(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023146855
(43)【公開日】2023-10-12
(54)【発明の名称】調湿建材
(51)【国際特許分類】
C04B 33/13 20060101AFI20231004BHJP
E04F 13/14 20060101ALI20231004BHJP
【FI】
C04B33/13 A
E04F13/14 103A
【審査請求】有
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022054267
(22)【出願日】2022-03-29
(71)【出願人】
【識別番号】305014847
【氏名又は名称】株式会社加納
(71)【出願人】
【識別番号】522125892
【氏名又は名称】KionArt株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】515194007
【氏名又は名称】株式会社瀬戸漆喰本舗
(74)【代理人】
【識別番号】110000648
【氏名又は名称】弁理士法人あいち国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】武藤 ひとみ
(72)【発明者】
【氏名】福田 数博
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 文弘
(72)【発明者】
【氏名】森村 毅
【テーマコード(参考)】
2E110
【Fターム(参考)】
2E110AA14
2E110AA16
2E110AB04
2E110AB23
2E110BA12
2E110CA03
2E110CA04
2E110EA06
2E110GA22W
2E110GA22Z
2E110GA34W
2E110GB12W
2E110GB12Z
2E110GB14W
2E110GB14Z
2E110GB15W
2E110GB15Z
2E110GB18W
2E110GB18Z
(57)【要約】
【課題】生産性を向上させることができ、吸放湿性能および強度を確保することができる調湿建材を提供する。
【解決手段】調湿建材は、消石灰および/または生石灰と、石灰製砂と、多孔質石粉末と、粘土と、多孔質粘土鉱物と、Caイオン含有水溶液とを含む組成物の硬化体より構成される。調湿建材は、上記特定の組成物より構成される坏土をプレス成形し、得られたプレス成形体を乾燥、硬化させて硬化体とすることにより製造することができる。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
消石灰および/または生石灰と、石灰製砂と、多孔質石粉末と、粘土と、多孔質粘土鉱物と、Caイオン含有水溶液とを含む組成物の硬化体より構成される、調湿建材。
【請求項2】
上記Caイオン含有水溶液は、Caイオンと、酸と、水とを含む、請求項1に記載の調湿建材。
【請求項3】
上記Caイオンは、貝殻由来である、請求項2に記載の調湿建材。
【請求項4】
上記硬化体は、焼成されていない、請求項1から請求項3のいずれか1項に記載の調湿建材。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、調湿建材に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、調湿性能を有する調湿建材が知られている。例えば、特許文献1には、竜山石と称される兵庫県高砂市から兵庫県加西市に分布する流紋岩質溶結凝灰岩の粉末と、室温で固まるバインダーとしての半水石膏と、水とを混合し、型に流し込んで自然乾燥させてなる調湿建材が開示されている。室温で固まるバインダーとしては、半水石膏以外にもセメントなどが記載されている。また、同文献には、竜山石の粉末と、粘土と、水とを混合して容器を用いて成形し、自然乾燥後、焼成してなる調湿建材も開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、原料を型に流し込んで成形する従来の調湿建材は、生産性が悪い。また、室温で固まるバインダーとしてセメントを用いた場合には、硬化性が高まるため比較的強度のある調湿建材が得られるものの、吸放湿性能が低下する。また、焼成して得られる従来の調湿建材は、強度を確保しやすいものの、焼成工程が必要となるため、生産性が悪く、焼成コストもかかる。
【0005】
本発明は、かかる課題に鑑みてなされたものであり、生産性を向上させることができ、吸放湿性能および強度を確保することができる調湿建材を提供しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の一態様は、消石灰および/または生石灰と、石灰製砂と、多孔質石粉末と、粘土と、多孔質粘土鉱物と、Caイオン含有水溶液とを含む組成物の硬化体より構成される、調湿建材にある。
【発明の効果】
【0007】
上記調湿建材は、上記構成を有する。そのため、上記調湿建材は、上記特定の組成物からなる坏土をプレス成形し、得られたプレス成形体を乾燥により硬化させて硬化体とすることにより製造することができる。そのため、上記調湿建材は、原料を型に流し込んで成形したり、焼成したりすることなく製造することができるので、生産性を向上させることができる。また、上記調湿建材は、上記特定の組成物が漆喰材料のようにスサを含まないため、上記特定の組成物の混練時に混練トラブルなども生じ難い。また、上記調湿建材は、上記特定の組成物の硬化体より構成されるため、吸放湿性能および強度を確保することができる。
【発明を実施するための形態】
【0008】
本実施形態の調湿建材について、詳細に説明する。
【0009】
本実施形態の調湿建材は、消石灰および/または生石灰と、石灰製砂と、多孔質石粉末と、粘土と、多孔質粘土鉱物と、Caイオン含有水溶液とを含む組成物の硬化体より構成される。
【0010】
本実施形態の調湿建材は、上記特定の組成物からなる坏土をプレス成形し、得られたプレス成形体を乾燥により硬化させて硬化体とすることにより製造することができる。なお、上記特定の組成物は粘土を含んでいるので、プレス成形体の生強度を確保することができる。そのため、本実施形態の調湿建材は、原料を型に流し込んで成形したり、焼成したりすることなく製造することができるので、生産性を向上させることができる。また、本実施形態の調湿建材は、上記特定の組成物の硬化体より構成されるため、吸放湿性能および強度を確保することができる。これは、次の理由によるものと推察される。すなわち、上記特定の組成物がCaイオン含有水溶液を含むことにより、硬化体表面だけでなく硬化体内部にCO2が入りやすくなり、その結果、消石灰および/または生石灰、石灰製砂の中性化の進行が速くなり、硬化が促進される。そのため、調湿建材に必要な強度を確保することができるようになると考えられる。また、調湿建材の強度を確保するために上記特定の組成物にセメントを用いていないので、多孔質石粉末が有する吸放湿性能が損なわれ難く、調湿建材の吸湿性能を確保することができるものと考えられる。また、上記特定の組成物が多孔質粘土鉱物を含んでいるので、これによっても吸放湿性能の低下が抑制されるものと考えられる。
【0011】
上記特定の組成物において、消石灰(Ca(OH)2)および/または生石灰(CaO)は、空気中の二酸化炭素との反応による硬化のために重要な成分である。上記特定の組成物は、消石灰、生石灰のいずれか一方または両方を含んでいてもよい。好ましくは、上記特定の組成物調製時に水との反応による発熱抑制、取り扱い性などの観点から、消石灰を好適に用いることができる。消石灰、生石灰は、例えば、石灰岩、石灰石、貝殻(牡蠣殻、ホタテ貝殻等)、珊瑚などに由来するものを用いることができる。消石灰、生石灰は、粉末であることができる。
【0012】
上記特定の組成物において、石灰製砂とは、生石灰から消石灰を製造する時に生じる砂状のものをいう。石灰製砂は、細骨材として機能しうるものであり、石灰製砂の粒度は、例えば、4mm以下とすることができる。石灰製砂は、例えば、中山石灰工業株式会社製のものを有限会社瓦工事ミヤケより入手することが可能である。
【0013】
上記特定の組成物において、多孔質石粉末は、多孔質石材の粉末であり、吸放湿性能を有する。但し、多孔質石粉末は、竜山石などの兵庫県高砂市から兵庫県加西市に分布する流紋岩質溶結凝灰岩の粉末を含まないものとする。本実施形態の調湿建材は、従来の調湿建材に適用されてきた兵庫県高砂市から兵庫県加西市に分布する流紋岩質溶結凝灰岩の粉末を用いることなく、生産性を向上させることができ、吸放湿性能および強度を確保することができる。したがって、本実施形態の調湿建材は、原料の危険分散を図ることができる利点がある。
【0014】
多孔質石粉末を構成する多孔質石材としては、天然のものが好ましく、具体的には、例えば、十和田火山由来の天然軽石(以下、十和田湖軽石という。)、伊豆諸島新島産のコーガ石(以下、新島コーガ石という。)、岐阜県美濃白川産の麦飯石(以下、美濃白川麦飯石という。)などが挙げられる。なお、多孔質石粉末は、これらに限定されるものではなく、吸放湿性能を有するものであれば、種々のものを適用することができる。多孔質石材は、1種または2種以上併用することができる。
【0015】
上記特定の組成物において、粘土は、上記特定の組成物からなる坏土によるプレス成形性の確保、プレス成形体の生強度確保などに必要な成分である。粘土としては、例えば、木節粘土、蛙目粘土などが挙げられる。
【0016】
上記特定の組成物において、多孔質粘土鉱物としては、具体的には、ゼオライト、セピオライトなどが挙げられる。多孔質粘土鉱物としては、ゼオライトおよびセピオライトのうちの一方を用いてもよいし、両方を用いてもよい。多孔質粘土鉱物を粘土とともに用いることにより、上記特定の組成物からなる坏土を準備する際に、上記特定の組成物の練り込み状態を調整しやすくなる。また、ゼオライトおよびセピオライトは、吸着性能を有するため、調湿建材の吸放湿性能の低下抑制に寄与することができる。また、セピオライトは、多孔質の上、繊維状で絡み合うために水に分散して粘性を示すことができ、上記特定の組成物の練り込み状態の調整に有利である。
【0017】
上記特定の組成物において、Caイオン含有水溶液は、Caイオンと、水とを少なくとも含んでいる。Caイオン含有水溶液は、Caイオン、水以外にも、酢酸、クエン酸、ギ酸などの酸を含むことができる。これらは1種または2種以上含まれていてもよい。なお、水は特に限定されず、上水、イオン水、純水、蒸留水、飲用可能な地下水などいずれであってもよい。
【0018】
生石灰や消石灰は、重量百分率濃度で純水に0.2 %程度溶解することが知られている。上記特定の組成物においては、CaOやCa(OH)2が0.2%よりも多く溶解したCaイオン含有水溶液を好適に用いることができる。このようなCaイオンが高い濃度で存在するCaイオン含有水溶液は、例えば、10%酢酸水溶液を用いると重量百分率濃度でCaOを常温で、Caベースで3.2%(32g/L)程度溶解させることができる。CaOやCa(OH)2の溶解が困難である場合は、炭酸水素ナトリウム(NaHCO3)を添加することができる。また、酢酸水溶液以外にクエン酸水溶液、ギ酸水溶液などの酸含有水溶液を用いて、CaOおよび/またはCa(OH)2を溶解させてもよい。但し、自然環境および溶解能力などを考慮すると、酢酸水溶液を用いることが好ましい。なお、Caイオン含有水溶液のpHは、適宜調整することができる。Caイオン含有水溶液が、Caイオンと、酸と、水とを含む場合には、上記特定の組成物の硬化時に、針状の結晶を有する酢酸カルシウムを生じさせることができるので、調湿建材の強度向上に有利である。
【0019】
Caイオン含有水溶液の作製に使用するCaOおよび/またはCa(OH)2は、特定のCaOおよび/またはCa(OH)2に限定されるものではなく、例えば、900℃~1200℃で焼成した牡蠣殻の粉末などを使用することができる。また、牡蠣殻に代えてホタテ貝殻などの他の貝殻を焼成した貝殻粉末を使用することもできる。Caイオン含有水溶液におけるCaイオンが貝殻由来である場合には、水産業などにおいて廃棄される貝殻を資源として再利用することができるので、廃棄物を減らすことができる。上記貝殻のうち好ましくは、牡蠣殻であるとよい。これは牡蠣殻の成分分析をすると、他の貝殻よりも多くのミネラルを含んでいるため、調湿建材の製造時に物性や強度に良い影響を与えることができると考えられるからである。なお、貝殻由来のCaイオンを含むCaイオン含有水溶液は、例えば、株式会社瀬戸漆喰本舗または有限会社瓦工事ミヤケより入手することが可能である。また、Caイオン含有水溶液は、最初から所定のCaイオン濃度に調製されていてもよいし、原液を水で薄めたものであってもよい。
【0020】
Caイオン含有水溶液におけるCaイオン濃度は、例えば、1~20g/Lとすることができる。Caイオン含有水溶液におけるCaイオン濃度は、好ましくは、調湿建材の強度向上、吸放湿性能などの観点から、1~10g/Lとすることができる。また、この場合において、Caイオン含有水溶液が酢酸を含む場合には、針状の結晶を有する酢酸カルシウムを生じさせやすいため、調湿建材の強度向上に有利である。
【0021】
上記特定の組成物は、他にも、顔料などの添加剤を1種または2種以上含んでいてもよい。顔料としては、例えば、墨、弁柄などを例示することができる。
【0022】
上記特定の組成物における各成分の割合は、消石灰および/または生石灰:好ましくは、6%以上30%以下、より好ましくは、7%以上25%以下、さらに好ましくは、8%以上20%以下、石灰製砂:好ましくは、15%以上50%以下、より好ましくは、20%以上45%以下、さらに好ましくは、25%以上40%以下、多孔質石粉末:好ましくは、15%以上45%以下、より好ましくは、20%以上40%以下、さらに好ましくは、25%以上35%以下、粘土:好ましくは、2%以上8%以下、より好ましくは、3%以上6%以下、多孔質粘土鉱物:好ましくは、10%以上30%以下、より好ましくは、15%以上25%以下、Caイオン含有水溶液:好ましくは、2%以上15%以下、より好ましくは、4%以上14%以下、さらに好ましくは、6%以上13%以下とすることができる。なお、上記各成分の割合は、合計で100%となるように選択される。また、上記各成分の割合における上限値、下限値は、任意に組み合わせることができる。また、上述した顔料の割合は、上記各成分の合計割合100%に対して、例えば、0.1%以上5%以下とすることができる。なお、上記各成分の割合は、質量%である。
【0023】
消石灰および/または生石灰の割合が6%以上であると、二酸化炭素との反応による硬化が促される傾向が見られる。消石灰および/または生石灰の割合が30%以下であると、吸湿性、放湿性の両方が高くなる傾向が見られる。石灰製砂の割合が15%以上であると、消石灰および/または生石灰と同様に、二酸化炭素との反応による硬化が促される傾向が見られる。石灰製砂の割合が50%以下であると、吸湿性、放湿性の両方が高くなる傾向が見られる。多孔質石粉末の割合が15%以上であると、水分吸収率が上がり、調湿性が向上する傾向が見られる。多孔質石粉末の割合が45%以下であると、曲げ強度の低下が抑制される傾向が見られ、また、アルカリ性から中性になり難くなり、抗菌性、消臭性などを発揮させやすくなる傾向が見られる。粘土の割合が2%以上であると、上記特定の組成物のプレス成形性を確保しやすくなり、プレス成形体が崩れ難くなる傾向が見られる。粘土の割合が8%以下であると、プレス成形後の型抜きが容易になる傾向が見られる。多孔質粘土鉱物の割合が10%以上であると、調湿性能が高くなる傾向が見られる。多孔質粘土鉱物の割合が30%以下であると、調湿性能を確保しつつ、二酸化炭素との反応による硬化を確保しやすくなる傾向が見られる。Caイオン含有水溶液の割合が2%以上であると、二酸化炭素との反応による硬化を確保しやすくなり、曲げ強度を確保しやすくなる傾向が見られる。Caイオン含有水溶液の割合が15%以下であると、曲げ強度を確保しつつ、調湿性能も確保しやすくなる傾向が見られる。
【0024】
本実施形態の調湿建材の形状は、特に限定されないが、例えば、タイル状の形状を呈することができる。すなわち、本実施形態の調湿建材は、調湿タイルとして好適に適用することができる。
【0025】
本実施形態の調湿建材は、上述したように、上記特定の組成物が硬化されてなる硬化体より構成されている。具体的には、本実施形態の調湿建材は、上記特定の組成物のプレス成形体が乾燥、硬化してなる硬化体より構成されることができる。つまり、本実施形態の調湿建材を構成する硬化体は、焼成されていない。本実施形態の調湿建材は、硬化体が焼成されていないにも関わらず、高い強度を確保することができる。硬化体が焼成されていないことは、X線回折と熱分析により把握することができる。具体的には、硬化体について炭酸カルシウムの存在を確認するとともに、硬化体の熱分析を行い、100℃程度までの吸着水の脱離による重量減少、600℃程度までの結晶水の脱離による重量減少、800℃程度までの炭酸カルシウムの分解に起因する二酸化炭素の脱離による重量減少の有無を確認する。炭酸カルシウムの分解に起因する二酸化炭素の脱離による重量減少が見られた場合には、少なくとも炭酸カルシウムが分解してしまう温度まで加熱されていなかった、つまり、焼成されていなかったということができる。
【0026】
本実施形態の調湿建材は、以下のようにして製造することができるが、これに限定されるものではない。
【0027】
本実施形態の調湿建材の製造方法は、坏土準備工程と、プレス成形工程と、乾燥硬化工程とを有しており、焼成工程は有していない。
【0028】
坏土準備工程は、消石灰および/または生石灰と、石灰製砂と、多孔質石粉末と、粘土と、多孔質粘土鉱物と、Caイオン含有水溶液とを含む上記特定の組成物より構成される坏土を準備する工程である。上記特定の組成物より構成される坏土は、例えば、各成分を配合し、土練機などの混練機にて混練した後、デシンターなどの粉砕機を用いて微細に粉砕することなどによって調製することができる。なお、上記特定の組成物の含水率は、質量%で、7%~13%程度とすることができる。
【0029】
プレス成形工程は、坏土準備工程にて準備した坏土をプレス成形し、プレス成形体を得る工程である。プレス成形機は、乾式プレス成形機を好適に用いることができる。プレス成形体は、石の面状など、表面凹凸を有する形状とすることができる。プレス成形体の最大厚みは、例えば、8mm以上25mm以下とすることができる。
【0030】
乾燥硬化工程は、プレス成形体を乾燥、硬化させて硬化体とすることにより調湿建材を得る工程である。プレス成形体の乾燥は、自然乾燥、乾燥機を用いた強制乾燥のいずれであってもよいが、好ましくは、生産性などの観点から、強制乾燥とすることができる。この場合、乾燥温度は、例えば、80℃~120℃程度とすることができる。乾燥時間は、6時間~12時間程度とすることができる。
【0031】
上述した本実施形態の調湿建材の製造方法は、原料を型に流し込んで成形したり、焼成したりすることなく本実施形態の調湿建材を製造することができ、調湿建材の生産性を向上させることができる。また、本実施形態の調湿建材の製造方法は、上記特定の組成物が漆喰材料のようにスサを含まないため、上記特定の組成物の混練トラブルなども生じ難く、生産性の向上に有利である。
【0032】
以下、実験例を用いて、本開示の調湿建材について説明する。
(実験例1)
<原料準備>
以下の原料を準備した。
・消石灰(粉末)「粒度0.15mm以下、中山石灰工業株式会社製」
・石灰製砂(砂状顆粒)「粒度4.0mm以下、中山石灰工業株式会社製」
・多孔質石粉末
十和田湖軽石(粉末)「粒度0.3~0.6mm、株式会社栗山ケイセキ社製」
新島コーガ石(粉末)「粒度1mm以下、丸美陶料株式会社製」
美濃白川麦飯石(粉末)「粒度1mm以下、美濃白川麦飯石株式会社製」
なお、参考原料として、竜山石(粉末)「粒度0.5mm以下、株式会社ケープランより入手」を準備した。また、比較原料として、多孔質石粉末でないタイルセルベン(粉末)「粒度1.7mm以下、丸美陶料株式会社製」を準備した。
・粘土
木節粘土(粉末)「粒度0.5mm以下、ヤマダ窯業原料有限会社より入手した水簸木節をデシンター掛けしたもの」
・多孔質粘土鉱物
ゼオライト(粉末)「粒度1.25μm以下、近江鉱業株式会社製」
セピオライト(粉末)「粒度150メッシュ0.1mm以下、日東粉化工業株式会社製」
・Caイオン含有水溶液
株式会社瀬戸漆喰本舗より牡蠣殻由来のCaイオン水原液を入手した。Caイオン水原液は、Caイオン濃度が20g/Lとなるように牡蠣殻由来のCaOを酢酸溶液に溶かしたものである。上記Caイオン水原液と蒸留水とを400L:600Lの質量割合にて混合することにより、Caイオン含有水溶液を調製した。なお、本実験例において調整した牡蠣殻由来のCaイオン含有水溶液は、牡蠣殻由来のCaイオンと、水と、酢酸とを含んでおり、Caイオン濃度は8g/Lである。
【0033】
<坏土作製>
後述の表1に示す配合割合にて、消石灰、石灰製砂、各石粉末、粘土、多孔質粘土鉱物、および、Caイオン含有水溶液を練り込み、各組成物を得た。得られた各組成物をデシンターにて粉砕することにより、デシン粉からなる各坏土を得た。
【0034】
<プレス成形>
得られた各坏土を、一軸加圧式の乾式フリクションプレス成形機にてプレス成形し、各プレス成形体を得た。プレス成形体の外形は、110mm×110mmとした。プレス成形体の厚みは約9.3~9.9mm、重さは約175g~189g/枚とした。プレス成形体の面状は平坦とした。
【0035】
<乾燥、硬化>
各プレス成形体を、乾燥機に入れて100℃で8時間強制乾燥して硬化させることにより各硬化体とした。以上により、試験体A~試験体Hの調湿建材を得た。得られた各調湿建材は、内装用の調湿タイルを想定したものである。
【0036】
<評価>
-生産性-
上述した各試験体の製造では、原料を型に流し込んで成形したり、焼成したりしていない。また、各試験体は、プレス成形時に坏土の金型ひっつきが酷くプレス成形できないといった問題が生じず、プレス成形体を良好に成形することができた。したがって、各試験体は、プレス成形性が良好であり、プレス成形によって生産性を向上させることができることが確認できた。
【0037】
-吸放湿試験(調湿試験)-
所定の試験体について、吸放湿試験を行った。具体的には、温度を25℃に一定とし、湿度75%RHにて24時間保持した後、湿度50%RHにて24時間保持する設定とした恒温恒湿槽内に、所定の試験体を設置し、それぞれの湿度における吸湿過程終了時の試験体質量を測定し、以下の式により吸湿量、放湿量を算出した。上記測定は、所定の試験体についてn=3にて行い、得られた各測定値の算術平均値から吸湿量、放湿量をそれぞれ算出した。なお、吸放湿試験に供する試験体は、110mm×110mm×8mmの大きさとし、吸湿一面(110mm×110mmの面)以外を断湿した後、120℃で24時間乾燥させた。
75%RH吸湿量(g/m2)=(M75-M0)/A
50%RH吸湿量(g/m2)=(M50-M0)/A
但し、M75は、75%RH吸湿過程終了時における試験体の質量(g)
M50は、50%RH吸湿過程終了時における試験体の質量(g)
M0は、24時間乾燥後の試験体の質量(g)
Aは、試験体の吸湿面積(m2)
放湿量(g/m2)=75%RH吸湿量-50%RH吸湿量
つまり、上記放湿量は、75%RH24時間保持後の吸湿量と、75%RH24時間保持後、50%RH24時間保持後の吸湿量との差である。
【0038】
-曲げ強度-
所定の試験体について、3点曲げ試験(n=3)を行い、得られた曲げ強度測定値の算術平均値を、曲げ強度とした。なお、曲げ強度測定時のスパンは99.8mmとした。
【0039】
-消臭性試験-
所定の試験体について、ホルムアルデヒドガスに対する消臭性試験を行った。消臭性試験は、具体的には、(一社)繊維評価技術協議会SEKマーク繊維製品認証規準準用 21.消臭性試験(検知管法)にて実施した。ホルムアルデヒドガスの初濃度は15ppmとし、試験開始2時間後のホルムアルデヒドの減少率を測定した。
【0040】
表1に、実験例1における各試験体の作製に用いた各組成物の配合割合、表2に、実験例1における所定の試験体の生産性、吸放湿性能、曲げ強度、消臭性能などをまとめて示す。
【0041】
【0042】
【0043】
表1~表2によれば、次のことがわかる。
【0044】
試験体A~Fは、いずれも、本開示で規定される特定の組成物を用いている。そのため、試験体A~Fは、いずれも、生産性を向上させることができ、吸放湿性能および強度を確保することができた。なお、参考原料である竜山石粉末以外の多孔質石粉末を用いた試験体A~Fは、竜山石粉末を用いた試験体Gやタイルセルベンを用いた試験体Hに比べ、高い曲げ強度が得られた。したがって、試験体A~Fは、試験体Gや試験体Hに比べ、焼成を行っていない調湿建材として強度向上を図るのに有利であるといえる。なお、タイルセルベンを用いた試験体Hについて吸放湿性能・消臭性能の測定は行っていないが、タイルセルベンは、多孔質でないため、吸放湿性能・消臭性能を確保できないことは容易に理解される。
【0045】
また、試験体A~Fは、ホルムアルデヒドガスの吸着性能を有しており、消臭性能を発揮できることも確認された。
【0046】
(実験例2)
上記Caイオン水原液と蒸留水とを80ml:1000mlの質量割合にて混合することにより、Caイオン含有水溶液を調製した。なお、本実験例において調整した牡蠣殻由来のCaイオン含有水溶液は、牡蠣殻由来のCaイオンと、水と、酢酸とを含んでおり、Caイオン濃度は1.48g/Lである。
【0047】
また、顔料として、木墨(黒)(粉末)、弁柄(茶)(粉末)を準備した。
【0048】
実験例1と同様にして、後述の表3に示す配合割合となるように各組成物を調製し、各組成物からなる各坏土を得た。
【0049】
得られた各坏土を、一軸加圧式の乾式プレス成形機[30t(294KN)プレス]にてプレス成形し、各プレス成形体を得た。なお、プレス成形体の外形は、75mm×200mmとした。プレス成形体の最大厚みは15mmとした。プレス成形条件は、1プレスで1個取り、プレス荷重16t(156.8KN)とした。また、本実験例では、石の面状を有する調湿タイルとするため、プレス成形体の表面に、石の面状を形成するための表面凹凸を型転写した。以降は、実験例1と同様にして、試験体1~試験体4の調湿建材を得た。
【0050】
表3に、実験例2における各試験体の作製に用いた各組成物の配合割合を示す。
【0051】
【0052】
表3に示されるように、試験体1は、多孔質粘土鉱物を含まない組成物を用いたものである。試験体1は、坏土の金型ひっつきが酷く、プレス成形できなかった。また、試験体2、3は、粘土を含まない組成物を用いたものである。試験体2、3は、プレス成形体の生強度が低く、プレス成形体がもろく崩れてしまい、生産性が悪かった。また、試験体4は、多孔質粘土鉱物、粘土を原料に用いているため、プレス成形性が良好であった。そのため、試験体4は、プレス成形によって生産性を向上させることができることが確認できた。
【0053】
本発明は、上記各実施形態、各実験例に限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲において種々の変更が可能である。また、各実施形態、各実験例に示される各構成は、それぞれ任意に組み合わせることができる。
【手続補正書】
【提出日】2023-07-06
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
消石灰および/または生石灰(但し、石灰製砂、ならびに、水に溶解された消石灰および/または生石灰は除く。)と、石灰製砂と、多孔質石粉末(但し、ゼオライト粉末およびセピオライト粉末は除く。)と、粘土と、多孔質粘土鉱物と、Caイオン含有水溶液とを含む組成物の硬化体より構成されており、
上記粘土は、木節粘土または蛙目粘土であり、
上記多孔質粘土鉱物は、ゼオライトおよびセピオライトからなる群より選択される少なくとも1種であり、
上記Caイオン含有水溶液におけるCaイオン濃度は、1~20g/Lであり、
質量%で、
上記消石灰および/または生石灰:6%以上30%以下、
上記石灰製砂:15%以上50%以下、
上記多孔質石粉末:15%以上45%以下
上記粘土:2%以上8%以下、
上記多孔質粘土鉱物:30%以下、
上記Caイオン含有水溶液:2%以上15%以下である(但し、各成分の割合は合計で100%となるように選択される)、
調湿建材。
【請求項2】
上記Caイオン含有水溶液は、Caイオンと、酸と、水とを含む、請求項1に記載の調湿建材。
【請求項3】
上記Caイオンは、貝殻由来である、請求項2に記載の調湿建材。
【請求項4】
上記硬化体は、焼成されていない、請求項1から請求項3のいずれか1項に記載の調湿建材。
【請求項5】
上記硬化体は、上記組成物の坏土のプレス成形体が乾燥により硬化したものである、
請求項1から請求項3のいずれか1項に記載の調質建材。
【手続補正2】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0006
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0006】
本発明の一態様は、
消石灰および/または生石灰(但し、石灰製砂、ならびに、水に溶解された消石灰および/または生石灰は除く。)と、石灰製砂と、多孔質石粉末(但し、ゼオライト粉末およびセピオライト粉末は除く。)と、粘土と、多孔質粘土鉱物と、Caイオン含有水溶液とを含む組成物の硬化体より構成されており、
上記粘土は、木節粘土または蛙目粘土であり、
上記多孔質粘土鉱物は、ゼオライトおよびセピオライトからなる群より選択される少なくとも1種であり、
上記Caイオン含有水溶液におけるCaイオン濃度は、1~20g/Lであり、
質量%で、
上記消石灰および/または生石灰:6%以上30%以下、
上記石灰製砂:15%以上50%以下、
上記多孔質石粉末:15%以上45%以下
上記粘土:2%以上8%以下、
上記多孔質粘土鉱物:30%以下、
上記Caイオン含有水溶液:2%以上15%以下である(但し、各成分の割合は合計で100%となるように選択される)、
調湿建材にある。
【手続補正3】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0012
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0012】
上記特定の組成物において、石灰製砂とは、石灰石から生石灰を製造する時に生じる砂状のものをいう。石灰製砂は、細骨材として機能しうるものであり、石灰製砂の粒度は、例えば、4mm以下とすることができる。石灰製砂は、例えば、中山石灰工業株式会社製のものを有限会社瓦工事ミヤケより入手することが可能である。
【手続補正4】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0015
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0015】
上記特定の組成物において、粘土は、上記特定の組成物からなる坏土によるプレス成形性の確保、プレス成形体の生強度確保などに必要な成分である。粘土としては、木節粘土または蛙目粘土が用いられる。
【手続補正5】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0016
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0016】
上記特定の組成物において、多孔質粘土鉱物としては、ゼオライトおよびセピオライトのうちの一方を用いてもよいし、両方を用いてもよい。多孔質粘土鉱物を粘土とともに用いることにより、上記特定の組成物からなる坏土を準備する際に、上記特定の組成物の練り込み状態を調整しやすくなる。また、ゼオライトおよびセピオライトは、吸着性能を有するため、調湿建材の吸放湿性能の低下抑制に寄与することができる。また、セピオライトは、多孔質の上、繊維状で絡み合うために水に分散して粘性を示すことができ、上記特定の組成物の練り込み状態の調整に有利である。
【手続補正6】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0020
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0020】
Caイオン含有水溶液におけるCaイオン濃度は、1~20g/Lである。Caイオン含有水溶液におけるCaイオン濃度は、好ましくは、調湿建材の強度向上、吸放湿性能などの観点から、1~10g/Lとすることができる。また、この場合において、Caイオン含有水溶液が酢酸を含む場合には、針状の結晶を有する酢酸カルシウムを生じさせやすいため、調湿建材の強度向上に有利である。
【手続補正7】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0022
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0022】
上記特定の組成物における各成分の割合は、消石灰および/または生石灰:6%以上30%以下、好ましくは、7%以上25%以下、より好ましくは、8%以上20%以下、石灰製砂:15%以上50%以下、好ましくは、20%以上45%以下、より好ましくは、25%以上40%以下、多孔質石粉末:15%以上45%以下、好ましくは、20%以上40%以下、より好ましくは、25%以上35%以下、粘土:2%以上8%以下、好ましくは、3%以上6%以下、多孔質粘土鉱物:30%以下、好ましくは、10%以上30%以下、より好ましくは、15%以上25%以下、Caイオン含有水溶液:2%以上15%以下、好ましくは、4%以上14%以下、より好ましくは、6%以上13%以下とすることができる。なお、上記各成分の割合は、合計で100%となるように選択される。また、上記各成分の割合における上限値、下限値は、任意に組み合わせることができる。また、上述した顔料の割合は、上記各成分の合計割合100%に対して、例えば、0.1%以上5%以下とすることができる。なお、上記各成分の割合は、質量%である。
【手続補正8】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0053
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0053】
本発明は、上記各実施形態、各実験例に限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲において種々の変更が可能である。また、各実施形態、各実験例に示される各構成は、それぞれ任意に組み合わせることができる。
以下、参考形態の例を付記する。
項1.
消石灰および/または生石灰と、石灰製砂と、多孔質石粉末と、粘土と、多孔質粘土鉱物と、Caイオン含有水溶液とを含む組成物の硬化体より構成される、調湿建材。
項2.
上記Caイオン含有水溶液は、Caイオンと、酸と、水とを含む、項1に記載の調湿建材。
項3.
上記Caイオンは、貝殻由来である、項2に記載の調湿建材。
項4.
上記硬化体は、焼成されていない、項1から項3のいずれか1項に記載の調湿建材。