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  • 特開-電磁干渉抑制シート 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023147040
(43)【公開日】2023-10-12
(54)【発明の名称】電磁干渉抑制シート
(51)【国際特許分類】
   H05K 9/00 20060101AFI20231004BHJP
   C08K 3/04 20060101ALI20231004BHJP
   C08L 33/06 20060101ALI20231004BHJP
   C08L 83/04 20060101ALI20231004BHJP
   H01B 1/24 20060101ALI20231004BHJP
【FI】
H05K9/00 M
H05K9/00 W
C08K3/04
C08L33/06
C08L83/04
H01B1/24 B
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022054569
(22)【出願日】2022-03-29
(71)【出願人】
【識別番号】000139023
【氏名又は名称】株式会社リケン
(74)【代理人】
【識別番号】100147485
【弁理士】
【氏名又は名称】杉村 憲司
(74)【代理人】
【識別番号】230118913
【弁護士】
【氏名又は名称】杉村 光嗣
(74)【代理人】
【識別番号】100165696
【弁理士】
【氏名又は名称】川原 敬祐
(72)【発明者】
【氏名】蔵前 雅規
【テーマコード(参考)】
4J002
5E321
5G301
【Fターム(参考)】
4J002BG02W
4J002CP03W
4J002DA026
4J002FA086
4J002FD116
4J002GT00
5E321AA23
5E321BB31
5E321BB35
5E321BB44
5E321BB53
5E321BB57
5E321CC16
5E321GG05
5E321GG11
5G301DA19
5G301DA42
5G301DD08
(57)【要約】
【課題】近傍界用及び遠方界用の区別が容易であり、準ミリ波からミリ波の帯域において優れたノイズ減衰効果を安定して得ることができる電磁干渉抑制シートを提供する。
【解決手段】本発明の電磁干渉抑制シートは、有機物からなるシート状の基材と、前記基材中に担持された球状黒鉛粉末と、を含み、前記球状黒鉛粉末の平均粒径が2μm以上40μm以下であり、前記球状黒鉛粉末の平均球状化率が50%以上であり、前記球状黒鉛粉末の含有量が20体積%以上70体積%以下である。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
有機物からなるシート状の基材と、前記基材中に担持された球状黒鉛粉末と、を含み、
前記球状黒鉛粉末の平均粒径が2μm以上40μm以下であり、
前記球状黒鉛粉末の平均球状化率が50%以上であり、
前記球状黒鉛粉末の含有量が20体積%以上70体積%以下である、
ことを特徴とする電磁干渉抑制シート。
【請求項2】
前記有機物がシリコーン樹脂又はアクリル樹脂である、請求項1に記載の電磁干渉抑制シート。
【請求項3】
前記基材中に、窒素系化合物、水酸化系化合物、リン系化合物の一種以上からなる難燃剤をさらに含む、請求項1又は2に記載の電磁干渉抑制シート。
【請求項4】
前記基材の厚みが25μm以上1000μm以下である、請求項1~3のいずれか一項に記載の電磁干渉抑制シート。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、近傍界用ノイズ抑制シート及び遠方界用共振型電波吸収シートとして使用するのに好適な電磁干渉抑制シートに関する。
【背景技術】
【0002】
通信の高度化に伴い、3~80GHzの電波を活用した機器の普及が広がっている。例えば、2020年から国内で商用サービスとして活用され始めた第五世代通信システム(5G)では、sub6である3~6GHzやミリ波帯の28~40GHz付近の周波数帯の活用が進んでいる。また、自動車においては、自動運転システムの高度化に伴い、24GHz付近の周波数を活用した準ミリ波レーダー、76~79GHz付近の周波数を活用したミリ波レーダーの普及が広がっている。これに伴い、このような機器の内外部における電磁干渉問題が顕在化している。そのため、電波干渉が問題となる周波数で機能する電磁干渉抑制シートの活用が急増している。電磁干渉抑制シートは、厚みが薄いものであり、通信の高度化とともに進んでいる機器の軽薄短小化にも対応する。
【0003】
電磁干渉抑制シートは、機器内部での電磁界環境によって使用される種類も異なり、近傍界用のノイズ抑制シートと、遠方界用の共振型電波吸収シートに大別される。
【0004】
一般に、近傍界用のノイズ抑制シートは、ゴム、エラストマーなどの可撓性のある軟質樹脂からなる基材と、この基材に担持された軟磁性合金、スピネルフェライトなどの軟磁性粉末と、を含むものであり、軟磁性粉末の透磁率によって電磁ノイズを熱に変換するものである。そのため、基本的には透磁率が大きい方がよいとされ、シートの可撓性や表面抵抗を保てる範囲内で、軟質樹脂中になるべく多くの軟磁性粉末を担持させる。また、シートのノイズ抑制効果は軟磁性粉末の透磁率特性が反映される。ノイズ抑制シートは、近傍界用途で使用されるため、一般的にシートの厚みは後述する電波吸収シートよりも薄い。
【0005】
前述したとおり、現在は5G機器といったより高周波の機器が増加しつつあるため、今後の電子機器においては、3GHz以下だけでなく、準ミリ波帯をカバーするような電磁干渉抑制シートが必要になる。SHF帯をカバーできるノイズ抑制シートとして、特許文献1には、球状のFeSiCr合金粉末を軟質樹脂に担持させた構造も持つものが記載されている。なお、このノイズ抑制シートは磁気的な損失によってノイズを抑制するものであるが、軟質樹脂などの基材に非磁性の導電物を担持させることで、電気的な損失によって近傍界ノイズを抑制することもできる。例えば、特許文献2には、炭素繊維を導電物として使用したノイズ抑制シートが記載されている。
【0006】
一方、共振型の電波吸収シートは、遠方界において、特定の周波数でノイズ抑制シートよりも大きな電波吸収効果が必要な場合に使用される。電波吸収シートは、金属などの導電性を有する基材の上に取り付ける、あるいは、電波吸収シートの裏面に金属などの導電性を有する層を設けることで機能する。電波吸収シートに入射する電波に対して、電波吸収シートの裏面側の導電物で反射する電波の位相が半波長ずれ、入射波と反射波が打ち消し合うことで電波吸収性を示す。電波吸収シートは、ノイズ抑制シートと同様に、軟質樹脂からなる基材に電波吸収効果を発生させるためのフィラー(誘電損失材)が担持された構造を持つ。電波吸収シートは、特定の周波数で電波吸収の共振ピークを狙うものであり、構成する基材の材料定数(誘電率、透磁率)及び厚みを調整するため、フィラーの添加量は必要範囲内に制御しなければならない。電波吸収シートにおいても、5G機器や車載衝突防止レーダーといった3GHzを超えるような電磁干渉抑制を必要とされる準ミリ波帯からミリ波帯域に対応したものが特に求められるようになっている。代表的な実例としては、ゴムやエラストマーなどの可撓性のある樹脂を基材とし、フィラーとしてカルボニル鉄粉(特許文献3)やスピネルフェライト粉(特許文献4)を添加したものがある。
【0007】
[問題点1]
ノイズ抑制シートと電波吸収シートは、軟質樹脂にフィラーが担持されているという点で構造的に似ているものの、両者の設計思想は異なるものである。そのため、従来は、同一の材料からなる基材で、フィラーの含有量や基材の厚みを区別することだけで、ノイズ抑制シートと電波吸収シートを作り分けることができず、それぞれ基材構成の異なるもので作り分けせざるを得なかった。電子機器の設計によって電磁干渉問題は複雑化しているため、近傍界用途と遠方界用途で2つの電磁干渉抑制シートを兼ね備える必要になるが、ノイズ抑制シートと電波吸収シートで両者の基材構成の異なる場合、各々の材料調達および製造を行わなければならないため、生産効率、製造管理及びコスト面においても好ましくない。
【0008】
[問題点2]
近年では電子機器の軽量化が求められており、電磁干渉抑制シートは、より軽量なものが好ましい。基材の比重は樹脂の種類によって大きくは変わらないが、誘電損失材の比重は材料によって大きく異なる。そのため、添加量にも依るが、軽量化という観点で損失材には、カルボニル鉄やソフトフェライトよりも比重の軽い炭素系材料を選択することが好ましい。また、3~80GHzの電波を活用した機器に対応する電磁干渉抑制シートを考えた場合、マイクロ波~ミリ波帯域で大きな透磁率が望みにくい磁性フィラーを損失材として使用するよりも、非磁性の導電物を樹脂基材中に担持させて電気的な損失を与えた方が、電磁干渉抑制シートの設計自由度としても高くなる。コスト面含めた実用的な非磁性の導電フィラーという点から考えても、炭素系材料を損失材として選択することが好ましい。
【0009】
炭素系材料の損失材としては、粒子状、繊維状、及び鱗片状といった様々な形態のものが挙げられるが、実用的に電磁干渉抑制シートに使用されているものであると、カーボンブラックといった粒子系のものと、炭素繊維やカーボンナノチューブのような繊維系のものに大別される。ただし、電磁干渉抑制シートの製品特性に異方性を与えないためには、損失材としては粒子系のものが好ましい。繊維系の炭素系材料は、例えば湿式コーティング法やカレンダーロールのような圧延法でシートを成型した場合、成型方向に炭素繊維が配向し、電波吸収性などの製品特性に異方性を与えてしまうため、適用する自由度が極端に悪くなる。また、アスペクト比(=繊維長さ/繊維直径)が大きい炭素繊維の場合、材料混合時に繊維が折れやすく、最終製品のシートの電磁干渉抑制効果に影響を与えるため、製造バラツキが大きくなる問題もある。さらに、カーボンナノチューブのような非常に細かいカーボン繊維の場合も、材料混練時の樹脂基材中での分散性が悪くなり、最終製品のシートの電磁干渉抑制効果に影響を与えるため、製造バラツキが大きくなる。また、人体的に悪影響を及ぼすとされるカーボンナノチューブの取り扱い自体が難しく、損失材として工業的に使用することは好ましくない。したがって、製品バラツキを抑えることと、製造容易性を考えると、電磁干渉抑制シートに使用する炭素系材料の損失材としては、粒子系のものが好ましい。炭素系材料の損失材が粒子系の場合、代表的に用いられるものは導電性の高いカーボンブラックであり、例えば特許文献5~7に、カーボンブラックを用いた電波吸収シートが挙げられる。
【0010】
カーボンブラックは一次粒子径が30~40nmと細かく、通常は一次粒子が凝集した二次粒子から成っている。そのため、樹脂基材中へ均質に分散させることが容易でなく、その分散具合によって複素誘電率が変動し、電波吸収シートの電波吸収特性のバラツキにも大きく影響を与える。また、樹脂基材中にカーボンブラックを均質分散するためには、強力な撹拌粉砕機などを使用しなければならず、設備コストも非常に高価である。カーボンブラックを予め高分散させた溶液も一部市販されているが、その分散溶液の溶媒やカーボンブラックの濃度に制限があるため、適用できる範囲が極めて狭くなり、電波干渉抑制シートの設計自由度として悪い。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】特開2020-198406号公報
【特許文献2】特開2008-118116号公報
【特許文献3】特開2007- 81119号公報
【特許文献4】国際公開2019/077808号
【特許文献5】特開2002-118390号公報
【特許文献6】特開2002-374091号公報
【特許文献7】特開2003-133784号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
そこで本発明は、上記課題に鑑み、近傍界用及び遠方界用の区別が容易であり、準ミリ波からミリ波の帯域において優れたノイズ減衰効果を安定して得ることができる電磁干渉抑制シートを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上記課題を解決すべく本発明者は鋭意研究を行い、以下の知見を得た。すなわち、基材に担持させる誘電損失材として球状黒鉛粉末を採用し、かつ、その球状黒鉛粉末の平均粒径に制御することで、球状黒鉛粉末の凝集性がなくなり、基材中への均質分散が容易となるため、製造バラツキの抑制によりノイズ減衰効果の安定化が図れる。球状黒鉛粉末の平均粒径に加えて、平均球状化率、及び含有量を所定の範囲に制御することで、準ミリ波からミリ波の帯域において優れたノイズ減衰効果を得ることができる。また、この場合、同一の材料からなる基材で、球状黒鉛粉末の含有量と基材の厚みを区別することだけで、近傍界用ノイズ抑制シートに適したものとすることもできるし、遠方界用共振型電波吸収シートに適したものとすることもできる。
【0014】
上記知見に基づき完成された本発明の要旨構成は以下のとおりである。
[1]有機物からなるシート状の基材と、前記基材中に担持された球状黒鉛粉末と、を含み、
前記球状黒鉛粉末の平均粒径が2μm以上40μm以下であり、
前記球状黒鉛粉末の平均球状化率が50%以上であり、
前記球状黒鉛粉末の含有量が20体積%以上70体積%以下である、
ことを特徴とする電磁干渉抑制シート。
【0015】
[2]前記有機物がシリコーン樹脂又はアクリル樹脂である、上記[1]に記載の電磁干渉抑制シート。
【0016】
[3]前記基材中に、窒素系化合物、水酸化系化合物、リン系化合物の一種以上からなる難燃剤をさらに含む、上記[1]又は[2]に記載の電磁干渉抑制シート。
【0017】
[4]前記基材の厚みが25μm以上1000μm以下である、上記[1]~[3]のいずれか一項に記載の電磁干渉抑制シート。
【発明の効果】
【0018】
本発明の電磁干渉抑制シートは、近傍界用及び遠方界用の区別が容易であり、準ミリ波からミリ波の帯域において優れたノイズ減衰効果を安定して得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1】発明例12における電磁干渉抑制シートの厚み方向断面のSEM画像(反射電子像)である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
(電磁干渉抑制シート)
本発明の一実施形態による電磁干渉抑制シートは、有機物からなるシート状の基材と、前記基材中に担持された球状黒鉛粉末と、を含む。
【0021】
[基材]
基材を構成する有機物は、特に限定されないが、一般的に電磁干渉抑制シートには可撓性や切断加工性が求められるため、ゴムやエラストマーであることが好ましい。その中でも、シリコーン樹脂及びアクリル樹脂は、耐冷熱性と絶縁耐性に優れており、電磁干渉抑制シートでの使用実績も多いため、特に好ましい。樹脂原料の形態については特に制限されるものはなく、ミラブル状でも液体状のものでも何れのものも使用できる。以下では、原料として液体状のシリコーン樹脂を使用した実施について一例を述べる。
【0022】
液状シリコーンは、市販されている一般工業用途のものが使用できる。シリコーンは液型でいうと一液型と二液型が存在し、硬化型でいうと縮合反応型と付加反応型が存在するが、本実施形態では何れのものも適用できる。縮合反応型は硬化に時間を要するが、付加反応型は加熱工程を設けることで比較的短時間での硬化が期待できる。このため、生産性を考えると付加反応型を使用する方が好ましい。なお、付加反応型は添加するフィラーによっては硬化阻害の影響を受ける場合もあるが、本実施形態で用いる球状黒鉛粉末では硬化阻害の影響はない。液状シリコーンは、粘度が低すぎるとシート成型時の保形性が悪くなり、粘度が高すぎると球状黒鉛粉末の均質分散が難しくなるため、1Pa・s以上10Pa・s以下の粘度のものが好ましい。
【0023】
基材の厚みは25μm以上1000μm以下であることが好ましい。ノイズ抑制シートの場合、厚みが25μmを下回るとハンドリングできる強度が得られないだけでなく、電磁干渉抑制効果も著しく弱まる。また、厚みが1000μmを上回ると、電磁干渉抑制効果は高まっていくが、電子機器の薄型化・小型化に対応できなくなる。また、電波吸収シートの場合は、基材の比誘電率によるが、厚みが25μm以上1000μm以下の範囲内であると、準ミリ波帯からミリ波帯で電波吸収量の共振周波数を調整することができる。本実施形態の電磁干渉抑制シートを電波吸収シートとして用いる場合は、球状黒鉛粉末の添加量と必要とする共振周波数にあわせて基材の厚みを調整する。
【0024】
[球状黒鉛粉末]
本実施形態では、誘電損失材として球状黒鉛粉末を使用する。球状の粉末を使用する目的は、粉末の流動性を高めること、凝集を防ぐこと、及び、基材中での分散性を高めることである。
【0025】
球状黒鉛粉末の平均粒径(平均一次粒径)は2μm以上40μm以下であることが重要である。平均粒径が2μm以上40μm以下の球状粉末を使用することで、球状黒鉛粉末の凝集性がなくなり、基材中への均質分散が容易となるため、製造バラツキの抑制によりノイズ減衰効果の安定化が図れる。平均粒径が2μm未満の場合、粉末の流動性や分散性が悪くなり、製造性が悪化する。この観点から、平均粒径は2μm以上とし、好ましくは5μm以上とする。他方で、平均粒径が40μm超えの場合、電波吸収シートにおいては添加量による電波吸収性の調整が困難となる。本実施形態では、電気的な損失によって電磁干渉抑制効果を発現させるため、球状黒鉛粉末の添加量を調整して所望の比誘電率を得ることになるが、粉末の平均粒径が大きくなるほど、粉末の表面積が小さくなり、添加量での比誘電率の調整が難しくなる。この観点から、平均粒径は40μm以下とし、好ましくは20μm以下とする。
【0026】
本明細書において、球状黒鉛粉末の「平均粒径」は、次の手順で求める。まず、電磁干渉抑制シートの断面をイオンミリング研磨した後、走査型電子顕微鏡にて反射電子像を撮影する。撮影倍率は、測定精度を高めるためにも、粉末粒径に合せて500倍~2000倍とし、粉末粒径が2μmのように小さいものが主体である場合は2000倍がよく、粉末粒径が40μmのように大きいものが主体である場合は500倍がよい。次に、撮影した画像において、各黒鉛粉末の最大径をその粉末の粒径とし、撮影視野における全ての黒鉛粉末の平均値を、その電磁干渉抑制シートに含まれる黒鉛粉末の「平均粒径」と定義する。なお、撮影画像端部に差し掛かる粉末や、撮影画像上で粉末粒径(最大径)が1μm未満のものについては測定対象から除去する。
【0027】
本実施形態では、球状黒鉛粉末の平均球状化率が50%以上であることが重要である。図1には、本発明の一実施例における、電磁干渉抑制シートの断面をイオンミリング研磨した後、走査型電子顕微鏡で観察した反射電子像を示す。このように、本実施形態の電磁干渉抑制シートは、球状黒鉛鋳鉄に似た組織形態を有しており、黒鉛粉末の球状化率で組織形態を特徴付けることができる。平均球状化率が50%未満の場合、準ミリ波からミリ波の帯域において優れたノイズ減衰効果を得ることができない。この観点から、平均球状化率は50%以上であり、好ましくは60%以上であり、より好ましくは70%以上である。平均球状化率の上限は特に限定されないが、工業的に得られる球状黒鉛粉末の球状化率は90%が上限のため、平均球状化率は90%以下であることが好ましい。
【0028】
球状黒鉛粉末の「球状化率」は、観察される黒鉛粉末の最大径(長軸)をL、面積をS、最大径を直径とする円をDとし、Sの面積をDの面積で除した値に100をかけることで算出する。これを、上記反射電子像(倍率:500倍~2000倍)における全ての球状黒鉛粉末の球状化率を求め、その平均値を「平均球状化率」と定義する。なお、撮影画像端部に差し掛かる粉末や、撮影画像上で粉末粒径(最大径)が1μm未満のものについては測定対象から除去する。
【0029】
なお、球状黒鉛粉末の結晶質については特に制限なく、炭素系でも黒鉛系でも使用することができるが、黒鉛質の方が潤滑性に富んでいるため、粉末自体の凝集性が少なくなり、基材中への均質分散も容易となる。このような球状黒鉛粉末は工業製品として市販されており、例えば、日本カーボン(株)のカーボンマイクロビーズや伊藤黒鉛工業(株)の球状黒鉛などがある。球状黒鉛粉末は、粉末内部に空隙のないものに加えて、鱗片状黒鉛粉末を球状化させて、多少の空隙を含むものでもよい。
【0030】
球状黒鉛粉末の含有量は、球状黒鉛粉末の粒径にもよるが、シート全体に対して20体積%以上70体積%以下であることが重要である。ノイズ抑制シートの場合、含有量が20%より少ないと電気的な損失効果を得ることができず、含有量が70%よりも多くなるとシートの可撓性が失われる。また、電波吸収シートの場合は、狙いとする共振周波数に合わせてシートの厚みと基材の誘電率を調整するものであるため、それに合わせて球状黒鉛粉末の含有量を決めればよいが、含有量が20体積%以上70体積%以下の範囲内であると、準ミリ波帯からミリ波帯で電波吸収量の共振周波数を調整することができる。
【0031】
[難燃剤]
電磁干渉抑制シートの難燃性を高めるために、基材中に難燃剤を添加することができる。基材に添加する難燃剤は、環境に配慮し、非ハロゲン系の難燃剤であることが好ましい。具体的には、難燃剤は、窒素系化合物、水酸化系化合物、リン系化合物の一種以上からなるものとすることが好ましい。窒素系化合物としては、メラミンシアヌレート、炭酸アンモニウムを挙げることができる。水酸化系化合物としては、水酸化アルミニウム、水酸化マグネシウム、水酸化カルシウムを挙げることができる。リン系化合物としては、赤燐、リン酸エステルを挙げることができる。シート全体に対する難燃剤の含有量は、5体積%以上40体積%以下であることが好ましい。
【0032】
[その他の添加剤]
基材中には、球状黒鉛粉末及び難燃剤以外にも、必要に応じて電磁干渉抑制効果を低下させない範囲の中で、増量剤、誘電率調整材、可塑剤、分散剤、酸化防止剤等の添加物を加えてもよい。この場合、これらその他の添加剤の合計含有量は、シート全体に対して40体積%以下とすることが好ましい。
【0033】
[追加の層]
電磁干渉抑制シートの損傷防止や表面絶縁性を高める目的で、基材の一対の表面のうち、取付対象物とは反対側の表面(すなわち、電磁波入射側の表面)に絶縁保護層を形成してもよい。十分な損傷防止効果と表面絶縁性を得る観点から、絶縁保護層の厚みは5μm以下であることが好ましい。また、電磁干渉抑制効果、シートの可撓性、及び切断加工性を確保しつつ、電子機器の薄型化・小型化に対応する観点から、絶縁保護層の厚みは125μm以下であることが好ましい。絶縁保護層は、実用性を考えると樹脂フィルムが好ましく、その中でも汎用的に使用されているポリエチレンテレフタラート(PET)やポリエチレンナフタレート(PEN)を使用することがコスト的に考えて好ましい。これらの絶縁保護層は、粘着層を介して基材と貼り合わせてもよい。
【0034】
電磁干渉抑制シートは何らかの取付対象物に貼付けして使用されるため、基材の一対の表面のうち、取付対象物側の表面に粘着層を形成してもよい。また、電磁干渉抑制シートを遠方界用の電波吸収シートとして用いる場合で、取付対象物が導電物でない場合には、基材の一対の表面のうち、取付対象物側の表面に、粘着層を介して導電層を形成してもよい。導電層の材質に特段の制限はないが、一般的には金属が用いられる。金属の種類としては、真鍮、銅、鉄、ニッケル、ステンレス、アルミニウム等が挙げられる。また、導電層は金属単体から成るものでなく、例えばフィルム上にアルミニウムを蒸着成膜したようなものも使用することができる。導電層の厚みは、電波吸収シートに入射した電波を反射させることができ、かつ、可撓性を考慮して設定すればよく、具体的には10nm以上300μm以下、特に50nm以上100μm以下であることが好ましい。導電層の厚みが10nm未満であると、電波吸収シートに入射した電波が導電層を透過し、導電層での反射量が低下してしまう。他方で、導電層の厚みが300μmよりも大きくなると、電波吸収シートの総厚が厚くなってしまうことに加え、シートの可撓性も失われてしまう。
【0035】
[効果]
以上説明した本実施形態の電磁干渉抑制シートは、近傍界用及び遠方界用の区別が容易である。同一の材料からなる基材で、球状黒鉛粉末の含有量と基材の厚みを区別することだけで、近傍界用ノイズ抑制シートに適したものとすることもできるし、遠方界用共振型電波吸収シートに適したものとすることもできる。また、本実施形態の電磁干渉抑制シートは、準ミリ波からミリ波の帯域において優れたノイズ減衰効果を安定して得ることができる。
【0036】
(電磁干渉抑制シートの製造方法)
まず、基材となる有機物(原料樹脂)、球状黒鉛粉末、任意の難燃剤、及び任意の添加剤を混ぜ合わせる。原料樹脂が液状シリコーンゴムであれば、遊星撹拌機によって球状黒鉛粉末と混ぜることができる。原料樹脂がミラブルシリコーンゴムであれば、加圧ニーダ又はオープンロールで混練を行えばよい。この際、混練での材料の発熱によって加硫が進まないよう100℃以下に冷却させながら行うことが好ましい。
【0037】
後述する成型方法にて、塗工方式であるドクターブレード成型を使用する場合、混練物にトルエン、メチルエチルケトンなど、原料樹脂の溶解性の良い有機溶剤を溶媒として添加し、ドクターブレード成型が可能となるように混練物の粘度調整を行ってもよい。
【0038】
得られた混練物をシート化する成型については、圧縮成型、押出成形、圧延成型、カレンダーロール成型、及びドクターブレード成型といった、何れの方法でも達成できる。一例として圧縮成型の場合を説明すると、成型後の電磁干渉抑制シートが所定の厚みになるように彫が形成された金型に混練物を投入し、シリコーンの加硫が進む温度120℃以上200℃以下で、5分以上30分以下の圧縮成型を行う。
【実施例0039】
(発明例1~5、比較例1~2)
液状シリコーン樹脂中に、原料粒径の異なる球状黒鉛粉末を添加した。球状黒鉛粉末の添加量は、シート全体に対して50体積%になるように調整した。遊星撹拌機にて混合した混練物を、成型後のシートが所定の厚みになるように彫が形成された金型に投入し、金型温度160℃で20分間の圧縮成型を行い、厚み500μmのノイズ抑制シートを作製した。各シートにおける球状黒鉛粉末の平均粒径及び平均球状化率を表1に示す。比較例1については、球状黒鉛粉末の平均粒径が小さいため、粉末の凝集が発生し、表面に凹凸のあるシートであった。
【0040】
これらのシートを所定サイズに切断し、回路基板上で25GHzの電磁ノイズが発生するデバイス上に貼り付け、スペクトラムアナライザにてノイズ減衰効果を確認した。その結果、発明例1~5及び比較例1においては、1dBを超えるノイズ減衰効果がみられたが、比較例2では1dBを下回るノイズ減衰効果であった。比較例2では、球状黒鉛粉末の平均粒径が大きすぎたために、比誘電率の値が小さくなり、ノイズ減衰効果が小さくなったと考えられる。
【0041】
【表1】
【0042】
(発明例6~8、比較例3~4)
アクリルゴムをトルエンで溶解した液状物に、球状黒鉛粉末を添加した。この際、球状黒鉛粉末として、鱗片状黒鉛粉末を球状化したものを使用した。シート全体に対する球状黒鉛粉末の添加量は、表2に示す値になるように調整した。遊星撹拌機にて混合した混練物を、ドクターブレード成型にて離型剤を塗布したPETフィルム上に、成型・乾燥後のシートが厚み500μmになるようにノイズ抑制シートを作製した。各シートにおける球状黒鉛粉末の平均粒径及び平均球状化率を表2に示す。
【0043】
これらのシートを所定サイズに切断し、回路基板上で25GHzの電磁ノイズが発生するデバイス上に貼り付け、スペクトラムアナライザにてノイズ減衰効果を確認した。その結果、発明例6~8においては、1dBを超えるノイズ減衰効果がみられたが、比較例4では1dBを下回るノイズ減衰効果であった。比較例3では、球状黒鉛粉末の添加量が少ないために比誘電率の値が小さくなり、ノイズ減衰効果が小さくなったと考えられる。また、比較例4では、球状黒鉛粉末の添加量が多すぎたため、シート表面での反射効果が強くなり、ノイズ減衰効果が小さくなったと考えられる。
【0044】
【表2】
【0045】
(比較例5~7)
アクリルゴムをトルエンで溶解した液状物に、不定形状の黒鉛粉末を添加した。シート全体に対する黒鉛粉末の添加量は、表3に示す値になるように調整した。遊星撹拌機にて混合した混練物を、ドクターブレード成型にて離型剤を塗布したPETフィルム上に、成型・乾燥後のシートが厚み500μmになるようにノイズ抑制シートを作製した。各シートにおける黒鉛粉末の平均粒径及び平均球状化率を表3に示す。
【0046】
これらのシートを所定サイズに切断し、回路基板上で25GHzの電磁ノイズが発生するデバイス上に貼り付け、スペクトラムアナライザにてノイズ減衰効果を確認した。その結果、比較例5~7においては、黒鉛粉末が不定形状で平均球状化率が低いために、1dBを下回るノイズ減衰効果であった。
【0047】
【表3】
【0048】
(発明例9~11)
アクリルゴムをトルエンで溶解した液状物に、球状黒鉛粉末と難燃剤であるメラミンシアヌレートを添加したシート(発明例9)、球状黒鉛粉末と難燃剤である水酸化マグネシウムを添加したシート(発明例10)、球状黒鉛粉末のみを添加したシート(発明例11)を作製した。シート全体に対する球状黒鉛粉末の添加量は、表4に示す値になるように調整した。シートの作製方法としては、これら原料を遊星撹拌機で混合した混練物を、離型剤を塗布した鉄板に挟み込み、2つの成型ロール間に鉄板を通した後に80℃で4時間の加熱硬化させることで、厚み500μmのノイズ抑制シートを作製した。各シートにおける球状黒鉛粉末の平均粒径及び平均球状化率を表4に示す。
【0049】
これらのシートを所定サイズに切断し、回路基板上で25GHzの電磁ノイズが発生するデバイス上に貼り付け、スペクトラムアナライザにてノイズ減衰効果を確認した。その結果、発明例9~11いずれのシートも1dBを超えるノイズ減衰効果がみられた。また、発明例9のシートはUL規格での難燃性がV0、発明例10のシートはUL規格での難燃性がHBを示したが、難燃剤無添加である発明例11はUL規格でHB不適合であった。
【0050】
【表4】
【0051】
(発明例12~13)
液状シリコーン樹脂中に、77GHzで電波吸収量の共振ピークが発現することを勘案して球状黒鉛粉末を添加した。この際、球状黒鉛粉末として、鱗片状黒鉛粉末を球状化したものを使用した。球状黒鉛粉末の添加量は、シート全体に対して45体積%になるように調整した。遊星撹拌機にて混合した混練物を鉄板に挟み込み、ロール間に所定のクリアランスが設けられた2つの成型ロール間に鉄板を通した後に160℃で30分の加熱硬化させることで、厚み150μmの電波吸収シートを作製した(発明例12)。また、このシートに粘着剤を塗布して、厚み50μmのPETフィルムを表面保護層として貼り付けた。更に、PETフィルムを貼った面とは逆の面に粘着剤を塗布し、電波反射層として厚み50μmのアルミ箔を貼り付けた(発明例13)。各シートにおける球状黒鉛粉末の平均粒径及び平均球状化率を表5に示す。
【0052】
発明例12の電波吸収シートを厚み1mmのアルミ板上に置き、垂直入射法にて77GHzでの反射減衰量(電波吸収量)を測定したところ、-22dBであった。また、発明例13の電波吸収シートはアルミ板の上に置かず、そのまま垂直入射法にて77GHzでの反射減衰量(電波吸収量)を測定したところ、-17dBであった。発明例12,13ともに-15dBを超える電波吸収量が得られ、実用的に充分な電波吸収シートであることを確認した。
【0053】
【表5】
【産業上の利用可能性】
【0054】
本発明の電磁干渉抑制シートは、電子機器に装着され、当該電子機器内で発生する電波を吸収する電磁波ノイズ対策部材として特に有効であり、近傍界用ノイズ抑制シートとしても使用でき、遠方界用共振型電波吸収シートとしても使用できるので、産業上有用である。
図1