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特開2023-146582電波ハイトパターン推定装置、電波ハイトパターン推定方法および推定プログラム
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023146582
(43)【公開日】2023-10-12
(54)【発明の名称】電波ハイトパターン推定装置、電波ハイトパターン推定方法および推定プログラム
(51)【国際特許分類】
   H04W 16/18 20090101AFI20231004BHJP
   H04B 17/391 20150101ALI20231004BHJP
【FI】
H04W16/18 110
H04B17/391
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022053823
(22)【出願日】2022-03-29
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用申請有り 宮本直及び藤井威生、「3次元電波マップ構築のためのハイトパターン推定手法の検討」、2022年 電子情報通信学会総合大会 通信講演論文集1、B-17-4、498頁、電子情報通信学会、令和4年3月1日
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用申請有り 宮本直及び藤井威生、「周波数共用のための電波マップと3次元地図情報を用いた干渉電力推定手法」、2022年3月 電子情報通信学会信学技報、vol.121、no.392、SR2021-93、pp.36-41、電子情報通信学会、令和4年2月23日
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)令和3年度 情報通信研究機構 Beyond5G研究開発促進事業 Beyond5G機能実現型プログラム 一般課題 委託研究 産業技術力強化法第17条の適用を受ける特許出願
(71)【出願人】
【識別番号】504133110
【氏名又は名称】国立大学法人電気通信大学
(74)【代理人】
【識別番号】100205350
【弁理士】
【氏名又は名称】狩野 芳正
(74)【代理人】
【識別番号】100117617
【弁理士】
【氏名又は名称】中尾 圭策
(72)【発明者】
【氏名】宮本 直
(72)【発明者】
【氏名】藤井 威生
【テーマコード(参考)】
5K067
【Fターム(参考)】
5K067EE02
(57)【要約】
【課題】電波ハイトパターンを精度よく推定する。
【解決手段】推定部(622)は、所定の領域(2)の地上における受信電力強度の分布を表す電波平面マップデータ(30)と、この領域における構造物(240)の高さの分布を表す構造物高さマップデータとに基づいて、この領域の所定の高さにおける受信電力強度の分布を表す電波ハイトパターンを推定する。推定部は、構造物高さマップデータおよび電波平面マップデータに基づいて、送信アンテナ(21)から注目位置までの支配的伝搬路が、直接波が支配的に伝搬する直接パス、反射波が支配的に伝搬する反射パスまたは回折波が支配的に伝搬する回折パスのいずれであるかを判定する。推定部は、電波平面マップデータから読み出される、注目位置の地上における受信電力強度と、支配的伝搬路とに基づいて、注目位置における受信電力強度を推定する。
【選択図】図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
所定の領域の地上における受信電力強度の分布を表す電波平面マップデータと、前記領域における構造物の高さの分布を表す構造物高さマップデータとに基づいて、前記領域の所定の高さにおける受信電力強度の分布を表す電波ハイトパターンを推定する推定部と、
前記電波ハイトパターンを表す情報を外部に出力する出力部と
を備え、
前記推定部は、
前記構造物高さマップデータおよび前記電波平面マップデータに基づいて、送信アンテナから注目位置までの支配的伝搬路が、直接波が支配的に伝搬する直接パス、反射波が支配的に伝搬する反射パスまたは回折波が支配的に伝搬する回折パスのいずれであるかを判定し、
前記電波平面マップデータから読み出される、前記注目位置の前記地上における前記受信電力強度と、前記支配的伝搬路とに基づいて、前記注目位置における前記受信電力強度を推定する
電波ハイトパターン推定装置。
【請求項2】
請求項1に記載の電波ハイトパターン推定装置において、
前記推定部は、
前記構造物高さマップデータに基づいて、前記送信アンテナから前記注目位置の地上地点までの間に存在する構造物を探索し、
前記構造物のいずれによっても、前記送信アンテナから前記注目位置の前記地上地点までの直線が遮られないとき、前記直接パスを前記支配的伝搬路として判定し、
前記構造物のいずれかが、前記送信アンテナから前記注目位置の前記地上地点までの直線を遮るとき、前記送信アンテナから前記注目位置の前記地上地点に到達する前記回折波および前記反射波のうち、受信電力がより強い方の電波が伝搬する伝搬路を前記支配的伝搬路として判定する
電波ハイトパターン推定装置。
【請求項3】
請求項2に記載の電波ハイトパターン推定装置において、
前記推定部は、
前記構造物のうち、電波を遮蔽する度合いを表すクリアランス係数が最も高い構造物である主要構造物を探索し、
前記送信アンテナから受信アンテナまでの仮想的な直線から、前記主要構造物の天面において回折が発生する第1エッジまでの第1距離と、前記主要構造物の側面において回折が発生する第2エッジまでの第2距離とのうち、より短い方の距離に基づいて前記クリアランス係数を算出する
電波ハイトパターン推定装置。
【請求項4】
請求項2または3に記載の電波ハイトパターン推定装置において、
前記推定部は、前記支配的伝搬路が前記直接パスであるとき、
前記電波平面マップデータから、前記注目位置の前記地上地点における前記受信電力強度を読み出し、
読み出した前記地上地点の前記受信電力強度を、前記注目位置の前記受信電力強度として推定する
電波ハイトパターン推定装置。
【請求項5】
請求項3に記載の電波ハイトパターン推定装置において、
前記推定部は、前記支配的伝搬路が前記回折パスであるとき、前記クリアランス係数に基づいて算出する第2推定受信電力を、前記受信電力強度として推定する
電波ハイトパターン推定装置。
【請求項6】
請求項5に記載の電波ハイトパターン推定装置において、
前記推定部は、前記支配的伝搬路が前記反射パスであるとき、前記支配的伝搬路が前記回折パスであるときの前記第2推定受信電力に所定の反射パス電力を加えた第3推定受信電力を、前記受信電力強度として推定し、
前記第2推定受信電力と前記反射パス電力との比率は、前記注目位置の高さに対して一定である
電波ハイトパターン推定装置。
【請求項7】
所定の領域の地上における受信電力強度の分布を表す電波平面マップデータと、前記領域における構造物の高さの分布を表す構造物高さマップデータとに基づいて、前記領域の所定の高さにおける受信電力強度の分布を表す電波ハイトパターンを推定することと、
前記電波ハイトパターンを表す情報を外部に出力することと
を含み、
前記推定することは、
前記構造物高さマップデータおよび前記電波平面マップデータに基づいて、送信アンテナから注目位置までの支配的伝搬路が、直接波が支配的に伝搬する直接パス、反射波が支配的に伝搬する反射パスまたは回折波が支配的に伝搬する回折パスのいずれであるかを判定することと、
前記電波平面マップデータから読み出される、前記注目位置の前記地上における前記受信電力強度と、前記支配的伝搬路とに基づいて、前記注目位置における前記受信電力強度を推定することと
を含む
電波ハイトパターン推定方法。
【請求項8】
演算装置に実行させることによって所定の処理を実現するための推定プログラムであって、
前記処理は、
所定の領域の地上における受信電力強度の分布を表す電波平面マップデータと、前記領域における構造物の高さの分布を表す構造物高さマップデータとに基づいて、前記領域の所定の高さにおける受信電力強度の分布を表す電波ハイトパターンを推定することと、
前記電波ハイトパターンを表す情報を外部に出力することと
を含み、
前記推定することは、
前記構造物高さマップデータおよび前記電波平面マップデータに基づいて、送信アンテナから注目位置までの支配的伝搬路が、直接波が支配的に伝搬する直接パス、反射波が支配的に伝搬する反射パスまたは回折波が支配的に伝搬する回折パスのいずれであるかを判定することと、
前記電波平面マップデータから読み出される、前記注目位置の前記地上における前記受信電力強度と、前記支配的伝搬路とに基づいて、前記注目位置における前記受信電力強度を推定することと
を含む
推定プログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は電波ハイトパターン推定装置、電波ハイトパターン推定方法および推定プログラムに関し、例えば、無線通信環境の推定に好適に利用できるものである。
【背景技術】
【0002】
任意の領域に含まれる複数の地点における所定の送信アンテナから届く電波の電力強度の測定値を蓄積して統計化した電波マップを作成する技術がある。このような電波マップを作成するために電力強度の測定を行うとき、センサ端末は地上または地上から数メートルの高さに配置されていることが一般的である。
【0003】
近年では、建物の上層階などにおける、セルラーシステムの三次元的かつ稠密なセル展開が求められている。また、無線端末を搭載して屋外の上空を飛行するドローンなどの普及も見込まれている。このような理由から、高さ方向における電力強度の分布を表す電波ハイトパターンのデータに対する需要が高まっている。しかし、このようなデータを実測によって取得することは困難である。
【0004】
上記に関連して、非特許文献1(M.Hata、「Empirical formula for propagation loss in land mobile radio services」、IEEE Trans.Veh.Technol.、vol.VT-29、no.3、pp.317-325、1980年8月)には、経験測に基づく伝搬モデルが開示されている。経験測に基づく伝搬モデルは、通常、簡易的な回帰分析によってモデル化され、伝搬距離、中心周波数、アンテナ高、通信環境などから、距離減衰特性を推定できる。しかし、同モデルは構造物や地形の影響による場所固有の伝搬損失値変動(シャドウィング変動)を考慮していないため、真の受信電力値に対する平均二乗誤差は、高々8dB程度であることが報告されている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】M.Hata,「Empirical formula for propagation loss in land mobile radio services」、IEEE Trans.Veh.Technol.、vol.VT-29、no.3、pp.317-325、1980年8月
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上記状況に鑑み、本開示は、電波ハイトパターンを精度よく推定するための電波ハイトパターン推定装置、電波ハイトパターン推定方法および推定プログラムを提供することを目的の1つとする。その他の課題と新規な特徴は、本明細書の記述および添付図面から明らかになるであろう。
【課題を解決するための手段】
【0007】
以下に、(発明を実施するための形態)で使用される番号を用いて、課題を解決するための手段を説明する。これらの番号は、(特許請求の範囲)の記載と(発明を実施するための形態)との対応関係を明らかにするために付加されたものである。ただし、それらの番号を、(特許請求の範囲)に記載されている発明の技術的範囲の解釈に用いてはならない。
【0008】
一実施の形態によれば、電波ハイトパターン推定装置(6)は、推定部(622)と、出力部(623)とを備える。推定部(622)は、所定の領域(2)の地上における受信電力強度の分布を表す電波平面マップデータ(30)と、この領域(2)における構造物(240)の高さの分布を表す構造物高さマップデータとに基づいて、この領域(2)の所定の高さにおける受信電力強度の分布を表す電波ハイトパターンを推定する。出力部(623)は、電波ハイトパターンを表す情報を外部に出力する。推定部(622)は、構造物高さマップデータおよび電波平面マップデータ(30)に基づいて、送信アンテナ(21)から注目位置までの支配的伝搬路が、直接波が支配的に伝搬する直接パス、反射波が支配的に伝搬する反射パスまたは回折波が支配的に伝搬する回折パスのいずれであるかを判定する。推定部(622)は、電波平面マップデータ(30)から読み出される、注目位置の地上における受信電力強度と、支配的伝搬路とに基づいて、注目位置における受信電力強度を推定する。
【0009】
一実施の形態によれば、電波ハイトパターン推定方法は、所定の領域(2)の地上における受信電力強度の分布を表す電波平面マップデータ(30)と、この領域(2)における構造物(240)の高さの分布を表す構造物高さマップデータとに基づいて、この領域(2)の所定の高さにおける受信電力強度の分布を表す電波ハイトパターンを推定すること(S01~S10)と、電波ハイトパターンを表す情報を外部に出力すること(S11)とを含む。推定すること(S01~S10)は、構造物高さマップデータおよび電波平面マップデータ(30)に基づいて、送信アンテナ(21)から注目位置までの支配的伝搬路が、直接波が支配的に伝搬する直接パス、反射波が支配的に伝搬する反射パスまたは回折波が支配的に伝搬する回折パスのいずれであるかを判定すること(S04~S09)と、電波平面マップデータ(30)から読み出される、注目位置の地上における受信電力強度と、支配的伝搬路とに基づいて、注目位置における受信電力強度を推定すること(S10)とを含む。
【0010】
一実施の形態によれば、推定プログラムは、演算装置(62)に実行させることによって所定の処理を実現するためのものである。この処理は、所定の領域(2)の地上における受信電力強度の分布を表す電波平面マップデータ(30)と、この領域(2)における構造物(240)の高さの分布を表す構造物高さマップデータとに基づいて、この領域(2)の所定の高さにおける受信電力強度の分布を表す電波ハイトパターンを推定すること(S01~S10)と、電波ハイトパターンを表す情報を外部に出力すること(S11)とを含む。推定すること(S01~S10)は、構造物高さマップデータおよび電波平面マップデータ(30)に基づいて、送信アンテナ(21)から注目位置までの支配的伝搬路が、直接波が支配的に伝搬する直接パス、反射波が支配的に伝搬する反射パスまたは回折波が支配的に伝搬する回折パスのいずれであるかを判定すること(S04~S09)と、電波平面マップデータ(30)から読み出される、注目位置の地上における受信電力強度と、支配的伝搬路とに基づいて、注目位置における受信電力強度を推定すること(S10)とを含む。
【発明の効果】
【0011】
一実施の形態によれば、電波ハイトパターンを精度よく推定することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1図1は、電波ハイトパターン推定システムの一構成例を示す図である。
図2図2は、一実施の形態による電波ハイトパターン推定装置の一構成例を示すブロック回路図である。
図3A図3Aは、一実施の形態による電波ハイトパターン推定方法の処理の一例を示すフローチャートの一部である。
図3B図3Bは、一実施の形態による電波ハイトパターン推定方法の処理の一例を示すフローチャートの一部である。
図4A図4Aは、一実施の形態による、送信装置からの電波について地上で測定されたRSRPをヒートマップで表す電波平面マップデータの一例を示す図である。
図4B図4Bは、一実施の形態による、構造物の高さをヒートマップで表す構造物高さマップデータの一例を示す図である。
図5図5は、一実施の形態における見通し環境の距離減衰特性について説明するための図である。
図6図6は、一実施の形態における、構造物の上に配置された送信アンテナと、地上の受信アンテナとを結ぶ仮想的な直線を所定の間隔で区切った複数の地点について説明するための図である。
図7図7は、一実施の形態においてクリアランス係数を算出するために用いるパラメータの関係について説明するための図である。
図8図8は、一実施の形態において、送信アンテナから注目位置まで見通せない場合について説明するための図である。
図9図9は、一実施の形態において、送信アンテナから注目位置まで見通せる場合について説明するための図である。
図10A図10Aは、一実施の形態による電波平面マップデータを生成した領域の一例を示す図である。
図10B図10Bは、一実施の形態による受信電力強度の測定を行った領域における構造物高さマップデータを示す図である。
図11図11は、図10Aの地上測定ルート上で、1つの送信装置からの受信電力を測定して生成した電波平面マップデータの一例を示す図である。
図12図12は、一実施の形態による電波ハイトパターン推定方法を用いて、同一の建物の複数の階で受信電力強度を測定した結果を示すグラフの一例である。
図13図13は、電波ハイトパターンの推定結果および測定結果の誤差について、一実施の形態による電波ハイトパターン推定方法と、他の推定方法とを比較した結果を示すグラフの一例である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
添付図面を参照して、本開示による電波ハイトパターン推定装置、電波ハイトパターン推定方法および推定プログラムを実施するための形態を以下に説明する。
【0014】
(実施の形態)
図1に示すように、一実施の形態による電波ハイトパターン推定システム1は、電波マップデータベース4と、構造物高さマップデータベース5と、電波ハイトパターン推定装置6とを含む。本開示における高さは、標高や海抜などであってもよいが、いずれの場合も同一の基準に基づく高さである。
【0015】
電波マップデータベース4は、電波平面マップデータ30を格納しており、電波ハイトパターン推定装置6に電波平面マップデータ30を提供する。電波平面マップデータ30は、送信アンテナ21A、21Bから送信された電波を所望の領域2の内側に配置されたセンサ端末22が受信してその電力強度を測定した位置と、測定された平均受信電力強度との対応関係を表す。電波平面マップデータ30は、測定位置と、受信電力強度の測定値とを対応付けた測定データ20を、それぞれのセンサ端末22からデータベースサーバ3へ集約し、データベースサーバ3が蓄積および統計化することで生成される。複数の送信アンテナ21A、21Bのそれぞれについて、異なる電波平面マップデータ30A、30Bを生成する。一般的に、受信電力強度を測定するセンサ端末22は、地上または地上から数メートルの高さに配置されている。したがって、電波平面マップデータ30は、地上または地上から数メートルの高さにおいて受信される電波の電力強度の平面分布を示す。電波平面マップデータ30は、領域2における受信電力強度を、領域2をメッシュ状に分割した複数の小領域のそれぞれにおける受信電力強度の平均値の平面分布として表す。生成された電波平面マップデータ30は、電波マップデータベース4に格納される。以降、送信アンテナ21A、21Bを区別しないとき、これらを送信アンテナ21と総称する。
【0016】
構造物高さマップデータベース5は、構造物高さマップデータを格納しており、電波ハイトパターン推定装置6に構造物高さマップデータベース5を提供する。構造物高さマップデータベース5は、領域2の内側に存在して送信アンテナ21から送信された電波の伝搬を遮る可能性のある建物などの構造物の位置および高さを表す。構造物高さマップデータは、構造物の高さ、形状、位置および地形が記録された地図情報である。構造物情報は、Geoshape形式などのベクタデータで記録されているものであり、任意の地点に位置する構造物の高さ、頂点座標を取得できる。また、地形情報は、Geotiff形式などのラスタデータで記録されているものであり、任意の座標における標高を取得できるものである。構造物高さマップデータは、図示しないコンピュータなどによって生成されて、構造物高さマップデータベース5に格納される。なお、上記の構造物高さマップデータの構成は一例にすぎず、同様のデータを含む限り、一実施の形態を限定しない。
【0017】
電波ハイトパターン推定装置6は、電波マップデータベース4から提供される電波平面マップデータ30と、構造物高さマップデータベース5から提供される構造物高さマップデータとに基づいて、領域2の所望の高さにおける受信電力強度の分布を表す電波ハイトパターンを推定する。
【0018】
図2に示すように、一実施の形態による電波ハイトパターン推定装置6は、例えば、コンピュータとして構成されてもよい。図2の例において、電波ハイトパターン推定装置6は、バス61と、演算装置62と、記憶装置63と、通信装置64と、入出力装置65とを備えている。バス61は、演算装置62、記憶装置63、通信装置64および入出力装置65を、相互に通信可能に接続するように構成されている。
【0019】
演算装置62は、通信部621と、推定部622と、出力部623とを備える。記憶装置63は、推定プログラムを格納する推定プログラム記憶部631を備える。演算装置62は、推定プログラムを実行することによって、通信部621、推定部622および出力部623の処理を実現する。通信部621、推定部622および出力部623のそれぞれは、演算装置62と記憶装置63とが協働して処理を実現する仮想的な機能ブロックである。通信部621、推定部622および出力部623が実現する処理の詳細については、後述する。
【0020】
推定プログラムは、記録媒体630から読み出されて推定プログラム記憶部631に格納されてもよい。記録媒体630は、非一時的で有形の媒体(non-transitory and tangible media)であってもよい。
【0021】
通信装置64は、電波マップデータベース4および構造物高さマップデータベース5からそれぞれ電波平面マップデータ30および構造物高さマップデータを受信する。受信された電波平面マップデータ30および構造物高さマップデータは、記憶装置63に格納されてもよい。推定プログラムは、通信装置64を介して外部から取得されて推定プログラム記憶部631に格納されてもよい。
【0022】
入出力装置65は、使用者に情報を出力し、使用者が入力する操作を受け付ける。一例として、入出力装置65は、画像を出力する表示装置、音声を出力するスピーカー、音声入力を受け付けるマイクロフォン、押下操作を受け付けるボタン、キー入力操作を受け付けるキーボード、タッチ操作を受け付けるとともに画像の出力を行うタッチパネルなどを含む。
【0023】
図3Aおよび図3Bのフローチャートを参照して、一実施の形態による電波ハイトパターン推定方法の処理の一例について説明する。なお、一実施の形態による推定プログラムは、演算装置62に実行させることによって図3Aおよび図3Bのフローチャートの処理を実現するように構成されてもよい。
【0024】
一実施の形態による電波ハイトパターン推定方法は、電波ハイトパターン推定装置6が起動したときに開始してもよい。図3Aおよび図3Bのフローチャートが開始すると、図3AのステップS01が実行される。
【0025】
ステップS01において、電波ハイトパターン推定装置6の通信部621が、注目位置の地上における平均受信電力のデータを取得する。ここで、注目位置とは、所望の送信アンテナ21からの受信電力強度を推定したい所望の位置であり、例えば、緯度と、経度と、高さとで特定される。より詳細には、通信部621が、通信装置64を制御して電波マップデータベース4から電波平面マップデータ30を受信し、注目位置の下方にある地上の地点を含むメッシュで測定された受信電力強度の平均値を表すデータを、電波平面マップデータ30から読み出す。図4Aは、送信装置TXからの電波について地上で測定されたRSRP(Reference Signal Received Power:基準信号受信電力)をヒートマップで表す電波平面マップデータ30の一例を示す図である。ここで、注目位置の高さは、送信アンテナ21に係る電波平面マップデータ30を作成するときに受信電力強度を測定したセンサ端末22が位置していた高さとは異なってもよい。
【0026】
通信部621は、ステップS01において、送信アンテナ21と注目位置の地上地点との間に存在する構造物の高さを表す構造物高さマップデータをさらに取得してもよい。図4Bは、構造物の高さをヒートマップで表す構造物高さマップデータの一例を示す図である。
【0027】
ステップS01の後、図3AのステップS02が実行される。ステップS02において、電波ハイトパターン推定装置6の推定部622が、見通し環境の距離減衰特性モデルを算出する。より詳細には、送信アンテナ21と注目位置の地上地点との間に電波の伝搬を遮るような構造物が存在せず、送信アンテナ21から注目位置まで見通せる仮想的な環境において、この電波の電力強度が伝搬距離に応じて減衰する特性モデルを、推定部622が算出する。
【0028】
一実施の形態では、送信アンテナ21として、垂直面指向性が比較的鋭いセクタアンテナを想定する。送信アンテナ21の正確なアンテナ特性や実際のチルト角などのパラメータが非開示であったとしても、距離減衰特性を上記のようにモデル化できることについて説明する。
【0029】
図5に示すように、送信アンテナ21から送信された電波が見通し環境で伝搬して地面200の地点で受信されるときの距離減衰特性を、以下の「数1」式のように算出する。
【0030】
【数1】
ここで、「PLos(d)」は、距離dの距離減衰特性をdBmで表す。「d」は、送信アンテナ21から地面200の受信アンテナまでの、水平方向における距離を表す。受信アンテナの地上位置は、例えば、受信地点を含むメッシュの中心に近似されてもよい。「dref」は、参照距離を表す。参照距離drefは、送信アンテナ21から参照地点までの、水平方向における距離であり、参照地点は、送信アンテナ21から、受信電力強度が最大となる地点へ向かい、かつ、受信電力が最大受信電力の半分以上である3dBビームが到達する範囲に含まれる地点のうち、送信アンテナ21から最も近傍の地点である。パラメータ「α」および「β」は、送信アンテナ21からの、水平方向における距離が参照距離dref以上であり、かつ、送信アンテナ21から見通せる地点における平均受信電力の値を使用した最小二乗法によって推定される。
【0031】
参照距離drefについて説明する。送信アンテナ21の垂直面アンテナパターンが比較的鋭いとき、送信アンテナ利得の影響が受信アンテナの位置に応じて大きく変動する場合がある。そこで、一実施の形態では、距離減衰特性をモデル化するとき、受信電力に対する送信アンテナ利得の影響を3dB(半分)以内とするために、受信アンテナの位置を、送信アンテナ21の垂直面3dBビーム幅の範囲内に制限する。具体的には、参照距離drefは、以下の「数2」式のように算出される。
【0032】
【数2】
ここで、「dref」は、参照距離を表す。「hTX」は、送信アンテナ21の高さを表す。「hRM」は、電波平面マップデータ30を生成したときに用いたセンサ端末22の受信アンテナの高さを表す。「θtilt」は、送信アンテナ21のチルト角であり、水平面からビーム方向211までの角度である。ビーム方向211は、送信アンテナ21から、送信アンテナ21から送信された電波の受信電力が最大となる地点に、この電波が伝搬する方向である。「θV3dB」は、送信アンテナ21の垂直面3dBビーム幅の角度を表す。
【0033】
送信アンテナ21のチルト角θtiltは、以下の「数3」式のように算出される。
【0034】
【数3】
ここで、「θtilt」は、送信アンテナ21のチルト角を表す。「hTX」は、送信アンテナ21の地面200からの高さを表す。「hRM」は、電波平面マップデータ30を生成したときに用いたセンサ端末22の受信アンテナの高さを表す。「dPmax」は、送信アンテナ21から、送信アンテナ21から送信された電波の受信電力が最大となる地点までの、水平方向における最大電力距離を表す。
【0035】
以上のように算出することで、送信アンテナ21の正確なアンテナ特性や実際のチルト角などのパラメータが不明であったとしても、距離減衰特性を高精度にモデル化することが可能となる。
【0036】
ステップS02の後、図3AのステップS03が実行される。ステップS03において、電波ハイトパターン推定装置6の推定部622が、送信アンテナ21から注目位置までの主要構造物を探索する。より詳細には、推定部622は、構造物高さマップデータを参照して、送信アンテナ21から注目位置までの間に存在する構造物を探索し、そのうち、電波を遮蔽する度合いを表すクリアランス係数が最も大きい構造物である主要構造物を探索する。
【0037】
一例として、図6に示すように、構造物210の上に配置された送信アンテナ21と、地上の受信アンテナ23とを結ぶ仮想的な直線230を所定の間隔δで区切った複数の地点のそれぞれにおけるパスプロファイルを取得する。図6の例において、これらの地点のうち、i番目のパスプロファイルポイント24に注目するとき、推定部622は、構造物高さマップデータを参照して、送信アンテナ21からパスプロファイルポイント24までの、水平方向における距離dと、パスプロファイルポイント24に位置する構造物240の高さhと、この構造物240の頂点座標とを取得する。
【0038】
次に、推定部622は、電波を遮蔽する度合いを表すクリアランス係数が最大となるパスプロファイルポイント24を探索する。i番目のパスプロファイルポイント24のクリアランス係数は、以下の「数4」式のように算出される。
【0039】
【数4】
ここで、「ν」は、i番目のパスプロファイルポイント24のクリアランス係数を表す。「hdifi」は、送信アンテナ21と受信アンテナ23とを結ぶ仮想的な直線230から、i番目のパスプロファイルポイント24に位置する構造物240の天面において回折が発生するエッジまでの垂直方向の距離を表す。「wcli」は、送信アンテナ21と受信アンテナ23とを結ぶ仮想的な直線230から、i番目のパスプロファイルポイント24に位置する構造物240の側面において回折が発生するエッジまでの水平方向の距離を表す。一実施の形態では、垂直距離hdifiと、水平距離wcliとのうち、より短い方の距離に基づいてクリアランス係数νを算出することに注目されたい。「f」は、送信アンテナ21が送信する電波の周波数を表す。「d」は、送信アンテナ21からi番目のパスプロファイルポイント24までの水平方向の距離を表す。「d」は、送信アンテナ21から受信アンテナ23までの水平方向の距離を表す。
【0040】
上記の「数4」式のうち、垂直距離hdifiは、以下の「数5」式のように算出される。
【0041】
【数5】
ここで、「hdifi」は、送信アンテナ21と受信アンテナ23とを結ぶ仮想的な直線230から、i番目のパスプロファイルポイント24に位置する構造物240の上面エッジまでの、i番目のパスプロファイルポイント24を通る垂直方向の距離を表す。「h」は、i番目のパスプロファイルポイント24に位置する構造物240の高さを表す。「C」は、地球の実効半径の逆数を表す。「d」は、送信アンテナ21からi番目のパスプロファイルポイント24までの水平方向の距離を表す。「d」は、送信アンテナ21から受信アンテナ23までの水平方向の距離を表す。「hTX」は、送信アンテナ21の高さを表す。「hRM」は、電波平面マップデータ30を生成したときに用いたセンサ端末22の受信アンテナの高さを表す。
【0042】
また、上記の「数4」式のうち、水平距離wcliは、以下の「数6」式のように算出される。
【0043】
【数6】
ここで、「wclil」は、送信アンテナ21と受信アンテナ23とを結ぶ仮想的な直線230から、i番目のパスプロファイルポイント24に位置する構造物240の頂点のうち、送信アンテナ21から見て仮想的な直線230の左側にあり、かつ、仮想的な直線230から最も遠い頂点までの水平方向の距離を表す。「wclir」は、送信アンテナ21と受信アンテナ23とを結ぶ仮想的な直線230から、i番目のパスプロファイルポイント24に位置する構造物240の頂点のうち、送信アンテナ21から見て仮想的な直線230の右側にあり、かつ、仮想的な直線230から最も遠い頂点までの水平方向の距離を表す。一実施の形態では、構造物240の側面で回折する複数の回折パスのうち、仮想的な直線230として示す仮想的な直接パスにより近い方の回折パスに基づいてクリアランス係数νを算出することに注目されたい。「hdifi」は、送信アンテナ21と受信アンテナ23とを結ぶ仮想的な直線230から、i番目のパスプロファイルポイント24に位置する構造物240の上面エッジまでの、i番目のパスプロファイルポイント24を通る垂直方向の距離を表す。一実施の形態では、構造物240の、地表または地下における側面で発生する回折を考慮しないことに留意されたい。
【0044】
上記の「数4」式、「数5」式および「数6」式に用いた各種パラメータの関係を、図7に示す。
【0045】
推定部622は、上記のように算出したクリアランス係数νが最も大きいパスプロファイルポイント24に位置する構造物240を探索して主要構造物とする。
【0046】
ステップS03の後、図3AのステップS04が実行される。ステップS04において、電波ハイトパターン推定装置6の推定部622は、送信アンテナ21から注目位置まで見通せるか否かを判定する。より詳細には、図8に示すように、送信アンテナ21と注目位置の受信アンテナ25とを結ぶ仮想的な直線250を主要構造物240またはその他の構造物のいずれかが遮るとき、推定部622は、送信アンテナ21から注目位置まで見通せないと判定する。この場合(No)、ステップS04の後、処理は図3AのステップS05へ進む。反対に、図9に示すように、送信アンテナ21と注目位置の受信アンテナ25とを結ぶ仮想的な直線250が、主要構造物240またはその他の構造物のいずれによっても遮られないとき、推定部622は、送信アンテナ21から注目位置まで見通せると判定する。この場合(Yes)、ステップS04の後、処理は図3BのステップS07へ進む。
【0047】
図3AのステップS05において、電波ハイトパターン推定装置6の推定部622は、回折パス電力および反射パス電力を算出する。より詳細には、推定部622は、回折パス電力として、送信アンテナ21から送信された電波が、主要構造物240の端部におけるナイフエッジ回折によって地上の受信アンテナ23に到達したときの電力強度の推定値を算出する。また、推定部622は、反射パス電力として、送信アンテナ21から送信された電波が、いずれかの構造物の表面で反射することによって主要構造物240を迂回して地上の受信アンテナ23に到達したときの電力強度の推定値を算出する。
【0048】
回折パス電力は、以下の「数7」式のように算出される。
【0049】
【数7】
ここで、「PDiff(hRM)」は、回折パス電力をdBmで表す。「hRM」は、電波平面マップデータ30を生成したときに用いたセンサ端末22の受信アンテナの高さを表す。「PLOS(d)」は、見通し環境における距離減衰特性をdBmで表す。「d」は、送信アンテナ21から受信アンテナまでの水平方向における距離を表す。「J(ν)」は、主要構造物240による回折損をdBで表す。「ν」は、主要構造物240が位置するi番目のパスプロファイルポイント24のクリアランス係数を表す。
【0050】
上記の「数7」式のうち、回折損J(ν)は、以下の「数8」式のように算出される。
【0051】
【数8】
ここで、「J(ν)」は、主要構造物240による回折損をdBで表す。「ν」は、主要構造物240が位置するi番目のパスプロファイルポイント24のクリアランス係数を表す。
【0052】
また、反射パス電力は、以下の「数9」式のように算出される。
【0053】
【数9】
ここで、「PRfrct(hRM)」は、反射パス電力をdBmで表す。「hRM」は、電波平面マップデータ30を生成したときに用いたセンサ端末22の受信アンテナの高さを表す。「PRM(lat,lon)」は、電波平面マップデータ30に蓄積された、緯度latおよび経度lonの位置の地上における平均受信電力をdBmで表す。「PDiff(hRM)」は、回折パス電力をdBmで表す。
【0054】
ステップS05の後、図3BのステップS06が実行される。ステップS06において、電波ハイトパターン推定装置6の推定部622は、回折パス電力より反射パス電力の方が強いか否かを判定する。回折パス電力より反射パス電力の方が強い場合(Yes)、ステップS06の後、処理は図3BのステップS08へ進む。反対に、反射パス電力が回折パス電力より強くない場合(No)、ステップS06の後、処理は図3BのステップS09へ進む。
【0055】
図3BのステップS07において、電波ハイトパターン推定装置6の推定部622は、直接パスを支配的伝搬路とする。ステップS07の後、図3BのステップS10が実行される。
【0056】
図3BのステップS08において、電波ハイトパターン推定装置6の推定部622は、反射パスを支配的伝搬路とする。ステップS08の後、図3BのステップS10が実行される。
【0057】
図3BのステップS09において、電波ハイトパターン推定装置6の推定部622は、回折パスを支配的伝搬路とする。ステップS09の後、図3BのステップS10が実行される。
【0058】
図3BのステップS10において、電波ハイトパターン推定装置6の推定部622は、支配的伝搬路に基づいて電波ハイトパターンを推定する。より詳細には、推定部622は、支配的伝搬路が直接パス、反射パスまたは回折パスである場合に応じてそれぞれ異なる手法で、所望の高さにある注目位置の受信電力強度の推定値を算出する。
【0059】
まず、図8を参照して、送信アンテナ21から送信された電波が、高さhPredに位置する受信アンテナ25で受信されるときの受信電力の推定値を、以下の「数10」式のように算出する。
【0060】
【数10】
ここで、「P^(hPred)」(正確には、ハット記号「^」は「P」の上にある)は、高さhPredにおける受信電力の推定値をdBmで表す。「PRM(lat,lon)」は、電波平面マップデータ30に蓄積された、緯度latおよび経度lonの位置の地上における平均受信電力をdBmで表す。「ΔL(hPred)」は、電波平面マップデータ30を生成したときに用いられたセンサ端末22の受信アンテナの高さhRMと、注目位置の受信アンテナ25との高さhPredとの違いに基づく、伝搬路周辺の構造物240に由来する損失の差分をdBで表す。
【0061】
上記の「数10」のうち、損失の差分ΔL(hPred)は、以下の「数11」式のように算出される。
【0062】
【数11】
ここで、「ΔL(hPred)」は、損失の差分をdBで表す。「L(hPred)」は、所望の高さhPredにある注目位置における、伝搬路周辺の構造物240に由来する損失をdBで表す。「L(hRM)」は、電波平面マップデータ30を生成したときに用いられたセンサ端末22の、高さhRMにある受信アンテナにおける、伝搬路周辺の構造物240に由来する損失をdBで表す。
【0063】
図9に示すように、送信アンテナ21から送信された電波が地上まで直接パスで支配的に到達するとき、伝搬路周辺の構造物240に由来する損失L(hRM)は、以下の「数12」式のように、ゼロである。
【0064】
【数12】
ここで、「L(hRM)」は、電波平面マップデータ30を生成したときに用いられたセンサ端末22の、高さhRMにある受信アンテナ23における、伝搬路周辺の構造物240に由来する損失をdBで表す。
【0065】
また、図9に示すように、送信アンテナ21から送信された電波が地上まで直接パスで支配的に到達するとき、この電波は所望の高さhPredにある注目位置の受信アンテナ25においても直接パスで支配的に到達するので、伝搬路周辺の構造物240に由来する損失L(hPred)は、以下の「数13」式のように、ゼロである。
【0066】
【数13】
ここで、「L(hPred)」は、所望の高さhPredにある注目位置の受信アンテナ25における、伝搬路周辺の構造物240に由来する損失をdBで表す。
【0067】
支配的伝搬路が直接パスである場合は、上記の「数10」式に、上記の「数11」式、「数12」式および「数13」式を代入することで、送信アンテナ21から送信された電波が、高さhPredに位置する受信アンテナ25で受信されるときの受信電力の推定値が算出される。このとき、推定部622は、電波平面マップデータ30から、注目位置の地上地点における受信電力強度を読み出し、読み出した地上地点の受信電力強度を、注目位置の受信電力強度として推定してもよい。
【0068】
図8に示すように、送信アンテナ21から送信された電波が地上まで回折パスで支配的に到達するとき、その損失の推定値を、以下の「数14」式のように算出する。
【0069】
【数14】
ここで、「L(hRM)」は、電波平面マップデータ30を生成したときに用いられたセンサ端末22の、高さhRMにある受信アンテナ23における、伝搬路周辺の構造物に由来する損失をdBで表す。「J(νRM)」は、電波平面マップデータ30を生成したときに用いられたセンサ端末22の受信アンテナ23の高さhRMにおける、伝搬路周辺の構造物による回折損をdBで表し、クリアランス係数νRMを上記の「数8」式に代入することで算出される。「νRM」は、電波平面マップデータ30を生成したときに用いられたセンサ端末22の受信アンテナ23の高さhRMにおける、伝搬路周辺の構造物のクリアランス係数を表す。
【0070】
また、図8に示すように、送信アンテナ21から送信された電波が、所望の高さhPredにある注目位置の受信アンテナ25に回折パスで支配的に到達するとき、その損失の推定値を、以下の「数15」式のように算出する。
【0071】
【数15】
ここで、「L(hPred)」は、所望の高さhPredにある注目位置の受信アンテナ25における、主要構造物240の存在に由来する損失をdBで表す。「J(νPred)」は、所望の高さhPredにある注目位置の受信アンテナ25で受信するときの、主要構造物240での回折損をdBで表し、クリアランス係数νPredを上記の「数8」式に代入することで算出される。「νPred」は、所望の高さhPredにある注目位置の受信アンテナ25で受信するときの、主要構造物240のクリアランス係数を表す。
【0072】
支配的伝搬路が回折パスである場合は、上記の「数10」式に、上記の「数11」式、「数14」式および「数15」式を代入することで、送信アンテナ21から送信された電波が、高さhPredに位置する受信アンテナ25で受信されるときの受信電力の推定値が算出される。
【0073】
送信アンテナ21から送信された電波が地上まで反射パスで支配的に到達するとき、その損失の推定値を、以下の「数16」式のように算出する。
【0074】
【数16】
ここで、「L(hRM)」は、電波平面マップデータ30を生成したときに用いられたセンサ端末22の、高さhRMにある受信アンテナ23における、伝搬路周辺の構造物の存在に由来する損失をdBで表す。「J(νRM)」は、電波平面マップデータ30を生成したときに用いられたセンサ端末22の受信アンテナ23の高さhRMにおける、伝搬路周辺の構造物による回折損をdBで表し、クリアランス係数νRMを上記の「数8」式に代入することで算出される。「νRM」は、電波平面マップデータ30を生成したときに用いられたセンサ端末22の受信アンテナ23の高さhRMにおける、主要構造物240のクリアランス係数を表す。「GRfrct(hRM)」は、電波平面マップデータ30を生成したときに用いられたセンサ端末22の受信アンテナ23の高さhRMにおける、伝搬路周辺の構造物における反射による利得をdBで表す。
【0075】
上記の「数16」式のうち、利得GRfrct(hRM)は、以下の「数17」式のように算出される。
【0076】
【数17】
ここで、「GRfrct(hRM)」は、電波平面マップデータ30を生成したときに用いられたセンサ端末22の受信アンテナ23の高さhRMにおける、伝搬路周辺の構造物の存在による利得をdBで表す。「PRM(lat,lon)」は、電波平面マップデータ30に蓄積された、緯度latおよび経度lonの位置の地上における平均受信電力を表す。「PLos(d)」は、見通し環境における距離減衰特性を表す。「d」は、送信アンテナ21から受信アンテナ23までの、水平方向における距離を表す。「J(νRM)」は、電波平面マップデータ30を生成したときに用いられたセンサ端末22の受信アンテナ23の高さhRMにおける、伝搬路周辺の構造物による回折損をdBで表し、クリアランス係数νRMを上記の「数8」式に代入することで算出される。「νRM」は、電波平面マップデータ30を生成したときに用いられたセンサ端末22の受信アンテナ23の高さhRMにおける、主要構造物240のクリアランス係数を表す。
【0077】
送信アンテナ21から送信された電波が、所望の高さhPredにある注目位置の受信アンテナ25に回折パスで支配的に到達するとき、その損失の推定値を、以下の「数18」式のように算出する。
【0078】
【数18】
ここで、「L(hPred)」は、所望の高さhPredにある注目位置の受信アンテナ25における、伝搬路周辺の構造物の存在に由来する損失をdBで表す。「J(νPred)」は、所望の高さhPredにある注目位置の受信アンテナ25で受信するときの、主要構造物240での回折損をdBで表し、クリアランス係数νPredを上記の「数8」式に代入することで算出される。「νPred」は、所望の高さhPredにある注目位置の受信アンテナ25で受信するときの、主要構造物240のクリアランス係数を表す。「GRfrct(hPred)」は、所望の高さhPredにある注目位置の受信アンテナ25で受信するときの、伝搬路周辺の構造物を介する反射パスに由来する利得をdBで表す。
【0079】
上記の「数18」式のうち、利得GRfrct(hPred)は、以下の「数19」式のように算出される。
【0080】
【数19】
ここで、「GRfrct(hPred)」は、所望の高さhPredにある注目位置の受信アンテナ25で受信するときの、伝搬路周辺の構造物を介する反射パスに由来する利得をdBで表す。「J(νPred)」は、所望の高さhPredにある注目位置の受信アンテナ25で受信するときの、主要構造物240での回折損をdBで表し、クリアランス係数νPredを上記の「数8」式に代入することで算出される。「νPred」は、所望の高さhPredにある注目位置の受信アンテナ25で受信するときの、主要構造物240のクリアランス係数を表す。「GRfrct(hRM)」は、電波平面マップデータ30を生成したときに用いられたセンサ端末22の受信アンテナ23の高さhRMにおける、伝搬路周辺の構造物の存在による利得をdBで表す。
【0081】
反射パスによる受信電力が回折パスによる受信電力より高くなることについて説明する。前提条件として、図8に示すような環境において、受信アンテナ25の高さが、地上に配置された受信アンテナ23の高さから、送信アンテナ21が見通せる高さまで上昇するにつれて、回折パスによる受信電力は上昇する。このような条件において、反射パスが支配的伝搬路である場合の受信電力は、回折パスが支配的伝搬路である場合の受信電力より高い。このことは、上記の「数16」式および「数18」式で考慮されている。
【0082】
次に、一実施の形態によるモデル化において、反射パスの電力と、回折パスの電力との比率(dBで表す場合は両電力の差)が一定であると仮定する。このとき、回折パスの場合と同様に、受信アンテナ25の高さが上昇するにつれて、反射パスによる受信電力も上昇する。なお、受信アンテナ25の高さが上昇しても、反射パスの電力と、回折パスの電力との比率は、注目位置の高さに対して一定である。
【0083】
ただし、回折パス電力および反射パス電力は、直接パス電力を上回らない。そこで、一実施の形態によるモデル化において、受信アンテナが、反射パス電力が直接パス電力以上となる高さにあるとき、回折パス電力のみが上昇する。このことは、上記の「数19」式で考慮されている。
【0084】
ステップS10の後、図3BのステップS11が実行される。ステップS11において、電波ハイトパターン推定装置6の出力部623は、電波ハイトパターンを出力する。より詳細には、出力部623は、電波ハイトパターン推定装置6の入出力装置65を制御して、ステップS10で推定した電波ハイトパターンを表す情報を、電波ハイトパターン推定装置6の外部に出力する。具体的には、表示装置を用いて電波ハイトパターンを視覚的に出力してもよい。
【0085】
一実施の形態の変形例として、出力部623は、電波ハイトパターン推定装置6の通信装置64を制御して、電波ハイトパターンを表す情報を、外部の装置に送信することによって出力してもよい。
【0086】
発明者らは、一実施の形態による電波ハイトパターンの推定と、所望の高さにおける受信電力強度の測定とを行い、推定精度の高さを確認した。図10Aは、電波平面マップデータ30を生成するために地上で受信電力強度を測定した位置の集合としての地上測定ルートと、複数の送信装置TXの位置と、複数の受信装置RXの位置とを示す図である。図10Bは、測定を行った領域における構造物高さマップデータを示す図である。図11は、図10Aの地上測定ルート上で、1つの送信装置TXからの受信電力を測定して生成した電波平面マップデータ30の一例を示す図である。
【0087】
図10Aに示す送信装置TXから送信される電波について、図10Aに示す受信装置RXの位置の建物の各階の、送信装置TXの方向にある窓際において、受信電力強度を測定した。このとき、GPS(Global Positioning System:全地球測位システム)による測位も行った。
【0088】
図12は、一実施の形態による電波ハイトパターン推定方法を用いて、同一の建物の複数の階で受信電力強度を測定した結果を示すグラフの一例である。図12のグラフにおいて、横軸は測定を行った階を表し、縦軸はRSRPをdBmで表す。図12のグラフは、合計6本のグラフG11、G12、G13、G14、G15、G16を含む。これらのグラフG11~G16は、それぞれ、6基の異なる送信装置TXから送信された電波の受信電力強度に対応する。
【0089】
図13は、電波ハイトパターンの推定結果および測定結果の誤差について、一実施の形態による電波ハイトパターン推定方法と、他の推定方法とを比較した結果を示すグラフの一例である。図13において、横軸はRMSE(Root Mean Squared Error:二乗平均平方根誤差)をdBで表し、縦軸はCDF(Cumulative Distribution Function:累積分布関数)を表す。図13は、合計4本のグラフG21、G22、G23、G24を含む。グラフG21は、拡張秦式に対応する。グラフG22は、全ての構造物の高さがその平均値に等しいと仮定し、ナイフエッジ回折モデルにより算出する推定方法に対応する。グラフG23は、地上における電波マップを高さ方向に外挿を行わず、そのまま用いた推定方法に対応する。グラフG24は、一実施の形態による電波ハイトパターン推定方法に対応する。
【0090】
図12のグラフG21~G24を比較すると、一実施の形態による電波ハイトパターン推定方法においてRMSEの大きさが小さい地点の割合が高く、したがって他の推定方法より精度が高いことを確認できた。また、RMSEのばらつきが最も少なく、場所毎のハイトパターン特性の変動を捉えられていることを確認できた。
【0091】
以上に説明したように、一実施の形態による電波ハイトパターン推定装置6、電波ハイトパターン推定方法および推定プログラムによれば、所定の領域2の地上における受信電力強度の分布を表す電波平面マップデータ30と、この領域2における構造物240の高さの分布を表す構造物高さマップデータとに基づいて、この領域2の所定の高さにおける受信電力強度の分布を表す電波ハイトパターンを、高精度に推定することができる。また、任意の高さにおける受信電力強度の分布をデータの外挿および/または内挿によって推定することができる。
【0092】
以上、発明者によってなされた発明を実施の形態に基づき具体的に説明したが、本発明は実施の形態に限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲で種々変更可能であることはいうまでもない。また、実施の形態に説明したそれぞれの特徴は、技術的に矛盾しない範囲で自由に組み合わせることが可能である。
【符号の説明】
【0093】
1 電波ハイトパターン推定システム
2 領域
20 測定データ
200 地面
21、21A、21B 送信アンテナ
210 構造物
211 ビーム方向
22 センサ端末
23 受信アンテナ
230 直線
24 パスプロファイルポイント
240 構造物(主要構造物)
25 受信アンテナ
250 直線
3 データベースサーバ
30、30A、30B 電波平面マップデータ
4 電波マップデータベース
5 構造物高さマップデータベース
6 電波ハイトパターン推定装置
61 バス
62 演算装置
621 通信部
622 推定部
623 出力部
63 記憶装置
630 記録媒体
631 推定プログラム記憶部
64 通信装置
65 入出力装置
距離
ref 参照距離
Pmax 最大電力距離
G11、G12、G13、G14、G15、G16 グラフ
G21、G22、G23、G24 グラフ
difi 距離
高さ(構造物)
Pred 高さ(注目位置の受信アンテナ)
RM 高さ(地上の受信アンテナ)
TX 高さ(送信アンテナ)
RX 受信装置
TX 送信装置
clil 距離
clir 距離
δ 間隔
θtilt 角度
θV3dB 角度
図1
図2
図3A
図3B
図4A
図4B
図5
図6
図7
図8
図9
図10A
図10B
図11
図12
図13