(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023014706
(43)【公開日】2023-01-31
(54)【発明の名称】切断対象物の切断装置及び切断方法
(51)【国際特許分類】
B23K 7/10 20060101AFI20230124BHJP
E04G 23/08 20060101ALI20230124BHJP
B23K 7/00 20060101ALI20230124BHJP
【FI】
B23K7/10 M
E04G23/08 H
B23K7/10 Z
B23K7/00 C
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021118816
(22)【出願日】2021-07-19
(71)【出願人】
【識別番号】000166432
【氏名又は名称】戸田建設株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】000150981
【氏名又は名称】日酸TANAKA株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】000122689
【氏名又は名称】岡谷酸素株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100105315
【弁理士】
【氏名又は名称】伊藤 温
(72)【発明者】
【氏名】山崎 輝士
(72)【発明者】
【氏名】井戸 康浩
(72)【発明者】
【氏名】石丸 達朗
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 信也
(72)【発明者】
【氏名】下坂 賢二
(72)【発明者】
【氏名】成田 修英
(72)【発明者】
【氏名】右田 周平
(72)【発明者】
【氏名】奥田 修司
(72)【発明者】
【氏名】田中 高広
(72)【発明者】
【氏名】工藤 真温
(72)【発明者】
【氏名】武田 隆志
(72)【発明者】
【氏名】狩野 智也
(72)【発明者】
【氏名】前田 健作
(72)【発明者】
【氏名】石井 幸二
(72)【発明者】
【氏名】松田 晴夫
(72)【発明者】
【氏名】鈴置 宗夫
(72)【発明者】
【氏名】小林 英亮
【テーマコード(参考)】
2E176
【Fターム(参考)】
2E176AA01
2E176DD52
2E176DD64
(57)【要約】
【課題】環境への影響を一層低減することが可能な切断対象物の切断装置を提供する。
【解決手段】構造物32を切断するための手で把持して使用可能な切断トーチ11と、少なくとも燃料ガス及びパウダーを切断トーチ11に供給するための供給ホース18と、 構造物32の切断により発生する粉塵を回収可能な集塵装置13と、を備え、集塵装置13は、構造物32の、少なくとも、切断トーチ11により切断される部分を囲うチャンバ部41と、粉塵を回収する集塵機43と、集塵機43へ粉塵を輸送する輸送部42と、を備えた。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
切断対象物を切断するための手で把持して使用可能な切断トーチと、
少なくとも燃料ガス及びパウダーを前記切断トーチに供給するための供給ホースと、
前記切断対象物の切断により発生する粉塵などを含む排気を回収可能な集塵装置と、を備えたことを特徴とする切断対象物の切断装置。
【請求項2】
前記集塵装置は、
前記切断対象物の、少なくとも、前記切断トーチにより切断される部分を囲うチャンバ部と、
粉塵を回収する粉塵回収部と、
前記チャンバ部から前記粉塵回収部へ粉塵を輸送する輸送部と、を備えたことを特徴とする請求項1に記載の切断対象物の切断装置。
【請求項3】
前記チャンバ部は耐火性を有することを特徴とする請求項2に記載の切断対象物の切断装置。
【請求項4】
可視できない前記燃料ガスの燃焼を前記パウダーの添加により可視できるようにしたことを特徴とする請求項1乃至3に記載の切断対象物の切断装置。
【請求項5】
切断対象物を切断するための手で把持して使用可能な切断トーチと、
少なくとも燃料ガス及びパウダーを前記切断トーチに供給するための供給ホースと、
前記切断対象物の切断により発生する粉塵を回収可能な集塵装置と、を備えた切断装置を使用する切断対象物の切断方法であって、
前記切断トーチを手で把持した状態で使用し、
前記集塵装置で、前記切断対象物の切断により発生する粉塵を回収しながら前記切断対象物を切断することを特徴とする構造物の切断方法。
【請求項6】
鉄筋コンクリート構造物の加熱溶融により発生して凝固し、金属元素を含有するコンクリート溶融物。
【請求項7】
切断対象物を切断するための切断トーチと、
少なくとも、燃料ガス、パウダー、及び、酸素を前記切断トーチに供給するための供給ホースと、を備え、
前記パウダーには、50~90%(重量%)の割合で鉄のパウダーが混合されていることを特徴とする切断対象物の切断装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば、鉄筋コンクリートやその他の切断対象物の切断装置及び切断方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、新たな建造物の工事着手前に、既存構造物を除去する解体工事が必要なケースが増加している。既存の構造物の中でも、鉄筋コンクリート造のような堅牢な躯体の解体工事では、大型のブレーカーを用いる工法が一般的である。しかし、作業に伴う周辺環境への工事振動が課題の一つとなっている。さらに、地下部分では、基礎の構造体断面が大きいにもかかわらず、狭い空間での作業となり、大型機械の採用が制限されるなどの課題がある。そして、これらの課題を解決できる工法開発が求められている。
【0003】
現在、断面の大きなコンクリート構造体の解体時に発生する振動を抑制するための工法として、ワイヤーソーイングやコアボーリングによる切断工法がある。しかし、前者はワイヤーソーを切断部位外周に設置しなければならないという課題がある。後者は構造体を構成する棒鋼や鉄骨などの鋼材がコアボーリングの障害となるという課題がある。そこで、発明者等は、地下のコンクリート構造物における解体の効率化を図ったり、周辺環境に及ぼす影響を低減させたりできるよう、水素系混合ガスを用いた切断装置や切断方法を開発した(特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、混合ガスを用いた切断装置や切断方法は、上述のように、解体を効率化したり、周辺環境への影響を低減したりするうえで有効である。したがって、これらの切断装置や切断方法に改良を加え、環境への影響を一層低減できるものとすることが望ましい。
【0006】
本発明は、環境への影響を一層低減することが可能な切断対象物の切断装置及び切断方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するために本発明は、構造物を切断するための手で把持して使用可能な切断トーチと、
少なくとも燃料ガス及び金属パウダーを前記切断トーチに供給するための供給ホースと、
前記構造物の切断により発生する粉塵を回収可能な集塵装置と、を備えたことを特徴とする切断対象物の切断装置にある。
【0008】
また、上記課題を解決するために本発明は、構造物を切断するための手で把持して使用可能な切断トーチと、
少なくとも燃料ガス及び金属パウダーを前記切断トーチに供給するための供給ホースと、
前記構造物の切断により発生する粉塵を回収可能な集塵装置と、を備えた切断装置を使用する構造物の切断方法であって、
前記切断トーチを手で把持した状態で使用し、
前記集塵装置で、前記構造物の切断により発生する粉塵を回収しながら前記構造物を切断することを特徴とする構造物の切断方法にある。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、環境への影響を一層低減することが可能な切断対象物の切断装置及び切断方法を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】本発明の一実施形態に係る切断装置や切断方法を説明するための図である。
【
図3】(a)は切断トーチの先端部近傍を分離して説明する正面図、(b)は(a)のA-A線に沿った断面図である。
【
図4】(c)は
図2(a)の切断トーチを、長手方向を軸にして90度回転させた正面図、(d)は(c)のB-B線に沿った断面図である。
【
図6】切断トーチによる構造物の切断を説明するための図である。
【
図7】切断トーチを裂開部に進入させた状態を説明するための図である。
【
図8】(a)~(d)は火口受けの他の例を説明するための図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下に、本発明の切断装置及び切断方法について説明する。
図1は、本発明の一実施形態に係る切断装置10を模式的に示している。この切断装置10は、切断トーチ11、調整装置12、及び、集塵装置13を備えている。これらのうち、切断トーチ11は、円筒状の本体部14を有しており、本体部14の軸方向の長さは、切断の作業者が片手又は両手で把持できる長さとなっている。そして、切断トーチ11の全長、外形寸法、あるいは重量は、作業者が手(安全性を考慮してグローブを装着した手)で把持して機動的に作業が行える程度となっている。
【0012】
図2に示すように、切断トーチ11の先端側に位置する火炎口15には、火口16が火口受け51(
図8)を介して取り付けられている。切断トーチ11の基端側には、複数の供給ホース18が接続されている。
図3及び
図4に示すように、切断トーチ11の先端側には、燃料ガス供給管20、切断酸素供給管21a、予熱酸素供給管21b、金属パウダー(「金属粉」ともいう、以下では「パウダー」と称する)供給管22、及び、冷却水供給管23の各種の配管が備えられている。
【0013】
ここで、
図2では図示を省略しているが、個々の供給ホース18は、切断トーチ11の基端側において、これらの燃料ガス供給管20、切断酸素供給管21a、予熱酸素供給管21b、パウダー供給管22、及び、冷却水供給管23に接続されている。冷却水供給管23には、行き用(往路(IN)用)と、帰り用(復路(OUT)用)がある。
【0014】
冷却水供給管23は、切断トーチ11に内部に冷却水(図示略)を循環させるものである。さらに、冷却水供給管23は、冷却水を火口16に向けて案内する部分(以下では「冷却水IN」と称する)23aと、火口16を冷却した冷却水を切断トーチ11の外へ向けて案内する部分(以下では「冷却水OUT」と称する)23bとを有している。
【0015】
火口16は、
図2に示すように、切断トーチ11の先端部に取り付けられている。火口16は、
図5に示すように、外部火口25、中間外部26、内管27、内部芯棒28、及び、当たりブランク29などを有している。火口16の内部には、5つの通路部が形成されており、各通路は、燃料ガス供給管20、切断酸素供給管21a、予熱酸素供給管21b、パウダー供給管22、及び、冷却水供給管23(冷却水IN23a、冷却水OUT23b)に割り当てられている。
【0016】
火口16は、本体部14の先端側に、火口受け51(
図8、後述する)を介して着脱可能に設けられている。火口16は、先端側(本体部14に装着された際に本体部14の先端側を向く側)にから基端側へ細くなるテーパ状の形状を有している。そして、本体部14の内壁も、先端側から基端側へ細くなるテーパ状の形状に加工されており、火口16は、火口受け51(
図8、後述する)の内壁に嵌め合わされている。
【0017】
また、火口16は、燃料ガス供給管20、切断酸素供給管21a、予熱酸素供給管21b、及び、パウダー供給管22に繋がる開口を有している。そして、これらのうち、切断酸素用の開口、予熱酸素用の開口、及び、パウダー(金属パウダー、金属粉)用の開口は、燃料ガス用の開口を中心として、同心円状に配置されている。
【0018】
なお、火口受け51としては、
図8(a)~(d)に示すようなものを採用可能である。
図8(a)~(d)に示す火口受け51は、切断酸素を通過させる切断酸素用の通過穴、予熱酸素を通過させる予熱酸素用の通過穴、及び、パウダーを通過させるパウダー用の通過穴が、外周面52と基端面53に開口している。そして、火口受け51は、切断酸素、予熱酸素、及び、パウダーを、基端面53から取り込み、基端面53の反対面(先端側の面)から燃料ガスとともに噴出させる。
【0019】
図1に示すように、供給ホース18は、切断トーチ11と調整装置12に接続されている。調整装置12には、図示は省略するが、燃料ガス、酸素、パウダー、及び、冷却水を収容した容器(ボンベやタンクなど)が設置されている。各供給ホース18は、燃料ガス、酸素、パウダー、及び、冷却水を、それぞれ切断トーチ11に供給することが可能なゴム製や樹脂製等の材質からなるものである。
【0020】
燃料ガスとしては、水素ガスや種々のガスを使用できるが、特に水素リッチガスであることが望ましい。水素リッチガスとしては、水素ガス(100%)や、水素ガスと炭化系ガスの混合ガス(水素混合比率が50%以上)のものを例示できる。
【0021】
水素リッチガスを使用した場合、切断作業時に切断対象物からの輻射熱を抑えることができる。また、水素リッチガスは、ガスを噴射した場合の直進性に優れる。このため、作業者が体感する温度や、切断トーチ11の過熱を抑制することができる。さらに、炎を狙った位置に向けて的確に噴射できる。
【0022】
切断トーチ11に供給される切断酸素は、パウダーを燃焼させる機能、及び、鉄筋コンクリートの溶融物を排出する機能等を有している。パウダーは、炎の温度を上げる機能を有している。パウダーとしては、鉄とアルミの混合粉が用いられている。アルミを混合した場合には、アルミの酸化発熱量を利用して対象物が溶融される。この際、流動性を補助するものとして酸化鉄を基本として用い、酸化反応熱の高い粉体(ここではアルミ)を混合することによって切断能力を向上させている。しかし、これに限定されず、炎の温度を必要な温度以上に上げることができる種々のパウダーを採用することが可能である。切断対象物(ここでは後述する構造物32)の構成(構造や組成などの特性)により、混合比を変えることで、加熱されて溶融した構造物(溶融物)の流動性を良くし、排出性を向上することができる。
【0023】
パウダーは鉄のみや、アルミのみなどであってもよい。パウダーにはマグネシウムなども、他の金属粉と混合して、或いは、単独で用いることが可能である。また、パウダーを、鉄と他の金属粉との混合物とし、パウダー内における鉄の混合率(「混合比」や「混合割合」ともいう)を、相対的に多くする(50%超とする)ことが可能である。好適には、鉄の混合率を、例えば65~90%(重量%)とすることが可能である。また、鉄の混合率を、作業者の状態(作業姿勢や作業内容など)を考慮して変更する(決定する)ことなども可能である。
【0024】
パウダーを構成する金属粉については、少なくとも一部の金属粉が、視認可能な大きさ(「粒子径」や「粒径」などともいう)を有している。このようにすることで、混合ガスのその他の成分(水素ガスなどの燃料ガスや各種酸素)が視認できないものであっても、混合ガスを視認可能とすることができる。そして、混合ガスの噴射の状態(速度、流量、直進性など)を目視により確認したうえで、混合ガスに着火することができる。
【0025】
図6は、作業者30が切断トーチ11を把持して操作し、鉄筋コンクリート等からなる構造物32を切断する様子を例示している。構造物32の切断にあたり、切断トーチ11に供給された燃料ガスと予熱酸素が、切断トーチ11から高圧で噴射される。燃料ガスと予熱酸素の混合ガスに、同じく切断トーチ11から噴射されるパウダーが混ざり、これらの混合ガス(混合物)に着火が行われる。より具体的には、混合ガスによりパウダーが加熱され、切断酸素により着火されると考えられる。
【0026】
切断トーチ11からは、火炎34が直進するよう噴射される。
図6には、火炎34が構造物32に当たって反射する様子が模式的に示されている。作業者30は、構造物32に対して切断トーチ11の先端部を対向させ、構造物32の表面を加熱する。さらに、予熱の段階が終了すると、予熱酸素に切断酸素が足し合わされ、火炎34が維持(或いは増強)される。そして、切断酸素とパウダーとが供給されることで、高温の火炎34が噴射され、構造物32が加熱される。
【0027】
切断酸素の供給が行われた後には、火炎34の切断温度は、混合されたパウダーの作用により、2000~2500℃以上となり、構造物の融点を越える温度に達している。そして、高温の火炎34が構造物32に吹き付けられ、構造物32の、火炎34は当たった部位が溶融する。
【0028】
構造物32には、火炎34によって、コンクリートや鉄筋が部分的に除去された裂開部36(
図7)が形成される。裂開部36の形成に伴い、溶融した構造物(溶融物)が流れ出る。例えば、作業者30は、裂開部36に対して、切断トーチ11の先端側を徐々に進入させる、裂開部36を深化させる。
図7には、切断トーチ11の先端側が、裂開部36に進入した様子が模式的に示されている。
【0029】
作業者30は、切断トーチ11の前進移動や、横方向及び縦方向の移動を適宜組み合わせる。そして、作業者30は、構造物32を、例えば板状や直方体状に順次切り出し、鉄筋コンクリートにより構成された建築物等の解体を進める。切断トーチ11には、冷却水供給管23を介して冷却水が流通しており、この冷却水は、切断トーチ11の内部と外部との間で循環している。このため、切断作業時に切断トーチ11の過度な温度上昇が防止される。
【0030】
このような切断作業においては、火炎34の噴射や鉄筋コンクリート(構造物32)の溶融に伴い粉塵を含む排気が発生する。発生した排気の粉塵は、排気と共に、集塵装置13により集められる。
図1に模式化して示すように、集塵装置13は、作業位置を覆うチャンバ部41と、チャンバ部41に一端側が接続された輸送部42と、輸送部42の他端側が接続された集塵機(粉塵回収部)43等により構成されている。
【0031】
チャンバ部41は、例えば、直方体状の形状を有しており、切断作業が行われる作業部位を囲っている。チャンバ部41は、耐火性のある素材(金属製の素材など)を用いて形成されている。チャンバ部41の形態としては、混合ガスの燃焼時に、ガスや火花の飛散を防止するシールド機能を発揮できるものであれば、種々の形態を採用することが可能である。例えば、チャンバ部41の形態としては、箱状、囲い状、ドーム状、多角形状、異形状などといった種々の形状を例示できる。
図1に示すように、作業者30は、チャンバ部41の外側に立つ。作業者30は、チャンバ部41に形成された作業側開口部45に、切断トーチ11の先端側を差し込んで、前述のような切断作業を行う。
【0032】
作業側開口部45の形状を例えば、長方形とした様な場合、作業側開口部45の縁部をガイドとして、切断トーチ11を、横方向や縦方向に直線的に移動させることが可能である。つまり、例えば、切断トーチ11の、先端側と作業者30との間の部位の一部を、作業側開口部45下縁部に載せ、作業者が、切断トーチ11を、作業側開口部45の下縁部に接触させながら移動させる。すると、切断トーチ11は、作業側開口部45の下縁部の形状に沿って移動し、構造物32の切断が直線的に行われることとなる。
【0033】
ここで、前述した
図6及び
図7においては、図面が煩雑にならないよう、チャンバ部41の図示は省略されているが、
図6及び
図7に例示した切断作業においても、作業部位の周りは、チャンバ部41により囲われている。
【0034】
なお、図示は省略するが、チャンバ部41を昇降機構(クレーンやウインチなど)により支持し、昇降させることができるようにしてもよい。このようにすることで、作業側開口部45の高さを変更し、切断トーチ11の届く範囲を変化させることが可能となる。
【0035】
また、
図6及び
図7には、シールド金属板48が示されている。このシールド金属板48は、耐火性のある金属製の素材を用いて板状に形成されている。シールド金属板48は、作業者30が必要に応じて、単独で、或いは、チャンバ部41と併用し、輻射熱や火花を防ぐことができるものである。シールド金属板48には長方形状の開口部49が設けられており、この開口部49も、チャンバ部41の作業側開口部45と同様に、縁部を、切断トーチ11のガイドとして利用できるようになっている。
【0036】
チャンバ部41には、排気側開口部46が形成されており、この排気側開口部46に、管状の輸送部42が気密的に接続されている。チャンバ部41の内部空間は、輸送部42を介して集塵機43と繋がっており、集塵機43が集塵動作を開始すると、チャンバ部41内の空気が、輸送部42を介して集塵機43により吸い込まれる。集塵機43は、輸送部42を介して吸い込んだ空気から、フィルタにより粉塵をろ過し(静止させ)、清浄化された空気を排気する。集塵機43としては、一般的な種々のものを採用可能である。
【0037】
チャンバ部41の中の空気は、集塵機43による吸引されることから、チャンバ部41内の気圧は陰圧(負圧)となる。このため、チャンバ部41の中で発生した粉塵が作業側開口部45から逆流することを防止できる。また、チャンバ部41の内部で発生した火花が大きく作業者30に跳ね返ることも防止できる。ここで、集塵機43としては、作業側開口部45において、チャンバ部41の外から中へ向かう空気の速度(風速)を発生させることができる性能を有するものが採用されている。さらに、集塵機43としては、例えば一定周期で自動的にフィルタに衝撃を与え、フィルタに付着した粉塵を自動で払い落とせる機能を有するものが採用されている。フィルタに衝撃を与えるために、圧縮空気をフィルタに断続的に(パルス状に)吹き付けることが可能である。また、フィルタを機械的な変位機構により支持して断続的に揺らすことなども可能である。
【0038】
輸送部42としては、例えば、可撓性を有するフレキシブルダクトが採用されている。輸送部42の長さは、例えば、数メートルから数十メートル程度となっている。これは、輸送部42の長さを十分に確保し、チャンバ部41から排出された高温の空気(粉塵を含む排気)の温度を、集塵機43に到達するまでの間に、十分に低下させるためである。輸送部42にフレキシブルダクトを用いることにより、輸送部42を蛇行させたり、巻回させたりした状態で作業現場に設置でき、省スペースで排気の冷却を行うことが可能となる。
【0039】
以上説明したような切断装置10や、切断装置10を用いて行われる切断方法によれば、切断トーチ11の中には、各種の配管(燃料ガス供給管20や切断酸素供給管21a等)や、火口16、及び、火口受け51が収容されているのみであり、切断トーチ11が、小型且つ軽量である。さらに、切断トーチ11の中に冷却水が流れ、冷却水が循環している。このため、作業者が、切断トーチ11を手で持ち上げたまま、切断作業を機動的に行うことが可能である。
【0040】
なお、切断トーチ11は、作業者30が把持可能なものであるが、切断トーチ11の支持は、必ずしも、作業者30が把持することに限られるものではない。例えば、切断トーチ11の把持装置(図示略)を設け、この把持装置により切断トーチ11を支持することも可能である。把持装置としては、比較的軽量な簡易タイプ(ホルダタイプやスタンドタイプ、ハンドルタイプなど)のものや、重機への装着が可能な重機アタッチメント等を例示できる。
【0041】
また、鉄筋については、予め探査して位置を確認し、鉄筋の位置に目印などを書き込んで位置表示しておくことが可能である。このようにすることで、作業者30が切断位置を特定し易くなり、作業時間を短縮でき、切断効率を高めることが可能となる。
【0042】
また、本実施形態の切断装置10や切断方法によれば、高温の火炎34により、鉄筋コンクリート構造物を構成するコンクリートと鋼材を同時に切断することが可能である。そして、ガス切断であることから、周辺環境への影響を及ぼすような振動を発生させることなく、低振動で切断を行うことが可能である。さらに、鋼材量が相対的に多い構造物に対しても、効率よく短時間で切断を行うことが可能である。
【0043】
また、本実施形態の切断装置10や切断方法によれば、チャンバ部41により作業箇所の周辺を囲っているので、切断により発生する騒音を低減できる。このため、混合ガスを用いた切断装置や切断方法を、環境への影響を一層低減したものとすることができる。
【0044】
さらに、本実施形態の切断装置10や切断方法によれば、チャンバ部41により作業箇所の周辺を囲うとともに、発生する排気中の粉塵を集塵機43により捕集しているので、このことによっても、環境への影響を一層低減することができる。また、作業者に対しても、粉塵が作業者の周囲に漂うのを防止でき、作業環境を改善することが可能となる。
【0045】
本実施形態の切断装置10や切断方法においては、水素系混合ガスとパウダー(金属粉)を燃焼させるため、粉塵、一酸化炭素(以下では「CO」と称する)、及び、二酸化炭素(以下では「CO2」と称する)が発生する。あくまでも一例ではあるが、チャンバ部41内の粉塵濃度と、集塵機43の排気口(出口)での粉塵濃度と測定して比較したところ、チャンバ部41内の粉塵濃度が502mg/m3であったのに対し、集塵機43の出口での粉塵濃度は1.8mg/m3となった。集塵機43としては、高さ3m程度の位置に出口(排気口)が設けられているものを使用した。
【0046】
拡散した後の粉塵濃度測定は風速風向、大気安定度や周辺環境の状況などに影響されるため、ガス切断時における拡散後の粉塵濃度を正しく計測することは困難である。そこで、測定時に用いられた高さ3mの集塵機43の出口における濃度1.8mg/m3の粉塵が拡散したときの、高さ1.5mにおける粉塵濃度をプルーム式で推定した。推定の条件として、風速は5m/s及び6m/sとし、大気安定度はCとした。また、単位時間当たりの粉塵供給量は、集塵機43の出口の粉塵濃度とガス温度、及び、集塵機43の流量から算出し、2.1mg/sとした。
【0047】
推定の結果、拡散することで粉塵濃度は最大で0.37×10-3mg/m3となった。この推定値は最大値であるため、現実的には、環境省の定める0.1mg/m3(100×10-3mg/m3)以下になり得ると考えられる。
【0048】
次に、COについては、集塵機43の稼働時において、巻き込み空気と混合することで濃度を低下して拡散することが可能である。集塵機43の流量の計測値は、56.4Nm3/min(Nm3とは気体の標準状態における体積のこと)であった。ガス切断時における燃料使用量から推定した発生ガス量は、3.4Nm3/minであることから、ガス切断により発生したCO濃度は、16.5分の1に低下すると考えられる。また、CO2については、参考値として0.17%になると考えられる。
【0049】
なお、このような切断工法を、静音性の高い解体工法の前処理として採用することで、静音性の高い工法が連続して実行されることとなる。後続の静音性が高い工法としては、例えば、コンクリートから露出させた鉄筋に、例えば、DC2500A-50V(定格)といった高い電力(特に電流)を供給し、鉄筋を加熱する工法(通電加熱破砕工法)を例示できる。このような工法においては、鉄筋が膨張してコンクリートにひび割れが生じ、コンクリート強度が低下(コンクリートが脆弱化)するとともに、鉄筋とコンクリートとの付着力が低下する。このため、その後の解体(圧砕機やジャイアントブレーカー等を用いた重機解体など)の際には比較的小さな力で効率よく作業することができる。そして、低騒音、低振動、短時間、低粉塵での解体が可能であり、周辺環境への影響が少ない。以上のように静音性の高い工法を連続させて、構造物32の切断から解体までを一貫して行うことができる。そして、環境への影響を一層低減して、構造物32の切断から解体までを行うことが可能となる。
【0050】
また、前述したように、構造物32の切断時には、構造物32が加熱により溶融(加熱溶融)し、溶融物が発生する。切断トーチ11によるガス切断は、鉄粉やアルミ粉を含む混合ガスを用いて鉄筋とコンクリートとが同時に切断されるため、発生する溶融物は、溶融した鉄、アルミ、それら金属酸化物およびコンクリートなどの混合物であり、金属元素を含有したコンクリート溶融物である。このコンクリート溶融物は、裂開部36から地面に向かって流れ落ちたり、作業者30の側に飛んだりする。さらに、コンクリート溶融物は、裂開部36から流れ落ちた状態(垂れ下がった状態の場合もある)や、切断面(裂開部36など)に付着した状態で、空気に触れて冷却される。
【0051】
コンクリート溶融物が、ある程度の温度に冷却されると凝固して固体となる。このように凝固したコンクリート溶融物は、構造物32から分離された凝固物であり、「分離凝固物」などと称することが可能である。そして、分離凝固物は、金属元素を含むことから、コンクリートのみの場合に比べて、比重が重い素材となる。この分離凝固物は、耐火性のある骨材などとして再利用が可能である。また、分離凝固物の用途としては、直方体状に切り出してレンガのように使用したり、凝固した際の不定形な形状を利用した鑑賞品としたりすること等が考えられる。
【0052】
なお、切断対象物(構造物32)としては、鉄筋コンクリート以外に、種々のものを採用できる。例えば、切断対象物として、アクリル樹脂ガラス製の物、ガスタンク、ソイル柱列壁(セメント混合土砂にH形鋼を芯材として埋め込んだもの)なども例示できる。また、切断対象物として、建設現場のものや、解体工事現場のもの、及び、鉄を含む構造物以外の構造物などを例示できる。
【0053】
以上、本発明の一実施形態について説明したが、本発明はこれらに限定されるものではなく、本発明の技術的思想の範囲内で多くの変形が可能である。そして、説明した実施形態は、本発明を実施するにあたっての具体化の一例を示したものに過ぎず、これによって本発明の技術的範囲が限定的に解釈されてはならないものである。
【符号の説明】
【0054】
10 切断装置
11 切断トーチ
12 調整装置
13 集塵装置
14 本体部
15 火炎口
16 火口
18 供給ホース
20 燃料ガス供給管
21a 切断酸素供給管
21b 予熱酸素供給管
22 パウダー供給管
23 冷却水供給管
25 外部火口
26 中間外部
27 内管
28 内部芯棒
29 当たりブランク
30 作業者
32 構造物
34 火炎
36 裂開部
41 チャンバ部
42 輸送部
43 集塵機(粉塵回収部)
45 作業側開口部
46 排気側開口部
51 火口受け
52 外周面
53 基端面