(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023014661
(43)【公開日】2023-01-31
(54)【発明の名称】静止誘導機器
(51)【国際特許分類】
H01F 27/32 20060101AFI20230124BHJP
H01F 41/12 20060101ALI20230124BHJP
H01F 27/28 20060101ALI20230124BHJP
H01F 27/20 20060101ALI20230124BHJP
【FI】
H01F27/32 140
H01F41/12 A
H01F41/12 Z
H01F27/28 156
H01F27/28 176
H01F27/20
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021118733
(22)【出願日】2021-07-19
(71)【出願人】
【識別番号】598076591
【氏名又は名称】東芝インフラシステムズ株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】513296958
【氏名又は名称】東芝産業機器システム株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000567
【氏名又は名称】弁理士法人サトー
(72)【発明者】
【氏名】中前 哲夫
(72)【発明者】
【氏名】前田 照彦
(72)【発明者】
【氏名】尾崎 多文
(72)【発明者】
【氏名】大山 公治
(72)【発明者】
【氏名】▲陦▼ 裕介
(72)【発明者】
【氏名】城条 雅之
【テーマコード(参考)】
5E043
5E044
5E050
【Fターム(参考)】
5E043DB10
5E043EA05
5E043EA10
5E044AD06
5E044CA07
5E050BA10
5E050CA06
5E050HA10
(57)【要約】
【課題】モールドコイルから引出される中性線リード部分の絶縁性を高める。
【解決手段】実施形態の静止誘導機器は、鉄心と、前記鉄心に装着されたモールドコイルと、前記モールドコイルから引出される中性線リードと、前記モールドコイルの外周面に突出状に設けられたバーリア絶縁物と、前記バーリア絶縁物により前記モールドコイルの外周面から離間した状態に保持され、前記中性線リードが支持されるリード支え絶縁物とを備えている。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
鉄心と、
前記鉄心に装着されたモールドコイルと、
前記モールドコイルの口出し線に接続された中性線リードと、
前記モールドコイルの外周面に突出状に設けられたバーリア絶縁物と、
前記バーリア絶縁物により前記モールドコイルの外周面から離間した状態に保持され、前記中性線リードが支持されるリード支え絶縁物とを備えてなる静止誘導機器。
【請求項2】
前記バーリア絶縁物は、前記コイル外周面への突出方向に、大径部と小径部とを交互に有した形状を備えている請求項1記載の静止誘導機器。
【請求項3】
前記リード支え絶縁物は、複数のコイルに跨るように延びる棒状をなし、前記中性線リードは、前記リード支え絶縁物に対し結束されて支持される請求項1又は2記載の静止誘導機器。
【請求項4】
前記モールドコイルは、導体部の外周に帯状の含浸基材を巻重ねるように配置した上で樹脂モールドされて構成され、
前記バーリア絶縁物を取付けるため絶縁材製の取付具が、前記含浸基材の巻付け作業時に、その基端部が該含浸基材によって締付けられるようにしてモールド樹脂層内に固定され、先端部が該モールドコイルの外周側に配置されるように設けられている請求項1から3のいずれか一項に記載の静止誘導機器。
【請求項5】
前記モールドコイルの外周部には、冷却用のガスを流すための風洞が設けられ、
前記バーリア絶縁物は、前記風洞から外れた該モールドコイルの軸方向端部に設けられている請求項1から4のいずれか一項に記載の静止誘導機器。
【請求項6】
前記バーリア絶縁物の先端部は、前記風洞よりも外周側に位置されている請求項5記載の静止誘導機器。
【請求項7】
前記風洞内には、冷却用のガスとしてドライエアが供給されるように構成されている
請求項5又は6記載の静止誘導機器。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の実施形態は、静止誘導機器に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば66kV或いは77kV用の高電圧受変電設備に使用される変圧器には、全体を例えばエポキシ樹脂等でモールドしたモールドコイルが採用されている。Y結線型の三相変圧器においては、3相の各モールドコイルから夫々引き出された中性点の口出し線を、例えばコイルの上部において、リード支え絶縁物に支持された状態でY結線されるようになっている(例えば特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記のような三相変圧器においては、例えば試験、検査時に、モールドコイルにインパルス電圧が印加されることがある。ところが、その際に、変圧器のY結線における中性点に、印加電圧よりも高い電圧が発生する場合があり、モールドコイルの外面に近い位置に配置された口出し線の絶縁処理が不十分な場合に、中性点を起点としてコイル表面に高電圧が流れ鉄心等のアース部に落ちる沿面破壊が生ずる虞があった。特に、高電圧用の変圧器の場合や、冷却にドライエアを用いる場合などにおいて、十分な絶縁性能の確保が求められるのである。
【0005】
そこで、モールドコイルから引出される中性線リード部分の絶縁性を高めることができる静止誘導機器を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0006】
実施形態の静止誘導機器は、鉄心と、前記鉄心に装着されたモールドコイルと、前記モールドコイルの口出し線に接続された中性線リードと、前記モールドコイルの外周面に突出状に設けられたバーリア絶縁物と、前記バーリア絶縁物により前記モールドコイルの外周面から離間した状態に保持され、前記中性線リードが支持されるリード支え絶縁物とを備えている。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【
図1】第1の実施形態を示すもので、モールドコイルのバーリア絶縁物部分の構成を示す拡大縦断側面図
【
図2】モールドコイルのバーリア絶縁物部分の拡大正面図
【
図3】モールドコイルのバーリア絶縁物部分の拡大上面図
【
図5】モールドコイル上部の中性線リードの支持部分を示す拡大斜視図
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下、静止誘導機器として、例えば66kV或いは77kV用の高電圧受変電設備に使用される三相用のモールド変圧器に適用した一実施形態について、図面を参照しながら説明する。全体としての図示は省略するが、このモールド変圧器は、モールド変圧器本体1(
図4参照)、このモールド変圧器本体1を収納する密閉容器、この密閉容器の外側に設けられた熱交換器等を備えて構成される。尚、以下の説明で方向を言う場合には、便宜上、
図2、
図4の状態を正面図として説明する。
【0009】
まず、
図4を参照して、変圧器本体1の全体構成について述べる。変圧器本体1は、鉄心2に、U、V、W相の3個のモールドコイル3を装着して構成される。前記鉄心2は、例えば積層鉄心からなり、上下のヨーク部と、それらの間を上下に連結する3本のレグ部とを有して構成される。前記モールドコイル3は、円筒状をなし、図で左右方向に並ぶようにして、前記各レグ部に夫々装着される。鉄心2の上下のヨーク部は、夫々、上部クランプ4、下部クランプ5により固定されている。このとき、前記上部クランプ4と、各コイル3の上面との間には、図示しない複数個のコイル押え絶縁物が設けられる。
【0010】
詳しく図示はしないが、前記各モールドコイル3は、内周側に一次巻線を配し、中間に上下に延びる冷却用ダクトを設けた状態で、外周側に二次巻線を配して構成され、全体がエポキシ樹脂などのモールド樹脂層7によりモールドされている。また本実施形態では、
図3等にも示すように、モールドコイル3の外周部には、例えばプラスチック製の円筒状の風洞8が設けられ、モールドコイル3の外周面との間に、冷却用のガスを軸方向つまり上下方向に流すための外周ダクトが形成されるようになっている。この場合、風洞8は、上端部に外周方向に延出するつば部8aを有し、モールドコイル3の上端部を除く高さの範囲に設けられている。
【0011】
前記モールドコイル3を得るにあたっては、周知のように、例えば銅等の金属材料からなり、外周を絶縁テープで被覆した導体を、円筒状に巻回すると共に、その内周及び外周を、含浸基材で覆ってコイル本体を構成する。前記含浸基材は、例えば合成繊維や合成樹脂等の繊維材料をシート状にした不織布からなり、細幅の帯状に構成されて、巻回された導体の外周部に重ねるように巻付けられるようになっている。このとき、
図1に示すように、後述するバーリア絶縁物22を取付けるため絶縁材製の取付具23が、含浸基材の巻付け作業時に、その基端部が該含浸基材によって縛り付けられるようにしてモールド樹脂層7内に埋め込まれるように固定され、取付具23の先端部が該モールドコイル3の外周側に配置されるように設けられる。
【0012】
そして、図示はしないが、前記コイル本体を含浸槽内に収容した状態で該含浸槽内に液状のエポキシ樹脂を注入する浸漬工程が実行され、その浸漬工程の後、コイルを図示しない加熱炉内で加熱することにより、含浸されたエポキシ樹脂を硬化させてモールド樹脂層7を得る硬化工程が実行される。これにより、モールド樹脂層7が、コイル本体の内部の隙間に充填されると共に、コイル本体の外面全体を覆うように設けられ、モールドコイル3が得られる。
【0013】
図2、
図5にも示すように、各相のモールドコイル3の二次側の上端部外周面部から、巻き終り口出し線11が外周方向に導出されている。各モールドコイル3から導出された3本の巻き終り口出し線11は、KIP線からなる中性線リード12に接続されてY結線され、その中性線リード12は例えばアース接続される。巻き終り口出し線11と中性線リード12との接続部分の外周部には、ひだ状絶縁部13が設けられる。また、各相のモールドコイル3の二次側の上面部から、巻き始め口出し線14が導出され、KIP線からなる接続導体15に接続されている。巻き始め口出し線14と接続導体15との接続部分の外周部には、ひだ状絶縁部16が設けられる。詳しく図示はしないが、各接続導体15は、密閉容器に設けられた外部との接続用のブッシングに夫々接続される。
【0014】
尚、図示はしないが、上記変圧器本体1は、密閉容器内に収納される。このとき、密閉容器内には、例えば冷却及び絶縁用のガスとしてドライエアが充填される。密閉容器内には、例えば送風ファン装置が設けられ、送風ファン装置の駆動により、比較的低温のドライエアが変圧器本体1の下部に向けて供給され、前記冷却用ダクト内や、風洞8内つまり外周ダクトを通って上昇することにより、モールドコイル3の冷却に寄与する。高温となったドライエアは、熱交換器で外部と熱交換されて冷やされ、再び、モールドコイル3等の冷却に寄与することが繰り返される。
【0015】
さて、本実施形態では、前記3個のモールドコイル3の巻き終り口出し線11に接続された中性線リード12は、リード支え絶縁物たるリード支え棒21に支持され、モールドコイル3の前面部を横方向に延びながら相互に接続される。その際、各モールドコイル3の外周面の上部前面部には、図で前方に突出状にバーリア絶縁物22が設けられ、それらバーリア絶縁物22に前記リード支え棒21が保持される。この保持構造について、以下、
図1~
図3、
図5も参照しながら説明する。
【0016】
即ち、
図1に示すように、前記各モールドコイル3の上端部前面部には、前記バーリア絶縁物22を取り付けるための取付具23が設けられている。この取付具23は、絶縁材例えばプラスチックからなり、短冊状の薄板を側面コ字型に折曲げた如き形状に構成されている。この取付具23は、上記したように、モールドコイル3の製造時に、その基端部を、コイル本体の外周面の上部に宛がうように配置し、含浸基材がコイル本体の外周に巻付けられる。これにより、取付具23の基端部が含浸基材によって縛られるように固定され、その状態でモールド樹脂層7が形成されることにより、モールドコイル3に固定される。この場合、取付具23の先端側が、モールドコイル3の前方に突出配置される。
【0017】
図1に示すように、取付具23は、やや離れた上下2箇所に固定され、両取付具23、23の先端側の面が、モールドコイル3の前面の上下に配置される。そして、2つの取付具23間に架け渡されるようにして、上下に長い長方形状の取付板24が、絶縁ボルト25などにより固定される。前記バーリア絶縁物22は、前記取付板24の前面に取付けられる。
【0018】
前記バーリア絶縁物22は、この場合、絶縁材料例えばFRPからなり、小径部としての2枚の小径の円板22aと、大径部としての1枚の大径の円板22bとを、同軸で大径の円板22bが中間となるように挟んで一体化して構成される。これにて、バーリア絶縁物22は、モールドコイル3の外周面への突出方向に、大径部と小径部とを交互に有した形状を備えている。このバーリア絶縁物22は、前記取付板24の前面に絶縁ボルト25により固定される。
【0019】
前記リード支え棒21は、絶縁材料例えば木材から、角材状に構成され、3個のモールドコイル3間に跨って、ほぼ水平に架け渡される長さを有している。
図2、
図5にも示すように、このリード支え棒21は、3個のモールドコイル3のバーリア絶縁物22の前面に対し、夫々絶縁ボルト25により固定される。そして、前記中性線リード12は、リード支え棒21に沿うように配置され、絶縁材からなる紐26によってリード支え棒21の複数箇所で結束されることにより支持される。
【0020】
これにて、リード支え棒21は、バーリア絶縁物22によりモールドコイル3の外周面から前方に離間した状態に保持され、従って、中性線リード12はモールドコイル3から前方に離間した状態に保持される。また、
図2、
図4などに示すように、前記バーリア絶縁物22は、モールドコイル3の前面の風洞8から上部に外れた位置である上端部に設けられている。これと共に、
図3、
図5にも示すように、バーリア絶縁物22の先端部は、前記風洞8つまり外周ダクトよりも外周側に位置され、リード支え棒21及び中性線リード12が、風洞8のつば部8aの上方に位置されている。
【0021】
このような本実施形態によれば、次のような作用、効果を得ることができる。即ち、本実施形態においては、モールドコイル3の外周面である前面部に、バーリア絶縁物22を突出状に設け、そのバーリア絶縁物22の先端部に、中性線リード12が支持されるリード支え棒21を保持させる構成とした。これにより、リード支え棒21ひいては中性性線リード12は、モールドコイル3の外周面から離間した状態に保持される。従って、中性線リード12からモールドコイル3までの絶縁物による沿面距離を長く確保することができ、例えばインパルス電圧印加時における沿面破壊の発生を抑制することができる。
【0022】
この結果、本実施形態によれば、モールドコイル3から引出される中性線リード12部分の絶縁性を高めることができるという優れた効果を奏する。このとき、特に本実施形態では、バーリア絶縁物22は、モールドコイル3の外周面への突出方向に、小径部としての円板22aと、大径部としての円板22bとを、交互に有した形状を備えているので、バーリア絶縁物22における沿面距離をより長く確保することができるので、絶縁性の向上により効果的となる。
【0023】
本実施形態では、リード支え絶縁物として、3個のモールドコイル3に跨るように延びる棒状のリード支え棒21を設け、そのリード支え棒21に対し中性線リード12を結束して支持する構成とした。これにより、1本の棒状のリード支え棒21に対し、中性線リード12を複数個所で結束させることができ、部品数の削減や構成の簡単化を図ることが可能となる。
【0024】
また本実施形態では、バーリア絶縁物22をモールドコイル3の前面部に取付けるため絶縁材製の取付具23を、含浸基材の巻付け作業時に、その基端部が該含浸基材によって締付けられるようにしてモールド樹脂層7内に固定されるように構成した。これにより、モールドコイル3の製造時に、バーリア絶縁物22を取付けるため絶縁材製の取付具23の取付を確実かつ強固に行うことができ、面倒な後工程を行うことなく済ませることができる。
【0025】
更に本実施形態では、モールドコイル3の外周部に風洞8を備えたものにあって、バーリア絶縁物22を、前記風洞8から外れたモールドコイル3の軸方向上端部に設けるようにした。これにより、バーリア絶縁部22が風洞8の冷却ガスの流れに悪影響を及ぼすことを未然に防止でき、風洞8における良好な冷却ガスの流れを確保することができる。また、バーリア絶縁物22の先端部は、風洞8よりも外周側に位置されているので、風洞8に干渉したりすることなく、リード支え棒21や中性線リード12を設けることができる。冷却用のガスとしてドライエアが供給されるように構成されているので、安価で簡易な乾式変圧器として構成でき、また、上記したバーリア絶縁物22を設けたことによって、ドライエアを採用することに伴う絶縁性の低下をカバーすることができる。
【0026】
尚、上記実施形態では、バーリア絶縁物22を、小径の円板22aと大径の円板22bとを3層に設けて構成したが、4層以上に設けても良い。バーリア絶縁物を、円板状でなく、四角い板等から構成しても良い。リード支え絶縁物の構成としても、断面ほぼ正方形の棒状のものに限らず、丸棒状や、薄板状のものであっても良い。中性線リード12を保持させる構成としても、ヒモによる結束に代えてクリップで止める等でも良い。モールドコイルの外周面に取付具を取付けるための構成としても、例えばモールド樹脂層7の形成後に、後から接着剤で取付けるなども可能である。
【0027】
上記実施形態では、モールドコイル3の外周部に風洞8を設ける構成としたが、風洞を設けないものにも適用できることは勿論であり、また、冷却用のガスとしてドライエアを採用することに代えて、他の絶縁ガスや絶縁油等を用いるものであっても良い。その他、上記実施形態で説明した、モールド樹脂層を構成する樹脂や、バーリア絶縁物、リード支え絶縁物等の具体的な材質は、あくまでも一例を示したものに過ぎず、種々変更して実施することができる。また、変圧器の全体構成についても、様々な変更が可能であることは勿論である。
【0028】
以上説明した実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これら新規な実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。これら実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれるとともに、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれる。
【符号の説明】
【0029】
図面中、1は変圧器本体、2は鉄心、3はモールドコイル、8は風洞、8aはつば部、11は巻き終わり口出し線、12は中性線リード、14は巻き始め口出し線、15は接続導体、21はリード支え棒(リード支え絶縁物)、22はバーリア絶縁物、22aは小径円板、22bは大径円板、23は取付具、24は取付板、25は絶縁ボルト、26は紐を示す。