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  • 特開-スタビライザの製造方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023146950
(43)【公開日】2023-10-12
(54)【発明の名称】スタビライザの製造方法
(51)【国際特許分類】
   B60G 21/055 20060101AFI20231004BHJP
【FI】
B60G21/055
【審査請求】未請求
【請求項の数】1
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022054413
(22)【出願日】2022-03-29
(71)【出願人】
【識別番号】000004640
【氏名又は名称】日本発條株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002147
【氏名又は名称】弁理士法人酒井国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】林田 拓樹
(72)【発明者】
【氏名】山内 雄一郎
【テーマコード(参考)】
3D301
【Fターム(参考)】
3D301AA69
3D301AA72
3D301AA78
3D301AA83
3D301AA86
3D301AA87
3D301DA70
(57)【要約】
【課題】中空の部材を用いて形成されるスタビライザにおいて、内周面の広範囲に残留応力を付与することができるスタビライザの製造方法を提供すること。
【解決手段】本発明に係るスタビライザの製造方法は、筒状部材を用いて作製されるスタビライザの製造方法であって、記筒状部材を曲げてスタビライザの形状に成形する曲げ成形ステップと、成形ステップ後の筒状部材の焼入れを行う焼入れステップと、焼入れ後の筒状部材の焼戻しを焼戻しステップと、焼戻しステップ後の筒状部材の内部に作動媒体を導入して、当該筒状部材の内部に残留応力を付与するオートフレッタージステップと、オートフレッタージ処理後の筒状部材の端部を成形する端末成形ステップと、端末成形ステップ後の筒状部材の外面にショットピーニングを施すショットピーニングステップと、を含む。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
筒状部材を用いて作製されるスタビライザの製造方法であって、
前記筒状部材を曲げて前記スタビライザの形状に成形する曲げ成形ステップと、
前記成形ステップ後の筒状部材の焼入れを行う焼入れステップと、
前記焼入れ後の筒状部材の焼戻しを焼戻しステップと、
前記焼戻しステップ後の筒状部材の内部に作動媒体を導入して、当該筒状部材の内部に残留応力を付与するオートフレッタージステップと、
オートフレッタージ処理後の筒状部材の端部を成形する端末成形ステップと、
前記端末成形ステップ後の筒状部材の外面にショットピーニングを施すショットピーニングステップと、
を含むことを特徴とするスタビライザの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、スタビライザの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
車両等に用いられるスタビライザは、車両に取り付けられて、該車両の姿勢を安定させる。スタビライザは、車両の軽量化のために、中空の筒状部材を変形させたものが知られている。ここで、筒状部材を用いてスタビライザを作製する場合、当該スタビライザの強度を高める必要がある。このスタビライザの強度を高める技術として、中空の母材(筒状部材)の外周部から圧子でプレスすることによって、特定部位の内面に圧縮残留応力を付与する技術が知られている(例えば、特許文献1を参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】国際公開第2021/229808号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献1に記載の技術では、圧子によって部分的な残留応力を付与するものであり、内周面の広範囲に残留応力を付与することが難しかった。
【0005】
本発明は、上記に鑑みてなされたものであって、中空の部材を用いて形成されるスタビライザにおいて、内周面の広範囲に残留応力を付与することができるスタビライザの製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上述した課題を解決し、目的を達成するために、本発明に係るスタビライザの製造方法は、筒状部材を用いて作製されるスタビライザの製造方法であって、前記筒状部材を曲げて前記スタビライザの形状に成形する曲げ成形ステップと、前記成形ステップ後の筒状部材の焼入れを行う焼入れステップと、前記焼入れ後の筒状部材の焼戻しを焼戻しステップと、前記焼戻しステップ後の筒状部材の内部に作動媒体を導入して、当該筒状部材の内部に残留応力を付与するオートフレッタージステップと、オートフレッタージ処理後の筒状部材の端部を成形する端末成形ステップと、前記端末成形ステップ後の筒状部材の外面にショットピーニングを施すショットピーニングステップと、を含むことを特徴とする。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、中空の部材を用いて形成されるスタビライザにおいて、内周面の広範囲に残留応力を付与することができるという効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1図1は、本発明の一実施の形態にかかるスタビライザを含むサスペンション機構の一例を示す斜視図である。
図2図2は、図1に示すスタビライザの構成を示す平面図である。
図3図3は、本発明の一実施の形態にかかるスタビライザを作製するための筒状部材の構成を示す斜視図である。
図4図4は、本発明の一実施の形態にかかるスタビライザの製造方法を説明するためのフローチャートである。
図5図5は、オートフレッタージ処理を説明するための図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、添付図面を参照して本発明を実施するための形態(以下、「実施の形態」という)を説明する。なお、図面は模式的なものであって、各部分の厚みと幅との関係、それぞれの部分の厚さの比率などは現実のものとは異なる場合があり、図面の相互間においても互いの寸法の関係や比率が異なる部分が含まれる場合がある。
【0010】
(実施の形態)
図1は、本発明の一実施の形態にかかるスタビライザを含むサスペンション機構の一例を示す斜視図である。図1に示すサスペンション機構100は、スタビライザ1と、サスペンション101、102と、リンク103、104とを備える。サスペンション101、102は、伸縮自在なコイルばねを含む。サスペンション機構100が自動車に設けられる場合、タイヤ111、112(例えば前輪)に対してそれぞれ設けられて、路面の凹凸に応じてタイヤ111、112から伝達される振動を吸収する。スタビライザ1とサスペンション101、102とは、それぞれリンク103、104を介して接続される。
【0011】
図2は、図1に示すスタビライザの構成を示す平面図である。スタビライザ1は、金属や、各種繊維(例えば炭素繊維)からなる中空円柱状の部材(筒状部材)であって、例えば、0.2%耐力が1000~1600MPaの範囲の材料からなる部材が用いられる。を用いて形成される。スタビライザ1は、本体部10と、本体部10の一端に連なる第1端部11と、本体部10の他端に連なる第2端部12とを有する。
【0012】
本体部10は、中央部が直線状に延び、かつ当該本体部10の両端部が屈曲してなる。
第1端部11および第2端部12は、それぞれ、筒状部材を潰してなる扁平な形状をなす。また、第1端部11および第2端部12には、締結部材が挿通される貫通孔が形成される(図示略)。
【0013】
続いて、上述したスタビライザ1の製造方法について、図3図5を参照して説明する。スタビライザ1は、母材を加工することによって作製される。
【0014】
図3は、本発明の一実施の形態にかかるスタビライザを作製するための筒状部材の構成を示す斜視図である。スタビライザ1の母材となる筒状部材20は、一様な内径および外径を有して延びる筒状をなす。筒状部材20の肉厚は、例えばスタビライザ1の本体部10の肉厚と同じである。
【0015】
図4は、本発明の一実施の形態にかかるスタビライザの製造方法を説明するためのフローチャートである。まず、母材20を曲げることによって、スタビライザ1の形状を成形する(ステップS101:曲げ成形ステップ)。なお、必要に応じて、曲げ成形を実施する前に、筒状部材20が所定の長さとなるように切断する処理が実施される。
【0016】
その後、曲げ成形後の母材20の焼入れを行う(ステップS102:焼入れステップ)。焼入れでは、母材20を、当該母材20を構成する材料の変態点以上の温度まで上昇させて、所定時間保持した後、急冷する。
【0017】
焼入れ後、母材20の焼戻しを行う(ステップS103:焼戻しステップ)。焼戻しでは、焼入れ後の母材20を、焼入れ時よりも低い温度で加熱し、所定時間保持した後、冷却する。
【0018】
焼戻し後、母材20に対し、オートフレッタージ処理を施す(ステップS104:オートフレッタージステップ)。図5は、オートフレッタージ処理を説明するための図である。
【0019】
オートフレッタージ処理では、まず、母材20の一端に、該一端の開口を封止する封止部材30を取り付ける(図5の(a)参照)。これにより、母材20の一端が密閉される。
【0020】
その後、母材20の内部に、作動油31を充填する(図5の(b)参照)。作動油31は、母材20の他端(封止部材30の取り付け側と反対側)から導入される。また、作動油31は、常温であってもよいし、加熱されていてもよい。
作動油31の充填によって、母材20の内周面に圧力がかかり(図5の(c)参照)、母材20の内周面において塑性変形が起こる。
なお、作動油31は、内部に対して圧力をかけられる作動媒体であればよく、水やその他水溶液等を用いることができる。
【0021】
その後、母材20から作動油31を排出することによって、母材20にかかる圧力が開放される(図5の(d)参照)。以上のオートフレッタージ処理によって、母材20の内周面に残留応力が付与される。
【0022】
図4に戻り、オートフレッタージ処理後の母材20の端部を潰して端末(第1端部11および第2端部12)を成形する(ステップS105:端部成形ステップ)。
【0023】
端末成形後、外面に対してショットピーニング処理を施すことによって、スタビライザ1が作製される(ステップS106:ショットピーニング処理ステップ)。
【0024】
本実施の形態では、母材である筒状部材20を用いてスタビライザ1を作製する際に、オートフレッタージ処理を施すことによって、内周面に残留応力を付与するようにした。本実施の形態によれば、オートフレッタージ処理により、作動油が内周面全体に圧力をかけるため、中空の部材を用いて形成されるスタビライザにおいて、内周面の広範囲に残留応力を付与することができる。
【0025】
また、本実施の形態では、作動油(液体)を用いて内部に圧力をかけるため、筒状部材が複雑な形状をなしている場合であっても、全体に残留応力を付与することができる。このため、内部における残留応力について、信頼性に優れたスタビライザ1を作製することができる。
【0026】
また、本実施の形態では、作動油(液体)を用いて内部に圧力をかけるため、生産性に優れたスタビライザ1の作製を実現することができる。
【0027】
ここで、従来のような圧子を外表面側から圧力をかける場合、外表面に圧子のプレス痕が付き、外観不良となったり、折損の起点となったりするおそれがあったが、本実施の形態では、内部に作動油(液体)を導入して残留応力を付与するため、外観不良が起こることはなく、折損の起点となるような凹みも生じない。さらに、圧子を用いる場合は、筒状部材20の径や、処理領域に応じたサイズの圧子を都度用意する必要があるが、本実施の形態では、筒状部材20のサイズに関係なく、残留応力を付与することができる。
【0028】
なお、実施の形態では、筒状部材20の一端側のみに封止部材30を取り付ける例について説明したが、作動油31導入後に他端側(作動油31導入側)にも封止部材30を取り付けてもよい。
【0029】
また、実施の形態では、作動油31の導入によって筒状部材20の内部に圧力をかける例について説明したが、封止部材30側からも筒状部材20の内部に圧力をかけるようにしてもよい。
【0030】
また、実施の形態において、オートフレッタージ処理時、筒状部材20の外形の変化を抑制するために、筒状部材20を金型に設置してもよい。
【0031】
ここまで、本発明を実施するための形態を説明してきたが、本発明は上述した実施の形態によってのみ限定されるべきものではない。例えば、筒状の部材の内周面に残留応力を付与する製品に対して適用可能である。
【0032】
このように、本発明はここでは記載していない様々な実施の形態等を含みうるものであり、特許請求の範囲により特定される技術的思想を逸脱しない範囲内において種々の設計変更等を施すことが可能である。
【0033】
以上説明したように、本発明に係るスタビライザの製造方法は、中空の部材を用いて形成されるスタビライザにおいて、内周面の広範囲に残留応力を付与するのに好適である。
【符号の説明】
【0034】
1 スタビライザ
10 本体部
11 第1端部
12 第2端部
20 筒状部材
30 封止部材
31 作動油
図1
図2
図3
図4
図5