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特開2023-147019薬品注入制御システム、薬品注入制御方法及び自動凝集処理装置
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023147019
(43)【公開日】2023-10-12
(54)【発明の名称】薬品注入制御システム、薬品注入制御方法及び自動凝集処理装置
(51)【国際特許分類】
   C02F 1/00 20230101AFI20231004BHJP
   C02F 1/52 20230101ALI20231004BHJP
   B01D 21/00 20060101ALN20231004BHJP
   B01D 21/30 20060101ALN20231004BHJP
【FI】
C02F1/00 K
C02F1/00 V
C02F1/52 Z
B01D21/00 C
B01D21/30 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022054524
(22)【出願日】2022-03-29
(71)【出願人】
【識別番号】591030651
【氏名又は名称】水ing株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000523
【氏名又は名称】アクシス国際弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】西村 究
(72)【発明者】
【氏名】遠藤 光記
(72)【発明者】
【氏名】隋 鵬哲
(72)【発明者】
【氏名】島村 和彰
【テーマコード(参考)】
4D015
【Fターム(参考)】
4D015BA21
4D015BB05
4D015CA01
4D015CA14
4D015CA20
4D015DA04
4D015DA05
4D015DA13
4D015DA16
4D015DB01
4D015EA07
4D015EA12
4D015EA32
4D015FA02
4D015FA15
4D015FA23
(57)【要約】
【課題】原水の急激な性状変動が生じても、原水に注入する薬品の注入率を適切に制御することが可能な薬品注入制御システム、薬品注入制御方法及び自動凝集処理装置を提供する。
【解決手段】原水の水質データと、原水を処理する水処理プラントの運転操作条件データとを含む情報を取得する情報取得部11と、水質データと運転操作条件データとを含む説明変数を取得し、原水へ注入する薬品の最適な注入率を含む目的変数を出力する学習済モデルを用いた機械学習アルゴリズムを用いて、原水へ注入する薬品の注入率を予測する予測部12と、薬品の注入率の予測結果に基づいて、原水に薬品を注入して確認試験を行い、確認試験により得られる処理水の水質データを基準値と比較することにより、予測結果が適正であるか否かを確認する確認部13と、確認部13の確認結果に基づいて、原水へ注入する薬品の注入率を制御する注入制御部14とを備える薬品注入制御システム100である。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
原水の水質データと、前記原水を処理する水処理プラントの運転操作条件データとを含む情報を取得する情報取得部と、
前記水質データと前記運転操作条件データとを含む説明変数を取得し、前記原水へ注入する薬品の最適な注入率を含む目的変数を出力する学習済モデルを用いた機械学習アルゴリズムを用いて、前記原水へ注入する前記薬品の注入率を予測する予測部と、
前記薬品の注入率の予測結果に基づいて、前記原水に前記薬品を注入して確認試験を行い、該確認試験により得られる処理水の水質データを基準値と比較することにより、前記予測結果が適正であるか否かを確認する確認部と、
前記確認部の確認結果に基づいて、前記原水へ注入する前記薬品の注入率を制御する注入制御部と
を備えることを特徴とする薬品注入制御システム。
【請求項2】
前記確認部が、
前記薬品の注入率の予測結果が適正である場合には、前記予測結果に基づく注入率を、前記原水へ前記薬品を注入して水処理を行うための前記薬品の注入率として決定し、
前記薬品の注入率の予測結果が適正でない場合には、前記注入率を変更して再試験を行い、該再試験に基づいて、前記原水へ前記薬品を注入して水処理を行うために最適な前記薬品の注入率を決定することを特徴とする請求項1に記載の薬品注入制御システム。
【請求項3】
前記確認部が、
前記原水を処理する処理槽と、
前記処理槽内に前記薬品を注入する薬品注入部と、
前記処理槽内を撹拌する撹拌機と、
前記処理槽で得られる前記処理水の水質データを分析する水質分析器と、
前記処理槽内へ注入する前記薬品の注入率を制御する制御部と
を備えることを特徴とする請求項1又は2に記載の薬品注入制御システム。
【請求項4】
原水の水質データと前記原水を処理する水処理プラントの運転操作条件データとを含む説明変数を取得し、前記原水へ注入する薬品の最適な注入率を含む目的変数を出力する学習済モデルを用いた機械学習アルゴリズムを用いて前記原水へ注入する前記薬品の注入率を予測する工程と、
前記薬品の注入率の予測結果に基づいて、前記原水に前記薬品を注入して確認試験を行い、該確認試験により得られる処理水の水質データを基準値と比較することにより、前記薬品の注入率の予測結果が適正であるか否かを確認する工程と、
前記確認の結果に基づいて、前記原水へ注入する前記薬品の注入率を制御する工程と
を含むことを特徴とする薬品注入制御方法。
【請求項5】
前記確認する工程が、
前記薬品の注入率の予測結果が適正である場合には、前記予測結果に基づく注入率を、前記原水へ前記薬品を注入して水処理を行うための前記薬品の注入率として決定し、
前記薬品の注入率の予測結果が適正でない場合には、前記注入率を変更して再試験を行い、該再試験により得られる前記処理水の水質データが基準値の範囲内となるまで、前記再試験を繰り返し、前記原水へ前記薬品を注入して水処理を行うために最適な前記薬品の注入率を決定することを含む請求項4に記載の薬品注入制御方法。
【請求項6】
前記確認する工程が、
前記原水に前記薬品として凝集剤を注入して凝集沈殿処理を行い、
前記凝集沈殿処理で得られる前記処理水の前記水質データとして、濁度、色度、pH、アルカリ度、微粒子数、TOC、COD、紫外線吸光度、有機物分画の少なくともいずれかを分析することを含む請求項4又は5に記載の薬品注入制御方法。
【請求項7】
原水へ注入する凝集剤の最適な注入率を予測するための学習済モデルを用いた機械学習アルゴリズムにより予測された前記凝集剤の注入率の予測結果を取得する情報取得部と、
前記凝集剤の注入率の予測結果と、予め設定した試験条件とに基づいて、原水採取工程、薬品注入工程、撹拌工程及び静置工程を含む凝集処理試験を実施する処理槽と、
前記凝集処理試験で得られる処理水の水質データを分析する水質分析器と、
前記水質分析器で分析された前記処理水の水質データを基準値と比較し、前記予測結果が適正か否かを判断する確認部と、
前記予測結果が適正な場合は、前記予測結果に基づく注入率に基づいて、前記原水に凝集剤を注入して水処理を行うための薬品注入設備の凝集剤の注入率を制御し、前記予測結果が適正でない場合は、新たな凝集剤注入率で前記凝集処理試験を実施し、該凝集処理試験で得られる処理水の水質データが前記基準値を満たすまで前記凝集処理試験を繰り返した結果、決定される最適凝集剤注入率に基づいて、前記薬品注入設備の凝集剤の注入率を制御する注入制御部と
を備えることを特徴とする自動凝集処理装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、薬品注入制御システム、薬品注入制御方法及び自動凝集処理装置に関する。
【背景技術】
【0002】
環境への影響の観点から、浄水処理装置の役割は重要である。浄水処理装置においては、被処理水に対して凝集剤が注入され、これにより懸濁物質が凝集し、そして、フロックが形成される。フロックは、固液分離され、さらにはろ過され、これにより、被処理水が浄化される。
【0003】
浄水処理においては、原水に対して、闇雲に凝集剤を注入するのではなく、ジャーテストと呼ばれる試験を実施して、凝集剤の適切な注入率を決定することが一般的である。しかしながら、このジャーテストの実施及び結果の判定には熟練と経験を要する。また、ジャーテストの実施及び結果の判定については、個人差も大きい。そのため、ベテラン技術者が不足すると、技術伝承が途絶えるといった問題がある。
【0004】
近年では、機械学習の分野の発展が目覚ましく、機械学習を用いた凝集剤の注入制御の研究が行われてきている。機械学習は、一般的に、過去のデータから、コンピューターアルゴリズムが自動で入力データのパターンやルールを解析する。この機械学習により、ベテラン技術者等の経験を要さず、迅速に誰でも凝集剤の注入率を決定することができる。
【0005】
例えば、特開2017-123088号公報(特許文献1)には、決定木学習アルゴリズムを利用して、センシングデータ及び薬品注入データから、次の時点での薬品注入データを予測する方法が開示されている。また、特開2021-146246号公報(特許文献2)には、学習済みモデルを利用して、水質データまたは運転操作条件データから、凝集処理試験の処理後の水質を予測し、凝集剤の注入率と処理後の水質の変化率の絶対値から凝集剤の注入率を予測する方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2017-123088号公報
【特許文献2】特開2021-146246号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
機械学習等の人工知能(AI)を用いた予測は、一般的に、学習に使ったデータ範囲の中であれば、凝集剤の注入率の制御は比較的高い精度を保つことができる。しかしながら、異常時等の範囲外のデータの演算時の予測精度は、低下する傾向にある。一方で、近年はゲリラ豪雨等の今までに経験の無い異常事態が発生することがある。このような異常事態によって流入原水の水質が急激に変化すると、特許文献1及び2に記載されるような、パターンやルールを解析する機械学習に基づく凝集剤注入率の予測だけでは対応することが難しい場合がある。
【0008】
上記課題を鑑み、本発明は、原水の急激な性状変動が生じても、原水に注入する薬品の注入率を適切に制御することが可能な薬品注入制御システム、薬品注入制御方法及び自動凝集処理装置を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するために、本発明者らが鋭意検討した結果、機械学習アルゴリズムを用いた薬品の注入率の予測結果に対し、その予測結果が適切であるか否かを確認する所定の工程を設けることが有用であるとの知見を得た。
【0010】
以上の知見を基礎として完成した本発明は一側面において、原水の水質データと、原水を処理する水処理プラントの運転操作条件データとを含む情報を取得する情報取得部と、水質データと運転操作条件データとを含む説明変数を取得し、原水へ注入する薬品の最適な注入率を含む目的変数を出力する学習済モデルを用いた機械学習アルゴリズムを用いて、原水へ注入する薬品の注入率を予測する予測部と、薬品の注入率の予測結果に基づいて、原水に薬品を注入して確認試験を行い、該確認試験により得られる処理水の水質データを基準値と比較することにより、予測結果が適正であるか否かを確認する確認部と、確認部の確認結果に基づいて、原水へ注入する薬品の注入率を制御する注入制御部とを備える薬品注入制御システムである。
【0011】
本発明に係る薬品注入制御システムは一実施態様において、確認部が、薬品の注入率の予測結果が適正である場合には、予測結果に基づく注入率を、原水へ薬品を注入して水処理を行うための薬品の注入率として決定し、薬品の注入率の予測結果が適正でない場合には、注入率を変更して再試験を行い、該再試験に基づいて、原水へ薬品を注入して水処理を行うために最適な薬品の注入率を決定する。
【0012】
本発明に係る薬品注入制御システムは別の一実施態様において、確認部が、原水を処理する処理槽と、処理槽内に薬品を注入する薬品注入部と、処理槽内を撹拌する撹拌機と、処理槽で得られる処理水の水質データを分析する水質分析器と、処理槽内へ注入する薬品の注入率を制御する制御部とを備える。
【0013】
本発明は別の一側面において、原水の水質データと原水を処理する水処理プラントの運転操作条件データとを含む説明変数を取得し、原水へ注入する薬品の最適な注入率を含む目的変数を出力する学習済モデルを用いた機械学習アルゴリズムを用いて原水へ注入する薬品の注入率を予測する工程と、薬品の注入率の予測結果に基づいて、原水に薬品を注入して確認試験を行い、該確認試験により得られる処理水の水質データを基準値と比較することにより、薬品の注入率の予測結果が適正であるか否かを確認する工程と、確認の結果に基づいて、原水へ注入する薬品の注入率を制御する工程とを含む薬品注入制御方法である。
【0014】
本発明に係る薬品注入制御方法は一実施態様において、確認する工程が、薬品の注入率の予測結果が適正である場合には、予測結果に基づく注入率を、原水へ薬品を注入して水処理を行うための薬品の注入率として決定し、薬品の注入率の予測結果が適正でない場合には、注入率を変更して再試験を行い、該再試験により得られる処理水の水質データが基準値の範囲内となるまで、再試験を繰り返し、原水へ薬品を注入して水処理を行うために最適な薬品の注入率を決定することを含む。
【0015】
本発明に係る薬品注入制御方法は別の一実施態様において、確認する工程が、原水に薬品として凝集剤を注入して凝集沈殿処理を行い、凝集沈殿処理で得られる処理水の水質データとして、濁度、色度、pH、アルカリ度、微粒子数、TOC、COD、紫外線吸光度、有機物分画の少なくともいずれかを分析することを含む。
【0016】
本発明は更に別の一側面において、原水へ注入する凝集剤の最適な注入率を予測するための学習済モデルを用いた機械学習アルゴリズムにより予測された凝集剤の注入率の予測結果を取得する情報取得部と、凝集剤の注入率の予測結果と、予め設定した試験条件とに基づいて、原水採取工程、薬品注入工程、撹拌工程及び静置工程を含む凝集処理試験を実施する処理槽と、凝集処理試験で得られる処理水の水質データを分析する水質分析器と、水質分析器で分析された処理水の水質データを基準値と比較し、予測結果が適正か否かを判断する確認部と、予測結果が適正な場合は、予測結果に基づく注入率に基づいて、原水に凝集剤を注入して水処理を行うための薬品注入設備の凝集剤の注入率を制御し、予測結果が適正でない場合は、新たな凝集剤注入率で凝集処理試験を実施し、該凝集処理試験で得られる処理水の水質データが基準値を満たすまで凝集処理試験を繰り返した結果、決定される最適凝集剤注入率に基づいて、薬品注入設備の凝集剤の注入率を制御する注入制御部とを備える自動凝集処理装置である。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、原水の急激な性状変動が生じても、原水に注入する薬品の注入率を適切に制御することが可能な薬品注入制御システム、薬品注入制御方法及び自動凝集処理装置が提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1】本発明の実施の形態に係る薬品注入制御システムの一例を示す概略図である。
図2】確認部が備える試験装置の例を示す概略図である。
図3】本発明の実施の形態に係る薬品注入制御方法の一例を示すフローチャートである。
図4】確認試験の一例を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、図面を参照しながら本発明の実施の形態を説明する。以下の図面の記載においては、同一又は類似の部分には同一又は類似の符号を付している。なお、以下に示す実施の形態は、この発明の技術的思想を具体化するための装置や方法を例示するものであって、この発明の技術的思想は構成部品の構造、配置等を下記のものに特定するものではない。
【0020】
(薬品注入制御システム)
本発明の実施の形態に係る薬品注入制御システム100は、図1に示すように、原水を水処理する水処理プラント20に注入される薬品の注入率を制御するための薬品注入制御装置10を備える。
【0021】
水処理プラント20としては、以下に限定されるものではないが、浄水処理設備が利用できる。水処理プラント20は、例えば、着水井21、急速撹拌池22、フロック形成池23、沈殿池24、原水に薬品を注入する薬品注入設備25、急速ろ過池26、浄水池27及び配水池28を備える。
【0022】
着水井21は、取り入れた原水の量及び水位等を調整する。急速撹拌池22は、凝結剤等の薬品を注入した後、急速撹拌を行って混和処理を行う。フロック形成池23は、凝集剤を原水に注入した後、フロックを形成させ、濁りを凝集させる。薬品注入設備25は急速撹拌池22或いはフロック形成池23に薬品を注入する装置である。
【0023】
沈殿池24は、フロック形成池23で形成した粗大フロックを沈降分離により沈降させる。急速ろ過池26は、沈殿池24で得られた上澄水を急速ろ過処理する。浄水池27はろ過水に所定の殺菌処理を施した後の浄水を貯留する。配水池28は、浄水池27から供給された浄水を貯留し、これを家庭、学校、工場等の各施設に自然流下等によって供給する。
【0024】
水処理プラント20各設備には計測器(不図示)が設けられている。以下に限定されるものではないが、薬品の注入前と注入後で同一種類の水質を測定するために、薬品の注入前と注入後とで、同じ種類の計測器を備えておくことが好ましい。計測器の種類としては、温度、濁度、透明度、色度、pH、アルカリ度、微粒子数、凝集剤注入率、pH調製用薬品注入率、TOC(全有機炭素)、COD(化学的酸素要求量)、紫外線吸光度、有機物分画等を測定するための種々の計測器を備えることができる。
【0025】
薬品注入制御装置10は、一般的なハードウェア構成で構成されることができ、プロセッサ、メモリ(例:RAM等)、記憶媒体(例:HDD、SSD等)及び通信モジュールを備えることができる。薬品注入制御装置10は、サーバー装置として機能してもよく、又は、クライアント装置として機能してもよい。薬品注入制御装置10は、1台のハードウェアを構成してもよいし、複数台のハードウェアに分散されてもよい。
【0026】
薬品注入制御装置10は、情報取得部11と、予測部12と、確認部13と、注入制御部14とを備える。情報取得部11は、水処理プラント20が備える上述した計測器(不図示)と、直接又は間接的に通信可能に接続されている。情報取得部11は、計測器が測定した処理水の水質データ及び原水の水質データ等を取得する。更に、情報取得部11は、原水を処理する水処理プラント20の運転操作に関わる種々のパラメータ、例えば、各設備への原水流入量等を含む運転操作条件データを取得する。
【0027】
注入制御対象とする薬品としては、水処理プラント20に利用される種々の薬品であれば任意の薬品を用いることができる。典型的には凝集剤が用いられる。凝集剤としては、ポリ硫酸第二鉄、塩化第二鉄、PAC(ポリ塩化アルミニウム)又は硫酸バンドなどが挙げられる。これ以外に、高分子凝集剤、凝集助剤、有機凝結剤、無機凝結剤、或いは凝集改良剤なども用いられ、これらは単独或いは併用して用いることもできる。
【0028】
凝集剤の他に、pH調整剤、アルカリ剤、或いは、硝化脱窒処理等で添加されるメタノールや有機物、界面活性剤、殺菌処理等で用いられる塩素、次亜塩素酸等も、注入制御対象とする薬品として用いてもよい。
【0029】
予測部12は、原水の水質データと、原水を処理する水処理プラント20の運転操作条件データとを少なくとも含む所定の説明変数を取得し、原水へ注入する薬品の最適な注入率を含む所定の目的変数を出力する学習済モデルを用いた機械学習アルゴリズムを用いて、原水へ注入する薬品の注入率を予測する。
【0030】
機械学習アルゴリズムとしては、特に限定されないが、SVR法(サポートベクター回帰法)、PLS法(部分最小二乗法:PartialLeastSquares)、ニューラルネットワーク法(例えば、DeepLearning法)、ランダムフォレスト法、又は決定木法、LSTM法(長短期記憶:LongShort-TermMemory)等が利用できる。中でも、本実施形態における機械学習アルゴリズムとしてLSTM法を用いることが好ましい。
【0031】
学習済モデルとしては、例えば、原水の水質データと、原水を処理する水処理プラント20の運転操作条件データと、原水へ注入する薬品の最適な注入率とが関連付けられたデータセットを学習データとし、機械学習アルゴリズムとしてLSTM法を用いて、薬品の注入率を予測するために構築された所定のモデルを利用する。
【0032】
学習済モデルの構築に用いられる学習データに含まれる水質データとしては、例えば、浄水処理場の場合、例えば、温度、濁度、透明度、色度、pH、アルカリ度、微粒子数、TOC、COD、紫外線吸光度、有機物分画が挙げられる。それ以外に、例えば、天候、気温、雨量、台風の風力、中心気圧等の気象情報、pH調製時の薬品注入率等も含んでもよい。水質データについては、薬品の注入前のものと薬品の注入後のものとを含んでもよい。薬品が複数回注入される場合は、注入前後の水質データの情報をそれぞれ含んでいても良い。運転操作条件データとしては、各設備の処理槽の大きさ、薬品の種類、薬品注入率の定格値、流入水量、撹拌時間、撹拌速度、pH条件、静置時間、ろ過速度等の各設備の運転操作に関連する種々の情報が挙げられる。
【0033】
本実施形態における「薬品の注入率」とは、例えば、流入水量(L)に対する薬品の注入率(mg)の割合を意味し、典型的には以下の式で表される。
注入率(mg/L)=薬品注入量(mg)/流入水量(L)
薬品の注入率の制御は、薬品注入設備25の方式にもよるが、例えば薬品注入設備25が備える弁やポンプ等を制御することにより行われる。
【0034】
確認部13は、予測部12による薬品の注入率の予測結果に基づいて、原水に薬品を注入して確認試験を行い、確認試験により得られる処理水の水質データを、予め定められた基準値と比較することにより、予測結果が適正であるか否かを確認する。基準値は操作者が適宜設定することができる。例えば、浄水処理場である場合、基準値は、水道水の水質基準値等を用いることができる。
【0035】
確認部13は、確認試験の結果、予測部12による薬品の注入率の予測結果が適正であると判断した場合には、予測部12が予測した予測結果に基づく注入率を、原水へ薬品を注入して水処理を行うための薬品の注入率として決定する。一方、確認部13は、確認試験の結果、薬品の注入率の予測結果が適正でない場合には、注入率を変更して再試験を行い、該再試験に基づいて、原水へ薬品を注入して水処理を行うために最適な薬品の注入率を決定する。そして、注入制御部14は、確認部13の確認結果に基づいて、薬品注入設備25が原水へ注入する薬品の注入率を制御する。
【0036】
確認部13は、予測部12による薬品の注入率の予測結果に基づいて、原水に薬品を注入して確認試験を行うために、図2に示すような簡易的な試験装置を備えることができる。例えば、確認部13は、原水を処理する処理槽1と、処理槽1内に薬品を注入する薬品注入部3と、処理槽1内を撹拌する撹拌機2と、処理槽1で得られる処理水の水質データを分析する水質分析器5と、処理槽1内へ注入する薬品の注入率を制御する制御部6とを備える。確認部13は、処理槽1内にpH調整剤を注入するpH注入部4を更に備えても良い。
【0037】
制御部6は、撹拌機2、流入弁7、排水弁8、薬品注入ポンプ31、pH調整ポンプ41、サンプリングポンプ51に接続されている。制御部6は、撹拌機2、流入弁7、排水弁8、薬品注入ポンプ31、pH調整ポンプ41、サンプリングポンプ51へ所定の制御信号を出力し、各装置の動作を制御するように構成されている。確認部13による確認試験の操作の詳細は後述する。
【0038】
本発明の実施の形態に係る薬品注入制御システム100によれば、機械学習を用いた薬品の注入率の予測結果について、確認部13が確認試験を行い、原水へ薬品を注入して水処理を行うために最適な薬品の注入率を決定することができる。これにより、仮に急な気象変動等の影響で、機械学習による予測結果が適切でない場合においても、その予測結果を図2の試験装置で簡易的に試験して確認し、適切な薬品の注入率を決定することにより、原水に対して常に適切な注入率で薬品を注入することができる。その結果、原水の急激な性状変動が生じても、原水に注入する薬品の注入率を適切に制御でき、処理水の水質低下を抑制することが可能な薬品注入制御システム100が提供できる。
【0039】
(薬品注入制御方法)
本発明の実施の形態に係る薬品注入制御方法は、図1に示す薬品注入制御システム100を用いて図3に示すフローチャートに従って制御することができる。即ち、本発明の実施の形態に係る薬品注入制御方法は、原水の水質データと原水を処理する水処理プラント20の運転操作条件データとを取得する工程S1と、原水の水質データと運転操作条件データとを少なくとも含む所定の説明変数を取得し、原水へ注入する薬品の最適な注入率を含む所定の目的変数を出力する学習済モデルを用いた機械学習アルゴリズムを用いて原水へ注入する薬品の注入率を予測する工程S2と、薬品の注入率の予測結果に基づいて、原水に薬品を注入して確認試験を行い、確認試験により得られる処理水の水質データを基準値と比較することにより、薬品の注入率の予測結果が適正であるか否かを確認する工程(S3~S7)と、確認の結果に基づいて、原水へ注入する薬品の注入率を制御する工程S8とを含む。
【0040】
工程S1において、図1の情報取得部11は、水処理プラント20で処理される原水の水質データ及び運転操作条件データを取得する。工程S2において、予測部12は、情報取得部11が取得した水質データ及び運転操作条件データの中から学習済みモデルを構築する際に入力した水質データ及び運転操作条件データと同じ水質データ及び運転操作条件データを取得し、これを説明変数として学習済モデルに入力し、薬品の最適な注入率の予測値を得る。工程S3において、予測部12は、確認部13へ、学習済モデルが予測した薬品注入率の予測値を送信する。
【0041】
図3の工程S4において、図1の確認部13は、予測部12からの薬品注入率の予測値の出力を受けて、図2の試験装置を用いて原水に薬品を注入して確認試験を実施する。工程S4における確認試験の詳細は後述する。工程S5において、確認部13は、確認試験により得られる処理水の水質データを、確認部13が備える水質分析器5を用いて分析する。
【0042】
工程S5において用いられる水質分析器5としては、温度、濁度、透明度、色度、pH、アルカリ度、微粒子数、TOC、COD、紫外線吸光度、有機物分画、固形分(SS)、MLSS、pHなどの水質データを得るための種々の測定装置が用いられる。
【0043】
工程S6において、確認部13は、水質分析器5により分析された水質データを予め定められた基準値と比較することにより、薬品注入率の予測結果が適正であるか否かを確認する。水質データが基準値を満たしている場合、即ち、薬品の注入率の予測結果が適正である場合には、確認部13は、予測結果に基づく注入率を、原水へ薬品を注入して水処理を行うための薬品の注入率として決定し、工程S8へ進む。一方、水質データが基準値を満たしていない場合、即ち、薬品の注入率の予測結果が適正でない場合には、工程S7へ進む。
【0044】
工程S7において、確認部13が、薬品注入率を予測値とは異なる注入率に変更する。変更方法としては、以下に限定されるものではないが、確認部13は、薬品注入率の予測値が予め設定した基準値を上回る場合には、薬品注入率を増加させる。薬品注入率の予測値が基準値を下回る場合には、薬品注入率を減少させるように、変更後の薬品注入率を決定し、工程S4へ進む。変更時の注入率の増減量については予め設定することができる。
【0045】
次に、工程S4において、工程S7で決定された変更後の薬品注入率で薬品を注入して再試験を行う。確認部13は、再試験の結果、水質データが基準値を満たすまで、工程S4~工程S7を繰り返すことにより、最適な薬品注入率を決定する。最適な薬品注入率が決定された場合には、工程S8へ進む。
【0046】
工程S8において、注入制御部14は、水処理プラント20の薬品注入設備25に、原水の処理に対して最適な薬品注入率を送信する。薬品注入設備25は、注入制御部14から出力された制御信号に基づいて、原水に最適な薬品注入率で薬品を注入する。
【0047】
(工程S4、S5の詳細フローについて)
確認部13が備える図2の試験装置を用いた試験工程S4及び水質分析工程S5の操作フローについて図4のフローチャートと図2の試験装置を例に以下に説明する。
【0048】
図4の薬品注入率設定工程S41において、図2の制御部6に、予測部12による薬品注入率の予測結果に基づいて薬品注入率の情報が入力されると、図2の制御部6が、薬品注入部3による薬品注入率の設定を行う。
【0049】
原水採取工程S42において、制御部6が、処理槽1に接続された流入弁7を開いて水処理プラント20が処理する原水を所定量採取し、処理槽1内へと流入させる。流入量の制御は、オーバーフロー管による水位調整、水位計による制御、流入速度と弁の開放時間による制御等によって適宜行うことができる。
【0050】
薬品注入工程S43において、制御部6が、薬品注入ポンプ31を制御し、薬品注入率設定工程S41で設定された薬品注入率となるように、薬品として例えば凝集剤を処理槽1内へ注入する。この際、処理槽1内のpH調整が必要な場合は、制御部6がpH調整ポンプ41を介してpH調整剤を処理槽1内へ注入させる。pHの調整は、pH調整剤を固定量注入する方法と、pH測定器(不図示)によって制御する方法などがある。
【0051】
急速撹拌工程S44において、制御部6が、撹拌機2を制御し、事前に設定された撹拌速度、撹拌時間で処理水の撹拌を行う。一般的に急速撹拌の撹拌速度は100~150/minで、撹拌時間は3分程度である。
【0052】
緩速撹拌工程S45において、制御部6が、撹拌機2を制御し、事前に設定された撹拌速度、撹拌時間で処理水の撹拌を行う。緩速撹拌は、一般的に、急速撹拌工程S44の撹拌速度より遅く、例えば30/min程度とし、撹拌時間は10分程度である。
【0053】
静置工程S46において、制御部6が、撹拌機2の動作を停止させ、事前に設定された静置時間まで静かに置く。静置時間は5分以上であることが好ましい。
【0054】
水質分析工程S51において、制御部6が、静置工程S46後の処理槽1上部の処理水をサンプリングポンプ51にて備え付けられた水質分析器5に送り、処理水の水質データの分析を行う。
【0055】
排水工程S52において、制御部6が、排水弁8を開け、処理槽1内の処理水を排水させる。引き続き、洗浄工程S53において、確認試験後の処理水、純水、または水道水等で、処理槽1及び水質分析器5を洗浄する。
【0056】
このように、本発明の実施の形態に係る薬品注入制御方法によれば、機械学習を用いた薬品の注入率の予測結果について確認試験を行い、必要に応じてその予測結果を補正することで、原水へ薬品を注入して水処理を行うために最適な薬品の注入率を決定することができる。これにより、仮に急な気象変動等の影響で機械学習による予測結果が適切でない場合においても、その予測結果を適切な注入率に補正することができる。その結果、原水の急激な性状変動が生じても、原水に注入する薬品の注入率を適切に制御することが可能となる。
【0057】
本発明は上記の実施の形態によって記載したが、この開示の一部をなす論述及び図面はこの発明を限定するものであると理解すべきではない。即ち、本開示は、上述の実施形態に限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲で構成要素を相互に組み合わせ、変形して具体化できることは勿論である。
【0058】
(水処理プラント20)
図1の例では、水処理プラント20として、浄水処理プラントの例を示している。しかしながら、本発明の実施の形態に係る水処理プラント20は、図1の構成には限定されず、所定の薬品を注入して、所定の水処理を行う種々の設備であれば利用できることは勿論である。例えば、水処理プラント20として、浄水処理プラント、純水製造プラント、廃水処理プラント、下水処理プラント、し尿処理(汚泥再生)プラント、浸出水処理プラント、海水淡水化プラント、汚泥処理プラント等の種々の水処理プラントに利用できることは勿論である。
【0059】
(自動凝集処理装置)
図1の薬品注入制御装置10は、自動凝集処理装置として単独で構成され、上述の水処理プラント20だけでなく、薬品注入制御を必要とする薬品注入設備25を備える種々の設備に接続することができる。
【0060】
即ち、本発明の実施の形態に係る薬品注入制御装置10は、原水へ注入する凝集剤の最適な注入率を予測するための学習済モデルを用いた機械学習アルゴリズムにより予測された凝集剤の注入率の予測結果を取得する情報取得部11と、凝集剤の注入率の予測結果と、予め設定した試験条件とに基づいて、原水採取工程S42、薬品注入工程S43、撹拌工程S44、S45及び静置工程S46を含む凝集処理試験を実施する処理槽1と、凝集処理試験で得られる処理水の水質データを分析する水質分析器5と、水質分析器5で分析された処理水の水質データを基準値と比較し、予測結果が適正か否かを判断する確認部13と、予測結果が適正な場合は、予測結果に基づく注入率に基づいて、原水に凝集剤を注入して水処理を行うための薬品注入設備25の凝集剤の注入率を制御し、予測結果が適正でない場合は、新たな凝集剤注入率で凝集処理試験を実施し、凝集処理試験で得られる処理水の水質データが基準値を満たすまで凝集処理試験を繰り返した結果、決定される最適凝集剤注入率に基づいて、薬品注入設備25の凝集剤の注入率を制御する注入制御部14を備える。
【0061】
本発明の実施の形態に係る薬品注入制御装置10によれば、機械学習による薬品注入率の予測結果を簡易な試験装置を用いて検証することができるため、ゲリラ豪雨等の異常な気象事象が発生し、予測結果が大きくずれるおそれがあったとしても、予測結果を適切に補正して、原水に適切な注入率で薬品を注入することができる。その結果、凝集剤使用量を最適化でき、効率の良い凝集沈殿処理を行うことができ、且つ水質の良好な浄水を得ることができる。
【符号の説明】
【0062】
1…処理槽
2…撹拌機
3…薬品注入部
4…pH注入部
5…水質分析器
6…制御部
7…流入弁
8…排水弁
10…薬品注入制御装置
11…情報取得部
12…予測部
13…確認部
14…注入制御部
20…水処理プラント
21…着水井
22…急速撹拌池
23…フロック形成池
24…沈殿池
25…薬品注入設備
26…急速ろ過池
27…浄水池
28…配水池
31…薬品注入ポンプ
41…pH調整ポンプ
51…サンプリングポンプ
100…薬品注入制御システム
図1
図2
図3
図4