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特開2023-147070サーメット層、及び、水蒸気電解用水素極
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023147070
(43)【公開日】2023-10-12
(54)【発明の名称】サーメット層、及び、水蒸気電解用水素極
(51)【国際特許分類】
   C22C 1/051 20230101AFI20231004BHJP
   C25B 11/042 20210101ALI20231004BHJP
   C25B 11/052 20210101ALI20231004BHJP
   C25B 11/075 20210101ALI20231004BHJP
   C25B 11/057 20210101ALI20231004BHJP
   C25B 11/031 20210101ALI20231004BHJP
   B22F 1/00 20220101ALI20231004BHJP
   C22C 29/12 20060101ALN20231004BHJP
【FI】
C22C1/05 J
C25B11/042
C25B11/052
C25B11/075
C25B11/057
C25B11/031
B22F1/00 M
C22C29/12 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】11
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022054617
(22)【出願日】2022-03-29
(71)【出願人】
【識別番号】000003609
【氏名又は名称】株式会社豊田中央研究所
(71)【出願人】
【識別番号】000004260
【氏名又は名称】株式会社デンソー
(74)【代理人】
【識別番号】100110227
【弁理士】
【氏名又は名称】畠山 文夫
(72)【発明者】
【氏名】藤田 悟
(72)【発明者】
【氏名】森川 彰
(72)【発明者】
【氏名】人見 卓磨
【テーマコード(参考)】
4K011
4K018
【Fターム(参考)】
4K011AA11
4K011AA17
4K011AA22
4K011AA52
4K011AA58
4K011DA01
4K018AB01
4K018AC01
4K018AD09
4K018BA04
4K018CA44
4K018HA08
4K018JA14
4K018KA22
4K018KA37
(57)【要約】
【課題】高温の水蒸気に曝されても電子伝導性の低下が少ないサーメット層、及び水蒸気電解用水素極を提供すること。
【解決手段】サーメット層は、Ni含有粒子と、Y23、CeO2及びZrO2の複合酸化物からなる第1YCZ粒子と、Y23、CeO2及びZrO2の複合酸化物からなる第2YCZ粒子とを含むサーメットからなる。第2YCZ粒子に含まれるCeの含有量は、第1YCZ粒子のそれより少ない。水蒸気電解用水素極は、このようなサーメット層を備えている。
【選択図】図5
【特許請求の範囲】
【請求項1】
以下の構成を備えたサーメット層。
(1)前記サーメット層は、
Ni含有粒子と、
23、CeO2及びZrO2の複合酸化物からなる第1YCZ粒子と、
23、CeO2及びZrO2の複合酸化物からなる第2YCZ粒子と、
を含むサーメットからなる。
(2)前記第2YCZ粒子に含まれるCeの含有量は、前記第1YCZ粒子に含まれるCeの含有量より少ない。
【請求項2】
前記第1YCZ粒子は、次の式(1)で表される組成を有し、
前記第2YCZ粒子は、次の式(2)で表される組成を有する
請求項1に記載のサーメット層。
xCeyZr1-x-y2-δ …(1)
但し、
0<x≦0.2、0<y≦0.2、
δは電気的中性が保たれる値。
x'Cey'Zr1-x'-y'2-δ' …(2)
但し、
0<x'≦0.2、0<y'≦0.02、y'<y
δ'は電気的中性が保たれる値。
【請求項3】
前記第1YCZ粒子は、0.08≦x≦0.1、及び、0.08≦y≦0.1を満たし、
前記第2YCZ粒子は、0.09≦x'≦0.12、及び、0.009≦y'≦0.015を満たす
請求項2に記載のサーメット層。
【請求項4】
次の式(3)~式(5)を満たす請求項1から3までのいずれか1項に記載のサーメット層。
30mass%≦X≦70mass% …(3)
1mass%≦Y≦20mass% …(4)
X+Y+Z=100mass% …(5)
但し、
X(mass%)は、前記Ni含有粒子、前記第1YCZ粒子、及び、前記第2YCZ粒子の総質量に対する、前記Ni含有粒子の質量の割合、
Y(mass%)は、前記Ni含有粒子、前記第1YCZ粒子、及び、前記第2YCZ粒子の総質量に対する、前記第1YCZ粒子の質量の割合、
Z(mass%)は、前記Ni含有粒子、前記第1YCZ粒子、及び、前記第2YCZ粒子の総質量に対する、前記第2YCZ粒子の質量の割合。
【請求項5】
前記サーメット層は、
(a)前記Ni含有粒子の原料と、次の式(6)で表される組成を有する第3YCZ粉末と、次の式(7)で表される組成を有するYSZ粉末とを含む原料混合物を用いて成形体を作製し、
(b)前記成形体を大気雰囲気下において1000℃以上1400℃以下の温度で焼結させ、
(c)得られた焼結体をさらに水素還元雰囲気下において600℃以上800℃以下の温度で加熱する
ことにより得られたものからなる請求項1から4までのいずれか1項に記載のサーメット層。
x"Cey"Zr1-x"-y"2-δ" …(6)
但し、
0<x"≦0.2、0<y"<1.0、y">y、
δ"は電気的中性が保たれる値。
zZr1-z2-γ …(7)
但し、
0<z≦0.2、
γは、電気的中性が保たれる値。
【請求項6】
水蒸気電解用水素極の活性層として用いられる請求項1から5までのいずれか1項に記載のサーメット層。
【請求項7】
気孔率が20%以上40%以下である請求項6に記載のサーメット層。
【請求項8】
水蒸気電解用水素極の拡散層として用いられる請求項1から5までのいずれか1項に記載のサーメット層。
【請求項9】
気孔率が40%以上60%以下である請求項8に記載のサーメット層。
【請求項10】
請求項1から9までのいずれか1項に記載のサーメット層を備えた水蒸気電解用水素極。
【請求項11】
前記サーメット層からなる活性層を含み、
電解電流劣化率が10%/100h以下である請求項10に記載の水蒸気電解用水素極。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、サーメット層、及び、水蒸気電解用水素極に関し、さらに詳しくは、酸化物イオン伝導体、電子伝導体、又は、Ni酸化抑制材として、組成の異なる2種類の複合酸化物を含むサーメット層、及び、水蒸気電解用水素極に関する。
【背景技術】
【0002】
固体酸化物形燃料電池(SOFC)は、電解質として酸化物イオン伝導体を用いた燃料電池である。SOFCのアノード(燃料極)に、H2、CO、CH4などの燃料ガスを供給し、カソード(酸素極)にO2を供給すると、電極反応が進行し、電力を取り出すことができる。電極反応により生成したCO2やH2Oは、SOFC外に排出される。
一方、固体酸化物形電解セル(SOEC)は、SOFCと構造は同じであるが、SOFCとは逆の反応を起こさせるものである。すなわち、SOECのカソード(水素極)にCO2やH2Oを供給し、電極間に電流を流すと、COやH2を生成させることができる。
【0003】
SOECは、電解質の一方の面にアノード(酸素極)が接合され、他方の面にカソード(水素極)が接合された単セルを備えている。このようなSOECを構成する部材の材料として、一般的には、以下のような材料が用いられている(非特許文献1~6参照)。
(a)電解質: イットリア安定化ジルコニア(YSZ)、スカンジア安定化ジルコニア(SSZ)、サマリアドープトセリア(SDC)、ランタンストロンチウムガリウムマグネシウム酸化物(LSGM)など。
(b)酸素極: ランタンストロンチウムマンガナイト(LSM)、ランタンストロンチウムコバルトフェライト(LSCF)、ランタンストロンチウムコバルタイト(LSC)など。
(c)水素極: Ni/YSZ、Ni/SDC、Ni-Fe/SDCなど。
【0004】
SOECの水素極には、一般に、Ni/YSZサーメットが用いられる。また、水素極は、電解質側に設けられた活性層と、セパレータ側に設けられた拡散層との2層構造を備えている場合がある。しかし、水素極には、水素製造の原料となる水蒸気が高温下(700℃以上)で供給される。そのため、水素極に含まれるNiが容易に酸化され、NiOが形成される。NiOは絶縁体であるため、水素極中にNiOが形成されると、その部分では電子パスが途絶え、電解反応が進行しなくなる。その結果、電解特性が低下する。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】Ebbesen, S. D.; Hansen, J. B.; Morgensen, M. B. ECS Trans. 2013, 57, 3217.
【非特許文献2】Jensen, S. H.; Larsen, P. H.; Mogensen, M. Int. J. Hydrogen Energy 2007, 32, 3253.
【非特許文献3】Katahira, K.; Kohchi, Y.; Shimura, T.; Iwahara, H. Solid State Ionics 2000, 138, 91.
【非特許文献4】Languna-Bercero, M. A.; Skinner, S. J.; Kilner, J. A. J. Power Sources 2009, 192, 126.
【非特許文献5】O'Brien, J. E.; Stoots, C. M.; Herring, J. S.; Lessing, P. A.; Hartvigsen, J. J.; Elangovan, S. J. Fuel Cell Sci. Technol. 2005, 2, 156.
【非特許文献6】Sune Dalgaard Ebbesen, Soren Hojgaard Jensen, Anne Hauch, and Morgens Bjerg Morgensen, Chem. Rev. 2014, 114, 1069
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明が解決しようとする課題は、高温の水蒸気に曝されても電子伝導性の低下が少ないサーメット層を提供することにある。
また、本発明が解決しようとする他の課題は、高温の水蒸気に曝されても電子伝導性の低下が少ない水蒸気電解用水素極を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するために本発明に係るサーメット層は、以下の構成を備えている。
(1)前記サーメット層は、
Ni含有粒子と、
23、CeO2及びZrO2の複合酸化物からなる第1YCZ粒子と、
23、CeO2及びZrO2の複合酸化物からなる第2YCZ粒子と、
を含むサーメットからなる。
(2)前記第2YCZ粒子に含まれるCeの含有量は、前記第1YCZ粒子に含まれるCeの含有量より少ない。
【0008】
本発明に係る水蒸気電解用水素極は、本発明に係るサーメット層を備えている。
【発明の効果】
【0009】
サーメット層を製造するための原料として、Ni含有粒子の原料、第1YCZ粒子の原料(例えば、所定の組成を有する第3YCZ粉末)、及び、第2YCZ粒子の原料(例えば、所定の組成を有するYSZ粉末)を用い、これらを含む原料混合物を焼成すると、第1YCZ粒子の原料(例えば、第3YCZ粉末)に含まれるCeの一部が第2YCZ粒子の原料(例えば、YSZ粉末)に拡散する。その結果、相対的に多量のCeを含む第1YCZ粒子(第3YCZ粉末に由来するYCZ粒子)と、相対的に少量のCeを含む第2YCZ粒子(YSZ粉末に由来するYCZ粒子)が生成する。
【0010】
このようなサーメット層を含む水蒸気電解用水素極(特に、活性層がこのようなサーメット層からなる水蒸気電解用水素極)を備えたSOECを用いて水蒸気電解を行うと、水素極の電極性能の低下が抑制される。これは、
(a)水蒸気雰囲気において、Ni含有粒子は酸化されるが、Ni上に吸着した酸素を第1YCZ粒子及び/又は第2YCZ粒子が吸蔵(トラップ)して除去することで、Ni含有粒子の酸化を抑制するため、及び、
(b)相対的に多量のCeを含む第1YCZ粒子が電子/イオン混合伝導体としても機能するために、Ni含有粒子が酸化しても、第1YCZ粒子を介して電子及び酸化物イオンが伝導するため
と考えられる。
さらに、第2YCZ粒子は、サーメット層の強度低下を抑制する機能も備えている。そのため、このようなサーメット層をSOECの水素極に用いると、電子伝導性及び酸化物イオン伝導性の低下が抑制されることに加えて、SOECの耐久性も向上する。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】Ni/{YCZ(1)+YCZ(2)}を活性層に用いた固体酸化物形電解セルの模式図である。
図2】Ni/YSZを活性層に用いた従来の固体酸化物形電解セルの模式図である。
図3】YCZ(1)及びYCZ(2)を含むサーメット層を備えた水素極においてNi酸化が抑制されるメカニズムの模式図である。
図4】実施例1で得られた活性層のSEM/EDX分析により得られたCeの元素マッピングである。
図5】実施例1及び比較例1で得られた電解セルの電解電流劣化率である。
【0012】
以下、本発明の一実施の形態について詳細に説明する。
[1. サーメット層]
本発明に係るサーメット層は、
Ni含有粒子と、
23、CeO2及びZrO2の複合酸化物からなる第1YCZ粒子と、
23、CeO2及びZrO2の複合酸化物からなる第2YCZ粒子と、
を含むサーメットからなる。
【0013】
サーメット層は、特に、
(a)Ni含有粒子の原料と、所定の組成を有する第3YCZ粉末と、所定の組成を有するYSZ粉末とを含む原料混合物を用いて成形体を作製し、
(b)成形体を大気雰囲気下において1000℃以上1400℃以下の温度で焼結させ、
(c)得られた焼結体をさらに水素還元雰囲気下において600℃以上800℃以下の温度で加熱する
ことにより得られたものが好ましい。
【0014】
[1.1. Ni含有粒子]
「Ni含有粒子」とは、サーメット層に含まれるNiを含む粒子であって、粒子に含まれる金属元素の総質量に対するNiの質量割合が90mass%以上である金属粒子をいう。Ni含有粒子に含まれるNiの質量割合は、好ましくは、95mass%以上である。
Ni含有粒子は、サーメット層中において、電極触媒及び電子伝導体としての機能を有する。Ni含有粒子の組成は、このような機能を奏するものである限りにおいて、特に限定されない。
【0015】
Ni含有粒子としては、例えば、Ni、Ni-Fe合金、Ni-Co合金などがある。これらの中でも、Ni含有粒子は、Ni又はNi-Fe合金が好ましい。
【0016】
[1.2. 第1YCZ粒子、第2YCZ粒子]
[1.2.1. 定義]
「第1YCZ粒子」とは、Y23、CeO2及びZrO2の複合酸化物からなる粒子であって、第2YCZ粒子よりもCe含有量が多い粒子をいう。
「第2YCZ粒子」とは、Y23、CeO2及びZrO2の複合酸化物からなる粒子であって、第1YCZ粒子よりもCe含有量が少ない粒子をいう。
【0017】
サーメット層を作製する場合、第1YCZ粒子の原料は、
(a)目的とする組成を有する第1YCZ粒子と同一の組成を有する粉末(=第1YCZ粉末)、又は、
(b)固相反応により目的とする組成を有する第1YCZ粒子を生成させることが可能な粉末(例えば、第3YCZ粉末)
のいずれであっても良い。この点は、第2YCZ粒子も同様である。
【0018】
後者の方法を用いてサーメット層を作製した場合、第1YCZ粒子は、サーメット層を製造するための出発原料として添加される第1YCZ粒子の原料(例えば、第3YCZ粉末)に由来する粒子である。一方、第2YCZ粒子は、サーメット層を製造するための出発原料として添加される第2YCZ粒子の原料(例えば、YSZ粉末)に由来する粒子である。
【0019】
[1.2.2. 酸素吸蔵・放出能]
YCZ粒子は、Y及びCeがドープされたZrO2からなる。一般に、YCZ粒子に含まれるCe量が多くなるほど、酸素吸蔵量は増加し、酸化物イオン伝導性は低下し、電子伝導性は向上し、強度は低下する傾向がある。
そのため、相対的に多量のCeを含む第1YCZ粒子は、サーメット層中において、主として、Ni含有粒子に含まれるNiの酸化を抑制する機能と、電子伝導体としての機能とを持つ。
一方、相対的に少量のCeを含む第2YCZ粒子は、サーメット層中において、主として、Ni含有粒子に含まれるNiの酸化を抑制する機能と、酸化物イオン伝導体としての機能と、サーメット層の強度を維持する機能とを持つ。
【0020】
ZrO2にドープされたYは、主として、ZrO2に高いイオン伝導性を付与する作用がある。ZrO2にドープされたCeは、主として、ZrO2に酸素吸蔵・放出能を付与する作用と、ZrO2に電子伝導性を付与する作用とがある。
そのため、Ni含有粒子を含む水素極に第1YCZ粒子及び第2YCZ粒子を添加すると、高い電極活性を維持したまま、Ni含有粒子に含まれるNiの酸化が格段に抑制される。また、仮にNi含有粒子が酸化したとしても、第1YCZ粒子を介して電子が伝導する。
Ni含有粒子がNi以外の金属元素を含む場合であっても、少なくともNiの酸化を抑制することができれば、電極内に三相界面(TPB)を確保することができる。
【0021】
次の式(a)に、CeO2がドープされたZrO2(CZ)の酸素吸蔵・放出反応の反応式を示す。式(a)中、右側に進む反応は酸化反応を表し、左側に進む反応は還元反応を表す。
CeO2-x-ZrO2+(x/2)O2 ⇔ CeO2-ZrO2 …(a)
【0022】
ZrO2中に固溶しているCeイオンは、周囲の雰囲気中の酸素分圧に応じて、可逆的に3価の状態(還元状態)と、4価の状態(酸化状態)とを取ることができる。そのため、CZが酸化雰囲気に曝される時には、CZは雰囲気中にある酸素イオンを結晶格子内に取り込む。一方、CZが還元雰囲気に曝される時には、CZは結晶格子内にある酸素イオンを雰囲気中に放出する。この点は、YCZも同様である。
【0023】
[1.2.3. 第1YCZ粒子の組成]
第1YCZ粒子は、次の式(1)で表される組成を有するものが好ましい。
xCeyZr1-x-y2-δ …(1)
但し、
0<x≦0.2、0<y≦0.2、
δは電気的中性が保たれる値。
【0024】
式(1)中、xは、第1YCZ粒子に含まれるY、Ce、及びZrの総モル数に対するYのモル数の割合を表す。xが小さくなりすぎると、第1YCZ粒子の酸化物イオン伝導性が低下する場合がある。従って、xは、0超である必要がある。xは、好ましくは、0.04以上、さらに好ましくは、0.08以上である。
一方、xが大きくなりすぎると、酸化物イオン伝導性が低下する場合がある。従って、xは、0.2以下が好ましい。xは、さらに好ましくは、0.15以下、さらに好ましくは、0.1以下である。
【0025】
式(1)中、yは、第1YCZ粒子に含まれるY、Ce、及びZrの総モル数に対するCeのモル数の割合を表す。yが小さくなりすぎると、酸素吸蔵量が低下し、Ni含有粒子に含まれるNiの酸化抑制機能が低下する場合がある。また、yが小さくなりすぎると、第1YCZ粒子の電子伝導性が低下する場合がある。従って、yは、0超である必要がある。yは、好ましくは、0.04以上、さらに好ましくは、0.08以上である。
一方、yが大きくなりすぎると、サーメット層の酸化物イオン伝導性が低下するだけでなく、サーメット層の機械的強度も低下する場合がある。従って、yは、0.2以下が好ましい。yは、さらに好ましくは、0.15以下、あるいは、0.1以下である。
【0026】
第1YCZ粒子は、特に、0.08≦x≦0.1、及び、0.08≦y≦0.1を満たすものが好ましい。
【0027】
[1.2.4. 第2YCZ粒子の組成]
第2YCZ粒子は、次の式(2)で表される組成を有するものが好ましい。
x'Cey'Zr1-x'-y'2-δ' …(2)
但し、
0<x'≦0.2、0<y'≦0.02、y'<y
δ'は電気的中性が保たれる値。
【0028】
式(2)中、x'は、第2YCZ粒子に含まれるY、Ce、及びZrの総モル数に対するYのモル数の割合を表す。x'が小さくなりすぎると、第2YCZ粒子の酸化物イオン伝導性が低下する場合がある。従って、x'は、0超である必要がある。x'は、好ましくは、0.05以上、さらに好ましくは、0.09以上である。
一方、x'が大きくなりすぎると、酸化物イオン伝導性が低下する場合がある。従って、x'は、0.2以下が好ましい。x'は、さらに好ましくは、0.15以下、さらに好ましくは、0.12以下である。
【0029】
式(2)中、y'は、第2YCZ粒子に含まれるY、Ce、及びZrの総モル数に対するCeのモル数の割合を表す。y'が小さくなりすぎると、酸素吸蔵量が低下し、Ni含有粒子に含まれるNiの酸化抑制機能が低下する場合がある。従って、y'は、0超である必要がある。yは、好ましくは、0.005以上、さらに好ましくは、0.009以上である。
一方、y'が大きくなりすぎると、サーメット層の酸化物イオン伝導性が低下するだけでなく、サーメット層の機械的強度も低下する場合がある。従って、y'は、0.02以下が好ましい。y'は、さらに好ましくは、0.017以下、さらに好ましくは、0.015以下である。
【0030】
第2YCZ粒子は、特に、0.09≦x'≦0.12、及び、0.009≦y'≦0.015を満たすものが好ましい。
【0031】
[1.3. サーメット層の組成]
サーメット層は、次の式(3)~式(5)を満たすものが好ましい。
30mass%≦X≦70mass% …(3)
1mass%≦Y≦20mass% …(4)
X+Y+Z=100mass% …(5)
但し、
X(mass%)は、前記Ni含有粒子、前記第1YCZ粒子、及び、前記第2YCZ粒子の総質量に対する、前記Ni含有粒子の質量の割合、
Y(mass%)は、前記Ni含有粒子、前記第1YCZ粒子、及び、前記第2YCZ粒子の総質量に対する、前記第1YCZ粒子の質量の割合、
Z(mass%)は、前記Ni含有粒子、前記第1YCZ粒子、及び、前記第2YCZ粒子の総質量に対する、前記第2YCZ粒子の質量の割合。
【0032】
Ni含有粒子の含有量Xが少なくなりすぎると、セル全抵抗が高くなり、電極反応の効率も低下する場合がある。従って、Xは、30mass%以上が好ましい。Xは、さらに好ましくは、40mass%以上である。
一方、Xが過剰になると、第1YCZ粒子及び第2YCZ粒子の含有量が少なくなる。その結果、Ni含有粒子に含まれるNiの酸化抑制機能が低下し、あるいは、サーメット層の強度が低下する場合がある。従って、Xは、70mass%以下が好ましい。
【0033】
第1YCZ粒子の含有量Yが少なくなりすぎると、Ni含有粒子に含まれるNiの酸化抑制機能が低下し、あるいは、サーメット層の酸化物イオン伝導性が低下する場合がある。従って、Yは、1mass%以上が好ましい。Yは、さらに好ましくは、3mass%以上、さらに好ましくは、5mas%以上である。
一方、Yが過剰になると、第2YCZ粒子の含有量が相対的に少なくなり、サーメット層の強度が低下する場合がある。従って、Yは、20mass%以下が好ましい。Yは、さらに好ましくは、18mass%以下、さらに好ましくは、15mass%以下である。
【0034】
[1.4. 用途]
本発明に係るサーメット層は、種々の用途に用いることができる。サーメット層の用途としては例えば、
(a)水蒸気電解用水素極の活性層、
(b)水蒸気電解用水素極の拡散層、
(c)固体酸化物形燃料電池の燃料極の活性層、
(d)固体酸化物形燃料電池の燃料極の拡散層、
などがある。
【0035】
[1.5. 気孔率]
サーメット層の気孔率は、特に限定されるものではなく、目的に応じて最適な気孔率を選択することができる。
【0036】
例えば、本発明に係るサーメット層を水蒸気電解用水素極の活性層として用いる場合、活性層の気孔率は、電解特性に影響を与える。活性層の気孔率が小さすぎると、ガスの拡散性が低下し、電極反応の効率が低下する。従って、活性層の気孔率は、15%以上が好ましい。気孔率は、好ましくは、20%以上、さらに好ましくは、25%以上である。
一方、活性層の気孔率が大きくなりすぎると、三相界面が相対的に少なくなり、かえって電極反応の効率が低下する。従って、活性層の気孔率は、40%以下が好ましい。気孔率は、好ましくは、35%以下、さらに好ましくは、30%以下である。
【0037】
また、例えば、本発明に係るサーメット層を水蒸気電解用水素極の拡散層として用いる場合、拡散層の気孔率は、水素極のガス拡散性、強度、電子伝導性などに影響を与える。一般に、拡散層の気孔率が小さすぎると、ガス拡散性が低下する。従って、拡散層の気孔率は、40%以上が好ましい。気孔率は、さらに好ましくは、45%以上、さらに好ましくは、50%以上である。
一方、拡散層の気孔率が大きくなりすぎると、強度及び電子伝導性が低下する。従って、拡散層の気孔率は、60%以下が好ましい。気孔率は、好ましくは、58%以下、さらに好ましくは、55%以下である。
【0038】
[2. 水蒸気電解用水素極]
本発明に係る水蒸気電解用水素極(以下、「水素極」ともいう)は、本発明に係るサーメット層を含む。
【0039】
[2.1. 活性層及び拡散層]
水蒸気電解用水素極は、活性層のみからなる場合と、活性層と、活性層のセパレータ側表面に形成された拡散層とを備えている場合とがある。
活性層は、電解反応の反応場となる層である。活性層は、電解反応により生じた酸化物イオンを電解質に輸送する必要があるため、高いイオン伝導度が求められる。
一方、拡散層は、活性層を支持するためのものである。拡散層と活性層との積層体からなる水素極において、電極反応は、主として活性層内で生じる。そのため、拡散層は、必ずしも高いイオン伝導度を有している必要はない。
【0040】
すなわち、拡散層は、少なくとも、
(a)その電解質層側表面に形成される活性層を支持するための機能、
(b)電解の原料を活性層まで拡散させる機能、
(c)還元反応に必要な電子を集電体から活性層まで輸送する機能、及び、
(d)電極反応により活性層で生成した水素を水素極外に排出する機能
を備えている必要がある。
拡散層の組成は、このような機能を奏する限りにおいて、特に限定されない。拡散層は、一般に、Ni含有粒子と、固体酸化物からなる電解質粒子とを含むサーメットからなる。
【0041】
本発明に係る水蒸気電解用水素極は、
(a)活性層のみを含み、活性層が本発明に係るサーメット層からなるもの、
(b)活性層と拡散層の二層構造を備え、活性層が本発明に係るサーメット層からなり、拡散層が本発明に係るサーメット層以外の層からなるもの、
(c)活性層と拡散層の二層構造を備え、活性層と拡散層の双方が本発明に係るサーメット層からなるもの、
(d)活性層と拡散層の二層構造を備え、拡散層が本発明に係るサーメット層からなり、活性層が本発明に係るサーメット層以外の層からなるもの
のいずれであっても良い。
【0042】
拡散層又は活性層が本発明に係るサーメット層以外の層(以下、これを「第2層」ともいう)からなる場合、第2層の組成は、特に限定されない。第2層は、通常、第2Ni含有粒子と、固体酸化物からなる電解質粒子とを含むサーメットからなる。
【0043】
第2層に含まれる第2Ni含有粒子は、本発明に係るサーメット層に含まれるNi含有粒子と同一組成を有するものでも良く、あるいは、異なる組成を有するものでも良い。
また、第2層に含まれる電解質粒子としては、例えば、3~15mol%のY23を含むイットリア安定化ジルコニア(YSZ)(例えば、8mol%のY23を含む8YSZ)などがある。
【0044】
Ni含有粒子の酸化に起因する電子伝導性の低下及び電解反応の効率低下を抑制するためには、水蒸気電解用水素極は、少なくとも活性層が本発明に係るサーメット層からなるものが好ましい。サーメット層に関するその他の点については、上述した通りであるので、説明を省略する。
【0045】
[2.2. 電解電流劣化率]
「電解電流劣化率ΔI」とは、耐久試験前後における電解時間100時間当たりの電解電流の劣化率であって、次の式(8)で表される値をいう。
ΔI(%/100h)=(I0-I1)×100/(I0×3) …(8)
但し、
0(A)は、耐久試験前において、セル温度:700℃、電圧:1.3Vの条件下において水蒸気電解を行った時の電解電流、
1(A)は、耐久試験後において、セル温度:700℃、電圧:1.3Vの条件下において水蒸気電解を行った時の電解電流。
「耐久試験」とは、SOECを用いて、セル温度:700℃、電圧:1.3Vの条件下において、300時間の水蒸気電解を行う試験をいう。
【0046】
本発明に係るサーメット層は、組成の異なる2種類のYCZ粒子を含むために、高温の水蒸気に曝されても、電子伝導性の低下が少ない。そのため、本発明に係るサーメット層を、少なくとも水蒸気電解用水素極の活性層として用いると、従来の水素極に比べて電解電流劣化率が低くなる。活性層の組成を最適化すると、電解電流劣化率は10%/100h以下となる。活性層の組成をさらに最適化すると、電解電流劣化率は、7%/100h以下、あるいは、5%/100h以下となる。
【0047】
[3. サーメット層の製造方法]
本発明に係るサーメット層は、
(a)Ni含有粒子の原料、第1YCZ粒子の原料、及び、第2YCZ粒子の原料を含む原料混合物を用いて成形体を形成し、
(c)得られた成形体を焼結し、
(d)得られた焼結体を還元処理する
ことにより製造することができる。
【0048】
[3.1. 第1工程]
まず、Ni含有粒子の原料、第1YCZ粒子の原料、及び、第2YCZ粒子の原料を含む原料混合物を用いて成形体を作製する(第1工程)。
【0049】
[3.1.1. Ni含有粒子の原料]
「Ni含有粒子の原料」とは、焼結・還元後にNi含有粒子となる原料をいう。本発明において、Ni含有粒子の原料の種類は、特に限定されるものではなく、目的に応じて最適な原料を選択することができる。Ni含有粒子の原料としては、例えば、NiO粉末、Fe23粉末、Fe34粉末、金属FeとNiO又は金属Niとの混合物、CoO粉末、Co23粉末などがある。
【0050】
[3.1.2. 第1YCZ粒子の原料]
「第1YCZ粒子の原料」とは、焼結後に第1YCZ粒子となる原料をいう。第1YCZ粒子の原料は、焼結後に第1YCZ粒子を生成可能なものである限りにおいて、特に限定されない。第1YCZ粒子の原料は、特に、次の式(6)で表される組成を有する第3YCZ粉末が好ましい。
【0051】
x"Cey"Zr1-x"-y"2-δ" …(6)
但し、
0<x"≦0.2、0<y"<1.0、y">y、
δ"は電気的中性が保たれる値。
【0052】
式(6)中、x"は、第3YCZ粉末に含まれるY、Ce、及びZrの総モル数に対するYのモル数の割合を表す。x"が小さくなりすぎると、目的とする組成を有する第1YCZ粒子が得られない場合がある。従って、x"は、0超が好ましい。x"は、さらに好ましくは、0.04以上、さらに好ましくは、0.08以上である。
同様に、x"が大きくなりすぎると、目的とする組成を有する第1YCZ粒子が得られない場合がある。従って、x"は、0.2以下が好ましい。xは、さらに好ましくは、0.15以下、さらに好ましくは、0.1以下である。
【0053】
式(6)中、y"は、第3YCZ粉末に含まれるY、Ce、及びZrの総モル数に対するCeのモル数の割合を表す。y"が小さくなりすぎると、目的とする組成を有する第1YCZ粒子が得られない場合がある。従って、y"は、0超が好ましい。y"は、さらに好ましくは、0.08以上である。
同様に、y"が大きくなりすぎると、目的とする組成を有する第1YCZ粒子が得られない場合がある。従って、y"は、1.0未満が好ましい。y"は、さらに好ましくは、0.9以下、0.8以下、0.7以下、0.6以下、0.5以下、0.4以下、0.3以下、0.2以下、あるいは、0.1以下である。
なお、第1YCZ粒子は、第3YCZ粉末に含まれるCeの一部が第2YCZ粒子の原料に拡散することにより形成される。そのため、y">yの関係が成り立つ。
【0054】
[3.1.3.. 第2YCZ粒子の原料]
「第2YCZ粒子の原料」とは、焼結後に第2YCZ粒子となる原料をいう。第2YCZ粒子の原料は、焼結後に第2YCZ粒子を生成可能なものである限りにおいて、特に限定されない。第2YCZ粒子の原料は、特に、次の式(7)で表される組成を有するYSZ粉末が好ましい。
【0055】
zZr1-z2-γ …(7)
但し、
0<z≦0.2、
γは、電気的中性が保たれる値。
【0056】
式(7)中、zは、YSZ粉末に含まれるY及びZrの総モル数に対するYのモル数の割合を表す。zが小さくなりすぎると、目的とする組成を有する第2YCZ粒子が得られない場合がある。従って、zは、0超が好ましい。zは、さらに好ましくは、0.05以上、さらに好ましくは、0.09以上である。
同様に、zが大きくなりすぎると、目的とする組成を有する第2YCZ粒子が得られない場合がある。従って、zは、0.2以下が好ましい。zは、さらに好ましくは、0.15以下、さらに好ましくは、0.12以下である。
【0057】
[3.1.4. 造孔剤]
原料混合物中には、造孔材(例えば、カーボン粉末)が含まれていても良い。原料混合物中に添加されたNi含有粒子の原料に含まれる金属酸化物(例えば、NiO粉末)は、焼結体作製後に還元処理される。その際、体積収縮が起こり、焼結体内に気孔が導入される。そのため、造孔材は、必ずしも必要ではない。しかし、原料混合物中に造孔材を添加すると、気孔率の制御の自由度が増大する。
【0058】
[3.1.5. 原料配合]
各原料は、焼結・還元後に目的とする組成を有するサーメット層が得られるように配合するのが好ましい。
【0059】
[3.1.6. 成形体の作製方法]
成形体の作製方法は、特に限定されるものではなく、目的に応じて最適な方法を選択することができる。成形体の作製方法としては、例えば、
(a)原料混合物を含むスラリーをテープ成形し、得られたグリーンシートを基材(例えば、拡散層を作製するための成形体)の上に積層し、積層体を静水圧プレスして圧着させる方法、
(b)原料混合物を含むスラリーを作製し、基材の表面にスラリーをスクリーン印刷する方法、
などがある。
【0060】
[3.2. 第2工程]
次に、得られた成形体を焼結させる(第2工程)。焼結条件は、原料組成に応じて最適な条件を選択するのが好ましい。焼結は、通常、大気雰囲気下において、1000℃以上1400℃以下の温度で1時間~5時間行うのが好ましい。
原料混合物中に2種以上の酸化物が含まれている場合、焼結中に固相反応が進行し、所定の組成を有する固溶体が生成する場合がある。また、原料混合物中に造孔材が含まれている場合、焼結時に造孔材が消失し、焼結体内に気孔が形成される。
【0061】
[3.3. 還元工程]
次に、得られた焼結体を還元処理する(還元工程)。これにより、本発明に係るサーメット層が得られる。還元処理は、焼結体中に含まれるNiO等の金属酸化物を還元し、Ni含有粒子を生成させるために行われる。還元条件は、特に限定されるものではなく、サーメット層の組成に応じて最適な条件を選択するのが好ましい。還元は、水素還元雰囲気下において600℃以上800℃以下の温度で行うのが好ましい。
なお、固体酸化物形電解セルは、後述するように、水素極(カソード)/電解質層/反応防止層/酸素極(アノード)の接合体からなる。サーメット層の還元は、通常、各層を接合した後に行われる。この点は、固体酸化物形燃料電池セルも同様である。
【0062】
[4. 固体酸化物形電解セル]
図1に、Ni/{YCZ(1)+YCZ(2)}を活性層に用いた固体酸化物形電解セルの模式図を示す。図1において、固体酸化物形電解セル(SOEC)10は、
電解質12と、
電解質12の一方の面に接合された水素極14と、
電解質12の他方の面に接合された酸素極16と、
電解質12と酸素極16との間に挿入された中間層18と
を備えている。
【0063】
水素極14には、本発明に係る水蒸気電解用水素極が用いられる。図1において、水素極14は、活性層14aと、活性層14aを支持する拡散層14bとの積層体からなる。活性層14aは、Ni粒子と、第1YCZ粒子(以下、「YCZ(1)」ともいう)と、第2YCZ粒子(以下、「YCZ(2)」ともいう)とを含むサーメットからなる。さらに、拡散層14bは、Ni粒子と、電解質粒子とを含むサーメットからなる。
電解質12、酸素極16、及び中間層18の材料は、特に限定されるものではなく、目的に応じて最適な材料を選択することができる。
【0064】
例えば、電解質12には、YSZなどを用いることができる。
酸素極16には、(La,Sr)CoO3(LSC)、(La,Sr)(Co,Fe)O3(LSCF)、(La,Sr)MnO3(LSM)などを用いることができる。
中間層18は、電解質12と酸素極16とが直接、接触することにより生じる反応を防止するための層であり、必要に応じて挿入される。例えば、電解質12がYSZであり、酸素極16がLSCである場合、中間層18には、GdドープCeO2(GDC)を用いるのが好ましい。
【0065】
なお、上述したように、本発明に係る水素極は、固体酸化物形燃料電池セル(SOFC)の燃料極に用いることができる。SOFCは、用途が異なる以外は、SOEC10と同一の構造を備えているので、詳細な説明を省略する。
【0066】
[5. 作用]
図2に、Ni/YSZを活性層に用いた従来の固体酸化物形電解セルの模式図を示す。従来のSOEC10’は、電解質12と、電解質12の一方の面に接合された水素極14’と、電解質12の他方の面に接合された酸素極16と、電解質12と酸素極16との間に挿入された中間層18とを備えている。従来のSOEC10’は、水素極14’として、Ni/YSZサーメットが用いられている。
【0067】
水素極14’がNi/YSZサーメットからなるSOEC10’において、水素極14’にH2Oを供給し、水素極14’-酸素極16間に電流を流すと、水素極14’では、次の式(9)に示す還元反応が進行する。
2O+2e- → H2+O2- …(9)
【0068】
しかし、SOEC10’を用いた水電解においては、水素極14’に、原料となる高温(700℃以上)の水蒸気が供給される。そのため、水素極14’に含まれるNiが容易に酸化され、NiOが形成される。NiOは絶縁体であるため、NiOが形成されると、その部分では電子パスが途絶え、電極反応が進行しなくなる。その結果、電解特性は低下する。
この点は、SOFCも同様である。すなわち、SOFCのアノード(燃料極)においては、電極反応により水が生成する。そのため、特に、高負荷運転条件下において、生成した水により燃料極中のNiが酸化され、発電特性が低下する場合がある。
【0069】
これに対し、サーメット層を製造するための原料として、Ni含有粒子の原料、第1YCZ粒子の原料(例えば、所定の組成を有する第3YCZ粉末)、及び、第2YCZ粒子の原料(例えば、所定の組成を有するYSZ粉末)を用い、これらを含む原料混合物を焼成すると、第1YCZ粒子の原料(例えば、第3YCZ粉末)に含まれるCeの一部が第2YCZ粒子の原料(例えば、YSZ粉末)に拡散する。その結果、相対的に多量のCeを含む第1YCZ粒子(第3YCZ粉末に由来するYCZ粒子)と、相対的に少量のCeを含む第2YCZ粒子(YSZ粉末に由来するYCZ粒子)が生成する。
【0070】
このようなサーメット層を含む水蒸気電解用水素極(特に、活性層がこのようなサーメット層からなる水蒸気電解用水素極)を備えたSOECを用いて水蒸気電解を行うと、水素極の電極性能の低下が抑制される。これは、
(a)水蒸気雰囲気において、Ni含有粒子は酸化されるが、Ni上に吸着した酸素を第1YCZ粒子及び/又は第2YCZ粒子が吸蔵(トラップ)して除去することで、Ni含有粒子の酸化を抑制するため、及び、
(b)相対的に多量のCeを含む第1YCZ粒子が電子/イオン混合伝導体としても機能するために、Ni含有粒子が酸化しても、第1YCZ粒子を介して電子及び酸化物イオンが伝導するため
と考えられる。
さらに、第2YCZ粒子は、サーメット層の強度低下を抑制する機能も備えている。そのため、このようなサーメット層をSOECの水素極に用いると、電子伝導性及び酸化物イオン伝導性の低下が抑制されることに加えて、SOECの耐久性も向上する。
【0071】
図3に、YCZ(1)及びYCZ(2)を含むサーメット層を備えた水素極においてNi酸化が抑制されるメカニズムの模式図を示す。なお、図3において、理解を容易にするために、YSZ及びYSZに由来するYCZ(2)が板状に描かれているがこれは単なる例示である。実際の水素極において、これらは、粒子として存在している。
【0072】
図3(A)に示すように、水素極がNi粒子、YCZ粒子及びYSZ粒子の混合物からなるサーメット層を備えている場合、Ni粒子の一部はYCZ粒子と接しているが、Ni粒子の他の一部はYCZ粒子と接していない。以下、Ni粒子とYCZ粒子との接点を「反応点」ともいう。
YCZ粒子によるNi酸化の抑制は、図3(B)に示すように、Ni粒子に吸着した酸素が、反応点を経由して、酸素吸蔵・放出能を有するYCZ粒子に引き抜かれることにより生じると考えられる。しかしながら、水素極がNi粒子と、YCZ粒子と、YSZ粒子の混合物からなる場合、反応点の数が相対的に少なくなる。すなわち、YCZ粒子と接していないNi粒子の数が相対的に多くなる。その結果、水蒸気電解環境下において、YCZ粒子と接していないNi粒子の酸化が進行しやすくなる。
【0073】
これに対し、図3(C)に示すように、Ni粒子、YCZ粒子(第3YCZ粉末)及びYSZ粒子の混合物を所定の温度(例えば、1400℃)に加熱すると、YCZ粒子に含まれるCeの一部がYSZ粒子に拡散する。
その結果、図3(D)に示すように、水素極中には、相対的に多量のCeを含むYCZ粒子(第1YCZ粒子、YCZ(1))と、相対的に少量のCeを含むYCZ粒子(第2YCZ粒子、YCZ(2))が生成する。また、これによって、反応点の数が増加し、YCZ(1)又はYCZ(2)と接していないNi粒子の割合が減少する。
【0074】
そのため、このような水素極を用いて水蒸気電解を行うと、図3(E)に示すように、YCZ(1)と接しているNi粒子から酸素の引き抜きが行われるだけでなく、YCZ(2)と接しているNi粒子からも酸素の引き抜きが行われる。その結果、図3(B)に比べて、Ni粒子の酸化が抑制される。
【実施例0075】
(実施例1、比較例1)
[1. 試料の作製]
[1.1. 第3YCZ粉末の作製]
Ce源には、硝酸セリウムを用いた。Zr源には、オキシ硝酸ジルコニウムを用いた。Y源には、硝酸イットリウム6水和物を用いた。硝酸セリウム水溶液に硝酸イットリウム6水和物及びオキシ硝酸ジルコニウムを加えて混合した。これにさらに30mass%過酸化水素水を加えて混合し、混合液Aを得た。各原料の混合比は、Yx"Cey"Zr1-x"-y"2-δ"(x"=0.135、y"=0.1)組成を有する3YCZ粉末が得られる混合比とした。
これとは別に、25%アンモニア水及びイオン交換水を混合し、混合液Bを得た。
混合液Aを混合液Bに攪拌しながら添加した。所定時間経過後、沈殿物を回収した。
【0076】
次に、沈殿物を大気雰囲気下、150℃×7h、及び、400℃×5hの条件下で熱処理し、乾燥させた。さらに、乾燥粉を大気雰囲気下、1400℃×5hの条件下で焼成し、第3YCZ粉末を得た。
【0077】
[1.2. 電解セルの作製]
[1.2.1. 実施例1]
NiO粉末、8YSZ粉末、及び、第3YCZ粉末を、質量比で50:40:10となるように秤量し、これらを混合することで原料混合物Aを得た。
次に、テープ成形法を用いて、拡散層シートを作製した。拡散層シートの組成は、焼結後の組成が30~60mass%Ni-8YSZとなる組成とした。次に、拡散層シートの表面にスクリーン印刷法を用いて、原料混合物Aを含む活性層シート、8YSZを含む電解質シート、及びGDCを含む中間層シートをこの順で形成した。積層体を乾燥させた後、大気雰囲気中において、1400℃で15時間焼成した。
次に、中間層の表面にさらにLSCを含む酸素極シートを形成した。積層体を乾燥させた後、大気雰囲気中において、1100℃で15時間焼成した。さらに、得られた焼結体を、800℃×2時間の条件下で還元処理した。
【0078】
[1.2.2. 比較例1]
活性層を形成するための原料混合物Aに代えて、NiO粉末及び8YSZ粉末を、質量比で50:50となるように秤量した原料混合物を用いた以外は、実施例1と同様にして電解セルを作製した。
【0079】
[2. 試験方法及び結果]
[2.1. SEM/EDX観察]
SEM/EDXを用いて、活性層の断面の元素分布を評価した。図4に、実施例1で得られた活性層のSEM/EDX分析により得られたCeの元素マッピングを示す。YCZ(1)及びYCZ(2)は、第3YCZ粉末Aと8YSZ粉末との1400℃での反応によって構築される。図4において、YCZ(1)は、原料中に添加した第3YCZ粉末Aの反応後の状態を示す。また、YCZ(2)は、原料中に添加した8YSZ粉末の反応後の状態を示す。
図4の場合、YCZ(1)の組成は、Y0.08-0.1Ce0.08-0.1Zr0.85-0.872+αと同定された。また、YCZ(2)の組成は、Y0.09-0.12Ce0.009-0.015Zr0.85-0.92+αと同定された。
【0080】
[2.2. 耐久試験]
得られた電解セルを用いて、耐久試験を行った。耐久試験条件は、以下の通りである。
セル温度:700℃
空気極雰囲気:N2(流量:160ccm)+O2(流量:40ccm)(N2:80%、O2:20%(ほぼ空気組成)、total流量:200ccm)
燃料極雰囲気:N2(流量:125ccm)+H2(流量:15ccm)の混合ガスを70℃の加湿器に通して供給(およそ、H2:7.5%、N2:62.5%、H2O:30%(H2O/H2体積比:4)、total流量:200ccm)
【0081】
セル電圧を1.3Vに固定して300時間の電解を行い、電流密度の推移を評価した。さらに、耐久試験前後の電流値から、電解電流劣化率を算出した。図5に、実施例1及び比較例1で得られた電解セルの電解電流劣化率を示す。図5より、実施例1は、比較例1に比べて電解電流劣化率が約1/3に低減していることが分かる。
【0082】
(実施例2)
[1. 電解セルの作製]
実施例1で作製した原料混合物Aに造孔剤を加えて、原料混合物Bを作製した。得られた原料混合物Bを用いて、拡散層シートを作製した。以下、実施例1と同様にして、拡散層及び活性層の双方が本発明に係るサーメット層からなる水素極を備えた電解セルを作製した。
【0083】
[2. 試験方法及び結果]
実施例1と同一条件下で耐久試験を実施し、電解電流劣化率を算出した。実施例2の電解電流劣化率は、実施例1のそれと同等以下であった。
【0084】
以上、本発明の実施の形態について詳細に説明したが、本発明は上記実施の形態に何ら限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲内で種々の改変が可能である。
【産業上の利用可能性】
【0085】
本発明に係る水素極は、固体酸化物形電解セルの水素極、あるいは、固体酸化物形燃料電池の燃料極として使用することができる。
図1
図2
図3
図4
図5