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特開2023-146763ポリアミド樹脂組成物、およびポリアミド成形体
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023146763
(43)【公開日】2023-10-12
(54)【発明の名称】ポリアミド樹脂組成物、およびポリアミド成形体
(51)【国際特許分類】
   C08G 69/26 20060101AFI20231004BHJP
【FI】
C08G69/26
【審査請求】未請求
【請求項の数】13
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022054129
(22)【出願日】2022-03-29
(71)【出願人】
【識別番号】000005887
【氏名又は名称】三井化学株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002952
【氏名又は名称】弁理士法人鷲田国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】牧口 航
(72)【発明者】
【氏名】土井 悠
(72)【発明者】
【氏名】鷲尾 功
【テーマコード(参考)】
4J001
【Fターム(参考)】
4J001DA01
4J001DB04
4J001DD07
4J001DD13
4J001EB14
4J001EB37
4J001EB46
4J001EC07
4J001EC08
4J001EC09
4J001EC14
4J001EC16
4J001EE16D
4J001FB03
4J001FC06
4J001FD05
4J001GA12
4J001GA15
4J001GB02
4J001GB03
4J001GB06
4J001GB12
4J001GC04
4J001HA02
4J001JA02
4J001JA04
4J001JA07
4J001JA08
4J001JB21
4J001JB41
(57)【要約】
【課題】成形体が加熱された後も、可視光の反射率の低下を抑制することができるポリアミド樹脂組成物およびポリアミド成形体を提供すること。
【解決手段】上記ポリアミド樹脂組成物は、ジカルボン酸に由来する成分単位(a)と、ジアミンに由来する成分単位(b)とを含むポリアミド樹脂を含み、前記ジカルボン酸に由来する成分単位(a)は、芳香族ジカルボン酸または脂環式ジカルボン酸に由来する成分単位を含み、前記ジアミンに由来する成分単位(b)は、炭素原子数4以上18以下のアルキレンジアミンに由来する成分単位(b1)と、一般式(1)で表されるジアミンに由来する成分単位(b2)と、を含み、前記ジカルボン酸に由来する成分単位(a)の含有量に対する、前記ジアミンに由来する成分単位(b)の含有量のモル比((b)/(a))は、1.010以上である。
【化1】
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ジカルボン酸に由来する成分単位(a)と、ジアミンに由来する成分単位(b)とを含むポリアミド樹脂を含む、ポリアミド樹脂組成物であって、
前記ジカルボン酸に由来する成分単位(a)は、芳香族ジカルボン酸または脂環式ジカルボン酸に由来する成分単位を含み、
前記ジアミンに由来する成分単位(b)は、
前記ジアミンに由来する成分単位(b)の総モル数に対して50モル%より多く90モル%以下の、炭素原子数4以上18以下のアルキレンジアミンに由来する成分単位(b1)と、
前記ジアミンに由来する成分単位(b)の総モル数に対して10モル%以上50モル%未満の、一般式(1)に表されるジアミンに由来する成分単位(b2)と、
を含み、
前記ジカルボン酸に由来する成分単位(a)の含有量に対する、前記ジアミンに由来する成分単位(b)の含有量のモル比((b)/(a))は、1.010以上である、
ポリアミド樹脂組成物。
【化1】
(一般式(1)において、2つのmおよびnは、それぞれ独立して0または1であり、-X-は、単結合、または-O-、-S-、-SO-、-CO-および-CH-からなる群から選択される二価の基である)
【請求項2】
前記ジカルボン酸に由来する成分単位(a)の含有量に対する、前記ジアミンに由来する成分単位(b)の含有量のモル比((b)/(a))は、1.030より大きい、
請求項1に記載のポリアミド樹脂組成物。
【請求項3】
前記ポリアミド樹脂の末端カルボキシル基量は、100mmоl/kg以下である、
請求項1または2に記載のポリアミド樹脂組成物。
【請求項4】
前記ポリアミド樹脂の末端アミノ基量は、40mmоl/kg以上である、
請求項1~3のいずれか一項に記載のポリアミド樹脂組成物。
【請求項5】
前記ポリアミド樹脂の末端カルボキシル基量に対する、末端アミノ基量の比率は、1.0よりも大きい、
請求項1~4のいずれか一項に記載のポリアミド樹脂組成物。
【請求項6】
前記ポリアミド樹脂組成物は、前記ポリアミド樹脂組成物の成形体に対する、波長540nmの光の反射率と、160℃で2時間加熱した前記成形体に対する、前記光の反射率と、の差で表される反射率変化量が5%以下である、
請求項1~5のいずれか1項に記載のポリアミド樹脂組成物。
【請求項7】
前記一般式(1)で表されるジアミンに由来する成分単位(b2)の含有量は、前記ジアミンに由来する成分単位(b)の総モル数に対して15モル%以上45モル%未満である、
請求項1~6のいずれか1項に記載のポリアミド樹脂組成物。
【請求項8】
前記炭素原子数4以上18以下のアルキレンジアミンに由来する成分単位(b1)は、直鎖状のアルキレンジアミンまたは分岐鎖状のアルキレンジアミンに由来する成分単位を含む、
請求項1~7のいずれか一項に記載のポリアミド樹脂組成物。
【請求項9】
前記直鎖状のアルキレンジアミンまたは分岐鎖状のアルキレンジアミンは、1,4-ジアミノブタン、1,6-ジアミノヘキサン、1,9-ノナンジアミン、1,10-デカンジアミン、2-メチル-1,5-ペンタンジアミンおよび2-メチル-1,8-オクタンジアミンからなる群から選択されるジアミンである、
請求項8に記載のポリアミド樹脂組成物。
【請求項10】
前記芳香族ジカルボン酸、または前記脂環式ジカルボン酸は、テレフタル酸、ナフタレンジカルボン酸、およびシクロヘキサンジカルボン酸からなる群から選択されるジカルボン酸である、
請求項1~9のいずれか一項に記載のポリアミド樹脂組成物。
【請求項11】
車載部材用の樹脂組成物である、請求項1~10のいずれか1項に記載のポリアミド樹脂組成物。
【請求項12】
請求項1~11のいずれか1項に記載のポリアミド樹脂組成物を成形してなる、
ポリアミド成形体。
【請求項13】
車載部材である、
請求項12に記載のポリアミド成形体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリアミド樹脂組成物、およびポリアミド成形体に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、成形材料として、ポリアミド樹脂組成物が知られている。ポリアミド樹脂組成物は、例えば、自動車用部品、電気・電子用部品などの種々の部品の材料として広く用いられており、成形体の機械的強度および耐熱性に優れることが知られている。
【0003】
例えば、特許文献1には、テレフタル酸に由来する成分単位を含むジカルボン酸に由来する成分単位と、ビスアミノメチルノルボルナンを含むジアミンに由来する成分単位(b)とを含むポリアミド樹脂組成物が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開昭63―154739号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上述のように、ポリアミド樹脂組成物は、自動車用部品の材料として用いられ得る。例えば、サンルーフ、バックドアなどの自動車用外装部品の材料として用いることができる。このような自動車用外装部品は、車体に取り付けられるにあたり塗装され得るが、塗装の際、塗料をより早く硬化させて生産性を向上させるために、塗料を約130℃~200℃の温度で加熱することがある。このとき、上記外装部品には、高温で加熱されても変色が生じないような(可視光の反射率が低下しないような)耐変色性が求められる。高温の熱により、上記外装部品に変色が生じると、外観不良となってしまうためである。そのため、加熱後においても成形体に対する可視光の反射率の低下を抑制することができるポリアミド樹脂組成物への要望が高まっている。
【0006】
本発明者らの検討によると、特許文献1に記載のポリアミド樹脂組成物では、加熱後の成形体に対する可視光の反射率の低下を抑制することはできなかった。
【0007】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであり、成形体が加熱された後も、可視光の反射率の低下を抑制することができるポリアミド樹脂組成物およびポリアミド成形体を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、以下のポリアミド樹脂組成物およびその成形体に関する。
【0009】
本発明のポリアミド樹脂組成物は、ジカルボン酸に由来する成分単位(a)と、ジアミンに由来する成分単位(b)とを含むポリアミド樹脂を含む、ポリアミド樹脂組成物であって、前記ジカルボン酸に由来する成分単位(a)は、芳香族ジカルボン酸または脂環式ジカルボン酸に由来する成分単位を含み、前記ジアミンに由来する成分単位(b)は、前記ジアミンに由来する成分単位(b)の総モル数に対して50モル%より多く90モル%以下の、炭素原子数4以上18以下のアルキレンジアミンに由来する成分単位(b1)と、前記ジアミンに由来する成分単位(b)の総モル数に対して10モル%以上50モル%未満の、一般式(1)に表されるジアミンに由来する成分単位(b2)と、を含み、前記ジカルボン酸に由来する成分単位(a)の含有量に対する、前記ジアミンに由来する成分単位(b)の含有量のモル比((b)/(a))は、1.010以上である。
【化1】
【0010】
一般式(1)において、2つのmおよびnは、それぞれ独立して0または1であり、-X-は、単結合、または-O-、-S-、-SO-、-CO-および-CH-からなる群から選択される二価の基である。
【0011】
本発明の成形体は、上記ポリアミド樹脂組成物を成形してなる。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、成形体が加熱された後も、可視光の反射率の低下を抑制することができるポリアミド樹脂組成物およびポリアミド成形体を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の実施形態について詳細に説明する。なお、本発明は、以下の形態に限定されるものではない。
【0014】
本開示において「~」を用いて示された数値範囲は、「~」の前後に記載される数値を
それぞれ最小値及び最大値として含む範囲を意味する。
本開示において、各成分の量は、各成分に該当する物質が複数種存在する場合には、特に断らない限り、複数種の物質の合計量を意味する。
【0015】
1.ポリアミド樹脂組成物
本発明のポリアミド樹脂組成物は、ジカルボン酸に由来する成分単位(a)と、ジアミンに由来する成分単位(b)とを含むポリアミド樹脂を含み、上記ジカルボン酸に由来する成分単位(a)の含有量に対する、上記ジアミンに由来する成分単位(b)の含有量のモル比((b)/(a))は、1.010以上である。
【0016】
本発明者らは、ポリアミド樹脂に含まれるジカルボン酸に由来する成分単位(a)、および一般式(1)で表されるジアミンに由来する成分単位(b2)を含むジアミンに由来する成分単位(b)、それぞれの含有量について、所定のモル比((b)/(a))に調整することで、ポリアミド樹脂の成形体(以下、単に成形体と称する)が加熱された後も、可視光の反射率の低下を抑制できることを見出した。これについて理由は定かではないが、以下のように考えられる。
【0017】
樹脂などの高分子化合物は、熱などのエネルギーを受けると分子鎖が切断され、ラジカルを生成する。このラジカルに、空気中に含まれる酸素が付加することにより、ペルオキシドラジカル(ROO・)が生成される。このペルオキシドラジカルは、さらに他の分子鎖を切断し、他の分子鎖が切断されることで、さらにラジカルが生成される。このように分子鎖の切断が連鎖的に生じることで、樹脂が酸化劣化もしくは共役構造を形成し、成形体の変色が生じる。
【0018】
これに対して、ジアミンに由来する成分単位(b)に含まれる、上記一般式(1)で表されるジアミンに由来する成分単位(b2)は、ビシクロ骨格を含む剛直な環状構造を有し、かつ平面性を抑制している。そのため、これを含むポリアミド樹脂のガラス転移温度(Tg)を高くして、ポリアミド樹脂の分子鎖(特には非晶部)の運動性が活発になる温度を高くできる。そのため、高温時においても酸素やラジカルの樹脂内部への透過(特には非晶部を介しての透過)を制限して樹脂内部の酸化劣化を抑制できる。これにより、加熱によりポリアミド樹脂が酸化劣化しにくくなり、かつ共役構造が形成されにくくなると考えられる。そのため、上記成分単位(b2)を含むジアミンに由来する成分単位(b)の含有量をより多くすることで、成形体が加熱されても、ポリアミド樹脂の変色(可視光の反射率の低下)を抑制することができると考えられる。
【0019】
また、ポリアミド樹脂における、ジアミンに由来する成分単位(b)の含有量を、ジカルボン酸に由来する成分単位(a)よりも多くすることで、末端アミノ基の量を多くすることができる。この末端アミノ基が、ペルオキシドラジカルと反応して、ヒドロキシペルオキシド(ROOH)を生成し、分子鎖の連鎖的な切断を停止させることができると考えられる。
【0020】
これらの理由から、本発明のポリアミド樹脂組成物は、成形体が加熱された後も、可視光の反射率の低下を抑制することができると考えられる。
【0021】
1-1.ポリアミド樹脂
本発明において、ポリアミド樹脂は、ジカルボン酸に由来する成分単位(a)と、ジアミンに由来する成分単位(b)とを含む。
【0022】
(ジカルボン酸に由来する成分単位(a1))
ジカルボン酸に由来する成分単位(a1)は、芳香族ジカルボン酸または脂環式ジカルボン酸に由来する成分単位を含む。これにより、ポリアミド樹脂の融点(Tm)および結晶性を高めることができる。ポリアミド樹脂の融点(Tm)が高まると、成形体の耐熱性が高まりやすくなり、ポリアミド樹脂の結晶性が高まると、成形体の機械的強度(引張強度)が高まりやすくなる。また、芳香族ジカルボン酸または脂環式ジカルボン酸に由来する成分単位は、環状構造を有するため、成形体が加熱された際に、分子の切断が生じにくくなると考えられる。
【0023】
芳香族ジカルボン酸の例には、テレフタル酸、ナフタレンジカルボン酸およびそれらのエステルが含まれる。脂環式ジカルボン酸の例には、シクロヘキサンジカルボン酸およびそのエステルが含まれる。ポリアミド樹脂の結晶性を高める観点から、ジカルボン酸に由来する成分単位(a)は、テレフタル酸、ナフタレンジカルボン酸またはシクロヘキサンジカルボン酸に由来する成分単位を含むことが好ましく、テレフタル酸またはナフタレンジカルボン酸に由来する成分単位を含むことがより好ましく、テレフタル酸に由来する成分単位を含むことがさらに好ましい。
【0024】
芳香族ジカルボン酸または脂環式ジカルボン酸に由来する成分単位の含有量は、ジカルボン酸に由来する成分単位(a)の総モル数に対して50モル%以上100モル%以下であることが好ましく、70モル%以上100モル%以下であることがより好ましい。上記含有量が50モル%以上であると、ポリアミド樹脂の結晶性をより高めることができる。
【0025】
ジカルボン酸に由来する成分単位(a)が、テレフタル酸、ナフタレンジカルボン酸またはシクロヘキサンジカルボン酸に由来する成分単位(a1)を含むとき、これらの成分単位の含有量は、ジカルボン酸に由来する成分単位(a)の総モル数に対して、20モル%より多く100モル%以下とすることができ、45モル%以上100モル%以下であることが好ましく、50モル%以上99モル%以下であることがより好ましく、80モル%より多く99モル%以下であることがさらに好ましく、90モル%より多く99モル%以下であることが特に好ましい。上記含有量が上記範囲にあることで、ポリアミド樹脂の結晶性をより高めることができる。
【0026】
ジカルボン酸に由来する成分単位(a)は、本発明の効果を損なわない範囲で、上記成分単位(a1)以外の他のジカルボン酸に由来する成分単位を含んでもよい。上記他のジカルボン酸の例には、上記成分単位(a1)以外の他の芳香族ジカルボン酸に由来する成分単位(a2)、および炭素原子数4以上20以下の脂肪族ジカルボン酸に由来する成分単位(a3)などが含まれる。
【0027】
上記他の芳香族ジカルボン酸の例には、イソフタル酸、および2-メチルテレフタル酸などが含まれる。これらのうちイソフタル酸が好ましい。
【0028】
ジカルボン酸に由来する成分単位(a)が、上記他の芳香族ジカルボン酸に由来する成分単位(a2)を含むとき、上記成分単位(a2)の含有量は、ジカルボン酸に由来する成分単位(a)の総モル数に対して1モル%以上50モル%以下であることが好ましく、1モル%以上20モル%以下であることがより好ましく、1モル%以上10モル%以下であることがさらに好ましく、1モル%以上5モル%以下であることが特に好ましい。上記含有量が一定以下であることで、ポリアミド樹脂の結晶性をより高めることができる。
【0029】
ジカルボン酸に由来する成分単位(a)が、上記炭素原子数4以上20以下の脂肪族ジカルボン酸に由来する成分単位(a3)を含むとき、上記成分単位(a3)の含有量は、ジカルボン酸に由来する成分単位(a)の総モル数に対して0モル%以上40モル%以下であることが好ましく、0モル%以上20モル%以下であることがより好ましく、1モル%以上10モル%以下であることがさらに好ましく、1モル%以上5モル%以下であることが特に好ましい。上記含有量が一定以下であることで、ポリアミド樹脂の結晶性をより高めることができる。
【0030】
なお、本発明におけるポリアミド樹脂は、ジカルボン酸に由来する成分単位(a1)のほかに、トリメリット酸またはピロメリット酸などの三塩基性以上の多価カルボン酸に由来する成分単位をさらに含んでもよい。このような多価カルボン酸に由来する成分単位の含有量は、ジカルボン酸に由来する成分単位(a)の総モル数に対して、0モル%以上5モル%以下とすることができる。
【0031】
(ジアミンに由来する成分単位(b))
ジアミンに由来する成分単位(b)は、炭素原子数4以上18以下のアルキレンジアミンに由来する成分単位(b1)を含む。
【0032】
ポリアミド樹脂が、炭素原子数4以上18以下のアルキレンジアミンに由来する成分単位(b1)を含むことで、ポリアミド樹脂の結晶性が高まりやすく、ポリアミド樹脂組成物の射出成形時の流動性、および成形体の引張強度が高まりやすくなる。
【0033】
上記アルキレンジアミンの炭素原子数は、4以上18以下であるが、ポリアミド樹脂のガラス転移温度(Tg)の低下を抑制する観点から、4以上10以下であることが好ましい。
【0034】
炭素原子数4以上18以下のアルキレンジアミンに由来する成分単位(b1)は、直鎖状アルキレンジアミンに由来する成分単位、または分岐鎖状アルキレンジアミン(側鎖を有するアルキレンジアミン)に由来する成分単位を含むことが好ましい。
【0035】
直鎖状アルキレンジアミンの例には、1,4-ジアミノブタン、1,6-ジアミノヘキサン、1,7-ジアミノヘプタン、1,8-ジアミノオクタン、1,9-ジアミノノナン、1,10-ジアミノデカン、1,11-ジアミノウンデカン、1,12-ジアミノドデカンなどが含まれる。直鎖状アルキレンジアミンは、1種のみ含まれてもよいし、2種以上含まれてもよい。
【0036】
分岐鎖状アルキレンジアミンの例には、2-メチル-1,5-ジアミノペンタン、2-メチル-1,6-ジアミノヘキサン、2-メチル-1,7-ジアミノヘプタン、2-メチル-1,8-ジアミノオクタン、2-メチル-1,9-ジアミノノナン、2-メチル-1,10-ジアミノデカン、2-メチル-1,11-ジアミノウンデカン等が含まれる。分岐鎖状アルキレンジアミンは、1種のみ含まれてもよいし、2種以上含まれてもよい。
【0037】
これらのうち、直鎖状アルキレンジアミンまたは分岐鎖状アルキレンジアミンは、1,4-ジアミノブタン、1,6-ジアミノヘキサン、1,9-ジアミノノナン、1,10-ジアミノデカン、2-メチル-1,5-ジアミノペンタン、および2-メチル-1,8-ジアミノオクタンが好ましく、1,6-ジアミノヘキサン、1,10-ジアミノデカンがより好ましい。
【0038】
樹脂の結晶性を高める観点からは、上記成分単位(b1)は、直鎖状アルキレンジアミンに由来する成分単位を含むことが好ましい。
【0039】
直鎖状アルキレンジアミンに由来する成分単位の含有量は、炭素原子数4以上18以下のアルキレンジアミンに由来する成分単位(b1)の総モル数に対して、30モル%以上100モル%以下であることが好ましく、40モル%以上70モル%以下であることがより好ましい。上記含有量が一定以上であると、ポリアミド樹脂の結晶性がより高まりやすくなる。
【0040】
分岐鎖状アルキレンジアミンに由来する成分単位の含有量は、炭素原子数4以上18以下のアルキレンジアミンに由来する成分単位(b1)の総モル数に対して、0モル%以上50モル%以下であることが好ましく、0モル%以上30モル%以下であることがより好ましい。上記含有量が上記範囲にあると、ポリアミド樹脂の結晶性がより高まりやすくなる。
【0041】
また、ジアミンに由来する成分単位(b)は、一般式(1)で表されるジアミンに由来する成分単位(b2)を含む。
【0042】
【化2】
【0043】
一般式(1)において、2つのmおよびnは、それぞれ独立して0または1であり、-X-は、単結合、または-O-、-S-、-SO-、-CO-および-CH-からなる群から選択される二価の基である。
【0044】
一般式(1)で表されるジアミンは、ビシクロ骨格を含む剛直な環状構造を有するため、ポリアミド樹脂の分子鎖の運動性を低下させる。そのため、上記構造を有するジアミンは、上記構造を有さないジアミンよりも、ポリアミド樹脂のガラス転移温度(Tg)を高くすることができる。これにより、ポリアミド樹脂が上記成分単位(b2)を含むことで、高温で長時間加熱された成形体の引張強度が高まり、かつ高い引張強度が長時間にわたって維持されると考えられる。
【0045】
また、上述のように、ポリアミド樹脂において上記成分単位(b2)を含むジアミンに由来する成分単位(b)の含有量を多くすることにより加熱後の成形体に対する可視光の反射率の低下を抑制することができる。
【0046】
また、上記成分単位(b2)は上述のように、ビシクロ骨格を有する剛直構造を有する。そのため、これを含むジアミンに由来する成分単位(b)の含有量を多くすることで、ポリアミド樹脂組成物の耐熱性を高めて、ポリアミド樹脂組成物を溶融成形する際の熱による分子鎖の切断が生じにくくなると考えられる。これにより、成形されたポリアミド樹脂組成物の着色を抑制して、成形体に対する可視光の反射率の低下を抑制することができる。
【0047】
一般式(1)において、2つのmおよびnはそれぞれ独立して0または1である。2つのmの一方または双方は1であることが好ましい。これにより、高温で長時間加熱された成形体の引張強度がより高まり、かつ高い引張強度がより長時間にわたって維持されやすくなる。
【0048】
一般式(1)において、nは0または1である。nが1であるとき、一般式(1)における-X-は、-O-、-S-であることが好ましい。ポリアミド樹脂組成物のガラス転移温度をより高くして、加熱後の成形体に対する可視光の反射率の低下をより抑制する観点から、nは0であることが好ましい。
【0049】
一般式(1)で表されるジアミンは、ノルボルナンジアミン(m=0、n=0)であるか、ビスアミノメチルノルボルナン(m=1、n=0)、であることが好ましく、ビスアミノメチルノルボルナンであることがより好ましく、2,5-ビスアミノメチルノルボルナンまたは2,6-ビスアミノメチルノルボルナンであることがさらに好ましい。式(1)で表されるジアミンは、2種類以上が含まれていてもよく、例えば、2,5-ビスアミノメチルノルボルナンおよび2,6-ビスアミノメチルノルボルナンの両方が含まれていてもよい。
【0050】
なお、一般式(1)で表されるジアミンが、幾何異性体を有するときは、いずれの異性体でもよく、その異性体比は特に限定されない。
【0051】
炭素原子数4以上18以下のアルキレンジアミンに由来する成分単位(b1)の含有量は、ジアミンに由来する成分単位(b)の総モル数に対して50モル%より多く90モル%以下である。上記含有量が50モル%より多いと、ポリアミド樹脂の結晶性をよりに高めて、樹脂の射出成形時の流動性、および成形体の引張強度をより高めることができる。上記含有量が90モル%以下であると、上記一般式(1)で表されるジアミンに由来する成分単位(b2)の含有量を高めることができる。これにより、ポリアミド樹脂のガラス転移温度(Tg)を高めて、高温で長時間加熱された成形体の引張強度が高まり、かつ高い引張強度を長時間にわたって維持できる。また、得られる成形体に対する可視光の反射率の低下、および高温で加熱した後の成形体に対する可視光の反射率の低下を抑制することができる。
【0052】
上記観点から、炭素原子数4以上18以下のアルキレンジアミンに由来する成分単位(b1)の含有量は、ジアミンに由来する成分単位(b)の総モル数に対して55モル%以上85モル%以下であることが好ましく、60モル%以上80モル%以下であることがより好ましい。
【0053】
上記一般式(1)で表されるジアミンに由来する成分単位(b2)の含有量は、ジアミンに由来する成分単位(b)の総モル数に対して、10モル%以上50モル%未満である。上記含有量が10モル%以上であると、ポリアミド樹脂ガラス転移温度(Tg)を高めて、成形体が高温で長時間加熱された後の引張強度を高め、かつ長時間維持することができる。また、得られる成形体に対する可視光の反射率の低下、および高温で加熱した後の成形体に対する可視光の反射率の低下を、抑制することができる。
【0054】
上記含有量が50モル%未満であると、炭素原子数4以上18以下のアルキレンジアミンに由来する成分単位(b1)の含有量を高めることができる。これにより、ポリアミド樹脂の結晶性を高めて、樹脂の射出成形時の流動性、および成形体の引張強度をより高めることができる。
【0055】
上記観点から、上記一般式(1)で表されるジアミンに由来する成分単位(b2)の含有量は、ジアミンに由来する成分単位(b)の総モル数に対して15モル%以上45モル%未満であることが好ましく、25モル%以上40モル%以下であることがより好ましく、27モル%以上38モル%以下であることがさらに好ましい。
【0056】
ジアミンに由来する成分単位(b)は、本発明の効果を損なわない範囲で、上記成分単位(b1)および(b2)以外の、他のジアミンに由来する成分単位(b3)をさらに含んでもよい。上記他のジアミンの例には、芳香族ジアミン、および1,3-ビス(アミノメチル)シクロヘキサン以外の他の脂環式ジアミンなどが含まれる。
【0057】
上記芳香族ジアミンの例には、メタキシリレンジアミンなどが含まれる。上記他の脂環式ジアミンの例には、1,4-ジアミノシクロヘキサン、1,3-ジアミノシクロヘキサンなどが含まれる
【0058】
上記他のジアミンに由来する成分単位(b3)の含有量は、ジアミンに由来する成分単位(b)の総モル数に対して、例えば、50モル%以下とすることができる。
【0059】
ポリアミド樹脂の各構成単位およびその比率は、ポリアミド樹脂の調製時の仕込み比から算出するか、または、NMR法で測定することができる。
【0060】
H NMRスペクトルを用いて測定する場合、測定方法は、例えば、ポリアミド樹脂30mgを重水素化ヘキサフロロイソプロパノール(HFIP)0.5mLに溶解し、NMR測定用サンプルを準備する。準備したサンプルについて、核磁気共鳴装置(ECA-500型、日本電子株式会社製)でNMR測定を行い、得られたスペクトル中の、ポリアミド樹脂を構成する各成分の水素由来のピーク面積から、各成分の比率を算出する。
【0061】
13C-NMR測定の場合、例えば、測定装置として核磁気共鳴装置(日本電子(株)製ECP500型)を用い、溶媒としてオルトジクロロベンゼン/重ベンゼン(80/20容量%)混合溶媒、測定温度は120℃、観測核は13C(125MHz)、シングルパルスプロトンデカップリング、45°パルス、繰り返し時間は5.5秒、積算回数は1万回以上、27.50ppmをケミカルシフトの基準値とする条件である。各種シグナルのアサインは常法を基にして行い、シグナル強度の積算値を基に定量を行うことができる。
【0062】
(ポリアミド樹脂の組成)
本発明のポリアミド樹脂組成物は、ジカルボン酸に由来する成分単位(a)の含有量に対する、ジアミンに由来する成分単位(b)の含有量のモル比((b)/(a))が、1.010以上である。上述のように、上記モル比が1.010以上であることで、成形体が加熱された後も、可視光の反射率の低下を抑制することができる。
【0063】
また、上記モル比が1.010以上であることで、ポリアミド樹脂組成物の酸化劣化を抑制することができるため、成形体が高温で長時間加熱された後も引張強度を高めることができると考えられる。また、上記モル比が1.010以上であることで、後述する末端アミノ基量を好ましい範囲に調整しやすくすることができる。
【0064】
さらに、上記モル比が1.010以上であることで、得られる成形体の着色を抑制し、成形体に対する可視光の反射率低下を抑制することができる。
【0065】
これらの観点から、上記モル比は、1.025以上であることが好ましく、1.030より大きいことがより好ましく、1.040以上であることがさらに好ましい。上記モル比の上限値は、特に限定されないが、1.1以下であることが好ましい。
【0066】
上記モル比は、ポリアミド樹脂の調製時の仕込み比から算出するか、または、NMR法で測定することができる。NMR法については、上述した方法と同様に行うことができる。
【0067】
ポリアミド樹脂の末端カルボキシル基量は、100mmol/kg以下であることが好ましい。上記末端カルボキシル基量が100mmol/kg以下であることで、ポリアミド樹脂中の末端アミノ基量をより増加させて、成形体が加熱された後も可視光の反射率がより低下しにくくなる。
【0068】
また、ポリアミド樹脂組成物の成形体は、車載部材として、例えばエンジンを冷却するための冷却水を送液するウォーターポンプの筐体などに用いられ得る。ウォーターポンプは冷却水としてロングライフクーラント(LLC)などの不凍液を使用することがある。このとき、成形体がLLCに晒されることにより、ポリアミド樹脂の加水分解が生じて成形体の引張強度(耐LLC性)が低下することがある。これに対して、ポリアミド樹脂の末端カルボキシル基量が、100mmol/kg以下であることで、アミノ基よりも高い吸水性を有するカルボキシル基の量を減らして、加水分解の促進を抑制することができる。これにより、成形体の耐加水分解性および耐LLC性を高めることができる。
【0069】
これらの観点から、ポリアミド樹脂の末端カルボキシル基量は、70mmol/kg以下であることであることがより好ましく、50mmol/kg以下であることがさらに好ましく、30mmol/kg以下であることがさらに好ましい。上記末端カルボキシル基量の下限値は、特に限定されないが、1mmol/kg以上であることが好ましい。
【0070】
上記末端カルボキシル基量は、例えば、NMRを用いて測定することができる。測定方法は、例えば、ポリアミド樹脂30mgを重水素化ヘキサフロロイソプロパノール(HFIP)0.5mLに溶解し、NMR測定用サンプルを準備する。準備したサンプルについて、核磁気共鳴装置(ECA-500型、日本電子株式会社製)でNMR測定を行い、得られたスペクトル中の、ポリアミド樹脂を構成する各成分の水素由来のピーク面積からポリアミド樹脂の分子量を算出し、末端基特有の水素由来のピーク面積と分子量の値を用い、末端カルボキシル基量(mmоl/kg)を算出する。
【0071】
ポリアミド樹脂の末端アミノ基量は、40mmol/kg以上であることが好ましい。上記末端アミノ基量が、40mmol/kg以上であることで、成形体が加熱された際に生じる分子鎖の連鎖的な切断をより停止しやすくすることができ、可視光の反射率の低下、および加熱後の引張強度の低下をより抑制することができる。上記観点から、上記末端アミノ基量は、60mmol/kg以上であることがより好ましく、80mmol/kg以上であることがさらに好ましい。上記末端アミノ基量の上限値は、特に限定されないが、200mmol/kg以下であることが好ましい。
【0072】
上記末端アミノ基量は、例えば、以下の方法により測定することができる。
【0073】
ポリアミド樹脂1gをフェノール35mLに溶解させ、メタノールを2mL混合し、試料溶液とする。チモールブルーを指示薬とし、当該試料溶液に対して0.01規定の塩酸水溶液を、電位差滴定装置(メトローム社製)を用いて、青色から黄色になるまで滴定を実施し、末端アミノ基量([NH]、単位:mmol/kg)を測定する。
【0074】
ポリアミド樹脂の末端カルボキシル基量と、末端アミノ基量の合計量は、130mmol/kg以下であることが好ましい。上記末端カルボキシル基量と、末端アミノ基量の合計が、130mmol/kg以下であると、よりポリアミド樹脂の加水分解が起こりにくくなり、耐加水分解性および耐LLC性をより高めることができる。上記観点から上記末端カルボキシル基量と、末端アミノ基量の合計量は、120mmol/kg以下であることがより好ましく、115mmol/kg以下であることがさらに好ましい。上記合計量の下限値は、特に限定されないが、30mmol/kg以上であることが好ましい。
【0075】
ポリアミド樹脂の末端カルボキシル基量に対する、末端アミノ基量の比率は、1.0よりも大きいであることが好ましい。上記比率が1.0よりも大きいことで、末端アミノ基量を増加させて、成形体が加熱された際に生じる分子鎖の連鎖的な切断をより停止しやすくすることができ、可視光の反射率の低下、および加熱後の引張強度の低下をより抑制することができる。上記観点から、1.2以上がより好ましく、3.0以上がさらに好ましい。上記比率の上限値は特に限定されないが、100以下が好ましい。
【0076】
上記末端カルボキシル基量および末端アミノ基量は、上記モル比((b)/(a))を調整するか、ポリアミド樹脂の合成時に末端封止剤を用いることによって、上記範囲に調整することができる。
【0077】
末端封止剤は、例えば分子末端がカルボキシル基の場合は、モノアミンであることが好ましく、分子末端がアミノ基である場合は、モノカルボン酸であることが好ましい。
【0078】
モノアミンの例には、メチルアミン、エチルアミン、プロピルアミン、およびブチルアミンなどを含む脂肪族モノアミン、シクロヘキシルアミン、およびジシクロヘキシルアミンなどを含む脂環式モノアミン、ならびに、アニリン、およびトルイジンなどを含む芳香族モノアミンなどが含まれる。モノカルボン酸の例には、酢酸、プロピオン酸、酪酸、吉草酸、カプロン酸、カプリル酸、ラウリン酸、トリデシル酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、ステアリン酸、オレイン酸およびリノ-ル酸などを含む炭素原子数2以上30以下の脂肪族モノカルボン酸、安息香酸、トルイル酸、ナフタレンカルボン酸、メチルナフタレンカルボン酸およびフェニル酢酸などを含む芳香族モノカルボン酸、ならびにシクロヘキサンカルボン酸などを含む脂環式モノカルボン酸が含まれる。芳香族モノカルボン酸および脂環式モノカルボン酸は、環状構造部分に置換基を有していてもよい。
【0079】
(物性)
本発明におけるポリアミド樹脂は、示差走査熱量計(DSC)で測定される融点(Tm)を280℃以上335℃以下とすることができる。上記融点(Tm)が280℃以上であると、ポリアミド樹脂組成物および成形体の機械的強度および耐熱性が損なわれにくい。また、上記融点(Tm)が335℃以下であると、成形温度を過剰に高くせずに、ポリアミド樹脂組成物を成形しやすくすることができ、成形加工性をより良好にすることができる。上記観点から、ポリアミド樹脂の融点(Tm)は、290℃以上330℃以下であることがより好ましく、300℃以上325℃以下であることがさらに好ましい。
【0080】
また、上記ポリアミド樹脂は、示差走査熱量計(DSC)で測定されるガラス転移温度(Tg)を、135℃以上180℃以下とすることができる。上記ガラス転移温度(Tg)が135℃以上であると、高温高湿環境下におけるポリアミド樹脂組成物および成形体の、引張強度をより高くし、かつより長時間維持することができる。上記ガラス転移温度(Tg)が180℃以下であると、ポリアミド樹脂組成物の成形加工性をより良好とすることができる。上記観点から、ポリアミド樹脂のガラス転移温度(Tg)は、140℃以上170℃以下であることがより好ましい。
【0081】
上記ポリアミド樹脂の融解熱量(ΔH)は、10mJ/mg以上であることが好ましい。ポリアミド樹脂の融解熱量(ΔH)が10mJ/mg以上であると、結晶性がより高まるため、射出成形時の流動性および引張強度を高めやすい。上記観点から、上記融解熱量(ΔH)は、15mJ/mg以上であることがより好ましく、20mJ/mg以上であることがさらに好ましい。なお、結晶性ポリアミド樹脂の融解熱量(ΔH)の上限値は、特に制限されないが、成形加工性を損なわないようにする観点から、90mJ/mg以下とすることができる。
【0082】
なお、ポリアミド樹脂の融点(Tm)、ガラス転移温度(Tg)および融解熱量(ΔH)は、示差走査熱量計(DSC220C型、セイコーインスツル社製)を用いて測定することができる。
【0083】
具体的には、約5mgのポリアミド樹脂を測定用アルミニウムパン中に密封し、室温から10℃/minで350℃まで加熱する。樹脂を完全融解させるために、350℃で3分間保持し、次いで、10℃/minで30℃まで冷却する。30℃で5分間置いた後、10℃/minで350℃まで2度目の加熱を行う。この2度目の加熱における吸熱ピークの温度(℃)をポリアミド樹脂の融点(Tm)とし、ガラス転移に相当する変位点をガラス転移温度(Tg)とする。融解熱量(ΔH)は、JIS K7122:2012に準じて、1度目の昇温過程での融解時の吸熱ピークの面積から求める。
【0084】
ポリアミド樹脂の融点(Tm)、ガラス転移温度(Tg)および融解熱量(ΔH)は、ジカルボン酸に由来する成分単位(a)の組成および含有量、ジアミンに由来する成分単位(b)の組成および含有量によって調整することができる。
【0085】
ポリアミド樹脂の、濃硫酸中25℃の温度で測定される極限粘度[η]は、0.6dl/g以上1.5dl/g以下であることが好ましく、0.8dl/g以上1.2dl/g以下であることがより好ましい。ポリアミド樹脂(A)の極限粘度[η]が0.6dl/g以上であると、ポリアミド樹脂の引張強度が十分に高まりやすい。極限粘度[η]が1.5dl/g以下であると、ポリアミド樹脂組成物の成形時の流動性が損なわれにくい。
【0086】
ポリアミド樹脂の極限粘度[η]は、以下のようにして測定することができる。ポリアミド樹脂(A)0.5gを96.5%硫酸溶液50mlに溶解させて、試料溶液とする。得られた溶液の、25℃±0.05℃の条件下での流下秒数を、ウベローデ粘度計を使用して測定し、下記式に基づき算出する。
[η]=ηSP/(C*(1+0.205ηSP))
[η]:極限粘度(dl/g)
ηSP:比粘度
C:試料濃度(g/dl)
t:試料溶液の流下秒数(秒)
:ブランク硫酸の流下秒数(秒)
ηSP=(t-t)/t
【0087】
ポリアミド樹脂は、公知のポリアミド樹脂と同様の方法で製造することができ、例えばジカルボン酸とジアミンとを均一溶液中で重縮合させて製造することができる。具体的には、ジカルボン酸とジアミンとを、国際公開第03/085029号に記載されているように触媒の存在下で加熱することにより低次縮合物を得て、次いでこの低次縮合物の溶融物にせん断応力を付与して重縮合させることで製造することができる。
【0088】
1-2.強化材
本発明におけるポリアミド樹脂組成物は、強化材を含んでもよい。
【0089】
強化材は、ポリアミド樹脂組成物に、より高い引張強度を付与することができる。強化材の例には、ガラス繊維、ワラストナイト、チタン酸カリウムウィスカー、炭酸カルシウムウィスカー、ホウ酸アルミニウムウィスカー、硫酸マグネシウムウィスカー、酸化亜鉛ウィスカー、ミルドファイバーおよびカットファイバーなどの繊維状強化材、ならびに粒状強化材が含まれる。これらは、ポリアミド樹脂組成物中に1種のみ含まれてもよいし、2種以上含まれてもよい。これらのうち、成形体の引張強度を高めやすいことなどから、ワラストナイト、ガラス繊維、チタン酸カリウムウィスカーが好ましく、ワラストナイトまたはガラス繊維がより好ましい。
【0090】
繊維状強化材の平均繊維長は、例えば1μm以上20mm以下とすることができる。ポリアミド樹脂組成物の成形性、および得られる成形体の引張強度および耐熱性をより高める観点から、上記平均繊維長は、5μm以上10mm以下であることが好ましい。また、繊維状強化材のアスペクト比は、例えば5以上2000以下とすることができ、30以上600以下であることが好ましい。
【0091】
繊維状強化材の平均繊維長と平均繊維径は、以下の方法により測定することができる。
1)樹脂組成物を、ヘキサフルオロイソプロパノール/クロロホルム溶液(0.1/0.9体積%)に溶解させた後、濾過して得られる濾過物を採取する。
2)上記1)で得られた濾過物を水に分散させ、光学顕微鏡(倍率:50倍)で任意の300本それぞれの繊維長(Li)と繊維径(di)を計測する。繊維長がLiである繊維の本数をqiとし、次式に基づいて重量平均長さ(Lw)を算出し、これを繊維状強化材の平均繊維長とする。
重量平均長さ(Lw)=(Σqi×Li)/(Σqi×Li)
同様に、繊維径がDiである繊維の本数をriとし、次式に基づいて重量平均径(Dw)を算出し、これを繊維状強化材の平均繊維径とする。
重量平均径(Dw)=(Σri×Di)/(Σri×Di)
【0092】
1-3.結晶核剤
本発明におけるポリアミド樹脂組成物は、結晶核剤を含んでもよい。
【0093】
結晶核剤は、成形体の結晶化度をより高めることができる。結晶核剤の例には、リン酸-2,2-メチレンビス(4,6-ジ-t-ブチルフェニル)ナトリウム、トリス(p-t-ブチル安息香酸)アルミニウム、およびステアリン酸塩などを含む金属塩系化合物、ビス(p-メチルベンジリデン)ソルビトール、およびビス(4-エチルベンジリデン)ソルビトールなどを含むソルビトール系化合物、ならびに、タルク、炭酸カルシウム、およびハイドロタルサイトなどを含む無機物などが含まれる。これらのうち、成形体の結晶化度をより高める観点から、タルクが好ましい。これらの結晶核剤は、ポリアミド樹脂組成物中に1種のみ含まれてもよいし、2種以上含まれてもよい。
【0094】
1-4.他の成分
本発明におけるポリアミド樹脂組成物は、本発明の効果を損なわない範囲で、公知の他の成分を含んでもよい。他の成分の例には、滑剤、酸化防止剤、難燃剤、耐腐食性向上剤、ドリップ防止剤、イオン捕捉剤、エラストマー(ゴム)、帯電防止剤、離型剤、耐熱安定剤(ラクトン化合物、ビタミンE類、ハイドロキノン類、ハロゲン化銅およびヨウ素化合物など)、光安定剤(ベンゾトリアゾール類、トリアジン類、ベンゾフェノン類、ベンゾエート類、ヒンダードアミン類およびオギザニリド類など)、他の重合体(ポリオレフィン類、エチレン・プロピレン共重合体、エチレン・1-ブテン共重合体などのオレフィン共重合体、プロピレン・1-ブテン共重合体などのオレフィン共重合体、ポリスチレン、ポリアミド、ポリカーボネート、ポリアセタール、ポリスルフォン、ポリフェニレンオキシド、フッ素樹脂、シリコーン樹脂およびLCP)などが含まれる。
【0095】
滑剤の例には、オキシカルボン酸金属塩および高級脂肪酸金属塩などの脂肪酸金属塩となどが含まれる。
【0096】
上記オキシカルボン酸金属塩を構成するオキシカルボン酸は、脂肪族オキシカルボン酸であってもよく、芳香族オキシカルボン酸であってもよい。上記脂肪族オキシカルボン酸の例には、α-ヒドロキシミリスチン酸、α-ヒドロキシパルミチン酸、α-ヒドロキシステアリン酸、α-ヒドロキシエイコサン酸、α-ヒドロキシドコサン酸、α-ヒドロキシテトラエイコサン酸、α-ヒドロキシヘキサエイコサン酸、α-ヒドロキシオクタエイコサン酸、α-ヒドロキシトリアコンタン酸、β-ヒドロキシミリスチン酸、10-ヒドロキシデカン酸、15-ヒドロキシペンタデカン酸、16-ヒドロキシヘキサデカン酸、12-ヒドロキシステアリン酸、およびリシノール酸などの炭素原子数10以上30以下の脂肪族のオキシカルボン酸が含まれる。上記芳香族オキシカルボン酸の例には、サリチル酸、m-オキシ安息香酸、p-オキシ安息香酸、没食子酸、マンデル酸、およびトロバ酸などが含まれる。
【0097】
上記オキシカルボン酸金属塩を構成する金属の例には、リチウムなどのアルカリ金属、ならびにマグネシウム、カルシウムおよびバリウムなどのアルカリ土類金属が含まれる。
【0098】
これらのうち、上記オキシカルボン酸金属塩は、12-ヒドロキシステアリン酸の金属塩であることが好ましく、12-ヒドロキシステアリン酸マグネシウムおよび12-ヒドロキシステアリン酸カルシウムがより好ましい。
【0099】
上記高級脂肪酸金属塩を構成する高級脂肪酸の例は、ステアリン酸、オレイン酸、ベヘニン酸、ベヘン酸、およびモンタン酸などの炭素原子数15以上30以下の高級脂肪酸が含まれる。
【0100】
上記高級脂肪酸金属塩を構成する金属の例には、カルシウム、マグネシウム、バリウム、リチウム、アルミニウム、亜鉛、ナトリウム、およびカリウムなどが含まれる。
【0101】
これらのうち、上記高級脂肪酸金属塩は、ステアリン酸カルシウム、ステアリン酸マグネシウム、ステアリン酸バリウム、ベヘン酸カルシウム、モンタン酸ナトリウム、およびモンタン酸カルシウムなどであることが好ましい。
【0102】
酸化防止剤の例には、リン系酸化防止剤、フェノール系酸化防止剤、アミン系酸化防止剤、硫黄系酸化防止剤が含まれる。酸化防止剤がポリアミド樹脂組成物に含まれることで、加熱された際の酸化劣化をより十分に抑制して、加熱後の可視光の反射率の低下、および引張強度の低下をより十分に抑制することができる。
【0103】
リン系酸化防止剤の例には、9,10-ジヒドロ-9-オキサ-10-ホスファフェナントレン-10-オキシド、トリフェニルホスファイト、2-エチルヘキシル酸ホスフェート、ジラウリルホスファイト、トリ-iso-オクチルホスファイト、トリス(2,4-ジ-tert-ブチルフェニル)ホスファイト、トリラウリルホスファイト、トリラウリル-ジ-チオホスファイト、トリラウリル-トリ-チオホスファイト、トリスノニルフェニルホスファイト、ジステアリルペンタエリスリトールジホスファイト、トリス(モノノニルフェニル)ホスファイト、トリス(ジノニルフェニル)ホスファイト、トリオクタデシルホスファイト、1,1,3-トリス(2-メチル-ジ-トリデシルホスファイト-5-tert-ブチルフェニル)ブタン、4,4′-ブチリデン-ビス(3-メチル-6-tert-ブチル)トリデシルホスファイト、4,4′-ブチリデン-ビス(3-メチル-6-tert-ブチル-ジ-トリデシル)ホスファイト、ビス(2,4-ジ-tert-ブチルフェニル)ペンタエリスリトール-ジ-ホスファイト、ビス(2,6-ジ-tert-ブチル-4-メチルフェニル)ペンタエリスリトール-ジ-ホスファイト、テトラキス(2,4-ジ-tert-ブチルフェニル)4,4′-ビスフェニレンジホスファイト、ジステアリルペンタエリスリトールジホスファイト、トリデシルホスファイト、トリステアリルホスファイト、2,2′-メチレンビス(4,6-ジ-tert-ブチルフェニル)オクチルホスファイト、ソルビット-トリス-ホスファイト-ジステアリル-モノ-C30-ジオールエステルおよびビス(2,4,6-トリ-tert-ブチルフェニル)ペンタエリスリトールジホスファイトが含まれる。これらの中でも、ビス(2,4-ジ-tert-ブチルフェニル)ペンタエリスリトール-ジ-ホスファイトおよびビス(2,6-ジ-tert-ブチル-4-メチルフェニル)ペンタエリスリトール-ジ-ホスファイトなどのペンタエリスリトール-ジ-ホスファイト系のリン系酸化防止剤、ならびに、テトラキス(2,4-ジ-tert-ブチルフェニル)4,4′-ビスフェニレンジホスファイトが含まれる。
【0104】
フェノール系酸化防止剤の例には、3,9-ビス{2-[3-(3-tert-ブチル-4-ヒドロキシ-5-メチルフェニル)プロピオニル]-1,1-ジメチルエチル}-2,4,8,10-テトラオキサスピロ[5,5]ウンデカン、2,6-ジ-tert-ブチル-p-クレゾール、2,4,6-トリ-tert-ブチルフェノール、n-オクタデシル-3-(4′-ヒドロキシ-3′,5′-ジ-tert-ブチルフェノール)プロピオネート、スチレン化フェノール、4-ヒドロキシ-メチル-2,6-ジ-tert-ブチルフェノール、2,5-ジ-tert-ブチル-ハイドロキノン、シクロヘキシルフェノール、ブチルヒドロキシアニゾール、2,2′-メチレン-ビス-(4-メチル-6-tert-ブチルフェノール)、2,2′-メチレン-ビス-(4-エチル-6-tert-ブチルフェノール)、4,4′-イソ-プロピリデンビスフェノール、4,4′-ブチリデン-ビス(3-メチル-6-tert-ブチルフェノール)、1,1-ビス-(4-ヒドロオキシ-フェニル)シクロヘキサン、4,4′-メチレン-ビス-(2,6-ジ-tert-ブチルフェノール)、2,6-ビス(2′-ヒドロオキシ-3′-tert-ブチル-5′-メチルメチルベンジル)4-メチル-フェノール、1,1,3-トリス(2-メチル-4-ヒドロオキシ-5-tert-ブチル-フェニル)ブタン、1,3,5-トリス-メチル-2,4,6-トリス(3,5-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロオキシ-ベンジル)ベンゼン、テトラキス[メチレン-3-(3,5-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロオキシフェニル)プロピオネート]メタン、トリス(3,5-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロオキシフェニル)イソシアヌレート、トリス[β-(3,5-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオニル-オキシエチル]イソシアネート、4,4′-チオビス(3-メチル-6-tert-ブチルフェノール)、2,2′-チオビス(4-メチル-6-tert-ブチルフェノール)、4,4′-チオビス(2-メチル-6-tert-ブチルフェノール)、およびN,N′-ヘキサメチレンビス(3,5-ジ-tert-ブチルフェノール-4-ヒドロキシシンナムアミド)が含まれる。
【0105】
アミン系酸化防止剤の例には、4,4′-ビス(α,α-ジメチルベンジル)ジフェニルアミン、フェニル-α-ナフチルアミン、フェニル-β-ナフチルアミン、N,N′-ジフェニル-p-フェニレンジアミン、N,N′-ジ-β-ナフチル-p-フェニレンジアミン、N-シクロヘキシル-N′-フェニル-p-フェニレンジアミン、N-フェニル-N′-イソプロピル-p-フェニレンジアミン、アルドール-α-ナフチルアミン、2,2,4-トリメチル-1,2-ジハイドロキノンのポリマーおよび6-エトキシ-2,2,4-トリメチル-1,2-ジヒドロキノリンが含まれる。
【0106】
硫黄系酸化防止剤の例には、チオビス(β-ナフトール)、チオビス(N-フェニル-β-ナフチルアミン)、2-メルカプトベンゾチアゾール、2-メルカプトベンゾイミダゾール、ドデシルメルカプタン、テトラメチルチウラムモノサルファイド、テトラメチルチウラムジサルファイド、ニッケルジブチルジチオカルバメート、ニッケルイソプロピルキサンテート、ジラウリルチオジプロピオネートおよびジステアリルチオジプロピオネートが含まれる。
【0107】
1-5.ポリアミド樹脂組成物の組成
上述したポリアミド樹脂の含有量は、ポリアミド樹脂組成物の全質量に対して、例えば、20質量%以上100質量%以下とすることができ、25質量%以上95質量%以下であることが好ましく、30質量%以上80質量%以下であることがより好ましい。
【0108】
ポリアミド樹脂組成物が強化材を含むとき、強化材の含有量は、特に制限されないが、ポリアミド樹脂組成物の全質量に対して、例えば、15質量%以上70質量%以下とすることができ、20質量%以上50質量%以下であることが好ましい。上記含有量が上記範囲であると、ポリアミド樹脂組成物の引張強度をより高めることができる。
【0109】
ポリアミド樹脂組成物が結晶核剤を含むとき、結晶核剤の含有量は、ポリアミド樹脂組成物の全質量に対して、0.1質量部以上5.0質量部以下であることが好ましく、0.1質量部以上3.0質量部以下であることがより好ましい。結晶核剤の含有量が上記範囲内であると、成形体の結晶化度を十分に高めやすく、成形体の引張強度をより高めることができる。
【0110】
1-6.ポリアミド樹脂組成物の物性
ポリアミド樹脂組成物は、成形体に対する可視光の反射率と、160℃で2時間加熱した上記成形体に対する可視光の反射率と、の差で表される反射率変化量が5%以下であることが好ましく、4%以下であることがより好ましい。
【0111】
上記反射率は、例えば、分光測色計(CM3500d、コニカミノルタ株式会社製)を用いて、波長領域360nm~740nmの反射率のうち。波長540nmの反射率を代表値として求めることができる。
【0112】
成形体を加熱する方法は特に限定されず、例えば、オーブン等を用いて加熱することができる。
【0113】
1-7.ポリアミド樹脂組成物の製造方法
本発明のポリアミド樹脂組成物は、任意の方法で製造することができる。例えば、上記ポリアミド樹脂と、必要に応じて他の成分とを混合し、溶融混練する工程と、混合、溶融混練後、必要に応じてさらに造粒または粉砕する工程とを経て製造することができる。
【0114】
混合方法は、公知の方法を用いることができ、例えば、ヘンシェルミキサー、Vブレンダー、リボンブレンダー、タンブラーブレンダーなどを用いて混合することができる。
【0115】
溶融混練方法は、公知の方法を用いることができ、例えば、一軸押出機、多軸押出機、ニーダー、バンバリーミキサーなどを用いて溶融混練することができる。
【0116】
造粒または粉砕する方法は、公知の方法を用いることができ、例えば、ペレタイザーを用いて造粒または粉砕することができる。
【0117】
2.ポリアミド成形体
本発明のポリアミド成形体は、本発明のポリアミド樹脂組成物を成形してなる。
【0118】
すなわち、上記のようにして調製したポリアミド樹脂組成物を用いて、通常の溶融成形法、例えば、圧縮成形法、射出成形法または押出成形法などにより、所望の形状の成形体を製造することができる。
【0119】
例えば、本発明のポリアミド樹脂組成物を、シリンダー温度がポリアミド樹脂の融点以上、例えば、270℃以上360℃以下程度に調整された射出成形機に投入して溶融状態にして、所定の形状の金型内に導入することにより成形体を製造することができる。
【0120】
本発明のポリアミド樹脂組成物を用いて製造される成形体の形状は、特に制限はなく、用途に応じて種々の形状をとりうる。
【0121】
本発明のポリアミド樹脂組成物の成形体は、各種用途に用いることができる。そのような用途の例には、ラジエータグリル、リアスポイラー、ホイールカバー、ホイールキャップ、カウルベント・グリル、エアアウトレット・ルーバー、エアスクープ、フードバルジ、サンルーフ、サンルーフ・レール、フェンダーおよびバックドアなどの自動車用外装部品;シリンダーヘッド・カバー、エンジンマウント、エアインテーク・マニホールド、スロットルボディ、エアインテーク・パイプ、ラジエータタンク、ラジエータサポート、ウォーターポンプ、ウォーターポンプ・インレット、ウォーターポンプ・アウトレットなどのウォーターポンプ筐体;ウォータージャケットスペーサ―、サーモスタットハウジングなどのサーモスタット筐体;クーリングファン、ファンシュラウド、オイルパン、オイルフィルター・ハウジング、オイルフィラー・キャップ、オイルレベル・ゲージ、オイルポンプ、タイミング・ベルト、タイミング・ベルトカバーおよびエンジン・カバー、ターボ関連部品などの自動車用エンジンルーム内部品;フューエルキャップ、フューエルフィラー・チューブ、自動車用燃料タンク、フューエルセンダー・モジュール、フューエルカットオフ・バルブ、クイックコネクタ、キャニスター、フューエルデリバリー・パイプおよびフューエルフィラーネックなどの自動車用燃料系部品;シフトレバー・ハウジングおよびプロペラシャフトなどの自動車用駆動系部品、スタビライザーバー・リンケージロッド、エンジンマウントブラケットなどの自動車用シャシー部品、ウインドーレギュレータ、ドアロック、ドアハンドル、アウトサイド・ドアミラー・ステー、ワイパーおよびその部品、アクセルペダル、ペダル・モジュール、継手、樹脂ネジ、ナット、ブッシュ、シールリング、軸受、ベアリングリテーナー、ギアおよびアクチュエーターなどの自動車用機能部品;ワイヤーハーネス・コネクター、リレーブロック、センサーハウジング、ヒューズ部品、エンキャプシュレーション、イグニッションコイルおよびディストリビューター・キャップ、高電圧系車載用電気部品などの自動車用エレクトロニクス部品;汎用機器(刈り払い機、芝刈り機およびチェーンソー)用燃料タンクなどの汎用機器用燃料系部品、コネクタおよびLEDリフレクタなどの電気電子部品;建材部品、産業用機器部品、ならびに、小型筐体(パソコンや携帯電話などの筐体を含む)、外装成形品などの各種筐体または外装部品が含まれる。
【0122】
中でも、本発明のポリアミド樹脂組成物は、成形体が加熱された後も、可視光の反射率の低下を抑制して、変色の発生を抑制することができるため、車載部材、特に塗装を要するバックドアなどの自動車用外装部品に好適に用いることができる。その他、本発明の樹脂組成物は、自動車用エレクトロニクス部品、電気電子部品、産業用機器部品、および電気機器の筐体または外装部品などの電気機器の部品に好適に用いることができる。
【実施例0123】
以下、実施例を参照して本発明を具体的に説明するが、本発明の範囲は実施例の記載に限定されない。
【0124】
1.構成材料
1-1.ポリアミド樹脂の合成
(合成例1)
テレフタル酸259.5g(1562.0ミリモル)、1,6-ジアミノヘキサン123.2g(1060.2ミリモル)、ビスアミノメチルノルボルナン88.1g(572.1ミリモル)、触媒として次亜リン酸ナトリウム一水和物0.37g(3.49ミリモル)、および蒸留水81.8gを内容量1Lのオートクレーブに入れ、窒素置換した。190℃から攪拌を開始し、3時間かけて内部温度を250℃まで昇温した。このとき、オートクレーブの内圧を3.0MPaまで昇圧させた。このまま1時間反応を続けた後、オートクレーブ下部に設置したスプレーノズルから大気放出して低次縮合物を抜き出した。その後、低次縮合物を室温まで冷却後、粉砕機で1.5mm以下の粒径まで粉砕し、110℃で24時間乾燥した。
【0125】
次に、この低縮合物を棚段式固相重合装置に入れ、窒素置換後、約1時間30分かけて215℃まで昇温した。その後、1時間30分反応させ、室温まで降温した。得られたプレポリマーの極限粘度は0.70dl/gであった。
【0126】
得られたプレポリマーを、スクリュー径30mm、L/D=36の二軸押出機を用いてバレル設定温度330℃、スクリュー回転数200rpm、6kg/hの樹脂供給速度で溶融重合させてポリアミド樹脂1を得た。得られたポリアミド樹脂1の極限粘度[η]は0.9dl/g、末端アミン量は70mmоl/kg、末端カルボキシル基量は40mmоl/kgであり、融点(Tm)は312℃、ガラス転移温度(Tg)は167℃、融解熱量(ΔH)は44mJ/gであった。また、ジアミンに由来する成分単位の含有量(b)の、ジカルボン酸に由来する成分単位(a)の含有量に対するモル比は、1.045であった。
【0127】
(合成例2)
オートクレーブに入れたテレフタル酸の量を259.5g(1562.0ミリモル)、1,6-ジアミノヘキサンの量を124.4g(1070.6ミリモル)、ビスアミノメチルノルボルナンの量を89.0g(577.2ミリモル)とした以外は合成例1と同様にして、ポリアミド樹脂2を得た。得られたポリアミド樹脂2の相対粘度ηrelは0.9であり、極限粘度[η]は0.9dl/gであり、末端アミン量は100mmоl/kgであり、末端カルボキシル基量は20mmоl/kg未満であり、測定不能であった。また、融点(Tm)は312℃、ガラス転移温度(Tg)は167℃、融解熱量ΔHは44mJ/gであった。また、ジアミンに由来する成分単位の含有量(b)の、ジカルボン酸に由来する成分単位(a)の含有量に対するモル比は、1.055であった。
【0128】
(合成例3)
オートクレーブに入れたテレフタル酸の量を259.5g(1562.0ミリモル)、1,6-ジアミノヘキサンの量を118.9g(1023.2ミリモル)、ビスアミノメチルノルボルナンの量を85.0g(551.0ミリモル)とした以外は合成例1と同様にして、ポリアミド樹脂3を得た。得られたポリアミド樹脂3の相対粘度ηrelは0.9であり、極限粘度[η]は0.97dl/gであり、末端アミン量は20mmоl/kg未満であり測定不能であった。また、末端カルボキシル基量は100mmоl/kgであり、融点(Tm)は312℃、ガラス転移温度(Tg)は167℃、融解熱量ΔHは44mJ/gであった。また、ジアミンに由来する成分単位の含有量(b)の、ジカルボン酸に由来する成分単位(a)の含有量に対するモル比は、1.008であった。
【0129】
(合成例4)
オートクレーブに入れたテレフタル酸の量を259.5g(1562.0ミリモル)、1,6-ジアミノヘキサンの量を118.0g(1015.5ミリモル)、ビスアミノメチルノルボルナンの量を84.3g(546.5ミリモル)とした以外は合成例1と同様にして、ポリアミド樹脂4を得た。得られたポリアミド樹脂3の相対粘度ηrelは0.8であり、極限粘度[η]は0.8dl/gであり、末端アミン量は20mmоl/kg未満であり測定不能であった。また、末端カルボキシル基量は120mmоl/kgであり、融点(Tm)は312℃、ガラス転移温度(Tg)は167℃、融解熱量ΔHは44mJ/gであった。また、ジアミンに由来する成分単位の含有量(b)の、ジカルボン酸に由来する成分単位(a)の含有量に対するモル比は、1.000であった。
【0130】
ポリアミド樹脂1~4の極限粘度[η]、末端アミノ基量、末端カルボキシル基量、融点(Tm)、ガラス転移温度(Tg)、および融解熱量ΔHは以下の方法により測定した。
【0131】
(極限粘度)
ポリアミド樹脂1~4の極限粘度[η]は以下のようにして測定した。ポリアミド樹脂0.5gを96.5%硫酸溶液50mlに溶解させた。得られた溶液の、25℃±0.05℃の条件下での流下秒数を、ウベローデ粘度計を使用して測定し、「数式:[η]=ηSP/(C(1+0.205ηSP))」に基づき算出した。
[η]:極限粘度(dl/g)
ηSP:比粘度
C:試料濃度(g/dl)
t:試料溶液の流下秒数(秒)
:ブランク硫酸の流下秒数(秒)
ηSP=(t-t)/t
【0132】
(末端アミノ基量)
ポリアミド樹脂1gをフェノール35mLに溶解させ、メタノールを2mL混合し、試料溶液とした。チモールブルーを指示薬とし、当該試料溶液に対して0.01規定の塩酸水溶液を、電位差滴定装置(メトローム社製)を用いて、青色から黄色になるまで滴定を実施し、末端アミノ基量([NH]、単位:mmol/kg)を測定した。
【0133】
(末端カルボキシル基量)
ポリアミド樹脂30mgを重水素化ヘキサフロロイソプロパノール(HFIP)0.5mLに溶解し、NMR測定用サンプルとした。上記サンプルについて、核磁気共鳴装置(ECA-500型、日本電子株式会社製)でNMR測定を行い、得られたスペクトル中の、ポリアミド樹脂を構成する各成分の水素由来のピーク面積からポリアミド樹脂の分子量を算出し、末端カルボキシル基特有の水素由来のピーク面積と分子量の値を用い、末端カルボキシル基量(mmоl/kg)を算出する。
【0134】
(融点(Tm)、ガラス転移温度(Tg)、融解熱量ΔH)
ポリアミド樹脂の融点Tm、ガラス転移温度(Tg)、および融解熱量ΔHは、示差走査熱量計(DSC220C型、セイコーインスツル社製)を用いて以下のように測定した。
【0135】
約5mgのポリアミド樹脂を測定用アルミニウムパン中に密封し、室温から10℃/minで350℃まで加熱した。樹脂を完全融解させるために、350℃で3分間保持した後、10℃/minで30℃まで冷却した。そして、30℃で5分間置いた後、10℃/minで350℃まで2度目の加熱を行った。この2度目の加熱における吸熱ピークの温度(℃)をポリアミド樹脂の融点(Tm)とし、ガラス転移に相当する変位点をガラス転移温度(Tg)とした。融解熱量ΔHは、JIS K7121:2012に準拠して、1度目の昇温過程での融解時の吸熱ピークの面積から求めた。
【0136】
1-2.結晶核剤
タルク(ハイフィラー#100、松村産業株式会社製)を用いた。
【0137】
1-3.強化材
ガラス繊維(オーウェンスコーニング社製、FT756D)を用いた。
【0138】
2.ポリアミド樹脂組成物の調製
上記の材料を、表1に示す組成比(単位は質量部)でタンブラーブレンダーにて混合し、30mmφのベント式二軸スクリュー押出機を用いて、ポリアミド樹脂1~4の融点(Tm)+10℃のシリンダー温度条件で溶融混練した。その後、混練物をストランド状に押出し、水槽で冷却させた。その後、ペレタイザーでストランドを引き取り、カットすることでペレット状のポリアミド樹脂組成物を得た。
【0139】
3.評価
得られたポリアミド樹脂組成物を、以下の基準で評価した。
【0140】
(引張強度(高温処理前))
それぞれのポリアミド樹脂組成物を以下の条件で射出成形して、厚み3.2mmのASTM-1(ダンベル片)の試験片を作製した。
成型機: 住友重機械工業株式会社製、SG50M3
成形機シリンダー温度: ポリアミド樹脂組成物の融点+10℃
金型温度: 120℃
作製した試験片を、ASTMD638に準拠し、温度23℃、窒素雰囲気下で24時間放置した。次いで、ASTMD638に準拠して、温度23℃、相対湿度50%の雰囲気下で引張試験を行い、引張強度を測定した。
【0141】
(引張強度(高温処理後))
上記試験片を、空気循環炉中(温度180℃)で1000時間放置した。その後、試験片を23℃まで放冷し、ASTMD638に準拠して、温度23℃、相対湿度50%の雰囲気下で引張試験を行い、引張強度を測定した。
【0142】
(引張強度保持率)
高温処理前の引張強度と高温処理後の引張強度とを比較して、高温処理前の引張強度に対する高温処理後の引張強度の割合(引張強度保持率)を算出した。
【0143】
(初期反射率)
得られたポリアミド樹脂組成物を、下記の成形機を用いて、下記の成形条件で射出成形して、長さ30mm、幅30mm、厚さ0.5mmの試験片を調製した。
成形機: 住友重機械工業株式会社製、SE50DU
成形機シリンダー温度: ポリアミド樹脂(A)の融点(Tm)+10℃
金型温度: 150℃
得られた試験片を、分光測色計(CM3500d、コニカミノルタ株式会社製)を用いて、波長領域360nm~740nmの反射率を求めた。波長540nmの反射率を代表値として、初期反射率とした。
【0144】
(加熱後反射率)
初期反射率を測定した試験片を160℃のオーブンで2時間加熱した後、試験片の反射率を、初期反射率と同様の方法で測定し、加熱後反射率とした。
【0145】
(反射率変化量)
初期反射率と、加熱後反射率との差(反射率変化量)を求めた。
【0146】
各評価結果を表1に示した。なお、表1における組成の数値は、質量部を表す。
【0147】
【表1】
【0148】
表1に示されるように、ジアミンに由来する成分単位の含有量(b)の、ジカルボン酸に由来する成分単位(a)の含有量に対するモル比が1.010以上であり、ジアミン成分単位(b)が一般式(1)で表されるジアミン(ビスアミノメチルノルボルナン)に由来する成分単位(b2)を含む実施例1、2では、成形体を加熱する前後の可視光反射率の変化量が低く、上記反射率の低下を抑制できていることがわかった。これは、ビスアミノメチルノルボルナンに由来する成分単位(b2)を含むジアミン成分単位(b)の含有量が多いことにより、ポリアミド樹脂組成物の酸化劣化が抑制され、かつ共役構造の形成が抑制されたためであると考えられる。
【0149】
また、実施例1、2では、加熱前の成形体に対する可視光の反射率の低下も抑制されていた。これは、ビシクロ骨格を有する剛直構造を有するため、耐熱性が高く、ポリアミド樹脂組成物を溶融成形する際の熱による分子鎖の切断が生じにくいためであると考えられる。
【0150】
さらに、実施例1、2では、高温処理前後の引張強度保持率も良好であった。これは、ビスアミノメチルノルボルナンに由来する成分単位(b2)がポリアミド樹脂のガラス転移温度(Tg)を高めたこと、およびジアミン成分単位(b)の含有量が多いことにより、ポリアミド樹脂の酸化劣化が抑制されたためであると考えられる。
【産業上の利用可能性】
【0151】
本発明のポリアミド樹脂組成物は、成形体が加熱された後も可視光の反射率の低下を抑制することができる。そのため、ポリアミド樹脂組成物の成形体の加熱による耐変色性を高め、各種筐体、車載部材などへの適用可能性を広げ、ポリアミド樹脂組成物のさらなる普及に寄与することが期待される。