(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023146719
(43)【公開日】2023-10-12
(54)【発明の名称】隙間充填材及び隙間補修方法
(51)【国際特許分類】
E04G 23/02 20060101AFI20231004BHJP
E02D 3/12 20060101ALI20231004BHJP
C04B 26/14 20060101ALI20231004BHJP
【FI】
E04G23/02 B
E02D3/12 101
C04B26/14
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022054063
(22)【出願日】2022-03-29
(71)【出願人】
【識別番号】000006655
【氏名又は名称】日本製鉄株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100101557
【弁理士】
【氏名又は名称】萩原 康司
(74)【代理人】
【識別番号】100096389
【弁理士】
【氏名又は名称】金本 哲男
(74)【代理人】
【識別番号】100167634
【弁理士】
【氏名又は名称】扇田 尚紀
(74)【代理人】
【識別番号】100187849
【弁理士】
【氏名又は名称】齊藤 隆史
(74)【代理人】
【識別番号】100212059
【弁理士】
【氏名又は名称】三根 卓也
(72)【発明者】
【氏名】田村 啓
(72)【発明者】
【氏名】榎田 忠宏
(72)【発明者】
【氏名】菅野 浩樹
【テーマコード(参考)】
2D040
2E176
【Fターム(参考)】
2D040AA06
2D040CA10
2E176AA01
2E176BB14
(57)【要約】
【課題】コンクリート構造物の内部に存在し、その内部に流動性を有する異物が存在している可能性のある隙間であっても、かかる異物の影響を排除しながら隙間を補修すること。
【解決手段】本発明に係る隙間充填材は、コンクリート構造物に存在しており、中空部分に流動性を有する異物の存在が想定されうる隙間を充填するためのものであり、前記隙間充填材は、常温硬化型の樹脂を含有し、前記樹脂の25℃における粘度は、想定される前記異物の25℃における粘度の80%以上である。
【選択図】
図4
【特許請求の範囲】
【請求項1】
コンクリート構造物に存在しており、中空部分に流動性を有する異物の存在が想定されうる隙間を充填するための隙間充填材であって、
前記隙間充填材は、常温硬化型の樹脂を含有し、
前記樹脂の25℃における粘度は、想定される前記異物の25℃における粘度の80%以上である、隙間充填材。
【請求項2】
前記隙間充填材の72時間養生後の圧縮強度は、18MPa以上である、請求項1に記載の隙間充填材。
【請求項3】
前記樹脂は、エポキシ樹脂である、請求項1又は2に記載の隙間充填材。
【請求項4】
コンクリート構造物に存在しており、中空部分に流動性を有する異物の存在が想定されうる隙間に対し隙間充填材を充填することで、前記隙間を補修する隙間補修方法であって、
空洞調査又は非破壊検査法の少なくとも何れかにより前記コンクリート構造物を検査して、前記隙間の位置を特定した後に、特定した前記隙間まで到達する逆止弁付きの開口を前記コンクリート構造物に形成して、前記隙間充填材の注入口とする注入口形成工程と、
前記隙間充填材として、常温硬化型の樹脂を含有し、当該樹脂の25℃における粘度が想定される前記異物の25℃における粘度の80%以上である隙間充填材を用い、当該隙間充填材を前記注入口から圧入する圧入工程と、
前記隙間充填材の圧入後72時間以上養生することで、前記隙間充填材を硬化させる養生工程と、
を有する、隙間補修方法。
【請求項5】
前記圧入工程では、前記隙間充填材を、10MPa以上50MPa未満の圧力で圧入する、請求項4に記載の隙間補修方法。
【請求項6】
前記圧入工程では、前記隙間充填材が圧入可能となるまで、前記逆止弁付きの開口を追加形成する、請求項4又は5に記載の隙間補修方法。
【請求項7】
前記隙間まで到達する前記注入口とは別の開口を前記コンクリート構造物に形成して、前記異物の流出口とする流出口形成工程を更に有する、請求項4~6の何れか1項に記載の隙間補修方法。
【請求項8】
中空部分の最大幅が10mm以下である隙間に対して実施する、請求項4~7の何れか1項に記載の隙間補修方法。
【請求項9】
前記隙間充填材の72時間養生後の圧縮強度は、18MPa以上である、請求項4~8の何れか1項に記載の隙間補修方法。
【請求項10】
前記樹脂は、エポキシ樹脂である、請求項4~9の何れか1項に記載の隙間補修方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、隙間充填材及び隙間補修方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、各種の製造設備や建造物の躯体として、コンクリート構造物が用いられることが多い。かかるコンクリート構造物は、その設置環境や経年劣化等に起因して、表面にひび割れ等の隙間が生じることがある。このような隙間の存在を放置しておくと、コンクリート構造物の強度低下を招くことから、かかる隙間を修復するための技術が各種提案されている。
【0003】
例えば以下の特許文献1には、コンクリートのひび割れ補修や断面修復に用いるためのジオポリマーが提案されている。また、以下の特許文献2には、コンクリート構造物の目地部からの漏水を止めるために、目地部にウールを充填した後に止水剤を注入して硬化させる技術が提案されている。また、以下の特許文献3には、土とコンクリート法面との境界部の隙間の修復に用いられる補修材と、かかる補修材を用いた補修方法が提案されている。これら特許文献1~特許文献3で開示されている技術は、コンクリート構造物に存在する、外部から視認可能な隙間を補修するための技術であると言える。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2019-163196号公報
【特許文献2】特開2019-178485号公報
【特許文献3】特開2020-133215号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ここで、コンクリート構造物には、造物の表面から確認可能な隙間だけでなく、製造時等にコンクリート構造物の内部に形成された、コンクリート構造物の管理者が認識していないような隙間が存在している可能性もある。そのため、コンクリート構造物の内部に存在している隙間であっても補修可能な技術が希求される。
【0006】
また、コンクリート構造物の設置環境によっては、上記のような内部に存在している隙間の中空部分に対し、コンクリート構造物に存在する微細な孔やひび割れを経て、様々な異物(例えば、流動性を有する異物)が入り込んでしまう可能性も想定される。上記特許文献1~特許文献3に開示されているような補修材は、各種の樹脂を含むものである。そのため、異物によっては、補修材としての樹脂の硬化を妨げることも考えられることから、隙間からの異物の除去が重要となる。しかしながら、コンクリート構造物の内部に存在している隙間の場合には、異物の除去が困難となることが予想される。
【0007】
以上のように、コンクリート構造物の内部に存在し、その内部に流動性を有する異物が存在している可能性のある隙間であっても、かかる異物の影響を排除しながら隙間の補修を可能とするための技術が希求されている状況にある。
【0008】
そこで、本発明は、上記問題に鑑みてなされたものであり、本発明の目的とするところは、コンクリート構造物の内部に存在し、その内部に流動性を有する異物が存在している可能性のある隙間であっても、かかる異物の影響を排除しながら隙間を補修することが可能な、隙間充填材及び隙間補修方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するために、本発明者らが鋭意検討した結果、隙間の内部に存在しうる異物を押し流しながら隙間充填材を充填することができれば、異物の影響を排除しながら隙間の補修が可能となる旨を着想した。かかる着想に基づき、コンクリート構造物の内部に存在する隙間であっても補修が可能な技術について更なる検討を行った結果、以下で説明するような本発明に想到した。
上記のような着想に基づき完成された本発明の要旨は、以下の通りである。
【0010】
(1)コンクリート構造物に存在しており、中空部分に流動性を有する異物の存在が想定されうる隙間を充填するための隙間充填材であって、前記隙間充填材は、常温硬化型の樹脂を含有し、前記樹脂の25℃における粘度は、想定される前記異物の25℃における粘度の80%以上である、隙間充填材。
(2)前記隙間充填材の72時間養生後の圧縮強度は、18MPa以上である、(1)に記載の隙間充填材。
(3)前記樹脂は、エポキシ樹脂である、(1)又は(2)に記載の隙間充填材。
(4)コンクリート構造物に存在しており、中空部分に流動性を有する異物の存在が想定されうる隙間に対し隙間充填材を充填することで、前記隙間を補修する隙間補修方法であって、空洞調査又は非破壊検査法の少なくとも何れかにより前記コンクリート構造物を検査して、前記隙間の位置を特定した後に、特定した前記隙間まで到達する逆止弁付きの開口を前記コンクリート構造物に形成して、前記隙間充填材の注入口とする注入口形成工程と、前記隙間充填材として、常温硬化型の樹脂を含有し、当該樹脂の25℃における粘度が想定される前記異物の25℃における粘度の80%以上である隙間充填材を用い、当該隙間充填材を前記注入口から圧入する圧入工程と、前記隙間充填材の圧入後72時間以上養生することで、前記隙間充填材を硬化させる養生工程と、を有する、隙間補修方法。
(5)前記圧入工程では、前記隙間充填材を、10MPa以上50MPa未満の圧力で圧入する、(4)に記載の隙間補修方法。
(6)前記圧入工程では、前記隙間充填材が圧入可能となるまで、前記逆止弁付きの開口を追加形成する、(4)又は(5)に記載の隙間補修方法。
(7)前記隙間まで到達する前記注入口とは別の開口を前記コンクリート構造物に形成して、前記異物の流出口とする流出口形成工程を更に有する、(4)~(6)の何れか1つに記載の隙間補修方法。
(8)中空部分の最大幅が10mm以下である隙間に対して実施する、(4)~(7)の何れか1つに記載の隙間補修方法。
(9)前記隙間充填材の72時間養生後の圧縮強度は、18MPa以上である、(4)~(8)の何れか1つに記載の隙間補修方法。
(10)前記樹脂は、エポキシ樹脂である、(4)~(9)の何れか1つに記載の隙間補修方法。
【発明の効果】
【0011】
以上説明したように本発明によれば、コンクリート構造物の内部に存在し、その内部に流動性を有する異物が存在している可能性のある隙間であっても、かかる異物の影響を排除しながら隙間を補修することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】コンクリート構造物の内部に存在しうる隙間について説明するための説明図である。
【
図2】隙間充填材の検証に使用した試験体について説明するための説明図である。
【
図3】本発明の実施形態に隙間補修方法について説明するための流れ図である。
【
図4】同実施形態に係る隙間補修方法を説明するための説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下に添付図面を参照しながら、本発明の好適な実施の形態について詳細に説明する。
【0014】
(コンクリート構造物の内部に存在しうる隙間について)
まず、
図1を参照しながら、コンクリート構造物の内部に存在しうる隙間について説明する。
図1は、コンクリート構造物の内部に存在しうる隙間について説明するための説明図である。
【0015】
図1に模式的に示したように、コンクリート構造物の内部には、製造時等に隙間が形成される可能性がある。また、コンクリート構造物が曝される環境によっては、事後的に隙間が発生する可能性も想定される。例えば、製鉄業における製造ラインには、様々な高重量の装置が数多く存在し、その躯体となるコンクリート構造物には、非常に高い負荷が連続的もしくは断続的に印加される。そのため、かかる負荷に起因して、コンクリート構造物の内部に、構造物の管理者が意図していない隙間が発生する可能性がある。
【0016】
例えば、製鉄業で用いられる連続鋳造ラインには、レードルターレットという設備が設けられる。かかるレードルターレットは、タンディッシュに溶鋼を連続投入するための設備であり、連続鋳造ラインの規模にもよるが、数十~数百トン単位の溶鋼を保持している取鍋が複数配置される。一方の取鍋に保持されている溶鋼の容量が少なくなってくると、レードルターレットが稼働して、タンディッシュの上部に新たな取鍋を配置させる。本発明者らがかかる設備を検査したところ、その躯体であるコンクリート構造物の内部には、微細な隙間(
図1に示した隙間の最大幅W
MAXで、0.5~10.0mm程度)が発生することが判明した。
【0017】
上記のようなレードルターレットは、絶えず稼働する設備であることから、装置の円滑な動作のために、可動部にはグリスなどの潤滑油(流動性のある油分)が用いられている。装置の稼働に伴って発生した隙間がコンクリート構造物の表面まで到達すれば、かかる隙間の中空部分に、潤滑油が異物として入り込んでしまう。また、コンクリート構造物の表面には、微細な孔も存在しうることから、発生した隙間がコンクリート構造物の表面まで到達していなくとも、微細な孔を経由して、潤滑油が隙間の中空部分に異物として入り込んでしまう。
【0018】
また、製鉄業では、製造した鋼材を水等の冷却材によって冷却することが一般的に行われることから、水などの液体が存在する環境下に設けられたコンクリート構造物では、隙間の中空部分に、水などの液体が異物として入り込んでしまう。
【0019】
上記のような流動性のある物質以外にも、様々な環境に曝されるコンクリート構造物の隙間には、例えば、海水、雨水、各種水処理対象水、ガソリンや軽油をはじめとする可燃性液体のような、様々な流動性を有する異物が入り込みうる。
【0020】
上記のような状況にも鑑み、本発明者らは、中空部分に流動性のある異物が存在しうる、0.5~10.0mm程度の隙間であっても、異物を押し流しながら隙間充填材を充填させることが可能な技術について鋭意検討を行った。その結果、以下で詳述するような隙間充填材及び隙間補修方法を完成するに至った。
【0021】
(隙間充填材について)
以下では、
図2を参照しながら、本発明の実施形態に係る隙間充填材について、詳細に説明する。
図2は、隙間充填材の検証に使用した試験体について説明するための説明図である。
【0022】
<試験体を用いた検証>
上記のような隙間を充填するための隙間充填材(以下、「充填材」と略記することがある。)として、本発明者らは、まず、樹脂、コンクリート、モルタルの3種類を想定した。ここで、コンクリート及びモルタルは、十分に広い幅の隙間に対しては適用可能ではあるが、上記のような10.0mm程度の幅の隙間に対しては、充填が困難であることを確認した。そのため、0.5~10.0mm程度の隙間に対してであっても利用可能な隙間充填材としては、樹脂性のものが好適であることを確認した。
【0023】
続いて、コンクリート構造物中に存在する隙間を模擬して、
図2に示したような試験体を作製した。かかる試験体は、500mm×1000mmの大きさのアクリル板と鋼板とを、間隙が3mmとなるように離隔させて配置した後、2つの側面をアクリル板により封止し、天面のアクリル板の右側端部に天面のアクリル板を貫通する開口を設けて、注入口とした。その上で、アクリル板間の間隙に、異物を模擬したグリス(25℃での粘度:42000[mPa・s])を充填した。このような試験体に対して、着目する隙間充填材を注入口から注入することで、天面のアクリル板を通して、隙間充填材がどのように広がっていくかを目視することができる。
【0024】
本発明者らの検討の結果、注入口から注入した隙間充填材により異物(本例ではグリス)を押し流すためには、異物と隙間充填材との間での粘度の関係が重要であることを知見した。すなわち、異物に対して、隙間充填材の粘度があまりにも低すぎる場合には、隙間充填材によって異物を押し流すことができないことが判明した。そこで、本発明者らは、隙間充填材として用いた樹脂(本例では、常温硬化型のアクリル樹脂)の粘度を変えながら、隙間充填材が間隙を拡がっていく様子を確認した。
【0025】
その結果、隙間充填材として、25℃での粘度が500[mPa・s]、及び、6000[mPa・s]のアクリル樹脂を用いた場合には、グリス中に水みちができるものの、それ以上の広がりを見せずに、異物であるグリスを押し流すことができなかった。一方、隙間充填材として、25℃での粘度が40000[mPa・s]であるアクリル樹脂を用いた場合には、樹脂が同心円状に拡がっていき、異物であるグリスを十分に押し流すことができた。
【0026】
かかる検証を、間隙に充填する異物の種類及び粘度、並びに、用いる隙間充填材の種類及び粘度を様々に変えながら検証した結果、異物の25℃における粘度の80%以上の粘度を有する樹脂を、隙間充填材として用いることで、異物を押し流すことが可能となることに想到した。
【0027】
ここで、隙間充填材の粘度は、異物の粘度の80%以上であれば、高ければ高いほどよい。一方で、実際のコンクリート構造物における補修作業を想定すると、隙間充填材の粘度があまりにも高くなりすぎると、ポンプを用いて隙間充填材を圧入した場合であっても、隙間充填材を隙間に注入することが困難となっていくことが想定される。以上の観点から、用いる隙間充填材の粘度は、注入に利用可能なポンプ等の能力等も考慮して決定することが好ましいことが明らかとなった。
【0028】
次に、上記のような試験体、グリス、及び、隙間充填材を用いて、注入した隙間充填材が養生後に硬化するか否かを検証した。その結果、隙間充填材を充填した後、72時間以上養生させることで、コンクリートと同等の圧縮強度18MPa以上まで硬化させることが可能であることが明らかとなった。
【0029】
<隙間充填材>
以上のような検証結果を踏まえ、本発明者らは、以下のような本実施形態に係る隙間充填材に想到した。
【0030】
すなわち、本実施形態に係る隙間充填材は、コンクリート構造物に存在しており、中空部分に流動性を有する異物の存在が想定されうる隙間を充填するためのものである。かかる隙間充填材は、常温硬化型の樹脂を含有し、かかる樹脂の25℃における粘度は、想定される異物の25℃における粘度の80%以上である。
【0031】
ここで、隙間の中空部分に存在しうる異物の特定方法は、特に限定されるものではなく、着目するコンクリート構造物の設置環境等から容易に推定可能であり、コンクリート構造物の表面に付着している流動性のある物質である可能性が高い。また、コンクリート構造物に対してボーリング検査等の公知の検査方法を実施することで、存在しうる異物を事前に特定することが可能である。
【0032】
ボーリング検査等により実際に異物を採取できれば、採取した異物を公知の粘度測定器で測定することで、その粘度を特定することが可能である。また、実際の異物を採取できない場合であっても、その構成成分等が判明すれば、粘度の推定は可能であると考えられる。
【0033】
また、隙間充填材として用いる樹脂は、常温硬化型の樹脂とする。常温硬化型の樹脂を用いることで、かかる隙間充填材をコンクリート構造物の隙間に充填した際に、隙間充填材を養生させることで、十分な圧縮強度まで硬化させることが可能となる。このような常温硬化型の樹脂として、例えば、エポキシ樹脂等を挙げることができる。また、常温硬化型の樹脂以外にも、例えば、水とセメントの混合体であるグラウトを用いることも可能である。
【0034】
かかる樹脂の粘度(25℃における粘度)は、上記のように、想定される異物の粘度の80%以上とする。このような粘度となるように樹脂成分を制御することで、例えば0.5~10.0mm程度の狭い隙間に存在する高粘度の異物であっても、異物を押し流しながら樹脂を充填させることが可能となる。その結果、洗浄剤等を用いて異物を事前に洗浄する等のような洗浄工程を省略することが可能となるだけでなく、コンクリート構造物の内部に存在する隙間であっても、異物を押し流しながら樹脂を充填することが可能となる。
【0035】
かかる樹脂の粘度は、想定される異物の粘度の85%以上であることが好ましく、90%以上であることがより好ましい。一方、樹脂の粘度は、高ければ高いほどよく、想定する異物の粘度の100%であってもよいし、100%以上であってもよい。ただし、圧入可能な樹脂の粘度は、圧入に用いるポンプの能力にも依存することから、用いるポンプの能力の範囲内で、上記のような条件を満たす粘度を示す樹脂を用いることが好ましい。なお、かかる樹脂の粘度は、公知の各種の粘度測定器を用いて測定することが可能である。
【0036】
また、かかる隙間充填材の72時間養生後の圧縮強度は、18MPa以上であることが好ましい。養生後の圧縮強度が18MPa以上となることで、硬化後の隙間充填材は、コンクリートと同等の圧縮強度を示すこととなり、コンクリート構造物をより強固に補修することが可能となる。ここで、隙間充填材の養生後の圧縮強度は、硬化前の隙間充填材に含有される樹脂の種別や、硬化剤の配合比等を調整することで、所望の状態に制御することが可能である。隙間充填材の72時間養生後の圧縮強度は、より好ましくは21MPa以上である。一方、隙間充填材の72時間養生後の圧縮強度の上限値は、特に規定するものではない。ただし、養生後の圧縮強度があまりにも高くなりすぎる場合には、隙間充填材の固化物が脆くなり、繰り返し荷重を受けた際に塑性破壊してしまう懸念が生じる。コンクリート固化物では、一般的に、かかる塑性破壊が生じることを防止するために、養生後の固化物の圧縮強度が例えば100MPa以下となるようにしている。そのため、かかる隙間充填材の固化物においても、72時間養生後の圧縮強度は、100MPa以下であることが好ましく、60MPa以下であることがより好ましい。なお、かかる圧縮強度は、72時間養生後の隙間充填材の固化物を、JIS K7181(2011)に準拠した圧縮試験機を用いて測定することで、特定することが可能である。
【0037】
(隙間補修方法について)
続いて、上記のような隙間充填材を用いた、本実施形態に係る隙間補修方法について、
図3及び
図4を参照しながら詳細に説明する。
図3は、本実施形態に隙間補修方法について説明するための流れ図であり、
図4は、本実施形態に係る隙間補修方法を説明するための説明図である。
【0038】
本実施形態に係る隙間補修方法は、コンクリート構造物に存在しており、中空部分に流動性を有する異物の存在が想定されうる隙間に対し隙間充填材を充填することで、かかる隙間を補修する方法である。
【0039】
かかる隙間補修方法は、
図3に示したように、注入口形成工程(ステップS11)と、圧入工程(ステップS15)と、養生工程(ステップS17)と、を少なくとも有している。また、本実施形態に係る隙間補修方法では、必要に応じて、注入口形成工程(ステップS11)と圧入工程(ステップS15)との間に、流出口形成工程(ステップS13)を更に有してもよい。以下、これらの工程について、詳細に説明する。
【0040】
<注入口形成工程>
本実施形態に係る注入口形成工程(ステップS11)は、空洞調査又は非破壊検査法の少なくとも何れかにより、隙間の位置を特定した後に、特定した隙間まで到達する逆止弁付きの開口をコンクリート構造物に形成して、隙間充填材の注入口とする工程である。かかる注入口形成工程を設けることで、本実施形態に係る隙間充填材を、確実に隙間まで到達させることが可能となる。
【0041】
ここで、上記の空洞調査は、特に限定されるものではなく、コアボーリング等をはじめとする、コンクリート構造物中の空洞の有無を調査するための各種の方法を用いることが可能である。また、上記の非破壊検査法についても、特に限定されるものではなく、コンクリート構造物の内部に存在しうる隙間であっても検出可能な方法であれば、公知の各種の検査法を用いることが可能である。このような非破壊検査法として、例えば、超音波法、電磁波レーダ法、衝撃弾性波法等の各種の非破壊検査法を挙げることができる。空洞調査と非破壊検査法の双方を実施することで、コンクリート構造物の内部に存在する隙間の位置をより正確に検出することが可能となる。
【0042】
また、注入口として、逆止弁付きの開口を設けることが肝要である。例えば0.5~10.0mm程度の狭い隙間に対してであっても、本実施形態に係る隙間充填材のような、異物に近い粘度を有するような高粘度の隙間充填材を注入するためには、隙間充填材を圧入することが重要だからである。
【0043】
設ける開口の大きさについては、特に規定されるものではなく、後述する圧入工程における圧入条件に応じて適宜設定すればよい。
【0044】
<流出口形成工程>
本実施形態に係る流出口形成工程(ステップS13)は、必要に応じて設けられる工程である。かかる流出口形成工程は、隙間まで到達する注入口とは別の開口をコンクリート構造物に形成して、異物の流出口とする工程である。
【0045】
コンクリート構造物の内部に存在する隙間の全ての中空部分に対して、流動性を有する異物が存在しているとは限らない。また、上記の注入口形成工程において、非破壊検査により隙間の位置を特定したとしても、検査範囲外の領域で、隙間に外部へと通ずる開口が存在している可能性や、検査範囲内に存在した隙間が、検査範囲外で他の隙間に連結している可能性もある。そのため、流出口を形成しない場合であっても、コンクリート構造物として十分な強度を有するまで、コンクリート構造物を補修することが可能である。かかる理由から、本実施形態に係る流出口形成工程は、必要に応じて設けられる工程となっている。
【0046】
ここで、設ける開口の大きさについては、特に規定されるものではなく、適宜設定すればよい。
【0047】
また、かかる流出口形成工程の実施タイミングは、特に後述する圧入工程における隙間充填材の注入具合を見ながら、隙間充填材が注入されにくくなってきた状態で実施してもよいし、後述する圧入工程と並行して実施してもよい。
【0048】
なお、
図3においては、注入口形成工程(ステップS11)を実施した後に流出口形成工程(ステップS13)を実施する場合について説明したが、かかる流れに限定されるものではない。例えば、流出口形成工程を実施した後に注入口形成工程を実施してもよいし、注入口形成工程と流出口形成工程を並行して実施してもよい。
【0049】
<圧入工程>
本実施形態に係る圧入工程(ステップS15)は、先だって説明したような、常温硬化型の樹脂を含有し、かかる樹脂の25℃における粘度が想定される異物の25℃における粘度の80%以上である隙間充填材を用い、かかる隙間充填材を、形成した注入口から圧入する工程である。これにより、中空部分に流動性を有する異物が存在しうる隙間であっても、異物を押し出しながら、中空部分に対して隙間充填材を充填することが可能となる。
【0050】
ここで、かかる圧入工程では、10MPa以上50MPa未満の圧力で隙間充填材を圧入することが好ましい。かかる圧力のもとで、先だって言及した隙間充填材を圧入することで、例えば0.5~10.0mm程度の狭い隙間であっても、かかる隙間の中空部分に存在しうる異物を押し出しながら隙間充填材を充填することが可能となる。
【0051】
なお、かかる圧入工程において、上記のような隙間充填材が圧入可能となるまで、逆止弁付きの注入口を追加形成するようにしてもよい。これにより、当初意図していた注入口からは何らかの事情により隙間充填材が圧入できない場合であっても、着目している隙間に対して隙間充填材を圧入できるようになり、コンクリート構造物の補修が可能となる。
【0052】
<養生工程>
本実施形態に係る養生工程(ステップS17)は、隙間充填材の圧入後72時間以上養生することで、圧入した隙間充填材を硬化させる工程である。かかる養生工程を経ることで、隙間に充填された隙間充填材は、例えば18MPa以上の圧縮強度を示すようになり、コンクリート構造物の強度を向上させることが可能となる。
【0053】
以上、本実施形態に係る隙間充填材を用いた隙間補修方法について、詳細に説明した。
【実施例0054】
以下では、実施例及び比較例を示しながら、本発明に係る隙間充填材及び隙間補修方法について、具体的に説明する。なお、以下に示した例は、本発明に係る隙間充填材及び隙間補修方法の一例に過ぎず、本発明に係る隙間充填材及び隙間補修方法が以下の例に限定されるものではない。
【0055】
本試験例では、コンクリート構造物として、実際に稼働しているレードルターレットに注目し、レードルターレットの躯体に生じている微細な隙間(0.5~10.0mm程度)について、隙間充填材を用いた補修を試みた。かかるレードルターレットでは、躯体に生じた隙間によって、水平性が担保されていない部分が生じていた。また、レードルターレットでは機構の滑らかな稼働が求められることから、可動部分には多量のグリスが用いられている。そのため、躯体の内部に生じている隙間には、かかるグリスが存在している可能性がある。レードルターレットのメンテナンスに用いられるグリスの粘度を別途確認したところ、25℃における粘度は、42000mPa・sであった。
【0056】
レードルターレットの躯体に対して、コアボーリングによる空洞調査、及び、超音波法による検査を実施して、躯体内の隙間の位置を検出した。本試験例では、互いに十分に離隔している3箇所の隙間を選び、この隙間に対して、各種の隙間充填材の圧入を試みた。
【0057】
想定される異物が、25℃における粘度が42000mPa・sのグリスであったことから、隙間充填材として、25℃における粘度が500mPa・s(グリスの粘度の1.2%)の樹脂(アルファ工業株式会社製アルファテック370)、25℃における粘度が6000mPa・s(グリスの粘度の14%)の樹脂(日米レジン株式会社製アルプロンW221)、25℃における粘度が40000mPa・s(グリスの粘度の95%)の樹脂(株式会社ダイフレックス製エバーボンドEP-100)という3種類の樹脂を準備した。これらの樹脂は、いずれも市販の常温硬化型のエポキシ樹脂である。また、エバーボンドEP-100について、別途固化体を作成し、養生後72時間経過時の圧縮強度を計測したところ、圧縮強度は54.1MPaであった。
【0058】
選択した3箇所の隙間に対して、それぞれ、逆止弁(最大耐圧25MPa)付きの注入口と、流出口とを設けた。また、圧入に用いたポンプは、最大圧が50MPaである市販のポンプである。それぞれの注入口に上記ポンプを設置し、10MPa以上20MPa未満の圧力で、隙間充填材を圧入した。圧入した樹脂の質量は、概ね150kg程度であり、そのうち、約40kgが隙間を通じて漏れ出て、正味の充填量は110kg程度であった。
【0059】
25℃における粘度が500mPa・sの樹脂を注入した隙間に設けた流出口、及び、25℃における粘度が6000mPa・sの樹脂を注入した隙間に設けた流出口からは、樹脂の圧入後、グリスの流出は認められなかった。一方、25℃における粘度が40000mPa・sの樹脂を注入した隙間に設けた流出口からは、グリスの流出が確認された。かかる結果より、25℃における粘度が500mPa・sの樹脂、及び、25℃における粘度が6000mPa・sの樹脂の場合には、グリスを押し出すことなく、隙間充填材が圧入されたものと推測された。
【0060】
また、72時間養生後に、躯体の水平性を改めて確認したところ、25℃における粘度が500mPa・sの樹脂を注入した隙間、及び、25℃における粘度が6000mPa・sの樹脂を注入した隙間が存在している位置では、水平性の改善が認められなかった一方で、25℃における粘度が40000mPa・sの樹脂を注入した隙間が存在している位置では、水平性の改善が認められた。かかる結果より、本実施形態に係る隙間補修方法を用いることで、レードルターレットの躯体の補修が可能となることが明らかとなった。
【0061】
以上、添付図面を参照しながら本発明の好適な実施形態について詳細に説明したが、本発明はかかる例に限定されない。本発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者であれば、特許請求の範囲に記載された技術的思想の範疇内において、各種の変更例又は修正例に想到し得ることは明らかであり、これらについても、当然に本発明の技術的範囲に属するものと了解される。