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  • 特開-粉粒体ダンパ 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023146773
(43)【公開日】2023-10-12
(54)【発明の名称】粉粒体ダンパ
(51)【国際特許分類】
   F16F 7/01 20060101AFI20231004BHJP
   F16F 7/08 20060101ALI20231004BHJP
   F16F 15/02 20060101ALI20231004BHJP
   F16F 15/023 20060101ALI20231004BHJP
【FI】
F16F7/01
F16F7/08
F16F15/02 E
F16F15/023 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】3
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022054144
(22)【出願日】2022-03-29
(71)【出願人】
【識別番号】000000929
【氏名又は名称】KYB株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000497
【氏名又は名称】弁理士法人グランダム特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】豊内 敦士
(72)【発明者】
【氏名】加藤 直也
【テーマコード(参考)】
3J048
3J066
【Fターム(参考)】
3J048AA06
3J048AC02
3J048BE14
3J066BD03
3J066CA05
3J066CB03
(57)【要約】
【課題】粉粒体の凝集に起因する減衰機能の低下を防止する。
【解決手段】粉粒体ダンパAは、ケース10と、ケース10内に収容された粉粒体26と、ケース10内に収容され、粉粒体26に接触しながら移動する可動体20と、粉粒体26の流動性を高める流動促進部材としての高圧気体27と、を備えている。高圧気体27によって粒状体26の流動性が高められているので、粉粒体26の凝集に起因する減衰機能の低下を防止することができる。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ケースと、
前記ケース内に収容された粉粒体と、
前記ケース内に収容され、前記粉粒体に接触しながら移動する可動体と、
前記粉粒体の流動性を高める流動促進部材と、を備えている粉粒体ダンパ。
【請求項2】
前記流動促進部材が、大気圧よりも圧力の高い高圧気体である請求項1に記載の粉粒体ダンパ。
【請求項3】
前記流動促進部材が、潤滑油である請求項1に記載の粉粒体ダンパ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、粉粒体ダンパに関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、粒状体が充填されたケース内に、ロッドと一体に移動するピストンを収容したダンパ装置が開示されている。ピストンが移動すると、粒状体が流動することによって、粒状体同士の間や、粒状体とピストンとの間に摩擦力が生じる。このダンパ装置は、粒状体の摩擦力によって減衰力を発生させる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2011-021648号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ピストンは、ケースの両端部において折り返しながら往復移動する。ケースの両端部では、ケースの端壁部とピストンとの間で強く加圧された粒状体が、凝集し易くなる。凝集すると、粒状体の流動性が低下するため、ピストンの往復経路における折返部では、減衰機能が低下する。
【0005】
本発明は、上記従来の実情に鑑みてなされたものであって、粉粒体の凝集に起因する減衰機能の低下を防止することを解決すべき課題としている。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の粉粒体ダンパは、
ケースと、
前記ケース内に収容された粉粒体と、
前記ケース内に収容され、前記粉粒体に接触しながら移動する可動体と、
前記粉粒体の流動性を高める流動促進部材と、を備えている。
【0007】
本発明の粉粒体ダンパは、前記流動促進部材が、大気圧よりも圧力の高い高圧気体であることが好ましい。高圧気体によって、粉粒体同士の間や、粉粒体と可動体との間や、粉粒体とケースとの間に隙間が確保されるので、粉粒体の流動性が高くなる。高圧気体自体の圧縮に起因する反力によって、減衰力を発生させることができる。
【0008】
本発明の粉粒体ダンパは、前記流動促進部材が、潤滑油であることが好ましい。粉粒体間の摩擦抵抗や、粉粒体と可動体との間の摩擦抵抗や、粉粒体とケースとの間の摩擦抵抗が、潤滑油によって低減されるので、粉粒体の流動性が高くなる。
【発明の効果】
【0009】
流動促進部材によって粉粒体の流動性が高められているので、粉粒体の凝集に起因する減衰機能の低下を防止することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】実施形態1の粉粒体ダンパにおいて可動体が中立位置にある状態をあらわす断面図
図2】実施形態1の粉粒体ダンパにおいて可動体がケースの端部へ移動した状態をあらわす断面図
図3】実施形態2の粉粒体ダンパにおいて可動体が中立位置にある状態をあらわす断面図
図4】実施形態2の粉粒体ダンパにおいて可動体がケースの端部へ移動した状態をあらわす断面図
【発明を実施するための形態】
【0011】
<実施形態1>
以下、本発明を具体化した実施形態1を図1図2を参照して説明する。尚、以下の説明においては、前後方向と軸線方向を同義で用いる。図1,2における左方を前方、右方を後方と定義する。本実施形態1の粉粒体ダンパAは、ケース10と、可動体20と、粉粒体26と、流動促進部材とを備えている。ケース10は、軸線を前後方向に向けた円筒形の周壁部11と、周壁部11の前後両端を閉塞する一対の端壁部12とを有する。ケース10の内部は、可動体20の一部と、粉粒体26と、流動促進部材とが収容される作動空間13である。
【0012】
端壁部12の中心部には、端壁部12をケース10と同軸状に貫通した形状のガイド孔14が形成されている。端壁部12の内面(作動空間13に臨む端壁面17)には、ガイド孔14の開口縁を包囲するリング状のシール部材15が取り付けられている。シール部材15は、端壁面17に対して気密状に密着している。シール部材15の外周面には、円錐台状の受圧面16が形成されている。受圧面16は、端壁面17から軸線方向に遠ざかるほど、次第に縮径した形状である。
【0013】
可動体20は、ケース10を同軸状に貫通した円形断面のロッド21と、ロッド21と一体に移動する抵抗部22とを有する部材である。ロッド21は、前後両ガイド孔14に挿通されることによってガイドされ、ケース10と同軸の状態を保ちながらケース10に対して前後方向に相対移動することができる。ロッド21の外周面には、シール部材15の内周面が気密状に密着している。シール部材15によって、端壁面17とロッド21の外周面との隙間が気密状にシールされている。
【0014】
抵抗部22は、外径がロッド21の外径よりも大きい円柱形をなし、粉粒体26に抗力を生じさせるための抗力発生部として機能する。抵抗部22の外径は、ロッド21の外径よりも大きく、周壁部11の内径よりも小さい。抵抗部22の外周面と周壁部11の内周面との間には、粉粒体26の流動空間18が確保されている。抵抗部22は、定径部23と、定径部23の前後両端に連なる一対のテーパ部24とから構成されている。定径部23は、定径部23の前端から後端まで外径寸法が一定の円柱形をなす。テーパ部24は、定径部23から端壁部12に向かって外径が次第に小さくなるような円錐台形をなす。
【0015】
ケース10の外部でロッド21に外力が作用すると、可動体20は、ケース10に対して軸線方向に往復移動する。端壁面17は、可動体20の往復移動経路の延長線上に位置する。端壁面17は、可動体20の往復移動方向において抵抗部22と対向するように配置されている。可動体20の往復移動過程で往動と復動とが切り替わるときに、抵抗部22は、端壁面17に接近し、端壁面17から離隔する。
【0016】
粉粒体26は、粒径(ラジアン径)が0.001μm~10mmの粉状物又は粒状物である。粉粒体26の材料としては、シリカ系(炭化ケイ素)の無機物、鉄等の金属等が用いられる。粉粒体26は、作動空間13内のうちケース10の内面と可動体20の外面との間の空間に充填されている。粉粒体26の充填率は、粉粒体26の流動性を阻害せず、且つ所定の減衰力を確保するために、例えば40%~50%に設定されている。
【0017】
流動促進部材は、粉粒体26の流動性を高めるためのものであり、大気圧よりも圧力の高い高圧気体27からなる。高圧気体27としては、空気や、窒素・アルゴン等の不活性ガスを用いることができる。高圧気体27は、作動空間13内における固体の隙間に封入されている。高圧気体27の充填は、例えば、端壁部12に取り付けたバルブ(逆止弁)を通して行うことができる。高圧気体27の圧力は、例えば0.5MPa~10MPaに設定することができる。
【0018】
可動体20が前後方向へ往復移動すると、作動空間13内では、抵抗部22が、粉粒体26を押し動かしながらロッド21と一体となって往復移動し、抵抗部22の周囲では粉粒体26が流動する。粉粒体26の流動に伴って、粉粒体26とテーパ部24の外周面との間、粉粒体26と定径部23の外周面との間、粉粒体26とロッド21の外周面との間、粉粒体26と周壁部11の内周面との間、粉粒体26と端壁面17との間、粉粒体26同士の間で、転がり摩擦や滑り摩擦が生じる。この摩擦力は、可動体20の軸線方向への移動を抑制する抗力、即ち粉粒体ダンパAの減衰力としての機能を発揮する。
【0019】
抵抗部22は、端壁部12の近傍において折り返しながら往復移動する。折り返す直前では、粉粒体26が、抵抗部22と端壁面17との間で強く加圧されるため、端壁面17上で凝集することが懸念される。粉粒体26が凝集すると粉粒体26の流動性が低下するため、ピストンの往復経路における折返部では、減衰機能が低下する。
【0020】
この対策として、本実施形態1では、作動空間13内に高圧気体27を封入している。高圧気体27の圧力によって、粉粒体26の流動に伴って、粉粒体26とテーパ部24の外周面との間、粉粒体26と定径部23の外周面との間、粉粒体26とロッド21の外周面との間、粉粒体26と周壁部11の内周面との間、粉粒体26と端壁面17との間、粉粒体26同士の間に微小な隙間が生成され易くなり、粉粒体26の流動性が高められる。粉粒体26は、抵抗部22と端壁面17との間で挟まれたときに、径方向外方へ逃げるように流動し易くなるので、粉粒体26の凝集を防止することができる。
【0021】
高圧気体27は、シール部材15の受圧面16を加圧する。受圧面16は、軸線方向に対して斜め方向であるから、受圧面16に作用する圧力によって、シール部材15がロッド21の外周面と端壁面17とに強く密着する。したがって、シール部材15は、高い気密性能を発揮し、ロッド21とガイド孔14との隙間から高圧気体27が漏出することを防止する。
【0022】
本実施形態1の粉粒体ダンパAは、ケース10と、ケース10内に収容された粉粒体26と、ケース10内に収容された可動体20と、高圧気体27からなる流動促進部材とを備えている。可動体20は、粉粒体26に接触しながら移動する。流動促進部材(高圧気体)は、粉粒体26の流動性を高める機能を有する。高圧気体によって粉粒体26の流動性が高められているので、粉粒体26の凝集に起因する減衰機能の低下を防止することができる。
【0023】
流動促進部材は、大気圧よりも圧力の高い高圧気体27である。高圧気体27によって、粉粒体26同士の間や、粉粒体26と可動体20との間や、粉粒体26とケース10との間に隙間が確保されるので、粉粒体26の流動性が高くなる。高圧気体27自体の圧縮に起因する反力によって、減衰力を発生させることができる。
【0024】
<実施形態2>
次に、本発明を具体化した実施形態2を図3図4を参照して説明する。本実施形態2の粉粒体ダンパBは、流動促進部材を上記実施形態1とは異なる構成としたものである。ケース10、粉粒体26、可動体20の構成については上記実施形態1と同じであるため、同じ構成については、同一符号を付し、構造、作用及び効果の説明は省略する。
【0025】
本実施形態2の流動促進部材は、潤滑油28からなる。潤滑油28は、摩擦を軽減する機能を有する液体である。潤滑油28の摩擦軽減性能によって、粉粒体26とテーパ部24の外周面との間、粉粒体26と定径部23の外周面との間、粉粒体26とロッド21の外周面との間、粉粒体26と周壁部11の内周面との間、粉粒体26と端壁面17との間、粉粒体26同士の間における摩擦抵抗が低減され、粉粒体26の流動性が高められる。粉粒体26は、抵抗部22と端壁面17との間で挟み付けられたときに、径方向外方へ逃げるように流動し易くなるので、粉粒体26の凝集を防止することができる。
【0026】
<他の実施形態>
本発明は上記記述及び図面によって説明した実施形態に限定されるものではなく、例えば次のような実施形態も本発明の技術的範囲に含まれる。
上記実施例1及び2では、可動体がケースの軸線方向に移動するが、可動体は、ロッドと同心の軸線を中心として回転するものでもよい。
抵抗部は、ロッドから径方向へ延出した複数の突起部でもよい。
流動促進部材は、高圧気体や潤滑油に限らず、チキソトロピーの性質(剪断応力を受け続けることによって粘度が次第に低下して液状になる性質)を有する物質や、粉粒体と混合することによってダイラタント流体(遅いせん断刺激には液体のように振る舞い、より速いせん断刺激に対しては固体のような抵抗力を発揮する流体)を構成する液体や、粉粒体と混合することによってMR流体等の高濃度混濁液を構成する液体でもよい。
実施形態1,2では、粉粒体の粒径(ラジアン径)を0.001μm~10mmとしたが、粒径(ラジアン径)が0.001μm~1mmの粉粒体を用いることによって、減衰機能をより効果的に発揮させることができる。
【符号の説明】
【0027】
A,B…粉粒体ダンパ
10…ケース
20…可動体
26…粉粒体
27…高圧気体(流動促進部材)
28…潤滑油(流動促進部材)
図1
図2
図3
図4