(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023146701
(43)【公開日】2023-10-12
(54)【発明の名称】鋼矢板の製造方法
(51)【国際特許分類】
B21B 1/082 20060101AFI20231004BHJP
【FI】
B21B1/082
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022054034
(22)【出願日】2022-03-29
(71)【出願人】
【識別番号】000006655
【氏名又は名称】日本製鉄株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100101557
【弁理士】
【氏名又は名称】萩原 康司
(74)【代理人】
【識別番号】100096389
【弁理士】
【氏名又は名称】金本 哲男
(74)【代理人】
【識別番号】100167634
【弁理士】
【氏名又は名称】扇田 尚紀
(74)【代理人】
【識別番号】100187849
【弁理士】
【氏名又は名称】齊藤 隆史
(74)【代理人】
【識別番号】100212059
【弁理士】
【氏名又は名称】三根 卓也
(72)【発明者】
【氏名】松田 勝也
【テーマコード(参考)】
4E002
【Fターム(参考)】
4E002AC05
4E002BB02
4E002CA16
(57)【要約】
【課題】鋼矢板の製造において、粗圧延工程の曲げ圧延段階で生じる恐れのある爪対応部の形状不良を抑制させ、生産性の向上を図る。
【解決手段】矩形断面の素材を圧下して鋼矢板を製造する製造方法であって、粗圧延工程、中間圧延工程、仕上圧延工程を有し、前記粗圧延工程を行う圧延機には、前記素材の厚さ中心線長さを伸ばし、当該素材を矩形断面形状から略鋼矢板断面形状に圧延造形する曲げ圧延を行う孔型が設けられ、前記曲げ圧延においては、前記素材の噛み込み端部の所定区間に対して、当該所定区間に対する圧下量が当該所定区間以外の部位に対する圧下量よりも小さいような圧延である軽圧下圧延が行われ、前記曲げ圧延は複数パスで行われ、当該複数パスによる圧延は、前記素材の爪対応部が圧下されない前段階と、前記素材の爪対応部が圧下される後段階と、に分けられ、前記軽圧下圧延は、前記複数パスのうちの前段階でのパスに適用される。
【選択図】
図11
【特許請求の範囲】
【請求項1】
矩形断面の素材を圧下して鋼矢板を製造する製造方法であって、
粗圧延工程、中間圧延工程、仕上圧延工程を有し、
前記粗圧延工程を行う圧延機には、前記素材の厚さ中心線長さを伸ばし、当該素材を矩形断面形状から略鋼矢板断面形状に圧延造形する曲げ圧延を行う孔型が設けられ、
前記曲げ圧延においては、前記素材の噛み込み端部の所定区間に対して、当該所定区間に対する圧下量が当該所定区間以外の部位に対する圧下量よりも小さいような圧延である軽圧下圧延が行われ、
前記曲げ圧延は複数パスで行われ、
当該複数パスによる圧延は、前記素材の爪対応部が圧下されない前段階と、前記素材の爪対応部が圧下される後段階と、に分けられ、
前記軽圧下圧延は、前記複数パスのうちの前段階でのパスに適用されることを特徴とする、鋼矢板の製造方法。
【請求項2】
前記素材の噛み込み端部の所定区間は、当該素材長手方向の噛み込み端から0.75m以上の区間に設定されることを特徴とする、請求項1に記載の鋼矢板の製造方法。
【請求項3】
前記鋼矢板はU形鋼矢板であることを特徴とする、請求項1又は2に記載の鋼矢板の製造方法。
【請求項4】
前記鋼矢板はハット形鋼矢板であることを特徴とする、請求項1又は2に記載の鋼矢板の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えばハット形鋼矢板、U形鋼矢板等の鋼矢板の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、ハット形形状やU形形状といった両端に継手を有する鋼矢板の製造は孔型圧延法によって行われている。この孔型圧延法の一般的な工程としては、先ず加熱炉において所定の温度に加熱した素材を、孔型を備えた粗圧延機、中間圧延機及び仕上圧延機によって順に圧延することが知られている。
【0003】
上述した一般的な孔型圧延法によれば、現状、国内で製造されている鋼矢板製品については、矩形断面の素材から製造することが可能である。具体的には、例えば壁幅1m当たりの断面二次モーメントが1.0(104cm4/m)であり10H製品と呼ばれるハット形鋼矢板製品や、壁幅1m当たりの断面二次モーメントが2.5(104cm4/m)であり25H製品と呼ばれるハット形鋼矢板製品は、従来より知られる一般的な孔型圧延法にて製造される。
【0004】
矩形断面の素材から鋼矢板を製造する場合において、その圧延工程では被圧延材に種々の形状不良が生じることが知られており、その解決策が創案されている。例えば特許文献1には、圧延造形時に被圧延材の端部フランジに噛み出し形状が発生するのを抑制するために、噛み込み端部に強圧下を加えるといった技術が開示されている。また、特許文献2には、形鋼の製造において粗圧延前に被圧延材に先端部を形成することでクロップの発生を抑制する技術が開示されている。また、特許文献3には、クロップの低減を図るために、被圧延材の端部に予成形部形状を与える技術が開示されている。
【0005】
また、孔型圧延法を用いて矩形断面の素材から鋼矢板を製造する場合、矩形断面素材の段階ではウェブ部とフランジ部の厚みが等しく、ウェブ部とフランジ部との境界を形成させる曲げ圧延段階において、フランジ部をせん断変形させることで、ウェブ部とフランジ部との厚み比を製品の厚み比に近づけるといった手法が採られる。このような手法では、曲げ圧延時に、被圧延材の噛み込み端部においてせん断変形が起こりにくく、フランジ部の厚みが厚くなってしまうことによる形状不良の発生が懸念される。そこで、特許文献4には、曲げ圧延段階において素材の噛み込み端部の所定区間については他の区間に比べ圧下量が少ない状態でいわゆる軽圧下圧延を行うことで、形状不良の発生を抑制する技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開昭55-50902号公報
【特許文献2】特開平01-178301号公報
【特許文献3】特開2006-192490号公報
【特許文献4】特許第6590087号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上述したように、特許文献1~3のような技術では、素材の曲げ圧延時に、被圧延材の噛み込み端部においてせん断変形が起こりにくく、フランジ部の厚みが厚くなってしまうことによる形状不良の発生について想起されていない。これに対し、特許文献4では、素材の噛み込み端部の所定区間については他の区間に比べ圧下量が少ない状態でいわゆる軽圧下圧延を行うことを創案している。
【0008】
しかしながら、本発明者らが特許文献4に開示された圧延技術を適用して鋼矢板の製造を行ったところ、被圧延材(素材)の爪に対応する部位(以降、爪対応部とも記載)に形状不良が発生する恐れがあることが知見された。このような爪対応部の形状不良により、鋼矢板の爪形状が不良となる場合があることに加え、後続の圧延ロールに欠損が発生する恐れがあることが分かっている。
【0009】
このような事情に鑑み、本発明の目的は、鋼矢板の製造において、粗圧延工程の曲げ圧延段階で生じる恐れのある爪対応部の形状不良を抑制させ、生産性の向上を図ることが可能な鋼矢板の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
前記の目的を達成するため、本発明によれば、矩形断面の素材を圧下して鋼矢板を製造する製造方法であって、粗圧延工程、中間圧延工程、仕上圧延工程を有し、前記粗圧延工程を行う圧延機には、前記素材の厚さ中心線長さを伸ばし、当該素材を矩形断面形状から略鋼矢板断面形状に圧延造形する曲げ圧延を行う孔型が設けられ、前記曲げ圧延においては、前記素材の噛み込み端部の所定区間に対して、当該所定区間に対する圧下量が当該所定区間以外の部位に対する圧下量よりも小さいような圧延である軽圧下圧延が行われ、前記曲げ圧延は複数パスで行われ、当該複数パスによる圧延は、前記素材の爪対応部が圧下されない前段階と、前記素材の爪対応部が圧下される後段階と、に分けられ、前記軽圧下圧延は、前記複数パスのうちの前段階でのパスに適用されることを特徴とする、鋼矢板の製造方法が提供される。
【0011】
前記素材の噛み込み端部の所定区間は、当該素材長手方向の噛み込み端から0.75m以上の区間に設定されても良い。
【0012】
前記鋼矢板はU形鋼矢板であっても良い。
【0013】
前記鋼矢板はハット形鋼矢板であっても良い。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、鋼矢板の製造において、粗圧延工程の曲げ圧延段階で生じる恐れのある爪対応部の形状不良を抑制させ、生産性の向上を図ることが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】本発明の実施の形態にかかる圧延ラインの概略説明図である。
【
図2】第1孔型の孔型形状についての概略的な説明図である。
【
図3】第2孔型の孔型形状についての概略的な説明図である。
【
図4】第3孔型の孔型形状についての概略的な説明図である。
【
図5】第4孔型の孔型形状についての概略的な説明図である。
【
図6】第5孔型の孔型形状についての概略的な説明図である。
【
図7】第6孔型の孔型形状についての概略的な説明図である。
【
図8】第7孔型の孔型形状についての概略的な説明図である。
【
図9】第8孔型の孔型形状についての概略的な説明図である。
【
図10】第2孔型における曲げ圧延の概略説明図である。
【
図11】第2孔型において曲げ圧延を複数パスで行う場合の、各パスでの上下伸び差の推移を示すグラフである。
【
図12】素材(≒被圧延材)における上爪伸び量と下爪伸び量を示す概略説明図である。
【
図13】曲げ圧延が行われる第2孔型の孔型ロール形状を示す概略説明図である。
【
図14】曲げ圧延における上下孔型ロールの周速差とせん断応力の作用についての概略説明図である。
【
図15】噛み込み端部の軽圧下圧延に関する概略説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明の実施の形態について図面を参照して説明する。なお、本明細書および図面において、実質的に同一の機能構成を有する構成要素については、同一の符号を付することにより重複説明を省略する。なお、以下では、鋼矢板製品の一例としてハット形鋼矢板を製造する場合を例示して説明を行う。
【0017】
また、本実施の形態では、説明の都合上、矩形断面を有する材料を素材Bと呼称し、素材Bを圧下して略ハット形断面形状とした被圧延材を被圧延材Aと呼称する。即ち、略ハット形断面形状にて圧延ラインL上を通材される鋼材を総称して被圧延材Aと呼称し、また、被圧延材Aの各部位については以下に記述する別途異なる呼称にて記載するものとする。ここで、被圧延材Aはハット形鋼矢板製品のウェブに対応するウェブ対応部3と、ウェブ対応部3の両端部それぞれに接続されるフランジ対応部4、5と、フランジ対応部4、5のそれぞれの先端に形成される腕対応部6、7と、腕対応部6、7の先端に形成される継手対応部8、9から構成されている。また、継手対応部8、9の先端には爪対応部8a、9aが形成されている。
【0018】
<圧延ラインの構成>
図1は、本発明の実施の形態にかかる圧延設備であるハット形鋼矢板を製造する圧延ラインLと、圧延ラインLに備えられる圧延機についての説明図である。
図1に示すように、圧延ラインLには、粗圧延機(BD)11、第1中間圧延機(R1)12、第2中間圧延機(R2)13、仕上圧延機(F)14が順に配置されている。圧延ラインLは複数のラインL1~L3によって構成されており、ラインL1とラインL2が隣接し、ラインL2とラインL3が隣接している。それぞれのラインL1~L3は、互いの一部が重なるようにして直列的に連結しており、被圧延材AはL1からL2、あるいはL2からL3に、その幅方向に平行移動して圧延ラインLを進む構成となっている。
【0019】
また、
図1に示すように、ラインL1には粗圧延機11が配置され、ラインL2には第1中間圧延機12が配置され、ラインL3には第2中間圧延機13及び仕上圧延機14が配置されている。各ラインL1~L3にはそれぞれ別の被圧延材Aを載せて圧延を行うことが可能であり、圧延ラインL上において複数の被圧延材Aの圧延を同時に並行して実施することが可能な構成となっている。
【0020】
図1に示す圧延ラインLにおいては、図示しない加熱炉において加熱された矩形断面形状の素材(素材B、後の被圧延材A)が粗圧延機11~仕上圧延機14において順次圧延され、最終製品であるハット形鋼矢板となる。即ち、素材B(被圧延材A)に対して粗圧延工程、中間圧延工程、仕上圧延工程をこの順に行うことで最終製品が製造される。
【0021】
<圧延機に設けられる孔型の構成>
以下では、圧延ラインLに配置される粗圧延機11、第1中間圧延機12、第2中間圧延機13、仕上圧延機14(以下、粗圧延機11~仕上圧延機14といったように複数の圧延機を略して記載する場合がある)に設けられる孔型の構成について、圧延ラインLの上流から順を追って図面を参照して簡単に説明する。なお、上記粗圧延機11、第1中間圧延機12、第2中間圧延機13、仕上圧延機14は従来から用いられている一般的な設備であるため、本明細書における以下の記述では孔型構成の説明に注視し、各圧延機の詳細な設備構成等についての説明は省略する。
【0022】
また、
図2~
図9を参照して以下に説明する孔型は、粗圧延機11~仕上圧延機14の各圧延機に設けられるものであるが、以下に説明する各孔型をどの圧延機に設けるかは、通常は生産性(能率・歩留)や作業性を考慮した上で、設備状況や製品寸法等の条件によって適宜変更可能なものである。そこで、本実施の形態ではこれらの孔型を第1孔型K1~第8孔型K8と呼称し、それぞれの孔型は圧延ラインL上流側から順に設けられていれば良いものとして説明する。なお、
図3~
図9には、参考のためにそれぞれの孔型にて圧下・造形される素材B、被圧延材Aの形状を一点鎖線にて図示している。
【0023】
但し、以下に説明する本実施の形態に係る第1孔型K1~第8孔型K8の構成は、図示の形態に限られるものではなく、例えば、各種孔型の修正孔型の増減配列については設備状況や製品寸法等の条件に応じて適宜変更可能である。なお、以下に説明する第1孔型K1~第8孔型K8においては、被圧延材の圧延造形は複数パスのリバース圧延(可逆圧延)にて行われることが好ましく、そのパス数は任意に設定可能である。
【0024】
図2は、第1孔型K1の孔型形状についての概略的な説明図である。
図2に示すように、第1孔型K1は上孔型ロール20aと下孔型ロール20bから構成されるボックス孔型であり、該ボックス孔型の孔底は所定のテーパー形状となっている。この第1孔型K1により、矩形断面形状の素材Bの幅方向端部の短辺部にテーパー形状を付与し、かつ長手方向均一な幅寸法にするために、図示しない矩形断面形状の素材Bを立てた状態(鋼矢板の幅方向を鉛直方向とした状態)で幅方向に軽く圧下(所謂エッジング圧延)が施される。なお、矩形断面形状の素材Bの幅方向端部にテーパー形状を付与するのは、後述する第2孔型K2の孔型形状に好適に噛み込ませ、所望の圧下を安定して行い、両端部に所望の肉量を有する爪を形成するためである。この
図2に示す第1孔型K1はいわゆるエッジング圧延を行う孔型であり、この第1孔型K1は「エッジング孔型」と呼称される。
【0025】
また、
図3は、第2孔型K2の孔型形状についての概略的な説明図である。
図3に示すように、第2孔型K2は突起ロールとしての上孔型ロール30aと、溝ロールとしての下孔型ロール30bから構成され、この第2孔型K2によって、上記第1孔型K1においてエッジング圧延された矩形断面形状の素材B(≒被圧延材A)全体に対して圧下が行われる。ここで、上記第1孔型K1における圧下では素材Bを立てた状態とされるが、その後、素材Bは90°あるいは270°回転させられ、第2孔型K2では素材Bの幅方向を水平方向とした状態(鋼矢板の幅方向を水平方向とした状態)で圧下が行われ、断面が矩形断面形状と略ハット形断面形状との間の中間形状とする圧延造形が行われる。本明細書では、この第2孔型K2における圧延造形を「曲げ圧延」とも記載する。
【0026】
上孔型ロール30aは、素材Bのウェブ対応部3の上面に対向するウェブ対向部32と、フランジ対応部4、5の上面に対向するフランジ対向部34、35と、腕対応部6、7の上面に対向する腕対向部37、38から構成されている。一方、下孔型ロール30bは、素材Bのウェブ対応部3の下面に対向するウェブ対向部42と、フランジ対応部4、5の下面に対向するフランジ対向部44、45と、腕対応部6、7の下面に対向する腕対向部47、48から構成されている。更に、フランジ対向部44、45は傾斜の異なる複数の部位から構成されており、ウェブ対向部42に接続する緩傾斜のフランジ対向部分44a、45aと、腕対向部47、48に接続する急傾斜のフランジ対向部分44b、45bから構成されている。
【0027】
また、
図4は、第3孔型K3の孔型形状についての概略的な説明図である。
図4に示すように、第3孔型K3は突起ロールとしての上孔型ロール50aと、溝ロールとしての下孔型ロール50bから構成され、この第3孔型K3では、第2孔型K2において造形された素材B(≒被圧延材A)に対し更なる圧下が加えられ、断面形状が中間形状(矩形断面形状と略ハット形断面形状との中間形状)から略ハット形断面形状となるような圧下が素材B全体に対して行われる。
【0028】
なお、ここで「略ハット形断面形状」とは、素材Bにおいてウェブに対応する部分(ウェブ対応部3)、フランジに対応する部分(フランジ対応部4、5)、腕に対応する部分(腕対応部6、7)それぞれの境界が明確である程度に圧下された断面形状を言い、必ずしも継手形状等の細かな形状まで成形された断面形状を示すものではない。
【0029】
上孔型ロール50aは、素材Bのウェブ対応部3の上面に対向するウェブ対向部52と、フランジ対応部4、5の上面に対向するフランジ対向部54、55と、腕対応部6、7の上面に対向する腕対向部57、58から構成されている。また、下孔型ロール50bは、素材Bのウェブ対応部3の下面に対向するウェブ対向部62と、フランジ対応部4、5の下面に対向するフランジ対向部64、65と、腕対応部6、7の下面に対向する腕対向部67、68から構成されている。
【0030】
図5は、第4孔型K4の孔型形状についての概略的な説明図である。
図5に示すように、第4孔型K4は突起ロールとしての上孔型ロール70aと溝ロールとしての下孔型ロール70bから構成され、この第4孔型K4によって爪対応部が形成されると共に、被圧延材A全体に対して厚み圧下ならびに成形(厚み延伸圧延)が行われ、よりハット形鋼矢板製品に近い形状とされる。
【0031】
図6は、第5孔型K5の孔型形状についての概略的な説明図である。
図6に示すように、第5孔型K5は突起ロールとしての上孔型ロール80aと溝ロールとしての下孔型ロール80bから構成され、この第5孔型K5によって被圧延材A全体に対して厚み圧下ならびに成形が行われる。具体的には、爪対応部8a、9aの高さ(図中、上下方向の高さh1)を調整して2つの爪対応部8a、9aの高さを揃える爪高さ成形と、被圧延材A全体の厚み圧下が同時に行われる。なお、この第5孔型K5のような爪対応部8a、9aの高さを揃える成形は爪成形工程と呼称され、爪成形工程を行う孔型は爪成形孔型と呼称される。
【0032】
図7は、第6孔型K6の孔型形状についての概略的な説明図である。
図7に示すように、第6孔型K6は突起ロールとしての上孔型ロール90aと溝ロールとしての下孔型ロール90bから構成され、この第6孔型K6によって被圧延材A全体に対して厚み圧下ならびに成形(厚み延伸圧延)が行われる。
【0033】
図8は、第7孔型K7の孔型形状についての概略的な説明図である。
図8に示すように、第7孔型K7は突起ロールとしての上孔型ロール100aと溝ロールとしての下孔型ロール100bから構成され、この第7孔型K7によって被圧延材A全体に対して厚み圧下ならびに成形が行われ、特に、爪対応部8a、9aの高さ(図中、上下方向の高さh2)を調整して2つの爪対応部8a、9aの高さを揃える爪高さ成形が行われる。但し、第7孔型K7では、被圧延材A全体の厚み圧下を積極的に行う第6孔型K6に比べ厚み圧下量は小さい。
【0034】
図9は、第8孔型K8の孔型形状についての概略的な説明図である。
図9に示すように、第8孔型K8は突起ロールとしての上孔型ロール110aと溝ロールとしての下孔型ロール110bから構成され、この第8孔型K8では、被圧延材Aの継手対応部8、9の曲げ成形と、軽度の圧延による被圧延材A全体の整形が行われる。具体的には、爪対応部8a、9aを含む継手対応部8、9全体を製品の継手形状となるように曲げる継手成形が行われる。これにより、第8孔型K8では、ハット形鋼矢板製品の形状まで被圧延材Aが成形されることとなる。なお、この第8孔型K8のような継手対応部8、9全体を曲げ成形する孔型は仕上孔型と呼称される。
【0035】
以上、
図2~
図9を参照して第1孔型K1~第8孔型K8の孔型形状とその機能について説明した。上述したように、ハット形鋼矢板の孔型圧延法は粗圧延工程、中間圧延工程、仕上圧延工程からなり、例えば第1孔型K1~第7孔型K7までの孔型において粗圧延工程及び中間圧延工程が順次行われ、第8孔型K8において仕上圧延工程が行われる。ここで、第4孔型K4~第8孔型K8の孔型形状はいずれも略ハット形断面形状であるが、後段の孔型へいくほど製品形状に近い形状にて設けられている。即ち、最終工程である仕上圧延が行われる第8孔型K8の形状は、略ハット形鋼矢板製品形状となる。
【0036】
なお、本実施の形態では、圧延ラインLには、粗圧延機(BD)11、第1中間圧延機(R1)12、第2中間圧延機(R2)13、仕上圧延機(F)14が順に配置されているものとしている(
図1参照)が、上記第1孔型K1~第8孔型K8は各圧延機に任意の構成にて分散して設けられる。一例としては、粗圧延機11に第1孔型K1~第3孔型K3が設けられ、第1中間圧延機12に第4孔型K4及び第5孔型K5が設けられ、第2中間圧延機13に第6孔型K6及び第7孔型K7が設けられ、仕上圧延機14に第8孔型K8が設けられるといった構成が挙げられる。ただし、本発明における孔型構成はこのような構成に限定されるものではない。
【0037】
<曲げ圧延における問題点>
本発明者らは、矩形断面形状の素材Bから略ハット形断面形状を造形するための粗圧延工程の上記第2孔型K2での造形工程(曲げ圧延)において、例えば特許文献4に開示された圧延技術を適用し、素材の噛み込み端部の所定区間については他の区間に比べ圧下量が少ない状態でいわゆる軽圧下圧延を行うような手法を採った場合、以下に説明するような問題点があることを見出した。即ち、曲げ圧延に伴い、素材B(≒被圧延材A)の断面形状が変わり、特に、爪に対応する部位(後の爪対応部8a、9a)において上爪伸び量と下爪伸び量の差(上下伸び差)が生じることが知見された。以下、図面を参照して本知見について説明する。なお、以下では素材B(≒被圧延材A)の爪に対応する部位を含めて爪対応部8a、9aと記載して説明する場合がある。
【0038】
図10は第2孔型K2における曲げ圧延の概略説明図であり、(a)~(d)は複数パスで行われる曲げ圧延の過程を順に示したものである。
図10(a)に示すように、第1孔型K1でエッジング圧延された素材Bの上下面に対し、上孔型ロール30aと下孔型ロール30bが当接する。以降、
図10(b)、(c)、(d)に示す順に曲げ圧延が進行する。
【0039】
図10に示す曲げ圧延は、同一の第2孔型K2に対し素材B(≒被圧延材A)を複数パス通材させ、徐々にロール隙を狭めていくことで行われる。その際、素材B(≒被圧延材A)と上孔型ロール30a及び下孔型ロール30bとの接触箇所はパス毎に異なる場合がある。
【0040】
本発明者らは、爪に対応する部位(後の爪対応部8a、9a)において上爪伸び量と下爪伸び量の差(以下、上下伸び差とも記載)が生じることに着目し、複数パスによる曲げ圧延での上下伸び差について検証を行った。
図11は、第2孔型K2において曲げ圧延を複数パス(ここでは計14パス)で行う場合の、各パスでの上下伸び差の推移を示すグラフである。
図12は素材B(≒被圧延材A)における上爪伸び量と下爪伸び量を示す概略説明図である。
図11には、曲げ圧延において素材Bの噛み込み端部の所定区間について他の区間に比べ圧下量が少ない状態でいわゆる軽圧下圧延を行うような手法を採った場合(以下、片パス圧延とも記載)と、素材Bに対し曲げ圧延をパス毎に全区間一定の圧下量で行う場合(以下、通常圧延とも記載)を示している。また、
図12では説明のために素材Bの断面の片側一部を模式的に拡大して図示している。
【0041】
図11に示すように、通常圧延と片パス圧延を比較すると、第7パスまでは上下伸び差の推移に明確な差は見受けられない。一方で、第8パス以降においては、通常圧延では上爪側の伸び(以下、上伸びとも記載)と下爪側の伸び(以下、下伸びとも記載)を繰り返し、最終的には上下伸び差が略無くなっているのに対し、片パス圧延では上下伸び差の増加が顕著になっている。
【0042】
このように曲げ圧延において上下伸び差が大きくなると、後段の圧延工程(例えば中間圧延工程)において素材B(≒被圧延材A)の爪対応部8a、9aに上下裂け等の形状不良が発生し、更には、裂けた爪対応部8a、9aが2枚噛み状態となる恐れがある。これにより、例えば中間圧延工程を行う圧延ロールに欠損が生じるといった問題が懸念される。
【0043】
<上下伸び差発生のメカニズム>
本発明者らは、
図11で得られた検証結果に基づき、爪に対応する部位(
図10で爪対応部8a、9aとして図示する)の孔型ロールとの接触状況について検討した。検討の結果、本検証に係る片パス圧延においては、第8パスが爪対応部8a、9aの上部(
図10(c)中の破線部)が上孔型ロール30aと接触開始するパスであることが分かった(
図10(c)参照)。即ち、計14パスのうち、第2孔型K2における曲げ圧延のうち、第1パス~第7パスは
図10(a)~(b)に示す圧延状況に相当し、第8パス~第14パスは
図10(c)~(d)に示す圧延状況に相当する。
【0044】
曲げ圧延において上下伸び差が広がる原因は、第8パスから爪対応部8a、9aの圧下が開始されることにあると推定される。
図13は曲げ圧延が行われる第2孔型K2の孔型ロール形状を示す概略説明図であり、(a)は概略正面図、(b)は概略側面図である。
図13に示すように、上孔型ロール30aは突起ロールであり、下孔型ロール30bは溝ロールである。そのため、各ロールの径は場所によって異なり、爪対応部8a、9aに対向する位置においては下ロール径の方が上ロール径より大きい構成となる。即ち、爪対応部8a、9aに対向する位置においては、下孔型ロール30bの周速は上孔型ロール30aの周速より速く構成される。
【0045】
図14は曲げ圧延における上下孔型ロールの周速差とせん断応力の作用についての概略説明図であり、パス蹴出し端部の圧下状態を拡大して側方から見て模式的に図示したものである。
図14に示すように、素材B(≒被圧延材A)に対し曲げ圧延を行う場合に、爪対応部8a、9aの圧下が開始された以降のパス(ここでは第8パス以降)では、その上爪部8a-1(9a-1)には素材Bを先行させる方向にせん断応力が作用し、その下爪部8a-2(9a-2)には素材Bを後退させる方向にせん断応力が作用すると考えられる(
図14中の矢印参照)。
【0046】
<曲げ圧延における片パス圧延の適用>
上述した曲げ圧延における問題点及びそのメカニズムに鑑み、本発明者らは、複数パスで行われる曲げ圧延において片パス圧延を適用させる場合に、その適用範囲を好適な範囲内のパスに留めることで爪対応部8a、9aでの上下伸び差の発生を抑える技術を創案した。
【0047】
具体的には、複数パスでの曲げ圧延を行う場合に、爪対応部8a、9aの圧下が開始される前段階のパス(非圧下パス)と、爪対応部8a、9aの圧下が行われる後段階のパス(圧下パス)に分け、片パス圧延を非圧下パスのみに適用させる。これにより片パス圧延時に上下伸び差が大きくなることによる後工程での爪対応部8a、9aの形状不良が抑制され、良好な曲げ圧延を実施することが可能となる。
【0048】
図15は、素材B(≒被圧延材A)の噛み込み端部の軽圧下圧延(いわゆる片パス圧延)に関する概略説明図である。具体的には、第2孔型K2(上下孔型ロール30a、30b)での圧延造形でロール隙を開放し、噛み込み端部に対し軽圧下圧延を行う場合の説明図であり、側面から見た概略側面図である。なお、
図15には説明のため、任意パスでの圧延造形前の素材B(図中左側)と、当該パスでの圧延造形開始~圧延途中(図中中央)と、当該パスでの圧延造形終了後(図中右側)を図示している。また、
図15中には鋼材固定で見た場合のロールの軌跡を一点鎖線にて図示している。
【0049】
図15に示すように、第2孔型K2において、造形開始時には定常部圧延時のロール隙と比べてロール隙を開放しておき、噛み込み端部の所定区間Pだけ素材Bが孔型ロールを通過した後に、ロール隙を絞り、定常部の圧延造形を行うことが望ましい。また、ロール隙は設備性能の最大速度で絞り、必ずしも上下ロールを均等に絞らなくても良く、上ロール又は下ロールのみを絞っても良い。このように実施される曲げ圧延では、噛み込み端部の所定区間Pについて定常部と比べて圧下量が少ない状態(即ち、軽圧下)で曲げ圧延が実施される。
【0050】
所定区間Pとしては、被圧延材長手方向においていわゆる定常部と呼ばれる範囲を除く噛み込み端の範囲とすることが望ましいがその範囲は適宜任意に設定することができる。なおこの所定区間Pは、特許文献1と同様に、素材長手方向の噛み込み端から0.75m以上の区間に設定されても良い。
【0051】
なお、以上説明した軽圧下圧延を実施するためには、第2孔型K2が設けられる圧延機において、孔型ロールのロール隙を変更させるための機構を備えた構成とすることが望ましい。当該機構としては、例えば油圧式の圧下機構が挙げられる。
【0052】
<作用効果>
以上説明した、本実施の形態に係る鋼矢板の製造方法によれば、複数パスでの曲げ圧延において、噛み込み端の所定区間Pについて他の区間と比べて圧下量が少ないいわゆる片パス圧延を行うに際し、複数のパスを爪対応部8a、9aの圧下が開始される前段階のパス(非圧下パス)と、爪対応部8a、9aの圧下が行われる後段階のパス(圧下パス)に分け、片パス圧延を非圧下パスのみに適用させている。これにより、曲げ圧延において爪対応部8a、9aでの上下伸び差の発生を抑えることが可能となる。そして、片パス圧延時に上下伸び差が大きくなることによる後工程での爪対応部8a、9aの形状不良が抑制され、良好な曲げ圧延を実施することが可能となる。
【0053】
なお、上述した曲げ圧延において軽圧下圧延を適用する技術は、曲げ圧延が複数パスで行われ、素材Bをリバースさせる場合、それぞれの各パスにおける素材Bの噛み込み端に対し実施しても良い。これにより、素材Bの長手方向両端部において爪対応部8a、9aの形状不良が抑制され、良好な曲げ圧延を実施することが可能となる。
【0054】
爪対応部8a、9aの形状不良が抑制されることで、最終製品としての鋼矢板製品における爪形状不良の発生が抑えられ、また、後続の圧延ロールに欠損が発生するといった問題が解消されるため、生産性の向上が図られる。
【0055】
以上、本発明の実施の形態の一例を説明したが、本発明は図示の形態に限定されない。当業者であれば、特許請求の範囲に記載された思想の範疇内において、各種の変更例または修正例に想到し得ることは明らかであり、それらについても当然に本発明の技術的範囲に属するものと了解される。
【0056】
例えば、上記実施の形態では、ハット形鋼矢板製品を製造する場合を例に挙げて図示・説明しているが、本発明の適用範囲はこれに限られるものではない。具体的には、矩形断面素材を用いて製造される種々の鋼矢板製品の製造方法において、本発明を適用すれば、噛み込み端部の形状不良を抑制させることが可能である。例えばU形鋼矢板の製造方法においても本発明を適用することができる。但し、ハット形鋼矢板は大断面構造を特徴とする鋼矢板であり、その特徴上、略鋼矢板断面形状に曲げ圧延を行う第2孔型圧延後での形状において高さが高く、一般の鋼矢板と比べて線長の変形量が多い。そのため、特にハット形鋼矢板の製造において本発明技術は有用である。
【0057】
また、上記実施の形態では、
図3~
図10において一連の孔型列の突起ロールを上孔型ロールとし、溝ロールを下孔型ロールとして配置した構成、所謂U姿勢圧延でハット形鋼矢板の圧延を行う場合について図示・説明した。しかし、このような一連の孔型列の一部又は全部について、突起ロールを下孔型ロールとし、溝ロールを上孔型ロールとして配置した構成、所謂逆U姿勢圧延でハット形鋼矢板の圧延を行っても良い。
【産業上の利用可能性】
【0058】
本発明は、例えばハット形鋼矢板、U形鋼矢板等の鋼矢板の製造方法に適用できる。
【符号の説明】
【0059】
3…ウェブ対応部
4、5…フランジ対応部
6、7…腕対応部
8、9…継手対応部
8a、9a…爪対応部
11…粗圧延機
12…第1中間圧延機
13…第2中間圧延機
14…仕上圧延機
30a…(第2孔型の)上孔型ロール
30b…(第2孔型の)下孔型ロール
32、42…(第2孔型の)ウェブ対向部
34、35、44、45…(第2孔型の)フランジ対向部
37、38、47、48…(第2孔型の)腕対向部
52、62…(第3孔型の)ウェブ対向部
54、55、64、65…(第3孔型の)フランジ対向部
57、58、67、68…(第3孔型の)腕対向部
A…被圧延材
B…素材
O…(素材の)厚さ中心線
K1~K8…第1孔型~第8孔型
L(L1~L3)…圧延ライン