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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023146628
(43)【公開日】2023-10-12
(54)【発明の名称】熱硬化性樹脂の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C08G 14/073 20060101AFI20231004BHJP
【FI】
C08G14/073
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022053912
(22)【出願日】2022-03-29
(71)【出願人】
【識別番号】000000941
【氏名又は名称】株式会社カネカ
(74)【代理人】
【識別番号】110000338
【氏名又は名称】弁理士法人 HARAKENZO WORLD PATENT & TRADEMARK
(72)【発明者】
【氏名】野々村 亞慧
【テーマコード(参考)】
4J033
【Fターム(参考)】
4J033FA01
4J033FA04
4J033FA11
4J033HB01
4J033HB03
4J033HB06
(57)【要約】
【課題】破断応力と伸びのバランスに優れ、柔軟性を有するベンゾオキサジン硬化成形体を製造可能な、溶融粘度が低く取り扱い性に優れる、熱硬化性樹脂の新規な製造方法を実現する。
【解決手段】本発明の一実施形態に係るベンゾオキサジン環構造を主鎖中に有する熱硬化性樹脂の製造方法は、ジアミン化合物とアルデヒド化合物とを、芳香族系非極性溶媒を含む溶媒中で反応させる工程(I)と、前記工程(I)で生じた水を、溶媒中のアルコールと共に除去する工程(II)と、前記工程(II)にて得られた反応生成物と、二官能フェノール化合物とを反応させる工程(III)と、を有する。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ベンゾオキサジン環構造を主鎖中に有する熱硬化性樹脂の製造方法であって、
ジアミン化合物とアルデヒド化合物とを、芳香族系非極性溶媒を含む溶媒中で反応させる工程(I)と、
前記工程(I)で生じた水を、溶媒中のアルコールと共に除去する工程(II)と、
前記工程(II)にて得られた反応生成物と、二官能フェノール化合物とを反応させる工程(III)と、を有する、熱硬化性樹脂の製造方法。
【請求項2】
前記工程(I)において、前記溶媒があらかじめアルコールを含む、請求項1に記載の熱硬化性樹脂の製造方法。
【請求項3】
前記工程(I)を実施している間に、溶媒にアルコールを添加する工程を有する、請求項1に記載の熱硬化性樹脂の製造方法。
【請求項4】
前記工程(II)において、水はアルコールと共沸させることにより系外に除去される、請求項1~3のいずれか1項に記載の熱硬化性樹脂の製造方法。
【請求項5】
前記工程(III)において、さらに単官能フェノール化合物を添加する、請求項1~4のいずれか1項に記載の熱硬化性樹脂の製造方法。
【請求項6】
前記ジアミン化合物は芳香族ジアミン化合物である、請求項1~5のいずれか1項に記載の熱硬化性樹脂の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は熱硬化性樹脂の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
熱硬化性樹脂の一種であるベンゾオキサジン化合物の製造方法としては、アミン成分、フェノール成分、アルデヒド成分の3成分を溶媒に一括して投入し、反応させる方法が一般的である。例えば、特許文献1には、フェノール類、アルデヒド類、第1級アミンを溶剤中で反応させて反応液を得る工程を含む、フェノール樹脂系難燃性自硬化性樹脂の製造方法が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平11-106466号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上述のような従来技術は、溶融粘度に基づく取り扱い性、および得られるベンゾオキサジン硬化成形体の物性の観点から改善の余地があった。
【0005】
本発明の一態様は、破断応力と伸びのバランスに優れ、柔軟性を有するベンゾオキサジン硬化成形体を製造可能な、溶融粘度が低く取り扱い性に優れる、熱硬化性樹脂の新規な製造方法を実現することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記の課題を解決するために、本発明の一態様に係る熱硬化性樹脂の製造方法は、ベンゾオキサジン環構造を主鎖中に有する熱硬化性樹脂の製造方法であって、ジアミン化合物とアルデヒド化合物とを、芳香族系非極性溶媒を含む溶媒中で反応させる工程(I)と、前記工程(I)で生じた水を、溶媒中のアルコールと共に除去する工程(II)と、前記工程(II)にて得られた反応生成物と、二官能フェノール化合物とを反応させる工程(III)と、を有する。
【発明の効果】
【0007】
本発明の一態様によれば、破断応力と伸びのバランスに優れ、柔軟性を有するベンゾオキサジン硬化成形体を製造可能な、溶融粘度が低く取り扱い性に優れる、熱硬化性樹脂の新規な製造方法を実現できる。
【発明を実施するための形態】
【0008】
〔1.熱硬化性樹脂の製造方法〕
本発明の一実施形態に係る熱硬化性樹脂の製造方法(以下、本製造方法とも称する。)は、ベンゾオキサジン環構造を主鎖中に有する熱硬化性樹脂の製造方法であって、ジアミン化合物とアルデヒド化合物とを、芳香族系非極性溶媒を含む溶媒中で反応させる工程(I)と、前記工程(I)で生じた水を、溶媒中のアルコールと共に除去する工程(II)と、前記工程(II)にて得られた反応生成物と、二官能フェノール化合物とを反応させる工程(III)と、を有する。
【0009】
本発明者らは上述した通り、熱硬化性樹脂の原料となる成分のうち2種類を反応させた時点で、アルコールおよび水を除去することにより、取り扱い性に優れる熱硬化性樹脂、および破断応力と伸びのバランスに優れ、柔軟性を有する硬化成形体を得ることに成功した。このような着想に基づいて、熱硬化性樹脂を製造する技術は、従来にはなかったものであり、驚くべきことである。
【0010】
本発明者らは上記硬化成形体の物性の向上が起こる理由について、以下のように想定している。アルコールは、ジアミン化合物とアルデヒド化合物とが反応して生じるトリアジンを可溶化させ、熱硬化性樹脂のゲル化を防ぐ。しかしながら、二官能フェノール化合物を添加する段階においてアルコールは反応の妨げとなるため、当該段階に至る前にアルコールの除去により硬化成形体の物性が向上する。加えて、ジアミン化合物とアルデヒド化合物との反応時に副生成する水を除去することも、硬化成形体の物性向上に寄与している。
【0011】
なお、本明細書中「取り扱い性に優れる」ことは後述する実施例に記載の溶融粘度測定に基づいて評価することができる。熱硬化性樹脂の粘度が低いほど、取り扱い性に優れると評価できる。
【0012】
<1-1.工程(I)>
本製造方法は、ジアミン化合物とアルデヒド化合物とを、芳香族系非極性溶媒を含む溶媒中で反応させる工程(I)を含む。工程(I)は例えば、溶媒にジアミン化合物とアルデヒド化合物とを加えて撹拌した後、昇温してから還流撹拌することによって実施することができる。工程(I)において、ジアミン化合物とアルデヒド化合物の2成分をあらかじめ反応させておくことにより、熱硬化性樹脂の粘度が低下し、取り扱い性が向上する。
【0013】
工程(I)において、反応時の温度は、例えば23℃以上が好ましく、50℃以上がより好ましく、80℃以上がさらに好ましい。反応時の温度の上限は、例えば200℃以下であってもよい。また、反応の時間は、例えば0.1時間以上が好ましく、0.2時間以上がより好ましく、0.5時間以上がさらに好ましい。反応の時間の上限は例えば10時間以下であってもよい。工程(I)において撹拌を行う場合、撹拌の方法は、例えば、撹拌翼、マグネチックスターラーまたは振盪機などによって行うことができるがこれに限らない。
【0014】
工程(I)において、ジアミン化合物:アルデヒド化合物のモル比率は、1:2~1:10であることが好ましく、1:2.5~1:6がより好ましく、1:3~1:5がさらに好ましい。モル比率が上記範囲であれば、製造性に優れる。
【0015】
前記ジアミン化合物としては例えば、芳香族ジアミン化合物、脂肪族ジアミン化合物等が挙げられる。これらの中でも得られる樹脂の物性の観点から芳香族ジアミンであることが好ましい。
【0016】
前記芳香族ジアミン化合物としては、1,4-ジアミノベンゼン、1,3-ジアミノベンゼン、2,4-ジアミノトルエン、2,6-ジアミノトルエン、3-(アミノメチル)ベンジルアミン、3,3’-スルホニルジアニリン、4,4’-スルホニルジアニリン、3,3’-ジアミノベンゾフェノン、4,4’-ジアミノベンゾフェノン、3,4’-ジアミノジフェニルエーテル、4,4’-ジアミノジフェニルエーテル、3,3’-メチレンジアニリン、4,4’-メチレンジアニリン、1,3-ビス(4-アミノフェノキシ)ベンゼン、1,3-ビス(3-アミノフェノキシ)ベンゼン、1,4-ビス(4-アミノフェノキシ)ベンゼン、2,2’-ジメチルビフェニル-4,4’-ジアミン、2,2-ビス〔4-(4-アミノフェノキシ)フェニル〕プロパン、2,2-ビス[4-(4-アミノフェノキシ)フェニル]ヘキサフルオロプロパン、ビス[4-(4-アミノフェノキシ)フェニル]スルホン、4,4’-ビス(3-アミノフェノキシ)ビフェニル、4,4’-ビス(4-アミノフェノキシ)ビフェニル、9,9-ビス(4-アミノフェニル)フルオレン、4,4'-イソプロピリデンビス[(4-アミノフェノキシ)ベンゼン]が挙げられる。
【0017】
前記アルデヒド化合物としては特に限定されないが、ホルムアルデヒドが好ましい。ホルムアルデヒドとしては、重合体であるパラホルムアルデヒド、または水溶液の形態であるホルマリンなどを使用することが可能である。
【0018】
前記芳香族系非極性溶媒としては例えば、ベンゼン、トルエン、キシレン、メシチレン、テトラリントルエン等が挙げられる。
【0019】
前記工程(I)において、好ましくは前記溶媒があらかじめアルコールを含む。前記アルコールとしては例えば、脂肪族アルコール、芳香族アルコール、脂環式アルコールが挙げられるが、これらの中でも脂肪族アルコールが好ましい。
【0020】
脂肪族アルコールとしては例えば、メタノール、エタノール、n-プロパノール、イソプロパノール、n-ブタノール、イソブタノール、tert-ブタノール等が挙げられる。芳香族アルコールとしては例えば、ベンゼンエタノール(フェネチルアルコール)およびメチルベンジルアルコール等が挙げられる。脂環式アルコールとしては例えば、シクロペンタノール、シクロヘキサノール、シクロオクタノール等が挙げられる。
【0021】
前記溶媒における前記アルコールと、前記芳香族系非極性溶媒との質量比は、例えば1:5であってもよいが、好ましくは1:1~1:50、より好ましくは1:2~1:25、さらに好ましくは1:3~1:10である。前記溶媒がアルコールを含むことにより、ジアミン化合物とアルデヒド化合物の反応時に、ゲル状のトリアジンが生じることを回避できる。
【0022】
前記溶媒にアルコールが含まれない場合、工程(I)を実施している間に、前記溶媒にアルコールを添加する工程がさらに実施されてもよい。アルコールの添加量は特に限定されないが、上述した前記アルコールと、前記芳香族系非極性溶媒との質量比の好ましい範囲内となるように添加することが好ましい。
【0023】
(工程(II))
本製造方法の工程(II)は、工程(I)において生じた水を、溶媒に含まれるアルコールと共に除去する工程である。前記ジアミン化合物と前記アルデヒド化合物とが反応すると、反応生成物であるトリアジンと共に、副生成物である水が生じる。副生成物の水を除去することにより、熱硬化性樹脂の硬化成形体が、破断応力と伸びのバランスに優れ、柔軟性を有するようになる。また、上述した通り、溶媒に含まれるアルコールは二官能フェノール化合物を添加する段階においては反応の妨げとなるため、工程(III)を実施する前に水と共にアルコールを除去することにより、工程(III)における反応をより効率的に進めることができる。
【0024】
工程(II)において、水を溶媒に含まれるアルコールと共に除去する方法は特に限定されないが、例えば乾燥剤を用いて除去する方法、共沸させる方法等が挙げられる。プロセス・コストの観点から、好ましくは共沸させることにより水は系外に除去されることが好ましい。工程(II)において、共沸の方法は特に限定されないが、例えば窒素(N)等の気体を流通させて水・アルコールの蒸気の分圧を下げてもよいし、加熱してもよいし、真空ポンプなどにより減圧してもよい。
【0025】
(工程(III))
工程(III)は工程(II)で得られた反応生成物と、二官能フェノール化合物とを反応させる工程である。工程(III)を実施する方法は特に限定されないが、例えば50~200℃、好ましくは80~150℃に加熱した反応生成物に二官能フェノール化合物を加えて、その状態で0.1~20時間還流撹拌を行ってもよい。
【0026】
工程(II)で得られた反応生成物を製造するために使用したジアミン(仕込み量を基準)と、二官能フェノール化合物のモル比率は、好ましくは1:0.5~1:1.5であり、より好ましくは1:0.7~1:1.3であり、さらに好ましくは1:0.9~1:1.1である。
【0027】
前記二官能フェノール化合物としては、例えば、ジヒドロキシジフェニルメタン化合物、ジヒドロキシジフェニルエタン化合物、ジヒドロキシジフェニルプロパン化合物、ジヒドロキシジフェニルブタン化合物、ジヒドロキシジフェニルシクロヘキサン化合物、その他のジヒドロキシフェニル化合物などが挙げられる。
【0028】
ジヒドロキシジフェニルメタン化合物としては、ビス(4-ヒドロキシフェニル)ジフェニルメタン、ビス(4-ヒドロキシフェニル)メタン(通称:ビスフェノールF)などが挙げられる。
【0029】
ジヒドロキシジフェニルエタン化合物としては、1,1-ビス(4-ヒドロキシフェニル)-1-フェニルエタン、1,1-ビス(4-ヒドロキシフェニル)エタン(通称:ビスフェノールE)などが挙げられる。
【0030】
ジヒドロキシジフェニルプロパン化合物としては、2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)プロパン(通称:ビスフェノールAまたはBPA)、2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)ヘキサフルオロプロパン、2,2-ビス(3-メチル-4-ヒドロキシフェニル)プロパン、2,2-ビス(4-ヒドロキシ-3-イソプロピルフェニル)プロパン、5,5’-(1-メチルエチリデン)-ビス[1,1’-(ビスフェニル)-2-オール]プロパンなどが挙げられる。
【0031】
ジヒドロキシジフェニルブタン化合物としては、2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)ブタン(通称:ビスフェノールB)などが挙げられる。
【0032】
ジヒドロキシジフェニルシクロヘキサン化合物としては、1,1-ビス(4-ヒドロキシフェニル)-3,3,5-トリメチルシクロヘキサン、1,1-ビス(4-ヒドロキシフェニル)シクロヘキサンなどが挙げられる。
【0033】
その他のジヒドロキシジフェニル化合物としては、ビス(4-ヒドロキシフェニル)-2,2-ジクロロエチレン、ビス(4-ヒドロキシフェニル)スルホン、1,3-ビス(2-(4-ヒドロキシフェニル)-2-プロピル)ベンゼン、1,4-ビス(2-(4-ヒドロキシフェニル)-2-プロピル)ベンゼンなどが挙げられる。
【0034】
工程(III)において、さらに単官能フェノール化合物を添加することが好ましい。単官能フェノール化合物を添加することにより、得られる熱硬化性樹脂の末端をキャップし、安定性を向上させることができる。
【0035】
前記単官能フェノール化合物の例としては、特に限定されるものではないが、好ましくはフェノール、o-クレゾール、m-クレゾール、p-クレゾール、p-tert-ブチルフェノール、p-オクチルフェノール、p-クミルフェノール、ドデシルフェノール、o-フェニルフェノール、p-フェニルフェノール、1-ナフトール、2-ナフトール、m-メトキシフェノール、p-メトキシフェノール、m-エトキシフェノール、p-エトキシフェノール、3,4-ジメチルフェノール、3,5-ジメチルフェノールなどが挙げられる。この中ではフェノールが好ましい。
【0036】
工程(III)が終了した後、必要に応じて熱硬化性樹脂を精製する精製工程を行ってもよい。精製工程は通常熱硬化性樹脂の精製に使用される方法であれば特に限定されず、例えば乾燥させた熱硬化性樹脂をアルコール等に混合した後、ろ過してから再度乾燥させることによって行うことができる。
【0037】
〔2.熱硬化性樹脂〕
本発明の一実施形態に係る熱硬化性樹脂は、前記工程(I)~(III)を経て製造される。前記工程(I)~(III)により得られた熱硬化性樹脂は、ベンゾオキサジン環を主鎖中に有する。
【0038】
前記熱硬化性樹脂の溶融粘度は、温度150℃で5000/Pa・s以下が好ましく、3900/Pa・s以下がより好ましく、3100/Pa・s以下が最も好ましい。前記熱硬化性樹脂の温度150℃での溶融粘度が上記範囲であれば、取り扱い性に優れると言える。前記熱硬化性樹脂の温度150℃での溶融粘度の下限値は特に限定されないが、100/Pa・s以上であってもよい。なお、溶融粘度は後述する実施例に記載の方法で測定することができる。
前記熱硬化性樹脂の温度180℃での溶融粘度は、100~5000/Pa・sが好ましく、1000~4000/Pa・sがより好ましく、2100~3500/Pa・sが最も好ましい。前記熱硬化性樹脂の温度180℃での溶融粘度が上記範囲であれば、取り扱い性に優れると言える。
【0039】
前記熱硬化性樹脂は、硬化成形体の機械物性を向上する観点から、数平均分子量(Mn)が、1000~5000であることが好ましく、2000~4000であることがより好ましく、2600~3500であることがさらに好ましい。また、前記熱硬化性樹脂は、加工性の観点から、重量平均分子量(Mw)が、8000以下であることが好ましく、7500以下であることがより好ましく、7000以下であることがさらに好ましい。Mwの下限値は特に限定されないが、例えば4400以上であってもよい。数平均分子量および重量平均分子量は、後述の実施例に示す通りゲル浸透クロマトグラフ測定装置(GPC)によって測定することができる。
【0040】
前記熱硬化性樹脂は、ベンゾオキサジン環構造以外の構造を含んでいてもよく、含んでいなくてもよい。例えば、ベンゾオキサジン環構造の末端を封止するための単環フェノール化合物由来の構造を有していてもよい。また、前記熱硬化性樹脂は、脂肪族モノアミン、(ポリ)オキシアルキレンモノアミン化合物由来の構造を含んでいてもよい。
【0041】
前記熱硬化性樹脂は必要に応じて他の樹脂と組み合わせて樹脂組成物とすることができる。その場合、前記樹脂組成物は前記熱硬化性樹脂を主成分として含み、他の熱硬化性樹脂、熱可塑性樹脂、配合剤を副成分として含んでいてもよい。
【0042】
他の熱硬化性樹脂としては、例えば、エポキシ系樹脂、熱硬化型変性ポリフェニレンエーテル樹脂、熱硬化性ポリイミド樹脂、ケイ素樹脂、メラミン樹脂、ユリア樹脂、アリル樹脂、フェノール樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、ビスマレイミド系樹脂、アルキド樹脂、フラン樹脂、ポリウレタン樹脂、アニリン樹脂等が挙げられる。熱可塑性樹脂としては、例えば、熱可塑性エポキシ樹脂、熱可塑性ポリイミド樹脂等が挙げられる。
【0043】
配合剤としては、必要に応じて、難燃剤、造核剤、酸化防止剤、老化防止剤、熱安定剤、光安定剤、紫外線吸収剤、滑剤、難燃助剤、帯電防止剤、防曇剤、充填剤、軟化剤、可塑剤、着色剤等が挙げられる。これらはそれぞれ単独で用いられてもよく、2種以上を併用しても構わない。また、反応性あるいは非反応性の溶剤を使用することもできる。
【0044】
〔3.硬化成形体〕
本発明の一実施形態には、上述した熱硬化性樹脂、または組成物を硬化させてなる硬化成形体も包含される。前記熱硬化性樹脂は工程(I)~工程(III)を経て製造されるため、硬化成形体は伸び率と破断応力のバランス、および柔軟性に優れる。
【0045】
硬化成形体の寸法および形状は特に制限されず、例えば、フィルム状、シート状、板状、ブロック状等が挙げられる。未硬化成形体および硬化成形体は、上述の熱硬化性樹脂または組成物からなる層に加えて、他の層(例えば粘着層)を備えていてもよい。
【0046】
硬化成形体の引張弾性率は、0.5GPa以上が好ましく、1.0GPa以上がより好ましく、1.5GPa以上がさらに好ましい。
【0047】
硬化成形体の引張破断強度は、55MPa以上が好ましく、60MPa以上がより好ましく、70MPa以上がさらに好ましい。硬化成形体の引張破断強度の上限は特に限定されないが、例えば200MPa以下であってもよい。硬化成形体の引張破断強度が上記範囲であれば、耐久力に優れると言える。
【0048】
硬化成形体の引張破断伸び率は、2.7%以上であることが好ましく、2.9%以上であることがより好ましく、3.0%以上であることがさらに好ましい。引張破断伸び率の上限は特に限定されないが、例えば10%以下であってもよい。硬化成形体の引張破断伸び率は、後述する実施例に記載の方法により測定することができる。
【0049】
硬化成形体のガラス転移温度(Tg)は、耐熱性の観点から100℃以上であることが好ましく、150℃以上であることがより好ましく、180℃以上であることがさらに好ましい。Tgの上限は特に限定されないが、300℃以下であってもよく、250℃以下であってもよく、200℃以下でもあってもよい。
【0050】
硬化成形体は、柔軟性を備えることが好ましい。硬化成形体が柔軟性を有するかどうかは、例えば後述する実施例に記載のように、硬化成形体をシート状にして、手で曲げた場合に破損するかどうかを確かめることによって判断できる。
【0051】
硬化成形体の成形方法は、特に限定されず、上述の熱硬化性樹脂または組成物を溶媒に溶解して得られた溶液を基材上にキャストして成形する方法(キャスト法)、上述の熱硬化性樹脂または組成物をプレスして成形する方法(プレス法)等が挙げられる。キャスト法に用いる溶媒としては、N,N-ジメチルホルムアミド(DMF)、テトラヒドロフラン(THF)、クロロホルム、N,N-ジメチルアセトアミド、N-メチル-2-ピロリドン、N,N-ジエチルアセトアミド、N-メチルカプロラクタム、γ-ブチロラクトン、シクロヘキサノン、ジメチルスルホキシド、シクロペンタノン、1,4-ジオキサン、1,3-ジオキソラン等が挙げられる。プレス法における圧力は、特に限定されないが、例えば0.1~20MPaであってもよい。
【0052】
硬化成形体の硬化温度(徐々に昇温していく場合はそのうちの最高温度)は、特に限定されないが、200~300℃であることが好ましく、210~280℃であることがより好ましく、220~260℃であることがさらに好ましい。また、硬化成形体の硬化時間も特に限定されないが、10分~4時間であることが好ましく、30分~3時間であることが好ましく、45分~2時間であることがさらに好ましい。
【0053】
硬化成形体は、電子部品および電子機器、並びにそれらの材料、特に優れた誘電特性が要求される多層基板、積層板、封止剤、接着剤等の用途に好適に用いることができ、その他、航空機部材、自動車部材、建築部材等の用途にも使用することができる。
【0054】
前記硬化成形体は、硬化成形体の機械強度を向上させる観点から、強化繊維を含んでいてもよい。強化繊維としては例えば、無機繊維、有機繊維、金属繊維、またはこれらを組み合わせたハイブリッド構成の強化繊維等が挙げられる。強化繊維は、1種類でも2種類以上でもよい。
【0055】
無機繊維としては、炭素繊維、黒鉛繊維、炭化珪素繊維、アルミナ繊維、タングステンカーバイド繊維、ボロン繊維、ガラス繊維等が挙げられる。有機繊維としては、アラミド繊維、高密度ポリエチレン繊維、その他一般のナイロン繊維、ポリエステル繊維等が挙げられる。金属繊維としては、ステンレス、鉄等の繊維が挙げられる。また、金属繊維としては、金属繊維を炭素で被覆した炭素被覆金属繊維が挙げられる。この中でも、硬化成形体の強度を高める観点から、強化繊維は炭素繊維であることが好ましい。
【0056】
一般的に、前記炭素繊維には、サイジング処理が施されているが、そのまま用いてもよく、必要に応じて、サイジング剤使用量の少ない繊維を用いること、または有機溶剤処理もしくは加熱処理などの既存の方法にてサイジング剤を除去することもできる。また、予め炭素繊維の繊維束をエアーまたはローラーなどを用いて開繊し、炭素繊維の単糸間に樹脂を含浸させやすくするような処理を施してもよい。
【0057】
本発明の一実施形態には、上述の熱硬化性樹脂または組成物を強化繊維に含浸させてなるプリプレグまたはセミプレグも包含される。本明細書においてセミプレグとは、熱硬化性樹脂または組成物を強化繊維に部分的に含侵して(半含浸状態)、一体化した複合体を意味する。また、前記セミプレグから、プリプレグを得ることができる。例えば、セミプレグをさらに加熱溶融することによって、樹脂を強化繊維に含浸させることによりプリプレグを得ることができる。すなわち、本明細書においてプリプレグとは、強化繊維への樹脂の含浸の程度がセミプレグよりも進んだものであるとも言える。
【0058】
セミプレグまたはプリプレグは、例えば、強化繊維に予め樹脂が含浸しているシート(強化繊維平織材)の表裏に前記硬化成形体を重ね、所定の温度および所定の圧力によってプレスすることによって得てもよい。
【0059】
また、前記硬化成形体は、炭素繊維複合材料として使用することができる。炭素繊維複合材料は炭素繊維強化プラスチック(CFRP)とも称される。炭素繊維複合材料の作製の方法は特に限定されないが、例えば、炭素繊維に樹脂が含浸したシートであるセミプレグもしくはプリプレグを使用する方法、または炭素繊維(束状または織物状)に液状の樹脂を含浸させる方法を用いてもよい。上述の硬化成形体をセミプレグまたはプリプレグとして成形し、該セミプレグまたはプリプレグを炭素繊維複合材料の作製に用いてもよい。
【0060】
なお、ここでは一例として炭素繊維複合材料を挙げているが、上述の通り、使用可能な強化繊維は炭素繊維に限定されない。すなわち、本発明の一実施形態には、上述の熱硬化性樹脂または組成物を強化繊維に含浸させて、前記熱硬化性樹脂または前記組成物を硬化させてなる、強化繊維複合材料も包含される。
【0061】
上述したような構成によれば、硬化成形体の物性向上により、硬化成形体を用いた物品の耐久性が向上するため、例えば、目標12「持続可能な消費生産形態を確保する」等の持続可能な開発目標(SDGs)の達成に貢献できる。
【0062】
本発明は上述した各実施形態に限定されるものではなく、請求項に示した範囲で種々の変更が可能であり、異なる実施形態にそれぞれ開示された技術的手段を適宜組み合わせて得られる実施形態についても本発明の技術的範囲に含まれる。
【0063】
〔4.その他〕
本発明の一実施形態は、以下の構成であってもよい。
<1>ベンゾオキサジン環構造を主鎖中に有する熱硬化性樹脂の製造方法であって、
ジアミン化合物とアルデヒド化合物とを、芳香族系非極性溶媒を含む溶媒中で反応させる工程(I)と、
前記工程(I)で生じた水を、溶媒中のアルコールと共に除去する工程(II)と、
前記工程(II)にて得られた反応生成物と、二官能フェノール化合物とを反応させる工程(III)と、を有する、熱硬化性樹脂の製造方法。
<2>前記工程(I)において、前記溶媒があらかじめアルコールを含む、<1>に記載の熱硬化性樹脂の製造方法。
<3>前記工程(I)を実施している間に、溶媒にアルコールを添加する工程を有する、<1>に記載の熱硬化性樹脂の製造方法。
<4>前記工程(II)において、水はアルコールと共沸させることにより系外に除去される、請求項<1>~<3>のいずれかに記載の熱硬化性樹脂の製造方法。
<5>前記工程(III)において、さらに単官能フェノール化合物を添加する、<1>~<4>のいずれかに記載の熱硬化性樹脂の製造方法。
<6>前記ジアミン化合物は芳香族ジアミン化合物である、<1>~<5>のいずれかに記載の熱硬化性樹脂の製造方法。
【実施例0064】
本発明の一実施例について以下に説明する。なお、以下においてベンゾオキサジン樹脂は熱硬化性樹脂、硬化フィルムは硬化成形体に相当する。
【0065】
〔試験方法〕
(分子量測定)
ベンゾオキサジン樹脂の分子量を、ゲル浸透クロマトグラフ測定装置(GPC)(島津製作所社製、Prominence UFLC)を用いて測定した。測定において、溶離液として0.01mol/Lの塩化リチウム含有DMFを用い、カラムとしてTSKgel GMHHR-Mを3本直列に連結して用い、流量1mL/min、注入量20μL、カラム温度40℃として、検出にはUV検出器を用い、較正曲線の試料としてポリスチレンを用いた。
【0066】
(溶融粘度測定)
ARES G2(TAインスツルメンツ社製)を用いて、25mmパラレルプレートで昇温速度5℃/min、角周波数10.0rad/s(1.6Hz)、ひずみ0.01%により測定した。なお、当該条件にて測定された溶融粘度の最小値を「最小溶融粘度」とした。
【0067】
(ガラス転移温度(Tg))
硬化フィルムのTgを、動的粘弾性測定装置(DMA、TA Instruments社製、RSA G2、引張モード)を用い、周波数(1Hz)、昇温速度5℃/minの条件で測定した。得られたDMA曲線の貯蔵弾性率(E’)から求められる補外ガラス転移開始温度(変曲点より前のベースラインを高温側に外挿した直線と、変曲点における接線との交点)を本実施例におけるTgとした。
【0068】
(硬化フィルムの力学特性)
硬化フィルムについて、引張試験装置(島津製作所社製、EZ-SX)を用いて引張試験を実施した。試験温度は室温とし、引張速度5mm/min、試験片形状は長さ40mm、幅3mmとした。これにより、引張弾性率(tensile modulus)、引張破断強度(tensile strength)、引張破断伸び率(elongation)を測定した。
【0069】
(硬化フィルムの手曲げ特性)
作製した硬化フィルムについて、そのまま手で折り曲げることにより手曲げ特性を評価した。試験温度は室温とし、試験片の形状は長さ6cm、幅4cmとした。手曲げ特性は以下の基準で評価した。
○:手で折り曲げた場合でも破損しない。
×:手で折り曲げると破損する。
【0070】
〔材料〕
ベンゾオキサジン樹脂の製造に使用した材料を以下に示す。
【0071】
(二官能フェノール化合物)
・2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)プロパン(ビスフェノールA、BisA)(東京化成工業(TCI)社製)
(芳香族ジアミン化合物)
・4,4'-イソプロピリデンビス[(4-アミノフェノキシ)ベンゼン](BAPP)(TCI製)
(アルデヒド化合物)
・パラホルムアルデヒド(Merch社製)(PF)
【0072】
〔製造例1〕
溶媒としてトルエン25mLとエタノール5mLを200mLフラスコ中に秤量し混合した。溶媒にパラホルムアルデヒド(2.45g)、BAPP(8.12g)を加え、常温にて10分間撹拌した。次にフラスコをオイルバスに入れ100℃に昇温し還流撹拌した。1時間後、Nを流して、共沸により溶媒に含まれる水およびアルコール(10mL)を除去した。溶媒除去後にオイルバスを90℃に設定した。オイルバスの温度が90℃になったことを確認し、反応溶液にBisA(4.51g)を添加した。90℃にて還流撹拌し、5時間後に反応を止めた。この反応溶液のGPCによる分子量の測定では、標準ポリスチレン換算で重量平均分子量(Mw)は5454、数平均分子量(Mn)は2936であった。反応溶液を90℃真空下にて1時間乾燥させ固形分を得た。得られた固形分を粉末化し、メタノール中に濃度が5%となるよう粉末を混合し1時間撹拌した。その後、ろ過により固形分を得た。得られた固形分を90℃真空下にて1時間乾燥し、目的物であるベンゾオキサジン樹脂1を得た。H-NMR測定(重溶媒はCDCl3)によって、4.5ppmおよび5.3ppmのベンゾオキサジン環のピーク生成を観測し、ベンゾオキサジン樹脂1が合成できていることを確認した。この樹脂について溶融粘度を測定した。
【0073】
〔製造例2〕
溶媒としてトルエン25mLを200mLフラスコ中に秤量した。溶媒にパラホルムアルデヒド(2.45g)、BAPP(8.12g)を加え、常温にて10分間撹拌した。次にフラスコをオイルバスに入れ100℃に昇温し還流撹拌した。10分後、反応溶液中にゲルが発生したことを確認し、エタノール5mLをさらに添加した。1時間後、ゲルが溶解し透明な溶液となったことを確認し、Nを流して、共沸により溶媒に含まれる水およびアルコール(10mL)を除去した。溶媒除去後にオイルバスを90℃に設定した。オイルバスの温度が90℃になったことを確認し、反応溶液にBisA(4.51g)を添加した。90℃にて還流撹拌し、5時間後に反応を止めた。この反応溶液のGPCによる分子量の測定では、標準ポリスチレン換算で重量平均分子量(Mw)は6400、数平均分子量(Mn)は3400であった。反応溶液を90℃真空下にて1時間乾燥させ固形分を得た。得られた固形分を粉末化し、メタノール中に濃度が5%となるよう粉末を混合し1時間撹拌した。その後、ろ過により固形分を得た。得られた固形分を90℃真空下にて1時間乾燥し、目的物であるベンゾオキサジン樹脂2を得た。H-NMR測定(重溶媒はCDCl3)によって、4.5ppmおよび5.3ppmのベンゾオキサジン環のピーク生成を観測し、ベンゾオキサジン樹脂2が合成できていることを確認した。この樹脂について溶融粘度を測定した。
【0074】
〔製造例3〕
溶媒としてトルエン25mLとエタノール5mLを200mLフラスコ中に秤量し混合した。溶媒にパラホルムアルデヒド(2.45g)、BAPP(8.12g)、BisA(4.51g)を加え、常温にて10分間撹拌した。次にフラスコをオイルバスに入れ90℃に昇温し還流撹拌した。6時間後に反応を止めた。この反応溶液のGPCによる分子量の測定では、標準ポリスチレン換算で重量平均分子量(Mw)は3700、数平均分子量(Mn)は2300であった。反応溶液を90℃真空下にて1時間乾燥させ固形分を得た。得られた固形分を粉末化し、メタノール中に濃度が5%となるよう粉末を混合し1時間撹拌した。その後、ろ過により固形分を得た。得られた固形分を90℃真空下にて1時間乾燥し、目的物であるベンゾオキサジン樹脂3を得た。H-NMR測定(重溶媒はCDCl3)によって、4.5ppmおよび5.3ppmのベンゾオキサジン環のピーク生成を観測し、ベンゾオキサジン樹脂3が合成できていることを確認した。この樹脂について溶融粘度を測定した。
【0075】
〔製造例4〕
溶媒としてトルエン25mLとエタノール5mLを200mLフラスコ中に秤量し混合した。溶媒にパラホルムアルデヒド(2.45g)、BAPP(8.12g)、BisA(4.51g)を加えて、常温にて10分間撹拌した。次にフラスコをオイルバスに入れ90℃に昇温し還流撹拌した。30時間後に反応を止めた。この反応溶液のGPCによる分子量の測定では、標準ポリスチレン換算で重量平均分子量(Mw)は8700、数平均分子量(Mn)は4000であった。反応溶液を90℃真空下にて1時間乾燥させ固形分を得た。得られた固形分を粉末化し、メタノール中に濃度が5%となるよう粉末を混合し1時間撹拌した。その後、ろ過により固形分を得た。得られた固形分を90℃真空下にて1時間乾燥し、目的物であるベンゾオキサジン樹脂4を得た。H-NMR測定(重溶媒はCDCl3)によって、4.5ppmおよび5.3ppmのベンゾオキサジン環のピーク生成を観測し、ベンゾオキサジン樹脂4が合成できていることを確認した。この樹脂について溶融粘度を測定した。
【0076】
〔製造例5〕
溶媒としてトルエン25mLとエタノール5mLを200mLフラスコ中に秤量し混合した。溶媒へパラホルムアルデヒド(2.45g)、BAPP(8.12g)を加えて、常温にて10分間撹拌した。次にフラスコをオイルバスに入れ90℃に昇温し、1時間還流撹拌した。撹拌後、反応溶液にBisA(4.51g)を添加した。90℃にて還流撹拌し、30時間後に反応を止めた。この反応溶液のGPCによる分子量の測定では、標準ポリスチレン換算で重量平均分子量(Mw)は9900、数平均分子量(Mn)は4500であった。反応溶液を90℃真空下にて1時間乾燥させ固形分を得た。得られた固形分を粉末化し、メタノール中に濃度が5%となるよう粉末を混合し1時間撹拌した。その後、ろ過により固形分を得た。得られた固形分を90℃真空下にて1時間乾燥し、目的物であるベンゾオキサジン樹脂5を得た。H-NMR測定(重溶媒はCDCl3)によって、4.5ppmおよび5.3ppmのベンゾオキサジン環のピーク生成を観測し、ベンゾオキサジン樹脂5が合成できていることを確認した。この樹脂について溶融粘度を測定した。
【0077】
〔実施例1〕
製造例1によって得られたベンゾオキサジン樹脂1を厚み125μmのPIフィルム型枠(外寸10cm×8cm、内寸6cm×4cm)に入れ、テフロン(登録商標)シート(離型紙)、ステンレス板とともにプレスすることにより、硬化フィルムを得た。プレス機としてMINI TEST PRESS-10(東洋精機社製)を使用した。硬化フィルムを得るための加工条件は下記の通りとした。硬化フィルムの加工条件:150℃で5分間5MPaプレスし、更に240℃で1時間、同圧力でプレスすることで硬化フィルムを得た。得られた硬化フィルムは、手で軽く曲げる程度では破壊されない程度の柔軟性を有していた。得られた硬化フィルムについて、ガラス転移温度(Tg)、力学特性を測定した。
【0078】
〔実施例2〕
製造例2によって得られたベンゾオキサジン樹脂2を使用したこと以外は実施例1と同様にして、硬化フィルムを得た。この硬化フィルムは、手で軽く曲げる程度では破壊されない程度の柔軟性を有していた。この硬化フィルムについて、ガラス転移温度(Tg)、力学特性を測定した。
【0079】
〔比較例1〕
製造例3によって得られたベンゾオキサジン樹脂3を使用したこと以外は実施例1と同様にして、硬化フィルムを得た。この硬化フィルムは、手で軽く曲げる程度で破壊されるほど脆かった。この硬化フィルムについて、ガラス転移温度(Tg)、力学特性を測定した。
【0080】
〔比較例2〕
製造例4によって得られたベンゾオキサジン樹脂4を使用したこと以外は実施例1と同様にして、硬化フィルムを得た。この硬化フィルムは、手で軽く曲げる程度では破壊されない程度の柔軟性を有していた。この硬化フィルムについて、ガラス転移温度(Tg)、力学特性を測定した。
【0081】
〔比較例3〕
製造例5によって得られたベンゾオキサジン樹脂5を使用したこと以外は実施例1と同様にして、硬化フィルムを得た。この硬化フィルムは、手で軽く曲げる程度では破壊されない程度の柔軟性を有していた。この硬化フィルムについて、ガラス転移温度(Tg)、力学特性を測定した。
【0082】
〔評価結果〕
各製造例の熱硬化性樹脂の製造方法を表1に示す。また熱硬化性樹脂および硬化フィルムの物性を下記表2に示す。
【0083】
【表1】
【0084】
【表2】
【0085】
表2より、実施例1の硬化前の樹脂は溶融粘度が低いため、加工性に優れるとともに、樹脂の硬化成形体であるフィルムにおいても、破断応力と伸びのバランスに優れ、手で軽く曲げた程度では破損しない柔軟性を有していることが分かる。また、実施例2の硬化前の樹脂も同じく溶融粘度が低いため、加工性に優れるとともに、樹脂の硬化成形体であるフィルムについて、破断応力と伸びのバランスに優れ、手で軽く曲げた程度では破損しない柔軟性を有していることが分かる。
【0086】
一方で比較例1の樹脂を硬化させたフィルムについて、破断応力と伸びのバランスが悪く、しかも、手で軽く曲げた程度で破損してしまうため、柔軟性に劣ることが分かる。また、比較例2および3の硬化前の樹脂は、溶融粘度が高いため、加工性に劣るとともに、樹脂の硬化成形体であるフィルムにおいても、破断応力と伸びのバランスが悪いことが分かる。
【0087】
以上のように、ジアミン化合物とアルデヒド化合物とをあらかじめ溶媒中で反応させた後、水およびアルコールを除去し、さらにフェノール化合物と反応させる製造方法により得られた樹脂は、加工性に優れ、硬化成形体とした場合の物性に優れることが示された。これは、上記製造方法を採用することにより、製造時の望ましくない副反応(たとえばベンゾオキサジン環の開環反応、架橋反応(ゲル化))を抑制できるため、樹脂の分子量を所望の範囲に制御し、かつ、樹脂の溶融粘度を所望の範囲に制御することが可能となったことによると考えられる。
【0088】
また、上記水およびアルコールを除去しなかった場合(比較例1~3)あるいは3成分を一括で反応させた場合(比較例1、2)は、樹脂の製造中に上述した望ましくない副反応が起こり得るために、硬化前の樹脂において、溶融粘度が高くなったり、硬化後のフィルムにおいて、破断応力と伸びのバランスが悪くなったり、手で軽く曲げた程度で破損してしまうと考えられる。
【0089】
さらに、比較例2、3のフィルムに使用した樹脂は製造に30時間程度要したのに対して、実施例1、2に使用した樹脂は6時間程度で製造可能であった。加えて、実施例1、2に使用した樹脂と同程度の6時間で製造した比較例1のフィルムに使用した樹脂は物性に劣っていた。つまり、上記製造方法を採用することにより、より短時間で優れた物性の硬化成形体を製造可能であると言える。
【産業上の利用可能性】
【0090】
本発明の一態様は、熱硬化性樹脂を用いる分野に利用することができる。