(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023146960
(43)【公開日】2023-10-12
(54)【発明の名称】ビール類以外の液体のプリン体用吸着剤
(51)【国際特許分類】
B01J 20/12 20060101AFI20231004BHJP
B01D 15/00 20060101ALI20231004BHJP
C01B 33/40 20060101ALI20231004BHJP
A23L 29/00 20160101ALI20231004BHJP
A23L 2/80 20060101ALI20231004BHJP
【FI】
B01J20/12 A
B01D15/00 M
C01B33/40
A23L29/00
A23L2/80
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022054430
(22)【出願日】2022-03-29
(71)【出願人】
【識別番号】000193601
【氏名又は名称】水澤化学工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100075177
【弁理士】
【氏名又は名称】小野 尚純
(74)【代理人】
【識別番号】100113217
【弁理士】
【氏名又は名称】奥貫 佐知子
(74)【代理人】
【識別番号】100217869
【弁理士】
【氏名又は名称】吉田 邦久
(72)【発明者】
【氏名】梅田 俊祐
(72)【発明者】
【氏名】櫻井 淳任
(72)【発明者】
【氏名】塚原 大補
【テーマコード(参考)】
4B035
4B117
4D017
4G066
4G073
【Fターム(参考)】
4B035LC16
4B035LE03
4B035LG01
4B035LG31
4B035LK19
4B035LP02
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4D017AA20
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4G073UA06
4G073UB42
4G073UB60
(57)【要約】
【課題】本発明は、ジオクタヘドラル型スメクタイト系粘土の酸処理物から成る、プリン体に対する吸着性に優れると共に鉄イオン溶出量の少ない、ビール類以外の液体のプリン体用吸着剤を提供する。
【解決手段】本発明は、ジオクタヘドラル型スメクタイト系粘土の酸処理物からなり、水蒸気吸着法により測定されるBET比表面積(A)と窒素吸着法により測定されるBET比表面積(B)との比、(A)/(B)が0.90~5.00の範囲にあり、交換性鉄イオン量が0.25mmol/100g以下であることを特徴とする。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ジオクタヘドラル型スメクタイト系粘土の酸処理物からなり、水蒸気吸着法により測定されるBET比表面積(A)と窒素吸着法により測定されるBET比表面積(B)との比、(A)/(B)が0.90~5.00の範囲にあり、
交換性鉄イオン量が0.25mmol/100g以下であることを特徴とするビール類以外の液体のプリン体用吸着剤。
【請求項2】
前記ジオクタヘドラル型スメクタイト系粘土の酸処理物が、さらに鉄イオン含量低減処理が行われたものである、請求項1に記載の吸着剤。
【請求項3】
ジオクタヘドラル型スメクタイト系粘土に特有の層間水の量が、吸着水及び層間水を除いた吸着剤1gあたり30mg以下にある、請求項1または2に記載の吸着剤。
【請求項4】
Ho≦-3.0の固体酸量が0.10~0.70mmol/g-dry clayの範囲にある、請求項1~3に記載の吸着剤。
【請求項5】
窒素吸着法により測定されるBET比表面積の値が65~400m2/gの範囲にある、請求項1~4の何れかに記載の吸着剤。
【請求項6】
(A)/(B)が0.90~2.80の範囲にある、請求項1~5の何れかに記載の吸着剤。
【請求項7】
プリン体がキサンチン化合物である請求項1~6の何れかに記載の吸着剤。
【請求項8】
キサンチン化合物がカフェインである、請求項7に記載の吸着剤。
【請求項9】
プリン体がアデニンまたはグアニン化合物である、請求項1~6の何れかに記載の吸着剤。
【請求項10】
請求項1~9の何れかに記載の吸着剤を、プリン体を含むビール類以外の液体に入れて、該プリン体を吸着除去することを特徴とする、ビール類以外の液体からプリン体を除去する方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、カフェインに代表されるキサンチン化合物やアデニン、グアニンに代表されるアデニンまたはグアニン化合物を構成成分に含む化合物等のプリン体を吸着し得るビール類以外の液体のプリン体用吸着剤に関する。
【背景技術】
【0002】
現在、健康志向等の観点から、カフェインレス飲料が市販されている。このカフェインレス飲料は、お茶やコーヒー等からカフェインを除いた飲料である。
【0003】
ところで、カフェイン、アデニン、グアニンなどは、何れもプリン骨格を有する化合物(総称して、プリン体)である。これらを飲料から除去するための吸着剤としては、ゼオライトやジオクタヘドラル型スメクタイト系粘土(酸性白土)等が知られている(特許文献1)。
【0004】
しかしながら、ゼオライトは、プリン体に対する選択性が乏しく、飲料中に含まれる有効成分まで吸着してしまうため、工業的には使用されていない。
【0005】
また、酸性白土等の粘土は、プリン体に対する選択吸着性は高く、安価であるという利点を有しているものの、濾過性が低いという問題を有する。即ち、この種の粘土は、水中で一部がコロイド分散してしまい、濾過時にフィルターの目詰りが生じてしまう。これを回避するために、濾過を行わず遠心分離をすると、有効成分のロスも生じてしまうし、処理コストも高くなってしまう。
【0006】
更に、特許文献1には、酸性白土を酸処理して得られる活性白土がカフェイン(キサンチン化合物)に対する吸着性に優れていることが開示されており、例えば、その実施例では、本出願人により製造販売されている活性白土(ガレオンアースNF-2,ガレオナイトNo.251、水澤化学工業(株)製)がカフェインに対して高い吸着性を示している。
【0007】
しかしながら、特許文献1でのカフェインに対する吸着性は、緑茶抽出物粉末(カフェイン含有物)40mgを水5mLに溶解させ、得られた水溶液に活性白土等の吸着剤を1g(水100質量部あたり20質量部)も加えて、評価されている。即ち、この実験は、カフェイン含有粉末を多量に含んでいるペーストに、多量の吸着剤を添加して行われており、カフェインに対する吸着性を適正に評価しているとは言い難い。実際に、このような多量の吸着剤を飲料に添加してカフェインを除去することはコスト的にありえない。また、処理後の吸着剤分離の観点からも問題である。しかも、本出願人が、実際の吸着処理に準じて0.2g/L濃度のカフェイン水溶液30gに活性白土(ガレオンアースNF-2,ガレオナイトNo.251)0.1gを加えて吸着試験をしたところ、これらの活性白土(ガレオンアースNF-2,ガレオナイトNo.251)のカフェイン吸着性は酸性白土に比して著しく劣っていることがわかった。
【0008】
そこで、本発明者等は、ジオクタヘドラル型スメクタイト系粘土の酸処理により得られる酸処理物についての吸着性能について多くの実験を行い、検討した結果、種々の用途に使用されている活性白土と呼ばれる領域までの酸処理をせず、それよりも弱いレベルで酸処理しているもの(以下、弱酸処理白土と呼ぶ)が、酸処理されていない粘土(酸性白土)よりも優れた吸着性能を示し、しかも濾過性にも優れており、吸着処理後の溶液からの分離を容易に行うことができるという知見を見出した(特許文献2)。
【0009】
しかし、上記弱酸処理白土を用いた場合の吸着処理後の溶液は、プリン体が除去されているものの、吸着処理前には感じることのなかった金属味を感じることがあった。その原因を追究したところ、酸処理前の酸性白土に含有されている鉄分が酸処理中に溶出し、白土中に交換性カチオンとして半固定され、プリン体の吸着処理の際、溶液中に鉄イオンとして溶出することが原因であると考えられた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開平6-142405号
【特許文献2】特開2017-136584
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明の目的は、ジオクタヘドラル型スメクタイト系粘土の酸処理物からなる、プリン体に対する吸着性に優れると共に鉄イオン溶出量の少ない、ビール類以外の液体のプリン体用吸着剤を提供することにある。
なお、ビール類以外の液体のプリン体用として吸着剤の用途を限定しているのは、本発明と同日にビール類のプリン体用吸着剤の発明を出願していることから、当該発明と区別するためである。
ここで、前記ビール類は、酒税法上のビールに限定されるものではなく、いわゆる発泡酒、第3のビール、ノンアルコールビールおよびビールテイスト飲料等、一般的にビールに類すると考えられる液体すべてを含む。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者等は、弱酸処理白土における鉄イオンの溶出量について多くの実験を行い、検討した結果、弱酸処理白土自体の鉄イオン溶出量が特定の数値以下である場合、これらの白土がプリン体の吸着性に優れると共に金属味の付加を低減できるという知見を見出し、本発明を完成するに至った。
ここで、上記鉄イオンについては2価または3価である可能性が考えられるが、本発明においては特に両者を区別せず鉄イオンとする。
【0013】
本発明によれば、ジオクタヘドラル型スメクタイト系粘土の酸処理物からなり、水蒸気吸着法により測定されるBET比表面積(A)と窒素吸着法により測定されるBET比表面積(B)との比、(A)/(B)が0.90~5.00の範囲にあり、交換性鉄イオン量が0.25mmol/100g以下であることを特徴とするビール類以外の液体のプリン体用吸着剤が提供される。
ここで、前記交換性鉄イオン量は、前記ジオクタヘドラル型スメクタイト系粘土100gに含有される交換性鉄イオンのモル数である。
【0014】
本発明の吸着剤においては、
(1)前記ジオクタヘドラル型スメクタイト系粘土の酸処理物が、さらに鉄イオン含量低減処理が行われたものであること、
(2)ジオクタヘドラル型スメクタイト系粘土に特有の層間水の量が、吸着水及び層間水を除いた吸着剤1gあたり30mg以下にあること、
(3)Ho≦-3.0の固体酸量が0.10~0.70mmol/g-dry clayの範囲にあること、
(4)窒素吸着法により測定されるBET比表面積の値が65~400m2/gの範囲にあること、
(5)(A)/(B)が0.90~2.80の範囲にあること、
(6)プリン体がキサンチン化合物であること、
(7)キサンチン化合物がカフェインであること、
(8)プリン体がアデニンまたはグアニン化合物であること、
が好適である。
【0015】
また、本発明によれば、前記吸着剤を、プリン体を含むビール類以外の液体に添加して、該プリン体を吸着除去することを特徴とする、ビール類以外の液体からプリン体を除去する方法が提供される。
【発明の効果】
【0016】
本発明の吸着剤は、後述する実施例に示されているように、少量での使用により、酸性白土と同等或いはそれ以上にプリン体含有溶液からプリン体を多く除去することができ、さらに加えて金属味の付加を低減することができる。
【0017】
また、本発明の吸着剤は、弱酸処理を行った白土からなるため、酸性白土に比して濾過性も高く、吸着処理後の溶液から容易に除去することができる。
【0018】
そのため、本発明の吸着剤は、プリン体に対する吸着性が高く、お茶やコーヒー等の飲料からカフェインを除去してのカフェインレス飲料の製造に好適に適用できる。
そして、本発明の吸着剤は、ジオクタヘドラル型スメクタイト系粘土の酸処理物からなるものであることから、従来公知の酸処理を施していないスメクタイト系粘土に比して、含有する浸出性のNaイオン、Caイオンが低く抑えられており、シュウ酸Ca等をはじめとする析出物の発生を抑制し、さらに鉄イオンの溶出量を低減することができるため、飲料の色や香味への影響を抑制することができる。
【発明を実施するための形態】
【0019】
<弱酸処理低鉄イオン白土>
本発明の吸着剤は、ジオクタヘドラル型スメクタイト系粘土の酸処理物からなる、交換性鉄イオン量が0.25mmol/100g以下であるビール類以外の液体のプリン体用吸着剤であるか、または、前記酸処理物の交換性鉄イオン量が0.25mmol/100gを超える場合は、前記酸処理物をさらに鉄イオン含量低減処理を行うことにより、鉄イオン溶出量を0.25mmol/100g以下としたものであり、一般的に活性白土と称されるものに比して弱い酸処理を行うこと、または、さらに鉄イオン含量低減処理を行うことによって得られる。従って、以下、ビール類以外の液体のプリン体用吸着剤として使用される酸処理、または、さらに鉄イオン含量低減処理後の物を「弱酸処理低鉄イオン白土」と呼ぶことがある。
【0020】
弱酸処理および鉄イオン含量低減処理の処理については、基本的には弱酸処理を行うことによって、プリン体に対して優れた吸着性能および濾過性に優れた白土を得ることを目的としており、前記弱酸処理のみでは、交換性鉄イオン量が0.25mmol/100gを超える場合において、さらに酸処理物の鉄イオン含量低減処理を行うことによって、鉄イオン溶出量を低減することを目的としている。
【0021】
弱酸処理について、本出願人による特開2009-072759には、ジオクタヘドラル型粘土を酸処理して得られる半活性白土と呼ばれる酸処理物がポリ乳酸解重合用触媒として使用されることが開示されているが、本発明で使用する弱酸処理は、この酸処理よりも更に弱い酸処理である。
【0022】
酸処理後の白土は、一般に鉄イオン溶出量が増大する。これは、酸処理前の粘土の骨格中に含まれる鉄或いは夾雑物として含まれる含鉄化合物中の鉄の一部が、酸処理によって溶解し、さらにその一部が白土層間に交換性カチオンとして半固定されることが原因と考えられる。さらに、この半固定された鉄イオンは酸処理後の洗浄では除去しきれず、飲料のプリン体吸着処理の際に、飲料中に含まれる有機酸などの作用で飲料中に溶出すると考えられ、この溶出した鉄イオンが飲料に金属味が生じる原因と考えられる。
鉄イオン溶出量は、酸処理前の粘土の品質(粘土中の鉄含有量、夾雑物の種類や量など)や酸処理の条件に左右される。
【0023】
弱酸処理後の白土自体の交換性鉄イオン量が0.25mmol/100g以下である場合は、以下に説明する陽イオン処理による鉄イオン含量低減処理を行う必要はない。前記交換性鉄イオン量が0.25mmol/100gを超える場合は、吸着処理後の溶液が金属味を示すため、以下に説明する陽イオン処理による鉄イオン含量低減処理を行う。ここで、前記交換性鉄イオン量が0.15mmol/100g以下であることが好ましい。
【0024】
本発明における鉄イオン含量低減処理は、弱酸処理後の白土における鉄イオン溶出量が所望の濃度になるまで低減できれば特に限定されるものではなく、例えば、上記白土を鉄イオン以外の陽イオンを含む水溶液と接触させた後、分離、洗浄することにより実施することができる。上記鉄イオン含量低減処理により上記白土中の鉄イオンの全部または一部が鉄以外の陽イオンに置換され、結果として上記白土中の鉄イオン溶出量を低減させた鉄イオン含量低減処理白土を得ることができる。
【0025】
鉄イオン以外の陽イオンは、飲食品として許容されるものであれば特に限定されるものではないが、例えば、ナトリウムイオン、カリウムイオン、マグネシウムイオン、カルシウムイオン、アルミニウムイオン、が挙げられ、これらの中でもナトリウムイオン、カリウムイオンが好ましい。
陽イオン処理にあたっては1種または2種以上の鉄イオン以外の陽イオンを用いることができる。
【0026】
陽イオン処理にあたっては、上記のような陽イオンを上記白土に対して塩の形態で添加し、上記白土中の鉄イオンと陽イオンが置換されるようにすることができる。陽イオンが形成する塩は無機塩および有機塩のいずれでもよいが、例えば、硫酸塩、塩化物、グルコン酸塩、アスコルビン酸塩、クエン酸塩、および乳酸塩等が挙げられ、好ましくは硫酸塩である。
陽イオン処理にあたっては1種または2種以上の無機塩および有機塩を用いることができる。
【0027】
鉄イオン含量低減処理において、上記白土に接触させる陽イオンは水溶液の形態であることが望ましく、陽イオンの濃度は、上記白土の交換性鉄イオン量を0.25mmol/100g以下まで低減することができる限り特に限定されるものではないが、好ましくは、0.01~1000ミリ当量(以下、「mEq/L」とする。)、より好ましくは0.1~1000mEq/L、さらに好ましくは1~1000mEq/L濃度である。2種以上の陽イオンまたは塩を用いる場合は、陽イオンの濃度は、各陽イオン濃度の合算値が上記濃度であることが好ましい。
【0028】
鉄イオン含量低減処理において、pH5.0以下になるように酸性物質を添加することが好ましい。鉄イオン含量低減の効率の観点から、好ましくはpH3.0以下、特に好ましくはpH2.0以下になるように酸性物質を添加する。pH5.0より大きい場合は鉄イオン含量低減の効率が悪くなり、十分な鉄イオン含量低減ができない場合がある。添加する酸性物質は特に限定されるものではないが、一般に白土の酸処理に使用される硫酸水溶液を用いることが好ましい。
【0029】
鉄イオン含量低減処理において、上記白土と陽イオンの接触時間および接触温度は、白土中の鉄イオン含量を所望の濃度まで低減することができる限り特に限定されるものではないが、接触時間は、好ましくは1~48時間、より好ましくは1~24時間、接触温度は好ましくは4~50℃、より好ましくは10~30℃である。本発明の弱酸処理低鉄イオン白土は、後述する弱酸処理白土の特徴(例えば、水蒸気吸着法により測定されるBET比表面積(A)と窒素吸着法により測定されるBET比表面積(B)との比(A)/(B)が0.90~5.00)を有するものであり、該鉄イオン含量低減処理は、かかる弱酸処理よりも強い酸処理とならないよう、適宜接触時間と接触温度を制御して行われる。
【0030】
鉄イオン含量低減処理において、上記白土および陽イオンの混合物は固液分離処理にかけ、白土から遊離して溶出してきた鉄イオンおよび白土中の鉄イオンと置換されなかった陽イオンを除去し、洗浄することが望ましい。固液分離処理としては、例えば、遠心分離や濾過が挙げられる。洗浄は、溶出してきた鉄イオンおよび白土中の鉄イオンと置換されなかった陽イオンを除去することができれば特に限定されるものではないが、純水で2~3回洗浄することが好ましい。
【0031】
かかる弱酸処理低鉄イオン白土は、ジオクタヘドラル型スメクタイト系粘土の酸処理レベルが非常に低いため、水蒸気吸着法により測定されるBET比表面積(A)と窒素吸着法により測定されるBET比表面積(B)との比(A)/(B)が0.90以上であり、吸着性の観点から、好ましくは1.10以上、特に好ましくは1.20以上である。また、5.00以下であり、濾過性の観点から、好ましくは4.20以下、特に好ましくは3.30以下、最も好ましくは2.80以下である。
【0032】
かかる弱酸処理低鉄イオン白土は、上記範囲のBET比表面積比(A/B)を有することによって、プリン体に対して優れた吸着性能を発揮できるものと推察される。
即ち、BET比表面積を測定する方法として、窒素を用いた方法(窒素法)が一般的であるが、水蒸気を用いて測定する方法(水蒸気法)も存在する。粘土ハンドブック(第三版)によれば、窒素法では、単位質量当たりの端面を含む全外部表面積が測定され、ジオクタヘドラル型スメクタイト系粘土のように三層構造を有するものでは、窒素分子が液体窒素温度で層間に侵入しないので、外部表面積のみが測定される。一方、水蒸気のような極性の吸着質を用いた水蒸気法においては、かかる吸着質が粘土の層間に十分侵入するので、内部表面が測定される。従って、A/Bが上記範囲内にあるということは、非常に弱い酸処理によって微細孔が増大し、且つ、スメクタイト系粘土の基本三層の層間が拡大していることを意味している。微細孔の増大はプリン体(特にカフェインなどのキサンチン化合物)に対する選択吸着性を向上させ、基本三層の層間の拡大は、適度な表面親水性をもたらし、水系およびアルコール溶液でのプリン体の吸着性を高めている。上記A/Bの値を有する本発明の吸着剤(弱酸処理低鉄イオン白土)は、酸処理工程において基本三層の層間の適度な拡大と層間内での微細孔の形成がバランスよく生じるため、プリン体に対して極めて高い選択吸着性を示すものと信じられる。
例えば、強い酸で処理して得られる従来公知の活性白土や半活性白土では、基本三層の層間の拡がりが大きくなり、しかも層間に形成されている微細孔をつぶしてしまう。そのため、A/Bの値は小さくなり、従って、プリン体吸着特性は、極めて低いものとなる。
【0033】
さらに、かかる弱酸処理低鉄イオン白土は、酸処理を施されているために優れた濾過性を有すると推察される。
酸処理を施していないスメクタイト系粘土(酸性白土)は、基本層の間にNa等のカチオンを含む大きな層間を有しているために、水に対して高い膨潤性を示し、膨潤による微分散化によって濾過性が悪いと考えられている。かかる弱酸処理低鉄イオン白土の場合、スメクタイト系粘土中の塩基成分の一部が酸と反応し、ある種、水やアルコールなどに対して不溶性のバインダーとなって粒子間を結合するために、溶液中での微分散化が抑制され、優れた濾過性を示すものと考えられる。
よって、酸処理の程度が弱いほどA/Bが大きくなり、濾過性が損なわれる虞がある。
【0034】
粘土鉱物に保有される水は、粒子表面に吸着する吸着水、層間域に存在する層間水、結晶構造内部の水酸基を指す構造水などに分類される。本発明者等は、弱酸処理低鉄イオン白土の層間水についての検討の結果、層間水の量が特定の範囲にある際に、プリン体に対する吸着性が向上するという知見を見出した。
ここで、吸着水は60~80℃、層間水は90~150℃で粘土鉱物から脱離することが知られている。そこで、本発明者は、後述する実施例の通り、80℃における乾燥減量(吸着水の量を示す)と150℃における乾燥減量(吸着水+層間水の量を示す)をそれぞれ測定し、それらの差分を層間水の量とした。層間水の量は、吸着水及び層間水を除いた吸着剤1gあたりの量(mg/g)として示す。
【0035】
本発明において吸着剤として用いられる弱酸処理低鉄イオン白土は、層間水の量が30mg/g以下であり、好ましくは20mg/g以下であり、より好ましくは15mg/g以下である。
また、層間水の量は3mg/g以上、特に5mg/g以上であることが好ましい。なぜなら、層間水の量が上記値を下回るようにするためには必然的に高温での処理を行わなければならなくなり、そうすると層間に形成されている微細孔がつぶれてしまい、プリン体に対する吸着性が損なわれてしまうためである。
【0036】
層間水の量が特定の範囲にある際に吸着性が向上するメカニズムについては未だ明らかではないが、層間や層間内の微細孔からプリン体吸着サイトを覆っていた水分子が取り除かれることで、プリン体が吸着し易くなったものと考えられる。
【0037】
また、吸着水の量が低減された本発明の吸着剤は、再度吸湿したとしても、吸湿した水は吸着水として保有されるので、層間水は新たに保有されず、吸着性能は損なわれない。
【0038】
本発明において吸着剤として用いる弱酸処理低鉄イオン白土は、一般的に活性白土と称されるものに比して弱い酸処理によって得られるため、固体酸点として働くAlやMgを覆っているNa分やCa分が取り除かれ、さらには、酸処理の進行に伴ってAl分やMg分が溶出することに起因する固体酸量の減少が抑えられている。その結果、従来の酸処理で得られる一般的に活性白土と称されるもの、或いは、酸処理を行っていない酸性白土に比して同等以上の固体酸量を示す。弱酸処理低鉄イオン白土は、好適にはHo≦-3.0の固体酸量が0.10~0.70mmol/g-dry clayの範囲にあり、比較的強い固体酸を多く含んでいることを意味している。即ち、プリン体に対して固体酸による化学的吸着性能が高められており、後述する実施例にも示されているように、少量での使用により、従来公知の活性白土や酸性白土と同等或いはそれ以上にプリン体含有溶液からプリン体を多く除去することができる。
【0039】
また、本発明において吸着剤として用いる弱酸処理低鉄イオン白土は、弱いながらも酸処理されているため、窒素法によるBET比表面積が、酸処理を施していないスメクタイト系粘土に比して向上しており、好適には65~400m2/g、特に好適には100~400m2/gの範囲にある。しかるに、かかる弱酸処理低鉄イオン白土は、酸処理を施していないスメクタイト系粘土に比して、BET比表面積比(A/B)は低いが、高い吸着性を示すと考えられる。
【0040】
さらにまた、上記の弱酸処理低鉄イオン白土は、ジオクタヘドラル型スメクタイト系粘土の結晶構造に由来する特有のX線回折ピークを示し、例えば、X線回折測定において、面指数(06)に由来する回折ピークを2θ=62度(d=1.49~1.50Å)付近に有している。
【0041】
<弱酸処理低鉄イオン白土の製造>
上記のような特性を有す弱酸処理低鉄イオン白土は、ジオクタヘドラル型スメクタイト系粘土を粗砕、混練して所定濃度の酸水溶液を用いて、所定の条件で酸処理することにより製造される。即ち、この弱酸処理低鉄イオン白土は、半活性白土と同様にして得られるが、半活性白土に比してマイルドな条件での酸処理によって得られるものである。
【0042】
原料粘土として用いるジオクタヘドラル型スメクタイト系粘土は、火山岩や溶岩等が海水の影響下で変成したものと考えられており、主要成分であるジオクタヘドラル型スメクタイトはSiO4四面体層-AlO6八面体層-SiO4四面体層からなり、且つこれらの四面体層と八面体層が部分的に異種金属で同形置換された三層構造を基本構造(単位層)としており、このような三層構造の積層層間には、Ca,K,Na等の陽イオンや水素イオンとそれに配位している水分子が存在している。また、基本三層構造の八面体層中のAlの一部にMgやFe(II)が置換し、四面体層中のSiの一部にAlが置換しているため、結晶格子はマイナスの電荷を有しており、このマイナスの電荷が基本層間に存在する金属陽イオンや水素イオンにより中和されている。このようなスメクタイト系粘土には、酸性白土、ベントナイト、フラーズアース等があり、基本層間に存在する金属陽イオンの種類や量、及び水素イオン量等によってそれぞれ異なる特性を示す。例えば、ベントナイトでは、基本層間に存在するNaイオン量が多く、このため、水に懸濁分散させた分散液のpHが高く、一般に高アルカリサイドにあり、また、水に対して高い膨潤性を示し、さらにはゲル化して固結するという性質を示す。一方、酸性白土では、基本層間に存在する水素イオン量が多く、このため、水に懸濁分散させた分散液のpHが低く、一般に酸性サイドにあり、また、水に対して膨潤性を示すものの、ベントナイトと比較すると、その膨潤性は総じて低く、ゲル化には至らない。
【0043】
本発明において、弱酸処理低鉄イオン白土の製造に用いるジオクタヘドラル型スメクタイト系粘土は、特に限定されるものではなく、上述した各種の何れをも使用することができる。また、かかる原料粘土は、粘土の成因、産地及び同じ産地でも埋蔵場所(切羽)等によっても相違するが、一般的には、酸化物換算で以下のような組成を有している。
SiO2;50~75質量%
Al2O3;11~25質量%
Fe2O3;2~20質量%
MgO;2~7質量%
CaO;0.1~3質量%
Na2O;0.1~3質量%
K2O;0.1~3質量%
その他の酸化物(TiO2等);2質量%以下
Ig-loss(1050℃);5~11質量%
【0044】
また、原料粘土は、産地等によっては、石英等の不純物を多く含んでいることもある。従って、上記のジオクタヘドラル型スメクタイト系粘土を、必要により石砂分離、浮力選鉱、磁力選鉱、水簸、風簸等の精製操作に賦して不純物をできるだけ除去した後に酸処理を行うのがよい。このような処理を行った後に、以下に述べるマイルドな条件での酸処理を行うことにより、A/Bが上記範囲内にある弱酸処理白土を得ることができる。
【0045】
酸処理は、酸水溶液中に原料粘土を投入し、混合攪拌することにより行われる。酸処理に用いる酸水溶液は、特に限定されるものではないが、コスト、環境への影響等の観点から硫酸水溶液が一般に使用される。
【0046】
また、かかる酸処理は、既に述べたように、従来公知の活性白土や半活性白土を製造する際の酸処理に比してマイルドな条件下で行われ、例えば硫酸水溶液を使用する場合には、原料粘土中に含まれる水分も硫酸水溶液を構成するものとして算出した硫酸水溶液量が、原料粘土100質量部(110℃乾燥物として)当り250~800質量部、その時の硫酸水溶液の濃度が1~15質量%程度になるような条件で酸処理を行えばよい。酸処理にあたっては、必要により25~95℃程度に加熱することもできる。このようにして、原料の組成、用いる酸水溶液の酸濃度、処理温度等によって、比表面積比(A/B)が所定の範囲となる程度の時間(0.5~12時間程度、好ましくは0.5~8時間程度、特に好ましくは0.5~4時間程度)、酸処理を行えばよい。
【0047】
弱酸処理後の白土自体の交換性鉄イオン量が0.25mmol/100g以下である場合は、陽イオン処理による鉄イオン含量低減処理を行う必要はない。上記交換性鉄イオン量が0.25mmol/100gを超える場合に、陽イオン処理による鉄イオン含量低減処理を行う。
【0048】
鉄イオン含量低減処理は、硫酸ナトリウム等の陽イオンを含む硫酸塩水溶液中に、酸処理後の白土を投入し、混合攪拌することにより、鉄イオンがナトリウム等の陽イオンに置換されることにより行なわれる。また、硫酸或いはクエン酸等の酸性水溶液中に、酸処理後の白土を投入し、混合攪拌することにより、鉄イオンを該酸性水溶液中に溶出させることにより行うこともできる。
【0049】
上記のような酸処理および鉄イオン含量低減処理により、窒素法によるBET比表面積と水蒸気法によるBET比表面積の比A/Bや固体酸量、窒素法によるBET比表面積の値が上述の範囲にあり、プリン体に対する吸着性能に優れた本発明の吸着剤(弱酸処理低鉄イオン白土)が得られる。
【0050】
また、上述した酸処理によって得られる弱酸処理低鉄イオン白土は、一般に、酸化物換算で、下記の化学組成を有している。
SiO2;50~85質量%
Al2O3;8~23質量%
Fe2O3;1~10質量%
MgO;1~10質量%
CaO;0.1~2質量%
Na2O;0.1~3質量%
K2O;0.1~5質量%
その他の酸化物(TiO2等);2質量%以下
Ig-loss(1050℃);4~9質量%
【0051】
酸処理後または鉄イオン含量低減処理後は水でろ過洗浄し、その後、層間水の量を調整するために乾燥処理を行う。乾燥処理は、層間水の量が所定の範囲となればよく、オーブンでの熱乾燥、風乾、マイクロ波照射など任意の方法で行うことができる。
乾燥温度は、乾燥処理の方法によっても異なるが、例えばオーブンにて静置乾燥させる場合、層間水を粘土鉱物から脱離させるために、オーブン温度を120℃以上にするのが好ましく、140℃以上にするのがより好ましい。また、層間に形成されている微細孔がつぶれてしまわないように、オーブン温度を200℃未満にするのが好ましく、170℃未満にするのがより好ましい。
乾燥時間は、層間水の量が所定の範囲となればよく特に限定されないが、オーブンにて静置乾燥させる場合、概ね2時間以上行えば十分である。
【0052】
<プリン体>
本発明において、前述した弱酸処理低鉄イオン白土は、プリン体、即ち、プリン骨格を有する化合物に対して優れた選択吸着性を示す。
【0053】
プリン骨格は、下記式:
【化1】
で表され、弱酸処理低鉄イオン白土は、上記のようなプリン骨格を有する化合物、即ち、部分構造としてプリン骨格を有する化合物、及び、かかる化合物の誘導体もしくはかかる化合物から派生する化合物に対して優れた選択的吸着性を示す。
【0054】
プリン体の1つとしては、下記式:
【化2】
で表されるキサンチンの他、ヒポキサンチンを挙げることができる。
【0055】
さらに、キサンチンから派生する化合物としては、下記式:
【化3】
で表されるカフェインを挙げることができる。即ち、カフェインは、キサンチンの3つのNH基が全てメチル化されてNCH
3基となった、キサンチン誘導体である。
カフェイン以外のキサンチン誘導体としては、これに限定されるものではないが、テオフィリン、テオブロミン、パラキサンチン等を挙げることができる。
キサンチン、ヒポキサンチンおよびキサンチンから派生する化合物を、本明細書では、総じてキサンチン化合物とする。本発明の吸着剤は、キサンチン化合物に対して優れた選択吸着性を示し、キサンチン化合物用吸着剤として好適であり、カフェイン用吸着剤として特に好適である。
【0056】
また、プリン体として、アデニン、グアニンもある。アデニンまたはグアニンから派生する化合物としては、アデニンまたはグアニンとリボースから構成されるプリンヌクレオシド(アデノシン、グアノシン)や、さらにリン酸を構成成分に含むプリンヌクレオチド(アデニル酸、グアニル酸)等が挙げられる。また、アデニンまたはグアニンから派生する他の有機化合物としては、これに限定されるものではないが、デオキシグアノシン、デオキシグアノシン三リン酸、ニコチンアミドアデニンジヌクレオチド(NAD)、フラビンアデニンジヌクレオチド(FAD)、イノシン、イノシン酸等を挙げることができる。本明細書では、上記のアデニンまたはグアニン、および、アデニンまたはグアニンから派生する化合物を、アデニンまたはグアニン化合物と総称する。本発明の吸着剤は、アデニンおよびグアニンに対する選択的吸着性を示し、それ故、アデニンまたはグアニン化合物に対しても優れた選択的吸着性を示し、かかる化合物用の吸着剤として好適である。
【0057】
<用途>
本発明において吸着剤として使用する弱酸処理低鉄イオン白土は、プリン体に対する選択吸着性に優れているばかりか、飲料の風味に影響し得る鉄イオンの溶出が低減されているため、お茶やコーヒー等の飲料からカフェインを除去してカフェインレスとするために好適に使用される。例えば、上述のプリン体が溶解している溶液に0.001~10質量部の量で添加して使用される。
これら飲料からカフェイン等を除去するには、前述した弱酸処理低鉄イオン白土を、適度な平均粒径(例えば、10~300μm程度)の粉末状に粒度調整し、これを飲料と混合すればよい。
本発明のプリン体用吸着剤は、上記飲料のほか、各種調味料やサプリメントなどを含めた食品、或いは、工業や農業に用いられる各種薬品などの製造工程中の固液分離(濾過)において用いることができ、用いられる工程において適する粒度に適宜調整を行う方法またはカラムやフィルターに加工し通液する方法等で、飲料に何ら制限されることなく適用できる。
また、本発明の吸着剤は、アデニンまたはグアニン化合物選択吸着性や濾過性を活かし、創薬や製薬など医薬の分野に適用することもできる。
本発明の吸着剤は、特に飲料や食品の分野に適用することが好ましい。
【0058】
本発明において吸着剤として使用する弱酸処理低鉄イオン白土は、酸処理によりBET比表面積が増大し、比較的強い固体酸を多く含んでいるという特徴を有している。そのため、本発明の吸着剤は、従来の活性白土と同様に、油脂類や鉱物油類の脱色、触媒又は触媒担体に何ら制限なく使用することができる。
【実施例0059】
本発明の優れた効果を、次の実施例により説明する。
【0060】
(1)窒素吸着法によるBET比表面積(B)
マイクロメリティクス社製TriStar 3000を用いて窒素吸着法により測定を行ない、BET法により算出した。なお、前処理は150℃で2時間行った。
【0061】
(2)水蒸気吸着法によるBET比表面積(A)
日本ベル株式会社製BELSORP MAXを用いて水蒸気吸着法により測定を行ない、BET法により算出した。なお、前処理は150℃で2時間行った。
【0062】
(3)層間水の量
吸着剤粉末約2gを秤量し、80℃のオーブンで2時間静置乾燥した。その後再度秤量し、湿量基準の80℃乾燥減量W80(%)を求めた。
吸着剤粉末約2gを秤量し、150℃のオーブンで2時間静置乾燥した。その後再度秤量し、湿量基準の150℃乾燥減量W150(%)を求めた。
下記式:
WL=(W150-W80)/(100-W150)×1000
により、吸着水及び層間水を除いた吸着剤1gあたりの層間水の量WL(mg/g)を求めた。
【0063】
(4)固体酸量
n-ブチルアミン滴定法にてHo≦-3.0の固体酸量を測定した。試料は、予め、150℃で3時間乾燥したものについて測定を行った{参考文献:「触媒」Vol.11,No6,P210-216(1969)}。
【0064】
(5)カフェイン吸着試験
本実施例におけるカフェイン吸着能は、0.2g/L濃度のカフェイン水溶液から、1gの吸着剤(無水)が吸着できるカフェイン量(mg)とし、下記の方法により測定し、算出した。
先ず、無水カフェイン(試薬特級、和光純薬工業(株)製)をイオン交換水に溶かし、0.2g/L濃度のカフェイン水溶液を得た。
この0.2g/L濃度のカフェイン水溶液30gを50mL容量の遠沈管に秤取し、吸着剤0.10g(対液0.3質量%)を加えて振とう機(ヤマト科学(株)製SA300、振とうスピード5)により2.5時間振とうした。
次に遠心分離機((株)クボタ製 5200)により遠心加速度3000rpmで15分処理した液の上澄みをイオン交換水により10倍に希釈して液(試料液)を得た。試料液の273nm波長光の吸光度を分光光度計(日本分光(株)製V-630)により測定した。そして、予め作成したカフェイン濃度と273nm波長光の吸光度の関係を示す検量線を用いて試料液のカフェイン残存量を算出し、吸着剤添加前のカフェイン量から差し引いた値を吸着剤のカフェイン吸着量とした。
【0065】
(6)交換性鉄イオン試験
本実施例における交換性鉄イオン量(交換性Fe量)は、下記の方法により測定し、算出した。
1規定の塩化アンモニウム水溶液35mLを50mL容量の遠沈管に秤取し、吸着剤0.5gを加えて振とう機(ヤマト科学(株)製SA300、振とうスピード5)により15分間振とうした。次に遠心分離機((株)クボタ製 5200)により遠心加速度3000rpmで15分処理し、交換性Feイオンが浸出した液の上澄みを回収した。遠沈管に残存した吸着剤に対して、上記操作を合計3回行い、得られた上澄み液の総量をイオン交換水で250mlにメスアップし、試料液を得た。試料液中の鉄イオン濃度をICP発光分光分析装置(Thermo Fisher SCIENTIFIC製 iCAP6300 Duo)により測定し、交換性Feイオン量を算出した。
【0066】
(7)鉄イオン溶出試験
本実施例における鉄イオン溶出量は、緑茶中に、1gの吸着剤(無水)から溶出する鉄の量(mg)とし、下記の方法により測定し、算出した。
先ず、緑茶(キリンビバレッジ株式会社製「生茶」を濾紙No.2C(ADVENTEC製)で濾過し、抹茶分などの沈降物を除去した液を試験液に用いた。同試験液35gを50mL容量の遠沈管に秤取し、吸着剤0.35gを加えて振とう機(ヤマト科学(株)製SA300、振とうスピード5)により室温で0.5時間振とうした。
次にNo.5C(ADVENTEC製)の濾紙を用いて濾過し、濾液を回収した。さらに孔径0.2μmのメンブレンフィルターで再濾過し、試料液を得た。試料液中の鉄イオン濃度を原子吸光光度計((株)日立ハイテクサイエンス製Z-2010)により測定し、鉄溶出量を算出した。
【0067】
下記の実施例および比較例に示す吸着剤粉末について、物性および各種吸着試験結果を表1に示す。
【0068】
(実施例1)
新潟県胎内市産のジオクタヘドラル型スメクタイト系粘土を粗砕、オーブンにて110℃で12時間乾燥、粉砕、分級して粘土粉末を得た。
ビーカーに10質量%硫酸水溶液220mLを採り、90℃に加熱した。そこへ前記粘土粉末30gを添加し、液温を90℃に維持した状態で撹拌し、30分間酸処理を行った。酸処理終了後、酸処理物を水でろ過洗浄し、洗浄後のろ過ケーキを150℃のオーブンで12時間静置乾燥し、粉砕、分級して酸処理粉末を得た。
さらに、硫酸を加えてpH1.0に調整した400mEq/L濃度の硫酸ナトリウム水溶液220mLをビーカーに採り、そこへ前記洗浄後のろ過ケーキを全量添加し、常温にて24時間攪拌することで、鉄イオン含量低減処理を行った。
鉄イオン含量低減処理終了後、鉄イオン含量低減処理物を水でろ過洗浄し、洗浄後のろ過ケーキを150℃のオーブンで12時間静置乾燥し、粉砕、分級して吸着剤の粉末を得た。
【0069】
(実施例2)
実施例1の操作を90000倍にスケールアップした以外は実施例1と同様にして吸着剤の粉末を得た。
【0070】
(実施例3)
400mEq/L濃度の硫酸ナトリウム水溶液を400mEq/L濃度の硫酸カリウム水溶液に変更した以外は実施例1と同様にして吸着剤の粉末を得た。
【0071】
(実施例4)
400mEq/L濃度の硫酸ナトリウム水溶液を400mEq/L濃度の硫酸マグネシウム水溶液に変更した以外は実施例1と同様にして吸着剤の粉末を得た。
【0072】
(実施例5)
400mEq/L濃度の硫酸ナトリウム水溶液を40mEq/L濃度の硫酸カリウムアルミニウム水溶液に変更した以外は実施例1と同様にして吸着剤の粉末を得た。
【0073】
(実施例6)
400mEq/L濃度の硫酸ナトリウム水溶液を硫酸水溶液に変更した以外は実施例1と同様にして吸着剤の粉末を得た。
【0074】
(実施例7)
400mEq/L濃度の硫酸ナトリウム水溶液を1質量%濃度のクエン酸水溶液に変更した以外は実施例1と同様にして吸着剤の粉末を得た。
【0075】
(実施例8)
硫酸濃度を15質量%に、添加する粘土重量を1.5倍に、硫酸ナトリウム水溶液濃度を450mEq/Lに変更した以外は実施例2と同様にして吸着剤の粉末を得た。
【0076】
(比較例1)
pH1.0に調整した400mEq/L濃度の硫酸ナトリウム水溶液を蒸留水に変更したこと以外は実施例1と同様にして吸着剤の粉末を得た。
【0077】
【0078】
実施例1~8の吸着剤において、(A)/(B)は0.96~2.15の範囲、プリン体であるカフェインの吸着量は37~49mg/gの範囲、交換性鉄イオン量は0.05~0.23mmol/100gの範囲、および緑茶中鉄イオン溶出量は0.02~0.09mg/gの範囲であった。また、実施例1~8の吸着剤を用いてプリン体を除去した緑茶は金属味を感じることはなかった。
比較例1の吸着剤において、(A)/(B)は1.70、カフェインの吸着量は45mg/g、交換性鉄イオン量は0.58mmol/100g、鉄イオン溶出量は0.23mg/gであった。また、比較例1の吸着剤を用いてプリン体を除去した緑茶は金属味を感じた。