(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023146570
(43)【公開日】2023-10-12
(54)【発明の名称】吊架線保護カバー
(51)【国際特許分類】
B60M 1/22 20060101AFI20231004BHJP
【FI】
B60M1/22 F
【審査請求】未請求
【請求項の数】2
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022053806
(22)【出願日】2022-03-29
(71)【出願人】
【識別番号】000001890
【氏名又は名称】三和テッキ株式会社
(72)【発明者】
【氏名】小林 武弘
(72)【発明者】
【氏名】中島 祐樹
(57)【要約】
【課題】扱いが面倒な別体の小さな抜け止めピンを不要にし、高所での取り付け、取り外し作業を簡易化した吊架線保護カバーを提供する。
【解決手段】吊架線を上下に挟んで、一対の分割体2を互い違いに延線方向にずらして配置し、半円筒部3同士を摺動させて互いの切欠部5に互いの嵌合部6を嵌合させるように突き合わせる。各分割体2の円孔71に先端が挿入されて保持されている固定ピン10を円孔81に押し込めば、自動的に固定ピン10が抜け止めされ、保護カバー1の装着作業は完了する。吊架線から保護カバー1を取り外すには、円孔81から突出したスナップ部102を手指操作で縮径させて固定ピン10を引き抜き、一対の分割体2を延線方向にずらせばよい。分割体2が分離しても、固定ピン10のスナップ部102が保持空間71bにおいて抜け止めされるため、作用中、保管中に固定ピン10を落下させることがない。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
半円筒部と、当該半円筒部の一端側に設けられ一部に切欠部を有する鍔部と、他端側において半径方向に突出する嵌合部とをそれぞれ備えた合成樹脂製の一対の分割体からなり、当該一対の分割体を前記半円筒部の軸線方向に互い違いに係合させることにより、一方の前記分割体の切欠部に他方の前記分割体の嵌合部を嵌合させて糸巻状に組まれる吊架線保護カバーにおいて、
前記各分割体は、前記切欠部の対向する両縁からそれぞれ前記鍔部に対して垂直に外方へ互いに平行に延出し、相互間に貫通する円孔を有する第1及び第2の一対の係止突片と、
前記嵌合部から外方へ突出し、組まれる他方の前記分割体の一対の係止突片間に嵌合可能で嵌合時に前記円孔に連通する貫通孔を有する嵌合突片と、
相互に嵌合した前記係止突片と前記嵌合突片間に連通する前記円孔と貫通孔を貫通するように、前記第1の係止突片側から挿通されたとき、先端側が前記第2の係止突片から突出する丸棒状の固定ピンとを具備し、
前記固定ピンは、基端側に前記第1の係止突片の円孔を通過不能の頭部を具備し、先端側に弾性的に縮径可能な矢じり型のスナップ部を具備し、
前記第1の係止突片の円孔は、外側に小径部、内側に大径部を有する段部付き円孔に形成され、当該小径部は、縮径した前記スナップ部が通過可能、拡径した前記スナップ部が通過不能な内径を有し、当該大径部は、前記スナップ部を拡径させて保持可能な内径の保持空間を形成し、
前記嵌合突片の貫通孔は、縮径した前記スナップ部が通過可能な内径を有し、
前記第2の係止突片の円孔は、縮径した前記スナップ部が通過可能、拡径した前記スナップ部が通過不能の内径を有し、
前記スナップ部は、前記第2の係止突片の円孔から突出して拡径した状態において、手指操作により縮径させて当該円孔から前記貫通孔を経て前記保持空間において拡径して抜け止めされるまで抜去方向へ通過可能に形成され、
それによって、前記一対の分割体が分離状態にあるとき、前記固定ピンが当該分割体から離脱することなく、前記第1の係止突片に保持されることを特徴とする吊架線保護カバー。
【請求項2】
前記スナップ部は、前記固定ピンの先端側に形成された先広がりのすり割りにより二股に分かれた一対の弾性脚と、当該弾性脚の先端部外周に突設された矢じり型の係合部を具備することを特徴とする請求項1に記載の吊架線保護カバー。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は電車線路における吊架線の保護カバーに関するもので、吊架線への着脱に当たり、別体の抜け止めピンの抜き差しを不要にし、高所での取り付け、取り外し作業を簡易化するものである。
【背景技術】
【0002】
吊架線保護カバーについては、例えば特許文献1に基本形が開示されている。半円筒部の一端に鍔を、他端に半径方向に突出する嵌合部を備えた一対の分割体から成り、鍔には互いに他方の分割体の嵌合部をはめ込み可能な切欠部が設けてあって、両分割体を互い違いに摺動係合させることにより、糸巻状とするものである。
上記公知例では、鍔と嵌合部の夫々の一部に、両者を貫通するように穿たれたピン孔が設けられ、これへ割ピンを挿入して、分割体相互の抜け止めとしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
保護カバーの取り付けは、高所作業である上に、夜間の作業となることが多い。梯子や作業車上の暗所で小さいピン孔へピンを挿入するのは決して容易な作業ではない。誤って割ピンを落とすことも多い。
従って、本発明は、扱いが面倒な別体の小さな抜け止めピンを不要にし、高所での取り付け、取り外し作業を簡易化した吊架線保護カバーを提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
以下の説明において添付図面の符号を参照するが、本発明はこれに限定されるものではない。
上記課題を解決するための、本発明の吊架線保護カバー1は、半円筒部3の一端に切欠部5付きの鍔部4を、他端に半径方向に突出する嵌合部6を備えた一対の分割体2からなり、一対の分割体2を半円筒部3の軸線方向に互い違いに係合させることにより、一方の分割体2の切欠部5に他方の分割体2の嵌合部6を嵌合させて糸巻状に組まれる。各分割体2は、切欠部5の対向する両縁からそれぞれ鍔部4に対して垂直に外方へ平行に延出し、相互間に貫通する円孔71,81を有する第1及び第2の一対の係止突片7,8と、嵌合部6から外方へ突出し、組まれる他方の分割体2の一対の係止突片7,8間に嵌合可能で嵌合時に係止突片7,8の円孔71,81に連通する貫通孔91を有する嵌合突片9と、相互に嵌合した係止突片7,8と嵌合突片9の間に連通する円孔71,81と貫通孔91を貫通するように、第1の係止突片7側から挿通されたとき、先端側が第2の係止突片8から突出する丸棒状の固定ピン10とを具備する。固定ピン10は、基端側に第1の係止突片7の円孔71を通過不能の頭部101を具備し、先端側に弾性的に縮径可能な矢じり型のスナップ部102を具備する。第1の係止突片7の円孔71は、外側に小径部71a、内側に大径部71bを有する段部付き円孔に形成される。小径部71aは、縮径したスナップ部102が通過可能、拡径したスナップ部102が通過不能な内径を有し、大径部71bは、スナップ部102を拡径させて保持可能な内径の保持空間を形成する。嵌合突片9の貫通孔91は、縮径したスナップ部102が通過可能な内径を有する。第2の係止突片8の円孔81は、縮径したスナップ部102が通過可能、拡径したスナップ部102が通過不能の内径を有する。スナップ部102は、第2の係止突片8の円孔81から突出して拡径した状態において、手指操作により縮径させて当該円孔81から貫通孔91を経て保持空間71bにおいて拡径して抜け止めされるまで抜去方向へ通過可能に形成される。それによって、一対の分割体2が分離状態にあるとき、固定ピン10が分割体2から離脱することなく、第1の係止突片7に保持される。
【発明の効果】
【0006】
本発明によれば、一対の分割体2を結合するための固定ピン10が、常に分割体2から離脱することなく保持されるから、吊架線Wへの取り付け、取り外しの作業中に誤って固定ピン10を落下させるおそれがないし、作業を簡易化できる。また、固定ピン10が単純で堅牢な構成であるから環境劣化を抑えることができる。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【
図2】
図1の吊架線保護カバーの分解斜視図である。
【
図6】
図1の吊架線保護カバーにおける固定ピン挿通部の拡大断面図であり、(A)は固定ピンを除去した状態、(B)は
図1におけるVIB-VIB拡大断面図、(C)は
図2におけるVIC-VIC拡大断面図を示す。
【
図7】
図1の吊架線保護カバーを構成する分割体の正面図である。
【
図8】
図1の吊架線保護カバーを構成する分割体の右側面図である。
【
図9】
図1の吊架線保護カバーを構成する分割体の平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0008】
図面を参照して本発明の実施の形態を説明する。
図1,2によく示すように、吊架線保護カバー1は、一対の同形同大の分割体2を組み合わせてなる。分割体2は、いずれも合成樹脂製で、半円筒部3と、それの一端側に設けられ一部に切欠部5を有する鍔部4と、他端側において半径方向に突出する嵌合部6とをそれぞれ備える。吊架線Wを挟むように一対の分割体2を対向させ、半円筒部3の軸線方向に互い違いに係合させることにより、
図1に示すように、一方の分割体2の切欠部5に他方の分割体2の嵌合部6を嵌合させて糸巻状に組まれ、吊架線保護カバー1が形成される。
【0009】
各分割体2は、切欠部5の対向する両縁からそれぞれ鍔部4に対して垂直に外方へ互いに平行に延出する第1及び第2の一対の係止突片7,8を具備する。一対の係止突片7,8は、それぞれ相互間に貫通する円孔71,81を有する。
【0010】
嵌合部6には、外方へ突出する嵌合突片9が形成される。嵌合突片9は、組まれる他方の分割体2の一対の係止突片7,8間に嵌合可能で、嵌合時に当該係止突片7,8の円孔71,81に連通する貫通孔91を有する。
【0011】
相互に嵌合した係止突片7,8と嵌合突片9との間に連通する円孔71,81と貫通孔91を貫通するように、第1の係止突片側7から固定ピン10が挿通されることにより、
図1,3ないし5に示すように、一対の分割体2が結合される。
【0012】
固定ピン10は、丸棒状で、基端側に第1の係止突片7の円孔71を通過不能な頭部101を具備し、先端側に弾性的に縮径可能な矢じり型のスナップ部102を具備する。
【0013】
図6によく示すように、スナップ部102は、固定ピン10の先端側に形成された先広がりのすり割り103により二股に分かれた一対の弾性脚104と、当該弾性脚104の先端部外周に突設された矢じり型の係合部105を具備する。弾性脚104は、手指操作で弾性的に縮径させることができる。
【0014】
図6によく示すように、第1の係止突片7の円孔71は、外側に小径部71a、内側に大径部71bを有する段部付き円孔に形成される。小径部71aは、縮径したスナップ部102が通過可能で、拡径したスナップ部102が通過不能な内径を有し、大径部71bは、スナップ部102を拡径させて保持(
図6(C))可能な内径の保持空間を形成する。
【0015】
嵌合突片9の貫通孔91は、縮径したスナップ部102が通過可能な内径を有する。
【0016】
第2の係止突片8の円孔81は、縮径したスナップ部102が通過可能で、拡径したスナップ部102が通過不能な内径を有する。
【0017】
スナップ部102は、
図6(B)に示すように、第2の係止突片8の円孔81から突出して拡径した状態において抜け止めされる。一対の分割体2は、この状態で固定ピン10により結合される。
【0018】
図6(B)に示すように、円孔81から突出して拡径したスナップ部102を手指操作により縮径させて固定ピン10を図において左方に引けば、スナップ部102が円孔81から貫通孔91を経て、保持空間71bにおいて拡径する
図6(C)の状態まで固定ピン10を引き抜くことができる。この状態で、一対の分割体2は分離することができる。一対の分割体2が分離しても、スナップ部102が保持空間71bにおいて抜け止めされるため、固定ピン10は、分割体2から離脱することがない。
【0019】
吊架線W上に保護カバー1を取り付ける場合には、一対の分割体2を互い違いに延線方向にずらして、吊架線Wを上下に挟むように配置し、半円筒部3同士を摺動させて互いの切欠部5に互いの嵌合部6を嵌合させるように突き合わせる。この状態で、
図6(C)に示すように、各分割体2の第1の係止突片7の円孔71に先端が挿入されて保持されている固定ピン10を頭部101が第1の係止突片7に当接するまで円孔71に押し込めば、自動的に固定ピン10が抜け止めされ、保護カバー1の装着作業は完了する。
【0020】
このようにして吊架線W上に装着された保護カバー1を取り外すには、
図6(B)に示すように、円孔81から突出したスナップ部102を手指操作により縮径させて
図6(C)に示すように、固定ピン10を引き抜き、一対の分割体2を延線方向にずらせばよい。一対の分割体2が分離しても、固定ピン10のスナップ部102が保持空間71bにおいて抜け止めされるため、作業中に固定ピン10を落下させることがない。
【符号の説明】
【0021】
1 吊架線保護カバー
2 分割体
3 半円筒部
4 鍔部
5 切欠部
6 嵌合部
7 第1の係止突片
71 円孔
71a 小径部
71b 大径部(保持空間)
8 第2の係止突片
81 円孔
8b 係合凸部
9 嵌合突片
91 貫通孔
10 固定ピン
101 頭部
102 スナップ部
103 すり割り
104 弾性脚
105 係合部
W 吊架線