(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023146679
(43)【公開日】2023-10-12
(54)【発明の名称】風向調整装置
(51)【国際特許分類】
F24F 13/10 20060101AFI20231004BHJP
B60H 1/34 20060101ALI20231004BHJP
【FI】
F24F13/10 Z
B60H1/34 611Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022053990
(22)【出願日】2022-03-29
(71)【出願人】
【識別番号】000229955
【氏名又は名称】日本プラスト株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100083806
【弁理士】
【氏名又は名称】三好 秀和
(74)【代理人】
【識別番号】100101247
【弁理士】
【氏名又は名称】高橋 俊一
(74)【代理人】
【識別番号】100095500
【弁理士】
【氏名又は名称】伊藤 正和
(74)【代理人】
【識別番号】100098327
【弁理士】
【氏名又は名称】高松 俊雄
(72)【発明者】
【氏名】大沼 直人
(72)【発明者】
【氏名】平井 穂
【テーマコード(参考)】
3L081
3L211
【Fターム(参考)】
3L081AA02
3L081FA07
3L211BA05
3L211DA14
(57)【要約】
【課題】指向性の低下を抑える風向調整装置を提供する。
【解決手段】風向調整装置1は、通風路Cを有するケース体10と、通風路Cの内部に配置され、第1主平面21と第1主平面21の反対側にある第2主平面22とに平行な回転軸27を基準として回動可能な矩形板状のフィン20とを備える。フィン20は、フィン20の上流側端縁23の形状に沿って延伸し、かつ、第1主平面21と第2主平面22との間で貫通する貫通部としての第1スリット28を有する。第1スリット28の貫通方向は、回転軸27に対して垂直となる断面では、第1主平面21及び第2主平面22に対して垂直となる方向から傾斜している。
【選択図】
図2B
【特許請求の範囲】
【請求項1】
通風路を有するケース体と、
前記通風路の内部に配置され、第1主平面と当該第1主平面の反対側にある第2主平面とに平行な回転軸を基準として回動可能な矩形板状のフィンと、を備え、
前記フィンは、当該フィンの上流側端縁の形状に沿って延伸し、かつ、前記第1主平面と前記第2主平面との間で貫通する貫通部を有し、
前記貫通部の貫通方向は、前記回転軸に対して垂直となる断面では、前記第1主平面及び前記第2主平面に対して垂直となる方向から傾斜している、風向調整装置。
【請求項2】
前記ケース体は、前記通風路と連通し、かつ、前記通風路の延伸方向に対して開口方向が傾斜している気体吹出口を有し、
前記第1主平面は、前記フィンの下流側端縁が前記気体吹出口に近づく方向に前記フィンが回動したときに、前記通風路の上流側から視認され、
前記貫通部は、前記第1主平面から開放される第1開口と、前記第2主平面から開放される第2開口とで貫通する第1スリットであり、
前記上流側端縁までの距離は、前記第2開口よりも前記第1開口の方が近い、請求項1に記載の風向調整装置。
【請求項3】
前記第1スリットを形成し、前記下流側端縁に近い側の内側面は、前記第2主平面と接線が連続する曲面を含む、請求項2に記載の風向調整装置。
【請求項4】
前記貫通部は、前記第1スリットと、当該第1スリットと交差する第2スリットとの組み合わせであり、
前記第2スリットは、前記第1主平面から開放される第3開口と、前記第2主平面から開放される第4開口とで貫通し、
前記上流側端縁までの距離は、前記第3開口よりも前記第4開口の方が近い、請求項2に記載の風向調整装置。
【請求項5】
前記第2スリットを形成し、前記下流側端縁に近い側の内側面は、前記第1主平面と接線が連続する曲面を含む、請求項4に記載の風向調整装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、風向調整装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、自動車等の車両に設置され、車両の空調装置から車室内に供給させる風の向きを調整する風向調整装置がある。特許文献1は、ケース体内の通風路に配置されたフィンの風上側端部にスリットを設けることで、ケース体が薄型化されても通気抵抗の増大を抑える風向調整装置に関する技術を開示している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1に記載の風向調整装置におけるスリットは、フィンの表面に沿って気体を流れやすくすることができるが、フィンの傾斜姿勢ごとに変化するよどみ点の位置によっては、フィン周りで気体が流れにくくなることもあり得る。この気体の流れにくさは、スリットへ流入する風量を損なわれやすくし、ひいては風向の指向性の低下につながるため、更なる改良の余地がある。
【0005】
本発明は、このような従来技術が有する課題に鑑みてなされたものである。そして本発明の目的は、指向性の低下を抑える風向調整装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の態様に係る風向調整装置は、通風路を有するケース体と、通風路の内部に配置され、第1主平面と当該第1主平面の反対側にある第2主平面とに平行な回転軸を基準として回動可能な矩形板状のフィンと、を備え、フィンは、当該フィンの上流側端縁の形状に沿って延伸し、かつ、第1主平面と第2主平面との間で貫通する貫通部を有し、貫通部の貫通方向は、回転軸に対して垂直となる断面では、第1主平面及び第2主平面に対して垂直となる方向から傾斜している。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、指向性の低下を抑える風向調整装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】一実施形態に係る風向調整装置の斜視図である。
【
図2A】一実施形態におけるフィンの斜視図である。
【
図2B】
図2AのIIB-IIB断面に対応したフィンの断面図である。
【
図3A】
図1のIIIA-IIIA断面に対応した風向調整装置の断面図である。
【
図3B】上振り状態のフィン周りの気体の流れを示す図である。
【
図4A】比較例に係る風向調整装置の断面図である。
【
図4B】比較例における中立状態時のフィン周りの気体の流れを示す図である。
【
図4C】比較例における上振り状態のフィン周りの気体の流れを示す図である。
【
図5】第2例のスリットを有するフィンの断面図である。
【
図6A】第3例のスリットを有するフィンの断面図である。
【
図6B】上振り状態時に第3例のスリットを通過する気体の流れを示す図である。
【
図6C】下振り状態時に第3例のスリットを通過する気体の流れを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、図面を用いて一実施形態に係る風向調整装置について詳細に説明する。なお、図面の寸法比率は説明の都合上誇張されており、実際の比率と異なる場合がある。
【0010】
図1は、一実施形態に係る風向調整装置1の外観を示す斜視図である。風向調整装置1は、自動車等の車両に設置され、車両の空調装置から車室内に供給させる気体(風)の向きを調整する。例えば、風向調整装置1は、自動車の車室内にあるインストルメントパネルやセンターコンソール等に設けられた開口部に取り付けられる。なお、同類の風向調整装置を含む空調装置は、ベンチレーターやレジスターなどと呼ばれることもある。
【0011】
風向調整装置1は、ケース体10と、複数のフィン20とを備える。
【0012】
ケース体10は、気体を流通させる通風路Cを有する筒状体である。ここで、以下の説明では、ケース体10の形状を基準として、X,Y,Zの各方向を次のように規定する。X方向は、ケース体10の筒形状を規定する軸方向に沿い、通風路Cの上流側から下流側に向かって延伸する。Y方向とZ方向とは、それぞれX方向に対して垂直で、かつ、互いに垂直である。また、本実施形態では、Z方向は、鉛直方向に沿うものとし、「上」は、Z方向での上方を示し、「下」は、Z方向での下方を示す。
【0013】
ケース体10は、各々平板状である、第1壁部11、第2壁部12、第3壁部13及び第4壁部14を組み合わせて形成される。第1壁部11は、第2壁部12とZ方向で対向する。第3壁部13は、第4壁部14とY方向で対向する。第1壁部11の一辺は、第3壁部13を介して第2壁部12の一辺と連結される。第1壁部11の他辺は、第4壁部14を介して第2壁部12の他辺と連結される。つまり、通風路Cは、第1壁部11、第2壁部12、第3壁部13及び第4壁部14に囲まれた空間領域である。また、ケース体10は、YZ平面で切断した通風路Cの断面形状が矩形となる、角筒状である。第3壁部13及び第4壁部14は、互いにY方向で対向する位置に、フィン20を支持する複数の軸受穴15を有する。
【0014】
ケース体10では、それぞれ通風路Cと連通する一方の開口が気体吹出口16であり、他方の開口が気体導入口17(
図3A参照)である。気体導入口17は、車両内に設置されている不図示の空調装置に接続され、当該空調装置から供給された気体を導入する。本実施形態のように、適用対象である車両が一般的な自動車である場合には、気体は空気である。一方、気体吹出口16は、車室内に面し、通風路Cを流通してきた気体を風として車室側に吹き出す。気体吹出口16の開口方向は、通風路Cの延伸方向に対して傾斜していてもよい。本実施形態では、気体吹出口16は、一例として、上向きに開口されているものとする。この場合、気体吹出口16の開口方向に関するXZ平面での第1角度θ1(
図3A参照)は、通風路Cの延伸方向に相当するX方向に対して、0°<θ1<90°の範囲にある。
【0015】
複数のフィン20は、通風路Cの内部に配置され、風向を上下に変化させるための風向可変部である。本実施形態では、フィン20の設置数は、一例として五つである。また、フィン20の形状は、各々同一である。フィン20は、Y方向を長手方向とする矩形板状であり、Y方向に沿った中心軸AX(
図2A参照)周りに回動可能である。五つのフィン20は、Z方向において互いに等間隔で離間し、かつ、X方向において気体吹出口16からの距離がおおよそ一定となるように互いに等間隔で離間する。
【0016】
なお、本実施形態では、五つのフィン20の回動が互いに同期するものとする。不図示であるが、いずれか一つのフィン20が回動されたときにその他のフィン20も連動するように、複数のフィン20は、リンク機構を介して互いに連結されていてもよい。一方、複数のフィン20は、各々又はいくつかの群ごとに回動するものであってもよい。
【0017】
図2A及び
図2Bは、ある一つのフィン20を示す図である。
図2Aは、フィン20の外観を示す斜視図である。
図2Bは、
図2AのIIB-IIB断面に対応し、第1スリット28の一部を含むようにXZ平面で切断したフィン20の断面図である。なお、
図2A及び
図2Bでは、
図1並びに以下で例示する
図3A及び
図3Bの描画に合わせて、上振り状態のフィン20が示されている。
【0018】
フィン20は、二つの主平面、すなわち、第1主平面21と、第1主平面21の反対側にある第2主平面22とを有する。第1主平面21と第2主平面22とは、おおよそ一定であるフィン20の厚み分、離間している。また、フィン20は、それぞれ第1主平面21と第2主平面22とに連続する四つの側端部、すなわち、上流側端縁23と、下流側端縁24と、第1側端面25と、第2側端面26とを有する。
【0019】
上流側端縁23及び下流側端縁24は、互いに、フィン20の長手方向におおよそ沿う側端部である。上流側端縁23は、通風路Cの上流側、つまり風上側の端縁である。下流側端縁24は、通風路Cの下流側、つまり風下側の端縁である。なお、車室側を基準として、ケース体10において気体吹出口16がある側を前側とし、気体導入口17がある側を後側とすると、上流側端縁23は、後端部とも呼称され、下流側端縁24は、前端部とも呼称され得る。
【0020】
第1側端面25及び第2側端面26は、互いに、フィン20の短手方向におおよそ沿う側端部である。第1側端面25及び第2側端面26には、それぞれ、第1主平面21と第2主平面22とに平行で、かつ、フィン20が回動するときの基準となる回転軸27が設けられる。本実施形態では、各々の回転軸27は、互いに反対方向に突出するように、フィン20の回動時の中心軸AXと同軸に配置される。中心軸AXは、第1側端面25及び第2側端面26の双方において、上流側端縁23と下流側端縁24とを結んだ直線の中間を通る。第1側端面25に設けられている回転軸27は、ケース体10の第3壁部13に予め形成されている軸受穴15に、摺動自在に支持される。第2側端面26に設けられている回転軸27は、ケース体10の第4壁部14に予め形成されている軸受穴15に、摺動自在に支持される。
【0021】
なお、本実施形態では、上流側端縁23及び下流側端縁24の形状は、それぞれY方向に沿った中心軸AXに対して平行となる直線形状であるが、一部に曲線形状を含んでもよい。また、上流側端縁23と下流側端縁24とは、必ずしも互いに平行でなくてもよい。更に、本実施形態では、第1側端面25と第2側端面26とは、XZ平面として互いに平行であるが、非平行であってもよい。
【0022】
上記のような形状を有する五つのフィン20は、それぞれ、
図1に示すように、下流側端縁24が気体吹出口16に近接するように配置される。そのため、車室にいる乗員は、気体吹出口16を介して、下流側端縁24を視認可能であるとともに、フィン20を直接触れることで回動させることができる。
【0023】
また、フィン20は、第1主平面21と第2主平面22との間で貫通する貫通部としての第1スリット28を有する。以下、第1主平面21から開放される一方の開口を第1開口28aと表記し、第2主平面22から開放される他方の開口を第2開口28bと表記する。第1スリット28は、上流側端縁23の延伸方向の長さ全体に亘って、上流側端縁23の形状に沿って延伸する。本実施形態では、第1スリット28は、一例として、直列状に四つある。ただし、第1スリット28は、一つのフィン20に対して一つのみ設けられていてもよい。また、第1スリット28の貫通方向は、回転軸27に対して垂直となる断面、すなわち、
図2Bに示すようなXZ断面では、第1主平面21及び第2主平面22に対して垂直となる方向から傾斜している。
図2Bでは、第1スリット28の貫通方向の傾斜角が第3角度θ3で表されている。
【0024】
ここで、フィン20は、上向きに傾斜している気体吹出口16に合わせて風向が上向きとなるように回動し、いわゆる上振り状態となり得る(
図1及び
図3A参照)。フィン20は、上振り状態となるとき、下流側端縁24が気体吹出口16に近づくように回動するため、通風路Cの上流側からは、第1主平面21が視認されるが、第2主平面22は視認されない。そして、ケース体10の形状に合わせて、フィン20がこのような形状条件又は配置条件を満たすものとすると、第1スリット28は、フィン20に対して、
図2Bに示すように形成される。具体的には、第1スリット28は、上流側端縁23までの距離が第2開口28bよりも第1開口28aの方が近くなるように形成される。このとき、第1スリット28の貫通方向は、XZ断面では、第1主平面21及び第2主平面22に対して垂直となる方向から、第3角度θ3の分、下流側端縁24の側に傾斜する。
【0025】
また、第1スリット28は、ともに上流側端縁23の延伸形状に沿って延伸する、第1内側面28cと、第2内側面28dとを有する。第1内側面28cは、上流側端縁23に近い側の内側面である。第2内側面28dは、下流側端縁24に近い側の内側面である。ここで、第2内側面28dは、第2主平面22と接線が連続する曲面を含む。
【0026】
次に、風向調整装置1の作用について説明する。
【0027】
まず、風向調整装置1では、すべてのフィン20が、通風路Cの延伸方向であるX方向に対して第1主平面21及び第2主平面22が平行となる姿勢にあるとき、気体吹出口16から放出される気体の風向は、通風路Cの延伸方向に沿う。このとき、フィン20は、いわゆる中立(ニュートラル)状態にある。このようにすべてのフィン20が中立状態にあるとき、通風路Cでは、フィン20の姿勢に起因した通気抵抗が比較的小さく、フィン20周りでも気体は滑らかに流れる。
【0028】
一方、フィン20が中立状態から上振り状態に姿勢を変化させたときの気体の流れは、以下のとおりとなる。
【0029】
図3A及び
図3Bは、風向調整装置1においてフィン20が上振り状態にあるときの気体の流れを説明する図である。
図3Aは、
図1のIIIA-IIIA断面に対応した、風向調整装置1の断面図である。
図3Bは、上振り時のフィン20周りの気体の流れを示す断面図である。
図3A及び
図3Bでは、気体の流れが太線による複数の矢印で示されている。また、
図3Aでは、気体吹出口16の開口方向の傾斜角が、通風路Cの延伸方向を基準とした第1角度θ1で表されている。更に、
図3Aでは、フィン20の傾斜角が、通風路Cの延伸方向を基準とした第2角度θ2で表されている。なお、
図3Aにおける第2角度θ2は、フィン20がこれ以上の上振りとならない最大角度として例示されている。
【0030】
まず、
図3Bを参照すると、フィン20が上振り状態にあるとき、通風路Cの上流側からフィン20に向かって流通してきた気体は、主として第1主平面21に接触し、第1主平面21の傾きに合わせて上方に向かうように案内される。一方、上流側端縁23の近傍に向かって流通してきた気体の一部は、フィン20の下方に回り込み、第2主平面22に沿って上方に向かうように案内される。
【0031】
ここで、フィン20には、第1スリット28が設けられている。第1スリット28は、上記説明したように、貫通方向が第1主平面21及び第2主平面22に対して垂直となる方向から下流側端縁24の側に傾斜するように、第1開口28aと第2開口28bとの間で貫通している。フィン20が上振り状態になると、第1スリット28の貫通方向は、通風路Cの延伸方向に沿った方向に近づく。そのため、第1開口28aから第1スリット28内に導入された気体は、第2開口28bから第2主平面22の側に抜け、第2主平面22に沿って上方に向かうように案内される。
【0032】
また、第1開口28aは、第1主平面21上で上流側端縁23に近い領域に設けられることが望ましい。ここで、上流側端縁23に近い領域とは、フィン20が中立状態から上振り状態に変化するに伴って、上流側端縁23から第1主平面21上に徐々に移動するよどみ点SP(
図4C参照)の移動領域に相当する領域をいう。なお、よどみ点SPと第1開口28aの位置との関係については、以下の比較例に関して
図4C等を用いた詳説と併せて後述する。また、第1主平面21上で上流側端縁23に近い領域に第1開口28aを設けやすくするため、本実施形態では、第1スリット28は、フィン20において、上流側端縁23と中心軸AXとで挟まれる領域に形成されている。
【0033】
そして、
図3Aを参照すると、通風路Cの上流側から流通してきた気体は、各々のフィン20周りで滑らかに流れるため、気体吹出口16の開口方向に合わせて好適に上方に向かって放出される。
【0034】
ここで、本実施形態に係る風向調整装置1との比較のために、各々のフィン20に第1スリット28が設けられていない場合の作用について例示する。
【0035】
図4A~
図4Cは、比較例としての風向調整装置100おける気体の流れを説明する図である。
図4Aは、風向調整装置1に関する
図3Aに合わせて描画された風向調整装置100の断面図である。
図4Bは、中立状態時のフィン120周りの気体の流れを示す断面図である。
図4Cは、上振り時のフィン120周りの気体の流れを示す断面図である。
図4A~
図4Cでは、
図3A及び
図3Bと同様に、気体の流れが太線による複数の矢印で示されている。
【0036】
風向調整装置100は、風向調整装置1とは、フィン20に代えて、第1スリット28を有さないフィン120を備える点のみが異なる。そのため、風向調整装置100において、フィン120以外の構成要素については、風向調整装置1の構成要素と同一の符号を付し、説明を省略する。また、作用を比較するために、気体吹出口16の開口方向の傾斜角に係る第1角度θ1、フィン120の傾斜角に係る第2角度θ2、及び、フィン120の全体形状についても、風向調整装置1における説明時のものと同一である。
【0037】
まず、
図4Bを参照すると、フィン120が中立状態にあるとき、通風路Cでは、フィン120の姿勢に起因した通気抵抗が比較的小さく、フィン120周りでも気体は滑らかに流れる。ここで、フィン120が中立状態にあるとき、通風路Cでの気体の流れ方向とフィン120の姿勢との関係から、上流側端縁123に、よどみ点SPが生じる。
【0038】
次に、
図4Cを参照すると、フィン120が回転軸127を基準として回動し、上振り状態となったとき、フィン120に向かって流通してきた気体は、主に第1主平面21に接触し、第1主平面21の傾きに合わせて上方に向かうように案内される。ここで、フィン120が上振り状態にあるとき、フィン120が中立状態にあったときに上流側端縁123に生じていたよどみ点SPは、第1主平面121上に移動する。このよどみ点SPの位置の変化に起因して、上流側端縁123の近傍に向かって流通してきた気体の一部は、比較的小さな半径を有する上流側端縁123を迂回しながらフィン120の下方に回り込もうとする。そのため、第2主平面122に沿って通過中の流れでは、境界層の剥離が生じ得る。
【0039】
そして、
図4Aを参照すると、各々のフィン120周りの一部で境界層の剥離が生じることで、いわゆる吹き抜け風が多くなる。その結果、気体吹出口16から放出される気体は、上方に向いづらくなり、
図3Aに示すような所望の風向が得られない、つまり、所望の指向性が得られないこともあり得る。
【0040】
この第1スリット28を有さないフィン120に対して、本実施形態におけるフィン20では、
図4Cに例示した、上振り状態のときによどみ点SPになると想定される第1主平面21上の位置(以下、「想定位置」という。)に、第1開口28aが設定される。そのため、フィン20が上振り状態となっても、
図3Bに示すように、よどみ点SPの想定位置に流通してきた気体は、直接的に第1スリット28内に流れ込み、第2主平面22側に滑らかに流れる。その結果、第1主平面21側では、よどみが生じづらくなり、一方、第2主平面22側では、境界層の剥離が生じづらくなるため、気体吹出口16から放出される気体の風向は、所望の風向となりやすい。
【0041】
次に、風向調整装置1の効果について説明する。
【0042】
本実施形態の態様に係る風向調整装置1は、通風路Cを有するケース体10と、通風路Cの内部に配置され、第1主平面21と第1主平面21の反対側にある第2主平面22とに平行な回転軸27を基準として回動可能な矩形板状のフィン20とを備える。フィン20は、フィン20の上流側端縁23の形状に沿って延伸し、かつ、第1主平面21と第2主平面22との間で貫通する貫通部を有する。貫通部の貫通方向は、回転軸27に対して垂直となる断面では、第1主平面21及び第2主平面22に対して垂直となる方向から傾斜している。
【0043】
ここで、貫通部は、例えば、上記説明した第1スリット28である。
【0044】
まず、風向調整装置1は、ケース体10の通風路Cの内部に回動可能に配置されているフィン20を備えるので、車室内の乗員は、例えば、フィン20を直接的に触れて回動させることで、風向を所望の方向に調整することができる。
【0045】
例えば、フィン20が回動して上振り状態となったとき、通風路Cを流通してきた気体は、主に一方の主平面(例えば第1主平面21)と接触し、当該主平面に案内されることで、当該気体の風向が変化する。ここで、フィン20は、上記のような、貫通方向が第1主平面21及び第2主平面22に対して垂直となる方向から傾斜するスリットを有する。そのため、一方の主平面である第1主平面21に向かってくる気体の一部は、スリットを通過し、反対側の主平面である第2主平面22の側に抜ける。つまり、フィン20が傾斜姿勢となっているときのよどみ点SPの想定位置に、予めスリットの開口を設定しておくことで、通風路Cの上流側から流通してきた気体を通り抜けさせることができる。なお、ここでのフィン20の傾斜姿勢は、
図3Aに示すように、第2角度θ2が最大角度となるときの傾斜姿勢であってもよい。これにより、一方の主平面上では、よどみが生じづらくなるため、フィン20周りでの境界層の剥離が抑えられ、結果として、気体はフィン20周りを滑らかに流れ、風向の指向性が低下しづらくなる。
【0046】
このように、本実施形態によれば、指向性の低下を抑える風向調整装置1を提供することができる。
【0047】
また、本実施形態では、フィン20に設けられた第1スリット28を気体が通過することで、通風路C内での通気抵抗を低減させることができる。例えば、風向調整装置1における通風路C内の圧力は、風向調整装置100の場合よりも、18%程度低下する。したがって、本実施形態によれば、風向調整装置1における送風音を、風向調整装置100の場合よりも低減することができる。
【0048】
また、風向調整装置1では、ケース体10は、通風路Cと連通し、かつ、通風路Cの延伸方向に対して開口方向が傾斜している気体吹出口16を有する。また、第1主平面21は、フィン20の下流側端縁24が気体吹出口16に近づく方向にフィン20が回動したときに、通風路Cの上流側から視認されるものとする。ここで、貫通部は、第1主平面21から開放される第1開口28aと、第2主平面22から開放される第2開口28bとで貫通する第1スリット28であってもよい。このとき、上流側端縁23までの距離は、第2開口28bよりも第1開口28aの方が近い。
【0049】
この風向調整装置1では、例えば、気体吹出口16の開口方向が上向きであり、かつ、フィン20が上振り状態となっている場合が想定される。この場合、第1スリット28の貫通方向が、通風路Cの延伸方向、すなわち、通風路Cを流通する気体の主流の流れ方向に沿いやすくなる。また、第1スリット28において気体の導入口となる第1開口28aが、第1主平面21上での上流側端縁23に近い位置、すなわち、フィン20が上振り状態にあるときのよどみ点SPの想定位置に合わせて設定されやすい。したがって、第1主平面21上でよどみを生じづらくし、その結果、第2主平面22の側での境界層の剥離を抑えやすくすることができるため、風向の指向性をより低下しづらくすることができる。
【0050】
また、風向調整装置1では、第1スリット28を形成し、下流側端縁24に近い側の第2内側面28dは、第2主平面22と接線が連続する曲面を含んでもよい。
【0051】
この風向調整装置1によれば、
図3Bに示すように、第1スリット28を流通して第2主平面22側に抜ける気体の流れに合わせて、第1スリット28の第2内側面28dと第2主平面22とが滑らかに連続する。したがって、第2主平面22の側での境界層の剥離をより抑えやすくすることができるため、風向の指向性をより低下しづらくすることができる。
【0052】
なお、本実施形態では、第1スリット28を有するフィン20について説明したが、スリットの形状は、第1スリット28のような形状に限定されない。以下、風向調整装置1に採用し得るスリットのその他の形状について説明する。
【0053】
図5は、第2例のスリットとしての第1スリット48を有するフィン40の断面図である。フィン40の概略形状は、第1例のスリットとしての第1スリット48を有するフィン20と同様である。すなわち、フィン40は、第1主平面41、第2主平面42、上流側端縁43及び下流側端縁44を有し、回転軸47を基準として回動可能である。
【0054】
ここで、第1スリット48は、第1スリット28と同様に、第1主平面41と第2主平面42との間で貫通する。しかし、第1スリット48は、上流側端縁43までの距離が第1主平面41側の第1開口48aよりも第2主平面42側の第2開口48bの方が近くなるように形成される。つまり、第1スリット48の形状は、中心軸AXを通過して第1主平面41及び第2主平面42とは平行となる仮想面を基準として、第1スリット28の形状とは対称となる。
【0055】
図4A~
図4Cを用いて説明した比較例としての風向調整装置100では、フィン120が下振り状態であるときよりも上振り状態であるときの方が、気体の吹き抜け量が多くなるという傾向がある。そこで、第1スリット48を有するフィン20を備えた風向調整装置1では、フィン20が特に上振り状態となったときに風向の指向性の低下を抑えることができる点で有利である。
【0056】
これに対して、例えば、気体吹出口16の開口方向又は開口形状によっては、フィン120が上振り状態であるときよりも下振り状態であるときの方が、気体の吹き抜け量が多くなる場合をあり得る。このような場合には、風向調整装置1は、フィン20に代えて、
図5に示すような第1スリット48を有するフィン40を採用することで、フィン40が特に下振り状態となったときに風向の指向性の低下を抑えることができる。
【0057】
なお、第1スリット48は、第1スリット28と同様に、第1内側面48cと第2内側面48dとを有し、下流側端縁44に近い側の第2内側面48dは、第2主平面42と接線が連続する曲面を含むものとしてもよい。
【0058】
図6A~
図6Cは、第3例のスリットとしての第1スリット58と第2スリット59との組み合わせを有するフィン50の図である。
図6Aは、フィン50の形状を説明するための断面図である。
図6Bは、フィン50が上振り状態にあるときに第1スリット58を通過する気体の流れを示す断面図である。
図6Cは、フィン50が下振り状態にあるときに第2スリット59を通過する気体の流れを示す断面図である。
【0059】
フィン50の概略形状は、第1例のスリットとしての第1スリット48を有するフィン20と同様である。すなわち、フィン50は、第1主平面51、第2主平面52、上流側端縁53及び下流側端縁54を有し、回転軸57を基準として回動可能である。
【0060】
第3例としてのスリットは、第1スリット58と、第1スリット58と交差する第2スリット59との組み合わせであってもよい。ここで、第1スリット58は、第1主平面51から開放される第1開口58aと、第2主平面52から開放される第2開口58bとで貫通してもよい。このとき、上流側端縁53までの距離は、第2開口58bよりも第1開口58aの方が近い。つまり、第1スリット58単体の形状は、第1例のスリットとしての第1スリット28と同様である。一方、第2スリット59は、第1主平面51から開放される第3開口59aと、第2主平面52から開放される第4開口59bとで貫通してもよい。このとき、上流側端縁53までの距離は、第3開口59aよりも第4開口59bの方が近い。つまり、第2スリット59単体の形状は、第2例のスリットとしての第1スリット48と同様である。
【0061】
この風向調整装置1によれば、
図6Bに示すように、フィン50が上振り状態であるときには、通風路Cを流通してきた気体の一部が第1スリット58を通過することで、上記説明したフィン20を備えた風向調整装置1と同様の効果を奏する。一方、この風向調整装置1によれば、
図6Cに示すように、フィン50が下振り状態であるときには、通風路Cを流通してきた気体の一部が第2スリット59を通過することで、上記説明したフィン40を備えた風向調整装置1と同様の効果を奏する。つまり、第3例としてのスリットを有するフィン50を備えた風向調整装置1によれば、フィン50が上振り状態及び下振り状態のいずれであっても、風向の指向性の低下を抑えることができる。
【0062】
また、風向調整装置1では、第2スリット59を形成し、下流側端縁54に近い側の第4内側面59dは、第1主平面21と接線が連続する曲面を含んでもよい。
【0063】
この場合、第1スリット58は、第1スリット28と同様に、下流側端縁54に近い側の第2内側面58dは、第2主平面52と接線が連続する曲面を含む。また、第2スリット59は、第1スリット48と同様に、下流側端縁54に近い側の第4内側面59dは、第1主平面51と接線が連続する曲面を含む。したがって、この風向調整装置1によれば、フィン50が上振り状態及び下振り状態のいずれであっても、フィン50回りでの流れの剥離をより抑えやすくすることができるため、風向の指向性をより低下しづらくすることができる。
【0064】
また、上記説明では、フィン20等において二つの主平面間で貫通する貫通部が、すべて、第1スリット28等のスリットである場合を例示した。しかし、貫通部は、このようなスリットに限定されない。貫通部は、第1スリット28等に関して適用される貫通方向及びXZ断面に係る形状などの各種条件を満たす限り、例えば、複数の貫通孔の集合部であってもよい。この場合、一つの貫通孔の開口形状は、例えば円形である。そして、貫通部は、第1スリット28等に代わり、このような複数の貫通孔が上流側端縁23の形状に沿って直列状に配置されるものであってもよい。
【0065】
更に、上記説明では、Z方向が鉛直方向に沿うものと規定し、フィン20等が上振り状態又は下振り状態となり得る場合を例示した。しかし、フィン20等の回転方向は、このような上下方向に限らない。例えば、上記例示での風向調整装置1は、フィン20の回動の基準となる中心軸AXが水平方向に沿うように、いわゆる横置きで車両に設置される。これに対して、風向調整装置1は、例えば、中心軸AXが垂直方向に沿うように、いわゆる縦置きで車両に設置されてもよい。この場合、フィン20等の回転方向は、左右方向となる。つまり、風向調整装置1によれば、このように縦置きで設置されることで、左右方向で風向を調整することもできる。
【0066】
以上、本実施形態を説明したが、本実施形態はこれらに限定されるものではなく、本実施形態の要旨の範囲内で種々の変形が可能である。
【符号の説明】
【0067】
1 風向調整装置
10 ケース体
16 気体吹出口
20 フィン
21 第1主平面
22 第2主平面
23 上流側端縁
24 下流側端縁
27 回転軸
28 第1スリット
28a 第1開口
28b 第2開口
28d 第2内側面
50 フィン
51 第1主平面
52 第2主平面
53 上流側端縁
58 第1スリット
59 第2スリット
59a 第3開口
59b 第4開口
59d 第4内側面
C 通風路