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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023146921
(43)【公開日】2023-10-12
(54)【発明の名称】胎児感染の検出方法
(51)【国際特許分類】
   C12Q 1/689 20180101AFI20231004BHJP
   C12Q 1/686 20180101ALI20231004BHJP
   G01N 33/50 20060101ALI20231004BHJP
   G01N 33/569 20060101ALI20231004BHJP
   G01N 33/53 20060101ALI20231004BHJP
   C12Q 1/6851 20180101ALI20231004BHJP
   C12N 15/09 20060101ALI20231004BHJP
【FI】
C12Q1/689 Z
C12Q1/686 Z ZNA
G01N33/50 Z
G01N33/569 B
G01N33/53 M
C12Q1/6851 Z
C12N15/09 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022054362
(22)【出願日】2022-03-29
(71)【出願人】
【識別番号】598015084
【氏名又は名称】学校法人福岡大学
(71)【出願人】
【識別番号】510136312
【氏名又は名称】国立研究開発法人国立成育医療研究センター
(74)【代理人】
【識別番号】100145403
【弁理士】
【氏名又は名称】山尾 憲人
(74)【代理人】
【識別番号】100145104
【弁理士】
【氏名又は名称】膝舘 祥治
(72)【発明者】
【氏名】宮本 新吾
(72)【発明者】
【氏名】漆山 大知
(72)【発明者】
【氏名】秦 健一郎
【テーマコード(参考)】
2G045
4B063
【Fターム(参考)】
2G045AA25
2G045AA28
2G045CB30
2G045DA12
2G045DA13
2G045DA14
2G045FB01
2G045FB02
4B063QA01
4B063QA18
4B063QQ03
4B063QQ06
4B063QQ42
4B063QQ52
4B063QR08
4B063QR55
4B063QR62
4B063QS25
4B063QS34
4B063QX02
(57)【要約】
【課題】胎児感染の検出方法を提供する。
【解決手段】妊娠中の対象に由来する試料に含まれる細菌量を評価することと、前記細菌量に基づいて、前記試料と対象における胎児感染とを関連付けることと、を含む胎児感染の検出方法である。前記細菌量の評価は、定量PCR法で行われてよく、前記試料中の16Sリボソーム遺伝子のコピー数を測定することを含んでいてよい。試料は、対象の羊水に由来してよい。
【選択図】図10A
【特許請求の範囲】
【請求項1】
妊娠中の対象に由来する試料に含まれる細菌量を評価することと、
前記細菌量に基づいて、前記試料と対象における胎児感染とを関連付けることと、を含む胎児感染の検出方法。
【請求項2】
妊娠中の対象に由来する試料に含まれる細菌量を評価することと、
前記細菌量に基づいて、前記試料と対象における子宮内感染とを関連付けることと、を含む妊娠転機の診断を補助する方法。
【請求項3】
前記細菌量の評価は、定量PCR法で行われる請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
前記細菌量の評価は、前記試料中の16Sリボソーム遺伝子のコピー数を測定することを含む請求項1から3のいずれか1項に記載の方法。
【請求項5】
前記試料は、対象の羊水に由来する請求項1から4のいずれか1項に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、胎児感染の検出方法に関する。
【背景技術】
【0002】
早産は、新生児の罹病および5歳未満の小児の死亡の主な原因であり、在胎期間が短いほど、顕著にリスクが増す。早産の少なくとも40%は子宮内感染に関連していると考えられている。子宮内感染では、絨毛膜羊膜炎、羊水感染を経て、胎児感染へと進行すると考えられる。胎児感染では、胎児炎症反応性症候群(FIRS)等のリスクが高まるため、迅速な対応が求められる。
【0003】
胎児感染を産前に診断する方法としては、臍帯穿刺を行なって胎児の血中サイトカインレベルを測定する方法がある。しかし、臍帯穿刺は侵襲的であるため利用に制限がある。これに関連して、羊水中のマトリックスメタロプロテアーゼ-8の濃度を測定して胎児感染を診断する方法が提案されている(例えば、特許文献1参照)。一方、妊婦に由来する試料から特定の微生物を検出することを含む絨毛膜羊膜炎の検出方法が提案されている(例えば、特許文献2及び3参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特表2004-522942号公報
【特許文献2】特開2017-209063号公報
【特許文献3】国際公開第2021/112237号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、胎児感染の検出方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
前記課題を解決するための具体的手段は以下の通りであり、本発明は以下の態様を包含する。第一態様は、妊娠中の対象に由来する試料に含まれる細菌量を評価することと、評価した細菌量に基づいて、試料と対象における胎児感染とを関連付けることと、を含む胎児感染の検出方法である。
【0007】
第二態様は、妊娠中の対象に由来する試料に含まれる細菌量を評価することと、評価した細菌量に基づいて、試料と対象における子宮内感染とを関連付けることと、を含む妊娠転機の診断を補助する方法である。
【0008】
細菌量の評価は、定量PCR法で行われてよく、試料中の16Sリボソーム遺伝子のコピー数を測定することを含んでいてよい。また、試料は妊娠中の対象の羊水に由来するものであってよい。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、胎児感染の検出方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】絨毛膜羊膜炎のBlanc分類ステージと羊水中の細菌量との関係を示す図である。
図2A】絨毛膜羊膜炎のBlanc分類ステージIII群と羊水中の細菌量との関係を示す図である。
図2B】絨毛膜羊膜炎のBlanc分類ステージIII群についてのROC曲線である。
図3A】絨毛膜羊膜炎のBlanc分類ステージII-III群と羊水中の細菌量との関係を示す図である。
図3B】絨毛膜羊膜炎のBlanc分類ステージII-III群についてのROC曲線である。
図4A】絨毛膜羊膜炎のBlanc分類ステージI-III群と羊水中の細菌量との関係を示す図である。
図4B】絨毛膜羊膜炎のBlanc分類ステージI-III群についてのROC曲線である。
図5A】羊水穿刺後の妊娠延長期間が1日未満の症例群と羊水中の細菌量との関係を示す図である。
図5B】羊水穿刺後の妊娠延長期間が1日未満の症例群についてのROC曲線である。
図6A】羊水穿刺後の妊娠延長期間が1日以下の症例群と羊水中の細菌量との関係を示す図である。
図6B】水穿刺後の妊娠延長期間が1日以下の症例群についてのROC曲線である。
図7A】羊水穿刺後の妊娠延長期間が7日以下の症例群と羊水中の細菌量との関係を示す図である。
図7B】水穿刺後の妊娠延長期間が7日以下の症例群についてのROC曲線である。
図8A】胎児炎症反応性症候群と羊水中の細菌量との関係を示す図である。
図8B】胎児炎症反応性症候群についてのROC曲線である。
図9A】新生児感染と羊水中の細菌量との関係を示す図である。
図9B】新生児感染についてのROC曲線である。
図10A】胎児感染と羊水中の細菌量との関係を示す図である。
図10B】胎児感染についてのROC曲線である。
図11】羊水中の細菌量による子宮内感染のグレードと絨毛膜羊膜炎のBlanc分類ステージとの関係を示す図である。
図12】羊水中の細菌量による子宮内感染のグレードと妊娠転帰の指標との関係を示す図である。
図13】羊水中の細菌量による子宮内感染のグレードと妊娠転帰の指標との関係を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本明細書において「工程」との語は、独立した工程だけではなく、他の工程と明確に区別できない場合であってもその工程の所期の目的が達成されれば、本用語に含まれる。また本明細書に記載される数値範囲の上限及び下限は、当該数値を任意に選択して組み合わせることが可能である。以下、本発明の実施形態を詳細に説明する。ただし、以下に示す実施形態は、本発明の技術思想を具体化するための、胎児感染の検出方法及び妊娠転機の診断を補助する方法を例示するものであって、本発明は、以下に示す胎児感染の検出方法及び妊娠転機の診断を補助する方法に限定されない。
【0012】
胎児感染の検出方法
胎児感染の検出方法は、妊娠中の対象に由来する試料に含まれる細菌量を評価する第1工程と、評価された細菌量に基づいて、試料と対象における胎児感染とを関連付ける第2工程と、を含む。胎児感染の検出方法は、胎児感染を診断することを補助する方法であってもよい。
【0013】
試料中に含まれる細菌量に基づいて胎児感染を検出することで、妊娠の転機を予測、診断して、的確な治療方針を選択することが可能になる。これにより、母児の予後向上が期待できる。試料中の細菌量の測定は迅速に行うことができることから、妊娠の転機を予測、診断を迅速に行うことが可能になる。
【0014】
第1工程
第1工程では、妊娠中の対象に由来する試料に含まれる細菌量を評価する。対象はヒトの妊婦であればよく、例えば、周産期の妊婦であってよく、切迫早産、子宮内感染等が懸念される周産期の妊婦であってよい。試料は、子宮内感染に関連する細菌を検出可能な試料であればよく、例えば膣スワブ、羊水、血液、臍帯血等から調製することができる。好ましくは、試料は羊水から調製することができる。
【0015】
試料中の細菌量は、絶対定量により得られる値であってよく、半定量により得られる値であってよい。試料中の細菌量は、例えば以下のようにして定量することができる。試料からDNAを抽出することと、抽出されたDNAを鋳型とし、細菌に特異的な塩基配列を増幅対象領域とするプライマーセットを用いて定量PCRを実施することとを含む分析方法により、試料中の細菌量を定量することができる。定量PCRによって得られる細菌量は、例えば増幅されたオリゴヌクレオチドのコピー数であってよい。
【0016】
試料からのDNAの抽出は、当該技術分野で慣用されているDNA抽出方法によって実施することができる。例えば、無菌的に採取された羊水を、低速遠心分離して胎脂等を除去した後、ガラスビーズ等を用いるビーズ処理によって物理的に細胞を破砕して溶菌し、市販のDNA抽出キット等を用いて試料に含まれるDNAを抽出することができる。
【0017】
細菌に特異的な塩基配列としては、例えば16SリボソームRNA遺伝子を対象とすることができる。16SリボソームRNA遺伝子は、16SリボソームRNA遺伝子に対するユニバーサルプライマーセットを用いることで増幅することができる。16SリボソームRNA遺伝子に対するユニバーサルプライマーセットの増幅対象領域は、16SリボソームRNA遺伝子のV1からV9のすべての可変領域のいずれであってもよく、例えば、V1領域とV2領域を挟む保存領域を増幅対象領域とすることができる。
【0018】
定量PCRは、PCR増幅産物を定量的に得られる手法であればよく、リアルタイムPCR、デジタルPCR等の公知の手法を用いることができる。試料中の細菌量は、例えばデジタルPCRを用いてEvaGreen法で定量される絶対定量値であってよい。
【0019】
第2工程
第2工程では、評価された細菌量に基づいて、試料と対象における胎児感染とを関連付ける。第2工程は、試料に含まれる細菌量が所定値(カットオフ値)以上の場合に胎児感染の検出と試料とを関連づけ、細菌量が所定値未満の場合に胎児感染の非検出と試料とを関連付けてよい。また、第2工程は、試料に含まれる細菌量が所定値以上の場合に胎児感染しているとの診断を補助し、細菌量が所定値未満の場合に胎児感染に至っていないとの診断を補助してよい。
【0020】
胎児感染が発生している対象には、必要に応じて抗菌剤等による治療介入、妊娠帰結等の処置を実施してもよい。すなわち、本発明は、胎児感染を検出することと検出された胎児感染を処置することとを含む胎児感染の処置方法をも包含してよく、胎児感染の処置を補助する方法を包含していてもよい。
【0021】
ここで、第2工程で用いられるカットオフ値は、例えばROC曲線を用いて、所望の感度、特異度、Youden Index等が得られるように適宜設定すればよく、Youden Indexを指標としてカットオフ値を設定してよい。カットオフ値として具体的には例えば、羊水1mL中の16SリボソームRNA遺伝子のコピー数として10万以上、又は100万以上であってよい。
【0022】
妊娠転機の診断を補助する方法
妊娠転機の診断を補助する方法は、妊娠中の対象に由来する試料に含まれる細菌量を評価する第1工程と、評価された細菌量に基づいて、試料と対象における子宮内感染とを関連付ける第3工程と、を含む。
【0023】
試料中に含まれる細菌量に基づいて子宮内感染の状態を検出することで、妊娠の転機を予測、診断を補助することができる。これにより、的確な治療方針を選択することが可能になり、母児の予後向上が期待できる。
【0024】
第1工程では妊娠中の対象に由来する試料に含まれる細菌量を評価する。妊娠転機の診断を補助する方法における第1工程の詳細は、胎児感染の検出方法における第1工程と同様であり、好ましい態様も同様である。
【0025】
第3工程では、評価された細菌量に基づいて、試料と対象における子宮内感染とを関連付ける。関連付けられる子宮内感染の状態としては、絨毛膜羊膜炎におけるBlanc分類のステージ、試料採取後の妊娠延長期間、胎児炎症反応性症候群(FIRS)、新生児感染症、胎児感染等であってよい。また、試料と関連付けられる子宮内感染の状態は、子宮内感染の程度を評価する評価値(グレード)であってもよい。
【0026】
第3工程においては、第1工程で評価された細菌量に基づいて、試料と絨毛膜羊膜炎におけるBlanc分類のステージとを関連付けてよい。ここで絨毛膜羊膜炎とは、胎児付属物である卵膜に細菌が感染して生じる炎症性疾患のことである。絨毛膜羊膜炎は、早産を引き起こす病態であり、また出生後の児の予後、例えば、中枢神経系障害、慢性呼吸障害等の後遺症と密接に関わっているとされる。絨毛膜羊膜炎の診断は、分娩後の胎盤病理検査で確定されるが、妊娠経過中においては臨床的診断と、顆粒球エラスターゼ等の早産マーカーを用いて診断がおこなわれている。しかし、これらの方法では絨毛膜羊膜炎の検出に対する感度が低く、早期発見が困難である。
【0027】
第1工程で評価された細菌量に基づいて、試料と絨毛膜羊膜炎におけるBlanc分類のステージとを関連付けることで、妊娠中の対象における絨毛膜羊膜炎の発症状態を迅速に診断することができる。また、試料に含まれる細菌を同定する必要がないため、より簡便に絨毛膜羊膜炎の発症状態を診断することができる。
【0028】
第3工程では、第1工程で評価された細菌量に基づいて、試料と絨毛膜羊膜炎におけるBlanc分類のステージIIIとを関連付けてよい。Blanc分類のステージIIIは、胎盤の組織学的診断で炎症が羊膜まで波及している段階である。第3工程では、試料に含まれる細菌量が所定値(カットオフ値)以上の場合に、絨毛膜羊膜炎におけるBlanc分類のステージIIIに相当することと試料とを関連づけ、細菌量が所定値未満の場合にBlanc分類のステージIII未満であることと試料とを関連付けてよい。また、第3工程は、試料に含まれる細菌量が所定値以上の場合に、絨毛膜羊膜炎におけるBlanc分類のステージIIIに相当するとの診断を補助してよい。
【0029】
試料と絨毛膜羊膜炎におけるBlanc分類のステージIIIとを関連付けるカットオフ値は、例えば、羊水1mL中の16SリボソームRNA遺伝子のコピー数として100万以上であってよい。
【0030】
第3工程では、第1工程で評価された細菌量に基づいて、試料と、絨毛膜羊膜炎におけるBlanc分類のステージII又はIIIに相当することとを関連付けてよい。Blanc分類のステージIIは、胎盤の組織学的診断で炎症が絨毛膜まで波及している段階である。第3工程では、試料に含まれる細菌量が所定値(カットオフ値)以上の場合に、絨毛膜羊膜炎におけるBlanc分類のステージII又はIIIに相当することと試料とを関連づけ、細菌量が所定値未満の場合にBlanc分類のステージII未満に相当することと試料とを関連付けてよい。また、第3工程は、試料に含まれる細菌量が所定値以上の場合に、絨毛膜羊膜炎におけるBlanc分類のステージII又はIIIに相当するとの診断を補助してよい。
【0031】
絨毛膜羊膜炎におけるBlanc分類のステージII又はIIIに相当することと試料とを関連付けるカットオフ値は、例えば、羊水1mL中の16SリボソームRNA遺伝子のコピー数として、2万以上、又は2万5千以上であってよい。
【0032】
第3工程では、第1工程で評価された細菌量に基づいて、試料と絨毛膜羊膜炎におけるBlanc分類のステージIからIIIのいずれかに相当することとを関連付けてよい。Blanc分類のステージIは、胎盤の組織学的診断で炎症が絨毛膜下に留まっている段階である。第3工程では、試料に含まれる細菌量が所定値(カットオフ値)以上の場合に、絨毛膜羊膜炎におけるBlanc分類のステージIからIIIのいずれかに相当することと試料とを関連づけ、細菌量が所定値未満の場合にBlanc分類のステージI未満に相当することと試料とを関連付けてよい。また、第3工程は、試料に含まれる細菌量が所定値以上の場合に、絨毛膜羊膜炎におけるBlanc分類のステージIからIIIのいずれかに相当するとの診断を補助してよい。
【0033】
絨毛膜羊膜炎におけるBlanc分類のステージIからIIIのいずれかに相当することと試料とを関連付けるカットオフ値は、例えば、羊水1mL中の16SリボソームRNA遺伝子のコピー数として1万以上であってよい。
【0034】
第3工程では、第1工程で評価された細菌量に基づいて、試料と試料採取後の妊娠延長期間とを関連付けてよい。例えば第3工程では、試料に含まれる細菌量が所定値(カットオフ値)以上の場合に、試料採取後の妊娠延長可能な期間が1日未満であることと試料とを関連づけ、細菌量が所定値未満の場合に、試料採取後の妊娠延長可能な期間が1日以上であることと試料とを関連付けてよい。また、第3工程は、試料に含まれる細菌量が所定値以上の場合に、試料採取後の妊娠延長可能な期間が1日未満であるとの診断を補助してよい。
【0035】
妊娠延長可能な期間が1日未満であることと試料とを関連付けるカットオフ値は、例えば、羊水1mL中の16SリボソームRNA遺伝子のコピー数として5000以上、1万以上、又は100万以上であってよい。
【0036】
また例えば、第3工程では、試料に含まれる細菌量が所定値(カットオフ値)以上の場合に、試料採取後の妊娠延長可能な期間が1日以下であることと試料とを関連づけ、細菌量が所定値未満の場合に、試料採取後の妊娠延長可能な期間が日を超えることと試料とを関連付けてよい。また、第3工程は、試料に含まれる細菌量が所定値以上の場合に、試料採取後の妊娠延長可能な期間が1日以下であるとの診断を補助してよい。
【0037】
妊娠延長可能な期間が1日以下であることと試料とを関連付けるカットオフ値は、例えば、羊水1mL中の16SリボソームRNA遺伝子のコピー数として1万以上、又は100万以上であってよい。
【0038】
また例えば、第3工程では、試料に含まれる細菌量が所定値(カットオフ値)以上の場合に、試料採取後の妊娠延長可能な期間が7日以下であることと試料とを関連づけ、細菌量が所定値未満の場合に、試料採取後の妊娠延長可能な期間が7日を超えることと試料とを関連付けてよい。また、第3工程は、試料に含まれる細菌量が所定値以上の場合に、試料採取後の妊娠延長可能な期間が7日以下であるとの診断を補助してよい。
【0039】
妊娠延長可能な期間が7日以下であることと試料とを関連付けるカットオフ値は、例えば、羊水1mL中の16SリボソームRNA遺伝子のコピー数として1万以上であってよい。
【0040】
第3工程では、第1工程で評価された細菌量に基づいて、胎児炎症反応性症候群(FIRS)であることと試料とを関連付けてよい。胎児炎症反応性症候群は、例えば出生直後の児の白血球数が2万/μL以上であることと対応する。例えば第3工程では、試料に含まれる細菌量が所定値(カットオフ値)以上の場合に、胎児炎症反応性症候群(FIRS)であることと試料とを関連づけ、細菌量が所定値未満の場合に、胎児炎症反応性症候群ではないことと試料とを関連付けてよい。また、第3工程は、試料に含まれる細菌量が所定値以上の場合に、胎児炎症反応性症候群であるとの診断を補助してよい。
【0041】
胎児炎症反応性症候群であることと試料とを関連付けるカットオフ値は、例えば、羊水1mL中の16SリボソームRNA遺伝子のコピー数として1万以上、10万以上、又は40万以上であってよい。
【0042】
第3工程では、第1工程で評価された細菌量に基づいて、試料と新生児感染症とを関連付けてよい。新生児感染症は、例えば出生直後の児に抗菌薬の投与を必要としたことと対応する。例えば第3工程では、試料に含まれる細菌量が所定値(カットオフ値)以上の場合に、新生児感染症であることと試料とを関連づけ、細菌量が所定値未満の場合に、新生児感染症ではないことと試料とを関連付けてよい。また、第3工程は、試料に含まれる細菌量が所定値以上の場合に、新生児感染症であるとの診断を補助してよい。
【0043】
新生児感染症であることと試料とを関連付けるカットオフ値は、例えば、羊水1mL中の16SリボソームRNA遺伝子のコピー数として9万以上、又は10万以上であってよい。
【0044】
第3工程では、第1工程で評価された細菌量に基づいて、試料と胎児感染とを関連付けてよい。胎児感染は、例えば出生後の臍帯炎の病理学的所見と対応する。例えば第3工程では、試料に含まれる細菌量が所定値(カットオフ値)以上の場合に、胎児感染していることと試料とを関連づけ、細菌量が所定値未満の場合に、胎児感染に至っていないことと試料とを関連付けてよい。また、第3工程は、試料に含まれる細菌量が所定値以上の場合に、胎児感染しているとの診断を補助してよい。
【0045】
胎児感染していることと試料とを関連付けるカットオフ値は、例えば、羊水1mL中の16SリボソームRNA遺伝子のコピー数として10万以上、30万以上、又は100万以上であってよい。
【0046】
第3工程では、第1工程で評価された細菌量に基づいて、子宮内感染の状態を評価する評価値(グレード)と試料とを関連付けてよい。子宮内感染の状態は、例えば以下のグレード0からグレード3の4段階に分類することができる。グレード0は、無菌的又は制菌状態である。グレード0では、試料採取後の妊娠延長期間が長く、胎児感染や新生児感染のリスクが少ないため、安全に長期間の妊娠延長が可能である。グレード1は、胎児感染又は新生児感染のリスクがまだ少ない状態である。グレード1では、試料採取後の妊娠延長期間は短い傾向があるが、抗菌薬治療が奏功すれば、コントロールできる可能性が高い。グレード2は、胎児感染又は新生児感染のリスクが比較的高い状態である。グレード2では、試料採取後の妊娠延長期間は短く、直ちに抗菌薬治療が奏功しない場合は早急な妊娠帰結が望まれる。グレード3は、胎児感染又は羊水感染のリスクが非常に高い状態である。グレード3では、妊娠延長できる可能性が非常に低いため、早急な妊娠帰結が望まれる。以上のように、第1工程で評価された細菌量に基づいて、子宮内感染の状態を分類評価することで、妊娠転帰の診断を補助することができる。
【0047】
第3工程では、試料に含まれる細菌量が第1の値未満の場合に、妊娠している対象をグレード0と診断し、第1の値以上第2の値未満の場合に、妊娠している対象をグレード1と診断し、第2の値以上第3の値未満の場合に、妊娠している対象をグレード2と診断し、第3の値以上の場合に、妊娠している対象をグレード3と診断してよい。第1の値は、例えば、羊水1mL中の16SリボソームRNA遺伝子のコピー数として1万以上であってよい。第2の値は、例えば、羊水1mL中の16SリボソームRNA遺伝子のコピー数として10万以上であってよい。第3の値は、例えば、羊水1mL中の16SリボソームRNA遺伝子のコピー数として100万以上であってよい。
【0048】
第3工程のおける、子宮内感染の状態を評価する評価値(グレード)と試料との関連付けは、上記の4段階に限られず、上記のグレード0と、グレード1-2と、グレード3の3段階であってもよい。
【0049】
子宮内感染の処置方法
子宮内感染の処置方法は、妊娠中の対象に由来する試料に含まれる細菌量を評価することと、評価された細菌量に基づいて、試料と対象における子宮内感染の状態とを関連付けることと、関連付けられた子宮内感染の状態に基づいて、子宮内感染のリスクが高い対象を処置することと、を含む。
【0050】
子宮内感染のリスクが高い対象に必要に応じた処置を施すことで、早産の抑制、妊娠期間の延長、母体感染の抑制、新生児感染の抑制、胎児炎症反応症候群・新生児髄膜炎・新生児慢性肺疾患・脳室周囲白質軟化症・脳性麻痺・発達遅滞などの新生児疾患の抑制、障がい者の発生抑制、医療費・社会保障費の抑制、子育て世代の社会進出促進等の効果を得ることができる。ここで対象に応じた処置とは、子宮内感染について施される何らかの処置であればよく、例えば、感染症の治療、改善、進行の抑制(悪化の防止)、予防、感染症に起因する症状の緩和等が挙げられる。具体的には、例えば、抗菌薬剤の投与、妊娠帰結等が挙げられる。
【実施例0051】
以下、本発明を実施例により具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0052】
参考例
福岡大学病院に切迫早産の診断で入院し、妊娠24週以降34週未満で入院管理中に、子宮内感染を疑って羊水穿刺を行い、分娩後に胎盤、臍帯の組織学的検索を実施した69症例を対象とした。対象からは書面でのインフォームドコンセントに同意を受けた。分娩後の胎盤の病理検査の結果では、絨毛膜羊膜炎のBlanc分類ステージIIIが31例、ステージIIが25例、ステージIが8例、ステージ0が5例であった。
【0053】
羊水穿刺により無菌的に得た羊水1mLについて低速遠心分離により、大きな細胞および胎脂を除去した。各検体に含まれる細菌を、Pathogen Lysis Tube L(QIAGEN社)によりガラスビーズを用いて溶菌し、QIAamp UCP Pathogen Mini Kit(QIAGEN社)により各検体に含まれるDNAを抽出した。
【0054】
段階希釈したDNA試料の1μLを、ドロップレットデジタルPCR(バイオラッド社製)にインプットし、ドロップレット作製時に22μLに希釈した。以下に示す16SリボソームRNA遺伝子のV1及びV2領域に対するユニバーサルプライマーセットを用い、メーカー推奨のプロトコールに準じて定量PCRを行った。増副産物の定量は、EvaGreen法によって行った。また、ネガティブコントロール(Blank)としてDNA抽出溶液を用い、ポジティブコントロール(Normal AF)として複数回計測済みの正常羊水を用いた。
【0055】
【表1】
【0056】
絨毛膜羊膜炎のBlanc分類ステージと、羊水1mL中の16SリボソームRNA遺伝子のコピー数との関係を図1に示す。なお、有意差検定は、Mann-Whitney’s U testで実施した。
【0057】
図1に示すように、ステージIII群とステージII群は、ステージ0からI群、ポジティブコントロール群及びネガティブコントロール群と比べて、有意にコピー数が多かった。ポジティブコントロール群は、ネガティブコントロール群よりも有意にコピー数が多かった。また、胎盤の炎症状態と羊水中の細菌量とが相関することがわかる。さらに、妊娠初期の正常羊水でも、必ずしも無菌とは限らないことが分かる。
【0058】
実施例1
羊水1mL中の16SリボソームRNA遺伝子のコピー数について、絨毛膜羊膜炎のBlanc分類ステージIII群及びそれ以外の症例群を比較検討した。結果を図2Aに示す。また、ROC曲線を図2Bに示す。
【0059】
【表2】
【0060】
【表3】
【0061】
図2Aから、絨毛膜羊膜炎のBlanc分類ステージIII群は、それ以外の症例群と比べて、有意にコピー数が多かった。また、100万をカットオフ値とすることで、感度81%、特異度84%を達成できた。
【0062】
実施例2
羊水1mL中の16SリボソームRNA遺伝子のコピー数について、絨毛膜羊膜炎のBlanc分類ステージII及びIII群と、それ以外の症例群とを比較検討した。結果を図3Aに示す。また、ROC曲線を図3Bに示す。
【0063】
【表4】
【0064】
【表5】
【0065】
図3Aから、絨毛膜羊膜炎のBlanc分類ステージII-III群は、それ以外の症例群と比べて、有意にコピー数が多かった。また、25000をカットオフ値とすることで、感度75%、特異度77%を達成できた。
【0066】
実施例3
羊水1mL中の16SリボソームRNA遺伝子のコピー数について、絨毛膜羊膜炎のBlanc分類ステージIからIII群と、それ以外の症例群とを比較検討した。結果を図4Aに示す。また、ROC曲線を図4Bに示す。
【0067】
【表6】
【0068】
【表7】
【0069】
図4Aから、絨毛膜羊膜炎のBlanc分類ステージI-III群は、それ以外の症例群と比べて、有意にコピー数が多かった。また、1万をカットオフ値とすることで、感度77%、特異度80%を達成できた。
【0070】
実施例4
羊水1mL中の16SリボソームRNA遺伝子のコピー数について、羊水穿刺後の妊娠延長期間が1日未満の症例群と、それ以外の症例群とを比較検討した。結果を図5Aに示す。また、ROC曲線を図5Bに示す。
【0071】
【表8】
【0072】
【表9】
【0073】
図5Aから、羊水穿刺後の妊娠延長期間が1日未満の症例群は、それ以外の症例群と比べて、有意にコピー数が多かった。また、5000をカットオフ値とすることで、感度92%、特異度45%を達成できた。また1万をカットオフ値とすることで、感度87%、特異度48%を達成できた。さらに100万をカットオフ値とすることで、感度55%、特異度71%を達成できた。
【0074】
実施例5
羊水1mL中の16SリボソームRNA遺伝子のコピー数について、羊水穿刺後の妊娠延長期間が1日以下の症例群と、それ以外の症例群とを比較検討した。結果を図6Aに示す。また、ROC曲線を図6Bに示す。
【0075】
【表10】
【0076】
【表11】
【0077】
図6Aから、羊水穿刺後の妊娠延長期間が1日以下の症例群は、それ以外の症例群と比べて、有意にコピー数が多かった。また、1万をカットオフ値とすることで、感度84%、特異度63%を達成できた。また、100万をカットオフ値とすることで、感度50%、特異度74%を達成できた。
【0078】
実施例6
羊水1mL中の16SリボソームRNA遺伝子のコピー数について、羊水穿刺後の妊娠延長期間が7日以下の症例群と、それ以外の症例群とを比較検討した。結果を図7Aに示す。また、ROC曲線を図7Bに示す。
【0079】
【表12】
【0080】
【表13】
【0081】
図7Aから、羊水穿刺後の妊娠延長期間が7日以下の症例群は、それ以外の症例群と比べて、有意にコピー数が多かった。また、1万をカットオフ値とすることで、感度74%、特異度75%を達成できた。
【0082】
実施例7
羊水1mL中の16SリボソームRNA遺伝子のコピー数について、出生直後の児の白血球数(nWBC)が2万/μL以上であった症例群(FIRSに相当)と、それ以外の症例群とを比較検討した。結果を図8Aに示す。また、ROC曲線を図8Bに示す。
【0083】
【表14】
【0084】
【表15】
【0085】
図8Aから、出生直後の児の白血球数が2万/μL以上であった症例群は、それ以外の症例群と比べて、有意にコピー数が多かった。また、44万をカットオフ値とすることで、感度77%、特異度64%を達成できた。
【0086】
実施例8
羊水1mL中の16SリボソームRNA遺伝子のコピー数について、出生直後に抗菌薬投与が必要とされた症例群(新生児感染群)と、それ以外の症例群とを比較検討した。結果を図9Aに示す。また、ROC曲線を図9Bに示す。
【0087】
【表16】
【0088】
【表17】
【0089】
図9Aから、胎児感染群は、それ以外の症例群と比べて、有意にコピー数が多かった。また、10万をカットオフ値とすることで、感度71%、特異度88%を達成できた。
【0090】
実施例9
羊水1mL中の16SリボソームRNA遺伝子のコピー数について、出生後の臍帯炎の所見が認められた症例群(胎児感染群)と、それ以外の症例群とを比較検討した。結果を図10Aに示す。また、ROC曲線を図10Bに示す。
【0091】
【表18】
【0092】
【表19】
【0093】
図10Aから、胎児感染群は、それ以外の症例群と比べて、有意にコピー数が多かった。また、10万をカットオフ値とすることで、感度86%、特異度68%を達成できた。さらに100万をカットオフ値とすることで、感度69%、特異度82%を達成できた。
【0094】
実施例10
羊水1mL中の16SリボソームRNA遺伝子のコピー数について、1万、10万及び100万をカットオフ値として、4段階のグレードに分類して子宮内感染の状態を評価した。各グレードと絨毛膜羊膜炎のBlanc分類ステージとの関係を図11に示す。また、各グレードと、種々の妊娠転帰の指標との関係を表20及び21、図12及び図13に示す。表中、CAM(StageIII)は絨毛膜羊膜炎のBlanc分類ステージIIIの症例を意味する。Termination<24hは、羊水穿刺後の妊娠延長期間が1日未満であった症例を意味する。Termination<48hは、羊水穿刺後の妊娠延長期間が1日以下であった症例を意味する。nWBC>20000/μlは、出生直後の児の白血球数が20000/μL以上であった症例を意味する。nCRP>0mg/dLは、出生直後の新生児の血清において炎症マーカーであるC反応性蛋白が陽性であった症例を意味する。Antibiotics for newbornは、出生直後の児に抗菌薬投与が必要であった症例を意味する。Funisitisは、分娩後に臍帯炎の所見が認められた症例を意味する。
【0095】
【表20】
【0096】
【表21】
【0097】
グレード3は高い確率で、48時間以内に分娩となり、重度の絨毛膜羊膜炎、臍帯炎(胎児感染の病理学的所見)をきたしていた。グレード0は高い確率で、重度の絨毛膜羊膜炎を来した症例はなく、臍帯炎(胎児感染)例も6%と低かった。グレード1-2は高い確率で48時間以内に分娩となり、臍帯炎(胎児感染)例は約半数であった。さらにグレード1よりもグレード2の方が臍帯炎(胎児感染)例の頻度が24%上昇した(グレード1:30%,グレード2:58%)。
図1
図2A
図2B
図3A
図3B
図4A
図4B
図5A
図5B
図6A
図6B
図7A
図7B
図8A
図8B
図9A
図9B
図10A
図10B
図11
図12
図13
【配列表】
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