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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023146756
(43)【公開日】2023-10-12
(54)【発明の名称】基板処理方法、及び基板処理装置
(51)【国際特許分類】
   H01L 21/205 20060101AFI20231004BHJP
【FI】
H01L21/205
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022054122
(22)【出願日】2022-03-29
(71)【出願人】
【識別番号】000219967
【氏名又は名称】東京エレクトロン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002756
【氏名又は名称】弁理士法人弥生特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】村上 博紀
【テーマコード(参考)】
5F045
【Fターム(参考)】
5F045AA06
5F045AB04
5F045AB05
5F045AC01
5F045AC03
5F045AC05
5F045AC07
5F045AC08
5F045AC13
5F045AC15
5F045AD08
5F045AD09
5F045AD10
5F045AE15
5F045AE17
5F045AE19
5F045AE21
5F045AE23
5F045BB19
5F045DA57
5F045DP03
5F045DP19
5F045DP28
5F045DQ17
5F045EB08
5F045EF03
5F045EF05
5F045EF09
5F045EH05
5F045EK06
5F045EK07
5F045EM10
5F045EN04
5F045HA11
5F045HA12
(57)【要約】
【課題】 プラズマ処理により、シリコン含有膜あるいはゲルマニウム膜である被処理膜の膜厚を増加させること。
【解決手段】
シリコン含有膜あるいはゲルマニウム膜である被処理膜が表面に形成されたウエハを処理容器に格納し、当該処理容器内に水素プラズマを形成して、当該被処理膜の膜厚を増加させるプラズマ処理工程を実施する。
【選択図】図2A
【特許請求の範囲】
【請求項1】
シリコン含有膜あるいはゲルマニウム膜である被処理膜が表面に形成された基板が格納される処理容器内に水素プラズマを形成し、当該被処理膜の膜厚を増加させるプラズマ処理工程を備える基板処理方法。
【請求項2】
前記プラズマ処理工程は、前記基板を200℃より高い温度に加熱して前記水素プラズマに曝す工程である請求項1記載の基板処理方法。
【請求項3】
前記水素プラズマは容量結合プラズマであり、
前記プラズマ処理工程は、平行平板電極に100Wよりも大きい電力を供給して当該容量結合プラズマを形成する工程を含む請求項1または2記載の基板処理方法。
【請求項4】
前記被処理膜は、アモルファス膜である請求項1ないし3のいずれか一つに記載の基板処理方法。
【請求項5】
前記被処理膜は、アモルファスシリコン膜である請求項4記載の基板処理方法。
【請求項6】
前記被処理膜は第1の凹部を形成し、
前記プラズマ処理工程は、前記第1の凹部をなす側壁同士が接するように前記被処理膜の膜厚を上昇させる工程である請求項1ないし5のいずれか一つに記載の基板処理方法。
【請求項7】
表面に第2の凹部を形成する下層膜が形成された前記基板に成膜ガスを供給して、当該下層膜を被覆すると共に前記第1の凹部をなすように前記被処理膜を形成する第1の成膜工程と、
続いて前記プラズマ処理工程を行った後、前記基板に前記成膜ガスを供給して前記被処理膜を当該第1の凹部に充填させる第2の成膜工程と、
を備える請求項6記載の基板処理方法。
【請求項8】
前記第1の成膜工程を行った後、前記プラズマ処理工程を行うまでに、
前記被処理膜の表面の酸化物を除去する酸化物除去工程と、
前記酸化物除去工程を行った後、前記第2の成膜工程を行うまで、前記基板の周囲を真空雰囲気に保つ工程と、
を含む請求項7記載の基板処理方法。
【請求項9】
前記第1の成膜工程の後、前記プラズマ処理工程を行うまでに、前記第1の凹部の開口を広げるためにエッチングガスを供給して前記被処理膜をエッチングするエッチング工程が行われる請求項7または8記載の基板処理方法。
【請求項10】
シリコン含有膜あるいはゲルマニウム膜である被処理膜が表面に形成された基板を格納する処理容器と、
当該被処理膜の膜厚が増加するように、前記処理容器内に水素プラズマを形成する水素プラズマ形成部と、
を備える基板処理装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、基板処理方法、及び基板処理装置に関する。
【背景技術】
【0002】
半導体デバイスの製造工程においては、基板である半導体ウエハ(以下、「ウエハ」ともいう)に、シリコン含有膜を成膜することが行われている。シリコン含有膜は、例えばウエハの表面に形成された凹部内を埋め込む膜として形成される場合がある。このようなシリコン含有膜は、膜原料を含むガスをウエハに供給して、例えばCVD(Chemical Vapor Deposition)法により成膜される。
【0003】
また、ウエハに形成した膜を水素プラズマに曝す場合がある。例えば特許文献1には、微結晶シリコン膜を堆積する工程と、水素プラズマ処理を施す工程とを交互に繰り返すことが記載されている。特許文献2には、シリコンゲルマニウム層の表面に水素プラズマ処理を施して、シリコンを偏析させることが記載されている。特許文献3には、薄膜トランジスタアレイを製造するにあたり、nアモルファスシリコン層に水素プラズマ処理を行うことが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2011―222649号公報
【特許文献2】特開2020―170835号公報
【特許文献3】特開平4―349637号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本開示は、プラズマ処理により、シリコン含有膜あるいはゲルマニウム膜である被処理膜の膜厚を増加させる技術を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本開示は、シリコン含有膜あるいはゲルマニウム膜である被処理膜が表面に形成された基板が格納される処理容器内に水素プラズマを形成し、当該被処理膜の膜厚を増加させるプラズマ処理工程を備える。
【発明の効果】
【0007】
本開示によれば、プラズマ処理により、シリコン含有膜あるいはゲルマニウム膜である被処理膜の膜厚を増加させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1A】本開示の一実施形態に係る処理がなされるウエハの縦断側面図である。
図1B】前記ウエハの縦断側面図である。
図1C】前記ウエハの縦断側面図である。
図1D】前記ウエハの縦断側面図である。
図2A】前記ウエハの縦断側面図である。
図2B】前記ウエハの縦断側面図である。
図2C】前記ウエハの縦断側面図である。
図3】前記処理を行う基板処理システムの一例を示す平面図である。
図4】前記基板処理システムに設けられる基板処理装置の一例を示す縦断側面図である。
図5】前記基板処理システムの他の例を示す平面図である。
図6】基板処理装置の他の例を示す縦断側面図である。
図7】前記他の例の基板処理装置を示す平面図である。
図8】評価試験の結果を示すグラフ図である。
図9】評価試験の結果を示すグラフ図である。
図10】評価試験で処理を行ったウエハの模式図である。
図11A】評価試験の結果を示すグラフ図である。
図11B】評価試験の結果を示すグラフ図である。
図12A】評価試験の結果を示すグラフ図である。
図12B】評価試験の結果を示すグラフ図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
(第1の実施形態)
本開示の基板処理方法は、基板であるウエハが格納される処理容器内に水素プラズマを形成し、ウエハ表面の被処理膜の膜厚を増加させるプラズマ処理を行うものである。被処理膜としては、シリコン含有膜あるいはゲルマニウム膜が対象となる。その基板処理方法について、ウエハ表面に形成された凹部に被処理膜であるアモルファスシリコン膜(a―Si膜)を埋め込む処理を第1の実施形態として以下に記載する。
【0010】
図1及び図2を参照して第1実施形態を説明するが、図1Dに関しては本実施形態の効果を説明するための比較例に関する処理を示すものとなっている。図1Aは、基板処理を行う前のウエハWの表層を示す縦断側面図である。処理前のウエハWは、絶縁膜よりなる下層膜11を備えており、この例における下層膜11はシリコン膜(Si膜)により構成されている。下層膜11には、例えばトレンチ及びビアホ―ルを構成するための第2の凹部12が形成されている。本実施形態では成膜処理を2回に分けて行うことで、この第2の凹部12にa―Si膜2を充填するものであり、工程S1~S4からなる。これらの各工程では真空雰囲気が形成された処理容器内にウエハWを格納し、当該処理容器内にガスを供給して処理を行う。
【0011】
上記のウエハWに対して、先ず第1の成膜工程S1を実施する。この工程S1は例えばシリコン(Si)を含む成膜ガスを上記のウエハWに供給するCVD処理である。この工程S1の実施により、下地膜11の上層にa―Si膜2が形成され(つまり、下地膜11を被覆するようにa―Si膜2が形成され)、第2の凹部12においてはその側壁及び底部にa―Si膜2が堆積していく(図1B)。なお、図示及び説明の便宜上、第2の凹部12を被覆することでa―Si膜2がなす凹部を第1の凹部21として、当該第2の凹部12と区別している。
成膜ガスとしては、例えばモノシラン(SiH)ガス、ジシラン(Si)ガス、ジクロロシラン(SiHCl)ガス、ヘキサクロロジシラン((SiCl)ガス、ヘキサメチルジシラザンガス、トリシリルアミンガス、ビスタ―シャルブチルアミノシランガスなどを用いることができる。
【0012】
続いて、第1の成膜工程S1の後に、図1Cに示すように、エッチング工程S2を実施する。この工程S2は、第1の凹部21の開口を広げるために、エッチングガスを供給してa―Si膜2をエッチングするものである。この工程S2を行う理由を述べると、第1の凹部21について開口幅に対して深さが大きい、つまりアスペクト比が大きいことによって、第1の凹部21の底部に成膜ガスが到達しにくい場合が有る。また、図示した例では第2の凹部12の側壁の幅について縦方向に均一な大きさであるように示しているが、下側の幅に比べて上側の幅が大きい場合が有る。これらの場合には、第1の凹部21全体にa―Si膜2が充填される前に、当該第1の凹部21の開口部が当該a―Si膜2によって閉塞されてしまうおそれがある。このエッチング工程S2は、その閉塞を防ぐための工程である。
【0013】
エッチングガスとしては、例えばHF、F、HCl、Cl、HBr、Br、HI、I等のハロゲン含有ガスを用いることができる。このエッチングガスについて、第1の凹部21の底部には進入しにくいので第1の凹部21の側壁は、上側ほど大きくエッチングされる。こうして、図1Cに模式的に示すように、第1の凹部21の上部に、上に向かうほど開口が広がるように、例えば縦断面形状が略V字状の領域210が形成される。第1の凹部21は、この領域210の下方に第1の凹部21をなす側壁211、212を備えている。
【0014】
従来では、エッチング工程S2を実施した後、図1Dに示すように、a―Si膜の成膜処理を再開し、第1の凹部21にa―Si膜2を埋め込むことが行われていた。第1の凹部21は開口が広げられているので、第1の凹部21では底部まで成膜ガスが行き渡り、第1の凹部21全体にa―Si膜2が形成される。
しかしながら、この手法ではa―Si膜2にシ―ムと呼ばれる領域が形成されるおそれがある。シ―ムとは膜の継ぎ目部分であって、膜同士の接触性ないしは密着性が比較的低い箇所である。上記した成膜処理の再開によって側壁211、212の厚さは増加し、当該側壁211、212同士が互いに接することにより第1の凹部21が閉塞されるが、当該側壁211、212の接触部分がシ―ム(図中14として表示している)をなす。
【0015】
従って、シ―ム14は下層膜11の第2の凹部12内の局所位置において、当該第2の凹部12の深さ方向に伸びるように形成される。後の工程にてエッチング処理を行うと、第2の凹部12内のうち、このシ―ム14が形成された部分についてはエッチングガスが当該第2の凹部12の深部へと進入しやすい。それ故に、第2の凹部12のうち、当該シ―ム14が形成された部分については他の部分に比べてエッチング耐性が低くなってしまうおそれが有るという課題があった。このようなことから、シ―ムの形成を抑えながら凹部内にa―Si膜を埋め込むことが求められている。
【0016】
このため、本実施形態では、図2Aに示すように、a―Si膜2の膜厚を増加させるプラズマ処理工程S3を実施している。この工程S3は、上記したエッチング工程S2を実施して図1Cの状態となったウエハWを、水素プラズマ(Hプラズマ)に曝すことにより実施される。なお、本実施形態の手法は、後述する評価試験を行ない、a―Si膜の膜厚を増加させることができるプラズマ処理条件を見出したことにより成されたものである。
【0017】
そのプラズマ処理条件が設定された上で形成されたHプラズマ(図中に矢印として表示している)に曝され、a―Si膜2の膜厚が増加する。即ち、a―Si膜2が膨張する。それにより、第1の凹部21においては、左側の側壁211と右側の側壁212の膜厚が夫々増加していき、これら側壁211、212が接触、さらには密着する。このような膜の膨張により、下層膜11がなす第2の凹部22の下部側はa―Si膜2によって充填される。後に評価試験で説明するようにこの膜が膨張する現象は、プラズマ処理によって水素原子がa―Si膜2中に進入することで生じると推定される。
【0018】
なお、プラズマ処理工程S3の開始時に側壁211、212間に形成されている間隙を213として示している。上記したようにプラズマ処理工程S3では、a―Si膜2の膜厚増加により当該間隙213を埋め込むため、この間隙213は、a―Si膜2の膜厚増加により閉塞することができる大きさに設定される。従って、第1の成膜工程S1では、このような大きさの第1の凹部21を形成するようにa―Si膜2が成膜される。
【0019】
このようにしてプラズマ処理工程S3を実施した後、図2Cに示すように、第2の成膜工程S4を行う。この工程S4では、ウエハWに成膜ガスを供給して、第1の凹部21にa―Si膜2を充填させる処理が実施される。つまり、工程S3の終了時に未充填となっている第2の凹部12の上側にa―Si膜2を充填させる。こうして、第1の凹部21における、プラズマ処理工程S3にてa―Si膜2の膜厚増加により埋め込まれた部位以外の領域に対して、a―Si膜2が形成される。第2の成膜工程S4においても、a―Si膜2の形成は、例えばSiを含む成膜ガスを用いたCVD処理により行われる。成膜ガスとしては、例えば第1の成膜工程S1と同様のガスを用いることができる。
【0020】
既述したように工程S3において側壁211、212同士が密着するようにa―Si膜2が充填されることで、工程S4の終了時において図1Dで述べた第2の凹部22の深さ方向に伸びるシ―ム14の形成が防止される。従って、第2の凹部12内の各部におけるa―Si膜2は比較的強固な膜質を備え、既述したシ―ム14に起因するエッチング耐性の低下が抑制される。なお、既述したように特許文献1~3には、Hプラズマにより、シリコン層やシリコンゲルマニウム層表面のダングリングボンドを終端することが記載されている。これにより、アモルファス成分の改質や、a―Si層表面のリ―ク電流の低減を図ることが目的とされており、これらの特許文献1~3には、Hプラズマの照射により膜厚が増加する等、本開示の技術を示唆することについては記載されていない。
【0021】
<基板処理システム>
後に評価試験として詳しく述べるが、ウエハWをプラズマに曝す際の温度、プラズマを形成するための高周波電源に供給する電力について夫々適正な設定とすることで、プラズマ処理工程S3で述べたa―Si膜2の膜厚を上昇させることが可能である。以下、その適正な処理条件を設定可能であり、且つ上記の第1の成膜工程S1、エッチング工程S2、プラズマ処理工程S3、第2の成膜工程S4を行うことができる装置の一例である基板処理システム3について、図3の平面図を参照しながら説明する。基板処理システム3は、ロ―ダ―モジュ―ル31、ロ―ドロックモジュ―ル32、真空搬送モジュ―ル33、本開示の基板処理装置を含む処理モジュ―ル41~46を備えている。
【0022】
ロ―ダ―モジュ―ル31は、内部が大気圧である搬送室310内に搬送機構311を備えており、ロ―ドポ―ト312に載置された搬送容器30内のウエハWは、搬送機構311によりロ―ドロックモジュ―ル32のステ―ジ321に搬送される。
ロ―ドロックモジュ―ル32は、その内部の圧力を大気圧と真空圧力との間で変更自在に構成され、ステ―ジ321に対しては、前記搬送機構311及び、後述の真空モジュ―ル33の真空搬送機構331によりウエハWが受け渡される。
【0023】
真空搬送モジュ―ル33は真空雰囲気である搬送室330を備えており、この搬送室330には、例えば6個の真空処理を実施する処理モジュ―ル41~46が接続されている。この例では、処理モジュ―ル41、46は第1の成膜工程S1又は第2の成膜工程S4を実施する成膜モジュ―ル、処理モジュ―ル42、45はエッチング工程S2を実施するエッチングモジュ―ル、処理モジュ―ル43、44は、プラズマ処理工程S3を実施するプラズマ処理モジュ―ルとして夫々構成されている。図3においては、夫々の処理モジュ―ル41~46に、実施される工程S1~S4を記載している。
【0024】
搬送室330には、例えば前後に移動可能な多関節ア―ムによって構成された真空搬送機構331が設けられ、この真空搬送機構331により、ロ―ドロックモジュ―ル32と、処理モジュ―ル41~46の各々との間でウエハWが搬送される。これらモジュ―ル31、32、33、41~46の接続部位には、夫々ゲ―トバルブGを備えた搬送口が設けられている。
【0025】
<基板処理装置>
続いて、プラズマ処理モジュ―ル43、44をなす基板処理装置5の構成例について、図4の縦断側面図を参照して説明する。基板処理装置5は接地された処理容器51を備えており、処理容器51の側壁に形成されたウエハWの搬送口510が、上記のゲ―トバルブGにより開閉される。処理容器51の壁面には排気管52の一端が開口し、排気管52の他端に設けられる排気機構53により、処理容器51内が所望の圧力の真空雰囲気となるように排気される。
処理容器51内にはウエハWを載置するステ―ジ54が設けられており、当該ステ―ジ54上にて突没自在に構成された昇降ピン55により、当該ステ―ジ54と真空搬送機構331との間でウエハWが受け渡される。ステ―ジ54にはヒ―タ―56が埋設されており、処理中にウエハWを設定された温度に加熱する。また、ステ―ジ54にはプラズマ形成用の電極57が設けられており、当該電極57は接地されている。
【0026】
処理容器51の天井部には、絶縁部材58を介してシャワ―ヘッド61が設けられている。シャワ―ヘッド61には整合器62を介して高周波電源63が接続されている。シャワ―ヘッド61と、ステ―ジ54の電極57とは平行平板電極として構成されており、高周波電源63からの高周波電力の供給により、シャワ―ヘッド61とステ―ジ54との間にプラズマを形成することができる。
シャワ―ヘッド61は、ガス供給路71を介してHガスの供給源72に接続されている。ガス供給路71にはバルブ及びマスフロ―コントロ―ラを含むガス供給機器73が介設されており、後述する制御部100からの制御信号に従って下流側へのガスの給断を行う。プラズマ処理工程S3では、Hガスが処理容器51内に供給されると共に、高周波電源63はオンとなり、既述したように処理容器51内にHプラズマが形成されて、プラズマ処理工程S3が実行される。この例における水素プラズマ形成部は、平行平板電極を構成すると共に、Hガスを供給するシャワ―ヘッド61と、ステ―ジ54の電極57、高周波電源63を含むものである。
【0027】
プラズマ処理モジュ―ル43、44以外の成膜モジュ―ル41、46、エッチングモジュ―ル42、45についても、プラズマ処理モジュ―ル43、44との差異点を中心に、簡単に説明しておく。これら成膜モジュ―ル41、46、エッチングモジュ―ル42、45については、高周波電源63やステ―ジ54の電極57が設けられておらず、処理容器51内にプラズマが形成されない構成となっている。また、処理容器51内にガスを供給するガス供給源には、各々の処理モジュ―ルで行う処理に応じたガスが貯留される。成膜モジュ―ル41、46においては、a―Si膜の成膜ガスが貯留され、エッチングモジュ―ル42、45においては、エッチングガスが貯留される。
これらの差異点を除いては、プラズマ処理モジュ―ル43、44と概ね同様の構成であり、各処理容器51内においてステ―ジ54上のウエハWを設定温度に加熱しつつ、例示した各ガスをウエハWに供給して処理を行うことができる。
【0028】
図3に戻って説明すると、基板処理システム3にはコンピュ―タである制御部100が設けられており、この制御部100はプログラムを備えている。プログラムには、ウエハWの処理及び搬送が行われるように命令(各ステップ)が組み込まれており、このプログラムは、記憶媒体、例えばコンパクトディスク、ハ―ドディスク、DVD等に格納され、制御部100にインスト―ルされる。制御部100は当該プログラムにより基板処理システム3の各部に制御信号を出力し、各部の動作を制御する。例えば処理モジュ―ル41~46の動作の制御には、ヒ―タ―56への電力供給によるウエハWの温度制御、処理容器51内へのガスの給断の制御が含まれる。また、プラズマ処理モジュ―ル43、44については、高周波電源63のオンオフによるプラズマの形成の制御についても含まれる。
【0029】
<基板処理方法>
続いて、基板処理システム3において実施される本開示の基板処理方法について簡単に説明する。ウエハWは、先ず、搬送容器30→ロ―ダ―モジュ―ル31→ロ―ドロックモジュ―ル32→真空搬送モジュ―ル33の順で搬送される。次いで、ウエハWは成膜モジュ―ル41に搬送され、既述のように、処理容器51内に成膜ガスを供給して第1の成膜工程S1が実施される。成膜モジュ―ル41に搬送されるウエハWは、図1Aに示すように、第2の凹部12を備えた下層膜11が形成されたウエハWである。この工程S1におけるa―Si膜2の成膜条件の一例を挙げると、成膜ガスとしてSiHガスを用いる場合には、ウエハWの加熱温度は450~600℃、処理容器51内の圧力は13.3~1333Paである。
【0030】
次いで、ウエハWは、真空搬送モジュ―ル33を介してエッチングモジュ―ル42、45に搬送され、既述のように、処理容器51内にエッチングガスを供給してエッチング工程S2が実施される。この工程S2における処理条件の一例を挙げると、エッチングガスとしてClガスを用いる場合には、ウエハWの加熱温度は300~600℃、処理容器51内の圧力は1.3~13333Paである。
【0031】
この後、ウエハWは、真空搬送モジュ―ル33を介してプラズマ処理モジュ―ル43、44に搬送され、既述のプラズマ処理工程S3が実施される。この工程S3では、処理容器51にHガスを供給し、例えばウエハWを200℃よりも高い温度且つ500℃より低い温度に加熱すると共に、例えば高周波電源63からシャワ―ヘッド61に100Wよりも大きい電力を供給して、容量結合プラズマを形成する。このとき、処理容器51内の圧力は例えば6.7~667Paであり、より具体的には例えば13.3Pa(0.1Torr)、Hプラズマの照射時間は例えば5~60分であり、より具体的には例えば30分である。
【0032】
続いて、ウエハWは、真空搬送モジュ―ル33を介して成膜モジュ―ル46に搬送され、既述のように処理容器51内に成膜ガスを供給して第2の成膜工程S4が実施される。この工程S4におけるa―Si膜2の成膜処理の条件は、第1の成膜工程S1と同様である。こうして、一連の工程S1~S4が実施され、第2の凹部12にa―Si膜2が埋め込まれたウエハWは、真空搬送モジュ―ル33→ロ―ドロックモジュ―ル32→ロ―ダ―モジュ―ル31の順で搬送されて、搬送容器30に戻される。真空搬送モジュ―ル33内及び各処理容器51内は真空雰囲気に保たれているため、上記した一連の工程S1~S4が実施される間、ウエハWは真空雰囲気中を移動し、大気雰囲気には曝されない。
【0033】
以上に述べたように、基板処理システム3によれば既述した工程S1~S4を実施することができ、第1の凹部21内にシ―ム14の形成を抑制しつつ、a―Si膜2を良好な充填性をもって埋め込むことができる。
また、Hプラズマの照射により膜厚を増加させるにあたり、ウエハ温度は200℃以上であって500℃より低い温度に設定される。その温度範囲のうちの一例としては後に示すように300℃であって、比較的高温に設定することを避けることが可能である。そのように高温での処理を避けることで、a―Si膜2への熱影響による膜質の変化を抑えて、膜厚の増加を図ることができる。
さらに、基板処理システム3では、第1の成膜工程S1を実施後、第2の成膜工程S4を行うまでにウエハWは大気雰囲気に曝されないので、a―Si膜2表面における自然酸化膜の形成が防止される。このため、後述する当該自然酸化膜の除去処理を行わなくてもよい利点が有る。なお、工程S1の成膜、工程S2のエッチングが繰り返し行われるように基板処理システム3内でウエハWを搬送してもよい。その場合、工程S1、S2を1回行う度に工程S3のプラズマ処理を行ってもよいし、工程S1、S2を複数回行う度に工程S3を1回行うようにしてもよい。
【0034】
<第2の実施形態>
続いて、第2の実施形態について説明する。この実施形態の処理では、第1の成膜工程S1によりa―Si膜2が形成されたウエハWにおいて、第1の凹部21内に臨むa―Si膜2の表面に形成される酸化物の除去を行う。この酸化物は例えばウエハWが大気に曝されることで形成される自然酸化膜である。この酸化物除去工程は、プラズマ処理工程S3を行うまでに行われ、当該酸化物除去工程を行った後は、第2の成膜工程S4を行うまで、ウエハWの周囲を真空雰囲気に保つことが行われる。
【0035】
図5は、第2の実施形態の処理に用いられる基板処理システム3Aであり、当該基板処理システム3Aは基板処理システム3と略同様に構成されている。基板処理システム3Aのロ―ダ―モジュ―ル31及びロ―ドロックモジュ―ル32については基板処理システム3のそれらのモジュ―ルと同様に構成されているので表示を省略しており、真空モジュ―ル33と、当該真空モジュ―ル33に接続された処理モジュ―ル41~46と、を抜き出して示している。この第2の実施形態では、基板処理システム3Aの外部装置にて第1の成膜工程S1が実施されたウエハWを当該基板処理システム3Aに搬送し、以降の処理が行われる。基板処理システム3Aは、設けられる処理モジュ―ルの数及び種類について基板処理システム3と異なる。真空搬送室330には、第2の成膜工程S4を実施する成膜モジュ―ル41、46と、プラズマ処理モジュ―ル43、44と、COR(Chemical Oxide Removal)処理を行う変質モジュ―ル47と、PHT(Post heat treatment)処理を行う加熱モジュ―ル48と、が接続されている。
【0036】
変質モジュ―ル47及び加熱モジュ―ル48が酸化物除去工程を実施するモジュ―ルである。変質モジュ―ル47は、例えばウエハWの表面に存在する酸化膜(SiO膜)に、HFガスとアンモニア(NH)ガスを吸着させて変質させ、ケイフッ化アンモニウム((NHSiF;AFS)とする処理(COR処理)を実施するように構成される。また、加熱モジュ―ル48は例えばNガスなどの不活性ガス雰囲気でウエハWを加熱することによって、COR処理にて生成された、AFSを昇華させて除去するPHT処理を実施する。これら変質モジュ―ル47、加熱モジュ―ル48については、HFガス及びNHガス、Nガスを夫々処理容器51内に供給することを除いて、成膜モジュ―ル41、46と同様の構成である。
【0037】
この実施形態におけるウエハWの搬送経路について述べると、図1Bで示したように第1の凹部21を備えたa―Si膜2が形成されたウエハWは搬送容器30に収納されてロ―ドポ―ト312に載置され、第1の実施形態と同様の経路で真空搬送モジュ―ル33に搬送される。次いで、ウエハWは、変質モジュ―ル47→加熱モジュ―ル48の経路で搬送されて、第1の凹部21の表面に形成された酸化物(自然酸化膜)の除去が行われる。続いて、ウエハWはプラズマ処理モジュ―ル43、44→第2の成膜工程S4を実施する成膜モジュ―ル41、46に順次搬送され、第1の実施形態と同様にプラズマ処理工程S3と第2の成膜工程S4が実施される。この後、ウエハWは、既述の経路にて搬送容器30に収納される。酸化物除去工程を行った後、第2の成膜工程S4を行うまで、ウエハWは真空雰囲気で搬送される。このため、ウエハWの周囲は真空雰囲気に保たれ、第2の成膜工程S4にて行う前に、a―Si膜2の表面に再び酸化物が形成されることが防止される。
【0038】
この第2の実施形態では、第1の凹部21の開口を広げるためのエッチング工程S2を実施しないが、第1の実施形態と同じく実施してもよい。このエッチング工程S2は、基板処理システム3の外部の装置にて行うことができる。また、基板処理システム3の処理モジュ―ルの一つを当該エッチング工程S2を実施するエッチングモジュ―ルとして構成し、酸化物除去工程を行った後、プラズマ処理工程S3を行うまでに、当該エッチング工程S2を実施するようにしてもよい。
【0039】
この第2の実施形態によれば、酸化物除去工程によりa―Si膜2表面の酸化物を除去した後にプラズマ処理工程を実施しているので、Hプラズマ照射時のa―Si膜2への水素の進入がこの酸化物によって妨げられることが防止される。従って、a―Si膜2の膜厚増加を確実に行うことができる。また、酸化物の存在による膜質の低下を抑えることができる。
【0040】
<基板処理装置の他の例1>
基板処理装置は、第1の成膜工程S1と、エッチング工程S2と、プラズマ処理工程S3と、第2の成膜工程S4と、を1つの処理容器51内にて実施する構成であってもよい。この実施形態は、図4に示す基板処理装置5において、シャワ―ヘッド61に成膜ガスとエッチングガスと、パ―ジガスである例えば窒素ガス(Nガス)と、が独立して供給できるように構成される。
【0041】
そして、処理容器51内に成膜ガス、エッチングガス、Hガス、成膜ガスを切り替えて供給して、第1の成膜工程S1、エッチング工程S2、プラズマ処理工程S3、第2の成膜工程S4を連続して実施する。また、これら工程S1~S4の切り替え時には、処理容器51内にパ―ジガスを供給して、処理容器51内のパ―ジを行う。このように、一連の工程S1~S4を同一の処理容器51にて実施することによって、第1の実施形態と同様の効果を得られることに加えて、搬送作業の手間や時間を省略できるという利点がある。なお、工程S1~S4のうち、工程S2、S3のみが同一の処理容器51内で実行されるようにしたり、S3、S4のみが同一の処理容器51内で実行されるようにしたりするようにしてもよい。つまり、続けて行われる複数の工程を、同じ処理容器51内にて行うようにすることができる。処理容器51内の圧力、ウエハWの温度について工程間で異なる場合は、これらのパラメ―タについてウエハWの格納中に適宜変更する。
【0042】
<基板処理装置の他の例2>
既述した各工程について、ウエハWを1枚ずつ処理する枚様式の処理装置(処理モジュ―ル)を用いて行うように示したが、複数のウエハWに一括して処理を行うバッチ式の処理装置を用いて行うようにしてもよい。図6及び図7には、工程S1~S4を実行する基板処理装置をなす縦型熱処理装置8を示している。縦型熱処理装置8は、下端が開口する縦型の処理容器81と、当該開口に対して昇降可能な蓋体83と、を備える。複数のウエハWを棚状に保持可能なウエハボ―ト82が、蓋体83上に支持されることで処理容器81に対して搬入出される。また、蓋体83に設けられる回転機構84によって、処理中にウエハボ―ト82は回転し、搭載されるウエハWは中心軸回りに回転する。なお図7中、符号821はウエハボ―ト82に設けられるウエハWの保持部である。
【0043】
処理容器81には水素プラズマ形成部9が設けられている。水素プラズマ形成部9は、処理容器81の側壁に形成された縦長の開口部85を当該処理容器81の外側から覆う区画壁91を備え、区画壁91は縦断面及び横断面が各々凹状に形成されている。区画壁91の両側壁の外側面には、互いに対向する細長い一対の電極92が平行平板電極として設けられ、高周波電源93に接続されている。また、水素プラズマ形成部9内にはインジェクタ94が配置されており、ガス供給源971からHガスが供給される。そして、当該インジェクタ94にて多段に開口した吐出口940からHガスが吐出される。電極92の作用によって区画壁91内にてそのHガスはプラズマ化され、各高さのウエハWに供給されてプラズマ処理が行われる。
【0044】
処理容器81の側壁には開口部85に対向する排気口86が形成され、プラズマ化されたHガスは当該排気口86から除去される。図中95は当該排気を行うための排気機構である。処理容器81の外周にはヒ―タ―96が設けられており、処理中のウエハWは設定された温度に加熱される。また、処理容器81内において開口部85、排気口86のうち開口部85が設けられる側を前方側とすると、当該前方側で開口部85を左右から挟むインジェクタ871、872が設けられる。ガス供給源972から、プラズマ化を必要としないHガス以外の各ガスが、当該インジェクタ871、872にて多段に開口した吐出口870から各高さのウエハWに供給され、排気口86から排気される。
【0045】
この縦型熱処理装置8においても、基板処理装置の他の例1とした装置と同じ種類のガスの供給、及び同様のガスの供給の切替えが行われることで、既述した工程S1~S4が順次、実施される。また、工程S3を行うにあたってのウエハWの温度、及び高周波電源93による供給電力については、例えばプラズマ処理モジュ―ル43で説明した値と同じ値となるように設定される。また、Hガスの供給流量としては例えば100sccm~10000sccmであり、より具体的には例えば後述の評価試験と同じ設定の2000sccmとすることができる。
【0046】
ところで、枚様式処理装置、バッチ式処理装置の各々について水素ガスのプラズマは容量結合型プラズマとして形成するように示してきたが、それには限られない。例えば誘導結合型のプラズマとして処理容器内に形成して処理を行ってもよい。その場合、ウエハWの温度については例えばこれまでに述べた容量結合プラズマで処理する場合と同じ温度とすればよい。高周波電力については膜が膨張するように適宜設定する。
【0047】
また、Hプラズマにより膜厚を増加させる被処理膜として、シリコン含有膜であるa―Si膜であるものと説明したが、他のシリコン含有膜や、シリコンに比較的性質が類似するゲルマニウム膜(Ge膜)に対しても同様にHプラズマを作用させて膜厚を増加させることができると考えられる。つまり、シリコン含有膜としてはシリコンのみを構成成分とするものであることに限られず、他には例えばシリコンゲルマニウム膜(SiGe膜)、シリコン窒化膜(SiN膜)、シリコン酸化膜(SiO膜)等が例示できる。特に、a―Si膜と同様の非結晶性のシリコンやゲルマニウムにより構成されるアモルファス膜であれば、Hプラズマの照射により、水素が膜に注入されやすく、膜厚の増加を図ることができると考えられる。つまり、上記したSiGe膜、SiN膜、SiO膜、Ge膜について、各々アモルファス膜であることが好ましい。ところで、シリコン含有膜とはシリコンを主な構成成分として含む膜の意味である。つまり、不純物として不可避的にシリコンが含まれた膜を意味するものではない。
【0048】
また、以上においては、被処理膜をCVD法にて形成する手法について説明したが、例えば被処理膜がSiN膜、SiO膜の場合には、ALD(ALD (Atomic Layer Deposition)法により形成することができる。例えばSiN膜を枚様式の基板処理装置にて形成する場合について簡単に説明する。この場合の基板処理装置は、図4に示す基板処理装置5において、処理容器51に、原料ガスであるSiを含むガスと、反応ガスであるNを含むガスと、パ―ジガス例えばNガスと、を互いに独立して供給できる構成とする。
【0049】
この例における基板処理の一例を示すと、例えば第2の凹部12を備えた下地膜11が形成されたウエハWを処理容器51内に搬入する。そして、原料ガスを供給してウエハ表面に吸着させる工程と、パ―ジガスを供給してパ―ジする工程と、反応ガスを供給してウエハ表面に吸着された原料ガスと反応させてSiNを形成する工程と、パ―ジガスを供給してパ―ジする工程と、処理容器51内にHプラズマを形成し、被処理膜であるSiN膜の膜厚を増加させる工程と、を交互に繰り返す。このようにALD法とプラズマ処理工程を組み合わせて実施することにより、被処理膜を膜厚の増加を図りながら形成することができる。なお、原料ガスの吸着工程及び反応ガスによる反応工程を複数回繰り返す度にプラズマ処理を行ってもよい。つまり、吸着工程及び反応工程を1回行う度にプラズマ処理を行うことには限られない。
【0050】
ところで、図1等で第2の凹部12は上方が開口するように示したが、そうであることに限られない。ウエハWの表面上に突出する構造体が形成され、その構造体の側壁に第2の凹部12が形成されていてもよい。つまり、第2の凹部12及び当該第2の凹部12を被覆することで形成される第1の凹部21としては、横方向に向かって開口するものであって、本開示の手法は、そのように横方向に開口する凹部に被処理膜を充填させる処理にも適用可能である。従って、プラズマ処理後にa―Si膜2による埋め込みを行う対象となる第1の凹部21をなす側壁は、左右に並んで設けられるものであることに限定されるものではなく、上下に並んで設けられるものであってもよい。
【0051】
さらにまた、本開示の基板処理方法は、第1の凹部に被処理膜を充填する処理に限られず、プラズマ処理工程は、被処理膜の膜厚を増加させる処理であればよい。例えば膜厚を増加させることにより設定された膜厚に近付ける処理に適用してもよい。
また、ウエハ温度に応じて、Hプラズマ照射により被処理膜の膜中の水素濃度が変化することから、膜厚の増加と合わせて、膜中の水素濃度の調整を行うことができる。従って、例えば膜中の水素濃度と膜の応力とが関連する場合には、応力の調節を行うことができるため、プラズマ処理工程をこのような処理に適用してもよい。
さらに、a―Si膜に対して高温で結晶化処理を行うことによってポリシリコン膜が形成できるが、a―Si膜の水素濃度によってポリシリコン膜のグレインサイズが変化する場合がある。この場合にはプラズマ処理工程をa―Si膜の膜厚増加とグレインサイズの制御を目的として実施することができる。
【0052】
なお、今回開示された実施形態は、全ての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。上記の実施形態は、添付の特許請求の範囲及びその趣旨を逸脱することなく、様々な形態で省略、置換、変更、及び/または組み合わせがなされてもよい。
【0053】
〔評価試験〕
以下、本技術に関連して行われた評価試験について説明する。この評価試験は、図6図7で述べた基板処理装置8を用いて実施した。但し、ウエハWに供給可能なガスの種類は試験の内容に合わせて図6図7で説明した例から変更している。
(評価試験1)
ウエハボ―ト82に後述する実施例1、実施例2、比較例1の膜が形成されたウエハWを搭載して処理容器81に搬入し、酸化物除去工程を実施した。引き続いて、ウエハWの温度及び高周波電力の大きさを変えてプラズマ処理工程S3を実施し、この工程S3後、分光偏光解析法(SE:spectroscopic ellipsometry)により、a―Si膜の膜厚を測定した。実施例1、実施例2、比較例1、酸化物除去工程及びプラズマ処理工程S3の条件を以下に示す。
【0054】
実施例1:表面に凹部が形成されておらず平坦なウエハ(ブランケットウエハ)を530℃に加熱し、成膜ガスとしてSiH4(モノシラン)を用いて、膜厚60nmのa―Si膜を形成した。
実施例2:凹部を備えたSi膜よりなる下層膜が形成されたウエハに、SiO膜よりなるライナ―膜を介して膜厚60nmのa―Si膜を形成した。
比較例1:ブランケットウエハに、膜厚60nmのポリシリコン膜を形成した。ポリシリコン膜は実施例1のa―Si膜を700℃に加熱して結晶化処理を行うことにより形成した。
【0055】
(酸化物除去工程)
COR処理:ウエハ温度75℃~80℃、処理容器内圧力26.7Pa(0.2Torr)の下、処理容器81にHFガス1200sccm、NHガス300sccmを供給して、5分間処理を行った。
PHT処理:処理容器81にNガスを供給してパ―ジしながら、300℃に加熱して、AFSの昇華処理を行った。
(プラズマ処理工程)
PHT処理後、ウエハWの温度を100℃~500℃の範囲内の設定された温度に調節し、処理容器81内にHガス2000sccmを供給すると共に、高周波電力を100Wあるいは500Wに設定して、プラズマ処理工程S3を30分間実施した。このときの処理容器内圧力は13.3Pa(0.1Torr)とした。
【0056】
(評価結果1)
高周波電力を500Wに設定し、ウエハ温度を変えてプラズマ処理を行った場合の膜厚の測定結果について図8に示す。図8中、横軸はウエハWの温度(℃)、縦軸はエッチング量(Å)である。エッチング量は膜厚の増減量を示すものであり、正の値が膜厚の減少、負の値が膜厚の増加を夫々示し、負の値が大きいほど、膜厚の増加量が大きいことを意味する。この図8において、実施例1(a―Si膜)のデ―タは△でプロットし、比較例1(ポリシリコン膜)のデ―タは○でプロットしている。
【0057】
実施例1の結果から、プラズマ処理工程S3におけるウエハ温度によって、a―Si膜の膜厚が変化することが認められ、200℃以下の温度帯ではエッチングが進行し、膜厚の減少が見られ、低温ほど減少量が大きいことが認められた。また、200℃より高い温度帯(即ち300℃、500℃)では膜厚が増加することが確認された。グラフに示すように300℃では膜厚の増加量が約30Åであった。500℃で加熱したデ―タについてはグラフ中にプロットしていないが、これは膜厚が増加したことでウエハWからの剥がれが発生したためである。
一方、比較例1の結果では、プラズマ処理工程S3におけるウエハ温度を変えても、ポリシリコン膜の膜厚は、プラズマ処理により減少し、その減少量はウエハ温度によらずほぼ一定であることが認められた。
【0058】
(評価結果2)
ウエハ温度を300℃に設定し、高周波電力を変えてプラズマ処理を行った場合の膜厚の測定結果について、図9に示す。図中横軸は高周波電力(W)、縦軸はエッチング量(Å)である。この図においても、実施例1のデ―タは△でプロットし、比較例2のデ―タは○でプロットしている。
【0059】
実施例1の結果から、プラズマ処理工程S3における高周波電力の大きさの変化によって、a―Si膜の膜厚が変化することが認められた。100Wではエッチング量が略0Åとなって膜厚の増加は確認されなかったが、100Wより大きい電力(即ち500W)では膜厚の増加量が30Åとなることが確認された。高周波電力が大きくなると、イオン化エネルギ―が増大する。後の評価試験2で示すように、膜厚の増加にはa―Si膜への水素の注入が関与するが、500Wの場合はその水素の活性が高く、その水素とSiとの結合の形成が促進され、膜厚の増加に寄与したものと推察される。
一方、比較例1の結果では、高周波電力を100Wより大きくしても、ポリシリコン膜の膜厚はプラズマ処理により減少し、その減少量は電力の変化によらずほぼ一定であることが認められた。
【0060】
(評価結果3)
ウエハ温度300℃、高周波電力500Wの条件にてプラズマ処理を行なった実施例2のウエハ(実施例2―1)と、酸化物除去工程のみを実施し、プラズマ処理は行わない実施例2のウエハ(実施例2―2)について、透過型電子顕微鏡(TEM:Transmission Electron Microscope)により表面の断面画像を取得した。実施例2―1の断面画像の模式図を図10として示す。図10中では、Si膜よりなる下層膜22、SiO膜よりなるライナ―膜23、ライナ―膜23上のa―Si膜を24として夫々示している。実施例2―1と、実施例2―2について、a―Si膜24の上部A1、A2、中間部B1、B2、下方部C1、C2の夫々の部位における膜厚を、TEM画像に基づいて検出した結果を次に示す。
【0061】
(実施例2―1)
A1:17.6nm、A2:18.3nm、B1:17.5nm、B2:17.6nm、C1:17.5nm、C2:17.8nm
(実施例2―2)
A1:16.3nm、A2:16.2nm、B1:17.3nm、B2:16.6nm、C1:16.9nm、C2:16.7nm
実施例2―1はプラズマ処理工程S3を実施した後の膜厚、実施例2―2はプラズマ処理工程S3を実施する前の膜厚である。TEM画像から求めた膜厚であるため、多少の測定誤差は存在するが、実施例2―1は実施例2―2に比べて、全ての測定部位において膜厚が増加することが明らかである。
【0062】
以上のように、この評価試験1の結果からa―Si膜をHプラズマに曝すことで、当該a―Si膜の膜厚を上昇させることができることが確認された。そして、そのように膜厚を上昇させるにあたって、200℃より高く500℃より低い範囲内の温度にてウエハWをプラズマ処理することが好ましいことが分かる。また、図8に示したようにウエハWの温度が高くなるにつれてエッチング量が次第に減少し、200℃では10Åと比較的小さいエッチング量となり、300℃では30Åと、比較的大きい膜厚の上昇が確認されている。そのことを考慮すれば、これら200℃と300℃との間の250℃以上の温度であれば膜厚を上昇させることができると考えられる。つまり、上記の温度範囲のうち、250℃以上とすることがより好ましく、膜厚の上昇が確認された300℃以上とすることがさらに好ましい。また、高周波電力については100Wに設定した場合にエッチング量が略0Åであったことから考えると、a―Si膜の膜厚を上昇させるためには100Wよりも大きい高周波電力とすることが好ましく、当該膜厚の上昇が確認された500W以上にすることがより好ましい。以上に述べたウエハWの温度及び高周波電力の範囲を、実施形態で説明したプラズマ処理を行う各装置及び各処理モジュ―ルに適用することができる。
【0063】
(評価試験2)
実施例1のウエハ、比較例1のウエハについて、評価試験1と同様に、酸化物除去工程を実施した後、ウエハ温度を変えてプラズマ処理工程S3を実施し、この工程S3後のウエハについて、二次イオン質量分析(SIMS:Secondary Ion Mass Spectrometry)により被処理膜中の水素濃度を確認した。プラズマ処理工程S3におけるウエハ温度以外の条件は、評価試験1と同様であり、高周波電力は500Wとした。
【0064】
(実施例1の評価結果)
実施例1の結果について、ウエハ温度が200℃(破線)、300℃(実線)、500℃(一点鎖線)については図11Aに、ウエハ温度が100℃(二点鎖線)、120℃(一点鎖線)、160℃(実線)については図11Bに夫々示す。また、酸化物除去工程を実施し、プラズマ処理工程S3を実施しない場合についても、図11Bに「Hプラズマ無(破線)」として合わせて示す。図11A、11B中、横軸はa―Si膜の表面からの深さ(nm)、縦軸は水素濃度(1cc当りの原子数)を示している。
【0065】
この結果、プラズマ処理工程S3を実施した場合には、実施しない場合に比べて、膜中の水素濃度が高くなることが確認された。また、ウエハ温度が100℃~300℃の範囲では、温度が高くなる程、膜中の水素濃度が高くなること、100℃~200℃の範囲では、膜を垂直方向で見ると、表面に近い程水素濃度が高くなることが認められた。さらに、100℃~160℃では、膜の表面から40nm深い領域では、プラズマ処理工程S3を実施しない場合と同等の水素濃度になるものの、200℃では前記40nm程度深い領域においても、プラズマ処理工程S3を実施しない場合に比べて約100倍の水素原子が存在することが認められた。さらに、300℃では、a―Si膜の表面から、深さが60nm付近に至るまで、膜の垂直方向における水素濃度がほぼ一定であり、当該垂直方向において一様に多くの水素が存在することが確認された。
【0066】
このように、a―Si膜を水素プラズマに曝すことにより、a―Si膜中に水素が注入されることが確認できた。但し、評価試験1の結果も踏まえれば、ウエハ温度が100℃~200℃の範囲では、a―Si膜中に水素が注入されるものの膜厚は減少し、300℃以上の温度帯においては膜厚が増加している。その300℃では100℃~200℃の温度帯に比べて、膜の深い領域における水素濃度が高い。それにより、膜の表層から比較的深い領域に亘って多くの水素が存在している。このことから、300℃で処理したウエハWについては膜の垂直方向において一様に膜の膨張が起きたことで、結果として膜厚が大きく増加したものと推察される。
なお、500℃のデ―タでは、a―Si膜の垂直方向において水素濃度が一様であるものの、300℃に比べると、水素濃度が低いことがわかる。既述のように、500℃では膜の膨張が大きくなり過ぎて、膜剥がれが生じた。その際に膜が粉砕し、膜中の水素が放出されたと考えられる。
【0067】
(比較例1の評価結果)
比較例1の結果について、ウエハ温度が200℃(破線)、300℃(実線)、500℃(一点鎖線)については図12Aに、ウエハ温度が100℃(二点鎖線)、120℃(一点鎖線)、160℃(実線)については図12Bに夫々示す。また、酸化物除去工程を実施し、プラズマ処理工程S3を実施しない場合(Hプラズマ無)についても、図12Bに破線にて合わせて示す。
この結果、ポリシリコン膜においても、プラズマ処理工程S3を実施した場合には、実施しない場合に比べて、膜中の水素濃度が高くなるものの、a―Si膜に比べて水素濃度が低いことが確認された。
【0068】
このように、ポリシリコン膜においても、水素プラズマに曝すことによって、ある程度膜中に水素が注入されるものの、a―Si膜に比べると水素の注入量が少ない。ポリシリコン膜は、a―Si膜を加熱して形成された、a―Si膜より緻密な膜であるため、水素が注入しにくく、評価試験1の結果からも明らかなように、膜厚の増加に結びつかないものと推察される。
【0069】
以上の評価試験2の結果から水素原子について膜の表層から比較的深い領域に亘って浸透させることが膜厚を上昇させる上で有効であることが分かる。結晶構造を持つ膜よりもアモルファス性(非晶質性)の膜の方がプラズマ処理によって、水素原子が浸透しやすいと考えられるので、この評価試験2からは実施形態で述べたようにアモルファス膜を水素プラズマ処理の対象とすることが好ましいことが推定される。
【符号の説明】
【0070】
W ウエハ
S3 プラズマ処理工程
2 被処理膜(アモルファスシリコン膜)
51、81 処理容器
図1A
図1B
図1C
図1D
図2A
図2B
図2C
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11A
図11B
図12A
図12B