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特開2023-146640難変異エピトープ部位の予測装置、難変異エピトープ部位の予測方法、及び難変異エピトープ部位の予測プログラム、並びに抗体のスクリーニング装置、抗体のスクリーニング方法、及び抗体のスクリーニングプログラム
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023146640
(43)【公開日】2023-10-12
(54)【発明の名称】難変異エピトープ部位の予測装置、難変異エピトープ部位の予測方法、及び難変異エピトープ部位の予測プログラム、並びに抗体のスクリーニング装置、抗体のスクリーニング方法、及び抗体のスクリーニングプログラム
(51)【国際特許分類】
   G16B 15/30 20190101AFI20231004BHJP
【FI】
G16B15/30
【審査請求】未請求
【請求項の数】12
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022053930
(22)【出願日】2022-03-29
(71)【出願人】
【識別番号】000000941
【氏名又は名称】株式会社カネカ
(74)【代理人】
【識別番号】100107766
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 忠重
(74)【代理人】
【識別番号】100070150
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 忠彦
(74)【代理人】
【識別番号】100107515
【弁理士】
【氏名又は名称】廣田 浩一
(74)【代理人】
【識別番号】100107733
【弁理士】
【氏名又は名称】流 良広
(74)【代理人】
【識別番号】100115347
【弁理士】
【氏名又は名称】松田 奈緒子
(72)【発明者】
【氏名】大島 勘二
(72)【発明者】
【氏名】北 寛士
(57)【要約】      (修正有)
【課題】コンピュータを用いた分子シミュレーションにより、広域スペクトル中和抗体のための難変異エピトープ部位を高精度で予測及び同定することができる難変異エピトープ部位の予測装置、難変異エピトープ部位の予測方法及び難変異エピトープ部位の予測プログラム並びに抗体のスクリーニング装置、抗体のスクリーニング方法、及び抗体のスクリーニングプログラムを提供する。
【解決手段】抗原における難変異エピトープ部位を予測する装置100において、予測部171は、抗原におけるエピトープ部位におけるアミノ酸残基毎のゆらぎの情報に基づき、ゆらぎが所定値以下であるアミノ酸残基を、エピトープ部位における変異し難い部位であると予測する。
【選択図】図15
【特許請求の範囲】
【請求項1】
抗原における難変異エピトープ部位を予測する装置であって、
抗原におけるエピトープ部位におけるアミノ酸残基毎のゆらぎの情報に基づき、前記ゆらぎが所定値以下である前記アミノ酸残基を、前記エピトープ部位における変異し難い部位であると予測する予測手段を有することを特徴とする難変異エピトープ部位の予測装置。
【請求項2】
前記予測手段が、前記エピトープ部位における連続するアミノ酸残基群の平均ゆらぎの情報に基づき、前記平均ゆらぎが所定値以下である前記アミノ酸残基群を、前記エピトープ部位における変異し難い部位であると予測する、請求項1に記載の難変異エピトープ部位の予測装置。
【請求項3】
前記抗原が、インフルエンザウイルスにおけるヘマグルチニンであり、
前記ゆらぎの所定値が、1.2Åである、請求項1から2のいずれかに記載の難変異エピトープ部位の予測装置。
【請求項4】
前記ゆらぎの情報が、分子動力学計算で得られた算出値である、請求項1から4のいずれかに記載の難変異エピトープ部位の予測装置。
【請求項5】
前記予測手段が、前記変異し難い部位であると予測した前記アミノ酸残基のうち、各前記アミノ酸残基の表面露出面積比の情報に基づき、前記表面露出面積比が所定値以上である前記アミノ酸残基を、前記抗原に対する抗体が結合し易い部位であると予測する、請求項1から4のいずれかに記載の難変異エピトープ部位の予測装置。
【請求項6】
前記抗原が、インフルエンザウイルスにおけるヘマグルチニンであり、
前記表面露出面積比の所定値が、0%である、請求項5に記載の難変異エピトープ部位の予測装置。
【請求項7】
前記表面露出面積比の情報が、分子動力学計算で得られた算出値である、請求項5から6のいずれかに記載の難変異エピトープ部位の予測装置。
【請求項8】
抗原における難変異エピトープ部位を予測する方法であって、
抗原におけるエピトープ部位におけるアミノ酸残基毎のゆらぎの情報に基づき、前記ゆらぎが所定値以下である前記アミノ酸残基を、前記エピトープ部位における変異し難い部位であると予測する予測工程を含むことを特徴とする難変異エピトープ部位の予測方法。
【請求項9】
抗原における難変異エピトープ部位を予測するプログラムであって、
抗原におけるエピトープ部位におけるアミノ酸残基毎のゆらぎの情報に基づき、前記ゆらぎが所定値以下である前記アミノ酸残基を、前記エピトープ部位における変異し難い部位であると予測する処理をコンピュータに行わせることを特徴とする難変異エピトープ部位の予測プログラム。
【請求項10】
抗原が変異しても前記抗原に対し結合可能な抗体のスクリーニング装置であって、
請求項1から7のいずれかに記載の難変異エピトープ部位の予測装置、請求項8に記載の難変異エピトープ部位の予測方法、又は請求項9に記載の難変異エピトープ部位の予測プログラムによって、前記エピトープ部位における変異し難い部位であると予測された前記アミノ酸残基との結合親和力が所定値以上である抗体を選抜する選抜手段を有することを特徴とする抗体のスクリーニング装置。
【請求項11】
抗原が変異しても前記抗原に対し結合可能な抗体のスクリーニング方法であって、
請求項1から7のいずれかに記載の難変異エピトープ部位の予測装置、請求項8に記載の難変異エピトープ部位の予測方法、又は請求項9に記載の難変異エピトープ部位の予測プログラムによって、前記エピトープ部位における変異し難い部位であると予測された前記アミノ酸残基との結合親和力が所定値以上である抗体を選抜する選抜工程を含むことを特徴とする抗体のスクリーニング方法。
【請求項12】
抗原が変異しても前記抗原に対し結合可能な抗体のスクリーニング用プログラムであって、
請求項1から7のいずれかに記載の難変異エピトープ部位の予測装置、請求項8に記載の難変異エピトープ部位の予測方法、又は請求項9に記載の難変異エピトープ部位の予測プログラムによって、前記エピトープ部位における変異し難い部位であると予測された前記アミノ酸残基との結合親和力が所定値以上である抗体を選抜する処理をコンピュータに行わせることを特徴とする抗体のスクリーニング用プログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、難変異エピトープ部位の予測装置、難変異エピトープ部位の予測方法、及び難変異エピトープ部位の予測プログラム、並びに抗体のスクリーニング装置、抗体のスクリーニング方法、及び抗体のスクリーニングプログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、インフルエンザA型ウイルス等のインフルエンザウイルスや、最近ではSARS-CoV-2等の新型コロナウイルスなどの変異体が生じやすいウイルスによる感染症を検査、予防乃至治療するためのワクチンや中和抗体などの医薬品の開発が求められている。
【0003】
しかしながら、変異体が生じやすいウイルスでは、ウイルスゲノムの突然変異が頻繁に起こることにより、抗原として認識し得るウイルスの表面タンパク質のアミノ酸配列に変異が生じて抗原性が変化し、特定の変異体に対して獲得された免疫系から回避できるようになったり、特定の変異体に最適化された医薬品が変異した抗原を認識できなかったりするという問題がある。
【0004】
したがって、ウイルスの変異に影響されにくい難変異エピトープ部位を高い精度で予測及び同定する方法の開発や、結合能がウイルスの変異に影響されにくい広域スペクトルを有する抗ウイルスモノクローナル抗体(広域スペクトル中和抗体)の開発が求められている。
これまでに、インフルエンザA型ウイルスの各種変異体に対して広域スペクトルを有する中和抗体として、表面タンパク質であるヘマグルチニンに対するモノクローナル中和抗体が報告されている(例えば、非特許文献1参照)。
しかしながら、従来の技術において、モノクローナル中和抗体の作製には、(ウエットな)実験を行う必要があり、エピトープの選定及び調製や、結合能の評価などの観点から、多大な費用(コスト)及び時間が必要となるという問題があった。
【0005】
また、ウエットな実験を行うことなく天然ペプチドやタンパク質の動的な構造を予測・解析できる方法としては、例えば、対象とする分子における個々の原子の運動を、コンピュータを用いて計算する方法が知られている。このようなコンピュータを用いた分子シミュレーションを行うことにより、短時間で効率的に天然ペプチドやタンパク質などの分子の動的な構造を評価することができる場合がある。
【0006】
分子シミュレーションの手法としては、例えば、個々の原子の運動を、ニュートンの運動方程式に基づいて算出する分子動力学法などが知られている。
しかしながら、分子動力学法などの分子シミュレーションを用いて、ウイルスの変異に影響されにくい難変異エピトープ部位を十分な精度で予測(評価)できる技術は確立されていない。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】D.C.Ekiert et al.,Science 2009,10 APRIL Vol 324 246-251
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、前記従来における諸問題を解決し、以下の目的を達成することを課題とする。即ち、本発明は、コンピュータを用いた分子シミュレーションにより、広域スペクトル中和抗体のための難変異エピトープ部位を高精度で予測及び同定することができる難変異エピトープ部位の予測装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記の課題を解決するための手段としての本発明の難変異エピトープ部位の予測装置は、抗原における難変異エピトープ部位を予測する装置であって、抗原におけるエピトープ部位におけるアミノ酸残基毎のゆらぎの情報に基づき、前記ゆらぎが所定値以下である前記アミノ酸残基を、前記エピトープ部位における変異し難い部位であると予測する予測手段を有する。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、従来における前記諸問題を解決し、前記目的を達成することができ、コンピュータを用いた分子シミュレーションにより、広域スペクトル中和抗体のための難変異エピトープ部位を高精度で予測及び同定することができる難変異エピトープ部位の予測装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1図1は、ヘマグルチニンの単量体の立体構造、及び3量体の立体構造を示す模式図である。
図2図2は、インフルエンザウイルスの感染メカニズムを説明する模式図である。
図3図3は、ヘマグルチニン単量体のアミノ酸配列におけるアミノ酸残基毎の変異蓄積率を示すグラフである。
図4図4は、本発明における計算例において作成した、ヘマグルチニン3量体における分子動力学計算の初期構造を示す図である。
図5図5は、本発明における分子動力学計算例に基づき算出した、ヘマグルチニン3量体における各アミノ酸残基のゆらぎの大きさ(残基RMSF)を示すグラフである。
図6A図6Aは、ヘマグルチニンのゆらぎと変異蓄積率との関係を示す散布図である。
図6B図6Bは、ヘマグルチニンのゆらぎと変異蓄積率との関係を示すヒストグラムである。
図7A図7Aは、ゆらぎ(rmsf)を0.1Å刻みに区分したときに対象の区分に該当するアミノ酸残基群の平均の変異蓄積率を示した表である。
図7B図7Bは、ゆらぎ(rmsf)を0.1Å刻みに区分したときに対象の区分に該当するアミノ酸残基群の平均の変異蓄積率を示したグラフである。
図8図8は、本発明における露出面積比の算出例に基づき算出した、ヘマグルチニン3量体における各アミノ酸残基の表面露出比(rASA)を示すグラフである。
図9A図9Aは、従来技術における広域スペクトル中和抗体(CR6261)とヘマグルチニンの複合体構造を示す模式図である。
図9B図9Bは、従来技術における広域スペクトル中和抗体(CR6261)とエピトープとの結合部位を示す模式図である。
図9C図9Cは、従来技術における広域スペクトル中和抗体(CR6261)のエピトープの構造、及び他の変異体インフルエンザウイルス間での配列保存度を示す模式図である。
図10図10は、広域スペクトル中和抗体(CR6261)のエピトープHelix A(385-401)における変異蓄積率を示すグラフである。
図11図11は、広域スペクトル中和抗体(CR6261)のエピトープHelix A(385-401)におけるゆらぎ(rmsf)を示すグラフである。
図12図12は、広域スペクトル中和抗体(CR6261)のエピトープHelix A(385-401)における表面露出比(rASA)を示すグラフである。
図13図13は、本発明の難変異エピトープ部位の予測装置のハードウェア構成例を示すブロック図である。
図14図14は、本発明の難変異エピトープ部位の予測装置のハードウェアの他の構成例を示すブロック図である。
図15図15は、本発明の難変異エピトープ部位の予測装置の機能構成例を示すブロック図である。
図16図16は、本発明を用いて、難変異エピトープ部位の予測方法を実施する際の流れの一例を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0012】
(難変異エピトープ部位の予測装置)
本発明の難変異エピトープ部位の予測装置は、変異体が生じやすいウイルスに対して結合能がウイルスの変異に影響されにくい広域スペクトルを有する抗ウイルスモノクローナル抗体(広域スペクトル中和抗体)のための難変異エピトープ部位を予測するに際し、対象分子である抗原タンパク質の配列解析、及び分子動力学解析の結果、抗原タンパク質の変異しにくいアミノ酸残基の部位が、ゆらぎの小さいアミノ酸残基の部位と関係することを見出したという本発明者らの知見に基づくものである。
【0013】
そのため、まず、変異体が生じやすいウイルスの具体例として、多くの変異体が報告されているヒト由来インフルエンザウイルスインフルエンザウイルスについて、その感染メカニズム、及びワクチンや中和抗体の抗原タンパク質として研究が進められているヘマグルチニン(HA)タンパク質について説明する。
【0014】
<インフルエンザウイルス、及びヘマグルチニンタンパク質>
ヘマグルチニン(HA)は、ホモ3量体からなり、単量体は、HA1(アミノ酸残基番号:1-343)とHA2(アミノ酸残基番号:345-566)の2つの領域から構成される。HA1には、標的との結合部位、すなわち、宿主であるヒトにおける細胞表面のシアル酸を含む糖鎖と結合する部位が存在する。
図1は、ヘマグルチニン(HA)の単量体の立体構造、及び3量体の立体構造を示す模式図である。図1中、左図が、ヘマグルチニン単量体の立体構造、右図が、ヘマグルチニン3量体(A鎖、B鎖、及びC鎖)の立体構造をリボンダイアグラムにより模式的に示す。ヘマグルチニン単量体において、HA1のリボンダイアグラムを黒色で示し、HA2のリボンダイアグラムを灰色で示す。
【0015】
図2は、インフルエンザウイルスの感染メカニズムにおける、ウイルスの吸着及び侵入の過程でのヘマグルチニンの働きを説明する模式図である(引用元:https://pdbj.org/mom/076)。
宿主であるヒトにおける細胞表面の受容体タンパク質(ヒト受容体)にインフルエンザウイルスの表面タンパク質であるヘマグルチニンのHA1領域が結合し、HA1部分が切断されたのち、HA2部分が大きく構造変化し、ウイルス膜とヒト細胞膜に膜融合が生じて感染が進む。
【0016】
本発明者らが、コンピュータを用いた分子シミュレーションにより、水溶液中の抗原タンパク質の安定構造を初期構造とした300ナノ秒程度の室温の分子動力学計算によって得られたトラジェクトリから、アミノ酸残基毎の特性を評価し、抗原タンパク質のアミノ酸残基毎の変異のし難さとの関係について、鋭意研究を重ねたところ、アミノ酸残基毎のゆらぎの情報が、アミノ酸残基毎の変異のし難さを示す変異蓄積率に関係することを見出した。また、抗原におけるエピトープ部位への抗体の近づきやすさの指標として、各アミノ酸残基における露出面積比を算出することにより、抗原に対する抗体が結合し易い部位の予測及び評価を行うことができることを見出した。
以上の知見から、本発明者らは、抗原におけるエピトープ部位におけるアミノ酸残基毎のゆらぎの情報を解析することにより、エピトープ部位における変異し難い部位(難変異エピトープ部位)を高精度で予測できること、及び難変異エピトープ部位が、広域スペクトル中和抗体の作製及び選抜や、ウイルスの変異に影響されにくいワクチンなどのエピトープ部位として優れて利用可能であることを想到した。
加えて、抗原に対する抗体が結合し易いエピトープ部位の予測及び評価を行うことにより、変異し難く、かつ抗体が結合し易いエピトープ部位を高精度で予測できることを想到した。
【0017】
<配列解析例>
初めに、本発明者らは、抗原におけるエピトープ部位におけるアミノ酸残基毎のゆらぎの情報と、前記エピトープ部位における変異し難い部位との関係をより詳細に特定するため、インフルエンザウイルスのヘマグルチニン(HA)タンパク質について、これまでに報告されているアミノ酸一次配列データを解析し、各アミノ酸残基位置における変異蓄積率を算出することにより、前記変異し難い部位を解析した。
以下では、本発明者らが実施したヘマグルチニン(HA)のアミノ酸配列の配列解析の詳細について、説明する。
【0018】
<<ヘマグルチニン(HA)のアミノ酸配列の配列解析>>
NCBIのインフルエンザ関連蛋白質配列データベース(Influenza Virus Resources:https://www.ncbi.nlm.nih.gov/genomes/FLU/Database/nph-select.cgi?go=database)から、ヒト由来インフルエンザA型のヘマグルチニン(HA)のアミノ酸一次配列データを以下の検索条件で取得した(全45,545配列)。
[検索条件]
・Type:A,Host:Human,
・Country/Region:any,
・Protein:HA,
・subtpe:H:any(1-18),N:any(1-11),
・鎖長:全長566±5残基
【0019】
その後、本発明者らが作製した解析プログラムを使って、一次配列にX(アミノ酸不明)を含む信頼性の低い配列を除き(~43,600配列)、重複配列を除いたユニークな配列データ(~14,173配列)を抽出した。抽出したユニーク配列のうち、データベース上で最も古い1918年のHAの配列(NCBI ID:AAD17229:配列番号1)を参照配列として用い、膨大な数のアミノ酸配列や塩基配列の一致乃至類似部分をアライメントすることができるオンラインソフトウェアである、MAFFT(Multiple Alignment using Fast Fourier Transform,https://mafft.cbrc.jp/alignment/server/)によるマルチプルアライメントを実施した。
配列番号1で示した前記参照配列は、アミノ酸残基総数566であり、1918年のスペイン風邪流行当時のヘマグルチニンのアミノ酸配列(NCBI ID:AAD172229)である。
【0020】
<<変異蓄積率の解析>>
次いで、アラインメントされた配列を使って、各アミノ酸残基位置における変異蓄積率を算出し、ヘマグルチニン(HA)の単量体における各領域を色分けして示した(図3)。
ここで、「変異蓄積率」は、参照配列における各アミノ酸残基位置について、参照配列の有するアミノ酸残基から変異したアミノ酸残基を有するユニーク配列の数を、全ユニーク配列数(14,173)で割ることにより算出する。
【0021】
図3に、ヘマグルチニン(HA)単量体のアミノ酸配列におけるアミノ酸残基毎の変異蓄積率を解析した結果を示す。
図3中、横軸はアミノ酸残基番号を示し、縦軸は参照配列(AAD17229)に対する変異蓄積率を示す。HA1(1-343)を黒色、HA2(345-566)を灰色で示す。
【0022】
ヘマグルチニンのアミノ酸残基毎の変異蓄積率の解析結果から、本発明者らは、1918年のスペイン風邪の発生から約100年の間に、多くのアミノ酸残基(アミノ酸残基総数565に対し、およそ560アミノ酸残基)に変異が蓄積していることを見出した。また、HA1の変異蓄積率の平均値(HA1:約0.452)よりも、HA2の変異蓄積率の平均値(HA2:約0.310)が低く、したがって、HA2の配列保存性がHA1よりも高いことが分かった。
【0023】
以上より、これまでに多数の変異体が報告されているインフルエンザウイルスにおいて、ヘマグルチニンタンパク質における各アミノ酸残基位置の変異蓄積率を算出することにより、前記変異し難い部位として、変異蓄積率の低いアミノ酸残基位置を同定できることを確認した。
ここで、前記変異し難い部位における変異蓄積率としては、対象分子である抗原タンパク質に応じて適宜選択することができるが、0.5以下が好ましく、0.4以下がより好ましく、0.3以下が更に好ましく、0.2以下が特に好ましく、0.1以下が最も好ましい。
【0024】
<分子動力学計算の計算例>
次いで、本発明者らは、抗原におけるエピトープ部位におけるアミノ酸残基毎のゆらぎの情報と、前記エピトープ部位における変異し難い部位との関係をより詳細に特定するため、1918年のスペイン風邪流行当時のヘマグルチニン(PDBID:3gbn)の構造について、コンピュータを用いた分子シミュレーションを実行し解析を行った。
以下では、本発明者らが実行した分子シミュレーション(分子動力学計算)の詳細について説明する。
【0025】
以下で説明する計算例においては、ヘマグルチニンの溶液中での動的な構造を解析するため、分子動力学法(Molecular Dynamics;MD)を用いて、分子シミュレーションを行った。
【0026】
<<初期構造>>
MD計算に用いる、スペイン風邪が流行した1918年当時のヘマグルチニンの初期構造(PDBID:3gbn)は、タンパク質立体構造データベースProtein Data Bank(http://pdbj.org)からダウンロードして利用した。
続いて、ペプチド(A)の表面から10Å離れた領域までを1つのボックス(セル)として、ペプチド(A)の周りに水分子を配置し、Naイオン、Clイオンを生理的条件([NaCl]=100mM)で配置することで計算系の中性化を行った。なお、1Åは、0.1nmである。
【0027】
図4は、本計算例において作成した、ヘマグルチニン3量体(PDBID:3gbn)における分子動力学計算の初期構造を示す図である。リボンダイアグラムによりヘマグルチニンを示し、溶媒分子を省略して図示する。
【0028】
<<エネルギー極小化計算>>
次に、作成した初期構造のおけるペプチドを構成する重原子(水素以外の原子)に位置拘束(位置束縛;Position Restraint)をかけて、分子力学(Molecular Mechanics;MM)計算によって、計算系全体のエネルギー極小化を行った。エネルギー極小化計算を行うことにより、初期構造が有する不自然な構造の歪みを取り除き、分子動力学計算の初期における時間積分の発散を避けることができる。
エネルギー極小化計算は、最急降下法を用い、最初のステップでの原子移動距離RMSD=0.1[Å]、最大計算ステップ数50,000、収束判定条件RMSF(原子に加わる力の自乗平均)=100.0[kJ/mol/nm]として行った。
なお、本計算例においては、分子力場として、Amber ff99SB-ILDNを用いた。
【0029】
<<分子動力学計算>>
続いて、分子動力学計算のエンジンとして、GROMACSのパッケージ(GROMACS 2020.4版)を用い、周期境界条件の下、溶媒の平衡化などのために、重原子に対する位置拘束ありで短時間のNVT(計算系の粒子数、体積、及び温度が一定の条件)計算を行った後、重原子に対する位置拘束ありで短時間のNPT(計算系の粒子数、圧力、及び温度が一定の条件)計算を行った。
【0030】
そして、上記の溶媒の平衡化を行った構造に対して、シミュレーション時間300ns(時間刻み幅Δt=2.0fs、計150,000,000 step)のNPT計算(Bussiの温度制御及びParrinello-Rahmanの圧力制御)を実施した。エネルギーや座標等のトラジェクトリは、50ps毎に出力した(合計6,000 snapshots)。
【0031】
分子動力学計算には、CPUがXeon(R)Platinum8280(クロック周波数2.7GHz、計56コア)、メモリが768GB、GPUカード4枚(VoltaV100)のスペックの計算機(コンピュータ)を用いた。
本計算例で計算対象としている蛋白質1種のシミュレーション時間300nsの分子動力学計算にかかった計算所要時間は、24コア並列計算と4枚のGPUカードを利用した場合では、約2日間で終了した。
【0032】
<ゆらぎ解析例>
<<ゆらぎの算出方法>>
上記の300nsの各カノニカルMDについて、平衡化された状態のヘマグルチニンの構造のデータを用いて解析を行うために、180nsから300nsのトラジェクトリ(原子の運動についての軌跡のデータ)を抽出した。そして、抽出したトラジェクトリを、MDのトラジェクトリ解析のライブラリである「MDTraj」(https://mdtraj.org/1.9.4/index.html)を用いて、アミノ酸残基毎に180nsから300nsの平均位置からのずれの大きさを算出し、アミノ酸残基毎のゆらぎ(残基RMSF)とした。
x番目のアミノ酸残基におけるゆらぎを示すrmsfは、下記式(1)により算出することができ、単位は[Å]である。
rmsf=√(1/NΣ(rxj-<rxj>)2) ・・・式(1)
式(1)中、Nは、2,400(180ns~300nsの間でサンプリングされた構造数)を示し、jは、1~2,400の整数を示し、rxjは、抽出時刻jのときのx番目のアミノ酸残基の位置ベクトルを示し、<rxj>は、x番目の残基の位置ベクトルの時間(180ns~300ns)平均を示す。
【0033】
<<ゆらぎの解析>>
図5は、本発明における分子動力学計算例に基づき算出した、ヘマグルチニン3量体における各アミノ酸残基のゆらぎの大きさ(残基RMSF)を示すグラフである。詳細には、溶媒緩和後、T=300[K]のNPT(N:粒子、P:圧力、T:温度一定)条件下で300nsのMD計算を実施し、平衡状態にある180ns~300nsの平均構造に対する各アミノ酸残基のゆらぎの大きさ(残基RMSF)を示す。
図5中、横軸は、アミノ酸残基番号を示し、縦軸は、アミノ酸残基番号18~517に対応する各アミノ酸残基におけるゆらぎrmsf18~517[Å]を示す。HA1(1-343)を黒色、HA2(345-566)を灰色で示す。
なお、ヘマグルチニンのアミノ酸残基総数は、566であるが、点線で囲った領域(1-17:シグナルペプチド、518-529:Flexible linker、530-550:ウイルス膜貫通領域、551-566:細胞質領域)は、水溶液中でフレキシブルな領域であり、PDBの登録データにこれら領域の座標の記載がなかったためゆらぎを算出できなかった。
【0034】
<<ゆらぎと変異蓄積率との関係の解析>>
次いで、ヘマグルチニンのゆらぎと変異蓄積率との関係を、散布図、及びヒストグラムにより調べた(図6A及びB)。
図6Aの散布図において、HA1(1-343)を黒色、HA2(345-566)を灰色で示す。
図6Bのヒストグラムにおいて、上端に横軸をrmsfとして、縦軸に沿って積分したヒストグラム、右端に縦軸を変異蓄積率(ratio_of_mut)として、横軸に沿って積分したヒストグラムを示した。図中の六角形において、低密度を白色で示し、高密度を濃灰色で示し、白色、薄灰色、及び濃灰色のグラデーションにより密度の程度を示す。
図6A及びBの解析の結果、ゆらぎと変異蓄積率の相関は小さい(相関係数~0.17)ことが分かった。変異蓄積率については、大きく分けて、0付近、0.6付近、1付近の3つのクラスター(塊)が存在することが分かった。
【0035】
さらに、図7A及びBに、各アミノ酸残基におけるゆらぎと変異蓄積率との関係を示す。
図7Aは、rmsfを0.1Å刻みに区分したときに対象の区分に該当するアミノ酸残基群の平均の変異蓄積率を示した表である。左から順に、rmsfの区分(0.1Å刻み、表中「2.5-2.4」は2.5以下かつ2.4超を示す)、各区分に該当するアミノ酸残基数(#)、各区分に該当するアミノ酸残基の平均変異蓄積率(Ave. ratio_of_mutation)、及び各区分に該当するアミノ酸残基の変異蓄積率の標準誤差(S.E.)をそれぞれ示す。
図7Bは、図7Aの結果をグラフ化したものである。図6B中、縦軸は、rmsfの各区分に該当するアミノ酸残基の平均変異蓄積率を示し、横軸は、rmsfの区分を示す。エラーバーは、変異蓄積率の標準誤差(S.E.)を示す。
【0036】
図7A及びBの解析の結果、ゆらぎが小さくなるにつれて変異蓄積率が下がる傾向にあることを見出した。
すなわち、本発明者らは、抗原におけるエピトープ部位におけるアミノ酸残基毎のゆらぎの情報と、前記エピトープ部位における変異し難い部位とが関係することを見出した。これにより、抗原におけるエピトープ部位におけるアミノ酸残基毎のゆらぎの情報を解析することにより、エピトープ部位における変異し難い部位(難変異エピトープ部位)を高精度で予測できることを見出した。
【0037】
<露出面積比の解析及び算出>
更に、本発明者らは、抗原におけるエピトープ部位への抗体の近づきやすさ(accessibiliy)の観点から、抗体の相補性決定領域(CDR,complementarity determining region)と接触し得るアミノ酸残基を評価するために、抗体のCDR露出部分を模した大きさの球体(半径7.2Å)をヘマグルチニン3量体上で接触させる分子シミュレーションを行い、各アミノ酸残基における露出面積比を算出することにより、前記抗原に対する抗体が結合し易い部位の評価を行った。
以下では、本発明者らが実施したヘマグルチニン(HA)3量体における露出面積比の解析及び算出の詳細について、説明する。
【0038】
<<露出面積比の算出方法>>
MD解析に一般的に使われる溶媒露出面積(SASA:Solvent Accessible Surface Area)を計算するGromacsのコマンド(gmx sasa)を用いて、先行文献(O.C.Grant et al.Scientific Reports volume10,Article number:14991(2020))に基づいて溶媒分子の半径に相当する球の半径の1.4Åを抗体のCDR露出部分の大きさに相当する7.2Åに変更して、抗体がアクセス可能な露出面積(ASA:Accessible Surface Area)をアミノ酸残基毎に算出した。
【0039】
得られたアミノ酸残基Xの露出面積(ASA)をアミノ酸残基Xの最大溶媒露出面積で割って露出面積比(rASA:relative Accessible Surface Area)を算出し、100%以上と算出されたものは100%とした。
ここで、前記アミノ酸残基Xの最大溶媒露出面積は、先行文献(M.Z.Tien et al.PLoS One.2013;8(11):e80635.)に基づくものであり、アミノ酸残基Xを中心に有するトリペプチド(GLY-X-GLY)がExtended構造をとったときのアミノ酸残基Xの溶媒露出面積である。
【0040】
<<露出面積比の解析>>
以上の手順により、T=300[K]のNPT(N:粒子、P:圧力、T:温度一定)条件下で、Δt=2 (fs)、150,000,000 (step))の計300nsのMD計算を実施し、50ps(25,000step)毎に保存した平衡状態(180ns~300ns)の構造(2,400構造)をピックアップして、時間軸に沿ってアミノ酸残基毎の表面露出面積(ASA)を算出し、平均の表面露出面積を算出した。
次いで、各アミノ酸残基において算出された表面露出面積をそのアミノ酸残基に固有の最大溶媒露出面積で割ることにより、露出面積比(rASA)を算出した。
図8に、ヘマグルチニン3量体における各アミノ酸残基の表面露出比(rASA)を解析した結果を示す。
露出面積比(rASA)の解析により、同一タンパク質内のアミノ酸残基間で相対的な露出度合いを評価できることを見出した。
したがって、抗原におけるエピトープ部位におけるアミノ酸残基毎のゆらぎの情報に加えて、抗原に対する抗体が結合し易いエピトープ部位の指標となる各アミノ酸残基の表面露出比(rASA)の情報に基づき、変異し難く、かつ抗体が結合し易いエピトープ部位を高精度で予測及び同定することができること、及び予測した難変異エピトープ部位が、広域スペクトル中和抗体の作製及び選抜や、ウイルスの変異に影響されにくいワクチンなどのエピトープ部位として優れて利用可能であることを見出した。
【0041】
<難変異エピトープ部位の予測、及び抗体のスクリーニング>
本発明者らは、抗原のエピトープ部位におけるアミノ酸残基毎のゆらぎの情報に基づき、結合能がウイルスの変異に影響されにくい広域スペクトル中和抗体のための難変異エピトープ部位を高精度で予測及び同定することができること、及び広域スペクトル中和抗体を高精度で選抜することができることを評価するため、まず、ヒト由来インフルエンザウイルスA型に対して広域性を持つことが報告されているヘマグルチニンに対する広域スペクトル中和抗体(CR6261)のエピトープ(D.C.Ekiert et al.,Science 2009,10 APRIL Vol 324 246-251)との比較検討及び評価を行った。
次いで、分子動力学計算によるDry解析にて得られた中和抗体選抜指標として、各アミノ酸残基の変異蓄積率、ゆらぎ(残基RMSF)、及び表面露出比(rASA)の情報に基づき、広域スペクトル中和抗体(CR6261)のエピトープの評価を行った。
【0042】
<<ヘマグルチニンの広域スペクトル中和抗体(CR6261)>>
広域スペクトル中和抗体(CR6261)は、他に報告されている抗ヘマグルチニン抗体とは異なりHA2(345-566)領域をエピトープとしており、エピトープはHelix Aにおける385,386,389,390,392,393,396,397,399,400,及び401番目のアミノ酸残基である(図9A~C)。
広域スペクトル中和抗体(CR6261)は、様々な型(H1,2,5,6,8,9)のインフルエンザを中和することが報告されている。
図9Aは、広域スペクトル中和抗体(CR6261)を含む複数の抗ヘマグルチニン中和抗体(HC19,HC45,HC63,BH151)とヘマグルチニンの複合体構造を示す模式図である。図9A中、「CR6261」は、広域スペクトル中和抗体(CR6261)である。
図9Bは、広域スペクトル中和抗体(CR6261)とエピトープとの結合部位を示す模式図である。ヘマグルチニンにおけるエピトープHelix A(385-401)と、CR6261における抗原を認識する可変領域の重鎖(Vh)及び軽鎖(Vl)との結合部位を示す。
図9Cは、ヘマグルチニンにおけるエピトープHelix Aのエピトープの構造、及び様々な型のインフルエンザウイルス間での配列保存度を示す模式図である。図中の括弧内の数値は、各アミノ酸残基における配列相同性(Seq.ID;%)を示す。
HAのHelix Aの配列は様々な型のインフルエンザにおいてよく保存されている(seq.ID>~90%)。
【0043】
<<ヘマグルチニンの広域スペクトル中和抗体(CR6261)のエピトープの評価>>
図10~12に、広域スペクトル中和抗体(CR6261)のエピトープHelix A(385-401)における変異蓄積率、ゆらぎ(残基RMSF)、及び表面露出比(rASA)をそれぞれ示す。図10~12中、エピトープ部分(385,386,389,390,392,393,396,397,399,400,及び401番目のアミノ酸残基)を黒色の四角形で示し、それ以外のアミノ酸残基を灰色の丸で示す。
図10の変異蓄積率の評価結果から、エピトープの多く(7/11:385,386,389,390,392,397,及び400番目のアミノ酸残基)がよく保存されていることが分かった。
図11のゆらぎ(残基RMSF)の評価結果から、エピトープ部分(385,386,389,390,392,393,396,397,399,400,及び401番目のアミノ酸残基)のゆらぎは小さいことが確認でき、いずれも1.2[Å]以下であることが分かった。また、385番目~401番目の一連のアミノ酸残基群の平均ゆらぎは、0.91[Å]以下であった。
図12の表面露出比(rASA)の評価結果から、エピトープの多く(9/11:385,386,389,390,393,396,397,400,及び401番目のアミノ酸残基)はヘマグルチニンタンパク質の表面に露出し(rASA≠0.0)、抗体がアクセス可能であることが分かった。
【0044】
これらの結果から、ヘマグルチニンの広域スペクトル中和抗体(CR6261)のエピトープであるアミノ酸残基の多くは、ゆらぎが小さい、変異蓄積率が小さい、抗体がアクセス可能な表面に露出しているという特徴を持つことが分かった。
上述の通り、CR6261は、様々な型(H1,2,5,6,8,9)のインフルエンザを中和することが報告され、変異体が生じやすいウイルスに対して結合能がウイルスの変異に影響されにくい広域スペクトル中和抗体であるため、本発明者らは、上記の知見に基づいて、抗原におけるエピトープ部位におけるアミノ酸残基毎のゆらぎの情報を解析することにより、エピトープ部位における変異し難い部位(難変異エピトープ部位)を高精度で予測できること、及び難変異エピトープ部位が、広域スペクトル中和抗体の作製及び選抜に優れて利用可能であることを想到し、本発明を完成させるに至ったものである。
【0045】
(難変異エピトープ部位の予測装置)
すなわち、本発明の難変異エピトープ部位の予測装置は、抗原における難変異エピトープ部位を予測する装置であって、抗原におけるエピトープ部位におけるアミノ酸残基毎のゆらぎの情報に基づき、前記ゆらぎが所定値以下である前記アミノ酸残基を、前記エピトープ部位における変異し難い部位であると予測する予測手段を有し、更に必要に応じて、その他の手段を有する。
【0046】
以下、本発明の難変異エピトープ部位の予測装置について、更に詳細に説明する。
【0047】
<抗原>
探索対象としての抗原としては、アミノ酸がペプチド結合したペプチド乃至タンパク質であれば特に制限はなく、目的に応じて公知乃至新規の抗原を適宜選択することができ、例えば、病原体の表面タンパク質などが挙げられる。また、抗原としては、タンパク質全体であってもよく、サブユニット、サブドメイン、任意のペプチド部分などのタンパク質の一部であってもよい。
前記病原体としては、例えば、インフルエンザA型ウイルス等のインフルエンザウイルス;SARS-CoV-2等のヒトコロナウイルスなどが挙げられる。
表面タンパク質としては、例えば、インフルエンザウイルス等におけるヘマグルチニン、ノイラミニダーゼ等;コロナウイルス等におけるスパイクタンパク質などが挙げられる。これらの中でも、インフルエンザウイルスにおけるヘマグルチニンが好ましい。
【0048】
<エピトープ部位>
予測対象であるエピトープ部位としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、単一のアミノ酸残基であってもよく、複数のアミノ酸残基であってもよく、連続するアミノ酸残基群における単一乃至複数のアミノ酸残基であってもよい。複数のアミノ酸残基としては、非連続であってもよく、連続していてもよい。
これらの中でも、連続するアミノ酸残基群であることが好ましい。
連続するアミノ酸残基群におけるアミノ酸残基数としては、エピトープ部位として抗体に認識され得るものであれば、特に制限はなく目的に応じて適宜選択することができるが、5残基以上300残基以下が好ましく、8残基以上200残基以下がより好ましく、10残基以上100残基以下が更に好ましい。
【0049】
<分子動力学計算>
本発明においては、探索対象としての抗原についての分子動力学計算に基づいて、後述する抗原におけるエピトープ部位におけるアミノ酸残基毎のゆらぎ、及び表面露出面積比を算出することが好ましい。本発明においては、例えば、水中、絶対温度300K(ケルビン)の条件下で、シミュレーション時間を300nsとして実行した分子動力学計算に基づいて、180nsから300nsのトラジェクトリ(原子の運動についての軌跡のデータ)を抽出し、平衡化された状態の抗原タンパク質におけるアミノ酸残基毎のゆらぎを算出することが好ましい。
分子動力学計算の手法については、上記の<分子動力学計算の計算例>で説明した手法を、適宜目的に応じて用いることができるが、これに限られるものではない。
以下では、分子動力学計算の詳細について説明する。
【0050】
ペプチド乃至タンパク質を構成する原子は、例えば溶液中で静止しているわけではなく、少しずつ位置を変えている。このような原子の動きを計算機(コンピュータ)の中で再現するために使用されるのが分子動力学法(Molecular Dynamics;MD)である。
【0051】
分子動力学法では、まず、計算対象とする分子の初期構造を作成する。本発明においては、例えば、公知の抗原タンパク質を計算対象とする場合には、タンパク質立体構造データベース(例えば、Protein Data Bank)から入手して利用することができる。
【0052】
抗原タンパク質の初期構造を作成した後、安定な分子シミュレーションを実施するために、十分大きなボックス(セル)サイズを設定し、周りに溶媒分子(例えば、水分子)を配置し、セル内の環境が生理的な溶液状態で中性になるようにNaイオン、Clイオンを挿入し、周期的境界条件下で、それぞれの原子に働く力を計算する。それぞれの原子に働く力(エネルギー)としては、結合の伸縮エネルギー、結合角の変角エネルギー、ねじれ(トーション)エネルギー、ファンデルワールス相互作用エネルギー、静電相互作用エネルギー、水素結合エネルギーなどが挙げられる。なお、分子を構成する全ての原子に働く力の総和が「ポテンシャルエネルギー」となる。
【0053】
次に、分子動力学法では、その力を受けた原子がどのように運動するかを、ニュートンの運動方程式に基づいて計算する。これにより、最初の配置から短い刻み時間の後における、原子の位置の変化を計算することができる。
続いて、分子動力学法では、変化後の原子の位置を新たな起点として、同様の計算を再び行う。非常に短い時間の刻みでこれを繰り返すと、原子が徐々に動く様子が再現できる。このように、分子動力学法においては、(i)原子の位置の決定、(ii)原子に働く力の計算、(iii)原子の動きの計算、という(i)~(iii)を計算機で繰り返し、時間の経過に伴って変化する物理量や立体構造を任意に抽出し、抽出したデータに基づいて統計処理や、立体構造の画像を表示するなどして、生体分子や化合物の構造、物性を解析する。
【0054】
ここで、安定な分子シミュレーションを実施するためには、溶媒分子の構造緩和が必要である。このため、セルサイズを固定したまま、ペプチドを構成する重原子(水素以外の原子)に位置拘束をかけた粒子数、体積、温度一定の分子動力学計算(以下では、NVT計算と称することがある)を行って溶媒分子の構造緩和を行った後、圧力が一定になるようにセルサイズを適宜調整しながら、粒子数、温度一定の分子動力学計算(以下では、NPT計算と称することがある)を行った。
その後、長時間(300ns)のNPT計算を実施することにより、安定な分子シミュレーションを継続して行うことができる。
【0055】
本発明における分子動力学法の「シミュレーション時間」とは、ニュートンの運動方程式に基づいて短い刻みの時間での原子の位置の変化を繰り返し計算することにより、分子の構造変化を再現した時間を意味する。
また、上記の短い刻みの時間は、0.1fs(フェムト秒)以上10fs以下であることが好ましく、0.5fs以上2.0fs以下であることがより好ましい。なお、短い刻みの時間を「ステップ時間」又は「時間刻み幅」と称することがある。本発明では、特段の断りが無い限り、ステップ時間は2.0fsとする。
ここで、ステップ時間での原子の位置の変化を繰り返し計算する際における繰り返し回数を「ループ回数」とすると、シミュレーション時間は、ステップ時間とループ回数の積で表される。本発明においては、平衡化された状態の抗原タンパク質におけるアミノ酸残基毎のゆらぎを算出するため、例えば、シミュレーション時間を100ns以上とすることが好ましいが、これに限定されるものではない。
【0056】
ペプチド乃至タンパク質の分子中に存在する各原子が、どのような力を受けているのかを関数として数式化したものが分子力場である。分子力場に基づく分子力学計算や分子動力学計算では、原子間に働く力を、原子間の結合を表すパラメータ(結合距離や結合角など)を変数とし、原子の種類や結合様式によって決まるポテンシャル関数で数値として表す。
本発明に用いることができる分子力場としては、特に制限なく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、Amber系の分子力場、CHARMm系の分子力場、OPLS系の分子力場などが挙げられる。Amber系の分子力場としては、例えば、Amber ff99SB-ILDN、Amber 12SBなどが挙げられる。CHARMm系の分子力場としては、例えば、CHARMm36などが挙げられる。
【0057】
また、どのエネルギー項を計算に取り入れるかの選択も、特に限定はされない。また、計算の効率を考慮して、原子間の距離が一定以上であれば静電相互作用などを計算しない方法であるカットオフ法と呼ばれる手法を導入してもよい。
【0058】
分子動力学計算を行うことができるプログラムとしては、AMBER(http://ambermd.org/)、CHARMM(http://www.charmm.org/charmm/)、NAMD(http://www.ks.uiuc.edu/Research/namd/)、GROMACS(http://www.gromacs.org/)、MyPresto(http://presto.protein.osaka-u.ac.jp/myPresto4/)などが挙げられる。
【0059】
分子動力学計算は、280K(ケルビン)以上320K以下程度の設定温度下で行うことが一般的であり、本発明においては、例えば、300Kとすることが好ましい。
【0060】
また、分子動力学計算においては、溶媒効果を考慮することが好ましく、溶媒分子(例えば、水分子)をタンパク質と同じ様に、1個1個の分子として取り扱う系で計算することが好ましい。本発明においては、抗原タンパク質の周りに、水分子を十分な数配置した。水分子のモデルとしては、例えば、TIP3Pモデルなどを用いることができる。
【0061】
<エピトープ部位における変異し難い部位の予測>
本発明において、予測手段とは、抗原におけるエピトープ部位におけるアミノ酸残基毎のゆらぎの情報に基づき、前記ゆらぎが所定値以下である前記アミノ酸残基を、前記エピトープ部位における変異し難い部位であると予測する手段である。
エピトープ部位における連続するアミノ酸残基群を更なる探索対象とする態様においては、前記エピトープ部位における連続するアミノ酸残基群の平均ゆらぎの情報に基づき、前記平均ゆらぎが所定値以下である前記アミノ酸残基群を、前記エピトープ部位における変異し難い部位であると予測する手段であることが好ましい。
【0062】
<ゆらぎ>
ここで、アミノ酸残基のゆらぎ、又はゆらぎの大きさ(RMSF,root-mean-square-fluctuation)とは、各アミノ酸残基位置の平均位置からのずれの大きさの時間平均に相当する。
【0063】
エピトープ部位における変異し難い部位の予測の判断基準となる、ゆらぎの情報としては、分子動力学計算で得られた算出値であることが好ましく、分子力学的に平衡化された状態の抗原の構造のデータを用いて解析を行う点で、平衡状態に達してから一定時間経過する間の抽出時間(例えば、シミュレーション開始からの経過時間として180nsから300ns)のトラジェクトリに基づき算出することがより好ましい。
平衡状態に達する時間としては、シミュレーション開始からの経過時間として、例えば、100ns以上が好ましく、150nsがより好ましく、180nsが更に好ましい。
抽出時間としては、平衡状態に達してからの時間として、50ns間以上が好ましく、100ns間がより好ましく、120ns間が更に好ましい。
【0064】
ゆらぎの算出方法としては、例えば、抽出したトラジェクトリを、「MDTraj」などのMDトラジェクトリ解析のライブラリを用いて、アミノ酸残基毎に抽出時間における平均位置からのずれの大きさを算出し、アミノ酸残基毎のゆらぎ(残基RMSF)とすることができる。
抗原におけるx番目のアミノ酸残基におけるゆらぎを示すrmsfは、下記式(2)により算出することができ、単位は[Å]である。
rmsf=√(1/NΣ(rxj-<rxj>)2) ・・・式(2)
式(2)中、Nは、抽出時間の間でサンプリングされた構造数nを示し、jは、1~nの整数を示し、rxjは、抽出時刻jのときのx番目のアミノ酸残基の位置ベクトルを示し、<rxj>は、x番目の残基の位置ベクトルの抽出時間平均を示す。
【0065】
エピトープ部位における変異し難い部位の予測の判断基準となる、ゆらぎの所定値としては、探索対象となる抗原の特性に応じて適宜選択することができるが、1.3Åが好ましく、1.2Åがより好ましく、1.1Åが更に好ましく、1.0Åが特に好ましい。例えば、インフルエンザウイルスのヘマグルチニンにおいては、1.2Åが好ましく、1.1Åがより好ましく、1.0Åが更に好ましい。
ゆらぎが所定値以下である前記アミノ酸残基を、エピトープ部位における変異し難い部位であると予測することができる。
また、エピトープ部位における連続するアミノ酸残基群を更なる探索対象とする態様においては、平均ゆらぎの所定値としては、探索対象となる抗原の特性に応じて適宜選択することができるが、1.2Åが好ましく、1.1Åがより好ましく、1.0Åが更に好ましい。例えば、インフルエンザウイルスのヘマグルチニンにおいては、1.0Åが好ましく、0.9Åがより好ましく、0.8Åが更に好ましい。
平均ゆらぎが所定値以下である前記アミノ酸残基群を、エピトープ部位における変異し難い部位であると予測することができる。
【0066】
<抗原に対する抗体が結合し易い部位の予測>
本発明の一実施形態においては、前記予測手段が、前記変異し難い部位であると予測した前記アミノ酸残基のうち、各前記アミノ酸残基の表面露出面積比の情報に基づき、前記表面露出面積比が所定値以上である前記アミノ酸残基を、前記抗原に対する抗体が結合し易い部位であると予測する手段であってもよい。
これにより、ゆらぎの情報に加えて、アミノ酸残基の表面露出面積比の情報に基づき、変異に対するロバスト性や立体構造的な見地から複合的にエピトープ部位の有望度の順位付けを行うことができ、エピトープ部位における変異し難い部位、かつ抗原に対する抗体が結合し易い部位であるアミノ酸残基を高精度に予測することができる。
なお、抗原に対する抗体が結合し易い部位の予測は、エピトープ部位における変異し難い部位の予測に加えて行ってもよく、これを単独で行ってもよい。
【0067】
<表面露出面積比>
ここで、抗原におけるx番目のアミノ酸残基における表面露出面積比(rASA:relative Accessible Surface Area)とは、x番目のアミノ酸残基のアミノ酸残基の露出面積(ASA:Accessible Surface Area)を前記アミノ酸残基の最大溶媒露出面積で割って算出される値(%)であり、100%以上と算出されたものは100%とする。
【0068】
抗原に対する抗体が結合し易い部位の予測の判断基準となる、表面露出面積比の情報としては、分子動力学計算で得られた算出値であることが好ましく、具体的には、上述した<<露出面積比の算出方法>>において述べたように、MD解析に一般的に使われる溶媒露出面積(SASA:Solvent Accessible Surface Area)の計算手段(例えば、Gromacsのコマンド、gmx sasa)を用いて、溶媒分子の半径に相当する球の半径の1.4Åを抗体のCDR露出部分などの、抗原のエピトープ部位に対する結合対象分子の大きさに相当する半径を有する球体に変更して、抗体などの結合対象分子がアクセス可能な露出面積として、アミノ酸残基毎に露出面積(ASA)を算出することができる。
前記アミノ酸残基の露出面積(ASA)は、上記の通り算出できる。
前記アミノ酸残基の最大溶媒露出面積は、先行文献(M.Z.Tien et al.PLoS One.2013;8(11):e80635.)に基づくものであり、アミノ酸残基Xを中心に有するトリペプチド(GLY-X-GLY)がExtended構造をとったときのアミノ酸残基Xの溶媒露出面積であり、アミノ酸残基の種類に応じた固有の値である。
【0069】
前記結合対象分子としては、例えば、抗体;VHH抗体;scFV、diabody、Fab領域、F(ab)領域等の低分子化抗体;ヘリックス・ループ・ヘリックス(HLH)構造を有するペプチド等の抗体様分子などが挙げられる。
結合対象分子の大きさに相当する半径を有する球体としては、特に制限はなく、目的とする結合対象分子のサイズや形状に応じて適宜選択することができ、例えば、抗体のCDR露出部分の大きさに相当する7.2Åの球体などが挙げられる。
【0070】
抗原に対する抗体が結合し易い部位の予測の判断基準となる、表面露出面積比の所定値としては、探索対象となる抗原の特性に応じて適宜選択することができるが、0%が好ましく、1%、5%、及び10%のいずれかがより好ましく、20%が更に好ましい。例えば、インフルエンザウイルスのヘマグルチニンにおいては、0%が好ましく、1%、5%、及び10%のいずれかがより好ましく、20%が更に好ましい。
表面露出面積比が所定値以上である前記アミノ酸残基を、抗原に対する抗体が結合し易い部位であると予測することができる。
また、エピトープ部位における連続するアミノ酸残基群を更なる探索対象とする態様においては、平均表面露出面積比の所定値としては、探索対象となる抗原の特性に応じて適宜選択することができるが、0%が好ましく、1%、5%、及び10%のいずれかがより好ましく、15%が更に好ましい。例えば、インフルエンザウイルスのヘマグルチニンにおいては、0%が好ましく、1%、5%、及び10%のいずれかがより好ましく、15%が更に好ましい。
平均表面露出面積比が所定値以上である前記アミノ酸残基群を、抗原に対する抗体が結合し易い部位であると予測することができる。
【0071】
<その他の手段>
その他の手段としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができる。
【0072】
本発明の難変異エピトープ部位の予測装置は、例えば、後述する難変異エピトープ部位の予測プログラムを記録した記録媒体を有するコンピュータとすることができる。本発明の難変異エピトープ部位の予測装置は、例えば、難変異エピトープ部位の予測プログラムを記録した記録媒体から、難変異エピトープ部位の予測プログラムを読み出し、CPU(Central Processing Unit)などの制御装置により、難変異エピトープ部位の予測プログラムを実行するものであってもよい。また、計算の高速化のために、計算の一部をGPU(Graphics Processing Unit)により行うようにしてもよい。
なお、難変異エピトープ部位の予測装置の具体的な構成例などについては後述する。
【0073】
(難変異エピトープ部位の予測方法)
本発明の難変異エピトープ部位の予測方法は、抗原における難変異エピトープ部位を予測する方法であって、抗原におけるエピトープ部位におけるアミノ酸残基毎のゆらぎの情報に基づき、前記ゆらぎが所定値以下である前記アミノ酸残基を、前記エピトープ部位における変異し難い部位であると予測する予測工程を含み、更に必要に応じて、その他の工程を含む。
前記予測工程、及びその他の工程は、上述した本発明の難変異エピトープ部位の予測装置における予測手段、及びその他の手段により、好適に実施することができる。
【0074】
(難変異エピトープ部位の予測プログラム)
本発明の難変異エピトープ部位の予測プログラムは、抗原における難変異エピトープ部位を予測するプログラムであって、抗原におけるエピトープ部位におけるアミノ酸残基毎のゆらぎの情報に基づき、前記ゆらぎが所定値以下である前記アミノ酸残基を、前記エピトープ部位における変異し難い部位であると予測する処理をコンピュータに行わせる。
【0075】
本発明の難変異エピトープ部位の予測プログラムは、例えば、上記の難変異エピトープ部位の予測方法をコンピュータにより実現させるためのプログラムとすることができる。言い換えると、本発明の難変異エピトープ部位の予測プログラムをコンピュータにより実行することで、コンピュータを上記の難変異エピトープ部位の予測装置として機能させることができる。このため、本発明の難変異エピトープ部位の予測プログラムにおける好ましい形態は、上記の難変異エピトープ部位の予測装置及び難変異エピトープ部位の予測方法と同様とすることができる。
【0076】
また、本発明の難変異エピトープ部位の予測プログラムを実行するコンピュータとしては、プログラムを実行可能なコンピュータ(計算機)であれば特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができる。このようなコンピュータとしては、例えば、通常のパーソナルコンピュータであってもよいし、サーバーコンピュータ、複数のコンピュータを接続したコンピュータクラスター、スーパーコンピュータなどの大型で高性能のコンピュータであってもよい。
【0077】
本発明の難変異エピトープ部位の予測プログラムは、使用するコンピュータの構成及びオペレーティングシステムの種類・バージョンなどに応じて、各種のプログラミング言語を用いて作成することができる。
【0078】
本発明の難変異エピトープ部位の予測プログラムは、ハードディスクなどの記憶媒体に記録しておいてもよいし、CD-ROM(Compact Disc-Read Only Memory)、DVD-ROM(Digital Versatile Disc-ROM)、MO(Magneto-Optical)ディスク、USB(Universal Serial Bus)メモリなどの記憶媒体に記録しておいてもよい。
また、コンピュータから情報通信ネットワークを通じてアクセス可能な外部記憶領域(他のコンピュータなど)に、本発明の難変異エピトープ部位の予測プログラムを記録しておいてもよい。この場合、外部記憶領域に記録された本発明の難変異エピトープ部位の予測プログラムを、必要に応じて、外部記憶領域から情報通信ネットワークを通じて、ハードディスクにインストールして使用することができる。
なお、本発明の難変異エピトープ部位の予測プログラムは、複数の記憶媒体に、任意の処理毎に分割されて記録されていてもよい。
【0079】
(抗体のスクリーニング装置)
本発明の抗体のスクリーニング装置は、抗原が変異しても前記抗原に対し結合可能な抗体のスクリーニング装置であって、本発明の難変異エピトープ部位の予測装置、方法、又はプログラムによって、前記エピトープ部位における変異し難い部位であると予測された前記アミノ酸残基との結合親和力が所定値以上である抗体を選抜する選抜手段を有し、更に必要に応じて、その他の手段を有する。
【0080】
<抗原が変異しても抗原に対し結合可能な抗体の選抜>
前記選抜手段は、エピトープ部位における変異し難い部位であると予測された前記アミノ酸残基との結合親和力が所定値以上である抗体を選抜する手段である。
エピトープ部位における変異し難い部位の予測は、本発明の難変異エピトープ部位の予測装置、方法、又はプログラムによって実施することができ、上述した各種実施形態についても、適宜選択することができる。
これにより、結合能がウイルスの変異に影響されにくい広域スペクトルを有する広域スペクトル中和抗体を高精度で選抜及び同定することができる。
【0081】
<抗原に対し結合し易い抗体の選抜>
本発明の一実施形態においては、前記選抜手段が、前記変異し難い部位であると予測した前記アミノ酸残基のうち、抗原に対する抗体が結合し易い部位であると予測された前記アミノ酸残基との結合親和力が所定値以上である抗体を選抜する手段であってもよい。
これにより、ゆらぎの情報に加えて、アミノ酸残基の表面露出面積比の情報に基づき、変異に対するロバスト性や立体構造的な見地から複合的に有望度の順位付けを行ったエピトープ部位を指標として、抗体を選抜することができ、結合能がウイルスの変異に影響されにくく、かつ抗原に対して結合し易い広域スペクトルを有する広域スペクトル中和抗体を高精度で選抜及び同定することができる。
なお、抗原に対する抗体が結合し易い部位であると予測された前記アミノ酸残基との結合親和力が所定値以上である抗体を選抜する手段を単独で行ってもよい。
【0082】
なお、本発明の他の実施形態においては、抗体に限定されず、抗体に代えて抗体以外の他の結合対象分子(低分子化抗体、抗体様分子など)を用いてもよい。
【0083】
<結合親和力>
アミノ酸残基との結合親和力の測定及び評価方法としては、特に制限はなく、目的に応じて公知の方法を適宜選択することができ、例えば、ウェスタンブロット、免疫組織化学および免疫細胞化学、酵素結合免疫吸着検査法(ELISA)、免疫沈降法、フローサイトメトリー、表面プラズモン共鳴法(SPR)、バイオレイヤー干渉法(BLI)などが挙げられる。
例えば、前記アミノ酸残基を含むエピトープ部位に対する抗体の相互作用を、前記測定方法を用いて測定し、解離定数(KD)などを指標として、結合親和力(Binding affinity)を評価することができる。対照エピトープ部位として、前記アミノ酸残基に代えて他のアミノ酸残基を含むエピトープ部位を用いてもよい。
また、スクリーニングした後の抗体の適用環境を考慮し、適用環境と同様の条件(温度、pH、イオン強度)で測定及び評価を行うことが好ましい。
【0084】
抗原が変異しても抗原に対し結合可能な抗体の選抜、乃至抗原に対し結合し易い抗体の選抜の判断基準となる、アミノ酸残基との結合親和力の所定値としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、解離定数(KD)で、100nMが好ましく、10nMがより好ましい。例えば、インフルエンザウイルスのヘマグルチニンにおいては、100nMが好ましく、50nMがより好ましい。
前記解離定数(KD)としては、表面プラズモン共鳴法(SPR)により好適に測定することができる。
具体的には、表面プラズモン共鳴分析装置(BiacoreTM3000、グローバルライフサイエンステクノロジーズジャパン株式会社製)により測定することにより、解離定数(KD)を求めることができる。
【0085】
<その他の手段>
その他の手段としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができる。
【0086】
(抗体のスクリーニング方法)
本発明の抗体のスクリーニング方法は、抗原が変異しても前記抗原に対し結合可能な抗体のスクリーニング方法であって、本発明の難変異エピトープ部位の予測装置、方法、又はプログラムによって、前記エピトープ部位における変異し難い部位であると予測された前記アミノ酸残基との結合親和力が所定値以上である抗体を選抜する選抜工程を含み、更に必要に応じて、その他の工程を含む。
前記選抜工程、及びその他の工程は、上述した本発明の抗体のスクリーニング装置における選抜手段、及びその他の手段により、好適に実施することができる。
【0087】
(抗体のスクリーニング用プログラム)
本発明の抗体のスクリーニング用プログラムは、抗原が変異しても前記抗原に対し結合可能な抗体のスクリーニング用プログラムであって、本発明の難変異エピトープ部位の予測装置、方法、又はプログラムによって、前記エピトープ部位における変異し難い部位であると予測された前記アミノ酸残基との結合親和力が所定値以上である抗体を選抜する処理をコンピュータに行わせる。
【0088】
本発明の抗体のスクリーニング装置は、例えば、本発明の抗体のスクリーニング用プログラムを記録した記録媒体を有するコンピュータとすることができる。
また、本発明の抗体のスクリーニング用プログラムは、例えば、上記の抗体のスクリーニング方法をコンピュータにより実現させるためのプログラムとすることができる。言い換えると、本発明の抗体のスクリーニング用プログラムをコンピュータにより実行することで、コンピュータを上記の抗体のスクリーニング装置として機能させることができる。このため、本発明の抗体のスクリーニング用プログラムにおける好ましい形態は、上記の抗体のスクリーニング装置及び抗体のスクリーニング方法と同様とすることができる。
本発明の抗体のスクリーニング用プログラムの実施形態としては、本発明の難変異エピトープ部位の予測プログラムにおいて説明した事項と同様の事項を適宜選択することができる。
【0089】
(実施形態)
以下では、本発明のより具体的な実施形態について、図面を参照して説明する。
【0090】
図13に、本発明の難変異エピトープ部位の予測装置のハードウェア構成例を示す。
難変異エピトープ部位の予測装置100においては、例えば、制御部101、主記憶装置102、補助記憶装置103、I/Oインターフェイス104、通信インターフェイス105、入力装置106、出力装置107、表示装置108が、システムバス109を介して接続されている。
【0091】
制御部101は、演算(四則演算、比較演算、焼き鈍し法の演算等)、ハードウェア及びソフトウェアの動作制御などを行う。制御部101としては、例えば、CPUであってもよいし、GPUであってもよく、これらの組み合わせでもよい。
制御部101は、例えば、主記憶装置102などに読み込まれたプログラム(例えば、難変異エピトープ部位予測プログラムなど)を実行することにより、種々の機能を実現する。
本発明の難変異エピトープ部位予測装置における予測部が行う処理は、例えば、制御部101により行うことができる。
【0092】
主記憶装置102は、各種プログラムを記憶するとともに、各種プログラムを実行するために必要なデータ等を記憶する。主記憶装置102としては、例えば、ROM(Read Only Memory)及びRAM(Random Access Memory)の少なくともいずれかを有するものを用いることができる。
ROMは、例えば、BIOS(Basic Input/Output System)などの各種プログラムなどを記憶する。また、ROMとしては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、マスクROM、PROM(Programmable ROM)などが挙げられる。
RAMは、例えば、ROMや補助記憶装置103などに記憶された各種プログラムが、制御部101により実行される際に展開される作業範囲として機能する。RAMとしては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、DRAM(Dynamic Random Access Memory)、SRAM(Static Random Access Memory)などが挙げられる。
【0093】
補助記憶装置103としては、各種情報を記憶できれば特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、ソリッドステートドライブ(SSD)、ハードディスクドライブ(HDD)などが挙げられる。また、補助記憶装置103は、CDドライブ、DVDドライブ、BD(Blu-ray(登録商標) Disc)ドライブなどの可搬記憶装置としてもよい。
また、本発明の難変異エピトープ部位予測プログラムは、例えば、補助記憶装置103に格納され、主記憶装置102のRAM(主メモリ)にロードされ、制御部101により実行される。
【0094】
I/Oインターフェイス104は、各種の外部装置を接続するためのインターフェイスである。I/Oインターフェイス104は、例えば、CD-ROM(Compact Disc ROM)、DVD-ROM(Digital Versatile Disk ROM)、MOディスク(Magneto-Optical disk)、USBメモリ〔USB(Universal Serial Bus) flash drive〕などのデータの入出力を可能にする。
【0095】
通信インターフェイス105としては、特に制限はなく、適宜公知のものを用いることができ、例えば、無線又は有線を用いた通信デバイスなどが挙げられる。
入力装置106としては、難変異エピトープ部位予測装置100に対する各種要求や情報の入力を受け付けることができれば特に制限はなく、適宜公知のものを用いることができ、例えば、キーボード、マウス、タッチパネル、マイクなどが挙げられる。また、入力装置106がタッチパネル(タッチディスプレイ)である場合は、入力装置106が表示装置108を兼ねることができる。
【0096】
出力装置107としては、特に制限はなく、適宜公知のものを用いることができ、例えば、プリンタなどが挙げられる。
表示装置108としては、特に制限はなく、適宜公知のものを用いることができ、例えば、液晶ディスプレイ、有機ELディスプレイなどが挙げられる。
【0097】
図14に、本発明の難変異エピトープ部位の予測装置の他のハードウェア構成例を示す。
図14に示す例において、難変異エピトープ部位の予測装置100は、抗原におけるエピトープ部位におけるアミノ酸残基毎のゆらぎの情報に基づき、エピトープ部位における変異し難い部位であると予測する処理を行う端末装置200と、当該アミノ酸残基毎のゆらぎの情報を求めるための分子動力学計算(MDシミュレーション)を行うサーバーコンピュータ300とに分かれている。また、図14に示す例において、難変異エピトープ部位の予測装置100における端末装置200とサーバーコンピュータ300は、ネットワーク400により接続されている。
図14に示す例では、例えば、端末装置200としては、通常のパーソナルコンピュータを用いることができ、サーバーコンピュータ300としては、複数のコンピュータを接続したコンピュータクラスターや、スーパーコンピュータなどの大型で高性能のコンピュータを用いることができる。なお、サーバーコンピュータ300としては、クラウド上のコンピュータ群であってもよい。
また、端末装置200とサーバーコンピュータ300とを接続するネットワーク400としては、例えば、SSH(Secure Shell)などの通信規格を用いることができる。
【0098】
図14に示す例においては、例えば、端末装置200により、抗原におけるエピトープ部位におけるアミノ酸残基毎のゆらぎの情報を作成するための分子動力学計算の初期構造の作成や条件の設定を行う。そして、端末装置200で作成した分子動力学計算に必要な条件ファイルを、端末装置200からサーバーコンピュータ300にネットワーク400を介して送信する。
次いで、サーバーコンピュータ300により、抗原のエピトープ部位におけるアミノ酸残基毎のゆらぎの情報を求めるための分子動力学計算を実行する。そして、分子動力学計算の結果のデータ(トラジェクトリのファイルなど)を、サーバーコンピュータ300から端末装置200にネットワーク400を介して送信する。
続いて、端末装置200により、受信した分子動力学計算の結果のデータに基づいて、アミノ酸残基毎のゆらぎを算出し、ゆらぎが所定値以下であるアミノ酸残基を、エピトープ部位における変異し難い部位であると予測する。
【0099】
図15に、本発明の難変異エピトープ部位の予測装置の機能構成例を示す。
図15に示すように、難変異エピトープ部位の予測装置100は、通信機能部120と、入力機能部130と、出力機能部140と、表示機能部150と、記憶機能部160と、制御機能部170とを備える。
【0100】
通信機能部120は、例えば、各種のデータを外部の装置と送受信する。
入力機能部130は、例えば、難変異エピトープ部位の予測装置100に対する各種指示を受け付ける。
出力機能部140は、例えば、アミノ酸残基毎のゆらぎ、アミノ酸残基毎の表面露出面積比の情報、検索対象である抗原の立体構造などをプリントして出力する。
表示機能部150は、例えば、アミノ酸残基毎のゆらぎ、アミノ酸残基毎の表面露出面積比の情報、検索対象である抗原の立体構造などをディスプレイに表示する。
記憶機能部160は、例えば、各種プログラム、分子動力学計算より得られたトラジェクトリなどを記憶する。
【0101】
制御機能部170は、予測部171と、分子動力学計算部172とを有する。制御機能部170は、例えば、記憶機能部160に記憶された各種プログラムを実行するとともに、難変異エピトープ部位の予測装置100全体の動作を制御する。
予測部171は、例えば、アミノ酸残基毎のゆらぎの情報に基づき、ゆらぎが所定値以下であるアミノ酸残基を、エピトープ部位における変異し難い部位であると予測する処理を行う。
分子動力学計算部172は、例えば、抗原におけるエピトープ部位におけるアミノ酸残基毎のゆらぎの情報を求めるための分子動力学計算(MDシミュレーション)を行う。
【0102】
ここで、図16を参照して、本発明を用いて、難変異エピトープ部位の予測方法を実施する際の流れの一例について説明する。以下では、図16において「S」で示すステップごとに説明する。
【0103】
まず、S101では、対象分子である抗原をモデリングすると共に、モデリングした対象分子の周囲に水分子とイオンを配置して計算系を構築する。言い換えると、S101においては、モデリングツールを用いて対象分子をモデリングした後、当該対象分子の周りに水分子とイオンを配置することで、電気的に中性化された計算系を構築する。
続いて、S102では、構築した計算系に対して、エネルギー極小化計算及び構造緩和計算(NVT計算及びNPT計算)を行うことにより、長時間NPT計算の初期構造を作成する。言い換えると、S102においては、S101で構築した計算系に対して、分子力学計算によるエネルギー極小化計算を行って、不自然な構造の歪みを取り除いた後、溶媒の平衡化などのために、短時間NPT計算の構造緩和計算(NVT計算及びNPT計算)を行い、長時間NPT計算の初期構造を作成する。
【0104】
次に、S103では、作成した初期構造に基づいて、長時間NPT計算を実施する。言い換えると、S103においては、S102で作成した初期構造を利用して、上記の<分子動力学計算の計算例>で説明した、平衡状態に達してから一定時間経過する間の抽出時間において、ステップ時間毎に、対象分子が取り得る様々な立体構造についてのエネルギーや座標等のトラジェクトリをサンプリングする。
【0105】
そして、S104では、長時間NPT計算のトラジェクトリのデータに基づいて、残基RMSFを算出する。言い換えると、S104においては、平衡化された状態の対象分子(抗原)の平均構造に対する各アミノ酸残基のゆらぎの大きさ(残基RMSF)を算出する。具体的には、抗原におけるx番目のアミノ酸残基におけるゆらぎrmsf[Å]として、下記式(2)により算出する。
rmsf=√(1/NΣ(rxj-<rxj>)2) ・・・式(2)
式(2)中、Nは、抽出時間の間でサンプリングされた構造数nを示し、jは、1~nの整数を示し、rxjは、抽出時刻jのときのx番目のアミノ酸残基の位置ベクトルを示し、<rxj>は、x番目の残基の位置ベクトルの抽出時間平均を示す。
【0106】
次いで、S105では、求めた残基RMSFに応じて、変異し難い部位を予測する。言い換えると、ゆらぎが所定値以下であるアミノ酸残基を、エピトープ部位における変異し難い部位(難変異エピトープ部位)であると予測する。
難変異エピトープ部位を予測すると、処理を終了させてもよいし、任意選択的に、後述するS106及びS107を追加的に行って、処理を終了させてもよい。
【0107】
任意選択的に、S106では、長時間NPT計算のトラジェクトリのデータに基づいて、表面露出面積比rASAを算出する。言い換えると、S106においては、抗体などの結合対象分子がアクセス可能な露出面積の指標として、アミノ酸残基毎に表面露出面積比rASAを算出する。
次いで、S107では、求めた表面露出面積比rASAに応じて、抗体が結合し易い部位を予測する。言い換えると、S105において変異し難い部位であると予測されたアミノ酸残基のうち、各アミノ酸残基の表面露出面積比の情報に基づき、表面露出面積比が所定値以上であるアミノ酸残基を、前記抗原に対する抗体が結合し易い部位であると予測する。
抗体が結合し易い部位を予測すると、処理を終了させる。
【0108】
図16においては、本発明の一例における処理の流れについて、特定の順序に従って説明したが、本発明においては、技術的に可能な範囲で、適宜各ステップの順序を入れ替えることができる。また、本発明においては、技術的に可能な範囲で、複数のステップを一括して行ってもよい。
【0109】
以上、説明したように、本発明の難変異エピトープ部位の予測装置は、抗原における難変異エピトープ部位を予測する装置であって、抗原におけるエピトープ部位におけるアミノ酸残基毎のゆらぎの情報に基づき、前記ゆらぎが所定値以下である前記アミノ酸残基を、前記エピトープ部位における変異し難い部位であると予測する予測手段を有する。
これにより、コンピュータを用いた分子シミュレーションにより、広域スペクトル中和抗体のための難変異エピトープ部位を高精度で予測及び同定することができる。
【0110】
また、本発明の抗体のスクリーニング装置は、抗原が変異しても前記抗原に対し結合可能な抗体のスクリーニング装置であって、本発明の難変異エピトープ部位の予測装置、方法、又はプログラムによって、前記エピトープ部位における変異し難い部位であると予測された前記アミノ酸残基との結合親和力が所定値以上である抗体を選抜する選抜手段を有する。
これにより、広域スペクトル中和抗体を高精度で選抜することができる抗体のスクリーニング装置を提供することができる。
【0111】
本発明の態様としては、例えば、以下のとおりである。
<1> 抗原における難変異エピトープ部位を予測する装置であって、
抗原におけるエピトープ部位におけるアミノ酸残基毎のゆらぎの情報に基づき、前記ゆらぎが所定値以下である前記アミノ酸残基を、前記エピトープ部位における変異し難い部位であると予測する予測手段を有することを特徴とする難変異エピトープ部位の予測装置である。
<2> 前記予測手段が、前記エピトープ部位における連続するアミノ酸残基群の平均ゆらぎの情報に基づき、前記平均ゆらぎが所定値以下である前記アミノ酸残基群を、前記エピトープ部位における変異し難い部位であると予測する、前記<1>に記載の難変異エピトープ部位の予測装置である。
<3> 前記抗原が、インフルエンザウイルスにおけるヘマグルチニンであり、
前記ゆらぎの所定値が、1.2Åである、前記<1>から<2>のいずれかに記載の難変異エピトープ部位の予測装置である。
<4> 前記ゆらぎの情報が、分子動力学計算で得られた算出値である、前記<1>から<3>のいずれかに記載の難変異エピトープ部位の予測装置である。
<5> 前記予測手段が、前記変異し難い部位であると予測した前記アミノ酸残基のうち、各前記アミノ酸残基の表面露出面積比の情報に基づき、前記表面露出面積比が所定値以上である前記アミノ酸残基を、前記抗原に対する抗体が結合し易い部位であると予測する、前記<1>から<4>のいずれかに記載の難変異エピトープ部位の予測装置である。
<6> 前記抗原が、インフルエンザウイルスにおけるヘマグルチニンであり、
前記表面露出面積比の所定値が、0%である、前記<5>に記載の難変異エピトープ部位の予測装置である。
<7> 前記表面露出面積比の情報が、分子動力学計算で得られた算出値である、前記<5>から<6>のいずれかに記載の難変異エピトープ部位の予測装置である。
<8> 抗原における難変異エピトープ部位を予測する方法であって、
抗原におけるエピトープ部位におけるアミノ酸残基毎のゆらぎの情報に基づき、前記ゆらぎが所定値以下である前記アミノ酸残基を、前記エピトープ部位における変異し難い部位であると予測する予測工程を含むことを特徴とする難変異エピトープ部位の予測方法である。
<9> 抗原における難変異エピトープ部位を予測するプログラムであって、
抗原におけるエピトープ部位におけるアミノ酸残基毎のゆらぎの情報に基づき、前記ゆらぎが所定値以下である前記アミノ酸残基を、前記エピトープ部位における変異し難い部位であると予測する処理をコンピュータに行わせることを特徴とする難変異エピトープ部位の予測プログラムである。
<10> 抗原が変異しても前記抗原に対し結合可能な抗体のスクリーニング装置であって、
前記<1>から<7>のいずれかに記載の難変異エピトープ部位の予測装置、前記<8>に記載の難変異エピトープ部位の予測方法、又は前記<9>に記載の難変異エピトープ部位の予測プログラムによって、前記エピトープ部位における変異し難い部位であると予測された前記アミノ酸残基との結合親和力が所定値以上である抗体を選抜する選抜手段を有することを特徴とする抗体のスクリーニング装置である。
<11> 抗原が変異しても前記抗原に対し結合可能な抗体のスクリーニング方法であって、
前記<1>から<7>のいずれかに記載の難変異エピトープ部位の予測装置、前記<8>に記載の難変異エピトープ部位の予測方法、又は前記<9>に記載の難変異エピトープ部位の予測プログラムによって、前記エピトープ部位における変異し難い部位であると予測された前記アミノ酸残基との結合親和力が所定値以上である抗体を選抜する選抜工程を含むことを特徴とする抗体のスクリーニング方法である。
<12> 抗原が変異しても前記抗原に対し結合可能な抗体のスクリーニング用プログラムであって、
前記<1>から<7>のいずれかに記載の難変異エピトープ部位の予測装置、前記<8>に記載の難変異エピトープ部位の予測方法、又は前記<9>に記載の難変異エピトープ部位の予測プログラムによって、前記エピトープ部位における変異し難い部位であると予測された前記アミノ酸残基との結合親和力が所定値以上である抗体を選抜する処理をコンピュータに行わせることを特徴とする抗体のスクリーニング用プログラムである。
【0112】
前記<1>から<7>のいずれかに記載の難変異エピトープ部位の予測装置、前記<8>に記載の難変異エピトープ部位の予測方法、又は、前記<9>に記載の難変異エピトープ部位の予測プログラムによれば、従来における諸問題を解決し、本発明の目的を達成することができる。
前記<10>に記載の抗体のスクリーニング装置、前記<11>に記載の抗体のスクリーニング方法、又は、前記<12>に記載の抗体のスクリーニング用プログラムによれば、従来における諸問題を解決し、広域スペクトル中和抗体を高精度で選抜することができる抗体のスクリーニング装置、方法、及びプログラムを提供することができる。
【符号の説明】
【0113】
100 難変異エピトープ部位の予測装置
200 端末装置
300 サーバーコンピュータ
171 予測部
【0114】
図1
図2
図3
図4
図5
図6A
図6B
図7A
図7B
図8
図9A
図9B
図9C
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16
【配列表】
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