(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023146845
(43)【公開日】2023-10-12
(54)【発明の名称】三次元造形物の製造方法
(51)【国際特許分類】
B29C 64/314 20170101AFI20231004BHJP
A61K 47/32 20060101ALI20231004BHJP
A61K 47/38 20060101ALI20231004BHJP
A61K 31/167 20060101ALI20231004BHJP
B29C 64/118 20170101ALI20231004BHJP
B33Y 10/00 20150101ALI20231004BHJP
B33Y 70/00 20200101ALI20231004BHJP
【FI】
B29C64/314
A61K47/32
A61K47/38
A61K31/167
B29C64/118
B33Y10/00
B33Y70/00
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022054254
(22)【出願日】2022-03-29
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.オイドラギット
(71)【出願人】
【識別番号】000006677
【氏名又は名称】アステラス製薬株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100088580
【弁理士】
【氏名又は名称】秋山 敦
(74)【代理人】
【識別番号】100195453
【弁理士】
【氏名又は名称】福士 智恵子
(74)【代理人】
【識別番号】100205501
【弁理士】
【氏名又は名称】角渕 由英
(72)【発明者】
【氏名】池田 宙瞳
(72)【発明者】
【氏名】松本 悠理
(72)【発明者】
【氏名】小林 正範
【テーマコード(参考)】
4C076
4C206
4F213
【Fターム(参考)】
4C076AA36
4C076BB01
4C076CC05
4C076DD38
4C076EE06
4C076EE07
4C076EE10
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4C076EE16
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4C076FF02
4C076FF31
4C076GG11
4C206AA01
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4C206MA05
4C206MA55
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4F213WL23
4F213WL25
4F213WL32
4F213WL74
(57)【要約】
【課題】製造レベルで三次元造形物を低温で製造することが可能な熱溶解積層方式の三次元造形物の製造方法を提供する。
【解決手段】
熱溶解積層方式による三次元造形物の製造方法は、有効成分と、所定の熱可塑性高分子とを少なくとも混合して混合物を得る「混合工程」と、混合工程で得られた混合物を圧縮させながら溶融混練して溶融混練物を得る「溶融混練工程」と、溶融混練工程で得られた溶融混練物を押し出し、造形ステージ上に積層させながら三次元造形物を印刷する「印刷工程」と、を備えている。本製造方法では、全工程において常に190℃以下の温度下となるようにして三次元造形物を製造する。
【選択図】
図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
熱溶解積層方式による三次元造形物の製造方法であって、
有効成分と、熱可塑性高分子とを少なくとも混合する混合工程と、
前記混合工程で得られた混合物を圧縮させながら溶融混練する溶融混練工程と、
前記溶融混練工程で得られた溶融混練物を押し出し、造形ステージ上に積層させながら三次元造形物を印刷する印刷工程と、を含み、
前記混合工程では、前記有効成分と、DIN EN ISO3219及びDIN 53019に準拠した溶融粘度測定(測定条件:ひずみ量1%、周波数10rad/s)において130℃における複素粘度が15560Pa・S以上、152000Pa・S以下であって130℃から180℃まで昇温したときに複素粘度が低下し、180℃における複素粘度が30Pa・S以上、14760Pa・S以下であって180℃から130℃まで降温したときに複素粘度が上昇する特性を有する前記熱可塑性高分子とを少なくとも混合し、
前記溶融混練工程では、溶融温度を130~190℃に設定して溶融混練し、
前記印刷工程では、押出温度を130~190℃に設定して押し出し、前記造形ステージのステージ温度を40~140℃に設定して積層させることとし、
前記三次元造形物を190℃以下の温度で製造することを特徴とする三次元造形物の製造方法。
【請求項2】
前記混合工程では、前記有効成分と、前記特性を有し、ポリビニルアルコール-ポリエチレングリコール-グラフトコポリマー、ポリビニルカプロラクタム-ポリビニル酢酸-ポリエチレングリコールグラフトコポリマー、アミノアルキルメタクリレートコポリマー、酢酸ビニル樹脂-ポビドン混合物及びポリビニルアルコールからなる群より選択される1種類以上の前記熱可塑性高分子と、を少なくとも混合し、
前記三次元造形物を常に190℃以下の温度で製造することを特徴とする請求項1に記載の三次元造形物の製造方法。
【請求項3】
前記三次元造形物の総重量に対して、前記熱可塑性高分子の含量が50~90重量%であることを特徴とする請求項2に記載の三次元造形物の製造方法。
【請求項4】
前記混合工程では、医薬有効成分と、オイドラギットRSPOとを少なくとも混合し、
前記溶融混練工程では、前記溶融温度を130~150℃に設定して溶融混練し、
前記印刷工程では、前記押出温度を130~160℃に設定して前記溶融混練物を押し出し、前記ステージ温度を40~90℃に設定して前記造形ステージ上に積層させ、
前記三次元造形物を常に160℃以下の温度で製造することを特徴とする請求項3に記載の三次元造形物の製造方法。
【請求項5】
前記混合工程では、前記医薬有効成分と、前記オイドラギットRSPOと、可塑剤とを少なくとも混合し、
前記三次元造形物の総重量に対して、前記オイドラギットRSPOの含量が60~90重量%であって、前記可塑剤の含量が10%以下(0%を除く)であることを特徴とする請求項4に記載の三次元造形物の製造方法。
【請求項6】
前記混合工程では、前記医薬有効成分と、前記オイドラギットRSPOと、ソルビトール及びマンニトールからなる群より選択される1種類以上の可溶化剤と、可塑剤とを少なくとも混合し、
前記三次元造形物の総重量に対して、前記オイドラギットRSPOの含量が60~90重量%であって、前記可溶化剤の含量が20%以下(0%を除く)であって、前記可塑剤の含量が10%以下(0%を除く)であることを特徴とする請求項4に記載の三次元造形物の製造方法。
【請求項7】
第十六改正日本薬局方の溶出試験法において前記有効成分の溶出率が19時間以内に80%以上である前記三次元造形物を製造することを特徴とする請求項1乃至6のいずれか1項に記載の三次元造形物の製造方法。
【請求項8】
前記混合工程では、難水溶性又は水不溶性の前記医薬有効成分と、前記オイドラギットRSPOとを少なくとも混合し、
第十六改正日本薬局方の溶出試験法において前記医薬有効成分の溶出率が3.0時間以内に80%以上である前記三次元造形物を製造することを特徴とする請求項4乃至6のいずれか1項に記載の三次元造形物の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、三次元造形物の製造方法に係り、特に熱溶解積層方式(Fused Deposition Modeling、FDM方式)による三次元造形物の製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、コンピュータ上で作成した3D-CAD(Computer Aided Design)データを設計図として、三次元造形用材料を三次元上に積層配置することで三次元造形物を造形することが可能な3Dプリンタ技術が知られている。
例えば、三次元造形用材料となる熱可塑性樹脂を熱溶解してノズルから押し出し、造形ステージ上に積層させながら造形する熱溶解積層方式(Fused Deposition Modeling、FDM方式)による3Dプリンタ技術が広く知られている。
そうした中で、3Dプリンタ技術を応用した医薬品製剤の新しい製造方法が注目されているところである。
【0003】
例えば、非特許文献1、2では、研究レベルにおいて熱溶解積層方式の三次元造形によって錠剤を製造できる可能性があることが報告されている。
また、特許文献1では、製造レベルにおいて良好な「射出成形性」及び「印刷性」を兼ね備えた材料の選定を行い、医薬有効成分と、水溶性の熱可塑性高分子(ポリビニルアルコール)と、水溶性の糖及び/または水溶性の糖アルコール(マルチトール)と、可塑剤成分とを含有する材料を用いることで、三次元造形によって有効成分が速やかに溶出する錠剤を製造することを実現している。
なお、実際の製造レベルにおいて再現性良く錠剤を製造することが可能な高分子材料の種類は限られている。非特許文献1、2のような研究レベルの報告内容では、比較的脆いフィラメントや不均一な太さのフィラメントが作製されるケースが多く、フィラメントの質に大きく依存してしまうため、製造成功率は50~80%程度になるものと想定される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】国際公開第2017/175792号
【特許文献2】欧州特許出願公開第3590501号明細書
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】European Journal of Pharmaceutics and Biopharmaceutics 140(2019) 105060
【非特許文献2】European Journal of Pharmaceutics and Biopharmaceutics 96(2015) p.380-387
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、熱溶解積層方式による三次元造形物の製造にあたっては、三次元造形物に含まれる有効成分の安定性を考慮すると、出来る限り低温で製造することが求められていた。
例えば、特許文献1では、三次元造形用の材料を混合する「混合工程」と、混合工程で得られた混合物を圧縮させながら溶融混練する「溶融混練工程」と、溶融混練工程で得られた溶融混練物を射出成形し、フィラメントを作製する「フィラメント作製工程」と、フィラメントを熱溶解して押し出し、造形ステージ上に積層させながら三次元造形物を印刷する「印刷工程」と、を順次行って錠剤を製造することとしている。
このとき、「溶融混練工程」では溶融温度を200℃程度に設定し、「フィラメント作製工程」では射出成形温度を200℃程度に設定し、「印刷工程」では押出温度を200℃程度に設定することが必要となる。また、造形ステージのステージ温度を150℃程度に設定することも必要となる。上記の設定温度よりも低温で製造してしまうと、良好な「印刷性」を確保することが難しくなるためである。例えば、フィラメントに要求される粘弾性を持つ高分子材料を低温で射出成形しようとすると、高粘度であるために射出時間が長くなり、均一なフィラメントを作製できなくなる。
良好な「印刷性」として、例えばノズルから一定量溶融物が射出されること、射出物が印刷ステージに付着すること、印刷時の取り外しが容易であることが要求される。
また、速やかに固まるという「射出成形性」を持っていないと、二層目、三層目と積層させて三次元体を形成できないため、「射出成形性(冷えて固まること)」も求められる。
そのため、良好な「射出成形性」及び「印刷性」を確保した製造レベルにおいて、三次元造形物を出来る限り低温で製造する技術が求められていた。
【0007】
なお、上記三次元造形物の製造についてより詳しく説明すると、上記「溶融混練工程」及び「フィラメント作製工程」では、高分子材料を溶融するために当該高分子材料のガラス転移温度以上の高温で加熱する必要があって、一般に100~200℃程度に設定することが多い。「印刷工程」では、フィラメントを熱溶解してノズルから押し出すために、フィラメントが「溶融混練工程」における温度よりも高温に耐える必要がある場合もある。高分子材料によっては「溶融混練工程」と「印刷工程」の温度差が100℃を超える場合がある。そのため、高分子材料の選定が重要となってくる。
【0008】
本発明は、上記の課題に鑑みてなされたものであり、本発明の目的は、製造レベルにおいて三次元造形物を出来る限り低温で製造することが可能な熱溶解積層方式による三次元造形物の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、鋭意研究した結果、有効成分と、所定の熱可塑性高分子とを少なくとも混合する「混合工程」と、得られた混合物を圧縮させながら溶融混練する「溶融混練工程」と、得られた溶融混練物を押し出し、造形ステージ上に積層させながら三次元造形物を印刷する「印刷工程」とを行い、熱可塑性高分子の材料選定にあたっては複素粘度のパラメータに着目することで、製造レベルにおいて三次元造形物を190℃以下(好ましくは160℃以下)の温度で製造することが可能であることを明らかにして、本発明を完成するに至った。
具体的には、良好な「射出成形性」を確保することが難しいため、フィラメントを作製することなく(フィラメント作製工程を経ることなく)、溶融混練物を直接押し出して造形ステージ上に積層させながら三次元造形物を印刷することに至った。
また、良好な「印刷性」を確保し、三次元造形物を190℃以下の温度で製造するべく、試行錯誤の末に複素粘度のパラメータに着目し、所望の熱可塑性高分子を選定することに至った。
なお、ここでの良好な「印刷性」としては、例えば、溶融混練物が均一の太さで造形ステージ上に押し出されること(射出物の均一性)、造形ステージ上に印刷された印刷物の密着性が良好であること(射出物の可塑性)、印刷物が造形ステージから容易に取り外せること(印刷物の取り外し易さ)が要求される。すなわち、製造レベルで再現性良く錠剤を印刷製造するためには、一般的に三次元造形物の製造に使用される熱可塑性高分子では不十分であって、従来よりも過酷な印刷性の条件が必要とされた。また、フィラメント作製工程を経ることなく三次元造形物を製造する方法では、従来とは異なる観点で印刷性を確保するため、熱可塑性高分子のスクリーニングが必要とされた。
【0010】
従って、前記課題は、本発明によれば、熱溶解積層方式による三次元造形物の製造方法であって、有効成分と、熱可塑性高分子とを少なくとも混合する混合工程と、前記混合工程で得られた混合物を圧縮させながら溶融混練する溶融混練工程と、前記溶融混練工程で得られた溶融混練物を押し出し、造形ステージ上に積層させながら三次元造形物を印刷する印刷工程と、を含み、前記混合工程では、前記有効成分と、DIN EN ISO3219及びDIN 53019に準拠した溶融粘度測定(測定条件:ひずみ量1%、周波数10rad/s)において130℃における複素粘度が15560Pa・S以上、152000Pa・S以下であって130℃から180℃まで昇温したときに複素粘度が低下し、180℃における複素粘度が30Pa・S以上、14760Pa・S以下であって180℃から130℃まで降温したときに複素粘度が上昇する特性を有する前記熱可塑性高分子とを少なくとも混合し、前記溶融混練工程では、溶融温度を130~190℃に設定して溶融混練し、前記印刷工程では、押出温度を130~190℃に設定して押し出し、前記造形ステージのステージ温度を40~140℃に設定して積層させることとし、前記三次元造形物を190℃以下の温度で製造すること、により解決される。
上記構成により、製造レベルにおいて三次元造形物を比較的低温で製造することが可能な熱溶解積層方式による三次元造形物の製造方法を実現することができる。
具体的には、フィラメント作製工程を経ることなく、製造レベルでの良好な印刷性を確保しながら、三次元造形物を比較的低温で製造する方法を実現することができる。
【0011】
このとき、前記混合工程では、前記有効成分と、前記特性を有し、ポリビニルアルコール-ポリエチレングリコール-グラフトコポリマー(例えばコリコートIR)、ポリビニルカプロラクタム-ポリビニル酢酸-ポリエチレングリコールグラフトコポリマー(例えばソルプラス)、アミノアルキルメタクリレートコポリマー(例えばオイドラギットRSPO)、酢酸ビニル樹脂-ポビドン混合物(例えばコリドンSR)及びポリビニルアルコールからなる群より選択される1種類以上の前記熱可塑性高分子と、を少なくとも混合し、前記三次元造形物を常に190℃以下の温度で製造すると良い。
また、前記三次元造形物の総重量に対して、前記熱可塑性高分子の含量が50~90重量%であると良い。
また、前記混合工程では、医薬有効成分と、オイドラギットRSPOとを少なくとも混合し、前記溶融混練工程では、前記溶融温度を130~150℃に設定して溶融混練し、前記印刷工程では、前記押出温度を130~160℃に設定して前記溶融混練物を押し出し、前記ステージ温度を40~90℃に設定して前記造形ステージ上に積層させ、前記三次元造形物を常に160℃以下の温度で製造すると良い。
なお,溶融温度とは
図1のスクリュー押出機20の温度,押出温度とは
図1のノズル51の温度,ステージ温度とは
図1の造形ステージ60の温度を指す。
また、前記混合工程では、前記医薬有効成分と、前記オイドラギットRSPOと、可塑剤とを少なくとも混合し、前記三次元造形物の総重量に対して、前記オイドラギットRSPOの含量が60~90重量%であって、前記可塑剤の含量が10%以下(0%を除く)であると良い。
また、前記混合工程では、前記医薬有効成分と、前記オイドラギットRSPOと、ソルビトール及びマンニトールからなる群より選択される1種類以上の可溶化剤と、可塑剤とを少なくとも混合し、前記三次元造形物の総重量に対して、前記オイドラギットRSPOの含量が60~90重量%であって、前記可溶化剤の含量が20%以下(0%を除く)であって、前記可塑剤の含量が10%以下(0%を除く)であると良い。
上記構成により、より好適に製造レベルにおいて三次元造形物を比較的低温で製造することが可能となる。
【0012】
また、第十六改正日本薬局方の溶出試験法において前記有効成分の溶出率が19時間以内に80%以上である前記三次元造形物を製造すると良い。
上記構成により、比較的速やかに有効成分が溶出する溶出性の三次元造形物を製造することが可能となる。
【0013】
また、前記混合工程では、難水溶性又は水不溶性の前記医薬有効成分と、前記オイドラギットRSPOとを少なくとも混合し、第十六改正日本薬局方の溶出試験法において前記医薬有効成分の溶出率が3.0時間以内に80%以上である前記三次元造形物を製造すると良い。
上記構成により、難水溶性又は水不溶性の医薬有効成分であっても、処方によって有効成分の放出速度を制御し、速やかに有効成分が溶出する三次元造形物を製造することも可能となる。
【発明の効果】
【0014】
本発明の熱溶解積層方式による三次元造形物の製造方法によれば、製造レベルにおいて三次元造形物を比較的低温で製造することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図2】3Dプリンタ機器を構成する混合ユニット、溶融混練ユニット及び印刷ユニットを示す図である。
【
図3】三次元造形物の製造方法を示す処理フロー図である。
【
図4A】予備試験例1の昇温時における溶融粘度の変化グラフである。
【
図4B】予備試験例1の昇温時における溶融粘度の変化グラフである。
【
図5A】予備試験例1の降温時における溶融粘度の変化グラフである。
【
図5B】予備試験例1の降温時における溶融粘度の変化グラフである。
【
図6】予備試験例1の熱可塑性高分子のスクリーニング結果データである。
【
図7A】試験例1の印刷性の評価試験結果データである。
【
図7B】試験例1の印刷性の評価試験結果データである。
【
図8】試験例2の製造温度の評価試験結果データである。
【
図9】試験例3の有効成分の溶出試験結果データである。
【
図10】試験例3の「試験開始後の時間」と「有効成分の溶出率」との関係を表したグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明の実施形態について、
図1~
図10を参照しながら説明する。
本実施形態は、熱溶解積層方式による三次元造形物の製造方法であって、有効成分と、所定の熱可塑性高分子とを少なくとも混合し、混合物を得る「混合工程」と、混合工程で得られた混合物を圧縮させながら溶融混練し、溶融混練物を得る「溶融混練工程」と、溶融混練工程で得られた溶融混練物を押し出し、造形ステージ上に積層させながら三次元造形物を印刷する「印刷工程」と、を備えており、全工程において三次元造形物を常に190℃以下の温度下で製造することを主な特徴とする三次元造形物の製造方法の発明に関するものである。
【0017】
「三次元造形物」とは、熱溶解積層方式の3Dプリンタ機器を用いて製造されるものである。その投与経路は特に制限されない。例えば、経口投与、又は経口摂取、口腔内投与、直腸内投与、膣内投与等が挙げられる。好ましくは、経口投与である。
三次元造形物は、医薬に限定されることはなく、例えば、経口摂取用の固形食品として特定保健用食品、栄養機能食品、機能性表示食品、サプリメント等であっても良い。
三次元造形物は、リング形状からなることが望ましいが、特に形状を限定することなく変更可能であって、従来のように円柱形状や楕円柱形状であっても良い。
【0018】
<3Dプリンタ機器>
本実施形態の製造方法では、混合ユニット、溶融混練ユニット(エクストルーダユニット)及び印刷ユニットを備えた公知な3Dプリンタ機器を用いて三次元造形物を製造することとしている。
このような3Dプリンタ機器としては、例えば欧州特許出願公開第3590501号明細書に記載の3Dプリンタ機器が挙げられる(
図1、2参照)。
当該3Dプリンタ機器を利用することで、フィラメントを作製することなく(フィラメント作製工程を経ることなく)、溶融混練物を直接押し出して造形ステージ上に積層させながら三次元造形物を印刷することができる。
なお、上記3Dプリンタ機器に限定されるものではなく、フィラメントの作製を不要とし、溶融混練物を押し出して造形ステージ上に積層させて三次元造形物を印刷可能な3Dプリンタ機器であれば良い。
【0019】
具体的には、上記3Dプリンタ機器1は、
図1、2に示すように、混合ユニットを構成するホッパー10と、溶融混練ユニットを構成するスクリュー押出機20と、印刷ユニットを構成する分配部材30、計量ポンプ40、印刷ヘッド50及び造形ステージ60と、各ユニットを総合的に制御する制御装置70と、から主に構成されている。
【0020】
ホッパー10は、有効成分、所定の熱可塑性高分子、所定の可溶化剤、及び所定の可塑剤からなる混合物を一時的に貯蔵し、混合することで粉体の均一性を保ち、スクリュー押出機20に向けて混合物を適正量供給するための機器である。フィーダーとも称される。
なお、ホッパー10は、上述の通り、予め混合された混合物を貯蔵する機器として利用されても良いし、「混合工程」にて用いられ、混合物を得るための混合器として利用されても良い。
スクリュー押出機20は、「溶融混練工程」にて用いられ、ホッパー10と接続され、混合物を圧縮させながら所定の溶融温度で溶融混練し、溶融混練物を得るためのものである。エクストルーダーとも称される。
【0021】
分配部材30、計量ポンプ40、印刷ヘッド50及び造形ステージ60は、それぞれ「印刷工程」において用いられる。
分配部材30は、スクリュー押出機20と計量ポンプ40を接続し、スクリュー押出機20から流出された溶融混練物を、計量ポンプ40側とオーバーフロー出口31側とに分配する分配弁である。例えば、スクリュー押出機20が正常に動作していない場合や、印刷ヘッド50が停止している場合には、溶融混練物をオーバーフロー出口31側へ流すように切り替える。
計量ポンプ40は、溶融混練物を貯蔵するとともに、三次元造形物の印刷に必要な量の溶融混練物を印刷ヘッド50に流すものである。
印刷ヘッド50は、所定の押出温度で溶融混練物をノズル51から押し出し、造形ステージ60上に溶融混練物を積層させて三次元造形物を印刷する。造形ステージ60は、三次元造形物を容易に取り外せるように所定のステージ温度に設定されている。
なお、より詳細は、欧州特許出願公開第3590501号明細書の通りである。
【0022】
<三次元造形物の製造方法>
以下、
図3に示すように、本実施形態の製造方法によって行われる「混合工程」、「溶融混練工程」及び「印刷工程」について詳しく説明する。
【0023】
<<混合工程>>
「混合工程」では、ホッパー10を用いて、有効成分、所定の熱可塑性高分子、所定の可溶化剤、及び所定の可塑剤をそれぞれ所定の配合比で混合し、三次元造形物用の混合物(混合材料)を得る。
なお、予め調整された混合物をホッパー10に入れることとし、当該混合物を貯蔵し、撹拌する機器としてホッパー10を利用しても良い。すなわち、ホッパー10の代わりに公知な混合機を利用しても良い。
【0024】
「三次元造形用混合物」とは、三次元造形において特に熱溶解積層方式に好適に用いられ、経口投与用、経口摂取用、口腔内投与用、直腸内投与用、又は膣内投与用として利用可能な成分から構成される混合物(混合材料)である。
当該混合物は、例えば粉末状からなり、各構成成分を好適に配合することにより得られるものであるが、特に形状を限定することなく変更可能である。例えば、各構成成分を配合して得られる粉末を造粒することによりペレット状にしても良い。
【0025】
「三次元造形用混合物」の各構成成分について説明する。
当該混合物は、有効成分と、所定の熱可塑性高分子と、所定の可溶化剤と、所定の可塑剤と、を含有するものである。
なお、当該混合物は、さらに各種の添加剤を含有していても良い。例えば、結合剤、安定化剤、崩壊剤、崩壊助剤、酸味料、発泡剤、人工甘味料、香料、滑沢剤、着色剤、緩衝剤、抗酸化剤、界面活性剤等を1種以上組み合わせて適量含有していても良い。
【0026】
「有効成分」とは、医薬品、医薬部外品、健康食品等に含まれる物質のうち生理活性を示すものをいう。具体的には、三次元造形物の有効成分となるものであって、熱溶融しても安定であれば特に制限されない。
有効成分は、好ましくは、医薬有効成分であると良い。より好ましくは、難水溶性又は水不溶性の医薬有効成分であると良い。その他の態様として、特定保健用食品、栄養機能食品、機能性表示食品、サプリメント等に含まれる有効成分であっても良い。
三次元造形用混合物(三次元造形物)の有効成分の含量は、三次元造形用混合物(三次元造形物)の総重量に対して1~40重量%、好ましくは5~30重量%、より好ましくは5~20重量%、より好ましくは5~15重量%、より好ましくは10重量%である。ただし、本発明の効果を達成し得る範囲内であれば、特に限定することなく変更可能である。
【0027】
「熱可塑性高分子」とは、熱可塑性、すなわち、常温では変化しにくいが、適当に加熱すると塑性を示して自由な変形が可能となり、また冷却すると再び固くなる性質を備えた高分子物質をいう。三次元造形物の基剤となって熱可塑性を付与するものである。
【0028】
「所定の熱可塑性高分子」とは、良好な「印刷性」を確保し、三次元造形物を190℃以下の低温で製造することを実現すべく、複素粘度のパラメータに着目して選定された熱可塑性高分子である。
詳しく述べると、DIN EN ISO3219及びDIN 53019に準拠した溶融粘度測定(測定条件:ひずみ量1%、周波数10rad/s)において「130℃」における複素粘度が15560Pa・S以上、152000Pa・S以下であって130℃から180℃まで昇温したときに複素粘度が低下し、かつ、「180℃」における複素粘度が30Pa・S以上、14760Pa・S以下であって180℃から130℃まで降温したときに複素粘度が上昇する特性を有する熱可塑性高分子である。
上記熱可塑性高分子について「130℃」における複素粘度が、好ましくは15560Pa・S以上、146000Pa・S以下、より好ましくは15560Pa・S以上、127690Pa・S以下、より好ましくは15560Pa・S以上、31910Pa・S以下であると良い。
また、「180℃」における複素粘度が、好ましくは30Pa・S以上、14760Pa・S以下、より好ましくは30Pa・S以上、2090Pa・S以下、より好ましくは30Pa・S以上、570Pa・S以下、より好ましくは60Pa・S以上、500Pa・S以下であると良い。
【0029】
具体的には、上記熱可塑性高分子は、ポリビニルアルコール-ポリエチレングリコール-グラフトコポリマー、ポリビニルカプロラクタム-ポリビニル酢酸-ポリエチレングリコールグラフトコポリマー、ポリビニルピロリドン、コポリビドン、アミノアルキルメタクリレートコポリマー、酢酸ビニル樹脂-ポビドン混合物、ヒドロキシプロピルメチルセルロース及びポリビニルアルコール(PVA:Parteck MXP)からなる群より選択される1種類以上の水不溶性の熱可塑性高分子である。
ポリビニルアルコール-ポリエチレングリコール-グラフトコポリマーは、「コリコートIR」であると良い。
ポリビニルカプロラクタム-ポリビニル酢酸-ポリエチレングリコールグラフトコポリマーは「ソルプラス」であると良い。
ポリビニルピロリドンは「コリドン12PF」であると良い。
コポリビドンは、「コリドンVA64」であると良い。
アミノアルキルメタクリレートコポリマーは、「オイドラギットRSPO」であると良い。
酢酸ビニル樹脂-ポビドン混合物は、「コリドンSR」であると良い。
ヒドロキシプロピルメチルセルロースは、「HPMCAS(HPMCAS-HG)」であると良い。
【0030】
好ましくは、130℃及び180℃における複素粘度値、また昇温時及び降温時における複素粘度変化の観点から、「ソルプラス」、「コリドンVA64」、「オイドラギットRSPO」、「HPMCAS」、「コリドン12PF」であると良い。より好ましくは「オイドラギットRSPO」であると良い。
【0031】
上記熱可塑性高分子の含量は、三次元造形用混合物(三次元造形物)の総重量に対して30~95重量%であって、好ましくは40~90重量%であって、より好ましくは50~90重量%、より好ましくは60~90重量%である。ただし、本発明の効果を達成し得る範囲内であれば、特に限定することなく変更可能である。
【0032】
「可溶化剤」とは、水に対する有効成分の溶出性を高めるものである。また、良好な可塑性を付与するものもある。また、熱可塑性高分子の130℃及び180℃における複素粘度値を低下させ、より低温で印刷可能になる。
具体的には、ソルビトール、マンニトール、マルチトール、イソマルト及びラクチトールからなる群より選択される1種類以上の可溶化剤である。
好ましくは、ソルビトール、マンニトールであると良い。より好ましくは、ソルビトールであると良い。
【0033】
上記可溶化剤の含量は、三次元造形用混合物(三次元造形物)の総重量に対して40%以下(0%を除く)であって、好ましくは30%以下(0%を除く)であって、より好ましくは20%以下(0%を除く)であって、より好ましくは10%以上、20%以下であって、より好ましくは20%である。ただし、本発明の効果を達成し得る範囲内であれば、特に限定することなく変更可能である。
なお、三次元造形用混合物(三次元造形物)が可溶化剤を含まないものであっても良い。
【0034】
「可塑剤」とは、三次元造形物の可塑剤となるものであって、良好な印刷性を確保するために添加するものである。
具体的には、ポリオキシエチレン(160)ポリオキシプロピレン(30)グリコール、ポリエチレングリコール、クエン酸トリエチル、マクロゴール、トリアセチン、中鎖脂肪酸トリグリセリド及びヒマシ油からなる群より選択される1種類以上の可塑剤である。
ポリオキシエチレン(160)ポリオキシプロピレン(30)グリコールは、「コリフォールP188」であると良い。
ポリエチレングリコールは、「PEG6000」であると良い。
好ましくは、「コリフォールP188」又は「PEG6000」であると良い。
【0035】
上記可塑剤の含量は、三次元造形用混合物(三次元造形物)の総重量に対して30%以下(0%を除く)であって、好ましくは20%以下(0%を除く)であって、より好ましくは10%以下(0%を除く)であって、より好ましくは10%である。ただし、本発明の効果を達成し得る範囲内であれば、特に限定することなく変更可能である。
なお、三次元造形用混合物(三次元造形物)が可塑剤を含まないものであっても良い。
【0036】
<<溶融混練工程>>
「溶融混練工程」では、混合工程で得られた混合物を、スクリュー押出機20を用いて所定の圧力で圧縮させながら溶融混練し、三次元造形用の溶融混練物を得る。
「溶融混練工程」では、溶融温度を130~190℃に設定し混合物を溶融混練する。また、溶融混練時にはバレル回転数を上げて100~200rpmに設定し、溶融混練物の流出時にはバレル回転数を下げて5~30rpmに設定する。スクリュー押出機20の溶融温度を130~190℃に設定して溶融混練物を溶融混練する。
好ましくは、溶融温度を130~180℃、より好ましくは130~160℃、より好ましくは130~150℃、より好ましくは130~140℃、より好ましくは130℃に設定すると良い。
【0037】
なお、本実施形態の製造方法では、溶融混練により得られた溶融混練物を射出成形し、フィラメントを作製する「フィラメント作製工程」を必要としない。そのため、従来のように射出成形温度を200℃程度の高温に設定する必要がなく、三次元造形物用混合物に含まれる有効成分の安定性が損なわれることをより回避することができる。言い換えれば、三次元造形物の製造時に繰り返し高温に曝されるリスクを低減することができる。
【0038】
<<印刷工程>>
「印刷工程」では、溶融混練工程で得られた溶融混練物を、分配部材30及び計量ポンプ40を用いて三次元造形物の印刷に必要な量を調整しながら印刷ヘッド50へ流出する。そして、印刷ヘッド50に流出された溶融混練物をノズル51から押し出し、造形ステージ60上に積層させて三次元造形物を印刷する。
【0039】
「印刷工程」では、押出温度を130~190℃に設定して溶融混練物を押し出す。また、造形ステージ60のステージ温度を40~140℃に設定して溶融混練物を積層させる。
好ましくは、押出温度を130~180℃、より好ましくは130~160℃、より好ましくは130~150℃、より好ましくは130~140℃、より好ましくは130℃に設定すると良い。
また好ましくは、ステージ温度を40~120℃、より好ましくは50~120℃、より好ましくは50~90℃、より好ましくは50~80℃、より好ましくは50℃又は60℃に設定すると良い。
【0040】
上記三次元造形物の製造方法によれば、「混合工程」、「溶融混練工程」及び「印刷工程」の全工程において、三次元造形物を常に190℃以下、好ましくは180℃以下、より好ましくは160℃以下、より好ましくは150℃以下、より好ましくは140℃以下、最適には130℃以下の温度で製造することが可能となる。
また、従来のフィラメント作製工程を経ることなく、製造レベルでの良好な印刷性を確保しながら、三次元造形物を製造することが可能となる。
【0041】
なお、「良好な印刷性」について説明すると、製造レベルで再現性良く錠剤を印刷するために必要な要件であって、1)溶融混練物が均一の太さで造形ステージ上に押し出されること(射出物の均一性が良好であること)、2)造形ステージ上に印刷された印刷物の密着性が良好であること(射出物の可塑性が良好であること)、3)印刷物が造形ステージから容易に取り外せること(印刷物の取り外し易さが良好であること)が少なくとも要求される。
一方で、中間工程でフィラメントを作製する必要がないため、従来のように、フィラメントが一定の太さで射出成形されること、射出成形後はフィラメントが比較的速やかに固まる必要があること等、従来必要とされた「良好な射出成形性」については不要である。また、フィラメントを印刷ヘッド内にセットする際に幾分折り曲げたときに折れてしまわない程度の可塑性も必要とされないし、3Dプリンタ機器のノズル先端部で溶融した後、一定量で溶融物が吐き出されることも必要とされない。
【0042】
<<溶出性>>
また、上記三次元造形物の製造方法によれば、比較的速やかに有効成分が溶出する溶出性の三次元造形物を製造することも可能となる。
詳しく述べると、熱溶解積層方式を採用して三次元造形物を製造すると、一般的に三次元造形物が崩壊し難くなり、有効成分の溶出速度が遅延してしまうことがある。
そこで、良好な「射出成形性」及び「印刷性」を確保しながらも、処方を変更することで「有効成分の放出速度」を制御(変更)可能な三次元造形物を製造することが求められていた次第である。
【0043】
「溶出性の三次元造形物」とは、具体的には、第十六改正日本薬局方の溶出試験法パドル法(パドル回転数:50rpm)において、三次元造形物の有効成分の溶出率が19時間以内に80%以上を示すものである。溶出試験に用いる試験液としては、例えば、溶出試験第1液や水などを用いることができる。
好ましくは、三次元造形物の有効成分の溶出率が12時間以内に80%以上を示すもの、より好ましくは6時間以内に80%以上示すもの、より好ましくは3時間以内に80%以上を示すもの、より好ましくは溶出率が2.5時間以内に80%以上を示すもの、より好ましくは溶出率が3.0時間以内に90%以上を示すものである。溶出率の上限は100%である。
特に、難水溶性又は水不溶性の医薬有効成分の溶出率が、3.0時間以内に80%以上を示す三次元造形物であると尚良い。
【実施例0044】
以下、本発明の実施例について詳しく説明する。なお、本発明は本実施例に限定されるものではない。
<予備試験例1:熱可塑性高分子のスクリーニング>
まずは、三次元造形物用材料の基材となる「熱可塑性高分子」のスクリーニングを行った。具体的には、熱可塑性高分子の複素粘度に着目し、複素粘度が所定の下限値以上、所定の上限値以下であって、昇温時に複素粘度が連続的又は断続的に低下し、降温時に複素粘度が連続又は連続的又は断続的に上昇する特性を有する熱可塑性高分子を候補として選定した。
なお、複素粘度が高すぎると、あるいは複素粘度が低すぎると、熱溶解積層方式の三次元造形において「射出物の均一性」に影響することが予想されたため、複素粘度の上限値及び下限値を定めることとした。
また、昇温時に複素粘度が低下し、かつ、降温時に複素粘度が上昇しないと、射出物の可塑性に影響することが予想されたため、昇温時に複素粘度が低下し、かつ、降温時に複素粘度が上昇することを定めることとした。
【0045】
具体的な試験方法として、粘度測定機器(型式番号:MCR302、アントンパール社製)を用いて、DIN EN ISO3219及びDIN 53019に準拠した溶融粘度測定(測定条件:ひずみ量1%、周波数10rad/s)を行った。
詳しく述べると、熱可塑性高分子の粉末を直径16mmの杵で打錠して試験サンプルを作成し、当該試験サンプルの昇温時の溶融粘度、及び降温時の溶融粘度を連続して測定し、温度に対する溶融粘度の変化を評価した。
昇温時の溶融粘度として、130℃から180℃まで昇温したときの複素粘度を連続して測定した。また、降温時の溶融粘度として、180℃から130℃まで降温したときの複素粘度を連続して測定した。
【0046】
(予備試験例1の結果、考察)
予備試験例1の試験結果をまとめたものを
図4A~
図5B、
図6に示す。
図6に示す「熱可塑性高分子」の候補は、130℃における複素粘度が下限値1000Pa・S以上、上限値1000000Pa・S以下であって昇温時に複素粘度が連続的に低下し、かつ、180℃における複素粘度が下限値10Pa・S以上、上限値100000Pa・S以下であって降温時に複素粘度が連続的に上昇する特性を有するものである。
一方で、予備試験例1を行った「熱可塑性高分子」のうち、
図6に示す熱可塑性高分子以外のものについては、上記複素粘度に関する条件を満たさなかったため、候補対象外とした。
そのほか、熱可塑性高分子「コリコートIR」については、上記予備試験例1を行っていないものの、複素粘度に関する文献に基づいて特性を満たしていることを確認したため、候補として選定した(例えば、非特許文献3:Hot-Melt Extrusion with BASF Pharma Polymers Extrusion Compendium 2nd Revised and Enlarged Edition (October 2012) p.114-115 参照)。
なお、「HPMCAS-HG」について、130℃(昇温時)の複素粘度が127690であって、180℃(降温時)の複素粘度が14760であることを溶融粘度測定により確認した。
【0047】
<実施例:配合比が異なる三次元造形用の材料>
所定の配合比からなる三次元造形物用材料を準備し、熱溶解積層方式の3Dプリンタ機器(オランダ応用科学研究機構TNO製、欧州特許出願公開第3590501号明細書参照)を用いて三次元造形物を作製することを試みた。
具体的には、「有効成分」として難水溶性の医薬有効成分「アセトアミノフェン」(水に対する溶解度14μg/mL)を選定した。
また、「熱可塑性高分子」として
図6に示す複数の熱可塑性高分子及びコリコートIR、HPMCAS-HGを選定した。
また、「可溶化剤」としてソルビトール又はマンニトールを選定し、「可塑剤」としてコリフォールP188又はPEG6000を選定した。
【0048】
これら素材を
図7A、7Bに示す配合比となるように調製し、複数の三次元造形用材料を準備した。なお、三次元造形用材料の中には、複数の「熱可塑性高分子」を混合したものや、「可溶化剤」及び/又は「可塑剤」を混合していないものも準備した。
【0049】
<実施例1>
「混合工程」
アセトアミノフェン、コリコートIRをそれぞれ
図7Aに記載された配合比で混合し、三次元造形物用の混合物(本発明の混合物)を得た。
「溶融混練工程」
本発明の混合物を、溶融温度60~190℃に設定して溶融混練し、三次元造形用の溶融混練物(本発明の溶融混練物)を得た。
なお、溶融混練時にはバレル回転数を100rpmに設定し、溶融温度を190℃に設定して溶融混練した。
「印刷工程」
本発明の溶融混練物を、押出温度を190℃に設定して溶融混練物を押し出した。また、ステージ温度を140℃に設定して溶融混練物を積層し、本発明の印刷物を得た。
【0050】
<実施例2~実施例23>
溶融混練工程においては、混合物の組成により溶融温度が異なるため,予備試験例1の試験結果を参考に溶融温度を実施例ごとに設定した。
図8に示す温度に変更した以外は実施例1と同様にして、
図7A、7Bに示す通りに本発明の印刷物を得た。
【0051】
<試験例1:印刷性の評価>
図7A、7Bに示す実施例1~実施例23の三次元造形物用材料を用いて、上記3Dプリンタ機器によって三次元造形物の作製を行い、「印刷性」を評価する試験を行った。
具体的には、上述した本実施形態の製造方法の通り、「混合工程」と、「溶融混練工程」と、「印刷工程」とを順次行い、常に190℃以下の温度下となるように三次元造形物の作製を行った。
このとき、「印刷性」の評価として、評価1)印刷工程における射出物の均一性、評価2)印刷工程における射出物の可塑性評価、評価3)印刷物の取り外し易さ、をそれぞれ評価した。
【0052】
評価1)印刷工程における射出物の均一性として、溶融混練物が均一の太さで造形ステージ上に押し出されるか否かを評価し、均一に押し出されたものには評価「〇」とし、均一に押し出されないもの(つまり、印刷できないもの)には評価「×」とした。
なお、評価「×」の実施例についてはこの時点で不採用とした。
評価2)印刷工程における射出物の可塑性として、造形ステージ上にノズルから押し出された射出物の可塑性が高いもの(つまり、手指で折り曲げても折れない可塑性の高いもの)には評価「H(High)」とし、射出物の可塑性が低いもの(つまり、手指で折り曲げると折れてしまうもの)には評価「L(Low)」とし、射出物の可塑性が中程度のものには評価「M(Middle)」とした。
なお、評価「L」の実施例についてはこの時点で不採用とした。
評価3)印刷物の取り外し易さとして、印刷物が造形ステージから取り外せるか否かを評価し、容易に取り外せるものには評価「〇」とし、取り外せるものには評価「△」とし、取り外せないものには評価「×」とした。
【0053】
上記評価1)において評価「〇」、上記評価2)において評価「H」又は評価「M」、かつ、上記評価3)において評価「〇」又は「△」の実施例を、良好な印刷性を有するものと判断した。
【0054】
(試験例1の結果、考察)
各実施例における印刷性の評価結果をまとめたものを
図7A、7Bに示す。
試験例1の試験結果から、
図7A、7Bに示す複数の「熱可塑性高分子」の候補のうち、コリコートIR、オイドラギットRSPO、コリドンSRについては、「可溶化剤」及び/又は「可塑剤」を添加しなくても、良好な印刷性を有することが示された。
また試験結果から、
図7A、7Bに示す複数の「熱可塑性高分子」の候補のうち、ソルプラス、PVA(Parteck MXP)については、「可溶化剤」及び/又は「可塑剤」を添加することで、良好な印刷性を有することが示された。
なお、実施例4、実施例9、実施例11、実施例21については、射出物の可塑性について明確に評価できなかった。
【0055】
<試験例2:製造温度の評価>
続いて、試験例1の試験結果から良好な印刷性を有することが示された実施例を選定し、当該実施例を用いて製造した三次元造形物の「製造温度」を評価した。
このときの「製造温度」の評価として、溶融混練工程における「溶融温度」、印刷工程における「押出温度」及び「ステージ温度」をそれぞれ評価した。
具体的には、選定された上記実施例について、三次元造形物を作製可能な「溶融温度」、「押出温度」及び「ステージ温度」の下限値をそれぞれ求めた。
なお、作製する三次元造形物は、リング形状とし、3D CADデータの設定値として内径2.5mm、外径5mm、高さ2.1mmとし、作製後の重量が100~250gの錠剤となるようにした。
【0056】
(試験例2の結果、考察)
各実施例における印刷性の評価結果をまとめたものを
図8に示す。
試験例2の試験結果から、
図8に示す実施例全てについて「溶融温度」、「押出温度」及び「ステージ温度」が190℃以下となることが示された。つまり、三次元造形物を常に190℃以下の温度下で製造することが可能であることが示された。
【0057】
試験結果から、実施例7となるアセトアミノフェンが10重量%、オイドラギットRSPOが90重量%の三次元造形物であるとき、「溶融温度」、「押出温度」及び「ステージ温度」が150℃以下(140℃以下)となることが示された。
また、実施例10となるアセトアミノフェンが10重量%、オイドラギットRSPOが80重量%、コリフォールP188が10重量%の三次元造形物であるとき、「溶融温度」、「押出温度」及び「ステージ温度」が145℃以下となることが示された。
また、実施例14となるアセトアミノフェンが10重量%、オイドラギットRSPOが60重量%、ソルビトールが20重量%、コリフォールP188が10重量%の三次元造形物であるとき、「溶融温度」、「押出温度」及び「ステージ温度」が130℃以下となることが示された。
つまり、上記実施例の場合には、三次元造形物を常に150℃以下の温度下で製造することが可能であることが示された。
【0058】
<試験例3:有効成分の溶出試験>
次に、試験例1、2の試験結果から低温で製造可能であることが示された実施例を選定し、当該実施例を用いて三次元造形物の作製を行い、第十六改正日本薬局方の溶出試験法パドル法(パドル回転数:50rpm)に従って溶出試験を行った。
試験液は溶出試験第2液(米国薬局方準拠、pH6.8)900mlを使用し、試験開始後における有効成分(アセトアミノフェン)の溶出率を紫外・可視吸光光度法(UV-VIS法)によって評価した。試験結果の解析では、三次元造形物の重量を測定し、その重量から三次元造形物に含まれる薬物量を計算して、吸光度の値を薬物含有量の理論値により補正した。
なお、作製する三次元造形物は、試験例2と同様にリング形状とした。
【0059】
(試験例3の結果、考察)
各実施例の配合比及び溶出率が80%に達したときの時間をまとめたものを
図9に示す。また各実施例のうち、代表例として実施例7、10、14、22の三次元造形物による「試験開始後の時間(hrs)」と、「有効成分の溶出率(%)」との関係を表したグラフを
図10に示す。
試験例3の結果から、実施例7の三次元造形物については、7時間経過後の平均溶出率が80%以上を示した。
実施例10の三次元造形物については、10時間経過後の平均溶出率が80%以上を示した。
実施例14の三次元造形物については、3.0時間経過後の平均溶出率が80%以上を示した。
実施例22の三次元造形物については、18時間経過後の平均溶出率が80%以上を示した。
【0060】
また、試験例3の結果(実施例10、14、22の結果)から、熱可塑性高分子(オイドラギットRSPO、コリフォールP188の混合物)に対して第2の熱可塑性高分子(ソルプラス)あるいは可溶化剤(ソルビトールあるいは糖アルコール)を添加することで、有効成分の溶出速度(Q=80%)をコントロール可能であることが示された。