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特開2023-14700信号処理方法、信号処理装置、信号処理システム及びプログラム
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023014700
(43)【公開日】2023-01-31
(54)【発明の名称】信号処理方法、信号処理装置、信号処理システム及びプログラム
(51)【国際特許分類】
   G01N 22/00 20060101AFI20230124BHJP
   G01N 21/3581 20140101ALI20230124BHJP
   G01N 22/02 20060101ALI20230124BHJP
【FI】
G01N22/00 S
G01N21/3581
G01N22/00 P
G01N22/02 C
G01N22/02 A
G01N22/02 B
G01N22/00 X
【審査請求】有
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021118800
(22)【出願日】2021-07-19
(71)【出願人】
【識別番号】000003078
【氏名又は名称】株式会社東芝
(71)【出願人】
【識別番号】598076591
【氏名又は名称】東芝インフラシステムズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001737
【氏名又は名称】弁理士法人スズエ国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】水内 理映子
(72)【発明者】
【氏名】久里 裕二
(72)【発明者】
【氏名】多賀谷 治
【テーマコード(参考)】
2G059
【Fターム(参考)】
2G059AA05
2G059BB08
2G059EE02
2G059FF02
2G059HH01
2G059JJ22
2G059MM01
(57)【要約】
【課題】円筒形状を有する樹脂によって構成される電力機器の異常を非破壊で検査するために用いられる信号処理方法、信号処理装置、信号処理システム及びプログラムを提供することにある。
【解決手段】実施形態に係る信号処理方法は、少なくとも一部が円筒形状を有する樹脂部によって導電部が覆われるように構成されている第1電力機器に照射されたパルス波の反射波に応じた反射波信号を取得するステップと、取得された反射波信号を解析することによって得られる指標を出力するステップとを具備する。パルス波は、樹脂部が有する円筒形状の径方向に照射される。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも一部が円筒形状を有する樹脂部によって導電部が覆われるように構成されている第1電力機器に照射されたパルス波の反射波に応じた反射波信号を取得するステップと、
前記取得された反射波信号を解析することによって得られる指標を出力するステップと
を具備し、
前記パルス波は、前記樹脂部が有する円筒形状の径方向に照射される
信号処理方法。
【請求項2】
前記導電部は、前記樹脂部が有する円筒形状の軸に沿うように位置している請求項1記載の信号処理方法。
【請求項3】
前記パルス波は、前記樹脂部が有する円筒形状の全周にわたって前記径方向に照射される請求項1または2記載の信号処理方法。
【請求項4】
前記パルス波は、固定された照射装置によって照射され、
前記第1電力機器は、前記照射装置によってパルス波が照射される間に、当該第1電力機器を回転させるように構成された回転装置によって回転する
請求項3記載の信号処理方法。
【請求項5】
前記パルス波は、前記第1電力機器が固定された状態で、当該第1電力機器の周囲を周回する照射装置によって照射される請求項3記載の信号処理方法。
【請求項6】
前記パルス波は、少なくとも0.1テラヘルツ帯のテラヘルツ波を含む請求項1~5のいずれか一項に記載の信号処理方法。
【請求項7】
前記指標は、前記反射波信号に基づいて生成される反射波形を示す第1波形データを含み、
前記指標に含まれる第1波形データと、正常な第2電力機器に照射されたパルス波の反射波に応じた反射波信号に基づいて生成された第2波形データとを比較することによって前記第1電力機器の異常を検出するステップを更に具備する
請求項1~6のいずれか一項に記載の信号処理方法。
【請求項8】
前記指標は、前記反射波信号に基づいて生成される前記第1電力機器の断層画像を含み、
前記指標に含まれる断層画像と、正常な第2電力機器に照射されたパルス波の反射波に応じた反射波信号に基づいて生成された当該第2電力機器の断層画像とを比較することによって前記第1電力機器の異常を検出するステップを更に具備する
請求項1~6のいずれか一項に記載の信号処理方法。
【請求項9】
前記第1電力機器の異常は、前記樹脂部と前記導電部との間の剥離を含む請求項1~8のいずれか一項に記載の信号処理方法。
【請求項10】
前記第1電力機器の異常は、前記樹脂部に異物が混入していることを含む請求項1~8のいずれか一項に記載の信号処理方法。
【請求項11】
少なくとも一部が円筒形状を有する樹脂部によって導電部が覆われるように構成されている電力機器に照射されたパルス波の反射波に応じた反射波信号を取得する取得手段と、
前記取得された反射波信号を解析することによって得られる指標を出力する出力手段と
を具備し、
前記パルス波は、前記樹脂部が有する円筒形状の径方向に照射される
信号処理装置。
【請求項12】
少なくとも一部が円筒形状を有する樹脂部によって導電部が覆われるように構成されている電力機器に対してパルス波を照射する照射装置と、前記パルス波の反射波を検波する検波装置と、信号処理装置とを備える信号処理システムにおいて、
前記信号処理装置は、
前記照射装置から前記電力機器にパルス波が照射されることによって、前記検波装置によって検波された反射波に応じた反射波信号を取得する取得手段と、
前記取得された反射波信号を解析することによって得られる指標を出力する出力手段と
を含み、
前記パルス波は、前記樹脂部が有する円筒形状の径方向に照射される
信号処理システム。
【請求項13】
信号処理装置のコンピュータが実行するプログラムであって、
前記コンピュータに、
少なくとも一部が円筒形状を有する樹脂部によって導電部が覆われるように構成されている電力機器に照射されたパルス波の反射波に応じた反射波信号を取得するステップと、
前記取得された反射波信号を解析することによって得られる指標を出力するステップと
を実行させ、
前記パルス波は、前記樹脂部が有する円筒形状の径方向に照射される
プログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の実施形態は、信号処理方法、信号処理装置、信号処理システム及びプログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、電力機器は、金属によって形成される導電部(導電体)が樹脂部で覆われることによって、絶縁性を維持することができるように構成されている場合が多い。
【0003】
このような電力機器は導電部(金属部分)と樹脂部とが接着された状態で運用される必要があるが、当該電力機器の製造工程または当該電力機器を運用していく過程で、当該導電部と当該樹脂部との間に剥離が生じる場合がある。このような剥離は、電力機器における部分放電または絶縁破壊を引き起こし、当該電力機器の故障原因となり得る。
【0004】
このため、例えば導電部と樹脂部との間に剥離が生じている等の電力機器の異常を検査することが求められている。しかしながら、電力機器に用いられる樹脂部は不透明であることが多く、目視で電力機器の異常を判断することは困難である。
【0005】
これに対して、例えば樹脂部を破壊するまたは削り出すことによって、電力機器の異常(導電部と樹脂部との間に生じている剥離)を検査することは可能である。
【0006】
しかしながら、このような検査手法は、樹脂部を破壊するまたは削り出すため、電力機器の出荷検査及び運用途中の劣化検査等には適さない。
【0007】
また、例えば電力機器(樹脂部)に対して所定の負荷を与え、当該負荷に対する応答を観測することによって、電力機器の異常を検査することが考えられる。この場合、例えば電力機器に電圧を印加した場合の放電を観測するまたは所定の荷重をかけた樹脂部が物理的に破壊されないかを確認することによって、電力機器の異常を検査することができる。
【0008】
しかしながら、このような検査手法は、非破壊で剥離を検査することができる可能性があるが、樹脂部を破壊してしまう可能性もある。
【0009】
このため、電力機器を構成する樹脂部を破壊することなく(つまり、非破壊で)当該電力機器の異常を検査する手法が望まれている。
【0010】
なお、電力機器において導電部を覆う樹脂部は円筒形状を有している場合があるが、当該樹脂が直方体等の平面形状を有する場合と比較して、円筒形状を有する樹脂部から構成される電力機器に対する検査難易度は更に高くなる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】特開2014-122875号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
そこで、本発明が解決しようとする課題は、円筒形状を有する樹脂部によって構成される電力機器の異常を非破壊で検査するために用いられる信号処理方法、信号処理装置、信号処理システム及びプログラムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
実施形態に係る信号処理方法は、少なくとも一部が円筒形状を有する樹脂部によって導電部が覆われるように構成されている第1電力機器に照射されたパルス波の反射波に応じた反射波信号を取得するステップと、前記取得された反射波信号を解析することによって得られる指標を出力するステップとを具備する。前記パルス波は、前記樹脂部が有する円筒形状の径方向に照射される。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】実施形態に係る信号処理装置を含む信号処理システムの機能構成の一例を示す図。
図2】信号処理装置のハードウェア構成の一例を示す図。
図3】電力機器の一例を模式的に示す図。
図4】電力機器の一例を模式的に示す図。
図5】照射装置と検波装置との位置関係の一例を示す図。
図6】照射装置と検波装置との位置関係の他の例を示す図。
図7】回転装置について説明するための図。
図8】信号処理装置の処理手順の一例を示すフローチャート。
図9】樹脂部と導電部との間に剥離が生じていない場合の断層画像の一例を示す図。
図10】樹脂部と導電部との間に剥離が生じている場合の断層画像の一例を示す図。
図11】波形データの一例を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、図面を参照して、実施形態について説明する。
本実施形態に係る信号処理装置は、樹脂部によって導電部(導電体)が覆われるように構成されている電力機器に対してパルス波を照射することにより、当該樹脂部を破壊することなく、当該電力機器の異常を検査するために用いられる。なお、本実施形態において検査される電力機器の異常は、例えば樹脂部と導電部との間の剥離を想定している。
【0016】
電力機器は、例えば遮断器、断路器、変流器または変圧器等の機器を含む。また、電力機器は、部分放電を発生する可能性がある機器であれば、例えば電力用変圧器、ガス絶縁開閉器、発電機、電動機またはリアクトル等であってもよい。このような電力機器は、電源ケーブルを介して外部から高電圧及び大電流を通電するため、絶縁性を維持するように導電部が樹脂部で覆われた構成を有する。
【0017】
ここで、上記した樹脂部を破壊することなく電力機器の異常を検査する手法としては、例えばX線または赤外線等の電磁波を用いる手法や超音波を用いる方法がある。以下、このような検査に使用されるいくつかの手法について簡単に説明する。
【0018】
まず、X線は、樹脂透過性がよいため、電力機器(樹脂部の内部)の検査に使用することができる。しかしながら、X線は金属に対して透過性が低いため、金属で形成される導電部が埋め込まれている構造体である電力機器に対しては、適切な検査を行うことができない可能性がある。なお、例えばX線CT装置を用いた検査(X線CT検査)によれば導電部(金属)が埋め込まれていても電力機器の検査(観察)は可能であるが、大型の電力機器の場合は、一般的なX線CT装置で検査することができない。大型の電力機器に対応可能なX線CT装置も存在するが、このようなX線CT装置は特殊仕様であり、当該X線CT装置を用いた検査は現実的でない。また、X線を用いる場合には放射線管理も必要となる。
【0019】
次に、赤外線(を用いたサーモグラフィ)に関しては、簡便に電力機器(樹脂内部)の情報を得ることが可能であるが、樹脂部が厚く(例えば、3mm以上)なると当該情報を得ることが難しくなる。また、赤外線はある程度広い範囲を短時間で検査することができるが、検査対象(電力機器)の形状が円筒形状である(つまり、当該検査対象の表面が平面でない)ような場合、当該形状に応じた熱の広がり等の影響が大きく、上記した剥離等を検査することが難しい。更に、赤外線の場合には、分解能が低いため、剥離のような細かい異常を検出することは困難である。
【0020】
また、超音波は、比較的簡易に高い分解能で電力機器(樹脂内部)の情報を得ることができる。しかしながら、超音波は樹脂中での減衰が大きく、当該超音波を用いた一般的な手法では厚い樹脂部(例えば、10mm以上)の検査は困難である。また、超音波は空気中での減衰も大きいため、検査時には例えば水浸やゲルを介する必要があり、煩雑である。一方、超音波は空気で概ね100%反射する性質を有するため、剥離が生じた場合に樹脂部と導電部との間に形成される空隙を精度よく検出することができると考えられる。よって、電力機器の樹脂部分が薄い場合には、超音波を用いた検査は有効な手法であるといえる。
【0021】
なお、上記したX線、赤外線及び超音波以外では、高周波数帯の電磁波(例えば、テラヘルツ波)を用いることが考えられる。テラヘルツ波は、樹脂透過性のよい電磁波であり、樹脂部に厚みがある(例えば、樹脂部の厚みが60mm程度である)場合であっても剥離等の電力機器の異常を検出することができる。また、空気中での減衰も少なく、人体への影響もないことから測定環境に大きな制限がない。また、テラヘルツ波を用いて電力機器の表面を走査することによって、大型の電力機器や表面が平面でない電力機器を検査することも可能であると考えられる。
【0022】
そこで、本実施形態においては、上記したテラヘルツ波を用いて電力機器の異常を検査するために用いられる信号処理装置について説明する。本実施形態に係る信号処理装置においては、上記した樹脂部と導電部との間の剥離を判別するために有用な指標(情報)を得るために、テラヘルツ波の測定及び解析、当該測定に適した周波数の選定、または僅かな波形の変化を捉えるための信号処理等を導入する。
【0023】
図1は、本実施形態に係る信号処理装置を含む信号処理システムの機能構成の一例を示す。図1に示す信号処理装置10は、例えばパーソナルコンピュータ、スマートフォン、タブレットコンピュータまたはサーバ装置等の情報処理装置(電子機器)である。
【0024】
また、図1に示すように信号処理装置10は、照射装置20及び検波装置30と接続される。照射装置20は、例えば信号処理装置10からの指示に応じて、電力機器に対して所定のパルス波(テラヘルツ波)を照射するように構成されている。なお、照射装置20によって照射されるテラヘルツ波は、例えば0.05~10THzの範囲に該当する周波数帯の電磁波であるものとする。
【0025】
上記したように樹脂部と導電部との間に剥離が生じている電力機器に対して照射装置20からテラヘルツ波が照射された場合、当該テラヘルツ波は、当該剥離により樹脂部と導電部との間に形成された空隙の界面において反射する。検波装置30は、このような反射波を検波(受信)するように構成されている。検波装置30は、検波された反射波を電気信号に変換することによって反射波信号を生成する。この反射波信号は、検波された反射波の信号強度、当該信号強度のピーク値及び当該ピークに到達した時間(以下、ピーク到達時間と表記)等を表す信号である。
【0026】
図1に示す信号処理装置10は、反射波信号取得部11、波形データ生成部12、断層画像生成部13及び出力部14を含む。
【0027】
反射波信号取得部11は、上記した検波装置30において生成された反射波信号を当該検波装置30から取得する。
【0028】
波形データ生成部12及び断層画像生成部13は、電力機器40の異常を検査するために有用な指標を得るために反射波信号取得部11によって取得された反射波信号を解析する解析部として機能する。
【0029】
波形データ生成部12は、反射波信号取得部11によって取得された反射波信号に基づいて、反射波形を示す波形データを生成する。具体的には、波形データ生成部12は、反射波信号によって表される信号強度、当該信号強度のピーク値及びピーク到達時間等に基づいて波形データを生成する。
【0030】
断層画像生成部13は、反射波信号取得部11によって取得された反射波信号に基づいて断層画像(断面図)を生成する。具体的には、断層画像生成部13は、反射波信号に基づいて3次元画像データを生成する。なお、3次元画像データは、例えば3次元空間の直交座標系の座標値毎に反射波信号に含まれる信号強度等に相当する画素値を含む。断層画像生成部13は、この3次元画像データに基づいて、剥離によって樹脂部と導電部との間に形成された空隙を表す断層画像を生成する。なお、断層画像生成部13は、3次元空間の座標値(x,y,z)のうち、いずれか1つの座標軸の値を固定した断層画像(平面画像)を生成することができる。
【0031】
出力部14は、波形データ生成部12によって生成された波形データ及び断層画像生成部13によって生成された断層画像を出力する。
【0032】
図2は、図1に示す信号処理装置10のハードウェア構成の一例を示す。信号処理装置10は、CPU101、不揮発性メモリ102、RAM103、表示デバイス104及び通信デバイス105等を備える。また、信号処理装置10は、CPU101、不揮発性メモリ102、RAM103、表示デバイス104及び通信デバイス105を相互に接続するバス106を有する。
【0033】
CPU101は、信号処理装置10内の各コンポーネントの動作を制御するためのプロセッサである。CPU101は、単一のプロセッサであってもよいし、複数のプロセッサで構成されていてもよい。CPU101は、不揮発性メモリ102からRAM103にロードされる様々なプログラムを実行する。本実施形態において、CPU101によって実行されるプログラムには、信号処理プログラム103aが含まれる。
【0034】
なお、上記した図1に示す反射波信号取得部11、波形データ生成部12、断層画像生成部13及び出力部14の一部または全ては、例えばCPU101(つまり、信号処理装置10のコンピュータ)が信号処理プログラム103aを実行すること、すなわち、ソフトウェアによって実現されるものとする。この信号処理プログラム103aは、コンピュータ読み取り可能な記憶媒体に格納して頒布されてもよいし、ネットワークを通じて信号処理装置10にダウンロードされても構わない。
【0035】
ここでは上記した各部11~14の一部または全てがソフトウェアによって実現されるものとして説明したが、当該各部11~14の一部または全ては、IC(Integrated Circuit)等のハードウェアによって実現されてもよいし、ソフトウェア及びハードウェアの組み合わせ構成によって実現されてもよい。
【0036】
不揮発性メモリ102は、補助記憶装置として用いられる記憶媒体である。RAM103は、主記憶装置として用いられる記憶媒体である。図2においては、不揮発性メモリ102及びRAM103のみが示されているが、信号処理装置10は、例えばHDD(Hard Disk Drive)及びSSD(Solid State Drive)等の他の記憶装置を備えていてもよい。
【0037】
表示デバイス104は、例えば液晶ディスプレイ(LCD:Liquid Crystal Display)等を含む。
【0038】
通信デバイス105は、外部機器との有線通信または無線通信を実行するように構成されたデバイスである。
【0039】
図2においては省略されているが、信号処理装置10は、例えばマウスまたはキーボードのような入力デバイスを更に備えていてもよい。また、表示デバイス104及び入力デバイスは、例えばタッチスクリーンディスプレイのように一体として構成されていてもよい。
【0040】
次に、本実施形態に係る信号処理装置10において樹脂部と導電部との間に生じる剥離を検出する原理について説明する。図3及び図4は、互いに直交するX方向、Y方向及びZ方向によって規定されている3次元空間に配置された電力機器40を模式的に示している。なお、図3は、電力機器40をZ方向から視認した状態を示している。また、図4は、電力機器40をY方向から視認した状態を示している。
【0041】
図3及び図4に示すように、電力機器40は、樹脂部41及び導電部42によって構成されている。樹脂部41は、例えばフィラーを含むエポキシ樹脂によって形成されている。エポキシ樹脂としては、例えばビスフェノールA型エポキシ樹脂が用いられてもよい。また、樹脂部41の硬化剤としては、酸無水物系が用いられてもよい。フィラーとしては、例えばシリカが用いられる。なお、ここで説明した樹脂部41は一例であり、例えばビスフェノールA型エポキシ樹脂の代わりにジシクロペンタジエン等が用いられてもよい。導電部42は、金属材料で構成され、樹脂部41によって覆われている。
【0042】
ここで、本実施形態においては、少なくとも一部が円筒形状を有している樹脂部41によって導電部42が覆われるように構成されている電力機器40を想定している。図3及び図4に示す例において、樹脂部41は、角部が丸みを有する略円筒形状の第1樹脂部41aと当該第1樹脂部41aの周囲に形成されるリング形状の第2樹脂部41bとが組み合わされた形状を有しており、樹脂部41aと41bは一体化している。
【0043】
なお、図3及び図4に示す樹脂部41の形状は一例であり、当該樹脂部41は、例えば単純な円筒形状を有していてもよいし、図3及び図4に示す形状よりも複雑な形状を有していてもよい。換言すれば、本実施形態における電力機器40を構成する樹脂部41は、上記したように少なくとも一部が円筒形状であればよく、所定の平面(例えば、X-Z平面)に沿った断面が円形となる形状、または円筒形状を加工した形状等を有するものであってもよい。
【0044】
また、図3及び図4に示す電力機器40は、棒状の形状を有する2つの導電部42が、樹脂部41(第1樹脂部41a)が有する円筒形状の各底面から当該円筒形状の軸に沿って内部に埋め込まれた構成となっている。すなわち、本実施形態において、導電部42は、例えば樹脂部41が有する円筒形状の軸に沿って位置しているものとする。
【0045】
なお、電力機器40の絶縁性を維持するために、電力機器40の製造工程において、樹脂部41及び導電部42は互いに接着されているものとする。
【0046】
次に、上記した電力機器40に対してテラヘルツ波を照射する照射装置20及び当該電力機器40からのテラヘルツ波の反射波を検波する検波装置30について説明する。本実施形態においてテラヘルツ波は、樹脂部41が有する円筒形状の側面(曲面)に対して径方向に照射されるものとする。なお、円筒形状の径方向とは、円筒形状の側面(曲面)から当該円筒形状の軸に向かう方向である。
【0047】
図5は、垂直入射を採用した場合の照射装置20(送信器)と検波装置30(受信器)との位置関係を示している。
【0048】
この場合、照射装置20は、樹脂部41が有する円筒形状の軸に対する垂直方向から電力機器40にテラヘルツ波を照射する。このように照射されたテラヘルツ波の一部はビームスプリッタ51によって反射されるが、当該ビームスプリッタ51を透過したテラヘルツ波は、レンズ52によって収束される。収束されたテラヘルツ波は、電力機器40に到達する。電力機器40で反射されたテラヘルツ波の一部は、ビームスプリッタ51で屈折し、検波装置30によって検波される。
【0049】
一方、図6は、斜入射を採用した場合の照射装置20と検波装置30との位置関係を示している。
【0050】
この場合、照射装置20は、所定の角度を設けて電力機器40にテラヘルツ波を照射する。所定の角度とは、例えば樹脂部41が有する円筒形状の軸に対して垂直ではない角度である。照射装置20から照射されたテラヘルツ波は、電力機器40に到達し、電力機器40で反射される。電力機器40で反射されたテラヘルツ波は、検波装置30によって検波される。
【0051】
上記した図5において説明した位置関係で照射装置20及び検波装置30を使用した場合には、ビームスプリッタ51の影響により、理論上75%のテラヘルツ波の損失がある。
【0052】
一方、図6に示した位置関係で照射装置20及び検波装置30を使用した場合には、図5に示すビームスプリッタ51を介さずに検波装置30がテラヘルツ波(反射波)を検波することが可能であるため、当該ビームスプリッタ51による損失を低減し、反射波の検出能力を向上させることができる。
【0053】
ただし、本実施形態における照射装置20及び検波装置30は、照射装置20によって照射されたテラヘルツ波(パルス波)の反射波を検波装置30で検波することが可能であれば、図5に示す位置関係で使用されてもよいし、図6に示す位置関係で使用されても構わない。
【0054】
なお、照射装置20から照射されるテラヘルツ波の計測高遅延時間は例えば160secである。なお、この計測高遅延時間を光路長に換算した場合は48mmとなる。反射型使用時測定可能厚さは24mm(往復48mm、屈折率1.0)である。テラヘルツ波形取得速度は1000波形/秒である。なお、イメージング時の取得速度は1000ピクセル/秒である。サンプリング間隔は0.1psecである。テラヘルツ波発振帯域は2.0THzより大きい。なお、照射装置20(及び検波装置30)には、走査機構が構築されているものとする。
【0055】
ところで、上記した電力機器40の異常(樹脂部41と導電部42との間の剥離)を検査する場合、照射装置20は、電力機器40の深さ方向(円筒形状の径方向)に焦点を順次変えながらテラヘルツ波を照射する。これによれば、テラヘルツ波が照射された方向に形成されている空隙(つまり、樹脂部41と導電部42との間の剥離)を検出することができる。
【0056】
なお、図3及び図4に示す電力機器40においては、樹脂部41(第1樹脂部41a)が有する円筒形状の底面から当該円筒形状の軸に沿って導電部42が当該樹脂部41に埋め込まれた構成であるため、テラヘルツ波は、当該樹脂部41が有する円筒形状の全周にわたって径方向に照射されることが好ましい。
【0057】
この場合、例えば図7に示すように電力機器40を構成する樹脂部41が有する円筒形状の軸を中心に当該電力機器40を回転させるように構成された回転装置60に当該電力機器40を取り付け、当該回転装置60によって当該電力機器40を回転させる。一方、照射装置20は、固定された状態で、樹脂部41が有する円筒形状の軸に向かって電力機器40にテラヘルツ波を照射する。なお、検波装置30は、電力機器40からの反射波を検波することができる位置に固定されていればよい。このようにテラヘルツ波が照射される間に、電力機器40を回転させることにより、樹脂部41が有する円筒形状の全周にわたってテラヘルツ波を照射することができる。
【0058】
なお、本実施形態において、照射装置20は、樹脂部41が有する円筒形状の側面を走査するものとする。具体的には、回転装置60により電力機器40を回転させる構成の場合、テラヘルツ波を照射しながら電力機器40を1回転させた後に当該テラヘルツ波の照射を停止し、照射装置20をY方向に移動し、再びテラヘルツ波を照射しながら電力機器40を1回転させるような動作が繰り返されるものとする。これにより、例えば導電部42の全ての面に対する樹脂部41との剥離を検査することができる。
【0059】
なお、回転装置(機構)60は、信号処理装置10とは別個の装置である場合を想定しているが、当該信号処理装置10の一部として動作するものであってもよい。
【0060】
ここでは回転装置60により電力機器40が回転するものとして説明したが、電力機器40を固定した状態で、電力機器40の周囲を周回する照射装置20が当該電力機器40にテラヘルツ波を照射する構成としてもよい。この場合、照射装置20は、当該照射装置20の向き(テラヘルツ波の照射方向)を樹脂部41が有する円筒形状の径方向に維持したまま、当該電力機器40の周囲を周回すればよい。なお、検波装置30は、反射波を検波することができるように、照射装置20とともに電力機器40の周囲を周回するものとする。
【0061】
次に、図8のフローチャートを参照して、本実施形態に係る信号処理装置10の処理手順の一例について説明する。
【0062】
電力機器40の異常を検査する場合、照射装置20は、当該電力機器40に対してテラヘルツ波を照射する。これにより、例えば樹脂部41及び導電部42との間に剥離が生じ、当該樹脂部41と導電部42との間に空隙が形成されている場合、検波装置30は、当該空隙の界面において反射した反射波を検波することができる。
【0063】
まず、反射波信号取得部11は、検波装置30によって検波された反射波に応じた反射波信号を当該検波装置30から取得する(ステップS1)。
【0064】
ここで、上記したようにステップS1において取得される反射波信号は、照射装置20が電力機器40に対して焦点を合わせた状態でテラヘルツ波を照射し、かつ、上記した円筒形状の側面を走査することによって得られる信号であり、電力機器40の内部の状態(樹脂部41と導電部42との間の剥離等)に応じた信号強度、ピーク値及びピーク到達時間等を表す信号に相当する。
【0065】
このため、波形データ生成部12は、ステップS1において取得された反射波信号によって表される信号強度、ピーク値及びピーク到達時間等に基づいて波形データを生成する(ステップS2)。
【0066】
断層画像生成部13は、ステップ1において取得された反射波信号に基づいて電力機器40(樹脂部41及び導電部42)の3次元画像データを生成することができる。断層画像生成部13は、生成された3次元画像データに基づいて、電力機器40を構成する樹脂部41と導電部42との境界部分を含む断層画像を生成する(ステップS3)。なお、図3及び図4に示す電力機器40に対して照射装置20から円筒形状の径方向にテラヘルツ波が照射された場合には、X-Z平面に沿った断層画像を生成することができる。
【0067】
なお、図8においてはステップS2の処理が実行された後にステップS3の処理が実行されるものとして説明したが、当該ステップS3の処理が実行された後にステップS2の処理が実行されてもよい。また、ステップS2の処理が実行された後にステップS3の処理が実行される場合、ステップS3の処理は、ステップS2において生成された波形データを用いて実行されてもよい。また、ステップS3の処理が実行された後にステップS2の処理が実行される場合、ステップS2の処理は、ステップS3において生成された断層画像を用いて実行されてもよい。
【0068】
次に、出力部14は、ステップS2において生成された波形データ及びステップS3において生成された断層画像を出力する(ステップS4)。ステップS4において、波形データ及び断層画像は、例えば表示デバイス104に出力され、当該表示デバイス104に表示される。
【0069】
このように表示デバイス104に表示された波形データ及び断層画像は、例えば信号処理装置10を使用するユーザ(電力機器40を検査する検査者)等によって参照される。
【0070】
ここで、図9は、波形データの一例を示している。図9において、縦軸は電界振幅を表し、横軸は時間を表している。図9には、第1波形データ71及び第2波形データ72が示されている。第1波形データ71は、電力機器40を構成する樹脂部41と導電部42との間に剥離が生じていない場合の波形データの一例である。第2波形データ72は、電力機器40を構成する樹脂部41と導電部42との間に剥離が生じている場合の波形データの一例である。
【0071】
図9に示す例では、第1波形データ71及び第2波形データ72の両方において、35psec付近で1回目のピーク(値)が生じており、このピークは樹脂部41の上面で反射した反射波を表している。
【0072】
一方、第1波形データ71においては130psec付近で2回目のピークが生じており、このピークは導電部42の表面で反射した反射波を表している。これに対して、第2波形データ72においても130psec付近で2回目のピークが生じているが、当該第2波形データ72の2回目のピーク到達時間は、第1波形データ71の2回目のピーク到達時間よりも早い。このようなピーク到達時間の変化は、電力機器40を構成する樹脂部41と導電部42との間の剥離によって当該樹脂部41と導電部42との間に形成されている空隙においてテラヘルツ波(反射波)の伝播速度が変化することに起因する。
【0073】
更に、第2波形データ72においては、電力機器40を構成する樹脂部41と上記した剥離によって形成された空隙との界面において反射された反射波を表す負のピークが生じている。
【0074】
すなわち、信号処理装置10を使用するユーザは、上記した図9に示す第2波形データ72が表示デバイス104に表示された場合には、当該第2波形データ72(2回目のピーク到達時間の変化及び負のピーク等)を観察して電力機器40に異常(樹脂部41と導電部42との間の剥離)が生じていることを把握することができる。
【0075】
次に、図10は、電力機器40を構成する樹脂部41と導電部42との間に剥離が生じていない場合の断層画像の一例を示している。図10に示す断層画像80には樹脂部41の上面(電力機器40の外面)81及び当該樹脂部41の下面(つまり、樹脂部41と導電部42との接触面)82が含まれているが、樹脂部41と導電部42との間に剥離が生じていないため、当該断層画像80においては、樹脂部41の下面82近傍に当該剥離を示す変化は観察されない。
【0076】
一方、図11は、電力機器40を構成する樹脂部41と導電部42との間に剥離が生じている場合の断層画像の一例を示している。この場合、図11に示す断層画像90には樹脂部41の上面91及び当該樹脂部41の下面92が含まれているが、樹脂部41及び導電部42との間に剥離が生じているため、当該断層画像90においては、当該剥離によって樹脂部41と導電部42との間に形成されている空隙に応じた歪みが樹脂部41の下面92近傍で観察される。
【0077】
すなわち、信号処理装置10を使用するユーザは、上記した図10に示す断層画像90が表示デバイス104に表示された場合には、当該断層画像90(樹脂部41の下面92近傍の歪み等)を観察して電力機器40に異常(樹脂部41と導電部42との間の剥離)が生じていることを把握することができる。
【0078】
本実施形態においては、ステップS2において生成された波形データ及びステップS3において生成された断層画像の両方がステップS4において表示デバイス104に表示(出力)されるものとして説明したが、当該波形データ及び断層画像のうちの一方のみが表示される構成であってもよい。なお、波形データのみが表示される場合には、図8に示すステップS3の処理は省略されてもよい。一方、断層画像のみが表示される場合には、図8に示すステップS2の処理は省略されてもよい。
【0079】
また、本実施形態において電力機器40の異常を検査するための知識及び経験が不足しているユーザが電力機器40の異常を検査する場合、例えば単に図9に示す第2波形データ72が表示されたとしても、当該異常を把握することができない可能性がある。このため、上記したステップS4においては、ステップS2において生成された波形データとともに、例えば図9に示す第1波形データ71のような、正常な電力機器40に照射されたテラヘルツ波の反射波に応じた反射波信号に基づいて生成された波形データ(以下、正常時の波形データと表記)を表示するようにしてもよい。これによれば、ユーザは、正常時の波形データと比較しながらステップS2において生成された波形データを観察することにより、容易に電力機器40の異常を把握することができる。なお、正常時の波形データは、予め信号処理装置10(不揮発性メモリ102等)において保持されていればよい。
【0080】
同様に、ユーザが電力機器40の異常を検査する場合、例えば単に図11に示す断層画像90が表示されたとしても、当該異常を把握することができない可能性がある。このため、上記したステップS4においては、ステップS3において生成された断層画像とともに、例えば図10に示す断層画像80のような、正常な電力機器40に照射されたテラヘルツ波の反射波に応じた反射波信号に基づいて生成された断層画像(以下、正常時の断層画像と表記)を表示するようにしてもよい。これによれば、ユーザは、正常時の断層画像と比較しながらステップS3において生成された断層画像を観察することにより、容易に電力機器40の異常を把握することができる。なお、正常時の断層画像は、予め信号処理装置10(不揮発性メモリ102等)において保持されていればよい。
【0081】
更に、例えば断層画像を表示する場合には、当該断層画像上に例えば導電部42の深さ方向の位置を更に表示してもよい。なお、導電部42の深さ方向の位置は、電力機器40の表面(つまり、樹脂部41の上面)から当該導電部42の表面までの距離に相当し、例えばステップS1において取得された反射波信号(導電部42の界面からの反射波に応じた反射波信号)によって表されるピーク到達時間及び予め得られている樹脂部41の屈折率等に基づいて算出される。なお、導電部42の深さ方向の位置は上記したステップS2において生成される波形データまたはステップS3において生成される断層画像を用いて算出されてもよい。
【0082】
なお、ここではステップS2において生成された波形データ及びステップS3において生成された断層画像が表示デバイス104に表示されるものとして説明したが、当該波形データ及び断層画像は、例えば信号処理装置10の外部に設けられているサーバ装置やユーザが使用する端末装置等に送信(出力)される構成であってもよい。
【0083】
また、ここでは波形データ及び断層画像が出力されるものとして説明したが、当該波形データ及び断層画像は電力機器40の異常(樹脂部41と導電部42との間の剥離)を検査するために有用な指標の一例であって、本実施形態は、電力機器40に照射されたテラヘルツ波の反射波に応じた反射波信号を解析することによって得られる指標が出力される構成であればよい。
【0084】
上記したように本実施形態においては、少なくとも一部が円筒形状を有する樹脂部41によって導電部42が覆われるように構成されている電力機器40(第1電力機器)に照射されたテラヘルツ波(パルス波)の反射波に応じた反射波信号を取得し、当該取得された反射波信号を解析することによって得られる指標を出力する。なお、本実施形態において、テラヘルツ波は、樹脂部41が有する円筒形状の径方向に照射される。また、本実施形態において導電部42は、樹脂部41が有する円筒形状の軸に沿うように位置しているものとする。
【0085】
本実施形態においては、上記した構成により、ユーザは、信号処理装置10から出力される指標に基づいて、円筒形状を有する樹脂部41から構成される電力機器40の異常を非破壊で検査することができる。
【0086】
また、本実施形態においては、樹脂部41が有する円筒形状の全周にわたってテラヘルツ波が径方向に照射されることによって、導電部42の表面全体に対して樹脂部41との剥離が生じているか否かを検査することができる。
【0087】
なお、上記したように樹脂部41が有する円筒形状の全周にわたってテラヘルツ波が照射される場合、当該テラヘルツ波を照射する照射装置20は固定され、電力機器40は、当該照射装置20によってテラヘルツ波が照射される間に、回転装置60によって回転すればよい。一方、電力機器40が固定された状態で、当該電力機器40の周囲を周回する照射装置20がテラヘルツ波を照射する構成によっても、樹脂部41が有する円筒形状の全周にわたってテラヘルツ波を照射することができる。
【0088】
なお、本実施形態においては、例えば信号処理装置10(出力部14)から出力された指標(波形データ及び断層画像)を目視で観察したユーザが電力機器40の異常を検査するものとして説明したが、当該波形データ及び断層画像に基づいて電力機器40の異常(樹脂部41と導電部42との間の剥離)を自動的に検出する構成としてもよい。
【0089】
この場合、上記したように正常時の波形データを予め保持しておき、波形データ生成部12によって生成される波形データと当該正常時の波形データとを比較することによって、電力機器40の異常を検出することができる。具体的には、例えば波形データ生成部12によって生成される波形データと当該正常時の波形データとの間に異常と認められる程度の差異が生じていると判定される場合に電力機器40の異常が検出されるような構成とすることができる。なお、電力機器40の異常は、例えば正常時の波形データに基づいて電力機器40の異常が検出された際の波形データ(例えば、図9に示す第2波形データ72のような異常時の波形データ)を用いて検出されてもよい。
【0090】
同様に、上記したように正常時の断層画像を予め保持しておき、断層画像生成部13によって生成される断層画像と当該正常時の断層画像とを比較することによって、電力機器40の異常を検出することができる。具体的には、例えば断層画像生成部13によって生成される断層画像と当該正常時の断層画像との間に異常と認められる程度の差異が生じていると判定される場合に電力機器40の異常が検出されるような構成とすることができる。なお、電力機器40の異常は、例えば正常時の断層画像に基づいて電力機器40の異常が検出された際の断層画像(つまり、図11に示す断層画像90のような異常時の断層画像)を用いて検出されてもよい。
【0091】
上記した波形データ及び断層画像に基づいて電力機器40の異常(樹脂部41と導電部42との間の剥離)を自動的に検出する構成の場合には、例えば出力部14は、当該検出処理を実行する検出部を含み、当該検出部による検出結果を出力するように構成されていればよい。
【0092】
ここで、本実施形態においては電力機器40の異常として樹脂部41と導電部42との間の剥離について主に説明したが、例えば導電部42を覆う樹脂部41の内部に異物が混入している場合、当該異物は、電力機器40における部分放電または絶縁破壊を引き起きし、当該電力機器40の故障原因となり得る。このため、本実施形態に係る信号処理装置10は、上記した電力機器40の異常として例えば樹脂部41の内部に異物(例えば、金属、気泡及び樹脂バリ等)が混入していることを検査するために用いられてもよい。この場合においては、上記したように電力機器40に対して焦点を順次変えながらテラヘルツ波を照射し、かつ、樹脂部41が有する円筒形状の側面を走査することによって、樹脂部41の内部に存在する異物の界面からの反射波に応じた波形データ及び断層画像を出力すればよい。この場合、例えば比較的粗い粒度で焦点を変えるスクリーニング測定によって異物の位置(深さ)を推定し、当該推定された位置の近傍を比較的細かい粒度で焦点を変える詳細測定を行うようにしてもよい。
【0093】
また、上記した波形データ及び断層画像に基づいて電力機器40を構成する樹脂部41と導電部42との間の剥離を自動的に検出する構成と同様に、本実施形態に係る信号処理装置10は、正常時の波形データ及び断層画像を用いて、例えば樹脂部41の内部に異物が混入していることを自動的に検出してもよい。
【0094】
なお、本実施形態においては、例えば0.05~10THzの範囲に該当するテラヘルツ波を用いるものとして説明したが、具体的には、0.075~0.125THzの周波数帯のテラヘルツ波を利用することが好ましい。更に、0.1THzのテラヘルツ波は、剥離によって形成される空隙や異物を例えば断層画像等において好適に可視化することが可能である。このため、本実施形態においては、0.075~0.125THzの周波数帯の中でも特に0.1THzのテラヘルツ波を利用するとよい。また、上記したように幅のある周波数帯のテラヘルツ波を利用する場合であっても、0.1THzを含む周波数帯のテラヘルツ波を利用して、検波及び解析することが好ましい。
【0095】
本実施形態においては電力機器40にテラヘルツ波を照射するものとして主に説明したが、本実施形態におけるパルス波として超音波を用いることも可能である。
【0096】
本発明のいくつかの実施形態を説明したが、これらの実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これら実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。これら実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれると同様に、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれるものである。
【符号の説明】
【0097】
10…信号処理装置、11…反射波信号取得部、12…波形データ生成部、13…断層画像生成部、14…出力部、20…照射装置、30…検波装置、40…電力機器、41…樹脂部、41a…第1樹脂部、41b…第2樹脂部、42…導電部、101…CPU、102…不揮発性メモリ、103…RAM、103a…信号処理プログラム、104…表示デバイス、105…通信デバイス、106…バス。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
【手続補正書】
【提出日】2022-10-14
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも一部が円筒形状を有する樹脂部によって導電部が覆われるように構成されている第1電力機器に照射されたパルス波の反射波に応じた反射波信号を取得するステップと、
前記取得された反射波信号を解析することによって得られる指標を出力するステップと
を具備し、
前記導電部は、前記樹脂部が有する円筒形状の軸に沿うように位置しており、
前記パルス波は、前記樹脂部が有する円筒形状の径方向に照射され
前記第1電力機器の異常は、前記樹脂部と前記導電部との間の剥離を含む
信号処理方法。
【請求項2】
前記パルス波は、前記樹脂部が有する円筒形状の全周にわたって前記径方向に照射される請求項1記載の信号処理方法。
【請求項3】
前記パルス波は、固定された照射装置によって照射され、
前記第1電力機器は、前記照射装置によってパルス波が照射される間に、当該第1電力機器を回転させるように構成された回転装置によって回転する
請求項記載の信号処理方法。
【請求項4】
前記パルス波は、前記第1電力機器が固定された状態で、当該第1電力機器の周囲を周回する照射装置によって照射される請求項記載の信号処理方法。
【請求項5】
前記パルス波は、少なくとも0.1テラヘルツ帯のテラヘルツ波を含む請求項1~のいずれか一項に記載の信号処理方法。
【請求項6】
前記指標は、前記反射波信号に基づいて生成される反射波形を示す第1波形データを含み、
前記指標に含まれる第1波形データと、正常な第2電力機器に照射されたパルス波の反射波に応じた反射波信号に基づいて生成された第2波形データとを比較することによって前記第1電力機器の異常を検出するステップを更に具備する
請求項1~のいずれか一項に記載の信号処理方法。
【請求項7】
前記指標は、前記反射波信号に基づいて生成される前記第1電力機器の断層画像を含み、
前記指標に含まれる断層画像と、正常な第2電力機器に照射されたパルス波の反射波に応じた反射波信号に基づいて生成された当該第2電力機器の断層画像とを比較することによって前記第1電力機器の異常を検出するステップを更に具備する
請求項1~のいずれか一項に記載の信号処理方法。
【請求項8】
少なくとも一部が円筒形状を有する樹脂部によって導電部が覆われるように構成されている電力機器に照射されたパルス波の反射波に応じた反射波信号を取得する取得手段と、
前記取得された反射波信号を解析することによって得られる指標を出力する出力手段と
を具備し、
前記導電部は、前記樹脂部が有する円筒形状の軸に沿うように位置しており、
前記パルス波は、前記樹脂部が有する円筒形状の径方向に照射され
前記電力機器の異常は、前記樹脂部と前記導電部との間の剥離を含む
信号処理装置。
【請求項9】
少なくとも一部が円筒形状を有する樹脂部によって導電部が覆われるように構成されている電力機器に対してパルス波を照射する照射装置と、前記パルス波の反射波を検波する検波装置と、信号処理装置とを備える信号処理システムにおいて、
前記信号処理装置は、
前記照射装置から前記電力機器にパルス波が照射されることによって、前記検波装置によって検波された反射波に応じた反射波信号を取得する取得手段と、
前記取得された反射波信号を解析することによって得られる指標を出力する出力手段と
を含み、
前記導電部は、前記樹脂部が有する円筒形状の軸に沿うように位置しており、
前記パルス波は、前記樹脂部が有する円筒形状の径方向に照射され
前記電力機器の異常は、前記樹脂部と前記導電部との間の剥離を含む
信号処理システム。
【請求項10】
信号処理装置のコンピュータが実行するプログラムであって、
前記コンピュータに、
少なくとも一部が円筒形状を有する樹脂部によって導電部が覆われるように構成されている電力機器に照射されたパルス波の反射波に応じた反射波信号を取得するステップと、
前記取得された反射波信号を解析することによって得られる指標を出力するステップと
を実行させ、
前記導電部は、前記樹脂部が有する円筒形状の軸に沿うように位置しており、
前記パルス波は、前記樹脂部が有する円筒形状の径方向に照射され
前記電力機器の異常は、前記樹脂部と前記導電部との間の剥離を含む
プログラム。
【手続補正2】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0013
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0013】
実施形態に係る信号処理方法は、少なくとも一部が円筒形状を有する樹脂部によって導電部が覆われるように構成されている第1電力機器に照射されたパルス波の反射波に応じた反射波信号を取得するステップと、前記取得された反射波信号を解析することによって得られる指標を出力するステップとを具備する。前記導電部は、前記樹脂部が有する円筒形状の軸に沿うように位置している。前記パルス波は、前記樹脂部が有する円筒形状の径方向に照射される。前記第1電力機器の異常は、前記樹脂部と前記導電部との間の剥離を含む。