(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023147007
(43)【公開日】2023-10-12
(54)【発明の名称】光フェーズドアレイ用位相変調器の製造方法
(51)【国際特許分類】
G02F 1/29 20060101AFI20231004BHJP
【FI】
G02F1/29
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022054505
(22)【出願日】2022-03-29
(71)【出願人】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】504157024
【氏名又は名称】国立大学法人東北大学
(74)【代理人】
【識別番号】100099759
【弁理士】
【氏名又は名称】青木 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100123582
【弁理士】
【氏名又は名称】三橋 真二
(74)【代理人】
【識別番号】100092624
【弁理士】
【氏名又は名称】鶴田 準一
(74)【代理人】
【識別番号】100147555
【弁理士】
【氏名又は名称】伊藤 公一
(74)【代理人】
【識別番号】100123593
【弁理士】
【氏名又は名称】関根 宣夫
(74)【代理人】
【識別番号】100133835
【弁理士】
【氏名又は名称】河野 努
(74)【代理人】
【識別番号】100186912
【弁理士】
【氏名又は名称】松田 淳浩
(72)【発明者】
【氏名】米田 修
(72)【発明者】
【氏名】須藤 裕之
(72)【発明者】
【氏名】藤原 巧
(72)【発明者】
【氏名】高橋 儀宏
(72)【発明者】
【氏名】寺門 信明
【テーマコード(参考)】
2K102
【Fターム(参考)】
2K102AA21
2K102BA07
2K102BB04
2K102BC04
2K102BD09
2K102CA28
2K102DA04
2K102DC01
2K102DC08
2K102DD03
2K102DD06
2K102DD10
2K102EA02
2K102EA16
(57)【要約】
【課題】簡便で、基板の熱的損傷を生じることなく、基板に形成されている制御回路等の破壊を回避可能な光フェーズドアレイ用位相変調器の製造方法を提供する。
【解決手段】本開示の光フェーズドアレイ用位相変調器の製造方法は、前駆体層適用工程及び光照射工程を含む。前駆体層適用工程は、基板10の表面に、直接又は間接的に、非晶質酸化物を含有する前駆体層20を適用する。赤外光照射工程は、前駆体層20の側から光30を照射して、基板10の熱的損傷を回避しつつ、前駆体層20中の非晶質酸化物を結晶化して、結晶化非線形光学材料層22を得る。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板の表面に、直接又は間接的に、非晶質酸化物を含有する前駆体層を適用すること、及び、
前記前駆体層の側から光を照射して、前記基板の熱的損傷を回避しつつ、前記前駆体層中の非晶質酸化物を結晶化して、結晶化非線形光学材料層を得ること、
を含む、
光フェーズドアレイ用位相変調器の製造方法。
【請求項2】
前記基板の表面に、下地層を介して前記前駆体層を適用すること、
を含み、
前記光が赤外光であり、前記赤外光が、前記照射のエネルギーで、前記基板に熱的損傷を与えず、かつ前記前駆体に接触している下地層を加熱可能な波長を有していることによって、前記下地層から前記前駆体層を加熱して、前記前駆体層中の前記非晶質酸化物を結晶化する、請求項1に記載の光フェーズドアレイ用位相変調器の製造方法。
【請求項3】
前記前駆体層又は前記結晶化非線形光学材料層の、前記基板と反対側の表面に、導波路及び電極を適用する、請求項2に記載の光フェーズドアレイ用位相変調器の製造方法。
【請求項4】
前記基板の表面に、クラッド層及び導波路を介して前記前駆体層を適用し、
前記光が、前記照射のエネルギーで、前記前駆体層中の前記非晶質酸化物を結晶化せず、かつ前記導波路を加熱する波長を有していることにより、前記導波路と前記前駆体層の界面から前記前駆体層を加熱して、前記界面から前記前駆体層中の前記非晶質酸化物を結晶化しつつ、前記クラッド層が前記赤外光の照射エネルギーを遮蔽して、前記基板の熱的損傷を回避する、
請求項1に記載の光フェーズドアレイ用位相変調器の製造方法。
【請求項5】
前記クラッド層が、二酸化ケイ素を含有する、請求項4に記載の光フェーズドアレイ用位相変調器の製造方法。
【請求項6】
前記導波路が、アモルファスシリコン半導体を含有し、前記光が、前記導波路を加熱し、かつ前記基板の熱的損傷を回避可能な波長を有する、請求項4又は5に記載の光フェーズドアレイ用位相変調器の製造方法。
【請求項7】
前記クラッド層の、前記基板と反対側の表面に、電極を適用する、請求項4~6のいずれか一項に記載の光フェーズドアレイ用位相変調器の製造方法。
【請求項8】
前記非晶質酸化物が、SrO、TiO2、及びSiO2を含有する、請求項1~7のいずれか一項に記載の光フェーズドアレイ用位相変調器の製造方法。
【請求項9】
前記非晶質酸化物が、BaO、TiO2、及びGeO2を含有する、請求項1~8のいずれか一項に記載の光フェーズドアレイ用位相変調器の製造方法。
【請求項10】
BaO、TiO2、及びGeO2を含有するBaO-TiO2-GeO2系非晶質酸化物に、さらにB2O3を混合し、その混合割合が、モル比で、(BaO-TiO2-GeO2系非晶質酸化物):(B2O3)=1:xとしたとき、xが1~10である、請求項9に記載の光フェーズドアレイ用位相変調器の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、光フェーズドアレイ用位相変調器の製造方法に関する。本開示は、特にレーザビームの出射方向を制御可能な光フェーズドアレイ用位相変調器の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
リモートセンシング及び測距の用途に用いられるセンサとして、LiDAR(Light Detection and Ranging)センサがある。LiDARセンサは、例えば、自動車運転支援システム及び/又は自動運転システム等で、物体の検出、追跡、及び特定等を行ったり、リアルタイムでの三次元マッピング等を行ったりする。
【0003】
LiDARセンサは、空間内にレーザビームをスキャンしながら、その空間内の物体にレーザビームを照射する。そして、照射したレーザビームが、その物体で反射してLiDARセンサに戻ってくるまでの飛行時間(TOF:Time of Flight)を測定することによって、その物体までの距離を測定する。
【0004】
LiDARセンサには、機械式の回転部品を用いてレーザビームのスキャニングを行うものと、ソリッドステート型のビームスキャナを用いてレーザビームのスキャニングを行うものがある。例えば、自動車運転者支援システム及び/又は自動運転システム等に用いるLiDARセンサとしては、従来のLiDARセンサ比較して、レーザビームを高速でスキャニングする必要がある。また、センサの、信頼性が高いこと、寿命が長いこと、サイズが小さいこと、そして、重量が軽いこと等が要求される。このような用途には、ソリッドステート型のビームスキャナを用いてレーザビームのスキャニングを行うLiDARセンサが有用である。
【0005】
ソリッドステート型のビームスキャナとしては、例えば、光フェーズドアレイ(OPA:Optical Phased Array)が挙げられる。光フェーズドアレイは、レーザビームの出射方向を制御する位相変調器を備えている。
【0006】
例えば、特許文献1には、位相変調器を備えている光フェーズドアレイが開示されている。そして、特許文献1には、位相変調器の基板が、Si3N4、Si、SiON、LiNbO3、LiTaO3、及びSiCのいずれかでできていることが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
位相変調器は、結晶化されている非線形光学材料(以下、「結晶化非線形光学材料」ということがある。)を備えている。位相変調器において、層状の結晶化非線形光学材料(以下、「結晶化非線形光学材料層」ということがある。)が、基板に適用されている。結晶化非線形光学材料は、非晶質酸化物(複合酸化物を含む)を前駆体として、その前駆体を結晶化して得られる。そして、その結晶化温度は、非常に高温であることが一般的である。基板には、位相変調器として必要な様々な制御回路等が形成されている。そのため、基板に層状の前駆体(以下、「前駆体層」ということがある。)を適用してから、その前駆体層を結晶化すると、基板に熱的損傷を生じ、基板に形成されている制御回路等が破壊されることがあった。特に、結晶化温度の高いLBO(Lithium Triborate or LiB3O5)系材料を用いる際には、基板の熱的損失の問題が深刻であった。これを防止するため、従来の位相変調器の製造方法では、予め、結晶化非線形光学材料層を準備しておき、それを基板に貼り合わせていたが、その貼り合わせには、多くの工数を有していた。
【0009】
これらのことから、簡便で、基板に熱的損傷を生じることなく、基板に形成されている制御回路等の破壊を回避可能な光フェーズドアレイ用位相変調器の製造方法が望まれている、という課題を、本発明者らは見出した。
【0010】
本開示は、上記課題を解決するためになされたものである。すなわち、本開示は、簡便で、基板の熱的損傷を生じることなく、基板に形成されている制御回路等の破壊を回避可能な光フェーズドアレイ用位相変調器の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らは、上記目的を達成すべく、鋭意検討を重ね、本開示の光フェーズドアレイ用位相変調器の製造方法を完成させた。本開示の光フェーズドアレイ用位相変調器の製造方法は、次の態様を含む。
〈1〉基板の表面に、直接又は間接的に、非晶質酸化物を含有する前駆体層を適用すること、及び、
前記前駆体層の側から光を照射して、前記基板の熱的損傷を回避しつつ、前記前駆体層中の非晶質酸化物を結晶化して、結晶化非線形光学材料層を得ること、
を含む、
光フェーズドアレイ用位相変調器の製造方法。
〈2〉前記基板の表面に、下地層を介して前記前駆体層を適用すること、
を含み、
前記光が赤外光であり、前記赤外光が、前記照射のエネルギーで、前記基板に熱的損傷を与えず、かつ前記前駆体に接触している下地層を加熱可能な波長を有していることによって、前記下地層から前記前駆体層を加熱して、前記前駆体層中の前記非晶質酸化物を結晶化する、〈1〉項に記載の光フェーズドアレイ用位相変調器の製造方法。
〈3〉前記前駆体層又は前記結晶化非線形光学材料層の、前記基板と反対側の表面に、導波路及び電極を適用する、〈2〉項に記載の光フェーズドアレイ用位相変調器の製造方法。
〈4〉前記基板の表面に、クラッド層及び導波路を介して前記前駆体層を適用し、
前記光が、前記照射のエネルギーで、前記前駆体層中の前記非晶質酸化物を結晶化せず、かつ前記導波路を加熱する波長を有していることにより、前記導波路と前記前駆体層の界面から前記前駆体層を加熱して、前記界面から前記前駆体層中の前記非晶質酸化物を結晶化しつつ、前記クラッド層が前記光の照射エネルギーを遮蔽して、前記基板の熱的損傷を回避する、
〈1〉項に記載の光フェーズドアレイ用位相変調器の製造方法。
〈5〉前記クラッド層が、二酸化ケイ素を含有する、〈4〉項に記載の光フェーズドアレイ用位相変調器の製造方法。
〈6〉前記導波路が、アモルファスシリコン半導体を含有し、前記光が、前記導波路を加熱し、かつ前記基板の熱的損傷を回避可能な波長を有する、〈4〉又は〈5〉項に記載の光フェーズドアレイ用位相変調器の製造方法。
〈7〉前記クラッド層の、前記基板と反対側の表面に、電極を適用する、〈4〉~〈6〉項のいずれか一項に記載の光フェーズドアレイ用位相変調器の製造方法。
〈8〉前記非晶質酸化物が、SrO、TiO2、及びSiO2を含有する、〈1〉~〈7〉項のいずれか一項に記載の光フェーズドアレイ用位相変調器の製造方法。
〈9〉前記非晶質酸化物が、BaO、TiO2、及びGeO2を含有する、〈1〉~〈8〉項のいずれか一項に記載の光フェーズドアレイ用位相変調器の製造方法。
〈10〉BaO、TiO2、及びGeO2を含有するBaO-TiO2-GeO2系非晶質酸化物に、さらにB2O3を混合し、その混合割合が、モル比で、(BaO-TiO2-GeO2系非晶質酸化物):(B2O3)=1:xとしたとき、xが1~10である、〈9〉項に記載の光フェーズドアレイ用位相変調器の製造方法。
【発明の効果】
【0012】
本開示によれば、直接又は間接的に前駆体層を適用した基板に、前駆体層の側から、光を照射して、前駆体層中の非晶質酸化物を結晶化する。これによって、簡便で、基板に熱的損傷を生じることなく、基板に形成されている制御回路等の破壊を回避可能な光フェーズドアレイ用位相変調器の製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】
図1は、本開示の製造方法において、赤外光の照射エネルギーで前駆体層中の非晶質酸化物を加熱する態様の一例を説明する断面模式図である。
【
図2】
図2は、本開示の製造方法において、赤外光の照射エネルギーで導波路を加熱し、導波路と前駆体層の界面から前駆体層を加熱する態様の一例を説明する模式図である。
【
図3A】
図3Aは、本開示の製造方法で用いる光について、波長と光吸収係数の関係の一例を示すグラフである。
【
図3B】
図3Bは、本開示の製造方法で用いる光について、波長と光吸収係数の関係の別の例を示すグラフである。
【
図4】
図4は、
図1に示した態様(第一態様)の一例を示す、フローチャートである。
【
図5】
図5は、SHG特性の評価に用いた装置の概略を示す模式図である。
【
図6】
図6は、実施例3及び実施例4の試料について、回転角度とSHG強度の関係を示すグラフである。
【
図7】
図7は、
図6のグラフから推定される、結晶化非線形光学材料の組織を模式的に示す説明図である。
【
図8】
図8は、実施例5及び実施例6の試料について、回転角度とSHG強度の関係を示すグラフである。
【
図9】
図9は、
図8のグラフから推定される、結晶化非線形光学材料の組織を模式的に示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本開示の光フェーズドアレイ用位相変調器の製造方法(以下、「本開示の製造方法」ということがある。)の実施形態を詳細に説明する。なお、以下に示す実施形態は、本開示の製造方法を限定するものではない。
【0015】
本開示の製造方法によって、基板に熱的損傷を生じることなく、基板に形成されている制御回路等の破壊を回避しつつ、基板に直接又は間接的に適用した前駆体層中の非晶質酸化物を結晶化することができる理由について、図面を用いて説明する。なお、本明細書において、「熱的損傷」とは、得られる光フェーズドアレイが使用不能になる程度に、熱によって基板が損傷を受けることを意味する
【0016】
図1は、本開示の製造方法において、赤外光の照射エネルギーで前駆体層中の非晶質酸化物を加熱する態様の一例を説明する断面模式図である。
図2は、本開示の製造方法において、赤外光の照射エネルギーで導波路を加熱し、導波路と前駆体層の界面から前駆体層を加熱する態様の一例を説明する模式図である。
図3Aは、本開示の製造方法で用いる光について、波長と光吸収係数の関係の一例を示すグラフである。
図3Bは、本開示の製造方法で用いる光について、波長と光吸収係数の関係の別の例を示すグラフである。
【0017】
図1及び
図2に示す態様のいずれも、基板10の表面に、直接又は間接的に、前駆体層20を適用する。そして、いずれの態様の場合も、基板10の側(図面で下側)からではなく、前駆体層20の側(図面で上側)から、光30を照射する。
【0018】
図1に示した態様においては、基板10の表面に、間接的に前駆体層20を適用するため、基板10と前駆体層20の間に、下地層40が存在する。下地層40については後ほど詳述する。前駆体層20の側から光30を照射すると、基板10も光30の照射エネルギーの影響を受ける。
図1に示した態様においては、光30は、典型的には、赤外光である。前駆体層20中の非晶質酸化物の結晶化温度は、非常に高温であるため、前駆体層20中の非晶質酸化物の結晶化には大きな光照射エネルギーが必要である。そのため、大きな照射エネルギーの光を照射する必要がある。全ての光は薄い前駆体では吸収されず透過し基板に到達する。この光を基板が吸収すると基板が加熱され損傷を受ける。そこで、光30を照射したとき、基板10が熱的損傷を受けないようにするため、光30は、
図3A又は
図3Bの矢印Aで示す波長を有する。すなわち、光30は、基板に吸収されない波長であり、光30の照射エネルギーで、基板10に熱的損傷を与えず、かつ下地層40を加熱可能な波長を有する。
【0019】
図2に示した態様においては、基板10の表面に、クラッド層50及び導波路60を介して前駆体層20を適用し、前駆体層20の側から、
図3A又は
図3Bの矢印Bで示した波長を有する光30を照射する。矢印Bで示した波長を有する光30は、その照射エネルギーで、前駆体層20中の非晶質酸化物を結晶化せず、導波路60を加熱する。そうすると、導波路60と前駆体層20の界面から前駆体層20を加熱して、前駆体層20中の非晶質酸化物を結晶化する。
【0020】
図2に示した態様においては、理論に拘束されないが、導波路60と前駆体層20の界面からの前駆体層20の加熱は、加熱された導波路60から前駆体層20への熱伝達で達成されると考えられる。また、クラッド層50は、一般的に酸化物であるため、
図3A及び
図3Bの矢印Bで示した波長を有する光30は、その照射エネルギーでクラッド層50を加熱しない。そして、クラッド層50は、前駆体層20と同程度の厚さを有しているか、前駆体層20よりも厚い。そのため、前駆体層20の側から光30を照射しても、クラッド層50が光30の照射エネルギーを遮蔽する。その結果、基板10は赤外光の照射エネルギーの影響を受けないか、あるいは、受けたとしても、実用上、問題のない範囲であり、基板10の熱的損傷を回避する。なお、本明細書において、特に断りがない限り、「光の照射エネルギーを遮蔽する」とは、光の照射エネルギーの伝達を妨げることを意味する。
【0021】
これまで述べてきた知見等によって完成された、本開示の光フェーズドアレイの製造方法の構成要件を、次に説明する。
【0022】
《光フェーズドアレイの製造方法》
本開示の光フェーズドアレイ用位相変調器の製造方法(以下、単に「本開示の製造方法」ということがある。)は、前駆体層適用工程及び赤外光照射工程を含む。以下、各工程について説明する。
【0023】
〈前駆体層適用工程〉
基板の表面に、直接又は間接的に、非晶質酸化物を含有する前駆体層を適用する。これについて、上述の
図1に示した態様(以下、「第一態様」ということがある。)と、
図2に示した態様(以下、「第二態様」ということがある。)に分けて説明する。
【0024】
[第一態様]
図1に示したように、基板10の表面に、下地層40を介して間接的に、前駆体層20を適用する。
【0025】
基板10は、Si(シリコン半導体)、Si3N4、SiON、LiNbO3、LiTaO3、及びSiC等を含有する。これらを組み合わせて含有してもよい。また、これら以外に、不可避的不純物を含有してもよい。本明細書で、特に断りのない限り、不可避的不純物とは、原材料及び/又は光フェーズドアレイ用位相変調器を製造等するに際し、その含有を回避することできない、あるいは、回避するためには著しい製造コストの上昇を招くような不純物元素のことを意味する。
【0026】
基板10には、制御用回路等(図示しない)が形成されている。制御用回路等の形成方法は、周知の方法を用いることができる。制御回路等の方法としては、例えば、印刷及びエッチング等が挙げられ、これらを組み合わせてもよい。
【0027】
基板10の厚さは、典型的には、250μm以上、280μm以上、300μm以上、又は400μm以上であってよく、800μm以下、776μm以下、725μm以下、700μm以下、600μm以下、又は500μm以下であってよい。
【0028】
前駆体層20は、非晶質酸化物を含有する。後述する赤外光照射工程で、非晶質酸化物は、結晶化する。このような非晶質酸化物としては、例えば、SrO、TiO2、SiO2、BaO、及びGeO2等があげられ、これら組み合わせてもよい。前駆体層20は、非晶質酸化物以外に、不可避的不純物を含有してもよい。
【0029】
上述の非晶質酸化物を組み合わせる場合には、特に、30モル%以上、32モル%以上、又は34モル%以上、かつ40モル%以下、38モル%以下、又は36モル%以下のSrO、15モル%以上、17モル%以上、又は19モル%以上、かつ25モル%以下、23モル%以下、又は21モル%以下のTiO2、並びに、40モル%以上、42モル%以上、又は44モル%以上、かつ50モル%以下、48モル%以下、又は46モル%以下のSiO2を含有する非晶質酸化物が好ましく、典型的には、35モル%SrO-20モル%TiO2-45モル%SiO2であってよい。また、35モル%以上、37モル%以上、又は39モル%以上、かつ45モル%以下、43モル%以下、又は41モル%以下のBaO、15モル%以上、17モル%以上、又は19モル%以上、かつ25モル%以下、23モル%以下、又は21モル%以下のTiO2、並びに、35モル%以上、37モル%以上、又は39モル%以上、かつ45モル%以下、43モル%以下、又は41ノル%以下のGeO2を含有する非晶質酸化物が好ましく、典型的には、40モル%BaO-20モル%TiO2-40モル%GeO2であってよい。
【0030】
前駆体層20は、前駆体層20中の非晶質酸化物を、非晶質のまま基板10の表面に適用することができれば、その適用方法に特に制限はない。前駆体層20の適用方法としては、電子ビーム蒸着、スパッタリング、及びパルスレーザーアブレーション等が挙げられる。これらを組み合わせてもよい。
【0031】
前駆体層20の厚さは、典型的には、100nm以上、200nm以上、300nm以上、400nm以上、又は450nm以上であってよく、1000nm以下、990nm以下、900nm以下、800nm以下、700nm以下、600nm以下、又は550nm以下であってよい。後述する赤外光照射工程で、前駆体層20中の非晶質酸化物は結晶化され、結晶化非線形光学材料層22を得ることができるが、結晶化非線形光学材料層22の厚さは、前駆体層20の厚さと、実質的に同等である。
【0032】
図1に示した態様では、基板10の表面に、下地層40を介して間接的に、前駆体層20を適用する。下地層40によって、次のことが期待できる。すなわち、下地層40の導電性によって、前駆体層20を透過した赤外光を吸収し、下地層40が加熱される。その加熱された下地層40から前駆体層20に熱が伝達して、前駆体層20を加熱し、前駆体層20中の非晶質酸化物を結晶化し、結晶化非線形光学材料層22を得ることができる。また、下地層40の加熱により、基板10と、前駆体層20に由来する結晶化非線形光学材料層22との間で原子の相互拡散が生じ、基板10と結晶化非線形光学材料層22との間の密着性が向上する。
【0033】
下地層40は、典型的には、導電性物質を含有し、導電性物質以外に、不可避的不純物を含有してもよい。下地層40としては、例えば、Au、Al、Ag、及びTi等が挙げられ、これらを組み合わせてもよい。これらは、金属であってもよいし、合金であってもよい。なお、「金属」とは、合金化されていない金属を意味する。
【0034】
下地層40の適用方法に特に制限はなく、例えば、イオン注入、電子ビーム蒸着、スパッタリング、及びパルスレーザーアブレーション等が挙げられる。これらを組み合わせてもよい。
【0035】
下地層40の厚さは、典型的には、3nm以上、5nm以上、10nm以上、20nm以上、30nm以上、又は40nm以上であってよく、100nm以下、90nm以下、80nm以下、70nm以下、60nm以下、又は50nm以下であってよい。後述する赤外光照射工程後も、下地層40の厚さは、赤外光照射工程前と、実質的に同等である。
【0036】
[第二態様]
図2に示したように、基板10の表面に、クラッド層50及び導波路60を介して前駆体層20を適用する。
【0037】
基板10は、Si、Si3N4、SiON、LiNbO3、LiTaO3、及びSiC等を含有する。これらを組み合わせて含有してもよい。また、これら以外に、不可避的不純物を含有してもよい。
【0038】
基板10には、制御用回路等(図示しない)が形成されている。制御用回路等の形成方法は、周知の方法を用いることができる。制御回路等の方法としては、例えば、印刷及びエッチング等が挙げられ、これらを組み合わせてもよい。
【0039】
基板10の厚さは、典型的には、250μm以上、280μm以上、300μm以上、又は400μm以上であってよく、800μm以下、776μm以下、725μm以下、700μm以下、600μm以下、又は500μm以下であってよい。
【0040】
前駆体層20は、非晶質酸化物を含有する。後述する赤外光照射工程で、非晶質酸化物は結晶化する。このような非晶質酸化物としては、例えば、SrO、TiO2、SiO2、BaO、及びGeO2等があげられ、これら組み合わせてもよい。前駆体層20は、このような非晶質酸化物以外に、不可避的不純物を含有してよい。
【0041】
上述の非晶質酸化物を組み合わせる場合には、特に、30モル%以上、32モル%以上、又は34モル%以上、かつ40モル%以下、38モル%以下、又は36モル%以下のSrO、15モル%以上、17モル%以上、又は19モル%以上、かつ25モル%以下、23モル%以下、又は21モル%以下のTiO2、並びに、40モル%以上、42モル%以上、又は44モル%以上、かつ50モル%以下、48モル%以下、又は46モル%以下のSiO2を含有する非晶質酸化物が好ましく、典型的には、35モル%SrO-20モル%TiO2-45モル%SiO2であってよい。また、35モル%以上、37モル%以上、又は39モル%以上、かつ45モル%以下、43モル%以下、又は41モル%以下のBaO、15モル%以上、17モル%以上、又は19モル%以上、かつ25モル%以下、23モル%以下、又は21モル%以下のTiO2、並びに、35モル%以上、37モル%以上、又は39モル%以上、かつ45モル%以下、43モル%以下、又は41モル%以下のGeO2を含有する非晶質酸化物が好ましく、典型的には、40モル%BaO-20モル%TiO2-40モル%GeO2であってよい。
【0042】
前駆体層20は、前駆体層20中の非晶質酸化物を、非晶質のまま基板10の表面に適用することができれば、その適用方法に特に制限はない。前駆体層の適用方法としては、電子ビーム蒸着、スパッタリング、及びパルスレーザーアブレーション等が挙げられる。これらを組み合わせてもよい。
【0043】
前駆体層20の厚さは、典型的には、100nm以上、200nm以上、300nm以上、400nm以上、又は450nm以上であってよく、1000nm以下、990nm以下、900nm以下、800nm以下、700nm以下、600nm以下、又は550nm以下であってよい。後述する赤外光照射工程で、前駆体層20中の非晶質酸化物は結晶化され、結晶化非線形光学材料層22を得ることができるが、結晶化非線形光学材料層22の厚さは、前駆体層20の厚さと、実質的に同等である。
【0044】
図2に示した態様では、基板10の表面に、クラッド層50及び導波路60を介して、間接的に前駆体層20を適用する。また、基板10はクラッド層50に接触させ、前駆体層20は導波路60に接触させる。この理由については、後述の「〈赤外光照射工程〉」で説明する。
【0045】
クラッド層50は、導電性が低く、導波路より屈折率が小さければ特に制限はない例えば、基板10がSi(シリコン半導体、屈折率が3.82)を含有する場合には、クラッド層50はSiO2(二酸化ケイ素、屈折率が1.45)を含有することが好ましい。クラッド層50は、酸化物以外に、不可避的不純物を含有してもよい。
【0046】
クラッド層50の適用方法に特に制限はなく、例えば、電子ビーム蒸着、スパッタリング、及びパルスレーザーアブレーション等が挙げられる。これらを組み合わせてもよい。
【0047】
クラッド層50の厚さは、典型的には、100nm以上、200nm以上、300nm以上、400nm以上、500nm以上、600nm以上、700nm以上、800nm以上、900nm以上、1000nm以上、1200nm以上、1400nm以上、1600nm以上、1800nm以上、又は2000nm以上であってよく、4000nm以下、3800nm以下、3600nm以下、3400nm以下、3200nm以下、3000nm以下、2800nm以下、2600nm以下、2400nm以下、又は2200nm以下であってよい。後述する赤外光照射工程後も、クラッド層50の厚さは、赤外光照射工程前と、実質的に同等である。
【0048】
導波路60は、光フェーズドアレイ用位相変調器の導波路として機能すれば特に制限はなく、典型的には半導体を含有する。導波路60は、半導体以外に、不可避的不純物を含有してもよい。半導体としては、典型的には、a-Si(アモルファスシリコン)、a-Si:H(水素化アモルファスシリコン)、p+-Si(p型シリコン)、n--Si(n型シリコン)、poly-Si(多結晶シリコン)、及びc-Si(結晶シリコン)が挙げられる。
【0049】
導波路60の適用方法に特に制限はなく、例えば、電子ビーム蒸着、スパッタリング、及びパルスレーザーアブレーション等が挙げられる。これらを組み合わせてもよい。
【0050】
導波路60の厚さは、典型的には、10nm以上、20nm以上、30nm以上、40nm以上、又は45nm以上であってよく、200nm以下、180nm以下、160nm以下、140nm以下、120nm以下、100nm以下、90nm以下、80nm以下、70nm以下、60nm以下、55nm以下、又は50nm以下であってよい。
【0051】
〈赤外光照射工程〉
前駆体層20の側から光30を照射して、基板10の熱的損傷を回避しつつ、前駆体層20中の非晶質酸化物を結晶化して、結晶化非線形光学材料層22を得る。これについて、第一態様と第二態様に分けて説明する。
【0052】
[第一態様]
図1に示したように、前駆体層20の側から光30を照射して、基板10の熱的損傷を回避しつつ、前駆体層20中の非晶質酸化物を結晶化して、結晶化非線形光学材料層22を得る。
図1に示した態様では、下地層40が存在しているが、上述したように、下地層40は存在しなくてもよい。
【0053】
第一態様では、
図3A又は
図3Bの矢印Aで示した波長を有する光30を照射する。具体的には、光30の照射エネルギーで、基板10に熱的損傷を与えず、かつ前駆体層20中の非結晶酸化物を加熱して結晶化する波長を有する光30を照射する。
【0054】
ここで、「光30の照射エネルギーで、基板10に熱的損傷を与えない波長」とは、基板10が光30を吸収しないか、あるいは、基板10が光30を吸収しても、その吸収による基板10の加熱が、基板10に熱的損傷を与えない程度であるような波長を意味する。また、「光30の照射エネルギーで、前駆体層20中の非結晶酸化物を加熱して結晶化する波長」とは、前駆体層20が光30を吸収して、前駆体層20中の非晶質酸化物を加熱する際、光30の吸収の程度が、非晶質酸化物を結晶化するような波長であることを意味する。
【0055】
このような光30の波長(
図3A又は
図3Bの矢印Aで示した波長)は、典型的には、3000nm以上、3500nm以上、4000nm以上、又は5000nm以上であってよい。前述の波長を満足する限りにおいて、赤外光(遠赤外光を含む)であれば、その波長は特に制限はなく、12000nm以下、10000nm以下、9000nm以下、8000nm以下、7000nm以下、又は6000nm以下であってよい。
【0056】
上述の波長を有する光30を、
図1に示したように、前駆体層20の側から照射すると、基板10に熱的損傷を与えない。それと同時に、光30の照射エネルギーで、前駆体層20を、光30の照射側(
図1の上側)から加熱し、前駆体層20中の非晶質酸化物を、光30の照射側(
図1の上側)から結晶化して、結晶化非線形光学材料層22を得ることができる。
【0057】
上述の波長を満足していれば、光30の種類は特に制限されないが、典型的には、光30は、赤外光、特に、赤外レーザー光、連続赤外レーザーである。光30の照射強度及び照射時間は、前駆体層20の厚さ等を考慮して適宜決定すればよい。光30の照射強度は、例えば、100W/cm2以上、200W/cm2以上、300W/cm2以上、又は350W/cm2以上であってよく、100000W/cm2以下、50000W/cm2以下、10000W/cm2以下、5000W/cm2以下、4000W/cm2以下、3000W/cm2以下、2000W/cm2以下、1000W/cm2以下、500W/cm2以下、又は400W/cm2以下であってよい。光30の照射時間は、例えば、1μ秒以上、10μ秒以上、100μ秒以上、1000μ秒以上、10000μ秒以上、100000μ秒以上、又は1秒以上であってよく、10秒以下、8秒以下、6秒以下、4秒以下、又は2秒以下であってよい。
【0058】
[第二態様]
図2に示したように、前駆体層20の側から光30を照射して、基板10の熱的損傷を回避しつつ、前駆体層20中の非晶質酸化物を結晶化して、結晶化非線形光学材料層22を得る。
【0059】
第二態様では、
図3A又は
図3Bの矢印Bで示した波長を有する光30を照射する。具体的には、光30は、光30の照射のエネルギーで、前駆体層20中の非晶質酸化物を直接加熱せず、かつ導波路60を直接加熱する波長を有する光30を照射する。
【0060】
ここで、「光30の照射エネルギーで、前駆体層20中の非晶質酸化物を結晶化しない波長」とは、前駆体層20中の非晶質酸化物が光30を吸収しないか、あるいは、前駆体層20中の非晶質酸化物が光30を吸収しても、その吸収による前駆体層20中の非晶質酸化物の加熱が、前駆体層20中の非晶質酸化物を結晶化しない程度であるような波長を意味する。また、「光30の照射エネルギーで、導波路60を加熱する波長」とは、導波路60が光30を吸収して、導波路60を加熱する際、次に説明する程度になるような波長を意味する。すなわち、導波路60の加熱によって、導波路60と前駆体層20の界面から前駆体層20を加熱して、その界面から前駆体層20中の非晶質酸化物を結晶化しつつ、クラッド層50が光30の照射エネルギーを遮蔽して、基板10の熱的損傷を回避するような波長である。クラッド層50は、光30の照射エネルギーを完全に遮蔽することが理想であるが、完全に遮蔽しなくてもよく、その遮蔽は、基板10が熱的損傷を受けない程度であればよい。
【0061】
このような光30(
図3A又は
図3Bの矢印Bで示した波長)は、典型的には、400nm以上、450nm以上、500nm以上、又は550nm以上であってよく、3000nm以下、2500nm以下、2000nm以下、1500nm以下、1000nm以下、900nm以下、800nm以下、700nm以下、又は600nm以下であってよい。
図3A及び
図3Bの矢印Bに示すように、導波路60がa-Si:Hを含有する場合、あるいは、a-Siを含有する場合には、導波路60を直接加熱し、かつ基板10の熱的損傷を回避可能な波長を有している光30を選択することができる。なお、「直接加熱」とは、光30の照射エネルギーを吸収することによる加熱を意味する。また、「熱的損傷」とは、得られる光フェーズドアレイが使用不能になる程度に、熱によって基板が損傷を受けることを意味する。そして、「アモルファスシリコン半導体」は、a-Si:H及びa-Siの少なくともいずれかを意味する。
【0062】
上述の波長を満足していれば光30の種類は特に制限されないが、典型的には、光30の種類は、可視光又は紫外線である。光30の照射強度及び照射時間は、前駆体層20の厚さ等を考慮して適宜決定すればよい。光30の照射強度は、例えば、100W/cm2以上、200W/cm2以上、300W/cm2以上、又は350W/cm2以上であってよく、100000W/cm2以下、50000W/cm2以下、10000W/cm2以下、5000W/cm2以下、4000W/cm2以下、3000W/cm2以下、2000W/cm2以下、1000W/cm2以下、500W/cm2以下、又は400W/cm2以下であってよい。光30の照射時間は、例えば、1μ秒以上、10μ秒以上、100μ秒以上、1000μ秒以上、10000μ秒以上、100000μ秒以上、又は1秒以上であってよく、10秒以下、8秒以下、6秒以下、4秒以下、又は2秒以下であってよい。
【0063】
〈その他の工程〉
これまで説明してきた前駆体層適用工程及び光照射工程の他に、次の工程を含んでもよい。これについて、第一態様及び第二態様に分けて説明する。
【0064】
[第一態様]
図1に示したように、前駆体層20中の非晶質酸化物を結晶化した後に、結晶化非線形光学材料層22の、基板10と反対側の表面に、導波路60及び電極70を適用してもよいが、これに限られない。例えば、前駆体層20中の非晶質酸化物を結晶化する前に、前駆体層20の、基板10と反対側の表面に、導波路60及び電極70を適用してもよい
【0065】
導波路60及び電極70の適用方法に特に制限はない。導波路60及び電極70の適用方法としては、電子ビーム蒸着、スパッタリング、及びパルスレーザーアブレーション等が挙げられる。これらを組み合わせてもよい。
【0066】
導波路60は、光フェーズドアレイ用位相変調器の導波路として機能すれば特に制限はなく、典型的には半導体を含有する。導波路60は、半導体以外に、不可避的不純物を含有してよい。半導体としては、典型的には、a-Si(アモルファスシリコン)、a-Si:H(水素化アモルファスシリコン)、p+-Si(p型シリコン)、n--Si(n型シリコン)、poly-Si(多結晶シリコン)、及びc-Si(結晶シリコン)が挙げられる。
【0067】
導波路60の厚さは、典型的には、10nm以上、20nm以上、30nm以上、40nm以上、又は45nm以上であってよく、200nm以下、180nm以下、160nm以下、140nm以下、120nm以下、100nm以下、90nm以下、80nm以下、70nm以下、60nm以下、55nm以下、又は50nm以下であってよい。
【0068】
電極70は、光フェーズドアレイ用位相変調器の導波路として機能すれば特に制限はなく、導電性物質を含有する。導電性物質以外に、不可避的不純物を含有してもよい。電極70としては、典型的にはAl等が挙げられる。Alは金属Alであってもよいし、他の元素との合金であってもよい。なお、「金属Al」とは、合金化されていないAlを意味する。
【0069】
電極70の厚さは、典型的には、10nm以上、30nm以上、50nm以上、70nm以上、90nm以上、100nm以上、200nm以上、300nm以上、又は400nm以上であってよく、1000nm以下、900nm以下、800nm以下、700nm以下、600nm以下、又は500nm以下であってよい。
【0070】
さらに、
図1に示したように、任意で、前駆体層20中の非晶質酸化物を結晶化した後に、結晶化非線形光学材料層22の、基板10と反対側の表面に、クラッド層50を適用してもよいが、これに限られない。例えば、前駆体層20中の非晶質酸化物を結晶化する前に、前駆体層20の、基板10と反対側の表面に、クラッド層50を適用してもよい。クラッド層50により、放電など抑制し効率よく位相変調することができる。
【0071】
クラッド層50の適用方法に特に制限はない。クラッド層50の適用方法としては、電子ビーム蒸着、スパッタリング、及びパルスレーザーアブレーション等が挙げられる。これらを組み合わせてもよい。
【0072】
クラッド層50は、光フェーズドアレイ用位相変調器のクラッド層として機能すれば特に制限はなく、典型的には酸化物を含有する。クラッド層50は、酸化物以外に、不可避的不純物を含有してよい。酸化物としては、典型的には、SiO2(二酸化ケイ素)が挙げられる。
【0073】
クラッド層50の厚さは、典型的には、100nm以上、300nm以上、500nm以上、700nm以上、900nm以上、1100nm以上、1300nm以上、1500nm以上、1700nm以上、又は1900nm以上であってよく、4000nm以下、3500nm以下、3000nm以下、2500nm以下、2300nm以下、2100nm以下、又は2000nm以下であってよい。
【0074】
これまで説明した第一態様の一例を、フローチャートで示すと、
図4のとおりとなるが、これに限られないことは、上述したとおりである。
【0075】
[第二態様]
図2に示したように、光30の照射前又は照射中に、クラッド層50の、基板10と反対側の表面に、電極70を適用してもよいが、これに限られない。例えば、クラッド層50及び導波路60を介して前駆体層20を基板10に適用し、これに、光30を照射して、前駆体層20中の非晶質酸化物を結晶化した後に、クラッド層50の、基板10と反対側の表面に、電極70を適用してもよい。
【0076】
電極70の適用方法に特に制限はない。電極70の適用方法としては、電子ビーム蒸着、スパッタリング、及びパルスレーザーアブレーション等が挙げられる。これらを組み合わせてもよい。
【0077】
電極70は、光フェーズドアレイ用位相変調器の電極として機能すれば特に制限はなく、導電性物質を含有する。導電性物質以外に、不可避的不純物を含有してもよい。電極70としては、典型的にはAl等が挙げられる。Alは金属Alであってもよいし、他の元素との合金であってもよい。なお、「金属Al」とは、合金化されていないAlを意味する。
【0078】
電極70の厚さは、典型的には、10nm以上、30nm以上、50nm以上、70nm以上、90nm以上、100nm以上、200nm以上、300nm以上、又は400nm以上であってよく、1000nm以下、900nm以下、800nm以下、700nm以下、600nm以下、又は500nm以下であってよい。
【0079】
《変形》
これまで説明してきたこと以外でも、本開示の製造方法は、特許請求の範囲に記載した内容の範囲内で種々の変形を加えることができる。
【0080】
例えば、前駆体層20中の非晶質酸化物として、35モル%以上、37モル%以上、又は39モル%以上、かつ45モル%以下、43モル%以下、又は41モル%以下のBaO、15モル%以上、17モル%以上、又は19モル%以上、かつ25モル%以下、23モル%以下、又は21モル%以下のTiO2、並びに、35モル%以上、37モル%以上、又は39モル%以上、かつ45モル%以下、43モル%以下、又は41モル%以下のGeO2を含有する非晶質酸化物(以下、「BaO-TiO2-GeO2系非晶質酸化物」ということがある。)を選択したとき、B2O3を混合しても、BaO-TiO2-GeO2-B2O3は、基板に熱的損傷を生じさせることなく、基板に形成されている制御回路等の破壊を回避した光フェーズドアレイ用位相変調器を得ることができる。なお、BaO-TiO2-GeO2非晶質酸化物は、典型的には、40モル%BaO-20モル%TiO2-40モルGeO2あるが、これに限られない。
【0081】
そして、BaO-TiO2-GeO2系非晶質酸化物にB2O3を混合した際、その混合割合が、モル比で、(BaO-TiO2-GeO2系非晶質酸化物):(B2O3)=1:xとしたとき、xは、1以上、2以上、3以上、4以上、又は5以上であってよく、10.0以下、9.5以下、9.0以下、8.5以下、8.0以下、又は7.5以下であってよい。B2O3を混合する場合には、結晶化の際、一軸方向の結晶成長が顕著になる。その結果、非線形光学特性が一層向上し、さらに効率よく位相変調することができる。
【実施例0082】
以下、本開示の製造方法を実施例により、さらに具体的に説明する。なお、本開示の製造方法は、以下の実施例で用いた条件に限定されない。
【0083】
《試料の準備》
実施例1~7の試料を次の要領で準備した。
【0084】
〈実施例1〉
図1及び
図4に示した態様で、光フェーズドアレイ用位相変調器の試料を準備した。基板10は、厚さ725μmのSi基板であった。前駆体層20は、厚さ500nmの35モル%SrO-20モル%TiO
2-45モル%SiO
2であった。下地層40は、厚さ5nmの金属Auであった。導波路60は、厚さ50nmのa-Si(アモルファスシリコン)であった。電極70は、厚さ100nmの金属Alであった。クラッド層80は、厚さ2000nmの二酸化ケイ素(SiO
2)であった。また、照射した光30は、連続赤外レーザーであった。波長は5000nmであり、照射強度は400W/cm
2であり、そして、照射時間は1ミリ秒であった。
【0085】
〈実施例2〉
前駆体層20が、厚さ500nmの40モル%BaO-20モル%TiO2-40モル%GeO2であること以外、実施例1と同様にして、実施例2の試料を準備した。
【0086】
〈実施例3〉
前駆体層20として、40モル%BaO-20モル%TiO2-40モル%GeO2にB2O3を混合し、その混合割合(モル比)を、(40モル%BaO-20モル%TiO2-40モル%GeO2):B2O3=1:xで表したとき、x=5であること以外、実施例2と同様にして、実施例3の試料を準備した。
【0087】
〈実施例4〉
B2O3の混合に際し、(40モル%BaO-20モル%TiO2-40モル%GeO2):B2O3=1:xについて、x=10であること以外、実施例2と同様にして、実施例4の試料を準備した。
【0088】
〈実施例5〉
B2O3の混合に際し、40モル%BaO-20モル%TiO2-40モル%GeO2):B2O3=1:xについて、x=1であること以外、実施例2と同様にして、実施例5の試料を準備した。
【0089】
〈実施例6〉
B2O3の混合に際し、40モル%BaO-20モル%TiO2-40モル%GeO2):B2O3=1:xについて、x=3であること以外、実施例2と同様にして、実施例6の試料を準備した。
【0090】
〈実施例7〉
図2に示した態様で、光フェーズドアレイ用位相変調器の試料を準備した。基板10は、厚さ725μmのSi基板であった。前駆体層20は、厚さ500nmの35モル%SrO-20モル%TiO
2-45モル%SiO
2であった。クラッド層50は、厚さ2000nmの二酸化ケイ素(SiO
2)であった。導波路60は、厚さ50nmのa-Si(アモルファスシリコン)であった。電極70は、厚さ100nmの金属Alであった。また、照射した光30は、連続可視レーザーであった。波長は500nmであり、照射強度は400W/cm
2であり、そして、照射時間は1ミリ秒であった。基板10のSiは、3.82の屈折率を有していた。クラッド層50の二酸化ケイ素(SiO
2)は、1.45の屈折率を有していた。電極70については、光30を照射して、前駆体層20中の非晶質酸化物を結晶化して、結晶化非線形光学材料層22を得た後、電極70を適用した。
【0091】
《評価及び結果》
実施例1~7のいずれの試料も、基板10が熱的損傷を受けておらず、光フェーズドアレイ用位相変調器として動作することを確認できた。
【0092】
実施例3~6の試料については、
図5に示した装置を用いて、SHG(Second Harmonic Generation)特性を評価した。
図6は、実施例3及び実施例4の試料について、回転角度とSHG強度の関係を示すグラフである。
図7は、
図6のグラフから推定される、結晶化非線形光学材料の組織を模式的に示す説明図である。
図8は、実施例5及び実施例6の試料について、回転角度とSHG強度の関係を示すグラフである。
図9は、
図8のグラフから推定される、結晶化非線形光学材料の組織を模式的に示す説明図である。
【0093】
図8及び
図9から、実施例5及び実施例6の試料については、結晶成長の方向が、一軸ではないことが確認できるが、上述したように、光フェーズドアレイ用位相変調器として、実用上、問題なく動作することが確認できている。これに対し、
図6及び
図7から、実施例3及び実施例4の試料については、一軸方向に結晶成長していることが理解できる。このことから、実施例3及び実施例4の試料は、非線形光学特性に非常に優れる光フェーズドアレイ用位相変調器であることを確認できる。
【0094】
以上の結果から、本開示の製造方法の効果を確認できた。