(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023146912
(43)【公開日】2023-10-12
(54)【発明の名称】杭圧入機及び圧力制御方法
(51)【国際特許分類】
E02D 7/20 20060101AFI20231004BHJP
E02D 13/00 20060101ALI20231004BHJP
【FI】
E02D7/20
E02D13/00 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022054348
(22)【出願日】2022-03-29
(71)【出願人】
【識別番号】000141521
【氏名又は名称】株式会社技研製作所
(74)【代理人】
【識別番号】100101557
【弁理士】
【氏名又は名称】萩原 康司
(74)【代理人】
【識別番号】100096389
【弁理士】
【氏名又は名称】金本 哲男
(74)【代理人】
【識別番号】100167634
【弁理士】
【氏名又は名称】扇田 尚紀
(74)【代理人】
【識別番号】100187849
【弁理士】
【氏名又は名称】齊藤 隆史
(74)【代理人】
【識別番号】100212059
【弁理士】
【氏名又は名称】三根 卓也
(72)【発明者】
【氏名】真田 智之
(72)【発明者】
【氏名】山脇 正浩
(72)【発明者】
【氏名】藤田 知也
【テーマコード(参考)】
2D050
【Fターム(参考)】
2D050AA06
2D050AA11
2D050CB22
2D050EE04
(57)【要約】
【課題】装置の小型化や軽量化と併せて、精度良く把持機構における油圧の圧力検知を行い、把持機構を安定的に作動させることが可能な杭圧入機を提供する。
【解決手段】杭を地盤に圧入する杭圧入機であって、複数のシリンダを有する把持機構を備え、前記把持機構に油圧を供給する圧力制御回路と、前記圧力制御回路内の油圧の圧力を検知する圧力検知機構と、前記圧力制御回路から分岐して前記複数のシリンダに油圧を供給する複数の分岐回路と、を有し、前記複数の分岐回路の一部では圧力保持を行い、残りの分岐回路では前記把持機構を前記シリンダへの油圧の供給に伴う圧力を当該把持機構の弾性変形によって蓄圧する蓄圧機構として用い、前記シリンダへ供給された油圧の一部を前記圧力制御回路に還流させるように構成される。
【選択図】
図4
【特許請求の範囲】
【請求項1】
杭を地盤に圧入する杭圧入機であって、
複数のシリンダを有する把持機構を備え、
前記把持機構に油圧を供給する圧力制御回路と、
前記圧力制御回路内の油圧の圧力を検知する圧力検知機構と、
前記圧力制御回路から分岐して前記複数のシリンダに油圧を供給する複数の分岐回路と、を有し、
前記複数の分岐回路の一部では圧力保持を行い、
残りの分岐回路では前記把持機構を前記シリンダへの油圧の供給に伴う圧力を当該把持機構の弾性変形によって蓄圧する蓄圧機構として用い、
前記シリンダへ供給された油圧の一部を前記圧力制御回路に還流させるように構成されることを特徴とする、杭圧入機。
【請求項2】
前記蓄圧機構は、前記把持機構の末端側に位置するシリンダを含むように構成されることを特徴とする、請求項1に記載の杭圧入機。
【請求項3】
前記複数の分岐回路において、
圧力保持が行われる分岐回路には圧力保持弁が設けられ、
蓄圧機構として用いられる分岐回路には圧力保持弁が設けられていないことを特徴とする、請求項1又は2に記載の杭圧入機。
【請求項4】
前記複数の分岐回路において、
圧力保持が行われる分岐回路では圧力保持弁により圧力保持が行われ、
蓄圧機構として用いられる分岐回路では圧力保持弁による圧力保持が行われないことを特徴とする、請求項1又は2に記載の杭圧入機。
【請求項5】
前記把持機構は、既設杭を把持する複数のクランプであり、
複数の前記クランプに接続される分岐回路の少なくとも1以上の分岐回路には、前記圧力保持弁が設けられていないことを特徴とする、請求項1~3のいずれか一項に記載の杭圧入機。
【請求項6】
複数の前記クランプは、前記杭圧入機の前方から順に設けられる第1クランプ、第2クランプ、第3クランプ、及び第4クランプであり、
前記第3クランプ及び/又は前記第4クランプのシリンダに接続される分岐回路の少なくとも一部には、前記圧力保持弁が設けられていないことを特徴とする、請求項5に記載の杭圧入機。
【請求項7】
前記複数のクランプはそれぞれ2つのシリンダを有し、
前記分岐回路は、2つの前記シリンダに対し一括して接続されることを特徴とする、請求項5又は6に記載の杭圧入機。
【請求項8】
前記複数のクランプはそれぞれ2つのシリンダを有し、
前記分岐回路は、2つの前記シリンダに対しそれぞれ接続されることを特徴とする、請求項5又は6に記載の杭圧入機。
【請求項9】
複数のシリンダを有する把持機構に油圧を供給する圧力制御回路における圧力制御方法であって、
前記圧力制御回路は、当該圧力制御回路から分岐して前記複数のシリンダに油圧を供給する複数の分岐回路を有し、
前記複数の分岐回路の一部において圧力保持を行い、残りの分岐回路において前記把持機構を前記シリンダへの油圧の供給に伴う圧力を蓄圧する蓄圧機構として用い、圧力保持を行わないことを特徴とする、圧力制御方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、杭を地盤に圧入する杭圧入機及び圧力制御方法に関する。
【背景技術】
【0002】
各種の鋼管杭や形鋼などの杭を地盤に打ち込んで埋設する方法として、予め地盤に埋め込まれた既設杭の上端をクランプで掴んで反力を取り、杭を把持したチャックを昇降させることにより、既設杭に隣接する位置に新しい杭を順次圧入していく施工技術が知られている。
【0003】
かかる施工に用いられる杭圧入機は、複数のクランプを介して既設杭に固定されるサドルと、サドルに対して前後方向に移動可能なスライドフレームを有しており、スライドフレームにはリーダーマストとチャックフレームを介してチャックが取り付けられている。また、チャックには、圧入する杭を把持するチャック機構が設けられている。そして、圧入する杭をチャック機構で把持し、サドルに対してチャックを所定の位置に位置決めして、リーダーマストに沿ってチャックフレームとチャックを一体的に昇降させて杭を地盤に圧入するようになっている。
【0004】
ところで、既設杭を把持するクランプや杭を把持するチャック等の把持機構は、把持力を油圧により発生させており、その油圧制御として、転倒等の危険を無くした安全なものが求められる。例えば、特許文献1には、杭上作業装置のクランプ機構が開示され、クランプ機構において、把持爪に流体圧シリンダ(油圧シリンダ)を内蔵させ、流体圧回路(油圧回路)からの油圧によりシリンダを作動させ把持力を発生させる構成が記載されている。
【0005】
また、例えば、特許文献2には、アキュムレータを油圧回路に接続させた構成により、既設杭上で杭上移動装置を走行させた際にもサイドローラを杭幅の変化に追従させて把持を行う技術が開示されている。また、例えば、特許文献3には、移動式クレーン等の作業機械において、作業装置を駆動させるためのアクチュエータへの作動油の供給を行う作動油回路内にカウンタウエイトを配することで、他のアクチュエータの駆動にアキュムレータを必要としない技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】実公平6-19639号公報
【特許文献2】特開平6-306863号公報
【特許文献3】特開2017-77966号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
例えば、特許文献1に開示されたような、杭圧入機のクランプやチャック等のシリンダを有する把持機構は、油圧出力ユニットから供給された油により、油圧回路を経由してシリンダに油圧を発生させ、その圧力を保持し把持力を継続させている。油圧回路における圧力は、通常、回路内に配置された圧力センサによって検知され、圧力低下が検知された際には表示装置にその旨が通知される。
【0008】
ところで、油圧により作動する把持機構において、時間経過や温度変化に伴う圧力損失は避けられないのが実情である。特に、杭圧入機を寒冷地で使用する場合には、油圧回路内の油(作動油)の体積が収縮し、圧力の低下が懸念される。そこで、例えば、特許文献2ではアキュムレータ(蓄圧機)を用い、また、特許文献3では、カウンタウエイトを配し、油圧回路内の圧力制御を効率的に行っている。
【0009】
しかしながら、アキュムレータやカウンタウエイトといった装置は一般的に大型かつ重量物であり、杭圧入機の小型化や軽量化の障害となる。即ち、杭圧入機の把持機構において、装置の小型化や軽量化と併せて油圧回路内の圧力低下を抑え、圧力保持を効率的に行うことが可能な技術が求められている。
【0010】
また、圧力センサが油圧回路内に配置される場合、把持機構のシリンダ毎にセンサが無いため、圧力センサによるシリンダの圧力検知が精度良く行われず、把持機構での正確な圧力が検知できないことがある。例えば、寒冷地においては、油圧回路を構成するホースの表面積が大きいため周囲温度の影響を受けやすく、油の体積収縮に伴う圧力センサでの圧力低下速度に関する検知が発生しやすい。一方で、把持機構のシリンダは表面積が小さく周囲温度による油温低下が少ないため、同じ環境下であっても、把持機構での圧力低下速度は小さいことがある。このような、圧力センサにおける圧力低下速度に関する検知と、把持機構での実際の圧力低下速度に差異が生じるといった検知精度の低下が問題となる。
【0011】
上記事情に鑑み、本発明の目的は、装置の小型化や軽量化と併せて、精度良く把持機構における油圧の圧力検知を行い、把持機構を安定的に作動させることが可能な杭圧入機及び圧力制御方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
前記の目的を達成するため、本発明によれば、杭を地盤に圧入する杭圧入機であって、複数のシリンダを有する把持機構を備え、前記把持機構に油圧を供給する圧力制御回路と、前記圧力制御回路内の油圧の圧力を検知する圧力検知機構と、前記圧力制御回路から分岐して前記複数のシリンダに油圧を供給する複数の分岐回路と、を有し、前記複数の分岐回路の一部では圧力保持を行い、残りの分岐回路では前記把持機構を前記シリンダへの油圧の供給に伴う圧力を当該把持機構の弾性変形によって蓄圧する蓄圧機構として用い、前記シリンダへ供給された油圧の一部を前記圧力制御回路に還流させるように構成されることを特徴とする、杭圧入機が提供される。
【0013】
前記蓄圧機構は、前記把持機構の末端側に位置するシリンダを含むように構成されても良い。
【0014】
前記複数の分岐回路において、圧力保持が行われる分岐回路には圧力保持弁が設けられ、蓄圧機構として用いられる分岐回路には圧力保持弁が設けられていなくても良い。
【0015】
前記複数の分岐回路において、圧力保持が行われる分岐回路では圧力保持弁により圧力保持が行われ、蓄圧機構として用いられる分岐回路では圧力保持弁による圧力保持が行われなくても良い。
【0016】
前記把持機構は、既設杭を把持する複数のクランプであり、複数の前記クランプに接続される分岐回路の少なくとも1以上の分岐回路には、前記圧力保持弁が設けられていなくても良い。
【0017】
複数の前記クランプは、前記杭圧入機の前方から順に設けられる第1クランプ、第2クランプ、第3クランプ、及び第4クランプであり、前記第3クランプ及び/又は前記第4クランプのシリンダに接続される分岐回路の少なくとも一部には、前記圧力保持弁が設けられていなくても良い。
【0018】
前記複数のクランプはそれぞれ2つのシリンダを有し、前記分岐回路は、2つの前記シリンダに対し一括して接続されても良い。
【0019】
前記複数のクランプはそれぞれ2つのシリンダを有し、前記分岐回路は、2つの前記シリンダに対しそれぞれ接続されても良い。
【0020】
また、別の観点からの本発明によれば、複数のシリンダを有する把持機構に油圧を供給する圧力制御回路における圧力制御方法であって、前記圧力制御回路は、当該圧力制御回路から分岐して前記複数のシリンダに油圧を供給する複数の分岐回路を有し、前記複数の分岐回路の一部において圧力保持を行い、残りの分岐回路において前記把持機構を前記シリンダへの油圧の供給に伴う圧力を蓄圧する蓄圧機構として用い、圧力保持を行わないことを特徴とする、圧力制御方法が提供される。
【発明の効果】
【0021】
本発明によれば、装置の小型化や軽量化と併せて、精度良く把持機構における油圧の圧力検知を行い、把持機構を安定的に作動させることが可能な杭圧入機及び圧力制御方法が提供される。具体的には、把持機構が弾性変形することで発生する蓄圧効果を利用し、圧力制御回路の圧力低下速度を抑制することで油圧の圧力検知を精度良く行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【
図1】本発明の実施形態に係る杭圧入機の概略説明図であり、(a)は側面図、(b)は背面図、(c)は上方から見た平面図、(d)はクランプおよびチャックと杭との関係を示す平面図である
【
図2】杭圧入機のクランプに係る油圧配管の例を示す概略図である。
【
図3】従来のクランプにおける油圧回路の概略説明図である。
【
図4】本発明の実施形態に係る油圧回路の概略説明図である。
【
図5】クランプの弾性変形についての概略説明図である。
【
図6】本発明の他実施形態に係る油圧回路の概略説明図であ
【
図7】本発明の実施例に係る圧力変化に関するグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、本発明の実施形態について図面を参照して説明する。本明細書および図面において、実質的に同一の機能構成を有する構成要素については、同一の符号を付することにより重複説明を省略する。なお、圧入対象の杭としては、鋼管杭、鋼矢板(U形、ハット形等)、コンクリート杭、各種形鋼等が考えられるが、本実施形態では鋼矢板であるものとして説明する。
【0024】
<杭圧入機の構成>
図1は本発明の実施形態に係る杭圧入機1の概略説明図であり、(a)は側面図、(b)は背面図、(c)は上方から見た平面図、(d)はクランプおよびチャックと杭との関係を示す平面図である。
図1に示すように、杭圧入機1は、反力ブロック2、プラットフォーム3、圧入ブロック4を組み合わせることにより構成される。
【0025】
反力ブロック2は、複数のクランプ11と、これらのクランプ11を装着したサドル12とを有している。本実施形態では、サドル12の前後方向に4つのクランプ11が装着される。ここでは、前方から順に第1クランプ11a、第2クランプ11b、第3クランプ11c、第4クランプ11dとし、これらをまとめてクランプ11と記載する場合がある。クランプ11は、油圧により、先に地盤に埋め込まれた既設杭9の上端を掴んでサドル12を固定し、圧入の反力を取る機能を有している。クランプ11には複数の油圧シリンダ16が備えられ、その一部又は全部には、後述する油圧回路を構成する油圧ホース等を介して作動油(以下、単に油とも記載)が送油され、その動作が制御される。油圧シリンダ16は、例えばクランプ開閉に係るシリンダ16aと、クランプ左右動に係るシリンダ16bと、を含む。なお、クランプ11の把持対象は既設杭9に限定されず、例えば反力を取るための反力架台等であっても良い。
【0026】
本実施形態では、複数のクランプ11のうち、最も圧入ブロック4に近い位置の第1クランプ11aは、サドル12よりも圧入ブロック4側に突出するように偏芯して設けられ、他のクランプ11b~11dは、曲がっているものに比べて強度のバランスが良く軽量化が図れるように、上下方向に一直線の形状となっている。各クランプ11の位置関係は、サドル12の下面において左右に移動可能となっている。なお、
図1に示す複数のクランプ11の形状や配置構成は一例であり、本発明におけるクランプ11は図示の形態に限定されるものではない。
【0027】
本明細書において、前方とは、杭圧入機1によって圧入施工を進行していく方向であり、
図1(a)、(c)、(d)では紙面右側が前方であり、紙面左側が後方である。左右方向は、圧入施工の進行方向を上から見た状態で定められ、
図1(c)、(d)では、紙面下側が右側方であり、紙面上側が左側方である。
【0028】
サドル12の左右両側の上部には、前方側の先端から後方に向けて延びる例えば溝状のスライドガイド13が設けられている。また、サドル12の幅方向中央の後方側の端部には、後述するプラットフォーム3に一端が固定された前後シリンダ23の他端が固定される固定部としてのブラケット14が設けられている。
【0029】
プラットフォーム3は、サドル12の上面に取り付けられるスライドフレーム21と、リーダーマスト22を有している。スライドフレーム21は、サドル12の上面に設置され、スライドガイド13に沿って摺動する。また、スライドフレーム21には、前後シリンダ23の一端が固定されている。前後シリンダ23の他端に形成された孔25をピンやチューブ等で止めることにより、前後シリンダ23を介して反力ブロック2とプラットフォーム3とが連結される。
【0030】
リーダーマスト22の前方側には、圧入ブロック4の摺動部36をはめ込む例えば溝状のスライドガイド26が設けられ、さらにリーダーマスト22の前方下部の左右両側に、圧入ブロック4を取り付けるためのブラケット27が設けられている。
【0031】
圧入ブロック4は、新たに打設する(あるいは引き抜く)杭10を掴むチャック31と、チャック31を支持するチャックフレーム32と、チャックフレーム32をプラットフォーム3に対して昇降させる昇降シリンダ33を有している。チャック31には、杭10を上下方向に挿通させる開口部34と、この開口部34に通された杭10を把持するチャック機構35が設けられている。
図1(c)に示す実施形態では、チャック機構35は、杭10を挟む一対の爪で構成されている。
【0032】
チャックフレーム32の後方側は、プラットフォーム3のスライドガイド26にはめ込まれた状態でスライドガイド26に沿って摺動する摺動部36を有しているとともに、プラットフォーム3のブラケット27に先端28が固定される一対の昇降シリンダ33を有している。
【0033】
<杭圧入機の油圧配管の一例>
図1を参照して説明したように構成される杭圧入機1において、クランプ11の動作は油圧により制御される。
図2は杭圧入機1のクランプに係る油圧配管の例を示す概略図である。
【0034】
図2に示すように、杭圧入機1の外部に設けられた油圧ユニット5に接続された送油配管41および戻り油配管42は、リーダーマスト22内に装備された制御マニホールド43に接続される。そして、油圧ユニット5から送油された油は、切替バルブ44によって、クランプ11側へ送油され、例えばクランプ11の開閉を制御する。
【0035】
各クランプ11への配管は、例えば
図2に示すように、クランプ開閉用、左右動用、前後動用の各油圧ホース45、46、47が、各々制御マニホールド43に接続され、分流マニホールド48、49から油圧ホースを介して、4つのクランプ11a~11dそれぞれの動作を位置決めする油圧シリンダ16へ接続される。例えば、油圧ホース45は、クランプ11の開閉を制御する油圧シリンダ16aに接続され、油圧ホース46は、クランプ11の左右動を制御する油圧シリンダ16bに接続される。接続にはカプラ等の接続治具が用いられても良い。
【0036】
なお、
図2は、鋼矢板用の配管の例であり、クランプ11の前後の調整は必要ないため、前後動用の油圧ホース47の先端は閉じられており、本実施形態ではクランプ11は前後動しないが、鋼管杭等のように前後方向の位置調整が必要な場合には、同様に接続される。また、
図2において、クランプ11の開閉、左右動を位置決めする油圧ホースの配管はそれぞれ2本ずつであるが、1本として図示している。なお、
図2に示すプラットフォーム3は、クランプ11の開閉、左右動および前後動のための油圧ホース45、46、47が備えられているが、クランプ11の前後動が不要な杭専用のプラットフォームとする場合、前後動用の油圧ホース47は無くてもよい。
【0037】
<クランプにおける従来の油圧回路>
本発明者らは、
図2を参照して上述した油圧配管のうち、特に複数のクランプ11(第1クランプ11a~第4クランプ11d)の開閉を行う油圧回路に関し、従来の回路構成では把持力を安定的に維持するのに問題があることに着目した。以下、その問題点について油圧回路図を参照して説明する。なお、
図1及び
図2では、複数のクランプ11が有する複数のシリンダを一括して「油圧シリンダ16(16a、16b)」として図示したが、以下では、個々のクランプ11a~11dが有する開閉用のシリンダに別符号を付して説明する場合がある。
【0038】
図3は、従来のクランプにおける油圧回路S1の概略説明図であり、図中の矢印は油の流れを示している。
図3に示すように、油圧ユニット5に接続された送油配管41は、制御マニホールド43(
図3では図示せず)及び切替バルブ44に接続される。クランプ11側には、送油を行うことでクランプ11に油圧を供給し、開閉に関する圧力制御を行う圧力制御回路60が設けられる。圧力制御回路60には、当該圧力制御回路60内の油圧の圧力を検知する圧力検知機構としての圧力センサC1が設けられる。
【0039】
複数のクランプ11(第1クランプ11a~第4クランプ11d)はそれぞれ2つの開閉用シリンダ(以下、単にシリンダとも記載)を有している。図示のように、第1クランプ11aはシリンダ70a、70bを有し、第2クランプ11bはシリンダ72a、72bを有し、第3クランプ11cはシリンダ74a、74bを有し、第4クランプ11dはシリンダ76a、76bを有している。
【0040】
圧力制御回路60には、当該圧力制御回路60の下流側(クランプ側)において分岐し、各クランプ11a~11dが有する複数のシリンダに油圧を供給する複数の分岐回路が設けられる。分岐回路の数は任意であり、例えば、
図3の構成では、第1クランプ11a~第4クランプ11d毎にそれぞれのクランプが有するシリンダに対し一括して油圧を供給する4つの分岐回路80a~80dが設けられる。
【0041】
圧力制御回路60には、その上流側(例えば、リーダーマスト22内の切替バルブ44近傍)に圧力保持弁V1と圧力センサC1が設けられる。そして、複数の分岐回路80a~80dには、上記圧力保持弁V1とは異なる圧力保持弁V2a、V2b、V2c、V2dがそれぞれ設けられる。
【0042】
油圧回路S1には、各クランプ11a~11dが有する複数のシリンダからの戻り油を上流側に流し、戻り油配管42を介し油圧ユニット5に戻すための戻り回路90が設けられる。
【0043】
図3に示した油圧回路S1においては、圧力制御回路60及び分岐回路80a~80dによって各クランプ11a~11dが有する複数のシリンダに油圧を供給し、クランプ閉塞が行われる。クランプ閉塞した状態で圧力センサC1に基づき所定の圧力まで油圧供給を行った後、油圧の供給を停止した場合でも、圧力保持弁V1及びV2a~V2dの機能(油圧保持機能)により供給された油圧が保持され、クランプ閉塞状態が維持される。即ち、このような構成により把持機構としてのクランプ11の把持力を保持している。圧力制御回路60に設けられた圧力センサC1によって圧力制御回路60内の圧力を測定し、例えば把持力が保持された状態や、圧力が低下している状態等の複数の状態を検知している。また、圧力センサC1では、圧力制御回路60内の圧力の変動についても検知を行い、例えば、圧力低下速度等の検知も行われる。
【0044】
また、切替バルブ44を切替え、戻り回路90から圧力保持弁V1や圧力保持弁V2a~V2dに油圧を供給することで、圧力保持機能が開放され、圧力制御回路60を介して戻り油を油圧ユニット5に戻す状態とすることでクランプ開放が行われる。
【0045】
以上説明したように構成される油圧回路S1においては、圧力保持弁V1及び圧力保持弁V2a~V2dで油圧を保持させることで、クランプ11の把持力を保持している。しかしながら、例えば寒冷地等において周囲温度が急激に低下した際に、圧力制御回路60を構成するホースは油量に対し表面積が大きく、ホース内の油温低下により油の体積収縮に伴う圧力センサC1での圧力低下速度に関する検知が発生しやすい。一方で、クランプ11が有するシリンダやその周辺回路(例えば分岐回路80a~80dの一部)は油量に対し表面積が小さく、内部の油温が周囲温度の影響を受けにくいため、圧力低下は限定的である。
【0046】
換言すると、油圧回路S1では、寒冷地等において周囲温度が急激に低下した場合に、各クランプのシリンダ70a、70b、シリンダ72a、72b、シリンダ74a、74b、シリンダ76a、76bと、圧力保持弁V2a~V2dと、の間で油圧を保持した状態では、クランプ11が有するシリンダでは圧力低下が発生しておらず、十分な把持力が保持されている。それにも関わらず、圧力制御回路60を構成するホース内の油の体積収縮により、圧力保持弁V1が正常に機能していても、圧力センサC1で圧力低下速度が顕著であるとの検知がなされてしまうといった問題点がある。
【0047】
<本発明の実施形態に係る油圧回路>
上述した従来の油圧回路S1における問題点に鑑み、本発明者らは以下に説明する構成の油圧回路S2により、上記のような問題点が解消されることを見出した。以下、本発明の実施形態に係る油圧回路S2について
図4を参照して説明する。なお、従来の油圧回路S1と同一の機能構成を有する構成要素については同一の符号を付してその説明は省略する場合がある。
【0048】
図4は、本発明の実施形態に係る油圧回路S2の概略説明図であり、図中の矢印は油の流れを示している。本実施形態に係る油圧回路S2においては、圧力制御回路60の下流側(クランプ側)において分岐する複数の分岐回路の一部には圧力保持弁が設けられ、残りの分岐回路には圧力保持弁が設けられていない。一例として、
図4に示すように、分岐回路80a、80b、80dにはそれぞれ圧力保持弁V2a、V2b、V2dが設けられ、分岐回路80cには圧力保持弁が設けられていない。なお、圧力保持弁を設けない分岐回路やその数は任意であるが、少なくとも一部の分岐回路には圧力保持弁が設けられることが必要である。
【0049】
また、油圧回路S2に係る構成では、把持機構としてのクランプ11を、所定の圧力で閉塞した際に、各クランプが有するシリンダの推力で、構造体として敢えて適度に弾性変形するような剛性でもって構成される。即ち、油圧回路S2のクランプ11は、後述のように意図的に弾性変形させることで、油圧回路S2内の油圧を一部圧力制御回路60に還流可能なよう弾性変形余分に蓄圧する蓄圧機構として機能することができるよう設計される。
【0050】
図4のように構成される油圧回路S2においては、圧力保持弁V1及び圧力保持弁V2a、V2b、V2dで油圧を保持させることで、クランプ11の把持力が保持される。本発明者らは、その際にクランプ11に適度に弾性変形するような鋼材を用いることで、クランプ11の股部(
図5を参照して後述する股部O)を中心に広がる方向に弾性変形し、特にクランプ11の末端側に位置するシリンダ周辺の部材(シリンダの伸縮を受け止める部材)が大きく弾性変形することで、当該クランプ11の末端部に位置するシリンダに、他の位置のシリンダよりも多く油圧が蓄圧されることを発見した。これを利用し、例えば寒冷地等において周囲温度が急激に低下した際には、クランプ11を弾性変形させた蓄圧効果により、圧力保持弁の設けられていない分岐回路80cから圧力制御回路60に油が還流し、圧力制御回路60の圧力低下が抑制され、圧力低下速度が小さく抑えられる。これは、圧力制御回路60を構成するホースの断面積と、シリンダ(ここでは第3クランプ11cのシリンダ74a、74b)の断面積が大きく異なること、また、クランプ11を油圧により弾性変形させ、蓄圧効果を持たせたことに起因する。
【0051】
図5は、クランプの弾性変形についての概略説明図であり、(a)は周辺拡大図、(b)はA-A断面である。また、
図5(c)は従来のクランプA-A断面である。
図5は一例として第3クランプ11cが既設杭9を把持した状態のシリンダ74a、74bを図示したものである。
図5(a)に示すように、第3クランプ11cは例えば弾性変形可能な鋼材からなる構造体であり、シリンダ74a、74bに油を供給し、油圧により既設杭9を把持した場合(即ち、クランプ閉の状態)、構造体全体として例えば弾性変形量e1が発生する。図示のように、弾性変形量は各シリンダ位置によって異なり、例えばe2、e3となる。
【0052】
ここで、油圧回路S2を構成するホースの内径φdとシリンダ74a、74bの内径φDは大きく異なり、当然、その断面積も大きく異なる。例えば、シリンダ74a、74bの内径断面積ADは、油圧回路S2を構成するホースの内径断面積Adの30倍~400倍程度である。
【0053】
このように、クランプ11が構造体として弾性変形した状態で、例えば寒冷地等において周囲温度が急激に低下すると、圧力制御回路60を構成するホース内の油の体積が収縮する。そして、圧力保持弁の設けられていない分岐回路80cにおいてその弾性変形が戻り、蓄圧効果が解放されることで分岐回路80cから圧力制御回路60に油が還流し、圧力制御回路60の圧力低下が抑制され、圧力低下速度が小さく抑えられる。還流される油の量は例えば
図5に示す例では「シリンダ74a、74bの内径断面積AD×(e2+e3)」であり、内径断面積の小さい圧力制御回路60を構成するホース内の圧力低下を抑制するには十分である。
【0054】
また、
図5(b)に示すクランプ断面の構成において、クランプ11の股部Oの上部断面の縦方向長さをh、幅方向長さをbとし、
図5(b)の本発明構成の寸法をh2×b2、(c)の従来構成の寸法をh1×b1とする。クランプ11の広がり方向の剛性に関わる断面二次モーメントIxは長さh方向の距離の3乗に比例することが分かっている。よって、h方向長さの寸法を小さくしクランプ11の股部Oの断面積を小さくすることでたわみ易くすることができる。即ち、
図5(b)に示す本発明の寸法であるh2を、
図5(c)に示す従来の寸法であるh1に比べ小さく設計し、たわみ易く構成することが好ましい。なお、
図5(a)に示すB-B断面についても同様である。
【0055】
また、弾性変形量はシリンダ74a、74bのシリンダ推力P(
図5中の矢印参照)や股部Oから各シリンダまでの距離L(
図5中のL1、L2)に比例して増加する傾向がある。そのため、クランプ11及びシリンダ74a、74bの設計においては、上記推力Pと距離Lを好適に定め、所望の弾性変形量となるように構成することが好ましい。
【0056】
以上説明したように、クランプ11及びシリンダ74a、74bを、クランプ11の股部Oの縦方向長さhや、シリンダ74a、74bのシリンダ推力Pや股部Oから各シリンダまでの距離Lを、所望の弾性変形量が達成されるように設計することが好ましい。その際、クランプ11及びシリンダ74a、74bが機械としてたわみ過多で壊れない範囲での設計を行う必要がある。
【0057】
<作用効果>
以上、
図4及び
図5を参照して説明した本実施形態に係る油圧回路S2によれば、以下のような作用効果が享受される。圧力保持弁V1及び圧力保持弁V2a、V2b、V2dで油圧を保持させ既設杭9を把持している状態(クランプ閉状態)において、圧力制御回路60を構成するホース内の油の体積が収縮し圧力低下が懸念される場合であっても、シリンダ74a、74bが配置された分岐回路80cから圧力制御回路60に油が還流し、圧力低下が抑制され、圧力低下速度が小さく抑えられる。即ち、クランプ11における油圧の圧力検知を精度良く行うことができる。
【0058】
特に、本実施形態のように、油圧回路上流側(即ち、圧力制御回路60上流側)に圧力センサC1が設けられている場合、圧力保持弁V1及び圧力保持弁V2a、V2b、V2dで油圧が保持され各クランプ11a~11dにおいて圧力低下が発生しておらず、十分な把持力が保持されているにも関わらず、圧力センサC1で圧力低下速度の増加が検出されてしまうといった挙動が回避される。これにより、圧力センサC1の検知に基づき、クランプ11を安定的に作動させることが可能となる。なお、各クランプ11a~11dの圧力検知を確実に行い安定的に作動させるために、各クランプのシリンダ近傍に圧力センサを取り付けることも考え得るが、装置全体の大型化やコスト増が懸念される。
【0059】
また、従来の油圧回路S1(
図3参照)と、本実施形態に係る油圧回路S2(
図4参照)を比較して分かるように、本実施形態に係る構成は、従来の油圧回路S1において、一部の分岐回路(ここでは分岐回路80c)に敢えて圧力保持弁V2cを設けない構成としたものである。これにより、追加機器や追加制御等を必要とせず、杭圧入機1の軽量化や小型化が図られる。併せて、クランプ11における油圧の圧力検知の精度を向上させ、クランプ11を安定的に作動させることができる。加えて、従来の構成から機器を減ずることができるため、コストの減少が図られる。
【0060】
以上、本発明の実施形態の一例を説明したが、本発明は図示の形態に限定されない。当業者であれば、特許請求の範囲に記載された思想の範疇内において、各種の変更例または修正例に想到し得ることは明らかであり、それらについても当然に本発明の技術的範囲に属するものと了解される。
【0061】
上記実施形態に係る油圧回路S2では、分岐回路80a、80b、80dにそれぞれ圧力保持弁V2a、V2b、V2dが設けられ、分岐回路80cに圧力保持弁が設けられていない構成について図示し説明したが、圧力保持弁の数や配置構成はこれに限られるものではない。即ち、圧力保持弁は複数の分岐回路のうち少なくとも1以上の分岐回路に設けられる必要があり、少なくとも1以上の他の分岐回路に圧力保持弁が設けられず、クランプの弾性変形により発生する蓄圧効果を利用できるような構成であれば良い。ここで、圧力保持弁は、既設杭9を把持するクランプのシリンダに接続された分岐回路に設けられるのが望ましい。これは、圧力制御回路60と分岐回路の両方に圧力保持弁を設けることで、杭圧入機1の駆動が停止した場合であっても、クランプの把持力を2重に保持することが望ましいからである。
【0062】
例えば、上記実施形態に係る油圧回路S2では、分岐回路80cにのみ圧力保持弁が設けられない場合を図示したが、分岐回路80bにのみ圧力保持弁が設けられない場合や、分岐回路80bと80cの両方において圧力保持弁が設けられない場合も考え得る。また、分岐回路80aや80dに圧力保持弁が設けられない構成も考え得る。複数のクランプを備えた杭圧入機1では、後端の一部のクランプ(例えばクランプ11c及び/又は11d)は既設杭9を把持しないことがあるため、クランプを安定的に作動させる観点から、分岐回路80aと80bのいずれか一方又は両方において圧力保持弁を設けない構成としても良い。
【0063】
また、上記実施形態では、杭圧入機1のサドル12には4つのクランプ11(11a~11d)が装着される場合を図示し説明したが、クランプ11の数はこれに限定されるものではない。例えば、杭圧入機の種類によっては、3つのクランプが装着され、その第1クランプ~第3クランプに対し本発明は容易に適用されうる。
【0064】
また、上記実施形態に係る油圧回路S2では、所定の箇所、例えば分岐回路80cに圧力保持弁が設けない構成について図示し説明したが、所定の箇所において圧力保持弁で油圧を保持させないといった手段を用いても良い。
【0065】
また、本発明の適用範囲として、上記実施形態では複数のクランプ11(第1クランプ11a~第4クランプ11d)の開閉を行う油圧回路に適用する場合を図示して説明したが、本発明は油圧回路から供給される油圧により作動する種々の機構や装置に対し適用可能である。例えば、杭圧入機のチャック、ケーシングチャック、ケーシングロックといった種々の把持機構であり、構造体として弾性変形するいわゆる蓄圧機構として機能するような装置に適用される。
【0066】
<本発明の他実施形態>
上記実施形態に係る油圧回路S2においては、第1クランプ11a~第4クランプ11d毎にそれぞれのクランプが有するシリンダに対し一括して油圧を供給する4つの分岐回路80a~80dが設けられる構成を図示したが、本発明に係る油圧回路の構成はこれに限られるものではない。以下、本発明の他実施形態に係る油圧回路S3について
図6を参照して説明する。なお、以下では、上記の油圧回路S1、S2と同一の機能構成を有する構成要素については同一の符号を付してその説明は省略する場合がある。
【0067】
図6は本発明の他実施形態に係る油圧回路S3の概略説明図であり、図中の矢印は油の流れを示している。
図6に示すように、他実施形態に係る油圧回路S3においては、各分岐回路80a~80dが、第1クランプ11a~第4クランプ11dが有する2つのシリンダごとに接続される。換言すると、各分岐回路80a~80dのそれぞれが、一方のシリンダに接続される第1の回路と、他方のシリンダに接続される第2の回路と、を有する構成となっている。例えば、分岐回路80aは、一方のシリンダ70aに接続される第1の回路82aと、他方のシリンダ70bに接続される第2の回路82bを有する。同様に、分岐回路80bは一方のシリンダ72aに接続される第1の回路84aと、他方のシリンダ72bに接続される第2の回路84bを有し、分岐回路80cは一方のシリンダ74aに接続される第1の回路86aと、他方のシリンダ74bに接続される第2の回路86bを有し、分岐回路80dは一方のシリンダ76aに接続される第1の回路88aと、他方のシリンダ76bに接続される第2の回路88bを有する。
【0068】
各分岐回路80a~80dにおいて、第1の回路82a、84a、86a、88aには圧力保持弁V2a~V2dが設けられている。一方で、第2の回路82b、84b、86b、88bには圧力保持弁が設けられていない。
【0069】
図6のように構成される油圧回路S3においては、圧力保持弁V1及び圧力保持弁V2a~V2dで油圧を保持させることで、各クランプ11a~11dの少なくとも1つずつのシリンダの圧力が保持され、把持力が保持される。この状態で、例えば寒冷地等において周囲温度が急激に低下した際には、圧力保持弁の設けられていない第2の回路82b、84b、86b、88bから、上流側である圧力制御回路60に油が還流し、圧力制御回路60の圧力低下が抑制され、圧力低下速度が小さく抑えられる。これは、上記実施形態で説明したように、圧力制御回路60を構成するホースの断面積と、シリンダ(ここではシリンダ70b~76b)の断面積が大きく異なること、また、クランプ11を油圧により弾性変形させ、蓄圧効果を持たせたことに起因する。
【0070】
なお、
図6に示す油圧回路S3では、分岐回路80a~80dの全てが第1の回路及び第2の回路を有する構成について図示したが、このような回路構成を全ての分岐回路80a~80dに適用しなくても良い。即ち、分岐回路80a~80dの少なくとも1つ以上において、第1の回路と第2の回路を設けた構成にすれば良い。その場合、第1の回路と第2の回路を設けない分岐回路の構成は、従来の油圧回路S1と同様に、クランプが有するシリンダに対し一括して油圧を供給するような回路構成とすれば良い。
【0071】
第1の回路と第2の回路を設けた構成とする分岐回路やその数は任意であるが、少なくとも一部の分岐回路を当該構成とすることが必要である。複数のクランプを備えた杭圧入機1では、後端の一部のクランプ(例えばクランプ11c及び/又は11d)は既設杭9を把持しないことがあるため、クランプを安定的に作動させる観点から、分岐回路80aと80bのいずれか一方又は両方において第1の回路と第2の回路を設けた回路構成にすることが望ましい。
【0072】
<実施例>
本発明の実施例として、上記実施形態で説明した油圧回路S2における圧力低下抑制の効果を確認すべく、油温が低下した際の圧力制御回路の圧力変化について検証を行った。具体的には、分岐回路に圧力保持弁を設けた場合の圧力制御回路と、圧力保持弁を設けない場合の圧力制御回路と、で時間経過に応じて油温が低下した際の回路内の圧力変化を測定した。
図7は本発明の実施例に係る圧力変化に関するグラフである。
【0073】
図7に示すように、回路内の油温が10分間の間に32℃から21℃まで低下した場合に、圧力保持弁を設けた場合の圧力制御回路内の圧力は、わずか6分間で34MPaから20MPaまで低下した。一方、圧力保持弁を設けない場合の圧力制御回路内の圧力は、10分間で34MPaから27MPaに低下するにとどまった。
図7に示す結果から、例えば寒冷地等において杭圧入機の周囲温度が急激に低下し、それに伴い圧力制御回路内の油温が低下した場合であっても、分岐回路に圧力保持弁を設けないような回路構成を採ることで圧力センサC1において検出される圧力低下速度が小さく抑えられることが分かった。本実施例の結果から、分岐回路に圧力保持弁を敢えて設けず、クランプの構造体としての弾性変形を用い、そこに生じる蓄圧効果を利用することで、圧力センサを圧力制御回路内に設けた場合に、クランプにおける油圧の圧力検知を精度良く行うことができることが確認された。
【産業上の利用可能性】
【0074】
本発明は、杭を地盤に圧入する杭圧入機に適用できる。
【符号の説明】
【0075】
1…杭圧入機
2…反力ブロック
3…プラットフォーム
4…圧入ブロック
5…油圧ユニット
9…既設杭
10…杭
11…クランプ
11a…第1クランプ
11b…第2クランプ
11c…第3クランプ
11d…第4クランプ
12…サドル
13…スライドガイド
14…ブラケット
16…油圧シリンダ
21…スライドフレーム
22…リーダーマスト
23…前後シリンダ
26…スライドガイド
27…ブラケット
31…チャック
32…チャックフレーム
33…昇降シリンダ
35…チャック機構
41…送油配管
42…戻り油配管
43…制御マニホールド
44…切替バルブ
45、46、47…油圧ホース
60…圧力制御回路
70a、70b…(第1クランプの)シリンダ
72a、72b…(第2クランプの)シリンダ
74a、74b…(第3クランプの)シリンダ
76a、76b…(第4クランプの)シリンダ
80a~80d…分岐回路
90…戻り回路
C1…圧力センサ
S1…(従来の)油圧回路
S2…(本発明の実施形態に係る)油圧回路
S3…(本発明の他実施形態に係る)油圧回路
V1…圧力保持弁
V2a~V2d…圧力保持弁