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特開2023-146645X染色体優性遺伝疾患におけるシグナル伝達解析法
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  • 特開-X染色体優性遺伝疾患におけるシグナル伝達解析法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023146645
(43)【公開日】2023-10-12
(54)【発明の名称】X染色体優性遺伝疾患におけるシグナル伝達解析法
(51)【国際特許分類】
   G01N 33/68 20060101AFI20231004BHJP
   G01N 33/50 20060101ALI20231004BHJP
   G01N 33/15 20060101ALI20231004BHJP
   C12N 15/90 20060101ALI20231004BHJP
   C12N 15/12 20060101ALN20231004BHJP
【FI】
G01N33/68
G01N33/50 Z
G01N33/15 Z
C12N15/90 100Z
C12N15/90 Z
C12N15/12
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022053936
(22)【出願日】2022-03-29
(71)【出願人】
【識別番号】522125559
【氏名又は名称】今西 康雄
(74)【代理人】
【識別番号】110000796
【氏名又は名称】弁理士法人三枝国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】今西 康雄
【テーマコード(参考)】
2G045
【Fターム(参考)】
2G045AA24
2G045AA25
2G045CB01
2G045DA36
2G045FA16
2G045FB03
2G045FB07
2G045FB12
(57)【要約】      (修正有)
【課題】対立遺伝子タンパク質から、シグナル伝達において当該対立遺伝子タンパク質の下流に存在する因子(好ましくは下流に存在する遺伝子のタンパク質)までのシグナル伝達が、前記対立遺伝子タンパク質が発現している細胞内のみで行われているか、あるいは、前記対立遺伝子タンパク質が発現している細胞外を介して行われているか、を解析可能な手法。
【解決手段】雌非ヒト哺乳動物の2本のX染色体をX1、X2としたとき、
X1に正常対立遺伝子及び蛍光タンパク質遺伝子が、
X2に変異対立遺伝子が、
存在し、
当該変異対立遺伝子が、優性遺伝形質を示す遺伝子である、
雌非ヒト哺乳動物の細胞において、
前記下流因子を識別可能に染色すること、及び前記蛍光タンパク質を検出すること、を含む、
方法。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
対立遺伝子タンパク質から、シグナル伝達において前記対立遺伝子タンパク質の下流に存在する因子(下流因子)までのシグナル伝達が、
前記対立遺伝子タンパク質が発現している細胞内のみで行われているか、あるいは
前記対立遺伝子タンパク質が発現している細胞外を介して行われているか、
を解析する方法であって、
雌非ヒト哺乳動物の2本のX染色体をX1、X2としたとき、
X1に正常対立遺伝子及び蛍光タンパク質遺伝子が、
X2に変異対立遺伝子が、
存在し、
当該変異対立遺伝子が、優性遺伝形質を示す遺伝子である、
雌非ヒト哺乳動物の細胞において、
前記下流因子を識別可能に染色すること、及び前記蛍光タンパク質を検出すること、を含む、
方法。
【請求項2】
下流因子が、シグナル伝達において前記対立遺伝子タンパク質の下流に存在する遺伝子のタンパク質(下流タンパク質)である、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
X1に存在する蛍光タンパク質遺伝子が、X1にノックインされた蛍光タンパク質遺伝子であり、
当該ノックイン部位が、X染色体上の遺伝子のイントロン部位である、
請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
蛍光タンパク質遺伝子がノックインされる、X染色体上の遺伝子のイントロン部位が、
モエシン(Moesin)のイントロン部位である、
請求項3に記載の方法。
【請求項5】
前記ノックイン蛍光タンパク質遺伝子が、緑色蛍光タンパク質遺伝子、黄色蛍光タンパク質遺伝子、又は赤色蛍光タンパク質遺伝子である、請求項3又は4に記載の方法。
【請求項6】
請求項1~5のいずれかに記載の方法により、対立遺伝子タンパク質から、シグナル伝達において前記対立遺伝子タンパク質の下流に存在する因子(下流因子)までのシグナル伝達を解析すること、並びに、
前記シグナル伝達が、前記対立遺伝子タンパク質が発現している細胞外を介して行われていると解析された場合に、前記雌非ヒト哺乳動物に被験物質を適用したうえで、請求項1~5のいずれかに記載の方法により、前記対立遺伝子タンパク質から、シグナル伝達において前記対立遺伝子タンパク質の下流に存在する因子(下流因子)までのシグナル伝達を解析すること、
を含む、前記シグナル伝達を阻害する物質をスクリーニングする方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、生体内におけるシグナル伝達経路を解析する方法に関する。なお、本明細書に記載される全ての文献の内容は参照により本明細書に組み込まれる。
【背景技術】
【0002】
DNAのメチル化(より具体的には、シトシンのメチル化)は、様々な生命現状に深く関わっている。
【0003】
例えば、プロモーター領域(特にCpGアイランド)のメチル化は、転写因子のプロモーター領域への結合を妨げることにより、遺伝子発現を抑制する調節機能を担っている。このような調整機能は、エピジェネティクスの主要な制御機構の一つであると考えられている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】J Biol Chem 274:2315-2321 (1999)
【非特許文献2】J Clin Invest 107:1093-1102 (2001)
【非特許文献3】Development 115, 703-715 (1992)
【非特許文献4】Endocrinology 2019;160:1348-1358
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
哺乳動物の性決定においては、父親からX染色体を受け継ぎ、2本の性染色体が共にX染色体となった個体が雌となること、受け継いだX染色体の一方が不活性化されること、がよく知られているところ、当該X染色体の不活性化にDNAのメチル化が関与している。より詳細には、X染色体の不活性化は、X染色体のほぼ全領域(例外は擬似常染色体領域)がヘテロクロマチン構造をとることで起きるところ、このヘテロクロマチン構造はX染色体のほぼ全領域においてDNAメチル化が起こるために生じる。
【0006】
なお、この不活性化は遺伝子量補償のために起きると考えられている。つまり、雄では1本しかないX染色体で生存に必要な遺伝子を発現させているが、雌では2本のX染色体からの過剰な量の遺伝子の発現を避けるために片方のX染色体を不活性化していると考えられている。雌の胚発生において、どちらのX染色体が不活性化されるかはマウスやヒトのような真獣下綱動物においては、細胞毎に無作為に決まるが、いったん不活性化が起こると、生理的条件下では生涯そのX染色体の不活性化状態は変化しない。ヒトのXi(不活化されたX染色体)では当該染色体の遺伝子のうち最大25%程度が発現しているのに対して、マウスのXiでは不活性化を逃れる遺伝子はほとんど無い。
【0007】
当初、このX染色体不活性化を簡便に検出できる手法を開発することを目的に、本発明者は検討を行った。
【0008】
X染色体不活化を検出できる公知の手法を検索したところ、lacZ遺伝子が一方のX染色体にノックインされた雌マウス(H253マウス)が知られていることが分かった(上記非特許文献3参照)。当該H253マウスの組織は、X-galによる組織化学染色を適用することにより、X染色体上のXA(正常対立)遺伝子と、優性遺伝形質を示すXa(変異対立)遺伝子とのヘテロ雌(XA/Xa)において、XA遺伝子を発現している細胞はlacZ陽性となり青色を呈し、Xa遺伝子を発現している細胞はlacZ陰性となり白色を呈することにより、XA、Xaそれぞれのいずれの対立遺伝子が発現しているかを,分別することが可能である(図7参照)。これにより、X染色体不活性化の状況を細胞毎に知ることができる。
【0009】
しかし、当該H253マウスにおいて、組織にX-galを適用するにあたっては、当該マウスを犠牲死させ組織を摘出しX-galによる組織化学染色を適用するが、その際にはX-galが組織表面を覆ってしまう。そのため、標的遺伝子の発現を確認するための免疫組織化学が不可能となる。先に免疫組織化学を行った後にX-galによる組織化学染色を適用すると、lacZが変性するためX-galによる組織化学染色が不可能となる。以上より、当該H253マウスを解析に使用することは不可能である。また、当該H253マウスは、トランスジーンをランダムに導入後に、X染色体にたまたま導入されているものを選択することで完成されたものであり(上記非特許文献3参照)、同様の手法にてさらなる改良を検討することは、現実的に不可能であった。
【0010】
そこで、犠牲死させ摘出した組織を用いて免疫染色が可能となる、H253マウスとは異なる新規な手法をさらに検討した。その結果、本発明者は、特定の蛍光タンパク質遺伝子をX染色体の特定の部位にノックインすることによって、X染色体不活性化を検出することが可能となるモデル動物を作製できる可能性を見いだし、検討を重ねた。
【0011】
当該検討において、本発明者は、雌非ヒト哺乳動物の2本のX染色体をX1、X2としたとき、X1に正常対立遺伝及び蛍光タンパク質遺伝子が存在し、X2に対立遺伝子が存在するが蛍光タンパク質遺伝子が存在しない、雌非ヒト哺乳動物を作製し、前記対立遺伝子タンパク質の下流に存在する因子(下流因子)を識別可能に染色し、且つ、前記蛍光タンパク質を検出することによって、当該対立遺伝子タンパク質から当該下流因子までのシグナル伝達が、前記対立遺伝子タンパク質が発現している細胞内のみで行われているか、あるいは、前記対立遺伝子タンパク質が発現している細胞から他の細胞へのシグナル伝達を介して行われているか、を解析できる可能性を見いだした。そこで、当該解析方法について、さらに検討を重ねた。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本開示は例えば以下の項に記載の主題を包含する。
項1.
対立遺伝子タンパク質から、シグナル伝達において前記対立遺伝子タンパク質の情報伝達下流に存在する因子(下流因子)までのシグナル伝達が、
前記対立遺伝子タンパク質が発現している細胞内のみで行われているか、あるいは
前記対立遺伝子タンパク質が発現している細胞外を介して行われているか、
を解析する方法であって、
雌非ヒト哺乳動物の2本のX染色体をX1、X2としたとき、
X1に正常対立遺伝子及び蛍光タンパク質遺伝子が、
X2に変異対立遺伝子が、
存在し、
当該変異対立遺伝子が、優性遺伝形質を示す遺伝子である、
雌非ヒト哺乳動物の細胞において、
前記下流因子を識別可能に染色すること、及び前記蛍光タンパク質を検出すること、を含む、
方法。
項2.
下流因子が、シグナル伝達において前記対立遺伝子タンパク質の下流に存在する遺伝子のタンパク質(下流タンパク質)である、項1に記載の方法。
項3.
X1に存在する蛍光タンパク質遺伝子が、X1にノックインされた蛍光タンパク質遺伝子であり、
当該ノックイン部位が、X染色体上の遺伝子のイントロン部位である、
項1又は2に記載の方法。
項4.
蛍光タンパク質遺伝子ノックインされる、X染色体上の遺伝子のイントロン部位が、
モエシン(Moesin)のイントロン部位である、
項3に記載の方法。
項5.
前記ノックイン蛍光タンパク質遺伝子が、緑色蛍光タンパク質遺伝子、黄色蛍光タンパク質遺伝子、又は赤色蛍光タンパク質遺伝子である、項3又は4に記載の方法。
項6.
項1~5のいずれかに記載の方法により、対立遺伝子タンパク質から、シグナル伝達において前記対立遺伝子タンパク質の下流に存在する因子(下流因子)までのシグナル伝達を解析すること、並びに、
前記シグナル伝達が、前記対立遺伝子タンパク質が発現している細胞外を介して行われていると解析された場合に、前記雌非ヒト哺乳動物に被験物質を適用したうえで、項1~5のいずれかに記載の方法により、前記対立遺伝子タンパク質から、シグナル伝達において前記対立遺伝子タンパク質の下流に存在する因子(下流因子)までのシグナル伝達を解析すること、
を含む、前記シグナル伝達を阻害する物質をスクリーニングする方法。
【発明の効果】
【0013】
対立遺伝子タンパク質から、シグナル伝達において当該対立遺伝子タンパク質の下流に存在する因子(好ましくは下流に存在する遺伝子のタンパク質)までのシグナル伝達が、前記対立遺伝子タンパク質が発現している細胞内のみで行われているか、あるいは、前記対立遺伝子タンパク質が発現している細胞外を介して行われているか、を解析可能な方法が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】コンストラクト「CAG promoter-tdTomato-pA」の模式図を示す。また、ターゲットアレル及びノックインアレルの模式図も併せて示す。
図2】X連鎖低リン血症性くる病(XLH)の発症に関係すると考えられる、PHEX及びFGF23の情報伝達関係を示す。
図3】tdTomato遺伝子と正常PHEX遺伝子をX染色体に持つ雌X1tdTomato+、PHEXwt/X2tdTomato-、PHEXwtマウス(図右上、左上)と、tdTomato遺伝子と不活性化変異PHEX遺伝子をX染色体に持つ雌X1tdTomato+、PHEXwt/X2tdTomato-、PHEXmutマウス(図右下、左下)の骨組織の凍結切片を、抗FGF23抗体を用いて免疫染色を行い蛍光顕微鏡で観察した結果(図右上、右下)と、さらにDAPI核染色を行った結果(図左上、左下)を示す。
図4】X染色体上のXA(正常対立)遺伝子と、Xa(変異対立)遺伝子とのヘテロ雌(XA/Xa)の染色体と、細胞間情報伝達の有無による表現型(PA、Pa)の変化について示す。
図5】骨細胞系列の培養細胞であるUMR-106細胞(FGF23とともに、骨細胞特異的な転写因子であるOsterixを発現する)において、Osterixに対するsiRNAを用いてOsterixの発現を抑制した際に、Osterix発現率が抑制されたこと(図左)、並びに、Osterixの発現抑制に引き続きFGF23発現が低下したこと(図右)、を示す。すなわちOsterix遺伝子の下流にFGF23遺伝子があることが示された。
図6】上段は正常表現型を呈する雌マウス(X1tdTomato+/PHEXwt/X2tdTomato-/PHEXwtマウス)であり、上段左図は抗Osterix抗体で免疫染色を行っており、Osterix発現細胞は緑に発色している。上段右図は、さらにDAPIのより核が染色されており、細胞の所在が確認できる。正常表現型を呈する雌マウス(X1tdTomato+/PHEXwt/X2tdTomato-/PHEXwtマウス)では、tdTomatoの発現の有無にかかわらず、Osterixの発現が確認された。これは、Osterixが全ての正常骨細胞において発現していることを示す。下段はくる病の表現型を示す雌マウス(X1tdTomato+/PHEXwt/X2tdTomato-/PHEXmutマウス)である。正常細胞はtdTomato陽性であり、病原遺伝子である変異PHEX遺伝子を持つ細胞(病的細胞)はtdTomato陰性である。tdTomato陰性細胞において、OsterixはtdTomato陽性細胞よりも強く発現しているので、変異PHEX遺伝子からOsterixに至るシグナル経路はtdTomato陰性細胞内のみで完結していると判断できる。
図7】lacZ遺伝子が一方のX染色体にノックインされた雌マウス(H253マウス)のX染色体の不活化(メチル化)状態と観察される色との関係を示す(非特許文献3)。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本開示に包含される各実施形態について、さらに詳細に説明する。本開示は、対立遺伝子タンパク質から、シグナル伝達において当該対立遺伝子タンパク質の下流に存在する因子(下流因子)までのシグナル伝達が、前記対立遺伝子タンパク質が発現している細胞内のみで行われているか、あるいは、前記対立遺伝子タンパク質が発現している細胞から他の細胞へ伝達(細胞間伝達)を介して行われているか、を解析可能な方法を提供する。但し、これに限定されるわけではなく、本開示は本明細書に開示され当業者が認識できる全てを包含する。
【0016】
本開示に包含される前記方法において用いられる雌非ヒト哺乳動物は、説明の便宜上、2本のX染色体をX1及びX2としたとき、X1に正常対立遺伝及び蛍光タンパク質遺伝子が、X2に変異対立遺伝子が、それぞれ存在する、雌非ヒト哺乳動物である。当該雌非ヒト哺乳動物を、本開示の雌非ヒト哺乳動物ということがある。また、説明の便宜上、正常対立遺伝子をA(若しくは、X染色体上に存在するという意味を含めてXA)、変異対立遺伝子をa(若しくは、X染色体上に存在するという意味を含めてXa)と表記することがある。当該表記に従えば、本開示の雌非ヒト哺乳動物は、X染色体上のA(正常対立)遺伝子と、優性遺伝形質を示すa(変異対立)遺伝子とのヘテロ雌(X/X)ということができる。また、A遺伝子はX1に存在し、a遺伝子はX2に存在し、蛍光タンパク質遺伝子はX1に存在するということができる。
【0017】
X1に存在するA遺伝子あるいはX2に存在するa遺伝子が、優性遺伝子形質を示す遺伝子であることが好ましい。
【0018】
X1に存在する蛍光タンパク質遺伝子が、X1にノックインされた蛍光タンパク質遺伝子であることが好ましい。蛍光タンパク質としては、特に限定されないが、例えば、緑色蛍光タンパク質遺伝子、黄色蛍光タンパク質遺伝子又は赤色蛍光タンパク質遺伝子が好ましい。また、蛍光タンパク質としては、より具体的には、例えば、Sirius、EBFP、ECFP、mTurquoise、TagCFP、AmCyan、mTFP1、MidoriishiCyan、CFP、GFP、TurboGFP、AcGFP、TagGFP、Azami-Green、ZsGreen、EmGFP、EGFP、GFP2、HyPer、TagYFP、EYFP、Venus、YFP、PhiYFP、PhiYFP-m、TurboYFP、ZsYellow、mBanana、KusabiraOrange、mOrange、TurboRFP、DsRed-Express、DsRed2、TagRFP、DsRed-Monomer、AsRed2、mStrawberry、TurboFP602、mRFP1、JRed、KillerRed、mCherry、HcRed、KeimaRed、mRasberry、mPlum、PS-CFP、Dendra2、Kaede、EosFP、KikumeGR、td-Tomato等が挙げられる。
【0019】
蛍光タンパク質遺伝子がノックインされる部位は、X染色体上の遺伝子のイントロン部位であることが好ましい。X染色体上に存在する遺伝子としては、当該遺伝子のノックアウト非ヒト哺乳動物が、生存可能である遺伝子が好ましく、中でもノックアウトしても特段の表現型を示さない遺伝子であることがより好ましい。このような遺伝子としては、例えば、モエシン(Moesin:Membrane-Organizing Extension Spike proteIN)遺伝子が好ましく挙げられる。モエシンタンパク質のアックセッションNo.は、ヒトではNP_002435、マウスではNP_034963である。蛍光タンパク質遺伝子がノックインされる部位が、モエシン遺伝子のイントロン部位である場合、特にエクソン2とエクソン3との間のイントロンにノックインされることが中でも好ましい。
【0020】
なお、蛍光タンパク質遺伝子がノックインされる部位は、X染色体上の遺伝子のイントロン部位である場合、当該遺伝子は、前記正常対立遺伝子Aであってもよいが、そうではないことが好ましい。
【0021】
蛍光タンパク質遺伝子が、例えばX染色体上の遺伝子がコードされていない領域にノックインしても、蛍光タンパク質が十分に発現しないなどのおそれがあるが、蛍光タンパク質遺伝子がノックインされる部位が、X染色体上の遺伝子のイントロン部位であれば、そのようなおそれは軽減されるので、好ましい。
【0022】
非ヒト哺乳動物としては、特に限定はされないが、例えば齧歯類であることが好ましく、マウス、ラット、ハムスター等が中でも好ましい。
【0023】
本開示の雌非ヒト哺乳動物の細胞を用いることで、対立遺伝子(A又はa)タンパク質から、シグナル伝達において前記対立遺伝子タンパク質の下流に存在する因子(下流因子)までのシグナル伝達が、前記対立遺伝子タンパク質が発現している細胞内のみで行われているか、あるいは、前記対立遺伝子タンパク質が発現している細胞外を介して行われているか、を解析することができる。当該解析方法も本開示は好ましく包含する。また、当該解析方法を本開示の方法ということがある。
【0024】
なお、下流因子しては、シグナル伝達を担う化合物であれば特に限定はされず、低分子化合物、ペプチド、タンパク質、核酸等が挙げられる。また例えば、ホルモンや酵素、受容体などであってもよい。特に限定はされないが、例えば、下流因子としては、シグナル伝達において前記対立遺伝子タンパク質の下流に存在する遺伝子のタンパク質(下流タンパク質)であることが好ましい。
【0025】
本開示の方法で用いられる本開示の雌非ヒト哺乳動物の細胞は、本開示の雌非ヒト哺乳動物中の細胞であってもよいし、本開示の雌非ヒト哺乳動物から単離され(必要に応じて培養され)た単離細胞若しくは培養細胞であってもよい。
【0026】
本開示の方法では、本開示の雌非ヒト哺乳動物の細胞において、前記下流因子を識別可能に染色すること、及び前記蛍光タンパク質を検出すること、を含む。
【0027】
当該下流因子の染色は、免疫染色により行われることが好ましい。つまり、当該下流タンパク質を特異的に検出可能な抗体に標識を施し、当該標識済み抗体を用いることによって、当該下流因子を識別可能に染色することができる。免疫染色法としては、例えば、オートラジオグラフィー法(放射性同位体で標識された抗体を使用)、酵素抗体法(発色反応に用いる酵素で標識された抗体を使用)、蛍光抗体法(抗体色素で標識された抗体を使用)等が挙げられる。
【0028】
また、免疫染色に用いる抗体は、ポリクローナル抗体、モノクローナル抗体のいずれであってもよく、あるいはまた、特異的検出能を有するこれらの断片(例えばFabやF(ab’)など)であってもよい。
【0029】
本開示の方法により、対立遺伝子タンパク質から下流因子までのシグナル伝達が、前記対立遺伝子タンパク質が発現している細胞内のみで行われているか、あるいは
前記対立遺伝子タンパク質が発現している細胞から他の細胞へ伝達(細胞間伝達)を介して行われているか、を解析できる。この点について、図4に概要を示して、さらに詳細に説明する。なお、図4においては、蛍光タンパク質遺伝子としてtdTomato遺伝子を用いているが、これは例であり、上記の通り蛍光タンパク質遺伝子としては特に限定はされない。
【0030】
図4に、X染色体上のXA(正常対立)遺伝子と、Xa(変異対立)遺伝子とのヘテロ雌(XA/Xa)の染色体を図示する。なお、図4では、Xaは優性遺伝形質を示す。1A、1Bは細胞間情報伝達を考えない場合の、各細胞における遺伝型と表現型の関係を示す。細胞1AではXAとtdTomato遺伝子がメチル化により不活化されており、Xaは発現するため表現型としてはPaを示し、tdTomato遺伝子は発現しないことより白色である。細胞1BではXAとtdTomato遺伝子が発現し、Xaメチル化により不活化されるため、表現型としてはPAを示し、tdTomato遺伝子は発現することより赤色に発色する。細胞間情報伝達が無い場合を2A、2Bに示す。細胞間情報伝達が無いため、1A、1Bと同様に白色細胞ではPaの表現型を示し、赤色細胞ではPAの表現型を示す。細胞間情報伝達がある場合を3A、3Bに示す。白色の3A細胞は、もとよりXaを発現するため表現型としてはPaを示す。赤色の3B細胞においてはXaは発現していないものの、白色の3A細胞より細胞間情報伝達によりシグナルが入り、さらにPaはPAよりも優性であるため、表現型はPaを示す。また、3B細胞より3A細胞への細胞間情報伝達もあるが、PaはPAよりも優性であるため、表現型はPaのままである。以上より、本法で得られる結果より、下記が示される。
(i)変異表現型(Pa)がtdTomato陰性細胞のみに発現した場合、Xa遺伝子から変異表現型(Pa)に至るシグナル経路は、細胞内でのみ伝達される。
(ii)変異表現型(Pa)がtdTomato陽性細胞と陰性細胞との両方に発現した場合、Xa遺伝子から変異表現型(Pa)に至るシグナル経路は、(限定する意図はないが、おそらくはパラクライン因子を介して)細胞間情報伝達を介している(すなわち、シグナルは細胞外へと伝達されている)。
【0031】
この図4の例から理解できるように、本開示の方法によれば、対立遺伝子タンパク質が発現している細胞内のみで行われているか、あるいは前記対立遺伝子タンパク質が発現している細胞間を介して行われているか、を解析することができる。なお、上記の図4の説明をより一般化して次に記載する。
(I)下流因子が蛍光タンパク質陰性細胞のみに発現した場合、Xa遺伝子から下流因子に至るシグナル経路は蛍光タンパク質陰性細胞(すなわちXa遺伝子発現細胞)のみで完結している。
(II)下流因子が蛍光タンパク質陽性細胞と陰性細胞との両方に発現した場合、Xa遺伝子から下流因子に至るシグナル経路は、(限定する意図はないが、おそらくはパラクライン因子を介して)細胞間を介している(すなわち、シグナルは細胞外へと伝達されている)。
【0032】
なお、本開示の方法により、対立遺伝子から下流因子までのシグナル伝達が、対立遺伝子が発現している細胞外を介して行われていると解析された場合、さらに当該雌非ヒト哺乳動物(又はその細胞)に被験物質を適用したうえで、本開示の方法により再度解析を行って、当該シグナル伝達が細胞間を介さない(つまり、下流因子が検出されなくなる)場合には、適用した被験物質は当該シグナル伝達阻害物質であるということができる。このため、本開示は、前記工程を含む当該シグナル伝達阻害物質スクリーニング方法も好ましく包含する。
【0033】
なお、被験物質としては、特に制限はされず、化合物及び組成物等や遺伝子発現に影響を及ぼす遺伝子治療(ウイルスベクター等を含む)を好ましく用いることができる。低分子化合物、高分子化合物(核酸、抗体若しくはその断片等を含む)、抽出物等を例示することができるが、特に限定はされない。また被験物質の適用方法も特に限定はされず、雌非ヒト哺乳動物に対して、例えば経口投与、皮下投与、経血管投与(特に経静脈投与)等により適用することができる。また、雌非ヒト哺乳動物の細胞(例えば培養細胞)に対しては、培地に添加する等により適用することができる。
【0034】
なお、本明細書において「含む」とは、「本質的にからなる」と、「からなる」をも包含する(The term "comprising" includes "consisting essentially of” and "consisting of.")。また、本開示は、本明細書に説明した構成要件を任意の組み合わせを全て包含する。
【0035】
また、上述した本開示の各実施形態について説明した各種特性(性質、構造、機能等)は、本開示に包含される主題を特定するにあたり、どのように組み合わせられてもよい。すなわち、本開示には、本明細書に記載される組み合わせ可能な各特性のあらゆる組み合わせからなる主題が全て包含される。
【実施例0036】
以下、例を示して本開示の実施形態をより具体的に説明するが、本開示の実施形態は下記の例に限定されるものではない。
【0037】
蛍光タンパク質遺伝子がX染色体にノックインされたマウスの作製
マウスのモエシン(Moesin)遺伝子(Gene ID:17698、mRNA:NM_010833.2、Protein:NP_034963.2)のイントロン部位にレポーター遺伝子を次のようにして組み込んだ。すなわち、NCBIのマウスゲノム情報(NC_000086)におけるExon2とExon3(National Institute on Aging (NIA)情報の番号3と4のExonと一致)とに挟まれたintron中に、レポーター遺伝子として、蛍光タンパク質遺伝子であるtdTomato遺伝子を組み込むべく、「CAG promoter-tdTomato-pA」コンストラクトを相同組み換えによりマウスに導入して、ノックイン(KI)マウス(XtdTomatoマウス)を作製した。
【0038】
図1に「CAG promoter-tdTomato-pA」の模式図を示す。図1には、ターゲットアレル及びノックインアレルの模式図も併せて示す。なお、図1にも示すように、「CAG promoter-tdTomato-pA」の下流には「FRT-Neo-FRT」配列を挿入しており、Flp-FRTシステムにより(PGK)Neoカセットを除いた。
【0039】
なお、上記の例では、X染色体上における蛍光タンパク遺伝子の挿入部位をmoesin遺伝子のイントロンとした。これは、National Center for Biotechnology Information (NCBI)のサイト(https://www.ncbi.nlm.nih.gov/)を用いて検索し、決定したものである。X染色体上には約1500の遺伝子が存在するが、挿入によってその遺伝子が本来の作用を詐害されることが少なく、且つできる限りユビキタスに発現している遺伝子を検索して、moesin遺伝子のイントロンを挿入部位として決定した。moesin遺伝子はユビキタスに発現することが過去の報告から知られており、さらに、そのKOマウスは表現型を示さないと報告されている(上記非特許文献1)。
【0040】
また、安定して蛍光タンパク質を発現するという観点からは、組み替え手法として相同組み換えを選択することが好ましい。これは、例えばCRISPR/Cas9やTranscription activator-like effector nuclease(TALEN)法等のゲノム編集ツールを用いると、1又は数塩基のズレが生じるおそれがあり、そうなると2色の蛍光タンパクが同一の挙動を示すようにKIマウスを作製することが難しいからである。
【0041】
X染色体優性遺伝するX連鎖低リン血症性くる病(XLH)患者においては、骨組織において線維芽細胞増殖因子23(FGF23)が過剰に発現し、分泌されていることが知られている。そしてこの骨組織から分泌される過剰なFGF23が腎に作用することでリン利尿を呈し、結果として低リン血症性くる病となることが知られている。
【0042】
また、X染色体上に位置するPHEX遺伝子が不活性化(例えば不活性化変異)することで、X連鎖低リン血症性くる病(XLH)が発症することが知られている。このため、PHEX遺伝子はFGF23の発現を抑制するはたらきを持つ遺伝子であると考えられる。しかし、PHEX遺伝子がどのようにしてFGF23の発現を抑制しているのかは分かっておらず、PHEX遺伝子からFGF23へのシグナル伝達経路については不明であった(図2)。
【0043】
そこで、当該シグナルが、PHEX遺伝子からFGF23へどのように伝達されているかを検討するため、次の検討を行った。XLHのモデルマウスでとして、片側のX染色体に突然変異を持つPHEX遺伝子(PHEXmut)と対側に正常PHEX遺伝子(PHEXwt)を持つ雌XPHEXmutPHEXwtマウスを、上記の雄XtdTomato+マウスと交配した。交配により得られた雌マウスの2本のX染色体をX1、X2としたとき、X1に正常対立遺伝子(PHEXwt)及び蛍光タンパク質(tdTomato)遺伝子が存在し、X2に変異対立遺伝子(PHEXmut)がそれぞれ存在する、雌マウス(X1tdTomato+/PHEXwt/X2tdTomato-/PHEXmut マウス)を作成した。また、対照として正常表現型を呈する雌マウス(X1tdTomato+/PHEXwt/X2tdTomato-/PHEXwtマウス)を作成した。
【0044】
マウスの組織の観察
作成したマウスの大腿骨について、凍結切片を作製した(4%PFA 灌流固定、凍結切片10μm)。緑色蛍光色素でラベルした抗FGF23抗体(Abcam社、Goat;polyclonal、RRID:AB_880086)を用いて免疫染色を行い、蛍光顕微鏡にて観察した。また、DAPI染色の観察像も取得した。
以下に、本検討及び下述する検討に用いた試薬及び機器について記載する。
【0045】
[一次抗体]
rat anti-FGF23
cat. No. MAB26291
R&D systems, Inc., Minneapolis, MN
dilution: 1: 100
【0046】
rat anti-osterix
cat. No. ab22552
Abcam, Cambridge, UK
dilution: 1: 100
【0047】
[二次抗体]
Alexa Fluor 488 conjugated Goat anti Rat-IgG (H+L)
cat. No. A-11006
Invitrogen Co., Camarillo, CA
dilution: 1: 100
【0048】
[封入剤]
VECTASHIELD hard-set mounting medium with DAPI
Cat. No. H-1500
Vector Laboratories, Inc. Burlingame, CA
【0049】
[顕微鏡]
Nikon Eclipse Ni-E microscope, Nikon Instruments Inc. Tokyo, Japan
【0050】
[観察波長とフィルター]
Alexa Flour 488
励起波長 495nm 蛍光波長 519nm (使用フィルターキューブ:B-2A)
tdtomato
励起波長 554nm 蛍光波長 581nm (使用フィルターキューブ:G-2A)
DAPI
励起波長 345nm 蛍光波長 455nm (使用フィルターキューブ:DAPI)
【0051】
大腿骨の凍結切片の観察結果を図3に示す。図3上段は正常表現型を呈する雌マウス(X1tdTomato+/PHEXwt/X2tdTomato-/PHEXwtマウス)であり、上段左図は抗FGF23抗体で免疫染色を行っており、FGF23発現細胞は緑に発色している。上段右図は、さらにDAPIにより核が染色されており、細胞の所在が確認できる。正常表現型を呈する雌マウス(X1tdTomato+/PHEXwt/X2tdTomato-/PHEXwtマウス)では、tdTomatoの発現の有無にかかわらず、FGF23の発現が確認された。これは、FGF23が全ての正常骨細胞において発現していることを示し、既報と一致する(Nagata Y., Endocrinology 2019;160:1348-1358)。
【0052】
図3下段はくる病の表現型を示す雌マウス(X1tdTomato+/PHEXwt/X2tdTomato-/PHEXmutマウス)である。正常細胞はtdTomato陽性であり、病原遺伝子である変異PHEX遺伝子を持つ細胞(病的細胞)はtdTomato陰性である。FGF23は全ての骨細胞で発現している。各細胞での強弱を確認するため、FGF23発現確認時の露光時間は、図3上段と比較し図3下段では短い。tdTomato陰性細胞においてFGF23はtdTomato陽性細胞と比較して強く発現しているので、変異PHEX遺伝子からFGF23に至るシグナル経路は、細胞間情報伝達なく、tdTomato陰性細胞内のみで完結していると判断できる(図4)。
【0053】
UMR-106細胞は骨細胞系列の培養細胞で、FGF23とともに、骨細胞特異的な転写因子であるOsterixを発現する。この細胞に対し、Osterixに対するsiRNA(small interfering RNA)を用いてOsterixの発現を抑制すると(図5左)、Osterixの発現抑制に遅れてFGF23発現が低下した(図5右)。以上より、FGF23発現にOsterixが関与していることが示され、さらに変異PHEX遺伝子がOsterix発現を亢進することが知られている。変異PHEX遺伝子がFGF23発現を亢進する機序にOsterixが関与していると考えられるが、その情報伝達系が細胞内で完結するか、細胞間情報伝達を介するかは不明である。
【0054】
図6上段は正常表現型を呈する雌マウス(X1tdTomato+/PHEXwt/X2tdTomato-/PHEXwtマウス)であり、上段左図は抗Osterix抗体で免疫染色を行っており、Osterix発現細胞は緑に発色している。上段右図は、さらにDAPIにより核が染色されており、細胞の所在が確認できる。正常表現型を呈する雌マウス(X1tdTomato+/PHEXwt/X2tdTomato-/PHEXwtマウス)では、tdTomatoの発現の有無にかかわらず、Osterixの発現が確認された。これは、Osterixが正常骨細胞において発現していることを示す。
【0055】
図6下段はくる病の表現型を示す雌マウス(X1tdTomato+/PHEXwt/X2tdTomato-/PHEXmutマウス)である。正常細胞はtdTomato陽性であり、病原遺伝子である変異PHEX遺伝子を持つ細胞(病的細胞)はtdTomato陰性である。Osterixは全ての骨細胞で発現していることが知られている。そこで露光時間を短縮し、細胞毎のOsterix発現の強弱を確認したところ、tdTomato陰性細胞においてOsterixが強く発現しているので、変異PHEX遺伝子からOsterixに至るシグナル経路はtdTomato陰性細胞内のみで完結していると判断できる(図4)。
【0056】
UMR-106細胞の結果と、くる病の表現型を示す雌マウス(X1tdTomato+/PHEXwt/X2tdTomato-/PHEXmutマウス)の結果を合わせると、変異PHEX遺伝子からFGF23発現亢進に至るシグナル伝達系は、変異PHEX遺伝子を持つ細胞内で完結し、その過程にOsterix発現亢進が介在していることが示唆される。そこで、くる病の治療として病的骨細胞におけるFGF23発現を抑制するためには、病的骨細胞におけるOsterix発現を抑制することが、治療のターゲットとしての候補として挙げられる。また、変異PHEX遺伝子からFGF23発現亢進に至るシグナル伝達系は、変異PHEX遺伝子を持つ細胞内で完結しているため、細胞間シグナルを標的とした治療法の探索は期待できないことが想定される。このようにして、本法はX染色体優性遺伝疾患における新規治療法の探索に有用である。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7