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特開2023-14667車速制御装置及びドライバモデル処理装置
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  • 特開-車速制御装置及びドライバモデル処理装置 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023014667
(43)【公開日】2023-01-31
(54)【発明の名称】車速制御装置及びドライバモデル処理装置
(51)【国際特許分類】
   G01M 17/007 20060101AFI20230124BHJP
【FI】
G01M17/007 A
G01M17/007 D
【審査請求】有
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021118742
(22)【出願日】2021-07-19
(71)【出願人】
【識別番号】000006105
【氏名又は名称】株式会社明電舎
(74)【代理人】
【識別番号】100106002
【弁理士】
【氏名又は名称】正林 真之
(74)【代理人】
【識別番号】100120891
【弁理士】
【氏名又は名称】林 一好
(72)【発明者】
【氏名】山口 崇
(57)【要約】
【課題】ドライブロボットによるアクセルペダルとブレーキペダルの自然な踏み替えを実現できる車速制御装置。
【解決手段】車速制御装置2は、車両6のアクセルペダル及びブレーキペダルを操作するドライブロボット3を駆動することにより車速を制御するものであって、車両6の実車速V及び車速指令Vcmdに基づいて駆動力指令Fcmdを生成する駆動力指令生成部20と、駆動力指令Fcmdに基づいてアクセルペダルに対する開度指令θACを生成するアクセル制御部22と、駆動力指令Fcmdに基づいてブレーキペダルに対する開度指令θBKを生成するブレーキ制御部24と、開度指令θACをドライブロボット3に入力するアクセル制御モード及び開度指令θBKをドライブロボット3に入力するブレーキ制御モードの何れかを駆動力指令Fcmdに基づいて選択する踏み替え制御部26と、を備える。
【選択図】図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両のアクセルペダル及びブレーキペダルを操作するドライブロボットを駆動することにより車速を制御する車速制御装置であって、
前記車両の実車速及び当該実車速に対する車速指令に基づいて前記車両に対する駆動力指令を生成する駆動力指令生成部と、
前記駆動力指令に基づいてアクセルペダル操作量に対するアクセル操作量指令を生成するアクセル制御部と、
前記駆動力指令に基づいてブレーキペダル操作量に対するブレーキ操作量指令を生成するブレーキ制御部と、
前記アクセル操作量指令を前記ドライブロボットに入力するアクセル制御モード及び前記ブレーキ操作量指令を前記ドライブロボットに入力するブレーキ制御モードの何れかを前記駆動力指令に基づいて選択する踏み替え制御部と、を備えることを特徴とする車速制御装置。
【請求項2】
前記駆動力指令生成部は、
前記車速指令及び車両重量に基づいて基本駆動力を算出する基本駆動力算出部と、
前記車速指令と前記実車速との偏差に基づいて補正駆動力を算出するフィードバック制御部と、
前記基本駆動力と前記補正駆動力との和を前記駆動力指令として出力する加算部と、を備えることを特徴とする請求項1に記載の車速制御装置。
【請求項3】
前記アクセル制御部は、各車速における前記アクセルペダル操作量と前記車両における発生駆動力とを関連付けるアクセル制御マップに対し、前記実車速及び前記駆動力指令を入力することによって前記アクセル操作量指令を生成することを特徴とする請求項2に記載の車速制御装置。
【請求項4】
前記ブレーキ制御部は、各車速における前記ブレーキペダル操作量と前記車両における発生駆動力とを関連付けるブレーキ制御マップに対し、前記実車速及び前記駆動力指令を入力することによって前記ブレーキ操作量指令を生成することを特徴とする請求項2に記載の車速制御装置。
【請求項5】
前記アクセル制御部は、各車速における前記アクセルペダル操作量と前記車両における発生駆動力とを関連付けるアクセル制御マップに対し、前記実車速及び前記駆動力指令を入力することによって前記アクセル操作量指令を生成し、
前記ブレーキ制御部は、各車速における前記ブレーキペダル操作量と前記発生駆動力とを関連付けるブレーキ制御マップに対し、前記実車速及び前記駆動力指令を入力することによって前記ブレーキ操作量指令を生成することを特徴とする請求項2に記載の車速制御装置。
【請求項6】
前記踏み替え制御部は、前記駆動力指令が加減速判定値より大きい場合には前記アクセル制御モードを選択し、前記駆動力指令が前記加減速判定値より小さい場合には前記ブレーキ制御モードを選択することを特徴とする請求項2から5の何れかに記載の車速制御装置。
【請求項7】
前記踏み替え制御部は、制御モードとして前記アクセル制御モードを選択している間に前記駆動力指令が前記加減速判定値よりも小さな値に設定された第1踏み替え閾値を下回った場合には、前記制御モードを前記ブレーキ制御モードに切り替え、前記制御モードとして前記ブレーキ制御モードを選択している間に前記駆動力指令が前記加減速判定値よりも大きな値に設定された第2踏み替え閾値を上回った場合には、前記制御モードを前記アクセル制御モードに切り替えることを特徴とする請求項6に記載の車速制御装置。
【請求項8】
前記踏み替え制御部は、前記実車速に応じて前記加減速判定値、前記第1踏み替え閾値、及び前記第2踏み替え閾値を変化させることを特徴とする請求項7に記載の車速制御装置。
【請求項9】
前記踏み替え制御部は、前記フィードバック制御部に含まれる制御パラメータの値に応じて前記第2踏み替え閾値と前記第1踏み替え閾値との差を変化させることを特徴とする請求項7又は8に記載の車速制御装置。
【請求項10】
ドライバによる車両のアクセルペダル及びブレーキペダルの操作を模擬するドライバモデル処理装置であって、
前記車両の実車速及び当該実車速に対する車速指令に基づいて前記車両に対する駆動力指令を生成する駆動力指令生成部と、
前記駆動力指令に基づいてアクセルペダル操作量に対するアクセル操作量指令を生成するアクセル制御部と、
前記駆動力指令に基づいてブレーキペダル操作量に対するブレーキ操作量指令を生成するブレーキ制御部と、
前記アクセル制御部をオンにするアクセル制御モード及び前記ブレーキ制御部をオンにするブレーキ制御モードの何れかを前記駆動力指令に基づいて選択する踏み替え制御部と、を備えることを特徴とするドライバモデル処理装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車速制御装置及びドライバモデル処理装置に関する。より詳しくは、車両のアクセルペダル及びブレーキペダルを操作するドライブロボットを駆動することにより車速を制御する車速制御装置、並びにドライバによるアクセルペダル及びブレーキペダルの操作を模擬するドライバモデル処理装置に関する。
【背景技術】
【0002】
耐久試験、排気浄化性能評価試験及び燃費計測試験等の車両試験は、例えばシャシダイナモメータのローラ上に実車両を実際に走行させることによって行われる。車両の開発段階では、実車両の運転は、人に代わってドライブロボットが行う場合がある。車速制御装置は、車両において実現すべき車速の時系列データである車速指令に基づいてアクセルペダルやブレーキペダル等の操作量指令を生成し、ドライブロボットは、これら操作量指令に応じてアクチュエータを駆動することにより、車両のアクセルペダルやブレーキペダルを操作する。
【0003】
特許文献1に示された車速制御装置は、車速指令及び実車速に基づいて加速状態におけるアクセルペダル操作量を算出する加速制御部と、車速指令及び実車速に基づいて定速走行状態におけるアクセルペダル操作量を算出する定速制御部と、車速指令及び実車速に基づいて減速状態におけるブレーキペダル操作量を算出する減速制御部と、車速指令に基づいて各時刻における制御方式として加速制御部による加速制御方式、定速制御部による定速制御方式、及び減速制御部による減速制御方式の何れかを選択する選択部と、を備える。
【0004】
特許文献1における選択部は、車速指令の各時刻における傾きである加速度が正の閾値より大きい場合には制御方式として加速制御方式を選択し、加速度が負の閾値より小さい場合には制御方式として減速制御方式を選択し、加速度が負の閾値と正の閾値との間である場合には制御方式として定速制御方式を選択する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特許第6090153号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
以上のように特許文献1に示された技術では、車速指令(すなわち、走行パターン)に応じて制御方式を選択している。これはすなわち、特許文献1に示された車速制御装置では、アクセルペダルとブレーキペダルとを踏み替える時刻であるペダル踏み替えポイントを、車両の特性や実車両の状態によらず、予め定めら他走行パターンに応じて一意的に定めることに相当する。このため特許文献1に示された技術によれば、アクセルペダルとブレーキペダルの踏み替えが不自然になってしまうおそれがある。
【0007】
本発明は、アクセルペダルとブレーキペダルの自然な踏み替えを実現できる車速制御装置及びドライバモデル処理装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
(1)本発明に係る車速制御装置(例えば、後述の車速制御装置2)は、車両のアクセルペダル及びブレーキペダルを操作するドライブロボット(例えば、後述のドライブロボット3)を駆動することにより車速を制御するものであって、前記車両の実車速(例えば、後述の実車速V)及び当該実車速に対する車速指令(例えば、後述の車速指令Vcmd)に基づいて前記車両に対する駆動力指令(例えば、後述の駆動力指令Fcmd)を生成する駆動力指令生成部(例えば、後述の駆動力指令生成部20)と、前記駆動力指令に基づいてアクセルペダル操作量に対するアクセル操作量指令(例えば、後述の開度指令θAC)を生成するアクセル制御部(例えば、後述のアクセル制御部22)と、前記駆動力指令に基づいてブレーキペダル操作量に対するブレーキ操作量指令(例えば、後述の開度指令θBK)を生成するブレーキ制御部(例えば、後述のブレーキ制御部24)と、前記アクセル操作量指令を前記ドライブロボットに入力するアクセル制御モード及び前記ブレーキ操作量指令を前記ドライブロボットに入力するブレーキ制御モードの何れかを前記駆動力指令に基づいて選択する踏み替え制御部(例えば、後述の踏み替え制御部26)と、を備えることを特徴とする。
【0009】
(2)この場合、前記駆動力指令生成部は、前記車速指令及び車両重量に基づいて基本駆動力(例えば、後述の基本駆動力Fbs)を算出する基本駆動力算出部(例えば、後述の基本駆動力算出部201)と、前記車速指令と前記実車速との偏差(例えば、後述の車速偏差e)に基づいて補正駆動力(例えば、後述の補正駆動力Ffb)を算出するフィードバック制御部(例えば、後述のフィードバック制御部202)と、前記基本駆動力と前記補正駆動力との和を前記駆動力指令として出力する加算部(例えば、後述の加算部203)と、を備えることが好ましい。
【0010】
(3)この場合、前記アクセル制御部は、各車速における前記アクセルペダル操作量と前記車両における発生駆動力とを関連付けるアクセル制御マップ(例えば、後述のアクセル制御マップMac)に対し、前記実車速及び前記駆動力指令を入力することによって前記アクセル操作量指令を生成することが好ましい。
【0011】
(4)この場合、前記ブレーキ制御部は、各車速における前記ブレーキペダル操作量と前記車両における発生駆動力とを関連付けるブレーキ制御マップ(例えば、後述のブレーキ制御マップMbk)に対し、前記実車速及び前記駆動力指令を入力することによって前記ブレーキ操作量指令を生成することが好ましい。
【0012】
(5)この場合、前記アクセル制御部は、各車速における前記アクセルペダル操作量と前記車両における発生駆動力とを関連付けるアクセル制御マップ(例えば、後述のアクセル制御マップMac)に対し、前記実車速及び前記駆動力指令を入力することによって前記アクセル操作量指令を生成し、前記ブレーキ制御部は、各車速における前記ブレーキペダル操作量と前記発生駆動力とを関連付けるブレーキ制御マップ(例えば、後述のブレーキ制御マップMbk)に対し、前記実車速及び前記駆動力指令を入力することによって前記ブレーキ操作量指令を生成することが好ましい。
【0013】
(6)この場合、前記踏み替え制御部は、前記駆動力指令が加減速判定値(例えば、後述の加減速判定値Fac)より大きい場合には前記アクセル制御モードを選択し、前記駆動力指令が前記加減速判定値より小さい場合には前記ブレーキ制御モードを選択することが好ましい。
【0014】
(7)この場合、前記踏み替え制御部は、制御モードとして前記アクセル制御モードを選択している間に前記駆動力指令が前記加減速判定値よりも小さな値に設定された第1踏み替え閾値(例えば、後述の第1踏み替え閾値Fth1)を下回った場合には、前記制御モードを前記ブレーキ制御モードに切り替え、前記制御モードとして前記ブレーキ制御モードを選択している間に前記駆動力指令が前記加減速判定値よりも大きな値に設定された第2踏み替え閾値(例えば、後述の第2踏み替え閾値Fth2)を上回った場合には、前記制御モードを前記アクセル制御モードに切り替えることが好ましい。
【0015】
(8)この場合、前記踏み替え制御部は、前記実車速に応じて前記加減速判定値、前記第1踏み替え閾値、及び前記第2踏み替え閾値を変化させることが好ましい。
【0016】
(9)この場合、前記踏み替え制御部は、前記フィードバック制御部に含まれる制御パラメータ(例えば、後述の積分ゲインKi)の値に応じて前記第2踏み替え閾値と前記第1踏み替え閾値との差を変化させることが好ましい。
【0017】
(10)本発明に係るドライバモデル処理装置(例えば、後述のドライバモデル処理装置70)は、ドライバによる車両のアクセルペダル及びブレーキペダルの操作を模擬するものであって、前記車両の実車速(例えば、後述の実車速V)及び当該実車速に対する車速指令(例えば、後述の車速指令Vcmd)に基づいて前記車両に対する駆動力指令を生成する駆動力指令生成部(例えば、後述の駆動力指令生成部71)と、前記駆動力指令に基づいてアクセルペダル操作量に対するアクセル操作量指令(例えば、後述の開度指令θAC)を生成するアクセル制御部(例えば、後述のアクセル制御部72)と、前記駆動力指令に基づいてブレーキペダル操作量に対するブレーキ操作量指令(例えば、後述の開度指令θBK)を生成するブレーキ制御部(例えば、後述のブレーキ制御部74)と、前記アクセル制御部をオンにするアクセル制御モード及び前記ブレーキ制御部をオンにするブレーキ制御モードの何れかを前記駆動力指令に基づいて選択する踏み替え制御部(例えば、後述の踏み替え制御部76)と、を備えることを特徴とする。
【発明の効果】
【0018】
(1)本発明に係る車速制御装置において、駆動力指令生成部は、実車速及び車速指令に基づいて車両に対する駆動力指令を生成し、アクセル制御部は、駆動力指令に基づいてアクセル操作量指令を生成し、ブレーキ制御部は、駆動力指令に基づいてブレーキ操作量指令を生成し、踏み替え制御部は、アクセル操作量指令をドライブロボットに入力するアクセル制御モード及びブレーキ操作量指令をドライブロボットに入力するブレーキ制御モードの何れかを駆動力指令に基づいて選択する。すなわち本発明では、駆動力指令生成部において車速指令及び実車速に基づいて生成される駆動力指令に基づいて制御モードを選択することにより、車両の状態に応じた自然なタイミングでアクセルペダルとブレーキペダルとを踏み替えることができる。
【0019】
(2)本発明に係る車速制御装置において、駆動力指令生成部は、車速指令及び車両重量に基づいて算出される基本駆動力と、車速指令と実車速との偏差に基づいて算出される補正駆動力との和を駆動力指令として出力する。本発明によれば、フィードバック制御部によって算出される補正駆動力を含む駆動力指令に基づいて制御モードを選択することにより、車速指令の変化と車両の状態に応じた自然なタイミングでアクセルペダルとブレーキペダルとを踏み替えることができる。
【0020】
(3)本発明に係る車速制御装置において、アクセル制御部は、各車速におけるアクセルペダル操作量と発生駆動力とを関連付けるアクセル制御マップに対し、実車速及び駆動力指令を入力することによってアクセル操作量指令を生成する。本発明によれば、フィードバック制御部を用いて生成した駆動力指令をアクセル制御マップに入力することでアクセル操作量指令を生成することにより、アクセルペダルの指令応答を速やかにすることができる。
【0021】
(4)本発明に係る車速制御装置において、ブレーキ制御部は、各車速におけるブレーキペダル操作量と発生駆動力とを関連付けるブレーキ制御マップに対し、実車速及び駆動力指令を入力することによってブレーキ操作量指令を生成する。本発明によれば、フィードバック制御部を用いて生成した駆動力指令をアクセル制御マップに入力することでブレーキ操作量指令を生成することにより、ブレーキペダルの指令応答を速やかにすることができる。
【0022】
(5)本発明に係る車速制御装置において、アクセル制御部及びブレーキ制御部は、各々の制御マップに対し実車速及び駆動力指令を入力することによってアクセル操作量指令及びブレーキ操作量指令を生成する。本発明によれば、アクセル操作量指令及びブレーキ操作量指令を共に制御マップに基づいて生成することにより、アクセルペダル及びブレーキペダルの両方の指令応答を速やかにすることができる。また本発明によれば、実車速と車速指令との偏差に基づくフィードバック制御部を、アクセル制御部とブレーキ制御部とで共通化することができるので、アクセル制御部及びブレーキ制御部それぞれにフィードバック制御部を併設した場合よりも制御パラメータの調整を容易にすることができる。
【0023】
(6)本発明に係る車速制御装置において、踏み替え制御部は、駆動力指令が加減速判定値より大きい場合にはアクセル制御モードを選択し、駆動力指令が加減速判定値より小さい場合にはブレーキ制御モードを選択する。本発明によれば、踏み替え制御部における簡易な演算によって各時刻での最適な制御モードを選択することができる。
【0024】
(7)本発明に係る車速制御装置において、踏み替え制御部は、アクセル制御モードを選択している間に駆動力指令が加減速判定値よりも小さな第1踏み替え閾値を下回った場合には、制御モードをブレーキ制御モードに切り替え、ブレーキ制御モードを選択している間に駆動力指令が加減速判定値よりも大きな第2踏み替え閾値を上回った場合には、制御モードをアクセル制御モードに切り替える。本発明によれば、制御モードをアクセル制御モードからブレーキ制御モードへ切り替える際における第1踏み替え閾値と、制御モードをブレーキ制御モードからアクセル制御モードへ切り替える際における第2踏み替え閾値との間にヒステリシス幅を設定することにより、制御モードの切り替えが過敏になるのを防止することができる。
【0025】
(8)本発明に係る車速制御装置において、踏み替え制御部は、実車速に応じて加減速判定値、第1踏み替え閾値、及び第2踏み替え閾値を変化させる。これにより車両の特性を考慮した適切なタイミングでアクセルペダルとブレーキペダルとを踏み替えることができる。
【0026】
(9)本発明に係る車速制御装置において、踏み替え制御部は、フィードバック制御部に含まれるゲインの値に応じて第2踏み替え閾値と第1踏み替え閾値との差(すなわち、上記ヒステリシス幅)を変化させる。これにより、フィードバック制御部の制御パラメータの値を変更する度にヒステリシス幅を調整する必要が無くなるので、ユーザによるチューニングを容易にすることができる。
【0027】
(10)本発明に係るドライバモデル処理装置において、駆動力指令生成部は、実車速及び車速指令に基づいて車両に対する駆動力指令を生成し、アクセル制御部は、駆動力指令に基づいてアクセル操作量指令を生成し、ブレーキ制御部は、駆動力指令に基づいてブレーキ操作量指令を生成し、踏み替え制御部は、アクセル制御部をオンにするアクセル制御モード及びブレーキ制御部をオンにするブレーキ制御モードの何れかを駆動力指令に基づいて選択する。すなわち本発明では、駆動力指令生成部において車速指令及び実車速に基づいて生成される駆動力指令に基づいて制御モードを選択することにより、車両の状態に応じた自然なタイミングでドライバによるアクセルペダルとブレーキペダルの踏み替え操作を模擬することができる。
【図面の簡単な説明】
【0028】
図1】本発明の第1実施形態に係るドライブロボット及びその制御装置を備える車両試験システムの制御系の構成を示す図である。
図2】車速制御装置の具体的な構成を示す図である。
図3】加減速判定値、第1踏み替え閾値、及び第2踏み替え閾値の設定例を示す図である。
図4】本発明の第2実施形態に係るドライバモデル処理装置が組み込まれた車両試験システムの構成を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0029】
<第1実施形態>
以下、本発明の第1実施形態について、図面を参照しながら説明する。
図1は、本実施形態に係るドライブロボット3及びその制御装置である車速制御装置2を備える車両試験システムSの制御系の構成を示す図である。車両試験システムSは、試験対象である車両6と、この車両6において実現すべき車速指令を生成する車速指令生成装置1と、車両6の運転席に搭載されたドライブロボット3と、このドライブロボット3を駆動することにより車速を制御する車速制御装置2と、車両6が搭載されたシャシダイナモメータ4と、このシャシダイナモメータ4を制御する走行抵抗力制御装置5と、を備える。
【0030】
ドライブロボット3は、車両6のアクセルペダル、ブレーキペダル、シフトレバー、及びイグニッションスイッチ等、車両6を走行させるために必要な装置を操作する複数のアクチュエータを備える。図1には、ドライブロボット3が備える複数のアクチュエータのうち、アクセルペダルを操作するアクセルアクチュエータ31、及びブレーキペダルを操作するブレーキアクチュエータ32のみを図示する。
【0031】
アクセルアクチュエータ31は、アクセルペダル開度(アクセルペダル操作量)に対する指令に相当する開度指令θAC[%]が車速制御装置2から入力されると、アクセルペダルの開度を開度指令θACに応じた大きさに調整する。
【0032】
ブレーキアクチュエータ32は、ブレーキペダル開度(ブレーキペダル操作量)に対する指令に相当する開度指令θBK[%]が車速制御装置2から入力されると、ブレーキペダルの開度を開度指令θBKに応じた大きさに調整する。なお本実施形態では、アクセルペダルやブレーキペダルの開度の単位を百分率で表した場合について説明するが、開度の単位はペダルの角度としてもよい。
【0033】
車両6は、上述のようなアクチュエータ31,32を備えるドライブロボット3によってアクセルペダルやブレーキペダル等が操作されると、これらペダルの操作量に応じた駆動力を発生する。シャシダイナモメータ4は、車両6の実車速V[km/h]等に応じて走行抵抗力制御装置5によって演算された走行抵抗による制御を行う。なおシャシダイナモメータ4には、車両6のタイヤが接するローラの回転数を検出するエンコーダ(図示せず)が設けられており、実車速Vは、このエンコーダの出力やローラの半径等を用いることによって算出される。
【0034】
走行抵抗力制御装置5は、車両6の実車速Vに応じた走行抵抗を演算する。この走行抵抗力は、空気抵抗力、ころがり抵抗力、勾配抵抗力、及び車重相当の慣性等の実走行中の車両6に作用し得る外力を模したものである。この走行抵抗力は、例えば図1に模式的に示すように車両6の実車速Vが大きくなるほど大きくなるように設定される。
【0035】
車速指令生成装置1は、各時刻において車両6で実現すべき車速、すなわち実車速Vに対する目標に相当する車速指令Vcmd[km/h]を生成し、車速制御装置2に入力する。
【0036】
車速制御装置2は、実車速V及びこの実車速Vに対する車速指令Vcmdに基づいてアクセルアクチュエータ31に対する開度指令θAC及びブレーキアクチュエータ32に対する開度指令θBKを算出し、これら開度指令θAC,θBKをドライブロボット3へ入力することにより、実車速Vが車速指令Vcmdになるようにドライブロボット3を駆動する。ここで多くの人は、アクセルペダル及びブレーキペダルを同時に踏み込むことは無く、共通の足で踏み替えて操作する場合が多い。このため車速制御装置2は、人によるアクセルペダルとブレーキペダルの踏み替え操作を模擬するべく、以下で説明するように開度指令θAC,θBKを選択的にドライブロボット3へ入力する。
【0037】
図2は、車速制御装置2の具体的な構成を示す図である。車速制御装置2は、駆動力指令生成部20と、アクセル制御部22と、ブレーキ制御部24と、踏み替え制御部26と、を備える。
【0038】
駆動力指令生成部20は、車両6の実車速V及びこの実車速Vに対する車速指令Vcmdに基づいて、車両6における発生駆動力に対する目標に相当する駆動力指令Fcmd[N]を生成し、アクセル制御部22、ブレーキ制御部24、及び踏み替え制御部26へ入力する。より具体的には、駆動力指令生成部20は、車速偏差算出部200と、基本駆動力算出部201と、フィードバック制御部202と、加算部203と、を備え、基本駆動力算出部201によって算出した基本駆動力Fbs[N]をフィードバック制御部202によって算出される補正駆動力Ffb[N]によって補正することによって駆動力指令Fcmdを生成する。
【0039】
基本駆動力算出部201は、車速指令Vcmd及び予め定められた車両6の重量である車両重量M[kg]に基づいて、下記式(1)に従って基本駆動力Fbsを算出する。より具体的には、基本駆動力算出部201は、車速指令Vcmdを時間で微分したものに車両重量Mを乗じ、さらに次元を合わせるための係数“3.6”で除算することによって基本駆動力Fbsを算出する。なおこのように式(1)に従って算出される基本駆動力Fbsは、重量Mの車両を加速度dVcmd/dtで加速させるために、車両に加える必要のある力に相当する。
【数1】
【0040】
車速偏差算出部200は、車速指令Vcmdから実車速Vを減算することによって車速偏差eを算出し、この車速偏差eをフィードバック制御部202へ入力する。
【0041】
フィードバック制御部202は、車速偏差eに基づいて補正駆動力Ffbを算出する。より具体的には、フィードバック制御部202は、車速偏差eが0になるように、少なくとも1つの制御パラメータによって特徴付けられるフィードバック制御則に従って補正駆動力Ffbを算出する。なお本実施形態では、フィードバック制御部202は、比例ゲインKp及び積分ゲインKiを制御パラメータとするPI制御則に従って補正駆動力Ffbを算出する場合について説明するが、本発明はこれに限らない。
【0042】
加算部203は、基本駆動力Fbsと補正駆動力Ffbとの和を駆動力指令Fcmdとして、アクセル制御部22、ブレーキ制御部24、及び踏み替え制御部26へ出力する。
【0043】
アクセル制御部22は、踏み替え制御部26から入力されるアクセルオン信号AConと、駆動力指令Fcmdと、実車速Vと、に基づいてアクセルペダルに対する開度指令θACを生成し、ドライブロボット3へ入力する。
【0044】
より具体的には、アクセル制御部22は、各車速におけるアクセルペダルの開度と車両6の発生駆動力とを関連付ける3次元のアクセル制御マップMacを備えており、実車速V及び駆動力指令Fcmdをこのアクセル制御マップMacへ入力することによって開度指令θACを生成し、ドライブロボット3へ入力する。なおこのアクセル制御マップMacは、車両6を用いた試験を行うことによって構築されたものが用いられる。アクセル制御部22は、アクセルオン信号AConがオンである場合のみアクセル制御マップMacに基づいて開度指令θACを生成し、ドライブロボット3へ入力する。
【0045】
ブレーキ制御部24は、踏み替え制御部26から入力されるブレーキオン信号BKonと、駆動力指令Fcmdと、実車速Vと、に基づいてブレーキペダルに対する開度指令θBKを生成し、ドライブロボット3へ入力する。
【0046】
より具体的には、ブレーキ制御部24は、各車速におけるブレーキペダルの開度と車両6の発生駆動力とを関連付ける3次元のブレーキ制御マップMbkを備えており、実車速V及び駆動力指令Fcmdをこのブレーキ制御マップMbkへ入力することによって開度指令θBKを生成し、ドライブロボット3へ入力する。なおこのブレーキ制御マップMbkは、車両6を用いた試験を行うことによって構築されたものが用いられる。ブレーキ制御部24は、ブレーキオン信号BKonがオンである場合のみブレーキ制御マップMbkに基づいて開度指令θBKを生成し、ドライブロボット3へ入力する。
【0047】
以上のように車速制御装置2は、アクセル制御部22によって開度指令θACを生成しドライブロボット3へ入力するアクセル制御モードと、ブレーキ制御部24によって開度指令θBKを生成しドライブロボット3へ入力するブレーキ制御モードと、の少なくとも2つの制御モードの下でドライブロボット3を制御することが可能となっている。
【0048】
踏み替え制御部26は、駆動力指令Fcmd及び実車速Vに基づいてアクセルオン信号ACon及びブレーキオン信号BKonをオン又はオフにすることにより、上述のアクセル制御モード及びブレーキ制御モードの何れかを選択する。アクセルオン信号ACon及びブレーキオン信号BKonは2値信号であり、踏み替え制御部26は、これら信号ACon,BKonを相補的に切り替える。すなわち、アクセルオン信号AConがオンである場合、ブレーキオン信号BKonはオフであり、アクセルオン信号AConがオフである場合、ブレーキオン信号BKonはオンである。従って踏み替え制御部26は、制御モードとしてアクセル制御モードを選択する場合、アクセルオン信号AConをオンにするとともにブレーキオン信号BKonをオフにし、制御モードとしてブレーキ制御モードを選択する場合、アクセルオン信号AConをオフにするとともにブレーキオン信号BKonをオンにする。
【0049】
踏み替え制御部26は、駆動力指令Fcmdが加減速判定値Fac[N]より大きい場合にはアクセル制御モードを選択し、駆動力指令Fcmdが加減速判定値Fac以下である場合にはブレーキ制御モードを選択する。また踏み替え制御部26は、制御モードとしてアクセル制御モードを選択している間に駆動力指令Fcmdが加減速判定値Facよりも小さな値に設定された第1踏み替え閾値Fth1を下回った場合には、制御モードをアクセル制御モードからブレーキ制御モードに切り替え、制御モードとしてブレーキ制御モードを選択している間に駆動力指令Fcmdが加減速判定値Facよりも大きな値に設定された第2踏み替え閾値Fth2を上回った場合には、制御モードをブレーキ制御モードからアクセル制御モードに切り替える。
【0050】
図3は、踏み替え制御部26において参照される加減速判定値Fac、第1踏み替え閾値Fth1、及び第2踏み替え閾値Fth2の設定例を示す図である。図3に示すように、制御モードをアクセル制御モードからブレーキ制御モードへ切り替える際に参照される第1踏み替え閾値Fth1を加減速判定値Facより小さな値に設定し、制御モードをブレーキ制御モードからアクセル制御モードへ切り替える際に参照される第2踏み替え閾値Fth2を加減速判定値Facより大きな値に設定することにより、駆動力指令Fcmdの変化に対し制御モードの切り替えが過敏になるのを防止することができる。以下では、第2踏み替え閾値Fth2と第1踏み替え閾値Fth1との差(Fth2-Fth1)をヒステリシス幅ともいう。
【0051】
ところで多くの車両は、アクセルペダルをオフにすると制動力(例えば、エンジンブレーキ)が発生し、またこのアクセルオフ時の制動力の大きさは車速に応じて変化する。このため踏み替え制御部26は、図3に例示するように加減速判定値Fac、第1踏み替え閾値Fth1、及び第2踏み替え閾値Fth2を実車速Vの関数として定義することにより、これら判定値Fac及び閾値Fth1,Fth2を実車速Vに応じて変化させることが好ましい。
【0052】
ここでこれら判定値Fac及び閾値Fth1,Fth2の実車速Vに対する関数形は、車両6に対し予め試験を行うことによって定められる。より具体的には、例えば車両6を最高速まで加速した後、アクセルペダルをオフにし、クリープ車速程度まで車両6を惰行させた時における車速及び駆動力を計測し、この駆動力の計測値を加減速判定値Facとして設定する。またこの加減速判定値Facを負側へ所定幅だけオフセットしたものを第1踏み替え閾値Fth1と定義し、正側へ所定幅だけオフセットしたものを第2踏み替え閾値Fth2と定義する。これにより車両6の特性を考慮した適切なタイミングでアクセルペダルとブレーキペダルとを踏み替えることができる。
【0053】
次にヒステリシス幅の設定方法について説明する。上述のようにヒステリシス幅は、加減速判定値Facの近傍におけるアクセルペダルとブレーキペダルの頻繁な踏み替えを防止するために設定される。また踏み替え制御部26に入力される駆動力指令Fcmdは、車速指令Vcmdに基づいて算出される基本駆動力Fbsとフィードバック制御則に従って算出される補正駆動力Fbsとの和として定義される。このためヒステリシス幅は、フィードバック制御部202による補正駆動力Fbsの変化の速さに基づいて設定される。
【0054】
ここで単位車速偏差1[km/h]当たりの微小時間dT[s]の間におけるフィードバック制御部202の出力の変化速度dF[N]は、下記式(2)に示すようにフィードバック制御部202の積分ゲインKiと微小時間dTとの積によって表される。
dF[N]=Ki×dT[s]×1[km/h] (2)
【0055】
そこで本実施形態では、上記式(2)において変化速度dFをヒステリシス幅とし、微小時間dTをドライバによるペダルの踏み替え判断時間とすることによって得られる下記式(3)に基づいてヒステリシス幅を設定する。すなわち踏み替え制御部26は、踏み替え判断時間を調整要素とし、フィードバック制御部202に含まれる積分ゲインKiの値に応じてヒステリシス幅を変化させる。これにより、フィードバック制御部202の制御パラメータ(Ki,Kp)を変化させた場合であっても、踏み替えの時間に対する感度を一定にすることができる。
ヒステリシス幅=Ki×踏み替え判断時間 (3)
【0056】
本実施形態に係る車速制御装置2によれば、以下の効果を奏する。
(1)車速制御装置2において、駆動力指令生成部20は、実車速V及び車速指令Vcmdに基づいて車両6に対する駆動力指令Fcmdを生成し、アクセル制御部22は、駆動力指令Fcmdに基づいてアクセルペダルの開度指令θACを生成し、ブレーキ制御部24は、駆動力指令Fcmdに基づいてブレーキペダルの開度指令θBKを生成し、踏み替え制御部26は、開度指令θACをドライブロボット3に入力するアクセル制御モード及び開度指令θBKをドライブロボット3に入力するブレーキ制御モードの何れかを駆動力指令Fcmdに基づいて選択する。すなわち車速制御装置2では、駆動力指令生成部20において車速指令Vcmd及び実車速Vに基づいて生成される駆動力指令Fcmdに基づいて制御モードを選択することにより、車両6の状態に応じた自然なタイミングでアクセルペダルとブレーキペダルとを踏み替えることができる。
【0057】
(2)車速制御装置2において、駆動力指令生成部20は、車速指令V及び車両重量Mに基づいて算出される基本駆動力Fbsと、車速指令Vcmdと実車速Vとの車速偏差eに基づいて算出される補正駆動力Ffbとの和を駆動力指令Fcmdとして出力する。車速制御装置2によれば、フィードバック制御部202によって算出される補正駆動力Ffbを含む駆動力指令Fcmdに基づいて制御モードを選択することにより、車速指令Vcmdの変化と車両6の状態に応じた自然なタイミングでアクセルペダルとブレーキペダルとを踏み替えることができる。
【0058】
(3)車速制御装置2において、アクセル制御部22は、各車速におけるアクセルペダル操作量と発生駆動力とを関連付けるアクセル制御マップMacに対し、実車速V及び駆動力指令Fcmdを入力することによってアクセルペダルに対する開度指令θACを生成する。車速制御装置2によれば、フィードバック制御部202を用いて生成した駆動力指令Fcmdをアクセル制御マップMacに入力することで開度指令θACを生成することにより、アクセルペダルの指令応答を速やかにすることができる。
【0059】
(4)車速制御装置2において、ブレーキ制御部24は、各車速におけるブレーキペダル操作量と発生駆動力とを関連付けるブレーキ制御マップMbkに対し、実車速V及び駆動力指令Fcmdを入力することによってブレーキペダルの開度指令θBKを生成する。車速制御装置2によれば、フィードバック制御部202を用いて生成した駆動力指令Fcmdをアクセル制御マップMacに入力することで開度指令θBKを生成することにより、ブレーキペダルの指令応答を速やかにすることができる。
【0060】
(5)車速制御装置2において、アクセル制御部22及びブレーキ制御部24は、各々の制御マップMac,Mbkに対し実車速V及び駆動力指令Fcmdを入力することによって開度指令θAC,θBKを生成する。車速制御装置2によれば、開度指令θAC,θBKを共に制御マップMac,Mbkに基づいて生成することにより、アクセルペダル及びブレーキペダルの両方の指令応答を速やかにすることができる。また車速制御装置2によれば、実車速Vと車速指令Vcmdとの車速偏差eに基づくフィードバック制御部202を、アクセル制御部22とブレーキ制御部24とで共通化することができるので、アクセル制御部22及びブレーキ制御部24それぞれにフィードバック制御部202を併設した場合よりも制御パラメータの調整を容易にすることができる。
【0061】
(6)車速制御装置2において、踏み替え制御部26は、駆動力指令Fcmdが加減速判定値Facより大きい場合にはアクセル制御モードを選択し、駆動力指令Fcmdが加減速判定値Facより小さい場合にはブレーキ制御モードを選択する。車速制御装置2によれば、踏み替え制御部26における簡易な演算によって各時刻での最適な制御モードを選択することができる。
【0062】
(7)車速制御装置2において、踏み替え制御部26は、アクセル制御モードを選択している間に駆動力指令Fcmdが加減速判定値Facよりも小さな第1踏み替え閾値Fth1を下回った場合には、制御モードをブレーキ制御モードに切り替え、ブレーキ制御モードを選択している間に駆動力指令Fcmdが加減速判定値Facよりも大きな第2踏み替え閾値Fth2を上回った場合には、制御モードをアクセル制御モードに切り替える。車速制御装置2によれば、制御モードをアクセル制御モードからブレーキ制御モードへ切り替える際における第1踏み替え閾値Fth1と、制御モードをブレーキ制御モードからアクセル制御モードへ切り替える際における第2踏み替え閾値Fth2との間にヒステリシス幅を設定することにより、制御モードの切り替えが過敏になるのを防止することができる。
【0063】
(8)車速制御装置2において、踏み替え制御部26は、実車速Vに応じて加減速判定値Fac、第1踏み替え閾値Fth1、及び第2踏み替え閾値Fth2を変化させる。これにより車両6の特性を考慮した適切なタイミングでアクセルペダルとブレーキペダルとを踏み替えることができる。
【0064】
(9)車速制御装置2において、踏み替え制御部26は、フィードバック制御部202に含まれる積分ゲインKiの値に応じてヒステリシス幅を変化させる。これにより、フィードバック制御部202の積分ゲインKiの値を変更する度にヒステリシス幅を調整する必要が無くなるので、ユーザによるチューニングを容易にすることができる。
【0065】
以上、本発明の第1実施形態について説明したが、本発明はこれに限らない。本発明の趣旨の範囲内で、細部の構成を適宜変更してもよい。
【0066】
<第2実施形態>
次に、本発明の第2実施形態について、図面を参照しながら説明する。
図4は、本実施形態に係るドライバモデル処理装置70が組み込まれた車両試験システムSAの構成を示す図である。車両試験システムSAは、車両の構成部品を試験対象とし、この構成部品を備える仮想車両の実走行を模擬するシミュレーションを行うことによって構成部品の性能を評価するものである。なお本実施形態では、車両の構成部品であるエンジンEを試験対象とする場合について説明するが、本発明はこれに限らない。
【0067】
車両試験システムSAは、エンジンベンチシステム8と、このエンジンベンチシステム8を制御する制御装置7と、を備える。
【0068】
エンジンベンチシステム8は、試験対象であるエンジンEと、ダイナモメータ80と、結合軸81と、インバータ82と、軸トルク検出器83と、エンコーダ84と、スロットルアクチュエータ85と、を備える。
【0069】
結合軸81は、エンジンEの出力軸とダイナモメータ80の出力軸とを接続する。軸トルク検出器83は、結合軸81における軸トルクに応じた軸トルク検出信号を生成し、制御装置7へ送信する。エンコーダ84は、ダイナモメータ80の回転速度に応じた回転速度検出信号を生成し、制御装置7へ送信する。インバータ82は、制御装置7から入力されるトルク電流指令信号に応じた電力をダイナモメータ80に供給し、これによりトルク電流指令信号に応じたトルクをダイナモメータ80で発生させる。スロットルアクチュエータ85は、エンジンEを搭載する仮想車両のアクセルペダルに対する開度指令θACが制御装置7から入力されると、この開度指令θACに応じたエンジントルクが発生するようにエンジンEのスロットル開度を制御する。
【0070】
制御装置7は、ドライバによる仮想車両のアクセルペダル及びブレーキペダルの操作を模擬する演算を行うことによりアクセルペダルに対する開度指令θAC及びブレーキペダルに対する開度指令θBKを生成するドライバモデル処理装置70と、ドライバモデル処理装置70によって模擬される車両操作の下で走行する仮想車両の実走行を模擬する演算を行う車両モデル処理装置78と、を備える。
【0071】
車両モデル処理装置78は、軸トルク検出信号、回転速度検出信号、及びブレーキペダルに対する開度指令θBKに基づいて仮想車両の実走行を模擬するシミュレーションを行うことによって、トルク電流指令信号を生成し、インバータ82へ入力する。
【0072】
ドライバモデル処理装置70は、車両モデル処理装置78におけるシミュレーションによって算出される仮想車両の実車速Vと、図示しない上位制御装置から入力されるこの実車速Vに対する車速指令Vcmdに基づいて、ドライバによるアクセルペダル及びブレーキペダルの操作を模擬する演算を行うことにより、アクセルペダルに対する開度指令θAC及びブレーキペダルに対する開度指令θBKを算出し、開度指令θACをスロットルアクチュエータ85へ入力し、開度指令θBKを車両モデル処理装置78へ入力する。
【0073】
より具体的には、ドライバモデル処理装置70は、駆動力指令生成部71と、アクセル制御部72と、ブレーキ制御部74と、踏み替え制御部76と、を備え、これらを用いることによって開度指令θAC,θBKを算出する。
【0074】
駆動力指令生成部71は、仮想車両の実車速V及びこの実車速Vに対する車速指令vcmdに基づいて、仮想車両における発生駆動力に対する目標に相当する駆動力指令を生成する。アクセル制御部72は、この駆動力指令生成部71によって生成された駆動力指令と、実車速Vと、に基づいてアクセルペダルに対する開度指令θACを生成し、スロットルアクチュエータ85へ入力する。ブレーキ制御部74は、駆動力指令生成部71によって生成された駆動力指令と、実車速Vと、に基づいてブレーキペダルに対する開度指令θBKを生成し、車両モデル処理装置78へ入力する。踏み替え制御部76は、アクセル制御部71をオンにし、開度指令θACをスロットルアクチュエータ85へ入力するアクセル制御モード及びブレーキ制御部74をオンにし、開度指令θBKを車両モデル処理装置78へ入力するブレーキ制御モードの何れかを駆動力指令及び実車速Vに基づいて選択する。なおこれら駆動力指令生成部71、アクセル制御部72、ブレーキ制御部74、及び踏み替え制御部76の詳細な構成は、それぞれ第1実施形態に係る車速制御装置2の駆動力指令生成部20、アクセル制御部22、ブレーキ制御部24、及び踏み替え制御部26と同じであるので、詳細な説明を省略する。
【0075】
本実施形態に係るドライバモデル処理装置70によれば、以下の効果を奏する。
(10)ドライバモデル処理装置70において、駆動力指令生成部71は、実車速V及び車速指令Vcmdに基づいて仮想車両に対する駆動力指令を生成し、アクセル制御部72は、駆動力指令に基づいてアクセルペダルに対する開度指令θACを生成し、ブレーキ制御部74は、駆動力指令に基づいてブレーキペダルに対する開度指令θBKを生成し、踏み替え制御部76は、アクセル制御部72をオンにするアクセル制御モード及びブレーキ制御部74をオンにするブレーキ制御モードの何れかを駆動力指令に基づいて選択する。すなわちドライバモデル処理装置70では、駆動力指令生成部71において車速指令Vcmd及び実車速Vに基づいて生成される駆動力指令に基づいて制御モードを選択することにより、仮想車両の状態に応じた自然なタイミングでドライバによるアクセルペダルとブレーキペダルの踏み替え操作を模擬することができる。
【0076】
以上、本発明の第2実施形態について説明したが、本発明はこれに限らない。本発明の趣旨の範囲内で、細部の構成を適宜変更してもよい。
【0077】
例えば上記実施形態では、ドライバモデル処理装置7を、エンジンEを試験対象とする車両試験システムSAに組み込んだ場合について説明したが、本発明はこれに限らない。ドライバモデル処理装置は、エンジン以外の車両の構成部品、例えば、トランスミッションやタイヤ等を試験対象とする車両試験システムに組み込んでもよい。
【符号の説明】
【0078】
S,SA…車両試験システム
1…車速指令生成装置
2…車速制御装置
20…駆動力指令生成部
201…基本駆動力算出部
202…フィードバック制御部
203…加算部
22…アクセル制御部
Mac…アクセル制御マップ
24…ブレーキ制御部
Mbk…ブレーキ制御マップ
26…踏み替え制御部
3…ドライブロボット
31…アクセルアクチュエータ
32…ブレーキアクチュエータ
6…車両
7…制御装置
70…ドライバモデル処理装置
71…駆動力指令生成部
72…アクセル制御部
74…ブレーキ制御部
76…踏み替え制御部
78…車両モデル処理装置
8…エンジンベンチシステム


図1
図2
図3
図4
【手続補正書】
【提出日】2022-11-25
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両のアクセルペダル及びブレーキペダルを操作するドライブロボットを駆動することにより車速を制御する車速制御装置であって、
前記車両の実車速及び当該実車速に対する車速指令に基づいて前記車両に対する駆動力指令を生成する駆動力指令生成部と、
前記駆動力指令に基づいてアクセルペダル操作量に対するアクセル操作量指令を生成するアクセル制御部と、
前記駆動力指令に基づいてブレーキペダル操作量に対するブレーキ操作量指令を生成するブレーキ制御部と、
前記アクセル操作量指令を前記ドライブロボットに入力するアクセル制御モード及び前記ブレーキ操作量指令を前記ドライブロボットに入力するブレーキ制御モードの何れかを前記駆動力指令に基づいて選択する踏み替え制御部と、を備え、
前記駆動力指令生成部は、
前記車速指令及び車両重量に基づいて基本駆動力を算出する基本駆動力算出部と、
前記車速指令と前記実車速との偏差が0になるように補正駆動力を算出するフィードバック制御部と、
前記基本駆動力と前記補正駆動力との和を前記駆動力指令として出力する加算部と、を備えることを特徴とする車速制御装置。
【請求項2】
前記アクセル制御部は、各車速における前記アクセルペダル操作量と前記車両における発生駆動力とを関連付けるアクセル制御マップに対し、前記実車速及び前記駆動力指令を入力することによって前記アクセル操作量指令を生成することを特徴とする請求項に記載の車速制御装置。
【請求項3】
前記ブレーキ制御部は、各車速における前記ブレーキペダル操作量と前記車両における発生駆動力とを関連付けるブレーキ制御マップに対し、前記実車速及び前記駆動力指令を入力することによって前記ブレーキ操作量指令を生成することを特徴とする請求項に記載の車速制御装置。
【請求項4】
前記アクセル制御部は、各車速における前記アクセルペダル操作量と前記車両における発生駆動力とを関連付けるアクセル制御マップに対し、前記実車速及び前記駆動力指令を入力することによって前記アクセル操作量指令を生成し、
前記ブレーキ制御部は、各車速における前記ブレーキペダル操作量と前記発生駆動力とを関連付けるブレーキ制御マップに対し、前記実車速及び前記駆動力指令を入力することによって前記ブレーキ操作量指令を生成することを特徴とする請求項に記載の車速制御装置。
【請求項5】
前記踏み替え制御部は、前記駆動力指令が加減速判定値より大きい場合には前記アクセル制御モードを選択し、前記駆動力指令が前記加減速判定値より小さい場合には前記ブレーキ制御モードを選択することを特徴とする請求項1から4の何れかに記載の車速制御装置。
【請求項6】
車両のアクセルペダル及びブレーキペダルを操作するドライブロボットを駆動することにより車速を制御する車速制御装置であって、
前記車両の実車速及び当該実車速に対する車速指令に基づいて前記車両に対する駆動力指令を生成する駆動力指令生成部と、
前記駆動力指令に基づいてアクセルペダル操作量に対するアクセル操作量指令を生成するアクセル制御部と、
前記駆動力指令に基づいてブレーキペダル操作量に対するブレーキ操作量指令を生成するブレーキ制御部と、
前記アクセル操作量指令を前記ドライブロボットに入力するアクセル制御モード及び前記ブレーキ操作量指令を前記ドライブロボットに入力するブレーキ制御モードの何れかを前記駆動力指令に基づいて選択する踏み替え制御部と、を備え、
前記踏み替え制御部は、制御モードとして前記アクセル制御モードを選択している間に前記駆動力指令が前記加減速判定値よりも小さな値に設定された第1踏み替え閾値を下回った場合には、前記制御モードを前記ブレーキ制御モードに切り替え、前記制御モードとして前記ブレーキ制御モードを選択している間に前記駆動力指令が前記加減速判定値よりも大きな値に設定された第2踏み替え閾値を上回った場合には、前記制御モードを前記アクセル制御モードに切り替えることを特徴とする車速制御装置。
【請求項7】
前記踏み替え制御部は、前記実車速に応じて前記加減速判定値、前記第1踏み替え閾値、及び前記第2踏み替え閾値を変化させることを特徴とする請求項に記載の車速制御装置。
【請求項8】
前記踏み替え制御部は、前記フィードバック制御部に含まれる制御パラメータの値に応じて前記第2踏み替え閾値と前記第1踏み替え閾値との差を変化させることを特徴とする請求項6又は7に記載の車速制御装置。
【請求項9】
ドライバによる車両のアクセルペダル及びブレーキペダルの操作を模擬するドライバモデル処理装置であって、
前記車両の実車速及び当該実車速に対する車速指令に基づいて前記車両に対する駆動力指令を生成する駆動力指令生成部と、
前記駆動力指令に基づいてアクセルペダル操作量に対するアクセル操作量指令を生成するアクセル制御部と、
前記駆動力指令に基づいてブレーキペダル操作量に対するブレーキ操作量指令を生成するブレーキ制御部と、
前記アクセル制御部をオンにするアクセル制御モード及び前記ブレーキ制御部をオンにするブレーキ制御モードの何れかを前記駆動力指令に基づいて選択する踏み替え制御部と、を備え、
前記駆動力指令生成部は、
前記車速指令及び車両重量に基づいて基本駆動力を算出する基本駆動力算出部と、
前記車速指令と前記実車速との偏差が0になるように補正駆動力を算出するフィードバック制御部と、
前記基本駆動力と前記補正駆動力との和を前記駆動力指令として出力する加算部と、を備えることを特徴とするドライバモデル処理装置。
【請求項10】
ドライバによる車両のアクセルペダル及びブレーキペダルの操作を模擬するドライバモデル処理装置であって、
前記車両の実車速及び当該実車速に対する車速指令に基づいて前記車両に対する駆動力指令を生成する駆動力指令生成部と、
前記駆動力指令に基づいてアクセルペダル操作量に対するアクセル操作量指令を生成するアクセル制御部と、
前記駆動力指令に基づいてブレーキペダル操作量に対するブレーキ操作量指令を生成するブレーキ制御部と、
前記アクセル制御部をオンにするアクセル制御モード及び前記ブレーキ制御部をオンにするブレーキ制御モードの何れかを前記駆動力指令に基づいて選択する踏み替え制御部と、を備え、
前記踏み替え制御部は、制御モードとして前記アクセル制御モードを選択している間に前記駆動力指令が前記加減速判定値よりも小さな値に設定された第1踏み替え閾値を下回った場合には、前記制御モードを前記ブレーキ制御モードに切り替え、前記制御モードとして前記ブレーキ制御モードを選択している間に前記駆動力指令が前記加減速判定値よりも大きな値に設定された第2踏み替え閾値を上回った場合には、前記制御モードを前記アクセル制御モードに切り替えることを特徴とするドライバモデル処理装置。