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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023146718
(43)【公開日】2023-10-12
(54)【発明の名称】繊維強化樹脂管体の製造方法
(51)【国際特許分類】
   B29C 70/48 20060101AFI20231004BHJP
   B29C 70/68 20060101ALI20231004BHJP
   B29C 70/32 20060101ALI20231004BHJP
   B29C 70/10 20060101ALI20231004BHJP
【FI】
B29C70/48
B29C70/68
B29C70/32
B29C70/10
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022054062
(22)【出願日】2022-03-29
(71)【出願人】
【識別番号】509186579
【氏名又は名称】日立Astemo株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001807
【氏名又は名称】弁理士法人磯野国際特許商標事務所
(72)【発明者】
【氏名】中山 貴博
(72)【発明者】
【氏名】申 大珍
(72)【発明者】
【氏名】関野 陽介
【テーマコード(参考)】
4F205
【Fターム(参考)】
4F205AA36
4F205AD03
4F205AD16
4F205AG07
4F205AH04
4F205AJ08
4F205AR07
4F205HA02
4F205HA12
4F205HA27
4F205HA33
4F205HA37
4F205HB01
4F205HB11
4F205HC17
4F205HF05
4F205HK04
4F205HK05
4F205HL02
4F205HL11
4F205HM02
4F205HT22
(57)【要約】
【課題】 繊維の配向角度を好適に設定することが可能な繊維強化樹脂管体の製造方法を提供する。
【解決手段】 繊維強化樹脂管体40の製造方法は、筒形状を呈するマンドレル1(マンドレル本体10)の外周面に繊維を巻回させて配置する配置工程S5B,S5Cと、前記繊維が配置された前記マンドレルを膨張させる膨張工程S7と、前記マンドレルの外周面に配置された繊維に熱硬化性樹脂を含浸させて硬化させる硬化工程S8と、を含み、前記膨張工程S7後の前記繊維の配向角度が所定の配向角度となるように、前記配置工程S5B,S5Cにおいて前記繊維を前記所定の配向角度からずらして配置する。
【選択図】 図7
【特許請求の範囲】
【請求項1】
筒形状を呈するマンドレルの外周面に繊維を巻回させて配置する配置工程と、
前記繊維が配置された前記マンドレルを膨張させる膨張工程と、
前記マンドレルの外周面に配置された繊維に熱硬化性樹脂を含浸させて硬化させる硬化工程と、
を含み、
前記膨張工程後の前記繊維の配向角度が所定の配向角度となるように、前記配置工程において前記繊維を前記所定の配向角度からずらして配置する、
繊維強化樹脂管体の製造方法。
【請求項2】
前記膨張工程において、前記繊維が巻回された前記マンドレルを成形装置の内周面に倣うように膨張させ、
前記配置工程における前記繊維の配向角度は、膨張前の前記マンドレルの外径、前記繊維の径方向寸法及び前記成形装置の内周面の内径に基づいて設定される、
請求項1に記載の繊維強化樹脂管体の製造方法。
【請求項3】
前記配置工程と前記膨張工程との間に、前記マンドレルの外周面に配置された前記繊維の両端部を固定する固定工程を含み、
前記繊維の一端部側の固定強度は、前記繊維の他端部側の固定強度よりも大きい、
請求項1又は請求項2に記載の繊維強化樹脂管体の製造方法。
【請求項4】
前記膨張工程後の前記繊維の前記他端部側の位置が所定の位置となるように、前記配置工程において前記繊維の他端部を前記所定の位置からずらして配置する、
請求項3に記載の繊維強化樹脂管体の製造方法。
【請求項5】
前記膨張工程において、前記繊維が巻回された前記マンドレルを成形装置の内周面に倣うように膨張させ、
前記配置工程における前記繊維の前記他端部の位置は、膨張前の前記マンドレルの外径、前記繊維の径方向寸法及び前記成形装置の内周面の内径に基づいて設定される、
請求項4に記載の繊維強化樹脂管体の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば車両における動力伝達軸等として用いられる繊維強化樹脂管体の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
車両に搭載される動力伝達軸(プロペラシャフト)は、車両の前後方向に延在する管体を備え、この管体により原動機で発生し変速機で減速された動力を終減速装置に伝達している。このような動力伝達軸に用いられる管体として、マンドレルを利用して製造された繊維強化プラスチック製のものがある(下記特許文献1参照)。
【0003】
ここで、マンドレルに材料を巻き付ける方法として、樹脂を含浸した連続繊維を巻き付けるフィラメントワインディング法と、プリプレグ(繊維に樹脂を含浸させてなるシート)を巻き付けるシートワインディング法が挙げられる。特許文献2には、マンドレルに炭素繊維を巻回する方法としての多給糸ワインディング法と、金型内で樹脂を含浸させる方法としての樹脂注入成形法とが開示されている。かかる手法によれば、管体は、樹脂等によって成形されたマンドレルの内部を加圧して膨張させることによって、マンドレル及び金型の間において金型の内周面に倣って成形される。この方法によれば、管体の端部を小径にして継手の大型化を回避しながら、管体の中央部にかけて拡径させて大径化を図ることによって、管体の曲げ共振点を高めることが可能となる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平3-265738号公報
【特許文献2】特許第6873369号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ここで、管体は、端部から中央部に向かうに従って拡径した形状に形成されるが、製造段階において、金型外でマンドレルに巻回された炭素繊維の配向角度は、金型内で内面から膨張させられることに伴って変化してしまう。そのため、管体において、所望の性能が得られなくなるおそれがある。
【0006】
本発明は、このような問題を解決するために創作されたものであり、繊維の配向角度を好適に設定することが可能な繊維強化樹脂管体の製造方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本開示によれば、筒形状を呈するマンドレルの外周面に繊維を巻回させて配置する配置工程と、前記繊維が配置された前記マンドレルを膨張させる膨張工程と、前記マンドレルの外周面に配置された繊維に熱硬化性樹脂を含浸させて硬化させる硬化工程と、を含み、前記膨張工程後の前記繊維の配向角度が所定の配向角度となるように、前記配置工程において前記繊維を前記所定の配向角度からずらして配置する繊維強化樹脂管体の製造方法が提供される。
【発明の効果】
【0008】
本発明によると、好適な配向角度で巻回された繊維を有する繊維強化樹脂管体を製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】本発明の第一の実施形態に係るマンドレルを模式的に示す断面図である。
図2】本発明の第一の実施形態に係るマンドレルを用いて製造された動力伝達軸を模式的に示す図である。
図3】本発明の第一の実施形態に係る動力伝達軸を模式的に示す断面図である。
図4】本発明の第一の実施形態に係る動力伝達軸の製造方法を説明するための模式図である。
図5】本発明の第一の実施形態に係る動力伝達軸の製造方法を説明するための模式図である。
図6】本発明の第一の実施形態に係る動力伝達軸の製造方法を説明するための模式図である。
図7】本発明の第一の実施形態に係る動力伝達軸の製造方法を説明するためのフローチャートである。
図8】本発明の第一の実施形態に係る動力伝達軸の製造方法を説明するための模式図である。
図9】(a)は膨張前の炭素繊維層の内周面を示す模式図、(b)は膨張後の炭素繊維層の内周面を示す模式図である。
図10】(a)は膨張前の炭素繊維層の配向角度を示す模式図、(b)は膨張後の炭素繊維層の配向角度を示す模式図である。
図11】膨張前後の炭素繊維層の径方向における位置変化を示す模式図である。
図12】本発明の第二の実施形態に係る動力伝達軸の製造方法を説明するためのフローチャートである。
図13】本発明の第二の実施形態に係る動力伝達軸の製造方法を説明するための模式図である。
図14】本発明の第三の実施形態に係る動力伝達軸の製造方法を説明するための模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明の実施形態について、炭素繊維強化プラスチックによって、繊維強化樹脂管体の一例である車両の動力伝達軸(プロペラシャフト)を製造する場合を例にとり、図面を参照して詳細に説明する。以下の説明において、同一の要素には同一の符号を付し、重複する説明は省略する。また、参照する図面は、分かりやすさのためにデフォルメされている。
【0011】
<第一の実施形態>
図1に示すように、第一の実施形態に係るマンドレル1は、繊維強化樹脂管体40(図2参照)を製造するために用いられるものであって、マンドレル本体10と、内嵌部材20と、を備える。
【0012】
≪マンドレル本体≫
マンドレル本体10は、筒形状を呈する樹脂製部材である。本実施形態において、マンドレル本体10は、繊維強化樹脂管体40の内部から除去されるが、繊維強化樹脂管体40の内部に残留して繊維強化樹脂管体40の芯材として機能することも可能である。マンドレル本体40には、繊維強化樹脂管体40における樹脂硬化の際の加熱に耐えられる材料を用いることができる。そのような材料の例としては、PP(ポリプロピレン樹脂)、PET(ポリエチレンテレフタレート樹脂)、SMP(形状記憶ポリマー)等が挙げられる。マンドレル本体10は、軸方向中間部の大径部11と、軸方向一端部に形成されるテーパ部12及び中径部13と、軸方向他端部に形成される段部14及び小径部15と、を一体に備える。本実施形態において、中径部13の軸方向一端部には、中径部13よりも小径な突出部16が形成されている。突出部16は、第一の金属部材30が外嵌される部位である。
【0013】
≪内嵌部材≫
内嵌部材20は、マンドレル本体10の軸方向他端部である小径部15に内嵌される筒状の金属製部材である。内嵌部材20は、小径部15の径方向内側への変形を防止するものであって、マンドレル本体10内に加圧用流体F(図8参照)(例えば、加圧された空気)を充填させるための流路20aが形成されている。本実施形態において、加圧用流体Fは、成形装置100内においてマンドレル本体10内を加圧して膨張させるためのものである。また、加圧用流体Fは、後記する成形装置100内においてマンドレル本体10の外周面に配置された熱硬化性樹脂(後記する樹脂44)を硬化させるために加熱するための加熱用流体でもある。
【0014】
<動力伝達軸>
図2及び図3に示すように、マンドレル1(図1参照)を用いて製造される動力伝達軸2は、車両において前後方向に延設され、動力源で発生した動力を軸線周りの回転として伝達する軸である。動力伝達軸2は、繊維強化樹脂管体40と、第一の金属部材50と、第二の金属部材60と、を備える。
【0015】
<繊維強化樹脂管体>
繊維強化樹脂管体40は、マンドレル本体10の外周面に沿うように管状に形成された樹脂含有繊維層である。繊維強化樹脂管体40は、マンドレル本体10の大径部11、テーパ部12及び中径部13、第一の金属部材50の軸方向一端部、並びに、第二の金属部材60の軸方向他端部位の外周面上に沿うように形成される。図4図6に示すように、繊維強化樹脂管体40は、炭素繊維層として、径方向内側(マンドレル本体10側)から順に、第一の炭素繊維層41と、第二の炭素繊維層42と、第三の炭素繊維層43と、を備える。なお、図4図6において、炭素繊維層41,42,43は、一部のみが図示されている。また、第一の金属部材50の軸方向一端部(マンドレル本体10とは反対側に位置する端部)の外周面、及び、第二の金属部材60の軸方向他端部(マンドレル本体10とは反対側に位置する端部)の外周面は、繊維強化樹脂管体40によって被覆されておらず、当該繊維強化樹脂管体40から突出している。
【0016】
≪第一の炭素繊維層≫
図4に示すように、第一の炭素繊維層41は、マンドレル本体10等の外周面に対して、当該マンドレル本体10を被覆するように設けられる複数の炭素繊維によって構成されている。より詳細には、複数の炭素繊維を帯状又は束状に纏めることによって、炭素繊維集合体が形成されているとともに、複数の炭素繊維集合体が位相を変えて設けられることによって、第一の炭素繊維層41が形成されている。第一の炭素繊維層41における炭素繊維は、マンドレル本体10の軸線方向に対して平行に延設されている。すなわち、第一の炭素繊維層41に関して、マンドレル本体10の軸線Xに対する炭素繊維の配向角度は、0°である。
【0017】
≪第二の炭素繊維層≫
図5に示すように、第二の炭素繊維層42は、第一の炭素繊維層41の径方向外側に設けられており、第一の炭素繊維層41を被覆するように設けられる複数の炭素繊維によって構成されている。より詳細には、複数の炭素繊維を帯状又は束状に纏めることによって、炭素繊維集合体が形成されているとともに、複数の炭素繊維集合体が位相を変えて設けられることによって、第二の炭素繊維層42が形成されている。第二の炭素繊維層42における炭素繊維は、マンドレル本体10の軸線方向に対して45°傾斜するように1周以上巻回され、マンドレル本体10の軸線方向に対して螺旋状に延設されている。すなわち、第二の炭素繊維層42に関して、マンドレル本体10の軸線Xに対する炭素繊維の配向角度は、45°である。
【0018】
≪第三の炭素繊維層≫
図6に示すように、第三の炭素繊維層43は、第二の炭素繊維層42の径方向外側に設けられており、第二の炭素繊維層42を被覆するように設けられる複数の炭素繊維によって構成されている。より詳細には、複数の炭素繊維を帯状又は束状に纏めることによって、炭素繊維集合体が形成されているとともに、複数の炭素繊維集合体が位相を変えて設けられることによって、第三の炭素繊維層43が形成されている。第三の炭素繊維層43における炭素繊維は、マンドレル本体10の軸線方向に対して-45°傾斜するように1周以上巻回され、マンドレル本体10の軸線方向に対して螺旋状に延設されている。すなわち、第三の炭素繊維層43に関して、マンドレル本体10の軸線Xに対する炭素繊維の配向角度は、-45°である。
【0019】
図2及び図3に示すように、繊維強化樹脂管体40は、軸方向一端部側に、軸方向中央側の大径部40aから軸方向一端部の小径部40cに向かうにつれて縮径するテーパ部40bが形成されている。大径部40aは、マンドレル本体10の大径部11の外周面に倣う形状を呈する本体部である。テーパ部40bは、マンドレル本体10のテーパ部12の外周面に倣う形状を呈する。小径部40cは、マンドレル本体10の中径部13及び第一の金属部材50の一部の外周面に倣う形状を呈する端部である。
【0020】
<第一の金属部材>
第一の金属部材50は、略円柱形状を呈する部材(シャフト)である。図6等に示すように、製造途中段階において、マンドレル本体10から離れた側に位置する第一の金属部材50の軸線方向一端部は、マンドレル本体10から突出しており、マンドレル本体10側に位置する第一の金属部材50の軸方向他端部は、マンドレル本体10に嵌合(外嵌)されている。
【0021】
図1及び図2に示すように、第一の金属部材50の軸方向他端部には、マンドレル本体10の突出部16が挿入可能な有底の孔部50aが形成されている。
【0022】
第一の金属部材50は、動力伝達軸2におけるプランジジョイント組立体の一部材である。プランジジョイント組立体は、かかる第一の金属部材50に対して、いずれも不図示のブーツ、プランジジョイントを組み付けることによって形成される。
【0023】
<第二の金属部材>
第二の金属部材60は、略円筒形状を呈する部材である。図6等に示すように、製造途中段階において、マンドレル本体10から離れた側に位置する第二の金属部材60の軸線方向他端部は、マンドレル本体10から突出しており、マンドレル本体10側に位置する第二の金属部材60の軸方向一端部は、マンドレル本体10に嵌合(外嵌)されている。
【0024】
第二の金属部材60は、動力伝達軸2におけるヨーク組立体の一部材である。ヨーク組立体は、かかる第二の金属部材60に対して、いずれも不図示のスパイダー、ニードルベアリング、ヨークを組み付けることによって形成される。
【0025】
<製造方法>
続いて、本発明の第一の実施形態に係るマンドレル1を用いた動力伝達軸2の製造方法について、図7のフローチャートを用いて説明する。動力伝達軸1の製造方法は、マンドレル本体形成工程(ステップS1)と、マンドレル本体形成工程の後に実行される内嵌部材設置工程(ステップS2)と、内嵌部材設置工程の後に実行される第一連結工程(ステップS3)と、第一連結工程の後に実行される第二連結工程(ステップS4)と、を含む。また、動力伝達軸2の製造方法は、第二連結工程の後に実行される繊維設置工程(ステップS5A~S5C)と、繊維設置工程の後に実行される金型内設置工程(ステップS6)と、を含む。また、動力伝達軸2の製造方法は、金型内設置工程の後に実行される膨張工程(ステップS7)と、膨張工程の後に実行される成型工程(ステップS8)と、を含む。また、動力伝達軸2の製造方法は、成型工程の後に実行される取出工程(ステップS9)と、取出工程の後に実行されるジョイント組付工程(ステップS10)と、を含む。
【0026】
ステップS1は、図1に示される樹脂製のマンドレル本体10を図示しない成形装置を用いて形成する工程である。
【0027】
ステップS1に続いて、ステップS2で、内嵌部材20をマンドレル本体10の小径部15に圧入して内嵌させる。圧入の際には、内嵌部材20の外周面と小径部15の外周面との間に潤滑剤を塗布してもよい。なお、ステップS2は、ステップS8の前までに実行されればよい。
【0028】
ステップS2に続いて、ステップS3で、マンドレル本体10の軸線方向一端部に第一の金属部材50を設ける。ステップS3では、まず、第一の金属部材50の軸方向他端部を、マンドレル本体10の突出部16に嵌合(外嵌)させる。続いて、第一の金属部材50の軸方向他端部の外周面上に接着層(図示せず)を設ける。ステップS3において、第一の金属部材50は、マンドレル本体10の突出部16に外嵌される。
【0029】
ステップS3に続いて、ステップS4で、マンドレル本体10の軸線方向他端部に第二の金属部材(カラー)60を設ける。ステップS4において、第二の金属部材60は、マンドレル本体10の段部14に外嵌される。ここで、ステップS3,S4の順番は、適宜変更可能であり、ステップS4が先でもよく、同時であってもよい。
【0030】
ステップS4に続いて、ステップS5Aで、図4に示すように、第一の炭素繊維層41がマンドレル本体10、第一の金属部材50及び第二の金属部材60の外周面上に形成される。ステップS5Aに続いて、ステップS5Bで、図5に示すように、第二の炭素繊維層42がマンドレル本体10、第一の金属部材50及び第二の金属部材60における第一の炭素繊維層41の外周面上に形成される。ステップS5Bに続いて、ステップS5Cで、図6に示すように、第三の炭素繊維層43がマンドレル本体10、第一の金属部材50及び第二の金属部材60における第二の炭素繊維層42の外周面上に形成される。ステップS5~S7において、第一の金属部材50及び第二の金属部材60のそれぞれの軸方向におけるマンドレル10とは反対側に位置する端部には、それぞれの繊維が配置されないように炭素繊維層41~43が形成される。
【0031】
ステップS5A~S5Cにおいて、炭素繊維層41~43は、樹脂が含浸された繊維ではなく、いわゆる生糸である。また、炭素繊維層41~43は、それぞれ多給糸フィラメントワインド法によってマンドレル本体10、第一の金属部材50及び第二の金属部材60の軸線方向他端部の外周面上に配置される。多給糸フィラメントワインド法によって給糸された炭素繊維層41~43は、互いに織り込まれることなく層として独立した、いわゆるノンクリンプ構造を呈する。
【0032】
ステップS5A~S5Cにおいて、炭素繊維層41~43は、図示しない装置によってマンドレル本体10等の外周面上に配置される。かかる装置は、炭素繊維層41~43の配向角度を適宜設定変更可能である。ステップS5B,S5Cにおける炭素繊維層42,43の配向角度は、膨張前のマンドレル本体10の外径、炭素繊維の径方向寸法及び成形装置100の内周面の内径に基づいて算出されて設定される。ステップS5Bにおける第二の炭素繊維層42の配向角度の算出は、少なくともステップS5Bよりも前に実行される。ステップS5Cにおける第三の炭素繊維層43の配向角度の算出は、少なくともステップS5Cよりも前に実行される。かかる配向角度の算出手法については、後記する。
【0033】
ステップS5Cに続いて、ステップS6で、図8に示すように、マンドレル1、第一の金属部材50、第二の金属部材60及び各炭素繊維層41~43の組立体を、成形装置(金型)100内に設置する。
【0034】
ステップS6に続いて、ステップS7で、マンドレル本体10を膨張させる。図8に示すように、第一実施形態での成形装置100においては、流路20aを介してマンドレル本体10の内側に連通するように、連通路104が設けられている。ステップS7では、不図示の供給装置に連結された連通路104を介して、マンドレル本体10の中空部に加圧用流体F(例えば、加圧された140℃以上の空気)を充填させる。高温の加圧用流体Fによって加熱されたマンドレル本体10は、樹脂44が硬化する温度よりも低い温度(変態温度である80℃)になると軟化し、加圧用流体Fによって内部から加圧され、成形装置100の内周面に倣うように膨張変形する。かかる加圧により、充填された樹脂44によってマンドレル本体10が縮径方向に変形することを防止することができる。また、かかる加圧により、樹脂44の充填量を抑制し、完成品である繊維強化樹脂管体40の重量増加を防止することができる。
【0035】
ステップS7に続いて、当該成形装置100内に樹脂44が供給される。これにより、マンドレル本体10の外周面に配置された炭素繊維層41~43に樹脂44が含浸される。さらに、成形装置100に熱を加えることによって樹脂44を硬化させ、繊維強化樹脂管体40が形成されるとともに、繊維強化樹脂管体40、第一の金属部材50及び第二の金属部材60が一体成型される(ステップS8、成型工程)。樹脂44は、例えば熱硬化性樹脂である。本実施形態において、成形装置100の金型は、複数に分割されている。ステップS9では、前記組立体に熱が加えられるとともに、成形装置100の金型を閉じる型閉じ操作を行い、続いて、閉じた金型に圧力を印加する型締め操作を行うことにより、金型内の圧力を上昇させることで、樹脂44の硬化が促進される。なお、本実施形態では金型が複数に分割されている構成で説明しているため、型閉じ操作及び型締め操作が行われているが、型締め操作は、必須ではない。また、金型が複数に分割されていない場合には、かかる型閉じ操作及び型締め操作は、必須ではない。成形装置100内において、溶融状態の樹脂44が導入されるゲート101の出口側には空間(樹脂だまり102)が形成されている。成形装置100内に導入された樹脂44は、炭素繊維層41~43の軸方向一端部の側方に位置する当該樹脂だまり102に貯留される。樹脂だまり102に貯留された樹脂44は、炭素繊維層41~43の配列方向においてゲート101とは反対側(炭素繊維層41~43の軸方向他端部の外周面側)に形成された吸引口103からの真空吸引によって、マンドレル本体10の軸線方向に移動し、炭素繊維層41~43に含浸する。樹脂44が炭素繊維層21~23に含浸した状態で、成形装置100に熱が加えられ、さらに、成形装置100内に圧力が加えられることによって、繊維強化樹脂管体40が形成される。
【0036】
ステップS8に続いて、ステップS9で、成形された組立体すなわち中間体が成形装置100から取り出される。ステップS9に続いて、ステップS10で、中間体の第一の金属部材50にプランジジョイント組立体を取り付けるとともに、第二の金属部材60にヨーク組立体を取り付ける。
【0037】
なお、ステップS9とステップS10との間に、マンドレル抜き取り工程を実行することが考えられる。このマンドレル抜き取り工程は、第二の金属部材60の端部開口側から繊維強化樹脂管体20の外側にマンドレル1を取り出す工程である。この際、マンドレル1は、使用される材料に応じた方法にしたがって、例えば変形され、溶融され、分解され、破壊され、又は溶出されることによって繊維強化樹脂管体40の内側から取り出される。これにより、動力伝達軸2の軽量化が達成されることとなる。
【0038】
また、マンドレル1を変形させて第二の金属部材60の端部開口側から取り出す場合には、例えばマンドレル本体10の中空部を減圧することで前記の端部開口よりもマンドレル1を小さくなるように収縮させて繊維強化樹脂管体40から抜き取る方法を採用することができる。
【0039】
マンドレル抜き取り工程を行う際には、不図示の真空ポンプに連結された連通路104を介して、マンドレル本体10の中空部を減圧することができる。
【0040】
このようなマンドレル抜き取り工程は、例えば熱可塑性樹脂からなるマンドレル本体10を加熱等により可塑化することでより好適に実施することができる。また、例えばダイヤカットを施したアルミニウム薄板からなるマンドレル本体10についても好適に実施することができる。
【0041】
ステップS7の膨張工程において、巻回された繊維層の膨張前後の数値を以下の変数で表す。
:膨張前の繊維層の内径(図9(a)及び図11参照)
:膨張後の繊維層の内径(図9(b)及び図11参照)
θ:膨張前の繊維の配向角度(図10(a)参照)
θ:膨張後の繊維の配向角度(図10(b)参照)
L:膨張前の繊維が巻き付けられた領域の軸方向寸法(図6参照)
n:繊維の巻回数(マンドレル1等に対して繊維が何周巻き付けられているか)
l:膨張による繊維層の1巻き当たりの軸方向寸法の減少量
α:膨張による繊維層の軸方向寸法の減少量のトータル(図10(b)参照)
【0042】
ここで、θは、下記式(1)(2)によって算出される。また、αは、下記式(3)(4)(5)によって算出される。
【0043】
【数1】
【0044】
ここで、膨張前のマンドレル本体1等の外径をD、膨張後のマンドレル本体1等の外径をD、成形装置100の内周面の径(内径)をDとする。また、第一の炭素繊維層41の径方向寸法をb41、第二の炭素繊維層42の径方向寸法をb42、第三の炭素繊維層43の径方向寸法をb43とする。D及びDには、下記式(6)の関係が成立する。
【0045】
【数2】
【0046】
第二の炭素繊維層42に関しては、θが45°となるθを算出し、ステップS5Bにおいて、かかる配向角度θで第一の炭素繊維層41の外周面に巻回される。これにより、ステップS7実行後の第二の炭素繊維層42の配向角度θは、45°となる。ここで、第二の炭素繊維層42のd,dは、下記式(7)(8)によって算出される。
【0047】
【数3】
【0048】
第三の炭素繊維層43に関しては、θが-45°となるθを算出し、ステップS5Cにおいて、かかる配向角度θで第二の炭素繊維層42の外周面に巻回される。これにより、ステップS7実行後の第三の炭素繊維層43の配向角度θは、-45°となる。すなわち、配置ステップにおいてマンドレル本体10等の外周面に配置された炭素繊維層42,43の配向角度が、膨張ステップによって変化して所定の配向角度となる。ここで、第三の炭素繊維層43のd,dは、下記式(9)(10)によって算出される。
【0049】
【数4】
【0050】
式(1)~(10)は、炭素繊維層41~43が配置されるマンドレル本体10等が軸方向にわたって同一外径であるとともに、成形装置100の内周面も軸方向にわたって同一内径であることを想定したものであり、マンドレル本体10が成形装置100の内周面に倣うように膨張する範囲に適用される。成形装置100の内周面が軸方向中間部で最大径となる樽形状を呈する場合等には、補正用の係数等が式(1)~(10)に適宜組み込まれる。
【0051】
本発明の第一の実施形態に係る繊維強化樹脂管体40(動力伝達軸2)の製造方法は、筒形状を呈するマンドレル1(マンドレル本体10)の外周面に繊維を巻回させて配置する配置工程と、前記繊維が配置された前記マンドレルを膨張させる膨張工程と、前記マンドレルの外周面に配置された繊維に熱硬化性樹脂を含浸させて硬化させる硬化工程と、を含み、前記膨張工程後の前記繊維の配向角度が所定の配向角度となるように、前記配置工程において前記繊維を前記所定の配向角度からずらして配置する。
かかる繊維強化樹脂管体40の製造方法によると、マンドレル1(マンドレル本体10)の膨張に伴う繊維の配向角度の変化を考慮して繊維(炭素繊維層42,43)を配置するので、マンドレル1膨張後の繊維の配向角度を好適に設定することができ、所望の性能(捩じり強度等)を有する繊維強化樹脂管体40(動力伝達軸2)を製造することができる。
【0052】
また、繊維強化樹脂管体40(動力伝達軸2)の製造方法は、前記膨張工程において、前記繊維が巻回された前記マンドレル1(マンドレル本体10)を成形装置100の内周面に倣うように膨張させ、前記配置工程における前記繊維(炭素繊維層42,43)の配向角度は、膨張前の前記マンドレル1(マンドレル本体10)の外径、前記繊維(炭素繊維層41~43)の径方向寸法及び前記成形装置100の内周面の内径に基づいて設定される・
かかる繊維強化樹脂管体40の製造方法によると、膨張前のマンドレル1の外径、繊維(炭素繊維層41~43)の径方向寸法及び成形装置100の内周面の内径を考慮して繊維(炭素繊維層42,43)を配置するので、マンドレル1膨張後の繊維の配向角度を好適に設定することができる。
【0053】
<第二の実施形態>
続いて、本発明の第二の実施形態に係る動力伝達軸2の製造方法について、第一の実施形態に係る動力伝達軸2の製造方法との相違点を中心に説明する。
【0054】
図12に示すように、本発明の第二の実施形態に係る動力伝達軸2の製造方法は、繊維設置工程と金型内設置工程との間に実行される繊維固定工程(ステップS5D)を含む。図13に示すように、繊維固定工程において、各炭素繊維層41~43の一端部は、固定部材71によってマンドレル1(本実施形態では、第一の金属部材50)に固定される。また、繊維固定工程において、各炭素繊維層41~43の他端部は、固定部材72によってマンドレル1(本実施形態では、第二の金属部材60)に固定される。
【0055】
第一の固定部材71及び第二の固定部材72は、樹脂製又は金属製の環状部材(リング、テープ等)であり、第三の炭素繊維層43に外嵌されることによって各炭素繊維層41~43をマンドレル1(第一の金属部材50及び第二の金属部材60)に固定する。
【0056】
第一の固定部材71による各炭素繊維層41~43の一端部の固定強度は、第二の固定部材72による各炭素繊維層41~43の他端部の固定強度よりも大きい。これにより、膨張工程において、各炭素繊維層41~43は、一端部側が固定されて、他端部側がマンドレル本体10の膨張に伴って一端部側に近付くように移動する。ここで、第一の固定部材71側にはテーパ部40bが形成されているため、第一の固定部材71側の炭素繊維層41~43は、軸方向に移動しにくい。本実施形態では、第一の固定部材71による固定強度が第二の固定部材72による固定強度よりも大きく設定されているため、炭素繊維層42,43の第二の固定部材72側が、マンドレル本体10の膨張に伴って第一の固定部材71側へ好適に移動する。
【0057】
第一の固定部材71及び第二の固定部材72は、成型工程における加熱によって溶融する構成であってもよい。
【0058】
本発明の第二の実施形態に係る繊維強化樹脂管体40(動力伝達軸2)の製造方法は、前記配置工程と前記膨張工程との間に、前記マンドレル1(マンドレル本体10)の外周面に配置された前記繊維(炭素繊維層42,43)の両端部を固定する固定工程を含み、前記繊維の一端部側の固定強度は、前記繊維の他端部側の固定強度よりも大きい。
かかる繊維強化樹脂管体40の製造方法によると、マンドレル1の膨張に伴う繊維の位置ずれの方向を決めることができるので、マンドレル1膨張後の繊維の位置を好適に設定することができ、所望の性能(捩じり強度等)を有する繊維強化樹脂管体を製造することができる。
【0059】
<第三の実施形態>
続いて、本発明の第三の実施形態に係る動力伝達軸2の製造方法について、第二の実施形態に係る動力伝達軸2の製造方法との相違点を中心に説明する。
【0060】
本実施形態において、配置ステップにおける炭素繊維42,43の他端部の位置は、膨張前のマンドレル本体10の外径、炭素繊維41,42,43の径方向寸法及び成形装置100の内周面の内径に基づいて算出されて設定される。より詳細には、図14に示すように、繊維設置工程において、各炭素繊維層42,43は、その他端部が膨張工程後の位置(所定の位置)よりも前記したαだけ軸方向外側となるように配置される。これにより、膨張工程において、各炭素繊維層42,43は、一端部側が固定されて、他端部側がマンドレル本体10の膨張に伴って一端部側に近付き、前記した所定の位置まで移動する。すなわち、配置ステップにおいてマンドレル本体10等の外周面の配置された炭素繊維層42,43の他端部の位置が、膨張ステップによって変化して所定の位置となる。なお、第一の炭素繊維層41の他端部の位置は、膨張前後で変わらないため、膨張後の炭素繊維層42,42の他端部の位置に合わせられている。
【0061】
本発明の第三の実施形態に係る繊維強化樹脂管体40(動力伝達軸2)の製造方法では、前記膨張工程後の前記繊維(炭素繊維層42,43)の前記他端部側の位置が所定の位置となるように、前記配置工程において前記繊維の他端部を前記所定の位置からずらして配置する。
かかる繊維強化樹脂管体40の製造方法によると、マンドレル1の膨張に伴う繊維の位置ずれを考慮して炭素繊維を配置するので、マンドレル1膨張後の繊維の位置を好適に設定することができ、所望の性能(衝突に対する強度、捻転に対する強度等)を有する繊維強化樹脂管体を製造することができる。
【0062】
また、繊維強化樹脂管体40(動力伝達軸2)の製造方法では、前記膨張工程において、前記繊維が巻回された前記マンドレル1(マンドレル本体10)を成形装置100の内周面に倣うように膨張させ、前記配置工程における前記繊維の前記他端部の位置は、膨張前の前記マンドレル1(マンドレル本体10)の外径、前記繊維(炭素繊維層41~43)の径方向寸法及び前記成形装置100の内周面の内径に基づいて設定される。
かかる繊維強化樹脂管体40の製造方法によると、膨張前のマンドレル1の外径、繊維の径方向寸法及び成形装置100の内周面の内径を考慮して繊維を配置するので、マンドレル1膨張後の繊維の他端部の位置を好適に設定することができる。
【0063】
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明は前記実施形態に限定されず、本発明の要旨を逸脱しない範囲で適宜変形可能である。例えば、マンドレル本体10の大径部(本体部)11は、当該大径部11の中央部から両端部に向かうにつれて径が小さくなる樽形状に膨張してもよく、軸方向にわたって同一径の円筒形状に膨張してもよい。かかる膨張形状は、成型装置(金型)100において大径部11が設置される部位の内周面の形状によって適宜設定可能である。また、マンドレル本体10内に流入されて充填される流体は、マンドレル本体10内を加圧するのに加えて、マンドレル本体10の外周面に配置された熱硬化性樹脂を硬化させるために加熱するためのものであってもよい。なお、かかる流体が加熱を行わない加圧用流体である場合には、熱硬化性樹脂は、別の熱源によって加熱される。
【0064】
また、ステップS9,S10の間にマンドレル1を成形された繊維強化樹脂管体40から抜き出す構成であってもよい。また、マンドレル本体10は、ステップS8における樹脂44や成形装置(金型)100の熱によって溶融して除去される構成であってもよい。その他の熱、電気、振動等のエネルギーによってマンドレル本体10を溶融して除去することも可能である。また、各炭素繊維層41~43は、互いに織り込まれた、いわゆるクリンプ構造を呈してもよい。また、繊維体は、炭素繊維に限定されず、樹脂層を強化可能な繊維部材(例えば、ガラス繊維、セルロース繊維等)であればよい。
【符号の説明】
【0065】
1 マンドレル
2 動力伝達軸
10 マンドレル本体
20 内嵌部材
40 繊維強化樹脂管体
50 第一の金属部材
60 第二の金属部材
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14