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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023146819
(43)【公開日】2023-10-12
(54)【発明の名称】留置具デリバリー装置
(51)【国際特許分類】
   A61F 2/966 20130101AFI20231004BHJP
   A61F 2/07 20130101ALI20231004BHJP
【FI】
A61F2/966
A61F2/07
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022054218
(22)【出願日】2022-03-29
(71)【出願人】
【識別番号】000200035
【氏名又は名称】SBカワスミ株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】000002141
【氏名又は名称】住友ベークライト株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100137589
【弁理士】
【氏名又は名称】右田 俊介
(72)【発明者】
【氏名】吉原 章仙
(72)【発明者】
【氏名】澤井 博
【テーマコード(参考)】
4C097
4C267
【Fターム(参考)】
4C097BB04
4C267AA56
4C267BB05
4C267BB31
4C267BB40
4C267BB63
4C267CC07
4C267EE03
4C267GG02
4C267GG34
4C267HH07
(57)【要約】
【課題】留置具を好適に放出可能な留置具デリバリー装置を提供する。
【解決手段】留置具デリバリー装置は、留置具(ステントグラフト)を体内に送り込むものである。デリバリー装置は、ステントグラフトを中空部に収容する樹脂製のシースと、X線不透過性を有し、シース内に埋設された筒状のマーカー7と、を備える。マーカー7の外周面には、有底の螺旋状の切り溝7aが形成されている。切り溝7aにシースの樹脂層が入り込んでいる。
【選択図】図4
【特許請求の範囲】
【請求項1】
留置具を体内に送り込む留置具デリバリー装置であって、
前記留置具を中空部に収容する樹脂製のシースと、
X線不透過性を有し、前記シース内に埋設された筒状のマーカーと、を備え、
前記マーカーの外周面には、有底の螺旋状の切り溝が形成されており、
該切り溝に前記シースの樹脂層が入り込んでいることを特徴とする留置具デリバリー装置。
【請求項2】
前記留置具の近位側に当接可能なプッシャーを備え、
前記シースは、前記留置具及び前記プッシャーに対して相対的に退行可能である請求項1に記載の留置具デリバリー装置。
【請求項3】
前記切り溝の溝深さは、前記マーカーにおける前記溝深さを除いた残肉厚よりも大きい請求項1又は2に記載の留置具デリバリー装置。
【請求項4】
前記マーカーの軸方向における前記切り溝のピッチは、前記切り溝の溝深さよりも大きい請求項1から3のいずれか一項に記載の留置具デリバリー装置。
【請求項5】
前記マーカーが埋設された部位における前記樹脂層の硬度よりも、その基端側に隣接する部位における前記樹脂層の硬度の方が低い請求項1から4のいずれか一項に記載の留置具デリバリー装置。
【請求項6】
前記マーカーが埋設された部位における前記樹脂層の破断強度は、前記基端側に隣接する部位における前記樹脂層の破断強度の2倍以上である請求項5に記載の留置具デリバリー装置。
【請求項7】
前記マーカーは、螺旋状の前記切り溝の谷部分である薄肉部を有し、
該薄肉部のうち、前記マーカーの端部にある前記薄肉部の一部が前記マーカーの外径側に反り返っており、前記樹脂層の外層にアンカーしている請求項1から6のいずれか一項に記載の留置具デリバリー装置。
【請求項8】
螺旋状の前記切り溝は、前記マーカーの少なくとも一端において、前記マーカーの端まで形成されている請求項1から7のいずれか一項に記載の留置具デリバリー装置。
【請求項9】
前記留置具がステントグラフトであって、
前記切り溝に入り込む前記樹脂層の破断強度が、前記留置具を露出させるために必要な前記シースの牽引力を、前記切り溝に入り込んだ前記樹脂層の断面積で除した値の4倍以上である請求項1から8のいずれか一項に記載の留置具デリバリー装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、医療用に用いられ、シースの内部のものを体内に送り出す留置具デリバリー装置に関する。
【背景技術】
【0002】
医療行為において、体内にステントやステントグラフト等の留置具を送り出す留置具デリバリー装置が用いられる。このようなものを体菅内の所望の位置に送り出すために、デリバリー装置のシースが体内に挿入される。
体内にあるシースの位置を特定するために、シースにX線不透過性のマーカーを設けて、体外からX線を照射して施術を行う方法がある。
【0003】
例えば、特許文献1には、留置具を送り出すためのものではなく、流体を送り出すものであるが、X線不透過性のマーカーを備えるカテーテル組立体が開示されている。
このカテーテル組立体のマーカーは、流体を放出する側孔の向きをX線透視下で特定するために設けられている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2019-187771号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
このようなマーカーをステントやステントグラフト等の体内送達時に使用するデリバリーシース先端部に埋め込む場合、その多くはマーカーをカシメることでシースの内層に噛みこませて、シースにマーカーを保持させる手法が取られている。
【0006】
しかし、特に、留置具デリバリー装置では、カシメられたマーカー部分の径方向内側部分が、マーカーにより押し出されて、シースの内腔が狭くなることで、留置具を放出する際の抵抗が上昇し、留置具の放出の妨げとなることがあった。また、留置具の放出時に、マーカーにより内腔が狭められた部位に留置具から局所的な荷重がかかり、シースが離断する場合があった。
【0007】
一方で、マーカーをカシメない場合、マーカーとシースの内層との間に空隙ができる場合があり、シース先端部に膨れが生じたり、留置具を放出・展開する際のシース離断の一因となったりしていた。
【0008】
本発明は上述のような課題に鑑みてなされたものであり、留置具を好適に放出可能な留置具デリバリー装置を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の留置具デリバリー装置は、留置具を体内に送り込む留置具デリバリー装置であって、前記留置具を中空部に収容する樹脂製のシースと、X線不透過性を有し、前記シース内に埋設された筒状のマーカーと、を備え、前記マーカーの外周面には、有底の螺旋状の切り溝が形成されており、該切り溝に前記シースの樹脂層が入り込んでいることを特徴とする。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、留置具を好適に放出可能な留置具デリバリー装置を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】本実施形態に係る留置具デリバリー装置により、ステントグラフトを大動脈弓に留置している状態を示す模式図である。
図2】シースを示す模式図である。
図3】マーカーを示す図である。
図4】マーカーの端部を示す断面図である。
図5】アウターシースの模式的な断面図である。
図6】マーカーの切り溝の寸法を説明する図である。
図7】シースの領域ごとの破断強度と応力度を示す図である。
図8】変形例に係るマーカーの端部を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の実施形態に係る留置具デリバリー装置(デリバリー装置1)について説明する。
なお、本実施形態で用いる図面は、本発明の留置具デリバリー装置の構成、形状、各部材の配置を例示するものであり、本発明を限定するものではない。
また、図面は、デリバリー装置1の長さ、幅、高さといった寸法比を必ずしも正確に表すものではない。
なお、近位側(基端側)は、施術時に術者の近くに配置される側をいい、遠位側(先端側)は、施術時に術者の遠くに配置される側をいう。
また、すべての図面において、同様な構成要素には同様の符号を付し、重複する説明は適宜省略する。
【0013】
<概要>
本実施形態の説明に先立って、先ず、本実施形態に係る留置具デリバリー装置(デリバリー装置1)の概要について、図1から図4を主に参照して説明する。
図1は、本実施形態に係るデリバリー装置1により、ステントグラフト2を大動脈弓50に留置している状態を示す模式図、図2は、シース3を示す模式図、図3は、マーカー7を示す図、図4は、マーカー7の端部を示す断面図である。
【0014】
本実施形態に係る留置具デリバリー装置(デリバリー装置1)は、図1に示すように、留置具(ステントグラフト2)を体内(例えば大動脈瘤40のある部位)に送り込むものである。
デリバリー装置1は、図2及び図3に示すように、ステントグラフト2を中空部に収容する樹脂製のシース3と、X線不透過性を有し、シース3内に埋設された筒状のマーカー7と、を備える。
マーカー7の外周面には、図4に示すように、有底の螺旋状の切り溝7aが形成されている。切り溝7aに図2に示すシース3の樹脂層3iが入り込んでいることを特徴とする。
【0015】
「留置具」としては、ステント部2aとグラフト部2bとを含むステントグラフト2のほか、グラフト部2bがなくステント部2aのみで形成された不図示のステントや不図示の塞栓コイル等、シース3を介して体内に留置されるものが含まれる。
【0016】
上記構成によれば、マーカー7に螺旋状の切り溝7aが形成されており、切り溝7aにシース3(本実施形態においては後述するアウターシース31)の樹脂層3iが入り込んでいることで、樹脂層3iが入り込む分だけシース3の樹脂層3iの断面積を大きくすることができる。
【0017】
そして、マーカー7の切り溝7aにシース3の樹脂層3iが入り込んでいることで、入り込んだ樹脂層3i部分がアンカーとして機能し、マーカー7とシース3との接合強度が向上する。このため、マーカー7をシース3にカシメる必要がなくなる。したがって、シース3の内腔が狭まることを防止でき、この内腔が狭まることを起因とする留置具(ステントグラフト2)の詰まり等の上記問題の発生を回避できる。
【0018】
特に、マーカー7の外周面に切り溝7aが形成されていることで、外層3jを切り溝7aの底深くまで入り込ませることができる。
具体的には、薄い下地層である内層3hよりも厚い外層3jにマーカー7をアンカーさせることができ、マーカー7の切り溝7aを深く形成しても、外層3jを切り溝7aの底深くに至るまでの厚さを設けることができるためである。
そして、シース3(アウターシース31)は、その長手方向において、マーカー7を包摂する部位が最も樹脂層3iが薄い。このため、この部位が、ステントグラフト2を露出させるためにシース3(アウターシース31)が引っ張られた際に、最も離断しやすい部位となる。
このため、マーカー7に切り溝7aが形成されていることで、マーカー7を包摂する部位においてシース3の軸方向に垂直な断面における樹脂層3iの断面積を大きくなり、シース3の破断リスクを低減できることとなる。
【0019】
<構成>
次に、本実施形態に係るデリバリー装置1の構成について、図1から図4に加えて、図5から図7を主に参照して説明する。図4は、マーカー7の端部を示す断面図、図5は、アウターシース31の模式的な断面図、図6は、マーカー7の切り溝7aの寸法を説明する図である。図7は、シース3の領域ごとの破断強度と応力度を示す図である。
【0020】
図1に示すように、本実施形態に係るデリバリー装置1は、大動脈弓50に形成された大動脈瘤40に当接するようにステントグラフト2を留置するためのものである。
デリバリー装置1は、シース3と、シース3に取り付けられたマーカー7と、ステントグラフト2の近位側への移動を制限するプッシャー6と、を主に備える。
【0021】
[マーカー]
マーカー7は、X線不透過性を有し、X線を照射することにより、シース3の先端部の位置を術者が確認するためのものである。
本実施形態に係るマーカー7の内径は5.68mm、外径(切り溝7aを除いた最外径)は5.84mm、軸線方向の長さは3.00mmである。マーカー7に設けられた切り溝7aの溝間のピッチは90μmである。
【0022】
マーカー7の外周面に切り溝7aが定ピッチで螺旋状に形成されていることで、シース3におけるマーカー7を包摂する部位におけるシース3の軸方向に垂直な断面において、樹脂層3iの断面積を一定にすることが可能となる。このため、螺旋状の切り溝7aを有するマーカー7は、長手方向のみに溝が切られた場合やコイル状のものと比較して、外周部からの圧縮に強くなり、マーカー7のシース3への取り付け時等に変形しづらい構造となる。
【0023】
マーカー7に設けられた切り溝7aの図6に示す寸法から数式1、数式2、数式3及び数式4で算出したものに基づき、マーカー7を包摂する部位の樹脂部(樹脂層3i)の断面積、樹脂部の応力等を表1に示す。
【0024】
【数1】
数式1の文字に関しては、図6に示すように、dは、切り溝7aの谷の径、dは、マーカー7の外径、Hは、仮想的なとがり谷の深さ、Pは、切り溝7aのピッチを示すものである。
【0025】
【数2】
上記数式1に関して説明した以外の数式2の文字に関しては、図6に示すように、d2は、切り溝7aの有効径を示すものである。
【0026】
【数3】
上記数式1及び数式2に関して説明した以外の数式3の文字に関しては、図6に示すように、d3は、d1から仮想的なとがり谷の深さHの1/6を引いた値(丸み半径をH/6としたときの谷の底の径)を示すものである。
【0027】
【数4】
上記数式1から数式3に関して説明した以外の数式4の文字に関しては、As,nomは、切り溝7aの有効断面積を示すものである。
【0028】
【表1】
表1における「樹脂部の応力」は、目標放出抵抗を40Nとした場合に、安全率を4倍とした160Nの負荷が樹脂部(樹脂層3i)にかかるものとして計算した値である。
【0029】
図6に示す切り溝7aの溝深さDは、表1に示すように、マーカー7における溝深さDを除いた残肉厚よりも大きい。例えば、表1に示すように、実施例1に係るマーカー7の切り溝7aの溝深さDは50μmであり、0.03mmである残肉厚よりも大きく、実施例2のマーカー7の溝深さDは60μmであり、0.02mmである残肉厚よりも大きい。
【0030】
上記構成によれば、残肉厚が薄いことで、マーカー7の柔軟性を高めつつ、溝深さDが大きいことで、シース3との接合強度を高めることができる。
【0031】
図6に示すマーカー7の軸方向における切り溝7aのピッチPは、表1に示すように、切り溝7aの溝深さDよりも大きいと好ましい。
例えば、表1に示すように、実施例1に係るマーカー7の切り溝7aのピッチPは0.092mmであり、50μmである溝深さDよりも大きい。また、本実施例2においても、ピッチPは0.111mmであり、60μmである溝深さDよりも大きい。
【0032】
上記構成によれば、樹脂層3iが切り溝7aに入りやすくなり、空洞(ボイド)が生じることを抑制できる。
【0033】
螺旋状の切り溝7aは、マーカー7の少なくとも一端において、マーカー7の端まで形成されていると好ましい。
【0034】
上記構成によれば、外層3jをマーカー7の上に形成する際に、螺旋状の切り溝7aがマーカー7の端まで形成されていることで、図4に示すように、マーカー7の端に必ず薄肉部7b(切り溝の谷部分)が形成されることになる。本実施形態に係る薄肉部7bの肉厚は約30μmである。
マーカー7の端まで切り溝7aが形成されておらず、マーカー7の端が厚肉部7cであると、外層3jを形成する溶融樹脂が厚肉部7c(切り溝7aが形成されていない部分)に乗り上がるようにしてマーカー7の表面を流れることになるため、空気が切り溝7a内に残りやすい。
【0035】
一方で、マーカー7の端まで切り溝7aが形成されていると、外層3jを形成する溶融樹脂が、切り溝7aの薄肉部7bに乗り上げ、それから螺旋突条(厚肉部7c)を乗り越えるか、又は螺旋状の切り溝7a内に入り込むかの選択になる。
このため、溶融樹脂が切り溝7a内に流れ込みやすくなり、切り溝7a内の空気抜きが良好になり、マーカー7を覆う外層3jが残留空気により、薄く形成されることを防止できる。
【0036】
[シース]
本実施形態に係るシース3は、先端部に先端チップ5を備えてガイドワイヤ34が通されるインナーシース30と、インナーシース30に対して軸線方向に摺動可能に取り付けられたアウターシース31と、を備える。
本実施形態に係るステントグラフト2は、インナーシース30に取り付けられ、施術者によってアウターシース31がインナーシース30に対して相対的に近位側に移動させられることにより、シース3から露出して放出される。
【0037】
アウターシース31は、図5に示すように、内層3hと、内層3hを覆う外層3jと、外層3j内を通る一対の操作線4(図2参照)と、を備える。外層3j内に、ワイヤが編み込まれた編組層3k及び樹脂層3iを備え、内層3hの外周部であり、外層3jの樹脂層3i内にマーカー7が設けられている。マーカー7に操作線4の先端部が固定されている。術者は、操作線4を牽引することで、シース3を屈曲させることができる。
内層3hは、PTFE製であり、外層3jは、硬度の異なる複数の熱可塑性樹脂によって構成されている。熱可塑性樹脂の一例としてポリアミドエラストマーを挙げることができるが、ウレタン系エラストマーなど他の熱可塑性樹脂を用いてもよい。
【0038】
本実施形態に係るアウターシース31の外層3jを構成する樹脂層3iは、図2及び表2に示すように、軸線方向の領域ごとに異なる破断強度を有する樹脂を備えている。
【表2】
【0039】
具体的には、樹脂層3iは、近位側から遠位側にかけて、破断強度62MPaの第1領域R1、破断強度44MPaの第2領域R2、破断強度30MPaの第3領域R3、破断強度62Maの第4領域R4、マーカー7を包摂する第5領域R5、第6領域R6、破断強度44MPaの第7領域R7で、構成されている。
そして、外層3jは、図2に示すように、第1領域R1から第3領域R3まで、編組層3kが設けられている。本実施形態に係る編組層3kは、線径0.05mmのワイヤが編み込まれた層であり、破断強度は800N/mmである。
【0040】
図7に示すように、マーカー7部分を包摂する樹脂層3iの第5領域R5の破断強度(62MPa)が、ステントグラフト2を放出する際に160Nの負荷が樹脂部(樹脂層3i)にかかるときの樹脂部(樹脂層3i)に加わる応力度を上回るように、樹脂層3iの材料が選択されている。このように選択されていることで、ステントグラフト2放出時に樹脂層3iが破断することを防止できる。
【0041】
ここで、ステントグラフト2を放出する際に160Nの負荷が樹脂部(樹脂層3i)に係るときの樹脂部(樹脂層3i)に係る応力度は、表1に示すように、実施例1(溝深さ50μm)のときに56MPa、実施例2(溝深さ60μm)のときに60MPaである。
なお、図7に示す、第1領域R1、第2領域R2及び第3領域R3における破断強度は、樹脂層3iと編組層3kの破断強度を合算したものである。この数値は、第1領域R1においては、67MPa、第2領域R2においては49MPa、第3領域R3においては35MPaである。
【0042】
上記のように、マーカー7が埋設された部位(第5領域R5)における樹脂層3iの硬度よりも、その基端側に隣接する部位(第3領域R3)における樹脂層3iの硬度の方が低いと好ましい。
上記のように、本実施形態における樹脂層3iにおける、第4領域R4、第5領域R5及び第6領域R6の破断強度は62MPaであるのに対し、第3領域R3の破断強度は30MPaである。
【0043】
上記構成によれば、マーカー7が埋設された部分の樹脂層3iの剛性を確保して、ステントグラフト2に押圧されることによる荷重でシース3のマーカー7が埋設された部位が破断することを抑制することができる。さらに、基端側に隣接する部位(第3領域R3)の硬度が低いことで、シース3を大きく振れるようにして指向性を高めることができる。
【0044】
上記のように、マーカー7が埋設された部位(第5領域R5)における樹脂層3iの破断強度(62MPa)は、基端側に隣接する部位(第3領域R3)における樹脂層3iの破断強度(30MPa)の2倍以上であると好ましい。
【0045】
上記構成によれば、留置具(ステントグラフト2)からの荷重がかかりやすいマーカー7が埋設された部位の破断強度を高めることで、留置具(ステントグラフト2)に押圧されることによるシース3の破断を効果的に防ぐことができる。
【0046】
留置具がステントグラフト2であって、切り溝7aに入り込む樹脂層3iの破断強度(第5領域R5の破断強度)が、留置具(ステントグラフト2)を露出させるために必要なシース3の牽引力を、切り溝7aに入り込んだ樹脂層3iの断面積で除した値の4倍以上であると好ましい。
【0047】
本実施形態においては、切り溝7aに入り込む樹脂層3i(第5領域R5)の破断強度は、62MPaであり、シース3の牽引力は40N以下で想定されている。そして、溝深さDが50μmである切り溝7aに入り込んだ樹脂層3iの断面積は、2.68mm、溝深さDが60μmである切り溝7aに入り込んだ樹脂層3iの断面積は、2.83mmであった。いずれのケースにおいても、上記の破断強度、牽引力及び断面積の関係性が上記の関係性を満たしている。
【0048】
上記構成によれば、樹脂層3iの破断強度、牽引力及び断面積の関係性が上記の関係性であることで、樹脂層3iの破断を好適に防止することができる。
【0049】
また、薄肉部7bの外周にある樹脂層3iの断面積が、厚肉部7cの外周にある樹脂層3iの断面積の1.4倍以上であると好ましい。
また、厚肉部7cの断面積が、薄肉部7bの断面積の2.5倍以上あるとよい。
【0050】
[プッシャー]
上記のように、デリバリー装置1は、図1に示すように、留置具(ステントグラフト2)の近位側に当接可能なプッシャー6を備え、シース3(アウターシース31)は、ステントグラフト2及びプッシャー6に対して相対的に退行可能である。
【0051】
プッシャー6をステントグラフト2に当接させた状態で、シース3(アウターシース31)を近位側に引くと、プッシャー6からステントグラフト2を介してシース3(アウターシース31)に摩擦力が加わる。このような場合であっても、マーカー7に接合しているアウターシース31の樹脂層3iが、切り溝7aに入り込んでいるため、シース3が破断することを抑制できる。
【0052】
<変形例>
次に、図8を主に参照して、変形例に係るマーカー7について説明する。図8は、変形例に係るマーカー7の端部を示す断面図である。
【0053】
マーカー7は、螺旋状の切り溝7aの谷部分である薄肉部7b、7dを有する。薄肉部7b、7dのうち、マーカー7の端部にある薄肉部7dの一部がマーカー7の外径側に反り返っており、樹脂層3iの外層3j(図5参照)にアンカーしている。
【0054】
なお、反り返った薄肉部7dは、マーカー7の両端部に形成されているとより好ましい。
さらに、薄肉部7dの反り返りの最大量は、溝深さDの1/5より大きいと好ましく、溝深さDの1/2よりも小さいと好ましい。
上記構成によれば、マーカー7の端部の薄肉部7dが反り返っていることで、シース3へのアンカー力をより高めることができる。
【0055】
上記実施形態は、以下の技術思想を包含するものである。
(1)
留置具を体内に送り込む留置具デリバリー装置であって、
前記留置具を中空部に収容する樹脂製のシースと、
X線不透過性を有し、前記シース内に埋設された筒状のマーカーと、を備え、
前記マーカーの外周面には、有底の螺旋状の切り溝が形成されており、
該切り溝に前記シースの樹脂層が入り込んでいることを特徴とする留置具デリバリー装置。
(2)
前記留置具の近位側に当接可能なプッシャーを備え、
前記シースは、前記留置具及び前記プッシャーに対して相対的に退行可能である(1)に記載の留置具デリバリー装置。
(3)
前記切り溝の溝深さは、前記マーカーにおける前記溝深さを除いた残肉厚よりも大きい(1)又は(2)に記載の留置具デリバリー装置。
(4)
前記マーカーの軸方向における前記切り溝のピッチは、前記切り溝の溝深さよりも大きい(1)から(3)のいずれか一項に記載の留置具デリバリー装置。
(5)
前記マーカーが埋設された部位における前記樹脂層の硬度よりも、その基端側に隣接する部位における前記樹脂層の硬度の方が低い(1)から(4)のいずれか一項に記載の留置具デリバリー装置。
(6)
前記マーカーが埋設された部位における前記樹脂層の破断強度は、前記基端側に隣接する部位における前記樹脂層の破断強度の2倍以上である(5)に記載の留置具デリバリー装置。
(7)
前記マーカーは、螺旋状の前記切り溝の谷部分である薄肉部を有し、
該薄肉部のうち、前記マーカーの端部にある前記薄肉部の一部が前記マーカーの外径側に反り返っており、前記樹脂層の外層にアンカーしている(1)から(6)のいずれか一項に記載の留置具デリバリー装置。
(8)
螺旋状の前記切り溝は、前記マーカーの少なくとも一端において、前記マーカーの端まで形成されている(1)から(7)のいずれか一項に記載の留置具デリバリー装置。
(9)
前記留置具がステントグラフトであって、
前記切り溝に入り込む前記樹脂層の破断強度が、前記留置具を露出させるために必要な前記シースの牽引力を、前記切り溝に入り込んだ前記樹脂層の断面積で除した値の4倍以上である(1)から(8)のいずれか一項に記載の留置具デリバリー装置。
(10)
前記マーカーは、螺旋状の前記切り溝の谷部分である複数の薄肉部と、前記切り溝が形成されていない厚肉部と、を有し、
前記薄肉部の外周にある前記樹脂層の断面積が、前記厚肉部の外周にある樹脂層の断面積の1.4倍以上である(1)から(9)のいずれか一項に記載の留置具デリバリー装置。
(11)
前記マーカーは、螺旋状の前記切り溝の谷部分である複数の薄肉部と、前記切り溝が形成されていない厚肉部と、を有し、
該厚肉部の断面積が、前記薄肉部の断面積の2.5倍以上である(1)から(10)のいずれか一項に記載の留置具デリバリー装置。
【符号の説明】
【0056】
1 デリバリー装置(留置具デリバリー装置)
2 ステントグラフト(留置具)
2a ステント部
2b グラフト部
3 シース
3h 内層
3i 樹脂層
3j 外層
3k 編組層
4 操作線
5 先端チップ
6 プッシャー
7 マーカー
7a 切り溝
7b、7d 薄肉部
7c 厚肉部
30 インナーシース
31 アウターシース
34 ガイドワイヤ
40 大動脈瘤
50 大動脈弓
R1 第1領域
R2 第2領域
R3 第3領域
R4 第4領域
R5 第5領域
R6 第6領域
R7 第7領域
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8