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特開2023-146636害虫忌避組成物、害虫忌避剤、及び害虫忌避方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023146636
(43)【公開日】2023-10-12
(54)【発明の名称】害虫忌避組成物、害虫忌避剤、及び害虫忌避方法
(51)【国際特許分類】
   A01N 37/46 20060101AFI20231004BHJP
   A01P 17/00 20060101ALI20231004BHJP
   A01N 31/06 20060101ALI20231004BHJP
【FI】
A01N37/46
A01P17/00
A01N31/06
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022053924
(22)【出願日】2022-03-29
(71)【出願人】
【識別番号】000125347
【氏名又は名称】学校法人近畿大学
(71)【出願人】
【識別番号】000100539
【氏名又は名称】アース製薬株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002000
【氏名又は名称】弁理士法人栄光事務所
(72)【発明者】
【氏名】長井 紀章
(72)【発明者】
【氏名】川口 麻由
【テーマコード(参考)】
4H011
【Fターム(参考)】
4H011AC06
4H011BA01
4H011BB03
4H011BB06
4H011BC08
4H011DA13
4H011DA16
4H011DG04
(57)【要約】
【課題】害虫に対して優れた忌避効果を発揮し、かつ、製剤の安定性を保ち、使用感に優れる害虫忌避組成物、及び害虫忌避剤を提供することを目的とする。
【解決手段】3-[アセチル(ブチル)アミノ]プロピオン酸エチルと、2-ヒドロキシプロピル-β-シクロデキストリンとを含有する、害虫忌避組成物、害虫忌避剤、及び該害虫忌避組成物を用いた害虫忌避方法。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
3-[アセチル(ブチル)アミノ]プロピオン酸エチルと、2-ヒドロキシプロピル-β-シクロデキストリンとを含有する、害虫忌避組成物。
【請求項2】
更にl-メントールを含有する、請求項1に記載の害虫忌避組成物。
【請求項3】
前記l-メントールの含有量に対する前記2-ヒドロキシプロピル-β-シクロデキストリンの含有量が質量比で2~20である、請求項2に記載の害虫忌避組成物。
【請求項4】
前記3-[アセチル(ブチル)アミノ]プロピオン酸エチルの含有量に対する前記2-ヒドロキシプロピル-β-シクロデキストリンの含有量が質量比で0.1~1である、請求項1~3のいずれか一項に記載の害虫忌避組成物。
【請求項5】
前記2-ヒドロキシプロピル-β-シクロデキストリンの含有量が1質量%~10質量%である、請求項1~4のいずれか一項に記載の害虫忌避組成物。
【請求項6】
請求項1~5のいずれか一項に記載の害虫忌避組成物を含む害虫忌避剤。
【請求項7】
請求項1~5のいずれか一項に記載の害虫忌避組成物を用いた害虫忌避方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、害虫忌避組成物、害虫忌避剤、及び害虫忌避方法に関する。
【背景技術】
【0002】
蚊類、ブユ類、ダニ類等の害虫は、種々の感染症(例えば、マラリア、黄熱、ライム病、デング熱等)を媒介する。従来より、害虫忌避剤を適用することで、これらの害虫を忌避することが行われており、多くの害虫忌避剤が開発されてきた。例えば、害虫忌避成分として、3-[アセチル(ブチル)アミノ]プロピオン酸エチル、N,N-ジエチル-m-トルアミド(ディート(DEET))等を用いたものが知られている。
このような害虫忌避剤は、通常、手足や腕等に直接塗布したり、衣服の上から塗布したりして使用される。
【0003】
しかしながら、上記のような害虫忌避成分は水への溶解性が低く、製剤の安定性に課題があったり、また、害虫忌避剤を使用する際にべたつきを感じる等の使用感に課題があった。そこで、エタノールやその他成分を配合することで製剤の安定性向上や使用感の向上を図ることが検討されている。
例えば、特許文献1には、溶剤としてエタノールを含有し、ディートとモノテルペン類を含有することで、人体皮膚面に適用したときにベトツキ感や皮膚刺激が少なく、使用感に優れ、噴霧によって微粒子化された場合の鼻粘膜への刺激を低減し、かつ施用したときの害虫忌避効力の持続性に優れた害虫忌避エアゾールが記載されている。特許文献2には、特定量の、ディートと、精油と、水と、アルコール(エタノール)とを含み、べたつき感や毛髪に対するごわごわする不快感を与えず、ディートと精油による相乗効果により衛生害虫を忌避することができる衛生害虫忌避剤が記載されている。
また、エタノールを使用した忌避剤は、使用時に刺激を感じることがあるため、特許文献3では、忌避有効成分(イカリジン等)に特定の界面活性剤と特定のアルコールを含有することで、低刺激で安定性、使用感、有効成分の滞留性に優れたエタノールフリーの忌避剤が検討されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平11-171703号公報
【特許文献2】特開2014-201581号公報
【特許文献3】特開2019-26603号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の課題は、水への溶解性が低い害虫忌避成分を配合する場合であっても、害虫に対して優れた忌避効果を発揮し、製剤の安定性に優れた害虫忌避組成物、害虫忌避剤、及び該害虫忌避組成物を用いた害虫忌避方法を提供することである。さらに、使用感に優れた害虫忌避組成物、害虫忌避剤、及び該害虫忌避組成物を用いた害虫忌避方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者は、上記課題を解決するべく鋭意検討を行った結果、以下の構成からなる解決手段を見出し、本発明を完成するに至った。
〔1〕
3-[アセチル(ブチル)アミノ]プロピオン酸エチルと、2-ヒドロキシプロピル-β-シクロデキストリンとを含有する、害虫忌避組成物。
〔2〕
更にl-メントールを含有する、〔1〕に記載の害虫忌避組成物。
〔3〕
前記l-メントールの含有量に対する前記2-ヒドロキシプロピル-β-シクロデキストリンの含有量が質量比で2~20である、〔2〕に記載の害虫忌避組成物。
〔4〕
前記3-[アセチル(ブチル)アミノ]プロピオン酸エチルの含有量に対する前記2-ヒドロキシプロピル-β-シクロデキストリンの含有量が質量比で0.1~1である、〔1〕~〔3〕のいずれか一項に記載の害虫忌避組成物。
〔5〕
前記2-ヒドロキシプロピル-β-シクロデキストリンの含有量が1質量%~10質量%である、〔1〕~〔4〕のいずれか一項に記載の害虫忌避組成物。
〔6〕
〔1〕~〔5〕のいずれか一項に記載の害虫忌避組成物を含む害虫忌避剤。
〔7〕
〔1〕~〔5〕のいずれか一項に記載の害虫忌避組成物を用いた害虫忌避方法。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、害虫に対して優れた忌避効果を発揮し、製剤の安定性に優れた害虫忌避組成物、害虫忌避剤、及び該害虫忌避組成物を用いた害虫忌避方法を提供することができる。さらに、使用感に優れた害虫忌避組成物、害虫忌避剤、及び該害虫忌避組成物を用いた害虫忌避方法を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0008】
本発明の害虫忌避組成物は、3-[アセチル(ブチル)アミノ]プロピオン酸エチルと、2-ヒドロキシプロピル-β-シクロデキストリンとを含有する。
【0009】
3-[アセチル(ブチル)アミノ]プロピオン酸エチルは、下記の式(A)に示される構造を有している。
【0010】
【化1】
【0011】
本発明の実施形態に係る害虫忌避組成物においては、3-[アセチル(ブチル)アミノ]プロピオン酸エチルを害虫忌避成分として含有する。
【0012】
本発明の実施形態に係る害虫忌避組成物は、3-[アセチル(ブチル)アミノ]プロピオン酸エチル以外の害虫忌避成分を更に含有してもよい。更に含有し得る害虫忌避成分としては、例えば、N,N-ジエチル-3-メチルベンズアミド(ディート)、2-(2-ヒドロキシエチル)-1-ピペリジンカルボン酸1-メチルプロピルエステル、p-メンタン-3,8-ジオール等が挙げられる。更に含有し得る害虫忌避成分は、シトロネラール、シトロネロール、シトラール、リナロール、テルピネオール、α-ピネン、カンファー、ゲラニオール、カラン-3,4-ジオール、ペパーミント、シダーウッド、ラベンダー、ティートゥリー、カモミール、ゼラニウム、桂皮、シトロネラ、レモングラス、クローバ、ベルガモット、月桂樹、ユーカリ等の精油成分、抽出液等でもよい。更に含有し得る害虫忌避成分は、例えば、アクリナトリン、アレスリン、ベータ-シフルトリン、ビフェントリン、シクロプロトリン、シフルトリン、シハロトリン、シペルメトリン、エンペントリン、デルタメトリン、エスフェンバレレート、エトフェンプロックス、フェンプロパトリン、フェンバレレート、フタルスリン、フルシトリネート、フルフェンプロックス、フルメトリン、フルバリネート、ハルフェンプロックス、ペルメトリン、プラレトリン、ピレトリン、シラフルオフェン、テフルトリン、トラロメトリン、トランスフルトリン、テトラメトリン、フェノトリン、シフェノトリン、ラムダシハロトリン、ガンマシハロトリン、フラメトリン、タウフルバリネート、メトフルトリン、ジメフルトリン、メパフルトリン、プロフルトリン、モンフルオロトリン、レスメトリン等のピレスロイド系化合物を用いることができる。
これらの3-[アセチル(ブチル)アミノ]プロピオン酸エチル以外の害虫忌避成分を1種で含んでいてもよく、2種以上を含んでいてもよい。
【0013】
本発明の実施形態に係る害虫忌避組成物における3-[アセチル(ブチル)アミノ]プロピオン酸エチルの含有量は特に限定されない。本発明の実施形態に係る害虫忌避組成物における、3-[アセチル(ブチル)アミノ]プロピオン酸エチルの含有量は、好ましくは1質量%以上、より好ましくは5質量%以上、更に好ましくは10質量%以上である。3-[アセチル(ブチル)アミノ]プロピオン酸エチルの含有量の上限は特に限定されないが、通常30質量%程度であり、20質量%以下が好ましい。3-[アセチル(ブチル)アミノ]プロピオン酸エチルをこのような濃度で含有させることによって、十分な害虫忌避効果が発揮される。
3-[アセチル(ブチル)アミノ]プロピオン酸エチル以外の害虫忌避成分を更に含有する場合、その含有量は0.01質量%~30質量%とすることが好ましい。
【0014】
本発明の実施形態に係る害虫忌避組成物は、2-ヒドロキシプロピル-β-シクロデキストリンを含有する必要がある。2-ヒドロキシプロピル-β-シクロデキストリンは、難溶性の物質を包接して溶媒中に溶解させる包接化合物として用いることができる環状オリゴ糖である。
本発明の実施形態に係る害虫忌避組成物は、2-ヒドロキシプロピル-β-シクロデキストリンを含有することにより、水への溶解性が低い3-[アセチル(ブチル)アミノ]プロピオン酸エチルを水へ溶解させることができ、製剤の安定性に優れる。
2-ヒドロキシプロピル-β-シクロデキストリンによる3-[アセチル(ブチル)アミノ]プロピオン酸エチルの包接方法は、公知の手段を用いることができる。例えば、3-[アセチル(ブチル)アミノ]プロピオン酸エチルのスラリー又は水溶液を攪拌しながら3-[アセチル(ブチル)アミノ]プロピオン酸エチルを徐々に添加する方法がある。
【0015】
本発明の実施形態に係る害虫忌避組成物は、2-ヒドロキシプロピル-β-シクロデキストリン以外の包接化合物を更に含有してもよい。更に含有し得る包接化合物としては特に制限は無く、例えば、例えばα-シクロデキストリン、2-ヒドロキシプロピル-β-シクロデキストリン以外のβ-シクロデキストリン、γ-シクロデキストリンのようなシクロデキストリン類等の環状オリゴ糖等が挙げられる。
【0016】
本発明の実施形態に係る害虫忌避組成物における2-ヒドロキシプロピル-β-シクロデキストリンの含有量は特に限定されない。本発明の実施形態に係る害虫忌避組成物における、2-ヒドロキシプロピル-β-シクロデキストリンの含有量は、好ましくは0.1質量%以上、より好ましくは1質量%以上、更に好ましくは2質量%以上である。2-ヒドロキシプロピル-β-シクロデキストリンの含有量の上限は特に限定されないが、通常20質量%程度であり、好ましくは10質量%以下、より好ましくは5質量%以下である。本発明の実施形態に係る害虫忌避組成物において、2-ヒドロキシプロピル-β-シクロデキストリンの含有量が1質量%~10質量%であることが好ましい。
3-[アセチル(ブチル)アミノ]プロピオン酸エチルの含有量に対する2-ヒドロキシプロピル-β-シクロデキストリンの含有量は、質量比で0.1~1であることが好ましく、0.1~0.5であることがより好ましく、0.2~0.3であることが更に好ましい。
【0017】
2-ヒドロキシプロピル-β-シクロデキストリンをこのような濃度で含有させることによって、3-[アセチル(ブチル)アミノ]プロピオン酸エチルを水へ溶解させることができ、製剤の十分な安定性が得られる。
2-ヒドロキシプロピル-β-シクロデキストリン以外の包接化合物を更に含有する場合、その含有量は0.01質量%~1質量%とすることが好ましい。
【0018】
本発明の実施形態に係る害虫忌避組成物は、3-[アセチル(ブチル)アミノ]プロピオン酸エチル及び2-ヒドロキシプロピル-β-シクロデキストリンの他に、任意成分として、更にl-メントールを含有していても良い。
本発明の実施形態に係る害虫忌避組成物は、上述のとおり水に難溶性の3-[アセチル(ブチル)アミノ]プロピオン酸エチルを2-ヒドロキシプロピル-β-シクロデキストリンを用いて包接して水に溶解させる。2-ヒドロキシプロピル-β-シクロデキストリンは増粘性を有するため、2-ヒドロキシプロピル-β-シクロデキストリンを配合した害虫忌避組成物を含む害虫忌避剤は、皮膚や髪等に直接適用した場合は溶剤が揮散した後に増粘してべたつきを生じる場合があったが、l-メントールを配合することにより、2-ヒドロキシプロピル-β-シクロデキストリンによるべたつきを軽減することができ、より使用感に優れた害虫忌避剤とすることができる。
【0019】
本発明の実施形態に係る害虫忌避組成物におけるl-メントールの含有量は特に限定されない。本発明の実施形態に係る害虫忌避組成物における、l-メントールの含有量は、好ましくは0.1質量%以上、より好ましくは0.2質量%以上、更に好ましくは0.5質量%以上である。l-メントールの含有量の上限は特に限定されないが、刺激を抑制する観点から、10質量%以下であることが好ましく、5質量%以下であることがより好ましい。
l-メントールの含有量に対する2-ヒドロキシプロピル-β-シクロデキストリンの含有量が質量比で2~20であることが好ましく、2~10であることがより好ましく、2~6であることが更に好ましい。
【0020】
本発明の実施形態に係る害虫忌避組成物は、上記成分のほかに、本発明の効果を阻害しない範囲で、更に任意成分が含まれてもよい。一例を挙げると、任意成分は、溶剤、非イオン、陰イオン又は陽イオン界面活性剤、ブチルヒドロキシトルエン等の抗酸化剤;クエン酸、アスコルビン酸等の安定化剤;タルク、珪酸等の無機粉体、殺菌剤、防黴剤、消臭剤、芳香剤、香料、色素、紫外線吸収剤、キレート剤、保留剤、pH調整剤、増粘剤等である。
【0021】
溶剤が含まれる場合、溶剤の種類は特に限定されない。一例を挙げると、溶剤は、水、エタノール、イソプロピルアルコール等の低級アルコール、ミリスチン酸イソプロピル、プロピレングリコール、ブチレングリコール、エチレングリコールモノメチルエーテルアセテート、プロピレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールジアセテート、ノルマルパラフィン、イソパラフィン、グリセリン等である。溶剤は、併用されてもよい。これらの中でも、溶剤は、害虫忌避成分を充分に溶解し得る点、及び使用時の刺激を防ぐ点から、水であることが好ましい。また、使用時の刺激を防ぎ使用感を得る観点から、エタノール、イソプロピルアルコール等の低級アルコールを含まないことが好ましい。
【0022】
溶剤が含まれる場合、溶剤の含有量は特に限定されないが、溶剤は、例えば、特定の害虫忌避成分の濃度が5質量%以上となるように添加されることが好ましい。一例を挙げると、溶剤の含有量は、害虫忌避組成物中、50質量%以上であることが好ましく、60質量%以上であることがより好ましい。また、溶剤の含有量は、害虫忌避組成物中、95質量%以下であることが好ましく、90質量%以下であることがより好ましい。溶剤の含有量が上記範囲内である場合、害虫忌避組成物は、害虫忌避成分を充分に溶解でき、かつ、優れた害虫忌避効果を発揮しやすい。
【0023】
本発明の実施形態に係る害虫忌避組成物を製造する方法は特に限定されない。例えば、上述の3-[アセチル(ブチル)アミノ]プロピオン酸エチルと、2-ヒドロキシプロピル-β-シクロデキストリンと、必要に応じて溶剤や添加剤とを混合して撹拌し、3-[アセチル(ブチル)アミノ]プロピオン酸エチルと、2-ヒドロキシプロピル-β-シクロデキストリンとを溶剤に溶解させればよい。
【0024】
本発明の実施形態に係る害虫忌避組成物は、害虫忌避剤として使用することができる。本発明の実施形態に係る害虫忌避剤は、上記害虫忌避組成物を含んでいてもよい。本発明の実施形態に係る害虫忌避組成物は害虫忌避方法に用いることができる。
本発明の実施形態に係る害虫忌避剤の使用方法は、特に限定されず、その剤型は特に限定されない。一例を挙げると、害虫忌避剤は、上記害虫忌避組成物をそのまま含む液剤であってもよい。本発明の実施形態に係る害虫忌避剤が液剤である場合、害虫忌避剤は、適宜の布等に含浸させて適用箇所を拭き取る等により、適用され得る。
また、害虫忌避剤は、製剤化に際して、害虫忌避組成物に更に上記任意成分を添加したものであってもよい。例えば、界面活性剤、ゲル化剤等の任意成分を配合することにより、乳剤、ゲル剤、ペースト剤、エアゾール剤、ポンプ剤等に製剤化され得る。
【0025】
エアゾール剤に製剤化される場合、エアゾール缶に、本発明の実施形態に係る害虫忌避組成物と噴射剤とを封入して使用すればよい。一方、スプレー形態の場合、ハンドスプレー等の容器に本発明の実施形態に係る害虫忌避組成物を封入して使用すればよい。
噴射剤は、液化ガス、圧縮ガス等が例示される。液化ガスは、液化石油ガス、ジメチルエーテル、ハイドロフルオロオレフィン、ジフルオロモノクロロエタン等が例示される。
圧縮ガスは、炭酸ガス、窒素ガス、圧縮空気等が例示される。
エアゾール形態及びスプレー形態のいずれの場合も、ミスト状に噴射された液滴の平均粒子径は特に限定されない。例えば、噴口から30cm離れた位置における50%平均粒子径は10~1000μm程度である。
エアゾール剤やポンプ剤に製剤化される場合、害虫忌避剤は、適用箇所に、適量噴霧することにより使用され得る。例えば、通常、手足や腕あるいは衣服の上に噴霧する形態で使用される。
【0026】
このように、3-[アセチル(ブチル)アミノ]プロピオン酸エチルと、2-ヒドロキシプロピル-β-シクロデキストリンとを含有する害虫忌避組成物によって、3-[アセチル(ブチル)アミノ]プロピオン酸エチルを溶剤に可溶化し、製剤の安定化が図れるため、害虫忌避剤を問題なく噴射することができる。また、エタノールを添加せずに3-[アセチル(ブチル)アミノ]プロピオン酸エチルを可溶化することで、ミスト状に散布された害虫忌避剤による刺激を防ぐことができる。更に、好ましい態様としてl-メントールを添加することで、べたつきを防ぎ、より使用感に優れた害虫忌避剤とすることができる。
【0027】
本実施形態の害虫忌避組成物が対象とする対象害虫の種類は特に限定されない。対象害虫は、たとえば、屋内外に生息する害虫であり、例えば、アカイエカ、ネッタイイエカ、チカイエカ、コガタアカイエカ等のイエカ類、トラフカクイカ等のカクイカ類、ヒトスジシマカ、ネッタイシマカ、トウゴウヤブカ、キンイロヤブカ、セスジヤブカ、オオクロヤブカ等のヤブカ類、アシマダラヌマカ等のヌマカ類、キンパラナガハシカ等のナガハシカ類、シナハマダラカ、コガタハマダラカ等のハマダラカ類、アシマダラブユ、キアシオオブユ等のブユ類、ウシアブ、イヨシロオビアブ等のアブ類、イエダニ、ヒョウヒダニ、コナダニ、ツメダニ等のダニ類、サシチョウバエ類、ヌカカ類、ツェツェバエ類、ノミ類、シラミ類、トコジラミ類、サシガメ類、マダニ類、ツツガムシ類、ヤマビル類等の吸血性や刺咬性害虫、セスジユスリカ、オオユスリカ、アカムシユスリカ、シマユスリカ、オオヤマチビユスリカ等のユスリカ類、チャバネゴキブリ、クロゴキブリ、ワモンゴキブリ、ヤマトゴキブリ、トビイロゴキブリ等のゴキブリ類、ハエ類、オオズアリ、クロヤマアリ、トビイロシワアリ、アミメアリ等のアリ類、シロアリ類、ハチ類、ゲジ類、ムカデ類、コクゾウムシ、コクヌストモドキ、タバコシバンムシ、ヒメカツオブシムシ、ヒメマルカツオブシムシ等の貯穀害虫類等が挙げられる。特に吸血性や刺咬性害虫が好適である。
【0028】
以上、本実施形態の害虫忌避組成物は、3-[アセチル(ブチル)アミノ]プロピオン酸エチルと、2-ヒドロキシプロピル-β-シクロデキストリンとを含有することにより、害虫に対して優れた忌避効果を発揮し、製剤の安定性を保つことができる。また、刺激を抑え使用感に優れる。
【実施例0029】
以下、実施例及び比較例を挙げて本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0030】
(実施例1)
10gの3-[アセチル(ブチル)アミノ]プロピオン酸エチル、及び1gの2-ヒドロキシプロピル-β-シクロデキストリンを混合した。得られた混合物に、調製物の全量が100gとなるように精製水を添加して撹拌し、検体1を調製した。検体1に含まれる害虫忌避成分の濃度は10質量%であった。
【0031】
(実施例2)
10gの3-[アセチル(ブチル)アミノ]プロピオン酸エチル、及び1gの2-ヒドロキシプロピル-β-シクロデキストリン、及び0.5gのl-メントールを混合した。得られた混合物に、調製物の全量が100gとなるように精製水を添加して撹拌し、検体2を調製した。検体2に含まれる害虫忌避成分の濃度は10質量%であった。
【0032】
(実施例3~11)
2-ヒドロキシプロピル-β-シクロデキストリン、及びl-メントールの量を表1に記載のとおりに変更した以外は、実施例1又は2と同様の手順で検体3~11を調製した。
【0033】
(比較例)
10gの3-[アセチル(ブチル)アミノ]プロピオン酸エチルに全量が100gとなるように精製水を添加して撹拌し、比較例の検体を調製した。比較例の検体に含まれる害虫忌避成分の濃度は10質量%であった。
【0034】
次いで、実施例1~11及び比較例で得られた検体1~11及び比較例の検体について、溶解性の評価を行った。また、検体1~11について使用感(刺激、べたつき)の評価を行った。比較例の検体は3-[アセチル(ブチル)アミノ]プロピオン酸エチルが水に溶解せず、使用感の評価ができなかった。
【0035】
(溶解性)
検体1~11及び比較例の検体をガラス瓶に封入し、24時間静置した後、外観を下記の基準で評価した。
<基準>
〇:分散している場合。
×:分離している場合。
【0036】
(使用感(刺激))
検体1~11を、それぞれハンドスプレー(1回噴射量:約0.3mL)に封入した。男女各5名(合計10名)のパネラーに、ハンドスプレーに封入された検体を、正面から肩に15cm離した位置から1回噴射した。10名のパネラーにより噴射後に感じた刺激について、下記の基準で評価した。検体1~11の全てが無刺激であり、結果は〇であった。
<基準>
〇:刺激をほとんど感じなかった、又は無刺激の場合。
△:実用上気にならない程度の刺激を感じた場合。
×:刺激を感じた場合。
【0037】
(使用感(べたつき))
検体1~11を、それぞれハンドスプレー(1回噴射量:約0.3mL)に封入した。男女10名のパネラーに、ハンドスプレーに封入された検体を、正面から前腕部に15cm離した位置から1回噴射した。10名のパネラーにより噴射後に感じたべたつきについて、下記の基準で評価した。結果を表1に示す。
<基準>
5:べたつきを感じなかった場合。
4:あまりべたつきを感じなかった場合。
3:べたつきを感じたとも感じなかったとも言えない場合。
2:ややべたつきを感じた場合。
1:べたつきを感じた場合。
【0038】
【表1】
【0039】
表1に示すように、実施例1~11で得られた検体1~11は溶解性に優れ、低刺激性であった。水に難溶性である3-[アセチル(ブチル)アミノ]プロピオン酸エチルを配合しても溶解性について全く問題がなく、製剤の安定性を保つことがわかる。また、エタノール等のアルコールを含まないため刺激を受けにくく、使用感に優れることがわかる。更に、l-メントールを配合した実施例2、4、6、8は、l-メントールを配合していない実施例1、3、5、7に比べ、べたつきが少なかった。
また、0.1g~0.5gのl-メントールを配合した実施例4、9~11は、いずれも実施例3に比べ、べたつきが少なく使用感に優れることがわかった。