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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023146768
(43)【公開日】2023-10-12
(54)【発明の名称】血圧測定装置及び方法
(51)【国際特許分類】
   A61B 5/022 20060101AFI20231004BHJP
   A61B 5/11 20060101ALI20231004BHJP
【FI】
A61B5/022 A
A61B5/11 230
【審査請求】未請求
【請求項の数】3
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022054134
(22)【出願日】2022-03-29
(71)【出願人】
【識別番号】503246015
【氏名又は名称】オムロンヘルスケア株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110003708
【氏名又は名称】弁理士法人鈴榮特許綜合事務所
(74)【代理人】
【識別番号】100108855
【弁理士】
【氏名又は名称】蔵田 昌俊
(74)【代理人】
【識別番号】100179062
【弁理士】
【氏名又は名称】井上 正
(74)【代理人】
【識別番号】100153051
【弁理士】
【氏名又は名称】河野 直樹
(74)【代理人】
【識別番号】100199565
【弁理士】
【氏名又は名称】飯野 茂
(74)【代理人】
【識別番号】100162570
【弁理士】
【氏名又は名称】金子 早苗
(72)【発明者】
【氏名】浅野 陽平
(72)【発明者】
【氏名】小林 達矢
【テーマコード(参考)】
4C017
4C038
【Fターム(参考)】
4C017AA08
4C017AB02
4C017AC03
4C017AD01
4C017DD17
4C017FF08
4C038VA04
4C038VA18
4C038VB11
4C038VC20
(57)【要約】
【課題】ユーザが意識せずに正しい姿勢で血圧を測定する。
【解決手段】血圧測定装置が、ユーザの手首に装着されてユーザの前腕の姿勢角を検出するとともにユーザの血圧を測定する血圧計本体と、ユーザの上腕に装着されてユーザの上腕の姿勢角を検出する上腕姿勢角検出部と、姿勢角に基づいて血圧計本体の高さを算出し、高さが所定範囲内であるかを判定する判定部と、高さが所定範囲内であると判定された場合に、ユーザに向けた表示を血圧計本体の画面に提示する提示部とを備え、血圧計本体は表示が提示されてからユーザの血圧を測定する。
【選択図】図1B
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ユーザの手首に装着されて前記ユーザの前腕の姿勢角を検出するとともに前記ユーザの血圧を測定する血圧計本体と、
前記ユーザの上腕に装着されて前記ユーザの上腕の姿勢角を検出する上腕姿勢角検出部と、
前記姿勢角に基づいて前記血圧計本体の高さを算出し、前記高さが所定範囲内であるかを判定する判定部と、
前記高さが前記所定範囲内であると判定された場合に、前記ユーザに向けた表示を前記血圧計本体の画面に提示する提示部とを備え、
前記血圧計本体は、前記表示が提示されてから前記ユーザの血圧を測定することを特徴とする血圧測定装置。
【請求項2】
前記表示は時刻の情報を含む、請求項1に記載の血圧測定装置。
【請求項3】
ユーザの姿勢状態を検出するステップと、
前記姿勢状態に基づいて血圧測定装置の高さを算出し、前記高さが所定範囲内であるかを判定するステップと、
前記高さが前記所定範囲内であると判定された場合に、前記ユーザに向けた表示を前記血圧測定装置の画面に提示するステップと、
前記表示が提示されてから、前記ユーザの血圧を測定するステップと、
を備える血圧測定方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、血圧測定装置及び方法に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に血圧計には上腕式と手首式とがある。上腕式の血圧計は、ユーザの上腕にカフを装着するため、測定部位が自然に心臓の高さ付近となることにより、正確な血圧値が比較的容易に得られる。
これに対して手首式の血圧計は、ユーザの手首に装着することから上腕式の血圧計より手軽に装着できる利点があり、腕時計等の機能も搭載させることにより常時装着にも適する。
【0003】
しかし、手首式の血圧計は上腕式の血圧計と違い、正確な血圧値を得るためには測定部位と心臓の高さとの差に起因する測定誤差を何らかの方法で低減させる必要がある。
【0004】
この測定誤差を低減するための血圧計として、例えば、特許文献1には、本体とは別に上腕角度検出器を備え、腕の姿勢を検出することにより測定部位と心臓との高低差を正確に算出し、ユーザに測定姿勢の適否を報知したり血圧測定値の補正を行う手首式血圧計が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2007-54648号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
血圧は様々な要因で変動するため、従来の朝と晩のみの測定から測定頻度を増やし、多くのデータを取得することが望ましい。そのためには、常時装着に適した手首式血圧計を用いることが好適である。しかしながら、特許文献1にあるような姿勢適否報知手段を利用してユーザが血圧計の高さを調整して測定する方法では、ユーザが測ることを意識したタイミングでしか血圧測定がなされず、測定頻度を増やすことが難しい。
【0007】
この発明は上記課題に着目してなされたもので、その目的とするところは、ユーザがより簡単に正しい姿勢で血圧を測定することが可能になる血圧測定装置及び方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本開示は、述した課題を解決するために、以下の構成を採用する。
【0009】
すなわち、本開示の第1の側面に係る血圧測定装置は、ユーザの手首に装着されて前記ユーザの前腕の姿勢角を検出するとともに前記ユーザの血圧を測定する血圧計本体と、前記ユーザの上腕に装着されて前記ユーザの上腕の姿勢角を検出する上腕姿勢角検出部と、前記姿勢角に基づいて前記血圧計本体の高さを算出し、前記高さが所定範囲内であるかを判定する判定部と、前記高さが前記所定範囲内であると判定された場合に、前記ユーザに向けた表示を前記血圧計本体の画面に提示する提示部とを備え、前記血圧計本体は、前記表示が提示されてから前記ユーザの血圧を測定することを特徴とする。
【0010】
ここで、姿勢角とは、その位置での3次元での姿勢を表現する角度であり、例えば、オイラー角、またはオイラー角の一つの表現でしばしば利用されるロール角、ピッチ角、及びヨー角の組等がある。さらに、この姿勢角と高さから、測定された血圧値が正確かどうか、すなわち、ユーザの本来の血圧値であるかどうかを認識することができる。
【0011】
そして、ユーザの血圧をある精度範囲内で測定可能である姿勢状態に対応する姿勢角及び血圧センサの高さは予め求めることができる。したがって、この姿勢角及び血圧センサの高さはそれぞれ、ある範囲内で血圧測定に理想的な姿勢状態になり、これらの値の範囲を定めることが可能になる。この結果、ユーザの姿勢角及び血圧センサの高さの血圧測定に最適な範囲が判明し、この範囲内に姿勢角及び血圧センサの高さがある場合には、血圧測定が実行され精度の良いユーザの血圧を取得することができる可能性が高くなる。
【0012】
上記の構成において、ユーザに向けた表示は、例えば、通常の時計表示、またはインターネットに自動的に接続して得られた所望の情報の表示である。このユーザに向けた表示は、予め設定されていてもよいし、ユーザが都度設定してもよい。そして、ユーザに向けた表示が血圧計本体の画面に提示されると共に、血圧計本体がユーザの血圧を測定する。
【0013】
したがって、ユーザに向けた表示を血圧計本体の画面で閲覧するたびに、血圧計本体がユーザの血圧を測定することができるので、ユーザが血圧を測定することを特別に意識せず、血圧を測定する機会を増やすことができる。また、提示部は、血圧計本体の高さが所定範囲内であると判定された場合のみに、前記ユーザに向けた表示を画面に提示するので、適切な姿勢で自動的に血圧を測定することができる。このため、ユーザがディスプレイを見るタイミングで自動的に血圧が測定されるので、日常生活の中で血圧を測定する頻度が増える可能性が高い。その結果、例えば、ユーザ自身の血圧が変動しやすいタイミングを知る機会が増大する。
【0014】
さらに、具体的な一例としては、腕時計型の血圧計本体に時計やインターネット情報を表示するディスプレイを設け、ユーザがディスプレイを閲覧する姿勢が、ちょうど血圧計本体がユーザの心臓の高さに配置されるように設定されることになる。この場合には、ユーザが時計やインターネット情報を閲覧すると同時にユーザの血圧を自動的に測定することができる。
さらにまた、このように自動的に血圧が測定されるので、日常生活の中で血圧を測定する頻度が増えると期待される。この結果、正確な血圧値データを大量に取得することができるので、医師がユーザに適切な診断をしやすくなるという効果がある。
【0015】
上記の第2の側面に係る血圧測定装置では、前記表示時刻の情報を含む。
【0016】
上記の構成では、提示部は、血圧計本体の高さが所定範囲内であると判定された場合に、ユーザに向けた表示として時刻を表示するため、ユーザは時刻を知るために時計としての血圧計本体の提示部を閲覧することになる。このため、ユーザが時刻を確認するたびに、ユーザの血圧を測定することができる。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、ユーザがより簡単に正しい姿勢で血圧を測定することが可能になる血圧測定装置及び方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1A】実施の形態に係る血圧測定装置の装着状態を示す図。
図1B】実施の形態に係る血圧測定装置のハードウエア構成を示すブロック図。
図2A】実施の形態に係る血圧測定装置の初期設定に関する処理手順を示す図。
図2B】実施の形態に係る血圧測定装置の血圧測定に関する処理手順を示す図。
図3A】実施の形態に係る血圧測定装置の初期姿勢での手首の姿勢角を示す図。
図3B】実施の形態に係る血圧測定装置の初期姿勢での手首の高さを示す図。
図4A】実施の形態に係る血圧測定装置での手首を心臓の高さに合わせた時の姿勢角を示す図。
図4B】実施の形態に係る血圧測定装置での手首を心臓の高さに合わせた時の高さを示す図。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明の一側面に係る実施の形態(以下、「本実施形態」とも表記する)を、図面に基づいて説明する。
【0020】
図1Aは、本実施形態に係る血圧測定装置100の装着状態を示す図である。この血圧測定装置100は、ユーザの手首に装着される血圧計本体21と、ユーザの上腕に装着される上腕姿勢角測定部22とから構成され、血圧計本体21と上腕姿勢角測定部22は、赤外線等の無線通信でデータ授受を行うように構成されている。
【0021】
図1Bは、本実施形態に係る血圧測定装置100のハードウエア構成を示すブロック図である。この血圧測定装置100は、血圧計本体21に設けられる制御部6、操作入力部7、記憶部8、計時部9、出力部10、電源12、カフ1、加圧ポンプ2、排気部3、圧力センサ4、及びA/D変換器5を備える。さらに血圧測定装置100は、血圧計本体21に設けられる前腕姿勢角検出センサ11と、上腕姿勢角測定部22に設けられる上腕姿勢角検出センサ14とを備えている。
【0022】
制御部6は、例えばCPU(Central Processing Unit)等によって構成され、情報処理に応じて各構成要素の制御を行う。記憶部8は、例えばRAM(Random Access Memory)、ROM(Read Only Memory)等によって構成され、制御部6で実行される姿勢の初期設定プログラム、血圧測定プログラム、及び/または血圧測定装置が測定した血圧のデータである血圧測定データ等を記憶する。
【0023】
姿勢の初期設定プログラムは、ユーザが手首に装着された血圧計本体21の表示画面を見る姿勢を取り、かつ、血圧計本体21を心臓の高さに合わせた状態での姿勢角と高さを記憶させる初期設定の処理(図2A)を実行させるためのプログラムである。また、血圧測定プログラムは、例えばオシロメトリック法により血圧計本体21にユーザの血圧を測定する処理を実行させるためのプログラムである。さらに、血圧測定データは、血圧測定プログラムを実行することによって得られる血圧の時系列データである。
【0024】
操作入力部7は、入力を受け付ける装置であり、例えば、タッチパネル、物理ボタン等である。出力部10は、出力を行う装置であり、音声、表示等で情報を出力し、例えば、ディスプレイ、スピーカ等である。
【0025】
電源12は、電力を供給可能なものであれば何でもよく、例えば、充電可能な2次電池である。電源12は、血圧計本体21に搭載されている各要素へ電力を供給する。
【0026】
圧力センサ4は、例えば、ピエゾ抵抗式圧力センサである。圧力センサ4は、第1流路を構成するカフ管(可撓性チューブ)及び流路形成部材を介して、カフ1内の圧力を検出する。
【0027】
加圧ポンプ2に含まれる駆動部は、制御部6からの制御信号に基づいて、加圧ポンプ2を駆動または制動する(つまり、加圧ポンプ2をオンまたはオフする)。加圧ポンプ2に含まれる駆動部は、流体を注入すると判定された場合に、カフ1に流体を注入する加圧ポンプ2を駆動する。
【0028】
加圧ポンプ2は、例えば、圧電ポンプである。加圧ポンプ2は、第1流路を介して、カフ1に流体が流通可能に接続されている。加圧ポンプ2は、第1流路を通して、カフ1に流体(例えば、空気)を供給することができる。なお、加圧ポンプ2には、加圧ポンプ2のオンまたはオフに伴って開閉が制御される排気部3が接続されている。すなわち、この排気部3は、加圧ポンプ2がオンされると閉じて、カフ1内に空気を封入する。一方、この排気部3は、加圧ポンプ2がオフされると開いて、カフ1内の空気を、第1流路を通して大気中へ排出させる。なお、この排気部3は、逆止弁の機能を有し、排出される空気が逆流することはない。また、これとは異なり、制御部6が、加圧ポンプ2のオンまたはオフの制御と、排気部3の開閉の制御とを別々に行うようにしてもよい。
【0029】
前腕姿勢角検出センサ11及び上腕姿勢角検出センサ14は、例えば3軸加速度センサで構成され、センサの加速度を線型独立な3軸(例えば、互いに直交した3軸)に関して検出し、3方向の加速度を表す加速度信号を制御部6へ出力する。静止時の重力加速度の値から、ロール角とピッチ角とを得ることができる。
【0030】
計時部9は、時間を計測する装置であり、日時を計測できる。例えば、計時部9はカレンダーを含む時計であり、現在の日時の情報を制御部6へ出力する。
【0031】
A/D変換器5は、圧力センサ4、前腕姿勢角検出センサ11及び上腕姿勢角検出センサ14から出力されたアナログ値をディジタル値に変換する。A/D変換器5においてディジタル値に変換されたデータは制御部6に入力される。
【0032】
次に、図2Aを用いて、血圧測定装置100の血圧測定前に行う初期設定の動作例を説明する。この初期設定は、ユーザの血圧を自動的に測定する契機となるユーザの姿勢情報を取得して、血圧測定装置100にユーザの姿勢情報を記憶させるための処理手順である。
【0033】
まず、ユーザは血圧測定装置100を起動し、初期設定がされているかどうかを制御部6が判定し、初期設定がなされていないと判定された場合には、制御部6は姿勢の初期設定プログラムを実行する。血圧測定装置100の制御部6は、初期設定を行う場合には以下の処理手順にしたがって処理を進める。
【0034】
ステップS201では、制御部6は、血圧測定装置100に血圧測定を自動的に開始する自動測定モードが設定されているかどうかを判定する。このモードは、ユーザが特定の姿勢になった場合に、自動的にユーザ所望の表示を提示し、ユーザの血圧の測定を開始するモードであり、操作入力部7を介してユーザ等によって設定され、設定内容は記憶部8に記憶される。
制御部6が記憶部8を参照して自動測定モードが設定されていると判定した場合にはステップS202へ進み、自動測定モードが設定されていないと判定した場合にはこの処理を終了する。
【0035】
ステップS202では、制御部6は、ユーザが事前に各部位のセンサの位置から特定部位までの長さを計測し操作入力部7を介して入力した値を取得し、記憶部8等にその数値を記憶しておく。なおこれらの長さは、この方法に限定されず何らかの方法で自動的に取得されてもよい。ここでセンサの位置から特定部位までの長さは、例えば図3Bに示す通り、上腕に装着された上腕姿勢角測定部22の位置から肘関節までの長さUと、肘関節から手首に装着された血圧計本体21までの長さFである。
【0036】
ステップS203では、制御部6は、ユーザに対して、出力部10を介して、前腕及び上腕を地面に対して垂直にする(初期設定のための初期姿勢をとる)ように指示する。例えば、制御部6は出力部10によって指示する旨のメッセージを音声出力または表示出力する。この初期姿勢によって各センサの値がリセットされてその後の測定への誤差を少なくすることができる。
【0037】
ステップS204では、制御部6は、出力部10を介して、出力部10のディスプレイ(表示画面)がユーザ自身に見えるようになる姿勢、かつ血圧計本体21(すなわち、ディスプレイと一体の装置)と心臓の高さの差がある範囲内になる姿勢をユーザが取るように、ユーザに対して音声出力または表示出力によって促す。なお、この高さの範囲は、測定される血圧値の精度範囲内に対応して決定されている。
【0038】
ステップS205では、制御部6は、ステップS204でユーザが取った姿勢に対応する姿勢情報と高さ情報とを演算によって求め、記憶部8に記憶させる。すなわち、制御部6は、ユーザのこれらの姿勢の条件を満たす測定開始姿勢において、前腕姿勢角検出センサ11及び上腕姿勢角検出センサ14からセンサ情報を取得して、このセンサ情報に対応する姿勢情報及び高さ情報を算出し、これらの情報を測定開始姿勢情報として記憶部8に記憶させる。
ここで姿勢情報は、前腕姿勢角検出センサ11及び上腕姿勢角検出センサ14によって取得される各センサの姿勢角を含む情報である。また高さ情報は、血圧計本体21が装着されている位置の高さを含む情報である。
【0039】
ステップS206では、制御部6は、ステップS205で記憶された測定開始姿勢情報が自動測定開始条件であるとして決定する。この初期設定が終了した以降は、ステップS205で記憶された自動測定開始条件に照合してユーザの姿勢が所望の測定精度範囲内で血圧測定可能な姿勢かどうかを判定することが可能になる。
【0040】
次に、図2Bを用いて、血圧測定装置100が血圧測定する動作例を説明する。図2Bは、血圧測定装置100の血圧測定における処理手順を示すフローチャートである。
【0041】
まず、ユーザは血圧測定装置100を起動し、初期設定が終了していると制御部6が判定した場合には、制御部6は血圧測定プログラムを実行する。制御部6は、以下の手順にしたがって、処理を進める。
【0042】
ステップS211では、制御部6は、前腕姿勢角検出センサ11からセンサ情報を取得し、ユーザの前腕の姿勢角を算出する。
【0043】
ステップS212では、制御部6は、ステップS211で算出した姿勢角が、図2AのステップS205で設定した姿勢角であるかどうかを判定する。ステップS211で算出した姿勢角が、ステップS205で設定した姿勢角であると判定された場合にはステップS213へ進み、ステップS205で設定した姿勢角であると判定されなかった場合には図2Bに示す処理を終了する。なお、算出された姿勢角が、初期設定で設定された姿勢角であるかは、ある範囲内で一致していれば、同一角度と見なす。具体的には、ロール角、ピッチ角、ヨー角のいずれもが、初期設定された角度からそれぞれ-αから+α(αは設定された定数)の範囲内であれば、算出された姿勢角は、初期設定された姿勢角と同一であると見なす。この範囲またはαは、測定される血圧値の測定精度範囲に対応して決定される。
【0044】
制御部6は、姿勢角と高さとから血圧計本体21の高さがユーザの心臓の位置にあるかどうかを判定する。制御部6が予め初期設定で求めた姿勢角と高さを参照して、ある範囲内(測定する血圧の測定精度範囲はこの範囲に対応する)でそれらに一致すれば、血圧計本体21が心臓の位置にあると判定する。
【0045】
ステップS213では、制御部6は、ステップS211で算出された姿勢角と、記憶部8に記憶される各部位のセンサの位置から特定部位までの長さとから、手首の高さを算出する。
【0046】
ステップS214では、制御部6は、ステップS213で算出した手首の高さが、図2AのステップS205で設定した高さであるかどうかを判定する。ステップS213で算出した高さが、ステップS205で設定した高さであると判定された場合にはステップS215へ進み、ステップS205で設定した高さであると判定されなかった場合には図2Bに示す処理を終了する。なお、算出された高さが、初期設定された高さであるかは、上述した角度の場合と同様に、ある範囲内で一致していれば、同一の高さと見なす。この範囲も、測定される血圧値の測定精度範囲に対応して決定される。
【0047】
ステップS215では、制御部6は、ディスプレイをオンにして表示準備を行う。
【0048】
ステップS216では、制御部6は、時刻やインターネット上の情報等をディスプレイに表示する。制御部6は、例えば、時計表示だけを行ってもよい。ユーザはディスプレイに情報が表示されたことで血圧測定が開始されることを認識することができる。
【0049】
ステップS217では、制御部6は、ディスプレイに情報を提示してから予め設定された期間である数秒間(例えば、3秒間)だけ静止状態が続いたかどうかを判定する。静止状態が数秒間続いたと判定した場合にはステップS218へ進み、静止状態が数秒間続いたと判定されない場合には図2Bに示す処理を終了する。静止状態とは加速度の変化量がゼロに極めて近い場合(0との差がある範囲内であればゼロと見なす)であり、すなわち、加速度センサによって重力加速度しか検出されない場合に相当する。静止状態を設けるのは、測定される血圧がユーザ本来の血圧にできるだけ近い数値を算出するためである。このステップS217は、血圧の測定精度が所望の範囲内であれば、行わなくともよいし、静止状態を緩和して加速度の変化量がある範囲内の値以下であるとしてもよい。
【0050】
ステップS218では、制御部6は、オシロメトリック法によってユーザの血圧を測定する。
【0051】
ステップS219では、制御部6は、ステップS218で測定した血圧を、出力部10を介して出力する。また、制御部6は、測定結果の血圧値データを記憶部8に記憶させてもよい。
【0052】
次に、図3A及び図3Bを用いて、血圧測定装置100が血圧測定する際の姿勢角及び高さの初期設定を説明する。ここでは3次元の姿勢を表現する手段の一例としてオイラー角の一つの表現である、ロール角、ピッチ角、ヨー角を使用した場合について説明する。
【0053】
姿勢角は、ここでは下記の3つの角度で定義する。座標系は、図3Aに示すようにZ軸の向きを重力の向きと同一とした右手座標系とし、各軸周りの回転は反時計回りを正の向きとする。
X軸周りの回転(ロール角):φ(ファイ)
Y軸周りの回転(ピッチ角):θ(シータ)
Z軸周りの回転(ヨー角) :ψ(プサイ)
【0054】
高さは、心臓の高さを基準として血圧計本体21の位置とする。図3Bに示すように、上腕の長さを肘関節から上腕に装着された上腕姿勢角測定部22までの距離(U(cm))とし、前腕の長さを肘関節から手首に装着された血圧計本体21までの距離(F(cm))とする。この上腕の長さと前腕の長さとの定義により、高さをH(cm)とすると、血圧測定時の初期姿勢では、
H=-U-F
の関係が成り立つ。
【0055】
次に、図4Aを用いて、血圧測定装置100が血圧測定を開始する際の姿勢角及び高さについて説明する。
【0056】
下記の角度の時に、ユーザの姿勢が血圧測定を開始する姿勢であるとする。すなわち、下記の姿勢角の時に、手首に装着された血圧計本体21が心臓の高さになる。
X軸周りの回転(ロール角):φ’(ファイ)
Y軸周りの回転(ピッチ角):θ’(シータ)
Z軸周りの回転(ヨー角) :ψ’(プサイ)
【0057】
図4Aに示す姿勢を取る場合には、図4Bに示すように、高さを求めることができる。なお、図4Aはユーザを正面から見た場合であり、図4Bはユーザを側面から見た場合である。図4Bに示すように上腕をY軸の周りにθ’だけ回転させ、同じ角度だけ、前腕を曲げたとすると、高さH’(cm)は、
H’=-U cosθ’+F cosθ’
の関係が成り立つ。
【0058】
また、実際に制御部6が出力部10に情報を提示するのは、(φ’,θ’,ψ’)からある範囲内とするのが実際的である。例えば、これらそれぞれの角度は、-αから+αまでの変動範囲内であればよい。例えば、α=10度である。なお、上記のH’は心臓の高さに血圧計本体21が配置されるが、これは十分条件に過ぎず、これ以外の姿勢角でも血圧計本体21が心臓の高さに来る角度はある。このように、理想的な角度(φ’,θ’,ψ’)から角度の変動幅αの範囲内で血圧計本体21を心臓の高さに維持することはできる。制御部6は、姿勢角に基づいてこの高さを演算する。
【0059】
初期姿勢は、前腕姿勢角検出センサ11及び上腕姿勢角検出センサ14から得られる重力加速度を制御部6が取得して算出する。まず、ユーザに静止している状態になるように例えば、出力部10にその旨をユーザに提示して、姿勢角検出センサが測定する加速度を重力加速度gのみとさせる。このとき、以下の関係式が成り立つ。
【0060】
【数1】
【0061】
ここで、a、a、aはそれぞれX軸、Y軸、Z軸に関する姿勢角検出センサの出力値(加速度の成分)である。この式(1)から、初期姿勢でのロール角φaiとピッチ角θaiが得られる(以下の式(2)参照)。
【0062】
【数2】
【0063】
次に、制御部6がヨー角を算出する。
【0064】
上記の式(2)によって制御部6が算出した初期姿勢を使用して、ユーザが運動中の姿勢角を制御部6が算出する。制御部6は、下記の式(5)の角速度とロール角、ピッチ角、ヨー角との関係を使用する。式(5)はロール角、ピッチ角、ヨー角それぞれの微分値なので、これらを式(6)のように積分することによって運動中の姿勢角を姿勢演算部は得ることができる。
【0065】
【数3】
【0066】
【数4】
【0067】
なお、制御部6は、式(6)を使用して、回転行列(式(7)のR)を得ることができる。式(7)によれば、制御部6は姿勢角で動いた位置を求めることができる。
【0068】
【数5】
【0069】
また、以上に説明した手法とは異なる手法で制御部6は姿勢角を算出してもよい。制御部6は、例えば、重力加速度以外の動的な加速度が大きい場合には、角速度に含まれる誤差が積分によって蓄積されて増えることを防ぐために、遠心加速度、接線加速度の影響を含めた手法(センサフュージョン)を適用して姿勢角を算出してもよい。
【0070】
以上のように、本実施形態の血圧測定装置は、ステップS211及びS213において、前腕の姿勢角及び手首の高さを測定し、ステップS212及びS214でこれらがいずれも測定される血圧値の測定精度範囲内で初期設定した姿勢角及び高さであるかどうかを判定する。そして、血圧測定装置は、測定した姿勢角及び高さがいずれも初期設定した姿勢角及び高さであると判定された場合に、ディスプレイをオンにして情報を提示する(ステップS215及び216)ことを可能にする。ディスプレイがオンになったことをユーザが感知することによって、血圧測定が開始されることをユーザが認識することができる。その後、ユーザは手首の動きを止め、血圧測定装置の加速度の変化量がゼロになるように保ち(ステップS217)、血圧測定が正確になるように調整することができるようになる。この結果、血圧測定装置は、測定された血圧をディスプレイに表示することによってユーザに提示することができるようになる。したがって、本実施形態の血圧測定装置は、ユーザが装置に表示される画面を閲覧することによって血圧が測定されることをユーザが意識せずに、ユーザの一連の動作の中で自然に最適な姿勢で血圧測定を開始し、正確な血圧をユーザに提示することが可能になる。
【0071】
なお、この発明は、上記実施形態そのままに限定されるものではなく、実施段階ではその要旨を逸脱しない範囲で構成要素を変形して具体化できる。
【0072】
また、「及び/または」とは、「及び/または」でつながれて列記される事項のうちの任意の1つ以上の事項という意味である。具体例を挙げると、「x及び/またはy」とは、3要素からなる集合{(x),(y),(x,y)}のうちのいずれかの要素という意味である。もう1つの具体例を挙げると、「x,y,及び/またはz」とは、7要素からなる集合{(x),(y),(z),(x,y),(x,z),(y,z),(x,y,z)}のうちのいずれかの要素という意味である。
【0073】
(付記)
ユーザの手首に装着されて前記ユーザの前腕の姿勢角を検出するとともに前記ユーザの血圧を測定する血圧計本体(21)と、
前記ユーザの上腕に装着されて前記ユーザの上腕の姿勢角を検出する上腕姿勢角検出部(22)と、
前記姿勢角に基づいて前記血圧計本体の高さを算出し、前記高さが所定範囲内であるかを判定する判定部(6)と、
前記高さが前記所定範囲内であると判定された場合に、前記ユーザに向けた表示を前記血圧計本体の画面に提示する提示部(6)とを備え、
前記血圧計本体は、前記表示が提示されてから前記ユーザの血圧を測定する
ことを特徴とする血圧測定装置。
【符号の説明】
【0074】
1…カフ
2…加圧ポンプ
3…排気部
4…圧力センサ
5…A/D変換器
6…制御部
7…操作入力部
8…記憶部
9…計時部
10…出力部
11…前腕姿勢角検出センサ
12…電源
14…上腕姿勢角検出センサ
100…血圧測定装置
図1A
図1B
図2A
図2B
図3A
図3B
図4A
図4B