(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023146904
(43)【公開日】2023-10-12
(54)【発明の名称】物質内包粒子分散油剤
(51)【国際特許分類】
A61K 9/127 20060101AFI20231004BHJP
A61K 9/107 20060101ALI20231004BHJP
A61K 31/706 20060101ALI20231004BHJP
A61K 31/07 20060101ALI20231004BHJP
A61K 47/24 20060101ALI20231004BHJP
A61K 47/14 20170101ALI20231004BHJP
A61K 8/06 20060101ALI20231004BHJP
A61K 8/14 20060101ALI20231004BHJP
A61Q 19/00 20060101ALI20231004BHJP
A61K 8/55 20060101ALI20231004BHJP
A61K 8/37 20060101ALI20231004BHJP
A61K 8/34 20060101ALI20231004BHJP
A61P 3/00 20060101ALI20231004BHJP
A61K 8/60 20060101ALI20231004BHJP
A23L 33/115 20160101ALI20231004BHJP
A23L 5/00 20160101ALI20231004BHJP
【FI】
A61K9/127
A61K9/107
A61K31/706
A61K31/07
A61K47/24
A61K47/14
A61K8/06
A61K8/14
A61Q19/00
A61K8/55
A61K8/37
A61K8/34
A61P3/00
A61K8/60
A23L33/115
A23L5/00 L
【審査請求】未請求
【請求項の数】3
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022054336
(22)【出願日】2022-03-29
(71)【出願人】
【識別番号】502087116
【氏名又は名称】株式会社ツツミプランニング
(71)【出願人】
【識別番号】391011700
【氏名又は名称】宮崎県
(74)【代理人】
【識別番号】100080160
【弁理士】
【氏名又は名称】松尾 憲一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100149205
【弁理士】
【氏名又は名称】市川 泰央
(72)【発明者】
【氏名】河北 龍志
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 文人
(72)【発明者】
【氏名】清水 正高
(72)【発明者】
【氏名】山本 建次
(72)【発明者】
【氏名】濱山 真吾
【テーマコード(参考)】
4B018
4B035
4C076
4C083
4C086
4C206
【Fターム(参考)】
4B018MD14
4B018ME14
4B035LC06
4B035LG12
4C076AA17
4C076AA19
4C076AA95
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4C076DD15F
4C076DD38
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4C083AC062
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4C083DD45
4C083EE12
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4C086NA05
4C086NA11
4C086ZC21
4C206AA02
4C206CA13
4C206KA01
4C206MA42
4C206MA83
4C206NA05
4C206NA11
4C206ZC21
(57)【要約】
【課題】水分や水溶性成分は勿論のこと、油溶性成分についても内包させた物質内包粒子分散油剤を提供する。
【解決手段】両親媒性分子による親水部会合構造内の脱水された領域に親水性の物質が内包された粒子の分散油剤であって、前記親水性の物質は、水及び/又は水溶性成分の減水化産物と、包持対象である油溶性成分の親水化体とを含むこととした。また、前記油溶性成分の親水化体は、脂質二重層の層内の疎水部会合領域に前記油溶性成分を保持するリポソーム又はエクソソーム、もしくは両親媒性分子による疎水部会合構造内に前記油溶性成分が内包されたミセルであること等にも特徴を有する。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
両親媒性分子による親水部会合構造内の脱水された領域に親水性の物質が内包された粒子の分散油剤であって、
前記親水性の物質が、水及び/又は水溶性成分の減水化産物と、包持対象である油溶性成分の親水化体とを含むことを特徴とする物質内包粒子分散油剤。
【請求項2】
前記油溶性成分の親水化体が、脂質二重層の層内の疎水部会合領域に前記油溶性成分が保持されたリポソーム又はエクソソーム、もしくは両親媒性分子による疎水部会合構造内に前記油溶性成分が内包されたミセルであることを特徴とする請求項1に記載の物質内包粒子分散油剤。
【請求項3】
包持対象である油溶性成分及び/又は水溶性成分の皮膚浸透性向上の機能を有することを特徴とする請求項1に記載の物質内包粒子分散油剤。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、物質内包粒子分散油剤に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、医薬品の分野において、所定の成分を所望する部位に効率的に作用させるために、体内の薬物分布を量的・空間的・時間的に制御するというドラッグデリバリーシステム(Drug Delivery System, DDS)の概念を応用した製品が種々提案されている。
【0003】
また近年においてこのドラッグデリバリーシステムの概念は、医薬品の分野にとどまらず、化粧品や食品の分野にまでその応用範囲が広がりつつある。
【0004】
ドラッグデリバリーシステムを実現する手段としては、これまでにエマルションを応用する技術や、徐放製剤化する技術、抗体を用いる技術などが提案されているが、なかでもエマルションを応用する技術は、比較的容易かつ安価に成分運搬体の構築が可能であり、化粧品や食品に新たな機能性の付与可能な技術として期待されている。
【0005】
例えば、所定の水溶性分子を水相に含むW/Oエマルションに対して加熱脱水や真空脱水を施し、水分を除去して水溶性分子を析出させて固体状態とすることにより油中分散固体を製造する技術(以下、固体分散技術と称する。)は、上記エマルション応用技術の延長線上に位置する技術でありながら、従来のエマルション応用技術が抱えていた微粒子化という課題を解決する技術として注目を浴びている(例えば、特許文献1~3参照。)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2009-084293号公報
【特許文献2】特開2016-137427号公報
【特許文献3】特開2018-203633号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、これまでの固体分散技術は、内包する水溶性成分に限定され、油溶性成分を油中ナノ粒子分散体化させることができなかった。
【0008】
すなわち、仮に油溶性成分を添加してもナノ粒子内にとどまらせることができず、
W/Oエマルション型前駆体の作成時に油相へ移行してしまうこととなっていた。
【0009】
本発明は、斯かる事情に鑑みてなされたものであって、水分や水溶性成分は勿論のこと、油溶性成分についても内包させた物質内包粒子分散油剤について提供する。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記従来の課題を解決するために、本発明に係る物質内包粒子分散油剤では、(1)
両親媒性分子による親水部会合構造内の脱水された領域に親水性の物質が内包された粒子の分散油剤であって、前記親水性の物質が、水及び/又は水溶性成分の減水化産物と、包持対象である油溶性成分の親水化体とを含むこととした。
【0011】
また、本発明に係る物質内包粒子分散油剤では、以下の点にも特徴を有する。
(2)前記油溶性成分の親水化体が、脂質二重層の層内の疎水部会合領域に前記油溶性成分が保持されたリポソーム又はエクソソーム、もしくは両親媒性分子による疎水部会合構造内に前記油溶性成分が内包されたミセルであること。
(3)包持対象である油溶性成分及び/又は水溶性成分の皮膚浸透性向上の機能を有すること。
【発明の効果】
【0012】
本発明に係る物質内包粒子分散油剤によれば、両親媒性分子による親水部会合構造内の脱水された領域に親水性の物質が内包された粒子の分散油剤であって、前記親水性の物質が、水及び/又は水溶性成分の減水化産物と、包持対象である油溶性成分の親水化体とを含むこととしたため、油溶性成分についても内包した物質内包粒子の分散油剤を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】人工皮膚を用いた物質内包粒子分散油剤の透過試験の検鏡像を示した説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明は、物質内包粒子分散油剤に関するものであり、特に、油溶性成分についても内包した物質内包粒子分散油剤について提供するものである。
【0015】
物質内包粒子分散油剤は、本願明細書において、両親媒性分子による親水部会合構造内の脱水された領域に複数の親水性の物質が内包された粒子(物質内包粒子)の分散した油剤を意味している。
【0016】
ここで物質内包粒子を分散させる油成分(後述のベース油剤)としては、油脂やロウ類、炭化水素、脂肪酸、アルコール類、エステル類、シリコーン油及びフッ素油等を挙げることができる。
【0017】
油成分について更に詳細に説明すると、油脂は、植物油や動物油を採用することができる。
【0018】
植物油としては、例えば、アマナズナ油、アルガニアスピノサ油、ククイナッツ油、クランベアビシニカ油、コムギ油、コメヌカ油、アボカド油、アーモンド油、オリーブ油、ゴマ油、コメ油、サフラワー油、シア脂、月見草油、ピスタチオ種子油、マカデミアナッツ油、マンゴー種子脂、メドウフォーム油、ローズヒップ油、ダイズ油、トウモロコシ油、ナタネ油、パーシック油、パーム油、パーム核油、ヒマシ油、ヒマワリ油、グレープシード油、綿実油、モクロウ、ヤシ油、アマニ油、アサ種子油、落花生油、ツバキ油、サザンカ油、カカオ脂、その他の植物油を使用することができる。
【0019】
また動物油としては、例えば、エミュー油、硬化油、馬油、ミンク油、卵黄油、牛脂、豚脂、羊脂、鯉油、マグロ油、メンヘーデン油、その他の動物油を使用することができる。
【0020】
ロウ類としては、例えば、カルナウバロウ、キャンデリラロウ、コメヌカロウ、セラック、ラノリン、ホホバ油、ミツロウ、モンタンロウ、オレンジラフィー油、マトウダイロウ、サトウキビロウ、虫白ロウ、パームロウ、羊毛脂、その他のロウ類を使用することができる。
【0021】
炭化水素としては、例えば、石油系の炭化水素や天然に産出する鉱物系の炭化水素、合成系の炭化水素、動物系の炭化水素、植物系の炭化水素などを使用することができる。
【0022】
石油系としては、例えば、流動パラフィン、パラフィン、マイクロクリスタリンワックス、ワセリン、イソパラフィン類、その他の石油系の炭化水素を使用することができる。鉱物系としては、例えば、オゾケライト、セレシン、その他の天然に産出する鉱物系の炭化水素を使用することができる。合成系としては、例えば、ポリエチレン、α-オレフィンオリゴマー、ポリブテン、合成スクワラン、フラーレン、その他の合成系の炭化水素を使用することができる。動物系としては、例えば、スクワレン、スクワラン、その他の動物系の炭化水素を使用することができる。植物系としては、例えば、植物性スクワレン、植物性スクワラン、ファルネセン、ファルネサン、リモネン、テレビン油、その他の植物系の炭化水素を使用することができる。
【0023】
脂肪酸としては、例えば、直鎖飽和脂肪酸や直鎖モノエン酸、アセチレン酸、ポリエン酸、モノアルキル飽和脂肪酸、ポリアルキル飽和脂肪酸などを使用することができる。
【0024】
直鎖飽和脂肪酸としては、例えば、メタン酸、エタン酸、プロパン酸、ブタン酸、ペンタン酸、ヘキサン酸、ヘプタン酸、オクタン酸、ノサン酸、デカン酸、ウンデカン酸、ラウリン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、ステアリン酸、ベヘン酸、その他の直鎖飽和脂肪酸を使用することができる。
【0025】
直鎖モノエン酸としては、例えば、アクリル酸、アセトアリル酸、カプロレイン酸、リンデル酸、ツズ酸、ゾーマリン酸、ペトロセリン酸、オレイン酸、エライジン酸、バセニン酸、コドイン酸、ゴンドイン酸、エルカ酸、ブラシン酸、セラコレイン酸、その他の直鎖モノエン酸、またはこれら直鎖モノエン酸の異性体を使用することができる。
【0026】
アセチレン酸としては、例えば、プロピン酸、テトロル酸、ペンチン酸、ヘキシン酸、へプチン酸、オクチン酸、ノニン酸、デシン酸、ウンデシン酸、ドデシン酸、トリデシン酸、テトラデシン酸、ヘキサデシン酸、ヘプタデシン酸、オクタデシン酸、ノナデシン酸、ドコシン酸、ドコサジイン酸、トリコシン酸、その他のアセチレン酸、またはこれらアセチレン酸の異性体を使用することができる。
【0027】
ポリエン酸としては、例えば、ペンタジエン酸、ソルビン酸、リノールエライジン酸、α-リノレン酸、γ-リノレン酸、リノレンエライジン酸、α-エレオステアリン酸、β-エレオステアリン酸、プニカ酸、ステアリドン酸、パリナリン酸、ジホモ-γ-リノレン酸、アラキドン酸、EPA、イワシ酸、DHA、ニシン酸、その他のポリエン酸、またはこれらポリエン酸の異性体を使用することができる。
【0028】
モノアルキル飽和脂肪酸としては、例えば、メチルプロパン酸、メチルブタン酸、ジメチルプロパン酸、メチルペンタン酸、イソカプロン酸、エチルペンタン酸、プロピルペンタン酸、メチルデカン酸、プロピルオクタン酸、メチルヘンデカン酸、プロピルノナン酸、メチルドデカン酸、プロピルデカン酸、メチルトリデカン酸、メチルテトラデカン酸、メチルペンタデカン酸、エチルテトラデカン酸、メチルヘキサデカン酸、プロピルテトラデカン酸、エチルヘキサデカン酸、メチルヘプタデカン酸、ブチルテトラデカン酸、メチルオクタデカン酸、エチルヘプタデカン酸、メチルノナデカン酸、エチルオクタデカン酸、メチルイコサン酸、プロピルオクタデカン酸、ブチルオクタデカン酸、メチルドコサン酸、ペンチルオクタデカン酸、メチルトリコサン酸、エチルドコサン酸、その他のモノアルキル飽和脂肪酸、またはこれらモノアルキル飽和脂肪酸の異性体を使用することができる。
【0029】
ポリアルキル飽和脂肪酸としては、例えば、分岐アルカン酸、その他のポリアルキル飽和脂肪酸を使用することができる。
【0030】
また、アルコール類としては、例えば、高級アルコール類や芳香族アルコール及びフェノール類、ステロール類、フィトステロール類及びテルペンアルコール類などを使用することができる。
【0031】
高級アルコール類としては、例えば、ベンジルアルコール、ラウリルアルコール、ミリスチルアルコール、セタノール、ステアリルアルコール、オレイルアルコール、ベヘニルアルコール、リシノレイルアルコール、その他の高級アルコール類を使用することができる。
【0032】
芳香族アルコール及びフェノール類としては、例えば、フェノール、クレゾール、シクロヘキサノール、カテコール、レゾルシノール、ヒドロキノン、ベンジルアルコール、フェニルエチルアルコール、ナフトール、その他の芳香族アルコール及びフェノール類を使用することができる。
【0033】
ステロール類、フィトステロール類及びテルペンアルコール類としては、例えば、コレステロール、コレスタノール、カンペスタノール、エルゴスタノール、シトスタノール、22-デヒドロスチグマスタノール、コプロスタノール、エピコプロスタノール、22-デヒドロコレステロール、デスモステロール、カンペステロール、ジヒドロブラシカステロール、クリノステロール、ブラシカステロール、24-メチレンコレステロール、コジステロール、シトステロール、クリオナステロール、スチグマステロール、ポリフェラステロール、フコステロール、イソフコステロール、クレロステロール、22-デヒドロクレロステロール、ラトステロール、フンギステロール、エピステロール、ショッテノール、22-ジヒドロコンドリラステロール、スピナステロール、コンドリラステロール、アナベステロール、24β-エチル-25-デヒドロラトステロール、25-デヒドロコンドリラステロール、チモステロール、アスコステロール、フェコステロール、7-デヒドロコレステロール22-ジヒドロエルゴステロール、エルゴステロール、24(24)-デヒドロエルゴステロール、7-デヒドロポリフェエラステロール、ベルノステロール、14-デヒドロエルゴステロール、ポリナスタノール、24-メチレンポリナステロール、ロフェノール、グラミステロール、シトロスタジエノール、オブツシホリオール、シクロオイカレノール、4,4-ジメチルチモステロール、ラノステロール、パルケオール、シクロアルタノール、シクロアルテノール、シクロサドール24-メチレンシクロアルタノール、シクロブラノール、シクロラウデノール、ブチロスペルモール、オイホール、チルカロール、10α-ククルビタジエノール、ルペオール、アミリン、ゲルマニコール、タラクセロール、マルチフローレノール、イソマルチルローレノール、グルチノール、フリーデラノール、タラクサステロール、バウエレノール、フェルネロール、イソアルボリノール、シミアレノール、その他のステロール類、フィトステロール類及びテルペンアルコール類を使用することができる。
【0034】
また、エステル類としては、例えば、直鎖脂肪酸と低級アルコールとのエステルや直鎖脂肪酸と直鎖高級アルコールとのエステル、直鎖脂肪酸と分岐高級アルコールとのエステル、直鎖脂肪酸と多価アルコールとのエステル、分岐脂肪酸と低級アルコールとのエステル、分岐脂肪酸と直鎖高級アルコールのエステル、分岐脂肪酸と分岐高級アルコールとのエステル、分岐脂肪酸と多価アルコールとのエステル、水酸基を持つ脂肪酸とアルコールとのエステル、二塩基酸とアルコールとのエステル、脂肪酸とステロール類とのエステルなどを使用することができる。
【0035】
直鎖脂肪酸と低級アルコールとのエステルとしては、例えば、オレイン酸エチル、ミリスチン酸イソプロピル、パルミチン酸イソプロピル、その他の直鎖脂肪酸と低級アルコールとのエステルを使用することができる。
【0036】
直鎖脂肪酸と直鎖高級アルコールとのエステルとしては、例えば、パルミチン酸セチル、ミリスチン酸ミリスチル、その他の直鎖脂肪酸と直鎖高級アルコールとのエステルを使用することができる。
【0037】
直鎖脂肪酸と分岐高級アルコールとのエステルとしては、例えば、ミリスチン酸オクチルドデシル、オレイン酸オクチルドデシル、その他の直鎖脂肪酸と分岐高級アルコールとのエステルを使用することができる。
【0038】
直鎖脂肪酸と多価アルコールとのエステルとしては、例えば、中鎖脂肪酸トリグリセリド、その他の直鎖脂肪酸と分岐高級アルコールとのエステルを使用することができる。
【0039】
分岐脂肪酸と低級アルコールとのエステルとしては、例えば、イソステアリン酸イソプロピル、イソステアリン酸エチル、その他の分岐脂肪酸と低級アルコールとのエステルを使用することができる。
【0040】
分岐脂肪酸と直鎖高級アルコールのエステルとしては、例えば、2-エチルヘキサン酸セチル、2-エチルヘキサン酸ステアリル、その他の分岐脂肪酸と直鎖高級アルコールのエステルを使用することができる。
【0041】
分岐脂肪酸と分岐高級アルコールとのエステルとしては、例えば、イソステアリン酸イソセチル、ジメチルオクタン酸オクチルドデシル、その他の分岐脂肪酸と分岐高級アルコールとのエステルを使用することができる。
【0042】
分岐脂肪酸と多価アルコールとのエステルとしては、例えば、分岐脂肪酸とグリセリン、トリメチロールプロパン、ペンタエリスリトール等とのエステル、その他の分岐脂肪酸と多価アルコールとのエステルを使用することができる。
【0043】
水酸基を持つ脂肪酸とアルコールとのエステルとしては、例えば、乳酸ミリスチル、乳酸セチル、クエン酸トリオクチルドデシル、リンゴ酸ジイソステアリル、その他の水酸基を持つ脂肪酸とアルコールとのエステルを使用することができる。
【0044】
二塩基酸とアルコールとのエステルとしては、例えば、アジピン酸ジイソプロピル、セバシン酸ジエチル、その他の二塩基酸とアルコールとのエステルを使用することができる。
【0045】
脂肪酸とステロール類とのエステルとしては、例えば、ヒドロキシステアリン酸フィトステリル、イソステアリン酸フィトステリル、その他の脂肪酸とステロール類とのエステルを使用することができる。
【0046】
また、シリコーン油としては、例えば、ストレートシリコーン油としてジメチルシリコーン油やメチルフェニルシリコーン油、環状シリコーン油、メチルハイドロジェンシリコーン油、その他のストレートシリコーン油を使用することができ、変性シリコーン油としては、アルコール変性シリコーン油、アルキル変性シリコーン油、ポリエーテル変性シリコーン油、アミノ変性シリコーン油、その他の変性シリコーン油を使用することができる。
【0047】
また、フッ素油としては、例えば、パーフルオロポリエーテル、その他のフッ素油を使用することができる。
【0048】
物質内包粒子を構成する両親媒性分子は、分子内に親水部と疎水部(親油部)とを備える界面活性効果を備えた分子であり、好ましくは、広く界面活性剤として用いられている両親媒性分子を利用することができる。
【0049】
このような両親媒性分子としては、例えば、リン脂質、スフィンゴリン脂質、ステロールが挙げられる。
【0050】
リン脂質としては、例えば、ホスファチジルエタノールアミン、ホスファチジルセリン、ホスファチジルコリン、ホスファチジルイノシトール、ホスファチジルグリセロール、リゾホスファチジン酸、リゾホスファチジルコリン、卵黄ホスファチジルコリン、脳ホスファチジルセリン、カルジオリピンの他、これらの誘導体が挙げられる。
【0051】
スフィンゴリン脂質としては、例えば、スフィンゴミエリン、脳スフィンゴミエリン、セレブロシド、ガングリオシドの他、これらの誘導体が挙げられる。
【0052】
ステロールとしては、例えば、コレステロール、エルゴカルシフェロール、コレカルシフェロールの他、これらの誘導体が挙げられる。
【0053】
また、上記以外の両親媒性分子として、例えば、糖脂質、ステロイドホルモン、プロスタグランジン、胆汁酸、ビタミンA類、ビタミンK類、植物成長ホルモン、ビオチン、ユビキノン、ビタミンC誘導体、リボフラビン誘導体、ビタミンE類、カロチノイド、強心配糖体、ラトナシド、アルコール、ミコシド、抗生物質等のうち、ベース油剤として使用される先述の油成分と後述する包持対象物質を含む水相との関係において物質内包粒子を形成可能な両親媒性を発揮できる物質を使用することもできる。
【0054】
物質内包粒子が備える親水部会合構造は、上述の如き両親媒性分子が複数分子集合することで形成される構造であり、特に、両親媒性分子の分子構造のうち親水部同士が会合してなる逆ミセル様の構造である。
【0055】
また、物質内包粒子は、親水部会合構造内の一部又は全部が脱水された領域となっている。
【0056】
この脱水された領域は、物質内包粒子の前駆粒子として追って説明する分散液内包逆ミセルを脱水に供することで形成される領域であり、脱水の方式は親水部会合構造が潰れたり崩れたりしなければ特に限定されるものではなく、加熱脱水や減圧脱水等の方法を採用することができる。例えば、減圧脱水する場合は、温度と真空度を調整しながら脱水できるエバポレーターのような市販の装置を使用することもできる。また、0℃以下の温度で油剤が液体である場合は、凍結した水相を真空脱気することにより昇華を伴って脱水する、いわゆる凍結乾燥を用いることもできる。
【0057】
物質内包粒子の親水性の物質が内包された親水部会合構造内の脱水された領域は、分散液内包逆ミセルの親水部会合構造内に比して水分が相当に少ない状態、例えば、水分が除去されて分散液に溶け込んだ水溶性分子が析出する程度以上に少ない状態である。
【0058】
また、物質内包粒子の親水部会合構造内の脱水された領域には、複数の親水性の物質が内包されており、このような物質内包粒子がベースとなる油剤に分散状態で含まれることで、本実施形態に係る物質内包粒子分散油剤が構成されている。
【0059】
ここで、本実施形態に係る物質内包粒子分散油剤の特徴としては、前述の複数の親水性の物質として、少なくとも、水溶性成分の水溶液の減水化産物と、油溶性成分の親水化体とが存在する点が挙げられる。
【0060】
水溶液の減水化産物は、物質内包粒子の包持対象である水溶性成分を含んでいる。ここで包持対象に関し一例を示すならば、例えば、物質内包粒子を皮膚への成分浸透手段として利用する場合には、皮膚内部へ届けたい成分が包持対象成分である。
【0061】
また、水溶液の減水化産物は、純粋な水溶性成分だけでなく、水溶性成分に幾分かの水分を含む状態ものも含まれる。
【0062】
水溶性成分は、水に溶解可能な分子であれば特に限定されるものではなく、有機化合物や無機化合物のいずれでも良い。また、酵素の如きタンパク質やペプチドであっても良く、これらの混合物であっても良い。例えば酵素としては、国際生化学分子生物学連合(旧国際生化学連合)によりEC 1.X.X.X:酸化還元酵素、EC 2.X.X.X:転移酵素、EC 3.X.X.X:加水分解酵素、EC 4.X.X.X:付加脱離酵素、EC 5.X.X.X:異性化酵素、EC 6.X.X.X:リガーゼ(Xは数字)に分類されたEC番号(酵素番号、Enzyme Commission numbers)の水溶性の酵素が挙げられる。また、水溶性であり免疫作用・抗腫瘍作用・抗ウイルス作用・細胞増殖や分化等の作用を示すタンパク質やペプチド(以下、水溶性サイトカイン)や、水溶性サイトカインを含むプラセンタ、幹細胞の培養液等のエキス類、またはアスコルビン酸等の水溶性ビタミン類やその塩および誘導体、ヒアルロン酸等の水溶性粘性物であっても良い。
【0063】
油溶性成分の親水化体は、物質内包粒子の包持対象である油溶性成分を含んでいる。
【0064】
また、油溶性成分の親水化体は、油溶性成分が水中で分散できるよう複数会合した両親媒性分子で被包された構造体を意味している。
【0065】
油溶性成分の親水化体は、例えば、脂質二重層の層内の疎水部会合領域に油溶性成分を保持するリポソーム、エクソソーム若しくはバイレイヤーシート又は両親媒性分子による疎水部会合構造内に前記油溶性成分が内包されたミセルを例示することができる。
【0066】
油溶性成分は、例えば、糖脂質、ステロイドホルモン、プロスタグランジン、胆汁酸、ビタミンA類、ビタミンK類、植物成長ホルモン、ビオチン、ユビキノン、ビタミンC誘導体、リボフラビン誘導体、ビタミンE類、カロチノイド、強心配糖体、ラトナシド、アルコール、ミコシド、抗生物質、脂肪酸、植物油等を挙げることができる。なお以下に示す各油溶性成分の中には両親媒性を示す成分も含まれているが、ここでは、油に対しても親和性を示す成分として油溶性成分に分類している。
【0067】
糖脂質としては、例えば、プラズマロゲンの他、この誘導体が挙げられる。
【0068】
ステロイドホルモンとしては、例えば、コルチコステロン、アンドステロン、ヒドロコルチゾン、エストロン、β-エストラジオール、テストステロン、プロゲステロンの他、これらの誘導体が挙げられる。
【0069】
プロスタグランジンとしては、例えば、プロスタン酸、プロスタグランジンE1、プラスタグランジンF1α、プロスタグランジンF2αの他、これらの誘導体が挙げられる。
【0070】
胆汁酸としては、例えば、コール酸、デオキシコール酸、ケノデオキシコール酸の他、これらの誘導体が挙げられる。
【0071】
ビタミンA類としては、例えば、ビタミンA1、ビタミンA2の他、これらの誘導体が挙げられる。
【0072】
ビタミンK類としては、例えば、ビタミンK1、ビタミンK2、ビタミンK3の他、これらの誘導体が挙げられる。
【0073】
植物成長ホルモンとしては、例えば、オーキシンa、オーキシンbの他、これらの誘導体が挙げられる。
【0074】
ビタミンC誘導体としては、例えば、テトラ2-ヘキシルデカン酸アスコルビルなどが挙げられる。
【0075】
リボフラビン誘導体としては、例えば、リボフラビンテトラ酪酸エステルなどが挙げられる。
【0076】
ビタミンE類としては、例えば、α-トコフェロール、β-トコフェロール、γ-トコフェロール、δ-トコフェロールの他、これらの誘導体が挙げられる。
【0077】
カロチノイドとしては、例えば、β-カロチン、α-カロチン、γ-カロチン、ゼアキサンチン、クリプトキサンチン、エキノネン、アスタキサンチン、ルテイン、リコピン、カンタキサンチン、ビキシン、クロセチン、クロシン、シクロキシン、エナントキシン、ビオラキサンチン、キサントフィルの他、これらの誘導体が挙げられる。
【0078】
強心配糖体としては、例えば、サポニン、ウアバイン、ウアバゲニン、オレアンドリン、プロスシラリジン、セルベロシド、セルベリン、カロトロピン、ジギトキシン、ジギトニン、ジゴニン、ジギタニン、アドニトキシン、α-アンチアリン、ジオスシン、アジアチコシドの他、これらの誘導体が挙げられる。
【0079】
ラトナシドとしては、例えば、ラトナシドA、ラトナシドB、ラトナシドC、ストロファンチジン、ストロファンチン、ストロファントシド、シマリン、シラレニン、シラレーン、シロシド、プロッシラジン、コバラトキシン、ヘレブリン、エクジン、フンツミン、テベチン、ペリプロシン、エスシン、クロゲニン、コロシンチンの他、これらの誘導体が挙げられる。
【0080】
アルコールとしては、例えば、ラッコール、3-ペンタデシルカテール、メントール、ボルネオール、ネロールの他、これらの誘導体が挙げられる。
【0081】
ミコシドとしては例えば、ミコシドA、B、C2、Cm、Cb、C3、Gの他、これらの誘導体が挙げられる。
【0082】
抗生物質としては例えば、フミガシン、シャルツルウシン、ピマリシン(ナイスタチン、エトルスコマイシン、アンホテリシンB、フィリピン、トリコマイシン、カンジジン、フンギクロミン等)、フレケンチン、マイセリアミド、ミコマイシン、サーファクチンの他、これらの誘導体が挙げられる。
【0083】
脂肪酸としては例えば、飽和脂肪酸や不飽和脂肪酸が挙げられ、中でも後者としてはドコサヘキサエン酸(DHA)やエイコサペンタエン酸(EPA)を代表例として挙げることができる。
【0084】
植物油としては例えば、オリーブ油やエゴマ油、アマニ油などの如く不飽和脂肪酸を多く含む油のほか、大豆油、綿実油、コーン油、紅花油、菜種油など一般に食用として使用される様々な油を使用することができる。
【0085】
また本願は、水溶性成分のみならず、油溶性成分についても内包した物質内包粒子分散油剤の製造方法について提供する。
【0086】
具体的に説明すると、本実施形態に係る物質内包粒子分散油剤の製造方法は、水溶性成分と油溶性成分の親水化体と(以下、包持対象物質ともいう。)を含む水相を用いてW/Oエマルションを調製する工程と、同W/Oエマルションを脱水に供して、包持対象物質を内包した分散油剤を調製する工程とを有する。
【0087】
各工程について説明すると、まず、包持対象物質を含む水相を用いてW/Oエマルションを調製する工程とは、例えば、包持対象である油溶性成分の親水化体が包持対象である水溶性成分の水溶液中で分散した分散液とベース油剤とを両親媒性分子の存在下にて乳化させ、前記分散液を内包するミセルが前記ベース油剤中に分散した状態を作ること等を指す。
【0088】
次に、W/Oエマルションを脱水に供して、包持対象物質を内包した分散油剤を調製する工程とは、例えば、W/Oエマルションを減圧脱水装置に供して前記分散液を内包するミセルの内部の水分を沸騰させつつ脱水し、前記水溶性成分水溶液の減水化産物と前記油溶性成分の親水化体とが内包された粒子が油剤中に分散した状態を作ること等を指す。
【0089】
物質内包粒子の大きさは特に限定されないが、例えば、分散液を内包するミセルの内部の水分を沸騰させつつ脱水する前記の方法によれば、平均粒径が1μm以下の比較的粒径が揃った物質内包粒子が油剤中に分散した状態となる。なお、本発明の平均粒径とは、積算体積粒度分布における50体積%に対応する粒径(D50)を指しており、一般的に動的光散乱光度計、レーザー回折・散乱式粒度分布計等により測定することができる。
【0090】
ここで分散液とは、前述の如く水溶性成分の水溶液中で油溶性成分の親水化体が分散した液であるが、油溶性成分の親水化体としては、ミセルやリポソーム、バイレイヤーシート、エクソソームとすることができる。
【0091】
油溶性成分の親水化体としてのミセルは、例えば、油溶性成分を両親媒性分子の疎水部会合領域に内包するミセルを採用することができる。このようなミセルは、油溶性成分を含む油性液を水溶性成分の水溶液中で両親媒性分子の存在下にて乳化させる工程を経ることで得られる。
【0092】
ここで油溶性成分を含む油性液とは、包持対象たる油溶性成分を先述の油脂やロウ類、炭化水素、脂肪酸、アルコール類、エステル類、シリコーン油及びフッ素油等に溶解させた液は勿論のこと、油溶性成分自体が液状のもの、例えば不飽和脂肪酸であるドコサヘキサエン酸や植物油であるオリーブ油、トコフェロールなどの如く常温付近(例えば、10~30℃)にて液状の包持対象たる油溶性成分は、油溶性成分自体が油性液である。
【0093】
また、リポソームやバイレイヤーシートは、油溶性成分を含む油性液を水溶性成分の水溶液中で界面活性剤の存在下にて乳化させる工程を経て得た、前記油溶性成分を脂質二重層の疎水部会合領域内に保持するリポソームやバイレイヤーシートを採用することができる。
【0094】
また、油溶性成分の親水化体としては、所定の真核生物細胞より得たエクソソームを使用することも可能である。エクソソームは、リポソームの場合と同様に、脂質二重層の疎水部会合領域内に油溶性成分が保持される。
【0095】
そして、このような本実施形態に係る物質内包粒子分散油剤の製造方法によれば、水溶性成分のみならず、油溶性成分についても内包した物質内包粒子分散油剤の製造方法を提供することができる。
【0096】
ところで、ヒトの皮膚は、深部に行くに従って水分が多くなるという特徴がある。角層の深部には生体内と同等の水分が含まれるが、表層に向かうに従ってその水分量は徐々に減少し約20~30%となっており、このような水分勾配が形成されていることで皮膚の表面ほど相対的に油分が多く、バリア構造となっている。
【0097】
それゆえ、皮膚内部へ届けたい物質が水溶性成分である場合には、角層をできるだけスムーズに透過させるべく、油との併用が行われる。
【0098】
例えば、本出願人らが過去に提案した如く、逆ミセル状とした水溶性成分の水溶液の減水化産物がベース油に分散した油剤とすれば、角層を透過させて深部に水溶性成分を届けることができる。
【0099】
これに対し油溶性成分は、角層の表面部分を比較的透過しやすい。従って、ベース油剤に油溶性成分を含有させておけば、角層の表面部を透過させることは可能である。
【0100】
しかしながら、皮膚には先述した水分勾配があるため、油溶性成分を更に深部に到達させるのは困難である。
【0101】
この点、本願にて提案する技術、すなわち、包持対象である水分や水溶性成分の水溶液の減水化産物と、包持対象である油溶性成分の親水化体とを親水性の物質として両親媒性分子による親水部会合構造内の脱水された領域に含む粒子の分散油剤とする技術によれば、油溶性成分を単にベース油剤に添加するだけの場合に比して油溶性成分を水溶性成分共に深部にまで到達させることが可能となる。
【0102】
また本願は、水溶性成分の有無に拘わらず、油溶性成分を皮膚の深部にまで到達させる技術も包含している。
【0103】
すなわち、油溶性成分を親水化体とし、これを逆ミセル内に内包させることで、角層の表面部を油剤として透過させつつ、水分量が多くなるにつれ逆ミセル内に収容された油溶性成分の親水化体の態様にて更に深部に至るべく構成した点に特徴を有する技術を提供するものとも言える。なお、以下の説明において、水溶性成分を伴わず、包持対象として油溶性成分のみを内包させた態様を油溶性成分単独態様といい、水溶性成分も共に内包させた態様を油溶性・水溶性併用態様という。
【0104】
このような構成とすることにより、油溶性成分を単にベース油剤に添加するだけの場合に比して皮膚の深部にまで到達させることが可能となる。付言すると、例えば、上述の物質内包粒子分散油剤の製造方法によれば、包持対象である油溶性成分の親水化体が包持対象である水溶性成分の水溶液中で分散した分散液とベース油剤とを両親媒性分子の存在下にて乳化させ、前記分散液を内包するミセルが前記ベース油剤中にて分散したエマルションを調製する工程と、同エマルションを減圧脱水装置に供して前記分散液を内包するミセルの内部の水分を沸騰させつつ脱水し、前記水溶性成分水溶液の減水化産物と前記油溶性成分の親水化体とが内包された粒子が分散する油剤を調製する工程と、を備える油溶性成分と水溶性成分とを内包した物質内包粒子分散油剤の製造方法であって、前記分散液は、上述した(a)のミセル、(b)のリポソーム又はバイレイヤーシート、(c)のエクソソームから選ばれる少なくともいずれか一つが前記油溶性成分の親水化体として前記水溶性成分の水溶液中にて分散した液であることとしたため、油溶性成分についても内包した物質内包粒子分散油剤の製造方法を提供することができる。
【0105】
また本願は、油溶性成分の皮膚中における浸透深さを調整(制御)する技術、付言すれば、所定の油溶性成分を皮膚の所望する深さ位置に到達させる技術についても提供するものであり、この点について以下に説明する。
【0106】
この深さ調整技術は、例えばその一態様として、ベース油の極性を調整することで実現できる。油溶性の成分は、その一般的な性状として、極性成分(極性油)と無極性成分(無極性油)に分類される。例えば、炭化水素系の油は無極性油が多く、ミネラルオイルも炭化水素系の油であり無極性成分(無極性油)といえる。一方、例えばβ-カリオフィレンは、分子内の電荷に偏りがある極性成分(極性油)である。
【0107】
物質内包粒子分散油剤におけるベース油剤を無極性油とした場合、皮膚中の水分勾配により逆ミセル内に内包した包持対象たる油溶性成分は、後述の極性油を用いた場合に比して相対的に到達深さは浅くすることが可能である。また、これに対し、ベース油を極性油とした場合、先述の無極性油に比して水に対し若干ながら馴染みやすい性質を持つため、より到達深さを深くすることが可能となる。
【0108】
このように、ベース油の極性の強さを選択することで、包持対象たる油溶性成分の浸透深さを調整することができる。
【0109】
また、ベース油の極性度合いの調整による油溶性成分の浸透深さの調整を行うか又は行わないかに拘わらず、包持対象たる油溶性成分の極性を調整することで、同油溶性成分の到達深さを調整するようにしても良い。
【0110】
すなわち、包持対象たる油溶性成分について、所定の目的を達するために幾つかの油溶性成分の中から選択することが可能な場合は、その油溶性成分の極性の強さを選択することで、同油溶性成分の浸透深さを調整することができる。
【0111】
また、包持対象たる油溶性成分について、所定の目的を達するための第1の油溶性成分と、同第1の油溶性成分の浸透深さを調整するための第2の油溶性成分とを含ませるようにしても良い。
【0112】
このような場合、第1の油溶性成分が無極性で他の成分との代替ができない場合であっても、第2の油溶性成分により浸透深さの調整を行うことができる。なおこの第2の油溶性成分は、浸透深さの調整のみならず他の目的を持って添加されるものであっても良い。
【0113】
また、油溶性成分の極性ではなく、逆ミセルに使用する両親媒性分子について、HLB(Hydrophilic-Lipophilic Balance)の値を調整することで浸透深さの調整を行うことも可能である。
【0114】
HLB値は界面活性剤の水と油(水に不溶性の有機化合物)への親和性の程度を表す値であり、グリフィン法でのHLB値が1~7程度の範囲内で調整することができる。HLB値が1に近いほど浸透の深さは相対的に浅く、HLB値が7に近いほど深くすることができる。
【0115】
以下、本実施形態に係る物質内包粒子分散油剤及び物質内包粒子分散油剤の製造方法に関し、実施例を参照しながら更に説明する。
【0116】
〔1.物質内包粒子分散油剤の製造〕
本実施形態に係る物質内包粒子分散油剤及びその製造例として、ミセル型物質内包粒子分散油剤、リポソーム型物質内包粒子分散油剤、エクソソーム型物質内包粒子分散油剤の3つの物質内包粒子分散油剤について説明する。
【0117】
(1-1.ミセル型物質内包粒子分散油剤)
本油剤は、油溶性成分を含む油性液を水溶性成分の水溶液中で両親媒性分子の存在下にて乳化させる工程を経て得た、油溶性成分を両親媒性分子の疎水部会合領域に内包するミセルを油溶性成分の親水化体とした例である。
【0118】
包持対象である水溶性成分として1重量部のニコチンアミドモノヌクレオチド(nicotinamide mononucleotide:以下、NMNともいう。)を99重量部の水に添加して、1w/w%NMN水溶液を調製した。次に、この100重量部の1w/w% NMN水溶液に対し3重量部のPPG-6デシルテトラデセス-30と、包持対象である油溶性成分として0.5重量部のルテインとを添加し、600rpmに設定したスリーワンモーターにて10分間室温で乳化し分散液を調製した。この分散液は、油溶性成分を両親媒性分子の疎水部会合領域に内包するミセル(油溶性成分の親水化体)が水溶性成分の水溶液に分散した分散液である。
【0119】
次に、同分散液と、ベース油剤としての91.5重量部のパルミチン酸エチルヘキシルと、両親媒性分子としての5重量部のポリグリセリン縮合リシノレイン酸エステルとを混合し、24000rpmに設定したホモジナイザーにて1分間室温で乳化し、分散液を内包するミセルがベース油剤中にて分散したエマルションを調製した。
【0120】
次に、調製した所定量のエマルションを容器内に収容してエバポレーターに供し、大気圧の約1/10程度の減圧下にて60℃に加温しつつ40分間、沸騰を伴わせながら脱水を行った。脱水処理後、容器内に残存した液を本実施形態に係る物質内包粒子分散油剤、すなわち、水溶性成分水溶液の減水化産物と油溶性成分の親水化体とが内包された粒子が分散する油剤として得た。以下、水溶性成分としてのNMNの水溶液の減水化産物と両親媒性分子であるPPG-6デシルテトラデセス-30のミセルの疎水部会合構造内に油溶性成分としてのルテインを内包してなるルテインの親水化体とが両親媒性分子であるポリグリセリン縮合リシノレイン酸エステルによる親水部会合構造内の脱水された領域に親水性の物質として内包された粒子がベース油剤としてのパルミチン酸エチルヘキシルに分散したこの油剤を、ミセル型物質内包粒子分散油剤Aという。
【0121】
(1-2.リポソーム型物質内包粒子分散油剤)
本油剤は、油溶性成分を含む油性液を水溶性成分の水溶液中で界面活性剤の存在下にて乳化させる工程を経て得た、油溶性成分を脂質二重層の疎水部会合領域内に保持するリポソームを油溶性成分の親水化体とした例である。
【0122】
包持対象である水溶性成分として1重量部のNMNを99重量部の水に添加して、1w/w% NMN水溶液を調製した。次に、この100重量部の1w/w% NMN水溶液に対し0.1重量部の水添レシチンと、0.3重量部の1,3-ブチレングリコールと、包持対象である油溶性成分として0.5重量部のルテインとを添加し、5000rpmに設定したホモジナイザーにて10分間60℃で乳化し分散液を調製した。この分散液は、脂質二重層の層内の疎水部会合領域に油溶性成分を保持するリポソーム(油溶性成分の親水化体)が水溶性成分の水溶液に分散した分散液である。
【0123】
次に、同分散液と、ベース油剤としての94.1重量部のパルミチン酸エチルヘキシルと、両親媒性分子としての5重量部のポリグリセリン縮合リシノレイン酸エステルとを混合し、24000rpmに設定したホモジナイザーにて1分間室温で乳化し、分散液を内包するミセルがベース油剤中にて分散したエマルションを調製した。
【0124】
次に、調製した所定量のエマルションを容器内に収容してエバポレーターに供し、大気圧の約1/10程度の減圧下にて60℃に加温しつつ40分間、沸騰を伴わせながら脱水を行った。脱水処理後、容器内に残存した液を本実施形態に係る物質内包粒子分散油剤として得た。以下、水溶性成分としてのNMNの水溶液の減水化産物と両親媒性分子である水添レシチンのリポソームの脂質二重層の層内の疎水部会合領域に油溶性成分としてのルテインを保持してなるルテインの親水化体とが両親媒性分子であるポリグリセリン縮合リシノレイン酸エステルによる親水部会合構造内の脱水された領域に親水性の物質として内包された粒子がベース油剤としてのパルミチン酸エチルヘキシルに分散したこの油剤を、リポソーム型物質内包粒子分散油剤Bという。
【0125】
(1-3.エクソソーム型物質内包粒子分散油剤)
本油剤は、所定の細胞等より得たエクソソームを油溶性成分の親水化体とした例である。
【0126】
包持対象である水溶性成分として1重量部のNMNを99重量部の水に添加して、1w/w% NMN水溶液を調製した。次に、この100重量部の1w/w% NMN水溶液に対し所望の油溶性成分を含む1重量部のエクソソーム含有エキスを添加し、600rpmに設定したスリーワンモーターにて10分間室温で乳化し分散液を調製した。この分散液は、脂質二重層の層内の疎水部会合領域に油溶性成分を保持するエクソソーム(油溶性成分の親水化体)が水溶性成分の水溶液に分散した分散液である。なお、エクソソーム含有エキスに代えて、所望の油溶性成分を含むリポソーム液を添加することもできる。
【0127】
次に、同分散液と、ベース油剤としての95重量部のパルミチン酸エチルヘキシルと、両親媒性分子としての5重量部のポリグリセリン縮合リシノレイン酸エステルとを混合し、24000rpmに設定したホモジナイザーにて1分間室温で乳化し、分散液を内包するミセルがベース油剤中にて分散したエマルションを調製した。
【0128】
次に、調製した所定量のエマルションを容器内に収容してエバポレーターに供し、大気圧の約1/10程度の減圧下にて60℃に加温しつつ40分間、沸騰を伴わせながら脱水を行った。脱水処理後、容器内に残存した液を本実施形態に係る物質内包粒子分散油剤として得た。以下、水溶性成分としてのNMNの水溶液の減水化産物と脂質二重層の層内の疎水部会合領域に所望の油溶性成分を保持してなるエクソソームとが両親媒性分子であるポリグリセリン縮合リシノレイン酸エステルによる親水部会合構造内の脱水された領域に親水性の物質として内包された粒子がベース油剤としてのパルミチン酸エチルヘキシルに分散したこの油剤を、エクソソーム型物質内包粒子分散油剤Cという。
【0129】
〔2.人工皮膚を用いた物質内包粒子分散油剤の透過試験〕
次に、上述した〔1.物質内包粒子分散油剤の製造〕にて製造された物質内包粒子分散油剤に関し、(1-2.リポソーム型物質内包粒子分散油剤)にて示したリポソーム型物質内包粒子分散油剤Bを代表として、人工皮膚の表面に被験液として塗布し、3時間又は16時間経過後における透過状況を確認する試験を行った。また、比較対照として、ルテインとパルミチン酸エチルヘキシル(IOP)の混合体(以下、比較剤Yともいう。)についても同様に試験に供した。
【0130】
(2-1.被験液を適用した人工皮膚の調製)
試験は、三次元培養皮膚を用いて行った。三次元培養皮膚は、株式会社ジャパン・ティッシュ・エンジニアリングより購入したLabCyte EPI-MODEL12を使用した。12ウェルプレートの各ウェルに32℃に温めたリン酸緩衝液を1mlずつ添加し、三次元培養皮膚が予め形成されたLabCyte EPI-MODEL12のインサートカップをウェル内に配置した後、32℃で30分間プレインキュベートした。
【0131】
次に、被験液として100μLのリポソーム型物質内包粒子分散油剤B又は比較剤Yを三次元培養皮膚の表面に滴下し、3時間又は16時間に亘り25rpmで振盪しながら32℃にて保温した。
【0132】
3時間又は16時間経過後は、マイクロピペットにて三次元培養皮膚の表面上の被験液を除去し、200μLのIOPを添加して三次元培養皮膚表面を洗浄した。このIOPによる洗浄操作を3回繰り返した後、200μLのリン酸緩衝液を添加して除去する操作を更に3回行い、紙製のウエスで三次元培養皮膚表面に残存した水分を除去した。最後に、ピンセットを使用し、インサートカップよりメンブレンフィルターと共に三次元培養皮膚を回収し、これを冷凍保存した。
【0133】
(2-2.定性試験:蛍光顕微鏡による三次元培養皮膚切片の観察)
凍結した三次元培養皮膚を凍結切片作製装置(PHC株式会社製 クリオスターNX70)内でコンパウンドにより包埋し、クライオスタットで10μmの切片を作製した。そして、オールインワン蛍光顕微鏡BZ-X810(株式会社キーエンス)を使用し位相差画像、およびBZ-Xフィルタ GFP(励起波長 470/40、吸収波長 525/50))による画像を撮影した。
【0134】
(2-3.定量試験:三次元培養皮膚へ浸透したルテイン量の算出)
凍結した三次元培養皮膚を室温(25℃)に30分間置き、解凍した。1.5mLマイクロチューブにイソプロパノールを500μL加え、そこへ三次元培養皮膚を浸し入れ、1分間撹拌させ室温(25℃)で一晩静置することで三次元培養皮膚内へ浸透したルテインを抽出した。
【0135】
次に、ルテインを溶出させたイソプロパノール200μLを96ウェルプレートへ移し、マイクロプレートリーダー ARVO MX-fla (株式会社パーキンエルマージャパン)により波長440nmにおける吸光度測定を行った。得られた吸光度の値を検量線と比較して三次元培養皮膚中へ浸透したルテイン量を算出し、比較剤Yに対するリポソーム型物質内包粒子分散油剤Bの浸透増加率を次の計算式より求めた。
浸透増加率(%)=[(リポソーム型物質内包粒子分散油剤Bの三次元培養皮膚への浸透量/比較剤Yの三次元培養皮膚への浸透量)-1]×100
【0136】
(2-4.試験結果の検討)
被験液をアプライして16時間経過後の三次元培養皮膚切片の検鏡像を
図1に示す。
図1(a)は比較剤Yの結果であり、
図1(b)はリポソーム型物質内包粒子分散油剤Bの結果である。
【0137】
蛍光画像を参照すると、比較剤Yは
図1(a)に示すように、三次元培養皮膚の角層表面においてルテインが確認された。一方、リポソーム型物質内包粒子分散油剤Bは
図1(b)に示すように、三次元培養皮膚全体にルテインが浸透している様子が確認された。
【0138】
また、ルテインの定量試験の結果、比較剤Yに対するリポソーム型物質内包粒子分散油剤Bの浸透増加率は22%であり、本発明による皮膚浸透性の向上が認められた。
【0139】
〔3.皮膚透過性試験用フィルターを用いた物質内包粒子分散油剤の透過性定性試験〕
〔1.物質内包粒子分散油剤の製造〕にて製造された物質内包粒子分散油剤に関し、包持対象である油溶性成分及び水溶性成分の種類を変えた場合においても同様に、皮膚塗布時に深部到達することを確認するため、皮膚透過性試験用フィルターを用いてリポソーム型物質内包粒子分散油剤Bの透過性定性試験を行った。また、比較対象として、ルテイン、蛍光標識化ニコチンアミドモノヌクレオチド(蛍光標識化NMN)とパルミチン酸エチルヘキシル(IOP)の混合体(以下、比較剤Zともいう。)についても同様に試験に供した。
【0140】
(3-1.油溶性成分の選択)
油溶性成分として、次の通り選択した。まず、脂質の代表として、セラミド、糖脂質を選択した。また、酵素又は補酵素の代表として、ユビキノンを選択した。また、カロテノイドの代表として、アスタキサンチン、ルテインを選択した。また、脂溶性トコフェロールの代表として、トコフェロールを選択した。また、フェノール類の代表として、フェルラ酸を選択した。
【0141】
(3-2.水溶性成分の選択)
水溶性成分として、次の通り選択した。まず、ビタミン類の代表として、β-ニコチンアミドモノヌクレオチドを選択した。また、ペプチド類の代表として、ヒアルロン酸Naを選択した。また、たんぱく質の代表として、Epidermal Growth Factor(EGF:上皮成長因子)を選択した。また、ビタミン誘導体の代表として、L-アスコルビン酸2-グルコシド(AA2G)を選択した。
【0142】
(3-3.静的拡散セルによる透過試験及び定性試験サンプルの採取)
静的拡散セルによる透過試験には、皮膚透過性試験用フィルターである皮膚透過性試験用メンブレン「Strat-M」(メルク株式会社)を使用した。
【0143】
Strat-Mを前処理としてレセプター溶液として使用するリン酸緩衝生理食塩水に1時間浸し37℃の水を還流させた静的拡散セルに固定した。リザーバー側にはレセプター溶液としてリン酸緩衝生理食塩水で満たした。ドナー側であるStrat-M上部に被験液として上記の水溶性成分及び油溶性成分を含む物質内包粒子分散油剤を500μL滴下し、30分後においてレセプター溶液を400μLサンプリングしたものを定性試験サンプルとした。
【0144】
その後、各被験液について皮膚透過性試験用フィルターに対する透過性の有無を定性試験により確認した。
【0145】
(3-4.定性試験:皮膚透過性試験用フィルターを透過した油溶性成分と水溶性成分の有無確認)
皮膚透過性試験用フィルターを透過した油溶性成分と水溶性成分の有無の確認に際して行った試験方法や確認方法を表1に示す。
【表1】
【0146】
(3-5.定性試験結果)
定性試験結果を表2に示す。なお、透過の有無については、透過有りを○、透過無しを×で記している。
【表2】
【0147】
各検体の定性試験の結果、表2に示すとおり、油溶性成分、水溶性成分ともに、リポソーム型物質内包粒子分散油剤Bが比較剤Zよりも高い浸透性を有することが確認された。
【0148】
〔4.皮膚透過性試験用フィルターを用いた物質内包粒子分散油剤の透過性定量試験〕
次に、上述した〔1.物質内包粒子分散油剤の製造〕にて製造された物質内包粒子分散油剤に関し、(1-2.リポソーム型物質内包粒子分散油剤)にて示したリポソーム型物質内包粒子分散油剤Bを代表として、透過量を確認するため静的拡散セルを用いた透過試験を行った。また、比較対象として、上述した比較剤Zについても同様に試験に供した。
【0149】
(4-1.静的拡散セルによる透過試験及び定量試験サンプルの採取)
静的拡散セルによる透過試験には皮膚透過性試験用フィルターである皮膚透過性試験用メンブレン「Strat-M」(メルク株式会社)を使用した。
【0150】
Strat-Mを前処理としてレセプター溶液として使用するリン酸緩衝生理食塩水に1時間浸し37℃の水を還流させた静的拡散セルに固定した。リザーバー側にはレセプター溶液としてリン酸緩衝生理食塩水で満たした。ドナー側であるStrat-M上部に被験液として500μLのリポソーム型物質内包粒子分散油剤B又は比較剤Zを滴下し、0、0.5、1時間後においてレセプター溶液を400μLずつサンプリングしたものを定量試験サンプルとした。
【0151】
(4-2.定量試験:皮膚透過性試験用フィルターを透過したルテイン量と蛍光標識化NMN量の算出)
次に、定量試験サンプル90μLを96ウェルプレートへ移し、ジメチルスルホキシド10μLを加え、遮光にて5分間に亘り室温(25℃)、600rpmで振盪した。
【0152】
その後、マイクロプレートリーダーInfinite(登録商標) 200 PRO(テカンジャパン株式会社)により波長442 nmにおける吸光度測定、及び励起波長380 nm、蛍光波長580 nmにおける蛍光強度測定を行った。
【0153】
得られた値を検量線と比較して、定量試験サンプル中のルテインと蛍光標識化NMNの濃度を算出し、さらに、皮膚透過性試験用フィルターを透過したルテイン量と蛍光標識化NMN量を次の計算式より求めた。
累積透過量(μg/cm2)=CV/S
C:定量試験サンプル中のルテイン及び蛍光標識化NMNの濃度(μg/mL)
V:レセプター溶液の体積(mL)
S:皮膚透過性試験用フィルターの有効面積(cm2)
【0154】
(4-3.定量試験結果)
ルテインの累積透過量(μg/cm
2)を表3に、蛍光標識化NMNの累積透過量(μg/cm
2)を表4にそれぞれ示す。
【表3】
【表4】
【0155】
本実施形態において、ルテインの累積透過量は、表3に示すとおり、リポソーム型物質内包粒子分散油剤Bが比較剤Zよりもサンプリング0.5時間で2.6倍、サンプリング1時間で2.3倍の高い値を示した。
【0156】
また、蛍光標識化NMNの累積透過量も同様に、表4に示すとおり、リポソーム型物質内包粒子分散油剤Bが比較剤Zよりもサンプリング0.5時間で2.1倍、サンプリング1時間で3.8倍の高い値を示した。
【0157】
以上のことより、リポソーム型物質内包粒子分散油剤Bは比較剤Zよりも油溶性成分及び水溶性成分の透過量が増大し、すなわち浸透が促進されることが示唆された。
【0158】
これらのことから、本実施形態に係る物質内包粒子分散油剤によれば、内包した水溶性成分と油溶性成分とを、従来の比較剤Yに比して皮膚深部に到達させることが可能であることが示された。また上記の結果を踏まえると、水溶性物質であるNMNを皮膚中へ効率的に浸透させることができる。従って、NMNを経皮的又は経口的に効率よく摂取できる化粧料や医薬品、食品等を提供することができる。また、油溶性成分を油溶性ビタミン類とすることで、NMNと共に、持続的に体内の酸化型ニコチンアミドアデニンジヌクレオチド(NAD+)量を増加させると同時に、活性化した生細胞活動を脂溶性ビタミンが補助することで、健全な身体機能が持続するなどの、より相乗的な効果を得ることができる。
【0159】
上述してきたように、本実施形態に係る物質内包粒子分散油剤は、両親媒性分子による親水部会合構造内の脱水された領域に複数の親水性の物質が内包された粒子の分散油剤であって、前記複数の親水性の物質は、包持対象である水溶性成分の水溶液の減水化産物と、包持対象である油溶性成分の親水化体とを含むこととしたため、水溶性成分は勿論のこと、油溶性成分についても内包させた物質内包粒子分散油剤を提供することができる。
【0160】
最後に、上述した各実施の形態の説明は本発明の一例であり、本発明は上述の実施の形態に限定されることはない。このため、上述した各実施の形態以外であっても、本発明に係る技術的思想を逸脱しない範囲であれば、設計等に応じて種々の変更が可能であることは勿論である。