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  • 特開-選挙投票用紙 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023146905
(43)【公開日】2023-10-12
(54)【発明の名称】選挙投票用紙
(51)【国際特許分類】
   B32B 3/24 20060101AFI20231004BHJP
   B32B 27/18 20060101ALI20231004BHJP
   C08J 7/044 20200101ALI20231004BHJP
   C08J 9/00 20060101ALI20231004BHJP
   C08J 9/36 20060101ALI20231004BHJP
   B42D 15/00 20060101ALI20231004BHJP
【FI】
B32B3/24
B32B27/18 Z
C08J7/044 CER
C08J9/00 A CEZ
C08J9/36
B42D15/00 301Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022054337
(22)【出願日】2022-03-29
(71)【出願人】
【識別番号】000122313
【氏名又は名称】株式会社ユポ・コーポレーション
(74)【代理人】
【識別番号】100114775
【弁理士】
【氏名又は名称】高岡 亮一
(74)【代理人】
【識別番号】100121511
【弁理士】
【氏名又は名称】小田 直
(74)【代理人】
【識別番号】100202751
【弁理士】
【氏名又は名称】岩堀 明代
(74)【代理人】
【識別番号】100154759
【弁理士】
【氏名又は名称】高木 貴子
(72)【発明者】
【氏名】糸日谷 太
(72)【発明者】
【氏名】野田 康弘
【テーマコード(参考)】
4F006
4F074
4F100
【Fターム(参考)】
4F006AA12
4F006AA51
4F006AA55
4F006AB05
4F006AB24
4F006AB73
4F006BA07
4F006CA10
4F074AA18
4F074AA24
4F074AC26
4F074AG01
4F074CA03
4F074CA06
4F074CE16
4F074CE45
4F074CE56
4F074CE73
4F074CE94
4F074DA02
4F074DA15
4F074DA23
4F074DA24
4F074DA52
4F100AA01A
4F100AA01B
4F100AA01C
4F100AK01
4F100AK01A
4F100AK03
4F100AK03A
4F100AK07
4F100AK07A
4F100AK07B
4F100AK07C
4F100AR00B
4F100AR00C
4F100AT00A
4F100BA03
4F100BA07
4F100BA08
4F100CA13
4F100CA13B
4F100CA13C
4F100DE01
4F100DE01A
4F100DE01B
4F100DE01C
4F100DJ00
4F100DJ00A
4F100EH17
4F100EH46
4F100EH46B
4F100EH46C
4F100EJ38
4F100EJ38A
4F100EJ42
4F100EJ50
4F100JB09
4F100JB09B
4F100JB09C
4F100JB16
4F100JB16A
4F100JG03
4F100JG03B
4F100JG03C
4F100JK04
4F100JN02
4F100YY00A
4F100YY00B
4F100YY00C
(57)【要約】
【課題】優れた折り回復力を有するとともに、環境負荷の低減が可能な選挙投票用紙の提供。
【解決手段】選挙投票用紙は、基材層と、前記基材層の両面上に塗工層とを備える。基材層が、熱可塑性樹脂及び無機粒子を含有する二軸延伸多孔質フィルムであり、基材層中の無機粒子の含有量が、50~80質量%である。また選挙投票用紙は、不透明度が90~100%であり、折り回復時間が1~15秒である。
【選択図】図1

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材層と、前記基材層の両面上に塗工層とを備える選挙投票用紙であって、
前記基材層が、熱可塑性樹脂及び無機粒子を含有する二軸延伸多孔質フィルムであり、
前記基材層中の前記無機粒子の含有量が、50~80質量%であり、
不透明度が90~100%であり、
折り回復時間が1~15秒である
選挙投票用紙。
【請求項2】
前記塗工層が、(a)水性樹脂バインダー、(b)無機粒子、及び(c)帯電防止機能を有する水溶性ポリマーを含有する
請求項1に記載の選挙投票用紙。
【請求項3】
前記塗工層が、(d)着色剤を含有する
請求項1又は2に記載の選挙投票用紙。
【請求項4】
前記熱可塑性樹脂が、オレフィン系樹脂を含む
請求項1~3のいずれか一項に記載の選挙投票用紙。
【請求項5】
前記二軸延伸多孔質フィルムの面積延伸倍率が、1.2倍以上40倍以下である
請求項1~4のいずれか一項に記載の選挙投票用紙。
【請求項6】
前記二軸延伸多孔質フィルムの空孔率が、15~60%である
請求項1~5のいずれか一項に記載の選挙投票用紙。
【請求項7】
前記二軸延伸多孔質フィルムが、第1表面層、コア層及び第2表面層をこの順に含み、
前記コア層中の前記無機粒子の含有量が50質量%を超え80質量%以下であり、
前記第1表面層及び前記第2表面層中の前記無機粒子の含有量が、0~25質量%である
請求項1~6のいずれか一項に記載の選挙投票用紙。
【請求項8】
前記選挙投票用紙全体の厚さに対する前記基材層の厚さの割合が、70%以上である
請求項1~7のいずれか一項に記載の選挙投票用紙。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、選挙投票用紙に関する。
【背景技術】
【0002】
選挙投票用紙は、記入欄等が予め印刷されており、そこへ候補者氏名等が書き込まれた後、折り曲げられて投票箱内に投入される。選挙投票用紙は、投票終了後に回収され、人の手作業によって開かれて、その数が集計される。
【0003】
このような選挙投票用紙として、樹脂フィルム製の合成紙が使用されるようになり、集計作業も手作業ではなく計数機を用いて機械的に行われるようになった(特許文献1及び2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開07-051393号公報
【特許文献2】特許第2718753号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
合成紙を用いた選挙投票用紙は、投票直後の折り回復力が十分ではなく、折り方によっては折り癖がつくことがある。折り癖が戻らない選挙投票用紙は、計数機において紙詰まりが生じたり、計数ミスが生じたりすることがある。そのため、一部の投票用紙は、やはり手作業によって開き、集計することがあった。
【0006】
また環境保護に対する意識の高まりから、プラスチック廃棄物の減量化の要求がある。選挙投票用紙においても樹脂量の削減が求められていた。
【0007】
本発明は、優れた折り回復力を有するとともに、環境負荷の低減が可能な選挙投票用紙の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らが上記課題を解決すべく鋭意検討を行った結果、下記の通り、本発明を完成した。
【0009】
[1]基材層と、前記基材層の両面上に塗工層とを備える選挙投票用紙であって、
前記基材層が、熱可塑性樹脂及び無機粒子を含有する二軸延伸多孔質フィルムであり、
前記基材層中の前記無機粒子の含有量が、50~80質量%であり、
不透明度が90~100%であり、
折り回復時間が1~15秒である
選挙投票用紙。
【0010】
[2]前記塗工層が、(a)水性樹脂バインダー、(b)無機粒子、及び(c)帯電防止機能を有する水溶性ポリマーを含有する
上記[1]に記載の選挙投票用紙。
【0011】
[3]前記塗工層が、(d)着色剤を含有する
上記[1]又は[2]に記載の選挙投票用紙。
【0012】
[4]前記熱可塑性樹脂が、オレフィン系樹脂を含む
上記[1]~[3]のいずれかに記載の選挙投票用紙。
【0013】
[5]前記二軸延伸多孔質フィルムの面積延伸倍率が、1.2倍以上40倍以下である
上記[1]~[4]のいずれかに記載の選挙投票用紙。
【0014】
[6]前記二軸延伸多孔質フィルムの空孔率が、15~60%である
上記[1]~[5]のいずれかに記載の選挙投票用紙。
【0015】
[7]前記二軸延伸多孔質フィルムが、第1表面層、コア層及び第2表面層をこの順に含み、
前記コア層中の前記無機粒子の含有量が50質量%を超え80質量%以下であり、
前記第1表面層及び前記第2表面層中の前記無機粒子の含有量が、0~25質量%である
上記[1]~[6]のいずれかに記載の選挙投票用紙。
【0016】
[8]前記選挙投票用紙全体の厚さに対する前記基材層の厚さの割合が、70%以上である
上記[1]~[7]のいずれかに記載の選挙投票用紙。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、優れた折り回復力を有するとともに、環境負荷の低減が可能な選挙投票用紙を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1】選挙投票用紙の一例を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明の選挙投票用紙について詳細に説明する。以下の説明は本発明の一例(代表例)であり、本発明はこれに限定されない。
【0020】
以下の説明において、「(メタ)アクリル」の記載は、アクリルとメタクリルの両方を示す。
【0021】
(選挙投票用紙)
本発明の選挙投票用紙は、基材層と、当該基材層の両面上に塗工層とを備える。基材層は二軸延伸多孔質フィルムである。当該二軸延伸多孔質フィルムは、熱可塑性樹脂及び無機粒子を含有して、二軸方向(一方向と当該一方向に略直交する方向)に延伸されることにより、主に無機粒子を起点として形成された微細な空孔を多数含む。このような多孔質化により、選挙投票用紙の不透明度が90~100%と高くなり、印刷内容が明瞭な選挙投票用紙を提供することが可能である。
【0022】
また多孔質化により基材層中の樹脂を空孔に置き換えて樹脂量を削減することができ、環境負荷の低減が可能である。基材層中の無機粒子の含有量は50~80質量%と多く、樹脂量をさらに削減できるとともに、製造過程における二酸化炭素ガスの排出係数が熱可塑性樹脂よりも小さい無機粒子に置き換えることによって二酸化炭素ガスの排出量を減らすことができる。よって、環境負荷の低減に貢献することが可能な選挙投票用紙を提供することができる。
【0023】
一方、上記のように二軸延伸多孔質フィルムが無機粒子を多く含むと、折り回復時間が長くなる傾向がある。しかしながら、本発明において二軸延伸多孔質フィルムは二軸延伸層のみを含み、無延伸層又は一軸延伸層は含まない。二軸延伸多孔質フィルムは、全体が二軸方向に延伸され、一軸延伸層に比べて異方性が小さい。そのため、二軸方向のいずれの方向に折り込まれても折り部分が伸びにくく、両方向の曲げ弾性が高いために、折り癖が付きにくい。さらに二軸延伸多孔質フィルムは、一軸延伸層に比べて空孔率が高く、折り回復が早い傾向がある。本発明の選挙投票用紙は、このような二軸延伸と空孔率によって1~15秒の折り回復時間を達成している。優れた折り回復力により、投票後、自然と開きやすく、計数機における搬送性も向上するため、紙詰まりや計数ミスが少ない投票選挙用紙を提供することができる。
【0024】
なお、本発明の選挙投票用紙は、本発明の効果を阻害しない範囲で、二軸延伸多孔質フィルムである基材層上に、無延伸層又は一軸延伸層を備えていてもよい。
【0025】
<折り回復時間>
本発明において、選挙投票用紙の折り回復時間は、1秒以上15秒以下であり、12秒以下であることが好ましく、10秒以下がより好ましい。上記折り回復時間が15秒以下であれば、折り回復力が十分であり、選挙投票用紙の計数時に、計数機内での紙詰まりや計数ミスを減らすことができる。上記折り回復時間が1秒以上であれば、適度なフィルム剛度が得られ、折り曲げることができる。
上記折り回復時間は、折り目となる線を中心に選挙投票用紙の一端を180°回転させて選挙投票用紙を二つ折りし、その後開放された一端が120°の回転角度の位置に戻るまでの時間として測定される。
【0026】
<不透明度>
選挙投票用紙の不透明度は、記入された候補者氏名が透けることを防ぐ観点から、90%以上であり、好ましくは92%以上である。上記選挙投票用紙の不透明度は100%以下であり、98%以下であってもよい。
上記不透明度は、JIS-P-8149:2000に準拠して測定される。選挙投票用紙の不透明度は、基材層中の無機粒子の含有量、サイズ、延伸条件、空孔率等によって調整することができる。
【0027】
<厚さ>
選挙投票用紙の厚さは、搬送性の観点から、60μm以上が好ましく、70μm以上がより好ましく、80μm以上がさらに好ましい。上記厚さは、軽量化の観点から、好ましくは140μm以下、より好ましくは130μm以下、さらに好ましくは120μm以下がさらに好ましい。
【0028】
図1は、選挙投票用紙の一例を示す。
図1に例示する選挙投票用紙10は、基材層1とその両面に塗工層2とを備える。
以下、各層について説明する。
【0029】
((基材層))
基材層は、選挙投票用紙に一定の剛度を付与する支持体としての機能を有するとともに、折り回復力を付与する機能を有する。基材層は、上述のように熱可塑性樹脂及び無機粒子を含有する二軸延伸多孔質フィルムである。
【0030】
<熱可塑性樹脂>
熱可塑性樹脂は二軸延伸多孔質フィルムのマトリクスを形成する。基材層に使用できる熱可塑性樹脂としては、その種類は特に制限されず、例えば高密度ポリエチレン、中密度ポリエチレン等のエチレン系樹脂、あるいはポリプロピレン等のプロピレン系樹脂、ポリ(4-メチルペンタ-1-エン)、エチレン-環状オレフィン共重合体等のシクロオレフィンコポリマー、等のオレフィン系樹脂;ナイロン-6、ナイロン-6,6、ナイロン-6,10、ナイロン-6,12等のポリアミド系樹脂;ポリエチレンテレフタレートやその共重合体、ポリエチレンナフタレート、ポリブチレンテレフタレート、脂肪族ポリエステル等の熱可塑性ポリエステル系樹脂;アタクティックポリスチレン、シンジオタクティックポリスチレン、スチレン-アクリロニトリル樹脂、アクリロニトリル-ブタジエン-スチレン樹脂等のスチレン系樹脂;ポリカーボネート、ポリフェニレンスルフィド等の延伸成形が可能な熱可塑性樹脂が挙げられる。これらは1種を単独で又は2種以上を組み合わせて用いることもできる。
【0031】
熱可塑性樹脂として、一般に曲げ弾性の高いポリメチルペンテン、ナイロン、ポリブチレンテレフタレート、ABS、又はポリカーボネート等を選択してもよいが、生産性、加工容易性、耐水性、耐薬品性、リサイクル性、又はコストの観点から、オレフィン系樹脂が好ましい。機械的強度の観点からは、オレフィン系樹脂の中でも、プロピレン系樹脂又は高密度ポリエチレンが好ましく、プロピレン系樹脂が特に好ましい。
【0032】
プロピレン系樹脂としては、プロピレン単独重合体でありアイソタクティック、シンジオタクティック又は種々の立体規則性を示すポリプロピレン、プロピレンを主成分とし、これとエチレン、ブテン-1、ヘキセン-1、ヘプテン-1,4-メチルペンテン-1等のα-オレフィンとの共重合体が使用できる。この共重合体は、2元系でも3元系でも4元系でもよく、ランダム共重合体でもブロック共重合体でもよい。
【0033】
熱可塑性樹脂としてプロピレン単独重合体を用い、かつ多くの無機粒子を含有する場合、成形性の低下を抑え、高倍率での延伸を可能とする観点から、二軸延伸多孔質フィルムは、プロピレン単独重合体よりも融点が低い熱可塑性樹脂をさらに含有することが好ましい。また、プロピレン単独重合体よりも融点が低い熱可塑性樹脂は、プロピレン単独重合体と相溶性を有するか、又は、プロピレン単独重合体中に均一に分散可能な樹脂であることが好ましい。このような樹脂としては、例えば、上述のプロピレンとα-オレフィンとの共重合体であってプロピレンを主成分(50質量%を超える)とするものが挙げられる。プロピレン単独重合体よりも融点が低い熱可塑性樹脂の二軸延伸多孔質フィルムにおける含有量は、多くの無機粒子を含有する中での高い成形性及び延伸性を得る観点から、3質量%以上が好ましく、5質量%以上がより好ましく、機械的強度の観点から、25質量%以下が好ましく、15質量%以下がより好ましい。また、二軸延伸多孔質フィルムにおける、プロピレン単独重合体100質量部に対する、プロピレン単独重合体よりも融点が低い熱可塑性樹脂の含有量は、多くの無機粒子を含有する中での高い成形性及び延伸性を得る観点から、10質量部以上であることが好ましく、20質量部以上であることがより好ましく、30質量部以上であることがさらに好ましい。同含有量は、機械的強度の観点から、100質量部以下であることが好ましく、75質量部以下であることがより好ましく、50質量部以下であることがさらに好ましい。
【0034】
基材層中の熱可塑性樹脂の含有量は、成形性及び機械的強度の観点からは、20質量%以上が好ましく、25質量%以上がより好ましく、30質量%以上がさらに好ましい。環境負荷の低減の観点からは、50質量%以下が好ましく、45質量%以下がより好ましく、40質量%以下がさらに好ましい。
【0035】
<無機粒子>
無機粒子としては、例えば炭酸カルシウム、焼成クレイ、シリカ、けいそう土、タルク、硫酸バリウム、硫酸アルミニウム、酸化マグネシウム、アルミナ、又は紫外光吸収フィラー等が挙げられる。紫外光吸収フィラーとしては、例えば二酸化チタン、酸化亜鉛等が挙げられる。延伸による空孔形成の安定性の観点からは、炭酸カルシウム、焼成クレイ、又はタルクが好ましく、炭酸カルシウムがより好ましい。無機粒子は表面を脂肪酸、高分子界面活性剤、又は帯電防止剤等で表面処理されていてもよい。これらは、1種を単独で又は2種以上を組み合わせて使用してもよい。
【0036】
基材層中の無機粒子の含有量は、樹脂量の削減の観点から、50質量%以上であり、55質量%以上が好ましく、56質量%を超えることがより好ましく、60質量%以上がさらに好ましい。成形性の観点からは、上記無機粒子の含有量は、80質量%以下であり、75質量%以下が好ましく、70質量%以下がより好ましい。
【0037】
所望の折り回復力を得る観点からは、二軸延伸多孔質フィルム中に均一で真円に近い微細な空孔を多量に発生させることが好ましい。所望の形状の空孔を形成する観点から、無機粒子は、アスペクト比(長径/短径)が1~3程度の粒子形状を有することが好ましい。
【0038】
無機粒子の平均粒子径は、0.1μm以上が好ましく、0.2μm以上がより好ましい。上記平均粒子径が0.1μm以上であると、延伸による多孔質構造が得られやすい。また無機粒子の平均粒子径は、3.0μm以下が好ましく、2.0μm以下がより好ましい。上記平均粒子径が3.0μm以下であると、均一で微細な空孔が形成されやすく、折り癖がつきにくくなる。
上記平均粒子径は、電子顕微鏡により観察された10点の一次粒子の粒径を求め、その平均値として求めることができる。
【0039】
<その他の添加剤>
基材層は、分散剤を含有することが好ましい。分散剤の含有により、無機粒子の凝集を抑制する結果、成形性が向上するとともに延伸によって形成される空孔径が均一になりやすく、これによって折り癖がつきにくくなる。分散剤としては、例えばシランカップリング剤、オレイン酸、ステアリン酸等の高級脂肪酸、金属石鹸、ポリアクリル酸、ポリメタクリル酸等が挙げられる。基材層中の分散剤の含有量は、0.01~4質量%であることが好ましい。
【0040】
基材層は、必要に応じて蛍光増白剤、熱安定剤、酸化防止剤、紫外線安定剤(光安定剤)、紫外線吸収剤、染料、顔料、分散剤、滑剤、帯電防止剤、粘着防止剤、ブロッキング防止剤、又は難燃剤等の各種公知の添加剤を含有することができる。これらの基材層中の含有量は、それぞれ独立に、例えば0.01~4質量%程度である。
【0041】
<層構造>
基材層として用いる二軸延伸多孔質フィルムは、単層構造であってもよいし、多層構造であってもよい。折り回復力と成形性を両立する観点からは、多層構造が好ましい。多層構造の場合は、各層が熱可塑性樹脂及び無機粒子を含有する二軸延伸多孔質フィルムである。
【0042】
多層構造としては、例えばコア層とコア層の片面に表面層を積層した2層構造(コア層/表面層)、コア層の両面に表面層がそれぞれ積層された3層構造(第1表面層/コア層/第2表面層)、これらの表面層とコア層の間に中間層を含む4層以上の多層構造(第1表面層/中間層/コア層/中間層/第2表面層)等が挙げられる。
【0043】
上記多層構造において、コア層中の無機粒子の含有量は、50質量%を超え80質量%以下であることが好ましい。コア層中の無機粒子の含有量は56質量%以上であることがより好ましく、58質量%以上であることがさらに好ましい。また、コア層中の無機粒子の含有量は75質量%以下であることがより好ましく、70質量%以下であることがさらに好ましい。コア層中の無機粒子の含有量が50質量%を超えると、使用する樹脂量を削減し、環境負荷を低減できる傾向があり、不透明度も向上しやすい。上記含有量が80質量%以下であると、二軸延伸多孔質フィルムの成形性が向上する傾向がある。
【0044】
また表面層(第1表面層及び第2表面層)中の無機粒子の含有量が、0~25質量%であることが好ましい。表面層中の無機粒子の含有量が25質量%以下であると、二軸延伸多孔質フィルムの成形性が向上する傾向がある。よって、表面層中の無機粒子の含有量は、20質量%以下が好ましく、15質量%以下が好ましく、10質量%以下が好ましく、5質量%以下が好ましく、0質量%であってもよい。
【0045】
<厚さ>
基材層の厚さは、折り回復力の観点から、好ましくは60μm以上、より好ましくは70μm以上、さらに好ましくは80μm以上である。軽量化の観点からは、上記基材層の厚さは、好ましくは130μm以下、より好ましくは120μm以下、さらに好ましくは110μm以下である。
【0046】
基材層が多層構造を有する場合、基材層全体に対するコア層の厚さの割合は、70%以上が好ましく、80%以上がより好ましく、85%以上がさらに好ましく、90%以上が特に好ましい。無機粒子を多く含むコア層の割合が70%以上であると、コア層の多孔質化によって基材層中の樹脂量を削減することができ、環境負荷を低減しやすい。よって、環境負荷の低減の観点からは、基材層が単層構造を有することが好ましい。
【0047】
選挙投票用紙全体の厚さに対する基材層の厚さの割合は、環境負荷低減及び折り回復力の観点から、70%以上が好ましく、80%以上がより好ましく、90%以上がさらに好ましい。
【0048】
<折り回復時間>
基材層の折り回復時間は、上述した選挙投票用紙の折り回復時間と同じ1~15秒であり、好ましい折り回復時間も選挙投票用紙と同じである。
【0049】
<不透明度>
基材層の不透明度は、選挙投票用紙の不透明度と同様に、90%以上であり、好ましくは92%以上である。上記基材層の不透明度は100%以下であり、98%以下であってもよい。
【0050】
<空孔率>
基材層の空孔率は、環境負荷又は折り癖を減らす観点から、3%以上が好ましく、4%以上がより好ましく、5%以上がさらに好ましく、10%以上が特に好ましく、15%以上がより特に好ましく、20%以上がさらに特に好ましく、30%以上がなかでも特に好ましい。上記基材層の空孔率は、機械的強度の観点から、70%以下が好ましく、60%以下がより好ましく、50%以下がさらに好ましく、40%以下が特に好ましく、30%以下がより特に好ましく、20%以下がさらに特に好ましい。
上記空孔率は、電子顕微鏡で観察したフィルムの断面の一定領域において、空孔が占める面積の比率(%)として求められる。
【0051】
基材層の表面は、塗工層との接着性を良好とする観点から、コロナ放電処理等によって表面処理されていてもよいし、プライマー処理されていてもよい。
【0052】
((塗工層))
塗工層は、選挙投票用紙の印刷性、鉛筆筆記性、又は搬送性等を向上させる。
塗工層は、基材層の両面に塗工剤を塗工し、乾燥することによって形成することができる。塗工剤は、(a)水性樹脂バインダー、(b)無機粒子、及び(c)帯電防止機能を有する水溶性ポリマーを含有することが好ましく、さらに塗工剤は(d)着色剤を含有してもよい。
【0053】
<水性樹脂バインダー>
(a)水性樹脂バインダーは、有機バインダーとして(b)無機粒子又は(c)水溶性ポリマーを結着し、塗工層と基材層間の密着性を高める。本発明に使用し得る(a)水性樹脂バインダーは、基材層に用いた熱可塑性樹脂の種類及びその他の条件を考慮して任意に選択すればよい。例えば、メタクリル酸メチル-ブタジエン共重合体ゴムラテックス、ポリ塩化ビニリデン系エマルジョン、エチレン-酢酸ビニル-塩化ビニル共重合体エマルジョン、スチレン-ブタジエン共重合体ゴムラテックス、酢酸ビニル-アクリル酸エステル共重合体ラテックス、アクリル酸エステル-スチレン共重合体エマルジョン、エチレン-酢酸ビニル共重合体エマルジョン、アクリル系樹脂エマルジョン等を使用することができる。これらは1種を単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0054】
<無機粒子>
(b)無機粒子は、印刷性、鉛筆筆記性、白色度あるいは表面の平滑性の向上、着色、不透明感の付与、又はコスト低減の観点から、フィラー又は顔料として用いられる。
【0055】
(b)無機粒子としては、例えば炭酸カルシウム、サチンホワイト、シリカ、酸化チタン、アルミナ、亜鉛華、酸化鉄、クレイ及び硫酸アルミニウム等が挙げられるが、特に炭酸カルシウム等の充填材、又は酸化チタン、亜鉛華、酸化鉄等の顔料が好ましい。
【0056】
(b)無機粒子の平均粒子径は、通常0.1μm以上であり、15μm以下が好ましく、10μm以下がより好ましい。上記平均粒子径が15μm以下であると、選挙投票用紙の表面の平滑性が向上しやすい。
【0057】
塗工剤中の(b)無機粒子の含有量は、上記印刷性の向上等の観点から、(a)水性樹脂バインダー中の樹脂の固形分100質量部に対し、300質量部以上が好ましく、500質量部以上がより好ましい。紙粉を抑制する観点からは、塗工剤中の(b)無機粒子の含有量は、(a)水性樹脂バインダー中の樹脂の固形分100質量部に対し、2000質量部以下が好ましく、700質量部以下がより好ましい。
【0058】
<帯電防止機能を有する水溶性ポリマー>
(c)帯電防止機能を有する水溶性ポリマーとしては、例えばポリエチレンイミン、ポリ(エチレンイミン-尿素)、ポリアミンポリアミドのエチレンイミン付加物、窒素原子含有水溶性カチオン性ポリマー又は両性ポリマー等が挙げられる。窒素原子含有水溶性ポリマーは、窒素原子含有単量体を単独重合するか、これら単量体と他の共重合性単量体を共重合することにより得られる。含窒素単量体の具体例としては、下記含窒素単量体(C1)~(C9)が挙げられる。
【0059】
【化1】
【0060】
上記R1は水素又はメチル基を表す。R3及びR4は、それぞれ独立に低級アルキル基(炭素数1~4が好ましく、炭素数1~2がより好ましい。)を表す。R5は炭素数1~22の飽和あるいは不飽和アルキル基、又はベンジル基を表す。X-は4級化されたN+の対アニオン(例えばハライド、特にクロライド)を表す。Aは炭素数2~6のアルキレン基を表す。
【0061】
窒素原子含有水溶性ポリマーは、上記4級(両性化)窒素含有単量体(C2)、(C4)、(C4′)、(C6)、(C6′)、(C8)、(C8′)及び(C9)を単独重合して、又はこれら4級窒素含有単量体と他のビニル単量体とを共重合させることにより得られる。あるいは、上記窒素原子含有水溶性ポリマーは、上記3級窒素含有単量体(C1)、(C3)、(C5)及び(C7)を単独重合、又は他の単量体と共重合させてから、アルキルハライド、ジメチル硫酸、ベンジルハライドモノクロロ酢酸エステル等のカチオン化剤により4級化するか、又はモノクロル酢酸(塩)、プロパンサルトン、プロピオラクトン等の両性化剤により両性化することによって得ることができる。
【0062】
窒素原子含有水溶性ポリマーは水溶性であるが、塗膜の耐水性を高める観点から疎水性単量体が導入されて、水溶性の程度が調整されていてもよい。この場合、3級又は4級窒素含有重合体は、疎水性の単量体との共重合体であることが好ましい。疎水性単量体としては、スチレン、スチレンの核又は側鎖置換体(メチルスチレン等)、塩化ビニル、長鎖アルキル基等を有するアクリル酸エステル又はメタクリル酸エステル、ハロゲン化ビニル等が挙げられる。
【0063】
なかでも、(c)帯電防止機能を有する水溶性ポリマー(窒素原子含有水溶性ポリマー)は、下記単量体(Ca)~(Cc)を共重合させたアクリル系ポリマーであることが好ましい。
(Ca):含窒素単量体(C1)~(C6) 20~40質量%
(Cb):下記一般式(1)で表される単量体 40~80質量%
【化2】
〔式(1)中、R1は水素又はメチル基を表す。R2は炭素数1~18のアルキル基を表す。〕
(Cc):疎水性ビニル単量体 0~20質量%
【0064】
上記単量体(Cb)としては、例えばアクリル酸メチル、アクリル酸ブチル、アクリル酸プロピル、アクリル酸ステアリル、メタクリル酸メチル、メタクリル酸エチル等が挙げられる。
特に好適なアクリル系ポリマーは、単量体(Ca)が上記含窒素単量体(C6)であり、X-がCl-であるものである。これらアクリル系ポリマーの市販品としては、三菱ケミカル(株)のサフトマーST1000、又はST1100等が使用できる。
【0065】
塗工剤中の(c)帯電防止機能を有する水溶性ポリマーの含有量は、帯電防止性向上の観点から、(a)水性樹脂バインダー中の樹脂固形分100質量部に対し、0.1質量部以上が好ましい。表面のベタツキ抑制の観点から、塗工剤中の(c)帯電防止機能を有する水溶性ポリマーの含有量は、(a)水性樹脂バインダー中の樹脂固形分100質量部に対し、5質量部以下がより好ましい。
【0066】
<着色剤>
選挙投票用紙を着色する必要がある場合は、塗工層は(d)着色剤を含有してもよい。着色剤としては、市販の染料又は顔料を選択することが可能である。染料としてはその種類に制限はなく、例えば塩基性染料、酸性染料、直接染料、蛍光染料、分散染料、反応性染料等が用いられる。顔料もその種類に制限はなく、金属の酸化物又は硫化物を主成分とする無機顔料や、通常レーキと言われている溶解した染料に沈殿剤を加えて不溶性にした有機顔料等が広く使用できる。
【0067】
具体的な無機顔料としては、例えばチタンホワイト(二酸化チタン)、亜鉛華(酸化亜鉛)、炭酸カルシウム、カオリン、黒鉛(カーボンブラック)、群青(ウルトラマリンブルー)、紺青(プルシアンブルー)、青(ダイレクトブルー)、黄土(イエローオーカー)、黄鉛(クロムイエロー)、亜鉛黄(ジンクイエロー)、ニッケルチタンイエロー、ビスマスバナジウムイエロー、カドミウムイエロー、弁柄(酸化鉄)、鉛丹、辰砂(硫化水銀)、カドミウムレッド、沈降性硫酸バリウム、バライタ粉、マイカ、パールマイカ、アルミニウム粉等の金属粉、又はフレーク状の金属粉等が挙げられる。
有機顔料としては、レーキ顔料の他に、多環式系、フタロシアニン系、溶性アゾ系、不溶性アゾ系、ポリアゾ系、又は染付け系の顔料等が挙げられる。
【0068】
塗工層は、必要に応じて消泡剤、湿潤剤、凍結防止剤、防腐剤、粘度調整剤、反応促進・遅延剤、分散剤、可塑剤、又は有機着色剤等の添加剤を含有してもよい。塗工層は、プラスチックピグメントと呼ばれる有機フィラー類を含有してもよい。
【0069】
塗工剤は、流動性を有し塗工性を高める観点から、上記各成分を溶剤の相の中に溶解、分散、乳濁分散、又は希釈する従来公知の溶剤を含有することができる。溶剤としては、工程管理が容易になることから、水又は水に溶解するエタノールのような有機溶媒等の水系媒体が好ましい。塗工性又は乾燥性の向上の観点から、塗工剤は若干の有機溶媒等を用いることができる。
【0070】
<厚さ>
塗工層の厚さは、印刷性又は鉛筆筆記性等の観点から、0.05μm以上が好ましく、ベタツキ抑制の観点から、10μm以下が好ましく、8μm以下がより好ましく、5μm以下がさらに好ましい。
【0071】
<表面抵抗値>
塗工層の表面抵抗値は、1×1012Ω未満であることが好ましい。これにより、用紙同士のブロッキングの発生や、ほこり等の異物の付着を抑えやすい。上記表面抵抗値は、塗工剤の成分により調整することができる。
上記表面抵抗値は、JIS-K-6911:1995に準拠して測定される。
【0072】
<平滑度>
塗工層の表面の平滑度は、100~5000秒が好ましい。平滑度が100秒以上であると、投票用紙をめくる手作業が容易となり、平滑度が5000秒以下であるとブロッキングの発生が抑制されやすく、開票作業が効率化しやすい。また鉛筆筆記性も高まりやすい。
上記平滑度は、JIS-P-8119に準拠して測定されるベック指数である。
【0073】
(選挙投票用紙の製造方法)
本発明の選挙投票用紙の製造方法は特に限定されず、例えば基材層の二軸延伸多孔質フィルムを形成し、その上に塗工層を形成することにより製造することができる。
【0074】
<フィルムの成形>
フィルムの成形方法としては、例えばスクリュー型押出機に接続された単層又は多層のTダイ、Iダイ等により溶融樹脂をシート状に押し出すキャスト成形、カレンダー成形、圧延成形、インフレーション成形等の公知の方法が挙げられる。熱可塑性樹脂と有機溶媒又はオイルとの混合物を、キャスト成形又はカレンダー成形した後、溶媒又はオイルを除去することにより、フィルムを成形してもよい。
【0075】
多層構造のフィルムの成形方法としては、例えばフィードブロック又はマルチマニホールドにより1つのダイに導き、ダイ内で積層して押し出す共押出法、複数のダイを使用する押出しラミネーション方式等が挙げられ、各方法を組み合わせることもできる。
【0076】
<延伸>
延伸方法としては、一般的な二軸延伸方法が使用できる。具体例としてはスクリュー型押出機に接続されたTダイやIダイを使用して溶融樹脂をシート状に押し出し成形した後、該シートを、ロール群の周速差を利用した縦延伸とテンターオーブンを利用した横延伸とを組み合わせた逐次二軸延伸にて延伸する方法や、テンターオーブンとリニアモーターの組み合わせによる同時二軸延伸にて延伸する方法、該シートをカットしパンタグラフ型延伸装置を用いて同時二軸延伸する方法等が挙げられる。
【0077】
延伸温度は、使用する熱可塑性樹脂の融点より2~60℃低いことが好ましい。例えば、逐次二軸延伸の場合の縦方向(MD)の延伸温度は、シートがプロピレン単独重合体(融点155~167℃)を含む場合、例えば、120~160℃が好ましく、空孔率を高める観点からは、130~145℃が好ましい。一方、プロピレン単独重合体と多くの無機粒子を含むシートを高倍率で延伸する場合には、安定した延伸性の観点から、150~160℃であることが好ましい。また、逐次二次延伸の場合の横方向(TD)の延伸温度は、シートがプロピレン単独重合体を含む場合、150~164℃が好ましい。
延伸速度は、20~350m/分が好ましい。
【0078】
二軸延伸多孔質フィルムの面積延伸倍率は、1.2倍以上が好ましく、1.5倍以上が好ましく、2.0倍以上が好ましい。上記面積延伸倍率は、40倍以下が好ましく、20倍以下がより好ましく、10倍以下がさらに好ましい。面積延伸倍率は、縦方向(MD)の延伸倍率と横方向(TD)の延伸倍率との積である。面積延伸倍率が1.2倍以上であると折り癖がつきにくく、70倍以下であると無機粒子を多く含む状態で二軸延伸多孔質フィルムの成形性が高まりやすい。
【0079】
本発明において、二軸延伸多孔質フィルムの各延伸軸における延伸倍率は、ほぼ等しいことが好ましい。例えば二軸延伸多孔質フィルムの縦方向の延伸倍率を横方向の延伸倍率で除した値は、0.2以上が好ましく、0.4以上がより好ましく、0.5以上がさらに好ましい。当該比は、5以下が好ましく、3以下がより好ましく、2以下さらに好ましい。二軸延伸多孔質フィルムが縦方向、横方向ともほぼ等しい延伸履歴を有することで、用紙の目方向や折り方向によらず、優れた折り回復力が得られやすくなる。
【0080】
使用する熱可塑性樹脂がプロピレン系樹脂の場合、各軸における延伸倍率は、1.1倍以上が好ましく、1.2倍以上がより好ましく、1.5倍以上がさらに好ましい。また上記各軸における延伸倍率は、10倍以下が好ましく、5倍以下がより好ましく、3倍以下がさらに好ましい。各軸における延伸倍率が1.1倍以上であると、折り癖がつきにくい。また各軸における延伸倍率が10倍以下であると、無機粒子を多く含む状態で二軸延伸多孔質フィルムの成形性が高まりやすい。
【0081】
本発明において、二軸延伸多孔質フィルムの面積延伸倍率は、下記の分析方法によって求めることが可能である。
例えば、二軸延伸多孔質フィルムのカットサンプルを、フィルム中の熱可塑性樹脂の融点(例えば、DSC測定により求めた融点)より2~5℃低い温度に設定したオイルバス(例えば、シリコーンオイルバス)中に浸漬、静置して、延伸による配向がすべて緩和するように熱収縮させて延伸前の状態とし、縦及び横の各方向の熱収縮率より算出することができる。
また、二軸延伸多孔質フィルムがフィラーを含有し、延伸により内部に空孔を有するものである場合は、縦及び横の各方向の断面を電子顕微鏡で観察し、任意の空孔10点のアスペクト比(長径/短径)の平均値を求めて、縦及び横の各方向での平均値の積を面積延伸倍率としてもよい。
【0082】
フィルムが二軸延伸多孔質フィルムであるかどうか、またどの方向に延伸軸があるかを定性的に分析する方法としては、熱可塑性樹脂が結晶性ポリマーの場合、延伸により分子鎖の配向と同時に結晶化を伴うため、結晶部のX線回折を利用した解析方法を利用できる。例えばフィルムを小片に切り出し、X線の入射方向を変えながら数枚の回折パターン写真を撮影して、フィルム中の熱可塑性樹脂の結晶配向度を確認すればよい。
【0083】
<塗工>
塗工層の各成分を含む塗工液を調製し、これを二軸延伸多孔質フィルム上に塗工することにより、塗工層を形成する。
塗工法としては、コンマ方式、ロール方式、ロッド方式、カーテン方式、グラビア方式、ブレード方式、エアーナイフ方式、サイズプレス方式、ワイヤーバー方式、スライドホッパー方式、リバースグラビア方式等の一般的な塗工法が挙げられ、これらを適宜組み合わせてもよい。
【実施例0084】
以下、実施例をあげて本発明をさらに具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。なお、実施例中の「部」、「%」等の記載は、断りのない限り、質量基準の記載を意味する。
【0085】
表1は、実施例及び比較例に使用した樹脂組成物の材料の一覧を示す。
【表1】
【0086】
(延伸多孔質フィルムの製造)
<製造例1>
プロピレン単独重合体(日本ポリプロ社製、商品名:ノバテックPP MA3)40質量%、炭酸カルシウム(備北粉化工業社製、商品名:ソフトン1800)60質量%を混合し、樹脂組成物(A1)を調製した。
またプロピレン単独重合体(日本ポリプロ社製、商品名:ノバテックPP MA3)85質量%、高密度ポリエチレン(日本ポリエチレン社製、商品名:ノバテックHD HJ360)10質量%、及び炭酸カルシウム(備北粉化工業社製、商品名:ソフトン1800)5質量%を混合し、樹脂組成物(B1)を調製した。
【0087】
樹脂組成物(A1)及び(B1)を230℃に設定した個別の押出機において混練し、250℃に設定したフィードブロック式多層ダイスに供給した。ダイス内で樹脂組成物(B1)/樹脂組成物(A1)/樹脂組成物(B1)の順に積層し、これらをシート状に押し出し、冷却装置により冷却して3層構造の無延伸シートを得た。この無延伸シートを135℃ に加熱して縦方向(MD)に2倍延伸し、2倍延伸フィルムを得た。
【0088】
上記2倍延伸フィルムを60℃まで冷却し、テンターオーブンを用いて再び約145℃に加熱し、横方向(TD)に2倍延伸した。次いで、160℃に調整したオーブンによりアニーリング処理を行い、60℃まで冷却した後、耳部をスリットして、二軸延伸多孔質フィルムを得た。製造例1の二軸延伸多孔質フィルムは、樹脂組成物(A1)からなるコア層の両面に樹脂組成物(B1)からなる表面層が積層された3層構造(組成:B1/A1/B1、各層厚:3μm/94μm/3μm、延伸軸数:2軸/2軸/2軸、空孔率:1.96%/6.84%/1.96%)を有し、総厚が100μmであった。
【0089】
<製造例2~5>
樹脂組成物(A1)の組成を表1に示すように変更し、各樹脂組成物(A2)~(A5)を調製した。
樹脂組成物(A1)を各樹脂組成物(A2)~(A4)に変更してコア層を形成した以外は、製造例1と同様にして製造例2~4の各二軸延伸多孔質フィルムを得た。
樹脂組成物(A1)を樹脂組成物(A5)に変更してコア層を形成し、縦方向の延伸倍率を5倍、横方向の延伸倍率を8倍に変更した以外は、製造例1と同様にして製造例5の二軸延伸多孔質フィルムを得た。
【0090】
<製造例6>
縦方向の延伸倍率を5倍、横方向の延伸倍率を8倍に変更し、縦方向の延伸時の温度を155℃に変更した以外は、製造例1と同様にして製造例6の二軸延伸多孔質フィルムを得た。
【0091】
<製造例7及び8>
樹脂組成物(B1)の組成を表1に示すように変更し、各樹脂組成物(B2)及び(B3)を調製した。
樹脂組成物(B1)を各樹脂組成物(B2)及び(B3)に変更して表面層を形成した以外は、製造例1と同様にして製造例7及び8の各二軸延伸多孔質フィルムを得た。
【0092】
<製造例9>
樹脂組成物(A1)を230℃に設定した押出機において混練し、250℃に設定したダイスからシート状に押し出した。これを冷却装置により冷却し、単層構造の無延伸シートを得た。この無延伸シートを135℃に加熱して縦方向に2倍延伸し、2倍延伸フィルムを得た。
一方で、樹脂組成物(B1)を230℃に設定した別の押出機において混錬した。これを250℃に設定したダイスからシート状に押し出して、上記2倍延伸フィルムの両面にそれぞれ積層し、3層構造の積層フィルムを得た。
【0093】
上記積層フィルムを60℃まで冷却し、テンターオーブンを用いて再び約145℃に加熱し、横方向に2倍延伸した。次いで、160℃に調整したオーブンによりアニーリング処理を行い、60℃まで冷却した後、耳部をスリットして、延伸多孔質フィルムを得た。製造例9の延伸多孔質フィルムは、樹脂組成物(A1)からなるコア層の両面に樹脂組成物(B1)からなる表面層が積層された3層構造(組成:B1/A1/B1、各層厚:3μm/94μm/3μm、延伸軸数:1軸/2軸/1軸、空孔率:0.98%/6.84%/0.98%)を有し、総厚が100μmであった。
【0094】
<製造例10>
樹脂組成物(A1)を230℃に設定した押出機において混練し、250℃に設定したダイスからシート状に押し出した。これを冷却装置により冷却し、単層構造の無延伸シートを得た。この無延伸シートを135℃に加熱して縦方向に2倍延伸し、2倍延伸フィルムを得た。この2倍延伸フィルムを60℃まで冷却し、テンターオーブンを用いて再び約145℃に加熱し、横方向に2倍延伸した。次いで、160℃に調整したオーブンによりアニーリング処理を行い、60℃まで冷却した後、耳部をスリットして、二軸延伸多孔質フィルムを得た。製造例9の二軸延伸多孔質フィルムは、樹脂組成物(A1)からなる単層構造(延伸軸数:2軸、空孔率:6.84%)を有し、総厚が100μmであった。
【0095】
表2は、各製造例の延伸多孔質フィルムを示す。
【表2】
【0096】
(塗工剤の調製)
表3は、塗工剤の材料を示す。
【表3】
【0097】
<塗工剤(C1)>
SBRラテックス(固形分50%)(JSR社製、商品名:0695)32質量部、アクリル酸エステル系樹脂ラテックス(固形分50%)(JSR社製、商品名:AE950)11質量部、炭酸カルシウム(平均粒子径:1.5μm)(備北粉化工業社製、商品名:ソフトン1500)100質量部、及び水溶性アクリル系樹脂(固形分4%)(三菱ケミカル社製、商品名:ST-1100)12質量部を混合し、塗工剤(C1)を調製した。
【0098】
<塗工剤(C2)>
SBRラテックス及びアクリル酸エステル系樹脂ラテックスの配合比を表3に示すように変更した以外は、塗工剤(C1)と同様にして塗工剤(C2)を調製した。
【0099】
<塗工剤(C3)及び(C4)>
塗工剤(C1)及び(C2)に、ダイレクトブルー53(和光純薬工業社製、試薬)1質量部をそれぞれ加えて、各塗工剤(C3)及び(C4)を調製した。
【0100】
(選挙投票用紙の製造)
<実施例1>
上記製造例1の延伸多孔質フィルムの表面に塗工剤(C1)を、裏面に塗工剤(C2)を塗工し、100℃で乾燥させて各塗工層を形成した。塗工にはバーコーターを用いた。これにより、表面の塗工層の厚さが8μm、裏面の塗工層の厚さが6μmの白色の塗工紙を得た。
上記塗工紙の表面の塗工層上に被選挙人の記入欄、注意事項及び選挙管理委員会名等を印刷し、選挙投票用紙を製造した。
【0101】
<実施例2~9及び比較例1>
使用する延伸多孔質フィルムを表4に示すように変更した以外は、実施例1と同様にして実施例2~9及び比較例1の選挙投票用紙を製造した。
【0102】
<実施例10>
表面に塗工剤(C3)、裏面に塗工剤(C4)を用いて各塗工層を形成した以外は実施例1と同様にして、水色(アサギ色)の塗工紙を得た。当該塗工紙を用いて実施例1と同様にして実施例10の選挙投票用紙を製造した。
【0103】
(測定)
各選挙投票用紙の物性を次のように測定した。
【0104】
<空孔率>
延伸多孔質フィルムの任意の一部を切り取り、エポキシ樹脂で包埋して固化させた後、ミクロトームを用いてフィルムの面方向に垂直に切断し、その切断面が観察面となるように観察試料台に貼り付けた。観察面に金又は金-パラジウム等を蒸着し、電子顕微鏡にて観察しやすい任意の倍率(例えば、500倍~3000倍の拡大倍率)で空孔を観察し、観察した領域を画像データとして取り込んだ。この画像データを画像解析装置にて画像処理し、各層の空孔部分の面積率(%)を求めた。任意の10箇所以上の観察における面積率の平均値を空孔率(%)とした。
【0105】
<厚さ>
延伸多孔質フィルムの総厚さ(μm)は、JIS-P-8118:1998に準拠して測定した。各層の厚さは、延伸多孔質フィルム又は塗工紙の断面を電子顕微鏡で観察して各層の厚さの比率を求め、上記総厚さに各層の厚さの比率を乗算することにより算出した。
【0106】
<平滑度>
選挙投票用紙の表面及び裏面の平滑度(ベック平滑度)(秒)を、JIS-P-8119:1998に記載の方法に基づき、測定した。
【0107】
<表面抵抗値>
選挙投票用紙の表面及び裏面の表面抵抗値を、JIS-K-6911:1995に記載の方法に基づき、温度23℃、相対湿度50%の条件下で測定した。測定には、絶縁計(東亜電波工業(株)製、商品名:DSM-8103)を用いた。
【0108】
<不透明度>
JIS-P-8149:2000に記載の方法に準拠し、標準黒色板を裏当てして測定した視感反射率を、標準白色板を裏当てして測定した固有視感反射率にて除した値を不透明度とし、百分率で算出した。不透明度を下記基準に従って評価した。
A:不透明度が95%以上である
B:不透明度が92%以上95%未満である
C:不透明度が90%以上92%未満である
D:不透明度が90%未満である
【0109】
(評価)
各選挙投票用紙について下記評価を行った。
【0110】
<鉛筆筆記性>
東洋精機(株)社製の鉛筆硬度計(スクラッチテスター)を用いて、得られた熱可塑性樹脂フィルムに垂直になるようにセットされた硬度HBの鉛筆に、200gの荷重を加えて、5mm/秒の速度で線分を描いた。この線分を目視観察して次のように判定した。
優:はっきりと読みとれる、良好なレベル
良:線の欠けがほとんどない、概ね良好なレベル
可:線が一部欠けるものの、実用できるレベル
不可:線がほとんど筆記されていない、実用不可のレベル
【0111】
<折り回復時間>
選挙投票用紙の折り回復時間(秒)を、評価機として石川島産業機械社製印刷適性試験機;RI-1型印刷機を使用して次のように測定した。
選挙投票用紙を10cm×10cmのサイズに切断し、サンプルを作製した。このサンプルを折り目がつかないように湾曲させて、対抗する二辺を合わせてループ形状(横から見てドロップ形状)を形成し、合わせた部分を紙咥え部に差し込んだ。
【0112】
次いで、印刷速度20rpm、ニップクリアランス1mmに設定した評価機にて、空印刷を行った。折り曲がって、用紙の一端が折線を中心として180°回転したサンプルを、印刷直後に分度器があらかじめセットされた実験台の上に速やかに置き、用紙の一端と重なる他端を押さえて一端を開放した。サンプルが折り曲げられた状態から回復して、用紙の一端の回転角度が120°に戻った時間(秒)を測定した。この測定を、折線を縦方向の折線と横方向の折線とでそれぞれ行い、平均値を折り回復時間(秒)とした。
【0113】
<環境貢献度>
延伸多孔質フィルム中の樹脂量により下記基準により、環境貢献度を評価した。
優:樹脂量が50質量%未満
良:樹脂量が50質量%以上55質量%未満
可:樹脂量が55質量%以上60質量%以下
不可:樹脂量が60質量%以上
【0114】
表4は、測定結果及び評価結果を示す。
【表4】
【0115】
表4に示すように、基材層が50~80質量%の無機粒子を含有する二軸延伸多孔質フィルムからなる実施例1~10は、いずれも折り回復時間が15秒以内であり、不透明度も90%以上である。また実施例1~10は、優れた折り回復力が得られているだけでなく、環境貢献度も優れている。
【0116】
一方、無機粒子の含有量が50質量%未満の比較例1は、折り回復時間が短いものの、環境貢献度が十分でなく、環境負荷の低減ができていない。90%以上の不透明度も得られていない。
【符号の説明】
【0117】
10 選挙投票用紙
1 基材層
2 塗工層

図1