(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023146966
(43)【公開日】2023-10-12
(54)【発明の名称】非水系二次電池及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
H01M 10/0567 20100101AFI20231004BHJP
H01M 10/0569 20100101ALI20231004BHJP
H01M 10/0568 20100101ALI20231004BHJP
H01M 10/052 20100101ALI20231004BHJP
H01M 4/485 20100101ALI20231004BHJP
H01M 4/36 20060101ALI20231004BHJP
H01M 4/587 20100101ALI20231004BHJP
【FI】
H01M10/0567
H01M10/0569
H01M10/0568
H01M10/052
H01M4/485
H01M4/36 E
H01M4/587
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022054437
(22)【出願日】2022-03-29
(71)【出願人】
【識別番号】000000033
【氏名又は名称】旭化成株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100099759
【弁理士】
【氏名又は名称】青木 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100123582
【弁理士】
【氏名又は名称】三橋 真二
(74)【代理人】
【識別番号】100108903
【弁理士】
【氏名又は名称】中村 和広
(74)【代理人】
【識別番号】100142387
【弁理士】
【氏名又は名称】齋藤 都子
(74)【代理人】
【識別番号】100135895
【弁理士】
【氏名又は名称】三間 俊介
(74)【代理人】
【識別番号】100190137
【弁理士】
【氏名又は名称】大谷 仁郎
(72)【発明者】
【氏名】山本 喜大
(72)【発明者】
【氏名】松岡 直樹
【テーマコード(参考)】
5H029
5H050
【Fターム(参考)】
5H029AJ02
5H029AJ05
5H029AJ06
5H029AJ14
5H029AK01
5H029AK02
5H029AK03
5H029AK16
5H029AL06
5H029AL07
5H029AL08
5H029AL11
5H029AL12
5H029AL16
5H029AL18
5H029AM02
5H029AM03
5H029AM04
5H029AM05
5H029AM07
5H029BJ04
5H029CJ16
5H029HJ01
5H029HJ02
5H029HJ07
5H029HJ14
5H029HJ16
5H029HJ17
5H029HJ20
5H050AA02
5H050AA05
5H050AA07
5H050AA12
5H050AA19
5H050BA16
5H050BA17
5H050CA01
5H050CA02
5H050CA05
5H050CA08
5H050CA09
5H050CA11
5H050CA20
5H050CA22
5H050CA25
5H050CA26
5H050CB07
5H050CB08
5H050CB09
5H050CB11
5H050CB12
5H050CB20
5H050CB29
5H050GA18
5H050HA01
5H050HA02
5H050HA07
5H050HA14
5H050HA16
5H050HA17
(57)【要約】 (修正有)
【課題】50℃サイクル試験後の容量維持率の高いアセトニトリル含有非水系二次電池を提供する。
【解決手段】正極と負極と非水系電解液とを備える非水系二次電池であって、非水系電解液が、アセトニトリルを含む非水系溶媒と、リチウム塩と、一般式(1)で表されるスルホン化合物と、を含み、スルホン化合物の含有量が非水系電解液の全量に対して、0.1質量%以上3質量%以下であり、25℃における前記非水系電解液のイオン伝導度が12mS/cm以上であり、(放電開始後10秒間の電圧変化)/(放電開始後10秒間の放電電流値)で表される10秒放電DCIRについて、(85℃貯蔵後10秒放電DCIR)/(85℃貯蔵前10秒放電DCIR)で表される85℃及び12時間の貯蔵前後での変化率が0超え1.3以下である。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
正極と負極と非水系電解液とを備える非水系二次電池であって、
前記非水系電解液が、アセトニトリルを含む非水系溶媒と、リチウム塩と、
下記一般式(1):
【化1】
{式中、R
1及びR
2はそれぞれ独立して、ハロゲン基、又はハロゲン原子で置換されていてもよいアルキル基を示す。)で表されるスルホン化合物と、を含み、
前記スルホン化合物の含有量が前記非水系電解液の全量に対して、0.1質量%以上3質量%以下であり、
25℃における前記非水系電解液のイオン伝導度が12mS/cm以上30mS/cm以下であり、
下記式(1-1):
10秒放電DCIR=(放電開始後10秒間の電圧変化)/(放電開始後10秒間の放電電流値) ・・・式(1-1)
で表される10秒放電DCIRについて、85℃及び12時間の貯蔵前後での下記式(1-2):
10秒放電DCIR変化率=(85℃貯蔵後10秒放電DCIR)/(85℃貯蔵前10秒放電DCIR) ・・・式(1-2)
で表される10秒放電DCIR変化率が0超え1.3以下である、
非水系二次電池。
【請求項2】
前記非水系溶媒の全量に対してビニレンカーボネートが2体積%未満である、請求項1に記載の非水系二次電池。
【請求項3】
前記非水系電解液中の非水系溶媒の全量に対して、前記アセトニトリルの含有量が10~60体積%である、請求項1又は2に記載の非水系二次電池。
【請求項4】
前記リチウム塩がリチウム含有イミド塩と六フッ化リン酸リチウム(LiPF6)からなる群から選ばれる少なくとも一種である、請求項1~3のいずれか1項に記載の非水系二次電池。
【請求項5】
前記一般式(1)で示されるスルホン化合物としてジフェニルスルホンを含む、請求項1~4のいずれか1項に記載の非水系二次電池。
【請求項6】
前記正極は、正極活物質としてリチウムイオンを吸蔵及び放出することが可能な材料からなる群より選ばれる1種以上の材料を含有し、前記負極は、負極活物質としてリチウムイオンを吸蔵及び放出することが可能な材料と、金属リチウムと、からなる群より選ばれる1種以上の材料を含有する、請求項1~5のいずれか1項に記載の非水系二次電池。
【請求項7】
前記正極活物質がリチウムと遷移金属の複合酸化物であり、負極活物質が黒鉛である、請求項6に記載の非水系二次電池。
【請求項8】
請求項1~7のいずれか1項に記載の非水系二次電池の製造方法であって、
1時間で設定容量を放電できる電流量を1Cとした時に、0.1C以上の充電速度で初回充電を行う工程を有する、非水系二次電池の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、非水系二次電池及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
リチウムイオン二次電池はモバイル機器向けに広く用いられてきたが、近年、自動車の電動化という世界的潮流の中、電気自動車向け電源としての用途が主流となってきている。車載用電池として用いられるにあたり、エネルギー密度の向上、及び長期サイクル性能だけでなく、高温耐久性、低温充放電特性といった、幅広い特性が求められている。このような中、高イオン導電性を有する電解液を用いること、安定した電極保護膜を形成する添加剤を電解液に加えること等により、前述の幅広い要求性能に対応する技術がいくつか報告されている。
【0003】
例えば、特許文献1には、高イオン伝導性のアセトニトリル電解液によって厚膜電極で作動する非水系二次電池が開示されている。また、複数の電極保護用添加剤を組み合わせることによって、SEI(Solid Electrolyte Interface)を強化するための方法が報告されている。同様に、特許文献2でも、特定の有機リチウム塩によってSEIが強化され、高イオン伝導性電解液の分解が抑制されることを報告している。特許文献3では、ビニレンカーボネートを含む非水系電解液にスルホン系添加剤を加えることによって、保存特性とサイクル性能に優れた非水系二次電池を得ることが記述されている。
【0004】
また特許文献4には、カーボネート系電解液にフェニル基を持つスルホン化合物を加えることで、サイクル特性、低温性能などに優れた非水系二次電池が得られることが示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】国際公開第2013/062056号
【特許文献2】国際公開第2012/057311号
【特許文献3】国際公開第2021/049648号
【特許文献4】特開2000-133305号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1~3のようなアセトニトリル含有電解液は、イオン伝導性は良好なものの、条件によっては、50℃といった高温貯蔵後のサイクル特性に課題がある可能性があった。
【0007】
特許文献4のようなカーボネート系電解液ではアセトニトリルのような高イオン伝導性の溶媒を含まないことからイオン伝導度が十分でない、という課題があった。
【0008】
本発明の課題は、50℃サイクル試験後の容量維持率の高いアセトニトリル含有非水系二次電池及びその製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は上記事情を鑑みてなされており、検討の結果、以下の構成要素を具備することによって上記課題を解決できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0010】
すなわち、本発明の一態様は下記のとおりのものである。
[1]
正極と負極と非水系電解液とを備える非水系二次電池であって、
前記非水系電解液が、アセトニトリルを含む非水系溶媒と、リチウム塩と、
下記一般式(1):
【化1】
{式中、R
1及びR
2はそれぞれ独立して、ハロゲン基、又はハロゲン原子で置換されていてもよいアルキル基を示す。)で表されるスルホン化合物と、を含み、
前記スルホン化合物の含有量が前記非水系電解液の全量に対して、0.1質量%以上3質量%以下であり、
25℃における前記非水系電解液のイオン伝導度が12mS/cm以上30mS/cm以下でありであり、
下記式(1-1):
10秒放電DCIR=(放電開始後10秒間の電圧変化)/(放電開始後10秒間の放電電流値) ・・・式(1-1)
で表される10秒放電DCIRについて、85℃及び12時間の貯蔵前後での下記式(1-2):
10秒放電DCIR変化率=(85℃貯蔵後10秒放電DCIR)/(85℃貯蔵前10秒放電DCIR) ・・・式(1-2)
で表される10秒放電DCIR変化率が0超え1.3以下である、
非水系二次電池。
[2]
前記非水系溶媒の全量に対してビニレンカーボネートが2体積%未満である、[1]に記載の非水系二次電池。
[3]
前記非水系電解液中の非水系溶媒の全量に対して、前記アセトニトリルの含有量が20~60体積%である、[1]又は[2]に記載の非水系二次電池。
[4]
前記リチウム塩がリチウム含有イミド塩と六フッ化リン酸リチウム(LiPF
6)からなる群から選ばれる少なくとも一種である、[1]~[3]のいずれか1項に記載の非水系二次電池。
[5]
前記一般式(1)で示されるスルホン化合物としてジフェニルスルホンを含む、[1]~[4]のいずれか1項に記載の非水系二次電池。
[6]
前記正極は、正極活物質としてリチウムイオンを吸蔵及び放出することが可能な材料からなる群より選ばれる1種以上の材料を含有し、前記負極は、負極活物質としてリチウムイオンを吸蔵及び放出することが可能な材料と、金属リチウムと、からなる群より選ばれる1種以上の材料を含有する、[1]~[5]のいずれか1項に記載の非水系二次電池。
[7]
前記正極活物質がリチウムと遷移金属の複合酸化物であり、負極活物質が黒鉛である、[6]に記載の非水系二次電池。
[8]
[1]~[7]のいずれか1項に記載の非水系二次電池の製造方法であって、
1時間で設定容量を放電できる電流量を1Cとした時に、0.1C以上の充電速度で初回充電を行う工程を有する、非水系二次電池の製造方法。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、50℃サイクル試験後の容量維持率の高いアセトニトリル含有非水系二次電池及びその製造方法を提供することができる。
また、本発明の好ましい態様によれば、ジフェニルスルホン置換体の添加によって高温下でも十分な負極保護機能があり、高温貯蔵後の50℃サイクル試験においてサイクル初期の容量維持率が安定しており、かつ容量維持率の高い非水系二次電池及びその製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】本実施形態の非水系二次電池の一例を概略的に示す平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明を実施するための形態(以下、単に「本実施形態」という。)について詳細に説明する。なお、本明細書において「~」を用いて記載される数値範囲は、その前後に記載される数値を含む。本明細書において、段階的な記載の数値範囲における、ある数値範囲で記載された上限値又は下限値は、他の段階的な記載における数値範囲の上限値又は下限値に置き換えることができる。本明細書において、ある数値範囲で記載された上限値又は下限値は、実施例に記載の値に置き換えることもできる。図面の各部における、縮尺、形状及び長さは、明確性を更に図るため誇張して示されている場合がある。
【0014】
本実施形態の一態様は、
正極と負極と非水系電解液とを備える非水系二次電池であって、
非水系電解液が、アセトニトリルを含む非水系溶媒と、リチウム塩と、
下記一般式(1):
【化2】
{式中、R
1及びR
2はそれぞれ独立して、ハロゲン基、又はハロゲン原子で置換されていてもよいアルキル基を示す。)で表されるスルホン化合物と、を含み、
スルホン化合物の含有量が非水系電解液の全量に対して、0.1質量%以上3質量%以下であり、
25℃における非水系電解液のイオン伝導度が12mS/cm以上30mS/cm以下であり、
下記式(1-1):
10秒放電DCIR=(放電開始後10秒間の電圧変化)/(放電開始後10秒間の放電電流値) ・・・式(1-1)
で表される10秒放電DCIRについて、85℃及び12時間の貯蔵前後での下記式(1-2):
10秒放電DCIR変化率=(85℃貯蔵後10秒放電DCIR)/(85℃貯蔵前10秒放電DCIR) ・・・式(1-2)
で表される10秒放電DCIR変化率が0超え1.3以下である、非水系二次電池である。
これによれば、50℃サイクル試験後の容量維持率の高いアセトニトリル含有非水系二次電池を提供することができる。
<非水系二次電池>
本実施形態の非水系二次電池は、正極及び負極と共に上記非水系電解液を備える二次電池であり、例えば、リチウムイオン電池であってよく、より具体的には、
図1に概略的に平面図を、かつ
図2に概略的に断面図を示すリチウムイオン電池であってよい。
図1、2に示されるリチウムイオン電池100は、セパレータ170と、そのセパレータ170を両側から挟む正極150と負極160と、更にそれら(セパレータ170、正極150及び負極160)の積層体を挟む正極リード体130(正極150に接続)と、負極リード体140(負極160に接続)と、それらを収容する電池外装110とを備える。正極150とセパレータ170と負極160とを積層した積層体は、本実施形態に係る非水系電解液に含浸されている。
【0015】
<1.非水系電解液>
本実施形態における「非水系電解液」とは、アセトニトリルを含む非水系溶媒と、リチウム塩と、所定のスルホン化合物と、を含有する非水系電解液を指す。本実施形態に係る非水系電解液は、水分を極力含まないことが好ましいが、本発明の課題解決を阻害しない範囲であれば、ごく微量の水分を含有してよい。そのような水分の含有量は、非水系電解液の全量当たりの量として水が1質量%以下であり、また、300質量ppm以下であり、好ましくは200質量ppm以下である。非水系電解液については、本発明の課題解決を達成するための構成を具備していれば、その他の構成要素については、リチウムイオン電池に用いられる既知の非水系電解液における構成材料を、適宜選択して適用することができる。
【0016】
<1-1.非水系溶媒>
本実施形態でいう「非水系溶媒」とは、非水系電解液中から、リチウム塩、所定のスルホン化合物及び各種添加剤を除いた要素をいう。非水系電解液に電極保護用添加剤が含まれている場合、「非水系溶媒」とは、非水系電解液中から、リチウム塩と、所定のスルホン化合物と、電極保護用添加剤以外の添加剤とを除いた要素をいう。非水系溶媒としては、例えば、メタノール、エタノール等のアルコール類;非プロトン性溶媒等が挙げられる。中でも、非水系溶媒としては、非プロトン性溶媒が好ましい。本発明の課題解決を阻害しない範囲であれば、非水系溶媒は、非プロトン性溶媒以外の溶媒を含有してよい。
【0017】
本実施形態の非水系電解液に係る非水系溶媒は、非プロトン性溶媒としてアセトニトリルを含有する。非水系溶媒がアセトニトリルを含有することにより、非水系電解液のイオン伝導性が向上することから、電池内におけるリチウムイオンの拡散性を高めることができる。そのため、非水系電解液がアセトニトリルを含有する場合、特に正極活物質層を厚くして正極活物質の充填量を高めた正極においても、高負荷での放電時にはリチウムイオンが到達し難い集電体近傍の領域にまで、リチウムイオンが良好に拡散できるようになる。それにより、高負荷放電時にも十分な容量を引き出すことが可能となり、負荷特性に優れた非水系二次電池を得ることができる。
アセトニトリルを含有しないカーボネート系溶媒の場合、アセトニトリルのような高イオン伝導性の溶媒を含まないことからイオン伝導度が十分でなく、充放電速度はリチウムイオンの移動が追随できる範囲に限られる。
【0018】
また、非水系溶媒がアセトニトリルを含有することにより、非水系二次電池の急速充電特性を高めることができる。非水系二次電池の定電流(CC)-定電圧(CV)充電では、CV充電期間における単位時間当たりの充電容量よりも、CC充電期間における単位時間当たりの容量の方が大きい。非水系電解液の非水系溶媒にアセトニトリルを使用する場合、CC充電できる領域を大きく(CC充電の時間を長く)できる他、充電電流を高めることもできるため、非水系二次電池の充電開始から満充電状態にするまでの時間を大幅に短縮できる。
【0019】
なお、アセトニトリルは、電気化学的に還元分解され易い。そのため、アセトニトリルを用いる場合、非水系溶媒としてアセトニトリルとともに他の溶媒(例えば、アセトニトリル以外の非プロトン性溶媒)を併用すること、及び/又は、電極への保護被膜形成のための電極保護用添加剤を添加することが好ましい。
【0020】
非水系溶媒におけるアセトニトリルの含有量は、非水系溶媒の全量に対して10~60体積%であることが好ましい。アセトニトリルの含有量の上限は、非水系溶媒の全量に対して、50体積%以下であることがより好ましく、40体積%以下であることが更に好ましい。アセトニトリルの含有量の下限は、非水系溶媒の全量に対して、20体積%以上であることがより好ましい。アセトニトリルの含有量の下限が、上記の範囲内にある場合、非水系電解液のイオン伝導度が増大して、非水系二次電池の高出力特性を発現できる傾向にあり、更に、リチウム塩の溶解を促進することができる。また、非水系溶媒中のアセトニトリルの含有量が上記の範囲内にある場合、アセトニトリルの優れた性能を維持しながら、非水系二次電池の高温サイクル特性及びその他の電池特性を一層良好なものとすることができる傾向にある。
【0021】
アセトニトリル以外の非プロトン性溶媒としては、例えば、環状カーボネート、ラクトン、硫黄原子を有する有機化合物、鎖状フッ素化カーボネート、環状エーテル、アセトニトリル以外のモノニトリル、アルコキシ基置換ニトリル、ジニトリル、環状ニトリル、短鎖脂肪酸エステル、鎖状エーテル、フッ素化エーテル、ケトン、前記非プロトン性溶媒のH原子の一部又は全部をハロゲン原子で置換した化合物等が挙げられる。
【0022】
非水系溶媒の一成分であるアセトニトリルは電気化学的に還元分解され易いため、本実施形態に係る非水系電解液は、非水系溶媒において、アセトニトリルに加えて、特定のスルホン化合物を含有する。
【0023】
本実施形態に係る非水系溶媒が、アセトニトリルと、スルホン系化合物とを含み、好ましくは環状カーボネートとしてエチレンカーボネートを更に含むことで、非水系溶媒の全量に対してビニレンカーボネートが2体積%未満であるとしても(例えば、非水系電解液がビニレンカーボネートを含まずとも)、非水系電解液が非水系二次電池に使用されるときに、熱耐久性の高いSEIを形成し、負極の劣化を抑制する。
特許文献1~3のようなアセトニトリル含有電解液では、従来フルオロエチレンカーボネート(FEC)又はビニレンカーボネート(VC)を用いたSEI形成が行われている。他方、これらの電解液では高温状態においてSEIが熱分解し、負極保護効果を失うため、条件によっては、高温条件後のサイクル特性が不安定化するという可能性が生じる。またVC自体も高温時に電池内で分解してしまう場合、電池性能を低下させる課題が生じる可能性がある。よって、非水系溶媒の全量に対してビニレンカーボネートが2体積%未満であることが好ましく、例えば、前記非水系電解液中にビニレンカーボネートを含まないことが好ましい。
【0024】
環状カーボネートとしては、例えば、エチレンカーボネート、プロピレンカーボネート、1,2-ブチレンカーボネート、トランス-2,3-ブチレンカーボネート、シス-2,3-ブチレンカーボネート、1,2-ペンチレンカーボネート、トランス-2,3-ペンチレンカーボネート、シス-2,3-ペンチレンカーボネート;
【0025】
ラクトンとしては、γ-ブチロラクトン、α-メチル-γ-ブチロラクトン、γ-バレロラクトン、γ-カプロラクトン、δ-バレロラクトン、δ-カプロラクトン、及びε-カプロラクトン;
【0026】
鎖状カーボネートとしては、例えば、エチルメチルカーボネート、ジメチルカーボネート、ジエチルカーボネート、メチルプロピルカーボネート、メチルイソプロピルカーボネート、ジプロピルカーボネート、メチルブチルカーボネート、ジブチルカーボネート、エチルプロピルカーボネート、ジイソブチルカーボネート;
【0027】
環状エーテルとしては、例えば、テトラヒドロフラン、2-メチルテトラヒドロフラン、1,4-ジオキサン、及び1,3-ジオキサン;
【0028】
アセトニトリル以外のモノニトリルとしては、例えば、プロピオニトリル、ブチロニトリル、バレロニトリル、ベンゾニトリル、及びアクリロニトリル;
【0029】
アルコキシ基置換ニトリルとしては、例えば、メトキシアセトニトリル及び3-メトキシプロピオニトリル;
【0030】
ジニトリルとしては、例えば、マロノニトリル、スクシノニトリル、グルタロニトリル、アジポニトリル、1,4-ジシアノヘプタン、1,5-ジシアノペンタン、1,6-ジシアノヘキサン、1,7-ジシアノヘプタン、2,6-ジシアノヘプタン、1,8-ジシアノオクタン、2,7-ジシアノオクタン、1,9-ジシアノノナン、2,8-ジシアノノナン、1,10-ジシアノデカン、1,6-ジシアノデカン、及び2,4-ジメチルグルタロニトリル;
【0031】
環状ニトリルとしては、例えば、ベンゾニトリル;
【0032】
短鎖脂肪酸エステルとしては、例えば、酢酸メチル、プロピオン酸メチル、イソ酪酸メチル、酪酸メチル、イソ吉草酸メチル、吉草酸メチル、ピバル酸メチル、ヒドロアンゲリカ酸メチル、カプロン酸メチル、酢酸エチル、プロピオン酸エチル、イソ酪酸エチル、酪酸エチル、イソ吉草酸エチル、吉草酸エチル、ピバル酸エチル、ヒドロアンゲリカ酸エチル、カプロン酸エチル、酢酸プロピル、プロピオン酸プロピル、イソ酪酸プロピル、酪酸プロピル、イソ吉草酸プロピル、吉草酸プロピル、ピバル酸プロピル、ヒドロアンゲリカ酸プロピル、カプロン酸プロピル、酢酸イソプロピル、プロピオン酸イソプロピル、イソ酪酸イソプロピル、酪酸イソプロピル、イソ吉草酸イソプロピル、吉草酸イソプロピル、ピバル酸イソプロピル、ヒドロアンゲリカ酸イソプロピル、カプロン酸イソプロピル、酢酸ブチル、プロピオン酸ブチル、イソ酪酸ブチル、酪酸ブチル、イソ吉草酸ブチル、吉草酸ブチル、ピバル酸ブチル、ヒドロアンゲリカ酸ブチル、カプロン酸ブチル、酢酸イソブチル、プロピオン酸イソブチル、イソ酪酸イソブチル、酪酸イソブチル、イソ吉草酸イソブチル、吉草酸イソブチル、ピバル酸イソブチル、ヒドロアンゲリカ酸イソブチル、カプロン酸イソブチル、酢酸tert-ブチル、プロピオン酸tert-ブチル、イソ酪酸tert-ブチル、酪酸tert-ブチル、イソ吉草酸tert-ブチル、吉草酸tert-ブチル、ピバル酸tert-ブチル、ヒドロアンゲリカ酸tert-ブチル、及びカプロン酸tert-ブチル;
【0033】
鎖状エーテルとしては、例えば、ジメトキシエタン、ジエチルエーテル、1,3-ジオキソラン、ジグライム、トリグライム、及びテトラグライム;
【0034】
フッ素化エーテルとしては、例えば、Rf20-OR21(式中、Rf20は、フッ素原子を含有するアルキル基を表し、かつR7は、フッ素原子を含有してよい1価の有機基を表す。);
【0035】
ケトンとしては、例えば、アセトン、メチルエチルケトン、及びメチルイソブチルケトン;
【0036】
前記非プロトン性溶媒のH原子の一部又は全部をハロゲン原子で置換した化合物としては、例えば、ハロゲン原子がフッ素である化合物;
を挙げることができる。
【0037】
ここで、鎖状カーボネートのフッ素化物としては、例えば、メチルトリフルオロエチルカーボネート、トリフルオロジメチルカーボネート、トリフルオロジエチルカーボネート、トリフルオロエチルメチルカーボネート、メチル2,2-ジフルオロエチルカーボネート、メチル2,2,2-トリフルオロエチルカーボネート、メチル2,2,3,3-テトラフルオロプロピルカーボネートが挙げられる。上記のフッ素化鎖状カーボネートは、下記の一般式:
R7-O-C(O)O-R8
{式中、R7及びR8は、CH3、CH2CH3、CH2CH2CH3、CH(CH3)2、及びCH2Rf9から成る群より選択される少なくとも一つであり、Rf9は、少なくとも1つのフッ素原子で水素原子が置換された炭素数1~3のアルキル基であり、そしてR7及び/又はR8は、少なくとも1つのフッ素原子を含有する。}
で表すことができる。
【0038】
また、短鎖脂肪酸エステルのフッ素化物としては、例えば、酢酸2,2-ジフルオロエチル、酢酸2,2,2-トリフルオロエチル、酢酸2,2,3,3-テトラフルオロプロピルに代表されるフッ素化短鎖脂肪酸エステルが挙げられる。フッ素化短鎖脂肪酸エステルは、下記の一般式:
R10-C(O)O-R11
{式中、R10は、CH3、CH2CH3、CH2CH2CH3、CH(CH3)2、CF3CF2H、CFH2、CF2Rf12、CFHRf12、及びCH2Rf13から成る群より選択される少なくとも一つであり、R11は、CH3、CH2CH3、CH2CH2CH3、CH(CH3)2、及びCH2Rf13から成る群より選択される少なくとも一つであり、Rf12は、少なくとも1つのフッ素原子で水素原子が置換されてよい炭素数1~3のアルキル基であり、Rf13は、少なくとも1つのフッ素原子で水素原子が置換された炭素数1~3のアルキル基であり、そしてR10及び/又はR11は、少なくとも1つのフッ素原子を含有し、R10がCF2Hである場合、R11はCH3ではない。}
で表すことができる。
【0039】
本実施形態におけるアセトニトリル以外の非プロトン性溶媒は、1種を単独で使用することができ、又は2種以上を組み合わせて使用してよい。
【0040】
本実施形態における非水系溶媒は、アセトニトリルとともに、環状カーボネート及び鎖状カーボネートのうちの1種以上を併用することが、非水系電解液の安定性向上の観点から好ましい。この観点から、本実施形態における非水系溶媒は、アセトニトリルとともに環状カーボネートを併用することがより好ましく、アセトニトリルとともに環状カーボネート及び鎖状カーボネートの双方を使用することが、更に好ましい。
【0041】
アセトニトリルとともに環状カーボネートを使用する場合、かかる環状カーボネートが、エチレンカーボネートを含むことが特に好ましい。
【0042】
<1-2.リチウム塩>
本実施形態の非水系電解液はLiPF6を含むことが好ましく、その他のリチウム塩について特に限定するものではない。例えば、リチウム塩として、LiPF6及びリチウム含有イミド塩からなる群から選ばれる少なくとも一種を含むことが好ましい。これによれば、本発明の効果を奏し易い。
【0043】
リチウム含有イミド塩とは、LiN(SO2CmF2m+1)2〔式中、mは0~8の整数である〕で表されるリチウム塩であり、具体的には、LiN(SO2F)2、及びLiN(SO2CF3)2のうち少なくとも1種を含むことが好ましい。これらイミド塩の一方のみ含んでも両方含んでもよい。これらのイミド塩以外のイミド塩を含んでよい。
【0044】
非水系溶媒にアセトニトリルが含まれる本実施形態では、アセトニトリルに対するリチウム含有イミド塩の飽和濃度がLiPF6の飽和濃度よりも高いことから、LiPF6≦リチウム含有イミド塩となるモル濃度でリチウム含有イミド塩を含むことが、低温でのリチウム塩とアセトニトリルの会合及び析出を抑制できるため好ましい。また、リチウム含有イミド塩の含有量が、非水系溶媒1Lに対して0.5mol以上3mol以下であることがイオン供給量の観点から好ましい。LiN(SO2F)2、及びLiN(SO2CF3)2のうち少なくとも1種を含むアセトニトリル含有非水系電解液によれば、-10℃又は-30℃のような低温域でのイオン伝導率の低減を効果的に抑制でき、優れた低温特性を得ることができる。このように、含有量を限定することで、より効果的に、高温加熱時の抵抗増加を抑制することも可能となる。
【0045】
また、リチウム塩として、LiPF6以外のフッ素含有無機リチウム塩を更に含んでもよく、例えば、LiBF4、LiAsF6、Li2SiF6、LiSbF6、Li2B12FbH12-b〔式中、bは0~3の整数である〕、等のフッ素含有無機リチウム塩を含んでもよい。「無機リチウム塩」とは、炭素原子をアニオンに含まず、アセトニトリルに可溶なリチウム塩をいう。また、「フッ素含有無機リチウム塩」とは、炭素原子をアニオンに含まず、フッ素原子をアニオンに含み、アセトニトリルに可溶なリチウム塩をいう。フッ素含有無機リチウム塩は、正極集電体である金属箔の表面に不働態被膜を形成し、正極集電体の腐食を抑制する点で優れている。これらのフッ素含有無機リチウム塩は、1種を単独で又は2種以上を組み合わせて用いられる。フッ素含有無機リチウム塩として、LiFとルイス酸との複塩である化合物が望ましく、中でも、リン原子を有するフッ素含有無機リチウム塩を用いると、遊離のフッ素原子を放出し易くなることからより好ましい。代表的なフッ素含有無機リチウム塩は、溶解してPF6アニオンを放出するLiPF6である。フッ素含有無機リチウム塩として、ホウ素原子を有するフッ素含有無機リチウム塩を用いた場合には、電池劣化を招くおそれのある過剰な遊離酸成分を捕捉し易くなることから好ましく、このような観点からはLiBF4が特に好ましい。
【0046】
本実施形態の非水系電解液におけるフッ素含有無機リチウム塩の含有量については、特に制限はないが、非水系溶媒1Lに対して0.01mol以上であることが好ましく、0.02mol以上であることがより好ましく、0.03mol以上であることが更に好ましい。フッ素含有無機リチウム塩の含有量が上述の0.01mol以上の範囲内にある場合、イオン伝導度が増大し、高出力特性を発現できる傾向にある。また、フッ素含有無機リチウム塩の含有量は、非水系溶媒1Lに対して1.5mol未満であることが好ましく、0.5mol未満であることがより好ましく、0.1mol未満であることが更に好ましい。フッ素含有無機リチウム塩の含有量が上述の1.5mol未満の範囲内にある場合、イオン伝導度が増大し、高出力特性を発現できると共に、低温での粘度上昇に伴うイオン伝導度の低下を抑制できる傾向にあり、非水系電解液の優れた性能を維持しながら、非水系二次電池の高温サイクル特性及びその他の電池特性を一層良好なものとすることができる傾向にある。
【0047】
本実施形態の非水系電解液は、更に、有機リチウム塩を含んでいてもよい。「有機リチウム塩」とは、炭素原子をアニオンに含み、アセトニトリルに可溶なリチウム塩をいう。
【0048】
有機リチウム塩としては、シュウ酸基を有する有機リチウム塩を挙げることができる。シュウ酸基を有する有機リチウム塩の具体例としては、例えば、LiB(C2O4)2、LiBF2(C2O4)、LiPF4(C2O4)、及びLiPF2(C2O4)2のそれぞれで表される有機リチウム塩等が挙げられ、中でもLiB(C2O4)2及びLiBF2(C2O4)で表されるリチウム塩から選ばれる少なくとも1種のリチウム塩が好ましい。また、これらのうちの1種又は2種以上を、フッ素含有無機リチウム塩と共に使用することがより好ましい。このシュウ酸基を有する有機リチウム塩は、非水系電解液に添加する他、負極(負極活物質層)に含有させてもよい。
【0049】
シュウ酸基を有する有機リチウム塩の非水系電解液への添加量は、その使用による効果をより良好に確保する観点から、非水系電解液の非水系溶媒1L当たりの量として、0.005モル以上であることが好ましく、0.02モル以上であることがより好ましく、0.05モル以上であることが更に好ましい。ただし、上記シュウ酸基を有する有機リチウム塩の非水系電解液中の量が多すぎると析出する恐れがある。よって、上記シュウ酸基を有する有機リチウム塩の非水系電解液への添加量は、非水系電解液の非水系溶媒1L当たりの量で、1.0モル未満であることが好ましく、0.5モル未満であることがより好ましく、0.2モル未満であることが更に好ましい。
【0050】
シュウ酸基を有する有機リチウム塩は、極性の低い有機溶媒、特に鎖状カーボネートに対して難溶性であることが知られている。シュウ酸基を有する有機リチウム塩は、微量のシュウ酸リチウムを含有している場合があり、更に、非水系電解液として混合するときにも、他の原料に含まれる微量の水分と反応して、シュウ酸リチウムの白色沈殿を新たに発生させる場合がある。従って、本実施形態の非水系電解液におけるシュウ酸リチウムの含有量は、特に限定するものでないが、0~500ppmであることが好ましい。
【0051】
本実施形態におけるリチウム塩として、上記で列挙されたもの以外に、一般に非水系二次電池用に用いられているリチウム塩を補助的に添加してもよい。その他のリチウム塩の具体例としては、例えば、LiClO4、LiAlO4、LiAlCl4、LiB10Cl10、クロロボランLi等のフッ素原子をアニオンに含まない無機リチウム塩;LiCF3SO3、LiCF3CO2、Li2C2F4(SO3)2、LiC(CF3SO2)3、LiCnF(2n+1)SO3{式中、n≧2}、低級脂肪族カルボン酸Li、四フェニルホウ酸Li、LiB(C3O4H2)2等の有機リチウム塩;LiPF5(CF3)等のLiPFn(CpF2p+1)6-n〔式中、nは1~5の整数であり、かつpは1~8の整数である〕で表される有機リチウム塩;LiBF3(CF3)等のLiBFq(CsF2s+1)4-q〔式中、qは1~3の整数であり、かつsは1~8の整数である〕で表される有機リチウム塩;多価アニオンと結合されたリチウム塩;
下記式(a):
LiC(SO2RA)(SO2RB)(SO2RC) (a)
{式中、RA、RB、及びRCは、互いに同一であっても異なっていてもよく、炭素数1~8のパーフルオロアルキル基を示す。}、
下記式(b):
LiN(SO2ORD)(SO2ORE) (b)
{式中、RD、及びREは、互いに同一であっても異なっていてもよく、炭素数1~8のパーフルオロアルキル基を示す。}、及び
下記式(c)
LiN(SO2RF)(SO2ORG) (c)
{式中、RF、及びRGは、互いに同一であっても異なっていてもよく、炭素数1~8のパーフルオロアルキル基を示す。}
のそれぞれで表される有機リチウム塩等が挙げられ、これらのうちの1種又は2種以上を、フッ素含有無機リチウム塩と共に使用することができる。
【0052】
<1-3.スルホン化物>
本実施形態に係る非水系電解液は、上記で説明された非水系溶媒及びリチウム塩以外に
下記一般式(1):
【化3】
{式中、R
1及びR
2はそれぞれ独立して、ハロゲン基、又はハロゲン原子で置換されていてもよいアルキル基を示す。)で表されるスルホン化合物を含む。
【0053】
前記式(1)で表されるスルホン化合物は、フェニル基のおけるラジカル重合反応によってポリマーを形成することで負極表面に保護膜を形成する。フェニル基への官能基の置換はスルホンの反応性を変化させる。そのような化合物の例としては、ジフェニルスルホン、ジクロロジフェニルスルホン、ジフルオロジフェニルスルホン、ジトリルスルホン、ジエチルジフェニルスルホン、ジ-n-ブチルスルホン、ジ-iso-ブチルスルホンなどがある。中でも、立体障害が小さくSEI構築を妨げない観点から、ジフェニルスルホンが好ましい。
【0054】
本実施形態における前記式(1)で表されるスルホン化合物の含有量については、非水系電解液の全量に対して、0.1質量%以上3質量%以下の範囲内である。前記式(1)で表されるスルホン化合物の含有量の下限は、非水系電解液の全量に対して0.3質量%が好ましく、より好ましくは0.5質量%以上である。また、スルホン化合物の含有量の上限は、非水系電解液の全量に対して、内部抵抗を抑制する観点から、2質量%以下であることがより好ましい。前記式(1)で表されるスルホン化合物の含有量を上述の範囲内に調整することによって、非水系二次電池としての基本的な機能を損なうことなく、より一層良好な電池特性を付加することができる傾向にあり、かつ、本発明の効果を奏し易い。
【0055】
<イオン伝導度>
本実施形態の非水系電解液は、25℃におけるイオン伝導度が12mS/cm以上である。イオン伝導度が12mS/cm以上であることで、高出力特性を十分に発現できる。イオン伝導度は、実施例表に記載の各種の原料、及びその含有量等を調整することで制御でき、その上限は、例えば30mS/cmでよい。イオン伝導度は、例えば、下記手法:
TOADKK(株)製電気伝導計CM-41M(商品名)にTOADKK(株)製白金電気伝導率セルCT-58101B(商品名)を接続し、25℃条件下で電解液5mLに電気伝導セルを漬け、その時の伝導度を確認することによって測定可能である。
【0056】
<10秒放電DCIR及び10秒放電DCIR変化率>
本実施形態の非水系電解液は、下記式(1-1):
10秒放電DCIR=(放電開始後10秒間の電圧変化)/(放電開始後10秒間の放電電流値) ・・・式(1-1)
で表される10秒放電DCIRについて、85℃及び12時間の貯蔵前後での下記式(1-2):
10秒放電DCIR変化率=(85℃貯蔵後10秒放電DCIR)/(85℃貯蔵前10秒放電DCIR) ・・・式(1-2)
で表される10秒放電DCIR変化率が0超え1.3以下である。
【0057】
ここで、10秒放電DCIR変化率が0超え1.3以下であることは、85℃及び12時間の熱履歴に対しても、負極の劣化を抑制でき、そして、副反応を抑制できることを意味する。10秒放電DCIR及び10秒放電DCIR変化率の具体的な測定手法は、実施例に記載のとおりである。
【0058】
<その他の電極保護用添加剤>
その他の電極保護用添加剤としては、本発明による課題解決を阻害しないものであれば特に制限はなく、リチウム塩を溶解する溶媒としての役割を担う物質(すなわち上述の非水系溶媒)と実質的に重複してもよい(但し、アセトニトリル、及びスルホン化合物を除く)。電極保護用添加剤は、本実施形態における非水系電解液及び非水系二次電池の性能向上に寄与する物質であることが好ましいが、電気化学的な反応には直接関与しない物質をも包含する。
【0059】
その他の電極保護用添加剤の具体例としては、例えば、γ-ブチロラクトン、γ-バレロラクトン、γ-カプロラクトン、δ-バレロラクトン、δ-カプロラクトン、及びε-カプロラクトンに代表されるラクトン;1,4-ジオキサンに代表される環状エーテル;無水酢酸、無水プロピオン酸、無水安息香酸に代表される鎖状酸無水物;マロン酸無水物、無水コハク酸、グルタル酸無水物、無水マレイン酸、無水フタル酸、1,2-シクロヘキサンジカルボン酸無水物、2,3-ナフタレンジカルボン酸無水物、又は、ナフタレン-1,4,5,8-テトラカルボン酸二無水物に代表される環状酸無水物;異なる2種類のカルボン酸等、違う種類の酸が脱水縮合した構造の混合酸無水物が挙げられる。これらは1種を単独で又は2種以上を組み合わせて用いられる。
【0060】
本実施形態における非水系電解液中の電極保護用添加剤の含有量については、特に制限はないが、非水系溶媒の全量に対する電極保護用添加剤の含有量として、0.1~30体積%であることが好ましく、0.3~15体積%であることがより好ましく、0.5~4体積%であることが更に好ましい。
【0061】
本実施形態においては、電極保護用添加剤の含有量が多いほど非水系電解液の劣化が抑えられる。しかし、電極保護用添加剤の含有量が少ないほど非水系二次電池の低温環境下における高出力特性が向上することになる。従って、電極保護用添加剤の含有量を上述の範囲内に調整することによって、非水系二次電池としての基本的な機能を損なうことなく、非水系電解液の高イオン伝導度に基づく優れた性能を最大限に発揮することができる傾向にある。このような組成で非水系電解液を調製することにより、非水系二次電池のサイクル性能、低温環境下における高出力性能及びその他の電池特性の全てを一層良好なものとすることができる傾向にある。
【0062】
<その他の任意的添加剤>
本実施形態においては、非水系二次電池の充放電サイクル特性の改善、高温貯蔵性、安全性の向上(例えば過充電防止等)等の目的で、非水系電解液に、例えば、スルホン酸エステル、ジフェニルジスルフィド、シクロヘキシルベンゼン、ビフェニル、フルオロベンゼン、tert-ブチルベンゼン、リン酸エステル〔エチルジエチルホスホノアセテート(EDPA):(C2H5O)2(P=O)-CH2(C=O)OC2H5、リン酸トリス(トリフルオロエチル)(TFEP):(CF3CH2O)3P=O、リン酸トリフェニル(TPP):(C6H5O)3P=O:(CH2=CHCH2O)3P=O、リン酸トリアリル等〕、非共有電子対周辺に立体障害のない窒素含有環状化合物〔ピリジン、1-メチル-1H-ベンゾトリアゾール、1-メチルピラゾール等〕等、及びこれらの化合物の誘導体等から選択される任意的添加剤を、適宜含有させることもできる。特にリン酸エステルは、貯蔵時の副反応を抑制する作用があり、効果的である。
【0063】
本実施形態におけるその他の任意的添加剤の含有量は、非水系電解液を構成する全ての成分の合計質量に対する質量百分率にて算出される。その他の任意的添加剤の含有量について、特に制限はないが、非水系電解液の全量に対し、0.01質量%以上10質量%以下の範囲であることが好ましく、0.02質量%以上5質量%以下であることがより好ましく、0.05質量%以上3質量%以下であることが更に好ましい。その他の任意的添加剤の含有量を上述の範囲内に調整することによって、非水系二次電池としての基本的な機能を損なうことなく、より一層良好な電池特性を付加することができる傾向にある。
【0064】
<2.正極及び正極集電体>
図1,2に示される正極150は、正極合剤から作製した正極活物質層と、正極集電体とから構成される。正極150は、非水系二次電池の正極として作用するものであれば特に限定されず、公知のものであってもよい。本発明における正極活物質は、リチウムと遷移金属の複合酸化物であることが好ましく、好ましくはニッケル(Ni)を相対的に高い比率で含有する。
【0065】
正極活物質層は、正極活物質を含有し、必要に応じて導電助剤及びバインダーを更に含有することが好ましい。
【0066】
正極活物質層は、正極活物質として、リチウムイオンを吸蔵及び放出することが可能な材料を含有することが好ましい。このような材料を用いる場合、高電圧及び高エネルギー密度を得ることができる傾向にあるので好ましい。
【0067】
正極活物質としては、例えば、Ni、Mn、及びCoから成る群より選ばれる少なくとも1種の遷移金属元素を含有する正極活物質が挙げられ、下記一般式(a):
LipNiqCorMnsMtOu ・・・(a)
{式中、Mはアルミニウム(Al)、スズ(Sn)、インジウム(In)、鉄(Fe)、バナジウム(V)、銅(Cu)、マグネシウム(Mg)、チタン(Ti)、亜鉛(Zn)、モリブデン(Mo)、ジルコニウム(Zr)、ストロンチウム(Sr)、及びバリウム(Ba)から成る群から選ばれる少なくとも1種の金属であり、且つ、0<p<1.3、0<q<1.2、0<r<1.2、0≦s<0.5、0≦t<0.3、0.7≦q+r+s+t≦1.2、1.8<u<2.2の範囲であり、そしてpは、電池の充放電状態により決まる値である。}
で表されるリチウム(Li)含有金属酸化物から選ばれる少なくとも1種のLi含有金属酸化物が好適である。
【0068】
正極活物質の具体例としては、例えば、LiCoO2に代表されるリチウムコバルト酸化物;LiMnO2、LiMn2O4、及びLi2Mn2O4に代表されるリチウムマンガン酸化物;LiNiO2に代表されるリチウムニッケル酸化物;LiNi1/3Co1/3Mn1/3O2、LiNi0.5Co0.2Mn0.3O2、LiNi0.8Co0.2O2に代表されるLizMO2(式中、Mは、Ni、Mn、及びCoから成る群より選ばれる少なくとも1種の遷移金属元素を含み、且つ、Ni、Mn、Co、Al、及びMgから成る群より選ばれる2種以上の金属元素を示し、zは0.9超1.2未満の数を示す)で表されるリチウム含有複合金属酸化物等が挙げられる。
【0069】
特に、一般式(a)で表されるLi含有金属酸化物のNi含有比qが、0.5<q<1.2である場合には、レアメタルであるCoの使用量削減と、高エネルギー密度化の両方が達成されるため好ましい。そのような正極活物質としては、例えば、LiNi0.6Co0.2Mn0.2O2、LiNi0.75Co0.15Mn0.15O2、LiNi0.8Co0.1Mn0.1O2、LiNi0.85Co0.075Mn0.075O2、LiNi0.8Co0.15Al0.05O2、LiNi0.81Co0.1Al0.09O2、LiNi0.85Co0.1Al0.05O2、等に代表されるリチウム含有複合金属酸化物が挙げられる。
【0070】
他方、正極活物質層においてNi含有比が高まるほど、低電圧で劣化が進行する傾向にある。一般式(a)で表されるLi含有金属酸化物の正極活物質には非水系電解液を酸化劣化させる活性点が本質的に存在するが、この活性点は、負極を保護するために添加した化合物を正極側で意図せず消費してしまうことがある。中でも、酸無水物はその影響を受け易い傾向にある。特に、非水系溶媒としてアセトニトリルを含有する場合には、酸無水物の添加効果は絶大であるが故に、正極側で酸無水物が消費されてしまうことは致命的な課題である。
【0071】
また、正極側に取り込まれ堆積したこれらの添加剤分解物は非水系二次電池の内部抵抗増加要因となるだけでなく、リチウム塩の劣化も加速させる。更に、本来の目的であった負極表面の保護も不十分となってしまう。非水系電解液を本質的に酸化劣化させる活性点を失活させるには、ヤーンテラー歪みの制御又は中和剤的な役割を担う成分の共存が重要である。そのため、正極活物質にはAl、Sn、In、Fe、V、Cu、Mg、Ti、Zn、Mo、Zr、Sr、Baから成る群より選ばれる少なくとも1種の金属を含有することが好ましい。
【0072】
同様の理由により、正極活物質の表面が、Zr、Ti、Al、及びNbから成る群より選ばれる少なくとも1種の金属元素を含有する化合物で被覆されていることが好ましい。また、正極活物質の表面が、Zr、Ti、Al、及びNbから成る群より選ばれる少なくとも1種の金属元素を含有する酸化物で被覆されていることがより好ましい。更に、正極活物質の表面が、ZrO2、TiO2、Al2O3、NbO3、及びLiNbO2から成る群より選ばれる少なくとも1種の酸化物で被覆されていることが、リチウムイオンの透過を阻害しないため特に好ましい。
【0073】
正極活物質は、式(a)で表されるLi含有金属酸化物以外のリチウム含有化合物でもよく、リチウムを含有するものであれば特に限定されない。このようなリチウム含有化合物としては、例えば、リチウムと遷移金属元素とを含む複合酸化物、リチウムを有する金属カルコゲン化物、リチウムと遷移金属元素とを含むリン酸金属化合物、及びリチウムと遷移金属元素とを含むケイ酸金属化合物が挙げられる。より高い電圧を得る観点から、リチウム含有化合物としては、特に、リチウムと、Co、Ni、Mn、Fe、Cu、Zn、Cr、V、及びTiから成る群より選ばれる少なくとも1種の遷移金属元素と、を含むリン酸金属化合物が好ましい。
リチウム含有化合物として、より具体的には、以下の式(Xa):
LivMID2 (Xa)
{式中、Dはカルコゲン元素を示し、MIは少なくとも1種の遷移金属元素を含む1種以上の遷移金属元素を示し、vの値は、電池の充放電状態により決まり、0.05~1.10の数を示す。}、
以下の式(Xb):
LiwMIIPO4 (Xb)
{式中、MIIは、少なくとも1種の遷移金属元素を含む1種以上の遷移金属元素を示し、wの値は、電池の充放電状態により決まり、0.05~1.10の数を示す。}、及び
以下の式(Xc):
LitMIII
uSiO4 (Xc)
{式中、MIIIは、少なくとも1種の遷移金属元素を含む1種以上の遷移金属元素を示し、tの値は、電池の充放電状態により決まり、0.05~1.10の数を示し、そしてuは0~2の数を示す。}
のそれぞれで表される化合物が挙げられる。
【0074】
上述の式(Xa)で表されるリチウム含有化合物は層状構造を有し、上述の式(Xb)及び(Xc)で表される化合物はオリビン構造を有する。これらのリチウム含有化合物は、構造を安定化させる等の目的から、Al、Mg、又はその他の遷移金属元素により遷移金属元素の一部を置換したもの、これらの金属元素を結晶粒界に含ませたもの、酸素原子の一部をフッ素原子等で置換したもの、正極活物質表面の少なくとも一部に他の正極活物質を被覆したもの等であってもよい。
【0075】
本実施形態における正極活物質としては、上記のようなリチウム含有化合物のみを用いてもよいし、該リチウム含有化合物と共にその他の正極活物質を併用してもよい。
【0076】
このようなその他の正極活物質としては、例えば、トンネル構造及び層状構造を有する金属酸化物又は金属カルコゲン化物;イオウ;導電性高分子等が挙げられる。トンネル構造及び層状構造を有する金属酸化物、又は金属カルコゲン化物としては、例えば、MnO2、FeO2、FeS2、V2O5、V6O13、TiO2、TiS2、MoS2、及びNbSe2に代表されるリチウム以外の金属の酸化物、硫化物、セレン化物等が挙げられる。導電性高分子としては、例えば、ポリアニリン、ポリチオフェン、ポリアセチレン、及びポリピロールに代表される導電性高分子が挙げられる。
【0077】
上述のその他の正極活物質は、1種を単独で又は2種以上を組み合わせて用いられ、特に制限はない。しかしながら、リチウムイオンを可逆安定的に吸蔵及び放出することが可能であり、且つ、高エネルギー密度を達成できることから、正極活物質層がNi、Mn、及びCoから選ばれる少なくとも1種の遷移金属元素を含有することが好ましい。
【0078】
正極活物質として、リチウム含有化合物とその他の正極活物質とを併用する場合、両者の使用割合としては、正極活物質の全部に対するリチウム含有化合物の使用割合として、80質量%以上が好ましく、85質量%以上がより好ましい。
【0079】
導電助剤としては、例えば、グラファイト、アセチレンブラック、及びケッチェンブラックに代表されるカーボンブラック、並びに炭素繊維が挙げられる。導電助剤の含有割合は、正極活物質100質量部に対して、10質量部以下とすることが好ましく、より好ましくは1~5質量部である。
【0080】
バインダーとしては、例えば、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、ポリアクリル酸、スチレンブタジエンゴム、及びフッ素ゴムが挙げられる。バインダーの含有割合は、正極活物質100質量部に対して、6質量部以下とすることが好ましく、より好ましくは0.5~4質量部である。
【0081】
正極活物質層は、正極活物質と、必要に応じて導電助剤及びバインダーとを混合した正極合剤を溶剤に分散した正極合剤含有スラリーを、正極集電体に塗布及び乾燥(溶媒除去)し、必要に応じてプレスすることにより形成される。このような溶剤としては、特に制限はなく、従来公知のものを用いることができる。例えば、N―メチル-2-ピロリドン、ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド、水等が挙げられる。
【0082】
正極集電体は、例えば、アルミニウム箔、ニッケル箔、ステンレス箔等の金属箔により構成される。正極集電体は、表面にカーボンコートが施されていてもよく、メッシュ状に加工されていてもよい。正極集電体の厚みは、5~40μmであることが好ましく、7~35μmであることがより好ましく、9~30μmであることが更に好ましい。
【0083】
<3.負極及び負極集電体>
図1,2に示される負極160は、負極合剤から作製した負極活物質層と、負極集電体とから構成される。負極160は、非水系二次電池の負極として作用することができる。
【0084】
負極活物質層は、負極活物質を含有し、必要に応じて導電助剤及びバインダーを含有することが好ましい。
【0085】
負極活物質としては、例えば、アモルファスカーボン(ハードカーボン)、黒鉛(例えば、人造黒鉛、天然黒鉛など)、熱分解炭素、コークス、ガラス状炭素、有機高分子化合物の焼成体、メソカーボンマイクロビーズ、炭素繊維、活性炭、炭素コロイド、及びカーボンブラックに代表される炭素材料の他、金属リチウム、金属酸化物、金属窒化物、リチウム合金、スズ合金、シリコン合金、金属間化合物、有機化合物、無機化合物、金属錯体、有機高分子化合物等が挙げられる。負極活物質は1種を単独で又は2種以上を組み合わせて用いられる。負極活物質が黒鉛である場合、正極活物質は、リチウムと遷移金属の複合酸化物であることが、本発明の効果を奏し易くする観点から好ましい。
【0086】
負極活物質層は、電池電圧を高められるという観点から、負極活物質としてリチウムイオンを0.4V vs.Li/Li+よりも卑な電位で吸蔵することが可能な材料を含有することが好ましい。
【0087】
導電助剤としては、例えば、グラファイト、アセチレンブラック、及びケッチェンブラックに代表されるカーボンブラック、並びに炭素繊維が挙げられる。導電助剤の含有割合は、負極活物質100質量部に対して、20質量部以下とすることが好ましく、より好ましくは0.1~10質量部である。
【0088】
バインダーとしては、例えば、カルボキシメチルセルロース、PVDF、PTFE、ポリアクリル酸、及びフッ素ゴムが挙げられる。また、ジエン系ゴム、例えばスチレンブタジエンゴム等も挙げられる。バインダーの含有割合は、負極活物質100質量部に対して、10質量部以下とすることが好ましく、より好ましくは0.5~6質量部である。
【0089】
負極活物質層は、負極活物質と必要に応じて導電助剤及びバインダーとを混合した負極合剤を溶剤に分散した負極合剤含有スラリーを、負極集電体に塗布及び乾燥(溶媒除去)し、必要に応じてプレスすることにより形成される。このような溶剤としては、特に制限はなく、従来公知のものを用いることができる。例えば、N-メチル-2-ピロリドン、ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド、水等が挙げられる。
【0090】
負極集電体は、例えば、銅箔、ニッケル箔、ステンレス箔等の金属箔により構成される。また、負極集電体は、表面にカーボンコートが施されていてもよいし、メッシュ状に加工されていてもよい。負極集電体の厚みは、5~40μmであることが好ましく、6~35μmであることがより好ましく、7~30μmであることが更に好ましい。
【0091】
<4.セパレータ>
図2に示されるとおり、本実施形態における非水系二次電池100は、正極150及び負極160の短絡防止、シャットダウン等の安全性付与の観点から、正極150と負極160との間にセパレータ170を備えることが好ましい。セパレータ170としては、限定されるものではないが、公知の非水系二次電池に備えられるものと同様のものを用いてもよく、イオン透過性が大きく、機械的強度に優れる絶縁性の薄膜が好ましい。セパレータ170としては、例えば、織布、不織布、合成樹脂製微多孔膜等が挙げられ、これらの中でも、合成樹脂製微多孔膜が好ましい。
【0092】
合成樹脂製微多孔膜としては、例えば、ポリエチレン又はポリプロピレンを主成分として含有する微多孔膜、又は、これらのポリオレフィンの双方を含有する微多孔膜等のポリオレフィン系微多孔膜が好適に用いられる。不織布としては、例えば、ガラス製、セラミック製、ポリオレフィン製、ポリエステル製、ポリアミド製、液晶ポリエステル製、アラミド製等の耐熱樹脂製の多孔膜が挙げられる。
【0093】
セパレータ170は、1種の微多孔膜を単層又は複数積層した構成であってもよく、2種以上の微多孔膜を積層したものであってもよい。セパレータ170は、2種以上の樹脂材料を溶融混錬した混合樹脂材料を用いて単層又は複数層に積層した構成であってもよい。
【0094】
機能付与を目的として、セパレータの表層又は内部に無機粒子を存在させてもよく、その他の有機層を更に塗工又は積層してもよい。また、架橋構造を含むものであってもよい。非水系二次電池の安全性能を高めるため、これらの手法は必要に応じ組み合わせてもよい。
【0095】
このようなセパレータ170を用いることで、特に上記の高出力用途のリチウムイオン電池に求められる良好な入出力特性、低い自己放電特性を実現することができる。
【0096】
セパレータとして使用可能な微多孔膜の膜厚は、特に限定はないが、膜強度の観点から1μm以上であることが好ましく、透過性の観点より500μm以下であることが好ましい。微多孔膜の膜厚は、安全性試験など、発熱量が比較的高く、従来以上の自己放電特性を求められる高出力用途に使用されるという観点、及び、大型の電池捲回機での捲回性の観点から、5μm以上30μm以下であることが好ましく、10μm以上25μm以下であることがより好ましい。なお、微多孔膜の膜厚は、耐ショート性能と出力性能の両立を重視する場合には、15μm以上25μm以下であることが更に好ましいが、高エネルギー密度化と出力性能の両立を重視する場合には、10μm以上15μm未満であることが更に好ましい。
【0097】
セパレータとして使用可能な微多孔膜の気孔率は、高出力時のリチウムイオンの急速な移動に追従する観点から、30%以上90%以下が好ましく、35%以上80%以下がより好ましく、40%以上70%以下が更に好ましい。なお、安全性を確保しつつ出力性能の向上を優先に考えた場合には、微多孔膜の気孔率としては、50%以上70%以下が特に好ましく、耐ショート性能と出力性能の両立を重視する場合には、40%以上50%未満が特に好ましい。
【0098】
セパレータとして使用可能な微多孔膜の透気度としては、膜厚及び気孔率とのバランスの観点から、1秒/100cm3以上400秒/100cm3以下が好ましく、100秒/100cm3以上350/100cm3以下がより好ましい。なお、耐ショート性能と出力性能の両立を重視する場合には、微多孔膜の透気度としては、150秒/100cm3以上350秒/100cm3以下が特に好ましく、安全性を確保しつつ出力性能の向上を優先に考えた場合には、100/100cm3秒以上150秒/100cm3未満が特に好ましい。一方で、イオン伝導度の低い非水系電解液と上記範囲内のセパレータを組み合わせた場合、リチウムイオンの移動速度については、セパレータの構造ではなく、非水系電解液のイオン伝導度の高さが律速となり、期待したような入出力特性が得られない傾向がある。そのため、非水非水系電解液のイオン伝導度は、12mS/cm以上であり、15mS/cm以上が好ましく、20mS/cm以上がより好ましい。非水非水系電解液のイオン伝導度は、30mS/cm以下でよい。ただし、セパレータの膜厚、透気度及び気孔率、並びに非水系電解液のイオン伝導度の好ましい値は、上記の例に限定されない。
【0099】
<5.電池外装>
図1,2に示される非水系二次電池100の電池外装110の構成は、特に限定されないが、例えば、電池缶及びラミネートフィルム外装体のいずれかの電池外装を用いることができる。電池缶としては、例えば、スチール、ステンレス、アルミニウム、又はクラッド材等から成る角型、角筒型、円筒型、楕円型、扁平型、コイン型、又はボタン型等の金属缶を用いることができる。ラミネートフィルム外装体としては、例えば、熱溶融樹脂/金属フィルム/樹脂の3層構成から成るラミネートフィルムを用いることができる。
【0100】
ラミネートフィルム外装体は、熱溶融樹脂側を内側に向けた状態で2枚重ねて、又は熱溶融樹脂側を内側に向けた状態となるように折り曲げて、端部をヒートシールにより封止した状態で外装体として用いることができる。ラミネートフィルム外装体を用いる場合、正極集電体に正極リード体130(又は正極端子及び正極端子と接続するリードタブ)を接続し、負極集電体に負極リード体140(又は負極端子及び負極端子と接続するリードタブ)を接続してもよい。この場合、正極リード体130及び負極リード体140(又は正極端子及び負極端子のそれぞれに接続されたリードタブ)の端部が外装体の外部に引き出された状態でラミネートフィルム外装体を封止してもよい。
【0101】
<6.電池の作製方法>
本実施形態における非水系二次電池100は、上述の非水系電解液、集電体の片面又は両面に正極活物質層を有する正極150、集電体の片面又は両面に負極活物質層を有する負極160、及び電池外装110、並びに必要に応じてセパレータ170を用いて、公知の方法により作製される。
【0102】
先ず、正極150及び負極160、並びに必要に応じてセパレータ170から成る積層体を形成する。例えば:
長尺の正極150と負極160とを、正極150と負極160との間に該長尺のセパレータを介在させた積層状態で巻回して巻回構造の積層体を形成する態様;
正極150及び負極160を一定の面積と形状とを有する複数枚のシートに切断して得た正極シートと負極シートとを、セパレータシートを介して交互に積層した積層構造の積層体を形成する態様;
長尺のセパレータをつづら折りにして、該つづら折りになったセパレータ同士の間に交互に正極体シートと負極体シートとを挿入した積層構造の積層体を形成する態様;
等が可能である。
【0103】
次いで、電池外装110(電池ケース)内に上述の積層体を収容して、本実施形態に係る非水系電解液を電池ケース内部に注液し、積層体を非水系電解液に浸漬して封印することによって、本実施形態における非水系二次電池を作製することができる。
【0104】
代替的には、非水系電解液を高分子材料から成る基材に含浸させることによって、ゲル状態の電解質膜を予め作製しておき、シート状の正極150、負極160、及び電解質膜、並びに必要に応じてセパレータ170を用いて積層構造の積層体を形成した後、電池外装110内に収容して非水系二次電池100を作製することもできる。
【0105】
なお、電極の配置が、負極活物質層の外周端と正極活物質層の外周端とが重なる部分が存在するように、又は負極活物質層の非対向部分に幅が小さすぎる箇所が存在するように設計されている場合、電池組み立て時に電極の位置ずれが生じることにより、非水系二次電池における充放電サイクル特性が低下するおそれがある。よって、該非水系二次電池に使用する電極体は、電極の位置を予めポリイミドテープ、ポリフェニレンスルフィドテープ、ポリプロピレン(PP)テープ等のテープ類、接着剤等により、固定しておくことが好ましい。
【0106】
本実施形態のような、アセトニトリルを使用した非水系電解液では、その高いイオン伝導性に起因して、非水系二次電池の初回充電時に正極から放出されたリチウムイオンが負極の全体に拡散してしまう可能性がある。非水系二次電池では、正極活物質層よりも負極活物質層の面積を大きくすることが一般的である。しかしながら、負極活物質層のうち正極活物質層と対向していない箇所にまでリチウムイオンが拡散して吸蔵されてしまうと、このリチウムイオンが初回放電時に放出されずに負極に留まることとなる。そのため、該放出されないリチウムイオンの寄与分が不可逆容量となってしまう。こうした理由から、アセトニトリルを含有する非水系電解液を用いた非水系二次電池では、初回充放電効率が低くなってしまう場合がある。
【0107】
他方、負極活物質層よりも正極活物質層の面積が大きいか、又は両者が同じである場合には、充電時に負極活物質層のエッジ部分で電流の集中が起こり易く、リチウムデンドライトが生成し易くなる。
【0108】
上記の理由により、正極活物質層と負極活物質層とが対向する部分の面積に対する、負極活物質層全体の面積の比について、特に制限はないが、1.0より大きく1.1未満であることが好ましく、1.002より大きく1.09未満であることがより好ましく、1.005より大きく1.08未満であることが更に好ましく、1.01より大きく1.08未満であることが特に好ましい。アセトニトリルを含む非水系電解液を用いた非水系二次電池では、正極活物質層と負極活物質層とが対向する部分の面積に対する、負極活物質層全体の面積の比を小さくすることにより、初回充放電効率を改善できる。
【0109】
正極活物質層と負極活物質層とが対向する部分の面積に対する、負極活物質層全体の面積の比を小さくするということは、負極活物質層のうち、正極活物質層と対向していない部分の面積の割合を制限することを意味している。これにより、初回充電時に正極から放出されたリチウムイオンのうち、正極活物質層とは対向していない負極活物質層の部分に吸蔵されるリチウムイオンの量(すなわち、初回放電時に負極から放出されずに不可逆容量となるリチウムイオンの量)を可及的に低減することが可能となる。よって、正極活物質層と負極活物質層とが対向する部分の面積に対する、負極活物質層全体の面積の比を上記の範囲内に設計することによって、アセトニトリルを使用することによる電池の負荷特性向上を図りつつ、電池の初回充放電効率を高め、更にリチウムデンドライトの生成も抑えることができるのである。
【0110】
ここで、本実施形態に係る製造方法(非水系二次電池の製造方法)では、1時間で設定容量を放電できる電流量を1Cとした時に、0.1C以上の充電速度で初回充電を行う工程を有することが好ましい。本実施形態における非水系二次電池100は、初回充電により電池として機能し得るが、初回充電のときに非水系電解液の一部が分解することにより安定化する。初回充電の方法について特に制限はないが、初回充電は0.1~0.3Cで行われることが好ましい。初回充電が、途中に定電圧充電を経由して行われることも好ましい。設計容量を1時間で放電する定電流が1Cである。リチウム塩が電気化学的な反応に関与する電圧範囲を長く設定することによって、安定強固なSEIが電極(負極160)表面に形成され、内部抵抗の増加を抑制する効果があることの他、反応生成物が負極160のみに強固に固定化されることなく、何らかの形で、正極150、セパレータ170等の、負極160以外の部材にも良好な効果を与える。このため、非水系電解液に溶解したリチウム塩の電気化学的な反応を考慮して初回充電を行うことは、非常に有効である。
【0111】
本実施形態における非水系二次電池100は、複数個の非水系二次電池100を直列又は並列に接続した電池パックとして使用することもできる。電池パックの充放電状態を管理する観点から、1個当たりの使用電圧範囲は2~5Vであることが好ましく、2.5~5Vであることがより好ましく、2.75V~5Vであることが特に好ましい。
【0112】
以上、本発明を実施するための形態について説明したが、本発明は上記実施形態に限定されるものではない。本発明は、その要旨を逸脱しない範囲で様々な変形が可能である。
【実施例0113】
以下、実施例によって本発明を更に詳細に説明する。本発明は、これらの実施例に限定されるものではない。特に規定しない場合、実施例は室温で行った。
【0114】
(1)非水系電解液の調製
不活性雰囲気下において、アセトニトリル(AcN),エチルメチルカーボネート(EMC),エチレンカーボネート(EC)、ビニレンカーボネート(VC)、エチレンサルファイト(ES)を、表1に示す体積容量で加え、各化合物が所定の濃度となるように非水系溶媒を混合した。更に非水系溶媒1Lに対してヘキサフルオロリン酸リチウム(LiPF6)を0.3mol,リチウムビス(フルオロスルホニル)イミドを1molとなるように混合することで非水系電解液(S01~S09)を調製した。更にスルホン化合物を、それぞれが表1に示す所定の濃度になるよう添加することにより、電解液(S01)~(S09)を調製した。表1における添加剤の略称は、それぞれ以下の意味である。また、表1におけるスルホン化合物の質量%は、前記非水系電解液の全量に対する割合を示している。
(スルホン化合物)
ジフェニルスルホン:DPS
フェニルビニルスルホン:PVS
【0115】
【0116】
(2)非水系二次電池の作製
(2-1)正極の作製
(A)正極活物質としてリチウム、ニッケル、マンガン、及びコバルトの複合酸化物(LiNi0.8Mn0.1Co0.1O2)と、(B)導電助剤として、アセチレンブラック粉末と、(C)バインダーとして、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)とを、94:3:3の質量比で混合し、正極合剤を得た。
【0117】
得られた正極合剤に溶剤としてN-メチル-2-ピロリドンを固形分68質量%となるように投入して更に混合して、正極合剤含有スラリーを調製した。正極集電体となる厚さ15μm、幅280mmのアルミニウム箔の片面に、この正極合剤含有スラリーの目付量を調節しながら、塗工幅240~250mm、塗工長125mm、無塗工長20mmの塗布パターンになるよう3本ロール式転写コーターを用いて塗布し、熱風乾燥炉で溶剤を乾燥除去した。得られた電極ロールは、両サイドをトリミングカットし、130℃8時間の減圧乾燥を実施した。その後、ロールプレスで正極活物質層の密度が2.7g/cm3になるように圧延することにより、正極活物質層と正極集電体とからなる正極(P2)を得た。正極集電体を除く目付量は8.4mg/cm2であった。
【0118】
(2-2)負極の作製
(a)負極活物質として、グラファイト粉末と、(b)導電助剤としてカーボンブラック粉末(Super-P)と、(c)バインダーとして、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)とを、90:3:7の固形分質量比で混合し、負極合剤を得た。
【0119】
得られた負極合剤に溶剤として水を固形分45質量%となるように投入して更に混合して、負極合剤含有スラリーを調製した。負極集電体となる厚さ8μm、幅280mmの銅箔の片面に、この負極合剤含有スラリーの目付量を調節しながら、塗工幅240~250mm、塗工長125mm、無塗工長20mmの塗布パターンになるよう3本ロール式転写コーターを用いて塗布し、熱風乾燥炉で溶剤を乾燥除去した。得られた電極ロールは、両サイドをトリミングカットし、80℃12時間の減圧乾燥を実施した。その後、ロールプレスで負極活物質層の密度が1.3g/cm3になるよう圧延して、負極活物質層と負極集電体から成る負極(N1)を得た。負極集電体を除く目付量は5.4mg/cm2であった。
【0120】
(2-3)非水系二次電池の組み立て
CR2032タイプの電池ケース(SUS304/Alクラッド)にポリプロピレン製ガスケットをセットし、その中央に上述のようにして得られた正極を直径15.958mmの円盤状に打ち抜いたものを、正極活物質層を上向きにしてセットした。その上からガラス繊維濾紙(アドバンテック社製、GA-100)を直径16.156mmの円盤状に打ち抜いたものをセットして、非水系電解液を150μL注入した後、上述のようにして得られた負極を直径16.156mmの円盤状に打ち抜いたものを、負極活物質層を下向きにしてセットした。更にスペーサーとスプリングをセットした後に電池キャップをはめ込み、カシメ機でかしめた。あふれた電解液はウエスできれいにふきとった。25℃で12時間保持し、積層体に非水系電解液を十分馴染ませてコイン型非水系二次電池を得た。
【0121】
(3)非水系二次電池の評価
上述のようにして得られたコイン型非水系二次電池について、まず、下記(3-1)の手順に従って初回充放電処理を行った。次に(3-2)の手順に従ってそれぞれのコイン型非水系二次電池を評価した。なお、充放電はアスカ電子(株)製の充放電装置ACD-M01A(商品名)及びヤマト科学(株)製のプログラム恒温槽IN804(商品名)を用いて行った。
ここで、1Cとは満充電状態の電池を定電流で放電して1時間で放電終了となることが期待される電流値を意味する。
【0122】
(3-1)非水系二次電池の充放電処理
非水系二次電池の周囲温度を25℃に設定し、0.1Cに相当する0.3mAの定電流で初回充電を行い4.2Vに到達した後、0.03Cに相当する0.09mAの定電流で3.0Vまで放電した。その後0.1Cに相当する定電流で充電し、4.2Vの定電圧で電流が0.025Cに減衰するまで充電を行った。
【0123】
(3-2)85℃12時間熱貯蔵
次に、充放電装置から非水系二次電池を取り出し、85℃に設定した恒温槽に入れ12時間静置した。
【0124】
(3-3)85℃貯蔵前後の10秒DCIR変化率の測定
上記(3-1)に記載の方法で初回充放電処理を行った小型非水系二次電池について、25℃条件下で0.1Cに相当する0.3mAの定電流で4.2Vまで充電し、25℃条件下で0.3C放電における10秒放電DCIRを測定した。(3-2)に記載の方法で貯蔵後、50℃条件下で0.3C放電における10秒放電DCIRを測定した。下記式(1-2)を用いて、貯蔵前後での変化率を調べた。なお、放電開始後10秒間の電圧変化は、アスカ電子(株)製の充放電装置ACD-M01Aで得られる充放電の電圧の値より求めた。
式(1-1):10秒放電DCIR=(放電開始後10秒間の電圧変化)/(放電開始後10秒間の放電電流値)
式(1-2):10秒放電DCIR変化率=(85℃貯蔵後10秒放電DCIR)/(85℃貯蔵前10秒放電DCIR)
【0125】
(3-4)非水系二次電池
[実施例1~2及び比較例1~5]
表1に示される各電解液を用いて、イオン伝導度および上記のとおりに、非水系二次電池を組み立てて初回充放電処理と10秒DCIR変化率の測定を行なった。ここで、各試験結果の解釈について述べる。
【0126】
熱履歴を加えた後の負極抵抗は負極保護膜であるSEIの分解やそれに伴う電極の劣化によって抵抗値が増加する。熱履歴後で10秒DCIRの値が23Ω未満であることが好ましく、21Ω未満であることがより好ましい。10秒DCIRの変化率については、1.3以下(例えば、1.30以下)であり、1.2以下(例えば、1.20以下)であることが好ましい。ここではスルホン化合物を含まない電解液S05に対して電解液S01,S03,S04,S06,S07,S08を用いた電池の抵抗を比較して副反応の影響を検討する。表2に測定結果を示す。
【0127】
【0128】
表2に示すように実施例1~2、比較例1~5においてアセトニトリル含有電解液は14.0mS/cm以上の高いイオン伝導度が確認された。またDPSを2質量%添加までした実施例では10秒DCIR変化率1.15であり、添加量を4質量%まで増やすと変化率は1.67まで増大することが明らかとなった。比較例2において、添加剤を使用していない電解液では10秒DCIR変化率は2.52であり、このことから2質量%までのDPSの添加によって、負極の劣化を抑えつつも副反応の影響も見られないことが確認された。比較例3、5おいてはビニレンカーボネートを入れることで10秒DCIR変化率が大きくなることが確認された。また比較例4よりビニレンカーボネートとエチレンサルファイトとの組み合わせよりもジフェニルスルホンを添加したものの方が熱耐久性に優れていることも確認された。
【0129】
以上のことから、実施例ではスルホン化合物の適切量の添加によって、熱履歴による負極抵抗の増大を抑制、電池が安定して作動するものと考えられる。
【0130】
(3-5)50℃サイクル試験
上記(3-1)に記載の方法で初回充放電処理を行った非水系二次電池について、周囲温度を50℃に設定し、2Cに相当する6mAの定電流で4.2Vに到達した後、4.2Vの定電圧で電流が0.025Cに減衰するまで充電を行い、0.3Cに相当する0.9mAの電流値で3Vまで一度放電した。その後、上記と同様の充電を行い、2Cに相当する6mAの電流値で3Vまで電池を放電する充放電試験を100サイクル行った。
【0131】
サイクル試験時の1サイクル目の放電容量を100%としたときのサイクル試験時の各サイクル目の放電容量を、容量維持率として算出した。
【0132】
(3-6)非水系二次電池
[実施例3~5及び比較例6~11]
表1に示される各電解液を用いて、上記のとおりに、非水系二次電池を組み立てて初回充放電処理とサイクル試験を行なった。ここで、各試験結果の解釈について述べる。
【0133】
容量維持率は、1サイクル目の放電容量に対する各サイクル目の放電容量の割合を示す指標である。上記サイクル試験は、一般的なサイクル試験と比べて高い電流密度で充放電を繰り返しており、値が大きいほど、充放電を繰り返し使用した際の容量劣化が少ない。またサイクル途中で容量維持率が上昇する場合は、電極表面の状態が安定していないことを示唆しており好ましくない。容量維持率は、85%以上(例えば、85.0%以上)が好ましく、86%以上(例えば、86.0%以上)がより好ましく、87%以上(例えば、87.0%以上)であることが更に好ましい。
【0134】
【0135】
実施例3~5では、DPSを0.5~2.0質量%添加することで100サイクル目での容量維持率が87.0%を超えることが確認できた。また一方で比較例6では、DPSの添加量が4質量%となると容量維持率が低下することも確認できた。比較例7においてはDPSの添加によってサイクル性能が向上させる効果が確認された。比較例8においては10サイクル目で容量維持率の上昇がみられており不安定化している。これは高温貯蔵によってSEIが分解し、その後1~9サイクル目においてSEI再形成のために電力が消費されたためである。このことからDPSの添加によって熱耐性が向上することが確認された。比較例9においては特許文献3において好適とされていた組成よりも熱安定性において優れることが確認された。比較例10においては比較例8と同様10サイクル時点で容量維持率が100%を超えており、初期サイクルの不安定化が確認されている。比較例11においては、フェニルビニルスルホン添加電解液では初回充電時に電解液の分解が起こったため充放電が行えず、熱安定的なSEIの形成にはジフェニルスルホン置換体が有効であることが明らかとなった。これはジフェニルスルホン置換体のアニオンラジカルが比較的安定であることが寄与していると推測される。
【0136】
上述の結果から、実施例では、非水系溶媒にDPSなどの特定の構造を持つスルホン化合物を加えることによって、熱安定性を持ちかつサイクル性能に優れた非水系二次電池を提供できることが確認された。
【0137】
(3-7)低レート初回充放電
電解液S1~S3をそれぞれ含有するコイン型非水電池について、(3-1)よりも低いレートでの初回充電を検討した(比較例12~14)。非水系二次電池の周囲温度を25℃に設定し、0.025Cに相当する0.075mAの定電流で初回充電を行い、4.2Vに到達した後、0.03Cに相当する0.09mAの定電流で放電して3.0Vに到達した後、0.1Cに相当する定電流で充電して4.2Vの定電圧で電流が0.025Cに減衰するまで充電を行った。その後(3-2)、(3-4)に記載の方法で高温貯蔵及びサイクル試験を行いそれぞれの容量維持率を評価した。
【0138】
【0139】
実施例3~5において100サイクル時点で87.0%以上の高い容量維持率が出ているのに対して、初回充電を0.025Cで行った比較例12~14については、ジフェニルスルホンの濃度に因らず100サイクル時点での容量維持率が50.0%以下となることが確認された。また比較例12~14は10サイクル時点の初期段階においても容量維持率が低下していることから、初回充放電時において緻密なSEI構築ができていないことが示唆される。このことは0.1C以下の低レート初回充電時に全てのジフェニルスルホンが消費され、その後の充放電過程で活物質の膨張に伴って、SEIに欠損ができたためだと考えられる。
【0140】
以上のことから、実施例ではジフェニルスルホンの適切量の添加及び適切な初回充電によって、熱貯蔵による負極抵抗の増大を抑制、電池が安定して作動するものと考えられる。
本発明の非水系二次電池は、例えば、ハイブリッド自動車、プラグインハイブリッド自動車、電気自動車等の自動車用蓄電池に加え、電動工具、ドローン、電動バイク等の産業用蓄電池、更には住宅用蓄電システムとしての利用も期待される。