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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023146877
(43)【公開日】2023-10-12
(54)【発明の名称】脂肪分解促進用組成物
(51)【国際特許分類】
   A23L 33/10 20160101AFI20231004BHJP
   A61K 31/336 20060101ALI20231004BHJP
   A61P 3/04 20060101ALI20231004BHJP
   A61P 3/06 20060101ALI20231004BHJP
   A61P 43/00 20060101ALI20231004BHJP
   A61K 35/655 20150101ALN20231004BHJP
   C12N 15/09 20060101ALN20231004BHJP
   C12N 5/077 20100101ALN20231004BHJP
【FI】
A23L33/10
A61K31/336
A61P3/04
A61P3/06
A61P43/00 111
A61K35/655
C12N15/09 Z ZNA
C12N5/077
【審査請求】未請求
【請求項の数】2
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022054300
(22)【出願日】2022-03-29
(71)【出願人】
【識別番号】593106918
【氏名又は名称】株式会社ファンケル
(74)【代理人】
【識別番号】110000774
【氏名又は名称】弁理士法人 もえぎ特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】永田 千夏
(72)【発明者】
【氏名】野口 真行
(72)【発明者】
【氏名】櫻田 剛史
【テーマコード(参考)】
4B018
4B065
4C086
4C087
【Fターム(参考)】
4B018MD08
4B018MD69
4B018ME14
4B018MF01
4B065AA90X
4B065AC20
4B065BB04
4B065BB25
4B065BB34
4B065BB40
4B065BC03
4B065BC07
4B065BC11
4B065BD16
4B065CA41
4B065CA44
4B065CA46
4C086AA01
4C086AA02
4C086BA02
4C086GA16
4C086GA17
4C086MA01
4C086MA04
4C086MA52
4C086NA14
4C086ZA70
4C086ZC33
4C086ZC41
4C087AA01
4C087AA02
4C087BB27
4C087CA06
4C087CA26
4C087CA37
4C087MA52
4C087NA14
4C087ZA70
4C087ZC33
4C087ZC41
(57)【要約】
【課題】食品として安全に摂取することが出来る新規な脂肪細胞分化抑制剤及び脂肪分解促進剤を提供する。
【解決手段】本発明の脂肪細胞分化抑制剤及び脂肪分解促進剤に含有されるハロシンチアキサンチンが作用することにより、脂肪細胞への分化を抑制され、肥満が抑制される。また、本発明の脂肪細胞分化抑制剤及び脂肪分解促進剤に含有されるハロシンチアキサンチンは脂肪細胞における脂肪の蓄積を抑制する。更に、本発明の脂肪細胞分化抑制剤及び脂肪分解促進剤に含有されるハロシンチアキサンチンは、成熟脂肪細胞へ分化した後も、脂肪分解作用により脂肪蓄積を抑制し、肥満を抑制する。
【選択図】図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ハロシンチアキサンチンを有効成分として含む脂肪細胞分化抑制用組成物。
【請求項2】
ハロシンチアキサンチンを含む脂肪分解促進用組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、カロテノイドの一種であるハロシンチアキサンチンを有効成分とする脂肪細胞分化抑制用組成物及び脂肪分解促進用組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
フコキサンチン(fucoxanthin)は、様々な生物活性を有することが報告されている。特許文献1は、フコキサンチンが抗肥満活性を有することを記載している。一方で、Hosokawaらは、フコキサンチンがアポトーシスを誘導し、PPARγリガンドであるトログリタゾン(troglitazone)の結腸癌細胞に対する抗増殖性効果を増強することを報告している(非特許文献1)。PPARγは、脂肪細胞の分化のマスターレギュレーターとしても広く知られている(非特許文献2)。同様に、特許文献2は、フコキサンチンが肝臓癌に対して抗腫瘍活性を有することを記載している。更に、Sachindraらは、フコキサンチン及びその代謝物であるフコキサンチノール(fucoxanthinol)が高い抗酸化作用を有することを報告している(非特許文献3)。
【0003】
ヒトにおけるフコキサンチンの代謝経路としては、フコキサンチンから、フコキサンチノール、アマロウシアキサンチンA(amarouciaxanthin A)へと順に変換されることが知られている(非特許文献4)。
【0004】
特許文献1は、フコキサンチンの代謝物であるフコキサンチノールが内臓脂肪軽減作用を有することを記載している。一方で、特許文献3は、フコキサンチノールがウイルス関連悪性腫瘍にアポトーシスを引き起こし、ウイルス関連悪性腫瘍に対する抗腫瘍活性を有することを記載している。
【0005】
Yimらは、フコキサンチンの更なる代謝物であるアマロウシアキサンチンAがPPARγおよびC/EBPα mRNA発現下方制御を介した3T3-L1脂肪細胞分化抑制効果を有することを報告している(非特許文献5)。
【0006】
フコキサンチンの抗肥満・抗糖尿病作用は、白色脂肪組織(WAT)における脱共役タンパク質1(UCP1)の発現誘導を介して発揮される(非特許文献6、非特許文献4)。また、フコキサンチンは、WATにおけるインスリン抵抗性に関連するアディポサイトカインのダウンレギュレーションや骨格筋におけるグルコーストランスポーター4(GLUT4)のアップレギュレーションを通じてインスリン抵抗性を改善し、血糖値を改善させる(非特許文献6)。
【0007】
興味深いことに、ホヤにおけるフコキサンチンの代謝経路は、ヒトにおける代謝経路と異なり、フコキサンチンから、フコキサンチノール、ハロシンチアキサンチン(halocynthiaxanthin)、ミチロキサンチン(Mytiloxanthin)へと順に変換されることが示唆されている(非特許文献7)。
【0008】
Konishiらは、ハロシンチアキサンチンとフコキサンチノールがヒト白血病、乳癌、および結腸癌細胞に対してアポトーシス誘導を介した抗増殖作用を示すことを報告している(非特許文献8)。Yoshidaらは、ハロシンチアキサンチンが癌細胞の腫瘍壊死因子関連アポトーシス誘発リガンド(TRAIL)誘導性アポトーシスに対する感受性を高めることを報告している(非特許文献9)。また、特許文献4は、ハロシンチアキサンチンが腫瘍細胞増殖抑制効果を有することを記載している。
【0009】
しかし、ハロシンチアキサンチンが内臓脂肪軽減作用、抗肥満・抗糖尿病作用、脂肪細胞分化抑制作用等の作用を有することについての報告はない。また、ハロシンチアキサンチンのエネルギー代謝や脂肪代謝における役割についても研究されていない。
【0010】
本発明者らは、鋭意研究し、脂肪滴の蓄積ならびにPPARγおよびGLUT4の遺伝子発現を指標に解析したところ、ハロシンチアキサンチンが脂肪細胞の分化を抑制していることを見出し、本発明を完成した。驚くべきことに、これらの効果はフコキサンチン及びフコキサンチノールよりも強かった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】特許第5012505号公報
【特許文献2】特開平10-158156号公報
【特許文献3】特許第4337986号公報
【特許文献4】特開平4-120019号公報
【非特許文献】
【0012】
【非特許文献1】Biochim Biophys Acta. 2004 Nov 18;1675(1-3):113-9
【非特許文献2】Physiol Rev. 1998 Jul;78(3):783-809.
【非特許文献3】J Agric Food Chem. 2007 Oct 17;55(21):8516-22.
【非特許文献4】Mar Drugs. 2015 Apr 13;13(4):2196-214.
【非特許文献5】J Agric Food Chem. 2011 Mar 9;59(5):1646-52.
【非特許文献6】J Oleo Sci. 2015;64(2):125-32.
【非特許文献7】Mar Drugs. 2020 Nov 24;18(12):588.
【非特許文献8】Comp Biochem Physiol C Toxicol Pharmacol. Jan-Feb 2006;142(1-2):53-9.
【非特許文献9】Mol Cancer Res. 2007 Jun;5(6):615-25.
【非特許文献10】TAKAO MATSUNO, MASAHIRO OOKUBO, TOKUJI NISHIZAWA, ICHIRO SHIMIZU, Carotenoids of Sea Squirts. I. New Marine Carotenoids, Halocynthiaxanthin and Mytiloxanthinone from Halocynthia roretzi, Chemical and Pharmaceutical Bulletin, 1984, Volume 32, Issue 11, Pages 4309-4315, Released March 31, 2008, Online ISSN 1347-5223, Print ISSN 0009-2363, https://doi.org/10.1248/cpb.32.4309, https://www.jstage.jst.go.jp/article/cpb1958/32/11/32_11_4309/_article/-char/en
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
本発明が解決しようとする課題は、食品として安全に摂取することが出来る新規な脂肪細胞分化抑制用組成物及び脂肪分解促進用組成物を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明は以下の構成を有する。
[実施態様1]
ハロシンチアキサンチンを有効成分として含む脂肪細胞分化抑制用組成物。
[実施態様2]
ハロシンチアキサンチンを含む脂肪分解促進用組成物。
【発明の効果】
【0015】
本発明の脂肪細胞分化抑制用組成物及び脂肪分解促進用組成物に含有されるハロシンチアキサンチンが作用することにより、脂肪細胞への分化を抑制され、肥満が抑制される。また、本発明の脂肪細胞分化抑制用組成物及び脂肪分解促進用組成物に含有されるハロシンチアキサンチンは脂肪細胞における脂肪の蓄積を抑制する。更に、本発明の脂肪細胞分化抑制用組成物及び脂肪分解促進用組成物に含有されるハロシンチアキサンチンは、成熟脂肪細胞へ分化した後も、脂肪分解作用により脂肪蓄積を抑制し、肥満を抑制する。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】ハロシンチアキサンチンによるPPARγ発現抑制効果を示す図である。図中C、A、1、2、及び3は、それぞれ、コントロール、Retinoic Acid、フコキサンチン、フコキサンチノール、及びハロシンチアキサンチンを示す。
図2】ハロシンチアキサンチンによる脂肪細胞におけるGLUT4発現抑制効果を示す図である。図中C、A、1、2、及び3は、それぞれ、コントロール、Retinoic Acid、フコキサンチン、フコキサンチノール、及びハロシンチアキサンチンを示す。
図3】ハロシンチアキサンチンによる脂肪細胞における濃度依存的な脂肪蓄積抑制を示す図である。
図4】フコキサンチン添加による濃度依存的な遊離グリセロール量の増加を示す図である。
図5】フコキサンチノール添加による濃度依存的な遊離グリセロール量の増加を示す図である。
図6】ハロシンチアキサンチン添加による濃度依存的な遊離グリセロール量の増加を示す図である。
図7】クロロキン添加による濃度依存的な遊離グリセロール量の増加を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
本発明に使用するハロシンチアキサンチンは、化学合成されたものでも天然物から抽出及び生成されたものでも良い。更に、本発明に使用するハロシンチアキサンチンは、商業的に入手可能なフコキサンチン又はフコキサンチノールを酵素学的に変換することにより生成しても良い。一態様において、本発明に使用するハロシンチアキサンチンは、ホヤから抽出し、純度70%以上、純度80%以上、純度90%以上、純度95%以上、純度98%以上、あるいは純度99%以上に精製されたものである。
【0018】
ハロシンチアキサンチンをホヤから抽出及び精製する方法は、例えば、以下のとおりである。
一般的には、抽出に使用するホヤとしてはHalocynthia属のホヤ、例えばマボヤ、アカボヤが利用できる。抽出にはホヤ全体、ホヤより分別した被嚢や内臓などの一部の組織、またこれらを乾燥させたものを用いることができる。抽出方法としては溶媒抽出、超臨界二酸化炭素抽出などを用いることができる。溶媒抽出に用いる溶媒としてはハロシンチアキサンチンを溶解することが可能な有機溶媒、含水有機溶媒であれば、いずれも利用できる。例えばハロシンチアキサンチンのようなカロテノイドの抽出にはアセトンが使用できる。粗抽出物よりカロテノイド画分を濃縮するのには、有機溶媒を用いた液液分配、シリカゲル、修飾シリカゲル、樹脂、修飾樹脂を担体としたカラムクロマトグラフィーが利用できる。粗精製カロテノイド画分からハロシンチアキサンチンを精製するのには各種順相系、逆相系高速液体クロマトグラフィーや超臨界流体クロマトグラフィーが利用できる。
より具体的には、例えば、非特許文献7に記載された方法を使用することが出来る。
要約すれば、以下の方法を使用することが出来る。マボヤのエタノール抽出物を室温下でアセトン抽出し、n-ヘキサン-エーテル(7:3,v/v)と塩化ナトリウム水の間で分配し、有機層を硫酸ナトリウムと共に減圧濃縮する。濃縮残渣をシリカゲルカラムクロマトグラフィーに供し、アセトンで溶出させる。アセトン溶出画分をオクタデシルシリルカラムを用いた分取高速液体クロマトグラフィーに供し、クロロホルム:アセトニトリル(1:9、v/v)で分離することでハロシンチアキサンチンを得る。
【0019】
ハロシンチアキサンチンを有効成分として含む本発明の脂肪細胞分化抑制用組成物及び脂肪分解促進用組成物は、ホヤ自体ではない。ハロシンチアキサンチンの含有量は、脂肪細胞分化抑制用組成物及び脂肪分解促進用組成物の全質量中0.001質量%以上が好ましく、0.01質量%以上がさらに好ましい。上限量としては特に制限はないが、10質量%以下が好ましい。本発明の一態様において、本発明の脂肪細胞分化抑制用組成物及び脂肪分解促進用組成物は、有効量のフコキサンチン又はフコキサンチノールを含まない。一態様において、本発明の脂肪細胞分化抑制用組成物及び脂肪分解促進用組成物に含まれるフコキサンチン及びフコキサンチノールの質量は、ハロシンチアキサンチンの質量の10分の1以下、好ましくは30分の1以下、更に好ましくは100分の1以下である。別の一態様において、本発明の脂肪細胞分化抑制用組成物及び脂肪分解促進用組成物に含まれるフコキサンチン及びフコキサンチノールのモル数は、ハロシンチアキサンチンのモル数の10分の1以下、好ましくは30分の1以下、更に好ましくは100分の1以下である。
【0020】
一態様において、ハロシンチアキサンチンを有効成分として含む本発明の脂肪細胞分化抑制用組成物及び脂肪分解促進用組成物は、脂肪細胞分化抑制作用、脂肪蓄積抑制作用、又は脂肪分解促進作用を有する他の有効成分を含む。別の一態様において、ハロシンチアキサンチンを有効成分として含む本発明の脂肪細胞分化抑制用組成物及び脂肪分解促進用組成物は、脂肪細胞分化抑制作用、脂肪蓄積抑制作用、又は脂肪分解促進作用を有する他の有効成分を含まない。
【0021】
一態様において、ハロシンチアキサンチンを有効成分として含む本発明の脂肪細胞分化抑制用組成物及び脂肪分解促進用組成物は、抗増殖性作用、抗腫瘍活性、抗酸化作用、又はアポトーシス誘導作用を有する他の成分を含まない。
【実施例0022】
[実施例1] ハロシンチアキサンチンの精製
ホヤ(Halocynthia roretzi)のエタノール抽出物1025.4mgをフラッシュクロマトグラフィーに供し、Fr.1~Fr.9に分画し、エバポレーターにより減圧濃縮した。
【表1】
【0023】
分画した各画分を薄層クロマトグラフィー(TLC)で展開し、特許文献1を参考にハロシンチアキサンチンがFr.5に高含有されていることを確認した。
【表2】
【0024】
Fr.5 (90.67 mg)を固相抽出用カートリッジカラムに供し、Fr.5-1~Fr.5-7に分画し、エバポ―レターにより減圧濃縮した。
【表3】
【0025】
得られた各画分をTLCで展開し、Fr.5-2,Fr.5-3に精製度の高いハロシンチアキサンチンが多く含まれていることを確認した。
Fr.5-2 (11.53 mg)とFr.5-3 (5.57 mg)をHPLCに供し、ハロシンチアキサンチンを精製した。得られた精製物の純度はUPLC面積値で95%以上であることを確認した。同定はNMR、UV-Vis、MSデータを(非特許文献10)と比較することで行った。
【表4】
【表5】
【0026】
[実施例2] 脂肪細胞分化抑制の評価
脂肪細胞分化指標として、細胞の遺伝子発現解析、及び脂肪蓄積定量を実施した。
(1)試験方法
1)使用細胞
3T3-L1細胞
2)試験試料(サンプル)
フコキサンチン(Sigma-Aldrich, F6932)、フコキサンチノール(Merck, 72723)、上記方法に従って精製したハロシンチアキサンチンを試験試料(サンプル)とし、溶媒はDMSOを用いて10 mM に調整した。陽性対照として、Retinoic Acid(RA)(Sigma, R2625-50MG)を使用した。なお、図1~3のコントロールは、溶媒コントロールの意味であり、DMSOのみを添加したものである。
3)細胞培養
細胞は37℃、5%二酸化炭素、95%空気の条件下で培養を行った。培地は非働化したウシ胎児血清(FBS)10%、Penicilin-Streptmycin(Sigma, P4333)1%を添加したDMEM培地(Invitrogen, 11995-065) (基礎培地)を用いた。継代時の細胞剥離には0.05% Trypsin-EDTA(Sigma, SLCH9546)を使用した。24 wellプレートを用い、2~3×103 cell/cm2 撒き、コンフルエントになるまで培養した。
脂肪細胞への分化を行うため、培地を取り除き、分化誘導培地(Insulin(Sigma, 16634)(10 μg/mL)、Dexamethasone(Sigma, D4902)(1 μM)、IBMX(Sigma, 17018)(500 μM)を含む基礎培地)にサンプル(脂肪蓄積定量は、終濃度5、10、20 μM;遺伝子発現解析は、終濃度20μM)または陽性対照(1 μM)を加え、さらに48時間培養した。その後、Insulin(10 μg/mL)、サンプルを含む基礎培地を用いて培地交換を2日間隔で培地交換を行った。
【0027】
(2)細胞の遺伝子発現解析
1)RNA精製
分化誘導2日後の細胞上清を除去し、RNeasy Plus mini Kit(Qiagen, 74136)を用いて、RNAを精製した。分光光度計Nano DropOne C(Thermo Fisher Scientific, ND-ONE-W)を用いて、RNA濃度を測定した。
2)cDNA合成
45 ng/μLに調整したRNA溶液を8 μLずつマイクロチューブに添加し、5×Prime Script RT Master Mixを5 μL加えて、37℃:15分、85℃:5秒加熱後に、4℃に冷却した。
3)リアルタイムPCR
96 wellプレートにcDNAを、標的遺伝子のフォワードプライマー(10 μM)とリバースプライマー(10 μM)を0.8 μL、超純水を3.8 μL、SYBR(登録商標) Premix Ex Taq IIを10 μL、ROX Reference Dye(50 × conc.)を0.4 μL加え、95℃:1分、(95℃:3秒、60℃:30秒)×40サイクルの条件で反応させた。装置は、QuantStudio 5 リアルタイム PCR システム、Fast96 ウェル(Thermo Fisher Scientific, QS5-96F)を用いた。解析は比較Ct法を用いた。Glyceraldehyde-3-phosphate dehydrogenase (GAPDH)を内在性コントロールとして用い、目的遺伝子発現の補正に使用した。
【表6】
4)結果
図1に示すように、ハロシンチアキサンチンは脂肪細胞分化のマスターレギュレーターであるPPARγの発現を有意に抑制した。ハロシンチアキサンチンのPPARγ発現抑制効果は、フコキサンチン及びフコキサンチノールと比較して強力なものであった。
また、図2に示すように、ハロシンチアキサンチン処理後の3T3-L1細胞の遺伝子発現を解析したところ、GLUT4の発現量が減少していた。GLUT4は脂肪細胞分化後に発現するグルコーストランスポーターであり、培養細胞中に占める成熟脂肪細胞の量が減少したことが示唆される。この効果は、フコキサンチン及びフコキサンチノールと比較して非常に強力なものであった。
この結果から、前駆脂肪細胞から成熟脂肪細胞へ分化する前にハロシンチアキサンチンが作用することにより、脂肪細胞への分化を抑制され、肥満が抑制されることが示唆された。
【0028】
(3)脂肪蓄積定量
1)Oil Red O溶液の調整
Oil Red O (Sigma, O0625-25G) 150 mgをIsopropanol 50 mLに入れ、30分間撹拌して溶解させた。0.22 μmフィルター(Millipore, SLGVR33RS)で不純物を除去し、100% Oil Red O溶液とした。100% Oil Red O溶液を蒸留水で60%になるよう希釈した。
2)Oil Red O染色
上記(1)で分化誘導を行った6日後、細胞の培地を取り除き、4% Paraformaldehyde-PBSをいれ、室温で15分間静置し、固定した。PBS(-)で2回洗浄した後、60% Isopropanolを各wellに入れ、室温で1分静置した。上清を取り除いたのち、Oil red Oを各wellに入れ、室温で20分間染色した。60% Isopropanolで1回洗浄した後、PBSで2回洗浄し、顕微鏡で細胞観察を行った。次いで、100% Isopropanolを各wellに加え、を抽出し、VersaMaxTM Tunable Microplate Reader(molecular device, 89429-538)を用いて492 nmの吸光度を測定した。
3)結果
図3に示すように、ハロシンチアキサンチン添加により、濃度依存的な3T3-L1細胞の脂肪蓄積抑制がみられた。ハロシンチアキサンチンの脂肪蓄積抑制効果は、フコキサンチンと比較して顕著であり、特に5及び10 μMの低濃度においても明らかな効果が観察された。これらの結果から、ハロシンチアキサンチンは脂肪細胞における脂肪の蓄積を抑制することが示された。
【0029】
[実施例3] 脂肪分解
(1)試験方法
1)使用細胞
3T3-L1細胞
2)試験試料(サンプル)
フコキサンチン、フコキサンチノール、ハロシンチアキサンチンを試験試料(サンプル)とした。各サンプルは2.5、5、10 mMに調整した。陽性対照として、Chloroquine Diphosphate(Tokyo Chemical Industry, C2301)(25 mM)を使用した。
3)細胞培養
細胞は37℃、5%二酸化炭素、95%空気の条件下で培養を行った。培地は非働化したウシ胎児血清(FBS)10%、Penicilin-Streptmycin(Wako , 168-23191)1%を添加したDMEM培地(Sigma, D6429)(基礎培地)を用いた。継代時の細胞剥離にはトリプシン(gibco, 15090-046)を使用した。96wellプレートを用い、1.5×104 cells/well/100 μL撒き、コンフルエントになるまで培養した。
次に培地をwellから取り除き、Insulin(WAKO, 099-06473)(10 μg/mL)、Dexamethasone(G-Biosciences, API-04)(1 μM)、IBMX(WAKO, 95-03413)(500 μM)を含む基礎培地を加え、さらに48時間培養した。その後、FBS 2%、Penicilin-Streptmycin(Wako, 168-23191)1%、カナマイシン溶液(Wako, 117-00961)(50 μg/mL)を含む基礎培地を用いて培地交換を2日~4日ごとに培地交換をしながら、5~10日間培養して成熟脂肪細胞への分化誘導を行った。
【0030】
(2)遊離グリセロール定量
分化した成熟脂肪細胞に、DMSOに溶解した各サンプルを、0、2.5、5、10 μM、陽性対照を0、8.3、25 μMの濃度で添加した。48時間培養後、上清を回収し、Free Glycerpl Assay Kit II(abcam, ab155899)を用いて遊離グリセロール定量用の溶液を調整した。SpectraMax(登録商標) M3(Molecular Devices, S/N MT05846)を使用して、450 nmにおける吸光度を測定し、遊離グリセロールを定量した。
(3)結果
図4図5図6、及び図7に示すように、フコキサンチン、フコキサンチノール、ハロシンチアキサンチン、及びクロロキン添加により、濃度依存的な遊離グリセロール量の増加がみられた。この結果は、ハロシンチアキサンチンが、フコキサンチン及びフコキサンチノールと同様に、脂肪細胞中の脂肪分解を促進することを示す。これらの結果から、ハロシンチアキサンチンは、成熟脂肪細胞へ分化した後も、脂肪分解作用により脂肪蓄積を抑制し、肥満を抑制することが示唆される。
【産業上の利用可能性】
【0031】
ハロシンチアキサンチンを有効成分として含む本発明の脂肪細胞分化抑制用組成物及び脂肪分解促進用組成物は、食品、飲料、又はサプリメントに添加することにより利用することが出来る。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
【配列表】
2023146877000001.app