(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023146585
(43)【公開日】2023-10-12
(54)【発明の名称】波長選択光散乱体
(51)【国際特許分類】
C01B 33/40 20060101AFI20231004BHJP
F21V 9/12 20060101ALI20231004BHJP
F21V 3/00 20150101ALI20231004BHJP
F21Y 101/00 20160101ALN20231004BHJP
F21Y 103/00 20160101ALN20231004BHJP
F21Y 115/10 20160101ALN20231004BHJP
F21Y 115/30 20160101ALN20231004BHJP
F21Y 115/15 20160101ALN20231004BHJP
【FI】
C01B33/40
F21V9/12
F21V3/00 320
F21Y101:00 100
F21Y103:00
F21Y101:00 300
F21Y115:10
F21Y115:30
F21Y115:15
【審査請求】未請求
【請求項の数】11
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022053835
(22)【出願日】2022-03-29
(71)【出願人】
【識別番号】000104814
【氏名又は名称】クニミネ工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002631
【氏名又は名称】弁理士法人イイダアンドパートナーズ
(74)【代理人】
【識別番号】100076439
【弁理士】
【氏名又は名称】飯田 敏三
(74)【代理人】
【識別番号】100161469
【弁理士】
【氏名又は名称】赤羽 修一
(72)【発明者】
【氏名】中嶋 道也
【テーマコード(参考)】
4G073
【Fターム(参考)】
4G073BB26
4G073BD13
4G073CM14
4G073CM20
4G073GA11
4G073GA34
4G073GA40
4G073UB60
(57)【要約】
【課題】レイリー散乱を生じる微粒子の分散性ないし分散安定性に優れ、かつ流動性を自由にコントロールすることができる波長選択光散乱体を提供する。
【解決手段】スメクタイトを水中に分散してなる、波長選択光散乱体。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
スメクタイトを水中に分散してなる、波長選択光散乱体。
【請求項2】
入射光をレイリー散乱させるための、請求項1に記載の波長選択光散乱体。
【請求項3】
照明装置、発光装置、波長選択散乱・透過装置、又は光環境演出装置に用いるための、請求項1又は2に記載の波長選択光散乱体。
【請求項4】
入射光の寒色系の光を選択的に散乱して寒色系の色味を発現させるための、請求項1~3のいずれか1項に記載の波長選択光散乱体。
【請求項5】
入射光の暖色系の光を選択的に透過して暖色系の色味を発現させるための、請求項1~4のいずれか1項に記載の波長選択光散乱体。
【請求項6】
前記スメクタイトの粒子径が、20~120nmである、請求項1~5のいずれか1項に記載の波長選択光散乱体。
【請求項7】
前記スメクタイトが合成スメクタイトである、請求項1~6のいずれか1項に記載の波長選択光散乱体。
【請求項8】
前記波長選択光散乱体中のスメクタイトの含有量が0.1~20質量%である、請求項1~7のいずれか1項に記載の波長選択光散乱体。
【請求項9】
スメクタイトを含有する、波長選択光散乱剤。
【請求項10】
前記スメクタイトが合成スメクタイトである、請求項9に記載の波長選択光散乱剤。
【請求項11】
前記スメクタイトの粒子径が20~120nmである、請求項9又は10に記載の波長選択光散乱剤。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、波長選択光散乱体に関する。
【背景技術】
【0002】
青空、朝焼け、夕焼けのようなレイリー散乱に起因する自然光を模倣できる照明装置や発光装置、光演出装置が知られている。
【0003】
例えば特許文献1には、入射光をレイリー散乱させ、散乱光を下面から出射する散乱層などを有する照明装置が記載されている。特許文献1記載の照明装置では、前記散乱層を、粒子径が1~300nmのフィラーをアクリル系ポリマーやオレフィン系ポリマーなど光透過性の高い基材に分散させた板形状の層とすることが記載され、前記フィラーとして、酸化亜鉛や酸化チタン等の無機酸化物や有機系ポリマーを用いることが記載されている。特許文献1記載の技術によれば、レイリー散乱光を効率良く利用しつつ、色感を損なわない自然光を出力することができる照明装置を提供できるとされている。
【0004】
また特許文献2には、透光性を有する拡散板と、特定波長の光を前記拡散板に入射させる2種類の光源と、これらの光源の発光を制御する制御部とを有する光環境演出装置が開示されている。前記拡散板はレイリー散乱を生じるものであり、透光性のあるアクリル等の樹脂、ガラス材料等を基材とし、内部に酸化チタン、酸化亜鉛、酸化ジルコニア等の酸化金属を分散させて構成されている。特許文献2に記載の技術によれば、装置の大型化を抑制するとともに、疑似的な空を再現することができるとされる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2021-93369号公報
【特許文献2】特開2018-170153号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
レイリー散乱は入射光がその波長に比べて十分に小さい微粒子によって散乱する現象であるため、レイリー散乱を生じる光散乱体に含まれる微粒子の粒径はナノメートルオーダーに制御する必要がある。しかし、ナノメートルオーダーの微粒子は比表面積が大きく、凝集して二次粒子を形成しやすい。二次粒子の粒径が入射光(例えば、可視光)の波長と同程度まで大きくなると、レイリー散乱ではなくミー散乱が主体となり、白く濁ったような呈色が発現し、透明性が損なわれる。
【0007】
上記の特許文献1及び2に記載の技術では、光を散乱するナノメートルオーダーの微粒子を基材中に分散させてレイリー散乱を生じさせている。この場合、基材中への微粒子の分散性ないし分散安定性を十分に高める必要がある。しかし、現実には、基材と微粒子表面との親和性等の観点で、実用に耐える基材と微粒子との組合せは限られる。更に、基材として流動性の低い樹脂等を用いているため、複雑な3次元形状の光散乱体の作製は難しく、また、形状の調整が必要になったときに、加熱して基材を変形させると、その過程で微粒子の凝集が生じやすくなる問題もある。形状の自由度を高め、また、加熱処理等をせずに簡単に形状を変えられるようにするために、基材として水や有機溶媒等の液体を用いることも考えられる。しかし、液媒体中ではなおさら、経時的あるいは周囲環境変化に伴い微粒子の分散安定性が損なわれやすい。また、輸送時に液がこぼれたり、容器が破損した際に液が飛散したりする問題も生じる。
【0008】
本発明は、レイリー散乱を生じる微粒子の分散性ないし分散安定性に優れ、かつ流動性を自由にコントロールすることができる波長選択光散乱体を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは上記課題に鑑み鋭意検討を行った。その結果、粘土鉱物の一種であるスメクタイトを水中に分散してなる水分散体が、スメクタイトが本来的に有する水との高親和性に起因して、スメクタイトを粒径100nm程度あるいはそれより小粒径の微粒子状で水中に安定的に分散させることができ、効率的かつ安定的にレイリー散乱を生じること、また、この水分散体はチクソ性を示し、静置すれば自然に半固形状となり優れた形状安定性も発現し、剪断力を付与すれば流動性を取り戻して形状の変更を簡単に行うことができ、レイリー散乱を生じる波長選択光散乱体として高い実用性を備えることを見出した。
本発明はこれらの知見に基づき完成されるに至ったものである。
【0010】
本発明の上記課題は、下記の手段により解決された。
〔1〕
スメクタイトを水中に分散してなる、波長選択光散乱体。
〔2〕
入射光をレイリー散乱させるための、前記〔1〕に記載の波長選択光散乱体。
〔3〕
照明装置、発光装置、波長選択散乱・透過装置、又は光環境演出装置に用いるための、前記〔1〕又は〔2〕に記載の波長選択光散乱体。
〔4〕
入射光の寒色系の光を選択的に散乱して寒色系の色味を発現させるための、前記〔1〕~〔3〕のいずれかに記載の波長選択光散乱体。
〔5〕
入射光の暖色系の光を選択的に透過して暖色系の色味を発現させるための、前記〔1〕~〔4〕のいずれかに記載の波長選択光散乱体。
〔6〕
前記スメクタイトの粒子径が、20~120nmである、前記〔1〕~〔5〕のいずれかに記載の波長選択光散乱体。
〔7〕
前記スメクタイトが合成スメクタイトである、前記〔1〕~〔6〕のいずれかに記載の波長選択光散乱体。
〔8〕
前記波長選択光散乱体中のスメクタイトの含有量が0.1~20質量%である、前記〔1〕~〔7〕のいずれかに記載の波長選択光散乱体。
〔9〕
スメクタイトを含有する、波長選択光散乱剤。
〔10〕
前記スメクタイトが合成スメクタイトである、前記〔9〕に記載の波長選択光散乱剤。
〔11〕
前記スメクタイトの粒子径が20~120nmである、前記〔9〕又は〔10〕に記載の波長選択光散乱剤。
【発明の効果】
【0011】
本発明の波長選択光散乱体は、レイリー散乱を生じる微粒子の分散性ないし分散安定性に優れ、かつ流動性を自由にコントロールすることができる。したがって、本発明の波長選択光散乱体は、流動性を有する状態で所望の形状の透明容器等に充填すれば所望の形状の波長選択光散乱体が得られ、上記充填後は流動性を抑えて形状安定性を高めることができ、さらに流動性を簡単に取り戻すことができ、別の透明容器に移すなどして形状の変更ないし再利用も簡単に行うことができる。
また本発明の波長選択光散乱剤は、スメクタイトを含有し、水と混合するだけでスメクタイトを水中に安定に分散させることができ、上記の特性を有する波長選択光散乱体を得ることができる。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の好ましい実施の形態について具体的に説明するが、本発明は、本発明で規定すること以外はこれらの形態に限定されるものではない。
【0013】
[波長選択光散乱体]
本発明の波長選択光散乱体は、スメクタイト及び水を含有する組成物である。本発明の波長選択光散乱体において、スメクタイトは分散質を、水は分散媒を構成する。前記スメクタイト成分は、水分散系において十分な透明性(高い光透過性)を維持することができ、入射された光を効率的にレイリー散乱させることができる。さらに、スメクタイトの水分散体はチクソ性が高く、剪断力を加えることにより粘度が低下し、所望の形状の容器等に簡単に充填することができる。また、充填後に一定時間以上静置させることにより粘度が上昇するためスメクタイトの分散安定性が高まり、また、容器等が傾倒した際に容器等からの漏洩を防止することができる。
【0014】
本発明の波長選択光散乱体は、スメクタイトが水分散性に優れるため、スメクタイトの濃度をある程度高めれば、小体積でありながら効率よくレイリー散乱を生じさせることもできる。
レイリー散乱を効率よく生じさせることにより、人間が認識できる自然な空模様を模倣することができる。例えば、本発明の波長選択光散乱体は、日中の太陽光を直視したような黄色の発色や、晴天時の青空のような青色の発色、朝焼けや夕焼け時のオレンジ色~赤色の発色を発現(再現)することができる。また、後述するように、波長選択光散乱体が有するスメクタイトの粒子径を調整することにより、日中の曇りの日のような空模様を模倣し、白色に濁ったような発色を発現させることもできる。
【0015】
本発明の波長選択光散乱体により生じる発色は、入射させる光(入射光)の波長分布や、照射強度、照射方向、波長選択光散乱体を通過する距離等を適宜設定することにより調整することが可能である。本発明の波長選択光散乱体では、分散しているスメクタイト粒子の大きさ(D)が可視光の波長(λ)よりも小さいため、入射した可視光はその波長(λ)の4乗に逆比例して散乱されやすくなる。すなわち、入射した可視光のうち、短波長の光ほど散乱されやすく、青色光のような短波長側の光は赤色光のような長波長側の光と比べて、優先的に全方位散乱される。そのため、レイリー散乱により発現する色は、波長選択光散乱体に入射する可視光の波長の影響を受ける。
例えば一般的な白色LED(擬似白色LED)は、青色LEDと黄色蛍光体(青色光で励起されてその補色にあたる黄色を発光する蛍光体)との組み合わせにより白色光を発現させている。その相対放射強度は460~470nm付近の青色の波長範囲に鋭いピークを持ち、また570~580nmの黄色の波長範囲にも穏やかなピークを持つ。当該白色LEDを光源として波長選択光散乱体に照射すると、照射された入射光のうち青色光が効率よく散乱するため、入射方向に対し略垂直方向から前記波長選択光散乱体を観察することにより、青色の散乱光(前記波長選択光散乱体が青色に呈色すること)を視認することができる。また波長選択光散乱体内において、光源からの距離が遠くなるにつれて散乱を繰り返した青色光が減衰し、黄色光の発現が優位となるため、光源との距離に応じてグラデーション的に発現する発色が変化する。そのため、例えば本発明の波長選択光散乱体と、前記白色LED等の光源とを組み合わせて照明装置等の用途に用いることにより、予め着色した媒体に光を照射した場合の光の発現とは根本的に異なる、レイリー散乱に特有の光表現とすることができる。
一方、太陽光や白色電球の場合は、その相対放射強度スペクトルにおいて鋭いピークを有さず、太陽光であれば短波長側、白色電球であれば長波長側に穏やかなピークを有し、可視光の範囲を全て含んだ光を発光する。そのため、例えば太陽光を一定の厚みを有する波長選択光散乱体を通してその透過光を観察すると、青色光は散乱を繰り返すことで減衰し、比較的レイリー散乱されにくい長波長側の赤色光が優先的に透過光として観察される。そのため、このような照射光と波長選択光散乱体との組み合わせにより、透過光を、あたかも朝焼けや夕焼けのような赤色光として再現することもできる。
【0016】
本発明の波長選択光散乱体は、例えば波長選択光散乱体をプラスチックケース、ガラスケースなどの少なくとも1面が透明の容器に注ぎ、外部より光を照射することにより、レイリー散乱を生じる。入射光のうち紫色~青緑色などの寒色系の光を選択的に散乱させて散乱光を寒色系の色味として発現させることもできるし、入射光のうち黄色~赤色などの暖色系の光を選択的に透過させて透過光を暖色系の色味として発現させることもできる。なお、本発明において「寒色系の光」又は「暖色系の光」という場合、通常よりも広義の意味で用いている。本発明において、寒色系の光とは、波長(λ)が380nm以上550nm未満の範囲にあるは可視光を意味する。また本発明において、暖色系の光とは、波長(λ)が550nm以上~780nm未満の範囲にある可視光を意味する。
【0017】
本発明の波長選択光散乱体は、照明装置、発光装置、波長選択散乱・透過装置、又は光環境演出装置等の用途に用いることが好ましい。
例えば、板状の透明容器に充填した本発明の波長選択光散乱体に対し、透明容器の横方向(側面)から白色LEDを光源として白色光を照射し、入射光のうち青色光を散乱させて青色を発現させることで、青空に近い光環境を演出する装置として用いることができる。このような装置は、例えば地下室、ビルの低層階、トンネル内、夜間、建物中央部の窓の無い部屋など、外部より太陽光が入らない場所に設置することにより、あたかも窓があるような光環境を演出することができる。
また、例えば筒状の透明容器に充填した本発明の波長選択光散乱体に対し、白色LEDを光源として筒の一端から白色光を照射することで、筒全周に自然な青色光を放射する照明とすることができる。
また、透明水槽に充填した本発明の波長選択光散乱体に対し、上部から白色LEDを光源として白色光を照射することにより、透明水槽を側面から観察したときに、自然な青色光(空色)を発現させることができる。したがって、例えば透明水槽中に鳥の模型を設置することにより、青空を模した模型用の媒体とすることもできる。
【0018】
このような波長選択光散乱体を使った各種用途において、波長選択光散乱体を透明プラスチック板や透明フィルムなどの透明媒体などで覆い、外気との接触を抑制することで、水の揮発を防いで長期間の使用に供することもできる。
【0019】
本発明の波長選択光散乱体は媒体の経時安定性(沈降防止)や、液の漏洩等の観点から、一定時間の静置後、好ましくは5分以上静置させた状態において、一定以上の粘性を有することが好ましい。好ましい粘度としては、例えばレオメーターでの15s-1での粘度測定値が200~10000mPa・sであることが好ましく、400~8000mPa・sであることがより好ましく、800~6000mPa・sであることがさらに好ましい。本発明の波長選択光散乱体の粘度を上記の範囲内とすることにより、長期にわたっての沈降を防止することができ、また各種形状の容器への注入も容易となる。また、混入した気泡も容易に除去することができる。
【0020】
本発明の波長選択光散乱体に照射させる光源は特に限定されず、波長選択光散乱体が充填される容器の大きさや、光を観察する方向、発現させる所望の波長等に応じて適宜設定することができる。照射光(入射光)は太陽光等の自然光であってもよいし、人工光であってもよい。人工光としては、例えばLEDライト、蛍光灯、白熱電灯、ガス灯、有機ELライト、アーク灯、グロー灯、ネオン管、ハロゲンライト、水銀ライト、キセノンランプ、クリプトンランプ、高圧ナトリウムランプ、量子ドット光、各種レーザー光、各種ケミカルランプ等が発光する人工光が挙げられる。
【0021】
(スメクタイト)
本発明の波長選択光散乱体に含有される前記スメクタイトの種類は特に限定されず、目的に応じて適宜に設定することができる。スメクタイトそれ自体は公知であり、市販もされている。
スメクタイトとしては天然スメクタイトや合成スメクタイトが知られている。スメクタイトに含まれる不純物の含有量を抑えて固有の着色を低減し、水分散時の分散液の光透過性を高める観点から、本発明の波長選択光散乱体には合成スメクタイトを用いることが好ましい。
前記スメクタイトは、モンモリロナイト、バイデライト、ノントロナイト、サポナイト、ヘクトライト、ソーコナイト、及びスチブンサイトから選ばれる1種又は2種以上であることが好ましく、ヘクトライト、サポナイト、スチブンサイトから選ばれる1種又は2種以上であることがより好ましい。特に、上記各スメクタイトは透明性、レイリー散乱特性、粘度、粒度(粒子径)等において異なる特性を持つため、これらを調整するために複数のスメクタイトを併用することができる。例えば、粒子径の比較的小さいスメクタイトを使用しレイリー散乱の発生を一定程度抑えて透明性を高めることにより、散乱光による発色を抑えた光表現とすることもできる。また、粒子径の比較的大きいスメクタイトを使用しレイリー散乱とミー散乱を同時に生じさせることで、ミー散乱に特有の薄雲のような白色の発色を発現させることもできる。
【0022】
本発明において「スメクタイト」と言う場合、微粒子状のスメクタイトを意味する。より具体的には、前記スメクタイトは、分散液中の粒子径(一次粒子径)が5~350nmであることが好ましく、10~250nmであることがより好ましく、15~200nmであることがさらに好ましく、20~120nmであることが特に好ましい。前記スメクタイトの粒子径を上記好ましい範囲内とすることにより、水分散体とした際に可視光領域のレイリー散乱による発色と所望の増粘性を付与することができ、粒子の沈降や液の漏洩を防止することができる。なお、散乱の強弱、白色の発現など、目的に応じて粒子径を調整できることは上記の通りである。
本発明において水分散体中の前記スメクタイトの「粒子径」とは、体積基準のメディアン径である。この粒子径は、例えばレーザー回析/散乱式粒子径分布測定装置により決定することができる。
【0023】
本発明で用いるスメクタイトの層間陽イオン種は特に制限がない。スメクタイトを水中に分散させることによりレイリー散乱を生じさせる観点、及び、分散微粒子の沈降を防止し、さらに分散液の漏洩を防止する観点から、本発明で用いるスメクタイトの層間陽イオン種は、水に対する膨潤が容易であり層間陽イオン固有の発色が少ないナトリウムイオンやリチウムイオンであることが好ましい。また、前記スメクタイトの陽イオン交換容量(CEC:Cation Exchange Capacity)は、水分散時の膨潤性を向上させる観点から、20meq(ミリ当量)/100g以上が好ましく、25meq/100g以上がより好ましく、30meq/100g以上がさらに好ましい。また通常、本発明に用いるスメクタイトの陽イオン交換容量は250meq/100g以下である。
【0024】
本発明の波長選択光散乱体中の前記スメクタイトの含有量(濃度)は特に制限がなく、スメクタイトが十分に水に膨潤し、剥離分散することでレイリー散乱を発生させ、適度な粘度特性を発現できるように適宜設定することができる。例えばレイリー散乱特性、増粘性の付与の観点から、本発明の波長選択光散乱体中のスメクタイトの含有量は0.1~20質量%であることが好ましく、0.5~15質量%とすることもでき、1~10質量%としてもよく、1.2~5質量%としてもよい。
【0025】
(水)
本発明の波長選択光散乱体は、分散媒として水を含有する。使用する水には特に制限はなく、一般の水道水の他に精製水として蒸留水、イオン交換水等の水中のイオン成分を除去したものも用いることができる。本発明の波長選択光散乱体に用いる水は、透明度の高い水であることが好ましい。例えば、500nmの波長の光が1cmの距離を通過する際の透過率が80%以上であることが好ましく、90%以上であることがより好ましく、95%以上であることがさらに好ましく、99%以上であることがさらに好ましい。光透過率は、例えば実施例に記載の方法で測定することができる。
前記水は、スメクタイトの剥離膨潤を迅速に行い、粘度上昇やゲル化促進する観点から、水中のイオンが除去された水であることが特に好ましく、具体的には水のイオン伝導度が10μS/m以下が好ましく、5μS/m以下がより好ましく、2μS/m以下がさらに好ましい。
【0026】
本発明の波長選択光散乱体のpHは特に制限がない。層間陽イオンがナトリウムイオンやリチウムイオンであるスメクタイトを水に分散させた場合、pHは一般に弱アルカリ領域の9~11程度になる。本発明の波長選択光散乱体は弱アルカリのまま用いても良いし、酸成分を共存させてpHを中性~酸性領域に調整して用いても良い。長期保存の観点や、波長選択光散乱体の充填操作時の作業者の安全性の観点から、pHを4~11の弱酸から弱アルカリの範囲に調整して用いることが好ましい。
【0027】
(その他の成分)
本発明の波長選択光散乱体は、本発明の効果を損なわない範囲で他の成分を含んでもよい。例えば、水溶解性を持つ絵具などの染料的な着色剤の他、顔料などのより多様な意匠性を付与できる材料を溶解、又は分散させても良い。これ以外にも分散剤、界面活性剤、消泡剤、湿潤剤、高分子材料などの公知慣用の添加材を用いてもよい。
さらに本発明の波長選択光散乱体は、スメクタイトの水膨潤性を妨げない範囲で水以外の他の溶媒(溶剤)を分散媒として併用しても良い。他の溶媒を添加することにより、分散系の粘度や屈折率を変化させてレイリー散乱特性を調整したり、分散媒の沸点を高めたりすることによって経時による揮発防止などの効果を得ることができる。本発明の波長選択光散乱体に用い得る他の溶剤としては、例えば水と混和しやすい溶剤、屈折率が水よりも高い溶媒、沸点が高く揮発しにくい溶剤、透明性が高い溶剤、有害性や臭気の低い溶剤が挙げられる。具体的には、例えばエチレングリコール、プロピレングリコール、グリセロール、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングルコール等の有機溶剤などが挙げられる。本発明の波長選択光散乱体が水以外に他の溶媒を含む場合、他の溶媒の含有量は、スメクタイトの膨潤特性を妨げない観点から、溶媒全量中50質量%以下であることが好ましく、30質量%以下であることがより好ましく、20質量%以下であることがさらに好ましい。
【0028】
[波長選択光散乱剤]
本発明の波長選択光散乱剤はスメクタイトを含有する。当該スメクタイトの好ましい形態は、本発明の波長選択光散乱体において説明したスメクタイトと同じである。本発明の波長選択光散乱剤は、スメクタイトからなるものでもよく、スメクタイト以外の成分を含んでもよい。スメクタイト以外の成分としては、上述した「その他の成分」が挙げられる。すなわち着色剤、顔料、分散剤、界面活性剤、消泡剤、潤滑剤、高分子材料などを含んでもよい。また、水などの液媒体を含んでいてもよい。本発明の波長選択光散乱剤が液媒体を含む場合、本発明の波長選択光散乱剤を、水などの媒体でさらに希釈するなどして、本発明の波長選択光散乱体を得ることができる。また、本発明の波長選択光散乱剤が液媒体を含まない場合には、本発明の波長選択光散乱剤を、水を含む液媒体と混合し、液媒体中にスメクタイトを分散させることにより、本発明の波長選択光散乱体を得ることができる。
本発明の波長選択光散乱剤中のスメクタイトの含有量は、30質量%以上が好ましく、40質量%以上がより好ましい。また、当該含有量は50質量%以上とすることも好ましく、60質量%以上とすることも好ましく、70質量%以上とすることも好ましく、80質量%以上とすることも好ましく、90質量%以上であってもよい。
【0029】
[波長選択光散乱体の製造方法]
本発明の波長選択光散乱体は、分散質であるスメクタイトを、水を含む分散媒と混ぜて分散媒中に分散させることにより製造することができる。スメクタイトを水に分散させる方法については特に制限はなく、目的とする波長選択光散乱体の粘度等を考慮し、公知慣用のバッチ式、連続式分散装置等を適宜用いて分散することができる。
また、この分散工程において、必要により、上述したスメクタイト以外の成分を配合することもできる。
また、上述した通り、本発明の水表現用分散質剤と、水を含む液媒体とを混合したり、水を含む液媒体で希釈したりして、液媒体中にスメクタイトを所望の含有量で分散させることにより、本発明の波長選択光散乱体を得ることもできる。
【0030】
(波長選択光散乱体の脱泡工程)
本発明の波長選択光散乱体は、脱泡処理により気泡を除去してもよい。脱泡処理の方法としては、本発明の波長選択光散乱体中の気泡を抜くことができれば特に制限は無い。例えば、撹拌しつつ減圧脱泡する方法や、自公転ミキサーを用いた撹拌脱泡、超音波照射などの方法が挙げられる。また、脱泡工程のタイミングは、スメクタイトを分散させた後の分散液を脱泡しても良いし、スメクタイトを分散させる前の水を予め減圧処理などにより脱泡し、スメクタイト分散時の気泡の発生を抑制しても良い。
【実施例0031】
以下、本発明を実施例に基づきさらに詳細に説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。
【0032】
[波長選択光散乱体の作製]
(実施例1)
密閉容器に、スメクトン-SA(製品名、合成ヘクトライト、クニミネ工業株式会社製)と蒸留水を、表1に記載の配合比(配合組成)で合計1350gとなるように入れた。これを、自転・公転方式ミキサー(製品名:あわとり練太郎、型番:ARE-310、株式会社シンキー製)を用いて、回転数2000rpmで5分間撹拌し、その後、撹拌物を24時間静置して、スメクタイトを1質量%で含有する水分散体を得た。得られた水分散体を、3000ml容量の吸引濾過瓶にスターラーチップと共に移し入れ、吸引口を減圧ポンプ(研究用マルチエアーポンプ、型番:LMP-100、アズワン株式会社製)に接続し、濾過瓶上部の開口部分をゴム栓で閉鎖し、10kPaで減圧しつつスターラーチップを回転させて撹拌し、2時間減圧脱泡処理を行った。
脱泡処理後の水分散体を、透明容器(横幅200mm×奥行50mm×高さ130mm)に気泡を生じないようにゆっくり注いだ。高さ120mmまで水分散体を注ぎ1時間静置することで、実施例1のサンプル(波長選択光散乱体)を得た。
【0033】
(実施例2~5)
水分散体の配合組成を、下記表1に記載の配合とした以外は、実施例1と同様にして実施例2~5の各サンプル(波長選択光散乱体)を得た。なお、実施例4では、蒸留水に代えて、蒸留水とグリセロールとを予め混合した分散媒体を用いた。
【0034】
実施例1~5に用いたスメクタイトと媒体の詳細は以下の通りである。
(スメクタイト)
・スメクトン-SWN(製品名、合成ヘクトライト、クニミネ工業株式会社製、粒子径:70nm)
・スメクトン-ST(製品名、合成スチブンサイト、クニミネ工業株式会社製、粒子径:35nm)
・スメクトン-SA(製品名、合成サポナイト、クニミネ工業株式会社製、粒子径:100nm)
・スメクトン-SWF(製品名、合成ヘクトライト、クニミネ工業株式会社製、粒子径:80nm)
・LAPONAITE―XLG(製品名、合成ヘクトライト、BYK株式会社製、粒子径:40nm)
いずれのスメクタイトも層間陽イオンはナトリウムイオンである。
(媒体)
・蒸留水 イオン電導度0.5μS/cm
・水道水 イオン電導度60μS/cm
・グリセロール(特級試薬、関東化学株式会社製)
【0035】
(比較例1)
クリスタルレジンNEO(大橋塗料株式会社製、成分2液硬化型エポキシ樹脂)の主剤と硬化剤(樹脂液)とを、配合比が2:1となるように密閉容器に入れ、実施例1と同様にして自転・公転方式ミキサーで攪拌した。得られた混合物を、透明容器(横幅200mm×奥行50mm×高さ130mm)に気泡を生じないように、高さ120mmまでゆっくり注ぎ入れた。そのまま常温で48時間静置することにより硬化反応を進め、得られた硬化物を比較例1のサンプルとした。
【0036】
(比較例2)
NEWモデリング・ウオーター(品番:MW-01、成分変性シリコーン樹脂、株式会社光栄堂製)を、透明容器(横幅200mm×奥行50mm×高さ130mm)に気泡を生じないように、高さ120mmまでゆっくり注ぎ入れた。そのまま常温で48時間静置することにより硬化反応を進め、得られた硬化物を比較例2のサンプルとした。
【0037】
(比較例3)
リアリスティック・ウォーター(品番:24-338、株式会社カトー製、成分1液湿気硬化型アクリル樹脂)を、透明容器(横幅200mm×奥行50mm×高さ130mm)の底から10mmの高さまで気泡を生じないように充填した後、1時間静置して予備硬化させた。この操作を繰返してリアリスティック・ウォーターを120mmの高さまで充填させ、そのまま常温で24時間静置することにより硬化反応を進め、得られた硬化物を比較例3のサンプルとした。
【0038】
(比較例4)
スメクトン-SAの代わりにカルボキシメチルセルロースのナトリウム塩(品番:1190、ダイセルミライズ株式会社製)を用いた以外は、実施例1と同様にして比較例4のサンプルを得た。比較例4のサンプルは、均一な略透明水溶液であった。
【0039】
(比較例5)
スメクトン-SWNの代わりにハイドロタルサイト(品番:キョーワード1000、協和化学株式会社製)を用い、水道水の代わりに蒸留水を用いた以外は、実施例3と同様にして、比較例5のサンプルを得た。比較例5のサンプルは、略均一な白色分散液であった。
【0040】
(比較例6)
スメクトン-SWNの代わりにカオリナイト(品番:JP-100、竹原化学株式会社製)を用い、水道水の代わりに蒸留水を用いた以外は、実施例3と同様にして、比較例6のサンプルを得た。比較例6のサンプルは、略均一な白色分散液であった。
【0041】
(比較例7)
コロイダルシリカ分散液1(品番:スノーテックスN30G、日産化学工業株式会社製)を、透明容器(横幅200mm×奥行50mm×高さ130mm)に気泡を生じないように120mmの高さまでゆっくり注ぎ入れ、比較例7のサンプルを得た。
【0042】
(比較例8)
コロイダルシリカ分散液2(品番:スノーテックスNXS、日産化学工業株式会社製)を、透明容器(横幅200mm×奥行50mm×高さ130mm)に気泡を生じないように120mmの高さまでゆっくり注ぎ入れ、比較例8のサンプルを得た。
【0043】
[評価]
(光散乱特性の評価1(青色発色の有無))
実施例1~5、及び比較例1~8の各サンプルに対し、光源として白色LEDライト(品番:Lightup150、水作株式会社製)を用いて透明容器の上面(200mm×50mmの面)から白色光を照射し、透明容器の正面(200mm×130mmの面)から各サンプルの色調を観察した。青色に発色した場合を「〇」、青色に発色しなかった場合を「×」と評価した。
なお、透明容器の正面からの観察において、上面から75mmの高さの位置における発色を観察した。
【0044】
(光散乱特性の評価2(黄色の発色の有無))
実施例1~5、及び比較例1~8の各サンプルに対し、光源として光散乱特性の評価1で用いた白色LEDライトを用いて透明容器の背面(200×130mmの面)から白色光を照射し、透明容器の正面(ライト設置の逆側の200×130mmの面)から各サンプルの色調を観察した。黄色に発色した場合を「〇」、黄色に発色しなかった場合を「×」と評価した。
なお、透明容器の正面からの観察において、背面におけるライト設置の位置と対応する位置における発色を観察した。
【0045】
(光散乱特性の評価3(オレンジ色の発色の有無))
実施例1~5、及び比較例1~8の各サンプルに対し、光源として白熱電球を用いた電球色ライト(品番:CLC40X01BK、株式会社ヤザワコーポレーション社製)を用いて透明容器の側面(50mm×130mmの面)から照射し、透明容器の逆サイドの側面(ライト設置の逆側の50mm×130mmの面)から各サンプルの色調を観察した。オレンジ色に発色した場合を「〇」、オレンジ色に発色しなかった場合を「×」と評価した。
なお、透明容器の逆サイドの側面からの観察において、側面におけるライト設置の位置と対応する位置における発色を観察した。
【0046】
(光透過性の評価)
実施例1~5、及び比較例1~8の各サンプルと同じものを、幅1cmの透明プラスチックセル内に調製し、光透過性評価サンプルを作製した。分光光度計ASV11D-H(アズワン株式会社製)を用いて、各光透過性評価サンプルの波長500nmの光透過率を測定した。
【0047】
(分散粒子径の評価)
実施例1~5、比較例5及び6の各サンプルにおいて、分散質の濃度が0.01質量%となるように蒸留水を用いて希釈して粒子径測定用サンプルとした。また、比較例7及び8では、各サンプルを希釈せずに、そのまま粒子径測定用サンプルとして用いた。これらの各粒子径測定用サンプルを、レーザー回折/散乱式粒子径分布測定装置LA-950V2(株式会社堀場製作所製)を用いて、平均分散粒子径(体積基準のメディアン径)を測定した。
【0048】
(容器を傾けた際の液漏洩防止性の評価)
実施例1~5、及び比較例1~7の各サンプルの透明容器を45°まで傾け、内部の水分散体又は樹脂の漏洩の有無を確認した。水分散体又は樹脂が保持されて漏洩しない場合を「〇」、水分散体又は樹脂が流動し漏洩した場合を「×」と評価した。
【0049】
得られた結果を下記表1及び2にまとめて示す。下表中の配合量の記載は、質量部(質量比)である。
【0050】
【0051】
【0052】
硬化性樹脂、水溶性樹脂の水溶液、及びスメクタイト以外の層状鉱物の比較例1~6の各サンプルでは、いずれの方向から光源を照射しても、レイリー散乱起因の青色、黄色、オレンジ色の呈色を示さなかった。また比較例5及び6のサンプルは、光透過率が極端に低かった。また、コロイダルシリカを用いた比較例7のサンプルでは、レイリー散乱起因の呈色を示したが粘性が低く、漏洩防止はできず、容器が転倒、破損の際には流出するリスクがあった。また別のコロイダルシリカを用いた比較例8のサンプルでは、レイリー散乱起因の呈色を示さなかった。
これに対し、本発明の波長選択光散乱体実施例1~5の各サンプルでは、十分な光透過率を示し、容器上部からの光照射により、各サンプルに色材等を加えていない(未着色)にも関わらず、正面から観察したときに自然な青空に類似の青色発色を呈した。なお、透明容器の上部から下部に向かってグラデーション様に発色が変化しており、容器上部が最も濃い青色発色を呈した。また、光の照射方向や光源の種類、波長選択光散乱体通過距離を調整するだけで、日中の太陽光に近い(日中の太陽光を直視したような)黄色や、朝焼け・夕焼け時のようなオレンジ色を呈した。加えて、チクソ性が強く、液を振とうすることで減粘し容器への充填が可能な上、静置することによりゲル化することで流動性を失い、液が漏洩するリスクも抑えられていた。