、テーパ面31aの基端側端部と同じ径となるように形成されている。径大円筒状部33は、径小円筒状部32に連続するように形成されているが、径大円筒状部33の周側面である円筒状面33aの径が円筒状面32aのものよりもやや大きくなるようになされており、円筒状面33aと円筒状面32aとの境界には段差面38が形成されている。段差面38は、フィラーリング20の基端面27と対向するように形成されており、
図1に示したろう付け部10の母材となる第2のろう材リング16が配置される空間を構成する。フランジ部34は、略円板状に形成されており、ケース52の基端側に圧入される部分である。したがって、円錐台状部31、径小円筒状部32及び径大円筒状部33は、全てケース52の内部に配置されている。また、ベース30には、シャフト49を挿通し、かつ、支持するために、径小貫通孔35a及び径大貫通孔35bが形成されている。径小貫通孔35aは、
図1に示した軸受56を圧入し、固定するためのものである。径大貫通孔35bは、シャフト49をソレノイド60の外部に突出させるために外部に開放されている。連通孔36a及び36bは、前述のように、ソレノイド60の内部における圧力差を調整する役割を持ち、径小貫通孔35a及び径大貫通孔35bに平行に形成されている。ところで、
図4に示すように、別の切断面においては、連通孔36a及び36bは現れない。なお、シャフトは、用途によってはベースを貫通せず、先端側の一部がベースに圧入によって固定される構成にしてもよい。
【0021】
フィラーリング20は、
図9に示すように、非磁性材料によって略円筒状に形成されており、先端側の部位である肉厚部21、基端側の部位である肉薄部23、肉厚部21と肉薄部23との中間部分である中間部22を備えている。なお、肉厚部21及び肉薄部23の名称は便宜的なものであり、肉厚部21及び肉薄部23の肉厚がこの実施の形態に係るソレノイド60と異なっていてもよい。肉厚部21は、内周面21a側に補助磁極40の基端側側円筒状部42が圧入される部分である。さらに、
図1に示すように、基端側側円筒状部42のOリング用環状溝42aには、Oリング57が設けられており、肉厚部21と基端側側円筒状部42との間から作動油がコイル47側に漏出することを防止している。中間部22は、ベース30と補助磁極40との間に介在するように配置される部分であり、フィラーリング20の中空部に突出するように形成されている。中間部22の内周面22aは、プランジャ43側に突出しないように、その径がベース30の凹陥部37の内周面37a、及び、補助磁極40の内周面40aとほぼ同じ径となるように形成されている。
【0022】
ところで、
図11に示したフィラーリング81のように、中間部22が存在しないストレート形状の場合では、中間部22に当たる部分が無いため比較的広い空間ができ、当該部に異物が堆積した場合にプランジャ43の作動を阻害してしまう可能性がある。これに対して、フィラーリング20のような形状であればこの空間の大部分を埋めることができる。したがって、ソレノイド60では、異物がソレノイド内部へ流入してきた場合でも、その堆積を抑制することができ、プランジャ43の作動信頼性が向上するという副次的な効果も得られる。
【0023】
図9に戻り、中間部22には、基端側の側面に第1のろう材収納溝25が形成されている。第1のろう材収納溝25は、底となる部分が先端側、開口している側が基端側に向くように、つまり、天地が逆向きになるように形成されている。これは、第1のろう材収納溝25に対して、後ほど詳しく説明する手順によって、ろう材を所定の位置に確実に収納し、ブレージングを適正に行うことを目的としていることによる。また、第1のろう材収納溝25に囲まれた円環状対向面26aは、ソレノイド60の組立後に、ベース30の先端面31bに対向し、かつ、中心軸に対して直交するように形成されている。さらに、ブレージングを行う際に円環状対向面26aと先端面31bとの間隙から漏出するろう材を低減するために、円環状対向面26aは先端面31bに対して接した状態で設けられている。くわえて、中間部22と肉薄部23とには、これらに跨がるように凹状テーパ面23aが形成されている。
【0024】
凹状テーパ面23aは、ベース30のテーパ面31aに対向し、かつ、先端側に向かって縮径するように形成されている。また、さらに、
図5に示すように、凹状テーパ面23aは、ブレージング時の加熱で融解したろう材がテーパ面31aの全体を覆うようにするために、テーパ面31aとの間に所定の間隙が確保されている。また、凹状テーパ面23aから基端側に連続する円筒状面23bは、ベース30の径小円筒状部32が軽圧入される領域であり、径小円筒状部32の円筒状面32aとの間には僅かな間隙が存在する。この円筒状面23bと円筒状面32aとの間隙は、ブレージング時に液体となったろう材が円筒状面32aの全体を覆うようにするために確保したものである。誘い込み用テーパ面23cは、円筒状面23bに径小円筒状部32を軽圧入する際の誘い込み用として、凹状のテーパ面として形成した面である。誘い込み用テーパ面23cもまた、ブレージング時にはろう材によって覆われる領域となる。
【0025】
また、基端面27は、
図10に示したベース30の段差面38と円筒状面32aと共に、
図5に示すように、第2のろう材収納溝19を構成している。前述のように、フィラーリング20には第1のろう材収納溝25が形成されているので、ソレノイド60は2つのろう材を収納する構成となっている。2つのろう材を使用することによって、ブレージング時には凹状テーパ面23a、円筒状面23b及び誘い込み用テーパ面23cからなるろう付け領域24の全体にろうが行き渡るようになる。すなわち、フィラーリング20及びベース30を以上のように構成したことによって、
図4に示すように、ろう付け部10の第1のろう付け領域11は主として第1のろう材収納溝25に収納したろう材によって、第2のろう付け領域12は主として第2のろう材収納溝19に収納したろう材によってろう付けされるようにしている。なお、ろう付け部10の形状は、ろう材の種類などによって多少異なる場合がある。
【0026】
図1に戻って他の構成部品について説明する。補助磁極40は、磁気回路を構成する部品の1つであり、略円筒形状に形成されると共に、内部にプランジャ43が配置されている。補助磁極40の先端側円筒状部41は ブレージング時の加熱の影響によって正確に組み立てることが困難になる場合があるので、スプリング受け部材50及びケース52に対して挿入されているが圧入はされていない。一方、基端側側円筒状部42は、フィラーリング20の肉厚部21に対して圧入されている。さらに、補助磁極40は、スリーブのように高い精度で加工されているので、ソレノイド60の組立時にフィラーリング20の中心軸を正確に設定することができる。また、補助磁極40の内周面40aは、その内径がプランジャ43の外径よりも大きく、前述のように、フィラーリング20の内周面22aの内径とほぼ同じである。くわえて、基端側側円筒状部42の周側面にはOリング57を配置するためのOリング用環状溝42aが設けられている。
【0027】
プランジャ43は、中心軸に沿って貫通孔が形成されており、この貫通孔にはシャフト49が圧入によって固定されている。また、シャフト49は、ベース30の径小貫通孔35aに圧入によって固定された軸受56に支持されており、プランジャ43もシャフト49を介して支持されている。また、プランジャ43の先端側には、スプリング55を収納するスプリング用凹陥部46が形成されている。また、シャフト49は図示していない油圧回路の部材によって先端側へ付勢されているが、同時に、プランジャ43がスプリング55によって基端側へ付勢されている。また、コイル47への通電時にはプランジャ43は基端側へ直ちに摺動し、
図2に示した状態になる。なお、プランジャ43周辺の圧力差によって、プランジャ43がベース30に張り付くことを防止するために、
図1に示したスペーサ58を設けている。スペーサ58は、ベース30の凹陥部37に配置されると共に、シャフト49に挿通されている。コイル47は、コイルボビン48にコイルワイヤを巻回して形成されており、ケース52の内部に配置されている。スプリング受け部材50は、ケース52に固定されており、凹陥部51にはプランジャ43の先端側の部分と、スプリング55が収納されている。ケース52は、磁気回路を構成する部品の1つであり、さらに、他の部品を中心軸に対して正確に配置する上での基盤ともなる。また、ケース52は、基端側のベース嵌合部53にベース30のフランジ部34が圧入によって固定され、先端側の補助磁極嵌合部54に先端側円筒状部41が圧入によって固定されている。
【0028】
次に、本発明の実施の形態に係るソレノイド60におけるブレージングの手順について説明する。
図6は、本発明の実施の形態に係るソレノイドにおけるブレージング前におけるフィラーリング及びベースを示す拡大断面図である。
図6において、15は第1のろう材リング、16は第2のろう材リングであり、その他の符号は
図2と同じものを示す。また、
図7は、本発明の実施の形態に係るレノイドにおけるブレージング対象領域の拡大断面図である。
図7において用いた符号は、全て
図2及び
図6と同じものを示す。さらに、
図8は、本発明の実施の形態に係るレノイドにおけるブレージング対象領域におけるブレージング中の状態を示す拡大断面図である。
図8において、13は第1のろう材、14は第2のろう材であり、その他の符号は
図7と同じものを示す。
【0029】
ソレノイド60においてブレージングを行う際には、
図7に示すように、あらかじめ第1のろう材リング15を第1のろう材収納溝に、第2のろう材リング16を第2のろう材収納溝19に配置しておく。なお、第1のろう材リング15及び第2のろう材リング16は、銅又は銅合金がよく使用されるが、他の金属を含むものであってもよい。次に、
図6に示すように、ベース30が上側、フィラーリング20が下側、つまり、
図1に示した状態とは上下が逆に位置するように配置する。この状態においてベース30及びフィラーリング20を加熱すると、第1のろう材リング15と第2のろう材リング16とが融解し、
図8に示した第1のろう材13と第2のろう材14とのように、ベース30とフィラーリング20と狭隘な間隙に浸入して拡がって行く。
【0030】
以上のように、本発明の実施の形態に係るソレノイド60においては、ベース30とフィラーリング20とのろう付けで溶接する領域の近傍に第1のろう材収納溝25及び第2のろう材収納溝19を形成したので、第1のろう材リング15と第2のろう材リング16とをブレージングに好適な配置することができる。ひいては、ベース30とフィラーリング20との溶接された領域の面積が大幅に拡大され、作動油の漏出を確実に防止できると共に、ベース30のフィラーリング20に溶接されている領域が実質的にフィラーリング20としての機能を併せ持つようになる。同様に、補助磁極40の基端側側円筒状部42がフィラーリング20の肉厚部21に圧入され、さらにOリング57を両者の間に設けているので、作動油の漏出を確実に防止できると共に、補助磁極40のフィラーリング20に圧入されている領域がフィラーリング20としての機能をある程度持つようになる。ひいては、ソレノイド60の外径をあまり大きくせずにフィラーリング20の破壊を防止することができる。くわえて、テーパ面31aと凹状テーパ面23aとの間隙にろうが確実に浸入するので、ベース30とフィラーリング20との接合の信頼性を高めることができる。また、補助磁極40の先端側円筒状部41がフィラーリング20に対して圧入されているので、ソレノイド60の組立後におけるフィラーリング20の配置がさらに正確になり、本発明を高い精度が求められる油圧バルブなどに適用することが容易になる。
【0031】
本発明は、以上に説明した内容に限定されるものではなく、各請求項に記載した範囲を逸脱しない限りにおいて、比較的高い液圧下で使用されるソレノイドであってフィラーリングを有する各種のソレノイドに適用することが可能である。
【符号の説明】
【0032】
10 ろう付け部
11 第1のろう付け領域
12 第2のろう付け領域
13 第1のろう材
14 第2のろう材
15 第1のろう材リング
16 第2のろう材リング
19 第2のろう材収納溝
20 フィラーリング
21 肉厚部
21a 内周面
22 中間部
22a 内周面
23 肉薄部
23a 凹状テーパ面
23b 円筒状面
23c 誘い込み用テーパ面
24 ろう付け領域
25 第1のろう材収納溝
26 環状突出部
26a 円環状対向面
27 基端面
30 ベース
31 円錐台状部
31a テーパ面
31b 先端面
32 径小円筒状部
32a 円筒状面
33 径大円筒状部
33a 円筒状面
34 フランジ部
35a 径小貫通孔
35b 径大貫通孔
36a 連通孔
36b 連通孔
37 凹陥部
37a 内周面
38 段差面
39 基端面
40 補助磁極
40a 内周面
41 先端側円筒状部
42 基端側側円筒状部
42a Oリング用環状溝
43 プランジャ
44 連通孔
45 連通孔
46 スプリング用凹陥部
47 コイル
48 コイルボビン
49 シャフト
50 スプリング受け部材
51 凹陥部
52 ケース
53 ベース嵌合部
54 補助磁極嵌合部
55 スプリング
56 軸受
57 Oリング
58 スペーサ
60 ソレノイド
80 比例ソレノイド
81 フィラーリング
82 ベース
83 径小部
84 径大部
85 径大貫通孔
86 径小貫通孔
87 凹陥部
88 スプリング受け
89 スプリング
90 プランジャ兼スプール
91 補助磁極部
92 ケース
93 案内部材
94 フランジ部
95 内側突出部
96 コイル
97 コイルボビン
98 補助磁極